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  • 特開-医薬 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155856
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】医薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/423 20060101AFI20241024BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
A61K31/423
A61P9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024067876
(22)【出願日】2024-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2023068281
(32)【優先日】2023-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(71)【出願人】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松島 将士
(72)【発明者】
【氏名】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】筒井 裕之
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC70
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA36
(57)【要約】
【課題】拡張型心筋症の改善及び/又は進行防止に有用な薬剤の提供。
【解決手段】ペマフィブラート又はその塩、又はそれらの溶媒和物を含む、拡張型心筋症を改善及び/又は進行防止するための医薬組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペマフィブラート、その塩、又はそれらの溶媒和物を含む、拡張型心筋症を改善及び/又は進行防止するための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡張型心筋症の改善及び/又は進行防止に有用な医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
拡張型心筋症は、心室の円周に沿って心筋細胞が長軸方向に肥大することによって、心室が拡大し心室内部の空間が大きくなる病気である(心室内腔の拡張)。その結果、心室の壁に大きな負荷がかかるため血液をうまく送り出せなくなり(心筋収縮不全)、左室駆出率と心拍出量の低下をきたして、鬱血性心不全を引き起こしやすい状態になる。
【0003】
拡張型心筋症の発症は急性のことも、また潜行性のこともあるが、末期では難治性心不全を呈することが多い。その予後は悪く、厚生労働省の平成11年調査結果では、5年生存率は76%であり、死因の多くは心不全又は不整脈である。
【0004】
現在、拡張型心筋症の根治的療法は心臓移植以外になく、対症療法として、症状に応じてACE阻害剤、ARB、β遮断薬、利尿薬等が適用される。このため、新たな治療の選択肢が望まれている。
【0005】
一方、特許文献1には、次式(1):
【0006】
【化1】
【0007】
(式中、R1及びR2は同一又は異なって水素原子、メチル基又はエチル基を示し;R3a、R3b、R4a及びR4bは同一又は異なって水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、水酸基、C1-4アルキル基、トリフルオロメチル基、C1-4アルコキシ基、C1-4アルキルカルボニルオキシ基、ジ-C1-4アルキルアミノ基、C1-4アルキルスルフォニルオキシ基、C1-4アルキルスルフォニル基、C1-4アルキルスルフィニル基、又はC1-4アルキルチオ基を示すか、R3aとR3bあるいはR4aとR4bが結合してアルキレンジオキシ基を示し;Xは酸素原子、硫黄原子又はN-R5(R5は水素原子、C1-4アルキル基、C1-4アルキルスルフォニル基、C1-4アルキルオキシカルボニル基を示す。)を示し;Yは酸素原子、S(O)l基(lは0~2の数を示す。)、カルボニル基、カルボニルアミノ基、アミノカルボニル基、スルフォニルアミノ基、アミノスルフォニル基、又はNH基を示し;ZはCH又はNを
示し;nは1~6の数を示し;mは2~6の数を示す。)
で表される化合物、これらの塩又はこれらの溶媒和物が、選択的なPPARα活性化作用を有しており、ヒトを含む哺乳類における体重増加や肥満を伴わない、高脂血症、動脈硬化症、糖尿病、糖尿病合併症(糖尿病性腎症等)、炎症、心疾患等の予防及び/又は治療薬として有用であることが開示されている。
しかしながら、これらの化合物が拡張型心筋症に対してどのような作用をするかについては記載も示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2005/023777号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、拡張型心筋症の改善及び/又は進行防止に有用な新規な薬剤を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討を行ったところ、全く意外にも前記特許文献1で実施例85として開示されている化合物、すなわち(R)-2-[3-[[N-(ベンズオキサゾール-2-イル)-N-3-(4-メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸(以下、「ペマフィブラート」と称する場合がある。)が、拡張型心筋症の改善及び/又は進行防止に有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[4]を提供する。
