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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155743
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】ゴム組成物および伝動ベルト
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/08 20060101AFI20241024BHJP
   C08K 3/06 20060101ALI20241024BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20241024BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20241024BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20241024BHJP
   F16G 1/00 20060101ALI20241024BHJP
   F16G 1/08 20060101ALI20241024BHJP
   F16G 1/28 20060101ALI20241024BHJP
   F16G 5/06 20060101ALI20241024BHJP
   F16G 5/20 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C08L23/08
C08K3/06
C08K3/04
C08K7/02
C08K3/34
F16G1/00 B
F16G1/08 C
F16G1/28 F
F16G5/06 C
F16G5/20 A
F16G5/20 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024038127
(22)【出願日】2024-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2023069603
(32)【優先日】2023-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】吉村 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】武市 博樹
(72)【発明者】
【氏名】黒川 朝光
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 利樹
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB012
4J002BB051
4J002BB151
4J002CF052
4J002CF062
4J002CF072
4J002CF082
4J002CL012
4J002CL032
4J002DA036
4J002DA048
4J002DJ037
4J002FA042
4J002FD010
4J002FD012
4J002FD016
4J002FD017
4J002FD020
4J002FD030
4J002FD148
4J002FD150
4J002GM01
(57)【要約】
【課題】伝動ベルトの導電性を向上できるゴム組成物を提供する。
【解決手段】ポリマー成分、カーボンブラック、架橋剤および共架橋剤を含むゴム組成物で伝動ベルトを形成する。前記ポリマー成分は、エチレン-α-オレフィンエラストマーを含む。前記架橋剤は、硫黄系架橋剤を含む。前記カーボンブラックの割合は、前記ポリマー成分100質量部に対して55~85質量部である。前記ゴム組成物は、短繊維をさらに含んでいてもよい。前記短繊維の割合は、前記ポリマー成分100質量部に対して15~50質量部であってもよい。前記短繊維は、合成短繊維および天然短繊維を含んでいてもよい。前記短繊維は、ポリエステル短繊維およびアラミド短繊維からなる群より選択された少なくとも一種の合成短繊維とセルロース短繊維との組み合わせであり、前記セルロース短繊維の割合は、前記合成短繊維100質量部に対して10~100質量部であってもよい。前記架橋剤は、硫黄系架橋剤であってもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー成分、カーボンブラック、架橋剤および共架橋剤を含むゴム組成物であって、
前記ポリマー成分がエチレン-α-オレフィンエラストマーを含み、
前記架橋剤が硫黄系架橋剤を含み、かつ
前記カーボンブラックの割合が、前記ポリマー成分100質量部に対して55~85質量部であるゴム組成物。
【請求項2】
短繊維をさらに含み、前記短繊維の割合が、前記ポリマー成分100質量部に対して15~50質量部である請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記短繊維が、合成短繊維および天然短繊維を含む請求項2記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記短繊維が、ポリエステル短繊維およびアラミド短繊維からなる群より選択された少なくとも一種の合成短繊維とセルロース短繊維との組み合わせであり、前記セルロース短繊維の割合が、前記合成短繊維100質量部に対して10~100質量部である請求項2または3記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記架橋剤が硫黄系架橋剤である請求項1または2記載のゴム組成物。
【請求項6】
クレーをさらに含み、前記クレーの割合が、前記カーボンブラック100質量部に対して20~60質量部である請求項1または2記載のゴム組成物。
【請求項7】
請求項1または2記載のゴム組成物の架橋物を含む伝動ベルト。
【請求項8】
厚みが8mm以上である請求項7記載の伝動ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動ベルトの導電性を向上できるゴム組成物および伝動ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
伝動ベルトは複数のプーリに掛けまわされ、動力を駆動プーリから従動プーリへと伝達する。その際、プーリとの離合を繰り返す中でベルトに静電気が溜まり、周辺の電気機器へ悪影響を及ぼすことがある。このような悪影響を避けるために、導電性(電気伝導性)を高めたベルトが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1(特許第5358191号公報)には、ファーネスカーボンブラック、酸化亜鉛およびステアリン酸を含有する伝動ベルト用ゴム組成物が開示されている。また、特許文献2(特許第5489319号公報)には、導電性カーボンブラックとファーネスカーボンブラックとが特定の量で含まれる伝動ベルト用ゴム組成物が開示されている。これらの文献には、カーボンブラックを含むゴム組成物が、走行後の導電維持特性にも優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5358191号公報
【特許文献2】特許第5489319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1および2のゴム組成物では、例えば、防爆仕様として要求されるレベルには達しておらず、導電維持性も含めたより高い導電性を有するゴム組成物が求められていた。
【0006】
従って、本発明の目的は、伝動ベルトの導電性を向上できるゴム組成物および伝動ベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、伝動ベルトの導電性を向上させるためには、ゴムマトリクス中でカーボンブラックが連なって電気の通り道を形成することが重要と考え、カーボンブラックを多量に配合することを検討した。しかしながら、カーボンブラックの増量だけでは走行後の導電維持性には十分ではなく、その原因としては、微小な亀裂が発生することでカーボンブラックの連なりが切断されることが考えられた。そこで、本発明者等は、さらに鋭意検討した結果、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)にカーボンブラックを多く配合するとともに、硫黄系架橋剤および共架橋剤と組み合わせることにより、伝動ベルトの導電性を向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の態様[1]としてのゴム組成物は、ポリマー成分、カーボンブラック、架橋剤および共架橋剤を含むゴム組成物であって、
前記ポリマー成分がエチレン-α-オレフィンエラストマーを含み、
前記架橋剤が硫黄系架橋剤を含み、かつ
前記カーボンブラックの割合が、前記ポリマー成分100質量部に対して55~85質量部である。
【0009】
本発明の態様[2]は、前記態様[1]のゴム組成物が、短繊維をさらに含み、前記短繊維の割合が、前記ポリマー成分100質量部に対して15~50質量部である態様である。
【0010】
