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特開2024-15589乗物酔い低減装置、及び乗物酔い低減方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015589
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】乗物酔い低減装置、及び乗物酔い低減方法
(51)【国際特許分類】
   B60R 11/02 20060101AFI20240130BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20240130BHJP
   A61M 21/00 20060101ALI20240130BHJP
   B60K 35/00 20240101ALI20240130BHJP
   B60R 16/037 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
B60R11/02 C
G08G1/16 F
A61M21/00 Z
B60K35/00 Z
B60R16/037
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117739
(22)【出願日】2022-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】石井 優輝
(72)【発明者】
【氏名】村松 裕子
(72)【発明者】
【氏名】松原 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】大江 一彰
(72)【発明者】
【氏名】押田 直也
【テーマコード(参考)】
3D020
3D344
5H181
【Fターム(参考)】
3D020BA05
3D020BB01
3D020BC03
3D020BC06
3D020BD05
3D344AA19
3D344AA26
3D344AA27
3D344AA30
3D344AC24
3D344AC25
3D344AD01
5H181AA01
5H181CC04
5H181CC12
5H181FF04
5H181FF05
5H181FF14
5H181FF22
5H181FF27
5H181FF32
5H181LL20
(57)【要約】
【課題】乗物に乗車した人に対して自分が水平に対してどの程度傾いているかの視覚的情報を与えることができる(その結果、平衡感覚に起因する乗物酔いを低減できる)乗物酔い低減装置を提供する。
【解決手段】乗物酔い低減装置10は、人が乗車する乗車空間を備えた乗物の前記乗車空間に設けられ、前記乗物の傾きにかかわらず、前記乗車空間に前記乗物の重力方向に直交する水平方向に延びる水平ラインHL20F、HL20L、HL20Rを表示する表示装置20(20F、20L、20R)を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人が乗車する乗車空間を備えた乗物の前記乗車空間に設けられ、前記乗物の傾きにかかわらず、前記乗車空間に前記乗物の重力方向に直交する水平方向に延びる水平ラインを表示する表示装置を備える乗物酔い低減装置。
【請求項2】
前記乗物が走行する道路状況を検出する道路状況検出部をさらに備え、
前記表示装置は、前記道路状況が予め定められた条件を満たす場合、前記水平ラインを表示する請求項1に記載の乗物酔い低減装置。
【請求項3】
前記予め定められた条件は、坂道、カーブ道路、又は、所定の加速力以下で走行する直線道路である請求項2に記載の乗物酔い低減装置。
【請求項4】
前記表示装置は、前記水平ラインと共に、当該水平ラインに沿って前記乗物の加減速に応じた方向に移動する輝点を表示する請求項1に記載の乗物酔い低減装置。
【請求項5】
前記表示装置は、前記乗車空間を取り囲む壁面を構成するフロントガラス、サイドガラスに設けられている請求項1から4のいずれか1項に記載の乗物酔い低減装置。
【請求項6】
前記表示装置は、さらに前記乗車空間を取り囲む壁面を構成するリアガラスに設けられている請求項5に記載の乗物酔い低減装置。
【請求項7】
前記表示装置は、前記乗車空間に設けられた前部ダッシュボード、サイドドアに設けられている請求項1から4のいずれか1項に記載の乗物酔い低減装置。
【請求項8】
前記表示装置は、さらに前記乗車空間に設けられた後部ダッシュボードに設けられている請求項7に記載の乗物酔い低減装置。
【請求項9】
前記表示装置は、フィルム状のフィルム光源である請求項1に記載の乗物酔い低減装置。
【請求項10】
前記フィルム光源は、有機EL又はフィルム状LEDである請求項9に記載の乗物酔い低減装置。
【請求項11】
前記表示装置は、前記乗車空間に設置された液晶ディスプレイ、または、前記乗車空間に設置されたスクリーンに前記水平ラインを投影するプロジェクタである請求項1に記載の乗物酔い低減装置。
【請求項12】
前記水平ラインの色及び幅の少なくとも一方を設定する水平ライン設定部をさらに備え、
前記表示装置は、前記設定された色、幅で前記水平ラインを表示する請求項1に記載の乗物酔い低減装置。
【請求項13】
前記表示装置は、前記水平ラインを含む画像を表示する請求項1に記載の乗物酔い低減装置。
【請求項14】
前記表示装置は、前記乗車空間の四方を取り囲む壁面の少なくとも一部に設けられている請求項1に記載の乗物酔い低減装置。
【請求項15】
