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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155818
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】シート体
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20241024BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20241024BHJP
【FI】
E04G23/02 D
B32B7/022
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024066940
(22)【出願日】2024-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2023070314
(32)【優先日】2023-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000165088
【氏名又は名称】恵和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大谷 紀昭
(72)【発明者】
【氏名】松野 有希
【テーマコード(参考)】
2E176
4F100
【Fターム(参考)】
2E176AA01
2E176AA07
2E176AA09
2E176AA23
2E176BB03
4F100AK07A
4F100AK25A
4F100AK25B
4F100AK25C
4F100AK52B
4F100AK53A
4F100AN00A
4F100AT00C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA04
4F100CA16
4F100CA16A
4F100CA23A
4F100CA23B
4F100CB05
4F100CB05A
4F100EH46C
4F100GB07
4F100JB07A
4F100JK02A
4F100JK06A
4F100JK07A
4F100JL05
4F100JL09A
4F100JL09B
4F100JL13
4F100JL13A
4F100JL14D
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】構造物に対する優れた粘着性を有しつつも、施工現場における取扱性を改善したシート体を提供する。
【解決手段】構造物に貼付されて前記構造物の補強又は修復に用いられるシート体であって、前記構造物に貼付される前の状態において、180°ピール試験の測定値が1.5N/25mm以上の値であり且つ引張弾性域最大試験力の100%未満の値である粘着力を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に貼付されて前記構造物の補強又は修復に用いられるシート体であって、
前記構造物に貼付される前の状態において、180°ピール試験の測定値が1.5N/25mm以上の値であり且つ引張弾性域最大試験力の100%未満の値である粘着力を有する、シート体。
【請求項2】
耐候負荷試験後において、180°ピール強度の測定値が1.5N/25mm以上の値である粘着力を更に有する、請求項1に記載のシート体。
【請求項3】
耐候負荷試験後の防水性試験における漏水が無い防水性を更に有する、請求項1に記載のシート体。
【請求項4】
下記項目(1)、(2)、(3)、及び(4)記載の操作を順次行う変形試験を実施した場合に、下記(4)の計算で算出されるエネルギーが2.0mJ以上の値である、請求項1記載のシート体。
(1) 短辺が50mm及び長辺が100mmの矩形状の前記シート体を試料として準備する。
(2) 前記試料を同一面の一対の短辺同士を重ねるように湾曲させ、前記一対の短辺の縁端から前記長辺に沿って15mm離れた位置までの前記試料の一対の領域を固定部で把持して固定することにより、前記試料の前記一対の領域の間に周長が70mmの湾曲部を形成する。
(3) 前記試料の前記一対の領域の表面を鉛直方向と平行に配置し且つ前記湾曲部を上方に向けた状態で、押付面が直径100mmで厚み10mmの円盤形状の押付治具を用い、温度23±2℃、湿度50±10%RHの環境下で、前記湾曲部に前記押付治具を上方から接触させ、前記押付治具を試験速度30mm/minで20mm下方に移動させる。
(4) 前記押付治具を前記移動させる際に必要なエネルギーを計算する。
【請求項5】
前記構造物に貼付される粘着層と、
前記粘着層の上方に配置された少なくとも1つの耐候層と、を備える、請求項1~4のいずれか1項に記載のシート体。
【請求項6】
前記粘着層と、前記耐候層との間に配置された基材層を更に備える、請求項5に記載のシート体。
【請求項7】
前記基材層は、補強材料を含む、請求項6に記載のシート体。
【請求項8】
前記粘着層及び前記耐候層の少なくともいずれかは、フィラーを含む、請求項6に記載のシート体。
【請求項9】
前記粘着層の前記耐候層側とは反対側の面に配置された剥離シートを備える、請求項5に記載のシート体。
【請求項10】
単一層により構成され、前記構造物とは反対側に位置する第1面側よりも、前記構造物に貼付される貼付面である第2面側に偏在する粘着成分を含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のシート体。
【請求項11】
ゴムを含有し、前記第1面側と前記第2面側とで架橋度が異なるゴムの架橋構造を有する、請求項10に記載のシート体。
【請求項12】
アクリル樹脂と、エポキシ樹脂と、を含み、
前記アクリル樹脂と前記エポキシ樹脂とによる相分離構造を有する、請求項10に記載のシート体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、構造物に貼付されて構造物の補強又は修復に用いられるシート体に関する。更に詳しくは、構造物に対する優れた粘着性を有しつつ、施工現場において、構造物に一旦貼付した後でも剥がして再度貼り直せるシート体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般住宅や商業ビル等の様々な構造物が知られている。また構造物の屋根として、例えば、スレート屋根、金属製の屋根、ガルバリウム鋼板(登録商標)製の屋根、陸屋根(和名で「りくやね」或いは「ろくやね」とも称される。)を含む、コンクリート製の屋根等が知られている。これらの構造物では、長期間風雨に曝されることによる劣化や、台風等の災害による破損が、雨漏りの原因となることがある。このため例えば、構造物の屋根の劣化や破損が生じたときには応急処置される。
【0003】
一般的に屋根の応急処置としては、例えば、図23に示すように、屋根30の破損個所を被うようにブルーシート31を配置し、複数の土嚢32を重りとしてブルーシート31の上に配置してブルーシート31を固定する方法が知られている。重りとしては、その他、例えば特許文献1及び2に開示されるように、水を入れた袋も重りとして用いられる。
【0004】
しかしながら、従来のブルーシート31を用いた屋根の補修では、ブルーシート31のシワを防ぐことは難しい。また通常、屋根の表面は平坦でない。このため、ブルーシート31と屋根との間に隙間が生じ、この隙間から水が侵入する問題がある。また、台風等の強風によりブルーシート31が吹き飛ぶ問題がある。また通常、ブルーシート31は、耐候性が余り高くなく、1年ほどで劣化するため、貼替の必要がある。
【0005】
前記課題に対し、例えば、特許文献3に開示されるように、ALCパネルで形成された外壁面仕上げに用いられる表装シート材として、ガラス繊維を織って形成した織布であるシート基材、防水塗料及びこれらの間に形成された無機質材と可撓性樹脂材とを混合して構成された中間層を備える表装シート材が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-144360号公報
【特許文献2】特開2000-16886号公報
【特許文献3】登録実用新案第3009544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3に開示の表装シート材によれば、ALCパネルの目地部分にひび割れが生じても該目地部分が表装シート材で覆われている。このため、見栄えに影響しない。また、隣り合う表装シート材の間の小隙間に防水性を有するシール材を充填することで雨水の侵入を防止できる。しかしながら、このような表装シート材は、ALCパネルに接着剤により貼着されるが、様々な環境に曝される表装シートを長期間安定して貼付できるとは言い難いものであった。
【0008】
このような従来の問題点に鑑み、本特許出願の出願人(以下「本願出願人」とも称する。)は、先に国際公開第2021/010456に開示されるようにポリマーセメント層と樹脂層とを備え、厚み分布を特定に制御した構造物保護シートを開発した。当該構造物保護シートは、新築の構造物を予備的に補強することにも、すでに経年劣化した構造物を補修することにも適用可能である。また、接着剤を介して構造物に貼り合せることができ、構造物の屋根の表面に保護シートを設ける際の工期を大幅に削減できる。また、優れた強度を有するため、構造物を長期にわたって保護できる。
【0009】
ここで、前記構造物保護シートは、構造物に優れた耐候性を付与できるものの、構造物への貼付けを行う作業者の熟練度によっては、構造物にきれいに又は均一に貼付されず、シワ等を生じる場合があることが判明した。作業者が構造物にきれいに又は均一に貼付されない場合、貼付した構造物保護シートを一旦剥がして再度貼り直しをしたいという要請がある。しかしながら従来の構造物保護シートは、前記構造物に対する粘着性を付与するために、構造物に貼付した場合の粘着力を大きくすることを主眼に開発されている。このため、一旦貼付すると剥がして貼り直せなかった。より具体的には、構造物保護シートは、一旦剥がすと破損し、粘着性や耐候性の性能を維持できなくなるため、貼り直せなかった。その結果、施工現場での貼付が一回では上手くいかず、剥がされた構造物保護シートを廃棄せざるを得ないのが現状であった。このように、従来の構造物保護シートは、施工現場における取扱性において課題を有するものであった。
【0010】
そこで本開示は、前記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、構造物に対する優れた粘着性を有しつつも、施工現場における取扱性を改善したシート体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者等が鋭意検討した結果、耐候性を確保するとの観点から、本開示のシート体は、構造物に貼付する前の状態において、後述する180°ピール試験の測定値が一定以上の値である粘着力を有することが必要であることを見出した。更に、貼り直し等の取扱性を改善する観点から、構造物に貼付する前の状態におけるシート体の粘着力を、後述する引張弾性域最大試験力の100%未満の値に制御することが重要であることを見出した。本開示は、以上の知見に基づいて完成されたものである。
【0012】
本開示の第1態様は、構造物に貼付されて前記構造物の補強又は修復に用いられるシート体であって、前記構造物に貼付される前の状態において、180°ピール試験の測定値が1.5N/25mm以上の値であり且つ引張弾性域最大試験力の100%未満の値である粘着力を有する。
【0013】
この第1態様によれば、構造物に対するシート体の優れた粘着力を確保しつつ、施工現場におけるシート体の取扱性を改善できる。より具体的には、シート体の粘着力の上限を引張弾性域最大試験力の100%未満の値に設定することで、一度貼付したシート体を剥がした際にシート体が塑性変形しにくくなる分シート体が破損しにくくなり、シート体の貼り直しが可能となる。
【0014】
また本開示の第2態様は、前記第1態様を前提として、耐候負荷試験後において、180°ピール強度の測定値が1.5N/25mm以上の値である粘着力を有する。
【0015】
この第2態様によれば、耐候負荷試験(試験の詳細内容は追って説明する。)後の粘着力も、構造物に貼付する前と同様であることが確保され、耐候性に優れたシート体を提供できる。
【0016】
また本開示の第3態様は、前記第1態様を前提として、耐候負荷試験後の防水性試験における漏水が無い防水性を更に有する。
【0017】
この第3態様によれば、前記耐候負荷試験後も所定の防水性が確保され、耐候性に優れたシート体を提供できる。
【0018】
また本開示の第4態様は、前記第1態様を前提として、下記項目(1)、(2)、(3)、及び(4)記載の操作を順次行う変形試験を実施した場合に、下記(4)の計算で算出されるエネルギーが2.0mJ以上の値である。
(1) 短辺が50mm及び長辺が100mmの矩形状の前記シート体を試料として準備する。
(2) 前記試料を同一面の一対の短辺同士を重ねるように湾曲させ、前記一対の短辺の縁端から前記長辺に沿って15mm離れた位置までの前記試料の一対の領域を固定部で把持して固定することにより、前記試料の前記一対の領域の間に周長が70mmの湾曲部を形成する。
(3) 前記試料の前記一対の領域の表面を鉛直方向と平行に配置し且つ前記湾曲部を上方に向けた状態で、押付面が直径100mmで厚み10mmの円盤形状の押付治具を用い、温度23±2℃、湿度50±10%RHの環境下で、前記湾曲部に前記押付治具を上方から接触させ、前記押付治具を試験速度30mm/minで20mm下方に移動させる。
(4) 前記押付治具を前記移動させる際に必要なエネルギーを計算する。
【0019】
この第4態様によれば、シート体に適度な剛性を付与できる。よって、構造物の表面に貼付する際にシート体の良好な取扱性が得られる。より具体的には、構造物の表面にシート体を敷設し易くなる。なお本書で言う「変形試験」とは、前記変形試験を指す。
【発明の効果】
【0020】
前記各態様によれば、構造物に対する優れた粘着性を有しつつも、施工現場におけるシート体の取扱性を改善できる。具体的には、シート体を構造物に一旦貼付した後にこれを剥がしても、シート体が破損することなく(粘着性や耐候性の性能を維持したまま)、再度貼り直せる。
【0021】
即ち、前記各態様は、シート体を構造物に優れた粘着力で施工可能にしつつ、必要に応じてシート体を再度貼り直し可能にするという、ともすれば相反する効果であって、従来には得ることが困難であった諸効果を同時に得られるようにしたものである。従って、前記各態様のシート体によれば、構造物の対象領域にシート体を確実に貼付できると共に、施工現場での貼付作業の際の取扱性や作業性を改善できる。更に、一旦剥がしたシート体を再利用できるので、廃棄物削減、ひいては環境保護の効果も奏される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、単一の粘着層と単一の耐候層を備える第2実施形態のシート体を模式的に示す断面構成図である。
図2図2は、複数の基材層と複数の耐候層を備える第2実施形態のシート体を模式的に示す断面構成図である。
図3図3は、本開示のシート体から剥離シートを剥離する様子を示す模式図である。
図4図4は、図3のシート体を構造物に貼付する様子を示す模式図である。
図5図5(A)、図5(B)、図5(C)、及び図5(D)は、本開示のシート体の剛性の測定方法を説明する模式図である。
図6図6は、本開示のシート体の補強材料の一例を示す模式図である。
図7図7は、図6の補強材料の部分拡大図である。
図8図8は、180°ピール試験方法を示す模式図である。
図9図9は、引張試験に基づき引張弾性域最大試験力の求め方を示すためのグラフである。
図10図10は、引張試験に基づき引張弾性域最大試験力の求め方を示すためのグラフである。
図11図11は、押付治具のストローク(mm)と試験力(N)との関係を示すグラフである。
図12図12は、屋根を模した架台の斜視面である。
図13図13は、図12の架台の側面及び各寸法を示す図である。
図14図14は、図12の架台の正面図である。
図15図15は、貯蔵弾性率の測定方法の模式図である。
図16図16は、貯蔵弾性率の測定例を示すグラフである。
図17図17は、第3実施形態に係るシート体を模式的に示す断面構成図である。
図18図18は、第4実施形態に係るシート体を模式的に示す断面構成図である。
図19図19は、第5実施形態に係るシート体を模式的に示す断面構成図である。
図20図20は、本開示のシート体を収容した供給物品の構造を示す模式図である。
図21図21は、第6実施形態のシート体とこれに重ねて配置された太陽電池ユニットの模式的な斜視図を示す。
図22図22は、図21のシート体及び太陽電池ユニットの模式的な断面図を示す。
図23図23は、従来の屋根の補修方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示のシート体について図面を参照しつつ説明する。尚、本開示は、その技術的特徴を有する限り各種の変形が可能であり、以下の説明及び図面の形態に限定されない。
【0024】
本開示のシート体は、構造物に貼付されて前記構造物の補強又は修復に用いられるシート体であって、前記構造物に貼付する前の状態において、180°ピール試験の測定値が1.5N/25mm以上の値であり且つ引張弾性域最大試験力の100%未満の値である粘着力を有する。言い換えると本開示のシート体は、前記構造物に貼付する前の状態において、180°ピール試験の測定値が1.5N/25mmである下限値と、引張弾性域最大試験力が100%付近の上限値とを有する粘着力を有する(引張弾性域最大試験力が100%となる値の求め方は後述する。)。このため、本開示のシート体は、引張弾性域最大試験力が100%である粘着力は、180°ピール試験の測定値が1.5N/25mmである粘着力よりも大きい。なお、本書で言う「粘着」とは、「接着」との用語にも言い換えることができる。
【0025】
[構造物]
