(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155763
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】回路構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01R 12/65 20110101AFI20241024BHJP
【FI】
H01R12/65
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024061761
(22)【出願日】2024-04-05
(62)【分割の表示】P 2023544193の分割
【原出願日】2023-04-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】514015019
【氏名又は名称】エレファンテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】312003595
【氏名又は名称】タカハタプレシジョン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162341
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬崎 幸典
(72)【発明者】
【氏名】中島 崇
(72)【発明者】
【氏名】北山 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】横山 英明
(72)【発明者】
【氏名】藤巻 清
【テーマコード(参考)】
5E223
【Fターム(参考)】
5E223AB45
5E223BA28
5E223BB01
5E223CB24
5E223CD02
5E223DB01
(57)【要約】
【課題】変形可能な回路基板の金属層と端子ピンとの電気的接続を安定化させる。
【解決手段】変形可能な絶縁基材の一面に金属層が形成された回路基板と、熱硬化性樹脂材料からなり絶縁基材の一面とは反対側の他面に0.5mm以上の厚みで設けられインサート成形による樹脂圧力による回路基板の撓みを抑制する補強板と、金属層と反対側から補強板及び絶縁基材を貫通して同径で形成された孔部に挿入され金属層の一端に設けられた接続パッドに接合材を介してアンカー部が接合された端子ピンと、孔部の内壁よりも端子ピンへの接着力が高く、孔部内で固化して孔部よりも大きく補強板の一面を覆う鍔形状を形成して樹脂圧力による端子ピンの動きを拘束する固定部材と、インサート成形により形成され金属層及び鍔形状を覆うとともに補強板から外部に突出する端子ピンを固定する樹脂層と、を備えた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変形可能な絶縁基材の一面に金属層が形成された回路基板と、
熱硬化性樹脂材料からなり前記絶縁基材の前記一面とは反対側の他面に0.5mm以上の厚みで設けられインサート成形による樹脂圧力による前記回路基板の撓みを抑制する補強板と、
前記金属層と反対側から前記補強板及び前記絶縁基材を貫通して同径で形成された孔部に挿入され前記金属層の一端に設けられた接続パッドに接合材を介してアンカー部が接合された端子ピンと、
前記孔部の内壁よりも前記端子ピンへの接着力が高く、前記孔部内で固化して前記孔部よりも大きく前記補強板の一面を覆う鍔形状を形成して前記樹脂圧力による前記端子ピンの動きを拘束する固定部材と、
インサート成形により形成され前記金属層及び前記鍔形状を覆うとともに前記補強板から外部に突出する前記端子ピンを固定する樹脂層と、を備えた、
ことを特徴とする回路構造体。
【請求項2】
前記孔部は、前記端子ピンよりも大きく前記接合材のフィレットよりも小さい、
ことを特徴とする請求項1に記載の回路構造体。
【請求項3】
前記固定部材は、熱硬化性樹脂材料、二液性硬化性樹脂材料、光硬化性樹脂材料及び湿気硬化性樹脂材料のいずれか又はその組み合わせである硬化性樹脂材料を含み、前記孔部と前記端子ピンの隙間に充填されて固化することで前記孔部内で前記端子ピンを拘束する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の回路構造体。