人が乗車する乗車空間を備えた乗物の前記乗車空間に、前記乗物の傾きにかかわらず、前記乗物の重力方向に直交する水平方向に延びる水平ラインを表示する乗物酔い低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、乗物酔い低減装置、及び乗物酔い低減方法に関し、特に、乗物に乗車した人に対して自分が水平に対してどの程度傾いているかの視覚的情報を与えることができる(その結果、平衡感覚に起因する乗物酔いを低減できる)乗物酔い低減装置、及び乗物酔い低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乗物酔いの対策として、乗物に搭載され、当該乗物の動きに対応する光の流れを表示する光アレイシステムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2019-523657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、上記特許文献1に記載の光アレイシステムにおいては、表示される光の流れは乗物の特定の動きを模倣したものであり、乗物に乗車した人は自分が水平に対してどの程度傾いているかの視覚的情報が無いないため、平衡感覚に起因する乗物酔いの対策には不十分であることが判明した。
【0005】
本開示は、このような問題点を解決するためになされたものであり、乗物に乗車した人に対して自分が水平に対してどの程度傾いているかの視覚的情報を与えることができる(その結果、平衡感覚に起因する乗物酔いを低減できる)乗物酔い低減装置、及び乗物酔い低減方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示にかかる乗物酔い低減装置は、人が乗車する乗車空間を備えた乗物の前記乗車空間に設けられ、前記乗物の傾きにかかわらず、前記乗車空間に前記乗物の重力方向に直交する水平方向に延びる水平ラインを表示する表示装置を備える。
【0007】
このような構成により、乗物に乗車した人に対して自分が水平に対してどの程度傾いているかの視覚的情報を与えることができる(その結果、平衡感覚に起因する乗物酔いを低減できる)。
【0008】
これは、人が乗車する乗車空間を備えた乗物の前記乗車空間に、前記乗物の傾きにかかわらず、前記乗物の重力方向に直交する水平方向に延びる水平ラインを表示することによるものである。
【0009】
また、上記乗物酔い低減装置において、前記乗物が走行する道路状況を検出する道路状況検出部をさらに備え、前記表示装置は、前記道路状況が予め定められた条件を満たす場合、前記水平ラインを表示してもよい。
【0010】
また、上記乗物酔い低減装置において、前記予め定められた条件は、坂道、カーブ道路、又は、所定の加速力以下で走行する直線道路であってもよい。
【0011】
また、上記乗物酔い低減装置において、前記表示装置は、前記水平ラインと共に、当該水平ラインに沿って前記乗物の加減速に応じた方向に移動する輝点を表示してもよい。
【0012】
また、上記乗物酔い低減装置において、前記表示装置は、前記乗車空間を取り囲む壁面を構成するフロントガラス、サイドガラスに設けられていてもよい。
【0013】
また、上記乗物酔い低減装置において、前記表示装置は、さらに前記乗車空間を取り囲む壁面を構成するリアガラスに設けられていてもよい。
【0014】
また、上記乗物酔い低減装置において、前記表示装置は、前記乗車空間に設けられた前部ダッシュボード、サイドドアに設けられていてもよい。
【0015】
また、上記乗物酔い低減装置において、前記表示装置は、さらに前記乗車空間に設けられた後部ダッシュボードに設けられていてもよい。
【0016】
また、上記乗物酔い低減装置において、前記表示装置は、フィルム状のフィルム光源であってもよい。
【0017】
また、上記乗物酔い低減装置において、前記フィルム光源は、有機EL又はフィルム状LEDであってもよい。
【0018】
また、上記乗物酔い低減装置において、前記水平ラインの色及び幅の少なくとも一方を設定する水平ライン設定部をさらに備え、前記表示装置は、前記設定された色、幅で前記水平ラインを表示してもよい。
【0019】
また、上記乗物酔い低減装置において、前記表示装置は、前記水平ラインを含む画像を表示してもよい。
【0020】
また、上記乗物酔い低減装置において、前記表示装置は、前記乗車空間の四方を取り囲む壁面の少なくとも一部に設けられていてもよい。
【0021】
本開示にかかる乗物酔い低減方法は、人が乗車する乗車空間を備えた乗物の前記乗車空間に、前記乗物の傾きにかかわらず、前記乗物の重力方向に直交する水平方向に延びる水平ラインを表示する乗物酔い低減方法である。
【0022】
このような構成により、乗物に乗車した人に対して自分が水平に対してどの程度傾いているかの視覚的情報を与えることができる(その結果、平衡感覚に起因する乗物酔いを低減できる)。
【0023】
これは、人が乗車する乗車空間を備えた乗物の前記乗車空間に、前記乗物の傾きにかかわらず、前記乗物の重力方向に直交する水平方向に延びる水平ラインを表示することによるものである。
【発明の効果】
【0024】
本開示により、乗物に乗車した人に対して自分が水平に対してどの程度傾いているかの視覚的情報を与えることができる(その結果、平衡感覚に起因する乗物酔いを低減できる)乗物酔い低減装置、及び乗物酔い低減方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】乗物Vの乗車空間に設けられた乗物酔い低減装置10(フィルム光源20)の概略図である。
図2】(a)乗物Vが傾いていない場合(例えば、乗物Vが水平面上にある場合)に前フィルム光源20Fに表示される前水平ラインHL20Fの例、(b)乗物Vが左に傾いた場合(例えば、左カーブを走行中の場合)に前フィルム光源20Fに表示される前水平ラインHL20Fの例、(c)乗物Vが右に傾いた場合(例えば、右カーブを走行中の場合)に前フィルム光源20Fに表示される前水平ラインHL20Fの例である。
図3】(a)乗物Vが傾いていない場合(例えば、乗物Vが水平面上にある場合)に左フィルム光源20Lに表示される左水平ラインHL20Lの例、(b)乗物Vが後ろに傾いた場合(例えば、上り坂を走行中の場合)に左フィルム光源20Lに表示される左水平ラインHL20Lの例、(c)乗物Vが前に傾いた場合(例えば、下り坂を走行中の場合)に左フィルム光源20Lに表示される左水平ラインHL20Lの例である。
図4】本発明者らが行った実験環境について説明するための図である。
図5】本発明者らが行った実験において実施したアンケート結果をまとめたグラフである。
図6】本発明者らが行った実験において実施したアンケート結果をまとめた他のグラフである。
