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特開2024-155965潤滑組成物及びそれを用いた共重合体の製造方法
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  • 特開-潤滑組成物及びそれを用いた共重合体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155965
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】潤滑組成物及びそれを用いた共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20241024BHJP
   C08F 20/18 20060101ALI20241024BHJP
   C08F 2/40 20060101ALI20241024BHJP
   C10M 135/36 20060101ALN20241024BHJP
   C10M 129/10 20060101ALN20241024BHJP
   C10M 129/14 20060101ALN20241024BHJP
   C10M 129/16 20060101ALN20241024BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20241024BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20241024BHJP
【FI】
C10M169/04
C08F20/18
C08F2/40
C10M135/36
C10M129/10
C10M129/14
C10M129/16
C10N30:00 Z
C10N40:30
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024140585
(22)【出願日】2024-08-22
(62)【分割の表示】P 2020116352の分割
【原出願日】2020-07-06
(31)【優先権主張番号】10-2019-0082484
(32)【優先日】2019-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】515215276
【氏名又は名称】エスケー ジオ セントリック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】イ ホ ソン
(72)【発明者】
【氏名】キム スン ジュ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ジン ヘク
(57)【要約】
【課題】重合禁止剤及び重合禁止促進剤の相互作用により、重合工程での自己重合体の生成を抑制できる。
【解決手段】本発明の実施形態の潤滑組成物は、基油と、フェノチアジン系重合禁止剤と、ヒンダードフェノール系化合物及びヒドロキノン系化合物を含む重合禁止促進剤とを含む。重合禁止剤及び重合禁止促進剤の相互作用により、重合工程での自己重合体の生成を抑制させることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、
フェノチアジン系重合禁止剤と、
ヒンダードフェノール系化合物及びヒドロキノン系化合物を含む重合禁止促進剤とを含む、潤滑組成物。
【請求項2】
前記重合禁止剤は、下記化学式1で表される化合物を含む、請求項1に記載の潤滑組成物。
【化1】
(化学式1中、R~Rは、それぞれ独立して水素、炭素数1~5のアルキル基または炭素数1~5のアルコキシ基である。)
【請求項3】
前記重合禁止剤の含有量は、前記基油の重量に対して1~2,000ppmである、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項4】
前記重合禁止剤の含有量は、前記基油の重量に対して1~10ppmである、請求項3に記載の潤滑組成物。
【請求項5】
前記ヒンダードフェノール系化合物は、下記化学式2で表される、請求項1に記載の潤滑組成物。
【化2】
(化学式2中、R~R11は、それぞれ炭素数1~5のアルキル基である。)
【請求項6】
前記ヒンダードフェノール系化合物は、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)である、請求項5に記載の潤滑組成物。
