(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000156
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 33/58 20060101AFI20231225BHJP
F16C 19/38 20060101ALI20231225BHJP
F16C 33/64 20060101ALI20231225BHJP
B60B 35/14 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
F16C33/58
F16C19/38
F16C33/64
B60B35/14 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098761
(22)【出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高梨 晴美
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA53
3J701BA56
3J701BA57
3J701DA03
3J701DA11
3J701DA20
3J701FA15
3J701FA38
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】低トルク化と、逃げ溝の亀裂の発生防止との両立を図れる、ハブユニット軸受の構造を実現する。
【解決手段】ハブ輪8を、軸方向外側列の内輪軌道10aの軸方向外側に隣接した部分から径方向外側に向けて突出した大鍔部16と、大鍔部16の軸方向内側面16aと軸方向外側列の内輪軌道10aとを接続する凹円弧状の断面形状を有する逃げ溝17と、外周面のうちで少なくとも軸方向外側列の内輪軌道10a及び大鍔部16を含む範囲に形成された熱処理硬化層25と、軸方向外側面から軸方向内側に向けて凹み、円周方向に関して等間隔に配置された凹部19とを有するものとし、凹部19の径方向外側部の少なくとも一部分を、逃げ溝17の近傍に位置させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有し、使用時にも回転しない外輪と、
外周面に複列の内輪軌道を有し、使用時に回転するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ配置された円すいころと、を備え、
前記ハブは、前記複列の内輪軌道のうち軸方向外側列の内輪軌道を備えるハブ輪と、前記複列の内輪軌道のうち軸方向内側列の内輪軌道を備える内輪と、を有し、
前記ハブ輪は、前記軸方向外側列の内輪軌道の軸方向外側に隣接した部分から径方向外側に向けて突出した大鍔部と、前記大鍔部の軸方向内側面と前記軸方向外側列の内輪軌道とを接続する凹円弧状の断面形状を有する逃げ溝と、外周面のうちで少なくとも前記軸方向外側列の内輪軌道及び前記大鍔部を含む範囲に形成された熱処理硬化層と、軸方向外側面から軸方向内側に向けて凹み、円周方向に関して等間隔に配置された凹部と、を有し、
前記凹部の径方向外側部の少なくとも一部分は、前記逃げ溝の近傍に位置している、
ハブユニット軸受。
【請求項2】
請求項1に記載したハブユニット軸受の製造方法であって、
素材に鍛造加工を施すことにより、軸方向外側面から軸方向内側に向けて凹んだ前記凹部を備えたハブ輪中間素材を形成する工程と、
前記鍛造加工の後に、前記ハブ輪中間素材に旋削加工を施して、前記軸方向外側列の内輪軌道及び前記大鍔部の軸方向内側面を、研削取り代を残して形成するとともに、前記逃げ溝を形成する工程と、
前記旋削加工の後に、前記熱処理硬化層を高周波焼き入れにより形成する工程と、
を備える、ハブユニット軸受の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハブユニット軸受及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪は、ハブユニット軸受により、ナックルなどの車体側部材に対して回転自在に支持されている。
【0003】
ハブユニット軸受は、車体側部材に対して固定される静止輪である外輪の径方向内側に、車輪とともに回転する回転輪であるハブを、複数個の転動体を介して回転自在に支持することで構成されている。
【0004】