[1]ペマフィブラート、その塩、又はそれらの溶媒和物を含む、拡張型心筋症を改善及び/又は進行防止するための医薬組成物。
[2]ペマフィブラート、その塩、又はそれらの溶媒和物を、それを必要とする患者に投与する、拡張型心筋症の改善及び/又は進行防止方法。
[3]拡張型心筋症の改善及び/又は進行防止に使用するための、ペマフィブラート、その塩、又はそれらの溶媒和物。
[4]拡張型心筋症を改善及び/又は進行防止するための医薬組成物を製造するための、ペマフィブラート、その塩、又はそれらの溶媒和物の使用。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、拡張型心筋症の改善及び/又は進行防止に有用な、新たな薬剤を提供する。本発明に従うと、心臓移植以外に治療方法の知られていない拡張型心筋症に対して、新たな治療の選択肢を提供することが可能となる。また、本発明の薬剤は、移植が制限されている小児の治療法としても期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】野生型マウスと拡張型心筋症モデルマウスに対し、Vehicle又はペマフィブラートを1週間投与した際の、投与前と投与後の心エコー検査結果の比較を示す。評価したエコーパラメータはそれぞれ、心室中隔壁径(IVS:a)、左室後壁径(LVPW:b)、左室拡張末期径(LVDd:c)、左室収縮末期径(LVDs:d)、左室駆出率(EF:e)、及び左室内径短縮率(FS:f)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に用いる(R)-2-[3-[[N-(ベンズオキサゾール-2-イル)-N-3-(4-メトキシフェノキシ)プロピル]アミノメチル]フェノキシ]酪酸(ペマフィブラート)は、以下の化学式(A)で示される化合物である。
【0015】
【化2】
【0016】
当該化合物は、例えば、前記特許文献1に記載の方法に従って製造することができる。また、特許文献1に記載の方法に準じて製剤化することもできる。さらに、ペマフィブラートを含有する製剤は、日本において高脂血症治療剤「パルモディア(登録商標)錠」として承認されており、当該「パルモディア錠」を用いることもできる。
【0017】
また、本発明の一実施態様において、ペマフィブラートの塩又は溶媒和物を用いることもできる。当該塩及び溶媒物は常法により、製造することができる。ペマフィブラートの塩としては、薬学的に許容できるものであれば特に制限はないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩、トリアルキルアミン塩等の有機塩基塩;塩酸塩、硫酸塩等の鉱酸塩;酢酸塩等の有機酸塩等が挙げられる。ペマフィブラート、若しくはその塩の溶媒和物としては、水和物、アルコール和物(例えば、エタノール和物)等が挙げられる。
【0018】
後記実施例に示すように、ペマフィブラートは、拡張型心筋症モデルマウスに対し、心収縮能改善効果を示した。従って、本発明の一態様において、拡張型心筋症患者に、ペマフィブラート、その塩、又はそれらの溶媒和物を含む医薬組成物を投与することによって、拡張型心筋症を治療することができる。
【0019】
本発明において拡張型心筋症とは、心室が広がって全身に必要量の血液を送り出すことができなくなる結果、心不全を引き起こす一群の心筋疾患のことを示す。
本発明の医薬組成物は、拡張型心筋症を改善及び/又は進行防止するための医薬組成物である。ここで、拡張型心筋症を改善することには、拡張型心筋症の症状である、心不全症状(息切れ、疲れやすさ、全身のだるさ、食欲低下、呼吸困難、足やすねのむくみ)を改善する、心不全が重症になってくると、寝ているときに呼吸が苦しくなったり、突然死につながる危険な不整脈(心室頻拍)が出るようになる症状を改善することが挙げられる。また、拡張型心筋症の進行防止をすることには、拡張型心筋症の進展によって生じる鬱血性心不全、不整脈による突然死、心臓内血栓形成による脳梗塞などへの進行を防止することが挙げられる。
ここで、拡張型心筋症の診断は、心不全、不整脈、心音異常、心電図異常、胸部X線写真異常、心エコー異常などにより行われる。従って、本発明の医薬組成物は、これらの検査により拡張型心筋症と診断された患者に投与されるのが好ましい。
【0020】
本発明の一態様において、ペマフィブラート、その塩、又はそれらの溶媒和物を含む医薬組成物は、他の薬学的に許容される担体を用いて、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、粉末剤、ローション剤、軟膏剤、注射剤、吸入剤、坐剤等の剤型とすることができるが、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、粉末剤などの経口投与用医薬組成物とするのが好ましい。これらの製剤は、公知の方法で製造することができる。