【請求項7】
前記ヒドロキノン系化合物は、下記化学式3で表される、請求項1に記載の潤滑組成物。
【化3】
(化学式3中、R12~R16は、それぞれ水素または炭素数1~5のアルキル基である。)
【請求項8】
前記ヒドロキノン系化合物は、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MeHQ)である、請求項7に記載の潤滑組成物。
【請求項9】
前記重合禁止促進剤の含有量は、前記基油の重量に対して1~10重量%である、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項10】
極性非芳香族化合物をさらに含む、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項11】
前記極性非芳香族化合物は、脂肪酸系化合物を含む、請求項10に記載の潤滑組成物。
【請求項12】
前記極性非芳香族化合物の含有量は、前記基油の重量に対して1重量%を超え、10重量%以下である、請求項10に記載の潤滑組成物。
【請求項13】
請求項1に記載の潤滑組成物を吐出部に注入するステップと、
カルボン酸系単量体を含む第1の単量体を前記吐出部を介して吐出するステップと、
吐出された前記第1の単量体を第2の単量体と反応させるステップとを含む、共重合体の製造方法。
【請求項14】
前記第2の単量体は、エチレン系重合性単量体である、請求項13に記載の共重合体の製造方法。
【請求項15】
前記吐出部への前記潤滑組成物の注入速度は、25~130kg/hrである、請求項13に記載の共重合体の製造方法。
【請求項16】
前記吐出部内の温度は20~120℃であり、前記吐出部からの吐出圧力は、1100~2500barである、請求項13に記載の共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑組成物及びそれを用いた共重合体の製造方法に関する。より詳細には、基油および添加剤を含む潤滑組成物、並びにそれを用いた共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、エチレン-アクリル酸共重合体のようなエチレン-カルボン酸共重合体は、シール材、接着剤、パッキング材、光学フィルムなどの様々な用途に活用されている。
【0003】
エチレン-カルボン酸共重合体は、エチレン及び共単量体としてのカルボン酸系化合物(例えば、アクリル酸、メタクリル酸など)を連続反応器により重合して製造することができる。
【0004】
カルボン酸系化合物は、エチレンに比べて自己反応性が高いため、流路、ポンプ、コンプレッサーなどから供給される過程で高温にさらされるときに自己重合されることがある。
【0005】
この場合、ポンプ、コンプレッサー、流路などの前記装置のクロッギング、流路の遮断などの装置欠陥が引き起こされることがあり、これにより、共重合体の生産収率が低下し、工程の均一な繰り返しが困難になることがある。
【0006】
そこで、共重合体を重合するための単量体のほか、自己重合を抑制するための添加剤を共に使用する方法が研究されている。しかし、前述した装置欠陥を直接遮断するために、装置に適用される潤滑油のような組成物にも自己重合を効率よく抑制するための設計又は研究が求められる。
【0007】
例えば、国際特許公開公報WO2016/172076号は、重合反応のファウリングを防止するための重合禁止剤の使用を開示しているが、前述のような装置、工程単位での自己重合を防止するための設計は開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際特許公開公報WO2016/172076号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、向上した工程信頼性、重合効率を実現するための潤滑組成物を提供することである。
【0010】
本発明の目的は、前記潤滑組成物を用いた共重合体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態に係る潤滑組成物は、基油と、フェノチアジン系重合禁止剤と、ヒンダードフェノール系化合物及びヒドロキノン系化合物を含む重合禁止促進剤とを含むことができる。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記重合禁止剤は、下記化学式1で表される化合物を含むことができる。