また、トラックなどの重量の嵩む自動車においては、特開2019-35458号公報(特許文献1)などに開示されるように、転動体として円すいころを使用することが行われている。
【0005】
図7及び
図8は、特開2019-35458号公報に開示された、従来構造のハブユニット軸受100を示している。
【0006】
ハブユニット軸受100は、外輪101と、ハブ102と、複数個の円すいころ103a、103bとを備える。
【0007】
外輪101は、略円筒形状を有する。外輪101は、内周面に、それぞれが円すい凹面状の複列の外輪軌道104a、104bを有している。また、外輪101は、外周面の軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出した静止フランジ105を有している。外輪101は、静止フランジ105を利用して、車体側部材である懸架装置に対し支持固定され、車輪が回転する際にも回転しない。
【0008】
ハブ102は、外輪101の径方向内側に外輪101と同軸に配置されている。ハブ102は、車輪を構成するホイール及び制動用回転体が固定され、使用時に回転する。ハブ102は、ハブ輪106と、内輪107とを組み合わせてなる。ハブ102は、外周面のうち、複列の外輪軌道104a、104bと対向する部分に、それぞれが円すい凸面状の複列の内輪軌道108a、108bを有している。
【0009】
ハブ輪106は、内輪107を外嵌保持する軸部材である。ハブ輪106は、軸部109と、回転フランジ110とを有する。
【0010】
軸部109は、外周面の軸方向中間部に、軸方向外側列の内輪軌道108aを有している。軸方向外側列の内輪軌道108aは、軸方向外側に向かうほど外径が大きくなる方向に傾斜している。軸部109は、軸方向外側列の内輪軌道108aの軸方向外側に隣接した部分に、径方向外側に向けて突出した大鍔部111を有する。大鍔部111の軸方向内側面111aと軸方向外側列の内輪軌道108aとは、凹円弧状の断面形状を有する逃げ溝112を介して接続されている。また、軸部109は、軸方向内側部に、内輪107を外嵌固定するための小径筒部113を有している。
【0011】
回転フランジ110は、ハブ輪106のうちで、外輪101の軸方向外側の端部よりも軸方向外側に位置する部分に備えられており、略円輪形状を有している。回転フランジ110の軸方向外側には、車輪を構成するホイール及び制動用回転体が固定される。
【0012】
内輪107は、円環形状を有しており、外周面の軸方向中間部に、軸方向内側列の内輪軌道108bを有する。軸方向内側列の内輪軌道108bは、軸方向内側に向かうほど外径が大きくなる方向に傾斜している。また、内輪107は、外周面の軸方向内側の端部に、内輪鍔部114を有する。内輪鍔部114は、内輪軌道108bの軸方向内側に隣接して配置されており、径方向外側に向けて突出している。内輪107は、軸部109に備えられた小径筒部113に外嵌固定されている。
【0013】
円すいころ103a、103bは、複列の外輪軌道104a、104bと複列の内輪軌道108a、108bとの間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ配置されている。軸方向外側列の円すいころ103aは、軸方向外側を向いた大径側端面を大鍔部111の軸方向内側面111aに接触させている。これに対し、軸方向内側列の円すいころ103bは、軸方向内側を向いた大径側端面を、内輪鍔部114の軸方向外側面114aに接触させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
近年、自動車の低燃費化を図るために、ハブユニット軸受の低トルク化の要求が高まっている。
【0016】
そこで、軸方向外側列の円すいころの大径側端面と大鍔部の軸方向内側面との摺動トルクを低く抑え、ハブユニット軸受の低トルク化を図るために、逃げ溝の曲率半径を小さくして、軸方向外側列の円すいころの大径側端面と大鍔部の軸方向内側面との接点位置を、軸方向外側列の内輪軌道の母線と大鍔部の軸方向内側面の母線との交点に近づけることが考えられる。
【0017】
ただし、ハブユニット軸受においては、ハブ輪の外周面のうち、回転フランジの径方向内側部の軸方向内側部分から小径筒部にわたる範囲に、高周波加熱コイルを用いた高周波焼き入れ処理を施し、熱処理硬化層を形成することが行われている。
【0018】