本開示のシート体の貼付対象である構造物は、特に制限されない。構造物としては、例えば、コンクリート、木造、鉄製の構造物を例示できる。施工現場でシート体を一旦貼付した後に剥がして貼り直すという観点から、構造物としては、更に家の屋根、壁、軒、塀、門柱、門扉、門屋根等を例示できる。このような構造物は、橋げた等の大型の構造物よりも形が複雑で、例えばシート体のしわが生じるおそれがある。このため、一回の貼付作業でシート体を上手く貼付できないことも多い。よって、このような構造物は、本開示の技術思想を適用し易い。以下、構造物について、屋根を例示して更に説明する。
【0026】
構造物としては、更に、一般家屋や、体育館、病院、公共施設等の大型構造物等を例示できる。本開示のシート体は、例えばこのような構造物の屋根に好適に貼付できる。屋根の形状も特に限定されない。屋根としては、切り妻、寄棟、方形、陸屋根、片流れ、招き屋根、かまぼこ屋根等、任意の形状を有する屋根を例示できる。
【0027】
また、屋根としては、具体的には、例えば、スレート屋根、ガルバリウム鋼板(登録商標)製の屋根、トタン屋根(亜鉛メッキ鋼板製屋根)、鉄に塗料を塗布した金属製の屋根、陸屋根を含む、コンクリート製の屋根等を例示できる。スレートとは、セメント層と、当該セメント層上に配置された無機化粧(セメント)層と、当該無機化粧層上に配置された無機彩石層と、当該無機彩石層上に配置された無機系塗膜を備える。スレートは、シンプルな見た目と豊富な色を有し、軽く安価であることから、一般家屋の屋根材として広く使用されている。しかしながらスレート屋根は、ガルバリウム鋼板(登録商標)製の屋根等と比較して割れ易く、耐久性や防水性が他の材料からなる屋根と比較して低い。このため、破損等の問題が生じ易い。よって、本開示のシート体を貼付する屋根として、スレート屋根は特に好適である。以下の説明では、構造物の屋根のことを「スレート屋根等」とも称する。
【0028】
屋根の表面は、一般的なスレート屋根等が有する程度の段差を有していてもよい。ここで本開示のシート体は、例えば特定の剛性を有することが好ましい。当該シート体を構造物の屋根に施工する場合、該構造物の屋根がスレート屋根等の表面が段差を有するものであっても、隙間が形成されるのを防止できる。
【0029】
また、構造物の屋根に本開示のシート体を適用することで、構造物の屋根に生じたひび割れや膨張にシート体を追従させることができる。これにより、構造物の屋根の内部に水や塩化物イオン等の劣化因子を浸透させず、構造物の屋根の中の水分を水蒸気として排出できるという格別の効果が得られる。特にスレート屋根や前記した陸屋根においては、雨水を蓄積し易い素材であるため、水蒸気の排出能は材料の劣化防止に対する効果が大きい。
【0030】
[シート体の特性]
本開示のシート体は、構造物の表面の補強又は補修に用いられる。具体的には、本開示のシート体の一方の主面を構造物の表面に貼付することで、構造物の表面の補強又は補修がなされる。尚、本開示のシート体を貼付する対象は、表面に劣化や破損が生じた構造物に限らない。予め構造物の表面に本開示のシート体を貼付することで、劣化や破損の予防を図れる。
【0031】
[1]<シート体の粘着力>
本開示のシート体は、構造物に貼付される前の状態において、180°ピール試験の測定値が1.5N/25mm以上の値である粘着力(初期粘着力)を有する。これにより、シート体が構造物の表面に貼付された後、強風に曝されても剥離が生じにくい。よって、長期間安定的に構造物の表面にシート体が貼付された状態を維持し易い。
【0032】
構造物に貼付される前の状態における180°ピール試験での測定値としては、例えば、5N/25mm以上の値が好ましく、8N/25mm以上の値がより好ましい。また、9N/25mm以上の値が更に好ましく、12N/25mm以上の値が特に好ましい。また、15N/25mm以上の値が最も好ましい。当該測定値を前記各範囲のいずれかの値に設定すれば、前記[1]に記載した効果がより奏され易い。
【0033】
より具体的には、当該測定値が1.5N/25mm以上の値に設定されると、強風域15m/sに耐えられるシート体が得られ易い。また、当該測定値が5N/25mm以上に設定されると、暴風域25m/sに耐えられるシート体が得られ易い。また、当該測定値が8N/25mm以上に設定されると、暴風域30m/sに耐えられるシート体が得られ易い。また、当該測定値が9N/25mm以上に設定されると、暴風域45m/sに耐えられるシート体が得られ易い。また、当該測定値が12N/25mm以上に設定されると、暴風域65m/sに耐えられるシート体が得られ易い。但し、シート体の構造物に貼付される前の状態における粘着力は、施工現場において一旦貼付した後にシート体を剥がして貼り直せるようにするために、追って説明するように、引張弾性域最大試験力の100%未満の値に設定される。
【0034】
(180°ピール試験)
本開示における180°ピール試験は、JIS Z0237:2022「粘着テープ・粘着シート試験方法」に準拠し、以下の内容で実施される。
・試験装置
株式会社島津製作所製“オートグラフAGX-V 10kN”が使用される。尚、この試験装置が製造終了等により入手困難の場合は、当該試験装置の後継機種又は同等の測定が可能な装置を利用できる。この点は、本開示で用いられる他の測定装置でも同様である。
試験片の作成は、JIS Z0237:2022 10.1を参考にして以下の通り作成される。準備する材料等は以下の通りである。
・試験片の作成用の材料等
(A)短辺が25mm及び長辺が200mmの大きさに切り出した矩形状のPETフィルム(三菱ケミカル株式会社製T601E(厚み50μm)又はこれと同等品)
(B)短辺が25mm及び長辺が100mmの大きさに切り出した矩形状の両面接着テープ(日東電工株式会社製No.5015(25mm幅)又はこれと同等品)
(C)短辺が25mm及び長辺が100mmの大きさに切り出した矩形状の本開示のシート体(後述する剥離シートを備えるが、剥離シートは省略してもよい。)
(D)被着体:JIS Z0237 10.2.2に記載のSUS304鋼板であり、表面仕上げがBA仕上げのもの(以下「BASUS板」とも称する)。端辺が75mm及び長辺が150mmの大きさを有する。
【0035】
・180°ピール試験体の作製方法
(1)BASUS板の表面を、MEK(メチルエチルケトン)を付着させた旭化成株式会社製不織布「ベンコットM-3II」(登録商標)又はこれと同等品を用いて洗浄する。
(2)前記(C)のシート体の剥離シートがついていない面(構造物に貼付されるシート体の面とは反対側の面(シート体を構造物に貼付した後、シート体付構造物の外表面となる側の面)に、前記(B)の両面接着テープの接着面を、テープ圧着ロール(2Kg荷重の手動式)を用いて貼付する。
(3)前記(2)で前記(C)のシート体に貼付した前記(B)の両面接着テープの剥離ライナーを剥がす。その後、前記(A)のPETフィルムを、前記(C)のシート体及び前記(B)の両面接着テープの25mmの辺の端部に揃うように、テープ圧着ロール(2Kg荷重の手動式)を用いて貼付する。
(4)前記(3)で作製したPETフィルムが貼付された前記(C)のシート体の剥離シートを剥がし、シート体の構造物の表面に貼付される側の面を前記(1)で準備したBASUS板に貼付する。貼付の際は、テープ圧着ロール(2Kg荷重の手動式)を2往復させて貼付する。
(5)前記(4)で作製した試験体を常温常湿(23±2℃、50±10%RH)で24時間保存する。
【0036】
・180°ピール試験方法
JIS Z0237 11.5に記載の方法に準拠して実施する。具体的には、11.5.1記載の試験方法を、「方法1のテープ及びシートをステンレス試験板に対して180°に引き剥がす試験方法」にて実施する。使用したロードセルは1kNに設定される。試験条件は、温度23±2℃、相対湿度50±5%RHの環境下に設定される。
【0037】
ここで図8は、180°ピール試験方法を示す模式図である。本試験では、例えば、図8に示す構成の装置が用いられる。図8では、シート体をシート状物として示している。図8に示すように、BASUS板の下端を第1のチャック治具により固定した状態で、PETフィルムの端部を第2のチャック治具により上方向に引っ張る。その際に、試験速度を300mm/min、剥離長さを100mmに設定する。測定開始後、最初の30mmの長さの測定値は無視する。そして、その後に試験板から引き剥がされた30mmの長さの粘着力を複数回測定する。そして、複数の測定値を平均する。得られた測定値の平均値を、引き剥がし粘着力の値として使用する。以上の手順で180°ピール試験の粘着力を測定する。
【0038】
本開示のシート体は、構造物に貼付する前の状態において、引張弾性域最大試験力の100%未満の値である粘着力を有する。これによりシート体は、当該粘着力の上限が特定されている。このため、施工現場におけるシート体の取扱性が向上する。
【0039】
具体的にシート体は、構造物に一旦貼付された後でも、貼付が上手くいかなかった場合(例えばしわが寄ってしまったような場合)には、剥がして再度貼り直せる。言い換えると、当該粘着力の上限を引張弾性域最大試験力の100%未満に設定することで、シート体を弾性変形できる上限までの引っ張り力で剥がせる。構造物に貼付する前の状態において、引張弾性域最大試験力の100%未満の力で剥がせる粘着力を有するようにシート体を構成することで、シート体を剥がす際にシート体が塑性変形して粘着力や耐候性が低下する問題を防止できると共に、シート体を再度貼り付けて利用し易くできる。
【0040】
シート体の剥がし易さという観点から、構造物に貼付する前の状態における引張弾性域最大試験力は、例えば、引張弾性域最大試験力の90%以下の値が好ましく、80%以下の値がより好ましい。より具体的に、90%以下の値であれば、例えば、治具や機械等を使用しなくてもシート体を人力で剥がし易くなる。また80%以下の値であれば、シート体を人力でより容易に剥離できる。
【0041】
本開示における引張弾性域最大試験力は、以下の通りの方法で算出される。
(引張弾性域最大試験力の算出方法)
・シート体の試験片サイズ
幅25mm及び長さ100mmのサイズに調整する。
・試験装置
株式会社島津製作所製“オートグラフAGX-V 10kN”が使用される。
・装置の設定条件
株式会社島津製作所製“オートグラフAGX-V 10kN”を用いる場合、ロードセルは1kNとし、チャック治具はPFG-1kNAを用いる。
【0042】
・試験条件(引張試験の試験条件)、試験方法
幅が25mm及び長さが100mmの大きさを有するシート体(試験片)の両方の短辺をチャック治具で固定する。その際に、シート体(試験片)の下端から25mmまでの部分を下側のチャック治具で固定し、シート体(試験片)の上端から25mmまでの部分を上側のチャック治具で固定する。そして、チャック間距離を略50mmに設定する。
【0043】
この状態で、シート体(試験片)に予備負荷を掛ける。予備負荷は、速度:5mm/minで上側のチャック治具を上方に移動させ、試験片に掛かる負荷が0.005Nとなるまで行う。その後、試験速度:200mm/minで、上側のチャック治具を上方に移動させる。その際に、1秒間に最大点試験力の50%落ちた点を破断点と認定する。以上の予備負荷方法を実施する際に、測定装置の制御プログラムを利用することもできる。具体的には、プログラムを「予備負荷として0.005Nの負荷が掛かるまで伸ばす」と設定した上で「試験速度200mm/minで破断点を迎えるまで伸ばす」と設定すればよい。
・試験環境:23±2℃、湿度50±10%で以下を行う。
【0044】
・引張弾性域の定義
引張弾性域は、以下の式(1)で算出して最初の極大点から極小点となったストロークまでと定義される。
【0045】
【数1】
【0046】
・引張弾性域最大試験力の算出
以下、図9及び図10を参照して、引張弾性域最大試験力の具体的な算出方法を説明する。図9のグラフは、シート体(試験片)を延伸(上側のチャック治具を上方に移動)した場合における、ストローク(試験片の伸び)と試験力との関係を示す。図10の上段のグラフは、図9のグラフの横軸のストロークの0~2.5mmの間の領域(図9のグラフでグレーで示した箇所)を拡大して示す。更に、図10の下段のグラフは、この上段のグラフ(ストロークと試験力との関係を示すグラフ)を二回微分した曲線を示す。そして、この下段のグラフにおける極小点(同グラフでの最初の極小点)に対応するストロークを求め、このストロークに対応する試験力を上段のグラフから算出する。このストロークに対応して算出した試験力が、引張弾性域最大試験力の100%の値である。
【0047】
本開示のシート体は、構造物に貼付する前の状態における粘着力の上限が、前記の通り求められる引張弾性域最大試験力未満の値、すなわち、引張弾性域最大試験力の100%未満の値に設定される。
【0048】
本開示においては、前記の通り、構造物に貼付する前の状態において、180°ピール試験の測定値が1.5N/25mm以上の値であり且つ引張弾性域最大試験力の測定値が100%未満である粘着力を有するように、シート体を構成する。このような値に粘着力を制御するためには、例えば、構造物に貼付されるシート体の貼付面(以下、単に貼付面とも称する。)が有する接着力の制御が重要である。この制御は、例えば、シート体の貼付面又は貼付面の近傍に存在する粘着性材料を選択したり、貼付面又は貼付面の近傍におけるシート体の当該粘着性材料の含有量を制御したりすることで実現できる。
【0049】
より具体的に、粘着材料としては、アクリル、シロキサン結合を有するシリコーン、ゴム、ウレタン系等のガラス転移温度が低くかつファンデルワールス力や静電気力を利用した粘着剤を例示できる。また、構造物に貼付されるシート体の貼付面を、ヤモリの手足のような微細構造(大表面積かつ分子間力を利用できる構造を指す。例えば、ナノメートルサイズの複数本の微細毛を備え、この微細毛が対象面に接触する際にファンデルワールス力が生じることにより、対象面に対する粘着力を生じさせる構造を指す。)を有するように構成してもよい。更に、前記粘着剤と前記微細構造を組み合わせて用いる方法も考えられる。更には、粘着性を有する領域(粘着領域)の厚みを厚過ぎず薄過ぎない適切な厚みに制御する方法も、粘着力の制御に有効である。前記粘着力の範囲に制御し易いという観点からは、粘着剤に用いる材料及び粘着領域の厚みを組み合わせて制御することが好ましい。
【0050】
また、複数の層を含む積層構造を備える本開示のシート体では、貼付面を有する層(例えば、後述する粘着層)を、前記説明した粘着剤で構成したり、この層の厚みや層を構成する材料や表面特性を制御したりする(例えば前記微細構造を採用する)ことにより、前記制御を行える。より具体的な方法は追って詳述する。
【0051】
[2]<シート体の耐久性(耐候性)>
本開示のシート体は、例えば、耐候負荷試験後においても、粘着力が180°ピール試験の測定値が1.5N/25mm以上である粘着力を有することが好ましい。これにより、シート体10を構造物に貼付した後、長期間に亘り構造物の表面に貼付した状態を維持し易くなり、強風に曝された際にも剥離が生じにくくなる。
【0052】
例えば、耐候負荷試験後における180°ピール試験での測定値は、5N/25mm以上の値が好ましく、8N/25mm以上の値がより好ましい。また、9N/25mm以上の値が更に好ましく、12N/25mm以上の値が特に好ましい。また、15N/25mm以上の値が最も好ましい。耐候負荷試験後における180°ピール試験の測定値が、前記各範囲のいずれかの値であれば、前記[2]記載の効果がより奏され易くなる。
【0053】
より具体的には、1.5N/25mm以上の値であれば、強風域15m/sに耐えられるシート体が得られ易い。5N/25mm以上の値であれば、暴風域25m/sに耐えられるシート体が得られ易い。8N/25mm以上の値であれば、暴風域30m/sに耐えられるシート体が得られ易い。9N/25mm以上の値であれば、暴風域45m/sに耐えられるシート体が得られ易い。12N/25mm以上の値であれば、暴風域65m/sに耐えられるシート体が得られ易い。
【0054】
(耐候負荷試験)
本開示における耐候負荷試験は、以下の方法で実施される。具体的には、以下の条件に基づいて、試験対象であるシート体に対して、UV照射、結露、及びシャワーが繰り返し行われる。
・使用機器
メタルハライドランプ方式ウェザーメータである、岩崎電機(株)アイスーパーUVテスター SUV-W161が使用される。
・試験時間
300時間
【0055】
・試験条件
試験対象に対し、以下のUV照射処理を試験開始から300時間に達するまで複数サイクルにわたり繰り返し行う。1サイクルのUV照射処理は、4時間のUV照射と、前記UV照射後に行われる30秒の水によるシャワーと、前記シャワー後に行われる4時間の結露処理と、前記結露処理後に行われる30秒の再度のシャワーを含む。
UV照射条件
UV照射強度:120W/cm
メタルハライドランプ使用、照射温度63℃、照射湿度50%
シャワー条件
シャワーの水温:25±3℃
シャワー時間:30秒
シャワーの水量:3.18L/min以上5.16L/min以下
結露環境
シャワーの照射後に30minで60℃まで試験環境の温度を上昇させる、その後3.5hの時間をかけて、試験環境の温度を25℃まで低下させる。試験の際の湿度を90±10%RHに制御する。
【0056】
また、本開示のシート体は、前記の耐候負荷試験前後の防水性試験における漏水が無いことが好ましい。ここで言う「漏水が無い」とは、厳密に全く漏水が発生しないことに限定されず、以下説明する防水性試験において目視でシート体から漏水が確認されないことをいう。本願発明者等は、目視で漏水が確認されなければ、シート体の耐候性としては十分であることを確認している。本開示においては、前記防水性試験で漏水を生じないようにすることで、構造物の表面の補強及び補修の効果が奏され易くなる。
【0057】
(防水性試験)
本開示において、防水性試験は、以下の方法で実施される。
短辺が50mm、長辺が100mm、及び厚みが4.0mmの矩形状の2枚のフレキシブルボードを準備する。当該2枚のボードを、各長辺が接するように付き合わせて固定する。これにより、一辺が100mmで厚みが4.0mmの正方形状の固定用被着体を作製する。
【0058】