【0013】
【化1】
【0014】
化学式1中、R~Rは、それぞれ独立して水素、炭素数1~5のアルキル基または炭素数1~5のアルコキシ基であってもよい。
【0015】
いくつかの実施形態において、前記重合禁止剤の含有量は、前記基油の重量に対して1~2,000ppmであってもよい。
【0016】
いくつかの実施形態において、前記重合禁止剤の含有量は、前記基油の重量に対して1~10ppmであってもよい。
【0017】
いくつかの実施形態において、前記ヒンダードフェノール系化合物は、下記化学式2で表すことができる。
【0018】
【化2】
【0019】
化学式2中、R~R11は、それぞれ炭素数1~5のアルキル基であってもよい。
【0020】
いくつかの実施形態において、前記ヒンダードフェノール系化合物は、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)であってもよい。
【0021】
いくつかの実施形態において、前記ヒドロキノン系化合物は、下記化学式3で表すことができる。
【0022】
【化3】
【0023】
化学式3中、R12~R16は、それぞれ水素または炭素数1~5のアルキル基であってもよい。
【0024】
いくつかの実施形態において、前記ヒドロキノン系化合物は、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MeHQ)であってもよい。
【0025】
いくつかの実施形態において、前記重合禁止促進剤の含有量は、前記基油の重量に対して1~10重量%であってもよい。
【0026】
いくつかの実施形態において、前記潤滑組成物は、極性非芳香族化合物をさらに含んでいてもよい。
【0027】
いくつかの実施形態において、前記極性非芳香族化合物は、脂肪酸系化合物を含むことができる。
【0028】
いくつかの実施形態において、前記極性非芳香族化合物の含有量は、前記基油の重量に対して1重量%を超え、10重量%以下であってもよい。
【0029】
本発明の実施形態に係る共重合体の製造方法において、前述した潤滑組成物を吐出部に注入することができる。カルボン酸系単量体を含む第1の単量体を前記吐出部を介して吐出することができる。吐出された前記第1の単量体を第2の単量体と反応させることができる。
【0030】
いくつかの実施形態において、前記第2の単量体は、エチレン系重合性単量体であってもよい。
【0031】
いくつかの実施形態において、前記吐出部への前記潤滑組成物の注入速度は、25~130kg/hrであってもよい。
【0032】
いくつかの実施形態において、前記吐出部内の温度は20~120℃、前記吐出部からの吐出圧力は、1100~2500barであってもよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明の実施形態によると、例えば、カルボン酸系単量体を吐出するポンプの潤滑油にフェノチアジン系化合物のような重合禁止剤を添加し、ヒンダードフェノール系化合物及びヒドロキノン系化合物を含む重合禁止促進剤を共に添加することができる。
【0034】
前記重合禁止促進剤は、ラジカル化されたフェノチアジン系化合物を再生して重合禁止のメカニズムを活性化させることができる。これにより、少量の重合禁止剤でもカルボン酸系単量体の自己重合の抑制を長期間維持して共重合体の収率を向上させ、重合装置の詰まりを抑制することができる。
【0035】
いくつかの実施形態において、潤滑組成物は、極性非芳香族化合物をさらに含むことができる。前記極性非芳香族化合物は、ヒンダードフェノール系化合物の溶解度を増加させ、フェノチアジン系化合物の再生をさらに促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1は、例示的な実施形態に係る共重合体の製造方法を説明するための概略的な工程フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の実施形態は、重合禁止剤と、ヒンダードフェノール系化合物及びヒドロキノン系化合物を含む重合禁止促進剤と、基油とを含む潤滑組成物を提供する。また、本発明の実施形態は、前記潤滑組成物が使用され、単量体の自己重合を効率よく抑制できる共重合体の製造方法を提供する。
【0038】
