(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155988
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】吸音ボード
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20241024BHJP
G10K 11/168 20060101ALI20241024BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20241024BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20241024BHJP
B60R 13/02 20060101ALI20241024BHJP
B60R 5/04 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
G10K11/16 120
G10K11/168
B32B5/18
B32B27/40
B60R13/02 B
B60R5/04 T
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024145060
(22)【出願日】2024-08-27
(62)【分割の表示】P 2020147915の分割
【原出願日】2020-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100112472
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202223
【弁理士】
【氏名又は名称】軸見 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】中根 和靖
(72)【発明者】
【氏名】丹下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】杉本 寛樹
(57)【要約】
【課題】吸音性を有しつつ剛性を向上させることが可能な吸音ボード、並びに、その吸音ボードを含むパッケージトレイ、ラゲッジボード及び遮音構造の提供。
【解決手段】吸音ボード10は、連続気泡構造を有するポリウレタンフォーム11を含み、ポリウレタンフォーム11の表裏の面にそれぞれ一体化され、通気性を有する1対の表皮材20と、表皮材20に含まれ、ポリウレタンフォーム11の原料11Mが含浸硬化した含浸層22と、を備える。含浸層22を含む表皮材20のJIS K6400-7 B法:2012に基づく通気量は、3~90ml/cm
2/sとなっている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続気泡構造を有するポリウレタンフォームを含む吸音ボードであって、
前記ポリウレタンフォームの表裏の面にそれぞれ一体化され、通気性を有する1対の表皮材と、
前記表皮材に含まれ、前記ポリウレタンフォームの原料が含浸硬化した含浸層と、を備え、
前記含浸層を含む前記表皮材のJIS K6400-7 B法:2012に基づく通気量が、3~90ml/cm2/sである、吸音ボード。
【請求項2】
前記表皮材は、1枚の又は複数枚重ねの繊維シートを備える、請求項1に記載の吸音ボード。
【請求項3】
前記表皮材には、前記ポリウレタンフォームの前記原料が含浸するベースシートが備えられ、
前記含浸層には、前記ベースシートの少なくとも一部に付着し、前記ポリウレタンフォームの樹脂とは異なる樹脂が、さらに含まれる、請求項1又は2に記載の吸音ボード。
【請求項4】
表裏の前記1対の表皮材が同じ構成である、請求項1乃至3のうち何れか1の請求項に記載の吸音ボード。
【請求項5】
JIS A1409:1998に基づく残響室法吸音率が、0.4以上である、請求項1乃至4のうち何れか1の請求項に記載の吸音ボード。
【請求項6】
車両のリアシートの後側の空間と車室とを上下に仕切るように配置されるパッケージトレイであって、
請求項1乃至5のうち何れか1の請求項に記載の吸音ボードと、
前記車両のうち前記リアシートの後側の前記空間を車幅方向に挟む1対の側壁に対して、前記吸音ボードを差し渡した状態に固定するための固定部と、を備える、パッケージトレイ。
【請求項7】
請求項1乃至5のうち何れか1の請求項に記載の吸音ボードが、遮音性を有するパネル材の少なくとも上面に重なってなり、車両の荷室に配設される、ラゲッジボード。
【請求項8】
請求項1乃至5のうち何れか1の請求項に記載の吸音ボードが、遮音性を有する1対のパネル材同士の間に配置されてなる、遮音構造。
【請求項9】
前記吸音ボードが、前記1対のパネル材に対して非接着状態で密着している、請求項8に記載の遮音構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、乗り物や建物に用いられる吸音ボード、並びに、吸音ボードを含むパッケージトレイ、ラゲッジボード及び遮音構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ボード材を用いた車両用部品の一例として、車室と荷室を仕切るパッケージトレイが記載されている。パッケージトレイとしては、木質ボードからなるものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-87855号(段落[0015]、
図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両用部品や建築資材では、軽量性に加え、吸音性が求められることがある。しかしながら、木質ボードでは、その重量の重さに加え、吸音性を発揮できないという問題があった。そこで、木質ボードを、ポリウレタンフォーム等の発泡体からなるボードに置き換えることが考えられるが、このようなボードでは、剛性が不十分であったり、反り等の変形が起き易いという別の問題が生じ得る。そのため、吸音性を有しつつ剛性を向上させることが可能な吸音ボードが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた発明の第1態様は、連続気泡構造を有するポリウレタンフォームを含む吸音ボードであって、前記ポリウレタンフォームの表裏の面にそれぞれ一体化され、通気性を有する1対の表皮材と、前記表皮材に含まれ、前記ポリウレタンフォームの原料が含浸硬化した含浸層と、を備え、前記含浸層を含む前記表皮材のJIS K6400-7 B法:2012に基づく通気量が、3~90ml/cm2/sである、吸音ボードである。
【0006】
発明の第2態様は、前記表皮材は、1枚の又は複数枚重ねの繊維シートを備える、第1態様に記載の吸音ボードである。
【0007】
発明の第3態様は、前記表皮材には、前記ポリウレタンフォームの前記原料が含浸するベースシートが備えられ、前記含浸層には、前記ベースシートの少なくとも一部に付着し、前記ポリウレタンフォームの樹脂とは異なる樹脂が、さらに含まれる、第1態様又は第2態様に記載の吸音ボードである。
