(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155877
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】歯列矯正用セルフライゲーションブラケット
(51)【国際特許分類】
A61C 7/30 20060101AFI20241024BHJP
A61C 7/14 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
A61C7/30
A61C7/14
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024068283
(22)【出願日】2024-04-19
(31)【優先権主張番号】10 2023 110 194.3
(32)【優先日】2023-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】507182047
【氏名又は名称】ベルンハルト フォースター ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カルステン ワーグナー
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052JJ04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】歯列矯正用のセルフライゲーションブラケットを提供する。
【解決手段】セルフライゲーションブラケット1のクランプ25は弾力性があり、第1クランプ脚と第2クランプ脚27からなり、これらは咬合側または歯肉側に配置されたクランプ屈曲部28によって互いに連結されていて、第1クランプ脚はスリット内に挿入され、クランプの閉位置と開位置との間で歯肉-咬合方向に移動可能であり、クランプは、ブラケットオープナーを係合するためのアクセス開口40をクランプ屈曲部の領域に有し、アクセス開口は、第1クランプ脚の長手方向に沿った図において、または平面に巻き戻されたクランプの上面図において、互いに向かってV字形に走る2つのアーム43、44によって横方向に区切られていて、2つのアーム間の近心から遠心まで測定した距離は、近心から遠心まで測定した2つのアームのそれぞれのアーム幅と少なくとも同じ大きさである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科矯正用のセルフライゲーションブラケット(1)であって、
ベース(4)と、
前記ベース(4)から延びる咬合壁(6)と、
前記ベース(4)から延びる歯肉壁(5)と、
前記咬合壁(6)と前記歯肉壁(5)とを分離し、且つ、近心側から遠心側に連続して延びる溝(7)と、
歯の舌側面または前庭側面に前記ブラケット(1)を粘着するための、前記溝(7)から反対側を向いた固定側面(2)と、
歯肉から咬合に向かう方向に延びるスリット(18)と、
第1クランプ脚(26)と第2クランプ脚(27)とからなり、これらは、咬合側または歯肉側に配置されたクランプ屈曲部(28)によって互いに連結されている、弾力性のあるクランプ(25)と、
を備え、
前記第1クランプ脚(26)は、前記スリット(18)内に挿入され、前記クランプ(25)の閉位置と開位置との間で歯肉-咬合方向に移動可能であり、且つ、
前記クランプ(25)は、ブラケットオープナー(41)を係合させるためのアクセス開口(40)を前記クランプ屈曲部(28)の領域に有してなり、
前記アクセス開口(40)は、前記第1クランプ脚(26)の長手方向(29)に沿って、または、平面に巻き戻された前記クランプ(25)を上から視て、互いに向かってV字形に走る近心アーム(43)、遠心アーム(44)によって横方向に区切られていて、
前記近心アーム(43)と前記遠心アーム(44)の間の近心から遠心まで測定された距離(A)が、近心から遠心まで測定された2つの前記アーム(43、44)のそれぞれのアーム幅(B1;B2)と少なくとも同じ大きさであり、
前記アクセス開口(40)の外側の前記クランプ屈曲部(28)の領域における前記クランプ(25)の断面が、最小断面と呼ばれる最小値を有し、
前記近心アーム(43)、前記遠心アーム(44)の各々が、前記アクセス開口(40)の領域においてアーム断面を有し、
前記クランプ屈曲部(28)の一点における前記2つのアーム断面の合計が、前記最小断面より10%以下小さいことを特徴とするセルフライゲーションブラケット。
【請求項2】
請求項1において、
前記近心アーム(43)、前記遠心アーム(44)の各々の前記アーム幅(B1;B2)が、前記アクセス開口(40)の外側の領域における前記クランプ屈曲部(28)の最小幅(B)の半分の幅であることを特徴とするセルフライゲーションブラケット。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記クランプ屈曲部(28)の領域における前記クランプ(25)の断面が、最大断面と呼ばれる最大値を有し、
前記最大断面が最小断面の20%以下であることを特徴とするセルフライゲーションブラケット。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