本発明の態様[3]は、前記態様[2]において、前記短繊維が、合成短繊維および天然短繊維を含む態様である。
【0011】
本発明の態様[4]は、前記態様[2]または[3]において、前記短繊維が、ポリエステル短繊維およびアラミド短繊維からなる群より選択された少なくとも一種の合成短繊維とセルロース短繊維との組み合わせであり、前記セルロース短繊維の割合が、前記合成短繊維100質量部に対して10~100質量部である態様である。
【0012】
本発明の態様[5]は、前記態様[1]~[4]のいずれかの態様において、前記架橋剤が硫黄系架橋剤である態様である。
【0013】
本発明の態様[6]は、前記態様[1]~[5]のいずれかの態様において、クレーをさらに含み、前記クレーの割合が、前記カーボンブラック100質量部に対して20~60質量部である態様である。
【0014】
本発明には、態様[7]として、前記態様[1]~[6]のいずれかの態様のゴム組成物の架橋物を含む伝動ベルトも含まれる。
【0015】
本発明の態様[8]は、前記態様[7]の伝動ベルトの厚みが8mm以上である態様である。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、エチレン-α-オレフィンエラストマーと、所定量のカーボンブラックと、硫黄系架橋剤および共架橋剤とを組み合わせることにより、導電性を向上できる。なかでも、伝動ベルト(特に、圧縮ゴム層)に利用した場合には、ベルト走行後もベルトに微小な亀裂が発生するのを抑制でき、電気抵抗値を低く保持でき、伝動ベルトの導電維持性を向上できる。さらに、伝動ベルトの耐亀裂性と耐摩耗性も向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施例で得られたローエッジコグドVベルトの耐亀裂性を評価するための走行試験のレイアウトを示す概略図である。
図2図2は、実施例で得られたローエッジコグドVベルトの耐摩耗性を評価するための走行試験のレイアウトを示す概略図である。
図3図3は、実施例で得られたローエッジコグドVベルトの電気抵抗値を測定するために、電極の上に前記ベルトを設置した状態を示す概略断面図である。
図4図4は、実施例で得られたローエッジコグドVベルトの電気抵抗値の測定方法を説明するための概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[ゴム組成物]
本発明のゴム組成物は、ポリマー成分(A)、カーボンブラック(B)、架橋剤(C)および共架橋剤(D)を含む。
【0019】
(A)ポリマー成分(またはゴム成分)
本発明のゴム組成物において、ポリマー成分(第1のポリマー成分)(A)は、耐熱性、耐寒性、耐候性に優れる点から、エチレン-α-オレフィンエラストマーを含む。
【0020】
エチレン-α-オレフィンエラストマーは、構成単位として、エチレン単位、α-オレフィン単位を含んでいればよく、ジエン単位をさらに含んでいてもよい。そのため、エチレン-α-オレフィンエラストマーには、エチレン-α-オレフィン共重合体ゴム、エチレン-α-オレフィン-ジエン三元共重合体ゴムなどが含まれる。
【0021】
α-オレフィン単位を形成するためのα-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、ブテン、ペンテン、メチルペンテン、ヘキセン、オクテンなどの鎖状α-C3-12オレフィンなどが挙げられる。これらのα-オレフィンのうち、プロピレンなどのα-C3-4オレフィン(特にプロピレン)が好ましい。
【0022】
ジエン単位を形成するためのジエンモノマーとしては、通常、非共役ジエン系単量体が利用される。非共役ジエン系単量体としては、例えば、ジシクロペンタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、1,4-ヘキサジエン、シクロオクタジエンなどが例示できる。これらのジエンモノマーのうち、エチリデンノルボルネン、1,4-ヘキサジエン(特に、エチリデンノルボルネン)が好ましい。
【0023】
代表的なエチレン-α-オレフィンエラストマーとしては、例えば、エチレン-α-オレフィンゴム[エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-ブテンゴム(EBM)、エチレン-オクテンゴム(EOM)など]、エチレン-α-オレフィン-ジエンゴム[エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)]などが例示できる。
【0024】
これらのエチレン-α-オレフィンエラストマーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、耐熱性、耐寒性、耐候性に優れる点から、エチレン-α-C3-4オレフィン-ジエン三元共重合体ゴムなどのエチレン-α-オレフィン-ジエン三元共重合体ゴムが好ましく、EPDMが特に好ましい。そのため、EPDMの割合は、エチレン-α-オレフィンエラストマー全体に対して50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上(特に95質量%以上)であり、100質量%(EPDMのみ)であってもよい。
【0025】
エチレン-α-オレフィンエラストマーにおいて、エチレン-α-オレフィンエラストマー中のエチレンの含有率(エチレン単位の割合)は45質量%以上であってもよく、例えば45~80質量%、好ましくは48~70質量%、さらに好ましくは50~60質量%である。エチレン含有率が少なすぎると、伝動ベルトに利用した場合、耐摩耗性が低下する虞があり、多すぎると、加工性および耐亀裂性が低下する虞がある。
【0026】
なお、本願において、エチレン含有率は、エチレン-α-オレフィンエラストマーを構成する全単位中のエチレン単位の質量割合を意味し、慣用の方法により測定できるが、モノマーとしてのエチレンに基づく割合であってもよい。
【0027】
さらに、本願において、エチレン-α-オレフィンエラストマーが複数種である場合、エチレン含有率は質量比に基づく平均値(平均エチレン含有率)を意味する。すなわち、平均エチレン含有率は、それぞれのエチレン-α-オレフィンエラストマーのエチレン含有率と質量分率との積の合計である。
【0028】
エチレン-α-オレフィンエラストマーにおいて、エチレンとα-オレフィンとの割合(質量比)は、前者/後者=40/60~90/10、好ましくは45/55~80/20、さらに好ましくは50/50~70/30、より好ましくは55/45~60/40である。
【0029】
エチレン-α-オレフィンエラストマー(特に、EPDMなどのエチレン-α-オレフィン-ジエン三元共重合体ゴム)のジエン含有率(特に、エチリデンノルボルネン含有率)は、例えば0.1~15質量%、好ましくは1~10質量%、さらに好ましくは2~7質量%、より好ましくは3~6質量%、最も好ましくは4~5質量%である。ジエン含有率が多すぎると、高度な耐熱性が担保できない虞がある。ジエン含有率が少なすぎると、伝動ベルトに利用した場合、加工性および耐亀裂性が低下する虞があり、逆に多すぎると、耐摩耗性が低下する虞がある。
【0030】
なお、本願において、ジエン含有率は、エチレン-α-オレフィンエラストマーを構成する全単位中のジエンモノマー単位の質量割合を意味し、慣用の方法により測定できるが、モノマーに基づく割合であってもよい。
【0031】
ジエンモノマーを含むエチレン-α-オレフィンエラストマーのヨウ素価は、例えば3~40、好ましくは5~30、さらに好ましくは10~20である。ヨウ素価が小さすぎると、ゴム組成物の架橋が不十分になって摩耗や粘着が発生し易く、逆にヨウ素価が大きすぎると、ゴム組成物のスコーチが短くなって扱い難くなると共に耐熱性が低下する傾向がある。
【0032】
なお、本願において、エチレン-α-オレフィンエラストマーのヨウ素価は、慣用の方法で測定でき、例えば、赤外分光法で測定できる。
【0033】
未架橋のエチレン-α-オレフィンエラストマーのムーニー粘度[ML(1+4)125℃]は15以上であってもよく、例えば15~85、好ましくは20~70、さらに好ましくは25~60、より好ましくは30~50、最も好ましくは35~45である。ムーニー粘度が低すぎると、伝動ベルトに利用した場合、耐摩耗性が低下する虞があり、逆に高すぎると、加工性および耐亀裂性が低下する虞がある。
【0034】
なお、本願において、ムーニー粘度は、JIS K 6300-1(2013)に準じた方法で測定でき、試験条件は、L形ロータを使用し、試験温度125℃、予熱1分、ロータ作動時間4分である。ムーニー粘度は、キャビティ内において表面に溝が設けられたロータと接するように未架橋のエチレン-α-オレフィンエラストマーを充填し、ロータを回転させるのに必要なトルクを測定することにより、ゴムの流動性(加工のしやすさ)を表す指標として用いられる。
【0035】
さらに、本願において、エチレン-α-オレフィンエラストマーが複数種である場合、ムーニー粘度は質量比に基づく平均値(平均ムーニー粘度)を意味する。すなわち、平均ムーニー粘度は、それぞれのエチレン-α-オレフィンエラストマーのムーニー粘度と質量分率との積の合計である。