【0008】
発明の第4態様は、表裏の前記1対の表皮材が同じ構成である、第1態様から第3態様のうち何れか1の態様に記載の吸音ボードである。
【0009】
発明の第5態様は、JIS A1409:1998に基づく残響室法吸音率が、0.4以上である、第1態様から第4態様のうち何れか1の態様に記載の吸音ボードである。
【0010】
発明の第6態様は、車両のリアシートの後側の空間と車室とを上下に仕切るように配置されるパッケージトレイであって、第1態様から第5態様のうち何れか1の態様に記載の吸音ボードと、前記車両のうち前記リアシートの後側の前記空間を車幅方向に挟む1対の側壁に対して、前記吸音ボードを差し渡した状態に固定するための固定部と、を備える、パッケージトレイである。
【0011】
発明の第7態様は、第1態様から第5態様のうち何れか1の態様に記載の吸音ボードが、遮音性を有するパネル材の少なくとも上面に重なってなり、車両の荷室に配設される、ラゲッジボードである。
【0012】
発明の第8態様は、第1態様から第5態様のうち何れか1の態様に記載の吸音ボードが、遮音性を有する1対のパネル材同士の間に配置されてなる、遮音構造である。
【0013】
発明の第9態様は、前記吸音ボードが、前記1対のパネル材に対して非接着状態で密着している、第8態様に記載の遮音構造である。
【発明の効果】
【0014】
発明の第1態様の吸音ボードでは、連続気泡構造を有するポリウレタンフォームの表裏の面に表皮材が一体化される。そして、表皮材には、ポリウレタンフォームの原料が含浸硬化した含浸層が設けられている。これにより、吸音ボードの剛性を向上させることができる。しかも、表皮材がポリウレタンフォームの表裏に配置されるので、表皮材がポリウレタンフォームの片面側のみに配置される場合に比べて、吸音ボードが反り難くなる。また、本態様では、含浸層を含む表皮材のJIS K6400-7 B法:2012に基づく通気量を3~90ml/cm2/sとすることにより、吸音ボード全体に通気性を付与でき、ポリウレタンフォームの吸音性を十分に発揮することができる。
【0015】
発明の第2態様によれば、表皮材の繊維シートにポリウレタンフォームの原料が含浸することで、表皮材に含浸層を容易に形成することができる。
【0016】
発明の第3態様では、ポリウレタンフォームを表皮材と一体に発泡成形する際に、ベースシートに付着した樹脂により、ポリウレタンフォームの原料が表皮材の外側へ漏れ出ることを抑制可能となる。
【0017】
発明の第4態様では、ポリウレタンフォームの表裏の表皮材を同じ構成としているので、吸音ボードの反りを低減することが可能となる。
【0018】
発明の第5態様では、JIS A1409:1998に基づく残響室法吸音率を0.4以上とすることにより、吸音ボードに優れた吸音性を付与することが可能となる。
【0019】
発明の第6態様のように、吸音ボードを、車両のパッケージトレイに用いれば、パッケージトレイの剛性を確保しつつ、車室側や荷室側からの音を吸音することが可能となる。このように、吸音ボードをパッケージトレイに用いる場合、パッケージトレイに、車両のうちリアシートの後側の空間を車幅方向に挟む1対の側壁に対して、吸音ボードを差し渡した状態に固定するための固定部を設けてもよい。
【0020】
発明の第7態様のように、吸音ボードが遮音性を有するパネル材の少なくとも上面に重なったものを、車両のラゲッジボードに用いれば、荷室側(車室側)からの音を吸音することが可能となる。吸音ボードをパネル材の下面にも重ねれば、ラゲッジボードの下側からの音も吸音することが可能となる。
【0021】
発明の第8態様、第9態様では、遮音性を有する1対のパネル材同士の間に、吸音ボードを配置する。1対のパネル材と吸音ボードとを密着させた状態で、パネル材と吸音ボードとを接着剤や粘着剤等で固定することなく非接着状態とすれば、吸音ボード(特に、表皮材)が通気性を保持したままとなる(発明の第9態様)。これにより、パネル材を透過してきた音を吸音ボードで吸音することができ、遮音性(静音性)を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本開示の一実施形態に係る吸音ボードの側断面図
【
図2】(A)型開き状態の成形型と成形型に固定された表皮材の側断面図、(B)型開き状態で原料が注入されているときの成形型と表皮材の側断面図
【
図3】(A)型閉じされて原料が発泡開始するときの成形型と表皮材の側断面図、(B)成形型内で発泡成形されたポリウレタンフォームと表皮材の側断面図
【
図6】(A)車両の後部に配置されたパッケージトレイの斜視図、(B)車両の側壁に固定されたパッケージトレイの断面図
【
図7】(A)車両に配置されたラゲッジボードの斜視図、(B)車両に配置されたラゲッジボードの断面図
【
図9】他の実施形態に係る吸音ボードの製造ラインの側面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1に示されるように、吸音ボード10は、連続気泡構造を有するポリウレタンフォーム11に、表裏から表皮材20が一体化されてなる。
【0024】
ポリウレタンフォーム11は、軟質ポリウレタンフォームで構成されていてもよいし、硬質ポリウレタンフォームで構成されていてもよいし、半硬質ポリウレタンフォームで構成されていてもよい。軟質ポリウレタンフォームは柔らかく剛性が低く、硬質ポリウレタンフォームは硬度が高く剛性が高過ぎるため、適度な剛性を有する半硬質ポリウレタンフォームがより好ましい。ポリウレタンフォーム11の見掛け密度(JIS K7222:2005に基づく。)は、30~250kg/m3であることが好ましく、40~100kg/m3であることがより好ましい。ポリウレタンフォーム11の厚みは、2~70mmであることが好ましく、3~50mmであることがより好ましい。
【0025】
ポリウレタンフォーム11の通気量は、吸音ボード10の表裏両側の表皮材20を取り除いた状態(スキン層のない状態)で、JIS K6400-7 B法:2012に基づき測定する。ポリウレタンフォーム11の厚み10mmにおける通気量は、5~250ml/cm2/sであることが好ましく、10~250ml/cm2/sであることがより好ましい。なお、ポリウレタンフォーム11の厚みが10mm未満の場合、通気量の値は、厚みが10mmとなるように換算した換算値とする。詳細には、厚みをX(mm)、通気量の測定値をY(ml/cm2/s)とすると、換算値(ml/cm2/s)を、換算値=Y×X/10、として算出する。
【0026】
表皮材20は、通気性を有するベースシートを備え、そのベースシートに、ポリウレタンフォーム11の原料11Mが含浸硬化することで含侵層22が形成されている。具体的には、本実施形態では、ベースシートは繊維シート21からなり、含浸層22は、ポリウレタンフォーム11の表裏の表皮材20の両方において、繊維シート21のうちポリウレタンフォーム11と接する面側に形成されている。含浸層22を含む表皮材20のJIS K6400-7 B法:2012に基づく通気量は、3~90ml/cm2/sであることが好ましく、5~80ml/cm2/sであることがより好ましい。
