(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155898
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】パック入り焼きサバとその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 17/00 20160101AFI20241024BHJP
【FI】
A23L17/00 A
A23L17/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024068711
(22)【出願日】2024-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2023069952
(32)【優先日】2023-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】518015077
【氏名又は名称】株式会社STIフードホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110003074
【氏名又は名称】弁理士法人須磨特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】十見 裕
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC01
4B042AC05
4B042AC09
4B042AC10
4B042AD39
4B042AG27
4B042AP04
4B042AP21
4B042AP30
4B042AW06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】優れた外観を有し、また、所定の時間、チルド保存した後にも皮目のパリパリ感や、ふっくらとした身の食感、魚臭さの感じなさ、箸で食した際の皮の剥けなさ等の優れた特性を示し、美味しく食せるパック入り焼きサバとその製造方法を提供することを一つの課題とする。
【解決手段】サバのフィーレの皮目に切れ込みを設ける工程と、切れ込みが設けられた前記皮目を上にした状態で前記フィーレを焼成する工程と、焼成された前記フィーレをパック詰めする工程とを含むパック入り焼きサバの製造方法を提供することにより上記課題を解決する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サバのフィーレの皮目に切れ込みを設ける工程と、
切れ込みが設けられた前記皮目を上にした状態で前記フィーレを焼成する工程と、
焼成された前記フィーレをパック詰めする工程と、
を含むパック入り焼きサバの製造方法。
【請求項2】
フィーレを焼成する前記工程が、
第1の焼成過程と、
前記第1の焼成過程よりも近火及び/又は強火で焼成する第2の焼成過程と、
を、この順で含む請求項1に記載のパック入り焼きサバの製造方法。
【請求項3】
前記第2の焼成過程におけるフィーレの皮目の到達温度が95℃以上である請求項2に記載のパック入り焼きサバの製造方法。
【請求項4】
フィーレの皮目に設けられる前記切れ込みの深さが1mm以上5mm以下である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のパック入り焼きサバの製造方法。
【請求項5】
フィーレの皮目に切れ込みを設ける前記工程が、冷凍状態のフィーレに切れ込みを設ける工程である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のパック入り焼きサバの製造方法。
【請求項6】
フィーレの皮目に切れ込みを設ける前記工程が、冷凍状態のフィーレに切れ込みを設ける工程である請求項4に記載のパック入り焼きサバの製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法で得られるパック入り焼きサバ。
【請求項8】
請求項4に記載の方法で得られるパック入り焼きサバ。
【請求項9】
請求項5に記載の方法で得られるパック入り焼きサバ。
【請求項10】
請求項6に記載の方法で得られるパック入り焼きサバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパック入り焼きサバとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼きサバ(鯖)は、日本国民に最も食されている焼き魚の一つと言っても過言ではない。パリッと焼かれた皮目と、適度にのった油、ふっくらと仕上がった身のコンビネーションは抜群であり、世代によらず大きな人気を集めている。スーパーや魚屋でサバを購入してきて自ら調理したことがある人であれば経験したことがあるかもしれないが、単純に見える焼きサバであっても美味しく焼き上げるのは難しい。品質の高い焼きサバを誰もが手軽に食すことができれば素晴らしいことであるが、これを、例えば、コンビニで販売されるようなパック詰めされたパック入りの焼き魚として、大量に効率良く、且つ、所定の時間が経過した後も美味しく食せる品質で製造することは容易ではない。例えば、焼きサバの好ましい特徴といえる皮目のパリッと感は保存時間が長くなるとともに特に失われ易く、また、サバ特有の魚臭さも保存期間が長くなると顕著になってくる。
【0003】
焼き魚の皮目をパリッと仕上げる焼き魚の製造方法は種々検討されており、例えば、特許文献1には、魚を焙焼する前に、魚の表皮を貫通する複数の孔を穿設する工程と、乾燥卵白、大豆タンパク質、ホエータンパク質、コラーゲン、カゼイン等の加熱凝固性蛋白質溶液やコラーゲンパウダー、小麦粉、澱粉、加工澱粉等を魚の表面に接触・付着させる工程とを行うことを特徴とする焼き魚の製造方法が開示されている。特許文献1によれば、このような製造方法により製造された焼き魚は、焙焼後、冷蔵又は凍結保存した後に、再加熱した場合にも焼き魚特有の表面のパリパリとした食感及び内部のジューシーな食感の低下が抑制されるとされている。しかしながら、特許文献1に開示されているように乾燥卵白、大豆タンパク質、ホエータンパク質、コラーゲン、カゼイン等の加熱凝固性蛋白質を含む溶液やコラーゲンパウダー、小麦粉、澱粉、加工澱粉等を魚の表面に付着させることは、サバ本来の味とは異なる味を焼きサバに付与してしまう恐れがあるので好ましくない。
【0004】
焼き魚の食感や外観を改善するために特許文献1のように魚の皮目に穿孔を設ける方法は種々検討されており、例えば、特許文献2には、ウナギの皮層及びコラーゲン層を貫通する穿孔を設けることにより、不快臭並びに酸化が抑えられ、火のとおりを良くし、皮部はパリパリした食感を有し、内部は柔らかい食感を有するウナギの蒲焼の製造方法が開示されている。また、特許文献3には、生の魚体表面に、表皮を貫通する複数の微細な小孔を設けておくことを特徴とする焼き魚の製造方法が開示されている。焼成前の魚体の表面に予め小孔を設けておくことにより、焼成中に生じる魚体内部からのガスが外部に放出され、皮に無理な内圧が作用せず、鯛等の皮の剥離が防止されるとされている。
【0005】
しかしながら、本発明者らが知る限りにおいて、焼きサバ、しかもパック入りの焼きサバについて詳細に検討した例はなく、所定の期間、チルド保存した場合であっても、良好な皮目のパリパリ感と、しっとり・ふっくらとした身の食感、魚臭さの感じなさ、箸で食した際に皮が剥がれずに破れる程度の皮のはげなさ等の優れた特性を示すパック入りの焼きサバは未だ知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-004840号公報
【特許文献2】特開2012-065627号公報
【特許文献3】特開昭61-219358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような従来技術に鑑みて為されたものであり、ある一側面において、優れた外観を有するとともに、所定の時間、チルド保存した後にも皮目のパリパリ感や、ふっくらとした身の食感、魚臭さの感じなさ、箸で食した際に皮が剥がれずに破れる程度の皮のはげなさ等の好ましい特性を示し、美味しく食せるパック入り焼きサバとその製造方法を提供することを一つの課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決しようと鋭意研究努力を重ねる過程において、焼きサバの皮目を強く焼き上げる製造方法を検討した。しかしながら、脂が多いサバは身と皮の間に脂が溜まりやすく、身から発生する水蒸気と相まって、焼成中に皮が膨らむこともしばしばであり、場合によっては破裂してしまう。皮の膨らみや皮の破れが目立つ焼きサバは消費者に選好されないため、製品として使用できない場合があるが、本発明者らが検討したところ、皮目を強く焼き上げようと皮目を強く焼成すると、その分、皮の膨らみが顕著になり、皮の破れが目立つ焼きサバが得られてしまう結果となった。それどころか、皮目を強く焼き上げた焼きサバであっても、パック詰めし、所定の期間チルド保存した後に喫食すると、皮目のパリッと感や身のふっくらとした食感、魚臭さ等は、特に火力を強めずに従来通り焼成して得られたパック入り焼きサバとほとんど変わりなく、また、箸で取り扱った際に皮が破れず、皮が剥離してしまう傾向も顕著であった。
【0009】
一方、後述する実験例に示すとおり、例えば、特許文献1~3に示されるような穿孔をサバのフィーレの皮目に設け、焼成する製造方法を検討したところ、このような製造方法で製造された焼きサバも、パック詰めし、所定の期間チルド保存した後に喫食してみると、皮目のパリッと感や身のふっくらとした食感は、皮目に穿孔を設けず従来通りの製造方法で製造して得られたパック入り焼きサバとほとんど変わりなく、また、箸で取り扱った際に皮が破れず、皮が剥離してしまう傾向も顕著であった。このように調理後直ちに喫食されるのではなく、パック詰めされ、所定の期間チルド保存した後に喫食されるパック入り焼きサバの品質を高めるには困難を極めたのである。
