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特開2024-1560バナジウムレドックスフロー電池用電解液の製造方法及び製造装置
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  • 特開-バナジウムレドックスフロー電池用電解液の製造方法及び製造装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001560
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】バナジウムレドックスフロー電池用電解液の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/18 20060101AFI20231227BHJP
   C01G 31/00 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
H01M8/18
C01G31/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100291
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬場 広太郎
(72)【発明者】
【氏名】中山 耕輔
(72)【発明者】
【氏名】永島 郁男
(72)【発明者】
【氏名】小田 明日香
(72)【発明者】
【氏名】政本 学
【テーマコード(参考)】
4G048
5H126
【Fターム(参考)】
4G048AA07
4G048AB02
4G048AC06
4G048AE05
5H126AA03
5H126BB10
5H126GG02
5H126HH10
5H126JJ05
5H126RR01
(57)【要約】
【課題】安価かつ簡便なバナジウムレドックスフロー電池用電解液の製造方法及び製造装置の提供。
【解決手段】この製造方法は、5価のバナジウムを含む原料粉末と、4価未満のバナジウムを含む溶解液と、を準備すること、この原料粉末と溶解液とを混合してバナジウム含有溶液を得ること、及び、バナジウム含有溶液を電解還元して電解液を得ること、を含む。この製造方法では、電解液の一部を溶解液として使用する。製造装置は、電解槽と、電解液の貯留槽と、原料粉末の溶解槽と、溶解槽に5価のバナジウムを含む原料粉末を供給する原料供給ラインと、電解液の一部を溶解槽に供給する溶解液供給ラインと、を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
5価のバナジウムを含む原料粉末と、4価未満のバナジウムを含む溶解液と、を準備すること
上記原料粉末と上記溶解液とを混合してバナジウム含有溶液を得ること
及び
上記バナジウム含有溶液を電解還元して電解液を得ること
を含み、
上記電解液の一部を上記溶解液として使用する、バナジウムレドックスフロー電池用電解液の製造方法。
【請求項2】
上記溶解液に含まれるバナジウムの価数がxであり、このバナジウムのモル数がaであり、上記原料粉末に含まれる5価のバナジウムのモル数がbであるとき、この原料粉末と溶解液とを、以下の関係式を満たす条件で混合する、請求項1に記載のバナジウムレドックスフロー電池用電解液の製造方法。
(4-x)×a≧b
(式中、a及びbは0を超える実数であり、xは2以上4未満の実数である。)
【請求項3】
上記電解液の一部を上記溶解液として保存すること、をさらに含む請求項1又は2に記載のバナジウムレドックスフロー電池用電解液の製造方法。
【請求項4】
上記保存する電解液が平均価数2のバナジウムを含む、請求項3に記載のバナジウムレドックスフロー電池用電解液の製造方法。
【請求項5】
バナジウム含有溶液を電解還元して電解液を得る電解槽と、この電解槽と循環可能に設けられた電解液の貯留槽と、この貯留槽を介して、上記電解槽にバナジウム含有溶液を供給可能に設けられた溶解槽と、この溶解槽に5価のバナジウムを含む原料粉末を供給する原料供給ラインと、上記電解液の一部を溶解液として上記溶解槽に供給する溶解液供給ラインと、を備えているバナジウムレドックスフロー電池用電解液の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レドックスフロー電池用電解液の製造方法及び製造装置に関する。詳細には、本開示は、バナジウムを活物質とするレドックスフロー電池用電解液の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バナジウムは、大型蓄電池であるレドックスフロー電池の主要構成物である電解液の原料として使用されている。電解液として、バナジウムを含む硫酸液を用いるレドックスフロー電池(バナジウムレドックスフロー電池)では、放電時に、負極側で、2価のバナジウムイオン(V2+)から3価のバナジウムイオン(V3+)への酸化反応が生じ、正極側で、5価のバナジルイオン(VO )から4価のバナジルイオン(VO2+)への還元反応が生じ、充電時には、それぞれ、逆反応が生じることにより繰り返し使用が可能となっている。