【0036】
ポリマー成分(A)中のエチレン-α-オレフィンエラストマーの割合は50質量%以上であればよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、最も好ましくは100質量%(エチレン-α-オレフィンエラストマーのみ)である。ポリマー成分中のエチレン-α-オレフィンエラストマーの割合が少なすぎると、耐熱性および耐寒性が低下する虞がある。
【0037】
ポリマー成分(A)は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、エチレン-α-オレフィンエラストマーに加えて、他のポリマー成分、例えば、ジエン系ゴム[天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(ニトリルゴム:NBR)、アクリロニトリル-クロロプレンゴム;水素化ニトリルゴム(HNBR、水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との混合ポリマーを含む)などの前記ジエン系ゴムの水添物など]、オレフィン系ゴム[ポリオクテニレンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレンゴム(ACSM)など]、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどを含んでいてもよい。これらのゴム成分は、カルボキシル化SBR、カルボキシル化NBRなどのように、カルボキシル化されていてもよい。水素化ニトリルゴムは、水素化ニトリルゴム単独に限定されず、水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との複合ポリマーであってもよい。これらのポリマー成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0038】
他のポリマー成分の割合は、ポリマー成分(A)中50質量%以下であってもよく、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0039】
ポリマー成分(A)が他のポリマー成分を含む場合、未架橋のポリマー成分のムーニー粘度は、好ましい範囲も含めて、前記エチレン-α-オレフィンエラストマーのムーニー粘度として記載された粘度の範囲から選択できる。
【0040】
(B)カーボンブラック
本発明のゴム組成物は、導電性を向上させるために、無機充填剤(フィラー)としてカーボンブラック(B)を含む。本発明では、ゴム組成物中に多量のカーボンブラック(B)を含むことにより、導電性を向上できる。
【0041】
カーボンブラックは、ASTMにより「N0**」~「N9**」に分類(ヨウ素吸着量に基づき分類)され、従来、ゴム製品の性能などに基づいてもSAF、HAF、GPFなどに分類されており、一次粒子径の小さいN110(SAF)、N220(ISAF)、N330(HAF)などはハードカーボンと称され、一次粒子径の大きいN550(FEF)、N660(GPF)、N762(SRF)などはソフトカーボンと称されることもある。これらのカーボンブラックは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、ISAFなどのハードカーボンブラックが好ましい。
【0042】
カーボンブラック(B)の平均一次粒子径は5~200nm(例えば10~100nm)の範囲から選択でき、例えば10~70nm、好ましくは13~50nm、さらに好ましくは15~40nm、より好ましくは20~30nmである。カーボンブラック(B)の平均一次粒子径が小さすぎると、ゴム組成物中のカーボンブラック(B)の分散性が低下する虞があり、逆に大きすぎると、カーボンブラック(B)による補強性が低下する虞がある。
【0043】
なお、本願において、カーボンブラック(B)の平均一次粒子径は、例えば、透過型電子顕微鏡などを用いて個数基準で測定できる。
【0044】
カーボンブラック(B)のDBP吸収量は、例えば60~500mL/100g程度の範囲から選択でき、好ましくは80mL/100g以上、さらに好ましくは100mL/100g以上であり、100~200mL/100gであってもよい。DBP吸収量が小さすぎると、架橋ゴムの電気伝導性が低下する虞がある。
【0045】
なお、本願において、カーボンブラック(B)のDBP吸収量は、JIS K 6217-4(2017)に準じ、非圧縮試料について測定できる値(OAN)を意味する。
【0046】
カーボンブラック(B)のヨウ素吸着量は、例えば5~200g/kg、好ましくは10~180g/kg、さらに好ましくは50~150g/kg、より好ましくは100~130g/kgである。ヨウ素吸着量が小さすぎると、架橋ゴムの硬度およびモジュラスが低下する虞があり、逆に大きすぎると、カーボンブラック(B)自体の調製が困難となる虞がある。
【0047】
なお、本願において、カーボンブラック(B)のヨウ素吸着量は、ASTM D1510-17の標準試験法に準拠して測定できる。
【0048】
カーボンブラック(B)のBET比表面積は、例えば50~400m/g、好ましくは70~300m/g、さらに好ましくは80~200m/g、より好ましくは100~150m/gである。
【0049】
なお、本願において、BET比表面積とは、BET法により窒素ガスを用いて測定した比表面積を意味する。
【0050】
本発明のゴム組成物は、カーボンブラックを多く含むことで、導電性カーボンブラックに分類されるような特殊なカーボンブラック(例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなど)を用いなくても、導電性および導電維持性が向上できる。そのため、カーボンブラック(B)は、汎用のカーボンブラック(非導電性カーボンブラック)であってもよい。さらに、カーボンブラックとしては、耐摩耗性および耐亀裂性を向上できる点から、非導電性カーボンブラックが好ましい。
【0051】
カーボンブラック(B)の割合は、ポリマー成分(A)100質量部に対して55~85質量部であり、好ましくは60~83質量部、さらに好ましくは70~80質量部である。カーボンブラック(B)の割合が少なすぎると、ゴム組成物の導電性および導電維持性が低下し、多すぎると、カーボンブラック(B)の分散不良が発生し易くなり、ゴム組成物をシート状に圧延するのが困難となる。
【0052】
導電性カーボンブラックの割合は、非導電性カーボンブラック100質量部に対して1000質量部以下(例えば1~1000質量部)であってもよく、好ましくは500質量部以下(例えば10~500質量部)であり、耐摩耗性および耐亀裂性を向上できる点から、300質量部以下であってもよく、好ましくは100質量部以下、さらに好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下、最も好ましくは10質量部以下である。カーボンブラック(B)は、耐摩耗性および耐亀裂性を向上できる点から、導電性カーボンブラックを実質的に含まないのが好ましく、導電性カーボンブラックを含まないのが特に好ましい。
【0053】
(C)架橋剤(加硫剤)
本発明のゴム組成物は、架橋剤(C)をさらに含む。本発明では、架橋剤(C)が硫黄系架橋剤を含み、かつ後述する共架橋剤(D)と組み合わせることにより、伝動ベルトに利用した場合に微小な亀裂の発生を抑制でき、走行後の導電維持性を向上できる。
【0054】
硫黄系架橋剤としては、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、塩化硫黄(一塩化硫黄、二塩化硫黄など)などが挙げられる。これらの硫黄系架橋剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄が好ましく、粉末硫黄が特に好ましい。
【0055】
架橋剤(C)中の硫黄系架橋剤の割合は50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、より好ましくは100質量%である。硫黄系架橋剤の割合が少なすぎると、架橋物の耐屈曲疲労性(または伝動ベルトの耐亀裂性)が低下する虞がある。
【0056】
架橋剤(C)は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、硫黄系架橋剤に加えて、有機過酸化物をさらに含んでいてもよい。有機過酸化物としては、通常、ゴム、樹脂の架橋に使用されている有機過酸化物、例えば、ジアシルパーオキサイド(例えば、ジラウロイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイドなど)、パーオキシケタール[例えば、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブタンなど]、アルキルパーオキシエステル(t-ブチルパーオキシベンゾエートなど)、ジアルキルパーオキサイド[ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,3-ビス(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジ-メチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサンなど]、ジアラルキルパーオキサイド(ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイドなど)パーオキシカーボネート(t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチル-ヘキシルカーボネート、t-アミルパーオキシ-2-エチル-ヘキシルカーボネートなど)などが挙げられる。
