(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155780
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】組成物および光学部材
(51)【国際特許分類】
G02B 5/22 20060101AFI20241024BHJP
G02B 5/26 20060101ALI20241024BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20241024BHJP
C08K 5/10 20060101ALI20241024BHJP
C08K 5/06 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
G02B5/22
G02B5/26
C08L101/00
C08K5/10
C08K5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024064735
(22)【出願日】2024-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2023069130
(32)【優先日】2023-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2024024054
(32)【優先日】2024-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】重岡 大介
(72)【発明者】
【氏名】畠山 耕治
(72)【発明者】
【氏名】江畑 琢磨
【テーマコード(参考)】
2H148
4J002
【Fターム(参考)】
2H148CA04
2H148CA12
2H148CA17
2H148CA21
2H148CA23
2H148CA29
2H148FA05
2H148FA09
2H148FA13
2H148FA22
2H148FA24
4J002AA011
4J002AA021
4J002BB011
4J002BB211
4J002BC121
4J002BD121
4J002BG031
4J002BG051
4J002CC031
4J002CD001
4J002CE001
4J002CF001
4J002CF041
4J002CF081
4J002CG001
4J002CH001
4J002CL001
4J002CM041
4J002CN031
4J002ED026
4J002EH036
4J002EL097
4J002EU027
4J002EU107
4J002EV307
4J002EY017
4J002FD070
4J002FD097
4J002FD206
4J002GP00
4J002GQ00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】異物欠陥の少ない樹脂層を形成可能な組成物であって、かつ、調製後長期間保管された組成物を用いて樹脂層を形成する場合においても、調製直後の組成物を用いて樹脂層を形成する場合に比べ、近赤外領域における吸光度の変化が抑制された樹脂層を形成可能な組成物を提供すること。
【解決手段】式(1)で表される化合物(A)、重合体(B)、および波長650~1400nmの範囲に吸収極大波長(λmax)を有する近赤外線吸収色素(C)を含有する組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物(A)、重合体(B)、および波長650~1400nmの範囲に吸収極大波長(λmax)を有する近赤外線吸収色素(C)を含有する組成物。
[前記式(1)において、
R
aは、L
1、-OL
2、-C(=O)L
2、-OC(=O)L
3、シクロペンチル基、または、シクロヘキシル基であり、
Rは、それぞれ独立に水素原子、または、L
1であり、
L
1は、炭素数1~4のアルキル基であり、
L
2は、メチル基、またはエチル基であり、
L
3は、炭素数1~3のアルキル基であり、
nは、1または2である。]
【請求項2】
前記重合体(B)は、環状(ポリ)オレフィン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリサルホン系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリパラフェニレン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、フッ素化芳香族ポリマー系樹脂、(変性)アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、およびフェノール構造を有する繰り返し単位を含む重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物中において、下記式(X)で表される化合物(A)の含有量が、35~100質量%である、請求項1に記載の組成物。
(化合物(A)の含有量)=(化合物(A)の質量)/{(化合物(A)の質量)+(化合物(A)以外の溶剤の質量)}×100 ・・・式(X)
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物から形成された層(D)を有する光学部材。
【請求項5】
前記層(D)と、ガラス支持体とを有する、請求項4に記載の光学部材。
【請求項6】
誘電体多層膜を有する、請求項5に記載の光学部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物および光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、カメラ機能付き携帯電話、スマートフォンなどの固体撮像装置には、カラー画像の固体撮像素子であるCCDやCMOSイメージセンサーが使用されている。これら固体撮像素子では、その受光部において人間の目では感知できない近赤外線に感度を有するシリコンフォトダイオードなどが使用されている。また、光学センサー装置でも、シリコンフォトダイオードなどが使用されている。
例えば、固体撮像素子では、人間の目で見て自然な色合いにさせる視感度補正を行うことが必要であり、特定の波長領域の光線を選択的に透過もしくはカットする光学部材、特に光学フィルター(例:近赤外線カットフィルター)を用いることが多い。
【0003】
樹脂組成物を用いて光学フィルターを形成する場合は、樹脂組成物を基板上に塗工して樹脂層を形成する方法等により、厚みの薄い光学フィルターを得ることができる。
例えば、特許文献1には、ガラス基板上に、近赤外線吸収色素と透明樹脂とを含有する近赤外線吸収層を有する近赤外線カットフィルターが開示されている。特許文献2には、ガラス基板、スクアリリウム染料を含有するコーティング層、および赤外線反射膜を積層してなる波長カットフィルターが開示されている。また、特許文献3には、ガラス基板上に、オキシラン化合物と600~900nmの波長域に吸収極大波長を有する色素とを含有する樹脂組成物から形成された層が設けられた光選択透過フィルターが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-059550号公報
【特許文献2】特開2014-126642号公報
【特許文献3】特開2014-149514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近赤外線吸収色素を含む組成物を用いて樹脂層を形成する場合、調製直後の組成物を用いて樹脂層を形成する場合もあれば、調製後長期間保管された組成物を用いて樹脂層を形成することもある。このため、このような組成物においては、保存安定性に優れることが望まれている。
【0006】
本発明者の検討によれば、このような近赤外線吸収色素を含む組成物において、調製直後の組成物を用いて樹脂層を形成する場合に比べ、調製後長期間保管された組成物を用いて樹脂層を形成すると、形成される樹脂層に、近赤外領域における吸光度の変化が生じることが分かった。この原因についてさらに検討したところ、このような吸光度の変化が生じる原因は、溶剤組成に起因することが分かった。また、詳細な理由は定かではないが、従来の近赤外線吸収色素を含む組成物を用いて形成された樹脂層には、異物欠陥が生じる場合があることがわかった。
【0007】
本発明は以上のことに鑑みてなされたものであり、異物欠陥の少ない樹脂層を形成可能な組成物であって、かつ、調製後長期間保管された組成物を用いて樹脂層を形成する場合においても、調製直後の組成物を用いて樹脂層を形成する場合に比べ、近赤外領域における吸光度の変化が抑制された樹脂層を形成可能な組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記構成例によれば前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の構成例は以下の通りである。