ハブ輪の外周面に高周波焼き入れ処理を施す場合、高周波加熱コイルから逃げ溝の溝底面までの距離が元々大きくなりやすいことに加えて、逃げ溝の曲率半径を小さくした場合には、逃げ溝の開口幅が小さくなる。このため、逃げ溝の溝底面が十分に加熱されず、逃げ溝部分に形成される熱処理硬化層は薄くなりやすい。
【0019】
一方、ハブ輪の外周面に高周波焼き入れ処理を施した際に、大鍔部はマルテンサイト変態して膨張するため、引張応力が逃げ溝に集中しやすくなる。さらに、自動車の走行時には、路面反力に基づくモーメント荷重によって回転フランジが軸方向外側に倒れるように変形することで、引張応力が逃げ溝に作用するため、逃げ溝に亀裂が発生しやすくなる。
【0020】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、低トルク化と、逃げ溝の亀裂の発生防止との両立を図れる、ハブユニット軸受及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受は、外輪と、ハブと、円すいころとを備える。
前記外輪は、内周面に複列の外輪軌道を有し、使用時にも回転しない。
前記ハブは、外周面に複列の内輪軌道を有し、使用時に回転する。
前記円すいころは、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ配置されている。
前記ハブは、前記複列の内輪軌道のうち軸方向外側列の内輪軌道を備えるハブ輪と、前記複列の内輪軌道のうち軸方向内側列の内輪軌道を備える内輪とを有する。
前記ハブ輪は、前記軸方向外側列の内輪軌道の軸方向外側に隣接した部分から径方向外側に向けて突出した大鍔部と、前記大鍔部の軸方向内側面と前記軸方向外側列の内輪軌道とを接続する凹円弧状の断面形状を有する逃げ溝と、外周面のうちで少なくとも前記軸方向外側列の内輪軌道及び前記大鍔部を含む範囲に形成された熱処理硬化層と、軸方向外側面から軸方向内側に向けて凹み、円周方向に関して等間隔に配置された凹部と、を有する。
前記凹部の径方向外側部の少なくとも一部分は、前記逃げ溝の近傍に位置している。
【0022】
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受の製造方法は、本発明の一態様にかかる前記ハブユニット軸受の製造方法であり、素材に鍛造加工を施すことにより、軸方向外側面から軸方向内側に向けて凹んだ前記凹部を備えたハブ輪中間素材を形成する工程と、前記鍛造加工の後に、前記ハブ輪中間素材に旋削加工を施して、前記軸方向外側列の内輪軌道及び前記大鍔部の軸方向内側面を、研削取り代を残して形成するとともに、前記逃げ溝を形成する工程と、前記旋削加工の後に、前記熱処理硬化層を高周波焼き入れにより形成する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受によれば、低トルク化と、逃げ溝の亀裂の発生防止との両立を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、実施の形態の第1例にかかるハブユニット軸受を示す、断面図である。
【
図4】
図4は、実施の形態の第1例にかかるハブユニット軸受からハブ輪を取り出して示す、半部断面図である。
【
図5】
図5は、実施の形態の第1例にかかるハブユニット軸受を構成するハブ輪の製造方法を工程順に示す、半部断面図である。
【
図6】
図6は、実施の形態の第2例を示す、
図4に相当する図である。
【
図7】
図7は、従来構造のハブユニット軸受を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、
図1~
図5を用いて説明する。
【0026】
〔ハブユニット軸受の構造〕
ハブユニット軸受1は、内輪回転型で、かつ、駆動輪用のいわゆる第3世代のハブユニット軸受である。ハブユニット軸受1は、外輪2と、ハブ3と、複数の円すいころ4a、4bとを備える。
【0027】
ハブユニット軸受1に関して、軸方向外側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向外側となる
図1及び
図3~
図5の左側であり、軸方向内側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向中央側となる
図1及び
図3~
