IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 長春石油化學股▲分▼有限公司の特許一覧

特開2024-155996ポリビニルアルコールフィルム、それを含む光学フィルム及びそれらの製造方法
<>
  • 特開-ポリビニルアルコールフィルム、それを含む光学フィルム及びそれらの製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155996
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコールフィルム、それを含む光学フィルム及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20241024BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C08J5/18 CEX
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024145457
(22)【出願日】2024-08-27
(62)【分割の表示】P 2022011778の分割
【原出願日】2022-01-28
(31)【優先権主張番号】110143336
(32)【優先日】2021-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(31)【優先権主張番号】202111382953.5
(32)【優先日】2021-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】591057290
【氏名又は名称】長春石油化學股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】戴冠丞
(57)【要約】
【課題】本発明はポリビニルアルコールフィルム、それを含む光学フィルム及びそれらの
製造方法を得ることにある。
【解決手段】当該ポリビニルアルコールフィルムは、7~70の染色係数を有し、染色係
数は10cm内の厚み偏差と位相差均等係数の積により得られ、且つ130未満の破断係
数を有し、破断係数は位相差均等係数と含水率均等係数の積により得られる。本発明のポ
リビニルアルコールフィルムは、染色の不均一性が低く、耐破れ性が高いという特性を有
する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
7~70の染色係数、及び130未満の破断係数を有し、
前記染色係数は、10cm内の厚み偏差(単位:μm)と位相差均等係数との積であり、
前記破断係数は、前記位相差均等係数と含水率均等係数との積である、ポリビニルアルコールフィルム。
【請求項2】
前記染色係数は、7~27の間である、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項3】
前記10cm内の厚さ偏差は、3.0μm以下である、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項4】
前記位相差均等係数は、4.7~24.7の間である、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項5】
0.3%未満の含水率標準偏差をさらに有する、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項6】
前記10cm内の厚さ偏差は、2.0μm以下である、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項7】
(a)ポリビニルアルコール系樹脂を100℃以上の温度下且つ1atm以上の圧力下で少なくとも5時間溶解し、ポリビニルアルコール溶液を形成する、溶解工程と、
(b)前記ポリビニルアルコール溶液を押出機によって20kg/cm以上の背圧下の金型を通して吐出する、圧出成形工程と、
(c)複数の乾燥ロールにおいて成膜され、そのうち第1乾燥ロールの加熱源の入口温度と出口温度の分布は4℃未満であり、幅方向の温度標準偏差は4℃未満である、水分調整工程と、
(d)前記乾燥ロールによる成膜を経た後、乾燥器内で乾燥して、前記ポリビニルアルコールフィルムを得る、乾燥工程と、を含む、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のポリビニルアルコールフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記工程(b)は、金型の背圧が25kg/cm以上の下で実施されている、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol,PVA)フ
ィルム及びその製造方法に関するものであり、当該PVAフィルムは光学フィルムとして
、特に偏光フィルムとして用い得る。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol,PVA)フィルムは一
種の親水性ポリマーであり、透明性、機械的強度、水溶性、良好な加工性などの性能を有