図7】乗物酔い低減装置10の構成図である。
図8】乗物Vに搭載された慣性センサ40のX軸、Y軸を説明するための図である。
図9】フィルム光源20の外形を説明するための図である。
図10】水平ライン表示処理1のフローチャートである。
図11】(a)水平ライン表示処理1(及び水平ライン表示処理2)の結果、表示される水平ラインHLの一例、(b)水平ライン表示処理1の結果、表示される水平ラインHLの一例、(c)水平ライン表示処理2の結果、表示される水平ラインHLの一例である。
図12】水平ライン表示処理2のフローチャートである。
図13】輝点表示処理のフローチャートである。
図14】輝点表示の一例である。
図15】フィルム光源20を設ける相手の変形例である。
図16】乗物酔い低減装置10(変形例)の構成図である。
図17】水平ラインHLの表示形態の変形例である。
図18】フィルム光源20に代えて液晶パネル20Aを用いた変形例である。
図19】乗物Vとして自動運転可能な車両を用いた変形例である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本開示の実施形態である乗物酔い低減装置10について添付図面を参照しながら説明する。各図において対応する構成要素には同一の符号が付され、重複する説明は省略される。
【0027】
図1は、乗物Vの乗車空間に設けられた乗物酔い低減装置10(フィルム光源20)の概略図である。
【0028】
図1に示すように、乗物酔い低減装置10は、乗物酔いを低減するため、人(1又は複数)が乗車する乗車空間を備えた乗物V(例えば、図2参照)の前記乗車空間に設けられている。乗物酔い低減装置10は、乗物Vの傾きにかかわらず、前記乗車空間に乗物Vの重力方向に直交する水平方向に延びる水平ラインHL20F、HL20L、HL20R図1参照)を表示するフィルム光源20(本開示の表示装置の一例)を備える。乗物Vは、例えば、自動車である。フィルム光源20は、例えば、有機EL、OPフィルムである。なお、図1中、符号80が示すのは運転席、符号81が示すのは助手席、符号82が示すのは後部座席である。
【0029】
フィルム光源20は、例えば、乗物VのフロントガラスFG、サイドガラスSGL、SGRに設けられている。以下、フロントガラスFGに設けられたフィルム光源20を前フィルム光源20Fと呼ぶ。同様に、左側のサイドガラスSGLに設けられたフィルム光源を左フィルム光源20Lと呼ぶ。同様に、右側のサイドガラスSGRに設けられたフィルム光源を右フィルム光源20Rと呼ぶ。なお、これらを特に区別しない場合、単にフィルム光源20と呼ぶ。
【0030】
また、前フィルム光源20Fに表示される水平ラインHLを前水平ラインHL20Fと呼ぶ。同様に、左フィルム光源20Lに表示される水平ラインHLを左水平ラインHL20Lと呼ぶ。同様に、右フィルム光源20Rに表示される水平ラインHLを右水平ラインHL20Rと呼ぶ。なお、これらを特に区別しない場合、単に水平ラインHLと呼ぶ。
【0031】
図2(a)は、乗物Vが傾いていない場合(例えば、乗物Vが水平面上にある場合)に前フィルム光源20Fに表示される前水平ラインHL20Fの例である。図2(b)は、乗物Vが左に傾いた場合(例えば、左カーブを走行中の場合)に前フィルム光源20Fに表示される前水平ラインHL20Fの例である。図2(c)は、乗物Vが右に傾いた場合(例えば、右カーブを走行中の場合)に前フィルム光源20Fに表示される前水平ラインHL20Fの例である。
【0032】
図3(a)は、乗物Vが傾いていない場合(例えば、乗物Vが水平面上にある場合)に左フィルム光源20Lに表示される左水平ラインHL20Lの例である。図3(b)は、乗物Vが後ろに傾いた場合(例えば、上り坂を走行中の場合)に左フィルム光源20Lに表示される左水平ラインHL20Lの例である。図3(c)は、乗物Vが前に傾いた場合(例えば、下り坂を走行中の場合)に左フィルム光源20Lに表示される左水平ラインHL20Lの例である。なお、図示しないが、右水平ラインHL20Rも左水平ラインHL20Lと同様に右フィルム光源20Rに表示される。
【0033】
図2(a)~図2(c)、図3(a)~図3(c)に示すように、水平ラインHL(前水平ラインHL20F、左水平ラインHL20L、右水平ラインHL20R)は、乗物Vの傾きにかかわらず、乗物Vの重力方向Aに直交する水平方向に延びた状態でフィルム光源20(前フィルム光源20F、左フィルム光源20L、右フィルム光源20R)に表示される光ライン(光により形成されるライン)である。
【0034】
本発明者らは、上記のように乗物Vの乗車空間に水平ラインHLを表示することにより、乗物酔いを低減できることを実験により確認した。
【0035】
以下、本発明者らが行った実験について説明する。
【0036】
図4は、本発明者らが行った実験環境について説明するための図である。
【0037】
この実験は、乗物Vとして自動車を用いて実施した。被験者は45名である。この実験は、各々の被験者について、図4に示すように、自動車の後部座席に着座した被験者TS(図4中、TS1、TS2)の正面及び左右両側それぞれに設けられた白色のスクリーンS1~S3(後部座席の乗車空間を遮光するスクリーン)にプロジェクタPR1~PR3により緑色の水平ラインHLS1、HLS2、HLS3を投影した環境と当該水平ラインHLS1、HLS2、HLS3を投影しない環境で、合計2回実施した。水平ラインHLS1、HLS2、HLS3の幅は約1cmである。以下、水平ラインHLS1、HLS2、HLS3を投影した環境で行った実験を「水平ライン有り実験」と呼び、水平ラインHLS1、HLS2、HLS3を投影しない環境で行った実験を「水平ライン無し実験」と呼ぶ。
【0038】
なお、水平ラインHLS1、HLS2、HLS3の水平を維持するため、すなわち、自動車の傾きにかかわらず水平ラインHLS1、HLS2、HLS3が自動車の重力方向に直交する水平方向に延びる水平ラインとなるように、プロジェクタPR1~PR3は、自動車の車内に設置したスタビライザに装着した。
【0039】