【請求項4】
変形可能な絶縁基材の一面に金属層が形成された回路基板を準備する工程と、
熱硬化性樹脂材料からなり前記絶縁基材の前記一面とは反対側の他面に0.5mm以上の厚みでインサート成形による樹脂圧力による前記回路基板の撓みを抑制する補強板を形成する工程と、
前記補強板及び前記絶縁基材を貫通して孔部を形成する工程と、
前記孔部に端子ピンを挿入して前記端子ピンと前記金属層の一端に設けられた接続パッドを電気的に接合する工程と、
前記孔部内で、前記孔部と前記端子ピンとの隙間を埋めるように、前記孔部の内壁と前記端子ピンとの間に前記孔部の内壁よりも前記端子ピンへの接着力が高い熱硬化性樹脂材料、二液性硬化性樹脂材料、光硬化性樹脂材料及び湿気硬化性樹脂材料のいずれか又はその組み合わせである樹脂材料を充填して固化させることで前記孔部よりも大きく前記補強板の一面を覆う鍔形状を形成して前記端子ピンを拘束する工程と、
前記金属層及び前記鍔形状をインサート成形により樹脂で覆うとともに前記補強板から外部に突出する前記端子ピンを固定する工程と、を含む、
ことを特徴とする回路構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
厚さ方向に貫通する孔部が複数形成された絶縁性プレートと、該絶縁性プレート上に形成されると共に、該絶縁性プレートの少なくとも1つの孔部に対応する位置に該孔部より面積が小さい開口部が設けられた導電箔から成る回路パターンと、を備えた回路基板が、1枚、又は、該絶縁性プレートの複数の孔部を互いに対応させるように複数枚重ねて設けられ、上記回路基板の上記絶縁性プレートの複数の孔部、及び、該複数の孔部の少なくとも1つに対応する位置に設けられた上記導電箔の開口部に差し込まれて、該絶縁性プレートの孔部の内壁方向へ該導電箔を折り曲げると共に、折り曲げられた該導電箔に接触することにより、上記回路基板と電気的に接続し、該回路基板の回路パターンの所定の領域同士をそれぞれ導通させるスルーピンを備えた回路構造体が知られている(特許文献1)。
【0003】
絶縁基板の一方の面に金属層が形成された絶縁回路基板と、金属層に接合材を介して接合された筒状の接続部材と、接続部材に挿入された端子ピンと、接続部材の外周に配置された筒状の補強部材と、を備え、補強部材は、接続部材よりも硬い素材で形成される半導体装置も知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-27957号公報
【特許文献2】特開2020-47377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、変形可能な回路基板の金属層と端子ピンとの電気的接続を安定化させる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の回路構造体は、
変形可能な絶縁基材の一面に金属層が形成された回路基板と、
熱硬化性樹脂材料からなり前記絶縁基材の前記一面とは反対側の他面に0.5mm以上の厚みで設けられインサート成形による樹脂圧力による前記回路基板の撓みを抑制する補強板と、
前記金属層と反対側から前記補強板及び前記絶縁基材を貫通して同径で形成された孔部に挿入され前記金属層の一端に設けられた接続パッドに接合材を介してアンカー部が接合された端子ピンと、
前記孔部の内壁よりも前記端子ピンへの接着力が高く、前記孔部内で固化して前記孔部よりも大きく前記補強板の一面を覆う鍔形状を形成して前記樹脂圧力による前記端子ピンの動きを拘束する固定部材と、
インサート成形により形成され前記金属層及び前記鍔形状を覆うとともに前記補強板から外部に突出する前記端子ピンを固定する樹脂層と、を備えた、
ことを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の回路構造体において、
前記孔部は、前記端子ピンよりも大きく前記接合材のフィレットよりも小さい、
ことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の回路構造体において、
前記固定部材は、熱硬化性樹脂材料、二液性硬化性樹脂材料、光硬化性樹脂材料及び湿気硬化性樹脂材料のいずれか又はその組み合わせである硬化性樹脂材料を含み、前記孔部と前記端子ピンの隙間に充填されて固化することで前記孔部内で前記端子ピンを拘束する、