【0010】
以上のような状況のもと、本発明者らは、さらに鋭意研究努力を重ねる過程において、フィーレ状のサバの切り身の皮目に所定の切れ込みを設け、これを焼成に供したところ、皮目を強く焼き上げた場合であっても、焼成中の皮の膨らみが抑制され、皮の破れがほとんど見られなくなることを見出した。このとき更に興味深いことに、皮目に設けられた切れ込みの部分から溢れ出した油分が徐々に皮全体に広がり、皮全体に広がった油分により、あたかも皮目が揚げられるかのように焼成されていた。そこで、このようにして焼成された焼きサバをパック詰めし、チルド保存した後、電子レンジでレンジアップして喫食したところ、驚くべきことに、皮のパリッと感や身のふっくらとした食感に優れ、また、魚臭さも感じず、食味も良好であり、箸で取り扱った際の皮の破れも良好であるなど、極めて品位の高いパック入り焼きサバが得られることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、ある一側面において、
サバのフィーレの皮目に切れ込みを設ける工程と、
切れ込みが設けられた前記皮目を上にした状態で前記フィーレを焼成する工程と、
焼成された前記フィーレをパック詰めする工程と、
を含むパック入り焼きサバの製造方法を提供することにより上記課題を解決するものである。上述したようにサバのフィーレの皮目に切れ込みを設け、当該切れ込みを設けた皮目を上にした状態でフィーレを焼成することにより、皮目に設けられた切れ込みの部分から溢れ出した油分が皮目全体に行き渡り、皮目があたかも揚げられるかのように焼成され、チルド保存した後にも皮のパリッと感等を有するパック入り焼きサバが得られ得る。
【0012】
ある好適な一態様において、フィーレを焼成する前記工程は、第1の焼成過程と、前記第1の焼成過程よりも近火及び/又は強火で焼成する第2の焼成過程とを、この順で含む焼成工程であり得る。焼成工程を通して近火及び/又は強火で一様に焼成するとフィーレの内部まで十分に火がとおる前に、皮目が焦げ付いてしまったり、皮下の身から発生する水蒸気により皮の膨れや破れが発生する恐れが高まる。これに対して、焼き加減の異なる2つの焼成過程を組み合わせる上記焼成工程によれば、より遠火及び/又は弱火でフィーレを焼成する第1の焼成過程により、フィーレの内部までじっくり火を通して十分に焼成しつつ、次いで、より近火及び/又は強火で焼成する第2の焼成過程により、皮目を強く焼き上げることができ、これにより、好ましい皮目のパリっと感やふっくらとした身の食感、魚臭さの感じなさ、及び、美味しさ等に優れ、また、皮の膨れや破れが目立たない外観に優れたパック入り焼きサバを製造し得る。
【0013】
上述したとおり、本発明の一側面に係る上記製造方法においては、フィーレの皮目に切れ込みを設けることにより、焼成中の皮の膨らみが抑制され、皮の破れはほとんど見られなくなるので、皮目を強く焼き上げることができる。フィーレを焼成する前記工程におけるフィーレの皮目の到達温度は、例えば、94℃以上であり得るが、ある好適な一態様においては95℃以上、より好ましくは96℃以上、さらに好ましくは97℃以上、よりさらに好ましくは98℃以上、よりさらに好ましくは99℃以上であり得る。フィーレの皮目の温度が上記所定温度以上に到達するように強く焼き上げることにより、特に皮目のパリっと感等を好ましいものとし得る。一方、フィーレの皮目の到達温度の上限に特段の制限はないが、典型的には、110℃以下であり、好ましくは105℃以下であり得る。
【0014】
フィーレの皮目の温度が上記所定温度以上に到達するように強く焼き上げることにより、特に皮目のパリっと感等を好ましいものとし得るが、その一方、フィーレの身下の温度が高くなり過ぎると、ふっくら・しっとりとした身の食感が両立されない恐れがある。このような観点から、ある好適な一態様においては、フィーレを焼成する前記工程においては、フィーレの皮目の到達温度がフィーレの身下の温度の到達温度よりも高くなるように焼成されることが好ましい。フィーレを焼成する前記工程におけるフィーレの身下の到達温度は、例えば、100℃以下であり得るが、ある好適な一態様においては、99℃以下、より好ましくは98℃以下、さらに好ましくは97℃以下、よりさらに好ましくは96℃以下、さらに好ましくは95℃以下であり得る。一方、フィーレの身下の到達温度の下限に特段の制限はないが、典型的には、80℃以上であり、好ましくは85℃以上、より好ましくは90℃以上であり得る。
【0015】
一方、フィーレを焼成する前記工程におけるフィーレの中心の温度、所謂、芯温の到達温度に特段の制限はなく、典型的には80℃以上であればよいが、本発明のようにフィーレの皮目を強く焼き上げる場合、フィーレの皮目、中心、身下の到達温度は、典型的には、皮目温度>中心温度>身下温度の関係にある。
【0016】
なお、ある好適な一態様において、本発明に係るパック入り焼きサバの製造方法における焼成工程が上記第1の焼成過程と第2の焼成過程とを含む場合、上述したフィーレの皮目、中心、身下の到達温度は、前記第2の焼成過程における到達温度であり得る。この場合、第1の焼成過程におけるフィーレの皮目、中心、身下の到達温度に特段の制限はないが、フィーレの皮目の到達温度は、例えば、60乃至94℃以下、好ましくは60乃至92℃以下であり得、フィーレの中心の到達温度は、例えば、40乃至70℃以下、好ましくは40乃至65℃以下であり得、フィーレの身下の到達温度は、例えば、50乃至85℃以下、好ましくは50乃至82℃以下であり得る。なお、後述する実験例に示すとおり、第1の焼成過程におけるフィーレの皮目、中心、身下の到達温度は、典型的には、皮目温度>身下温度>中心温度の関係にある。
【0017】
フィーレの焼成時間に特段の制限はないが、ある好適な一態様において、フィーレの焼成時間は6~15分とすることが好ましく、より好ましくは7~14分、さらに好ましくは8~12分としてもよい。焼成時間が短すぎるとフィーレの中心まで十分に火が通らず、一方、焼成時間が長すぎるとフィーレから水分や油分が失われ過ぎ、身がパサついてしまう恐れがある。
【0018】
なお、ある好適な一態様において、本発明に係るパック入り焼きサバの製造方法における焼成工程が上記第1の焼成過程と第2の焼成過程とを含む場合、それぞれの焼成過程による焼成時間に特段の制限はないが、より近火及び/又は強火で焼き上げる第2の焼成過程による焼成時間は第1の焼成過程による焼成時間よりも短いことが好ましい。あくまで一例であるが、例えば、第1の焼成過程による焼成時間は5~10分又は6~9分、第2の焼成過程による焼成時間は1~5分又は2~4分としてもよい。
【0019】
フィーレの焼成は、基本的にどのような加熱方式により行っても良いが、例えば、赤外線加熱により行われることが好ましい。赤外線加熱によれば、じっくりとフィーレを焼き上げることで、身の中までふっくらと焼成しつつ、皮目をパリッと焼成し得る。赤外線加熱により焼成を行う場合、その加熱源の種類に特段の制限はないが、例えば、セラミックプレート等が好適に用いられ得る。
【0020】
フィーレの焼成は、例えば、赤外線加熱源等の所定の加熱源が所定の位置に備えられた焼成空間内にフィーレを所定の時間投入することにより行われ得る。所定の位置とは、例えば、フィーレが投入される位置の上方と下方であり得、それぞれの位置が独立して制御可能であることが好ましい。フィーレが投入される位置の上方と下方のそれぞれに加熱源が備え、それぞれの加熱源の位置を独立して制御可能な焼成空間によれば、フィーレの上方、すなわち、皮目側の焼き加減と、フィーレの下方、すなわち、身側の焼き加減とを適宜調節することが可能となる。前記所定の加熱源及び前記所定の時間については、既に述べたとおりであるので、ここでの説明は省略する。
【0021】
また、ある好適な一態様において、上記焼成工程では、フィーレを網焼きにすることが好ましい。ここで、網焼きとは、焼成の対象物であるフィーレを金網等の焼成用の網具に載置した状態で焼成することを意味する。例えば、後述する実験例に示されるとおり、金網に載置したフィーレを前記焼成空間内に投入することにより、フィーレを網焼きにすることができる。フィーレを網焼きにすることにより、フィーレの皮目に設けられた切れ込みの部分から溢れ出す油分や、身から溢れ出す水分が適度に滴り落ちるので、チルド保存後も魚臭さを感じにくく、また、身の締まりがよく、うまみが凝縮されたパック入り焼きサバが得られ得る。
【0022】
フィーレの皮目に設けられる前記切れ込みの深さに特段の制限はないが、ある好適な一態様においては1mm以上5mm以下、好ましくは1.5mm以上4.5mm以下、より好ましくは2.0mm以上4.0mm以下、さらに好ましくは2.5mm以上3.5mm以下、よりさらに好ましくは2.7mm以上3.3mm以下、特に好ましくは3.0mmであり得る。
【0023】
後述する実験例に示されるとおり、本発明者らが見出した知見によれば、1mm以上5mm以下の範囲の深さの切れ込みを設けたフィーレを焼成して得られたパック入り焼きサバは、いずれも皮のパリっと感、ふっくらとした身の食感、魚臭さの感じなさ、おいしさ、箸で取り扱った際の皮の剥げなさ等に優れるパック入り焼きサバであったが、中でも、フィーレの皮目に深さ3mmの切れ込みを設けたフィーレを焼成して得られたパック入り焼きサバは、皮のパリっと感、ふっくらとした身の食感、魚臭さの感じなさ、おいしさ、箸で取り扱った際の皮の剥げなさ等において際立って優れるパック入り焼きサバであった。