以下、具体的な実験例及び図面を参照して、本発明の実施形態をより具体的に説明する。ただし、本明細書に添付される図面は、本発明の好適な実施形態を例示するものであって、発明の詳細な説明とともに本発明の技術思想をさらに理解する一助となる役割を果たすものであるため、本発明は図面に記載された事項のみに限定されて解釈されるものではない。
【0039】
<潤滑組成物>
例示的な実施形態に係る潤滑組成物は、基油と、重合禁止剤と、重合禁止促進剤とを含む。いくつかの実施形態において、前記潤滑組成物は、極性非芳香族化合物をさらに含んでいてもよい。
【0040】
基油は、潤滑組成物のベース溶剤、希釈剤または媒質(media)として含むことができる。基油としては、その種類は特に限定されず、重合装置、石油化学設備などで使用される潤滑油を使用することができる。例えば、ミネラルオイルを基油として使用できる。
【0041】
基油は、後述する成分を除いた潤滑組成物の残量として含むことができる。「残量」とは、追加される成分によって調節される可変量と理解するべきである。
【0042】
重合禁止剤は、例えば、カルボン酸系単量体の自己重合を抑制する成分として含むことができる。例示的な実施形態によれば、前記重合禁止剤は、下記化学式1で表されるフェノチアジン(phenothiazine)系化合物を含むことができる。
【0043】
【化4】
【0044】
化学式1中、R~Rは、それぞれ独立して水素、炭素数1~5のアルキル基または炭素数1~5のアルコキシ基であってもよい。
【0045】
いくつかの実施形態において、重合禁止剤の含有量は、基油の重量に対して約2,000ppm以下であってもよい。重合禁止剤の含有量が約2,000ppmを超えると、ラジカル系活性物質の過度な増加により環境リスクが増加することがあり、むしろ共重合体の収率を低下させることがある。
【0046】
重合禁止剤の含有量は、好ましくは、基油の重量に対して約1,000ppm以下、より好ましくは約1~10ppmであってもよい。前記範囲内であると、後述する重合禁止促進剤による再生メカニズムをより容易に実現することができる。
【0047】
例示的な実施形態によると、重合禁止促進剤を前述の重合禁止剤と共に使用することができる。前記重合禁止促進剤は、ヒンダード(hindered)フェノール系化合物及びヒドロキノン(hydroquinone)系化合物を共に含むことができる。
【0048】
前記ヒンダードフェノール系化合物は、下記化学式2で表すことができる。
【0049】
【化5】
【0050】
化学式2中、R~R11は、それぞれ炭素数1~5のアルキル基であってもよい。好ましい一実施形態において、Rはノーマルアルキル(n-alkyl)基であってもよく、R10及びR11は、それぞれ独立して二次(sec)-アルキル基、イソ(iso)アルキル基、又はtert-アルキル基であってもよい。好ましくは、R10及びR11は、それぞれtert-アルキル基を含むことができ、一実施形態において、前記ヒンダードフェノール系化合物は、下記化学式2-1で表されるブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)であってもよい。
【0051】
【化6】
【0052】
前記ヒドロキノン系化合物は、下記化学式3で表すことができる。
【0053】
【化7】
【0054】
化学式3中、R12~R16は、それぞれ水素または炭素数1~5のアルキル基であってもよい。いくつかの実施形態において、ヒドロキノン系化合物は、下記化学式3-1で表されるヒドロキノンモノメチルエーテル(MeHQ)であってもよい。
【0055】
【化8】
【0056】
前述したヒンダードフェノール系化合物に含まれたヒドロキシル基に含まれた酸性水素がフェノチアジン系化合物(重合禁止剤)に伝達され、ラジカル化された前記フェノチアジン系化合物を再び再生することができる。これにより、前記フェノチアジン系化合物の寿命が増加し、少量の重合禁止剤でもカルボン酸系単量体の自己重合の抑制を効率よく維持することができる。
【0057】
また、ヒンダードフェノール系化合物に含まれている相対的にバルキーなアルキル基(R10、R11、例えばtert-ブチル基)によって、ヒドロキシル基に結合されている水素の酸度が増加し、水素の伝達を容易に行うことができる。
【0058】
また、相対的にバルキーなアルキル基によって基油に対する溶解度が向上し、ヒンダードフェノール系化合物の重合禁止剤の再生効果を均一に維持することができる。
【0059】