薬学的に許容される担体としては、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、可塑剤、流動化剤、希釈剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、pH調整剤、緩衝剤、安定化剤、コーティング剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を例示できる。
【0021】
経口投与用医薬組成物(製剤)を調製する場合の担体としては、次の担体が挙げられる、賦形剤としては、例えば、乳糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、微結晶セルロース、珪酸等が挙げられる。崩壊剤としては、例えば、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン等のスーパー崩壊剤やカルメロース、カルメロースカルシウム、デンプン、ショ糖脂肪酸エステル、ゼラチン、デキストリン、デヒドロ酢酸及びその塩、ポビドン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60等が挙げられる。結合剤としては、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ゼラチン液、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。滑沢剤としては精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコール等が挙げられる。着色剤としては、β-力ロチン、黄色三二酸化鉄、カルメラ等が挙げられる。矯味剤としては白糖、橙皮等が挙げられる。
経口用液体製剤を調製する場合は、ペマフィブラート、その塩、又はそれらの溶媒和物に、矯味剤、緩衝剤、安定化剤、保存剤等を加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。そのような添加剤としては、当該分野で一般的に使用されているものでよく、例えば矯味剤としては白糖等が、緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム等が、安定化剤としてはトラガント等が、保存剤としてはパラォキシ安息香酸エステル等が挙げられる。
注射剤を調製する場合は、ペマフィブラート、その塩、又はそれらの溶媒和物に、pΗ調節剤、安定化剤、等張化剤等を添加し、常法により皮下、筋肉及び静脈内注射剤を製造することができる。そのような添加剤としては、当該分野で一般的に使用されているものでよく、例えばpΗ調節剤としては、リン酸ナトリウム等が、安定化剤としてはピロ亜硫酸ナトリウム等が、張化剤としては、塩化ナトリウム等が例示できる。
坐剤を調製する場合は、ペマフィブラート、その塩、又はそれらの溶媒和物に、担体、界面活性剤を加えて常法により製造することができる。そのような添加物としては、当該分野で一般的に使用されて いるものでよく、例えば、担体としてはポリエチレングリコール、ハードファット等を、界面活性剤としてはポリソルベート 80等を例示できる。
【0022】
本発明の一態様において、ペマフィブラート、その塩、又はそれらの溶媒和物の治療に有効な量及び投与回数は、患者の体重、年齢、性別、症状等によって異なるが、当業者であれば適宜設定できる。例えば、通常成人の場合、ペマフィブラートとして一日あたり0.05~0.8mgを1~3回に分けて経口投与することができ、好ましくは一日あたり0.2~0.4mgを1~2回に分けて、より好ましくは一日あたり0.1~0.8mgを1回又は2回に分けて経口投与する。
【0023】
以下、実施例をもって本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は本発明を制限するものではない。
【実施例0024】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0025】
実施例1.拡張型心筋症モデルマウスに対する作用
野生型マウス(WT:Balb/c,4-6週齢)若しくは拡張型心筋症モデルマウス(Ho:Du CK,Morimoto S,Nishii K,Minakami R,Ohta M,Tadano N,et al.Knock-in mouse model of dilated cardiomyopathy caused by troponin mutation.Circ Res.2007;101:185-194)に対し、Vehicle(Veh:0.5%メチルセルロース溶液)又はペマフィブラート(PF:1mg/kg/day)を1週間連続経口投与を行い、投与前(1日目)及び連続投与後(8日目)に心エコー検査を行い、心室中隔壁径(IVS:a)、左室後壁径(LVPW:b)、左室拡張末期径(LVDd:c)、左室収縮末期径(LVDs:d)、左室駆出率(EF:e)、及び左室内径短縮率(FS:f)の各エコーパラメータを評価した。
図1に、各エコーパラメータの、投与前に対する8日目の変化率(%)を示す。
左室拡張末期径(LVDd:c)、左室収縮末期径(LVDs:d)、左室駆出率(EF:e)、及び左室内径短縮率(FS:f)の各エコーパラメータにおいて、拡張型心筋症モデルマウスのペマフィブラート投与群において顕著な心収縮能改善効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の医薬は、拡張型心筋症を改善及び/又は進行防止するための医薬組成物として有用であることから、産業上の利用可能性を有している。
図1