【0024】
なお、フィーレの皮目に設けられる上記切れ込みは、基本的にフィーレのどのような位置に設けられても良いが、ある好適な一態様においては、フィーレの皮目の腹部に達するように設けられた切れ込みであることが好ましい。フィーレの腹部の皮下には油分が豊富に存在するところ、フィーレの皮目の腹部に達する切れ込みを設けることにより、腹部の皮下に存在する豊富な油分を効果的に皮目の焼き上げに利用することができる。また、フィーレの腹部の皮目は、焼成工程において最も皮の膨れが生じやすく、それにより皮の破裂が生じ易い箇所でもある。フィーレの腹部に相当する位置に達するように皮目に切れ込みを設けることにより、フィーレの腹部における皮の膨れ、破れを効果的に低減することができる。
【0025】
また、ある好適な一態様において、フィーレの皮目に設けられる上記切れ込みは、フィーレの皮目の腹部から背部に達するように設けられた切れ込みであることが好ましい。上述したとおり、フィーレの腹部の皮下には背部の皮下と比較して油分が豊富に存在するところ、フィーレの皮目の腹部から背部に達する切れ込みを設けることにより、フィーレの腹部の皮下からあふれ出す油分をフィーレの背部まで行き渡らせ、皮目全体を効果的に焼き上げることができる。
【0026】
なお、フィーレの皮目に設けられる上記切れ込みの本数に特段の制限はないが、例えば、1~5本、好ましくは2~4本、より好ましくは3本であり得る。このような切れ込みは、例えば、直線状の切れ込みであり得るが、その形状に特段の制限はない。
【0027】
また、ある好適な一態様において、フィーレの皮目に切れ込みを設ける前記工程は、冷凍状態のフィーレの皮目に切れ込みを設ける工程であることが好ましい。冷凍状態とは、すなわち、フィーレが凍結状態にあることを意味する。品温でいえば、例えば、0℃以下であり得るが、典型的には、-1℃乃至-15℃であり得、好ましくは-5℃乃至-15℃であり得る。後述する実験例に示されるとおり、本発明者らが見出した知見によれば、冷凍状態でフィーレに切れ込みを設ける場合には、解凍状態でフィーレに切れ込みを設ける場合と比較して、チルド保存した後にも、皮のパリっと感、ふっくらとした身の食感、魚臭さの感じなさ、おいしさ、箸で取り扱った際の皮の剥げなさ等において際立って優れるパック入り焼きサバが得られ得る。
【0028】
また、本発明は、ある他の一側面において、以上に説明したパック入り焼きサバの製造方法により得られるパック入り焼きサバをも提供するものである。以上に説明したとおり、本発明の一側面に係る該パック入り焼きサバは、所定の期間チルド保存した後にも、皮のパリっと感、ふっくらとした身の食感、魚臭さの感じなさ、美味しさ、箸で取り扱った際の皮の剥げなさ等の特性において際立って優れるパック入り焼きサバである。しかしながら、斯界において、ヒトの繊細な官能を反映する試験方法は未だ確立されていない。上記良好な官能特性を有するパック入り焼きサバを物性値や構造で特定するためには、新たな分析手法を確立しなければならず、それには少なくとも膨大な時間、研究努力が必要となる。したがって、本発明の一側面に係る上記パック入り焼きサバを、その製造方法ではなく、パック入り焼きサバ自体の構造又は特性で直接特定することには、極めて多大な労力と試行錯誤が必要であると考えられ、本願出願時の技術水準では、およそ不可能であるか又は非実際的な事情があると思料される。
【0029】
一方、本発明者らは上記研究努力を重ねる過程において、フォルモール態窒素の含量が所定の水準以上に高まっているパック入り焼きサバは、官能試験において「美味しさ」に優れると評価されるパック入り焼きサバであることを見出した。すなわち、本発明は、ある一側面において、皮目に切れ込みを入れたサバのフィーレを焼成し、密封パックに充填して得られるパック入り焼きサバであって、
前記パック入り焼きサバの身のフォルモール態窒素の含有量が58mg%(w/v)以上であることを特徴とするパック入り焼きサバを提供するものでもある。
【0030】
パック入り焼きサバは、通常、所定の期間、チルド保存した後にレンジアップして喫食される。したがって、上記フォルモール態窒素の含有量は、所定の期間、チルド保存した後に測定されるフォルモール態窒素の含有量であることが好ましい。当該所定の期間は、例えば、3日以上、より好ましくは5日以上、さらに好ましくは7日以上、よりさらに好ましくは9日以上、さらに好ましくは11日以上であり得る。後述する実験例に示されるとおり、本発明の一側面に係る製造方法で製造されたパック入り焼きサバは、所定の期間、チルド保存した後に測定されるフォルモール態窒素の含有量が所定の水準以上にあり、チルド保存後も美味しく喫食できる、旨味がぎゅっと凝縮されたパック入り焼きサバである。
【0031】
パック入り焼きサバの身のフォルモール態窒素の含有量は、例えば、58mg%(w/v)以上であるが、60mg%(w/v)以上であることが好ましく、61mg%(w/v)以上であることがより好ましく、62mg%(w/v)以上であることがさらに好ましい。フォルモール態窒素の含有量の上限に特段の制限はないが、例えば、80mg%(w/v)以下、75mg%(w/v)以下、あるいは70mg%(w/v)以下であり得る。なお、「身」とは、サバのフィーレから皮と血合いを取り除いた白身の部分を意味する。
【0032】
フォルモール態窒素の含有量の測定方法は公知であり、当業者であれば、パック入り焼きサバの身のフォルモール態窒素の含有量を適宜測定することができる。例えば、パック入り焼きサバの身を所定量(例えば、後述する実験例に示されるとおり、4倍重量)の水に加え、ホモジナイズし、遠心分離した上清をろ過して得られる水溶液を用い、該水溶液中のフォルモール態窒素の含有量を該水溶液中のアミノ酸とホルマリンを反応させた後に水酸化ナトリウム水溶液で滴定することにより求め、得られた前記水溶液中のフォルモール態窒素の含有量に希釈倍率に相当する倍率(例えば、後述する実験例に示されるとおり、4倍重量の水を加えた場合には5倍)を乗じて、パック入り焼きサバの身のフォルモール態窒素の含有量とすればよい。アミノ酸は水溶液中では双性イオンとして存在するため塩基による滴定が困難であるが、アミノ基をホルマリンと反応させ、安定なオキシメチレン誘導体に変換した後には、水酸化ナトリウム水溶液などの塩基で滴定することができる。
【0033】
一方、本発明者らは上記研究努力を重ねる過程において、脂質の酸化によって発生するアルデヒド類の一種であるヘキサナールの含有量が、皮および/または身において、それぞれ所定の水準に低下しているパック入り焼きサバは、官能試験において「魚臭さを感じない」と評価されるパック入り焼きサバであることを見出した。すなわち、本発明は、ある一側面において、皮目に切れ込みを入れたサバのフィーレを焼成し、密封パックに充填して得られるパック入り焼きサバであって、
身について測定されるヘキサナールの含有量が、皮目に切れ込みを入れない以外は同様にして製造されたパック入り焼きサバの身について測定されるヘキサナールの含有量と比較して、40~80%の範囲内にあり、及び/又は、
皮について測定されるヘキサナールの含有量が、皮目に切れ込みを入れない以外は同様にして製造されたパック入り焼きサバの身について測定されるヘキサナールの含有量と比較して、60~100%の範囲内にあることを特徴とするパック入り焼きサバを提供するものでもある。
【0034】
ある好適な一態様において、身について測定されるヘキサナールの含有量は、皮目に切れ込みを入れない以外は同様にして製造されたパック入り焼きサバの身について測定されるヘキサナールの含有量と比較して、例えば、40~80%の範囲内であるが、45~75%の範囲内にあることがより好ましく、50~70%の範囲内にあることがより好ましい。一方、皮について測定されるヘキサナールの含有量は、皮目に切れ込みを入れない以外は同様にして製造されたパック入り焼きサバの皮のヘキサナールの含有量と比較して、例えば、60~100%の範囲内であるが、65~95%の範囲内にあることがより好ましく、70~90%の範囲内にあることがより好ましい。
【0035】
基準として用いられる皮目に切れ込みを入れない以外は同様にして製造されたパック入り焼きサバとは、皮目に切れ込みを入れない以外は同様の製造方法で製造されたパック入り焼きサバであり、同様の製造方法とは、例えば、焼成条件、冷却条件、パック詰め条件等が同様であることを意味する。なお、同様の製造方法が把握し難い場合等には、上記基準は、フィーレの皮目に切れ込みを設けずに焼成、冷却、パック詰めされたパック入り焼きサバ、すなわち、従来の製造方法で製造されたパック入り焼きサバであっても良い。このようなパック入り焼きサバは、例えば、例えば、後述する実験例で示される対照試料又は試料1-1の製造方法と同等の製造方法で製造されたパック入り焼きサバ、すなわち、皮目に切れ込みを設けず、後述する実験例で示される焼成条件1又は焼成条件2で焼成され、冷却後、パック詰めされたパック入り焼きサバであり得る。
【0036】
また、繰り返しになるが、パック入り焼きサバは、通常、所定の期間、チルド保存した後にレンジアップして喫食される。したがって、上記身および皮について測定されるヘキサナールの含有量は、所定の期間、チルド保存した後に測定されるヘキサナールの含有量であることが好ましい。当該所定の期間は、例えば、3日以上、より好ましくは5日以上、さらに好ましくは7日以上、よりさらに好ましくは9日以上、さらに好ましくは11日以上であり得る。後述する実験例に示されるとおり、本発明の一側面に係る製造方法で製造されたパック入り焼きサバは、所定の期間、チルド保存した後に測定されるヘキサナールの含有量が所定の範囲内にあり、チルド保存後も魚臭さを感じず、美味しく喫食できるパック入り焼きサバである。