ヒンダードフェノール系化合物は、カルボン酸系単量体(例えば、アクリル酸)溶液に対して相対的に低い溶解度を有し得る。例示的な実施形態によると、ヒンダードフェノール系化合物と、カルボン酸系単量体溶液に対する溶解度の高いヒドロキノン系化合物を共に使用することができる。これにより、単量体溶液および潤滑組成物が共に共存する重合システム内で、全体的に優れた重合禁止の抑制効果及び重合禁止剤の再生効果を均一に維持することができる。
【0060】
いくつかの実施形態において、ヒンダードフェノール系化合物およびヒドロキノン系化合物を含む重合禁止促進剤の含有量は、基油の合計重量に対して約1~20重量%であってもよい。前記範囲内であると、十分な重合禁止剤の再生効果を実現するとともに、前記重合システム内での溶解度の低下を防止することができる。
【0061】
いくつかの実施形態において、重合禁止促進剤の含有量は、基油の合計重量に対して約1~10重量%であってもよい。例えば、重合禁止促進剤中のヒンダードフェノール系化合物の含有量は、基油の合計重量に対して約1~6重量%であってもよい。ヒンダードフェノール系化合物の含有量が例えば約6重量%を超えると、基油または潤滑組成物の酸化がもたらされ、オイルの変色が引き起こされることがある。
【0062】
いくつかの実施形態において、重合禁止促進剤中のヒンダードフェノール系化合物の量は、ヒドロキノン系化合物の量よりも大きくてもよい。この場合、潤滑組成物内で十分な重合禁止剤の再生効果を容易に実現することができる。
【0063】
いくつかの実施形態において、潤滑組成物は、極性非芳香族化合物をさらに含むことができる。前記極性非芳香族化合物は、前述した重合禁止促進剤(例えば、ヒンダードフェノール系化合物)の希釈剤または腐蝕防止剤として提供することができる。また、前記極性非芳香族化合物は、重合禁止剤の再生メカニズムの中間媒質又は中間経路を提供することができる。
【0064】
例示的な実施形態によると、前記極性非芳香族化合物は、炭素数10~30の脂肪酸(例えば、オレイン酸(oleic acid))系化合物を含むことができる。
【0065】
極性非芳香族化合物が共に添加され、前述したヒンダードフェノール系化合物(例えば、BHT)と共に重合禁止剤(例えば、フェノチアジン)の再生サイクルを繰り返すことができる。
【0066】
例えば、フェノチアジンの窒素原子に結合された水素が離脱され、ラジカル化された脂肪酸に伝達され、活性化されたフェノチアジンラジカルを生成することができる。活性化されたフェノチアジンラジカルは、ヒンダードフェノール系化合物に含まれているヒドロキシル基から水素を受け取り、フェノチアジンに再び再生できる。
【0067】
前記サイクルが繰り返されることにより、重合システム内で重合禁止剤の活性を繰り返し再生することができる。これにより、少量の重合禁止剤でもカルボン酸系単量体の自己重合の抑制効果を長期間にわたって発揮することができる。
【0068】
一実施形態において、極性非芳香族化合物の含有量は、基油の合計重量に対して1重量%を超えてもよい。この場合には、ヒンダードフェノール系化合物の溶解度が十分に確保され、重合禁止剤の再生サイクルを容易に開始することができる。一形態形態において、極性非芳香族化合物の含有量は、1重量%を超え、且つ10重量%以下、好ましくは5重量%以下であってもよい。
【0069】
<共重合体の製造方法>
図1は、例示的な実施形態に係るエチレン-カルボン酸共重合体の製造方法を説明するための概略的な工程フローチャートである。
【0070】
図1を参照すると、第1の単量体供給部10からカルボン酸系単量体を含む第1の単量体を供給することができる。
【0071】
カルボン酸系単量体は、連鎖的な重合反応が可能な不飽和カルボン酸を含むことができる。例示的な実施形態によると、カルボン酸系単量体として、(メタ)アクリル酸またはそのエステル(例えば、(メタ)アクリレート)を使用できる。本出願で(メタ)アクリル酸は、メタクリル酸およびアクリル酸を包括する用語として使用される。
【0072】
例えば、貯蔵タンクのような第1の単量体供給部10から第1の流路20を介してカルボン酸系単量体を吐出部30に伝達することができる。
【0073】
例えば、重合開始剤、反応抑制剤、酸化防止剤などの1以上の添加剤を共に供給することもできる。
【0074】
例えば、重合開始剤としては、高分子重合の分野で公知の開始剤を使用することができる。例えば、重合開始剤としては、パーオキサイド又はパーオキシ系化合物、アゾビス系化合物などを使用することができる。