【0027】
繊維シート21を構成する繊維としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、ポリウレタン繊維(スパンデックス)、ガラス繊維、炭素繊維、天然繊維(例えば、羊毛、コットン、セルロースナノファイバー等)、ザイロン(登録商標)等が挙げられる。また、繊維シート21の形態としては、不織布、織物、編み物等が挙げられる。不織布としては、例えば、スパンレース不織布、スパンボンド不織布、ニードルパンチ不織布等が挙げられる。
【0028】
繊維シート21の繊維径としては、2~10デニール(d)であることが好ましく、2~8デニールであることがより好ましい。また、繊維シート21の目付量としては、70~500g/m2であることが好ましく、90~500g/m2であることがより好ましい。このように繊維径の細い繊維で繊維シート21を構成すると、細い各繊維同士の距離を近くして繊維を緻密な状態とすることができるため、ポリウレタンフォーム11の原料11Mが繊維シート21(表皮材20)から染み出し難くすることができる。
【0029】
繊維シート21(ベースシート)には、ポリウレタンフォーム11の樹脂(原料11Mが含浸硬化してなるポリウレタン樹脂)とは異なる樹脂がさらに35~100g/m2付着していることが好ましい。この付着樹脂としては、例えば、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル系樹脂やスチレン・ブタジエンゴム(SBR)等のゴム系樹脂等、ポリウレタン系以外の樹脂が挙げられる。繊維シート21に上記付着樹脂が付着することにより、繊維間に上記付着樹脂が介在し、ポリウレタンフォーム11を表皮材20と一体に発泡成形する際にポリウレタンフォーム11の原料11Mが繊維シート21(表皮材20)を通過し難くなるので、原料11Mを更に染み出し難くすることができる。上記付着樹脂は、繊維シート21の表面に付着していてもよいし、繊維シート21の内部の繊維に付着していてもよい。例えば、後者の場合、含浸層22を構成する上記ポリウレタン樹脂は、繊維に付着した付着樹脂を覆っていてもよい。なお、付着樹脂を繊維シート21に付着させるには、エマルジョンを繊維シート21の表面に塗布したり、繊維シート21にエマルジョンを含浸させたり、パウダーを繊維シート21の表面に散布して熱ローラーや熱風を当てたりすること等により行えばよい。
【0030】
表皮材20は、繊維シート21を構成する繊維の種類、繊維径、目付量、アクリル酸エステル系樹脂等の上記付着樹脂の付着量等を調整することにより、含浸層22の通気性を調整することができる。これにより、吸音ボード10全体が通気性を有し、吸音ボード10に吸音性を付与することができる。
【0031】
本実施形態の表皮材20は、各表皮材20のうちポリウレタンフォーム11側に配置させる内側の繊維シート21Aが、繊維径が3デニールで、目付量が100g/m2であるPET繊維に、ポリウレタン系樹脂以外の樹脂としてアクリル酸エステル系樹脂が50g/m2含浸して構成され、内側の繊維シート21Aの外側に配置される外側の繊維シート21Bが、繊維径が6デニールで、目付量が150g/m2であるPET繊維から構成され、内側の繊維シート21Aにポリウレタンフォーム11の原料11Mが含浸した含浸層22が、内側の繊維シート21Aと略同じ厚みで形成されている。なお、内側の繊維シート21Aと外側の繊維シート21Bとは、ニードルパンチにより一体化されている。
【0032】
内側の繊維シート21Aは、細い繊維が密になっており、かつ、アクリル酸エステル系樹脂が含浸しているため、原料11Mの含浸(染み込み)量を制限することができる。これにより、ポリウレタンフォーム11と接する部位に形成される含浸層22を薄く(含浸量を少なく)したり、分布を粗(含浸量を不均一)とすることで、表皮材20の通気性を確保することができる。一方、外側の繊維シート21Bは、繊維径を内側の繊維シート21Aよりも大きく、例えば、5デニール以上とすることで、吸音ボード10の耐摩耗性を向上させることができる。なお、
図1において、含浸層22は、灰色で示されている。
【0033】
次に、吸音ボード10の製造方法について説明する。吸音ボード10を製造するには、まず、ポリウレタンフォーム11の原料11M(
図2(B)参照)と、1対の表皮材20とが用意される。具体的には、ポリウレタンフォーム11の原料11Mとして、ポリオール成分、ポリイソシアネート成分、発泡剤、及び触媒等を含んだものが用意されると共に、各表皮材20(繊維シート21A,21Bがニードルパンチにより一体化される。)が用意される。ポリウレタンフォーム11の原料11Mの詳細は、以下のようになっている。
【0034】
ポリオール成分は、ポリウレタンフォームの製造に用いられる公知のエーテル系ポリオール、エステル系ポリオール、エーテルエステル系ポリオール、ポリマーポリオール等を単独であるいは複数組み合わせて使用することができる。エーテル系ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール、またはその多価アルコールにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加したポリエーテルポリオールを挙げることができる。また、エステル系ポリオールとしては、マロン酸、コハク酸、アジピン酸等の脂肪族カルボン酸やフタル酸等の芳香族カルボン酸と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等の脂肪族グリコール等とから重縮合して得られたポリエステルポリオールを挙げることできる。さらにポリオール中にエーテル基とエステル基の両方を含むエーテルエステル系ポリオールやエーテル系ポリオール中でエチレン性不飽和化合物等を重合させて得られるポリマーポリオールを使用することもできる。
【0035】
ポリイソシアネート成分は、芳香族系、脂環式系、脂肪族系の何れでもよく、また、1分子中に2個のイソシアネート基を有する2官能のイソシアネートであっても、あるいは1分子中に3個以上のイソシアネート基を有する3官能以上のイソシアネートであっても、それらの変性体(例えば、ウレタン変性、アロファネート変性、ビューレット変性等種々の変性がなされたもの)であってもよく、それらを単独であるいは複数組み合わせて使用することができる。2官能のイソシアネートとしては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4'-MDI)、2,4'-ジフェニルメタンジアネート、2,2'-ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族系のもの、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環式系のもの、ブタン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンイソシアネート等の脂肪族系のものを挙げることができる。また、3官能以上のイソシアネートとしては、1-メチルベンゾール-2,4,6-トリイソシアネート、1,3,5-トリメチルベンゾール-2,4,6-トリイソシアネート、ポリメリックMDI(ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート)等を挙げることができる。