水平ライン有り実験及び水平ライン無し実験のいずれにおいても、上記自動車は、同一道路(全長約5km、カーブ数約30、高低差約40mの道路を3周)を時速40km/hの条件で走行した。
【0040】
水平ライン有り実験及び水平ライン無し実験それぞれにおいて、各々の被験者は、上記条件で走行する自動車の後部座席に着座し、手に持った携帯端末(スマートフォン又はタブレット)に表示される文章を読み、2分ごとに携帯端末に表示されるアンケートに対する回答(自己の乗物酔いの状態を0~10の11段階評価(主観評価))を入力した。なお、水平ライン有り実験においては、各々の被験者の周辺視野に対して「光」、すなわち、スクリーンS1~S3に表示(投影)される水平ラインHLS1、HLS2、HLS3により水平を認知させることを意図している。
【0041】
図5は、本発明者らが行った実験において実施したアンケート結果をまとめたグラフである。
【0042】
図5中、縦軸は不快度指数、すなわち、0~10の11段階評価(主観評価)を表し、一方、横軸は実験開始からの経過時間(分)を表す。図5中、黒丸(複数)、白丸(複数)、直線L1、L2、数値「5.60」、「3.37」の意味は次のとおりである。
【0043】
すなわち、黒丸(複数)は、水平ライン無し実験における不快度指数(平均値)、すなわち、水平ライン無し実験で各々の被験者が入力した11段階評価(主観評価)の平均値を表す。直線L1は、黒丸(複数)に対する近似直線を表す。一方、白丸(複数)は、水平ライン有り実験における不快度指数(平均値)、すなわち、水平ライン有り実験で各々の被験者が入力した11段階評価(主観評価)の平均値を表す。直線L2は、白丸(複数)に対する近似直線を表す。
【0044】
数値「5.60」は、水平ライン無し実験で各々の被験者が最後(28分経過後)に入力した11段階評価(不快度指数)の平均値を表す。一方、数値「3.37」は、水平ライン有り実験で各々の被験者が最後(28分経過後)に入力した11段階評価(不快度指数)の平均値を表す。
【0045】
図5を参照すると、水平ライン有り実験の場合、水平ライン無し実験の場合と比べ、不快度指数(平均値)が5.60から3.37に低下していること、すなわち、改善率(平均)が(3.37/5.60)×100≒60%であることが分かる。なお、各々の被験者が最後(28分経過後)に入力した11段階評価(不快度指数)の平均値「5.60」、「3.37」を用いた理由は、次のとおりである。すなわち、乗物酔いの状態(不快度)は、時間の経過と共に徐々に上昇する方向に変化するため、各々の被験者が最後(28分経過後)に入力した11段階評価(不快度指数)の平均値「5.60」、「3.37」が乗物酔いの状態(不快度)を最も反映していると考えられるためである。
【0046】
図6は、本発明者らが行った実験において実施したアンケート結果をまとめた他のグラフである。
【0047】
図6中の「18%」の数字及び「線による効果あり(1.8≧)」は、水平ライン無し実験で最後(28分経過後)に入力した11段階評価(以下、不快度指数A1と呼ぶ)と水平ライン有り実験で最後(28分経過後)に入力した11段階評価(以下、不快度指数A2と呼ぶ)との差分ΔA(不快度指数A1-不快度指数A2)が1.8以上であった被験者(8名)の割合を表す。同様に、「7%」の数字及び「線による効果あり(1.8≧)」は差分ΔA(不快度指数A1-不快度指数A2)が1.8未満、1以上であった被験者(3名)の割合を表す。同様に、「11%」の数字及び「線による効果あり(1<)」は差分ΔA(不快度指数A1-不快度指数A2)が1未満、0以上であった被験者(5名)の割合を表す。なお、図6中、効果あり=A1-A2=+1.8を「線による効果あり(1.8≧)」と記載し、一方、効果無し=A1-A2=-1.8を「線による効果なし(1.8≧)」と記載している。
【0048】
ここで、差分ΔA(不快度指数A1-不快度指数A2)がプラスの場合、水平ラインHLを表示(投影)したことにより不快度指数が低減したことを表す。すなわち、差分ΔA(不快度指数A1-不快度指数A2)がプラスの場合、水平ラインHLを表示(投影)したことにより乗物酔いが低減したことを表す。
【0049】
図6を参照すると、差分ΔA(不快度指数A1-不快度指数A2)がプラスの被験者、すなわち、水平ラインHLを表示(投影)したことにより乗物酔いが低減した被験者は、差分ΔAが1.8以上の被験者(8名)、差分ΔAが1.8未満、1以上の被験者(3名)、差分ΔAが1未満、0以上の被験者(5名)の合計16名(被験者全体の約36%)であることが分かる。
【0050】
以上の実験から、乗物Vの乗車空間(例えば、乗車空間に設けられたフィルム光源20)に水平ラインHLを表示することにより、乗物酔いを低減できることが分かる。
【0051】
乗物Vの乗車空間に水平ラインHLを表示することにより、乗物酔いを低減できる理由は、次のように考えることができる。
【0052】
まず、乗物酔いの原因は、一般的に、次のように考えられている。すなわち、乗物(例えば、自動車)による不規則な加減速、停発車の繰り返し、アップダウンやカーブが連続する道路を走行することにより前後左右上下への揺れが発生すると、視覚を通じて入力され脳に伝達される情報と内耳(三半規管や耳石器)から入力され脳に伝達される情報(例えば、体の位置、揺れ、スピード)とにズレを生じることになる。その結果、脳が情報を処理しきれなくなり、乗物酔いの症状が発生する。(https://www.ssp.co.jp/aneron/cause/mechanism.html)。
【0053】
これに対して、上記実験のように、乗物の乗車空間に水平ラインHLを表示することにより、視覚を通じて入力され脳に伝達される情報と内耳(三半規管や耳石器)から入力され脳に伝達される情報(例えば、体の位置、揺れ、スピード)とのズレを抑制(又は低減)することができる。その結果、乗物酔いが低減したと考えられる。
【0054】
次に、乗物酔い低減装置10の構成例について説明する。
【0055】
乗物酔い低減装置10は、乗物Vに搭載されている。以下、乗物Vが自動車である例について説明する。
【0056】