ことを特徴とする。
【0009】
前記課題を解決するために、請求項4に記載の回路構造体の製造方法は、
変形可能な絶縁基材の一面に金属層が形成された回路基板を準備する工程と、
熱硬化性樹脂材料からなり前記絶縁基材の前記一面とは反対側の他面に0.5mm以上の厚みでインサート成形による樹脂圧力による前記回路基板の撓みを抑制する補強板を形成する工程と、
前記補強板及び前記絶縁基材を貫通して孔部を形成する工程と、
前記孔部に端子ピンを挿入して前記端子ピンと前記金属層の一端に設けられた接続パッドを電気的に接合する工程と、
前記孔部内で、前記孔部と前記端子ピンとの隙間を埋めるように、前記孔部の内壁と前記端子ピンとの間に前記孔部の内壁よりも前記端子ピンへの接着力が高い熱硬化性樹脂材料、二液性硬化性樹脂材料、光硬化性樹脂材料及び湿気硬化性樹脂材料のいずれか又はその組み合わせである樹脂材料を充填して固化させることで前記孔部よりも大きく前記補強板の一面を覆う鍔形状を形成して前記端子ピンを拘束する工程と、
前記金属層及び前記鍔形状をインサート成形により樹脂で覆うとともに前記補強板から外部に突出する前記端子ピンを固定する工程と、を含む、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、補強板の材料によらず孔部内で端子ピンの動きを拘束して変形可能な回路基板の金属層と端子ピンとの電気的接続を安定化させることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、孔部内で固定部材を保持することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、孔部と端子ピンとの隙間に固定部材を容易に充填して孔部内で端子ピンの動きを拘束することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、孔部と端子ピンとの隙間に固定部材を容易に充填して孔部内で端子ピンの動きを拘束して変形可能な回路基板の金属層と端子ピンとの電気的接続を安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1Aは本実施形態に係る回路構造体の一例を示す平面模式図、
図1Bは断面模式図である。
【
図2】
図2Aは本実施形態に係る回路基板を示す平面模式図、
図2Bは回路基板に設けられた補強板を示す断面模式図である。
【
図4】固定部材による端子ピンの固定を説明する図である。
【
図5】変形例に係る固定部材による端子ピンの固定を説明する図である
【
図6】
図6Aは溶融樹脂の樹脂圧力による回路基板の撓みを説明する模式図、
図6Bは溶融樹脂の樹脂圧力による端子ピンの傾きを説明する模式図である。
【
図7】回路構造体の製造方法の概略の手順の一例を示すフローチャート図である。
【
図8】回路構造体の製造過程を説明するための回路構造体の部分断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に図面を参照しながら、本発明の実施形態の具体例を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
尚、以下の図面を使用した説明において、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【0016】
(1)回路構造体の全体構成
図1Aは本実施形態に係る回路構造体1の一例を示す平面模式図、
図1Bは断面模式図、
図2Aは本実施形態に係る回路基板を示す平面模式図、
図2Bは回路基板に設けられた補強板を示す断面模式図、
図3は端子ピンの傾きを説明する図である。
以下、図面を参照しながら、本実施形態に係る回路構造体1の構成について説明する。
【0017】
図1Aにおいて、実装部品P及び樹脂層9は破線で示すとともに、接合材6は不図示としている。
回路構造体1は、
図1に示すように、絶縁基材2の一面2aに金属層3が形成された回路基板4(
図2A 参照)と、絶縁基材2の一面2aとは反対側の他面2bに設けられ回路基板4の曲げ変形を抑制する補強板5と、金属層3と反対側から補強板5及び絶縁基材2を貫通して形成された孔部11に挿入され金属層3に接合材6の一例としてのはんだを介して接合された端子ピン7と、孔部11内で端子ピン7を固定する固定部材8と、回路基板4及び補強板5の少なくとも一部を覆う樹脂層9と、を備えて構成されている。