し、包装材料又は電子製品の光学フィルムにおいて広く用いられている。ポリビニルアル
コールフィルムは偏光板内の重要な構成要素であり、染色及び延伸後に偏光特性を有し、
光線に偏光性を持たせて明暗をコントロールすることができ、現在では各種の液晶スクリ
ーンに広く使用されている。
【0003】
近年では、スクリーン技術の薄型化が進むなかで、偏光板製造工程に対する品質要求も
徐々に高まっている。薄型化の過程中、延伸性や染色均一性の課題についても、薄型化す
るために段階的な改善が求められてきた。
【0004】
ポリビニルアルコールフィルムで光学フィルムを調製する製造工程では、必要とする性
能に従い選択的に官能基修飾を使用することができ、その後で延伸が行われる。製造方法
は乾式と湿式に大別することができ、乾式は、一定の温湿度下において、不活性ガス雰囲
気下でポリビニルアルコールフィルムの延伸を行ってから、染色などの工程を行うもので
ある。湿式は、ポリビニルアルコールフィルムの染色を行ってから、溶液中で延伸を行う
ものである。乾式で調製されたポリビニルアルコールフィルムは、表面に平坦性がないか
又は染色が不均一になるという問題がしばしば起こるが、湿式で製造されたポリビニルア
ルコールフィルムは良好な性能(例えば色が均一)を具備するため、現在では一般的に湿
式法を用いてポリビニルアルコールフィルムを製造することが多い。
【0005】
偏光フィルムを製造する場合には、延伸倍率が高くなるほど、得られる光学性能も高く
なるため、延伸時にはポリビニルアルコールフィルムが断裂に近づく臨界近傍まで可能な
限り延伸し、光学特性に優れたポリビニルアルコールフィルムを得る。
【0006】
良好な偏光フィルムは色が均一で、色斑が少なく、皺がないなどの特性を有し、優れた
光学特性を提供することができる。偏光フィルムの光学特性を向上させるため、従来技術
ではポリビニルアルコールの構造を変化させたり、官能基(例えばカチオン基)を加えた
りするなどして、粘度や鹸化度を変えることにより光学特性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】中国特許第103992606号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来技術では、ポリビニルアルコールフィルムを用いて大きいサイズの偏光フ
ィルムを製造する際に、染色が不均一になったり、フィルムの延伸性が悪くなったりする
現象が頻繁に生じていた。例えば、特許文献1では、偏光板に使用するポリビニルアルコ
ールフィルムについて、その幅方向の中央部の位相差は10~40nmであり、位相差が
10nm未満の場合、染色斑が発生しやすくなることが記載されている。しかし、本発明
者は、たとえポリビニルアルコールフィルムをその幅方向の中央部の位相差を10~40
nmの間にコントロールしたとしても、やはり染色斑が存在するという問題に気づいた。
また、ポリビニルアルコールフィルムを薄型化する場合には、幅が広いフィルムの物性条
件に対応することが一層厳しくなるため、延伸過程でフィルムが切断しないように、フィ
ルムの結晶均一性や水分均一性を何とかしてコントロールする必要がある。
【0009】
本発明者は、フィルムの厚みについて、フィルム面の厚みの差が過度に大きい場合、厚
い領域は色が濃くなり、薄い領域は色が薄くなって、見た目が不均一になることや、フィ
ルム厚みの偏差が大きくない状況において、隣接するフィルム面の位相差の差が過度に大
きい場合、位相差が大きい領域は色が濃くなり、位相差が小さい領域は色が薄くなること
に気づいた。従って、フィルム表面における染色の外観の濃淡はフィルムの厚みの差及び
位相差の差という複合的な要素によって決まるため、両偏差値を一定の限度内にコントロ
ールするなら染色斑や濃度斑の発生を回避することができる。また、フィルムの切断問題
について、発明者は、フィルムの含水率均一性(延伸性を表す)と位相差均一性(結晶性
を表す)を一定の限度範囲内にコントロールすれば、より幅広くより薄いフィルムを製造
してもフィルムの切断問題が発生しないことに気づいた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、上述の問題を解決するために、本発明が提供するポリビニルアルコールフィル
ムは、フィルムの10cmにおける厚み偏差、位相差均等係数により画定される染色係数
と、位相差均等係数に含水率均一性を組み合わせて画定される破断係数とをコントロール
することにより、フィルムに染色の不均一性が低く、耐破れ性が高いという特性を持たせ
ている。
【0011】
本発明は、7~70の染色係数、及び130未満の破断係数を有するポリビニルアルコ
ールフィルムを提供することを目的としており、染色係数は10cm内の厚み偏差と位相
差均等係数の積であり、破断係数は位相差均等係数と含水率均等係数の積である。
【0012】
好ましい実施例中、ポリビニルアルコールフィルムの染色係数は7~27の間である。
【0013】
好ましい実施例中、ポリビニルアルコールフィルムの10cm内の厚み偏差は3.0μ
m以下である。
【0014】
好ましい実施例中、ポリビニルアルコールフィルムの位相差均等係数は4.7~24.