【0036】
発泡剤は、特に限定されないが、水が好ましい。また、二酸化炭素ガス、ペンタン、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)等を発泡助剤として、発泡剤である水と併用してもよい。
【0037】
触媒は、ポリウレタンフォームの製造に用いられる公知のものを使用することができる。例えば、ジエタノールアミン、トリエチレンジアミン、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、N,N,N′,N″,N″-ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルグアニジン、イミダゾール系化合物等のアミン触媒や、スタナスオクトエート等の錫触媒やフェニル水銀プロピオン酸塩あるいはオクテン酸鉛等の金属触媒(有機金属触媒とも称される。)を挙げることができる。触媒は複数を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
なお、ポリウレタンフォーム11の原料11Mには、整泡剤が含まれていてもよい。整泡剤としては、ポリウレタンフォームの製造に用いられる公知のものを使用することができ、例えば、シリコーン系整泡剤、非シリコーン系の界面活性剤等が挙げられる。
【0039】
ポリウレタンフォーム11の原料11Mは、ポリオール成分、発泡剤、触媒等を配合してなるA液と、ポリイソシアネート成分を含むB液と、に分けて用意される。なお、原料11Mが整泡剤を含む場合には、これらはA液に配合される。
【0040】
図2(A)には、吸音ボード10を成形するための成形型50が示されている。成形型50は、下型51と上型52からなり、例えばあらかじめ70度に温調されている。そして、1対の表皮材20が、下型51に設けられた成形凹部51Uと、上型52のうち成形凹部51Uとの間にキャビティを形成する対向部52Mとに、固定される。なお、このとき、1対の表皮材20は、キャビティを隔てて、内側の繊維シート21Aとなる繊維シート21同士が互いに対向するように配置される。本実施形態では、内側の繊維シート21Aにのみ、アクリル酸エステル系樹脂が含浸されている。
【0041】
次に、
図2(B)に示されるように、A液とB液が混合された原料11Mが、下型51の成形凹部51U内に注入された後、成形型50が型閉じされ(
図3(A)参照)、原料11Mが反応・硬化し、ポリウレタンフォーム11が形成される(
図3(B)参照)。このとき、原料11Mが、1対の表皮材20(詳細には、内側の繊維シート21A)に含浸して硬化することで含浸層22が形成されると共に、ポリウレタンフォーム11と表皮材20とが接着・一体化される。
【0042】
成形型50が型開きされて、一体化したポリウレタンフォーム11と表皮材20とが成形型50から取り外されると、
図1に示される吸音ボード10が完成する。
【0043】
本実施形態の吸音ボード10では、連続気泡構造のポリウレタンフォーム11が表皮材20と一体発泡成形される。そして、表皮材20には、ポリウレタンフォーム11を構成するポリウレタンフォームの原料11Mが含浸した含浸層22が形成されているので、表皮材20の剛性を高くすることができる。これにより、吸音ボード10の剛性をより向上させることができる。ここで、表皮材20がポリウレタンフォーム11の片面側にのみ配置された吸音ボードの場合、表皮材20(含浸層22)とポリウレタンフォーム11とでは、原料11Mが発泡・硬化した後の収縮率が異なるため、吸音ボードに反りが発生し易くなる。これに対し、本実施形態の吸音ボード10は、同じ構成の表皮材20がポリウレタンフォーム11の表裏の両方に配置されているので、原料11Mが発泡・硬化した後の収縮率が表裏で同じとなり、吸音ボード10を反り難くすることができる。なお、ここで、同じ構成の表皮材20同士は、形状、材料、目付量が略同じものであり、本実施形態では、さらに繊維シート21の形態(不織布、織物、編み物等)が同じであると共に、繊維シート21の繊維径、付着樹脂としてのアクリル酸エステル系樹脂の含浸量も略同じである。
【0044】
本実施形態の吸音ボード10では、ポリウレタンフォーム11が連続気泡構造を有するため、吸音性を有する。表皮材20が通気性を有していると、吸音ボード10の外側で発生した音が表皮材20を通過してポリウレタンフォーム11の内部にまで進入するため、ポリウレタンフォーム11が吸音性を発揮することができる。しかしながら、表皮材20に樹脂が含浸した構成では、一般的には、表皮材20に通気性を持たせることが難しいという問題がある。
【0045】
これに対し、本願発明者は、例えば、ポリウレタンフォーム11の原料11Mの配合を変更する等して、ポリウレタンフォーム11の単位長さ当りのセル(気泡)の数やセル膜の量等の調整を行うことで、表皮材20の含浸層22の通気性を調整可能であるという知見を得て、吸音ボード10を完成するに至った。
【0046】
また、本実施形態では、表皮材20が繊維シート21で構成されるため、ポリウレタンフォーム11の原料11Mが含浸する際に、原料11Mが表皮材20から吸音ボード10の外側に漏れ出易くなるということが考えられる。これに対し、本実施形態では、各表皮材20(具体的には、各表皮材20のうち内側の繊維シート21A)の繊維径を2~4デニールと細い繊維を密にしたり、アクリル酸エステル系樹脂を含浸することにより、ポリウレタンフォーム11の原料11Mが表皮材20の外側へ漏れ出ることを防ぐことができる。
【0047】
なお、吸音ボード10を製造するにあたっては、表皮材20を用意するときに、繊維シート21,21のうち内側の繊維シート21Aに、例えばアクリル酸エステル系樹脂を予め含浸させておけばよい。
【実施例0048】
以下、実施例及び比較例によって上記実施形態をさらに具体的に説明するが、本開示の吸音ボードは、以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
1.原料及び構成
<実施例1~6>
実施例1~6では、上述の製造方法のように、A液とB液を混合した原料11Mを反応させてポリウレタンフォーム11を表皮材20と一体に発泡成形し、ポリウレタンフォーム11の表裏の両面にそれぞれ表皮材20が一体化された500mm×500mm×20mm(厚み)のサイズの吸音ボードのテストピースを作製した。