【0037】
ヘキサナールの含有量の測定方法は公知であり、当業者であれば適宜測定することができる。例えば、ガスクロマトグラフィーを用いて測定してもよい。ガスクロマトグラフィーに用いられるサンプルは当業者であれば適宜調製できるが、例えば、パック入り焼きサバの身又は皮を4倍重量の水に加え、ホモジナイズし、遠心分離した上清をろ過して得られる水溶液をサンプルとして用いても良い。
【発明の効果】
【0038】
本発明の一側面に係るパック入り焼きサバの製造方法によれば、優れた外観を有するとともに、所定の時間、チルド保存した後にも、皮のパリっと感、ふっくらとした身の食感、魚臭さの感じなさ、おいしさ、箸で取り扱った際の皮の剥げなさ等において優れるパック入り焼きサバが得られ得る。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】パック入り焼きサバの製造方法を示すフローチャートである。(A)は本発明の一態様に係るパック入り焼きサバの製造方法であり、試料1-3、試料1-4等の製造方法に対応する。(B)は対照試料、試料1-1の製造方法、(C)は試料1-2の製造方法を示す。
【
図2】皮目に切れ込みを設けず、焼成過程後半において、比較的遠火で焼成する従来の焼成条件(焼成条件1)により焼成された焼きサバと、その焼きサバをパック詰めして得られたパック入り焼きサバ(対照試料)を示す写真である。図中の矢印は皮の破れを示す。
【
図3】皮目に切れ込みを設けず、焼成過程後半において、近火で焼成する焼成条件(焼成条件2)により焼成された焼きサバと、その焼きサバをパック詰めして得られたパック入り焼きサバ(試料1-1)を示す写真である。図中の矢印は皮の破れを示す。
【
図4】腹部に穿孔を設け、焼成過程後半において、近火で焼成する焼成条件(焼成条件2)により焼成された焼きサバと、その焼きサバをパック詰めして得られたパック入り焼きサバ(試料1-2)を示す写真である。図中の矢印は皮の破れを示す。
【
図5】皮目に深さ3mmの切れ込みを設け、焼成過程後半において、比較的遠火で焼成する従来の焼成条件(焼成条件1)により焼成された焼きサバと、その焼きサバをパック詰めして得られたパック入り焼きサバ(試料1-3)を示す写真である。
【
図6】皮目に深さ3mmの切れ込みを設け、焼成過程後半において、近火で焼成する焼成条件(焼成条件2)により焼成された焼きサバと、その焼きサバをパック詰めして得られたパック入り焼きサバ(試料1-4)を示す写真である。
【
図7】皮目に深さ1mmの切れ込みを設け、焼成過程後半において、近火で焼成する焼成条件(焼成条件2)により焼成された焼きサバと、その焼きサバをパック詰めして得られたパック入り焼きサバ(試料2-1)を示す写真である。
【
図8】皮目に深さ3mmの切れ込みを設け、焼成過程後半において、近火で焼成する焼成条件(焼成条件2)により焼成された焼きサバと、その焼きサバをパック詰めして得られたパック入り焼きサバ(試料2-2)を示す写真である。
【
図9】皮目に深さ5mmの切れ込みを設け、焼成過程後半において、近火で焼成する焼成条件(焼成条件2)により焼成された焼きサバと、その焼きサバをパック詰めして得られたパック入り焼きサバ(試料2-3)を示す写真である。
【
図10】パック入り焼きサバの製造方法を示すフローチャートである。(A-1)は試料2-2等の製造方法を示し、(A-2)は試料3-1の製造方法を示す。(A-1)と(A-2)では、工程A2及び工程A3の順序が入れ替わっている。
【
図11】解凍状態のフィーレの皮目に深さ3mmの切れ込みを設け、焼成過程後半において、近火で焼成する焼成条件(焼成条件2)により焼成された焼きサバと、その焼きサバをパック詰めして得られたパック入り焼きサバ(試料3-1)を示す写真である。
【
図12】皮目に切れ込みを設けず、焼成過程後半において、近火で焼成する焼成条件(焼成条件2)により焼成された焼きサバをパック詰めして得られたパック入り焼きサバ(試料4-1)と、皮目に深さ3mmの切れ込みを設け、焼成過程後半において、近火で焼成する焼成条件(焼成条件2)により焼成された焼きサバをパック詰めして得られたパック入り焼きサバ(試料4-2)を、11日間、チルド保存した後に測定されたフォルモール態窒素の含有量の測定結果を示す図である。
【
図13】皮目に切れ込みを設けず、焼成過程後半において、近火で焼成する焼成条件(焼成条件2)により焼成された焼きサバをパック詰めして得られたパック入り焼きサバ(試料4-1)と、皮目に深さ3mmの切れ込みを設け、焼成過程後半において、近火で焼成する焼成条件(焼成条件2)により焼成された焼きサバをパック詰めして得られたパック入り焼きサバ(試料4-2)を、11日間、チルド保存した後に測定された、身及び皮についてのヘキサナールの含有量の測定結果を示す図である。
【
図14】皮目に深さ3mmの切れ込みを設け、鉄板に載置した状態で、焼成過程後半において、近火で焼成する焼成条件(焼成条件2)により焼成された焼きサバをパック詰めして得られたパック入り焼きサバ(試料5-1)を、11日間、チルド保存した後に測定されたフォルモール態窒素の含有量(a)及びヘキサナールの含有量(b)の測定結果を示す図である。なお、図には、試料4-1、試料4-2について測定された測定結果を併せて示した。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明に係るパック入り焼きサバの製造方法について、具体例を参照しながらより詳細に説明する。
【0041】
本発明が対象とするサバとは、所謂、サバと呼ばれる魚であればどのような魚であっても良いが、典型的には、サバ属の魚である。サバ属の魚とは、例えば、マサバ(Scomber japonicus)、ゴマサバ(Scomber australasicus)、タイセイヨウサバ(Scomber scombrus)であり得る。タイセイヨウサバは、ノルウェーサバと呼ばれることもある。サバの産地は特に限定されず、日本近海で漁獲されたサバであってもよいし、輸入されたサバ、例えば、ノルウェーで漁獲されたサバであってもよい。
【0042】
フィーレとは、魚を三枚おろしにして得られる皮目と身側を有する魚の切り身を言う。フィーレからは、典型的には、尾、ひれ、骨等は取り除かれているが、尾、ひれ、骨等を有していてもよい。フィーレの大きさは、長手方向の長さで、例えば、10~30cm、典型的には、15~25cmであり得るが、どのような大きさのフィーレを用いてもよい。なお、本明細書において、フィーレと言う場合、特に断りがない限り、フィーレを1/2、1/3、又は1/4等の所望のサイズに切断したフィーレの切り身も当然に包含される。フィーレの切り身は、フィーレを幅方向に切断した切り身であることが好ましい。
【0043】
図1(A)は、本発明の一実施態様に係るパック入り焼きサバの製造方法の概略を示すフローチャートである。
図1(A)に示すとおり、本発明の一実施態様に係るパック入り焼きサバの製造方法は、原料であるサバのフィーレを搬入する工程(工程A1)、フィーレに切れ込みを設ける工程(工程A2)、切れ込みが設けられたフィーレを解凍する工程(工程A3)、解凍されたフィーレを調味液に漬け込む工程(工程A4)、調味液から取り出したフィーレを熟成させる熟成工程(あんじょう工程という場合もある)(工程A5)、熟成されたフィーレを焼成する工程(工程A6)、焼成したフィーレを冷却する工程(工程A7)、冷却したフィーレをパック詰めする工程(工程A8)を含んでいる。なお、以上の手順において、焼成工程前の工程中におけるフィーレの品温は10℃以下に保たれることが好ましい。
【0044】
工程A1は、パック入り焼きサバの原料であるサバのフィーレを搬入する工程である。サバのフィーレは、通常、鮮度維持の観点から、冷凍状態で搬入され、このときの品温は典型的には-10℃~15℃である。搬入されたフィーレは、直ちに使用するのが好ましいが、一時的に、冷凍庫又は冷凍室で保管しても良い。なお、パック入り焼きサバの原料であるサバは、必ずしもフィーレの形態で搬入されなくてもよい。例えば、ラウンド、ドレス又はセミドレス等の形態で搬入されたサバをフィーレ状にカットしてもよい。なお、ラウンド、ドレス又はセミドレス等の形態で搬入されたサバをフィーレ状にカットする場合には、冷凍状態でカットされることが好ましい。
【0045】
工程A2は、サバのフィーレの皮目に切れ込みを設ける工程である。フィーレに切れ込みを設ける具体的な手段は、基本的にどのような手段であってもよい。例えば、ロータリーカッター等の調理機械を用いてもよいし、包丁等を用いて手作業で切れ込みを入れてもよい。作業効率と安全性の観点からは、ロータリーカッター等の調理機械を用いる方が好ましい。
【0046】
切れ込みを設ける際、サバのフィーレは冷凍状態にあっても、解凍状態にあってもよいが、後述する実験例に示されるとおり、冷凍状態のフィーレに切れ込みを設ける方が、チルド保存した後にも、皮目のパリッと感、身の食感、おいしさ、魚臭さの感じなさ等の官能評価の面で優れたパック入り焼きサバが得られ得るので好ましい。冷凍状態のフィーレに切れ込みを設ける場合には、工程A1で搬入された冷凍状態のフィーレを、そのまま解凍することなく工程A2に用いればよい。一方、解凍状態で切れ込みを入れる場合には、工程A1で搬入されたサバのフィーレを、典型的には、10℃以下や4℃以下等の所定の温度に調整された解凍庫内に所定の時間静置して、解凍してから用いればよい。
【0047】