7の間である。
【0015】
好ましい実施例中、ポリビニルアルコールフィルムはさらに0.3%未満の含水率標準
偏差を有する。
【0016】
好ましい実施例中、ポリビニルアルコールフィルムの10cm内の厚み偏差は2.0μ
m以下である。
【0017】
本発明の別の目的は、光学フィルムを提供することであり、それは上述のポリビニルア
ルコールフィルムで製造されたものである。
【0018】
好ましい実施例中、光学フィルムは偏光フィルムである。
【0019】
本発明の別の目的は、上述のポリビニルアルコールフィルムの製造方法を提供すること
であり、その工程は、(a)ポリビニルアルコール系樹脂を100℃以上の温度下且つ1
atm以上の圧力下で少なくとも5時間溶解し、ポリビニルアルコール溶液を形成する、
溶解工程と、(b)ポリビニルアルコール溶液を押出機によって20kg/cm以上の
背圧下の金型を通して吐出する、圧出成形工程と、(c)複数の乾燥ロールにおいて成膜
され、そのうち第1乾燥ロールの加熱源の入口温度と出口温度の分布は4℃未満であり、
幅方向の温度標準偏差は4℃未満である、水分調整工程と、(d)上述の乾燥ロールによ
る成膜を経た後、乾燥器内で乾燥して、ポリビニルアルコールフィルムを得る、乾燥工程
と、を含む。
【0020】
好ましい実施例中、工程(b)は金型の背圧が25kg/cm以上の下で実施される
【発明の効果】
【0021】
本発明の効果として、本発明が提供するポリビニルアルコールフィルムは、染色を経た
後、偏光板を直交させて検査すると、染色斑や濃度斑がなく、染色不均一性が低いという
特性を有することが認められた。また、本発明が提供するフィルムは、延伸を経た場合に
、十分な延伸性を具備していて切断を回避することができ、高い耐破れ性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】ポリビニルアルコールフィルムの製造方法における、水分調整工程中の乾燥工程の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下の実施形態は、本発明を過度に限定するものではない。本発明が属する技術分野の
当業者は、本発明の精神又は範囲から逸脱せずに本明細書中で検討する実施例に対して修
正や変更を行うことができ、いずれも本発明の範囲に属する。
【0024】
本明細書中の「1」及び「一種」という用語は、本明細書において文法の対象が1つ以
上(即ち少なくとも1つ)存在することを指す。
【0025】
本発明は、7~70の染色係数、及び130未満の破断係数を有するポリビニルアルコ
ールフィルムを提供することを目的としており、染色係数は10cm内の厚み偏差と位相
差均等係数の積であり、破断係数は位相差均等係数と含水率均等係数の積である。
【0026】
ポリビニルアルコールフィルムの厚み偏差は、色に落差が出るのを回避するために、幅
方向の部分的な厚みの差を限られた範囲内にコントロールするものである。本明細書に記
載の「10cm内の厚み偏差」とは、幅方向tmm、流れ方向50mmのポリビニルアル
コールフィルム試料を採取し、そのうちt値はポリビニルアルコールフィルム試料の幅に
よって決まり、取得したポリビニルアルコールフィルム試料をスウィング・アルバート計
器社(Thwing-Albert Instrument Company)製のPr
oGage厚さ計に置き、1cm毎に幅方向の厚み値を記録してから、測定した厚み値を
10cm毎で範囲とし(例えば0~10cm、1~11cm、…、270~280cmな
ど)、取得したポリビニルアルコールフィルム試料の厚みの差の最大値Mと最小値mを減
算して10cmにおける厚み偏差を得たものである。即ち、10cm内の厚み偏差(μm
)=M-mとなる。好ましい実施例において、ポリビニルアルコールフィルムの10cm
内の厚み偏差は3.0μm以下である。具体的には、例えば3μm以下、2.5μm以下
、2.0μm以下、1.5μm以下である。より好ましい実施例において、本発明のポリ
ビニルアルコールフィルムの10cm内の厚み偏差は2.0μm以下である。
【0027】
ポリビニルアルコールフィルムの位相差は、ポリビニルアルコール結晶自体が有する複
屈折性に起因するものであり、その屈折現象はポリビニルアルコールの結晶性の影響を受
ける。染色及び呈色後、屈折の差によって色の濃淡が異なる現象が発現するため、位相差
の偏差は一定範囲内にコントロールする必要がある。本明細書に記載の「位相差均等係数
」とは、幅方向tmm、流れ方向50mmのポリビニルアルコールフィルム試料を採取し
、そのうちt値はポリビニルアルコールフィルム試料の幅によって決まり、取得したポリ
ビニルアルコールフィルム試料をフォトロン社製の位相差測定計であるX-stageに
置き、毎回の測定範囲の幅方向を20cm、流れ方向を30cmに設定し、幅方向の位相
差平均値x及び標準偏差yを取得して位相差均等係数を計算したものである。即ち、位相
差均等係数(%)=y/x*100%となる。好ましい実施例において、ポリビニルアル
コールフィルムの位相差均等係数は4.7~24.7の間である。具体的には、例えば4
.7、6.7、8.7、10.7、12.7、14.7、16.7、18.7、20.7
、22.7又は24.7のうちの任意の2つの数値間の範囲である。