前記の固定用被着体の一方の面に、一辺が100mmの正方形状にカットしたシート体を重ね合わせて、試験体を作製する。その際、シート体の貼付面を、固定用被着体の表面に貼付する。
その後、外径が42mm、内径が40mm、及び長さが500mmの塩化ビニル製の管を、固定用被着体の一方の面(シート体を貼付したシート体付構造物の外表面となる側の面)上に直立させた状態で載せて、この管を固定用被着体に固定する。その際、後述する蛍光漏洩検査剤を管内に注水した際に、管とシート体との間から蛍光漏洩検査剤が目視で漏れないよう、管をシート体の表面に確実に固定する。
【0059】
その後、管の一端の開口より管の内部に370±0.1gの液体の蛍光漏洩検査剤を注入する。この状態で、23±2℃、50±10%RHの環境下で24時間静置する。
前記24時間静置後、固定用被着体の裏面(シート体が重ね合わせられていない面)にUV照射することにより、輝点又は液体のシミの有無を目視確認する。目視確認の結果、輝点又は液体のシミが認められた場合、当該サンプルは漏水したと判断する。目視確認の結果、輝点又は液体のシミが認められない場合、「漏水が無い」と判断する。
【0060】
本開示のシート体は、例えば前記の通り、耐候負荷試験後において、180°ピール強度で1.5N/25mm以上の値の粘着力を有することが好ましい。また、耐候負荷試験後の防水性試験における漏水が無い防水性を有することが好ましい。これらの特性は、シート体の耐候性に関するものである。
【0061】
更に、シート体の耐候性を制御するため、シート体の貼付面とは反対側の面(シート体が貼付されたシート体付構造物の外表面に相当する面を指し、以下「シート体の表面」とも称する。)の耐候性を制御することが重要である。この制御は、例えば、シート体の表面の近傍に用いる材料の選択、含有量の制御することで実現できる。
【0062】
また本開示のシート体は、複数の層を備える場合、シート体の表面に位置する層(例えば、後述する耐候層)の厚みや表面特性を制御することで、耐候性を制御できる。より具体的には、例えば表面又は表面近傍において、紫外線(410KJ/mol)よりも強い結合エネルギーを有する結合構造を、その他の領域よりも多く含むシート体の場合、このような耐候性を制御できる。このような強い結合エネルギーを有する結合構造としては、シロキサン結合や炭素-フッ素結合等の結合構造を例示できる。
【0063】
また、本開示のシート体は、例えば表面又は表面近傍において、その他の領域よりも二重結合が低減された構造を備えていてもよい。この場合、シート体の表面又は表面近傍の反応点を低減することで、シート体の化学的安定性を向上できる。二重結合が低減された構造としては、非ジエン系のゴムをシート体の表面又は表面近傍に、その他の領域よりも多く存在させた構造を例示できる。
【0064】
また、本開示のシート体は、例えば表面又は表面近傍において、その他の領域よりも、紫外線(UV)等のエネルギー線の照射により生じるラジカルをトラップするラジカルトラップ材が多く配置された構造を備えていてもよい。或いは、本開示のシート体は、例えば表面又は表面近傍において、その他の領域よりも、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)等のUVを吸収してラジカルの発生を抑制する添加材が多く配置された構造を備えていてもよい。或いは、本開示のシート体は、例えば表面又は表面近傍において、その他の領域よりも、フェノール系やチオエーテル系等の酸化防止剤が多く配置された構造を備えていてもよい。
【0065】
また本開示のシート体が複数の層を備える場合、シート体の表面に位置する層(例えば、後述する耐候層)を所定材料で構成することでも耐候性を制御できる。この点は追って詳述する。
【0066】
[3]<構造物への貼付の際のシート体の取扱性(折り曲げに対する剛性)>
本開示のシート体は、構造物への貼付時における取扱性(例えば貼付のし易さ)を向上させ易くするために、例えば、適度な剛性を有することが好ましい。これにより、施工現場でのシート体の取扱性(例えば敷設性)を向上させ易くできる。シート体の剛性は、以下の変形試験で確認できる。具体的には、シート体につき、下記項目(1)、(2)、(3)、及び(4)記載の操作を順次行う変形試験を実施した場合に、下記(4)の計算で算出されるエネルギーが2.0mJ以上の値であれば、シート体が適度な剛性を有すると考えられる。
(1) 短辺が50mm及び長辺が100mmの矩形状の前記シート体を試料として準備する。
(2) 前記試料を同一面の一対の短辺同士を重ねるように湾曲させ、前記一対の短辺の縁端から前記長辺に沿って15mm離れた位置までの前記試料の一対の領域を固定部で把持して固定することにより、前記試料の前記一対の領域の間に周長が70mmの湾曲部を形成する。
(3) 前記試料の前記一対の領域の表面を鉛直方向と平行に配置し且つ前記湾曲部を上方に向けた状態で、押付面が直径100mmで厚み10mmの円盤形状の押付治具を用い、温度23±2℃、湿度50±10%RHの環境下で、前記湾曲部に前記押付治具を上方から接触させ、前記押付治具を試験速度30mm/minで20mm下方に移動させる。
(4) 前記押付治具を前記移動(20mm移動)させる際に必要なエネルギー(移動距離×力の積分値)を計算する。
【0067】
ここで、前記(4)のエネルギーは、以下の式(2)に基づいて算出される。
【0068】
【数2】
【0069】
式(2)中、Eは算出されるエネルギー(mJ)を、Fは試験力(N)を、sは押付治具の変異(mm)を示す。図11に測定結果一例を示す。図11に示すグラフは、押付治具の変異(ストローク)(mm)と、縦軸が試験力(N)との関係を示すグラフである。図11の斜線部の面積は、エネルギーEを示す。
【0070】
ここで図5(A)、図5(B)、図5(C)、及び図5(D)は、本開示のシート体の剛性の測定方法を説明する模式図である。図5(A)は、シート体の正面図である。図5(B)、図5(C)、及び図5(D)は、湾曲されたシート体をシート体の厚み方向から見た図を示している。具体的には、例えば、図5(A)に示すように、短辺が50mm及び長辺が100mmの矩形状のシート体を試料19として準備する。その後、図5(B)に示すように、試料19を同一面の一対の短辺同士を重ねるように湾曲させ、前記一対の短辺の縁端から前記長辺に沿って15mm離れた位置までの試料19の一対の領域を固定部18で把持して固定する。これにより、(試料19の厚み方向から見て)試料19の前記一対の領域の間に周長が70mmの湾曲部を形成する。
【0071】
その後、図5(C)及び図5(D)に示すように、試料19の前記一対の領域の表面を鉛直方向と平行に配置し且つ前記湾曲部を上方に向けた状態で、押付面が直径100mmで厚み10mmの円盤形状の押付治具17を用い、温度23±2℃、湿度50±10%RHの環境下で、前記湾曲部に押付治具17を上方から接触させ、押付治具17を試験速度30mm/minで20mm下方に移動させる。
【0072】
ここで、押付治具17を前記移動させる際(前記20mm下方に移動させる際)に必要なエネルギーが2.0mJ以上の値であることが好ましい。これにより、シート体に適度な剛性(例えば、適度なコシ)を付与し易くできる。
【0073】
本開示のシート体の湾曲部を押付変形させるのに要するエネルギーは、前記説明したシート体の取扱性の観点から、例えば、2.0mJ以上の値が好ましく、3.5mJ以上の値がより好ましく、5mJ以上の値が更に好ましく、10mJ以上の値が一層好ましく、20mJ以上の値が更に一層好ましい。一方、前記エネルギーの上限値は、前記取り扱さの確保の観点から、例えば30mJ以下の値である。前記エネルギーが前記各範囲のいずれかの値であれば、例えば、構造物が段差のある屋根である場合も、この段差に沿って貼り付け易く、取扱性に優れるシート体が得られる。
【0074】
例えば前記エネルギーは、(株)島津製作所製空気式平面形つかみ具(PFG-1kNA)でシート体(図5では試料19)を把持した状態で、島津製作所製オートグラフ(AGX-V(10kN)を用いて測定できる。前記試験装置が製造終了等により入手困難な場合、前記試験装置の後継機種又は同等の測定が可能な装置を利用できる。
【0075】
本開示においては、前記の通り、構造物に貼付する際のシート体の取扱性を改良するため、前記試験で所定の変形に要するエネルギーは、例えば、2.0mJ以上の値が好ましい。これは、シート体の剛性を制御することで実現できる。シート体の剛性の制御には、シート体の内部構造を制御することが重要になる。
【0076】
シート体の内部構造を制御するため、例えば、構造物に貼付されるシート体の内部に補強材料を挿入してもよい。この場合、補強材料の含有量を変化させることでシート体の内部構造を制御できる。また、シート体が複数の層を備える場合、シート体は、内部に配置された補強層(例えば、後述する補強材料)を備えていてもよい。この場合、補強層によりシート体に所定の剛性が付与されることで、シート体の内部構造を制御できる。
【0077】
シート体が強度調整用のフィラーを含む場合、シート体に剛性を付与する具体的方法として、例えばフィラーの材質、シート体中のフィラーの添加量、フィラー粒子のサイズや形状の少なくともいずれかを制御する方法を例示できる。この場合、フィラーの材料は、無機材料又は有機材料のいずれでもよく、無機材料及び有機材料を混合してもよい。
【0078】
なお、補強材料としては、不織布も利用できる。この場合、不織布としては、繊維を織らずにシート状に形成した不織布であれば、特に限定されない。また、不織布を構成する繊維としては、天然繊維及び化学繊維の少なくともいずれかを例示できる。化学繊維としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ナイロン等のポリアミド系樹脂からなる繊維、及び、これら樹脂の共重合物、変性物、及び、これらの組合せからなる合成繊維を例示できる。これらの中でも、耐水性、耐熱性、寸法安定性、耐候性等に優れる繊維として、例えばポリエステル繊維が好ましい。
【0079】
また、シート体に剛性を付与する具体的方法として、シート体の内部にメッシュやフィルムを挿入してもよい。この場合、メッシュやフィルムは、例えば、ビニロン、PET、ポリプロピレン(ポリオレフィン)、ポリスチレン、ポリフッ化ビニリデンの少なくともいずれかを含んでいてもよい。また例えば、前記フィルムは、2軸延伸フィルムでもよい。
【0080】
またシート体に剛性を付与する具体的方法として、シート体の内部に、アルミや鋼等の金属材料を含むメッシュや箔を挿入することも好ましい。また、シート体の厚みを制御することによっても、シート体の剛性を制御できる。更に、後述する基材層を備えるシート体の場合、基材層の粘弾性を調節することでもシート体の剛性を制御できる。この場合、基材層が含む樹脂のガラス転移点温度(Tg、以下単にTgとも称する。)を調節したり、当該樹脂の架橋度を変化したりすることで、基材層の粘弾性を調節してもよい。シート体の剛性を制御する方法として様々な方法を利用できるが、この点は追って詳述する。
【0081】
なお本開示のシート体は、上記剛性を有しつつ、適度な柔軟性も有する。例えばシート体は、ロール状に巻き取りが可能な程度の柔軟性を有する。ここで言うロール状の巻き取りとは、例えば数cm以上数十cm以下の値の直径(具体的には、例えば、10mm以上300mm以下の値の直径)を有するロール芯材へのシート体の巻き取りを指す。これより細いロール芯材でも、手巻き等により、シート体を数m程度巻き取ることは可能である。従って、例えば、シート体をロール状で管理できる。更に、ロール状に巻回されたシート体を施工現場で展開し、所定のサイズに切り出したシート体を迅速に準備して施工することも可能である。よって、比較的大面積を有する施工対象に対しても、シート体を容易且つ簡便に適用できる。
【0082】
[シート体の層構成等]
本開示のシート体は、構造物の表面に貼付でき、前記説明した特性(好ましい特性を含む。)を有するものであれば、構造は特に限定されない。即ち、本開示のシート体は、単一層により構成されていてもよいし、複数の層により構成されていてもよい。以下、単一層により構成される本開示のシート体(第1実施形態)と、複数の層により構成される本開示のシート体(第2実施形態)について分けて説明する。
【0083】
[1]<第1実施形態(単一の層により構成される本開示のシート体)>
単一の層により本開示のシート体が構成される場合、シート体は、例えば、貼付面側において所定の粘着性を有していてもよい。またシート体は、所定の耐候性を有することが好ましい。この場合、シート体の貼付面側とは反対側の表面側において所定の耐候性を有していてもよい。更に、構造物への貼付の際の取扱い性を確保する観点から、シート体は、所定の剛性を有することが好ましい。この場合、例えば、折曲げに耐えうる剛性を所定の範囲に制御することを目的に、例えばシート体の内部に補強部材を配置してもよい。ここで図3のシート体10は、模式的に、第1実施形態のシート体10の構成を示している。以下、具体的に説明する。
【0084】
[1-1]<貼付面側に所定の粘着性を有する単一の層より構成されるシート体>
本開示では、構造物への十分な粘着性を有しつつ、施工現場で貼り直しができる程度の粘着力を付与するとの観点から、シート体の貼付面側の粘着性が制御される。具体的には、シート体の貼付面又は貼付面の近傍に存在する粘着性材料の選択や、貼付面又は貼付面の近傍におけるシート体の当該粘着性材料の含有量を制御することで実現できる。
【0085】
より具体的には、粘着性材料としては、アクリル、シロキサン結合を有するシリコーン、ゴム、ウレタン系等の、ガラス転移温度(Tg)が低く且つファンデルワールス力や静電気力を利用できる粘着剤を例示できる。また、シート体の貼付面をヤモリの手足のような微細構造(大表面積かつ分子間力を利用できる構造)に構成してもよい。更に、粘着剤と前記微細構造を組み合わせて用いてもよい。更に、シート体の粘着性を有する領域(粘着領域)の厚みを、厚過ぎず且つ薄過ぎない適切な厚みに制御することも、粘着力の制御には有効である。また、粘着力の範囲に制御し易いという観点から、粘着剤の材料及び粘着領域の厚みを組み合わせて調整することも好ましい。
【0086】
[1-2]<表面側に所定の耐候性を有する単一の層より構成されるシート体>
本開示のシート体は、所定の耐候性を有することが好ましい。この観点から、例えば、シート体の表面側の耐候性を制御することが好ましい。以下、具体的に説明する。
【0087】
シート体の表面側の耐候性は、例えば、シート体の表面又は表面近傍に配置される材料の選択及び含有量を調整することで制御できる。より具体的には、当該材料として、シート体の表面又は表面近傍に、シロキサン結合や炭素-フッ素結合等の、紫外線(410KJ/mol)よりも強い結合エネルギーを有する結合構造を多く形成できる材料を配置したり、シート体の表面及び表面近傍の当該材料の含有量を増大させたりする方法を例示できる。このような材料として、具体的にはアクリルシリコーン、フッ素樹脂、シリコーン樹脂の少なくともいずれかを例示できる。
【0088】
また、シート体の表面又は表面近傍中の反応点を少なくしてシート体を化学的に安定にする観点から、シート体は、二重結合が少ない構造を有する材料を含んでいてもよい。当該材料がシート体の表面又はその近傍に多く存在すると、シート体の表面及び表面近傍の化学的安定性が増大する。このような材料として、非ジエン系のゴムを例示できる。具体的に当該非ジエン系のゴムとしては、CIIR(塩素化ブチルゴム)、BIIR(臭素化ブチルゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)の少なくともいずれかを選択できる。
【0089】
シート体の表面又は表面近傍に前記結合構造を多く形成する方法として、例えば、シート体の表面又は表面近傍に、紫外線(UV)等のエネルギー線の照射により生じたラジカルをトラップするラジカルトラップ材、HALS等UVを吸収してラジカルの発生を抑制する添加材、及び、フェノール系、チオエーテル系等の酸化防止剤の少なくともいずれかを偏在させる方法を例示できる。
【0090】
[1-3]<所定の剛性を有する単一の層により構成されるシート体>
本開示のシート体は、構造物への貼付の際の取扱い易さを付与する観点から、折り曲げ等に耐えうる所定の剛性を有することが好ましい。以下、具体的に説明する。
【0091】
例えば、シート体の内部には補強材料が配置されていてもよい。例えば、シート体の補強材料の含有量を調整することで、シート体の剛性を制御できる。シート体の剛性を制御する方法の更なる具体例として、強度調整用のフィラー(無機材料又は有機材料のいずれでもよく、無機材料及び有機材料を混合してもよい。)の添加量、当該フィラーの粒子サイズ、及び、フィラーの粒子形状の少なくともいずれかを調整することを例示できる。またシート体は、補強材料として、ビニロン、PET、ポリプロピレン(ポリオレフィン)、ポリスチレン、ポリフッ化ビニリデン等のいずれかを含む、メッシュやフィルム(2軸延伸フィルムでもよい。)を備えていてもよい。或いはシート体は、補強材料として、アルミや鋼等の金属材料を含む、メッシュや箔を備えていても好ましい。また、シート体の厚みを調整することによって、シート体の剛性を制御できる。更に、シート体が後述する基材層を備える場合、基材層の粘弾性を、基材層の樹脂のTgを調節したり、当該樹脂の架橋度を変えたりすることにより調整して、シート体の剛性を制御できる。
【0092】
[1-4]<単一層により構成されるシート体に関するその他の事項>
本開示のシート体は、例えば、貼付面と反対側の面側よりも、貼付面側に粘着成分を偏在させた構成を有していてもよい。言い換えると、本開示の単一層により構成されるシート体は、構造物とは反対側に位置する第1面側よりも、構造物に貼付される貼付面である第2面側に偏在する粘着成分を含有していてもよい。以下、具体的に説明する。
【0093】
例えば、電子線のエネルギーによりシート体の物性を調整してもよい。具体的には、電子線により硬化可能な未加硫のゴムシートを用いてシート体を作製する方法を例示できる。この方法では、前記ゴムシートに電子線を照射する際、ゴムシートの厚み及び電子線照射量の少なくともいずれかを調整することにより、単一層でありながら、一方の面側と他方の面側とで架橋度の異なる構造を有するゴムシートが得られる。