断面が前記最小断面よりも10%以上大きい前記クランプ屈曲部(28)の範囲が、クランプ屈曲部(28)の全曲げ角度(F)の最大20%を超え、特に30°を超えない曲げ角度とされていることを特徴とするセルフライゲーションブラケット。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記近心アーム(43)、前記遠心アーム(44)間の距離(A)が少なくとも0.7mmであることを特徴とするセルフライゲーションブラケット。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、
前記近心アーム(43)、前記遠心アーム(44)間の角度(V)が40°~75°の範囲、特に45°~70°の範囲であることを特徴とするセルフライゲーションブラケット。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかにおいて、
前記2つのアーム(43;44)の一方が、前記クランプ(25)を平面に巻き戻した上面図において、前記クランプ(25)の長手方向に対して20°~45°の範囲、特に23°~33°の範囲の角度(C;C’;C’’;C’’’)で走行するようにされたことを特徴とするセルフライゲーションブラケット。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかにおいて、
前記アクセス開口(40)は長円形であって、前記クランプ屈曲部(28)全体の少なくとも50%、特に少なくとも55%にわたって延在していることを特徴とするセルフライゲーションブラケット。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかにおいて、
前記アクセス開口(40)は長円形であり、且つ、少なくとも100°、特に少なくとも120°の前記クランプ屈曲部(28)の曲げ角度(E)にわたって延びていることを特徴とするセルフライゲーションブラケット。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかにおいて、
前記2つのアーム(43、44)が互いに平行に走る前記クランプ屈曲部(28)の区分が、前記2つのアーム(43、44)が互いに向かってV字形に走る前記クランプ屈曲部(28)の区分に隣接していることを特徴とするセルフライゲーションブラケット。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかにおいて、
前記クランプ屈曲部(28)が、前記第1クランプ脚(26)を通る縦断面で視て、前記第1クランプ脚(26)の上方の第1の高さ(H1)に位置する中心(46)を有してなり、
前記第1クランプ脚(26)に面する前記アクセス開口(40)の端部が、前記第1のクランプ脚(26)の上方の第2の高さ(H2)に位置し、
前記第2の高さ(H2)が、20%減少した前記第1の高さ(0.8*H1)と20%増加した第1の高さ(1.2*H1)によって区切られる範囲内にあることを特徴とするセルフライゲーションブラケット。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかにおいて、
前記クランプ屈曲部(28)に面し、前記第1クランプ脚(26)に対して斜めに、特に60°~85°の角度(G)で走る、ブラケットオープナー(41)のための支持面(51)を備えることを特徴とするセルフライゲーションブラケット。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれかにおいて、
前記第1クランプ脚(26)の前記長手方向(29)に沿って視て、前記クランプ屈曲部(28)に割り当てられた前記壁(6)が、前記溝(7)の底部から離れる方向に向いた端部に凹部(50)を備え、その凹部(50)に、閉位置に位置する前記クランプ(25)の前記第2クランプ脚(27)および/または前記クランプ屈曲部(28)が着座するようにしたことを特徴とするセルフライゲーションブラケット。
【請求項14】
請求項13において、凹部(50)の深さ(J)は、前記クランプ(25)の厚さ(D)の少なくとも80%であることを特徴とするセルフフライゲーションブラケット。
【請求項15】
前記請求項1乃至14のいずれか1項に記載の多数のブラケット(1)からなる前記歯列矯正用セルフライゲーションブラケット(1)のシリーズであって、シリーズの1つのブラケット(1)の前記クランプ屈曲部(28)の領域における前記クランプ(25)の最小断面が、シリーズの他の前記ブラケット(1)のそれぞれの最小断面から10%以下だけ異なることを特徴とする、歯列矯正用セルフライゲーションブラケット(1)のシリーズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部に示された特徴を有する歯列矯正用のセルフライゲーションブラケットによるものである。
【背景技術】
【0002】
そのようなブラケットは、特許文献1から公知である。このブラケットは、2本のクランプ脚と、2本のクランプ脚をつなぐクランプ屈曲部を持つ弾力性のあるクランプを備えている。クランプの屈曲部では、クランプは近心-遠心方向に一定の幅を有し、ブラケットオープナーを係合するための円形のアクセス開口を有する。アクセス開口のためにクランプの断面が弱くなり、クランプの強度が損なわれる可能性がある。クランプのばね力は時間の経過とともに減少することがある。また、アクセス開口によって断面が弱くなった部分でクランプが破損することもある。どちらの場合も、ブラケットはその機能を果たさなくなる。
【0003】
