(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155803
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】溶解特性を調整可能な電解質溶媒、その製造方法及び応用
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0569 20100101AFI20241024BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241024BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20241024BHJP
【FI】
H01M10/0569
H01M10/052
H01M10/054
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024066385
(22)【出願日】2024-04-16
(31)【優先権主張番号】112114510
(32)【優先日】2023-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】503416331
【氏名又は名称】國立臺灣科技大學
(74)【代理人】
【識別番号】100185694
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 隆志
(72)【発明者】
【氏名】▲黄▼炳照
(72)【発明者】
【氏名】特▲ト▼林特沙格梅孔寧
(72)【発明者】
【氏名】楊盛▲強▼
(72)【発明者】
【氏名】蘇威年
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AM03
5H029AM07
5H029CJ12
5H029HJ02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】溶解特性を調整可能な電解質溶媒、その製造方法及び応用を提供する。
【解決手段】下記式で表される化学構造を含む、溶解特性を調整可能な電解質溶媒とする。
(式中、Aは酸素、硫黄、セレン、テルル、またはそれらの組み合わせであり、Bは1、2または3個の置換されたハロゲン、ニトリル基、ニトロ基、ニトロソ基、アミン基、またはそれらの組み合わせである。)本発明の電解質溶媒は、電解質工程を通じて、アニオンを豊富に含む溶媒を良好な溶解作用を有するように調整し、弱い溶解度特性を有する溶媒を開発および合成し、電池性能を大幅に向上させ、その溶媒は、製造コストが低い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化学構造を含む、溶解特性を調整可能な電解質溶媒。
【化1】
(式1)
式(1)中、Aは酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、またはそれらの組み合わせであり、Bは1、2または3個の置換されたハロゲン、ニトリル基(CN)、ニトロ基(NO
2)、ニトロソ基(NO)、アミン基(NH
2)、またはそれらの組み合わせである。
【請求項2】
2つの式(1)により対称的に形成され、下記式(2)で表される化学構造を含む、請求項1に記載の溶解特性を調整可能な電解質溶媒。
【化2】
(式2)
式(2)中、Aは酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、またはそれらの組み合わせであり、Bは1、2または3置換されたハロゲン、ニトリル基(CN)、水素(H)、ニトロ基(NO
2)、ニトロソ基(NO)、アミン基(NH
2)またはそれらの組み合わせである。
【請求項3】
下記式(4)と式(5)の化学構造を反応させ、式(5)と式(4)を二重結合箇所で結合し、式(6)の化学構造を得るステップと、
式(6)では、元の式(5)と式(4)の結合箇所に再度二重結合を形成し、エチル基とA
‐により形成される式(7)で表される化学構造を除去した後、請求項1の式(1)に記載の溶解特性を調整可能な電解質溶媒を得るステップと、
を含む、溶解特性を調整可能な電解質溶媒の製造方法。
【化3】
(式4)
【化4】
(式5)
【化5】
(式6)
C
2H
5A
‐…式(7)
