(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155728
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】スケールの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01D 5/245 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
G01D5/245 110L
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024017065
(22)【出願日】2024-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2023068574
(32)【優先日】2023-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】310017828
【氏名又は名称】株式会社マグネスケール
(74)【代理人】
【識別番号】110002273
【氏名又は名称】弁理士法人インターブレイン
(72)【発明者】
【氏名】麻生 航暉
(72)【発明者】
【氏名】安藝 祐一
(72)【発明者】
【氏名】沼倉 凌介
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077NN24
2F077VV33
(57)【要約】
【課題】新たなスケールの製造方法を提供する。
【解決手段】スケールの製造方法は、対向するセンサヘッドで相対的な変位を検出するための磁性パターンを有するスケールの製造方法であって、磁性粉を含有する水性塗料を支持体上に一回塗布することで膜厚が200μm以上の未乾燥塗膜を形成する工程と、前記未乾燥塗膜を乾燥させることにより、磁性粉含有率が70%以上かつ膜厚が200μm以上である磁性層を形成する工程と、磁性層に、センサヘッドで相対的な変位を検出できる磁性パターンを形成する工程と、を備える。水性塗料は、主溶剤として水を含有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向するセンサヘッドで相対的な変位を検出するための磁性パターンを有するスケールの製造方法であって、
磁性粉を含有する水性塗料を支持体上に一回塗布することで膜厚が200μm以上の未乾燥塗膜を形成する工程と、
前記未乾燥塗膜を乾燥させることにより、磁性粉含有率が70%以上かつ膜厚が200μm以上である磁性層を形成する工程と、
前記磁性層に、前記センサヘッドで相対的な変位を検出できる磁性パターンを形成する工程と、を備え、
前記水性塗料は、主溶剤として水を含有する、スケールの製造方法。
【請求項2】
前記水性塗料は、固形分重量で前記磁性粉100重量部に対して水性バインダが20~30重量部配合されている、請求項1に記載のスケールの製造方法。
【請求項3】
前記水性塗料は、前記水性バインダとして、水分散性のアクリル樹脂と水溶性のポリビニルアルコール樹脂とを含有する、請求項2に記載のスケールの製造方法。
【請求項4】
前記水性塗料は、分散剤を含有する、請求項3に記載のスケールの製造方法。
【請求項5】
前記分散剤は、固形分重量で前記磁性粉100重量部に対して2~4重量部含有する、請求項4に記載のスケールの製造方法。
【請求項6】
前記磁性層の表面を削って平滑化する工程と、
平滑化された前記磁性層の面上に間隔を空けて長方形形状の固体カバーを配置する工程と、を更に備える、請求項1に記載のスケールの製造方法。
【請求項7】
前記センサヘッドは、前記固体カバーと対向し、
前記固体カバーは、厚みが20~250μmであり、非磁性の金属である、請求項6に記載のスケールの製造方法。
【請求項8】
前記磁性粉は、短軸に対する長軸の比が3~8の針状の強磁性合金材料を含有する、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のスケールの製造方法。
【請求項9】
レールに形成されているV字状の溝の底部に前記磁性層を載置する工程を更に備え、