特許文献2から、非一般的なブラケットが知られており、このブラケットも、2つのクランプ脚と、2つのクランプ脚を連結するクランプ屈曲部とを有する弾力性のあるクランプから構成されている。しかしながら、ブラケットオープナーを係合するためのアクセス開口は、曲げ応力の負担がほとんどない第2クランプ脚に位置している。時間の経過とともにブラケットの窪みや凹みにプラークが蓄積することがある。特に第1クランプ脚が挿入されるスリットにプラークが堆積すると、クランプを開位置に動かすことが妨げられることがある。しばらくして、溝を通るアーチワイヤーを交換する場合、第1クランプ脚の動きが鈍かったり、ブロックされていたりすると、ブラケットオープナーが第2クランプ脚に係合することによって、クランプが意図せずに曲げられてしまうことが非常に起こりやすい。そのようなブラケットは、もはやその機能を適切に果たすことはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5906486号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10 2019 134 575 A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、冒頭に述べた種類のブラケットを改良することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、請求項1に規定された特徴を有するブラケットによって達成される。本発明の有利な実施形態は、従属請求項の主題である。
【0007】
本発明による歯列矯正用セルフライゲーションブラケットは、ベースと、ベースから延びる咬合壁と、ベースから延びる歯肉壁と、咬合壁と歯肉壁とを互いに分離し、近心から遠心へ向かう方向に連続して延びる溝と、を備える。溝の反対側を向くブラケット側の面は、歯に接着結合されるように準備された固定側面と呼ばれる。本発明によるブラケットは、その固定側面を歯の舌側表面または前庭側表面に接着することができる。専門用語では、溝は「スロット」とも呼ばれる。アーチワイヤーを保持するために使用される。アーチワイヤは、通常、隣接する一連の歯に取り付けられた一連のブラケットを通過する。アーチワイヤを引っ張ったり、ねじったりすることで、ワイヤにプレテンションを発生させ、これをアーチワイヤからブラケットへ、ブラケットから1本または複数の歯へと伝達し、歯の位置を変えることができる。
【0008】
ブラケットには、歯肉-咬合方向に延びるスリットがある。このスリットは、舌側案内面と唇側案内面とによって区切ることができる。ブラケットは、弾力性のあるクランプをさらに有し、このクランプは、湾曲部によって互いに連結された第1クランプ脚と第2クランプ脚とを有する。
【0009】
この湾曲部はほぼC字形であり、以下、クランプ屈曲部と呼ぶ。クランプ屈曲部は、ブラケットが歯の表面に接着される方向に応じて、咬合側又は歯肉側に配置することができる。固定側面が歯の前庭面に接着されることが意図されるブラケットの場合、第1クランプ脚は舌側脚とも呼ばれ、第2クランプ脚は唇側脚とも呼ばれる。
【0010】
第1クランプ脚は、歯肉-咬合方向に長手方向を有し、平面内に延在する。第1クランプ脚は、スリットに挿入され、クランプの閉位置と開位置との間で歯肉-咬合方向に移動可能である。第1クランプ脚の長手方向は、変位方向と一致する。第1クランプ脚は、スリットの舌側面と唇側面との間に案内されることができる。
【0011】
実施形態では、クランプを歯肉側から咬合側へ移動して開口させる場合、クランプ屈曲部は咬合側に配置される。この場合、第2クランプ脚は、クランプの閉位置で歯肉壁の切り欠き内に延びる。
【0012】
クランプの開位置では、第2クランプ脚の先端が咬合壁に掛かり、アーチワイヤを溝に挿入したり、溝から取り外したりすることができる。閉位置では、第2クランプ脚が溝を閉じ、アーチワイヤを溝の底面に押し付けるために、アーチワイヤに対して弾力的に静止する。
【0013】
したがって、このようなブラケットは「アクティブブラケット」と呼ばれる。アーチワイヤが第2クランプ脚にクランプの復元力を超える力を作用させる場合、アーチワイヤが第2クランプ脚に十分に大きな力を作用させて、第2クランプ脚の接触にもとづく停止によって歯肉壁の切り欠きが制限され得る。
【0014】
この停止により、溝の底面からの第2クランプ脚の距離が制限される。ブラケットの歯肉壁における停止は、アーチワイヤの舌唇方向における可能な最大寸法も制限する。あるいは、クランプを咬合側から歯肉側に移動させて開口することもできる。このような場合、クランプ屈曲部は歯肉側に配置され、第2クランプ脚は、閉位置では咬合壁の切り込みに延び、開位置ではその先端が歯肉壁に載る。
【0015】
咬合面に配置されたクランプ屈曲部の場合、クランプは、閉位置に押し込まれたときに第2クランプ脚が咬合壁にばねで押しつけられることによって閉位置に保持され、弾性的な曲げによってのみ閉位置から開位置に移動することができる。歯肉に配置されたクランプ屈曲部の場合、第2クランプ脚は歯肉壁にばねで付勢される。
【0016】
本発明によるブラケットのクランプは、ブラケットオープナーを係合するためのアクセス開口をクランプ屈曲部に備える。ブラケットオープナーは、クランプを開くための工具である。ブラケットオープナーは、ハンドルと、クランプのアクセス開口に係合するためのアクセス端、特に円筒形のアクセス端とを有することができる。
【0017】
ブラケットオープナーとして、歯科医が歯の表面を検査するために通常使用するプローブを使用することもできる。従って、アクセス開口はプローブアクセス開口とも呼ぶことができる。ブラケットオープナーのアクセス端をアクセス開口に挿入して、クランプを閉位置から開位置に移動させることができる。