ここで、Aは酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、またはそれらの組み合わせであり、Bは1、2または3個の置換されたハロゲン、ニトリル基(CN)、ニトロ基(NO
2)、ニトロソ基(NO)、アミン基(NH
2)、またはそれらの組み合わせである。
【請求項4】
下記式(8)と2つの式(5)の化学構造を反応させ、式(8)と式(5)を結合し、式(9)で表される化学構造を得るステップと、
式(9)では、元の式(8)と式(5)の結合箇所に再度二重結合を形成し、2つのエチル基とA
‐により形成される式(7)で表される化学構造を除去した後、請求項2の式(2)に記載の化学構造を得るステップと、
を更に含む、請求項3に記載の溶解特性を調整可能な電解質溶媒の製造方法。
【化6】
(式8)
【化7】
(式9)
ここで、Aは酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、またはそれらの組み合わせであり、Bは1、2または3置換されたハロゲン、ニトリル基(CN)、水素(H)、ニトロ基(NO2)、ニトロソ基(NO)、アミン基(NH2)またはそれらの組み合わせである。
【請求項5】
請求項1または2に記載の溶解特性を調整可能な電解質溶媒を含む、電気化学装置。
【請求項6】
前記電気化学装置は、金属電池を含む、請求項5に記載の電気化学装置。
【請求項7】
前記金属電池は、リチウム電池、ナトリウム電池、マグネシウム電池、亜鉛電池、またはアルミニウム電池を含む、請求項6に記載の電気化学装置。
【請求項8】
前記金属電池は、金属、金属イオン、及び金属と金属イオンの混合電池を含む、請求項6または7に記載の電気化学装置。
【請求項9】
前記電気化学装置は、アノードフリー電池を含む、請求項5に記載の電気化学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質溶媒、特に電気化学装置に応用される電解質溶媒に関する。本発明に記載の電解質溶媒の主な応用は、様々な電気化学電池であり、この主な応用について以下に説明及び詳述する。しかしながら、本発明は、電気化学電池での使用に限定されず、他の適用可能な電気化学装置も本発明の範囲に属する。
【背景技術】
【0002】
リチウム金属電池(Lithium Metal Batteries,LMBs)は、エネルギー密度が高いため、次世代電気自動車およびエネルギー貯蔵装置の重要な研究方向となっている。しかし、制御不能な樹枝状リチウムの成長、リチウムめっき剥離の不可逆性及び界面の不適合性により、すぐにサイクル寿命が短くなり、クーロン効率が低下し、LMBsの実用化が妨げられる。
【0003】
カーボネート溶媒などの従来のLMBsカーボネートベースの電解質溶媒では、リチウムイオンは、カーボネート溶媒分子と配位して溶解(Solvation)できるが、カーボネート溶媒には、過剰な遊離炭酸溶媒(Free Solvent)を含み、溶媒分離イオン対(Solvent-separated Ion Pair, SSIP)を形成し、負極表面に有機酸化物の不良固体電解質界面(Solid Electrolyte Interface,SEI)が形成され、その後のLMBsの性能が大幅に低下する。リチウム塩の濃度が増加し、遊離溶媒が減少すると、間違いなく電解液のコストが増加し、高濃度の電解質によるさらなる問題が引き起こされる。
【0004】
これに鑑み、現在、従来の電解質溶媒が過剰な遊離溶媒を含むことによって生じる電気化学電池の電気損失の問題を解決可能にすることが緊急に必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これに鑑み、上記の問題を解決し、LMBsの寿命を延ばすために、最も効率的な方法は、電解質溶媒工程を改善して、アノード表面に強力で均一な導電性SEI層を形成することであり、このSEI層は、LMBsの電気化学性能を潜在的に向上させ、急速充電と幅広い動作温度を実現し、将来のさまざまな市場の要求を満たす。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記式(1)で表される化学構造を含む、溶解特性を調整可能な電解質溶媒を提供する。
【化8】
(式1)
式(1)中、Aは酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、またはそれらの組み合わせであり、Bはハロゲン、ニトリル基(CN)、水素(H)、ニトロ基(NO