なお、本発明において、数値範囲を表す「A~B」等の記載は、「A以上、B以下」と同義であり、AおよびBをその数値範囲内に含む。また、本発明において、波長A~Bnmとは、波長Anm以上、波長Bnm以下の波長領域における波長分解能1nmにおける特性を表す。
【0009】
[1]
下記式(1)で表される化合物(A)、重合体(B)、および波長650~1400nmの範囲に吸収極大波長(λmax)を有する近赤外線吸収色素(C)を含有する組成物。
【0010】
【化1】
[前記式(1)において、
R
aは、L
1、-OL
2、-C(=O)L
2、-OC(=O)L
3、シクロペンチル基、または、シクロヘキシル基であり、
Rは、それぞれ独立に水素原子、または、L
1であり、
L
1は、炭素数1~4のアルキル基であり、
L
2は、メチル基、またはエチル基であり、
L
3は、炭素数1~3のアルキル基であり、
nは、1または2である。]
【0011】
[2]
前記重合体(B)は、環状(ポリ)オレフィン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリサルホン系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリパラフェニレン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、フッ素化芳香族ポリマー系樹脂、(変性)アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、およびフェノール構造を有する繰り返し単位を含む重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]に記載の組成物。
【0012】
[3]
前記組成物中において、下記式(X)で表される化合物(A)の含有量が、35~100質量%である、[1]または[2]に記載の組成物。
(化合物(A)の含有量)=(化合物(A)の質量)/{(化合物(A)の質量)+(化合物(A)以外の溶剤の質量)}×100 ・・・式(X)
【0013】
[4]
[1]~[3]のいずれかに記載の組成物から形成された層(D)を有する光学部材。
【0014】
[5]
前記層(D)と、ガラス支持体とを有する、[4]に記載の光学部材。
【0015】
[6]
誘電体多層膜を有する、[5]に記載の光学部材。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、異物欠陥の少ない樹脂層を形成可能な組成物を提供することができ、かつ、調製後長期間保管された組成物を用いて樹脂層を形成する場合においても、調製直後の組成物を用いて樹脂層を形成する場合に比べ、近赤外領域における吸光度の変化が抑制された樹脂層を形成可能な組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1で得られた光学部材の分光透過率スペクトルである。
【
図2】実施例2で得られた光学部材の分光透過率スペクトルである。
【
図3】実施例3で得られた光学部材の分光透過率スペクトルである。
【
図4】実施例4で得られた光学部材の分光透過率スペクトルである。
【
図5】実施例5で得られた光学部材の分光透過率スペクトルである。
【
図6】実施例6で得られた光学部材の分光透過率スペクトルである。
【
図7】実施例7で得られた光学部材の分光透過率スペクトルである。
【
図8】実施例8で得られた光学部材の分光透過率スペクトルである。
【
図9】実施例9で得られた光学部材の分光透過率スペクトルである。
【
図10】実施例10で得られた光学部材の分光透過率スペクトルである。
【
図11】実施例11で得られた光学部材の分光透過率スペクトルである。
【
図12】比較例1で得られた光学部材の分光透過率スペクトルである。
【
図13】比較例2で得られた光学部材の分光透過率スペクトルである。
【
図14】比較例3で得られた光学部材の分光透過率スペクトルである。
【
図15】比較例4で得られた光学部材の分光透過率スペクトルである。
【
図16】比較例5で得られた光学部材の分光透過率スペクトルである。
【
図17】比較例6で得られた光学部材の分光透過率スペクトルである。
【
図18】比較例7で得られた光学部材の分光透過率スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
≪組成物≫
本発明に係る組成物(以下「本組成物」ともいう。)は、下記式(1)で表される化合物(A)、重合体(B)、および、波長650~1400nmの範囲に吸収極大波長(λmax)を有する近赤外線吸収色素(C)を含有する組成物である。
【0019】
<化合物(A)>
本組成物は、化合物(A)を含有する。該化合物(A)は、前記重合体(B)および近赤外線吸収色素(C)を溶解または分散させることができるため、「溶剤」であるともいえる。
本組成物に用いる化合物(A)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0020】
前記化合物(A)は、下記式(1)で表される化合物である。本組成物は、下記式(1)で表される化合物(A)を含有するため、経時における赤外領域における吸光度変化が抑制され、保存安定性に優れる。従って、該本組成物によれば、調製後長期間保管した組成物を用いても、調製直後の本組成物を用いる場合と比べ、近赤外領域における吸光度の変化が少ない樹脂層(層(D))を形成することができる。また、本組成物は、下記式(1)で表される化合物(A)を含有するため、異物欠陥の少ない樹脂層(層(D))を形成することができる。
【0021】
【化2】
[前記式(1)において、
R
aは、L
1、-OL
2、-C(=O)L
2、-OC(=O)L
3、シクロペンチル基、または、シクロヘキシル基であり、
Rは、それぞれ独立に水素原子、または、L
1であり、
L
1は、炭素数1~4のアルキル基であり、
L
2は、メチル基、またはエチル基であり、
L
3は、炭素数1~3のアルキル基であり、
nは、1または2である。]
【0022】
nは1または2であり、すなわち、化合物(A)は、炭素数5または6の脂環式炭化水素構造を有する。
【0023】
Raは、L1、-OL2、-C(=O)L2、-OC(=O)L3、シクロペンチル基、または、シクロヘキシル基であり、好ましくは、L1、-OL2、-C(=O)L2、または、-OC(=O)L3であり、より好ましくは、-OL2、-C(=O)L2、または、-OC(=O)L3あり、さらに好ましくは、-OL2、または、-OC(=O)L3である。
【0024】
複数個のRは、それぞれ独立に水素原子、または、L1である。前記L1が複数個存在する場合、複数個のL1同士は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0025】
L1は、炭素数1~4のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基が挙げられる。
【0026】
L3は、炭素数1~3のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基が挙げられる。
【0027】
前記化合物(A)の具体例としては、メトキシシクロヘキサン、1-メトキシ-4-メチルシクロヘキサン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル類;
酢酸シクロヘキシル等のエステル類;
が挙げられる。
【0028】
本組成物中において、下記式(X)で表される化合物(A)の含有量は、好ましくは35~100質量%、より好ましくは40~95質量%、さらに好ましくは45~90質量%である。
化合物(A)の含有量が前記範囲内であると、異物欠陥の少ない樹脂層(層(D))を容易に形成することができ、かつ、経時における赤外領域における吸光度変化が抑制され、保存安定性に優れる組成物を容易に得ることができる。
(化合物(A)の含有量)=(化合物(A)の質量)/{(化合物(A)の質量)+(化合物(A)以外の溶剤の質量)}×100 ・・・式(X)
【0029】
<重合体(B)>
本組成物は、重合体(B)を含有する。
本組成物に用いる重合体(B)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0030】
重合体(B)としては、特に限定されないが、例えば、熱安定性や本組成物から形成される層(D)への成形性を確保し、かつ、100℃以上程度の蒸着温度で行う高温蒸着で誘電体多層膜を形成し得る層(D)を容易に得ることができる等の点から、ガラス転移温度(Tg)が、好ましくは110~380℃、より好ましくは110~370℃、特に好ましくは120~360℃である重合体が挙げられる。また、重合体(B)のTgが140℃以上であると、誘電体多層膜をより高温で蒸着形成し得る層(D)が得られるため、特に好ましい。
【0031】