図5の右側である。また、軸方向、径方向、及び、円周方向とは、特に断らない限り、ハブ3に関する軸方向、径方向、及び、円周方向をいう。
【0028】
外輪2は、中炭素鋼などの硬質金属製で、略円筒形状を有する。外輪2は、内周面に、円すい凹面状の複列の外輪軌道5a、5bを有している。外輪2は、外周面の軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出した静止フランジ6を有している。静止フランジ6は、円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する支持孔7を有する。外輪2は、支持孔7へ挿通したボルトにより、車体側部材である懸架装置に対し支持固定され、車輪が回転する際にも回転しない。
【0029】
ハブ3は、外輪2の径方向内側に外輪2と同軸に配置されている。ハブ3は、車輪を構成するホイール及び制動用回転体が固定され、使用時に回転する。ハブ3は、中炭素鋼などの硬質金属製のハブ輪8と、高炭素クロム鋼などの硬質金属製の内輪9とを組み合わせてなる。ハブ3は、外周面のうち、複列の外輪軌道5a、5bと対向する部分に、円すい凸面状の複列の内輪軌道10a、10bを有している。
【0030】
ハブ輪8は、内輪9を外嵌保持する軸部材である。本例のハブユニット軸受1は、駆動輪用であるため、ハブ輪8は、等速ジョイントに接続される。
【0031】
ハブ輪8は、軸部11と、回転フランジ12と、パイロット部13とを有する。
【0032】
軸部11は、ハブ輪8の軸方向内側部から軸方向中間部にわたる範囲に備えられている。軸部11は、中心部に、軸方向に貫通したスプライン孔14を有する。このため、軸部11は、略円筒形状を有している。また、スプライン孔14は、軸部11の軸方向外側面及び軸方向内側面のそれぞれに開口している。スプライン孔14には、等速ジョイントを構成する駆動軸がスプライン係合される。駆動軸は、エンジンや電動モータなどの駆動源により直接回転駆動されるか、又は、トランスミッションを介して回転駆動される。自動車の走行時には、駆動軸によりハブ3を回転駆動することで、ハブ3の回転フランジ12に結合固定された車輪及び制動用回転体を回転駆動する。
【0033】
軸部11は、外周面の軸方向中間部に、軸方向外側列の内輪軌道10aを有している。軸方向外側列の内輪軌道10aは、軸方向外側に向かうほど外径が大きくなる方向に傾斜している。軸部11は、外周面のうちで、軸方向外側列の内輪軌道10aよりも軸方向内側に位置する部分に、軸方向内側を向いた段差面15を有する。段差面15には、内輪9の軸方向外側の端面が突き当てられる。
【0034】
軸部11は、軸方向外側列の内輪軌道10aの軸方向外側に隣接した部分に、径方向外側に向けて突出した大鍔部16を有する。大鍔部16は、軸方向外側列の内輪軌道10aの母線を通る仮想線よりも径方向外側に位置している。大鍔部16の軸方向外側には、回転フランジ12が備えられている。
【0035】
大鍔部16は、円すい凹面状の軸方向内側面16aを有する。軸方向内側面16aは、径方向外側に向かうほど軸方向内側に向かう方向に傾斜している。軸方向内側面16aには、円すいころ4aの大径側端面が接触する。
【0036】
大鍔部16の軸方向内側面16aと軸方向外側列の内輪軌道10aとは、逃げ溝17を介して接続されている。逃げ溝17は、凹円弧状の断面形状を有しており、軸部11の外周面に全周にわたり形成されている。このため、逃げ溝17は、環状溝である。
【0037】
逃げ溝17の曲率半径は、十分に小さい値に設定されており、大鍔部16の軸方向内側面16aの径方向幅の0.25倍~0.4倍程度である。具体的には、逃げ溝17の曲率半径は、0.7mm~0.9mm程度である。また、逃げ溝17の断面における中心角は、30度~40度程度である。
【0038】
軸部11は、軸方向内側部に、内輪9を外嵌固定するための小径筒部18を有する。
【0039】
軸部11は、軸方向外側面の径方向中間部から軸方向内側に向けて凹んだ凹部19を有している。このため、凹部19は、軸部11の軸方向外側面に開口している。凹部19の軸方向外側の開口部は、スプライン孔14の軸方向外側の開口部の径方向外側に位置している。凹部19は、ハブ輪8の外周面と内周面との径方向の間部分に備えられている。
【0040】