【0050】
実施例1~6では、1対の表皮材20(第1表皮材、第2表皮材)を、互いに同じ構成とし、具体的には、繊維シート21,21(内側の繊維シート21A及び外側の繊維シート21B)で構成した。内側の繊維シート21Aは、繊維径が3デニールのPET繊維からなり、目付量は100g/m2である。外側の繊維シート21Bは、繊維径が6デニールのPET繊維からなり、目付量は150g/m2である。なお、本実施形態の表皮材20では、内側の繊維シート21Aのみに、アクリル酸エステル系樹脂が含浸されていて、その含浸量は、50g/m2となっている。
【0051】
実施例1~6では、ポリウレタンフォーム11の原料11Mのみを互いに異ならせた。原料11Mの組成及び配合比は、
図4の通りである。また、原料11Mに含まれる成分の詳細は、以下の通りである。
【0052】
(1)A液
ポリオール1;ポリエーテルポリオール(数平均分子量:5000、官能基数:3.6、水酸基価:31.5mgKOH/g)
ポリオール2;ポリマーポリオール(数平均分子量:5000、官能基数:3、水酸基価25mgKOH/g、固形分濃度:30%)
発泡剤;水
アミン触媒1;昭和化学株式会社製、「ジエタノールアミン」
アミン触媒2;エボニックジャパン株式会社製、「DABCO BL-11」
整泡剤;エボニックジャパン株式会社製、「TEGOSTAB B 8715 LF2」
添加剤;ポリエーテルポリオール(数平均分子量:5000、官能基数:3、水酸基価34mgKOH/g)
(2)B液
ポリイソシアネート1;ポリメリックMDI(NCO価31.5%)
ポリイソシアネート2;MDI変性体(4,4'-MDIと4,4'-MDIのウレタン変性体(ウレタンプレポリマー)の重量比が、75~85:15~25、NCO価:26.5%)
【0053】
なお、
図4及び
図5におけるポリイソシアネートの配合割合とは、B液におけるポリイソシアネート1とポリイソシアネート2との重量の比であり、左側の数字がポリイソシアネート1の割合を示し、右側の数字がポリイソシアネート2の割合を示す。
図4及び
図5におけるインデックスとは、イソシアネートインデックスのことであり、ポリイソシアネートのイソシアネート基のモル数を、ポリオール、発泡剤(水)等の全活性水素基のモル数で除した値に100をかけた値である。
【0054】
比較例1~4の原料11Mの組成及び配合比は、
図5の通りである。
<比較例1>
比較例1は、表皮材20が、実施例1~6と同様の繊維シート21,21と、目付量が25g/m
2のPET樹脂からなる非通気フィルムとの3層構造となっており、非通気フィルムと内側の繊維シート21Aとがアクリル系接着剤にて積層されている。それ以外は、実施例2と同様である。比較例1では、上記非通気フィルムにより、ポリウレタンフォーム11の原料11Mが表皮材20に含浸できず、表皮材20には含浸層22が形成されてない。
【0055】
<比較例2>
比較例2は、1対の表皮材20のうち第1表皮材(表側)だけが設けられ、第2表皮材(裏側)が設けられていない。それ以外は、実施例2と同様である。
【0056】
<比較例3,4>
比較例3,4では、実施例1~6に対して、ポリウレタンフォーム11の原料11が異なり、表皮材20については同じである(
図5参照)。
【0057】
<比較例5>
比較例5として、木質ボードを用意した。この木質ボードの厚みは、5mmであり、目付量は、3500g/m2(密度は700kg/m3)である。なお、木質ボードの通気量は、JIS K6400-7 B法:2012では測定できないが、非通気性である。
【0058】
2.評価
各実施例と各比較例について、セル数、見掛け密度、通気量、吸音率、硬さ、曲げ強さ、反りを評価した。これらの測定方法は以下の通りである。
【0059】
<測定方法>
(1)セル数
ポリウレタンフォーム11の外周面において、単位長さ(25mm)におけるセル(気泡)の数を数え、その値をセル数とした。具体的には、走査型電子顕微鏡(SEM:日本電子株式会社製)を用いて、ポリウレタンフォーム11の外周面の拡大画像を撮影し、その拡大画像に単位長さ(25mm)の直線を引き、その直線が交わるセルの数を数えることで、セル数を得た。
【0060】
(2)見掛け密度
JIS K7222:2005に基づいてポリウレタンフォーム11の見掛け密度を測定した。具体的には、500mm×500mm×20mm(厚み)のテストピースを100mm×100mm×20mm(厚み)に裁断し、表皮材20(含浸層22が存在する場合は、含浸層22を含む)を除去し、残ったポリウレタンフォーム11について、見掛け密度を測定した。ただし、比較例2では、表皮材20として第1表皮材(表側)のみが設けられているので、第1表皮材を剥がして、残ったポリウレタンフォーム11の見掛け密度を測定した。なお、比較例5の木質ボードについても見掛け密度を測定した。
【0061】
(3)通気量
JIS K6400-7 B法:2012に基づいて、表皮材20とポリウレタンフォーム11の通気量をそれぞれ測定した。具体的には、実施例1~6及び比較例1~4については、500mm×500mm×20mm(厚み)のテストピースを100mm×100mm×20mm(厚み)にカットし、そのカットサンプルにおいて含浸層22を含む表皮材20をポリウレタンフォーム11から引き剥がして分離し、その表皮材20(表裏)の通気量を測定すると共に、表皮材20が剥がされたポリウレタンフォーム11の通気量も測定した。この際、表皮材20(詳細には、内側の繊維シート21A)にポリウレタンフォーム11が付着している場合、繊維シート21を傷つけないように、可能な限りポリウレタンフォーム11を削ぎ落とし、表皮材20のみとした。なお、表皮材20は、内側の繊維シート21A(含浸層22)を下側に配置して測定した(測定では下から上に通気させた)。これは、外側の繊維シート21B側を下側とした場合、外側の繊維シート21Bの側部から空気が漏れ、正確な通気量を測定できないためである。
【0062】
(4)硬さ
JIS K6400-2 E法:2012に基づいて吸音ボードのテストピースの硬さを測定した。具体的には、実施例1~6及び比較例1~4については、500mm×500mm×20mm(厚み)のテストピースを200mm×200mm×20mm(厚み)にカットし、第1表皮材(表側)又は第2表皮材(裏側)が上面になるように設置し、圧縮治具(押圧面が直径80mmの円形になっている。)によって上方から圧縮スピード50mm/minで、テストピースを厚み方向の変形量がテストピースのもとの厚みの80%となるまで圧縮し、その際の50%圧縮時の荷重を測定値とした。また、テストピースを第1表皮材側(表側)と第2表皮材側(裏側)からそれぞれ圧縮して荷重を測定し、それら荷重の測定値の比(表側/裏側比率)を、以下の式から算出した。
裏側/表側比率 = 裏側の測定値/表側の測定値×100