2)、ニトロソ基(NO)、アミン基(NH
2)、またはそれらの組み合わせである。
【0007】
更に、本発明は、2つの式(1)により対称的に形成され、下記式(2)で表される化学構造を含む、溶解特性を調整可能な電解質溶媒を提供する。
【化9】
(式2)
ここで、Aは酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、またはそれらの組み合わせであり、Bはハロゲン、ニトリル基(CN)、水素(H)、ニトロ基(NO
2)、ニトロソ基(NO)、アミン基(NH
2)またはそれらの組み合わせである。
【0008】
更に、本発明は、下記式(3)で表される化学構造を含む、別の溶解特性を調整可能な電解質溶媒を提供する。
【化10】
(式3)
ここで、Aは酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、またはそれらの組み合わせであり、Bはハロゲン、ニトリル基(CN)、水素(H)、ニトロ基(NO
2)、ニトロソ基(NO)、アミン基(NH
2)またはそれらの組み合わせである。
【0009】
更に、前述の式(1)の溶解特性を調整可能な電解質溶媒の合成製造方法は、
下記式(4)と式(5)の化学構造を反応させ、式(5)と式(4)を二重結合箇所で結合し、式(6)の化学構造を得るステップと、
式(6)では、元の式(5)と式(4)の結合箇所に再度二重結合を形成し、エチル基とA
‐により形成される式(7)で表される化学構造を除去した後、請求項1の式(1)に記載の溶解特性を調整可能な電解質溶媒を得るステップと、
を含む。
【化11】
(式4)
【化12】
(式5)
【化13】
(式6)
C
2H
5A
‐…式(7)
ここで、Aは酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、またはそれらの組み合わせであり、Bはハロゲン、ニトリル基(CN)、水素(H)、ニトロ基(NO
2)、ニトロソ基(NO)、アミン基(NH
2)、またはそれらの組み合わせである。
【0010】
更に、前述の式(2)に対応する溶解特性を調整可能な電解質溶媒の製造方法は、
下記式(8)と2つの式(5)の化学構造を反応させ、式(8)と式(5)を結合し、式(9)で表される化学構造を得るステップと、
式(9)では、元の式(8)と式(5)の結合箇所に再度二重結合を形成し、2つのエチル基とA
‐により形成される式(7)で表される化学構造を除去した後、請求項2の式(2)に記載の化学構造を得るステップと、
を含む。
【化14】
(式8)
【化15】
(式9)
ここで、Aは酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、またはそれらの組み合わせであり、Bはハロゲン、ニトリル基(CN)、水素(H)、ニトロ基(NO
2)、ニトロソ基(NO)、アミン基(NH
2)またはそれらの組み合わせである。
【0011】
本発明は、前述の溶解特性を調整可能な電解質溶媒を各種電気化学装置に応用し、例えば、各種金属電池である。
【0012】
好ましくは、前記金属電池は、リチウム電池、ナトリウム電池、マグネシウム電池、亜鉛電池、またはアルミニウム電池を含み、同時に金属、金属イオン、及び金属と金属イオンの混合電池も含む。
【発明の効果】
【0013】
上記の説明から、本発明は以下の有益な効果および利点を有することが分かる。
1.本発明は、電解質工程を通じて、アニオンを豊富に含む溶媒を良好な溶解(Solvation)作用を有するように調整し、弱い溶解度特性を有する溶媒を開発および合成し、電池性能を大幅に向上させ、その溶媒は、製造コストが低い。本発明の技術は、リチウムの成長パターンを制御することができ、急速充電時のリチウム電池の安全性の向上にも役立ち、各種金属/金属イオン/金属および金属イオンの混合電池などの様々な電気化学装置に拡張される。
2.本発明によって提供される電解質溶媒は、負極の表面に金属を析出させ、有用な固体電解質界面を形成するのに役立つだけでなく、金属塩のアニオンと良好な相互作用を有し、正極に不良を抑制するカソード電解質界面(Cathode Electrode Interface,CEI)が生成される。金属塩の濃度を高める必要がなく、金属/金属イオン/金属および金属イオンの混合電池の寿命と安全性を大幅に延長し、電解液全体のコストを低減する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の好適実施例1の合成製造方法の好適実施例のフローチャートである。