【0028】
本明細書に記載の「染色係数」とは、上述の10cm内の厚み偏差と上述の位相差均等
係数の積である。発明者は、厚み偏差と位相差均一性を特定の範囲内にコントロールする
ことにより、フィルム面の外観の濃淡が一定限度内に調整され、染色斑や濃度斑の発生を
回避し得ることを発見した。好ましい実施例において、染色係数は7~70の間である。
具体的には、例えば7、10、13、16、19、21、24、27、30、33、36
、39、41、44、47、50、53、56、59、61、64、67又は70のうち
の任意の2つの数値間の範囲である。より好ましい実施例において、本発明のポリビニル
アルコールフィルムの染色係数は7~27の間である。
【0029】
ポリビニルアルコールフィルムの水分分布が不均一である場合、延伸過程中に脆性破壊
が発生しやすくなり、フィルムの延伸性も悪くなる。本明細書に記載の「含水率均等係数
」は、長さ100mm、幅100mmのポリビニルアルコールフィルムを採取して天秤で
Sgを秤量し、ポリビニルアルコールフィルムを83℃の乾燥器に入れて20分間乾燥し
た後、取り出して乾燥皿に入れて5分間冷却してからWgを秤量し、次にその水分含量を
計算する。即ち、水分含量(%)=(S-W)/S*100%となる。上述のポリビニル
アルコールフィルムを幅方向に5等分して順に試料採取し、含水率を測定してから平均数
m及び標準偏差nを計算し、次に含水率均等係数を計算する。即ち、含水率均等係数(%
)=n/m*100%となる。好ましい実施例において、ポリビニルアルコールフィルム
の含水率標準偏差は0.3%未満である。具体的には、例えば0.3%未満、0.25%
未満、0.2%未満、0.15%未満又は0.1%未満である。
【0030】
偏光板の延伸工程では、延伸時の切断を避けるために、位相差均一性のほかに、含水率
均一性も重要なコントロール指標となる。本明細書に記載の「破断係数」は、上述の位相
差均等係数と上述の含水率均等係数の積である。好ましい実施例において、ポリビニルア
ルコールフィルムの破断係数は130未満である。具体的には、例えば130未満、12
0未満、110未満、100未満、90未満、80未満、70未満、60未満、50未満
、40未満、30未満、20未満、10未満である。
【0031】
別の態様として、本発明は当該ポリビニルアルコールフィルムの製造方法も提供するが
、その工程は、(a)ポリビニルアルコール系樹脂を100℃以上の温度下且つ1atm
以上の圧力下で少なくとも5時間溶解し、ポリビニルアルコール溶液を形成する、溶解工
程と、(b)ポリビニルアルコール溶液を押出機によって20kg/cm以上の背圧下
の金型を通して吐出する、圧出成形工程と、(c)複数の乾燥ロールにおいて成膜され、
そのうち第1乾燥ロールの加熱源の入口温度と出口温度の分布は4℃未満であり、幅方向
の温度標準偏差は4℃未満である、水分調整工程と、(d)上述の乾燥ロールによる成膜
を経た後、乾燥器内で乾燥して、ポリビニルアルコールフィルムを得る、乾燥工程と、を
含む。
【0032】
溶解工程は、ポリビニルアルコール系樹脂を100℃以上の温度下且つ1atm以上の
圧力下で少なくとも5時間溶解し、ポリビニルアルコール溶液を形成して、後に製造する
ポリビニルアルコールフィルムの原液とするものである。少なくとも1つの実施例によれ
ば、ポリビニルアルコール系樹脂を溶解する温度は100℃以上が好ましい。具体的には
、例えば100℃、115℃、120℃、125℃又は130℃などである。ポリビニル
アルコール系樹脂を溶解する圧力は1atm以上が好ましい。具体的には、例えば1at
m、1.51atm、2atm、2.5atm又は3atmなどである。ポリビニルアル
コール系樹脂を溶解する溶解時間は少なくとも5時間であるのが好ましい。具体的には、
例えば少なくとも5時間、少なくとも6時間、少なくとも7時間、少なくとも8時間又は
少なくとも9時間などである。
【0033】
上述のポリビニルアルコール樹脂は、ビニルエステル系樹脂単量体の重合によりポリビ
ニルエステル系樹脂を形成した後、鹸化反応を行って得たものである。そのうち、ビニル
エステル系樹脂単量体は、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、
ペンタン酸ビニル又はオクタン酸ビニルなどのビニルエステル類を含むが、本発明はこれ
らに限定されず、好適には酢酸ビニルである。また、オレフィン類化合物又はアクリレー
ト誘導体と上述のビニルエステル系樹脂単量体との共重合により形成された共重合体も使
用可能である。オレフィン類化合物は、エチレン、プロピレン又はブチレンなどを含むが
、本発明はこれらに限定されない。アクリレート誘導体はアクリル酸、アクリル酸メチル
、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル又はアクリル酸
n-ブチルなどを含むが、本発明はこれらに限定されない。
【0034】
上述のポリビニルアルコール系樹脂の鹸化度/アルカリ化度は98.00%以上である
のが好ましく、これにより良好な光学特性が得られる。具体的には、例えば98.00%
、98.50%、99.00%、99.50%、100.00%であり、好適には98.