ここで、比較例2では、表皮材20として表側の第1表皮材のみが設けられており、第1表皮材の裏側には、ポリウレタンフォーム11のみが設けられているが、ポリウレタンフォーム11側から圧縮する場合も、第1表皮材側から圧縮する場合と同条件にて、測定を行った。なお、
図4及び
図5における「表側」、「裏側」とは、テストピースの表裏の何れから圧縮治具を当てたかを示している。
【0063】
(5)曲げ強さ
JIS K7221-2:2006に基づいて吸音ボードのテストピースの曲げ強さを測定した。具体的には、実施例2及び比較例2について、500mm×500mm×20mm(厚み)のテストピースを350mm×80mm×20mm(厚み)にカットし、半径15mmの1対の円柱状端支点(支点間距離が300mm)上に配置する。その後、半径15mmの円柱状端加圧くさびが、上向きに配置された各表皮材の支点間距離の中心に当たるように、上方から圧縮スピード100mm/minでテストピースを加圧し、テストピースの変位量(たわみ)が2mmと4mmの時の荷重を測定値とした。曲げ強さは、以下の式から算出した。
R=1.5×Fr×(L/(b×d
2))×10
6
ここで、Rは曲げ強さ[N/cm
2]であり、Frは変位量が2mm又は4mmの時の荷重[kN]であり、Lは支点間距離[mm]であり、bはテストピースの幅[mm]であり、dはテストピースの厚さ[mm]である。測定は、第1表皮材(表側)が上側となる場合と、第2表皮材(裏側)が上側となる場合の両方で行った。なお、比較例2では、表皮材20として第1表皮材のみが設けられており、第1表皮材の裏側には、ポリウレタンフォーム11のみが設けられているが、ポリウレタンフォーム11が上側となる場合にも、第1表皮材が上側となる場合と同条件にて、測定を行った。
図4及び
図5における「表側」、「裏側」とは、テストピースの表裏の何れから円柱状端加圧くさびを当てたかを示している。
【0064】
(6)吸音率
JIS A1409:1998に基づいて、吸音ボードのテストピースの残響室法吸音率を測定した。具体的には、実施例1~6及び比較例1~4において、500mm×500mm×20mm(厚み)のサイズのテストピース及び比較例5において、500mm×500mm×5mm(厚み)の木質ボードを、4枚、残響室の床面に敷き詰めて1m×1m×各厚みのサイズの測定サンプルとして、各周波数における残響室法吸音率を測定した。この際、測定サンプルの外周をアルミ製の固定具で覆い、テストピース同士、テストピースと固定具の隙間をアルミテープでシールした。そして、各周波数(500Hz、630Hz、800Hz、1000Hz、1250Hz、1600Hz、2000Hz、2500Hz、3150Hz、4000Hz、5000Hz、6300Hz)における吸音率の測定値を平均した平均吸音率を、残響室法吸音率とした。比較例2の測定サンプルは、第1表皮材を上側に配置し、第1表皮材とは反対側の面と残響室の床面とを両面テープにより固定し、測定した。これは、比較例2のテストピースは、反りが発生しており、床面との間に空間が生じると正しい測定が行えないためである。
【0065】
(7)反り
実施例1~6及び比較例1~4において、500mm×500mm×20mm(厚み)のサイズのテストピース及び比較例5において、500mm×500mm×5mm(厚み)の木質ボードを水平面に載置して、目視により反りを確認した。具体的には、各テストピース及び木質ボードの第1表皮材(表側)を上側にした配置と、第2表皮材(裏側)を上側にした配置との両方で、各テストピース及び木質ボードの外縁部と水平面との間の隙間を確認した。そして、反りの有無を、少なくとも一方の配置で隙間が確認された場合に、「あり」とし、何れの配置でも隙間が確認されなかった場合に、「無」とした。
【0066】
<評価結果>
図4及び
図5に示されるテストピースには、表皮材20に含浸層22が形成されたもの(実施例1~6及び比較例2~4)と、表皮材20に含浸層22が形成されていないもの(比較例1)がある。含浸層22が設けられた前者のテストピースでは、表皮材20がポリウレタンフォーム11の表裏の両面に一体化されている構成(実施例1~6、比較例3,4)の方が、表皮材20がポリウレタンフォーム11の表裏のうち片面にのみ一体化されている構成(比較例2)に比べて、テストピースの反りを抑えられることが確認できた。なお、含浸層22が設けられていない比較例1では、反りがない結果となったが、これは、非通気フィルムにより表皮材20に原料11Mが含浸せず、表皮材20自体が原料11Mの発泡・硬化による収縮の影響を受けなかったためと考えられる。なお、実施例1~6及び比較例2~4の表皮材20に形成された含浸層22の厚みは、内側の繊維シート21Aと略同じ厚さであった。
【0067】
次に表皮材20の通気量に注目すると、実施例1~6及び比較例2~4におけるポリウレタンフォーム11の原料11Mの配合によれば、含浸層22を有する表皮材20に通気性を持たせることができることが確認できた。
【0068】
実施例1~6及び比較例2,4と、比較例1との比較から、表皮材20が通気性を有するテストピースでは、表皮材20に通気性がないテストピース(比較例1)に比べて、残響室法吸音率が高くなっていることがわかる。これは、実施例1~6及び比較例2,4のテストピースでは、入射音が表皮材20を通過してポリウレタンフォーム11に到達し、ポリウレタンフォーム11により吸音性が発揮されるのに対し、比較例1では、入射音が表皮材20の非通気フィルムによりポリウレタンフォーム11に到達することができず、ポリウレタンフォーム11による吸音性が発揮できないためと考えられる。比較例1では、主に表皮材20(詳細には、非通気フィルムに外側から積層された繊維シート21,21)によって吸音性が発揮されていると考えられる。また、表皮材20(第1表皮材)の通気量が3ml/cm2/s未満となった比較例3では、残響室法吸音率が、表皮材20に通気性がない比較例1と同程度まで低くなっていて、ポリウレタンフォーム11の吸音性を発揮させるためには表皮材20の通気性が不十分であることがわかる。なお、実施例1~6、比較例1~4のテストピースでは、比較例5の木質ボードよりも残響室法吸音率が高くなっている。
【0069】
表皮材20の通気量が90ml/cm2/sを超える比較例4では、実施例1~6に対して、残響室法吸音率が低くなった。これは、表皮材20及びポリウレタンフォーム11の通気性が大きくなり過ぎ、テストピースの吸音性が低下することに加え、ポリウレタンフォーム11の成形が難しくなり、良好なテストピースが作製できなかったためと考えられる。
【0070】