【0075】
カルボン酸系単量体は、吐出部30に移動し、吐出流路40を介して、例えばエチレン重合性単量体との共重合のために排出することができる。
【0076】
吐出部30は、例えば、ポンプ、コンプレッサーなどの排出装置を含むことができる。例示的な実施形態によると、吐出部30には、前述した潤滑組成物を注入することができる。
【0077】
例えば、吐出部30は、ピストン及びピストンを包み込むブッシング(bushing)のようなシリンダー構造を含み、例示的な実施形態に係る潤滑組成物をピストンとシリンダー構造との間のギャップ(gap)に注入することができる。
【0078】
ギャップの内部では、ピストンとシリンダー構造との間の摩擦が繰り返して発生することにより、摩擦熱によって局部的な温度上昇がもたらされることがある。これにより、カルボン酸系単量体の自己重合温度を超える場合、ポリアクリル酸(PAA)のような自己重合体が発生することがある。この場合には、ギャップの詰まりが生じて、吐出部30の交換周期またはクリーニング周期が短縮されて工程効率が低下し、所望の共重合体の収率も劣化することがある。
【0079】
しかし、前述した潤滑組成物は、フェノチアジンのような重合禁止剤と共にヒンダードフェノール系/ヒドロキノン系重合禁止促進剤を用いて、前記重合禁止剤の再生メカニズムを顕著に活性化させることができる。
【0080】
これにより、吐出部30の使用周期を増加させ、PAAのような自己重合体の形成を抑制し、工程信頼性を向上させることができる。
【0081】
いくつかの実施形態において、吐出部30への潤滑組成物の注入速度は、20kg/hr以上であってもよく、好ましくは25~130kg/hrの範囲に調節することができる。前記範囲内であると、吐出部30に供給されるカルボン酸系単量体との均一な接触により、自己重合を効率よく抑制することができる。
【0082】
第2の単量体供給部50に貯蔵された第2の単量体は、第2の流路55を介して移動し、吐出流路40を介して供給されるカルボン酸系単量体と接触し、反応器60内で共重合できる。例示的な実施形態によると、前記第2の単量体は、エチレン系重合性単量体を含むことができる。
【0083】
エチレンが前記第2の単量体として用いられる場合、反応器60内でカルボン酸系単量体とエチレンとの共重合が進行され、エチレン-カルボン酸共重合体(例えば、EAA共重合体)を製造できる。
【0084】
いくつかの実施形態において、前述した重合開始剤を第2の流路55又は別の流路を介して反応器60内に共に導入してもよい。この場合には、重合開始剤によってカルボン酸系単量体の自己重合が先に促進されることを防止できる。
【0085】
いくつかの実施形態において、重合工程中、例えば、第2の流路55を介して連鎖移動剤(chain transfer agent)を投入することができる。連鎖移動剤により、重合体製品の分子量及び分子量分布を所望の範囲に容易に制御することができる。
【0086】
連鎖移動剤は、例えば、イソブタン、プロピンなどの非極性有機化合物、若しくはメチルエチルケトン、イソプロピルアルデヒド、酢酸ビニルなどの極性有機化合物を含むことができる。
【0087】
吐出部30及び反応器60における工程条件は、カルボン酸系単量体の自己重合の防止及び共重合体の生成効率を考慮して調節することができる。
【0088】
いくつかの実施形態において、吐出部30での温度は、反応器60内の温度よりも低くてもよい。例えば、吐出部30での温度は約20~120℃、反応器60内の温度は約150~270℃であってもよい。
【0089】
いくつかの実施形態において、吐出部30及び反応器60での圧力は、1100~2500bar、好ましくは1300~2300barの範囲であってもよい。一実施形態において、吐出部30での吐出圧力は、反応器60での共重合圧力よりも大きくてもよい。
【0090】
以下、本発明の理解を助けるために具体的な実験例を提示するが、この実験例に含まれる実施例及び比較例は本発明を例示するものに過ぎず、添付の特許請求の範囲を制限するものではない。これらの実施例に対し、本発明の範疇および技術思想の範囲内で種々の変更および修正を加えることが可能であることは当業者にとって明らかであり、これらの変形および修正が添付の特許請求の範囲に属することも当然のことである。
【0091】
実験例1:アクリル酸の自己重合の測定