図7は、乗物酔い低減装置10の構成図である。
【0057】
図7に示すように、乗物酔い低減装置10は、ECU30(Electronic Control Unit)、慣性センサ40、撮像装置50、ナビゲーション装置60、車内灯70を備えている。
【0058】
ECU30は、例えば、図示しないが、CPU、RAM、ROMを備える制御装置である。ECU30は、CPUがROMからRAMに読み込まれた所定プログラムを実行することにより、検出結果取得部31、乗物傾き算出部32、水平ライン表示部33、道路状況検出部34として機能する。なお、これらの一部又は全部はハードウエアにより実現してもよい。
【0059】
ECU30には、慣性センサ40、撮像装置50、ナビゲーション装置60、車内灯70が電気的に接続されている。
【0060】
慣性センサ40は、乗物Vに加わる慣性力(X軸、Y軸、Z軸それぞれの加速度、X軸、Y軸、Z軸それぞれの角速度)を検出するセンサである。図8に示すように、X軸は乗物Vの前後方向に延びており、Y軸は乗物Vの幅方向に延びており、Z軸はX軸及びY軸に直交する方向に延びている。図8は、乗物Vに搭載された慣性センサ40のX軸、Y軸を説明するための図である。慣性センサ40としては、例えば、6軸IMU(Inertial Measurement Unit)、3軸IMUを用いることができる。慣性センサ40は、1つであってもよく(基準)、複数であってもよい。慣性センサ40は、乗物Vに加わる慣性力(X軸、Y軸、Z軸それぞれの加速度、X軸、Y軸、Z軸それぞれの角速度)を検出できるよう考慮された位置(最適な位置)に設けられる。
【0061】
撮像装置50は、乗物Vの前方を撮像するカメラ(CCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子を含む)で、乗物Vの所定箇所(例えば、乗車空間)に設けられている。撮像装置50によって撮像された画像(画像データ)は、ECU30に入力される。
【0062】
ナビゲーション装置60は、図示しないが、経路探索部、経路誘導案内部、現在位置検出部、地図情報記憶部等を備えている。経路探索部は、地図情報記憶部に記憶された地図情報に基づいて、出発地(例えば、乗物Vの現在位置)から乗物Vの目的地までの経路を探索する。経路誘導案内部は、経路探索部によって探索された経路の案内を行う。現在位置検出部は、乗物Vに設けられたGPS(図示せず)からの信号に基づき、乗物Vの現在位置を検出する。地図情報記憶部には、地図情報が記憶されている。
【0063】
検出結果取得部31は、慣性センサ40から当該慣性センサ40の検出結果(X軸、Y軸、Z軸それぞれの加速度、X軸、Y軸、Z軸それぞれの角速度)を取得する。
【0064】
乗物傾き算出部32は、検出結果取得部31により取得された検出結果に基づき、乗物Vの傾き(ロール角φ、ピッチ角θ等。図8参照)を算出する。
【0065】
水平ライン表示部33は、乗物傾き算出部32により算出された乗物Vの傾き(ロール角φ、ピッチ角θ等)に基づき、水平ラインHLを作成し、制御回路71を制御することによりフィルム光源20に当該作成した水平ラインHLを表示する。水平ラインHLの幅W1(図2(a)参照)、長さLE1~LE3(図2(a)、図3(a)参照)は適宜の幅、長さであってよい。また、水平ラインHLの色、明るさ(輝度)は、適宜の色、明るさであってよい。水平ラインHLの色は、単色であってもよいし、複数色であってもよい。
【0066】
道路状況検出部34は、撮像装置50、ナビゲーション装置60から入力される情報に基づき、乗物Vが走行する道路状況(乗物Vの現在位置に対応する道路状況等)を検出する。
【0067】
車内灯70は、制御回路71、フィルム光源20を備えている。
【0068】
制御回路71は、ECU30からの制御に従い、水平ライン表示部33により生成された水平ラインHLがフィルム光源20に表示されるように当該フィルム光源20を制御する。
【0069】
フィルム光源20は、水平ラインHLを表示するフィルム状のフィルム光源(ディスプレイ)で、乗車空間に設けられている。フィルム光源20は、本開示の表示装置の一例である。フィルム光源20としては、例えば、有機EL(有機LEDを含む)、フィルム状LEDを用いることができる。フィルム状LEDは、フレキシブル性を有するフィルムに二次元的(又は三次元的)に配置された状態で固定された複数の半導体発光素子を含むフィルム光源のことである。
【0070】
図1に示すように、フィルム光源20(前フィルム光源20F、左フィルム光源20L、右フィルム光源20R)は、例えば、乗車空間を取り囲む壁面を構成する乗物VのフロントガラスFG、サイドガラスSGL、SGRに設けられている。図9に示すように、フィルム光源20の外形は、例えば、矩形形状である。図9は、フィルム光源20の外形を説明するための図である。フィルム光源20の背面には、反射型フィルム(ハーフミラー、白色フィルム、乳白色フィルム)が積層されていてもよい。なお、フロントガラスFG、サイドガラスSGL、SGRの一部を乳白色にしてもよい。なお、フィルム光源20は、さらに、乗車空間を取り囲む壁面を構成するリアガラス(図示せず)に設けられていてもよい。
【0071】
次に、水平ライン表示処理1について説明する。
【0072】
図10は、水平ライン表示処理1のフローチャートである。図11(a)、図11(b)は、水平ライン表示処理1の結果、表示される水平ラインHLの一例である。
【0073】
以下、水平ライン表示処理1として、乗物Vが右(乗物Vの前方に向かって右)に角度+φ(以下、ロール角+φと呼ぶ。図2(c)参照)傾いた場合、フィルム光源20に水平ラインHLを表示する処理について説明する。以下、説明を単純にするため、ロール角+φのみ考慮し、ピッチ角θについては考慮しないものとする。
【0074】
まず、道路状況を検出する(ステップS10)。これは、道路状況検出部34により実現される。
【0075】