【0057】
これらの有機過酸化物は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。さらに、有機過酸化物は、熱分解による1分間の半減期を得る分解温度が150~250℃(例えば175~225℃)程度の過酸化物が好ましい。
【0058】
有機過酸化物の割合は、硫黄系架橋剤100質量部に対して100質量部以下であってもよく、好ましくは50質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。有機過酸化物の割合が多すぎると、伝動ベルトにおける導電維持性が低下する虞がある。架橋剤(C)は、有機過酸化物を実質的に含まないのが特に好ましく、有機過酸化物を含まないのが最も好ましい。
【0059】
架橋剤(C)(特に、硫黄系架橋剤)の割合は、ポリマー成分(A)100質量部に対して、例えば1~10質量部程度の範囲から選択でき、1.2質量部以上が好ましく、例えば1.2~5質量部、好ましくは1.3~3質量部、さらに好ましくは1.5~2.5質量部、より好ましくは1.6~2.3質量部、最も好ましくは1.8~2.2質量部である。硫黄系架橋剤の割合が少なすぎると、ゴム硬度、耐側圧性、耐摩耗性が低下する虞があり、多すぎると、架橋物の耐屈曲疲労性が低下する虞がある上に、ブルーム(表面への析出)が発生する虞もある。
【0060】
(D)共架橋剤
本発明のゴム組成物は、共架橋剤(D)をさらに含む。共架橋剤(共加硫剤co-agent)(D)としては、公知の共架橋剤、例えば、多官能(イソ)シアヌレート[例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート(TAC)など]、ポリジエン(例えば、1,2-ポリブタジエンなど)、不飽和カルボン酸の金属塩[例えば、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸マグネシウムなどの(メタ)アクリル酸多価金属塩]、オキシム類(例えば、キノンジオキシムなど)、グアニジン類(例えば、ジフェニルグアニジンなど)、多官能(メタ)アクリレート[例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレートなどのアルカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどのアルカンポリオールポリ(メタ)アクリレートなど]、ビスマレイミド類[例えば、N,N’-1,2-エチレンジマレイミド、N,N’-ヘキサメチレンビスマレイミド、1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)シクロヘキサンなどのアルキレンビスマレイミド;N,N’-m-フェニレンジマレイミド(MPBM)、4-メチル-1,3-フェニレジマレイミド、4,4’-ジフェニルメタンジマレイミド、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニルなどのアレーンビスマレイミドなど]プロパン、4,4’-ジフェニルエーテルジマレイミド、4,4’-ジフェニルスルホンジマレイミド、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼンなど]などが挙げられる。
【0061】
これらの共架橋剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、MPBMなどのビスマレイミド類が好ましい。
【0062】
共架橋剤(D)の割合は、ポリマー成分(A)100質量部に対して、例えば0.1~10質量部(特に0.7~10質量部)、好ましくは0.2~5質量部、さらに好ましくは0.3~3質量部、より好ましくは0.5~1.5質量部、最も好ましくは0.8~1.2質量部である。共架橋剤(D)の割合が少なすぎると、耐摩耗性が低下したり、架橋ゴムのモジュラスが低下する虞があり、逆に多すぎると、架橋物の耐屈曲疲労性が低下する虞がある。
【0063】
(E)短繊維
本発明のゴム組成物は、耐摩耗性を向上させるために、短繊維(E)をさらに含んでいてもよい。短繊維(E)としては、例えば、ポリオレフィン短繊維(ポリエチレン短繊維、ポリプロピレン短繊維など)、ポリアミド短繊維[ポリアミド6短繊維、ポリアミド66短繊維、ポリアミド46短繊維などの脂肪族ポリアミド短繊維(ナイロン短繊維)、アラミド短繊維など]、ポリエステル短繊維[ポリアルキレンアリレート系短繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)短繊維、ポリブチレンテレフタレート(PBT)短繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)短繊維などのC2-4アルキレンC8-14アリレート短繊維);ポリアリレート短繊維、液晶ポリエステル短繊維などの完全芳香族ポリエステル短繊維など]、ビニロン短繊維、ポリビニルアルコール系短繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)短繊維などの合成短繊維;綿、麻、羊毛などの天然短繊維、レーヨンなどの再生セルロース短繊維、セルロースエステル短繊維など;炭素短繊維、ガラス短繊維などの無機短繊維などが例示できる。これらの短繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0064】
これらの短繊維のうち、合成短繊維および/または天然短繊維(特に、ポリエステル短繊維および/またはセルロース短繊維)が汎用され、架橋物の耐屈曲疲労性を維持しつつ、耐摩耗性を向上できる点から、合成短繊維と天然短繊維との組み合わせが好ましく、ポリエステル短繊維および/またはアラミド短繊維とセルロース短繊維との組み合わせがさらに好ましく、耐亀裂性を向上できる点から、ポリエステル短繊維とセルロース短繊維との組み合わせがより好ましく、PET短繊維などのポリアルキレンアリレート短繊維と綿短繊維などのセルロース短繊維との組み合わせが最も好ましい。
【0065】
短繊維(E)として合成短繊維と天然短繊維とを組み合わせる場合、天然短繊維(特に、セルロース短繊維)の割合は、合成短繊維(特に、ポリエステル短繊維)100質量部に対して1~1000質量部程度の範囲から選択でき、例えば5~200質量部、好ましくは10~100質量部、さらに好ましくは20~80質量部、より好ましくは30~70質量部、最も好ましくは40~60質量部である。天然短繊維の割合が少なすぎると、架橋物の耐屈曲疲労性(特に、伝動ベルトの耐亀裂性)を向上できない虞があり、多すぎると、耐摩耗性を向上できない虞がある。
【0066】
短繊維(E)がポリエステル短繊維およびセルロース短繊維を含む場合、ポリアミド短繊維(特に、脂肪族ポリアミド繊維)の割合は、ポリエステル短繊維およびセルロース短繊維の合計100質量部に対して100質量部以下であってもよく、好ましくは50質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。短繊維(E)は、ポリアミド短繊維(特に、脂肪族ポリアミド繊維)を実質的に含まないのが特に好ましく、ポリアミド短繊維(特に、脂肪族ポリアミド繊維)を含まないのが最も好ましい。ポリアミド短繊維の割合が多すぎると、耐亀裂性が低下する虞がある。
【0067】
短繊維(E)の平均繊維径は、例えば1~1000μm、好ましくは3~100μm、さらに好ましくは5~50μm、より好ましくは10~30μmである。平均繊維径が大きすぎると、ゴム組成物の架橋物において、硬度やモジュラスが低下する虞があり、小さすぎると、均一に分散させるのが困難となる虞がある。
【0068】
短繊維(E)の平均繊維長は、例えば1~20mm、好ましくは1.5~10mm、さらに好ましくは2~7mm、より好ましくは2.5~6mmである。短繊維の平均長さが短すぎると、伝動ベルトにおいて、列理方向の力学特性(例えばモジュラスなど)を十分に高めることができない虞があり、逆に長すぎると、ゴム組成物中の短繊維の分散性が低下する虞がある。
【0069】
ゴム組成物中の短繊維(E)の分散性や接着性の観点から、少なくとも短繊維(E)は接着処理(または表面処理)することが好ましい。なお、全ての短繊維が接着処理されている必要はなく、接着処理した短繊維と、接着処理されていない短繊維(未処理短繊維)とが混在または併用されていてもよい。