【0018】
第1クランプ脚は、クランプの意図しない紛失を防止するように設定することができる。第1クランプ脚とブラケットの他の部分との相互作用により、クランプは、その開位置を越えて、クランプの咬合側又は歯肉側への屈曲方向にそれぞれ移動させることができない。
【0019】
第1クランプ脚の対応する実施形態は、例えば、冒頭で述べた特許文献1及び特許文献2から公知である。第1クランプ脚をスリットから押し出すことは、クランプがスリットから落ちこぼれないように制限される。
【0020】
本発明によれば、アクセス開口は、第1クランプ脚の長手方向に沿った図、またはクランプを平面に巻き戻した上面図において、互いに向かってV字形に走る2つのアームによって横方向に区切られている。2つのアームの一方は、その近心側でアクセス開口に接している。もう一方のアームは、遠心側でアクセス開口に接している。近心-遠心方向に測定した2つのアーム間の距離は、近心-遠心方向に測定した2つのアームそれぞれのアーム幅と少なくとも同じ大きさである。2つのアームのそれぞれのアーム幅は、アクセス開口の外側の領域におけるクランプ屈曲部の幅の半分とすることができる。
【0021】
各アームは、直線的に延びるセグメントを有することができる。2つのアームのそれぞれの幅は、最大でも2つのアーム間の最大距離と同じであり得る。2つのアーム間の距離は、少なくとも0.7mmとすることができる。所定の寸法仕様および寸法比は、それぞれの公称寸法を指し、これは通常の製造公差の範囲内で変動し得る。
【0022】
クランプ屈曲部におけるクランプの断面は、クランプのばね特性を大きく左右する。クランプ屈曲部のクランプ断面には最大値があり、以下「最大断面」という。クランプ屈曲部におけるクランプの断面も最小値を持ち、以下「最小断面」と呼ぶ。
【0023】
各アームは、アクセス開口の領域においてアーム断面を有する。この断面は、それぞれの位置で溝の長手方向に沿って切断されたクランプの切断面の面積である。長方形のクランプ断面の場合、断面はクランプの厚みと幅の乗算で計算できる。クランプ屈曲部の1点で測定した2つのアームの断面の和は、最小断面より10%以下、特に6%以下小さい。
【発明の効果】
【0024】
本発明には大きな利点がある。
【0025】
2本のアームが互いにV字を描いているため、長方形のアクセス開口が形成され、この開口部は第2クランプ脚付近の幅が大きいため、ブラケットオープナーの挿入が容易である。
【0026】
同時に、互いにV字形に走る2本のアームは、ブラケットオープナーのセンタリング効果を発揮する。その結果、ブラケットオープナーは開口プロセスにおいて近心-遠心方向にセンタリングされ、クランプの中央に位置される。
【0027】
長方形のアクセス開口により、アクセス開口を第1クランプ脚に近づけることができる。従って、アクセス開口は、ブラケットの基部に非常に近いクランプ屈曲部に配置することができる。その結果、ブラケットオープナーによって及ぼされる開口力を、2つのクランプ脚のほぼ中間で作用させることができる。
【0028】
中央に力を加えることで、ブラケットオープナーがクランプに加える力を最適化する。開脚の初期段階では、開脚力が両方のクランプ脚に均等に分散されるため、汚れで動きが鈍くなっているクランプでも歪むことなく開脚できる。
【0029】
2つのアームのセンタリング効果により、ブラケットオープナーの力点は、開口プロセスの過程で第1クランプ脚にさらに近く移動することができる。その結果、開脚力の大きな割合が第2クランプ脚よりも第1クランプ脚に作用する。第1クランプ脚の動きは、プラークの堆積により、移動経路全体にわたってしばしば鈍くなるのに対し、第2クランプ脚に関しては、最初の障害を克服した後、開口運動のさらなる経過において顕著な鈍化がないため、このことは、クランプの開口をさらに簡単なものにする。
【0030】
本発明は、製造公差を除けば、アームの断面の合計が、アクセス開口の外側のクランプ屈曲部の領域におけるクランプの断面と一致することを保証することができる。これは、2つのアームのそれぞれの幅が、アクセス開口の外側のクランプ屈曲部の最小幅の半分であっても適用される。
【0031】
曲げ応力によってクランプに最も応力がかかるクランプ屈曲部の領域におけるアクセス開口によって、クランプが弱くなるのを抑制することができる。2本のアームが互いにV字形に延在するため、クランプの断面を変えることなく、クランプの幅をクランプ屈曲部で大きくすることができる。
【0032】
ばね効果を決定するクランプの断面は、クランプ屈曲部全体で実質的に一定に保つことができる。その結果、クランプ屈曲部全体にわたって均一な曲げ挙動を得ることができ、クランプの曲げ挙動とスプリング特性が改善される。
【0033】
本発明によるクランプは、非常に高い安定性と疲労強度、および良好なサイクル耐性を有する。このことは、患者の口腔内での年間24万回の咀嚼サイクルを考慮すると、18ヶ月以上の使用期間中であっても、ばね力が著しく低下しないことを意味する。さらに、材料疲労によるクランプの破損を避けることができる。
【0034】
クランプは板金から非常に簡単に作ることができる。長方形のアクセス開口は、曲げ加工前に、例えば打ち抜き加工によって非常に簡単に作ることができる。2本のクランプ脚の間のクランプ屈曲部を除けば、クランプの製造中に塑性変形は必要ない。
【0035】