重合体(B)としては、当該重合体からなる厚さ0.1mmの重合体板の全光線透過率(JIS K 7375:2008)が、好ましくは75~95%、さらに好ましくは78~95%、特に好ましくは80~95%となる重合体を用いることが望ましい。
全光線透過率が前記範囲にある重合体を用いると、透明性に優れる層(D)や光学部材を容易に得ることができる。
【0032】
重合体(B)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは15,000~1,000,000、より好ましくは30,000~250,000であり、数平均分子量(Mn)は、好ましくは10,000~200,000、より好ましくは20,000~100,000である。
【0033】
重合体(B)としては、例えば、環状(ポリ)オレフィン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド(アラミド)系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリサルホン系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリパラフェニレン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)系樹脂、フッ素化芳香族ポリマー系樹脂、(変性)アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール構造を有する繰り返し単位を含む重合体が挙げられる。これらの樹脂の具体例としては、国際公開第2019/168090号に記載の樹脂等が挙げられる。
【0034】
重合体(B)としては、特に限定されないが、例えば、酸基および水酸基を有さない重合体(B1)、酸基を有する重合体(B2)、および、酸基を有さないが、末端に水酸基を有する重合体(B3)、フェノール構造を有する繰り返し単位を含む重合体(B4)が挙げられる。これらの重合体の中でも、光学膜との密着性に優れる層(D)を容易に得ることができる等の点から、重合体(B1)および重合体(B2)が好ましく、重合体(B1)がより好ましい。
【0035】
本発明において酸基とは、酸性を示す基であり、例えば、カルボキシ基、リン酸基、スルホ基、酸無水物基、ジスルホン酸無水物基、ピロリン酸基が挙げられる。
【0036】
(重合体(B1))
重合体(B1)は、酸基および水酸基を有さない重合体であり、例えば、環状オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂が挙げられる。
前記重合体(B1)としては、例えば、以下の市販品を用いることができる。環状オレフィン系樹脂としては、JSR(株)製「ARTON R5000」や「ARTON G7810」、ポリカーボネート系樹脂としては、帝人(株)製「ピュアエースRW」、ポリアリレート系樹脂としては、ユニチカ(株)製「Unifiner M-2040」、ポリエステル系樹脂としては、大阪ガスケミカル(株)製「OKP-2」、ポリイミド系樹脂としては、河村産業(株)製「KPI-MX400F」等が挙げられる。
【0037】
(重合体(B2))
重合体(B2)は、前記重合体(B4)以外の酸基を有する重合体であり、少なくとも1つの酸基を有する。前述した酸基の中でも、カルボキシ基が好ましい。
前記重合体(B2)としては、例えば、アクリル系樹脂やポリスチレン系樹脂が挙げられ、例えば、以下の市販品を用いることができる。ポリスチレン系樹脂としては、DIC(株)製「Ryurex A-14」や、Polyscope社製「XIRAN3840」等が挙げられる。
【0038】
(重合体(B3))
重合体(B3)は、前記重合体(B4)以外の酸基を有さないが、末端に水酸基を有する重合体である。
重合体(B3)としては、例えば、前記重合体(B1)を末端水酸基変性した重合体が挙げられる。
前記末端に存在する水酸基は、好ましくはフェノール性水酸基である。
【0039】
前記重合体(B3)としては、例えば、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂が挙げられ、例えば、以下の市販品を用いることができる。ポリカーボネート系樹脂としては、帝人(株)製「パンライトL1250」、ポリエーテルスルホン系樹脂としては、住友化学(株)製)「スミカエクセル4100P」等が挙げられる。
【0040】
(重合体(B4))
重合体(B4)としては、例えば、特開2009-132935号公報、特開2019-119833号公報、特開2022-118415号公報、特開平06-263845号公報、特表2007-507596号公報、特許第4210216号公報等に記載のポリヒドロキシスチレン系樹脂、フェノール樹脂、ノボラック系樹脂、レゾール樹脂、フェノール-キシリレングリコール縮合樹脂、クレゾール-キシリレングリコール縮合樹脂、フェノール-ジシクロペンタジエン縮合樹脂、4-ヒドロキシフェニルメタクリレート等のフェノール構造を有する(メタ)アクリレートの(共)重合体、オリゴマー型ヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。これらの中でもポリヒドロキシスチレン系樹脂およびノボラック系樹脂が好ましい。
【0041】
<近赤外線吸収色素(C)>
本組成物は、波長650~1400nmの範囲に吸収極大波長(λmax)を有する近赤外線吸収色素(C)を含有する。
近赤外線吸収色素(C)は、可視光領域(430~580nm)の光を十分に透過し、近赤外波長領域(650~1400nm)の範囲に吸収極大波長(λmax)を有する色素であることが好ましい。なお、近赤外線吸収色素(C)は溶剤可溶型の色素化合物であることが好ましい。
本組成物に用いる近赤外線吸収色素(C)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0042】
前記λmaxは特に制限されず、本組成物の所望の用途に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは670~1200nm、より好ましくは680~1100nmの範囲にあることが望ましい。
なお、本明細書において、前記λmaxは、近赤外線吸収色素(C)をジクロロメタンに溶解させた溶液の透過スペクトルを、日本分光(株)製の分光光度計(V-7200)を用いて測定することにより判断する。
【0043】
近赤外線吸収色素(C)としては、無機化合物、および有機化合物のいずれでも特に制限はなく、例えば、染料や色素として用いられている種々の公知物質を含む化合物を用いることができる。これらの化合物としては、例えば、アゾ系化合物、アゾメチン系化合物、アゾピリドン系化合物、ピラゾロンアゾ系化合物、インドール系化合物、アントラキノン系化合物、キノフタロン系化合物、クマリン系化合物、ジピロメテン系化合物、ピロロピロール系化合物、ジケトピロロピロール系化合物、ジフェニルメタン系化合物、トリアリールメタン系化合物、キサンテン系化合物、アクリジン系化合物、ポリメチン系化合物、オキソノール系化合物、メロシアニン系化合物、アリーリデン系化合物、ベンジリデン系化合物、シアニン系化合物、スクアリリウム系化合物、クロコニウム系化合物、ペリレン系化合物、ジオキサジン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、テトラアザポルフィリン系化合物、サブフタロシアニン系化合物、ジイモニウム系化合物、以上の化合物の金属キレート化合物および金属ジチオラート系化合物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。なお、ポリメチン系化合物は、オキソノール系化合物、メロシアニン系化合物、アリーリデン系化合物、ベンジリデン系化合物、シアニン系化合物、スクアリリウム系化合物、クロコニウム系化合物を除くポリメチン系化合物であり、フタロシアニン系化合物はポルフィリン系化合物、テトラアザポルフィリン系化合物を除くフタロシアニン系化合物である。
【0044】
これらの中でも、アゾメチン系化合物、アゾピリドン系化合物、ピラゾロンアゾ系化合物、インドール系化合物、アントラキノン系化合物、クマリン系化合物、ジピロメテン系化合物、トリアリールメタン系化合物、キサンテン系化合物、ポリメチン系化合物、メロシアニン系化合物、ベンジリデン系化合物、シアニン系化合物、スクアリリウム系化合物、クロコニウム系化合物、ペリレン系化合物、ジオキサジン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、テトラアザポルフィリン系化合物、サブフタロシアニン系化合物、ジイモニウム系化合物および以上の化合物の金属キレート化合物から選ばれる少なくとも1種が好ましく、
アゾメチン系化合物、アゾピリドン系化合物、ピラゾロンアゾ系化合物、インドール系化合物、クマリン系化合物、ジピロメテン系化合物、トリアリールメタン系化合物、キサンテン系化合物、ポリメチン系化合物、メロシアニン系化合物、シアニン系化合物、スクアリリウム系化合物、クロコニウム系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、テトラアザポルフィリン系化合物、サブフタロシアニン系化合物、ジイモニウム系化合物および以上の化合物の金属キレート化合物から選ばれる少なくとも1種がさらに好ましい。