回路構造体1においては、固定部材8が、孔部11内で端子ピン7の動きを拘束することで、変形可能な回路基板4の金属層3と端子ピン7との電気的接続を安定化させている。
【0018】
(絶縁基材)
本実施形態における絶縁基材2は、合成樹脂材料からなり変形可能な絶縁性のフィルム状又は板状の基材である。ここで、「変形可能な基材」は、金属層3を配置後に変形できる、すなわち、熱成形、真空成形及び圧空成形等によって実質的に平坦な2次元形状から実質的に立体的な3次元形状に変形することができる基材を意味する。
【0019】
絶縁基材2としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、ナイロン6-10、ナイロン46などのポリアミド(PA)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、アクリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)など熱可塑性樹脂材料からなる絶縁性フィルム、フェノール、エポキシ、ポリイミド(PI)、不飽和ポリエステル、ポリウレタン、シリコーン、オキセタンなど熱硬化性樹脂材料からなる絶縁性フィルム、またはガラスエポキシ(FR-4)、ガラスコンポジット(CEM3)などの絶縁性の板が挙げられる。
【0020】
絶縁基材2の厚みは、特に限定するものではないが、5μm~3mmが好ましく、12μm~1mmがより好ましく、50μm~200μmが最も好ましい。絶縁基材2の厚みが薄すぎる場合、強度が不十分になるとともに、金属層3のめっき工程時に絶縁基材2の歪みが大きくなる虞がある。なお、この厚みは絶縁基材2がフィルム状の基材である場合の条件であり、本発明が適用される絶縁基材2はフィルム状の基材に限定されない。
【0021】
絶縁基材2の表面には、金属ナノ粒子を含む導電性インクを均一に塗るために、表面処理を施すことが好ましい。表面処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、溶剤処理、プライマー処理を用いることができる。
【0022】
また、絶縁基材2には、孔部11の一部となる孔21(
図2B 参照)が形成されている。孔21は、厚み方向に貫通するように形成され、後述する端子ピン7を挿通して絶縁基材2の一面2aに配置された金属層3の一端に形成された接続パッド3Aに端子ピン7が電気的に接合される。
【0023】
(金属層)
絶縁基材2の一面2aに金属層3を配置する場合、さきに、金属めっき成長のきっかけとなる金属ナノ粒子等の触媒からなる下地層(不図示)を所定のパターン状に形成する。下地層は、絶縁基材2上に金属ナノ粒子等の触媒インクを塗布したあと、乾燥および焼成を行うことにより形成する。
【0024】
下地層の厚み(μm)は、0.1~20μmが好ましく、0.2~5μmがさらに好ましく、0.5~2μmが最も好ましい。下地層が薄すぎると、下地層の強度が低下するおそれがある。また、下地層が厚すぎると、金属ナノ粒子は通常の金属よりも高価であるため、製造コストが増大する虞がある。
【0025】
触媒の材料としては、金、銀、銅、パラジウム、ニッケルなどが用いられ、導電性の観点から金、銀、銅が好ましく、金、銀に比べて安価な銅が最も好ましい。
【0026】
触媒の粒子径(nm)は1~500nmが好ましく、10~100nmがより好ましい。粒子径が小さすぎる場合、粒子の反応性が高くなりインクの保存性・安定性に悪影響を与える虞がある。粒子径が大きすぎる場合、薄膜の均一形成が困難になるとともに、インクの粒子の沈殿が起こりやすくなる虞がある。
【0027】
金属層3は、下地層の上に電解めっきまたは無電解めっきにより形成される。めっき金属としては、銅、ニッケル、錫、銀、金などを用いることができるが、伸長性、導電性および価格の観点から銅を用いることが最も好ましい。
【0028】
めっき層の厚さは、0.03~100μmが好ましく、1~35μmがより好ましく、3~18μmが最も好ましい。めっき層が薄すぎると、機械的強度が不足するとともに、導電性が実用上十分に得られない虞がある。めっき層が厚すぎると、めっきに必要な時間が長くなり、製造コストが増大する虞がある。