次に、ステップS10で検出された道路状況が予め定められた条件を満たすか否かを判定する(ステップS11)。これは、ECU30が所定プログラムを実行することにより実現される。予め定められた条件とは、ステップS10で検出された道路状況(現在走行中の道路又はこれから走行する予定の道路)が乗物酔いを誘発する可能性がある道路状況であるか否かの判定に用いられる条件で、例えば、坂道(一定勾配以上の坂道)、カーブ道路(一定曲率以上のカーブ道路)、又は、所定の加速力以下で走行する直線道路である。
【0076】
その結果、ステップS10で検出された道路状況が予め定められた条件を満たすと判定された場合(ステップS11:YES)、ステップS12以下の処理が実行される。
【0077】
次に、慣性センサ40が出力する検出結果を取得する(ステップS12)。これは、検出結果取得部31により実現される。
【0078】
次に、ロール角φを算出する(ステップS13)。これは、乗物傾き算出部32により実現される。ここでは、乗物Vが右(乗物Vの前方に向かって右)に傾く(図2(c)参照)ことにより、ロール角+φが算出されたものとする。
【0079】
次に、ロール角φが閾値を超えたか否かを判定する(ステップS14)。これは、ECU30が所定プログラムを実行することにより実現される。
【0080】
その結果、ロール角+φが閾値を超えていないと判定された場合(ステップS14:No)、すなわち、乗物Vが左右に殆ど傾いていない場合、フィルム光源20に水平ラインHLを表示する(ステップS15)。具体的には、図11(a)に示すように、前フィルム光源20Fに、基準中心点CPをとおり、かつ、基準水平線AXに対して平行に延びる前水平ラインHL20Fを表示する。同様に、左フィルム光源20Lに、基準中心点CPをとおり、かつ、基準水平線AXに対して平行に延びる左水平ラインHL20Lを表示する。同様に、右フィルム光源20Rに、基準中心点CPをとおり、かつ、基準水平線AXに対して平行に延びる右水平ラインHL20Rを表示する。
【0081】
一方、ステップS14の判定の結果、ロール角φが閾値を超えたと判定された場合(ステップS14:Yes)、すなわち、乗物Vが右(又は左)に傾いた場合(図2(c)参照)、図11(b)に示すように、前フィルム光源20Fに、ロール角+φ(図2(c)参照)と逆に角度-φ(図11(b)参照)傾斜した前水平ラインHL20Fを表示する(ステップS16)。
【0082】
次に、左フィルム光源20Lに、前水平ラインHL20Fの左端に連続する左水平ラインHL20Lを表示する(ステップS17)。左水平ラインHL20Lは、図11(a)に示す左水平ラインHL20Lを基準水平線AXから下方にBL×tanφシフトさせたものに相当する。なお、BLは基準中心点CPと境界L(左フィルム光源20Lと前フィルム光源20Fとの間の境界)との間の距離である。
【0083】
次に、右フィルム光源20Rに、前水平ラインHL20Fの右端に連続する右水平ラインHL20Rを表示する(ステップS18)。右水平ラインHL20Rは、図11(a)に示す右水平ラインHL20Rを基準水平線AXから上方にBR×tanφシフトさせたものに相当する。なお、BRは基準中心点CPと境界R(右フィルム光源20Rと前フィルム光源20Fとの間の境界)との間の距離である。
【0084】
上記ステップS12~S18の処理は、ステップS10で検出された道路状況が予め定められた条件を満たす間(ステップS11での判定結果がYESの間)、繰り返し実行される。
【0085】
次に、水平ライン表示処理2について説明する。
【0086】
図12は、水平ライン表示処理2のフローチャートである。図11(a)、図11(c)は水平ライン表示処理2の結果、表示される水平ラインHLの一例である。
【0087】
以下、水平ライン表示処理2として、乗物Vが前に角度-θ(以下、ピッチ角-θと呼ぶ。図3(c)参照)傾いた場合、フィルム光源20に水平ラインHLを表示する処理について説明する。以下、説明を単純にするため、ピッチ角-θのみ考慮し、ロール角φについては考慮しないものとする。
【0088】
まず、道路状況を検出する(ステップS20)。これは、道路状況検出部34により実現される。
【0089】
次に、ステップS20で検出された道路状況が予め定められた条件を満たすか否かを判定する(ステップS21)。これは、ECU30が所定プログラムを実行することにより実現される。予め定められた条件とは、ステップS20で検出された道路状況(現在走行中の道路又はこれから走行する予定の道路)が乗物酔いを誘発する可能性がある道路状況であるか否かの判定に用いられる条件で、例えば、坂道(一定勾配以上の坂道)、カーブ道路(一定曲率以上のカーブ道路)、又は、所定の加速力以下で走行する直線道路である。
【0090】
その結果、ステップS20で検出された道路状況が予め定められた条件を満たすと判定された場合(ステップS21:YES)、ステップS22以下の処理が実行される。
【0091】
次に、慣性センサ40が出力する検出結果を取得する(ステップS22)。これは、検出結果取得部31により実現される。
【0092】
次に、ピッチ角θを算出する(ステップS23)。これは、乗物傾き算出部32により実現される。ここでは、乗物Vが前に傾く(図3(c)参照)ことにより、ピッチ角-θが算出されたものとする。
【0093】
次に、ピッチ角θが閾値を超えたか否かを判定する(ステップS24)。これは、ECU30が所定プログラムを実行することにより実現される。
【0094】
その結果、ピッチ角θが閾値を超えていないと判定された場合(ステップS24:No)、すなわち、乗物Vが前後に殆ど傾いていない場合、フィルム光源20に水平ラインHLを表示する(ステップS25)。具体的には、図11(a)に示すように、前フィルム光源20Fに、基準中心点CPをとおり、かつ、基準水平線AXに対して平行に延びる前水平ラインHL20Fを表示する。同様に、左フィルム光源20Lに、基準中心点CPをとおり、かつ、基準水平線AXに対して平行に延びる左水平ラインHL20Lを表示する。同様に、右フィルム光源20Rに、基準中心点CPをとおり、かつ、基準水平線AXに対して平行に延びる右水平ラインHL20Rを表示する。
【0095】