00%~99.00%である。
【0035】
上述のポリビニルアルコールの重合度は1500~5000の間である。具体的には、
例えば1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500又は5
000のうちの任意の2つの数値間の範囲である。重合度が1500を上回ると良好な加
工特性を具備するが、重合度が5000を上回ると溶解するのに都合が悪くなる。
【0036】
圧出成形は、ポリビニルアルコール溶液を押出機によって20kg/cm以上の背圧
下の金型を通して吐出し、ポリビニルアルコールフィルムを予備形成するものである。少
なくとも1つの実施例によれば、金型の背圧の圧力は20kg/cm以上である。具体
的には、例えば20kg/cm以上、25kg/cm以上、30kg/cm以上、
35kg/cm以上又は40kg/cm以上であり、好適には23kg/cm以上
、より好適には25kg/cm以上である。発明者は、ポリビニルアルコールフィルム
の厚み偏差が金型から原料が吐出される時の圧力によって決まることを発見した。金型の
幅方向の吐出を均一にさせるには、吐出圧力を増加させるのが一般的である。好ましい実
施例中、吐出圧力は25kg/cm以上まで増加させる。
【0037】
水分調整については、図1の乾燥工程100に示す通り、金型110を通して背圧下で
吐出されたポリビニルアルコール溶液が複数の乾燥ロール(120は第1乾燥ロール、1
30は第2乾燥ロール、140は第3乾燥ロール、150は第N乾燥ロール)を経由し、
加熱されて成膜される。位相差均一性及び含水率均一性は、フィルム成形時の乾燥におけ
る受熱の均一性によって決まるため、緊張状態下にあるポリビニルアルコール分子鎖が完
全には引き伸ばされておらず、幅方向に受ける熱が不均一な場合、結晶度の差異が発生し
、複屈折性が低下して、後の染色やヨード液と染料との架橋の呈色に影響が出てしまう。
この問題を避けるためには、熱源の供給を安定させるだけでなく、成膜用の乾燥ロールの
経路についても精密に設計し、乾燥ロール熱源入口210から乾燥ロール熱源出口220
まで20cm毎に乾燥ロール経路の温度測定を行って、乾燥ロールの幅方向全体の温度を
できる限り均一にさせる必要がある。また、乾燥ロールの温度の高さを一定範囲内にコン
トロールするだけでなく、第1乾燥ロール120の幅方向の温度標準偏差を一定範囲内に
コントロールする必要もある。本明細書に記載の「第1乾燥ロール」とは、金型を通して
背圧下で吐出されたポリビニルアルコール溶液が最初に接触する乾燥ロールをいう。少な
くとも1つの実施例によれば、位相差均一性が良好なフィルムを得るために、複数の乾燥
ロールの加熱源の入口温度と出口温度の差の分布は4℃未満とし、幅方向の温度標準偏差
は4℃未満とする。少なくとも1つの実施例によれば、第1乾燥ロールの幅方向の温度標
準偏差は4℃未満であり、好適には3℃未満、より好適には2℃未満である。
【0038】
乾燥工程は、上述の乾燥ロールによる加熱及び成膜を経た後のポリビニルアルコールフ
ィルムを乾燥器に入れて乾燥して、染色の不均一性が低く、耐破れ性が高いポリビニルア
ルコールフィルムを得るものである。
【0039】
本発明のポリビニルアルコールフィルムは、光学フィルムとして製造することもできる
。本明細書に記載の「光学フィルム」とは、偏光フィルム、ブルーライトカットフィルム
、フィルターレンズなどを指すが、本発明はこれらに限定されない。好適には、本発明の
ポリビニルアルコールフィルムは偏光フィルムとされる。
【0040】
好ましい実施例中、偏光フィルム(又は偏光板と呼ぶ)製造方法は、以下の工程を含む
。ポリビニルアルコールフィルムを膨潤、染色、延伸、補色、乾燥及びトリアセチルセル