【0094】
この架橋度の異なる構造は、低架橋度部分と高架橋度部分とを含む。低架橋度部分は比較的高い粘着性を有し、高架橋度部分は比較的低い粘着性を有する。シート体のうち、電子線を直接照射される面側は、反対側の面側に比べて電子線による架橋が進行する。このためシート体において、電子線を調節照射する面側に高架橋度部分を配置し、反対の面側に低架橋度部分を配置できる。これにより、一方の面側に高架橋度部分が配置され、他方の面側に低架橋度部分が配置されたシート体が得られる。よって、原理的にシート体の粘着性と耐水性(耐候性)を両立できる。
【0095】
ここで、ゴムシートに使用可能なゴムとしては、イソプレンゴムSBR(スチレンブタジエンゴム)、CR(クロロプレンゴム)、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)、HNBR(水素化アクリロニトリルブタジエンゴム)、CIIR(塩素化ブチルゴム)、BIIR(臭素化ブチルゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)等を例示できる。
【0096】
以下、ゴムの作製方法を例示する。まず、原料のゴムを素練りして可塑化ゴムを得る。この可塑化ゴムを混錬して配合ゴムを得る。この配合ゴムに架橋(加硫)を行うことで架橋ゴムを得る。この配合ゴムに架橋(加硫)を行う加硫工程において、配合ゴムの一方の面に電子線を照射し、配合ゴムの厚み方向で架橋度を異ならせることで、一方の面側と他方の面側とで架橋度の異なる構造のゴム(ゴムシート)が製造される。このように、本開示のシート体は、ゴムを含有し、前記第1面側と前記第2面側とで架橋度が異なるゴムの架橋構造を有していてもよい。
【0097】
またシート体は、例えば、溶液拡散法に基づいて、貼付面(第2面)と反対側の面(第1面)側よりも、貼付面側に粘着成分を偏在させた構成を有していてもよい。この場合、具体的には、相溶性が不良である(言い換えると、互いの溶解度パラメータが離れている)樹脂Aと樹脂Bとを、樹脂Aと樹脂Bとの溶解度パラメータの中間の溶解度パラメータを有する溶媒に溶解して溶液を調製した上で、当該溶液を塗布して乾燥させることにより、シート体を製造する方法を例示できる。この場合、樹脂Aと樹脂Bとは、溶液状態では溶媒に溶解しているが、溶液が塗布して乾燥すると、互いに相分離する。これにより、シート体の異なる特性を両立させる機能である傾斜機能が発現する。
【0098】
シート体における樹脂Aと樹脂Bの組合せは、例えば粘着性の発現機能を有する樹脂と、耐候性や折り曲げに耐えうる剛性の発現機能を有する樹脂の組合せであれば利用可能である。このような樹脂Aと樹脂Bとの組合せ(傾斜機能材料:FGMs)として、アクリル樹脂とエポキシ樹脂との組合せを例示できる。この場合、アクリル樹脂が粘着機能を発現し、エポキシ樹脂側が耐候・剛性機能を担う。エポキシ樹脂に更なる耐候機能を発現させるため、シート体の材料にラジカルトラップ材やUV吸収材等を添加してもよい。また、エポキシ樹脂の架橋度を高めることで、シート体の剛性を向上させることもできる。
【0099】
より具体的には、前記溶液として、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、及び溶剤のMEKを含む溶液であって、アクリル樹脂のSP値(溶解度パラメータ)が8付近であり、エポキシ樹脂のSP値が10付近であり、溶剤のMEKのSP値が9.3である溶液を使用できる。この溶液の場合、当該溶剤存在下ではアクリル樹脂及びエポキシ樹脂がそれぞれ溶解するが、溶剤の揮発後はアクリル樹脂とエポキシ樹脂が傾斜する。このため、シート体において、アクリル樹脂とエポキシ樹脂とによる傾斜機能を発現できる。このようにシート体は、アクリル樹脂と、エポキシ樹脂と、を含み、アクリル樹脂とエポキシ樹脂とによる相分離構造を有していてもよい。
【0100】
[2]<第2実施形態(複数の層により構成される本開示のシート体)>
複数の層により本開示のシート体が構成される場合、シート体は、貼付面側に配置されて所定の粘着性を有する層を備えていてもよい。またシート体は、所定の耐候性を有することが好ましい。この場合、例えば、シート体の貼付面側とは反対側の表面側に配置されて所定の耐候性を有する耐候層を備えていることが好ましい。
【0101】
更に、構造物への貼付の際の取扱い性を確保する観点から、シート体は、所定の剛性を有することが好ましい。この場合、例えば、折曲げに耐えうる剛性を所定の範囲に制御することを目的に、例えばシート体は、貼付面側に配置された第1層、及び、貼付面とは反対側に配置された第2層の少なくともいずれかを所定の剛性を有するように構成されていてもよい。或いはシート体は、貼付面側に配置された第1層と、貼付面とは反対側に配置された第2層と、第1層と第2層との間に配置された第3層とを備え、第3層が所定の剛性を有するように構成されていてもよい。以下、具体的に説明する。
【0102】
[2-1]<貼付面側に配置されて所定の粘着性を有する層を備えるシート体>
本開示では、耐候性を得るために構造物への十分な粘着性を有しつつ、施工現場で貼り直しができる程度の粘着力を付与するとの観点から、シート体は、貼付面側に配置されて所定の粘着性を有し、構造物に貼付される層(以下この層を「粘着層」とも称する。)を備えることが好ましい。
【0103】
粘着層の粘着性は、例えば、粘着層の厚みや表面特性、及び、粘着層の材料を調整することで制御できる。粘着層の表面特性を制御する場合、例えば、前記微細構造を採用できる。更に、粘着層の厚みを厚過ぎず且つ薄過ぎない適度な値に設定することも、粘着層の粘着性の制御には有効である。また、粘着層の粘着力を所定範囲に制御し易いという観点から、粘着剤の材料及び粘着層の厚みを組み合わせて調整することも好ましい。
【0104】
より具体的に、粘着層の材料としては、アクリル、シロキサン結合を有するシリコーン、ゴム、ウレタン系等の、ガラス転移温度(Tg)が低く且つファンデルワールス力や静電気力を利用できる粘着剤を例示できる。また、粘着層の厚みや、粘着層の架橋度を調整することで、粘着層の粘着力を制御できる。また、粘着層の貼付面をヤモリの手足のような微細構造(大表面積かつ分子間力を利用できる構造)に構成してもよい。更に、前記粘着剤と前記微細構造を組み合わせて用いてもよい。粘着層の詳細については、追って更に説明する。
【0105】
[2-2]<表面側に配置されて所定の耐候性を有する層を備えるシート体>
本開示のシート体は、所定の耐候性を有することが好ましい。この観点から、シート体は、例えば、表面側に配置されて所定の耐候性を有する層(耐候層)を備えることが好ましい。以下、具体的に説明する。
【0106】
耐候層の耐候性は、例えば、耐候層の材料や耐候層中の前記材料の選択及び含有量を調整することで制御できる。より具体的には、当該材料として、シロキサン結合や炭素-フッ素結合等の、紫外線(410KJ/mol)よりも強い結合エネルギーを有する結合構造を耐候層中に多く形成できる材料を配置したり、耐候層中の当該材料の含有量を増大させたりする方法を例示できる。このような耐候層の材料として、具体的にはアクリルシリコーン、フッ素樹脂、シリコーン樹脂の少なくともいずれかを例示できる。
【0107】
また、耐候層中の反応点を少なくして耐候層を化学的に安定にする観点から、耐候層は、二重結合が少ない構造を有する材料を含んでいてもよい。当該材料が耐候層に多く存在すると、耐候層の化学的安定性が増大する。このような材料として、非ジエン系のゴムを例示できる。具体的に当該非ジエン系のゴムとしては、CIIR(塩素化ブチルゴム)、BIIR(臭素化ブチルゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)の少なくともいずれかを例示できる。
【0108】
耐候層中に前記結合構造を多く形成する方法として、例えば、紫外線(UV)等のエネルギー線の照射により生じたラジカルをトラップするラジカルトラップ材、HALS等UVを吸収してラジカルの発生を抑制する添加材、フェノール系、チオエーテル系等の酸化防止剤の少なくともいずれかを偏在させる方法も例示できる。このような耐候層の詳細は後述する。
【0109】
[2-3]<所定の剛性を有する層を備えるシート体>
本開示のシート体には、構造物への貼付の際の取扱い性を確保するとの観点から、シート体は、折曲げに耐えうる剛性を有するように制御されることが好ましい。このため、例えば、シート体は、貼付面側に配置された第1層、及び、貼付面とは反対側に配置された第2層の少なくともいずれかを所定の剛性を有するように構成されていてもよい。或いはシート体は、貼付面側に配置された第1層と、貼付面とは反対側に配置された第2層と、第1層と第2層との間に配置された第3層とを備え、第3層が所定の剛性を有するように構成されていてもよい。以下、具体的に説明する。
【0110】
シート体の貼付面側に配置された第1層としては、粘着層を例示できる。粘着層に剛性を付与する方法としては、粘着層を、粘着剤とフィラーとを含むように構成する方法を例示できる。この場合、粘着層は、例えば、アクリル、シロキサン結合を有するシリコーン、ゴム、ウレタン系等のガラス転移温度(Tg)が比較的低く且つファンデルワールス力や静電気力を利用できる粘着剤と、シリカ、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、カーボンブラック等のフィラーを含む。例えば、粘着層のフィラーの添加量及びフィラーの粒子形状の少なくともいずれかを調整することで、粘着層の剛性を制御できる。具体的にフィラーの粒子形状としては、球状、針状、不定形、テトラポット形状等を例示できる。また、耐候層の厚みを調整することで、シート体の剛性を制御できる。また、耐候層中の粘着剤のTgを調整することで、シート体の剛性を制御できる。
【0111】
シート体の表面側に配置された層、即ち、シート体の貼付面とは反対側に配置された第2層としては、耐候層を例示できる。耐候層に剛性を付与する方法として、耐候層を、主材と、フィラーとを含むように構成する方法を例示できる。この場合、耐候層は、例えば、アクリルシリコーン、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、非ジエン系ゴム等の主材と、シリカ、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、カーボンブラック等のフィラーとを含む。例えば、耐候層のフィラーの添加量及びフィラーの粒子形状の少なくともいずれかを調整することで、耐候層の剛性を制御できる。具体的にフィラーの粒子形状としては、球状、針状、不定形、テトラポット形状等を例示できる。また、耐候層の厚み、及び、耐候層の主材のTgの少なくともいずれかを調整することで、シート体の剛性を制御できる。このようにシート体では、粘着層及び耐候層の少なくともいずれかは、フィラーを含んでいてもよい。
【0112】
貼付面側に配置された第1層(例えば粘着層)と、貼付面とは反対側に配置された第2層(例えば耐候層)と、第1層と第2層との間に配置された第3層とを備え、第3層が所定の剛性を有するように構成されたシート体において、第3層に剛性を付与する方法としては、例えば、第3層を後述する基材層として構成し、基材層に剛性を付与する方法がある。これについては追って詳細を説明する。
【0113】
[3]<第2実施形態の具体例>
図1は、単一の粘着層と単一の耐候層を備える第2実施形態のシート体10を模式的に示す断面構成図である。図2は、複数の基材層と複数の耐候層を備える第2実施形態のシート体10を模式的に示す断面構成図である。第1及び第2実施形態は、いずれも、「複数の層により構成される本開示のシート体」の一例である。
【0114】
本開示のシート体10は、少なくとも1つの基材層12と、少なくとも1つの耐候層13を備えていてもよい。一例として、図1に示す第2実施形態のシート体10は、粘着層11と、粘着層11の一方の面に重ねて配置された単一の基材層12と、基材層12の粘着層11側とは反対側の面に重ねて配置された単一の耐候層13と、粘着層11の他方の面に重ねて配置された剥離シート16と、を備える。少なくとも1つの耐候層13は、粘着層11の上方に配置されている。剥離シート16は、粘着層11の耐候層13側とは反対側の面に配置されている。図1に示すシート体10は、剥離シート16を外した場合、3層からなる積層構造を有する。
【0115】
また図2に示す第2実施形態のシート体10は、粘着層11と、粘着層11の一方の面に重ねて配置された複数(ここでは2つ)の基材層12と、基材層12の粘着層11側とは反対側の最外表面に重ねて配置された複数(ここでは2つ)の耐候層13と、粘着層11の他方の面に重ねて配置された剥離シート16と、を備える。基材層12は、粘着層11と、耐候層13との間に配置されている。図2に示すシート体10は、剥離シート16を外した場合、5層からなる積層構造を有する。各層の詳細については後述する。
【0116】
図2に示すように、複数の基材層12と複数の耐候層13とを備えるシート体10の場合、互いに直接積層された複数の基材層12を含む積層構造と、互いに直接積層された複数の耐候層13を含む積層構造とが積層されていてもよい。このような各積層構造を用いることで、シート体10が備える基材層12又は耐候層13の各々の全体厚み又は特性を制御し易くできる。よって例えば、前記説明した特性をシート体10に付与し易くできる。
【0117】
また例えば、シート体10は、基材層12と耐候層13との間に配置された別の層を備えていてもよい。言い換えると、シート体10は、第1層(基材層12)と第2層(耐候層13)との間に配置された第3層(別の層)を備えていてもよい。これにより、例えば、シート体10の粘着性や、シート体10の全体の剛性を制御し易くできる。また図1に示すように、シート体10は、例えば、粘着層11の表面に剥離シート16が貼付されていてもよい。この場合、粘着層11が剥離シート16で保護されるため好ましい。また、シート体10の積層構造としては、例えば、粘着層11と耐候層13とを含む積層構造の他、耐候性が付与された基材層12と、粘着層11とが積層された積層構造等も例示できる。尚、以下の説明で言及する「シート体10」は、特に言及がない限り、図1に示すように、粘着層11、基材層12、及び耐候層13が、この順に設けられた3層の積層構造のシート体10を指す。
【0118】
(粘着層11)
粘着層11は、例えば、アクリル系粘着剤から構成されていることが好ましい。アクリル系粘着剤は、構造物の屋根等に対する粘着力の調整が容易で材料設計の自由度が高く、また、透明性、耐候性及び耐熱性にも優れている。このため、シート体10による構造物の表面の補強又は補修をより好適に行える。前記アクリル系粘着剤としては特に限定されず、市販品を使用できる。例えば、トーヨーケム(株)製オリバイン(登録商標)BPS6574、BPS6554、BPS5565K等を例示できる。
【0119】
アクリル系粘着剤を使用する場合、粘着層11の材料は、アクリル系粘着剤100重量部に対して、イソシアネート系架橋剤(硬化剤)を例えば1重量部以上の値で含有することが好ましい。また、当該材料のイソシアネート系架橋剤(硬化剤)の含有量は、アクリル系粘着剤100重量部に対して、例えば、4重量部以上の値がより好ましい。一方、当該材料のイソシアネート系架橋剤(硬化剤)の含有量は、アクリル系粘着剤100重量部に対して、例えば、10重量部以下の値が好ましい。また、当該材料のイソシアネート系架橋剤(硬化剤)の含有量は、アクリル系粘着剤100重量部に対して、6重量部以下の値がより好ましい。これにより、粘着層の粘着性を本開示で規定する範囲に制御し易くなる。
【0120】
また、アクリル系粘着剤を使用する場合、粘着層11の材料は、アクリル系粘着剤100重量部に対して、粘着付与剤(例えば、ロジン系、テルペン系、石油樹樹脂系、フェノール樹脂系等の粘着付与剤)を例えば1重量部以上の値で含有することが好ましい。一方、当該材料の粘着付与剤の含有量は、アクリル系粘着剤100重量部に対して、例えば、20重量部以下の値がより好ましく、10重量部以下の値が更に好ましい。これにより、粘着層の粘着性を本開示で規定する範囲に制御し易くなる。また、シート体が複数(例えば2つ)の粘着層を備えるように構成して、各粘着層における架橋剤(硬化剤)の比率をそれぞれ変えることで、ある程度温度変化しても粘着層11の安定な粘着力が発揮され易くなる。
【0121】
粘着層11の厚みは、構造物の表面への十分な粘着力を発揮させる観点から、一般的には15μm以上の値である。粘着層11の厚みは、例えば、30μm以上の値が好ましく、40μm以上の値がより好ましい。また、50μm以上の値が更に好ましく、70μm以上の値が特に好ましい。一方、生産性等も考慮すると、一般的には180μm以下の値である。粘着層11の厚みは、例えば、170μm以下の値が好ましく、160μm以下の値がより好ましい。また、140μm以下の値が更に好ましく、125μm以下の値が最も好ましい。
【0122】
このように、例えば粘着層11の厚みを適宜調整することで、粘着層11を介してシート体10を構造物の表面に貼付したときのシート体10の初期粘着力及び耐候負荷試験後の粘着力を、前記した範囲となるように調整できる。粘着層11の厚みは、用いられる粘着剤の種類によって最適な範囲が変化し得る場合がある。例えば、後述する実施例においては、粘着剤として、アクリル系粘着剤のトーヨーケム(株)製オリバイン(登録商標)BPS5565Kが使用されている。この粘着剤が使用される場合、粘着層11の厚みは、例えば、20μm以上180μm以下の値が好ましい。
【0123】
粘着層11の23±2℃における貯蔵弾性率G’は、例えば、1×10Pa以上の値が好ましく、1×10Pa以上の値がより好ましい、一方、例えば、1×10Pa以下の値が好ましく、1×10Pa以下の値がより好ましい。粘着層11の23±2℃における貯蔵弾性率G’をこの各範囲のいずれかの値に設定すれば、例えば、粘着層11を適切な柔らかさに制御し易くできる。よって、シート体10において、粘着力を確保しつつ、取扱性(例えば構造物に貼付したときにずれにくい。)を向上させ易くできる。