実施例1~6及び比較例1~4のテストピースの硬さに注目すると、実施例1~6、比較例1,比較例3~4では、テストピースの表裏の両側に各表皮材が設けられており、表側と裏側との硬さの測定値はほぼ同等であり、裏側/表側比率は、101~102%となっている。それに対し、比較例2では、表皮材20として表側の第1表皮材のみが設けられており、第1表皮材の裏側には、ポリウレタンフォーム11のみが設けられているため、硬さの測定値が吸音ボードの表側と裏側で大きく異なり、裏側/表側比率は、68%となっている。これは、吸音ボードの表側と裏側とで特性が大きく異なることを示している。裏側/表側比率は、70%~143%であることが好ましく、85%~118%であることがより好ましく、95%~105%であることが更に好ましい。裏側/表側比率が100%に近い程、第1表皮材(表側)と第2表皮材(裏側)との硬さ(剛性)の差異をなくすことができる。実施例2と比較例1を比較すると、実施例2は、表裏の表皮材20の両方に含浸層22を有し、比較例1では、非通気フィルムにより含浸層22が形成されていない。実施例2と比較例1の硬さは同等であり、含浸層22は、非通気フィルムと同程度の硬さを有しているといえる。
【0071】
実施例2と比較例2の吸音ボードのテストピースの曲げ強さに注目すると、ポリウレタンフォーム11の表裏の両側に含浸層22を有する表皮材20が設けられた実施例2は、ポリウレタンフォーム11の片側のみに表皮材20を有する比較例2に比べ、曲げ強さが非常に大きくなっている。テストピースの変位量が2mmの場合において、実施例2で表側から加圧したときの荷重は5.78N/cm2であり、実施例2で裏側から加圧したときの荷重は5.44N/cm2であり、比較例2で表側(第1表皮材側)から加圧したときの荷重は0.06N/cm2であり、比較例2で裏側(ポリウレタンフォーム側)から加圧したときの荷重は1.87N/cm2である。同様に、テストピースの変位量が4mmの場合において、実施例2で表側から加圧したときの荷重は17.87N/cm2であり、実施例2で裏側から加圧したときの荷重は17.09N/cm2であり、比較例2で表側(第1表皮材側)から加圧したときの荷重は0.85N/cm2であり、比較例2で裏側(ポリウレタンフォーム側)から加圧したときの荷重は4.13N/cm2である。実施例2のテストピースに比べ、比較例2のテストピースは、小さい荷重で大きく変位し、剛性が小さいと言える。比較例2では、第1表皮材(表側)の曲げ強さの方が第1表皮材の反対側(裏側)よりも大きいが、実施例2と比べるとその測定値は、変位量が2mmの場合、1/3程度であり、変位量が4mmの場合、1/4程度となっている。
【0072】
また、実施例1~6と比較例2のテストピースの反りに注目すると、比較例2の第1表皮材を上向きに配置した際の反り量は、吸音ボードの中央部付近と水平面との間の隙間が約19mmと非常に大きくなっている。これは、表皮材(含浸層)とポリウレタンフォームとでは、原料が発泡・硬化した後の収縮率が異なり、表皮材側に大きく反ったためと考えられる。
【0073】
以上の結果から、含浸層22を含む表皮材20の通気量が3~90ml/cm2/sとなった実施例1~6では、吸音性の良好なテストピース(吸音ボード10)が容易に得られることがわかった。
【0074】
[吸音ボードの使用例]
以下、吸音ボード10の使用例について説明する。
図6(A)及び
図6(B)には、吸音ボード10が車両60用のパッケージトレイ70に備えられる例が示されている。
【0075】
パッケージトレイ70は、例えば、ハッチバックタイプの車両60のリアシート61の後側に設けられる。パッケージトレイ70は、車両60のうちリアシート61の後側の荷室60Nを車幅方向に挟む1対の側壁62(例えば、デッキサイドトリム)に差し渡されて、荷室60Nと車室60Rとを上下に仕切る。詳細には、パッケージトレイ70は、1対の側壁62から内側に突出する支持突部63により下方から支持される。本例では、支持突部63は、車両の前後方向に並んで複数設けられている。
【0076】
図6(A)の拡大図に示されるように、パッケージトレイ70には、吸音ボード10を側壁62の支持突部63(本例では、最も後側の支持突部63)に固定するための固定部71が設けられている。固定部71は、吸音ボード10の外周部に取り付けられている。詳細には、固定部71は、断面コの字状をなしてその内側に吸音ボード10の外周部を挟持する枠状のボード挟持部72と、ボード挟持部72から吸音ボード10に対して離れるように側方に延びた延出部73と、からなる。延出部73には、上下に貫通した位置決め孔73Aが設けられていて、この位置決め孔73Aに、最も後側の支持突部63の上面に設けられた位置決め突部63Tが嵌合することで、パッケージトレイ70が側壁62に固定される。なお、本実施形態では、延出部73に位置決め孔73Aを設けたが、設けなくてもよい。その際、延出部73の形状に合わせ、支持突部63には、位置決め突部63Tを設けなければよい。
【0077】
本実施形態のように、吸音ボード10を、車両60のパッケージトレイ70に用いれば、パッケージトレイ70の剛性を確保しつつ、車室60R側や荷室60N側から発生する音を吸音することが可能となる。ここで、従来では、パッケージトレイの剛性を確保するために、パッケージトレイの形状を、外縁部が折れ曲がった形状にしたり、複数個所を厚み方向に隆起させた凹凸形状にしていた。これに対し、本実施形態のパッケージトレイ70では、含浸層22を有する吸音ボード10により剛性が確保されるので、吸音ボード10を平坦にすることが可能となり、パッケージトレイ70が厚み方向でコンパクトになる。これにより、荷室60Nや車室60Rを広く活用することができる。
【0078】
図7(A)及び
図7(B)には、吸音ボード10が車両60用のラゲッジボード75に備えられる例が示されている。ラゲッジボード75は、車両60の荷室60Nに配設される。車両60の荷室60Nの底部には、上方に開口する収容凹部65が設けられ、その収容凹部65にはスペアタイヤ66が収容される。そして、ラゲッジボード75は、収容凹部65の開口縁67に載置されて、収容凹部65を閉塞する。
【0079】
図7(B)に示されるように、ラゲッジボード75は、吸音ボード10が、遮音性を有するパネル材76の上面に重なった構成となっている。詳細には、ラゲッジボード75には、断面コの字状をなしてその内側に吸音ボード10とパネル材76との外周部を挟持する枠状の固定部77が設けられ、その固定部77により、吸音ボード10とパネル材76が固定されている。吸音ボード10とパネル材76は、接着されずに固定部77により一体化されてもよいし、例えば、接着剤や両面テープ、面ファスナー等により、吸音ボード10とパネル材76との一部分のみが接着されることで一体化されてもよい。パネル材76としては、例えば、木質ボードや繊維強化樹脂等の強化樹脂、金属板等が用いられる。
【0080】
ラゲッジボード75では、吸音ボード10自体の剛性が高いので、パネル材76の厚みを薄くすることができる。これにより、ラゲッジボード75の軽量化が図られる。
【0081】