前記レールは、前記底部よりも上方であって前記溝の左右に形成された平坦な段部を有する、請求項6又は7に記載のスケールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性塗料、水性塗料を用いて製造させるスケール、スケールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸やテーブルは、それを支持するサドルがガイドレールに沿って駆動されることで目標位置に移動制御される。この移動制御を高精度に実現するために、サドルとガイドレールとの間に変位検出装置を配置するものもある。このような変位検出装置は、サドル側に設けられる磁気センサと、ガイドレール側に設けられるスケールを含む。スケールに対する磁気センサの相対位置を計測することで、主軸等の位置を検出できる。
【0003】
スケールには、磁性材料による磁性パターンが記録される。磁気センサには、磁性パターンの磁界を読み取るための検出ヘッドが設けられる。検出ヘッドは、MR素子(Magneto Resistive Sensor)など磁界の方向および強さを検出可能なセンサにより構成される。検出ヘッドが磁性パターンを検出し、その検出値を電気信号に変換することでマイクロメートル単位の微細な位置計測が可能となる。
【0004】
従来、スケールは、磁性粉、バインダ、分散剤、及び硬化剤等を有機溶剤に混練・分散してなる磁性塗料を、非磁性支持体上に塗布することによって製造されている。(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年の環境意識への高まりもあり、環境影響のある化学物質をなるべく使用しないスケールの製造が求められていた。
【0007】
そこで、本発明は、対向するセンサヘッドで相対的な変位を検出するための磁性パターンを有するスケールの製造方法であって、磁性粉を含有する水性塗料を支持体上に一回塗布することで膜厚が200μm以上の未乾燥塗膜を形成する工程と、前記未乾燥塗膜を乾燥させることにより、磁性粉含有率が70%以上かつ膜厚が200μm以上である磁性層を形成する工程と、磁性層に、センサヘッドで相対的な変位を検出できる磁性パターンを形成する工程と、を備え、水性塗料は、主溶剤として水を含有する、スケールの製造方法を提供するものである。
【0008】
また、本発明は、水性塗料、スケールなどを提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、環境影響のある化学物質をなるべく使用しないスケールの製造が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る変位検出装置の外観を表す斜視図である。
【
図6】磁気センサの高分解能を実現する内挿処理技術を説明するための模式図である。
【
図7】
図4に示したレールの底面の変形例の構造を示す断面図である。
【
図8】
図7に示すレールの底面に磁性層とカバーを配置した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、説明の便宜上、水平方向にX軸とY軸、垂直方向にZ軸を設定し、図示の状態を基準に各構造の位置関係を表現することがある。また、以下の実施形態およびその変形例について、ほぼ同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0012】
図1は、実施形態に係る変位検出装置の外観を表す斜視図である。変位検出装置1は、移動体2の移動をガイドする金属製のレール4と、レール4の所定位置に形成された磁性層5と、移動体2と一体に設けられたセンサユニット8と、を備える。変位検出装置1は、本実施形態では工作機械における移動制御対象の位置を検出するものである。移動制御対象には、例えば主軸やテーブルなどが含まれる。なお、変位検出装置1は、変位を検出するものであればよく、移動制御が対象である必要はない。例えば、形状が収縮するなど形状の変位を検出するものであってもよい。
【0013】
レール4は、長尺状をなし、工作機械に設置されて駆動機構を構成する。移動体2には工作機械のサドル(図示せず)が固定され、そのサドルが移動制御対象を支持する。なお、図示の例ではレール4に一つの移動体2が配置されているが、レール4に沿って複数の移動体2を直列に配置してサドルを支持してもよい。ここでは、レール4の長手方向をX方向、幅方向をY方向、高さ方向をZ方向とする。
【0014】
移動体2におけるX方向の一端にセンサユニット8が設けられている。センサユニット8は、移動体2に固定されるホルダ9と、ホルダ9に組み付けられる磁気センサ10を含む。移動体2およびホルダ9は、レール4を幅方向(Y方向)に跨ぐように設けられている。ホルダ9の幅方向片側に磁気センサ10が配置される。磁気センサ10からは検出信号を取り出すためのケーブル12が延出している。