【0029】
金属層3には、一端に複数の接続パッド3Aが設けられている。接続パッド3Aには、孔部11と連通する孔3Aa(
図2B 参照)が形成され、回路構造体1の外部に設けられた外部装置と電気的に接続するための複数の端子ピン7が接合材6で電気的に接合される。
【0030】
(実装部品)
金属層3には、接続パッド3B(
図2A 参照)を介して、複数の実装部品Pが取り付けられてもよい。実装部品Pとしては、制御回路、歪み、抵抗、静電容量、TIRなどの接触感知、および光検出部品、圧電アクチュエータまたは振動モータなどの触知部品または振動部品、LEDなどの発光部品、マイクおよびスピーカーなどの発音または受音、メモリチップ、プログラマブルロジックチップおよびCPUなどのデバイス操作部品、デジタル信号プロセッサ(DSP)、ALSデバイス、PSデバイス、処理デバイス、MEMS等が挙げられる。
【0031】
(補強板)
絶縁基材2の一面2aとは反対側の他面2bには、回路基板4の曲げ変形を抑制する補強板5が設けられている。
図2に示すように、補強板5は、絶縁基材2に形成された孔21に合わせて形成された貫通孔51を有し、絶縁基材2の他面2bに密着するように、接着により固定される。接着の方法としては、回路基板4を樹脂層9で覆った場合に、溶融樹脂の樹脂圧により補強板5がずれないように、接着剤で固定する、両面テープで張り合わせる等が挙げられる。尚、貫通孔51は、後述するように、補強板5を回路基板4と接着固定した状態で、孔部11として補強板5及び絶縁基材2の厚み方向に貫通する貫通孔を形成することで形成される。
補強板5の材料は特に限定されないが、強度の視点からガラスエポキシ(FR-4)等の熱硬化性樹脂材料で形成されているのが好ましい。
【0032】
貫通孔51は、絶縁基材2に形成された孔21と連通して、端子ピン7よりも大きく、端子ピン7を接続パッド3Aに電気的に接合する接合材6のフィレット6aよりも小さく形成されている。これにより、貫通孔51に挿通された端子ピン7と貫通孔51の内壁51aとの間に固定部材8を充填して固化させることで貫通孔51内で端子ピン7の動きを拘束することができる。
【0033】
図3に模式的に示すように、端子ピン7が貫通孔51に対して片方に偏って位置している場合、補強板5の板厚と貫通孔51の穴径によって端子ピン7が樹脂層9をインサート成形する際の溶融樹脂の樹脂圧力を受けて傾く角度が変わる。本実施形態においては、補強板5の板厚は、少なくとも0.5mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましい。
【0034】
(固定部材)
図4は固定部材8による端子ピン7の固定を説明する図である。
固定部材8は、
図4に示すように、貫通孔51と端子ピン7との隙間を埋めるように、貫通孔51の内壁51aと端子ピン7との間に埋め込まれている。
このような、固定部材8の材料としては、熱硬化性樹脂材料、二液性硬化性樹脂材料、光硬化性樹脂材料及び湿気硬化性樹脂材料のいずれか又はその組み合わせである硬化性樹脂材料が挙げられる。具体的には、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、オキセタン樹脂など、様々な樹脂等を用いることができる。これらは単独もしくは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
これら硬化性樹脂材料の中で、シアノアクリレートを含む湿気硬化性樹脂材料は、硬化前のモノマーの状態では粘度が低く貫通孔51の内壁51aと端子ピン7との間に奥部まで充填されやすく、充填後は短時間で固化して貫通孔51内で端子ピン7を固定する。
【0036】
「変形例1」
図5Aは変形例1に係る固定部材8Aによる端子ピン7の固定を示す図である。
固定部材8Aは、貫通孔51の内壁51aよりも端子ピン7への接着力が高く、固化して貫通孔51と端子ピン7との間に貫通孔51よりも大きい鍔形状81を形成する。
これにより、
図5Aに模式的に示すように、貫通孔51の入り口において貫通孔51よりも大きい鍔形状81を形成して、補強板5の材料が、例えばフッ素系樹脂の難接着性材料であっても、端子ピン7の動きを拘束することができる。