クランプのさらなる実施形態では、2つのアーム間の角度は40°~75°の範囲、特に45°~70°の範囲とすることができる。アームの一方は、クランプを平面に巻き戻した上面図において、クランプの長手方向に対して20°~45°の範囲内、特に23°~33°の範囲内の角度で走ることができる。アームの前述の角度は、特に第1クランプ脚の長手方向に対して測定することができる。前述の角度範囲に加えて、ブラケットの可能な角度を考慮する必要がある。
【0036】
一つの実施形態では、長円形のアクセス開口は、クランプ屈曲部の少なくとも50%、特に少なくとも55%にわたって延びることができる。長方形のアクセス開口は、少なくとも100°、特に少なくとも120°のクランプ屈曲部の曲げ角度にわたって延びることができる。特に、全曲げ角度が200°以上の場合、アクセス開口は少なくとも125°の曲げ角度にわたって延びることができる。
【0037】
「総曲げ角度」という用語は、第1クランプ脚から第2クランプ脚までのクランプ屈曲部の総曲げ角度を意味する。2つのアームが互いにV字形に走るクランプ屈曲部のセグメントは、2つのアームが互いに平行に走るクランプ屈曲部のセグメントによって隣接させることができる。2つのアームが互いに平行に延在するセグメントは、第2クランプ脚に隣接することができる。各アームは、クランプ屈曲部のセグメントにわたって実質的に一定のアーム幅で延びることができる。その結果、長方形のアクセス開口は、クランプ屈曲部の特に大きな曲げ角度に延びるように大きくすることができる。
【0038】
さらなる実施形態では、最大断面は最小断面より20%以下大きくすることができる。2つのアームの断面は、クランプ屈曲部の1点で10%以下しか違わない。さらに、アームの経過に沿ったアームの断面の変化は、各アームについて10%以下とすることができる。
【0039】
例えば、一定の厚みを持つクランプの場合、2つのアームそれぞれの公称幅が±5%以内の公差であれば、このことが保証される。特に、断面が最小断面より10%以上大きいクランプ屈曲部のセグメントは、クランプ屈曲部の全曲げ角度の20%以下、特に30°を超えない曲げ角度にのみ延びることができる。
【0040】
これらの措置を個々に、特に互いに組み合わせることによって、製造公差による断面変化をカバーすることができる。クランプ屈曲部の断面を狭い範囲内で一定に保つことができるので、クランプ屈曲部全体にわたって特に均一な曲げ挙動を達成することができる。それにもかかわらず、クランプの全幅は、第1クランプ脚の幅と比較して、クランプ屈曲部の領域において50%以上、特に50%~70%増加することができる。さらに、異なるクランプセグメント間に移行半径を設けて、例えばV字形に走るアームを含むセグメントからアクセス開口のないセグメントへの鋭角的な移行を避けることができる。
【0041】
本発明による多数のブラケットからなる一連の歯科矯正用セルフライゲーションブラケットの場合、クランプ屈曲部の領域におけるクランプの最小断面の公称寸法が、シリーズの全てのブラケットについて同じであるようにすることができる。一連のブラケットのうちの1つの最小断面は、一連の他のブラケットのそれぞれの最小断面から10%以下だけ異なるようにできる。このことは、患者の歯列弓に接着されるブラケットが選択される一連のブラケット全体にわたって、特に均一な曲げ挙動を達成することもできることを意味する。これにより、アーチワイヤ全体に沿って均一な状態を達成することができる。
【0042】
クランプ屈曲部は、第1クランプ脚を通る縦断面で見た中心を有することができる。クランプがクランプ屈曲部の領域で均一な曲げ半径で曲げられている場合、この中心は曲げ半径の中心点であり、曲げ角度は対応する中心角度である。曲げ半径が均一でない場合、曲げ角度はクランプ屈曲部のおおよその中心を中心に類推して測定することができる。
【0043】
クランプ屈曲部の中心は、第1クランプ脚を通る縦断面で見て、第1クランプ脚の上方の第1の高さH1にあることができる。第1クランプ脚に面するアクセス開口の端部は、第1クランプ脚の上方の第2の高さH2に位置することができる。第2の高さH2は、20%減少させた第1の高さと20%増加させた第1の高さとによって区切られる範囲内にあることができる。したがって、第2の高さH2は、0.8*H1から1.2*H1の範囲とすることができる。特に、第2の高さH2は、第1の高さH1±0.1mm(H1±0.1mm)の範囲とすることができる。その結果、ブラケットオープナーの中央への力の付与を特に良好に確保することができ、開口工程の開始時に開口力が両脚に特に均等に分配される。
【0044】
さらなる実施形態において、ブラケットは、その固定側面に拡幅されたベースを有し得、その幅は、近心から遠心まで、および/または歯肉から咬合まで測定されたベースの対応する幅よりも大きい。
【0045】
このような広がったベースは、「パッド」としても知られており、固定側面でブラケットを接着するために利用可能な領域を増加させ、それによってブラケットと歯との接着を改善することができる。
【0046】
また、固定側面には、例えば、交互の向きを有するアンダーカット突起などの構造を設けることもでき、これにより、ブラケットを歯に接着する際に、ブラケットと歯との接着性が著しく向上する。金属製のブラケットの場合、パッドを別個に製造し、その後溶接によってブラケットベースに接続することもできる。
【0047】
咬合壁は、少なくとも1つの咬合結紮翼を有することができる。歯肉壁は、少なくとも1つの歯肉結紮翼を有することができる。結紮ワイヤは、それ自体公知の方法で結紮翼に取り付けることができる。
【0048】
クランプ屈曲部に割り当てられた壁は、第1クランプ脚の長手方向に沿って見て、その端部に溝の底面から離れる向きの凹部を構成することができる。