【0015】
レール4は、その両サイドがテーパ状(断面V字状)に切り欠かれた形状を有し、そのテーパ面が上下のガイド面14a,14bを構成する(これらを特に区別しない場合には、単に「ガイド面14」と称す)。一方、図示を省略するが、移動体2の内側面にはローラ又はボールからなる複数の転動体が配設される。移動体2は、それらの転動体がガイド面14に沿って転動しつつレール4の長手方向に移動する。
【0016】
レール4の片側面の上下のガイド面14a,14bの間に底面16(上下のテーパ面の基端となる面)が設けられており、その底面16の表面には磁性層5が形成されている。さらに、磁性層5を覆うようにレール4にカバー20が組み付けられることで、磁性層5の保護と汚染防止が実現されている。磁性層5およびその周辺の構造については後に詳述する。
【0017】
レール4を上下に貫通する複数のねじ孔22が、レール4の長手方向に所定間隔を空けて設けられている。レール4は、これらのねじ孔にボルトを挿通することで、工作機械における所定位置に固定される。
【0018】
図2は、
図1のA-A矢視断面図である。磁気センサ10は、カバー20を挟んで磁性層5と対向する位置にセンサヘッド30を有する。つまり、センサヘッド30は、磁性層5上に配置されているカバー20と対向している。センサヘッド30は、MR素子を含む。センサヘッド30は、クーラント等による汚染防止のため、基板に実装したMR素子を樹脂封止して構成されてもよい。磁気センサ10は、図示略のねじによりホルダ9に組み付けられることで、磁性層5と対向配置される。
【0019】
図3は、レール4の分解斜視図である。
図4は、レール4の組立斜視図である。
図5は、
図4に示したレール4のB-B断面図である。
図5の左側が断面図、右側がF部拡大図である。各図では説明の便宜上、
図1に示した構造要素をレール4の長手方向に短く表している。
【0020】
図3に示すように、磁性層5は、支持体であるレール4の底面16上に磁性粉を含有する水性塗料を塗布し乾燥させることで形成される。なお、乾燥後の磁性層5は表面平滑化処理が行われる(表面処理工程)。そのため、製品の磁気スケールの磁性層として最終的に200μmの膜厚が必要な場合は、乾燥膜厚として250μm程度の磁性層が必要である。また、磁性層5の表面処理した面上に非磁性のカバー20を配置することで、
図4に示すように、磁性層5は、レール4の側面においてカバー20の内側に配置されるため、外部からの異物の付着が防止される。
【0021】
なお、表面平滑化処理の例としては、磁性層5の表面を削って平滑化(平坦化)することが挙げられる。また、カレンダ加工によって磁性層の表面を平滑化してもよい。このように、磁性層5の表面を平滑化することで、磁性層5とカバー20との間の隙間が所望の一定の範囲(例えば10μm~100μm)で磁性層5に対してカバー20を配置できる。つまり、本実施形態に係るスケールのような平滑化処理により、カバー20を磁性層5の表面に対して安定した姿勢で配置できる。
【0022】
磁性層5は、N極とS極による磁性パターンが形成される。なお、磁性粉を含有する水性塗料は、主溶剤として水を含有する。また、水性塗料は、水性バインダとして、水分散性のアクリル樹脂と水溶性のポリビニルアルコール樹脂とを含有する。また、水性塗料は、固形分重量で磁性粉100重量部に対して水性バインダが20~30重量部配合されていてもよい。また、水性塗料は、分散剤を含有してもよい。また、分散剤は、固形分重量で磁性粉100重量部に対して2~4重量部含有してもよい。また、水性塗料は、主溶剤として水を含有する以外に、微量の有機溶剤(例えば、メタノール、酢酸メチル等)を含有していてもよい。
【0023】
また、磁性粉は、短軸に対する長軸の比が3~8の針状の強磁性合金材料を含有してもよい。より詳述すると、本実施形態の磁性粉は、長軸長さが0.08~0.30μm、長軸の比が3~8、Al固溶Y被着Co鉄合金含有酸化鉄系粒子であって、鉄92%Co8%合金:酸化鉄:酸化アルミニウム:酸化イットリウム:水=56:34:6:3:1からなる針状強磁性粉(後述する実施例における磁性粉)が用いられる。なお、図示を省略するが、磁性パターンとして磁性層5の幅方向(Z方向)の中央にアブソリュートパターンが形成され、その幅方向両側にインクリメンタルパターンが形成される。