【0070】
短繊維(E)の接着処理では、種々の接着処理、例えば、フェノール類とホルマリンとの初期縮合物(ノボラックまたはレゾール型フェノール樹脂のプレポリマーなど)を含む処理液、ゴム成分(またはラテックス)を含む処理液、前記初期縮合物とゴム成分(ラテックス)とを含む処理液、シランカップリング剤、エポキシ化合物(エポキシ樹脂など)、イソシアネート化合物などの反応性化合物(接着性化合物)を含む処理液などで処理することができる。好ましい接着処理では、短繊維は、前記初期縮合物とゴム成分(ラテックス)とを含む処理液、特に少なくともレゾルシン-ホルマリン-ラテックス(RFL)液で処理する。このような処理液は組み合わせて使用してもよく、例えば、短繊維を、慣用の接着性成分、例えば、エポキシ化合物(エポキシ樹脂など)、イソシアネート化合物などの反応性化合物(接着性化合物)で前処理した後、RFL液で処理してもよい。
【0071】
短繊維(E)の割合(複数種組み合わせる場合は総量の割合)は、ポリマー成分100質量部に対して、例えば10~100質量部、好ましくは15~50質量部、さらに好ましくは20~40質量部、より好ましくは25~35質量部である。短繊維(E)の割合が少なすぎると、ゴム組成物の硬化物の硬度やモジュラスが低下する虞があり、逆に多すぎると、均一に分散させるのが困難となる虞がある。
【0072】
(F)架橋促進剤
本発明のゴム組成物は、伝動ベルトにおける導電維持性を向上させるために、架橋促進剤(F)をさらに含んでいてもよい。
【0073】
架橋促進剤(F)としては、例えば、チウラム系促進剤[例えば、テトラメチルチウラム・モノスルフィド(TMTM)、テトラメチルチウラム・ジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラム・ジスルフィド(TETD)、テトラブチルチウラム・ジスルフィド(TBTD)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)、N,N’-ジメチル-N,N’-ジフェニルチウラム・ジスルフィド(MPTD)など]、スルフェンアミド系促進剤[例えば、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、N,N’-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(DCBS)、N-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(TBBS)など]、チオモルホリン系促進剤[例えば、4,4’-ジチオジモルホリン(DTDM)、2-(4’-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール(MBSS)など]、チアゾ-ル系促進剤[例えば、2-メルカプトベンゾチアゾ-ル(MBT)、MBTの亜鉛塩(ZMBT)、ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)など]、ウレア系またはチオウレア系促進剤[例えば、エチレンチオウレア(ETU)、トリメチルチオウレア(TMU)、ジエチルチオウレア(DETU)など]、グアニジン系促進剤[例えば、ジフェニルグアニジン(DPG)、ジ-o-トリルグアニジン(DOTG)など]、ジチオカルバミン酸系促進剤[例えば、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム(SDMC)、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDEC)、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDBC)など]、キサントゲン酸塩系促進剤[イソプロピルキサントゲン酸亜鉛(ZIX)など]などが挙げられる。これらの架橋促進剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの架橋促進剤のうち、TMTD、DPTT、CBS、MBTSなどが汎用される。
【0074】
なかでも、チウラム系促進剤とスルフェンアミド系促進剤とチアゾール系促進剤の組み合わせが好ましい。これらの組み合わせにおいて、チウラム系促進剤の割合は、架橋促進剤(F)中5~40質量%(特に10~30質量%)であってもよい。スルフェンアミド系促進剤の割合は、架橋促進剤(F)中20~60質量%(特に30~50質量%)であってもよい。チアゾ-ル系促進剤は、架橋促進剤(F)中20~60質量%(特に30~50質量%)であってもよい。
【0075】
架橋促進剤(F)の割合は、ポリマー成分(A)100質量部に対して、例えば0.2~10質量部、好ましくは0.5~7質量部、さらに好ましくは1~5質量部、より好ましくは1.5~4質量部、最も好ましくは2~3質量部である。架橋促進剤(F)の割合が少なすぎると、伝動ベルトの耐側圧性が低下する虞があり、多すぎると、耐スコーチ性、圧延性および耐亀裂性が低下する虞がある。
【0076】
(G)クレー
本発明のゴム組成物は、圧延性を向上させるために、無機充填剤(フィラー)としてクレー(G)をさらに含んでいてもよい。
【0077】
クレー(G)のpHは5.5以上(特に6以上)であり、例えば6~10(例えば6~7.5)、好ましくは6~8(例えば6.2~7.2)、さらに好ましくは6~7.3(例えば6~7)、より好ましくは6~6.7、最も好ましくは6~6.5である。クレー(G)のpHが低いとスコーチが生じやすくなり、圧延性も低下する。
【0078】
本願において、クレー(G)のpHは、慣用の方法で測定でき、例えば、JIS K 5101-17-2(2004)に準拠した方法で測定でき、詳細には、後述の実施例に記載の方法で測定できる。
【0079】
クレー(G)としては、ケイ酸アルミニウムを含むクレーであればよく、特に限定されないが、カオリンクレー、ろう石クレー、焼成クレーが好ましい。
【0080】
カオリンクレーは、天然の粘土鉱物であるカオリナイトを粉砕することにより得られる含水ケイ酸アルミニウム(Al・2SiO・2HO)である。また、カオリンクレーはシリカとアルミナの二層構造を繰り返し単位とした板状粒子を形成する。さらに、前記粒子の表面には、酸性活性基(OH基)が多数存在し、酸性を示すものが多い。
【0081】
ろう石クレーは、カタルポと称されることもあり、パイロフィライトを粉砕することにより得られる含水ケイ酸アルミニウム(Al・4SiO・HO)である。また、ろう石クレーは、シリカ/アルミナ/シリカの三層構造を繰り返し単位とした板状粒子を形成する。ろう石クレーにおける粒子表面の酸性活性基は、カオリンクレーと比較して少なく、微酸性を示すものが多い。
【0082】
焼成クレーは、カオリンクレーを400~1000℃程度で加熱することにより構造水を除去した無水ケイ酸アルミニウム(Al・2SiO)である。また、焼成クレーは、構造水を失うことにより結晶構造が失われ、酸性活性基も減少していると考えられている。
【0083】
クレー(G)の平均一次粒子径は、例えば0.1~20μm、好ましくは1~10μm、さらに好ましくは1.5~5μm程度である。クレー粒子は、粒子径が小さい程補強性が高い傾向にある。クレー(G)は、補強性の高いクレーをハードクレー、補強性の低いクレーをソフトクレーと称し、区別する場合がある。
【0084】
また、クレー(G)には、表面活性基を利用して表面改質を行った表面改質クレーも含まれる。さらに、クレー(G)は、精製および分級の方法により、湿式(湿式クレー、湿式カオリン)または乾式(乾式クレー、乾式カオリン)とに区別される場合もある。
【0085】
なお、本願において、クレー(G)の平均一次粒子径としては、例えば、レーザー回折法などを用いて測定できる。
【0086】
クレー(G)の形状は、例えば、板状、粒状、棒状、不定形状などが挙げられる。これらのうち、板状(鱗片状)が好ましい。
【0087】
これらのクレーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、スコーチを抑制して圧延性を向上できる点から、ろう石クレーおよび焼成クレーが好ましく、伝動ベルトの耐久性を向上できる点から、焼成クレーが特に好ましい。
【0088】
クレー(G)の割合は、ポリマー成分(A)100質量部に対して、例えば1~100質量部、好ましくは3~80質量部、さらに好ましくは5~50質量部、より好ましくは10~30質量部、最も好ましくは15~25質量部である。クレー(G)の割合が少なすぎると、圧延性が低下する虞があり、逆に多すぎると、伝動ベルトの耐亀裂性が低下する虞がある。
【0089】
クレー(G)の割合は、カーボンブラック(B)100質量部に対して100質量部以下(例えば1~100質量部)であってもよく、例えば5~80質量部、好ましくは10~70質量部、さらに好ましくは15~65質量部、より好ましくは20~60質量部、最も好ましくは25~40質量部である。カーボンブラック(B)に対するクレー(G)の割合が少なすぎると、伝動ベルトの耐亀裂性が低下する虞があり、逆に多すぎても、伝動ベルトの耐亀裂性が低下する虞がある。