【0003】
従来、バナジウムレドックスフロー電池の電解液には、平均価数3.5価のバナジウムを含む硫酸溶液が使用されている。この電解液の原料として、バナジウム含有鉱石から精製された5価のバナジウム(V)を含む粉末が用いられる。このバナジウム粉末を硫酸等に溶解し、溶液中の5価のバナジウムイオン(V5+)を所望の価数に電解還元することにより、電解液を得ることができる。しかし、通常、Vは硫酸液に対して微溶であり、硫酸液への溶解速度が極めて遅い。そのため、5価のバナジウム(V5+)含有溶液を直接電解還元して電解液を製造するには、多大な時間を要する。Vを硫酸液に速やかに溶解する方法が求められている。
【0004】
一般的に、薬剤を用いてVを還元しながら硫酸液に溶解した後、得られた4価のバナジウム(V4+)を含む溶液を電解還元して、平均価数3.5価の電解液を製造する方法が知られている。また、Vを還元雰囲気下で焼成して、4価以下のバナジウム化合物に還元した後、硫酸液に溶解して電解還元する方法が知られている。
【0005】
具体的には、特許文献1(CA2635487A1)に、Vとシュウ酸とを所定の反応条件で反応させて得られる硫酸バナジル溶液(VOSO)を、電解槽の陰極側で電気分解して電解液を製造する技術が開示されている。特許文献2(WO02/04353A2)は、五酸化バナジウム(V)と三酸化バナジウム(V)との混合物に硫酸溶液を添加して、硫酸バナジル溶液(VOSO)を得る技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】カナダ国特許出願公開第2635487号明細書
【特許文献2】国際公開第2002/04353号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されたシュウ酸等の薬剤を添加してVを還元溶解する方法や、特許文献2に開示されたV及びVを混合して溶解する方法によれば、溶解速度が向上するため製造時間は短縮される。しかし、還元溶解に使用する薬剤は高価であり、また、Vの製造にもコストがかかる。そのため、電解液としての製品コストの増大が避けられないという課題がある。
【0008】
また、レドックスフロー電池用電解液としては、電解液中の不純物に起因する副反応によるガス発生及び電極への析出物の付着を回避するため、高純度であることが望まれる。安価な工業用グレードの薬品を還元溶解に用いた場合、その薬剤からの不純物混入が起こる可能性がある。
【0009】
レドックスフロー電池用として適用可能な高純度のバナジウム含有電解液を、安価かつ簡便に製造する技術は、未だ提案されていない。本開示の目的は、シュウ酸等の薬剤を使用することなく、効率よくバナジウムレドックスフロー電池用電解液を得るための製造方法及び製造装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示のバナジウムレドックスフロー電池用電解液の製造方法は、
(1)5価のバナジウムを含む原料粉末と、4価未満のバナジウムを含む溶解液と、を準備すること
(2)この原料粉末と溶解液とを混合してバナジウム含有溶液を得ること
及び
(3)このバナジウム含有溶液を電解還元して電解液を得ること
を含む。この製造方法では、電解還元して得た電解液の一部を、原料粉末の溶解液として使用する。
【0011】
本開示のバナジウムレドックスフロー電池用電解液の製造装置は、バナジウム含有溶液を電解還元して電解液を得る電解槽、この電解槽と循環可能に設けられた電解液の貯留槽、この貯留槽を介して、電解槽にバナジウム含有溶液を供給可能に設けられた溶解槽、この溶解槽に5価のバナジウムを含む原料粉末を供給する原料供給ライン、及び、電解液の一部を溶解液として溶解槽に供給する溶解液供給ラインを備えている。
【発明の効果】
【0012】
本開示に係る製造方法及び製造装置によれば、高純度のバナジウムレドックスフロー電池用電解液を、低コストで効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、一実施形態に係るバナジウムレドックスフロー電池用電解液の製造装置を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本開示が詳細に説明される。本開示は以下の実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除及び変更が可能である。
【0015】
[バナジウムレドックスフロー電池用電解液の製造装置]