【
図2】本発明の好適実施例2の合成製造方法の好適実施例のフローチャートである。
【
図3A】対応する実施例2-1及び2-2の化学構造の各原子の静電ポテンシャル分布図(Electrostatic Potential Distribution,ESP)である。
【
図3B】対応する実施例2-1及び2-2の化学構造の各原子の静電ポテンシャル分布図(Electrostatic Potential Distribution,ESP)である。
【
図4】本発明の実施例2‐1の水素核磁気共鳴スペクトルを示す図である。
【
図5】本発明の実施例2-1及び比較例をアノードフリーリチウム金属電池に適用したクーロン効率及び静電容量保持率の結果を示す図である。
【
図6】本発明の実施例2-1をLi||NMCリチウム金属半電池に適用したサイクル寿命性能を示す図である。
【
図7A】
図5のCu||NMC電池に対応する本発明の実施例2‐1及び比較例を用いた充放電後に観察された負極表面の電子顕微鏡画像である。
【
図7B】
図5のCu||NMC電池に対応する本発明の実施例2‐1及び比較例を用いた充放電後に観察された負極表面の電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施例の技術案をより明確に説明するため、以下では、実施例の説明に必要な図面を簡単に紹介する。当然のことながら、以下の説明における図面は、本発明の一部の例示または実施例にすぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。文脈から明らかでない限り、または特に説明がない限り、図中の同じ部材符号は同じ構造または動作を表す。
【0016】
本発明は、以下において、幾つかの好適実施例により技術詳細の説明を行うが、図面は、本発明の一部の例示的代表又は実施例に過ぎず、当業者にとって創造性の労力を費やさない前提で、更にこれら図面に基づいて本発明を他の類似の場面に応用することができる。
【0017】
以下、本発明で使用される「システム」、「装置」、「ユニット」および/または「モジュール」は、異なる級別の異なるコンポーネント、部材、部品、部分又はアセンブリを区別する方法であることを理解されたい。但し、他の用語で同じ目的を達成できる場合は、その用語を他の表現に置き換えることができる。本発明に示されているように、文脈に明確に例外が示されている場合を除き、「一」、「1つ」、「1種」および/または「前記」等の用語は、単数に限定するものではなく、複数も含み得る。一般的に、「備える」及び「含む」という用語は、明確に識別されたステップおよび要素を含むことを示唆するだけであり、これらのステップおよび要素は排他的なリストを構成するものではなく、方法またはシステムも他のステップまたは要素を含み得る。
【0018】
本発明では、フローチャートを使用して本発明の実施例によるシステムが行う動作を説明する。前後の動作は必ずしも順に従って正確に実行されるわけではないことを理解する必要がある。反対に、各ステップを逆の順序で、または同時に処理してもよい。同時に、これらのプロセスに他の操作を追加するか、これらのプロセスから1つまたは複数のステップを除いてもよい。
【0019】
本発明で述べる溶解または溶媒化(Solvation)とは、化学溶液中の溶媒によって生じる一連の化学反応を指し、化学反応の反応速度、反応バランス、溶解度、安定性、さらには反応機構にさえ影響を与える。したがって、本発明は、溶液中の全体的な反応に対して調整可能な特性を備えた電解質溶媒である。
【0020】
<溶解特性を調整可能な電解質溶媒の実施例1>
本発明の溶解(Solvation)特性を調整可能な電解質溶媒の実施例1は、下記式(1)に示す化学構造式を有する。
【化16】
式(1)
式(1)中、Aは酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、またはそれらの組み合わせであり、Bはハロゲン、ニトリル基(CN)、水素(H)、ニトロ基(NO
2)、ニトロソ基(NO)、アミン基(NH
2)、またはそれらの組み合わせである。
【0021】