【0049】
前記凹部は、閉位置にあるクランプの第2クランプ脚および/またはクランプ屈曲部を受け入れることができる。クランプが開いているとき、第2クランプ脚は凹部内に収まることができる。これにより、クランプの開閉時の案内を改善することができる。さらに、患者のブラケット装着時の快適性を向上させることができる。凹部の深さは、クランプの厚さの少なくとも80%とすることができる。
【0050】
第1クランプ脚が挿入されるスリットは、溝に対して横方向に、特に溝に対して垂直に延在されることができる。特に、スリットは、例えば通路の形態で、ベースを通って連続的に延びることができる。別法として、スリットは、クランプ屈曲部から背を向けたブラケットの側で閉じることができ、この場合、特にブラケットの歯肉側とすることができる。
【0051】
スリットは、溝とブラケットの固定側面との間の基部内を通ることができる。特に、溝の底部は、中断することなく、近心から遠心まで連続的に延びることができる。その結果、スリットと溝との間には通路がない。これにより、ブラケット、特にシングルピースのブラケットの製造を簡易化することができる。さらに、ブラケット内部には、堆積物によって詰まる可能性のある自由空間が少なくなる。
【0052】
さらなる実施形態では、ブラケットはブラケットオープナーの支持面を有することができる。支持面はクランプ屈曲部に面している。支持面は第1クランプ脚に対して傾斜している。支持面は、第1クランプ脚に対して60°~85°の角度、特に70°~80°の角度で延在させることができる。傾斜した支持面により、ブラケットオープナーによるクランプの開放が容易になる。
【0053】
ブラケットの溝は、その遠心端およびその近心端に傾斜面および/または湾曲を有することができる。溝には、クランプ湾曲部に面する壁、特に咬合壁に2つのリブを設けることができ、このリブは舌唇方向に延びる。リブは、面取りされたエッジまたは丸みを帯びたエッジを有することができる。
【0054】
リブがあるため、ブラケットを製造する際に、歯肉-咬合方向に測定される溝の幅を微調整することが非常に容易である。ブラケットは丸みを帯びたエッジを有することができる。
【0055】
本発明のさらなる詳細および利点は、添付の図面を参照して本発明の例示的な実施形態を用いて説明される。同一の構成要素および対応する構成要素には、相関する参照番号が付されている。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1】本発明の第1実施例に係る、閉位置にあるクランプを備えたブラケットを拡大して示す斜視図
【
図2】クランプを開位置にした状態のブラケットを拡大して示す
図1と同様の斜視図
【
図4】
図3の切断面IV-IVに沿ってブラケットの断面図
【
図5】
図3の切断面V-V線に沿ってブラケットを切断した断面図
【
図7】
図6の矢印VII方向から視たクランプの正面図
【
図8】
図7の切断面VIII-VIIIに沿ってクランプを切断した断面図
【
図10】
図1のブラケットをブラケットオープナーとともに示す対応図
【
図11】
図2のブラケットをブラケットオープナーとともに示す対応図
【
図12】ブラケットオープナーでクランプを閉位置から開位置に移動させる中間ステップを示す
図4のブラケットの4つの断面図a)~d)
【
図13】本発明によるブラケットの第2実施例を示す、
図3に類似する上面図
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【実施例0058】
図1~
図5は、本発明によるブラケット1の例示的な実施形態を示している。本発明によるブラケット1は、湾曲した固定側面2からなり、その湾曲は、歯(図示せず)の前庭面に近似している。固定側面2には、突起3が列をなして配置されている。固定側面2上には、ブラケット1を歯の前庭側に接着するための接着剤を塗布することができる。
【0059】
このようにして、固定側面2がブラケット1の舌側を形成する。歯の舌側に接着されるブラケットの場合、「舌側」および「唇側」という表示は、それに応じて交換されなければならない。
【0060】
ブラケット1はベース4からなり、そこから歯肉壁5と咬合壁6が延在している。この2つの壁5、6は互いに平行に延在しており、遠心から近心へ直線に沿って延び、唇側方向に向かって開いている溝7によって隔てられている。
【0061】
歯肉壁5には、歯肉方向に突出する2つの結紮翼8が設けられている。咬合壁6には、咬合方向に突出する2つの結紮翼9が設けられている。
【0062】
従って、
図4において、ブラケットを歯に装着する際の方向は、図面平面に垂直な舌下方向、唇上方向、右咬合方向、左歯肉方向、及び遠心-近心方向に関して、以下の通りである。
【0063】
溝7は、長方形の断面を有し、ブラケットの一部ではないアーチワイヤ(図示せず)を収容するために使用される。アーチワイヤにプレストレスを与えることで、溝7の底部11と壁5および6にトルクを加えることができる。
【0064】
この目的のために、溝7の明確な断面は基本的に矩形である。この場合、溝7の底部11と咬合壁6上の2つのリブ12によって区切られ、溝7内でのアーチワイヤーの摩擦を軽減する役割を果たす。
【0065】
底部11は、近心から遠心まで途切れることなく連続して延びている。溝7の両端には、底部11に丸みを帯びた傾斜面14、歯肉壁5に丸みを帯びた傾斜面15、咬合壁6に丸みを帯びた傾斜面が設けられ、溝7の入り口を広げ、溝7に横たわるアーチワイヤーの摩擦を軽減する役割も果たす。このことは、特にアーチワイヤの不規則なコースを必要とする、歯の大きな位置ずれの場合に特に有利である。