【0124】
貯蔵弾性率G’の測定方法を説明する。図15は、貯蔵弾性率G’の測定方法の模式図である。粘弾性測定装置として、DMAQ850 レオメータDHR-2(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製)を用いる。仮に、前記試験装置が製造終了によって入手が難しくなった場合は、前記試験装置の後継機種又は同等の測定が可能な装置を利用できる。
【0125】
サンプルの作製方法及び測定方法:
まず、厚み約2mmの粘着層11を作製する。この粘着層11を5mmの円盤状に打ち抜いたサンプルを準備する。次に図15に示すように、この打ち抜きサンプルを、パラレルプレートと下部プレートにより挟み込んで固定する。そして、打ち抜きサンプルに対して周波数1.0Hzの振動を与え、且つ、-80℃以上80℃以下の温度範囲において、打ち抜きサンプルの温度を5℃/minで変化させる。このときの打ち抜きサンプルの貯蔵弾性率G’をせん断モードにて測定する。ここで図16は、貯蔵弾性率G’の測定例を示すグラフである。尚、図16では、便宜上、サンプルの温度範囲の上限を120°に設定した例を示す。
【0126】
粘着層11の材料の具体例としては、アクリル系粘着剤であるトーヨーケム(株)製オリバイン(登録商標)BPS5565Kと、イソシアネート系架橋剤(硬化剤)であるトーヨーケム(株)製BHS8515とを例示できる。
【0127】
(基材層12)
基材層12は、例えば、本開示のシート体10の形状を規定する層である。基材層12は、例えば、シート体10の全体形状を保持する機能を有すると共に、シート体10に所定の剛性を付与する層であることが好ましい。シート体10は、図1に示したように、単一の基材層12を備えていてもよいし、図2に示すように、複数の基材層12を備えていてよい。シート体10が備える基材層12の数は、例えば、シート体10の全体厚み、基材層12に付与される機能、工場の製造ラインの長さ、或いは、シート体10の生産コスト等を考慮して設定される。例えば、工場の製造ラインが短いために所定の厚みを有する単一の基材層12が得られない場合、基材層12の材料を重ね塗りすることで、所定の全体厚みを有する複数の基材層12の積層構造を形成すればよい。
【0128】
基材層12の構成は、特に制限されない。基材層12は、例えば、樹脂材料と、シート体10に剛性を付与する材料との複合材料を含むことが好ましい。これにより、シート体10に所定の剛性を付与し易くできる。基材層12が含む樹脂材料としては、例えば、アクリル樹脂、アクリルシリコーン系樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂を例示できる。
【0129】
また、基材層12が含むシート体10に剛性を付与する材料としては、フィラーを例示できる。この場合、例えば、セメント、モルタル、シリカ、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、カーボンブラック等のフィラーを例示できる。また例えば、フィラーの粒子形状を調整することで、シート体10の剛性を制御できる。具体的にフィラーの粒子形状としては、球状、針状、不定形、テトラポット形状等を例示できる。
【0130】
更に、基材層12の厚みを調節することで、シート体10の剛性を制御できる。基材層12は、例えば、アクリルを含む樹脂成分と、モルタルとにより構成されていることが好ましい。また基材層12は、ポリマーセメントを含むことがより好ましい。基材層12の材料である樹脂成分とモルタルの比率を制御することで、シート体10の剛性を容易に制御できると共に、材料設計の自由度を向上できる。また、取り扱い易い程度の基材層12の厚みが得られるため、シート体10による構造物の表面の補強又は補修をより好適に行える。
【0131】
より具体的には、アクリル系樹脂を含む基材層形成用組成物として、菊水化学工業(株)製スプリングコート(ハケ)混和液、東亞合成(株)製アロンブルコートA450ベース等を利用できる。また、基材層12に用いられるモルタルとして、菊水化学工業(株)製スプリングコート(ハケ)粉体、東亞合成(株)製アロンブルコートA450セッター等を利用できる。前記例示した基材層形成用組成物の材料及びモルタルの各々は、単体又は混合して用いられてもよい。
【0132】
基材層12の材料として、樹脂成分とモルタル成分を使用する場合、モルタル成分と樹脂成分との混合物の合計量に対する樹脂成分の量は、例えば、10重量部以上の値が好ましい。また前記混合物の合計量に対する樹脂成分の量は、例えば、20重量部以上の値がより好ましく、30重量部以上の値が更に好ましく、40重量部以上の値が最も好ましい。一方、前記混合物の合計量に対する樹脂成分の量は、90重量部以下の値が好ましく、80重量部以下の値がより好ましく、70重量部以下の値が更に好ましく、60重量部以下の値が最も好ましい。これにより、基材層12の後述する耐候層13に対する接着性を確保し易くできると共に、シート体10に適切な剛性を付与し易くできる。
【0133】
また、剛性を付与する材料として、フィルム状又はメッシュ状の補強材料が用いられてもよい。この補強材料は、例えば、基材層12の内部に配置される。基材層12が有する補強材料としては、ビニロン、PET、ポリプロピレン(ポリオレフィン)、ポリスチレン、ポリフッ化ビニリデン等で構成されたメッシュ、フィルム(2軸延伸フィルムでもよい。)を例示できる。また、基材層12が有する補強材料としては、アルミや鋼等の金属材料で構成されたメッシュや箔も好ましい。このように、基材層12は、メッシュ、フィルム、又は箔のいずれかの形状の補強材料を含んでいてもよい。
【0134】
ここで図6は、本開示のシート体10の補強材料15の一例を示す模式図である。図7は、図6の補強材料15の部分拡大図である。図6及び図7に示す補強材料15は、基材層12に用いられる材料であって、一例として、経糸、緯糸の繊維が格子状に配置された二軸組布構造を有する。補強材料15の形状は、特に限定されない。補強材料15の形状としては、図6及び図7に示す二軸組布構造の他、例えば、三軸組布構造等の任意の形状を例示できる。補強材料15としては、例えば、高強度ビニロンメッシュ(例えば土木用途)や、ビニロン(例えば農業用途)、ポリエステル、ポリビニルアルコール等で形成された寒冷紗等の網材が好ましい。これらの補強材料15によれば、シート体10の弾性域を広げ易くできる。また、シート体10に適度な剛性を付与し易くできる。更に、シート体10の取扱性を改善できる。
【0135】
例えば、補強材料15の線ピッチは、50mm以上1.2mm以下の値が好ましい。言い換えると、例えば、補強材料15の線密度は、0.2本/cm以上8.0本/cm以下の値が好ましい。このような補強材料15によれば、シート体10の引張強度を確保しつつ、シート体10に剛性を付与し易くできる。
【0136】
補強材料15は、例えば、基材層12を平面視したとき、基材層12の全面をカバーする大きさを有していてもよいし、基材層12よりも小さい大きさを有していてもよい。すなわち、平面視したときの補強材料15の面積は、平面視したときの基材層12の面積と同等、又は、基材層12の前記面積より小さくてもよい。
【0137】
平面視したときの補強材料15の面積(平面視面積)は、例えば、基材層12の平面視面積に対し60%以上95%以下の値であることが好ましい。補強材料15の平面視面積が60%以上の値であれば、例えば、シート体10の剛性を確保し易くなり、シート体10の伸び率も制御し易くできる。また、シート体10の異なる領域での剛性のバラツキも抑制し易くできる。また、補強材料15の平面視面積が95%以下の値であれば、例えば、シート体10の厚み方向で補強材料15を挟むように基材層12が形成された場合、基材層12の全体において、基材層12に対する補強材料15の接着強度を確保し易くできる。尚、補強材料15の平面視面積は、公知の方法で測定できる。
【0138】
補強材料15の厚みは、例えば、基材層12の厚みに対して10%以上の値である。補強材料15の厚みは、基材層12の厚みに対して、例えば、20%以上の値が好ましく、30%以上の値がより好ましく、40%以上の値が特に好ましく、50%以上の値が最も好ましい。一方、補強材料15の厚みは、例えば、基材層12の厚みに対して80%以下の値である。補強材料15の厚みは、基材層12の厚みに対して、例えば、70%以下の値が好ましく、60%以下の値がより好ましく、55%以下の値が特に好ましい。このような基材層12の厚みの設定により、シート体10に適度な剛性を付与し易くできる。
【0139】
更に、補強材料15の厚みと基材層12の厚みとを前記関係を有するように設定することで、本開示のシート体10は、粘着層11と基材層12との密着性に優れ、適切な剛性を有するように構成できる。よって、構造物の屋根等にシート体10を貼り合せる際に優れた取扱性が得られ、シワや、構造物の屋根等との隙間を生じることなく、構造物を長期にわたってシート体10により保護できる。例えば、基材層12の厚みに対する補強材料15の厚みの下限は、45%が好ましく、当該厚みの上限は、55%が好ましい。
【0140】
更に、基材層12が含有する樹脂成分のTgを調整することでもシート体10の剛性を制御できる。また、基材層12中の空隙の量や空隙の径を調整することでもシート体10の剛性を制御できる。また、シート体10が複数の基材層12を備える場合、例えば、Tgが所定の値である樹脂成分を含む第1の基材層12と、第1の基材層12に含まれる樹脂成分よりも低いTgを有する樹脂成分を含む第2の基材層12とを備えていてもよい。
【0141】
シート体10の剛性を確保する観点から、基材層12の厚みは、例えば100μm以上の値である。基材層12の厚みは、例えば、200μm以上の値が好ましく、300μm以上の値がより好ましく、350μm以上の値が最も好ましい。一方、生産性等も考慮すると、基材層12の厚みは、例えば1500μm以下の値である。基材層12の厚みは、1200μm以下の値が好ましく、1000μm以下の値がより好ましく、750μm以下の値が最も好ましい。このように、基材層12の厚みを適宜調整することで、シート体10の適切な剛性が得られる。
【0142】
基材層12の材料として、樹脂成分、モルタル成分、及び補強材料15を使用する場合、具体例として、樹脂成分としては、菊水化学工業(株)製スプリングコート(ハケ)混和液を利用できる。またモルタル成分としては、菊水化学工業(株)製スプリングコート(ハケ)粉体を利用できる。また、補強材料15(メッシュ成分)としては、ユニチカ(株)製のビニロン系網材(寒冷紗(BINEO(登録商標)「V520」)を利用できる。
【0143】
(耐候層13)
耐候層13は、構造物の表面とは反対側に配置されて外部の露出する層である。シート体10は、例えば図1に示すように、単一の耐候層13を備えていてもよいし、図2に示すように、複数の耐候層13を備えていていてもよい。シート体10が備える耐候層の数は、シート体10の全体厚み、付与機能(耐候性、防水性、遮塩性、中性化阻止性、水蒸気透過性等)、工場の製造ラインの長さ、生産コスト等を考慮に設定される。例えば、製造ラインが短いために所定の厚みを有する単一の耐候層13が得られない場合、耐候層13の材料を重ね塗りすることで、所定の全体厚みを有する複数の耐候層13の積層構造をして形成すればよい。
【0144】
耐候層13は、例えば、シート体10の耐候性を担保する層であることが好ましい。例えば、柔軟性を有し、構造物の屋根に発生したひび割れや亀裂に追従できると共に、防水性、遮塩性、中性化阻止性、及び水蒸気透過性に優れる耐候層13を形成できる塗料を塗工することで耐候層13を形成することが好ましい。
【0145】
耐候層13が樹脂を含有する場合、当該樹脂としては、例えば、紫外線(410KJ/mol)よりも強い結合エネルギーの結合構造を有する樹脂が好ましい。このような樹脂として、例えば、ゴム特性を示すアクリル系樹脂(例えばアクリル酸エステルを主成分に持つ合成ゴム)、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコーン系樹脂、フッ素樹脂、柔軟エポキシ樹脂、ポリブタジエンゴム等を例示できる。このうち、耐候性をより確保し易くできるという観点から、アクリルシリコーン系樹脂が好ましい。耐候層13が含有する樹脂は、基材層12が含有する樹脂成分と同じでもよい。耐候層13が含有する樹脂としては、例えば、特にゴム等の弾性膜形成成分を含有する樹脂が好ましい。また、これらの樹脂のうち、アクリルシリコーン系樹脂は、例えば、安全性と塗工性に優れていると共に、消防法上の非危険物である点で好ましい。
【0146】
耐候層13を形成する方法としては、例えば、樹脂と溶媒とを混合して塗工液を作製し、その塗工液を剥離シート上に塗布した後、塗膜から溶媒を乾燥除去する方法を例示できる。溶媒は、水又は水系溶媒であってもよいし、キシレン・ミネラルスピリット等の有機系溶媒であってもよい。
【0147】
また耐候層13は、シート体10のカラーバリエーションを豊富にできる観点から顔料を含有していてもよい。また耐候層13は、無機物を含有していてもよい。耐候層13が無機物を含有することで、耐候層13に耐擦傷性を付与できる。耐候層13が含有する無機物としては特に限定されず、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア等の金属酸化物粒子等従来公知の材料を例示できる。
【0148】
また耐候層13は、公知の防汚剤を含有していてもよい。シート体10は、通常、屋外に設置される構造物の補強又は補修に用いられる。このため、耐候層13は汚染されることが多いが、耐候層13が防汚剤を含有することで、シート体10が汚染されることを好適に防止できる。耐候層13が含有する防汚剤としては特に限定されず、例えば、公知材料を利用できる。また耐候層13は、様々な機能をシート体10に付与できる添加剤を含有していてもよい。このような添加剤としては、例えば、セルロールナノファイバー等を例示できる。
【0149】
耐候層13は、例えば、アクリルシリコーン系樹脂を含有することが好ましい。アクリルシリコーン系樹脂は、シロキサン結合の比率を調整することで耐候性、色味、樹脂の劣化度合の制御が容易で材料設計の自由度が高い。また、耐熱性及び耐寒性にも優れているため、シート体10による構造物の表面の補強又は補修をより好適に行える。耐候層13が含有するアクリルシリコーン系樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂を含む耐候層形成用組成物(大日精化工業(株)製クールライフSPブラック(CB1)P5-0、藤倉化成(株)製ベルアース弾性黒、東亞合成(株)製アロンブルコートT-1000、(株)日本触媒製アクリセットEMN325E、(株)日本触媒製ユーダブルEF008等)を例示できる。これらの材料の各々は、単体又は混合して用いられてもよい。
【0150】
アクリルシリコーン系樹脂を使用する場合、0℃以下のTgのアクリルシリコーン系樹脂と、0℃より大きいTgのアクリルシリコーン系樹脂とが用いられてもよい。この場合、例えば、0℃以下のTgのアクリルシリコーン系樹脂100重量部に対して、0℃より大きいTgのアクリルシリコーン系樹脂を、0重量部以上の値となるように添加してもよい。
【0151】
この0℃より大きいTgのアクリルシリコーン系樹脂の添加量としては、0℃以下のTgのアクリルシリコーン系樹脂100重量部に対して、例えば、20重量部以上の値がより好ましく、50重量部以上の値が更に好ましく、80重量部以上が最も好ましい。
【0152】
一方、この0℃より大きいTgのアクリルシリコーン系樹脂の添加量としては、0℃以下のTgのアクリルシリコーン系樹脂100重量部に対して、例えば、200重量部以下の値が好ましく、180重量部以下の値がより好ましく、150重量部以下の値が更に好ましく、120重量部以下の値が最も好ましい。上記各範囲のいずれかの値で、0℃以下のTgのアクリルシリコーン系樹脂と、0℃より大きいTgのアクリルシリコーン系樹脂とを用いることで、夏場にブロッキングが生じるのを防止できる耐候層13の耐熱性や、冬場に亀裂が入る等の問題を防止できる耐候層13の耐寒性を保持できる。よって、シート体10を目的の性能に制御し易くできる。
【0153】
耐候層13の厚みは、例えば、構造物の屋根等の使用形態、経年度合い、又は形状等によって任意に設定される。耐候層13の厚みは、耐候性を確保する観点から、例えば10μm以上の値である。耐候層13の厚みは、例えば、30μm以上の値が好ましく、50μm以上の値がより好ましく、70μm以上の値が更に好ましく、90μm以上の値が特に好ましい。別の例では、100μm以上の値が一層好ましい。一方、耐候層13の厚みは、例えば、生産性等も考慮すると、500μm以下の値である。耐候層13の厚みは、例えば、400μm以下の値が好ましく、300μm以下の値がより好ましく、200μm以下の値が更に好ましく、150μm以下の値が最も好ましい。耐候層13の厚みが上記各範囲のいずれかの値であれば、本開示に求められるシート体10の耐候性を確保し易くできる。また、耐候性を確保する観点から、例えば、耐候層13の厚みのバラつきが少ないことが好ましい。具体的には、耐候層13の厚みバラツキは、耐候層13の厚みの±30%以内であることが好ましい。こうした耐候層13の厚みの精度は、工場の製造ラインでシート体10を製造することで実現し易くなる。
【0154】
このように、耐候層13の厚みを上記各範囲のいずれかの値に適宜調整することで、構造物に貼り付けられる前の状態において、180°ピール試験の測定値が1.5N/25mm以上の値であり且つ引張弾性域最大試験力の100%未満の値である粘着力を有するシート体10が得られるように、シート体10を調整し易くできる。この場合、耐候層13の材料の具体例として、アクリルシリコーン系を含有することが好ましい。耐候層13が含有するアクリルシリコーン系樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂を含む耐候層形成用組成物(大日精化工業(株)製クールライフSPブラック(CB1)P5-0、藤倉化成(株)製ベルアース弾性黒等)を利用できる。