【0045】
具体的な色素の構造については、例えば、「新版染料便覧」(有機合成化学協会編;丸善、1970)、「色素ハンドブック」(大河原他編;講談社、1986)に記載されている。
【0046】
近赤外線吸収色素(C)の含有量は、前記重合体(B)100質量部に対し、好ましくは0.05~10質量部、より好ましくは0.1~5質量部、さらに好ましくは0.2~2質量部である。
近赤外線吸収色素(C)の含有量が前記範囲内にあると、近赤外線吸収色素(C)の有する光吸収特性が十分に発揮され、所望の光学特性を有する層(D)を容易に得ることができる。
【0047】
<その他の成分>
本組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、前記化合物(A)、重合体(B)および近赤外線吸収色素(C)以外のその他の成分を含有してもよい。
該その他の成分としては、例えば、酸化防止剤、密着促進剤、蛍光消光剤、金属錯体系化合物、レベリング剤、消泡剤等の添加剤、前記化合物(A)以外のその他の溶剤が挙げられる。また、キャスト成形等により本組成物から得られる層や光学部材を製造する場合には、該層や光学部材の製造を容易にするためにレベリング剤や消泡剤等の添加剤を添加することができる。
これらその他の成分はそれぞれ、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0048】
なお、これらその他の成分は、本組成物を調製する際に添加してもよいし、例えば、前記重合体(B)を合成する際に添加してもよい。
前記添加剤を用いる場合、該添加剤の添加量は、所望の特性に応じて適宜選択すればよいが、前記重合体(B)100質量部に対して、好ましくは0.01~5.0質量部、より好ましくは0.01~2.0質量部である。
【0049】
本組成物は、前記化合物(A)以外のその他の溶剤をさらに含有してもよい。該その他の溶剤としては、前記重合体(B)、近赤外線吸収色素(C)およびその他の成分を分散または溶解することが可能な溶剤であることが好ましい。
【0050】
前記その他の溶剤の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類;
テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル類;
酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等のエステル類;
メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メトキシエタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;
エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;
エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル類;
エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;
n-ヘキサン、n-ヘプタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ガソリン、軽油、灯油等の炭化水素類;
アセトニトリル、ニトロメタン、水が挙げられる。
【0051】
本組成物中の化合物(A)およびその他の溶剤の合計含有量は、本組成物中の固形分の含有量が、好ましくは5~40質量%、より好ましくは7.5~30質量%となるような量である。
本組成物中のその他の溶剤の含有量は、前記式(X)で表される化合物(A)の含有量が前記範囲となるような含有量であることが好ましい。
【0052】
前記酸化防止剤としては、例えば、フェノール系化合物(例:ヒンダードフェノール化合物)、リン系化合物(例:亜リン酸エステル系化合物)、チオエーテル系化合物が挙げられる。
フェノール系化合物としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,2'-ジヒドロキシ-3,3'-ジ-t-ブチル-5,5'-ジメチルジフェニルメタン、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンが挙げられる。
リン系化合物としては、例えば、トリス[2-[[2,4,8,10-テトラキス(1,1-ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン-6-イル]オキシ]エチル]アミン、トリス[2-[(4,6,9,11-テトラ-tert-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン-2-イル)オキシ]エチル]アミン、亜リン酸エチルビス(2,4-ジ-tert-ブチル-6-メチルフェニル)が挙げられる。
【0053】
酸化防止剤の市販品としては、例えば、(株)ADEKA製のアデカスタブシリーズや、BASF SE製のIRGANOXシリーズ、住友化学(株)製の、Sumilizerシリーズが挙げられる。
【0054】
前記密着促進剤としては、例えば、ビスフェノールやトリスフェノール等の前記重合体(B4)以外のフェノール性水酸基を有する化合物が挙げられる。
密着促進剤を用いることにより、本組成物から得られる層とそれに接する層との密着性を向上させることができる。
【0055】
≪光学部材≫
本発明に係る光学部材(以下「本光学部材」ともいう。)は、基材(i)を有する。
該基材(i)は、本組成物から形成された層(以下「層(D)」ともいう。)を有し、1層以上の層(D)と1つ以上のガラス支持体とを含むことが好ましい。
【0056】
<基材(i)>
基材(i)は、単層であっても多層であってもよく、層(D)を有すればよい。前記基材(i)は、2層以上の層(D)を有していてもよく、この場合、2層以上の層(D)は、同一であっても、異なっていてもよい。
【0057】
基材(i)が単層の場合は、該基材(i)は層(D)からなり、つまり、層(D)(重合体製基板)が基材(i)である。
基材(i)が多層の場合は、該2層以上の層のうち少なくとも1つが層(D)である基材や、層(D)とガラス支持体とを含む基材が挙げられ、好適例としては、ガラス支持体上に層(D)が積層された積層体を含む基材(X)、層(D)上に、硬化性重合体等からなるオーバーコート層などの層が積層された積層体を含む基材(Y)、ガラス支持体上に層(D)が積層され、さらに、該層(D)上に、硬化性重合体等からなるオーバーコート層などの層が積層された積層体を含む基材(Z)が挙げられ、基材(X)および(Z)がより好ましい。
層(D)とガラス支持体とを含む基材としては、本発明の効果がより発揮される等の点から、層(D)とガラス支持体とは接していることが好ましい。
【0058】
なお、前記基材(Y)や(Z)におけるオーバーコート層などの層は、近赤外線吸収色素(C)を含まない層のことをいう。該近赤外線吸収色素(C)を含まない層は、1種以上の重合体を含むことが好ましい。
該重合体としては、例えば、本組成物の欄に記載の重合体(B)と同様の重合体が挙げられる。
また、該近赤外線吸収色素(C)を含まない層は、下記その他の機能膜であってもよい。
【0059】
前記ガラス支持体としては特に制限されないが、フツリン酸塩系ガラス、近赤外線吸収ガラス(例:リン酸塩系ガラス等にCuO等を添加した吸収型のガラス)、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、サファイヤガラス等からなるガラス支持体が挙げられる。なお、前記「リン酸塩ガラス」には、ガラスの骨格の一部がSiO2で構成されるケイリン酸塩ガラスも含まれるものとする。
前記基材(i)に含まれるガラス支持体は、1つでもよく、2つ以上であってもよい。前記基材(i)に含まれるガラス支持体が2つ以上である場合、前記基材(i)は、同様のガラス支持体を2つ以上有していてもよく、異なるガラス支持体を2つ以上有していてもよい。
【0060】
基材(i)の厚みは、所望の用途に応じて適宜選択することができ、特に制限されないが、好ましくは10~250μm、さらに好ましくは15~235μmである。
基材(i)の厚みが前記範囲にあると、該基材(i)を用いた光学部材を薄型化および軽量化することができ、固体撮像装置等の様々な用途に好適に用いることができる。
【0061】
[基材(i)の製造方法]
前記層(D)、前記オーバーコート層などの層は、例えば、溶融成形またはキャスト成形により形成することができ、さらに、必要により、成形後に、反射防止剤、ハードコート剤および/または帯電防止剤等のコーティング剤をコーティングしてもよい。
【0062】