式(1)に示されていない元素は炭素元素(C)である。前記ハロゲンとしては、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、アスタチン(At)などが挙げられる。式(1)に示されていない元素は炭素元素(C)であり、特に示さない限り、炭素元素は水素(H)と結合しており、同時に、本発明の特性に影響を与えることなく、これらの炭素元素は炭素単結合、炭素二重結合、または炭素三重結合によって他の元素または官能基に結合することができ、ここでは限定されない。
【0022】
<溶解特性を調整可能な電解質溶媒の実施例2>
本発明の溶解(Solvation)特性を調整可能な電解質溶媒の実施例2は、下記式(2)に示す化学構造式を有し、上記実施例1の式(1)の対称構造である。
【化17】
式(2)
式(2)中、Aは酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、またはそれらの組み合わせであり、Bはハロゲン、ニトリル基(CN)、水素(H)、ニトロ基(NO
2)、ニトロソ基(NO)、アミン基(NH
2)、またはそれらの組み合わせである。
【0023】
式(2)に示されていない元素は炭素元素(C)であり、特に示さない限り、炭素元素は水素(H)と結合しており、同時に、本発明の特性に影響を与えることなく、これらの炭素元素は炭素単結合、炭素二重結合、または炭素三重結合によって他の元素または官能基に結合することができ、ここでは限定されない。
【0024】
<溶解特性を調整可能な電解質溶媒の実施例3>
本発明の溶解(Solvation)特性を調整可能な電解質溶媒の実施例3は、下記式(3)に示す化学構造式を有する。
【化18】
式(3)
式(3)中、Aは酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、またはそれらの組み合わせであり、Bはハロゲン、ニトリル基(CN)、水素(H)、ニトロ基(NO
2)、ニトロソ基(NO)、アミン基(NH
2)、またはそれらの組み合わせである。
【0025】
式(3)に示されていない元素は炭素元素(C)であり、特に示さない限り、炭素元素は水素(H)と結合しており、同時に、本発明の特性に影響を与えることなく、これらの炭素元素は炭素単結合、炭素二重結合、または炭素三重結合によって他の元素または官能基に結合することができ、ここでは限定されない。
【0026】
以下の表1を参照し、前述の溶解(Solvation)特性を調整可能な電解質溶媒の実施例2、実施例3のいくつかの好ましい化学構造式の実施例の説明と、その名称が示されている。以下の各実施例において、示されていない元素は炭素(C)であり、特に示さない限り、炭素元素は水素(H)と結合しており、同時に、本発明の特性に影響を与えることなく、これらの炭素は炭素単結合、炭素二重結合、または炭素三重結合によって他の元素または官能基に結合することができ、ここでは限定されない。
【0027】
【0028】
<溶解特性を調整可能な電解質溶媒の製造方法の実施例1>
本発明の好適実施例1の合成製造方法の好適実施例は、そのステップは、以下を含む。
ステップS1‐1)
図1を参照し、式(4)および式(5)の化学構造を使用して反応を行い、式(5)の負に帯電したA
‐と式(4)の正に帯電した二重結合が反応して、式(4)の正に帯電した二重結合に単結合を形成させ、式(5)と式(4)を結合させ、式(6)の化学構造を得る。
【化19】
式(4)
【化20】
式(5)
【化21】
式(6)
【0029】
ステップS1‐2)式(6)において、元の式(5)と式(4)の結合箇所に再度二重結合が形成され、エチル基とA‐により形成される式(7)で表される化学構造を除去した後、本発明の式(1)で表される好適実施例1の化合物を得る。
C2H5A-…式(7)
ここで、Aは酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)またはそれらの組み合わせであり、Bはハロゲン、ニトリル基(CN)、水素(H)、ニトロ基(NO2)、ニトロソ基(NO)、アミン基(NH2)、またはそれらの組み合わせであり、単結合に示されていない元素は炭素元素(C)である。式(5)におけるAH基は、上記代理記号Aの元素と水素(H)とにより形成される官能基である。
【0030】
<溶解特性を調整可能な電解質溶媒の製造方法の実施例2>
本発明の好適実施例2の合成製造方法の好適実施例は、そのステップは、以下を含む。
ステップS2‐1)