【0090】
(H)無機充填剤
本発明のゴム組成物は、カーボンブラックおよびクレー以外の無機充填剤(他の無機充填剤またはフィラー)(H)をさらに含んでいてもよい。フィラー(H)としては、例えば、カーボンブラック以外の炭素質材料(グラファイトなど)、金属化合物または合成セラミックス(酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウムなどの金属酸化物;ケイ酸カルシウムなどの金属ケイ酸塩;炭化ケイ素や炭化タングステンなどの金属炭化物;窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素などの金属窒化物;炭酸マグネシウムや炭酸カルシウムなどの金属炭酸塩;硫酸カルシウムや硫酸バリウムなどの金属硫酸塩など)、クレー以外の鉱物質材料(ゼオライト、ケイソウ土、焼成珪藻土、活性白土、アルミナ、シリカ、タルク、マイカ、セリサイト、ベントナイト、モンモリロナイト、スメクタイトなど)などが挙げられる。酸化亜鉛などの金属酸化物は、架橋助剤として作用させてもよい。これらのフィラーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0091】
これらの無機充填剤(フィラー)のうち、酸化マグネシウムや酸化亜鉛などの金属酸化物が好ましく、酸化亜鉛が特に好ましい。
【0092】
無機充填剤(H)の割合は、ポリマー成分(A)100質量部に対して、例えば1~30質量部、好ましくは2~20質量部、さらに好ましくは3~10質量部、より好ましくは4~8質量部である。
【0093】
(I)老化防止剤
本発明のゴム組成物は、熱老化防止性を向上させるために、老化防止剤(I)をさらに含んでいてもよい。
【0094】
老化防止剤(I)としては、例えば、ベンズイミダゾール金属塩系老化防止剤、ジアリールアミン系老化防止剤、p-フェニレンジアミン系老化防止剤などが挙げられる。これらの老化防止剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、ジアリールアミン系老化防止剤が好ましい。ジアリールアミン系老化防止剤としては、例えば、4,4’-ジオクチルジフェニルアミン(ODPA)などの4,4’-ジ(C4-18アルキルC6-10アリール)アミン;4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(DCD)などのビス(アラルキル-アリール)アミン;スチレン化ジフェニルアミン(SDPA)などが挙げられる。
【0095】
老化防止剤(I)の割合は、ポリマー成分(A)100質量部に対して、例えば0.01~30質量部、好ましくは0.05~10質量部、さらに好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは0.2~3質量部、最も好ましくは0.3~1質量部である。老化防止剤(I)の割合が少なすぎると、耐熱老化性が低下する虞があり、逆に多すぎると、耐屈曲疲労性が低下する虞がある。
【0096】
(J)軟化剤
本発明のゴム組成物は、軟化剤(加工剤または加工助剤)(J)をさらに含んでいてもよい。軟化剤(J)は、例えば、鉱物油系軟化剤、植物油系軟化剤、合成軟化剤に大別できる。
【0097】
鉱物油系軟化剤としては、例えば、石油系軟化剤[パラフィン系オイル、脂環族系オイル(ナフテン系オイル)、芳香族系オイルなど]、コールタール系軟化剤(コールタール、クマロン-インデン樹脂など)などが挙げられる。
【0098】
植物油系軟化剤としては、例えば、脂肪油系軟化剤(ステアリン酸などの脂肪酸またはその金属塩、脂肪酸エステル、脂肪酸アマイド、脂肪油など)などが挙げられる。
【0099】
合成軟化剤としては、例えば、合成樹脂軟化剤(フェノール・アルデヒド樹脂、液状エチレン-α-オレフィン共重合体などの炭化水素系合成油、液状ポリブテン、液状ポリブタジエン、液状イソプレンゴムなどの液状ゴムなど)、合成可塑剤(ジオクチルフタレートなどのフタル酸ジエステル、ポリエステル系可塑剤、ジオクチルセバケートなどのC6-18アルカン-ジカルボン酸エステルなど)などが挙げられる。
【0100】
これらの軟化剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、パラフィン系オイルなどの石油系軟化剤、ステアリン酸などの植物油系軟化剤が好ましく、石油系軟化剤と植物油系軟化剤との組み合わせが特に好ましい。その場合、植物油系軟化剤の割合は、石油系軟化剤100質量部に対して、例えば1~100質量部、好ましくは5~50質量部、さらに好ましくは10~40質量部である。
【0101】
軟化剤(J)の割合は、ポリマー成分(A)100質量部に対して、例えば0.1~50質量部、好ましくは0.5~40質量部、さらに好ましくは1~30質量部、より好ましくは2~10質量部、最も好ましくは3~5質量部である。軟化剤(J)の割合が多すぎると、架橋ゴムのモジュラスが低下する虞があり、逆に少なすぎると、耐屈曲疲労性が低下する虞がある。
【0102】
(K)他の成分
本発明のゴム組成物は、他の成分(K)をさらに含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、酸化防止剤、屈曲き裂防止剤、オゾン劣化防止剤、着色剤、粘着付与剤、滑剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、熱安定剤など)、難燃剤、帯電防止剤などが挙げられる。これら他の成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0103】
他の成分(K)の合計割合は、ポリマー成分(A)100質量部に対して、例えば0.1~100質量部、好ましくは0.2~50質量部、さらに好ましくは0.3~20質量部、より好ましくは0.5~10質量部である。
【0104】
(L)ゴム組成物の架橋物の特性
本発明のゴム組成物の架橋物は、電気抵抗値が小さく、1MΩ以下であってもよく、例えば0.5MΩ以下、好ましくは0.1MΩ以下、さらに好ましくは0.05MΩ以下、より好ましくは0.03MΩ以下、最も好ましくは0.01MΩ以下であり、例えば0.001~0.03MΩ程度であってもよい。電気抵抗値が高すぎると、架橋物が帯電し易くなる。
【0105】
なお、本願において、架橋物の電気抵抗値は、ISO1813(2014)に規定されているラボ法に準拠して測定でき、詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0106】
本発明のゴム組成物の架橋物のゴム硬度Hs(タイプA)は88度以上であってもよく、例えば88~96度、好ましくは90~96度、さらに好ましくは92~96度、より好ましくは93~95度である。ゴム硬度が低すぎると、ベルトの耐摩耗性が低下する虞があり、ゴム硬度が高すぎると、耐亀裂性が低下する虞がある。
【0107】
なお、本願において、架橋物のゴム硬度は、JIS K 6253(2012)(加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム-硬さの求め方-)に規定されているスプリング式デュロメータ硬さ試験に準拠して、タイプAデュロメータを用いて測定された値Hs(タイプA)を示し、単にゴム硬度と記載する場合がある。詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0108】
(M)ゴム組成物の製造方法
本発明のゴム組成物の製造方法は、慣用の方法によって各成分を混合(または混練)することにより調製できるが、均一に混合するためには、ポリマー成分(A)、カーボンブラック(B)、架橋剤(C)および共架橋剤(D)を含む原料(または原料組成物)を混練するのが好ましい。
【0109】
混練は、全ての配合剤を一度に混練してもよいが(1パス練り)、スコーチ(意図せず架橋が進行すること)を防止するために、架橋剤および共架橋剤を除いた成分を混練する親練(A練り)と、親練したゴム組成物に架橋剤および共架橋剤を加えて混練する仕上練(B練り)の2段階で行ってもよい。2段階で混練することで、スコーチを防止しつつ、ゴム組成物中で配合剤を均一に分散させるのが容易になる。混練は、スコーチを防止したり、ゴム組成物の粘度を適切に保つために、加熱もしくは冷却下で行ってもよい。親練の場合、ゴム組成物の温度は130℃以下が好ましく、より好ましくは70~130℃、さらに好ましくは80~120℃、最も好ましくは90~110℃である。仕上練の場合、ゴム組成物の温度は100℃以下が好ましく、より好ましくは50~100℃、さらに好ましくは65~95℃、最も好ましくは70~90℃である。混練におけるゴム組成物の温度が高すぎるとスコーチが発生する虞があり、低すぎると配合剤の分散性が低下する虞がある。
【0110】
混練方法としては、慣用の混練方法、例えば、ミキシングローラ、ニーダ、バンバリーミキサー、押出機(一軸または二軸押出機など)などを用いた方法などが挙げられる。
【0111】