工程A3は、切れ込みが設けられたフィーレを解凍する工程である。切れ込みが設けられたフィーレを解凍するには、例えば、番重などの容器に並べ、所定の温度に調整された解凍庫に、所定の時間静置すればよい。解凍庫の温度に特段の制限はないが、例えば、1~10℃であり得る。冷凍状態のサバのフィーレは、その大きさや初期品温にもよるが、通常、1~10℃の解凍庫に4~6時間静置すれば、解凍することができる。なお、工程A2において、解凍状態のフィーレに切れ込みを設ける場合には、本工程A3は工程A2よりも前に行うということになる。
【0048】
工程A4は、解凍されたフィーレを所定の濃度の塩を含む調味液に漬け込む工程である。塩分濃度や調味液の組成は、焼きサバに求められる塩みや味に応じて、適宜調整すればよいが、塩分濃度は、例えば、4~8%であり得る。調味液への浸漬時間にも特段の制限はなく、当業者であれば適宜調整し得るが、例えば、30分~2時間であり得る。調味液の温度にも特段の制限はないが、例えば、10℃以下とすることが好ましい。所定の時間、調味液に漬け込まれたフィーレは、調味液から取り出され、次の工程A5に用いられる。
【0049】
工程A5は、調味液から取り出したフィーレを熟成させ、塩みやあじを馴染ませ、魚のうま味を引き出す工程である。具体的には、調味液から取り出したフィーレを、例えば、番重などに並べ、所定の時間、所定の温度に調整された冷蔵庫又は冷蔵室に静置すればよい。所定の時間、所定の温度に特段の制限はなく、当業者であれば適宜調整し得るが、例えば、10℃以下の冷蔵庫に1~12時間静置してもよい。
【0050】
工程A6は、フィーレを焼成する工程である。焼成工程については既に説明したとおりであるので、ここでは説明を省略する。
【0051】
工程A7は、焼成されたフィーレを冷却する工程である。焼成されたフィーレは、例えば、室温に静置して粗熱を取った後、冷却庫に移され、さらに冷却される。フィーレの冷却は、例えば、所定の温度に調整された差圧冷却庫で行うことができる。フィーレは、例えば、品温が10℃以下となるように冷却され得る。
【0052】
工程A8は、冷却されたフィーレをパック詰めする工程である。典型的には、冷却されたフィーレをトレーに載置した後、窒素等の不活性ガスで置換して、トップシールすればよい。焼きサバが充填されるパックは密封できるものであればよく、その材質や種類、大きさ等には特段の制限はない。パックは、その内部が真空に引かれた真空パックであっても良いし、若干の空気が残っているものであっても、例えば、窒素等の不活性ガスが充填されているものであってもよい。
【0053】
以上、ある好適な一態様に係る製造方法を具体例として、本発明に係るパック入り焼きサバの製造方法について説明したが、本発明に係るパック入り焼きサバの製造方法は以上のものに限られない。例えば、以上に説明した工程A1~A8に加えて、更に他の工程を含んでいてもよい。このような他の工程は特に限定されないが、例えば、フィーレを洗浄する工程や、ひれ、骨、寄生虫等の異物を除去する工程、ラウンド、ドレス又はセミドレス等の形態で搬入されたサバをフィーレ状にカットする工程、フィーレを所望の大きさにカットする工程、焼成前のフィーレを過熱水蒸気等により仮焼成する工程等であり得る。
【0054】
以下、実験例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【0055】
<実験1.皮目の処理方法及び焼成条件の検討>
従来の製造方法に沿って製造されたパック入り焼きサバ(対照試料)を基準として、皮目の処理方法及び焼成条件の組み合わせを種々検討し、得られるパック入り焼きサバの外観、及び、官能評価結果に与える影響を検討した。
【0056】
対照試料
比較基準として、皮目に切れ込みを設けず、従来の製造方法に沿ってパック入り焼きサバ(対照試料)を調製した。その製造工程を
図1(B)にフローチャートで示す。詳細な手順は次に示すとおりである:まず、段ボールに梱包されたサバのフィーレの冷凍品を搬入した(工程B1)。このときのフィーレの品温は、-10℃~-15℃であった。搬入されたサバのフィーレの冷凍品を段ボールから取り出し、番重に並べ、10℃に調整された解凍庫に6時間静置して、フィーレを解凍した(工程B2)。6時間の静置の後、フィーレは解凍されており、このときの品温は3~5℃であった。次に、解凍されたフィーレを、7.5%の塩を含む調味液に浸漬し、調味液に浸漬した状態で1時間静置した(工程B3)。なお、このとき、調味液の液温は8~9℃とした。調味液に1時間の浸漬した後、調味液からフィーレを取り出し、取り出したフィーレを番重に並べ、10℃以下に調整された冷蔵庫で、さらに6時間静置して、熟成させた(工程B4)。熟成されたフィーレは、以下の表1に示す焼成条件1に従って、赤外線オーブンにより焼成した(工程B5)。焼成されたフィーレは、粗熱をとった後、3℃の差圧冷蔵庫内に6~8時間静置して、品温が10℃以下になるまで冷却した(工程B6)。冷却後のフィーレを、常法に従って、トレーに載せ、窒素置換、パック詰めを行い(工程B7)、パック入り焼きサバを得た。このようにして得られたパック入り焼きサバを対照試料として、後述する実験1~3において比較基準として用いた。対照試料の外観を
図2(B)に示す。なお、対照試料は、喫食するまで、10℃以下の冷蔵庫でチルド保存した。
【0057】
試料1-1
皮目に切れ込みを設けず、従来の製造方法よりも強い焼成条件で皮目を焼き上げてパック入り焼きサバを製造した。その製造工程は
図1(B)にフローチャートで示すとおりであり、工程B5の焼成工程において、以下の表1に示す焼成条件2に従って、赤外線オーブンにより焼成したこと以外、その製造方法は上述した対照試料と同じである。このようにして得られたパック入り焼きサバを試料1-1として、後述する実験に用いた。試料1-1の外観を
図3(B)に示す。なお、試料1-1は、喫食するまで、10℃以下の冷蔵庫でチルド保存した。
【0058】
試料1-2
フィーレの腹部に穿孔を設け、従来の製造方法よりも強い焼成条件で皮目を焼き上げてパック入り焼きサバを製造した。その製造工程は
図1(C)にフローチャートで示すとおりであり、焼成直前にフィーレの腹部に約5cmの間隔で2箇所、フィーレを貫通する穿孔を設けたこと(工程C5)、及び、工程C6において、以下の表1に示す焼成条件2に従って、赤外線オーブンにより焼成したこと以外、その製造方法は対照試料と同じである。なお、穿孔には、市販の金属製のバーベキュー串を用いた。バーベキュー串の幅は5mm、厚みは1mmである。このようにして得られたパック入り焼きサバを試料1-2として、後述する実験に用いた。試料1-2の外観を
図4(B)に示す。なお、試料1-2は、喫食するまで、10℃以下の冷蔵庫でチルド保存した。
【0059】
試料1-3
フィーレの皮目に切れ目を設け、従来の製造方法と同じ焼成条件で皮目を焼き上げてパック入り焼きサバを製造した。その製造工程は
図1(A)にフローチャートで示すとおりであり、フィーレの冷凍品の搬入後、フィーレを解凍する前に、ロータリーカッターを用いて、フィーレの皮目に、深さ3mmの切れ込みであって、フィーレの背部から腹部に達する直線状の切れ込みを、2.0~2.5cm間隔で平行するように、3本設けたこと(工程A2)以外、その製造方法は対照試料と同じである。このようにして得られたパック入り焼きサバを試料1-3として、後述する実験に用いた。試料1-3の外観を
図5(B)に示す。なお、試料1-3は、喫食するまで、10℃以下の冷蔵庫でチルド保存した。
【0060】
試料1-4
フィーレの皮目に切れ目を設け、従来の製造方法よりも強い焼成条件で皮目を焼き上げてパック入り焼きサバ(試料1-4)を製造した。その製造工程は
図1(A)にフローチャートで示すとおりであり、フィーレの冷凍品の搬入後、フィーレを解凍する前に、ロータリーカッターを用いて、フィーレの皮目に深さ3mmの切れ込みであって、フィーレの背部から腹部に達する直線状の切れ込みを、2.0~2.5cm間隔で平行するように、3本設けたこと(工程A2)、及び、工程A6において、以下の表1に示す焼成条件2に従って、赤外線オーブンにより焼成したこと以外、その製造方法は対照試料と同じである。このようにして得られたパック入り焼きサバを試料1-4として、後述する実験に用いた。試料1-4の外観を
図6(B)に示す。なお、試料1-4は、喫食するまで、10℃以下の冷蔵庫でチルド保存した。
【0061】
フィーレの焼成工程
本実験では、焼成工程として、従来の焼成条件(焼成条件1)と、従来の焼成工程よりも、後半の焼成過程において皮目をより近火で焼き上げる焼成条件(焼成条件2)の2つの焼成条件を比較検討した。以下、本実験における焼成工程について説明する。
フィーレの焼成は、赤外線オーブン(BB型)(アサヒ装設株式会社販売)を用いて行った。具体的には、長手方向の長さが20cm~23cm程度のサバのフィーレを18枚ずつ、互いに重ならぬように皮目を上にして金網に載せ、フィーレを載せた金網をコンベアに載せ、赤外線オーブンの焼成空間を所定時間かけて通過させることによりフィーレを焼成した。フィーレが通過する焼成空間の上下には赤外線加熱源が設けられており、焼成空間内でフィーレは上下から焼成される。焼成空間は、フィーレが最初に通過する第1の焼成空間と、第1の焼成空間を通過した後に通過する第2の焼成空間に分かれており、第1の焼成空間においては、フィーレ上方の赤外線加熱源とフィーレを載置する金網との距離は29cmに、第2の焼成空間においては、フィーレ上方の赤外線加熱源とフィーレを載置する金網との距離は27cm(従来の焼成条件、焼成条件1)又は21cm(焼成条件2)に設定されている。すなわち、第2の焼成空間において、フィーレの皮目は赤外線加熱源のより近くに位置し、より近火で焼き上げられるということになる。第1の焼成空間は第2の焼成空間よりも約2倍長く、第1の焼成空間の通過には6分40秒を要し、第2の焼成空間の通過には3分20秒を要し、計10分でフィーレを焼き上げる焼成条件とした。各焼成空間におけるフィーレ上方の赤外線加熱源とフィーレを載置する金網との距離、各焼成空間の通過に要する所要時間(各焼成空間における焼成時間)を以下の表1にまとめて示す。