【0037】
「変形例2」
図5Bは変形例2に係る固定部材8Bによる端子ピン7の固定を示す図である。
固定部材8Bは、
図5に示すように、貫通孔51の内壁51aよりも端子ピン7への接着力が高く、固化して貫通孔51と端子ピン7との間に貫通孔51よりも大きいフィレット形状82を形成する。このような、固定部材8Bの材料としては、特にエポキシ樹脂が好適である。
これにより、
図5Bに模式的に示すように、貫通孔51の入り口において貫通孔51よりも大きいフィレット形状82を形成して、端子ピン7の動きを拘束することができる。
【0038】
(樹脂層)
図6Aは溶融樹脂の樹脂圧力による回路基板4の撓みを説明する模式図、
図6Bは溶融樹脂の樹脂圧力による端子ピン7の傾きを説明する模式図である。
樹脂層9は、回路基板4及び補強板5の少なくとも一部を覆うように形成されている。樹脂層9は、後述するように、金属層3の接続パッド3Aに端子ピン7が接合された回路基板4を射出成形用金型Kに位置決めしてセットした状態(
図8E 参照)で溶融樹脂をインサート成形することで形成される。
【0039】
このとき、射出される溶融樹脂により、回路基板4には、
図6Aに模式的に示すように、回路基板4を撓ませるような樹脂圧力が作用し、また、端子ピン7には、
図6Bに示すように、端子ピン7を傾かせるような樹脂圧力が作用する。そのため、接続パッド3Aと端子ピン7との接合部が変形して、接合材6のフィレット6aが接続パッド3Aとともに金属層3から浮きあがり、電気的接続が不安定になる虞がある。
【0040】
本実施形態によれば、端子ピン7が挿通される補強板5の貫通孔51と端子ピン7との隙間を埋めるように、貫通孔51の内壁51aと端子ピン7との間に固定部材8が埋め込まれ、貫通孔51内で端子ピン7を固定している。これにより、樹脂層9をインサート成形する際に、端子ピン7の動きを拘束して電気的接続を安定化させている。
【0041】
樹脂層9は、射出成形可能な熱可塑性樹脂材料からなる熱可塑性樹脂である。具体的には、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアミド(PA)、アクリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、変性ポリフェニレンオキサイト(m-PPO)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、またはこれらの混合物を含む熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0042】
(2)回路構造体の製造方法
図7は回路構造体1の製造方法の概略の手順の一例を示すフローチャート図、
図8は回路構造体1の製造過程を説明するための回路構造体1の部分断面模式図である。
【0043】
回路構造体1は、
図7に示すように、絶縁基材2の一面2aに金属層3が形成された回路基板4を準備する回路基板準備工程S11と、絶縁基材2の一面2aとは反対側の他面2bに補強板5を形成する補強板形成工程S12と、補強板5及び絶縁基材2を貫通して孔部11を形成する孔部形成工程S13と、孔部11に端子ピン7を挿入して端子ピン7と金属層3の一端に設けられた接続パッド3Aを電気的に接合する接合工程S14と、孔部11内で端子ピン7を固定する固定工程S15と、回路基板4に樹脂層9をインサート成形する樹脂充填工程S16と、を経て製造される。
【0044】
(回路基板準備工程S11)
回路基板準備工程S11においては、まず、所定の形状及び大きさに形成された実質的に平坦なフィルム状の絶縁基材2に金属層3を配置するために、絶縁基材2上に金属めっき成長のきっかけとなる金属ナノ粒子等の触媒粒子からなる下地層を所定のパターン状に形成する。尚、絶縁基材2には、金属ナノ粒子等の触媒粒子からなる触媒インクを均一に塗布するために、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、溶剤処理、プライマー処理等の表面処理を施すことが好ましい。
【0045】