バナジウムレドックスフロー電池用電解液の製造装置(以下、「電解液製造装置」又は「製造装置」と称する)は、後述する電解液の製造方法に用いられる。この電解液製造装置は、バナジウム含有溶液を電解還元して電解液を得る電解槽、この電解槽と循環可能に設けられた電解液の貯留槽、この貯留槽を介して、電解槽にバナジウム含有溶液を供給可能に設けられた溶解槽、この溶解槽に5価のバナジウムを含む原料粉末を供給する原料供給ライン、及び、電解液の少なくとも一部を溶解液として溶解槽に供給する溶解液供給ラインを備えている。以下に、図1を用いて、この製造装置の好適な一例を説明する。
【0016】
図1に示された製造装置は、電解槽(1)、貯留槽(2)、溶解槽(3)及び陽極液槽(4)を備えている。図示される通り、この実施形態では、電解槽(1)、貯留槽(2)、溶解槽(3)及び陽極液槽(4)には、それぞれ配管(10、12、14、16、18、20、22及び23)が接続されている。
【0017】
電解槽(1)は、隔膜(1c)により陰極セル(1a)及び陽極セル(1b)に区分されている。陰極セル(1a)及び陽極セル(1b)には、それぞれ、陰極及び陽極が設置されている。隔膜には、既知のイオン交換膜等が用いられる。陰極には、炭素電極等が使用されてよい。陽極には、酸素発生に適したIrO等の酸素発生陽極が用いられうる。この陰極及び陽極に電源から通電することにより、陰極セルで還元反応、陽極セルで酸化反応をおこなうことができる。この電解槽(1)では、陰極セル(1a)でバナジウム含有溶液が電解還元され、陽極セル(1b)で陽極液が電解酸化されて酸素ガスが発生する。陽極液には、通常、硫酸溶液が用いられうる。電解酸化により消費された水が、配管(22)を介して陽極セル(1b)に補給される。
【0018】
貯留槽(2)は、第一循環ライン(14)により電解槽(1)の陰極セル(1a)と配管接続されている。第一循環ライン(14)には、符号Pで示される循環ポンプが設置されている。この循環ポンプの作動により、バナジウム含有溶液が、電解還元用の粗電解液として、貯留槽(2)から陰極セル(1a)に供給され、陰極セル(1a)で電解還元されたバナジウム含有溶液が貯留槽(2)に返送される。この循環により、貯留槽(2)に、所定の価数のバナジウムを含む電解液が貯留される。第一循環ライン(14)には、切り替えバルブを介して製品抜き出しライン(20)が配管接続されてもよい。貯留槽(2)に平均価数3.5価のバナジウムを含む電解液が貯留された場合、バルブの切り替えによって、この電解液を製品抜き出しライン(20)から採取して、製品としてもよい。
【0019】
溶解槽(3)には、原料供給ライン(10)、溶解液供給ライン(12)及びバナジウム含有溶液供給ライン(16)が配管接続されている。この溶解槽(3)では、原料供給ライン(10)から供給された5価のバナジウムを含む原料粉末が、溶解液供給ライン(12)から供給された溶解液と混合されて、バナジウム含有溶液が調製される。この溶解液供給ライン(12)は、切り替えバルブを介して第一循環ライン(14)と接続されている。この製造装置では、バルブの切り替えによって、貯留槽(2)に貯留された電解液が、溶解液として供給される。
【0020】
この溶解槽(3)は、バナジウム含有溶液供給ライン(16)によって貯留槽(2)と配管接続されている。バナジウム含有溶液供給ライン(16)には、符号Pで示される循環ポンプが設置されている。この循環ポンプの作動によって、溶解槽(3)で調製されたバナジウム含有溶液が貯留槽(2)に供給される。この製造装置では、バナジウム含有溶液供給ライン(16)に設けられた循環ポンプと、第一循環ライン(14)に設けられた循環ポンプとを作動させることにより、バナジウム含有溶液を、貯留槽(2)を介して電解槽(1)の陰極セル(1a)に供給することができる。
【0021】
陽極液槽(4)には、陽極液供給ライン(22)及び第二循環ライン(18)が配管接続されている。陽極液供給ライン(22)から陽極液槽(3)に、陽極液が供給される。陽極液槽(4)は、第二循環ライン(18)によって電解槽(1)の陽極セル(1b)と配管接続されている。第二循環ライン(18)には、符号Pで示される循環ポンプが設置されている。この循環ポンプの作動により、陽極液が陽極液槽(4)から陽極セル(1b)に供給され、陽極セル(1b)で電解酸化された陽極液が陽極液槽(4)に返送される。第二循環ライン(18)には、気液分離器(5)が設置されている。陽極酸化時に発生する酸素ガスが、気液分離器(5)で分離されて、酸素抜き出しライン(23)から系外に排出される。
【0022】
この電解液製造装置では、電解槽(1)において価数4未満に電解還元されたバナジウム含有溶液が、溶解液として溶解槽(3)に供給される。溶解槽(3)では、5価のバナジウムを含む原料粉末が、低価数のバナジウム含有溶液と混合されることにより、速やかに還元溶解される。この製造装置では、5価のバナジウムを含む原料粉末の溶解に高価な薬剤は不要である。さらには、薬剤添加に起因する不純物の混入も回避されうる。この製造装置によれば、レドックスフロー電池用電解液に適用しうる高純度の電解液を、低コストで、効率よく製造することができる。