図2を参照し、式(8)および式(5)の化学構造を使用して反応を行い、式(5)の負に帯電したA
‐と式(8)の正に帯電した二重結合が反応して、式(8)の二箇所の正に帯電した二重結合に単結合を形成させ、式(8)と式(5)を結合させ、式(9)の化学構造を得る。
【化22】
式(8)
【化23】
式(9)
【0031】
ステップS2‐2)式(8)において、元の式(8)と式(5)の結合箇所に再度二重結合が形成され、エチル基とA‐により形成される式(7)で表される化学構造を除去した後、本発明の式(2)で表される好適実施例1の化合物を得る。同様に、本実施例の各化学式において、Aは酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)またはそれらの組み合わせであり、Bはハロゲン、ニトリル基(CN)、水素(H)、ニトロ基(NO2)、ニトロソ基(NO)、アミン基(NH2)、またはそれらの組み合わせであり、単結合に示されていない元素は炭素元素(C)である。
【0032】
本発明の好ましい実施例製造方法は、具体的には次のように実施することができる。
12gのDES、10.05gの2,2‐ジフルオロエタノール、2.75gのトリエチルアミン(TEA、Et3N)および20mlの無水アセトンを250mlの丸底フラスコに加え、溶液を0℃に冷却し、氷浴中で10分間撹拌する。混合物を10mlの無水ジクロロメタン(DCM)と混合し、フラスコに滴下した。添加が完了したら、氷浴を取り外し、懸濁液を室温まで温める。反応混合物を室温で48時間撹拌した。反応が完了した後、5mlの脱イオン水を懸濁液にゆっくりと加えてすべての固体を溶解する。DCM層を分離し、塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウム(MgSO4)で乾燥させ、溶媒を真空下で除去した。原料を約80℃の温度で3回蒸留して、重量約19.62gの無色の液体を収率89%で得た。合成後、本発明を10重量%の活性化モレキュラーシーブと混合し、アルゴンを充填したグローブボックス(Vigor、酸素<0.5ppm、水<0.1ppm)内に室温で保管した。カールフィッシャー(Karl-Fisher)滴定法により測定した本発明の水含有量は、70ppm以下である。
【0033】
<妥当性試験>
本発明によって提供される溶解特性を調整可能な電解質溶媒は、好ましくは、電気化学装置、例えば、電気化学電池における電解質の溶媒などに使用される。
図3A、
図3Bは、前述の表1の実施例2-1及び2-2の化学構造の各原子の静電ポテンシャル分布図(Electrostatic Potential Distribution,ESP)であり、
図3Aおよび
図3Bの濃淡色領域(カラー図では赤色の領域)には、C=O及びF、Iなどの負の電位位置を有し、最適な位置はC=OとF、Iとの間であり、これは溶媒と電解質金属塩中の金属イオンであり、例えば、リチウム塩中のイオン(Li
+)の最適溶解領域(Solvation Coordination)は、金属イオンが負極上に緻密で導電性に優れた固体電解質界面(SEI)を生成するのに役立ち、金属の析出に有利である。
図3の最も色が濃い領域(カラー図では青色の領域)は、CH
3などの正の電位位置であり、リチウム塩などの電解質中の金属塩の負電荷と良好な作用力を有し、正極箇所において正極電解質界面(CEI)での安定化に役立つ。同様の概念で、他のリチウム塩のカチオン(Li)および対応するアニオンは、それぞれ本発明の溶媒分子の正電位および負電位で安定化することができる。本発明は、A、B元素を適切に選択することにより、電気化学装置の負極表面に金属を析出させ、有益な固体電解質界面(SEI)を形成するのに役立ち、同時に、金属塩のアニオンと良好な相互作用を有し、正極での不良なカソード電解質界面(CEI)の形成を抑制する。
【0034】
図4は、本発明の前述の表1の実施例2‐1(DFES)に対応する水素核磁気共振スペクトル(
1H‐NMR Spectrum)であり、
図4から分かるように、本発明の実施例の化学構造では、X、Y、Zを標記した構造は、確かに対応する化学シフトピークが現れるため、本発明が前述の合成調製方法によって首尾よく合成され、提唱する化学構造を有することが確認できる。
【0035】