一方、ステップS24の判定の結果、ピッチ角θが閾値を超えたと判定された場合(ステップS24:Yes)、すなわち、乗物Vが前(又は後)に傾いた場合、図11(c)に示すように、前フィルム光源20Fに、前水平ラインHL20Fを表示する(ステップS26)。ここで表示される前水平ラインHL20Fは、基準中心点CPをとおり、かつ、基準水平線AXに対して平行に延びている。
【0096】
次に、左フィルム光源20Lに、前水平ラインHL20Fの左端に連続し、かつ、ピッチ角-θ(図3(c)参照)と同様に角度-θ(図11(c)参照)傾斜した左水平ラインHL20Lを表示する(ステップS27)。
【0097】
次に、右フィルム光源20Rに、前水平ラインHL20Fの右端に連続し、かつ、ピッチ角-θ(図3(c)参照)と同様に角度-θ(図11(c)参照)傾斜した右水平ラインHL20Rを表示する(ステップS28)。
【0098】
上記ステップS22~S28の処理は、ステップS20で検出された道路状況が予め定められた条件を満たす間(ステップS21での判定結果がYESの間)、繰り返し実行される。
【0099】
以上、水平ライン表示処理1、水平ライン表示処理2を分けて説明したが、両処理は同時に実行してもよい。また、さらに、次の輝点表示処理をこれらの処理に加えて実行してもよい。
【0100】
次に、輝点表示処理について説明する。
【0101】
輝点表示処理は、上記水平ライン表示処理1又は水平ライン表示処理2において表示される水平ラインHLと共に、当該水平ラインHLに沿って乗物Vの加減速に応じた方向に移動する輝点BP(図14参照)を表示する処理である。
【0102】
図13は、輝点表示処理のフローチャートである。図14は、輝点表示の一例である。
【0103】
図13に示す輝点表示処理は、例えば、図12に示すステップS25、S28の後に実行される。
【0104】
まず、慣性センサ40が出力する検出結果を取得する(ステップS30)。これは、検出結果取得部31により実現される。
【0105】
次に、加速度が閾値を超えたか否かを判定し(ステップS31)、超えたと判定された場合、さらに加速又は減速のいずれであるかを判定する(ステップS32)。これは、ECU30が所定プログラムを実行することにより実現される。
【0106】
その結果、加速と判定された場合(ステップS32:加速)、図14(a)に示すように、フィルム光源20に、水平ラインHLと共に、当該水平ラインHLに沿って乗物Vの加速に応じた方向、例えば、左フィルム光源20L及び右フィルム光源20Rの後端部から出発して前フィルム光源20Fの中央の終点に向かう方向(図14(a)中矢印参照)に移動する輝点BP(図14(b)参照)を表示する。
【0107】
一方、減速と判定された場合(ステップS32:減速)、図14(b)に示すように、水平ラインHLと共に、当該水平ラインHLに沿って乗物Vの減速に応じた方向、例えば、前フィルム光源20Fの中央から出発して左フィルム光源20L及び右フィルム光源20Rの後端部の終点に向かう方向(図14(b)中矢印参照)に移動する輝点BP(図14(b)参照)を表示する。
【0108】
上記ステップS30~S34の処理は、ステップS20で検出された道路状況が予め定められた条件を満たす間(ステップS21での判定結果がYESの間)、繰り返し実行される。
【0109】
このように、体感と一致するように輝点BPを移動させることにより、直線的な加速度を感じている耳石と同様に、視覚にも情報を付与することで、加減速時に感じる乗物酔いを低減することが期待できる。
【0110】
なお、上記と逆に、加速と判定された場合(ステップS32:加速)、図14(b)に示すように、水平ラインHLと共に、例えば、前フィルム光源20Fの中央から出発して左フィルム光源20L及び右フィルム光源20Rの後端部の終点に向かう方向(図14(b)中矢印参照)に移動する輝点BP(図14(b)参照)を表示してもよい。同様に、上記と逆に、減速と判定された場合(ステップS32:減速)、図14(a)に示すように、フィルム光源20に、水平ラインHLと共に、例えば、左フィルム光源20L及び右フィルム光源20Rの後端部から出発して前フィルム光源20Fの中央の終点に向かう方向(図14(a)中矢印参照)に移動する輝点BP(図14(b)参照)を表示してもよい。本実施形態では、加速と減速で輝点の移動方向を指定したが、乗員や道路の状況次第では逆方向に移動した方がよい場合もある。
【0111】
以上説明したように本実施形態によれば、乗物Vに乗車した人に対して自分が水平に対してどの程度傾いているかの視覚的情報を与えることができる(その結果、平衡感覚に起因する乗物酔いを低減できる)。
【0112】
これは、人が乗車する乗車空間を備えた乗物Vの前記乗車空間に、乗物Vの傾きにかかわらず、乗物Vの重力方向に直交する水平方向に延びる水平ラインHLを表示することによるものである。
【0113】
また、水平ラインHLを表示することにより、乗物Vに乗車した人は、乗物Vの動きを予測できるため、乗物Vの動きに対して自然に身構えることができる。また、乗物Vに乗車した人に対して安心感を与えることができる。
【0114】
次に、変形例について説明する。
【0115】
図15は、フィルム光源20を設ける箇所の変形例である。
【0116】
上記実施形態では、フィルム光源20を、乗車空間を取り囲む壁面を構成する乗物VのフロントガラスFG、サイドガラスSGL、SGRに設けた例(図1参照)について説明したが、これに限らない。例えば、図15(a)に示すように、フィルム光源20を、乗車空間に設けられた前部ダッシュボード、サイドドアに設けてもよい。また、図15(b)に示すように、フィルム光源20を、さらに、後部座席(例えば、前部座席の後面、後部ダッシュボード)に設けてもよい。
【0117】
図16は、乗物酔い低減装置10(変形例)の構成図である。
【0118】
図16に示すように、乗物酔い低減装置10は、水平ライン設定部35をさらに備えていてもよい。水平ライン設定部35は、ユーザの操作により、水平ラインHLの色及び幅の少なくとも一方を設定する。さらに、水平ライン設定部35は、ユーザの操作により、水平ラインHLの明るさ(輝度)を設定してもよい。図示しないが、フィルム光源20には、水平ライン設定部35により設定された色、幅、明るさ(輝度)で水平ラインHLが表示される。