ロースフィルム(TAC)の貼り合わせを行うことにより、偏光フィルムが得られる。
【0041】
ポリビニルアルコールフィルムをさらに光学フィルムの製造に用いる場合には、延伸と
染色を行うが、偏光フィルムを例とすると、偏光フィルムの製造工程ではI 、I
ヨウ化物イオンが含まれたホウ酸水溶液でポリビニルアルコールフィルムの染色が行われ
るため、ホウ酸がポリビニルアルコールの無定形(amorphous)エリアとの架橋
結合作用を生じた後、ヨウ化物イオンが固定され、ヨウ化物イオンの溶出を防ぐことがで
きる。
【実施例0042】
以下では、実施例と合わせて本発明についてより詳しく説明する。但し、それらの実施
例は本発明をより容易に理解できるよう助けるためのものであり、本発明の範囲を限定す
るものではないことを理解されたい。
【0043】
ポリビニルアルコールフィルムの製造
ポリビニルアルコール系樹脂を加熱溶解してポリビニルアルコール溶液を形成してから
、ポリビニルアルコール溶液を圧出成形し、乾燥ロールに通してポリビニルアルコール溶
液を成膜し、且つ水分を調整して、ポリビニルアルコール成膜試料を乾燥器で乾燥し、ポ
リビニルアルコールフィルムを得る。
【0044】
偏光フィルムの製造
ポリビニルアルコールフィルムを30℃の水中に浸漬して膨潤させ、且つ機械方向(M
D)に向かって元の長さの2.0倍まで一軸延伸した後、0.03質量パーセントのヨウ
素、及び3質量パーセントのヨウ化カリウムを含む30℃の水溶液に浸漬しながら、ポリ
ビニルアルコールフィルムを元の長さの3.3倍まで延伸し、次に3質量パーセントのヨ
ウ化カリウム及び3質量パーセントのホウ酸を含む30℃の水溶液中に浸漬して、元の長
さの3.6倍までさらに延伸する。続けて5質量パーセントのヨウ化カリウム及び4質量
パーセントのホウ酸を含む60℃の水溶液中に浸漬して、元の長さの6.0倍までさらに
延伸する。その後、3質量パーセントのヨウ化カリウム水溶液に15秒間浸漬してから、
60℃で4分間乾燥すれば、偏光フィルムを得ることができる。
【0045】
以下は、実施例1~4及び比較例1~3の試験制御変数及び色相均一性、耐破れ性測定
結果である表1を参照されたい。
【0046】
【表1】
【0047】
本実施例中、偏光板の染色均一性の評価方法は、以下を含む。
【0048】
単片検査
製造した偏光板を幅方向が30cm、流れ方向が30cmの試料に裁断し、エリアライ
ト(光度は14,000cd)を備えた載物台のある暗室中に置き、且つ載物台上に透過
率が43%の偏光板を事前に貼り付けておく(測定者はバックライト側に位置する)。次
にバックライト側の測定者が試料を載物台から約1mの高さになるように持ち、試料が載
物台の水平に対して30~60度を呈するようにして、試料表面の染色現象を観察する。
【0049】
二片検査
載物台上に1層の偏光板(透過率43%)をさらに敷き、上述と同じ方法でもう一度試
料の染色を判断する。
【0050】
単片検査と二片検査の目視による判断結果に基づき、偏光板の染色状態を3つの等級に
区分する。二片検査に合格した場合には「◎」とし、単片検査に合格した場合には「○」
とし、単片検査に不合格の場合には「×」とする。
【0051】
本実施例中、偏光フィルムの切断の評価方法は以下を含む。5,000mの完成品を基
準とし、内製の偏光フィルム製作試験機を使用して、偏光フィルムを30℃下で2分間膨
潤させて、1回目の延伸で偏光フィルムを元の長さの2.0倍まで延伸する。次に30℃
の染色液(0.5g/LのIと20g/LのKIで構成する)で3分間染色した後、2
回目の延伸を行って、偏光フィルムを元の長さの3.0倍まで延伸する。次に50℃の延
伸槽(溶液は60g/LのKIと60g/Lのホウ酸で構成する)中で3回目の延伸を行