前記基材(i)が、基材(X)である場合、例えば、前記ガラス支持体に、本組成物を溶融成形またはキャスト成形することで、好ましくはスピンコート、スリットコート、インクジェットなどの方法にて塗工した後に溶媒を乾燥除去し、必要に応じてさらに光照射や加熱を行うことで、ガラス支持体上に層(D)が形成された基材を製造することができる。
【0063】
・溶融成形
前記溶融成形としては、具体的には、本組成物を溶融混練りして得られたペレットを溶融成形する方法;本組成物を溶融成形する方法;本組成物から化合物(A)等の溶剤を除去して得られたペレットを溶融成形する方法などが挙げられる。溶融成形方法としては、射出成形、溶融押出成形またはブロー成形などを挙げることができる。
【0064】
・キャスト成形
前記キャスト成形としては、本組成物を適当な支持体の上にキャスティングして化合物(A)等の溶剤を除去する方法;前記重合体(B)として光硬化性重合体および/または熱硬化性重合体を含む、硬化性の本組成物を適当な支持体の上にキャスティングして溶媒を除去した後、紫外線照射や加熱などの適切な手法により硬化させる方法などが挙げられる。
前記基材(i)が、前記単層の基材(i)である場合には、該基材(i)は、キャスト成形後、前記適当な支持体から塗膜を剥離することにより得ることができ、また、前記基材(i)が、前記基材(X)である場合には、該基材(i)は、キャスト成形後、塗膜を支持体(ガラス支持体)から剥離しないことで得ることができる。
【0065】
前記適当な支持体としては、例えば、ガラス板、スチールベルト、スチールドラムおよび重合体(例えば、ポリエステルフィルム、環状オレフィン系重合体フィルム)製支持体が挙げられる。
【0066】
さらに、ガラス板、石英またはプラスチック製等の光学部品に、本組成物をコーティングして化合物(A)等の溶剤を乾燥させる方法、または、前記硬化性の本組成物をコーティングして硬化および乾燥させる方法などにより、光学部品上に層(D)を形成することもできる。
【0067】
前記オーバーコート層などの層を溶融成形またはキャスト成形により形成する場合には、前記溶融成形やキャスト成形の欄における本組成物の代わりに、重合体を含む所望の組成物(但し、近赤外線吸収色素(C)を含まない)を用いればよい。
【0068】
前記層(D)および前記オーバーコート層などの層中の残留溶剤量(残留する化合物(A)およびその他の溶剤の合計量)は可能な限り少ない方がよい。具体的には、該残留溶剤量は、これらの層それぞれの重さ100質量%に対して、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
残留溶剤量が前記範囲にあると、変形や特性が変化しにくい、所望の機能を容易に発揮できる層が得られる。
基材(i)を光学部材に用いる場合は、前記層(D)および前記オーバーコート層などの層中の溶剤含有量を100質量ppm以下に抑えることが好ましい。
【0069】
<誘電体多層膜>
本光学部材は、誘電体多層膜を有することが好ましく、前記層(D)と、ガラス支持体と、誘電体多層膜とを有することが、本光学部材の好ましい一形態である。該誘電体多層膜としては、高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に積層した積層体等が挙げられる。
該誘電体多層膜は、前記基材(i)の片面に設けてもよいし、両面に設けてもよい。片面に設ける場合、製造コストや製造容易性に優れ、両面に設ける場合、高い強度を有し、反りやねじれが生じにくい光学部材を得ることができる。本光学部材を固体撮像素子などに使用する場合、該光学部材の反りやねじれが小さい方が好ましいことから、誘電体多層膜を基材(i)の両面に設けることが好ましい。
【0070】
また、前記基材(i)が、基材(X)である場合、層(D)の、ガラス支持体とは反対側に誘電体多層膜を有することが、本光学部材の好ましい一形態であり、この場合、誘電体多層膜との密着性等の点から、層(D)と誘電体多層膜との間には、前記オーバーコート層などの層を設けることもできる。
さらに、該ガラス支持体の、層(D)を有する側の反対側に別の誘電体多層膜を有することが本光学部材の別の好ましい一形態である。
【0071】
前記高屈折率材料層を構成する材料としては、屈折率が1.7以上の材料が挙げられ、屈折率が通常は1.7~2.5の材料が選択される。このような材料としては、例えば、チタニア、酸化ジルコニウム、五酸化タンタル、五酸化ニオブ、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛または酸化インジウム等を主成分とし、酸化錫および/または酸化セリウム等を少量(例えば、主成分に対して0~10質量%)含有させたものが挙げられる。
【0072】
前記低屈折率材料層を構成する材料としては、屈折率が1.6以下の材料を用いることができ、屈折率が通常は1.2~1.6の材料が選択される。このような材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、フッ化ランタン、フッ化マグネシウムおよび六フッ化アルミニウムナトリウムが挙げられる。
【0073】
前記高屈折率材料層と低屈折率材料層とを積層する方法については、これらの材料層を積層した誘電体多層膜が形成される限り特に制限はない。例えば、基材(i)上に、直接、CVD法、スパッタ法、真空蒸着法、イオンアシスト蒸着法またはイオンプレーティング法等により、高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に積層した誘電体多層膜を形成することができる。
【0074】
前記高屈折率材料層および低屈折率材料層の各層の厚さは、通常、遮断しようとする光線(例:近赤外線)の波長をλ(nm)とすると、0.1λ~0.5λの厚さが好ましい。λ(nm)の値としては、NIR-CFの場合、例えば700~1400nm、好ましくは750~1300nmである。高屈折率材料層および低屈折率材料層の各層の厚さがこの範囲にあると、屈折率(n)と膜厚(d)との積(n×d)である光学的膜厚が、λ/4とほぼ同じ値となって、反射・屈折の光学的特性の関係から、特定波長の遮断・透過を容易にコントロールできる傾向にある。
【0075】
誘電体多層膜における高屈折率材料層と低屈折率材料層との合計の積層数は、例えばNIR-CFの場合、光学部材全体として16~70層であることが好ましく、20~60層であることがより好ましい。各層の厚み、光学部材全体としての誘電体多層膜の厚みや合計の積層数が前記範囲にあると、十分な製造マージンを確保できる上に、光学部材の反りや誘電体多層膜のクラックを低減することができる。
【0076】
本光学部材では、近赤外線吸収色素(C)の吸収特性等に合わせて、高屈折率材料層および低屈折率材料層を構成する材料種、高屈折率材料層および低屈折率材料層の各層の厚さ、積層の順番、積層数を適切に選択することで、透過したい波長域(例:可視域)に十分な透過率を確保した上で、カットしたい波長域(例:近赤外域)に十分な光線カット特性を有し、かつ、斜め方向から光線(例:近赤外線)が入射した際の反射率を低減することができる。
【0077】
ここで、誘電体多層膜の条件を最適化するには、例えば、光学薄膜設計ソフト(例えば、Essential Macleod、Thin Film Center社製)を用い、透過したい波長域(例:可視域)の反射防止効果と、カットしたい波長域(例:近赤外域)の光線カット効果とを両立できるようにパラメーターを設定すればよい。前記ソフトの場合、例えば、NIR-CFの誘電体多層膜を形成する場合には、波長400~700nmの目標透過率を100%、Target Toleranceの値を1とした上で、波長705~950nmの目標透過率を0%、Target Toleranceの値を0.5にするなどのパラメーター設定方法が挙げられる。
これらのパラメーターは、基材(i)の各種特性などに合わせて波長範囲をさらに細かく区切ってTarget Toleranceの値を変えることもできる。
【0078】
<その他の機能膜>
本光学部材は、本発明の効果を損なわない範囲において、基材(i)と誘電体多層膜との間、基材(i)の誘電体多層膜が設けられた面と反対側の面、または、誘電体多層膜の基材(i)が設けられた面と反対側の面に、基材(i)や誘電体多層膜の表面硬度の向上、耐薬品性の向上、帯電防止および傷消しなどの目的で、反射防止膜、ハードコート膜や帯電防止膜などの機能膜を適宜設けることができる。
【0079】
本光学部材は、前記機能膜を1層含んでもよく、2層以上含んでもよい。本光学部材が、前記機能膜を2層以上含む場合には、同様の膜を2層以上含んでもよいし、異なる膜を2層以上含んでもよい。
【0080】
前記機能膜を積層する方法としては特に制限されないが、反射防止剤、ハードコート剤および/または帯電防止剤等のコーティング剤などを基材(i)または誘電体多層膜に、前記と同様に溶融成形またはキャスト成形する方法等を挙げることができる。
【0081】