【0062】
【0063】
焼成中の品温
焼成工程中のフィーレの焼成状態をモニタリングするための指標として、フィーレの皮目温度、フィーレの中心温度、フィーレの身下温度の3つの温度を測定した。温度の測定は、防水型無線温度計(「SK-270WP-B」、佐藤計量器製作所)を常法に従って用いることにより行った。フィーレの皮目温度と、フィーレの身下温度は、それぞれ、フィーレの皮目の表面と、身下の表面に、上記温度計のプローブを接触させることにより測定し、一方、フィーレの中心温度は、上記温度計のプローブをフィーレに差し込むことにより測定した。フィーレの品温は、第1の焼成空間の通過時(焼成開始から6分40秒後)と、第2の焼成空間の通過時(焼成開始から10分後)に測定した。得られた結果を表2に示す。
【0064】
【0065】
表2に示されるとおり、従来の焼成条件である焼成条件1で焼成した対照試料、及び、試料1-3において、第2の焼成空間通過時(すなわち、第2の焼成空間における焼成の終了時)のフィーレの皮目の温度は、それぞれ94.8℃及び94.5℃であり、おおよそ95℃以下の水準であった。また、その中心温度は、それぞれ88.8℃及び91.0℃であり、おおよそ90℃程度の水準であった。一方、身下温度は、それぞれ84.8℃及び90.3℃であり、フィーレの皮目、中心、身下の品温を比較すると、皮目温度>中心温度>身下温度の関係にあった。
【0066】
これに対して、従来の焼成条件である焼成条件1よりも、第2の焼成空間、すなわち、焼成過程後半において、皮目を近火で焼き上げる焼成条件2で焼成された試料1-1、試料1-2、試料1-4においては、第2の焼成空間通過時の皮目の温度が、それぞれ99.5℃、100.8℃、99.3℃と、99℃以上の高温に達した。以上の結果から、焼成条件2によれば、従来の焼成条件1と比較して、焼成過程における皮目の到達温度が4℃以上に高められ得ることが明らかとなった。一方、第2の焼成空間通過時の試料1-1、試料1-2、試料1-4の中心温度は、それぞれ97.8℃、93.3℃、95.8℃であり、皮目ほどの高温には達しなかった。一方、第2の焼成空間通過時の試料1-1、試料1-2、試料1-4の身下温度は、それぞれ94.0℃、90.8℃、94.3℃であり、フィーレの皮目、中心、身下の品温を比較すると、皮目温度>中心温度>身下温度の関係にあった。この傾向は焼成条件1と同様であった。
【0067】
外観の評価
次に、以上の焼成工程により得られた焼きサバの外観を評価した。外観の評価は、皮の破れの有無、及び、大きな皮の膨らみの有無を基準として行った。具体的には、皮が破れ皮下の魚肉が見えるか否か、及び、身の1/3を超える大きさの皮の膨れがあるか否かを基準として判断した。皮下の魚肉が見える程度に皮が破れている焼きサバ、及び、身の1/3に達するほど大きな皮の膨れがある焼きサバは消費者にあまり選好されないことから、本実験においては、皮が破れ皮下の魚肉が見えるサンプル、及び、身の1/3の大きさの皮の膨れがあるサンプルを、焼きサバとしては出荷基準に適合しないサンプルとしてカウントした。本実験においては、計36枚の焼きサバをサンプルとし、全サンプル中に占める出荷基準に適合しないサンプルの割合を「ロス率」として算出した。得られた結果を表3に、また、対照試料、及び試料1-1乃至1-4の焼成直後の典型的な外観写真を
図2~6(A)に示す。
【0068】
【0069】
表3に示されるとおり、フィーレの皮目に切れ込みや穿孔を設けないまま焼成条件1、すなわち、焼成過程後半において、皮目を比較的遠火で焼き上げる従来の焼成条件により焼成された対照試料において、ロス率は22.2%であった。これは22.2%程度のサンプルは消費者に選好されない外観を有しており、出荷基準に適合しなかったことを示している。
【0070】
一方、フィーレの皮目に切れ込みや穿孔を設けないまま焼成条件2で焼成した、すなわち、焼成過程後半において、皮目を近火で焼き上げた試料1-1においては、ロス率はなんと55.6%まで高まった。これは55.6%ものサンプルが顕著な皮の膨れ又は破れを有しており、消費者に選好されない外観を有し、出荷基準に適合しなかったことを示している。ロス率が55.6%と高い試料1-1の製造方法は、とても実生産に耐え得るものとは言い難い。
【0071】
また、フィーレの腹部に穿孔を設け焼成条件2で焼成した、すなわち、焼成過程後半において、皮目を近火で焼き上げた試料1-2においては、ロス率は30.6%であり、皮目に何らの処理もしていない試料1-1よりは改善したものの依然として高い水準にあった。この結果は、例えば、特許文献1乃至3に示されるように腹部に穿孔を設ける方法では、特に油分が多い焼きサバを強く焼成したときの皮の膨らみや破裂は抑制し難いことを示している。
【0072】
これに対して、フィーレの皮目に切れ込みを設け焼成条件1で焼成した試料1-3、及び、焼成条件2で焼成した試料1-4においては、驚くべきことに、ロス率が3.0%及び8.3%と顕著に低かった。この結果は、フィーレの皮目に切れ込みを設ける本発明の一態様に係るパック入り焼きサバの製造方法によれば、焼きサバの焼成工程における皮の膨らみや破裂が顕著に抑制され、消費者に選好され得る外観を維持しつつ、皮目を近火で焼き上げることが可能となることを示している。
【0073】
官能評価
以上の手順にて製造したパック入り焼きサバ(対照試料、試料1-1乃至1-4)を9日間、10℃以下の冷蔵庫でチルド保存した後に、600Wで40秒間レンジアップしたものを、健康な男女合わせて15名のパネラーに喫食させ、対照試料を基準として、「皮のパリッと感」、「身の食感」、「見た目」、「美味しさ」、「魚臭さを感じない」、「皮がはげずに破れる」を評価させた。評価は、対照試料を基準とし、対照試料と比べて、「非常に良い=5」、「良い=4」、「同等=3」、「悪い=2」、「非常に悪い=1」の5段階で行った。各評価項目について15名のパネラーから得られた点数の平均値を表4に、各評価項目についての各パネラーの点数を表5~9に示す。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
表4及び表5~9に示されるとおり、フィーレの皮目に切れ込みや穿孔を設けたりせずに焼成条件2で焼成した、すなわち、焼成過程後半で皮目を近火で焼き上げた試料1-1は、皮目を近火で強く焼き上げたのにもかかわらず、冷却後、パック詰めし、9日間チルド保存した後に喫食すると、ほとんどの評価項目において、その評価結果は、従来の焼成条件で焼成した対照試料と同等(=評価結果が3)であり、「皮のパリッと感」や「皮がはげずに破れる」の評価項目では、むしろ対照試料よりも劣る結果(=評価結果が3未満)となった。この結果は、焼成工程において単に皮目を強く焼き上げるだけでは、冷却後、パック詰めし、チルド保存した後に喫食されるパック入り焼きサバの品位はほとんど向上しないことを示している。
【0081】
一方、皮目に穿孔を設け、焼成条件2で焼成した、すなわち、焼成過程後半で皮目を近火で焼き上げた試料1-2も、試料1-1と同様に、焼成過程の後半で皮目を近火で強く焼き上げたのにもかかわらず、冷却後、パック詰めし、9日間チルド保存した後に喫食すると、ほとんどの評価項目において、その評価結果は、従来の焼成条件で焼成した対照試料と同等(=評価結果が3)であった。この結果は、例えば、特許文献1乃至3に記載されているような皮目に穿孔を設けるという手法では、冷却後、パック詰めし、チルド保存した後に喫食されるパック入り焼きサバの品位はほとんど向上しないことを示している。
【0082】
これに対して、フィーレの皮目に切れ込みを設けて焼成条件1で焼成した試料1-3及び焼成条件2で焼成した試料1-4は、対照試料と比較して、明らかに優れた評価結果を得た。しかも、フィーレの皮目に切れ込みを設け、且つ、焼成過程の後半で皮目を強火で焼き上げる焼成条件2で焼成した試料1-4は、試料1-3と比較しても、とりわけ優れた評価結果であった。この結果は、フィーレの皮目に切れ込みを設けて焼成する製造方法によれば、冷却後、パック詰めし、チルド保存した後に喫食した場合であっても、好ましい皮のパリッと感や身の食感、おいしさ、魚臭さの感じなさ、皮のはげなさ等に優れるパック入り焼きサバが得られ、さらに、焼成過程の後半で皮目を強火で焼き上げる焼成方法と組み合わせれば、これらの品質において各段に優れたパック入り焼きサバが得られ得ることを示している。
【0083】
<実験2:切れ込みの深さの検討>
フィーレの皮目に設けた切れ込みの深さのパック入り焼きサバの品質への影響を検討するため、実験1の試料1-4の製造方法の工程A2においてフィーレの皮目に設けられる切れ込みの深さを1mm、3mm、5mmとする以外は、実験1の試料1-4と同様の手順にて、試料2-1(切れ込みの深さ:1mm)、試料2-2(切れ込みの深さ:3mm)、及び試料2-3(切れ込みの深さ:5mm)を調製した。
【0084】
本実験においては、切れ込みの深さと併せて切れ込みの長さを測定した。切れ込みの長さは、フィーレの長手方向で頭側に最も近い切れ込みと、尾側に最も近い切れ込みについて測定し、フィーレの表面に沿った切れ込みの周囲長を測定値とした。切れ込みの深さが1mmの試料2-1について、頭側に最も近い切れ込みの長さは2~3cm、尾側に最も近い切れ込みの長さは1.5~2cmであった。切れ込みの深さが3mmの試料2-2について、頭側に最も近い切れ込みの長さは4~5cm、尾側に最も近い切れ込みの長さは3~4cmであった。切れ込みの深さが5mmの試料2-3について、頭側に最も近い切れ込みの長さは6~7cm、尾側に最も近い切れ込みの長さは5~6cmであった。