【0024】
カバー20は、厚みが20~250μmであり、非磁性の金属(例えばステンレス)からなる長方形状の板状部材である。カバー20は、レール4とほぼ等しい長さを有し、レール4の一端から他端にかけて伸びている。カバー20は、磁性層5を外側から覆うようにレール4の片側面(底面16)に取り付けられる。磁性層5の着磁パターンによる磁束は、カバー20を透過する。このため、センサヘッド30と磁性層5との間にカバー20が介在しても磁束の検出に影響はない。
【0025】
センサヘッド30を磁性層5と対向させて着磁された磁性パターンを読み取ることで、磁気センサ10の位置ひいては移動体2の位置を検出できる。磁気センサ10は、検出した位置情報をケーブル12を介して外部装置へ送信する。
【0026】
次に磁性層を形成する際に用いられる水性塗料について説明する。本実施例に係る水性塗料をスケールの製造に用いることで、磁性粉含有率が高く、かつ厚塗りが可能となり、形成された磁性層の磁気特性が優れた磁気スケールを提供できる。本実施例では、非磁性支持体であるレール4上に水性磁性塗料を塗布して磁気スケールを製造する際に、水性バインダとして、水分散性のアクリル樹脂と水溶性のポリビニルアルコール樹脂を組み合わせて水性磁性塗料に含有させる。
【0027】
実施例に係るスケールは、磁性粉含有率が75%以上かつ乾燥膜厚が200μm以上の磁性層を有する。また、実施例に係る水性塗料組成物は、磁性粉、水性バインダ、及び分散剤等を含有する。水性バインダの配合量は、固形分重量で磁性粉100重量部に対して20~30重量部とするのが好ましい。また、水分散性のアクリル樹脂と水溶性のポリビニルアルコール樹脂の混合比は、固形分重量で1:1.5~2.5とするのが好ましい。さらには、水性磁性塗料の分散剤として、高顔料親和性官能基を含有する水溶性のコポリマーを用いることが好ましい。分散剤の配合量は、固形分重量で磁性粉100重量部に対して2~4重量部とするのが好ましい。
【0028】
そして、実施例に係るスケールの製造方法は、対向するセンサヘッド30で相対的な変位を検出するための磁性パターンを有するスケールの製造方法であって、レール4上に磁性粉を含有する水性塗料を塗布し乾燥させることにより、磁性粉含有率が75%以上かつ膜厚が200μm以上である磁性層5を形成する工程と、磁性層5に、センサヘッド30で相対的な変位を検出できる磁性パターンを形成(磁化)する工程と、を備える。水性塗料は、主溶剤として水を含有する。なお、レール4に直接磁性層を形成する場合以外に、非磁性の板状部品の樹脂やガラスの上に磁性層を形成し、板状部品をレール4の所定の位置に搭載してもよい。
【0029】
これにより、有機溶剤と比較して健康や環境に影響の小さい、安価で安全性の高い水を主溶剤とする水性塗料を用いて、支持体上に磁性粉含有率が75%以上かつ膜厚が200μm以上である磁性層が形成されたスケールを製造できる。この方法で製造されたスケールを用いることで、磁気特性に優れた位置検出精度の高い変位検出装置を実現できる。スケールとして機能する平滑化処理後の磁性層の厚みは150~250μmの範囲(乾燥膜厚として200~300μm程度の範囲)が好ましい。
【0030】
図6は、磁気センサの高分解能を実現する内挿処理技術を説明するための模式図である。内挿処理技術とは、磁気スケールから検出された信号波形を、必要とされるピッチ(細かさ)にまで正確に分割していく技術である。磁性パターンPは、スケール方向(X軸と平行な長手方向)において、400μm程度のピッチPxのパターンで磁化されている。センサは、磁気抵抗センサであり、2つのセンサヘッド30により、磁気目盛りから位相が90度ずれた2つの正弦波S1,S2として検出をしている。
【0031】
検出された信号は電気的に分割されるが、信号にひずみが含まれると正確な位置情報(真値)を得ることができない。そこで、例えば、スケールから検出された信号からDC成分を取り除き、レベル調整や位置調整をリアルタイムで行い、高度な信号処理によって80000分割を実現できる。これにより、ピッチPxに対応する400μmの正弦波を80000分割した5nmの分解能の位置情報を取得できるスケールを実現できる。
【0032】