また、コーティング剤などを含む硬化性組成物をバーコーター等で基材(i)または誘電体多層膜上に塗布した後、紫外線照射等により硬化することによっても製造することができる。
【0082】
前記コーティング剤としては、紫外線(UV)/電子線(EB)硬化型重合体や熱硬化型重合体などが挙げられ、具体的には、ビニル化合物類や、ウレタン系、ウレタンアクリレート系、アクリレート系、エポキシ系およびエポキシアクリレート系重合体などが挙げられる。コーティング剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
これらのコーティング剤を含む前記硬化性組成物としては、ビニル系、ウレタン系、ウレタンアクリレート系、アクリレート系、エポキシ系およびエポキシアクリレート系硬化性組成物などが挙げられる。
【0083】
前記硬化性組成物は、重合開始剤を含んでいてもよい。前記重合開始剤としては、公知の光重合開始剤または熱重合開始剤を用いることができ、光重合開始剤と熱重合開始剤を併用してもよい。重合開始剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0084】
前記硬化性組成物中、重合開始剤の配合割合は、硬化性組成物の全量を100質量%とした場合、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.5~10質量%、さらに好ましくは1~5質量%である。重合開始剤の配合割合が前記範囲にあると、硬化特性および取り扱い性等に優れる硬化性組成物を容易に得ることができ、所望の硬度を有する反射防止膜、ハードコート膜や帯電防止膜などの機能膜を容易に得ることができる。
【0085】
さらに、前記硬化性組成物には溶剤として有機溶剤を加えてもよく、該有機溶剤としては、公知の溶剤を使用することができる。有機溶剤の具体例としては、前記化合物(A);メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類が挙げられる。
これら溶剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0086】
前記機能膜の厚さは、好ましくは0.1~20μm、より好ましくは0.5~10μm、特に好ましくは0.7~5μmである。
【0087】
また、基材(i)と機能膜および/または誘電体多層膜との密着性や、機能膜と誘電体多層膜との密着性を上げる目的で、基材(i)、機能膜または誘電体多層膜の表面にコロナ処理やプラズマ処理等の表面処理をしてもよい。
【0088】
<本光学部材の具体例>
本発明の効果がより発揮される等の点から、本光学部材としては、具体的には、近赤外線カットフィルター(NIR-CF)、可視光-近赤外線選択透過フィルター(DBPF)、近赤外線透過フィルター(IRPF)が挙げられる。また、本光学部材は、科学捜査等に用いられる代替光源(ALS:Alternative Light Sources)用のフィルターとしても用いることができる。これらの光学部材は、前記基材(i)を有する以外は、従来公知の構成とすればよい。
【0089】
本光学部材が、NIR-CFやDBPFである場合、下記特性(a)を満たす光学部材であることが好ましい。
特性(a):波長430~580nmの領域において、光学部材の垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上である。該透過率の平均値は高い方が好ましいため、その上限は特に制限されず、100%であってもよい。
本光学部材がこの特性(a)を満たすと、カットしたい近赤外線領域の波長の光を十分にカットしながらも可視光透過率の低下をより抑制できるため、NIR-CFやDBPFとしてより好適に用いることができる。
【0090】
なお、本発明において、ある波長領域(波長A~Bnm)の透過率の平均値(平均透過率)は、Anm以上Bnm以下の、1nm刻みの各波長における透過率を測定し、その透過率の合計を、測定した透過率の数(波長範囲、B-A+1)で除すことで算出した値である。
【0091】
本光学部材が、NIR-CFやDBPFである場合、下記特性(b-1)を満たす光学部材であることが好ましい。
特性(b-1):波長700~800nmの領域において、光学部材の少なくとも一方の面の垂直方向から5°の角度から入射する無偏光光線の平均反射率が、好ましくは25%以下、より好ましくは15%以下である。該平均反射率は低い方が好ましいため、その下限は特に制限されず、0%であってもよい。
この特性(b-1)を満たす本光学部材を用いることで、波長700~800nmの波長域の反射光強度の低減が可能であるため、該反射光に起因する画像不良を解消できる。
【0092】
本光学部材が、NIR-CFやDBPFである場合、下記特性(b-2)を満たす光学部材であることが好ましい。
特性(b-2):波長650~800nmの領域において、光学部材の少なくとも一方の面の垂直方向から5°の角度から入射する無偏光光線の平均反射率が、好ましくは25%以下、より好ましくは15%以下である。該平均反射率は低い方が好ましいため、その下限は特に制限されず、0%であってもよい。
この特性(b-2)を満たす本光学部材を用いることで、波長650~800nmの波長域の反射光強度の低減が可能であるため、該反射光に起因する画像不良を解消できる。
【0093】
なお、本発明において、波長A~Bnmの平均反射率は、Anm以上Bnm以下の、1nm刻みの各波長における反射率を測定し、その反射率の合計を、測定した反射率の数(波長範囲、B-A+1)で除すことで算出した値である。
垂直方向から入射する無偏光光線の反射率を測定することは、限りなく困難であるため、本発明では、垂直方向から5°の角度から入射する無偏光光線の反射特性を測定した。
【0094】
「無偏光光線」とは、偏光方向の偏りを持たない光線のことであり、電場が全ての方向に概ね均一に分布している波の集合体のことをいう。「無偏光光線の平均透過率」としては、「S偏光光線の平均透過率」と「P偏光光線の平均透過率」の平均値を用いてもよい。「無偏光光線の平均反射率」としては、「S偏光光線の平均反射率」と「P偏光光線の平均反射率」の平均値を用いてもよい。
【0095】
本光学部材が前記特性(a)および(b-1)または(b-2)を満たすことで、可視光の透過性を良好に維持しながら、近赤外光、特に、波長650~800nmの波長域の反射光強度の低減が可能であるため、近年、高性能化が進むデジタルスチルカメラ等の撮像装置等において、可視光領域の感度低下を最小限に抑えつつ、該反射光に起因する画像不良を解消できる。
【0096】
本光学部材の厚みは、所望の用途に応じて適宜選択すればよいが、近年の固体撮像装置等の薄型化、軽量化等の流れによれば、該本光学部材の厚みも薄いことが好ましい。
本光学部材は、前記基材(i)を含むため、薄型化が可能である。
【0097】
本光学部材の厚みは、好ましくは300μm以下、より好ましくは250μm以下であり、下限は特に制限されないが、例えば、20μmであることが望ましい。
【0098】
(NIR-CF)
前記NIR-CFは、波長850~1200nmの領域におけるカット性能に優れ、可視波長域での透過性に優れる光学部材であることが好ましい。
このNIR-CFで用いる前記誘電体多層膜は、近赤外線反射膜であることが好ましい。
【0099】
NIR-CFを固体撮像素子などに使用する場合、近赤外波長域の透過率は低い方が好ましい。特に、波長800~1200nmの領域は固体撮像素子の受光感度が比較的高いことが知られており、この波長域の透過率を低減させることにより、カメラ画像と人間の目との視感度補正を効果的に行うことができ、優れた色再現性を達成することができる。また、さらに、波長850~1200nmの領域の透過率を低減させることで、セキュリティ認証機能に用いる近赤外光がイメージセンサー等に到達するのを効果的に防ぐことが可能になる。
【0100】
NIR-CFは、波長850~1200nmの領域において、該光学部材の垂直方向から測定した場合の平均透過率が、好ましくは5%以下、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下、特に好ましくは2%以下である。
波長850~1200nmの平均透過率がこの範囲にあると、近赤外線を十分にカットすることができ、優れた色再現性を達成できるため好ましい。
【0101】
NIR-CFを固体撮像素子などに使用する場合、可視光透過率が高い方が好ましい。具体的には、波長430~580nmの領域において、該光学部材の垂直方向から測定した場合の平均透過率が、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは83%以上、特に好ましくは85%以上である。
波長430~580nmの平均透過率がこの範囲にあると、優れた撮像感度を達成することができる。
【0102】
(DBPF)
前記DBPFは、可視光と、近赤外線のうち透過させたい波長の光とを透過し、近赤外線のうちカットしたい波長の光をカットする光学部材であれば特に制限されない。