【0066】
溝7の底部11の下には、底部11と平行にスリット18が走っており、このスリット18は、舌側面19と唇側面20、および2つの狭い側壁21によって区切られている。側壁21は互いに平行で、舌側面19と唇側面20の間に延びている。スリット18は、ベース4を貫通して連続して延びており、溝7とはつながっていない。
【0067】
図1~
図5のブラケット1は、
図6~
図9に別個に示すばね材製のクランプ25を含む。これは、一定の厚さDの平らな板金から
図9に示す形状に切り出され、曲げ加工されている。これは、直線状の第1クランプ脚26と、ほぼ直線状に走る短い第2クランプ脚27とを有する。第1クランプ脚26は舌側脚であり、第2クランプ脚27は唇側脚である。
【0068】
2つのクランプ脚26、27は、クランプ屈曲部28と呼ばれるほぼ円弧状の部分によって接続されている。図示の場合、クランプ屈曲部28は、クランプ25の咬合側に位置するセグメントを形成する。反対方向の歯に接着されるブラケットの場合、クランプ屈曲部28は、クランプ25の歯肉セグメントを形成することができ、「咬合」と「歯肉」という表示は、それに応じて交換されるべきである。
【0069】
第1クランプ脚26は、ほとんど遊びなくスリット18に嵌合する。第2クランプ脚27は、近心から遠心まで測定した幅を有し、これはブラケット内の溝7の長さにほぼ対応する。これは平行ではなく、第1クランプ脚26に対して鋭角をなしており、クランプ屈曲部28から接近している。クランプ屈曲部28は210°の全曲げ角度Fを有する。
【0070】
クランプ屈曲部28からクランプ脚26、27への移行は、
図9において破線で示されており、線26aは第1クランプ脚26の始部を示し、線27aは第2クランプ脚27の始部を示している。
【0071】
その自由端(歯肉端)において、第2クランプ脚27は、歯肉に向かって延び、唇方向に向かって角度をなす延長部27bを有する。この延長部27bは、第2クランプ脚27よりも幅が狭く、第1クランプ脚26よりも幅が狭いため、歯肉壁5に配置された切り込み24にほとんど遊びなく嵌まり込む。
【0072】
第1クランプ脚26は、長手方向29と、長手方向29と平行に走る長円形の凹部30とからなる。長手方向29は点線で示されている(
図6および
図9参照)。凹部30は長方形の穴として設計され、第1クランプ脚26の中心に位置している。
【0073】
突起31がスリット18の唇側面20から凹部30内に舌側に突出している。唇側面20は、第1クランプ脚26の平坦な案内面として設計されている。突起31はラッチングラグの形状を有する。クランプ屈曲部28に面する突起31の(咬合)側は、唇側面20に対して約20°の角度で延びている。クランプ屈曲部28から離れた方を向いた突起31の(歯肉)側は、クランプ屈曲部28に向いた側よりも唇側面20に対して傾斜している。突起31はベース4で一体に形成されている。
【0074】
凹部30は、クランプ屈曲部28から遠ざかる方向を向いたその(歯肉)端部において、第1クランプ脚26の自由(歯肉)端部において、近心から遠心に向かって走るバーによって形成されたストッパ33によって区切られている。
【0075】
スリット18の舌側面19は、第1クランプ脚26のための2つの案内面19a、19bからなり、その間にチャネル35が配置されている。案内面19a、19bは唇側面20と平行に走っている。案内面19a、19bおよびチャネル35は、スリット18の全長にわたって歯肉から咬合面まで延びている。
【0076】
クランプ25が装着されると、第1クランプ脚26が長手方向29に沿ってスリット18に挿入される。ストッパ33は突起31に達し、第1クランプ脚26は舌方向に弾力的に変形する。チャネル35は、クランプ25が挿入されたときにストッパ33が突起31上を滑った場合に旋回可能な逃げ空間を形成する。第1クランプ脚26は、案内面19a、19bおよび突起31によって、ストッパ33の領域でその長手方向29の周りに曲げられる。ストッパ33が突起31の上に押されると、第1クランプ脚26はその平面状の初期形状に戻る。第1クランプ脚26がスリット18に完全に挿入されると、クランプ25は
図1、
図3、
図4を参照した閉鎖位置になる。
【0077】
クランプ25を閉位置から開位置に移動させるために、クランプ屈曲部28の領域にはアクセス開口40が配置され、このアクセス開口40にはブラケットオープナー41と呼ばれる工具(
図10~
図12参照)を用いてアクセスすることができる。ブラケットオープナー41は、アクセス開口40に係合するための円筒形のアクセス端42から構成されている。ブラケットオープナー41は、アクセス端42から離れた端部に、ハンドル(図示せず)を備えている。
【0078】
アクセス開口40は、近心アーム43と遠心アーム44によって横方向に縁取られている。第1クランプ脚の長手方向29に沿った
図7を参照し、平面に巻き戻されたクランプ25の上面図である
図9を参照すると、2つのアーム43、44は互いに向かってV字形に走っている。2つのアーム43、44は互いに角度Vと距離Aを有している。距離Aは近心から遠心までで測定される。
【0079】
角度Vは、図示の実施形態では約63°である。