また、ラゲッジボード75は、上述のように、遮音性を有するパネル材76の少なくとも上面に吸音ボード10が重なってなる。これにより、ラゲッジボード75により遮音が可能となると共に、荷室60N側(車室60R側)からの音を吸音することが可能となる。ラゲッジボード75を、吸音ボード10がパネル材の下面にも重なった構成とすれば、ラゲッジボード75の下側からの音も吸音することが可能となる。なお、パネル材76の上面側に配置される吸音ボード10は、パネル76の上面の一部にのみ重なっていてもよいが、パネル76の上面の全体に重なっていることが好ましい。また、パネル材76の下面側に配置される吸音ボード10は、パネル76の下面の全体に重なっていてもよいが、パネル76の下面の一部にのみ重なっていることが好ましい。
【0082】
パネル材76から吸音ボード10への固体伝搬音が大きくなると、ラゲッジボード75の吸音性が低下するおそれがあるため、吸音ボード10とパネル材76は、全面接着されていないことが好ましい。具体的には、吸音ボード10とパネル材76の一体化は、吸音ボード10とパネル材76を接着させずに、例えば固定部77等により行うことがより好ましい。また、吸音ボード10とパネル材76を接着させる場合には、吸音ボード10とパネル材76の一部のみを接着させることが好ましい。吸音ボード10では、上述のように、反りを抑えることができるので、固定部77のみで吸音ボード10とパネル材76を固定した場合でも、吸音ボード10とパネル材76の間に隙間が生じることを防止可能となる。
【0083】
図8には、吸音ボード10の別の使用例が示されている。本例では、吸音ボード10は、建物90の遮音構造80に備えられている。
【0084】
建物90では、基礎91の上に、土台92、大引き93、床根太94が組み付けられ、床根太94の上に、床板95が敷設されている。また、土台92からは図示しない複数の柱が起立し、その複数の柱の途中位置を、梁96が横切っている。そして、梁96と床板95は、二重壁81により連絡されている。二重壁81は、建物90の隣り合う部屋90R同士を区切っている。
【0085】
二重壁81は、互いに間隔をあけて対向する1対の壁部材82により構成されている。本例の遮音構造80は、例えば、鉄板、石膏ボード、コンクリート等の遮音性を有するこれら1対の壁部材82同士の間に、吸音ボード10が配置されてなる。そして、遮音構造80では、吸音ボード10の表面(表皮材20)が1対の壁部材82に対して接着剤等を介さずに直に密着している。遮音構造80では、各壁部材82と吸音ボード10の表皮材20とが接着剤や粘着剤等で貼り合わされておらず、非接着状態で密着しているため、吸音ボード10の表皮材20の通気性が確保されている。これにより、部屋90Rから壁部材82を透過してきた音を、吸音ボード10で吸収することができ、1対の壁部材82同士の間に吸音ボード10が配置されていない場合や各壁部材82と吸音ボード10とが接着により固定されている場合に比べ、隣の部屋90Rへの音漏れを抑制できる。即ち、遮音構造80によれば、二重壁81の遮音性を向上させることが可能となる。なお、本例では、壁部材82が、特許請求の範囲に記載の「パネル材」に相当する。
【0086】
[他の実施形態]
(1)吸音ボード10は、以下のような製造ライン100により製造されてもよい。
図9に示されるように、製造ライン100には、長尺状の1対の表皮材20を、上下に対向配置した状態で、長手方向に搬送する搬送手段101(例えば、コンベア)が備えられている。そして、表皮材20を搬送しながらそれら表皮材20の間にポリウレタンフォーム11の原料11Mを吐出して、原料11Mを発泡・硬化させることにより、ポリウレタンフォーム11を形成する。このとき、ポリウレタンフォーム11の原料11Mが1対の表皮材20に含浸し、各表皮材20に含浸層22が形成される。その後、表皮材20がポリウレタンフォーム11と共にカッター103により所定長さに切断されて、吸音ボード10が得られる。なお、吸音ボード10の幅方向の端部において、ポリウレタンフォーム11が表皮材20からはみ出した場合には、そのはみ出し部分が適宜トリミングされる。また、搬送手段101の搬送経路の途中に加熱炉102を設けておけば、ポリウレタンフォーム11の原料11Mの発泡・硬化が促進され、吸音ボード10の成形性を向上させることができる。
【0087】
(2)含浸層22は、表皮材20のうちポリウレタンフォーム11との対向面から内側の繊維シート21Aの厚み方向の途中位置まで形成されていてもよいし、該対向面から外側の繊維シート21Bの厚み方向の途中位置まで形成されていてもよい。吸音ボード10の外側にポリウレタンフォーム11の原料11Mが染み出なければ、表皮材20の厚み方向全体に亘って形成されていてもよい。
【0088】
(3)表皮材20を繊維シート21で構成する場合、表皮材20は、1枚の繊維シート21からなっていてもよいし、3枚以上の繊維シート21からなっていてもよい。表皮材20を構成する繊維シート21の積層枚数の上限は、目的に応じて適宜設定すればよく特に限定されないが、10枚以下であることが好ましく、5枚以下であることがより好ましい。表皮材20を1枚の繊維シート21で構成する場合には、ポリウレタンフォーム11の原料11Mが表皮材20の外側へ漏れ出ることを防ぐため、繊維径を2~4デニールと細い繊維とし、繊維シート21にポリウレタン系樹脂以外の樹脂を付着させ、繊維シート21の目付量を調整(大きく)すればよい。また、表皮材20を3枚以上の繊維シート21で構成する場合には、本実施形態の繊維シート21,21(内側の繊維シート21A,外側の繊維シート21B)と同様に、ポリウレタンフォーム11の原料11Mが表皮材20の外側へ漏れ出ることを防ぐため、ポリウレタンフォーム11と接する側の繊維シート21には、繊維径が2~4デニールと細い繊維を用い、ポリウレタン系樹脂以外の樹脂を付着させておくことが好ましい。
【0089】
(4)1対の表皮材20同士の構成が異なっていてもよい。この場合、1対の表皮材20同士の繊維の種類、目付量や厚み等が異なっていてもよい。また、表皮材20を繊維シート21で構成する場合、1対の表皮材20において、各表皮材20を構成する繊維シート21の枚数が異なっていてもよい。
【0090】
(5)上記実施形態では、アクリル酸エステル系樹脂が、表皮材20のうち内側の繊維シート21Aにのみ含浸していたが、外側の繊維シート21Bにのみ含浸していてもよいし、表皮材20全体に含浸していていもよいし、表皮材20に含浸していなくてもよい。
【0091】
(6)表皮材20は、通気性を有していればよく、表皮材20の上記ベースシートとしては、網状であってもよいし、多数の孔が貫通したものであってもよい。
【0092】
(7)吸音ボード10が、セダンタイプの車両のパッケージトレイに用いられてもよい。なお、この場合、パッケージトレイは、車両のうちリアシートの後側の空間を挟んで対向する1対の側壁に差し渡されて、該空間と車室を仕切る。
【0093】
(8)上記実施形態では、遮音構造80において、吸音ボード10を挟む1対のパネル材(壁部材82)が、二重壁81を構成していたが、吸音ボード10を挟む1対のパネル材が、二重床又は二重天井を構成していてもよい。この場合においても、1対のパネル材に対して吸音ボード10を非接着状態に配置すればよい。