このDBPFで用いる前記誘電体多層膜は、可視光と、近赤外線のうち透過させたい波長の光とを透過し、近赤外線のうちカットしたい波長の光をカットする膜であることが好ましい。
【0103】
DBPFもNIR-CFと同様に、固体撮像素子などに使用する場合、可視光透過率が高い方が好ましく、前記と同様の理由から、波長430~580nmの平均透過率が、NIR-CFの該平均透過率と同様の範囲にあることが好ましい。
【0104】
(IRPF)
前記IRPFは、可視光をカットし、近赤外線のうち透過させたい波長の光を透過する光学部材であれば特に制限されない。
このIRPFで用いる前記誘電体多層膜は、カットしたい波長の光(可視光および/または近赤外線のうちの一部)をカットする膜であることが好ましい。
また、IRPFは、可視光吸収剤を用いて可視光をカットしてもよい。
【0105】
IRPFは、赤外線監視カメラ、車載赤外線カメラ、赤外線通信、各種センシングシステム、赤外線警報機、暗視装置等の光学系に好適に使用でき、これらの用途に使用する場合、透過させたい近赤外線以外の波長の光の透過率は低い方が好ましい。
特に、波長380~700nmの領域において、本光学部材の垂直方向から測定した場合の透過率の平均値は、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。
【0106】
また、IRPFは、透過させたい近赤外線の透過率は高い方が好ましく、具体的には、波長750nm以上の領域に、光線透過帯Yaを有し、前記光線透過帯Yaにおける、本光学部材の垂直方向から測定した場合の最大透過率(TIR)は、好ましくは45%以上、より好ましくは50%以上である。
【0107】
<光学部材の用途>
本光学部材は、例えば、カットしたい領域の波長の光のカット能と、透過したい波長の光の透過能に優れる。従って、固体撮像装置や光学センサー装置等に好適に用いられ、カメラモジュールのCCDやCMOSイメージセンサー等の固体撮像素子の視感度補正用として特に有用である。具体的には、デジタルスチルカメラ、スマートフォン用カメラ、携帯電話用カメラ、デジタルビデオカメラ、ウェアラブルデバイス用カメラ、PCカメラ、監視カメラ、自動車用カメラ、赤外線カメラ、テレビ、カーナビゲーション、携帯情報端末、ビデオゲーム機、携帯ゲーム機、指紋認証システム、デジタルミュージックプレーヤー、各種センシングシステム、赤外線通信等に有用である。さらに、自動車や建物等のガラス板等に装着される熱線カットフィルターなどとしても有用である。
【0108】
(固体撮像装置)
前記固体撮像装置としては、本光学部材を具備する固体撮像装置が挙げられる。ここで、固体撮像装置とは、CCDやCMOSイメージセンサー等の固体撮像素子を備えた装置であり、具体的にはデジタルスチルカメラ、スマートフォン用カメラ、携帯電話用カメラ、ウェアラブルデバイス用カメラ、デジタルビデオカメラ等が挙げられる。
【0109】
(光学センサー装置)
前記光学センサー装置としては、本光学部材を具備する光学センサー装置が挙げられ、本光学部材を具備すれば特に制限されず、従来公知の構成とすればよい。
例えば、受光素子と本光学部材とを有する装置が挙げられ、具体的には、受光素子(半導体基板)、保護膜、本光学部材および他の光学部材等を有する装置が挙げられる。
【実施例0110】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されない。
【0111】
[実施例1]
重合体(B1-1)100質量部、および、0.4質量部のスクアリリウム1を、得られる組成物中の固形分濃度(TSC)が20質量%となるように溶剤としての化合物(A1)に溶解させることで、組成物を調製した。なお、この実施例1では、溶剤として化合物(A1)のみを使用したため、表5の実施例1の欄の溶剤比「100」は、溶剤として用いたのは、化合物(A1)100質量%であることを示す。
【0112】
ガラス支持体(製品名:「D263Teco」SCHOTT社製、ホウケイ酸塩ガラス、77mm×77mm、厚さ:0.21mm)上に、前記のように調製した直後の組成物をスピンコートで塗布し、ホットプレートを用い、100℃で180秒間乾燥した後、オーブンを用い、大気下160℃で20分間の熱処理をすることで、ガラス支持体上に、厚さ20.2μmの層(D)を有する基材を作製した。
【0113】
前記基材において、層(D)の前記ガラス支持体とは反対側に誘電体多層膜(α)を形成し、さらに、前記ガラス支持体の前記層(D)とは反対側に誘電体多層膜(β)を形成し、厚さ約0.23mmの光学部材を作製した。
【0114】
誘電体多層膜(α)は、蒸着温度100℃で、シリカ(SiO2)層とチタニア(TiO2)層とを交互に積層した光学膜である。誘電体多層膜(β)は、蒸着温度100℃で、シリカ(SiO2)層とチタニア(TiO2)層とを交互に積層した光学膜である。誘電体多層膜(α)および(β)のいずれにおいても、シリカ層およびチタニア層は、基材側からチタニア層、シリカ層、チタニア層、・・・シリカ層、チタニア層、シリカ層の順で交互に積層されており、光学部材の最外層をシリカ層とした。なお、誘電体多層膜(α)および(β)は以下のように設計を行った。
【0115】
各層の厚さと層数については、可視域の良好な透過率と近赤外域の反射性能とを達成できるよう、基材の屈折率の波長依存特性や、使用した近赤外線吸収色素(C)の吸収特性に合わせて、光学薄膜設計ソフト(Essential Macleod、Thin Film Center社製)を用いて最適化を行った。最適化を行う際、本実施例においてはソフトへの入力パラメータ(Target値)を下記表1の通りとした。
【0116】
【0117】
膜構成最適化の結果、実施例1では、誘電体多層膜(α)は、物理膜厚約31~157nmのシリカ層と、物理膜厚約10~95nmのチタニア層とが交互に積層されてなる、積層数26層の多層蒸着膜とし、誘電体多層膜(β)は、物理膜厚約38~199nmのシリカ層と、物理膜厚約12~117nmのチタニア層とが交互に積層されてなる、積層数20層の多層蒸着膜とした。以下、この多層蒸着膜(の設計)を設計1という。最適化を行った膜構成の一例を下記表2に示す。
【0118】
【0119】
[実施例2~11および比較例1~7]
下記表5に示す各成分を、下記表5に示す量(数値、質量部)で用い、得られる組成物中の固形分濃度(TSC)が下記表5に示す濃度となるように、下記表5に示す化合物(A)および化合物(A)以外の溶剤(その他の溶剤)を用いた以外は実施例1と同様にして、組成物を調製した。
また、調製した直後の組成物を用いて、得られる層(D)の膜厚が下記表5に示す厚さとなるように変更した以外は実施例1と同様にして、基材を作製した。さらに、一部の試験については、実施例1に記載の方法と同じ設計1で、また、他の試験については、下記設計2とした以外は、実施例1と同様にして、得られた基材に誘電体多層膜を設けることで、光学部材を作製した。
なお、例えば、表5における実施例8の欄の溶剤比は、化合物(A3)、化合物(A4)および化合物(a3)の質量比が、化合物(A3):化合物(A4):化合物(a3)=60:30:10であることを意味する。また、例えば、表5における実施例11の欄のB2-1:B2-3=30:70は、重合体B2-1と重合体B2-3との質量比が30:70であることを意味する。同様の記載は同様の意味である。
【0120】
また、表5中の色素(C)含有量の欄は、重合体(B)100質量部に対する、用いた近赤外線吸収色素(C)の総量を示す。なお、実施例5では、0.8質量部のスクアリリウム1と2.0質量部のポリメチン1とを用い、実施例6では、0.4質量部のスクアリリウム1と0.8質量部のジイモニウム1とを用い、実施例7では、1.0質量部のポリメチン1と0.5質量部の金属ジチオラート1とを用い、実施例8では、1.0質量部のポリメチン1と0.5質量部の金属ジチオラート1とを用い、実施例9では、1.0質量部のその他の有機色素3と1.0質量部のその他の有機色素4と0.7質量部のその他の有機色素5と0.5質量部の金属ジチオラート1とを用い、比較例5では、0.4質量部のスクアリリウム1と0.5質量部の金属ジチオラート1とを用いた。
【0121】
・設計2
下記表5に示す設計2で表される誘電体多層膜は、前記誘電体多層膜(α)の代わりに、誘電体多層膜(γ)とし、前記誘電体多層膜(β)の代わりに、誘電体多層膜(δ)とし、下記表3の入力パラメータ(Target値)の通り、膜構成の最適化を行った下記表4に示す設計の誘電体多層膜である。
【0122】
【0123】
【0124】
<吸光度変化>
・遮光下における吸光度変化
実施例1~11および比較例1~7で作製した基材の主面に対し垂直に入射する光の分光透過率を、日本分光(株)製の分光光度計(V-7200)を用いて測定し、波長650~1200nmの領域での吸収極大波長における吸光度Absλmaxを求めた。
【0125】