このスケールに適した正弦波の出力を測定したところ、200μm前後がもっとも信号処理に適した正弦波を検出できる層厚であった。磁性層の厚みが150μmより薄い場合は、磁気スケールとしての機能は満たすものの、出力の低下が徐々に大きくなった。磁性層の厚みが250μmより厚い場合は、磁性層の磁性パターンを磁化する厚さを調整すれば、スケールとして利用できるが、その磁化領域の調整が必要になる。層全体を磁化して磁性パターンを形成すると、磁化反転境界での磁化の反発作用が働き減磁現象が生じてしまう。
【0033】
平滑化処理後の磁性層の厚みが150~250μmの範囲で好ましいのは、磁化する磁性層の厚さを調整することなく磁性層全体を磁化して磁性パターンを形成できることで、製造工程が簡略化できるためである。
【0034】
なお、磁性有機塗料で、乾燥膜厚200μmの磁性層を作成し、平滑化して膜厚150μmとした磁気スケールを製造した。この場合、平滑化前の乾燥時の磁性層の磁性粉含有率が73%と80%であることを確認した。また、磁性粉含有率が70%から90%であれば磁気スケールとして用いることができる点も確認した。特に、強い磁界を形成させるためには磁性粉含有率が75%以上であるとよい。
【0035】
また、環境に影響の小さい水分散性のアクリル樹脂と水溶性のポリビニルアルコール樹脂を組み合わせた水性磁性塗料を用いることで、磁性粉を含有する200μm以上の未乾燥塗膜を支持体上に一回で塗布できる。その理由として、本実施形態の水性塗料がアクリル樹脂とポリビニルアルコール樹脂との組み合わせの場合、アクリル樹脂が有する反応基(例えばカルボキシル基)と、ポリビニルアルコール樹脂が有する反応基(例えばヒドロキシ基)同士が結合(例えばエステル結合)することが考えられる。一部の反応基同士が結合することで、例えば、アクリル樹脂がもっているハガレに強い性質とポリビニルアルコール樹脂がもっているワレに強い性質が合わさり、塗工不良のない塗工を実現できると考えられる。そのため、本実施形態の水性塗料を用いることで、支持体上に一回で塗布できると考えられる。
【0036】
一方、アクリル樹脂のみをバインダに使用した塗料では膜厚が厚くなると塗膜乾燥に伴い塗膜のワレが生じやすく、一回の塗布では100μm未満の乾燥膜しか得られない。また、ポリビニルアルコール樹脂のみをバインダに使用した塗料では膜厚が厚くなると塗膜乾燥後に基材からのハガレが塗工不良として生じやすく、一回の塗布では100μm未満の乾燥膜しか得られない。
【0037】
なお、一回で塗布とは、ある方法で塗布する際に最低限必要な最小単位の一動作をいう。例えば、塗料の液だめに基板を漬けて基板上に膜を形成する場合は、基板を液だめに一回漬けた場合が一回で塗布したことになり、基板を液だめに複数回漬けた場合は複数回で塗布したことになる。
【0038】
これにより、例えば、一回で100μm程度の膜厚の膜しか塗布できない塗料を用いる場合は重ね塗りが必要であるのに対して、本実施形態に係る水性塗料を用いることで少ない回数の塗布で所望の膜厚の磁性層を形成できる。つまり、本実施形態に係るスケールの製造方法によれば、簡易に短時間で所望のスケールを製造できるため、製造コストを低減できる。
【0039】
本実施形態の水性塗料の塗布に適用できる方法としては、ダイコートが挙げられる。
図9は、ダイコートを説明するための模式図である。
図10は、スリットダイの要部の拡大断面図である。ダイコートは、塗布の際に基板とスリットダイとが相対的に動くことで、平面的に均一な膜を簡易に形成できる。本実施形態では、スリットダイ40が固定で基板(シート)42が動く方式について説明する。具体的には、本実施形態の塗料を塗布する場合、開口幅D1が10mm、スリット幅D2が0.5mmのスリットダイ40を用い、塗出量0.75mL/s、塗布速度50mm/s、ギャップ幅D3(吐出部先端と基板とのギャップ)が3mmの条件で1回塗布した結果、膜厚2200μmの未乾燥塗膜44が得られる。この未乾燥塗膜44を乾燥することで、磁性粉含有率が70%以上かつ膜厚が200μm以上である磁性層としての乾燥塗膜が割れやヒビなく得られる。なお、未乾燥塗膜の膜厚は200μm以上であればよく、500μm以上であってもよい。より好ましくは、1000μm以上であってもよい。基板は、非磁性の金属であるステンレスやアルミニウムである。
【0040】
また、
図9に示すように、本実施形態のダイコートは、タンク46に貯留されている塗料48がシリンジポンプ50によってスリットダイ40に供給される。スリットダイ40の先端近傍には、
図10に示すように、塗料48を滞留させるマニホールド52が設けられている。マニホールド52は、塗膜の均一化に寄与する。基板42は、吸着定盤に固定された状態で矢印A方向に移動する。