本発明のゴム組成物は、用途に応じた方法で架橋した架橋物として利用される。架橋温度は、例えば120~200℃(特に150~180℃)である。
【0112】
[伝動ベルト]
本発明のゴム組成物の架橋物は、エチレン-α-オレフィンエラストマーを含むポリマー成分で形成される各種の成形体に利用できるが、エチレン-α-オレフィンエラストマーとカーボンブラックとを組み合わせるため、電気伝導性、耐熱性、耐寒性、耐候性、硬度、耐摩耗性、耐亀裂性にも優れるため、伝動ベルトに利用するのが好ましい。
【0113】
本発明の伝動ベルト(動力伝達用ベルト)の種類は、プーリと接触して動力を伝達するベルトであれば特に限定されず、摩擦伝動ベルトであってもよく、かみ合い伝動ベルトであってもよい。
【0114】
摩擦伝動ベルトとしては、例えば、平ベルト、Vベルト(ラップドVベルト、ローエッジVベルト、ローエッジVベルトの内周側にコグが形成されたローエッジコグドVベルト、ローエッジVベルトの内周側および外周側の双方にコグが形成されたローエッジダブルコグドVベルトなど)、Vリブドベルト、樹脂ブロックベルトなどが挙げられる。
【0115】
かみ合い伝動ベルトとしては、例えば、歯付ベルト、両面歯付ベルトなどが挙げられる。
【0116】
これらの伝動ベルトは、前記ゴム組成物の架橋物を含んでいればよいが、ベルト本体(特に圧縮ゴム層および/または伸張ゴム層)が前記ゴム組成物の架橋物で形成されているのが好ましい。
【0117】
前記伝動ベルトのうち、ベルト全体に占めるゴム組成物の質量割合の大きいVベルトへの適用が好ましい。さらに、プーリとの接触面がゴムで形成されていて静電気を逃がし易い点からローエッジVベルトが好ましく、コグ谷亀裂を防止するために耐亀裂性の向上が求められているローエッジコグドVベルトが特に好ましい。
【0118】
本発明のローエッジコグドVベルトは、ベルトの長手方向に延びる心線の少なくとも一部と接する接着ゴム層と、この接着ゴム層の一方の面に形成された伸張ゴム層と、前記接着ゴム層の他方の面に形成され、その内周面にベルトの長手方向に沿って所定の間隔をおいて形成された複数の凸部(コグ部)を有し、かつその側面でプーリに摩擦係合する圧縮ゴム層とを備えていればよい。このようなローエッジコグドVベルトには、圧縮ゴム層にのみ前記コグ部が形成されたローエッジコグドVベルト、圧縮ゴム層に加えて、伸張ゴム層の外周面にも同様のコグ部が形成されたローエッジダブルコグドVベルトが含まれる。
【0119】
本発明の伝動ベルトは、厚みの大きいベルトへの適用が好ましい。厚みの大きい伝動ベルトでは、屈曲による歪みが大きいために亀裂が発生し易く、導電維持性が低下し易いためである。そのため、本発明のゴム組成物を用いると、厚みの大きい伝動ベルトであっても導電維持性を向上できる。
【0120】
本発明の伝動ベルトの厚み(平均厚み)は8mm以上(例えば8~30mm程度)であってもよく、好ましくは9mm以上(例えば9~20mm程度)、さらに好ましくは10mm以上、より好ましくは11mm以上である。
【0121】
本願において、伝動ベルトの厚みは、最大厚みを意味し、例えば、ローエッジコグドVベルトではコグ部の頂部と背部との最短距離を意味する。
【0122】
[伝動ベルトの製造方法]
本発明の伝動ベルトの製造方法は、特に限定されず、ベルトの種類に応じて、慣用の方法を利用できる。
【0123】
例えば、以下にローエッジコグドVベルトの代表的な製造方法について説明する。まず、補強布(下布)と圧縮ゴム層用シート(未架橋ゴムシート)との積層体を、前記補強布を下側にして、前記コグ部(コグ山部1a及びコグ底部1b)に対応する歯部と溝部とが交互に配された平坦なコグ付き成形型に接触させて設置し、温度60~100℃(特に70~80℃)程度でプレス加圧することによりコグ部を型付けしたコグパッド(完全には架橋しておらず、半架橋状態にあるパッド)を作製する。そして、このコグパッドの両端を適所(特にコグ山部の頂部)から垂直に切断して必要な長さを得る。
【0124】
次に、前記コグ部に対応する歯部と溝部とを交互に配した内母型を、円筒状金型の外周に被せ、内母型の歯部と溝部に係合させてコグパッドを巻き付けて両端(特にコグ山部の頂部)で接合し、このコグパッドの外周に第1の接着ゴム層用シート(下接着ゴム:未架橋ゴムシート)を積層した後、芯体を形成する心線(撚りコード)を螺旋状にスピニングし、その外周に第2の接着ゴム層用シート(上接着ゴム:未架橋ゴムシート)、伸張ゴム層用シート(未架橋ゴムシート)を順次に巻き付けて未架橋成形体を作製する。
【0125】
その後、未架橋成形体にジャケットを被せた状態で、公知の架橋装置(加硫缶など)に配置し、温度120~200℃(特に150~180℃)で架橋成形を行い、架橋ベルトスリーブを作製する。そして、カッターなどを用いて、V状に切断加工して無端状のローエッジコグドVベルトを得る。
【0126】
この際、コグパッドを作製することなく、内母型の外周に補強布および圧縮ゴム層用シートを積層してもよい。この方法では、架橋成形の際に補強布および圧縮ゴム層用シートが内母型の溝部に圧入されることにより、コグ部が形成される。
【0127】
補強布を含まないローエッジコグドVベルトでは、圧縮ゴム層用シートと第1の接着ゴム層用シートとを予めプレス加圧した積層体を調製してもよい。
【0128】
なお、伸張ゴム層用シートおよび圧縮ゴム層用シートにおいて、短繊維の配向方向をベルト幅方向に配向させる方法としては、慣用の方法、例えば、所定の間隙を設けた一対のカレンダーロール間にゴムを通してシート状に圧延し、圧延方向に短繊維が配向した圧延シートの両側面を圧延方向と平行方向に切断するとともに、ベルト成形幅(ベルト幅方向の長さ)となるように圧延シートを圧延方向と直角方向に切断し、圧延方向と平行方向に切断した側面同士をジョイントする方法などが挙げられる。例えば、特開2003-14054号公報に記載の方法などを利用できる。このような方法で短繊維を配向させた未架橋シートは、前記方法において、短繊維の配向方向がベルトの幅方向となるように配置して架橋される。
【実施例0129】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、使用材料の詳細を以下に示す。
【0130】
[使用材料]
(ポリマーおよびフィラー)
EPDM:JSR(株)製「EP24」、エチレン含有率54質量%、ジエン(エチリデンノルボルネン)含有率4.5質量%、ムーニー粘度42ML(1+4)125℃
綿短繊維:橋本社製「綿カット糸」、平均繊維長6mm
ポリエステル短繊維:弘宇短繊維社製「PETカット糸」、平均繊維長3mm
パラ系アラミド短繊維:帝人(株)製「トワロン(登録商標)」、平均繊維長3mm
カーボンブラックISAF:東海カーボン(株)製「シースト6」、DBP吸収量114mL/100g、BET比表面積119m/g、ヨウ素吸着量121g/kg
導電性カーボンブラック(アセチレンブラック):デンカ(株)製「デンカブラック」、DBP吸収量210mL/100g、BET比表面積69m/g、ヨウ素吸着量93g/kg
カーボンブラックFEF:キャボット社製「ショウブラックN550」
シリカ:エボニックデグサ社製「ウルトラシルVN3」、BET比表面積175m/g
クレー(焼成クレー):Imerys Performance Minerals社製「PoleStar」、pH6.2
【0131】
(架橋促進剤)
架橋促進剤TMTD(テトラメチルチウラムジスルフィド):大内新興化学工業(株)製「ノクセラーTT」
架橋促進剤CBS(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド):大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」
架橋促進剤MBTS(2,2'-ジベンゾチアゾリルジスルフィド):大内新興化学工業(株)製「ノクセラーDM」
【0132】
(架橋剤および共架橋剤)
共架橋剤MPBM(N,N’-m-フェニレンジマレイミド):大内新興化学工業(株)製「バルノックPM」
硫黄(粉末硫黄):美源化学社製「MIDAS」
有機過酸化物:1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン
【0133】
(他の成分)
パラフィン系オイル:出光興産(株)製「ダイアナプロセスオイルPW90」
老化防止剤DCD(4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン):大内新興化学工業(株)製「ノクラックCD」
老化防止剤ODPA(オクチルジフェニルアミン):精工化学(株)製「ノンフレックスOD-3」
酸化亜鉛:堺化学工業(株)製「酸化亜鉛2種」
ステアリン酸:日油(株)製「ステアリン酸つばき」
接着性改善剤A(レゾルシン・ホルムアルデヒド共縮合物):INDSPEC Chemical Corporation製「Penacolite Resin(B-18-S)」
接着性改善剤B(ヘキサメトキシメチルメラミン):SINGH PLASTICISER & RESINS社製「POWERPLAST PP-1890S」
【0134】
[心線(処理コード)]