図9の上面図において、2つのアーム43および44はそれぞれ、クランプ25の長手方向29に対して角度Cで延在し、これは角度Vの半分の大きさである。第1クランプ脚26は一定の幅Bを有し、図示の実施形態では1.44mmである。アーム43は幅Bの半分である一定の幅B1を有し、アーム44は幅B1に対応する一定の幅B2を有する。2つのアーム43、44がV字形領域で互いに向かってとがった状態になるのを防ぐために、変遷半径45が設けられている。変遷半径45から出発して、距離Aは第1クランプ脚26からの距離が増加するにつれて増加する。2つのアーム43、44が互いに対してV字形に走るセグメントは、2つのアーム43、44が互いに平行に走り、一定の距離Aを有するクランプ屈曲部28のセグメントに続く。クランプ屈曲部28の少なくとも一点において、2つのアーム43、44の間の距離Aを測定することができ、この距離Aは、少なくとも幅B1および幅B2と同じ大きさである。
【0080】
図示の実施形態では、変遷半径45から離れた方向に面したアクセス開口40の領域における距離Aは、0.96mmである。長方形のアクセス開口40は、126°のクランプ屈曲部28の曲げ角度E、したがって210°の全曲げ角度Fを有する全クランプ屈曲部28の60%以上にわたって延びている。
【0081】
クランプ屈曲部28は0.55mmの曲げ半径で曲げられている。
図8に示す第1クランプ脚26の縦断面において、クランプ屈曲部28の中心46は、したがって第1クランプ脚26から0.55mmの高さH1にある。第1クランプ脚26に面するアクセス開口40の端部、すなわち変遷半径45によって区切られる
図7および
図8における下端部は、第1クランプ脚26の上方の第2の高さH2に位置する。第2の高さH2は、10%減少した第1の高さ(0.9*H1)と10%増加した第1の高さ(1.1*H1)によって区切られる範囲にある。したがって、この計算規則(H1±10%)により、第2の高さH2の範囲は0.495mmから0.605mmとなる。
【0082】
前記第2の高さ(H2)が、20%減少した前記第1の高さ(0.8*H1)と20%増加した第1の高さ(1.2*H1)によって区切られる範囲内にあるようにしてもよい。
【0083】
図5では、交差したクランプ25の切断面が見られ、この切断面はクランプ25のそれぞれの断面を示している。
【0084】
図示の実施形態では、両アーム43、44のアーム断面の合計は、第1クランプ脚26の断面と一致する。クランプ25の厚さDが一定であるため、アクセス開口40の外側のクランプ屈曲部28の領域における最小断面は、
図9を参照すると、最小幅Bの領域に位置する。変遷半径45の方向では、クランプ25の幅が大きくなるため断面が大きくなる。クランプ屈曲部28の最大断面は、変遷半径45の領域に位置する。図示の実施形態では、その幅は1.64mmであり、最大断面は最小断面より14%大きい。
【0085】
平行アーム43、44の領域では、外側のクランプ幅は2.4mmであり、最小幅Bの1.44mmより67%大きい。しかし、上述の公称寸法B1、B2により、2つのアーム断面の合計は、アクセス開口40の外側の最小断面に対応する。その結果、クランプ25は非常に良好な曲げ挙動と均一なばね特性を有し、クランプ25の疲労強度が高くなる。
【0086】
クランプ屈曲部28に割り当てられた(咬合)壁6は、その(唇側の)端部に凹部50を有し、この凹部50は溝7の底部11から離れる方向に面している。
図5を参照すると、閉じた位置にあるクランプ25のクランプ屈曲部28は、この凹部50に位置している。凹部50の深さJは、クランプ25の厚さDの少なくとも80%である。ブラケットが開いているとき、第2クランプ脚27は凹部50に収まる(
図2参照)。
【0087】
ブラケット1には、ブラケットオープナー41のアクセス端42を支持する支持面51が設けられている。支持面51はクランプ屈曲部28に面している。支持面51は、第1クランプ脚26に対して角度G=75°で傾斜している。
【0088】
クランプ25をその閉位置(
図1参照)からその開位置(
図2参照)に移動させるために、ブラケットオープナー41は、そのアクセス端42と共にアクセス開口40に挿入される(
図10および
図12a)。アクセス端42は、
図12aの矢印Xの方向に挿入されると、支持面51と、互いに向かってV字形に走る2つのアーム43および44によって、クランプ屈曲部28の領域の中央に位置決めされる。アクセス端42は、クランプ25上の変遷半径45の領域(
図12a参照)に静止し、クランプ25はまだその閉位置にある。
【0089】
アクセス端42が(舌)方向Xにさらに押されると、アクセス端42によって及ぼされる開放力は、最初は2つのクランプ脚26と27の間で実質的に均等に分配される。クランプ25の開放運動が始まり、アクセス端42が支持面51に沿ってスライドする。アクセス端42は第1クランプ脚26に近づく(
図12のb参照)。その後、アクセス端42が
図12の矢印Yの方向にさらに押されると、アクセス端42によって及ぼされる開脚力の大部分は第1クランプ脚26に作用する(
図12c)。
【0090】
このことは、スリット18内にプラークが堆積しており、第1クランプ脚26の動きが鈍い場合に特に有利である。突起31は凹部30に収容され、移動を妨げない。(咬合)方向Yへの変位運動は、ストッパ33が突起31に当たったときに終了する。このときクランプ25は、
図11も参照したように、開いた位置にある。この開放位置では、第2クランプ脚27は咬合壁6上に静止位置を有し、この静止位置で唇方向から溝7にアクセスできる。
【0091】
図1~
図11におけるブラケット1の第1の例示的な実施形態は、スリット18が溝7に対して垂直である角張っていないブラケットである。従って、クランプ25は、
図9を参照すると、直線に沿って走行する。