【0041】
(実施例1)
容器に磁性粉(前述の針状強磁性粉)100重量部、アクリル樹脂(株式会社レヂテックス製WCP-4、固形分48%)17重量部、ポリビニルアルコール樹脂(日本酢ビ・ポバール株式会社製JF-20)10%水溶液167重量部、分散剤(Evonik Tego Chemie GmbH製TEGO Dispers 750W、固形分40%)8重量部、水287重量部、セラミックビーズ600重量部を入れ、ビーズミルにて60分間分散し水性磁性塗料を得た。この水性磁性塗料より得られた塗膜の磁性粉含有率は78%であり、乾燥膜厚は250μmであった。その後、平滑化処理により膜厚を200μmとし磁気スケールとして性能を評価したところ十分な性能が得られた。また、塗膜の割れ、剥がれはなかった。
【0042】
(実施例2)
容器に磁性粉(前述の針状強磁性粉)100重量部、アクリル樹脂(株式会社レヂテックス製WCP-4、固形分48%)52重量部、分散剤(Evonik Tego Chemie GmbH製TEGO Dispers 750W、固形分40%)8重量部、水418重量部、セラミックビーズ600重量部を入れ、ビーズミルにて60分間分散し水性磁性塗料を得た。この水性磁性塗料より得られた塗膜はスケールとして機能する。ただし、この塗膜においては割れが発生しており、スケールとして最適な磁性層(例えば乾燥膜厚250μm)を割れや剥がれがなく形成するには塗布条件等の更なる改善が必要である。
【0043】
(実施例3)
容器に磁性粉(前述の針状強磁性粉)100重量部、ポリビニルアルコール樹脂(日本酢ビ・ポバール株式会社製JF-20)10%水溶液250重量部、分散剤(Evonik Tego Chemie GmbH製TEGO Dispers 750W、固形分40%)8重量部、水221重量部、セラミックビーズ600重量部を入れ、ビーズミルにて60分間分散し水性磁性塗料を得た。この水性磁性塗料より得られた塗膜はスケールとして機能する。ただし、この塗膜においては剥がれが発生しており、スケールとして最適な磁性層(例えば乾燥膜厚250μm)を割れや剥がれがなく形成するには塗布条件等の更なる改善が必要である。
【0044】
(実施例4)
容器に磁性粉(前述の針状強磁性粉)100重量部、アクリル樹脂(株式会社レヂテックス製WCP-4、固形分48%)17重量部、ポリビニルアルコール樹脂(日本酢ビ・ポバール株式会社製JF-20)10%水溶液167重量部、水291重量部、セラミックビーズ600重量部を入れ、ビーズミルにて60分間分散し水性磁性塗料を得た。この水性磁性塗料より得られた塗膜はスケールとして機能する。ただし、この塗膜においては割れが発生しており、スケールとして最適な磁性層(例えば乾燥膜厚250μm)を割れや剥がれがなく形成するには塗布条件等の更なる改善が必要である。
【0045】
(実施例5)
容器に磁性粉(前述の針状強磁性粉)100重量部、アクリル樹脂(株式会社レヂテックス製WCP-4、固形分48%)17重量部、ポリビニルアルコール樹脂(日本酢ビ・ポバール株式会社製JF-20)10%水溶液167重量部、分散剤(楠本化成株式会社製DISPARLON AQ-330、固形分100%)3重量部、水291重量部、セラミックビーズ600重量部を入れ、ビーズミルにて60分間分散し水性磁性塗料を得た。この水性磁性塗料より得られた塗膜はスケールとして機能する。ただし、この塗膜においては割れが発生しており、スケールとして最適な磁性層(例えば乾燥膜厚250μm)を割れや剥がれがなく形成するには塗布条件等の更なる改善が必要である。
【0046】
(実施例6)
容器に磁性粉(前述の針状強磁性粉)100重量部、アクリル樹脂(株式会社レヂテックス製WCP-4、固形分48%)17重量部、ポリビニルアルコール樹脂(日本酢ビ・ポバール株式会社製JF-20)10%水溶液167重量部、分散剤(クエン酸)3重量部、水291重量部、セラミックビーズ600重量部を入れ、ビーズミルにて60分間分散し水性磁性塗料を得た。この水性磁性塗料より得られた塗膜はスケールとして機能する。ただし、この塗膜においては割れが発生しており、スケールとして最適な磁性層(例えば乾燥膜厚250μm)を割れや剥がれがなく形成するには塗布条件等の更なる改善が必要である。
【0047】
(実施例7)