凹部19の径方向外側部の一部分は、逃げ溝17の近傍に位置している。本例では、凹部19の径方向外側の端部の軸方向内側部が、逃げ溝17よりも径方向内側に位置しており、かつ、逃げ溝17の近傍に位置している。また、凹部19の軸方向内側の端部は、逃げ溝17と径方向に重なる位置に配置されている。なお、逃げ溝17の近傍とは、逃げ溝17の溝底面からの距離が、逃げ溝17部分に形成される後述の熱処理硬化層25の硬化層深さよりも若干深い位置にあることをいい、具体的には、逃げ溝17の溝底面から5mm以内のことをいう。
【0041】
本例では、凹部19の軸方向外側の開口部は、長円形状を有している。また、凹部19の軸方向外側の開口部は、ハブ輪8の放射方向(径方向)に長手方向を向けて配置されている。
【0042】
凹部19は、ハブ輪8の中心軸を含む仮想平面に関して、略半楕円形(舌形)の断面形状を有している。このため、凹部19の径方向幅は、軸方向内側に向かうほど小さくなる。これに対し、凹部19の円周方向幅は、軸方向及び径方向にわたりほぼ一定である。
【0043】
凹部19の内面のうち、ハブ輪8の径方向に関して外側に位置する凹曲面20aは、軸方向外側に向かうほど径方向外側に向かう方向に傾斜している。これに対し、凹部19の内面のうち、ハブ輪8の径方向に関して内側に位置する凹曲面20bは、軸方向外側に向かうほど径方向内側に向かう方向に傾斜している。凹部19の内面のうち、ハブ輪8の円周方向両側に位置する1対の平坦面21c、21dは、互いに略平行に配置されている。
【0044】
本例では、ハブ輪8に凹部19を形成することで、ハブ輪8のうちで、逃げ溝17と凹部19との間に存在する部分の熱容量を低下させている。
【0045】
本例では、凹部19を複数個(図示の例では8個)有している。複数個の凹部19は、ハブ輪8の円周方向に関して等間隔に配置されている。図示の例では、8個の凹部19を、円周方向に関して等間隔に配置している。
【0046】
本例では、複数個の凹部19をハブ輪8の円周方向に等間隔に配置することで、円周方向に隣接して配置された2つの凹部19同士の間に、放射方向に伸長したリブ34を形成している。図示の例では、ハブ輪8は、8本のリブ34を有している。
【0047】
回転フランジ12は、ハブ輪8のうちで、外輪2の軸方向外側の端部よりも軸方向外側に位置する部分に備えられている。このため、回転フランジ12の径方向内側の端部は、軸部11の外周面の軸方向外側の端部に接続されている。回転フランジ12は、略円輪形状を有している。回転フランジ12は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する取付孔22を有する。取付孔22のそれぞれには、スタッド23が圧入されている。スタッド23の先端部には、図示しないナットが螺合される。これにより、車輪を構成するホイール及び制動用回転体を、回転フランジ12の軸方向外側に固定する。本発明を実施する場合には、回転フランジに雌ねじ孔を形成し、該雌ねじ孔にハブボルトを直接螺合することにより、ホイール及び制動用回転体を、回転フランジの軸方向外側に固定することもできる。
【0048】
パイロット部13は、ホイール及び制動用回転体をがたつきのない隙間嵌めで外嵌するためのもので、円筒形状を有している。パイロット部13は、ハブ輪8の軸方向外側の端部に備えられている。図示の例では、パイロット部13は、回転フランジ12の径方向内側部の軸方向外側面に接続されている。
【0049】
ハブ輪8は、軸部11の軸方向外側面と回転フランジ12の内周面とパイロット部13の内周面とにより囲まれた、軸方向外側部の径方向中央部に、外側凹部24を有する。このため、凹部19及びスプライン孔14は、軸部11の軸方向外側面により構成される外側凹部24の軸方向底面に開口している。外側凹部24の軸方向底面は、ハブ輪8の中心軸に直交する仮想平面上に存在する平坦面であり、スプライン孔14に挿通された駆動軸の先端部に螺合したナットの座面として機能する。
【0050】
ハブ輪8の外周面(表層部)には、高周波加熱コイルを用いた高周波焼き入れ処理により、熱処理硬化層25が形成されている。具体的には、ハブ輪8の外周面のうちで、軸方向外側列の内輪軌道10a及び大鍔部16を含む、回転フランジ12の径方向内側部の軸方向内側部分から小径筒部18の軸方向内側部にわたる範囲に、熱処理硬化層25を有している。熱処理硬化層25は、ハブ輪8の外周面に全周にわたり形成されている。熱処理硬化層25の硬化層深さは、0.5mm~4mmである。