【0119】
図17は、水平ラインHLの表示形態の変形例である。
【0120】
図17(a)に示すように、フィルム光源20には、水平ラインHLと共に、背景色又は背景画像BGを表示してもよい。背景画像BGは、静止画像であってもよいし、動画像であってもよい。
【0121】
また、図17(b)に示すように、フィルム光源20には、水平ラインHLを含む画像G、例えば、水平ラインHLに対応する地平線を含む自然環境を撮影した画像を表示してもよい。画像Gは、静止画像であってもよいし、動画像であってもよい。このようにすれば、乗物酔い低減と共に、神経の高ぶりを抑制することも期待できる。
【0122】
また、上記実施形態では、乗物Vとして自動車を用いた例について説明したが、これに限らない。すなわち、乗物Vは、人(1又は複数)が乗車する乗車空間を備えた乗物であればどのような構成でもよく、例えば、自動車以外のバス等の車両、自動運転可能な車両、船、バス、列車、飛行機、宇宙船であってもよい。
【0123】
図18は、フィルム光源20に代えて液晶パネル20Aを用いた変形例である。
【0124】
例えば、乗物Vとして自動運転可能な車両を用いる場合、図18に示すように、乗車空間を取り囲む壁面を構成する乗物VのフロントガラスFG、サイドガラスSGL、SGR全域を覆うようにフィルム光源20に代えて液晶パネル20Aを設けてもよい。
【0125】
このようにすれば、水平ラインHLを表示することに加え、乗車空間全体の光環境を制御することができる。例えば、この液晶パネル20Aに水平ラインHL(例えば、緑色)を表示することに加え、その背景に神経を落ち着かせる色(例えば、黒色)を表示することにより、乗車空間全体の光環境を制御する。これにより、交感神経や副交感神経の働きをコントロールして酔いの症状をさらに低減することが期待できる。また、神経の高ぶりを抑制することもできる。
【0126】
また、上記実施形態では、表示装置としてフィルム光源20を用いた例について説明したが、これに限らない。すなわち、表示装置は、水平ラインHLを表示することができるものであればどのような構成でもよく、例えば、乗車空間に設置された液晶ディスプレイ、乗車空間に設置されたスクリーン(例えば、乗車空間を取り囲む壁面)に水平ラインHLを投影するプロジェクタ、乗車空間自体に水平ラインHLを表示(描画)する空中可視像描画装置であってもよい。また、水平ラインHLの表現媒体は、乗車空間に設けられていれば何でもよい。すなわち、水平ラインHLの表現媒体については、面及び位置の制限はない。
【0127】
また、上記実施形態では、道路状況が予め定められた条件を満たすと判定された場合(ステップS11:YES)、ステップS12以下の処理を実行する例(図10参照)について説明したが、これに限らない。例えば、乗物Vに乗車している人が乗車空間に設けられた水平ライン表示スイッチ(図示せず)をオンにした場合、ステップS12以下の処理を実行してもよい。同様に、道路状況が予め定められた条件を満たすと判定された場合(ステップS21:YES)、ステップS22以下の処理を実行する例(図12参照)について説明したが、これに限らない。例えば、乗物Vに乗車している人が乗車空間に設けられた水平ライン表示スイッチ(図示せず)をオンにした場合、ステップS22以下の処理を実行してもよい。
【0128】
図19は、乗物Vとして自動運転可能な車両を用いた変形例である。
【0129】
上記実施形態では、水平ラインHLを、乗車空間を取り囲む壁面の一部(当該壁面を構成する乗物VのフロントガラスFG、サイドガラスSGL、SGR)に表示する例(図1参照)について説明したが、これに限らない。フロントガラスとは乗物Vの進行方向側のガラスまたは壁面のことを言い、サイドガラスは乗物Vの車両幅方向側(または進行方向とは直角の水平方向側)のガラスまたは壁面のことを言い、リアガラスとは乗物Vの進行方向側とは逆方向側のガラスまたは壁面のことを言う。フロントガラスなどは、硝子以外の材料でもよく、例えば、ポリカーボネードのようなプラスチックのような別の材料でもよい。また、不透明な材料でもよく、さらには透光性のある有色材料または不透明な有色材料でもよい。
【0130】
例えば、図19に示すように、乗物Vとして自動運転可能な車両を用いる場合、水平ラインHLを、乗車空間を取り囲む壁面の全周に表示してもよい。図19は、坂道を走行している乗物V(自動運転可能な車両)を表す図(概略図)である。
【0131】
上記各実施形態で示した各数値は全て例示であり、これと異なる適宜の数値を用いることができるのは無論である。
【0132】
上記各実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎない。上記各実施形態の記載によって本開示は限定的に解釈されるものではない。本開示はその精神または主要な特徴から逸脱することなく他の様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0133】
10…低減装置
20…フィルム光源(表示装置)
20A…液晶パネル
20F…前フィルム光源
20L…左フィルム光源
20R…右フィルム光源
30…ECU
31…検出結果取得部
32…乗物傾き算出部
33…水平ライン表示部
34…道路状況検出部
35…水平ライン設定部
40…慣性センサ
50…撮像装置
60…ナビゲーション装置
70…車内灯
71…制御回路
…重力方向
AX…基準水平線
BG…背景画像
BP…輝点
CP…基準中心点
FG…フロントガラス
G…画像
HL…水平ライン
HL20F…前水平ライン
HL20L…左水平ライン
HL20R…右水平ライン
HLS1~HLS3…水平ライン
PR1~PR3…プロジェクタ
S1~S3…スクリーン
SGL、SGR…サイドガラス
TS…被験者
V…乗物
θ…ピッチ角
φ…ロール角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19