容器に磁性粉(前述の針状強磁性粉)100重量部、アクリル樹脂(株式会社レヂテックス製WCP-4、固形分48%)17重量部、ポリビニルアルコール樹脂(三菱ケミカル株式会社製CKS-50)10%水溶液167重量部、分散剤(Evonik Tego Chemie GmbH製TEGO Dispers 750W、固形分40%)8重量部、水287重量部、セラミックビーズ600重量部を入れ、ビーズミルにて60分間分散し水性磁性塗料を得た。この水性磁性塗料より得られた塗膜はスケールとして機能する。ただし、この塗膜においては割れが発生しており、スケールとして最適な磁性層(例えば乾燥膜厚250μm)を割れや剥がれがなく形成するには塗布条件等の更なる改善が必要である。
【0048】
【0049】
実施例1と実施例7を比較すると、ポリビニルアルコール樹脂として用いられる製品が異なる。実施例1に用いられるJF-20は、重合度が2000、鹸化度が98.0~99.0(mol%)、4%水溶液粘度が35~45(mPa・s)である。一方、CKS-50は、重合度は不明であるものの、鹸化度が99.0(mol%)以上、4%水溶液粘度が2.5~3.0(mPa・s)である。粘度は重合度や鹸化度が高くなるほど高くなる傾向にある。そのため、両者の鹸化度が同程度であるため、CKS-50の重合度はJF-20よりも遥かに低いと推測できる。この推測は、国際公開第2017/056596号における、CKS-50の重合度が300であるとの記載と整合する。よって、重合度が成膜性に大きな影響を及ぼし、割れや剥がれのない厚膜の成膜には高重合度が必要であると考えられる。
【0050】
[カバーの固定構造]
図7は、
図4に示したレールの底面の変形例の構造を示す断面図である。
図8は、
図7に示すレールの底面に磁性層とカバーを配置した状態を示す断面図である。
図7に示すレール4は、V字状の溝の底に凹凸のある底部32が形成されている。底部32は、磁性層5の下面5a中央を支持する凸部32aを有する。凸部32aの上面32bは、レール4の溝に沿った長方形の平坦な面であり、磁性層5を一定の姿勢で支持する。
【0051】
底部32において、磁性層5が載置される領域R1の幅W1は、磁性層5が載置された状態で空間32cとなる領域R2がある幅W2より広い。そのため、領域R1と領域R2の境界に段部32dが形成されており、上面32bに載置された磁性層5が傾きにくくなる。底部32は、領域R1の上方の所定の位置に、平坦な段部32eが溝の左右に形成されている。長方形状のカバー20は、所定の段部32eに配置されることで、平滑化された磁性層5の表面に対して一定の距離で底部32に固定される。換言すると、上面32bと段部32eとの高さを考慮して磁性層5の表面を平滑化することで、センサヘッドと磁性層5との距離を所望の値に設定できる。
【0052】
また、一部品であるレール4の底部32を加工して上面32bと段部32eを形成することで、加工精度による上面32bと段部32eの位置関係の寸法誤差を抑えることができる。その結果、変形例に係る磁気センサ10は、磁性層5の表面とカバー20の表面との距離が一定となり、スケールとして安定した出力(正確性)が担保されることで、スケールの検出精度が向上する。
【0053】
以上のように、本実施形態の水性塗料を一回塗布するだけで、スケールに用いる磁性パターンを適切に膜上に形成できる、亀裂等の少ない、連続性が高い、どの地点においても200μm以上の膜厚が確保された未乾燥塗膜を支持体上に形成できる。さらに、本実施形態の水性塗料を一回塗布した後に乾燥させても、なお200μm以上の厚さを確保しつつ、亀裂等が少なく連続性が高い、膜の位置連れを起こさない程度に支持体への接着性も高い、乾燥膜が支持体上に形成された状態にある。このため、スケール用の磁性層として適切な乾燥膜を製造することができる。
【0054】
なお、本発明は上記実施形態や実施例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施形態や実施例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施形態や実施例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 変位検出装置、 2 移動体、 4 レール、 5 磁性層、 8 センサユニット、 9 ホルダ、 10 磁気センサ、 12 ケーブル、 14 ガイド面、 16 底面、 20 カバー、 22 ねじ孔、 30 センサヘッド、 32 底部、 32a 凸部、 32b 上面、 32c 空間、 32d 段部、 32e 段部。