い、偏光フィルムを元の長さの5.5倍まで延伸して、偏光フィルムが3回の延伸過程中
に切断されていないかどうかを観察する。
【0052】
注目すべき点として、先行技術では、偏光板に使用するポリビニルアルコールフィルム
について、その幅方向の中央部の位相差は10~40nmであることが記載されており、
さらに、位相差が10nm未満である場合、染色斑が発生しやすくなることが指摘されて
いる。しかし、表1に示す通り、比較例1のように幅方向の位相差がいずれも10~40
nmであるポリビニルアルコールフィルムを使用したとしても、やはり染色斑の問題が存
在する。
【0053】
表1によれば、本発明のポリビニルアルコールフィルムによって製造された偏光フィル
ムは、染色係数の観点で見た場合、実施例1~4の染色係数がいずれも7~70の間であ
り、そのうち実施例1と2の染色係数はさらに7~27の間であり、染色均一性に優れて
いた。一方で、比較例1~3の染色係数はいずれも70を超えており、偏光板の染色均一
性試験では単片検査においていずれも不合格であり、染色均一性が悪かった。
【0054】
次に破断係数の観点から見た場合、実施例1~4の破断係数はいずれも130未満であ
り、且ついずれにもフィルムの切断現象は発生しなかった。一方で、比較例3の染色係数
は130を超えており、且つ偏光板の破断試験でフィルムの切断が発生しており、耐破れ
性が悪かった。
【0055】
要約すると、本発明のポリビニルアルコールフィルムは、7~70の染色係数を有し、
染色係数は10cm内の厚み偏差と位相差均等係数の積により得られ、且つ130未満の
破断係数を有し、破断係数は位相差均等係数と含水率均等係数の積により得られ、低い染
色不均一性と高い耐破れ性を同時に兼ね備えることができる。
【0056】
本明細書において提供する全ての範囲は、割り当て範囲内における各特定の範囲及び割
り当て範囲の間の二次範囲の組み合わせを含むという意味である。また、別段の説明がな
い限り、本明細書が提供する全ての範囲は、いずれも範囲のエンドポイントを含む。例え
ば、範囲1~5は、具体的には1、2、3、4及び5、並びに2~5、3~5、2~3、
2~4、1~4などの二次範囲を含む。
【0057】
本明細書において参照される全ての刊行物及び特許出願はいずれも参照により本明細書
に組み込まれ、且つありとあらゆる目的から、各刊行物又は特許出願はいずれも各々参照
により本明細書に組み込まれることを明確且つ個々に示している。本明細書と参照により
本明細書に組み込まれるあらゆる刊行物又は特許出願との間に不一致が存在する場合には
、本明細書に準ずる。
【0058】
本明細書で使用する「含む」、「有する」及び「包含する」という用語は、開放的、非
限定的な意味を有する。「1」及び「当該」という用語は、複数及び単数を含むと理解さ
れるべきである。「1つ以上」という用語は、「少なくとも1つ」を指し、従って単一の
特性又は混合物/組み合わせた特性を含むことができる。
【0059】
操作の実施例中又は他の指示する場所を除き、成分及び/又は反応条件の量を示す全て
の数字は、全ての場合においていずれも「約」という用語を用いて修飾することができ、
示した数字の±5%以内であるという意味である。本明細書で使用する「基本的に含まな
い」又は「実質的に含まない」という用語は、特定の特性が約2%未満であることを意味
する。本明細書中に明確に記載されている全ての要素又は特性は、特許請求の範囲から否
定的に除外することができる。
【符号の説明】
【0060】
100 乾燥工程
110 金型
120 第1乾燥ロール
130 第2乾燥ロール
140 第3乾燥ロール
150 第N乾燥ロール
210 乾燥ロール熱源入口
220 乾燥ロール熱源出口
図1