【0085】
焼成中の品温と焼きサバの外観の評価
試料2-1、試料2-2、及び試料2-3の焼成工程における品温の測定値を表10に、焼成後の焼きサバの典型的な外観を
図7~9に、焼成後の焼きサバの外観から判断されたロス率を表10に示す。
【0086】
【0087】
表10に示されるとおり、焼成過程の後半においてフィーレの皮目を近火で焼き上げる表1に示した焼成条件2により焼成された試料2-1、試料2-2、及び試料2-3はいずれも第2の焼成空間通過時において、皮目の温度が100℃以上に達し、その中心温度は90℃以上に達した。この結果は、実験1で焼成条件2で焼成された試料1-4等について観察された品温の測定結果と一致するものであり、試料2-1、試料2-2、及び試料2-3の皮目が同程度に、且つ、強く焼き上げられていることを示している。
【0088】
一方、焼成後のフィーレの外観、すなわち、皮の破れの有無、フィーレの長手方向のサイズの1/3の大きさよりも大きな皮の膨らみの有無を基準として判断されるロス率は、深さ3mmの切れ込みを入れた試料2-2で僅か2.8%と、深さ1mm又は5mmの切れ込みを入れた試料2-1又は試料2-3では、それぞれ16.7%、11.1%と、いずれも焼成過程後半において皮目を比較的遠火で焼き上げる従来の焼成条件(焼成条件1)で焼成された対照試料のロス率(22.2%)、皮目に切れ込み設けずに焼成過程後半において皮目を近火で焼き上げる焼成条件2で焼成された試料1-1のロス率(55.6%)や、皮目に穴を設けて焼成過程後半において皮目を近火で焼き上げる焼成条件2で焼成された試料1-2のロス率(30.6%)と比較して、顕著に低かった。この結果は、皮目に切れ込みを設けることにより、その深さによらず、焼成工程中の皮の膨れ、また、これによる皮の破れが効果的に抑制され、近火で皮目を焼き上げるにもかかわらず、外観に優れた焼きサバが得られ、厳しい外観上の品質管理基準を設けても高い歩留まりで焼きサバを製造し得ることを示している。
【0089】
官能評価
以上の手順にて製造したパック入り焼きサバ(試料2-1、2-2、2-3)を9日間、10℃以下の冷蔵庫でチルド保存した後に、600Wで40秒間レンジアップしたものを、健康な男女合わせて15名のパネラーに喫食させ、対照試料を基準として、「皮のパリッと感」、「身の食感」、「見た目」、「美味しさ」、「魚臭さを感じない」、「皮がはげずに破れる」を評価させた。評価は、対照試料を基準とし、対照試料と比べて、「非常に良い=5」、「良い=4」、「同等=3」、「悪い=2」、「非常に悪い=1」の5段階で行った。各評価項目について15名のパネラーから得られた点数の平均値を表11に、各評価項目についての各パネラーの点数を表12~16に示す。
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
表11及び表12~16に示されるとおり、フィーレの皮目に深さ1mm、3mm、5mmの切れ込みを設け、焼成条件2で焼成した試料2-1、2―2、2-3は、いずれも対照試料と比較して良好な評価結果を得た。この結果は、フィーレの皮目に切れ込みを設け、焼成過程の後半で皮目を近火で焼き上げる製造方法によれば、切れ込みの深さによらず、外観が優れるのみならず、冷却後、パック詰めし、チルド保存した後に喫食した場合であっても、好ましい皮のパリッと感や身の食感、おいしさ、魚臭さの感じなさ、皮のはげなさ等に優れるパック入り焼きサバが得られ得ることを示している。
【0097】
一方、試料2-1、2―2、2-3の中でも、フィーレの皮目に深さ3mmの切れ込みを設けた試料2―2は、皮目に深さ1mm又は5mmの切れ込みを設けた試料2-1及び試料2-3と比較して、とりわけ優れた評価結果を得た。この結果は、フィーレの皮目に深さ3mm程度の切れ込みを設け、焼成過程の後半で皮目を近火で焼き上げる製造方法によれば、冷却後、パック詰めし、チルド保存した後に喫食した場合であっても、好ましい皮のパリッと感や身の食感、おいしさ、魚臭さの感じなさ、皮のはげなさ等にとりわけ優れるパック入り焼きサバが得られ得ることを示している。このことから皮目に設けられる切れ込みの深さは1mm以上5mm以下であることが好ましく、1.5mm以上4.5mm以下であることがより好ましく、2.0mm以上4.0mm以下であることがさらに好ましく、2.5mm以上3.5mm以下であることがよりさらに好ましく、3.0mmであることが特に好ましいと考えられる。
【0098】
<実験3:フィーレの皮目に切れ込みの設けるタイミングの検討>
フィーレの皮目に切れ込みを設けるタイミングについて検討した。具体的には、実験2の試料2-2の製造方法の工程A2において、冷凍状態で切れ込みを設けるのに代えて、工程A3の解凍工程の後、工程A4の調味液に漬け込む前に、解凍状態のフィーレに切れ込みを設けた以外は、実験2の試料2-2と同様の手順にて、試料3-1を調製した。
図10に、試料3-1の調製手順(
図10(A-2))を、試料2-2の調製手順(
図10(A-1))と対比して示す。なお、切れ込みの深さは3mmとし、実験2と同様にして切れ込みの長さを測定した。詳細な結果は省略するが、解凍状態で深さ3mmの切れ込みを設けた場合と、冷凍状態で同じ深さの切れ込みを設けた場合とで、切れ込みの長さに有意な変化は見られなかった。
【0099】
焼成中の品温と焼きサバの外観の評価
試料3-1の焼成工程における皮目、中心、身下の品温の測定値を表17に、焼成直後の焼きサバの外観を
図11に、焼きサバの外観から判断されたロス率を表17示す。なお、表17には、冷凍状態で同じ深さの切れ込みを設けた試料2-2についての評価結果を併せて示した。
【0100】
【0101】
表17に示されるとおり、焼成過程の後半においてフィーレの皮目を近火で焼き上げる表1に示した焼成条件2により焼成された試料3-1は、第2の焼成空間通過時において、皮目の温度が100℃以上に達し、その中心温度は90℃以上に達した。この結果は、同じく焼成条件2で焼成された試料2-2等について観察された品温の測定結果と一致するものであり、試料3-1と試料2-2は同程度に、且つ、焼成過程の後半において皮目が強く焼き上げられていることを示している。
【0102】
一方、焼成後のフィーレの外観、すなわち、皮の破れの有無、フィーレの長手方向のサイズの1/3の大きさよりも大きな皮の膨らみの有無を基準として判断されるロス率は、解凍状態で深さ3mmの切れ込みを入れた試料3-1で6.0%であり、冷凍状態で切れ込みを入れた試料2-2のロス率(2.8%)と遜色のない低さであった。この結果は、解凍状態のフィーレに皮目に切れ込みを設けた場合であっても、焼成工程中の皮の膨れ、また、これによる皮の破れが効果的に抑制され、近火で皮目を焼き上げるにもかかわらず、外観に優れた焼きサバが得られ、厳しい外観上の品質管理基準を設けても高い歩留まりで焼きサバを製造し得ることを示している。
【0103】
官能評価
以上の手順にて製造したパック入り焼きサバ(試料3-1)を9日間、10℃以下の冷蔵庫でチルド保存した後に、600Wで40秒間レンジアップしたものを、健康な男女合わせて15名のパネラーに喫食させ、対照試料を基準として、「皮のパリッと感」、「身の食感」、「見た目」、「美味しさ」、「魚臭さを感じない」、「皮がはげずに破れる」を評価させた。評価は、対照試料を基準とし、対照試料と比べて、「非常に良い=5」、「良い=4」、「同等=3」、「悪い=2」、「非常に悪い=1」の5段階で行った。各評価項目について15名のパネラーから得られた点数の平均値を表18に、各評価項目についての各パネラーの点数を表19~23に示す。
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
表18及び表19~23に示されるとおり、解凍状態で皮目に切れ込みを設けた試料3-1は、冷凍状態で皮目に切れ込みを設けた試料2-2と同様、従来の製造方法で製造された対照試料と比較して良好な評価結果(=評価結果が3を上回る)を得た。この結果は、皮目に切れ込みを設け、焼成過程の後半において皮目を近火で強く焼き上げる上記製造方法によれば、皮目に切れ込みを設けるタイミングにかかわらず、外観が優れるとともに、冷却後、パック詰めし、チルド保存した後に喫食した場合であっても、好ましい皮のパリッと感や身の食感、おいしさ、魚臭さの感じなさ、皮のはげなさ等に優れるパック入り焼きサバが得られ得ることを示している。
【0111】
一方、解凍状態のフィーレに切れ込みを設けた試料3-1と、冷凍状態のフィーレに切れ込みを設けた試料2-2とを比較すると、驚くべきことに、冷凍状態のフィーレに切れ込みを設けた試料2-2は、解凍状態のフィーレに切れ込みを設けた試料3-1と比較して、全ての評価項目について顕著に良好な評価結果を得た。冷凍状態のフィーレに切れ込みを設ける製造方法によれば、足がはやいことが知られるサバのフィーレの劣化が最小限に留められ、解凍状態のフィーレに切れ込みを設ける製造方法と比較して、顕著に良好な官能評価結果が得られたものと推測される。例えば、家庭や料理屋等で調理後すぐに喫食する場合には、通常、僅かな品質の劣化は感知しえないと思われる。これに対し、製造後、比較的長期間チルド保存された後に喫食されるパック入り焼きサバにあっては、製造直後の僅かな品質の違いが、チルド保存後の品質に大きく影響するものと考えられる。いずれにせよ、以上の結果より、冷凍状態のフィーレの皮目に切れ込みを設け、その後、解凍し、皮目を近火で焼き上げる上記製造方法によれば、外観が優れるとともに、冷却後、パック詰めし、チルド保存した後に喫食した場合であっても、好ましい皮のパリッと感や身の食感、おいしさ、魚臭さの感じなさ、皮のはげなさ等に優れるパック入り焼きサバが得られ得ることが示された。