フィラメント数384、1220dtexのPET繊維束(原糸)を複数本引き揃えて撚り係数3.0でS方向に撚りを加えて下撚り糸を作製し、作製した下撚り糸を複数本引き揃えて撚り係数3.0でZ方向に撚りを加えて作製した撚りコード(諸撚り糸)に接着処理を施した心線。心線の構成、総繊度、心線径を表1に示す。構成の1文字目の数字は下撚り糸に含まれる原糸の本数(原糸の引き揃え本数)を表し、2文字目の数字は諸撚り糸に含まれる下撚り糸の本数(下撚り糸の引き揃え本数)を表す。なお、撚り係数TFは、以下の式で計算される値である。
【0135】
TF=TN×D0.5/960
[式中、TNは、1m当たりの撚り数を示し、Dは、糸の繊度(tex)を示す]
【0136】
【表1】
【0137】
[外周面を被覆する補強布(処理帆布)]
ベルトの外周面を被覆するための処理帆布には、未処理の綿織布[綿糸20s/2(20番手2本撚り)を経糸密度70本/5cm、緯糸密度70本/5cmで平織した目付け約180g/mの綿帆布]を、カーボンブラック水分散液(固形分25質量%)およびRFL液(レゾルシン、ホルマリン、ラテックス混合液)を含む表2に示す処理液(黒染め液)に10秒間浸漬し、テンターにより120°の広角度処理を行い、150℃で4分間熱処理した後、一方の面に接着ゴム(後述する表3に示す組成物)をコーティングした処理帆布(目付け約820g/m、厚み約0.8mm)を用いた。
【0138】
【表2】
【0139】
実施例1~12、比較例1~2および参考例1~2
[ベルトの作製]
歯部と溝部とを交互に配したコグ付き金型の外周に、表6および7に示す組成を有する未架橋の圧縮ゴム層用シート、および表3に示す組成を有する未架橋の第1の接着ゴム層用シートを積層した積層体を、圧縮ゴム層用シートを金型側にした状態で巻き付けた。そして、前記未架橋の第1の接着ゴム層用シートの外周に心線を螺旋状に巻き付け、さらにその外周に表3に示す組成を有する未架橋の第2の接着ゴム層用シートと表6および7に示す組成を有する未架橋の伸張ゴム層用シートとを積層した積層体を、前記未架橋の第2の接着ゴム層用シートを心線側にした状態で巻き付けた。さらに伸張ゴム層用シートの外周に、接着ゴムをコーティングした面を内周側に向けて処理帆布を巻きつけた積層体を作製した。積層体の外周に可撓性ジャケットを被せた後、金型を加硫缶内に設置し、可撓性ジャケットの周囲および金型の内部に蒸気を注入することにより40分間加圧、加温(約170℃)して、ベルトスリーブを作製した。作製したベルトスリーブをカッターでV字状に切断して、ベルトの内周面にコグを有するローエッジコグドVベルトを作製した。作製したベルトのサイズを表4に示す。これらのベルトは、ISO4184(1992)に規定されているSPZ形、SPA形などの細幅Vベルトに相当するベルトであり、Xはベルトの内周面にコグを有することを表している。
【0140】
【表3】
【0141】
【表4】
【0142】
[硬度]
ローエッジコグドVベルトの側面の圧縮ゴム層に、JIS K 6253(2012)(加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム-硬さの求め方-)に規定されているタイプAデュロメータを押し当て、直ちに値を読み取った。
【0143】
[耐亀裂性の評価(クラック発生までの時間)]
図1に示すように、駆動(Dr.)プーリ、従動(Dn.)プーリ、テンション(Ten.)プーリを備えた3軸走行試験機を用いて、ローエッジコグドVベルトの耐亀裂性を評価した。各プーリの直径、初張力、および従動プーリ負荷はベルト形に合わせて変更し、表5に示す通りとした。駆動プーリの回転数は4900rpm、雰囲気温度85℃でベルトを走行させ、深さ1.0mm以上のクラックが発生するまでの時間を測定した。クラックが発生するまでの時間が短い程耐亀裂性に優れると判断でき、170時間以上を合格とした。SPBXでの評価結果を表6および7に示す。
【0144】
【表5】
【0145】
[耐摩耗性の評価(摩耗率)]
SPBX形のベルトについて、図2に示すように、直径180mmの駆動(Dr.)プーリと、直径180mmの従動(Dn.)プーリとからなる2軸走行試験機を用いて、耐摩耗性を評価した。詳しくは、各プーリにローエッジコグドVベルトを掛架し、軸荷重を1800N、駆動プーリの回転数を1140rpm、従動プーリの負荷を70N・mとし、23℃の雰囲気温度にてベルトを100時間走行させた。走行前後のベルトの質量を測定し、質量変化率(摩耗率)を評価した。摩耗率が小さい程耐摩耗性に優れると判断でき、0.6%以下を合格とした。評価結果を表6および7に示す。
【0146】
摩耗率(%)=[(W-W)/W]×100
[式中、Wは、走行前のベルト質量(g)を示し、Wは、走行後のベルト質量(g)を示す]
【0147】
[電気抵抗値の測定]
ISO1813(2014)に規定されているラボ法に準拠して測定した。より詳細には、図3に概略断面図(ベルト長さ方向に垂直な断面図)を示すように、絶縁性の樹脂板1上に一対の真鍮製の電極2(接触面の長さ25mm)を100mmの間隔を空けて設置した装置の電極上に、走行前(未使用)のローエッジコグドVベルト3を設置し、ベルトの上からベルト幅(上幅)1mmあたり1Nの荷重を作用させた。図4に概略平面図を示すように、電極2に絶縁抵抗計4の端子を取り付けた後500Vの電圧を印加し、電圧の印加から5秒後の電気抵抗値を測定した。測定は室温23℃、相対湿度50%で実施した。ベルトを電極上に設置する前には、フラー土(アルジタル製「グリーンクレイパウダー アクティブ」)によるベルトの清掃、および、ベルトと電極の間に導電性塗料(プラスコート(株)製「ポリカーム PCS-1201S」)の塗布を行った。電気抵抗値の測定はベルト長さ方向を約5等分した5か所で実施し、それらの平均値を採用した。電気抵抗値が小さい程ベルトの帯電を防止する効果に優れると判断できる。結果を表6および7に示す。
【0148】
[導電維持性(電気抵抗値の変化率)]
前記の走行前(未使用)のベルトの電気抵抗値の測定と同じ方法で走行後のローエッジコグドVベルト(前記耐亀裂性の評価を行った後のベルト)の電気抵抗値を測定し、下記式により電気抵抗値の変化率を計算した。電気抵抗値の変化率が小さい程、導電維持性に優れると判断でき、200%以下を合格とした。結果を表6および7に示す。
【0149】
電気抵抗値の変化率(%)=[(R-R)/R]×100
[式中、Rは、走行前(未使用)のベルトの電気抵抗値(MΩ)を示し、Rは、走行後(耐亀裂性の評価を行った後)のベルトの電気抵抗値(MΩ)を示す]
【0150】
【表6】
【0151】
【表7】
【0152】
表6および7はSPBX形のベルトの評価結果である。実施例1~5は電気抵抗値の変化率が小さく、耐摩耗性および耐亀裂性にも優れていた。実施例4は短繊維が天然短繊維を含まない例であるが、実施例1と比較して耐亀裂性が低下した。実施例5は短繊維が合成短繊維を含まない例であるが、実施例1と比較して耐摩耗性が低下した。
【0153】
一方、硫黄のかわりに有機過酸化物で架橋した比較例1、および共架橋剤を含まない比較例2は耐亀裂性が低く、電気抵抗値の変化率が大きかった。
【0154】
カーボンブラックの量が少ない参考例1は耐摩耗性が低く、走行前の電気抵抗値および電気抵抗値の変化率が大きかった。カーボンブラックの量が多い参考例2は耐亀裂性が低かった。
【0155】
実施例6および7は、実施例1から短繊維をアラミド短繊維に変更した例であるが、実施例1と比較して耐亀裂性が低下した。
【0156】
実施例8は、実施例1から共架橋剤を減量した例であるが、実施例1と比較して耐摩耗性が低下した。
【0157】
実施例9および10は、実施例1からカーボンブラックの一部を導電性カーボンブラックに変更した例であるが、実施例1と比較して耐摩耗性および耐亀裂性が低下した。
【0158】
実施例11および12は、実施例1からカーボンブラックを減量してクレーを増量した例であるが、実施例1と比較して耐亀裂性が低下した。
【0159】
次に、SPZX、SPAX、SPCX形のベルトについて電気抵抗値の変化率を測定した結果を表8に示す。ゴムの組成は表6の実施例1と同じとした。
【0160】
【表8】
【0161】
表8の結果から明らかなように、いずれのベルトも電気抵抗値の変化率は小さく、優れた導電維持性を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明のゴム組成物は、各種の成形体に利用でき、例えば、タイヤ、ホース、伝動ベルト、搬送ベルトなどに利用できるが、伝動ベルトに利用するのが特に好ましい。伝動ベルトは、例えば、平ベルト、Vベルト(ラップドVベルト、ローエッジVベルト、ローエッジコグドVベルト、ローエッジダブルコグドVベルトなど)、Vリブドベルト、樹脂ブロックベルトなどの摩擦伝動ベルト;歯付ベルト、両面歯付ベルトなどのかみ合い伝動ベルトなどに利用できる。特に、伝動ベルトの圧縮ゴム層として利用すると、耐摩耗性および耐亀裂性に優れるため、高馬力化が進行している自動二輪車、四輪バギー、スノーモービル、農業用機械などで用いられる変速ベルト(ローエッジコグドVベルト、ローエッジダブルコグドVベルトなど)の圧縮ゴム層に有用である。
図1
図2
図3
図4