窒素雰囲気で処理された1Lの反応器内で、アクリル酸(AA)(99%純度、シグマ アルドリッチ社製)と潤滑組成物を表1に示す含有量で混合した後、密封した。反応器を120℃に加熱し、10分ごとに反応器内の自己重合体(PAA)の形成有無を観察した。PAAが肉眼で観察されるとすぐに実験を中止し、重合時間を記録した。重合時間の測定結果は、下記表1に併せて示す。
【0092】
表1でPTZ、MeHQは潤滑組成物のミネラルオイルに対してppmで示し、BHTはミネラルオイルに対して重量%で示す。
【0093】
【表1】
【0094】
表1に示すように、潤滑組成物内の重合禁止剤としてPTZが単独で使用された場合には、有効なPAA生成抑制効果を容易に得ることができなかった。また、ラジカル活性を持って環境リスクがあるPTZの量を大幅に増加させた場合に、比較例6のように有効な重合禁止時間が確保された。
【0095】
これに対して、重合禁止促進剤としてBHT及びMeHQを共に使用した場合には、少量のPTZでも重合遅延時間が急激に増加した。
【0096】
一方、BHTを8重量%含む以外は、実施例3と同様にして実施例4の潤滑組成物を調製した。実施例4の場合には、実施例3と類似した程度の重合時間が測定されたが、潤滑組成物の黄変現象が発生した。
【0097】
実験例2:希釈剤による自己重合の評価
実験例1と同様な方法でミネラルオイル、PTZおよび希釈剤を含む潤滑組成物のサンプルを用いて、アクリル酸の自己重合発生時間を測定した。希釈剤としては、シグマアルドリッチ社製を使用した。
【0098】
測定結果は、下記表2に示す。
【0099】
【表2】
【0100】
表2に示すように、グリコール系化合物の希釈剤又はキシレンのような非極性芳香族化合物の場合には、PTZを含んでいても重合禁止の効果が実質的に実現されなかった。
【0101】
オレイン酸のような脂肪酸系の極性非芳香族化合物を希釈剤として使用したサンプル10-14を参照すると、PTZと共に潤滑組成物に含まれて1重量%を超えた場合、重合禁止時間が顕著に増加した。
【符号の説明】
【0102】
10:第1の単量体供給部
20:第1の流路
30:吐出部
40:吐出流路
50:第2の単量体供給部
55:第2の流路
60:反応器
図1
【手続補正書】
【提出日】2024-09-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸系単量体を用いた共重合体を製造する装置に用いられる潤滑組成物であって、
ミネラルオイルと、
下記化学式1で表されるフェノチアジン系重合禁止剤と、
ヒンダードフェノール系化合物及びヒドロキノン系化合物を含む重合禁止促進剤と
炭素数10~30の脂肪酸系化合物とを含み、
前記ヒンダードフェノール系化合物は、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)であり、
前記ヒドロキノン系化合物は、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MeHQ)であり、
前記重合禁止剤の含有量は、前記ミネラルオイルの重量に対して1ppm~10ppmであり、
前記重合禁止促進剤の含有量は、前記ミネラルオイルの重量に対して1重量%~10重量%であり、
前記ヒンダードフェノール系化合物の含有量は、前記ミネラルオイルの重量に対して1重量%~6重量%であり、
前記ヒドロキノン系化合物の含有量は、前記重合禁止剤の重量に対して34倍~170倍である、潤滑組成物。
【化1】
(化学式1中、R ~R は水素である。)
【請求項2】
前記脂肪酸系化合物の含有量は、前記ミネラルオイルの重量に対して1重量%を超え、10重量%以下である、請求項に記載の潤滑組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の潤滑組成物を吐出部に注入するステップと、
カルボン酸系単量体を含む第1の単量体を前記吐出部を介して吐出するステップと、
吐出された前記第1の単量体を第2の単量体と反応させるステップとを含む、共重合体の製造方法。
【請求項4】
前記第2の単量体は、エチレン系重合性単量体である、請求項に記載の共重合体の製造方法。
【請求項5】
前記吐出部への前記潤滑組成物の注入速度は、25~130kg/hrである、請求項に記載の共重合体の製造方法。
【請求項6】
前記吐出部内の温度は20~120℃であり、前記吐出部からの吐出圧力は、1100~2500barである、請求項に記載の共重合体の製造方法。