【0155】
(シート体10)
本開示におけるシート体10の厚みは、シート体10に所定の特性を付与する観点から、例えば10μm以上の値である。シート体10の厚みは、例えば、100μm以上の値が好ましく、300μm以上の値がより好ましい。また、500μm以上の値が更に好ましく、600μm以上の値が最も好ましい。また例えば、シート体10の厚みは、10cm以下の値である。シート体10の厚みは、例えば、5cm以下が好ましく、1cm以下の値がより好ましく、5mm以下の値が更に好ましい。また、1mm以下の値が特に好ましく、800μm以下の値が最も好ましい。
【0156】
またシート体10の厚み分布は、シート体10に所定の特性を安定的に付与する観点から、例えば、シート体10の総厚みの±10%以下の値であることが好ましい。シート体10の厚み分布が前記範囲内の値であることで、例えば、熟練した作業者でなくても厚みバラツキの小さい層を構造物の表面に安定して設け易くなる。また、厚み分布を前記範囲内に制御することによって、構造物の補強を均一に行い易くなる。
【0157】
シート体10の製造方法は特に制限はないが、以下に例示する。まず、基材である所定の形状付与シート14(図19参照)上に、耐候層13の材料である塗工液を塗布する。その後、前記塗布により形成された塗膜中の溶媒を加熱により除去し、又は、塗膜中の樹脂を硬化等させる。これにより、耐候層13を形成する。次に、耐候層13の上に、基材層12の材料である塗工液を塗布する。その後、前記塗布により形成された塗膜中の溶媒を加熱により除去し、又は、塗膜中の樹脂を硬化等させる。これにより、基材層12を形成する。
【0158】
他方、剥離シート16の上に、粘着層11の材料である塗工液を塗布する。その後、前記塗布により形成された塗膜中の溶媒を加熱により除去し、又は、塗膜中の樹脂を硬化等させる。これにより、粘着層11を形成する。その後、耐候層13と基材層12とを接合して接合体を形成する。この接合体から形状付与シート14を剥がし、基材層12側に粘着層11を貼り合わせる。以上でシート体10が製造される。
【0159】
より具体的なシート体10の製造方法を以下に説明する。まず、耐候層13の材料である塗工液を、予め準備した形状付与シート14上に塗布する。その後、前記塗布より形成された塗膜中の溶媒を乾燥除去することで、耐候層13を形成する。
【0160】
次に、耐候層13の上面に、基材層12の材料である塗工液を塗布する。このとき必要に応じて、塗布した塗工液中に、メッシュ、フィルム、或いは箔等の補強材料15を挿入する。その後、前記塗布より形成された塗膜中の溶媒を乾燥除去することで、基材層12を塗膜形成する。
【0161】
他方、粘着層11の材料である塗工液を、剥離シート16上に塗布する。その後、前記塗布により形成された塗膜中の溶媒を乾燥除去することで、粘着層11を形成する。その後、基材層12に粘着層11を重ね合わせて密着させる。その後、形状付与シート14を耐候層13から剥離させる。以上でシート体10が製造される。
【0162】
本開示のシート体10を構造物に適用した場合、シート体10と、当該シート体10が配置された構造物とを備える構造物の保護構造が得られる。この場合、本書に記載する本開示のいずれかの態様のシート体10が、当該保護構造に適用される。
【0163】
また、本開示のシート体10は、2層以上重ねた状態で使用されてもよい。この場合、厚み方向に配置された複数のシート体10を備える積層体と、当該積層体が配置された構造物とを備える構造物の保護構造が得られる。この場合、本書に記載する本開示のいずれかの態様の複数のシート体10が、当該積層体に適用される。
【0164】
またこの場合、1つのシート体10で保護された構造物の表面に対し、更に別のシート体10を重ねて配置することで、構造物の表面をシート体10により一層保護できる。この積層体では、例えば、1のシート体10の少なくとも一部に、他のシート体10の一部を重ねて配置してもよい。言い換えると例えば、1のシート体10の端部に、他のシート体10の端部を重ねて配置してもよい。或いは例えば、1のシート体10の全体に他のシート体10の全体を重ねて配置してもよい。また積層体において、複数のシート体10は、互いに貼付されていてもよい。
【0165】
(剥離シート16)
剥離シート16は、粘着層11の基材層12側とは反対側の面に貼付される。シート体10では、使用前においては粘着層11を表面保護する目的で、剥離シート16が貼付されていることが好ましい。ここで図3は、本開示のシート体10から剥離シート16を剥離する様子を示す模式図である。図4は、図3のシート体10を構造物に貼付する様子を示す模式図である。図3に示すように、剥離シート16は、構造物21の屋根へのシート体10の貼付に際して剥離される。図4に示すように、剥離シート16が剥離されることで粘着層11が露出したシート体10は、粘着層11を構造物21の屋根に接触させて、構造物21の屋根に貼付される。
【0166】
剥離シート16の構造は特に限定されず、例えば、支持層と剥離層とを有するシートを例示できる。支持層を構成する材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ナイロン6等のポリアミド、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、セルロースアセテート等のセルロース樹脂、ポリカーボネート等の合成樹脂を例示できる。また前記支持層は、紙を主成分として形成されていてもよい。更に支持層は、2層以上の構成層を備える積層体であってもよい。
【0167】
剥離層を構成する材料としては、例えば、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、フッ素化重合体等を例示できる。剥離層は、例えば、剥離層を構成する材料、及び、有機溶剤を含む塗工液を、支持層上に、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、リップコート法等の公知の塗布方法によって塗布し、前記塗布より形成された塗膜を乾燥及び硬化させることで形成できる。また、剥離層の形成に当たっては、予め、支持層の剥離層が形成される面に、コロナ処理や易接着処理を施していてもよい。
【0168】
(形状付与シート14)
形状付与シート14は、シート体10の製造の際の基材として用いられる。形状付与シート14は、シート体10の製造工程で用いられる工程紙である樹脂ラミネート紙や、樹脂フィルムを含んでいてもよい。ここで言う樹脂ラミネート紙は、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン樹脂層を有していてもよい。具体的に形状付与シート14としては、例えば、PPラミネートシート(例えばリンテック(株)製)を利用できる。このPPラミネートシートの厚みは、一例として50μm以上200μm以下の値である。
【0169】
ここでシート体10は、前述の通り、ロール状に巻き取りが可能な程度の柔軟性を有する。従って、シート体10を巻回することで、例えば後述する図20に示すように、ロール体26を構成できる。
【0170】
以下、シート体10の更なる構成を例示する。図17は、第3実施形態に係るシート体10を模式的に示す断面構成図である。本実施形態のシート体10は、前述した剥離シート16を第1剥離シート16とするとき、耐候層13の粘着層11側とは反対側に配置された第2剥離シート25を備える。一例として、シート体10は、厚み方向において、第1剥離シート16、粘着層11、基材層12、耐候層13、及び第2剥離シート25が、この順に配置されている。
【0171】
第2剥離シート25は、外部に露出する表面25aが、第1剥離シート16の外部に露出する表面16aと接触した際、表面25a、16a同士が固着しにくいように構成されている。このため、ロール体26からシート体10を繰り出す際、第1剥離シート16を第2剥離シート25から容易に離して、シート体10を簡単に繰り出すことができる。
【0172】
また第2剥離シート25は、所定の剛性を有する。このため、第1剥離シート16が剥離除去された残余のシート体10の剛性を向上できる。従って、第1剥離シート16及び第2剥離シート25が剥離除去された残余のシート体10の剛性が低い場合でも、シート10を貼り付ける際の取扱性を向上できると共に、構造物の表面にシート体10を容易に貼付できる。また、第1剥離シート16及び第2剥離シート25が剥離除去された残余のシート体10を、剛性を比較的小さい構成に設計できる。このため例えば、シート体10が貼付される構造物の表面の形状が、凹凸や欠陥による高低差により平坦でない場合でも、シート体10を当該表面に良好に追従させて貼付できる。また例えば、当該表面に対するアンカー効果を向上できるため、許容される範囲内でシート体10の粘着力を十分に向上できる。
【0173】
第2剥離シート25の構造は、適宜設定できる。例えば図17に示すように、第2剥離シート25は、シート体10がロール状に巻回された際に第1剥離シート16と接触する接触層23と、シート体10が平坦に配置された状態において、接触層23の第1剥離シート16側に配置された微粘着層24とを有する。
【0174】
接触層23は、単一層により構成されていてもよいし、複数層により構成されていてもよい。また接触層23は、樹脂を含有していてもよい。言い換えると接触層23は、樹脂層でもよい。接触層23が含有する樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ナイロン6、アラミド等のポリアミド、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、セルロースアセテート等のセルロース樹脂、ポリカーボネート等の合成樹脂、ウレタン等を例示できる。
【0175】
或いは接触層23は、繊維成分と、繊維成分を結合するバインダ成分を含む繊維層でもよい。或いは接触層23は、紙を含有していてもよい。この場合、接触層23は、紙を主成分として含有していてもよいし、所定の主成分と共に紙を含有していてもよい。接触層23が紙を含有する場合、接触層23は、例えば、シート体10を施工対象に貼付する際に接触層23が不用意に破れない程度の強度を有する紙を含有することが好ましい。また接触層23が紙を含有する場合、接触層23は、例えば、紙と共に、シロキサン結合を有するシリコーンを含有することが好ましい。接触層23は、例えば、剥離シート16と第2剥離シート25とが省略され且つ接触層23と微粘着層24が省略された残余のシート体10の部分に比べて、高い剛性を有する。
【0176】
接触層23の厚みは、適宜設定可能であるが、例えば20μm以上500μm以下の値である。接触層23がポリエチレンテレフタレート(PET)を含む場合、接触層23の厚みは、例えば20μm以上50μm以下の値が好ましい。
【0177】
微粘着層24は、比較的低い粘着力を有する。例えば、微粘着層24の耐候層13に対する粘着力は、粘着層11の基材層12に対する粘着力よりも低い。また例えば、微粘着層24の接触層23に対する粘着力は、微粘着層24の耐候層13に対する粘着力よりも高い。微粘着層24は、例えば静電気により、耐候層13に被着されていてもよい。微粘着層24は、Tgが実質的に0である主成分を含有していてもよい。微粘着層24は、例えば、エチレン酢酸ビニル(EVA)、ウレタン、シロキサン結合を有するシリコーン、アクリル等を含有していてもよい。なお、第2剥離シート25は、上記した構成に限定されず、例えば、前記形状付与シート14であってもよい。
【0178】
図18は、第4実施形態に係るシート体10を模式的に示す断面構成図である。本実施形態のシート体10は、耐候層13の粘着層11側とは反対側に配置された離型シート29を備える。一例として、シート体10は、厚み方向において、粘着層11、基材層12、耐候層13、及び離型シート29が、この順に配置されている。本実施形態のシート体10では、剥離シート16は省略されている。
【0179】
離型シート29は、外部に露出する表面29a及びその近傍に配置された離型剤を含有する。離型剤としては、例えば、シロキサン結合を有するシリコーンを例示できる。これにより、ロール体26において、離型シート29の外部に露出する表面29aが、粘着層11の貼付面11aと接触した際、表面29a及び貼付面11aが互いに固着しにくいように構成されている。このため、ロール体26からシート体10を繰り出す際、粘着層11を離型シート29から容易に剥離して、シート体10を簡単に繰り出すことができる。
【0180】
このように本開示では、ロール体26からシート体10を繰り出す際、例えば、シート体10の粘着成分が設けられた部分がシート体10の他の部分に付着して取り出しにくくならないように、予めシート体10がロール体26から繰り出し易くされていてもよい。また離型シート29は、所定の剛性を有する。このため本実施形態では、剥離シート16が省略されていても、シート体10の剛性を向上できる。従って、シート体10の取扱性を向上させ、構造物の貼付対象にシート体10を容易に貼付できる。この場合、離型シート29は、離型シート29が剥離除去された残余のシート体10に比べて、高い剛性を有する。
【0181】
離型シート29の構造は、適宜設定できる。例えば図18に示すように、離型シート29は、シート体10がロール状に巻回された際に粘着層11の貼付面11aと接触する表面29aを有する離型基材層28と、シート体10が平坦に配置された状態において、離型基材層28の粘着層11側に配置された微粘着層24とを有する。離型基材層28は、例えば離型剤を含有する点以外は、接触層23と同様の構成を有していてもよい。また離型シート29は、表面29aに重ねて配置された離型剤層を有していてもよい。
【0182】
図19は、第5実施形態に係るシート体10を模式的に示す断面構成図である。本実施形態のシート体10は、平坦に配置された状態において、耐候層13の粘着層11側とは反対側に配置された形状付与シート14を備える。形状付与シート14は、前述した耐候層13の形成時に使用されるシートである。本実施形態のシート体10は、耐候層13の形成後も剥離されることなく形状付与シート14を備えている。
【0183】
一例として、シート体10は、厚み方向において、剥離シート16、粘着層11、基材層12、耐候層13、及び形状付与シート14が、この順に配置されている。形状付与シート14の外部に露出する表面14aと、剥離シート16の外部に露出する表面16aとは、互いに接触した際、固着しにくいように構成されている。このため、ロール体26からシート体10を繰り出す際、シート体10を簡単に繰り出すことができる。また形状付与シート14は、所定の剛性を有する。この場合、形状付与シート14は、剥離シート16及び形状付与シート14が剥離除去された残余のシート体10に比べて、高い剛性を有する。このため、剥離シート16が剥離除去された残余のシート体10において、形状付与シート14によりシート体10の剛性を向上できる。従って、第1剥離シート16及び形状付与シート14が剥離除去された残余のシート体10の剛性が低い場合でも、シート体10の取扱性を向上できると共に、構造物の貼付対象にシート体10を容易に貼付できる。
【0184】
なお形状付与シート14は、互いに貼付された2部材を剥がすと二度と接着できない性質である疑似接着性を有する樹脂ラミネート紙を含有していてもよい。この場合、例えば、形状付与シート14が、樹脂層と紙とを積層した樹脂ラミネート紙を含有し、樹脂ラミネート紙中で、樹脂層と紙とが疑似接着により接着されていてもよい。この構成によれば、樹脂層が耐侯層13に被着した状態で、樹脂ラミネート紙中の紙を樹脂層から剥離すると、紙のみが剥離除去され、樹脂層がシート体10の耐侯層13に被着した状態で残留する。
【0185】
次に、第3~第5実施形態において、シート体10を構造物に貼付することにより構造物の補強又は修復を行う施工方法について例示する。本施工方法において、作業者は、必要な長さのシート体10をロール体26から繰り出す。次に作業者は、第3及び第5実施形態の場合、シート体10の剥離シート16を剥離しつつ、露出した粘着層11の貼付面11aを構造物の貼付対象の表面に貼付する。このとき作業者は、シート体10から剥離シート16を少しずつ剥離させながら、露出した粘着層11の貼付面11aを貼付対象の表面に貼付してもよい。他方で作業者は、第4実施形態の場合、シート体10の粘着層11の貼付面11aを構造物の貼付対象の表面に貼付する。
【0186】
その後、作業者は、第3~第5実施形態の場合、シート体10を貼付対象に貼付した後、シート体10から、対応する第2剥離シート25、離型シート29、及び、形状付与シート14のいずれかを剥離除去する。
【0187】
即ち第3~第5実施形態に係る本施工方法は、シート体10がロール状に巻回されたロール体26を準備する準備工程と、ロール体26からシート体10を繰り出す繰出工程と、繰り出されたシート体10から第1剥離シート16を剥離すると共に、外部に露出した貼付面を構造物の表面に貼付する貼付工程とを有する。ここで第3及び第5実施形態の準備工程では、第1剥離シート16により貼付面11aが覆われたシート体10を用いてロール体26を準備する。
【0188】
また本施工方法では、準備工程で準備されるロール体26のシート体10が、耐候層13と粘着層11とを含む積層構造を有し、耐候層13の粘着層11側とは反対側には、被覆シートが配置され、ロール体26では、この被覆シートを含むシート体10がロール状に巻回されており、貼付工程中又は貼付工程後に、被覆シートが剥離除去されてもよい。この被覆シートは、第2剥離シート25、離型シート29、及び、形状付与シート14のいずれかであってもよい。
【0189】
また第4実施形態の施工方法では、準備工程で準備されるロール体26のシート体10が、耐候層13と粘着層11とを含む積層構造を有すると共に、耐候層13の粘着層11側とは反対側に配置され且つ剥離シート16とは別の離型シート29を有し、準備工程では、離型シート29が粘着層11と接触するようにシート体10がロール状に巻回されたロール体26を準備してもよい。