図1及び
図3~
図5には、熱処理硬化層25を斜格子模様で示している。
【0051】
本例では、熱処理硬化層25のうちで、大鍔部16の径方向内側に存在する部分は、凹部19の径方向外側の端部の軸方向内側部の近傍まで達している。
【0052】
内輪9は、円環形状を有しており、外周面に軸方向内側列の内輪軌道10bを有する。また、内輪9は、外周面の軸方向内側の端部に、内輪鍔部26を有する。内輪鍔部26は、内輪軌道10bの軸方向内側に隣接して配置されており、径方向外側に向けて突出している。内輪鍔部26の軸方向外側面26aには、円すいころ4bの大径側端面が接触する。内輪鍔部26の軸方向外側面26aと軸方向内側列の内輪軌道10bとは、凹円弧状の断面形状を有する内輪逃げ溝33を介して接続されている。本例では、内輪逃げ溝33の曲率半径についても、逃げ溝17の曲率半径と同程度の小さい値に設定している。内輪9は、軸部11に備えられた小径筒部18に締り嵌めで外嵌され、段差面15と図示しない等速ジョイント用外輪との間で、軸方向両側から挟持されている。これにより、ハブ輪8と内輪9とを結合して、ハブ3を構成している。
【0053】
円すいころ4a、4bは、軸受鋼などの硬質金属製あるいはセラミックス製であり、複列の外輪軌道5a、5bと複列の内輪軌道10a、10bとの間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ、保持器27a、27bにより保持された状態で転動自在に配置されている。軸方向外側列の円すいころ4aは、軸方向外側を向いた大径側端面を、大鍔部16の軸方向内側面16aに接触させている。これに対し、軸方向内側列の円すいころ4bは、軸方向内側を向いた大径側端面を、内輪鍔部26の軸方向外側面26aに接触させている。なお、円すいころ4a、4bの大径側端面は、凸曲面状に構成されている。
【0054】
本例では、逃げ溝17の曲率半径を小さい値に設定しているため、軸方向外側列の円すいころ4aの大径側端面と大鍔部16の軸方向内側面16aとの接点位置を、軸方向外側列の内輪軌道10aの母線と大鍔部16の軸方向内側面16aの母線との交点に近づけることができる。同様に、内輪逃げ溝33の曲率半径を小さい値に設定しているため、軸方向内側列の円すいころ4bの大径側端面と内輪鍔部26の軸方向外側面26aとの接点位置を、軸方向内側列の内輪軌道10bの母線と内輪鍔部26の軸方向外側面26aの母線との交点に近づけることができる。したがって、本例では、ハブユニット軸受1の低トルク化を図ることができる。
【0055】
本例のハブユニット軸受1は、外輪2の内周面とハブ3の外周面との間の環状空間28に水分や埃などの異物が侵入したり、環状空間28に封入したグリースが外部に漏洩したりすることを防止するために、外輪2の内周面の軸方向外側の端部とハブ輪8の大鍔部16の外周面との間に、第1シールリング29を設けている。さらに、外輪2の内周面の軸方向内側の端部と内輪9の内輪鍔部26の外周面との間に、第2シールリング30を設けている。これにより、環状空間28の軸方向両側の端部開口を、第1シールリング29及び第2シールリング30により塞いでいる。
【0056】
〔ハブユニット軸受の製造方法〕
ハブユニット軸受1を構成するハブ輪8の製造方法を、
図5を参照して説明する。
【0057】
〈鍛造工程〉
先ず、中炭素鋼などの硬質金属製の素材に、鍛造加工、具体的には熱間鍛造加工を施すことによって、
図5の(A)に示すようなハブ輪中間素材31を得る。具体的には、素材をA3変態点(たとえば800℃程度)以上の温度に加熱し、金型を用いて、据え込み加工や成形加工などの熱間鍛造加工(塑性加工)を多段階で施し、軸方向外側面から軸方向内側に向けて凹んだ凹部19を備えたハブ輪中間素材31を得る。具体的には、ハブ輪中間素材31の径方向中間部に、軸方向内側に向けて凹入する凹部19を、円周方向に関して等間隔に複数形成する。
【0058】
本例では、凹部19の一部が、後工程で形成する逃げ溝17の近傍に位置するように、凹部19を形成する。具体的には、凹部19の径方向外側の端部の軸方向内側部が、逃げ溝17よりも径方向内側に位置し、かつ、逃げ溝17の近傍に位置するように、凹部19を形成する。凹部19を形成する際に押し出された肉は、回転フランジ12の一部となる。
【0059】
ハブ輪中間素材31は、ハブ輪8のおおよその形状、つまり、ハブ輪8に近い形状を有している。