図5は、本発明の前述の表1の実施例2‐1に対応する溶解特性を調整可能な電解質溶媒と、比較例としてのエチレンカーボネート(EC)およびジエチルカーボネート(DEC)の溶媒を用い、アノードレス電池であるCu||NMCリチウム金属電池に応用し、その電解質中のリチウム塩をリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)とし、クーロン効率と容量保持率を過充電(4.5V)で測定した結果である。
図5に示す結果から分かるように、本発明の実施例2‐1のクーロン効率は、過充電という過酷なテスト環境下であっても、充放電を40サイクル行った後で依然として100%に近い平均クーロン効率(ACE)を維持しており、これに比較して、比較例では90%以下まで低下している。容量保持率(CR)は、本発明の実施例の40サイクルの充放電後でも依然として少なくとも55%を維持しているが、比較例の容量は0%であり、本発明が確かにリチウム金属電池の電気特性を維持できることを示している。
【0036】
図6は、本発明の前述の表1の実施例2‐1に対応する溶解特性を調整可能な電解質溶媒をLi||NMCリチウム金属半電池に応用し、その電解質中のリチウム塩をリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)とした、過充電(4.5V)でのサイクル寿命性能である。
4.5V過充電の過酷な条件下でも、200サイクルの充放電後でも依然として99.78%の平均クーロン率(ACE)を維持し、195サイクル目で77.54%の容量保持率(CR)を維持し、本発明が確かに電池の電気特性を延長または維持できることを示している。
【0037】
図7A、
図7Bは、前述の
図5に対応するCu||NMC電池であり、本発明の前述の表1の実施例2‐1の溶解特性を調整可能な電解質溶媒、及び比較例としてのエチレンカーボネート(EC)およびジエチルカーボネート(DEC)の溶媒を使用し、充放電後に観測した負極表面の電子顕微鏡画像(SEM)である。
図7Aの本発明の実施例2‐1の負極の表面は滑らかで緻密であり、緻密なリチウム金属と固体電解質界面(SEI)が形成されることを示しており、この特性は電池の電気的特性と寿命を延ばすのに有利である。一方、
図7Bの比較例の表面は、粗くて緩んでいて、かなりの量のリチウムデンドライトまたは死んだリチウムが形成されていることを示しており、これらのリチウムデンドライトまたは死んだリチウムは電気化学反応に使用できず、最終的に電池の電気的特性と寿命が低下する。
【0038】
<溶解特性を調整可能な電解質溶媒の応用>
本発明によって提供される溶解特性を調整可能な電解質溶媒は、例えば、電気化学電池における電解質溶媒などの電気化学装置に好ましく使用することができる。応用可能な電気化学電池には、リチウム電池、ナトリウム電池、マグネシウム電池、亜鉛電池またはアルミニウム電池等が含まれ、好ましくは、前述の金属電池、金属イオン電池、および混合電池が含まれる。
【0039】
上記の説明では、一部の実施例において成分、属性の数量を説明するために数字が使用されているが、実施例の説明に使用される数字は、一部の例では修飾語「約」、「ほぼ」、または「実質的に」を使用して修飾していることを理解されたい。特に明記しない限り、「約」、「ほぼ」、または「実質的に」は、記載された数値が±20%の変動を許容されることを意味する。したがって、一部の実施例では、明細書および特許請求の範囲で使用される数値パラメータは、各実施例の望ましい特性に応じて変化し得る近似値である。一部の実施例では、数値パラメータは、所定の有効桁数を考慮し、一般的桁数を保留する方法を使用する必要がある。本発明の一部の実施例でその範囲の広さを確認するために使用される数値フィールドおよびパラメータは近似値であるが、具体的実施例では、そのような数値は、実行可能な範囲内で可能な限り正確になるように設定される。
【0040】
最後に、本発明で記載される実施例は、本発明の実施例の原理を説明するためにのみ使用されることを理解されたい。他の変形も本発明の範囲に属し得る。したがって、限定ではなく例示とするものであり、本発明の実施例の代替構成は、本発明の教示と一致するとみなすことができる。対応して、本発明の実施例は、本明細書で明示的に紹介および説明する実施例に限定されない。
【符号の説明】
【0041】
S1-1 第1好適実施例の合成ステップ
S1-2 第1好適実施例の合成ステップ
S2-1 第2好適実施例の合成ステップ
S2-2 第2好適実施例の合成ステップ
【外国語明細書】