【0190】
本開示のシート体10を使用する際、例えば、以下に示す供給物品38を利用できる。図20は、本開示のシート体10を収容した供給物品38の構造を示す模式図である。図17では、一例として、剥離シート16を備えるシート体10を示している。図20に示される供給物品38は、帯状のシート体10が巻回されたロール体26と、ロール体26を収容する収容空間27aを有する容器27とを備える。容器27は、収容空間27aに収容されたロール体26から外部にシート体10を繰り出して供給可能な供給口27bを有する。供給口27bは、ロール体26の軸方向におけるシート体10の幅寸法と同等以上の幅寸法を有する。
【0191】
作業者は、例えば供給物品38を施工現場に搬入し、供給物品38から必要な長さのシート体10を繰り出して、シート体10を施工に用いることができる。従って供給物品38によれば、シート体10を保管に適したロール体26の形態で保存できる。更に、シート体10の使用時には必要な分だけ供給物品38から繰り出して使用できる。よって、作業効率の向上を図れる。
【0192】
また作業者は、供給口27bからシート体10を繰り出す際、例えば、シート体10の幅方向の全体領域を供給口27bの開口周縁に押し付けながらシート体10を繰り出すことにより、シート体10の幅方向の全体領域に均一な張力を付与しながらシート体10を繰り出すことができる。これにより、構造物21の表面に対してシート体10を均一な張力で貼付できる。従って、貼付後のシート体10に不均一な張力が作用することで、貼付後のシート体10の予期せぬ収縮や膨張が発生するのを防止できる。なお、シート体10の幅方向の全体領域に均一に張力を付与するために、例えば供給口27bの開口周縁に、シート体10の幅方向に延びてシート体10と接触する長尺部材等の別部材を配置してもよい。
【0193】
また、供給物品38が備えるシート体は、本開示のシート体であればよく、例えば、第3~第5実施形態のいずれかのシート体10、或いはその他の実施形態のシート体10であってもよい。
【0194】
[4]<第6実施形態(構造物側とは反対側に別体が重ねて配置される本開示のシート体)>
構造物21に貼付されたシート体10の上面には、シート体10とは別体の物体が配置され(取り付けられ)てもよい。このような物体としては、例えば太陽電池ユニット33を例示できる。図21は、シート体10とこれに重ねて配置された太陽電池ユニット33の模式的な斜視図を示す。図22は、図21のシート体10及び太陽電池ユニット33の模式的な断面図を示す。図22は、図21のXXI-XXI線矢視断面図である。図21及び図22では、シート体10とは別体の物体33の一例として、太陽電池ユニット33を示している。
【0195】
本実施形態では、図21及び図22に示すように、太陽電池ユニットは、並んで配置され電気配線により接続された複数の発電部33a~33cを有する。一例として、太陽電池ユニット33は、シート体10の構造物21側とは反対側の面に接着等により固定されている。また、構造物21である屋根30は、互いの一部を重ねて配置された複数の板部材35~37を有する。これにより、屋根30には、平面視において、隣接する板部材35~37の間に段差30aが形成されている。シート体10は、板部材35~37の板面と、各段差30aの表面とに追従するように、屋根30に貼付されている。複数の発電部33a~33cは、板部材35~37の板面に対応して配置されている。このため、発電部33a~33cが段差30aの影響を受けて外表面の水平方向に対する角度が規制されるのが回避されている。
【0196】
太陽電池ユニット33の構造は限定されず、公知のものであってもよい。例えば、薄型又は軽量のものが好ましい。また太陽電池の種類も限定されない。太陽電池の種類としては、アモルファスシリコン太陽電池、結晶シリコン太陽電池、カドミウムテルル太陽電池、銅インジウムガリウムセレン太陽電池、有機薄膜太陽電池、ペロブスカイト太陽電池、ガリウムアルセニド太陽電池等を例示できる。また例えば、柔軟性を有するアモルファスシリコン太陽電池、カドミウムテルル太陽電池、銅インジウムガリウムセレン太陽電池、有機薄膜太陽電池、ペロブスカイト太陽電池は、本開示のシート体10との組合せとして適している。
【0197】
このように図21及び図22には、構造物21に貼付されて構造物21の補強又は修復に用いられるシート体10と、シート体10に直接又は間接的に取り付けられた太陽電池ユニット33と、を備えるシート体付太陽電池ユニット40が示されている。当該シート体付太陽電池ユニット40が備えるシート体10は、構造物21に貼付される前の状態において、180°ピール試験の測定値が1.5N/25mm以上の値であり且つ引張弾性域最大試験力が100%以下の値である粘着力を有する。本実施形態においても、本開示のシート体10の有する諸効果が奏される。
【0198】
また通常、太陽電池ユニットは、発電に適した位置や角度を調整された状態で、屋根や架台等の構造物に対し、接着剤を用いた接着や、締結部材を用いた締結等の様々な方法により固定される。この固定を確実に行うため、太陽電池ユニットは、構造物に対して様々な方法で固定される。太陽電池ユニットの固定方法や施工現場の状況等によっては、太陽電池ユニットの取扱性が優れず、作業者の作業負担が増大する。また、太陽電池ユニットを取り外す必要が生じた場合、構造物から太陽電池ユニットを容易に取り外せないため、取り外しの作業負担が増大する。また、構造物の劣化に伴い、太陽電池ユニットの劣化も招き易くなる。
【0199】
これに対して本実施形態では、例えば、太陽電池ユニット33を予めシート体10に取り付けておけば、シート体10を構造物に貼付する際、シート体10と共に太陽電池ユニット33を構造物21に適切に固定できる。また、シート体10は貼り直しが可能であるため、シート体10と共に太陽電池ユニット33を構造物21から過度の負担なく取り外すことができる。その結果、簡便な施工により作業者の作業負担を軽減しつつ、太陽電池ユニット33を構造物21に確実に取り付けることができると共に、太陽電池ユニット33を構造物21から取り外す際は、シート体10と共に太陽電池ユニット33を容易に取り外すことができる。
【0200】
ここで例えば、ペロブスカイト太陽電池や銅インジウムガリウムセレン太陽電池は、他のものに比べて、高い耐久性が求められている。このように高い耐久性が求められる太陽電池を含む太陽電池ユニット33に本開示のシート体10を適用すれば、シート体10により、構造物21に太陽電池ユニット33が確実に固定される。また、構造物21の劣化に伴う太陽電池ユニット33の劣化が生じ難くなるため、太陽電池ユニット33の高い耐久性が得られ易くなる。また、太陽電池ユニット33において、高い変換効率で安定した発電を行うことができる。
【0201】
また図21及び図22に示すように、シート体10が貼付される構造物21の表面の形状が、凹凸や欠陥による高低差により平坦でない場合でも、シート体10を当該表面に良好に追従させて貼付できる。このため、シート体10を好適に適用できる。しかしながら、これに限らず、シート体10が貼付される構造物21の表面の形状が平坦である場合でも、シート体10を適用することにより、太陽電池ユニット33の高い耐久性が得られ易くなると共に、太陽電池ユニット33において高い変換効率で安定した発電を行えるため好ましい。
【0202】
また本実施形態のシート体10は、構造物21に貼り付けられる前の状態において、180°ピール試験の測定値が1.5N/25mm以上の値であり且つ引張弾性域最大試験力の100%未満の値である粘着力を有しており、優れた耐候性を発揮できる。よって長期間にわたり、構造物21をシート体10により保護しつつ、太陽電池ユニット33を構造物21に固定できる。従って、構造物21の劣化に伴う太陽電池ユニット33の劣化を抑制しつつ、安定して太陽電池ユニット33を使用できる。
【0203】
また本実施形態のシート体10は、構造物21に貼り付けられる前の状態において、耐候負荷試験後の防水性試験における漏水が無い防水性を有するため、長期間にわたり、構造物21を漏水による劣化から保護しつつ、太陽電池ユニット33を構造物21に固定できる。従って、構造物21の劣化に伴う太陽電池ユニット33の劣化を抑制しつつ、安定して太陽電池ユニット33を使用できる。
【0204】
また本実施形態のシート体10は、前記(1)、(2)、(3)、及び(4)記載の操作を順次行う変形試験を実施した場合に、前記(4)の計算で算出されるエネルギーが2.0mJ以上の値である。このためシート体10は、適度な剛性を有する。従って、作業者が太陽電池ユニット33を構造物21に敷設する際の取扱性を向上し易くできる。
【0205】
また、太陽電池ユニット33が取り付けられた複数のシート体10が構造物21の表面に貼付される場合、シート体10の間に隙間が生じて構造物21の表面が外部に露出しても、当該隙間に対応する構造物21の表面に本開示のシート体10を別途貼付することで、構造物21の表面を簡便に覆うことができる。この場合、例えば、当該隙間の形状に合わせて、例えば長尺形状(一例として短冊状)のシート体10を利用できる。
【0206】
更に、シート体10は、ロール状に巻き取りが可能な程度の柔軟性を有するため、当該シート体10に所定のフレキシブル性を有する太陽電池ユニット33が取り付けられた場合、シート付太陽電池ユニット40の全体においてもフレキシブル性が確保される。従って、種々の構造物21に対し、シート付太陽電池ユニット40を簡便に施工して配置できる。また、シート付太陽電池ユニット40をロール状に巻回した状態で管理することも可能となる。また例えば、シート付太陽電池ユニット40をロール状に巻回した状態で施工現場に搬入し、比較的広い施工対象面に対して簡便に施工することもができる。
【0207】
このように、本開示の太陽電池ユニット33が設けられたシート体10は、屋外の建築の構造物21、土地の上に設けられた構造物21とされる架台、或いは、建材と一体として設けられる構造物21とされる窓等、様々な構造物21に好適に貼り合わせることが可能である。
【0208】
(シート体の構造物への施工)
以下、本開示のシート体の構造物21への施工について説明する。本開示のシート体10は、優れた粘着力を有する。このため、構造物21の屋根等の表面に貼付される際、段差のある構造物21の表面にも隙間無くシート体10を貼付できる。シート体10を貼付することで、外部から構造物21への水の侵入の防止、及び、錆びの原因となる塩水、酸素等の劣化因子の侵入の防止を数十年単位で維持できる。このため、構造物21の劣化を適切に抑制できる。またシート体10は、構造物21の表面に貼付するだけで施工が可能である。従って、作業者の技術に依らずに施工でき、工期の短縮と労務費の削減を実現できる。
【0209】
本開示のシート体を施工する場合、構造物21の表面には、予め、硬化性樹脂材料を含有するプライマー層が形成されていてもよい。プライマー層に求められる物性としては、例えば、貼付される構造物保護シートに対する優れた初期接着性、長期保存が可能な長期接着性、劣化した構造物表面の塗膜をしっかりと固着させて再貼付時において劣化構造物から有害物質の飛散を防止できる目止め性、短時間で硬化する硬化性、一定時間の流動性を確保できるポットライフ、及び、作業現場での厳密な配合作業が不要な塗料作業性等を例示できる。
【0210】
プライマー層の材料は、前記プライマー層に求められる物性が得られるものであれば特に限定されない。例えば、湿気硬化、熱硬化、光硬化その他の方法で硬化して樹脂が形成される性質を有する材料であれば特に制限はない。このような材料としては、アクリル、ポリエステル、ウレタン、エポキシ、シリコーン等の樹脂を例示できる。例えば、主鎖に(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を含む重合体と、エポキシ化合物及びアミノシラン化合物を含む原料化合物の反応生成物を含有するものが好ましい。
【0211】
プライマー層は、一般的には構造物21の下塗材として使用される。本開示において、プライマーは、構造物21の表面に塗布すればよい。下塗材は、通常の方法で施工できる。例えば、構造物21の表面に、刷毛又はローラー等により塗布したり、又は、スプレーガン等で吹き付けたりする一般的な方法により塗料を塗布し、塗膜を形成させることで、下塗材であるプライマー層が得られる。
【0212】
プライマー層の厚みは、特に限定されない。プライマー層の厚みは、例えば、ウェットの状態で20g/m以上の値である。プライマー層の厚みは、例えば、ウェットの状態で、30g/m以上の値が好ましく、50g/m以上の値がより好ましく、100g/m以上の値が更に好ましく、200g/m以上の値が特に好ましい。
【0213】
他方、プライマー層の厚みは、例えば、ウェットの状態で800g/m以下の値である。プライマー層の厚みは、例えば、ウェットの状態で、700g/m以下の値が好ましく、600g/m以下の値がより好ましく、500g/m以下の値が更に好ましい。また特に、プライマー層の厚みは、例えば、ウェットの状態で400g/m以下の値であれば、様々な状態での構築物表面へのシート体10の粘着力を安定化できるため好ましい。ここで言う「ウェットの状態」とは、塗工液が乾燥する前の状態を指し、ウェットの状態について示した上記数値は、塗工重量を指す。
【実施例0214】
本開示に係る複数の実施例、及び、複数の比較例を作製した。本開示の複数の実施例、及び、複数の比較例について、具体的に説明する。
(実施例1)
リンテック(株)製PPラミネートシートである厚み130μmの形状付与シート14を準備した。この形状付与シート14上に、アクリル系樹脂を含む耐候層形成用組成物(大日精化工業(株)製クールライフSPブラック(CB1)P5-0と、藤倉化成(株)製エフシーコート水性シリコン弾性黒を重量比50:50で混ぜたもの)を塗工した。形成した塗膜を乾燥することにより、単一層により構成される厚み110μmの耐候層を形成した。
【0215】
次いで、基材層形成用組成物(菊水化学製、スプリングコート(コテ)のセメントと混和液を60:40で混ぜた混合物を調整した。この混合物を、耐候層上に塗工した。この混合物の塗膜の表面に、ビニロン系網材(クラレ(株)製寒冷紗「クレモナ」、♯600(600番、厚み230μm)を押し付けるように配置した。これにより、塗膜を硬化させて、硬化後の厚みが450μmである基材層を耐候層の上に形成した。
【0216】
一方、トーヨーケム(株)製アクリル系粘着剤(オリバイン(登録商標)BPS5565K)100重量部に対して、トーヨーケム(株)製イソシアネート系架橋剤(硬化剤)(BHS8515)5重量部を混合し、粘着剤用混合液を調製した。この粘着剤用混合液を、剥離シート表面に塗布、乾燥させて厚み100μmの粘着層を形成した。その後、粘着層を基材層に重ね合せて密着させて、実施例1に係るシート体10を構成した。実施例1の粘着層に含有される粘着剤(粘着主剤)は、「BPS5565K」である。
【0217】
(実施例2)
実施例1の粘着層の厚みを30μmの粘着層とした以外は、実施例1と同様に設定して、実施例2にかかるシート体10を構成した。
【0218】
(実施例3)
実施例1の粘着層の構成において、粘着剤(粘着主剤)を、トーヨーケム(株)製アクリル系粘着剤(オリバイン(登録商標)「BPS6574」)に変更し、硬化剤比率(架橋剤比率)を20重量部に設定し、粘着層の厚みを100μmに設定した。また補強材料15を、ユニチカ(株)製のビニロン系網材(寒冷紗(BINEO(登録商標)「V520」))により構成した。その他は実施例1と同様に設定して、実施例3に係るシート体10を構成した。
【0219】
(実施例4)
実施例1の粘着層の構成において、粘着剤(粘着主剤)を、トーヨーケム(株)製アクリル系粘着剤(オリバイン(登録商標)「BPS6574」)に変更し、硬化剤比率(架橋剤比率)を50重量部に設定し、粘着層の厚みを50μmに設定した。また、補強材料15を省略した。その他は実施例1と同様に設定して、実施例4に係るシート体10を構成した。
【0220】
(実施例5)
実施例1の粘着層の構成において、粘着剤(粘着主剤)を、トーヨーケム(株)製アクリル系粘着剤(オリバイン(登録商標)「BPS6574」)に変更し、硬化剤比率(架橋剤比率)を50重量部に設定し、粘着層の厚みを50μmに設定した。また、補強材料15を、旭化成(株)製のポリエステル不織布(ELTAS(登録商標)「E01012」)により構成した。その他は実施例1と同様に設定して、実施例4に係るシート体10を構成した。
【0221】
(実施例6)
実施例1の粘着層の構成において、粘着剤(粘着主剤)を、トーヨーケム(株)製アクリル系粘着剤(オリバイン(登録商標)「BPS6574」)に変更し、硬化剤比率(架橋剤比率)を12重量部に設定し、粘着層の厚みを100μmに設定した。また補強材料15を、ユニチカ(株)製のビニロン系網材(寒冷紗(BINEO(登録商標)「V520」))により構成した。その他は実施例1と同様に設定して、実施例6に係るシート体10を構成した。
【0222】
(実施例7)
実施例1の粘着層の構成において、粘着剤(粘着主剤)を、トーヨーケム(株)製アクリル系粘着剤(オリバイン(登録商標)「BPS6574」)に変更し、硬化剤比率(架橋剤比率)を6重量部に設定し、粘着層の厚みを100μmに設定した。また、補強材料15を、ユニチカ(株)製のビニロン系網材(寒冷紗(BINEO(登録商標)「V520」))により構成した。その他は実施例1と同様に設定して、実施例7に係るシート体10を構成した。
【0223】
(比較例1)
実施例1の粘着層の厚みを10μmに変更した以外は、実施例1と同様に設定して、比較例1に係るシート体を構成した。
【0224】
(比較例2)
比較例1の粘着層の厚みを200μmに変更した以外は、比較例1と同様に設定して、比較例2に係るシート体を構成した。
【0225】
(比較例3)