絶縁基材2上に金属ナノ粒子等の触媒粒子からなる触媒インクを塗布する方法としては、インクジェット印刷方式、シルクスクリーン印刷方式、グラビア印刷方式、オフセット印刷方式、フレキソ印刷方式、ローラーコーター方式、刷毛塗り方式、スプレー方式、ナイフジェットコーター方式、パッド印刷方式、グラビアオフセット印刷方式、ダイコーター方式、バーコーター方式、スピンコーター方式、コンマコーター方式、含浸コーター方式、ディスペンサー方式、メタルマスク方式が挙げられるが、本実施形態においてはインクジェット印刷方式を用いている。
【0046】
絶縁基材2上に形成された下地層に対し、電解めっきまたは無電解めっきを行うことにより、下地層の表面および内部にめっき金属を析出させ金属層3を配置する。めっき方法は公知のめっき液およびめっき処理と同様であり、具体的に無電解銅めっき、電解銅めっきが挙げられる。また、金属層3の一端に複数の接続パッド3Aを形成する。
【0047】
(補強板形成工程S12)
回路基板準備工程S11を経て、絶縁基材2の一面2aとは反対側の他面2bに補強板5を接着により取り付ける(
図8A 参照)。
【0048】
(孔部形成工程S13)
補強板5が取り付けられた回路基板4に、補強板5及び絶縁基材2の厚み方向に貫通する孔部11を形成する(
図8B 参照)。孔部11は、端子ピン7を挿通する貫通孔であり、端子ピン7よりも大きく、端子ピン7を接続パッド3Aに電気的に接合する接合材6のフィレット6aよりも小さく形成される。
【0049】
(接合工程S14)
ディスペンサ装置等によって金属層3の接続パッド3A上にはんだペーストを塗布後、貫通孔形成工程S13で形成された孔部11に端子ピン7を挿通して、接合材6の一例としてのはんだを溶融、固化させて、接続パッド3A上にはんだ6を介して端子ピン7のアンカー部を接合する(
図8C 参照)。
【0050】
(固定工程S15)
固定工程S15では、接合工程S14を経た回路基板4のはんだ部、特に接続パッド3Aの裏面側を洗浄してフラックスを除去した後、孔部11と端子ピン7との隙間を埋めるように、補強板5に形成された貫通孔51の内壁51aと端子ピン7との間に固定部材8を充填する。充填する固定部材8は、シアノアクリレートを含む湿気硬化性樹脂材料からなり、固化して貫通孔51の入り口において、貫通孔51と端子ピン7との間に貫通孔51よりも大きい鍔形状81を形成する(
図8D 参照)。また、固定部材8としては、エポキシ樹脂を用いて、貫通孔51と端子ピン7との間にフィレット形状を形成して、端子ピン7の動きを拘束してもよい。
【0051】
(樹脂充填工程S16)
樹脂充填工程S16では、端子ピン7が固定部材8で固定された回路基板4を射出成形用金型Kに位置決めしてセットした状態(
図8E 参照)で射出成形用金型Kを閉じて溶融樹脂をキャビティCAに充填する。キャビティCAに充填された樹脂により、回路基板4及び補強板5を覆うように樹脂層9が形成される(
図8F 参照)。
【0052】
このように、本実施形態の回路構造体1の製造方法によれば、端子ピン7が挿通される補強板5の貫通孔51と端子ピン7との隙間を埋めるように、貫通孔51の内壁51aと端子ピン7との間に固定部材8が充填されて固化することで、貫通孔51内で端子ピン7を固定している。これにより、樹脂層9をインサート成形する際に、端子ピン7の動きを拘束して電気的接続を安定化させている。
【0053】
本実施形態においては、回路基板4及び補強板5の少なくとも一部を覆う樹脂層9を備えて構成されている回路構造体1について説明したが、樹脂層9を備えていない回路構造体1であっても、回路基板4に外部から荷重が作用したり、端子ピン7に水平方向の荷重が作用することで、接続パッド3Aと端子ピン7の電気的接続が不安定になる虞がある。そのため、樹脂層9を有しない回路構造体1においても、補強板5の貫通孔51と端子ピン7との隙間を埋めるように、貫通孔51の内壁51aと端子ピン7との間に固定部材8を埋め込むことで、端子ピン7の動きを拘束して電気的接続を安定化させることが可能となる。
【符号の説明】
【0054】
1・・・回路構造体
2・・・絶縁基材
2a・・・一面(金属層側)、2b・・・他面、21・・・孔
3・・・金属層、3A・・・接続パッド
4・・・回路基板
5・・・補強板
6・・・接合材
7・・・端子ピン
8・・・固定部材、81・・・鍔形状、82・・・フィレット形状
K・・・射出成形用金型
CA・・・キャビティ