【0060】
〈旋削加工工程〉
次に、ハブ輪中間素材31の外周面に旋削加工を施す。これにより、
図5の(B)に示すように、ハブ輪中間素材31の外周面に、軸方向外側列の内輪軌道10a及び大鍔部16の軸方向内側面16aを、研削取り代を残して形成するとともに、大鍔部16の軸方向内側面16aと軸方向外側列の内輪軌道10aとの接続部に、凹円弧状の断面形状を有する逃げ溝17を形成する。本例では、ハブ輪中間素材31の外周面に旋削加工を施すことで、軸方向外側列の内輪軌道10a、大鍔部16の軸方向内側面16a及び逃げ溝17を形成するだけでなく、段差面15及び小径筒部18の外周面などを形成する。
【0061】
〈熱処理工程〉
次に、
図5の(C)に示すように、ハブ輪中間素材31の周囲に、略円筒形状を有する高周波加熱コイル32を配置して、高周波焼き入れ処理を施す。これにより、ハブ輪中間素材31の外周面に、熱処理硬化層25を形成する。具体的には、ハブ輪中間素材31の外周面のうちで、軸方向外側列の内輪軌道10a及び大鍔部16を含む、回転フランジ12の径方向内側部の軸方向内側部分から小径筒部18の軸方向内側部にわたる範囲に、熱処理硬化層25を形成する。この時、凹部19にクーラントを注入して、熱処理硬化層25が凹部19に突き抜けることを防止してもよい。
【0062】
〈研削加工工程〉
次に、ハブ輪中間素材31の外周面に研削加工を施して、表面形状を整えることで、
図5の(D)に示すようなハブ輪8を得る。
【0063】
次に、ハブ輪8の周囲に、外輪2と円すいころ4a、4bとを配置し、かつ、小径筒部18に内輪9を外嵌する。具体的には、例えば、円すいころ4a、4bを保持器27a、27bに保持した状態で、外輪2の複列の外輪軌道5a、5bの径方向内側に配置し、かつ、外輪2の軸方向外側の端部に、第1シールリング29を内嵌して外輪組立体を得る。次いで、前記外輪組立体の径方向内側に、ハブ輪中間素材31を軸方向外側から挿入する。次いで、内輪9を、ハブ輪中間素材31の小径筒部18に圧入により外嵌する。これにより、ハブ輪8と内輪9とを結合固定してハブ3を構成し、かつ、円すいころ4a、4bに適正な予圧を付与する。最後に、外輪2の軸方向内側の端部と内輪9との間に、第2シールリング30を装着し、ハブユニット軸受1として完成する。ただし、このような組立手順については、特に限定されず、矛盾を生じない限り、順番を入れ替えたり、同時に実施したりすることができる。
【0064】
以上のような構成を有し、上述のように製造される本例のハブユニット軸受1によれば、低トルク化と、逃げ溝17の亀裂の発生防止との両立を図ることができる。
すなわち、本例では、逃げ溝17の曲率半径を小さくして、軸方向外側列の円すいころ4aの大径側端面と大鍔部16の軸方向内側面16aとの接点位置を、軸方向外側列の内輪軌道10aの母線と大鍔部16の軸方向内側面16aの母線との交点に近づけている。このため、本例のハブユニット軸受1によれば、低トルク化を図ることができる。
【0065】
また、本例では、ハブ輪8に対して、軸方向外側面から軸方向内側に向けて凹んだ凹部19を形成し、該凹部19の一部を逃げ溝17の近傍に位置させている。具体的には、凹部19の径方向外側の端部の軸方向内側部を、逃げ溝17の径方向内側に配置し、かつ、逃げ溝17の近傍に位置させている。このため、ハブ輪8のうちで、逃げ溝17と凹部19との間に位置する部分の熱容量を小さくすることができる。したがって、ハブ輪8の外周面に形成する熱処理硬化層25の硬化層深さを、逃げ溝17部分及びその近傍部分で、凹部を形成しない場合に比べて深くすることができる。この結果、軸方向外側列の円すいころ4aの大径側端面と大鍔部16の軸方向内側面16aとの摺動トルクを低く抑えるべく、本例のように逃げ溝17の曲率半径を小さくした場合にも、逃げ溝17に亀裂が発生することを抑制できる。したがって、本例のハブユニット軸受1によれば、低トルク化を図れるとともに、逃げ溝17に亀裂が発生することを抑制できる。
【0066】
また、本例では、円周方向に隣り合う2つの凹部19同士の間に、放射方向に伸長したリブ34を備えているため、自動車の走行時に、路面反力に基づくモーメント荷重によって回転フランジ12が軸方向外側に倒れるように変形することを、複数本のリブ34により防止できる。このため、逃げ溝17に作用する引張応力を小さく抑えることができる。
【0067】