比較例1の粘着層の厚みを100μmに変更し、比較例1の粘着層の粘着剤(粘着主剤)をトーヨーケム(株)製2液硬化型アクリル系粘着剤(オリバイン(登録商標)BPS6617)に変更した以外は、比較例1と同様に設定して、比較例3に係るシート体を構成した。
【0226】
(比較例4)
比較例1の粘着層の厚みを50μmに変更し、比較例1の粘着層の粘着剤(粘着主剤)を、トーヨーケム(株)製アクリル系粘着剤(オリバイン(登録商標)「BPS6574」)に変更し、硬化剤比率(架橋剤比率)を50重量部に設定した。また、補強材料である補強繊維の材質をユニチカ(株)製のビニロン系網材(寒冷紗(BINEO(登録商標)「V520」))に設定した。その他は比較例1と同様に設定して、比較例4に係るシート体を構成した。
【0227】
(比較例5)
比較例1の粘着層において、粘着剤(粘着主剤)を、トーヨーケム(株)製アクリル系粘着剤(オリバイン(登録商標)「BPS6574」)に変更し、粘着層の厚みを100μmに変更し、比較例1の粘着層の硬化剤比率(架橋剤比率)を11重量部に変更した。また補強材料を、旭化成(株)製のポリエステル不織布(ELTAS(登録商標)「E01012」)により構成した。その他は比較例1と同様に設定して、比較例5に係るシート体を構成した。
【0228】
(比較例6)
粘着層の厚みを100μmに変更し、比較例1の粘着層の粘着剤(粘着主剤)を、トーヨーケム(株)製アクリル系粘着剤(オリバイン(登録商標)「BPS6574」)に変更し、粘着層の硬化剤比率(架橋剤比率)を6重量部に設定した。また、補強材料を省略した。その他は比較例1と同様に設定して、比較例6に係るシート体を構成した。
【0229】
(比較例7)
比較例1の粘着層の厚みを100μmに変更し、比較例1の粘着層の粘着剤(粘着主剤)を、トーヨーケム(株)製アクリル系粘着剤(オリバイン(登録商標)「BPS6574」)に変更し、粘着層の硬化剤比率(架橋剤比率)を6重量部に変更した。また補強材料を、旭化成(株)製のポリエステル不織布(ELTAS(登録商標)「E01012」)により構成した。その他は比較例1と同様に設定して、比較例7に係るシート体を構成した。
【0230】
(比較例8)
比較例1の粘着層の厚みを50μmに変更し、比較例1の粘着層の粘着剤(粘着主剤)を、トーヨーケム(株)製アクリル系粘着剤(オリバイン(登録商標)「BPS6574」)に変更し、粘着層の硬化剤比率(架橋剤比率)を50重量部に変更した。また、基材層及び補強材料を省略した。その他は比較例1と同様に設定して、比較例8に係るシート体を構成した。
【0231】
実施例1~7に係るシート体10、及び比較例1~8に係るシート体について、前記耐候負荷試験前後の180°ピール試験(粘着力(N/25mm))、引張弾性(引張弾性域最大試験力(N/25mm))の測定、耐候負荷試験前粘着力/引張弾性(%)の算出、耐候負荷試験前リワーク(貼直し)の可否評価、重貼防水試験(防水性試験)、及び、変形試験を行った。また、耐候負荷試験前後の実施例1~7に係るシート体10、及び比較例1~8に係るシート体について、以下の送風散水試験を行った。
【0232】
(送風散水試験)
送風散水試験(耐強風試験)は、一般財団法人建材試験センター団体規格JSTM J6403:2020[金属板葺屋根の水漏れ試験方法]に準じて実施した。具体的には、財団法人建材試験センターが保有する前記大型散水試験装置を利用した。試験体として、本開示の帯状の複数のシート体10を準備した。ここで図12は、屋根を模した架台の斜視面である。図13は、図12の架台の側面及び各寸法を示す図である。図14は、図12の架台の正面図である。本試験では、図12図14に示す架台を更に準備した。
【0233】
前記準備した実施例の複数のシート体10を幅方向に並べ、各シート体10の幅方向の一部を隣接するシート体10と互いに重ねた状態で、予めプライマーを塗装した屋根を模した架台にそれぞれ貼付した。その後、下記試験条件にて送風散水試験を実施し、シート体10が架台から剥離しているか否かを目視で確認した。なお、比較例の場合も同様の手順で操作及び目視確認を行った。
【0234】
本試験の設定条件として、架台の屋根勾配を4寸、風速レベルを9(下限風速:38±2m/min、上限風速:62±2m/min)、散水量を4L/min・m、送風散水保持時間を15分にそれぞれ設定した。
【0235】
また試験体の貼付方法として、まず架台の表面にプライマーを塗布した。その後、プライマーの上面に、幅方向において15mm幅の重ね部を形成するように、複数のシート体を互いに重ねて配置すると共に、プライマーの上面に対し、架台の表面の全体を覆うように、複数のシート体を貼付した。また、架台に対する風向きを、軒先から棟部に向けて送風するように設定した。
【0236】
各実施例及び各比較例について、仕様を表1に示す。また、耐候負荷試験前後の180°ピール試験(粘着力(N/25mm))、引張弾性(引張弾性域最大試験力(N/25mm))、耐候負荷試験前粘着力/引張弾性(%)、耐候負荷試験前リワーク(貼直し)の可否、重貼防水試験(防水性試験)、及び、変形試験の試験結果を、表2及び表3に示す。
【0237】
【表1】
【0238】
【表2】
【0239】
【表3】
【0240】
まず、代表的な実施例である実施例1~2、及び代表的な比較例1~3について述べる。なお、耐候負荷試験前における180°ピール試験の測定値、及び、引張弾性域最大試験力の値は、構造物にシート体が貼付された直後で且つシート体に実質的な負荷が及ぶ前の状態で測定された値であるため、構造物に貼付される前の状態における180°ピール試験の測定値、及び、引張弾性域最大試験力の値に近似する値であると考えられる。
【0241】
表2及び表3に示すように、実施例1に係るシート体10は、耐候負荷試験前において、180°ピール試験の測定値が17.6N/25mmであり、引張弾性域最大試験力は20N/25mmであった。また、実施例1のシート体10を施工現場で構造物(折半屋根)に貼付した後、剥がしたところ、シート体10には塑性変形が見られず、再貼り付けが実施できた。
【0242】
更に、実施例1に係るシート体10は、耐候負荷試験後の180°ピール試験の測定値が41.4N/25mmであった。180°ピール試験の粘着力が耐候負荷試験前より高くなった理由として、70℃以上80℃以下の高熱下において粘着層が軟化し、接触面積が向上し、アンカー効果によって粘着力が向上したものと推測される。
【0243】
更に、実施例1に係るシート体10は、耐候負荷試験後の防水性試験結果において、固定用被着体の裏面(シート体が重ね合わせていない方の面)に、目視確認で、輝点又は水のシミが認められず、「漏水が無い」と判断された。
【0244】
また実施例1に係るシート体10は、変形試験において、押付治具を試験速度30mm/minで20mm下方に移動する際に必要なエネルギーが23.0mJであった。このような剛性を備えた実施例1に係るシート体10は、施工現場でも敷設し易く、取扱性に優れていた。加えて、実施例1に係るシート体10は、送風散水試験後も剥がれは発生しなかった。
【0245】
また、実施例2に係るシート体10は、180°ピール試験の測定値が3N/25mmであり、引張弾性域最大試験力は20N/25mmであった。また、実施例2に係るシート体10を施工現場で構造物(鋼板屋根)に貼付した後、剥がしてみたところ、シート体10には塑性変形が見られず、再貼り付けが実施できた。
【0246】
更に、実施例2に係るシート体10は、耐候負荷試験後の180°ピール試験の測定値が5N/25mmであった。また、実施例2に係るシート体10は、耐候負荷試験後の防水性試験結果において、固定用被着体の裏面(シート体が重ね合わせていない方の面)に、目視確認で、輝点又は水のシミが認められず、「漏水が無い」と判断された。
【0247】
また実施例2に係るシート体10は、変形試験において、押付治具を試験速度30mm/minで20mm移動する際に必要なエネルギーが18.7mJであった。このような剛性を備えた実施例2に係るシート体10は、施工現場でも敷設し易く、取扱性に優れていた。加えて、実施例2に係るシート体10は、送風散水試験後も剥がれは発生しなかった。
【0248】
また表1及び表3に示すように、比較例1に係るシート体は、180°ピール試験の測定値が0.25N/25mmであり、送風散水試験後に剥がれが発生した。一方、比較例1に係るシート体は、引張弾性域最大試験力が20N/25mmとなった。比較例1に係るシート体を施工現場で構造物(折半屋根)に貼付した後、剥がしてみたところ、シート体には塑性変形が見られず、再貼り付けが実施できた。
【0249】
更に、比較例1に係るシート体は、耐候負荷試験後の180°ピール試験の測定値が1.0N/25mmであった。また、耐候負荷試験後の送風散水試験では、剥がれが発生した。また比較例1に係るシート体は、耐候負荷試験後の防水性試験結果において、固定用被着体の裏面(シート体が重ね合わせていない方の面)は、目視確認で、輝点又は水のシミが認められず、「漏水が無い」と判断された。尚、比較例1に係るシート体は、変形試験において、押付治具を試験速度30mm/minで20mm移動する際に必要なエネルギーは16mJであった。このような剛性を備えた比較例1に係るシート体は、施工現場でも敷設し易く、取扱性に優れていた。
【0250】
比較例2に係るシート体は、180°ピール試験の測定値は25N/25mmであった。また、送風散水試験後の剥がれは発生しなかった。一方、比較例2に係るシート体の引張弾性域最大試験力は20N/25mmであった。比較例2に係るシート体を施工現場で構造物(折半屋根)に貼付した後、剥がしてみたところ、剥がしたシート体には塑性変形が見られ、再貼り付けができず、廃棄せざるを得なかった。
【0251】
更に、比較例2に係るシート体は、耐候負荷試験後の180°ピール試験の測定値が60N/25mmであった。また、耐候負荷試験後の送風散水試験では、剥がれは発生しなかった。更に、比較例2に係るシート体について、耐候負荷試験後の防水性試験結果では、固定用被着体の裏面(シート体が重ね合わせていない方の面)は、目視確認で、輝点又は水のシミが認められず、「漏水が無い」と判断された。尚、比較例2に係るシート体は、変形試験において、押付治具を試験速度30mm/minで20mm移動する際に必要なエネルギーは25mJであった。このような剛性を備えた比較例2に係るシート体は、施工現場でも敷設し易く、取扱性に優れていた。
【0252】
比較例3に係るシート体は、180°ピール試験の測定値は0.2N/25mmであった。また、送風散水試験後には剥がれが発生した。一方、比較例3に係るシート体の引張弾性域最大試験力は20N/25mmであった。比較例3に係るシート体を施工現場で構造物(折半屋根)に貼付した後、剥がしてみたところ、シート体には塑性変形が見られず再貼り付けが実施できた。
【0253】
更に、比較例3に係るシート体は、耐候負荷試験後の180°ピール試験の測定値は1.3N/25mmであった。また、耐候負荷試験後の送風散水試験では剥がれが発生した。
【0254】
更に、比較例3に係るシート体は、耐候負荷試験後の防水性試験結果において、固定用被着体の裏面(シート体が重ね合わせていない方の面)は、目視確認で、輝点又は水のシミが認められず、「漏水が無い」と判断された。尚、比較例3に係るシート体について、変形試験において、押付治具を試験速度30mm/minで20mm移動する際に必要なエネルギーは22mJであった。このような剛性を備えた比較例3に係るシート体は、施工現場でも敷設し易く、取扱性に優れていた。
【0255】
その他、表2及び表3に示すように、実施例3~7に係るシート体10のいずれも、実施例1及び2と同等程度以上の性能を有することが確認された。これに対して比較例4~8は、耐候負荷試験前における180°ピール試験の測定値が、1.5N/25mm未満の値であるか(比較例4)、或いは、耐候負荷試験前における粘着力が、引張弾性域最大試験力の100%以上の粘着力である(比較例5~7)ことが確認された。これにより、比較例3~8のいずれも、実施例1~7に比較すると、構造物に対する優れた粘着性を確保する効果と共に、施工現場におけるシート体の貼直しを可能にするように取扱性を改善する効果とを得ることは困難と考えられる。
【0256】
また表3に示されるように、実施例1~7のいずれも、変形試験の結果が良好(押付治具17を前記移動させる際に必要なエネルギーが、少なくとも2.0mJ以上の値)であり、優れた耐久性を有していることが確認された。このため実施例1~7は、貼直しを行った場合でも構造物の補強又は修復に十分に利用できるものと考えられる。比較例8は、剛性が小さく、変形試験の測定を行うことができなかった。なお、耐候負荷試験前後に、実施例1~7に係るシート体10、及び、比較例1~8に係るシート体について行った送風散水試験では、実施例1~7と比較例1~8との間で有意な差異は確認されなかった。
【0257】
(開示項目)
以下の項目は、本開示のシート体の好ましい形態の開示である。
【0258】
[項目1]
構造物に貼付されて前記構造物の補強又は修復に用いられるシート体であって、
前記構造物に貼付される前の状態において、180°ピール試験の測定値が1.5N/25mm以上の値であり且つ引張弾性域最大試験力の100%未満の値である粘着力を有する、シート体。
【0259】
前記構成によれば、構造物に貼付される前の状態において、180°ピール試験の測定値が1.5N/25mm以上の値である粘着力をシート体が有するため、構造物に対するシート体の優れた粘着力を確保できる。これにより、構造物を適切に補修又は修復できる。また、構造物に貼付される前の状態において、引張弾性域最大試験力が100%以下の値である粘着力をシート体が有するため、施工現場におけるシート体の取扱性を改善できる。即ち、一度貼付したシート体を剥がした際にシート体が塑性変形しにくくなる分、シート体が破損しにくくなり、シート体の貼り直しが可能となる。これにより、構造物に対する優れた粘着性を有しつつも、施工現場におけるシート体の取扱性を改善できる。
【0260】
[項目2]
耐候負荷試験後において、180°ピール強度の測定値が1.5N/25mm以上の値である粘着力を更に有する、項目1に記載のシート体。
【0261】
前記構成によれば、耐候負荷試験後の粘着力も、構造物に貼付する前と同様であることが確保される。従って、耐候性に優れたシート体を提供できる。
【0262】
[項目3]
耐候負荷試験後の防水性試験における漏水が無い防水性を更に有する、項目1又は2に記載のシート体。
【0263】
前記構成によれば、前記耐候負荷試験後も、シート体の所定の防水性が確保される。従って、耐候性に優れたシート体を提供できる。
【0264】
[項目4]
下記項目(1)、(2)、(3)、及び(4)記載の操作を順次行う変形試験を実施した場合に、下記(4)の計算で算出されるエネルギーが2.0mJ以上の値である、項目1~3のいずれか1項に記載のシート体。
(1) 短辺が50mm及び長辺が100mmの矩形状の前記シート体を試料として準備する。
(2) 前記試料を同一面の一対の短辺同士を重ねるように湾曲させ、前記一対の短辺の縁端から前記長辺に沿って15mm離れた位置までの前記試料の一対の領域を固定部で把持して固定することにより、前記試料の前記一対の領域の間に周長が70mmの湾曲部を形成する。
(3) 前記試料の前記一対の領域の表面を鉛直方向と平行に配置し且つ前記湾曲部を上方に向けた状態で、押付面が直径100mmで厚み10mmの円盤形状の押付治具を用い、温度23±2℃、湿度50±10%RHの環境下で、前記湾曲部に前記押付治具を上方から接触させ、前記押付治具を試験速度30mm/minで20mm下方に移動させる。
(4) 前記押付治具を前記移動させる際に必要なエネルギーを計算する。
【0265】
前記構成によれば、シート体に適度な剛性を付与できる。よって、構造物の表面に貼付する際にシート体の良好な取扱性が得られる。より具体的には、構造物の表面にシート体を敷設し易くなる。
【0266】
[項目5]
前記構造物に貼付される粘着層と、
前記粘着層の上方に配置された少なくとも1つの耐候層と、を備える、項目1~4のいずれか1項に記載のシート体。
【0267】
[項目6]
前記粘着層と前記耐候層との間に配置された基材層を更に備える、項目5に記載のシート体。
【0268】
[項目7]
前記基材層は、補強材料を含む、項目6に記載のシート体。
【0269】
[項目8]
前記粘着層及び前記耐候層の少なくともいずれかは、フィラーを含む、項目6又は7に記載のシート体。
【0270】
[項目9]
前記粘着層の前記耐候層側とは反対側の面に配置された剥離シートと、を備える、項目5~7のいずれか1項に記載のシート体。
【0271】
[項目10]
単一層により構成され、前記構造物とは反対側に位置する第1面側よりも、前記構造物に貼付される貼付面である第2面側に偏在する粘着成分を含有する、項目1~4のいずれか1項に記載のシート体。
【0272】
[項目11]
ゴムを含有し、前記第1面側と前記第2面側とで架橋度が異なるゴムの架橋構造を有する、項目10に記載のシート体。
【0273】
[項目12]
アクリル樹脂と、エポキシ樹脂と、を含み、
前記アクリル樹脂と前記エポキシ樹脂とによる相分離構造を有する、項目10又は11に記載のシート体。
【0274】
本開示の構成は、前記実施形態及び前記実施例のものに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、その構成及び方法を変更、追加、又は削除できる。本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0275】
10 シート体
11 粘着層
12 基材層
13 耐候層
15 補強材料
16 剥離シート
17 押付治具
18 固定部
19 試料
21 構造物
30 屋根
31 ブルーシート
32 土嚢
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
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図18
図19
図20
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図22
図23