さらに、実施例1~11および比較例1~7で調製した各組成物を、密閉ガラス容器内に入れ、遮光下、25℃の恒温槽で72時間保管した。このように保管後の組成物を用いた以外は、前記実施例1~11および比較例1~7と同様にして、基材を作製した。
作製した基材の分光透過率を前記と同様に測定し、波長650~1200nmの領域での吸収極大波長における吸光度Absλmax[72hr、遮光下]を求め、吸光度の変化値ΔAbs(72hr、遮光下)(%)を以下の式から算出した。
ΔAbs(72hr、遮光下)={(Absλmax)-(Absλmax[72hr、遮光下])}/(Absλmax)×100
【0126】
評価は、ΔAbs(72hr、遮光下)が2%未満であれば「1」、2%以上4%未満であれば「2」、4%以上6%未満であれば「3」、6%以上10%未満であれば「4」、10%以上13%未満であれば「5」、13%以上15%未満であれば「6」、15%以上18%未満であれば「7」、18%以上であれば「8」とした。その結果、実施例1におけるΔAbs(72hr、遮光下)は「3」であった。結果を表5に示す。
【0127】
・蛍光灯下における吸光度変化
また、実施例1~11および比較例1~7で調製した各組成物を、密閉ガラス容器内に入れ、蛍光灯に曝した状態で25℃の恒温槽で72時間保管した。このように保管後の組成物を用いた以外は、前記実施例1~11および比較例1~7と同様にして、基材を作製した。
作製した基材の分光透過率を前記と同様に測定し、波長650~1200nmの領域での吸収極大波長における吸光度Absλmax[72hr、蛍光灯下]を求め、吸光度の変化値ΔAbs(72hr、蛍光灯下)(%)を以下の式から算出した。
ΔAbs(72hr、蛍光灯下)={(Absλmax)-(Absλmax[72hr、蛍光灯下])}/(Absλmax)×100
【0128】
評価は、ΔAbs(72hr、蛍光灯下)が2%未満であれば「1」、2%以上4%未満であれば「2」、4%以上6%未満であれば「3」、6%以上10%未満であれば「4」、10%以上13%未満であれば「5」、13%以上15%未満であれば「6」、15%以上18%未満であれば「7」、18%以上であれば「8」とした。その結果、実施例1におけるΔAbs(72hr、蛍光灯下)は「4」であった。結果を表5に示す。
【0129】
<異物欠陥>
異物欠陥は、ケーエルエー・テンコール(株)製の欠陥検査装置(KLA2351)を用い、以下の方法で評価した。
まず、シリコンウエハー上に、実施例1~11および比較例1~7で調製した直後の各組成物を、乾燥膜厚が10μmとなるように塗布した後、100℃で3分間加熱処理を行い乾燥し、次いで、160℃で20分間加熱処理することにより欠損検査用ウエハーを作製した。
次いで、作製した欠損検査用ウエハーについて、ケーエルエー・テンコール(株)製の欠陥検査装置(KLA2351)により、寸法3μm以上の現像欠陥の数を検査した。現像欠陥の数の検査は、アレイモードで観察して、比較イメージとピクセル単位の重ね合わせによって生じる差異から抽出されるクラスターおよびアンクラスターの欠陥数を検出することにより行った。
【0130】
評価は、95mm角相当の範囲における3μm以上の欠陥数が50個未満であれば「0」、欠陥数が50個以上80個未満であれば「0.5」、欠陥数が80個以上100個未満であれば「1」、欠陥数が100個以上200個未満であれば「2」、欠陥数が200個以上であれば「4」と判断した。その結果、実施例1における異物欠陥は「2」であった。結果を表5に示す。
【0131】
<分光透過率>
得られた光学部材について、波長300~1200nmにおける、光学部材の主面に対し垂直方向から入射した光を測定した分光透過率および光学部材の主面に対し30°の角度から入射した光を測定した分光透過率を、誘電体多層膜(β)または誘電体多層膜(δ)側を光源の入射面、誘電体多層膜(α)または誘電体多層膜(γ)側を出射面として、日本分光(株)製の分光光度計(V-7200)を用いて測定した。実施例1~11で得られた光学部材の分光透過率スペクトルを
図1~11に示す。また、比較例1~7で得られた光学部材の分光透過率スペクトルを
図12~18に示す。
【0132】
【0133】
なお、表5中に示す各成分の詳細は以下の通りである。
【0134】
<化合物(A)>
・化合物(A1):メトキシシクロヘキサン
・化合物(A2):1-メトキシ-4-メチルシクロヘキサン
・化合物(A3):シクロペンチルメチルエーテル
・化合物(A4):酢酸シクロヘキシル
【0135】
<化合物(A)以外の溶剤>
・化合物(a1):シクロペンタノン
・化合物(a2):プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
・化合物(a3):メシチレン
・化合物(a4):ジクロロベンゼン
【0136】
<重合体(B)>
・重合体(B1-1):環状オレフィン系樹脂(製品名「ARTON R5000」、JSR(株)製)
・重合体(B1-2):ポリアリレート系樹脂(製品名「Unifiner M-2040H」、ユニチカ(株)製)
・重合体(B2-1):以下の合成例1に従って合成したアクリル系樹脂
・重合体(B2-2):以下の合成例2に従って合成したアクリル系樹脂
・重合体(B2-3):以下の合成例3に従って合成したアクリル系樹脂
【0137】
[合成例1]重合体(B2-1)の合成
冷却管と撹拌機とを備えたフラスコに、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)が7質量部およびジエチレングリコールエチルメチルエーテルが200質量部となるように予め仕込んだ。そこに、メタクリル酸20質量%、メタクリル酸グリシジル30質量%、およびメタクリル酸メチル50質量%を含む不飽和混合物を100質量部投入し、窒素置換した後、ゆるやかに撹拌を始めた。溶液の温度を70℃に上昇させ、この温度を4時間保持し重合を終結させた。その後、反応生成溶液を多量のメタノールに滴下し、反応物を凝固させた。得られた凝固物を60℃で2日間真空乾燥し、重合体(B2-1)を得た。
【0138】
[合成例2]重合体(B2-2)の合成
冷却管と撹拌機とを備えたフラスコに、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)が4質量部およびシクロペンタノンが200質量部となるように予め仕込んだ。そこに、メタクリル酸12質量%、メタクリル酸グリシジル8質量%、メタクリル酸1-アダマンチル32質量%、メタクリル酸ジシクロペンタニル23質量%、および4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル25質量%を含む不飽和混合物を100質量部投入し、窒素置換した後、ゆるやかに撹拌を始めた。溶液の温度を70℃に上昇させ、この温度を5時間保持し重合を終結させた。その後、反応生成溶液を多量のメタノールに滴下し、反応物を凝固させた。得られた凝固物を60℃で2日間真空乾燥し、重合体(B2-2)を得た。
【0139】
[合成例3]重合体(B2-3)の合成
冷却管と撹拌機とを備えたフラスコに、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)が4質量部およびシクロペンタノンが200質量部となるように予め仕込んだ。そこに、メタクリル酸12質量%、メタクリル酸1-アダマンチル31質量%、メタクリル酸ジシクロペンタニル22質量%、および4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル35質量%を含む不飽和混合物を100質量部投入し、窒素置換した後、ゆるやかに撹拌を始めた。溶液の温度を70℃に上昇させ、この温度を5時間保持し重合を終結させた。その後、反応生成溶液を多量のメタノールに滴下し、反応物を凝固させた。得られた凝固物を60℃で2日間真空乾燥し、重合体(B2-3)を得た。
【0140】
<近赤外線吸収色素(C)>
・スクアリリウム1:下記式(スクアリリウム-1)で表される化合物(ジクロロメタン中で測定した吸収極大波長710nm)
【0141】
【0142】
・ポリメチン1:下記式(ポリメチン-1)で表される化合物(ジクロロメタン中で測定した吸収極大波長770nm)
【0143】
【0144】
・ジイモニウム1:ジイモニウム系色素(製品名CiR-1085-RL、日本カーリット(株)製)(ジクロロメタン中で測定した吸収極大波長1095nm)
【0145】
・金属ジチオラート1:下記式(金属ジチオラート-1)で表される化合物(ジクロロメタン中で測定した吸収極大波長1010nm)
【0146】
【0147】
・その他の有機色素3:下記式(色-3)で表される化合物(ジクロロメタン中で測定した吸収極大波長464nm)
【0148】
【0149】
・その他の有機色素4:下記式(色-4)で表される化合物(ジクロロメタン中で測定した吸収極大波長606nm)
【0150】
【0151】
・その他の有機色素5:下記式(色-5)で表される化合物(ジクロロメタン中で測定した吸収極大波長551nm)
【0152】