【0112】
<実験4.パック入り焼きサバの分析>
実験1における試料1-1と同様の手順にて製造したパック入り焼きサバ(試料4-1)及び実験1における試料1-4と同様の手順にて製造したパック入り焼きサバ(試料4-2)を、11日間、10℃以下の冷蔵庫でチルド保存した後に、フォルモール態窒素の含有量とヘキサナールの含有量を測定した。
【0113】
<実験4-1.フォルモール態窒素の含有量の測定>
フォルモール態窒素の含有量の測定は、焼きサバの身の部分について、次の手順にて行った。すなわち、チルド保存したパック入り焼きサバを、一パックずつ、電子レンジを用いて、500Wで50秒間加熱(レンジアップ)し、皮と血合いを除き、身の部分を得た。得られた身はほぐして均一とし、4倍重量の精製水を加え、ホモジナイズした。ホモジナイズ後、遠心分離して得られた上清をろ過して得られた5倍希釈液を、フォルモール態窒素の含有量の測定用のサンプルとして用いた。フォルモール態窒素の含有量の測定は、常法に従って、フォルモール法により行った。すなわち、ホルマリンを反応させた後、水酸化ナトリウム水溶液による中和滴定により測定した。中和滴定の結果として得られた5倍希釈液中のフォルモール態窒素の含有量を5倍し、焼きサバの身のフォルモール態窒素の含有量とした。なお、フォルモール態窒素の含有量の測定は、宝酒造株式会社に委託して行い、中和滴定には電位差自動滴定装置(京都電子工業株式会社製)を用いた。各試料について、それぞれ独立した2つのサンプルを調製し、フォルモール態窒素の含有量の測定を行った。
図12には得られた結果の平均値を示す。
【0114】
図12に示されるとおり、実験1の試料1-1と同様の手順、すなわち、皮目に切れ込みを設けず、従来の製造方法よりも強い焼成条件で皮目を焼き上げる製造方法により製造されたパック入り焼きサバである試料4-1においては、フォルモール態窒素の含有量は53.2mg%(w/v)であったのに対し、実験1の試料1-4と同様の手順、すなわち、皮目に切れ込みを設け、従来の製造方法よりも強い焼成条件で皮目を焼き上げる製造方法により製造されたパック入り焼きサバである試料4-2においては、フォルモール態窒素の含有量は64.5mg%(w/v)であった。
【0115】
フォルモール態窒素とは、遊離アミノ酸のアミノ基に存在する窒素であり、フォルモール態窒素の含有量は、特に、調味料の分野においてうまみの指標として用いられている。試料4-2において、試料4-1と比較してフォルモール態窒素の含有量が高い水準にあるという上記結果は、皮目に切れ込みを設け、従来の製造方法よりも強い焼成条件で皮目を焼き上げる製造方法により製造された試料1-4が「美味しさ」に優れるという、実験1で得られた官能試験の結果と一致している。また、以上の結果は、フォルモール態窒素の含有量が、例えば、皮目に切れ込みを設け、従来の製造方法よりも強い焼成条件で皮目を焼き上げることにより製造されるパック入り焼きサバをはじめとする、うまみが凝縮された「美味しさ」に優れるパック入り焼きサバの指標となり得ることを示している。
【0116】
<実験4-2.ヘキサナールの含有量の測定>
ヘキサナールの含有量の測定は、焼きサバの皮および身について、次の手順にて行った。すなわち、チルド保存したパック入り焼きサバを、一パックずつ、電子レンジを用いて、500Wで50秒間加熱(レンジアップ)し、焼きサバのフィーレから皮を回収した。また、皮を回収したフィーレの残部から血合いを取り除き、身を得た。得られた皮はそのまま、身はほぐして均一とした後に、4倍重量の精製水を加え、ホモジナイズし、遠心分離した上清をろ過して得られた5倍希釈液を、ヘキサナールの含有量の測定用のサンプルとして用いた。ヘキサナールの含有量の測定は、常法に従ってガスクロマトグラフィーにより行った。ガスクロマトグラフィーによるヘキサナールの測定は宝酒造株式会社に委託して行った。得られた結果を
図13に示す。なお、
図13において、測定値は、試料4-1について得られた測定値(面積値)を100とする相対値として示した。
【0117】
図13に示されるとおり、皮目に切れ込みを設け、従来の製造方法よりも強い焼成条件で皮目を焼き上げる製造方法により製造されたパック入り焼きサバである試料4-2においては、皮目に切れ込みを設けていない以外は同様の製造方法で製造されたパック入り焼きサバである試料4-1と比較して、皮のヘキサナールの含有量は81.5%であり、身のヘキサナールの含有量は58.3%であった。このように、皮目に切れ込みを設け、従来の製造方法よりも強い焼成条件で皮目を焼き上げる製造方法により製造されたパック入り焼きサバである試料4-2においては、皮のヘキサナールの含有量、及び、身のヘキサナールの含有量がともに、皮目に切れ込みを設けていない試料4-1と比較して低下し、その低下の程度は皮よりも身において顕著であった。
【0118】
ヘキサナールは、油脂の酸化により発生するアルデヒド類の一種であり、アルデヒド類は、大豆や牛乳などをはじめとする様々な食品において酸化臭の原因となる成分の一つとして知られている。試料4-1と比較して、試料4-2において、皮と身の双方のヘキサナールの含有量が低い傾向にあるという上記結果は、皮目に切れ込みを設け、従来の製造方法よりも強い焼成条件で皮目を焼き上げる本発明の一側面に係る製造方法により製造された試料1-4が「魚臭さを感じない」の評価項目において優れるという、実験1で得られた官能試験の結果と一致する。また、以上の結果は、皮および/または身におけるヘキサナールの含有量、並びに、その比率は、例えば、皮目に切れ込みを設け、従来の製造方法よりも強い焼成条件で皮目を焼き上げることにより製造されるパック入り焼きサバをはじめとるす、チルド保存後も「魚臭さを感じない」パック入り焼きサバの指標となり得ることを示している。
【0119】
<実験5.焼成方法の検討>
焼成時にフィーレを金網に載置する代わりに平板上の鉄板に載置した以外は実験1における試料1-4と同様の手順にて製造したパック入り焼きサバ(試料5-1)を、11日間、10℃以下の冷蔵庫でチルド保存した後に、フォルモール態窒素の含有量とヘキサナールの含有量を測定した。なお、本実験は実験4と並行して行ったものであり、フォルモール態窒素の含有量とヘキサナールの含有量の測定方法は実験4で述べたと同様である。
【0120】
試料5―1について得られたフォルモール態窒素の含有量の測定結果を
図14aに示す。なお、
図14aには、比較対象として、皮目に切れ込みを設け、フィーレを金網に載置して焼成したパック入り焼きサバである試料4-2について測定されたフォルモール態窒素の含有量を再度示した。
図14aに示されるとおり、皮目に切れ込みを設けたフィーレを鉄板に載置して、従来の製造方法よりも強い焼成条件で皮目を焼き上げる製造方法により製造されたパック入り焼きサバである試料5-1において、フォルモール態窒素の含有量は60.6mg%(w/v)であった。この値は、皮目に切れ込みを設けず、フィーレを金網に載置して焼成した試料4-1の身について測定されたフォルモール態窒素の含有量(53.2mg%(w/v))よりは高い値であった。一方、皮目に切れ込みを設け、フィーレを金網に載置して焼成した試料4-2の身について測定されたフォルモール態窒素の含有量(64.5mg%(w/v))と比較すると、若干小さい値であった。
【0121】
ヘキサナールの含有量の測定結果を
図14bに示す。なお、
図14bにおいて、測定値は、実験4と同様、皮目に切れ込みを設けず、フィーレを金網に載置して焼成した試料4-1について得られた測定値(面積値)を100とする相対値にて示した。また、比較対象として、皮目に切れ込みを設け、フィーレを金網に載置して焼成したパック入り焼きサバである試料4-2についての測定結果を再度示した。
【0122】
図14bに示されるとおり、皮目に切れ込みを設け、フィーレを鉄板に載置して焼成したパック入り焼きサバである試料5-1においては、皮目に切れ込みを設けず、フィーレを金網に載置して焼成したパック入り焼きサバである試料4-1と比較して、皮のヘキサナールの含有量は87.1%であり、身のヘキサナールの含有量は69.4%であった。このように金網でなく、鉄板に載置して焼成した試料5-1においても、身および皮の双方においてヘキサナールの含有量の低下が観察され、その程度は、皮よりも身において顕著であった。一方、試料5-1について得られた結果を試料4-2について得られた結果と比較すると、皮目に切れ込みを設け、フィーレを金網に載置して焼成したパック入り焼きサバである試料4-2において、皮および身のヘキサナールの含有量の低下がより顕著であった。
【0123】
以上の結果は、皮目に切れ込みを設けたサバのフィーレを焼成するにあたっては、基本的にはフィーレを金網に載置しても良いし、鉄板に載置しても良いが、金網に載置して焼成、すなわち、フィーレを網焼きにする際には、美味しさ及び魚臭さの感じなさの観点でより好ましい特性を示すパック入り焼きサバが得られ得ることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0124】
以上説明したとおり、本発明によれば、外観が優れるとともに、冷却後、パック詰めし、チルド保存した後に喫食した場合であっても、好ましい皮のパリッと感や身の食感、おいしさ、魚臭さの感じなさ、皮のはげなさ等に優れるパック入り焼きサバが提供され得る。誰もが手軽に食することができ、且つ、品位の高いパック入り焼きサバを提供し得る本発明は、食を通じて、人々の生活の向上に寄与するものであり、その産業上の利用可能性には多大なものがある。