また、本例の場合には、ハブ輪8を製造するための熱間鍛造工程の中で、凹部19を形成することができる。このため、従来から知られているハブ輪8の製造工程に、新たな工程を付加する必要がない。したがって、本例の製造方法によれば、低トルク化を図れるとともに、逃げ溝17に亀裂が発生することを抑制できるハブユニット軸受1を、コストを上昇させずに生産することができる。
【0068】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、
図6を用いて説明する。
【0069】
本例では、従動輪用のハブ輪8aに、本発明を適用した場合について説明する。
【0070】
本例のハブ輪8aは、従動輪用であるため、等速ジョイントに接続されない。このため、ハブ輪8aは、径方向中央部にスプライン孔が備えられていない中実体である。
【0071】
また、ハブ輪8aに備えられた小径筒部18の軸方向内側の端部には、かしめ部35が形成される。かしめ部35は、内輪9(
図1参照)の軸方向内側の側面を抑え付ける。
【0072】
本例のハブ輪8aは従動輪用であるため、軸方向外側部の径方向中央部に備えられた外側凹部24aの溝深さ及び軸方向底面の断面形状が、実施の形態の第1例と異なる。すなわち、外側凹部24aの溝深さは、実施の形態の第1例の構造に比べて深い。具体的には、外側凹部24aの軸方向底面の径方向内側部は、ハブ輪8aの外周面に形成された逃げ溝17よりも軸方向内側に位置している。また、外側凹部24aの軸方向底面は、実施の形態の第1例の構造のような平坦面ではなく、軸方向内側に向けて凹んだ凹円弧状の断面形状を有している。
【0073】
このため本例では、ハブ輪8aの軸方向外側面から軸方向内側に向けて凹んだ凹部19aの軸方向深さが、実施の形態の第1例の構造に比べて小さくなっている。ただし、凹部19aの径方向外側の端部の軸方向中間部は、逃げ溝17の近傍に位置している。本例の場合にも、凹部19aの軸方向外側の開口部は、長円形状を有している。凹部19aは、ハブ輪8aの中心軸を含む仮想平面に関して、略三日月形の断面形状を有している。また、本例の場合にも、凹部19aの内面である径方向外側の凹曲面20aの近傍まで、熱処理硬化層25が達している。
【0074】
以上のような本例では、凹部19aの軸方向深さを小さくできるため、凹部19aを鍛造加工により形成する際に必要なプレス荷重を、実施の形態の第1例の構造に比べて小さくすることができる。このため、ハブ輪8aの製造コストを抑える上で有利になる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0075】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、実施の形態の各例の構造は、矛盾を生じない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。
【0076】
本発明を実施する場合に、凹部の開口形状及び断面形状、並びに、凹部の形成数については、実施の形態の各例で説明した構造に限定されず、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 ハブユニット軸受
2 外輪
3 ハブ
4a、4b 円すいころ
5a、5b 外輪軌道
6 静止フランジ
7 支持孔
8、8a ハブ輪
9 内輪
10a、10b 内輪軌道
11 軸部
12 回転フランジ
13 パイロット部
14 スプライン孔
15 段差面
16 大鍔部
16a 軸方向内側面
17 逃げ溝
18 小径筒部
19、19a 凹部
20a、20b 凹曲面
21c、21d 平坦面
22 取付孔
23 スタッド
24、24a 外側凹部
25 熱処理硬化層
26 内輪鍔部
26a 軸方向外側面
27a、27b 保持器
28 環状空間
29 第1シールリング
30 第2シールリング
31 ハブ輪中間素材
32 高周波加熱コイル
33 内輪逃げ溝
34 リブ
35 かしめ部
100 ハブユニット軸受
101 外輪
102 ハブ
103a、103b 円すいころ
104a、104b 外輪軌道
105 静止フランジ
106 ハブ輪
107 内輪
108a、108b 内輪軌道
109 軸部
110 回転フランジ
111 大鍔部
111a 軸方向内側面
112 逃げ溝
113 小径筒部
114 内輪鍔部
114a 軸方向外側面