【0023】
[バナジウムレドックスフロー電池用電解液の製造方法]
バナジウムレドックスフロー電池用電解液の製造方法(以下、「電解液製造方法」又は「製造方法」と称する)は、前述した電解液製造装置を用いておこなうことができる。この電解液製造方法は、5価のバナジウムを含む原料粉末と、4価未満のバナジウムを含む溶解液と、を準備すること、この原料粉末と溶解液とを混合してバナジウム含有溶液を得ること、及び、得られたバナジウム含有溶液を電解還元して電解液を得ること、を含む。この製造方法では、原料粉末の溶解液として、電解還元された電解液の一部が使用される。必要に応じて、電解還元された電解液の全部が、原料粉末の溶解液として用いられてもよい。
【0024】
この電解液製造方法では、原料粉末中の5価のバナジウムが、4価未満のバナジウムを含む溶解液により還元される。一方、溶解液中の4価未満のバナジウムは、5価のバナジウムとの混合により酸化される。この酸化反応及び還元反応により、混合液中のバナジウムの平均価数が低下して、原料粉末が還元溶解される。さらに、この製造方法では、バナジウムが価数4価未満に電解還元された電解液が、原料粉末の溶解液として使用される。この製造方法では、5価のバナジウムを含む原料粉末の溶解に高価な薬剤は不要である。さらには、薬剤添加に起因する不純物の混入も回避されうる。この製造方法によれば、レドックスフロー電池用電解液に適用しうる高純度の電解液を、低コストで、効率よく製造することができる。なお、当該電解液製造装置を設置して運転を開始する際の溶解液については、高純度の試薬を用いて、4価未満のバナジウムを含む溶解液を調整して対応するが、電解液製造装置の運転が開始された後は、得られた電解液の一部を溶解液とすることができるので、高価な試薬は一切不要となる。
【0025】
5価のバナジウムを含む限り、原料粉末としては特に限定されない。5価のバナジウムとは、代表的には、五酸化バナジウム(V)である。例えば、石油系燃料の燃焼灰や、廃触媒から回収された五酸化バナジウムを含む粉末が、原料粉末として用いられてもよい。市販の五酸化バナジウムを原料粉末として使用してもよい。
【0026】
溶解液に含まれるバナジウムの平均価数は、4価未満であればよく、2価以上4価未満であってよく、2価以上3価以下であってよい。平均価数4価未満のバナジウムを含む硫酸溶液が好適に用いられうる。ここで、「平均価数」とは、バナジウムのモル数を基準として算出される価数の平均値を意味する。本開示の効果が阻害されない範囲で、溶解液が5価のバナジウムを含んでもよい。
【0027】
前述した通り、この実施形態では、5価のバナジウムを含む原料粉末を溶解して得られるバナジウム含有溶液を電解還元した電解液を、溶解液として使用する。本開示の効果が得られる範囲内で、例えば、五酸化バナジウムを硫酸中で電解還元して得られる電解液を溶解液として用いてもよく、市販の硫酸バナジル(VOSO)の水溶液を電解還元して得られる電解液を溶解液として用いてもよい。
【0028】
原料粉末と溶解液とを混合する方法及び条件は、特に限定されない。例えば、既知の撹拌機を備えた溶解タンクが用いられうる。溶解温度は、室温以上であればよく、50℃程度であってよく、還元溶解が可能であればさらに高温であってもよい。エネルギーコストの観点から、好ましい溶解温度は常温である。溶解時間は、原料粉末及び溶解液の種類、溶解温度等により適宜変更してよいが、本開示の方法によれば、溶解速度が向上するため、比較的短時間で均一なバナジウム含有溶液を得ることができる。
【0029】
溶解性向上の観点から、平均価数xのバナジウムをaモル含む溶解液と、5価のバナジウムをbモル含む原料粉末とは、以下の関係式を満たす条件で混合されることが好ましい。
(4-x)×a≧b
(式中、a及びbは0を超える実数であり、xは2以上4未満の実数である。)
【0030】
本開示の効果が得られる限り、原料粉末と溶解液とを混合して得られるバナジウム含有溶液中のバナジウム濃度は、特に限定されない。バナジウムレドックスフロー電池に適した電解液が得られるとの観点から、バナジウム含有溶液中のバナジウム濃度は1.7mol/L以上であってよい。
【0031】
バナジウム含有溶液中の硫酸濃度は特に限定されず、バナジウム濃度に応じて適宜調整される。溶解性向上の観点から、バナジウム含有溶液の硫酸濃度は、4.3mol/L以上であってよいが、添加するバナジウム化合物(固体)が全量溶解可能であれば、硫酸濃度は4.3mol/L未満でもよい。
【0032】
バナジウム含有溶液の電解還元には、陰極セル及び陽極セルを含む電解槽を用いることができる。電解還元の条件は特に限定されず、バナジウム含有溶液の物性及び所望の電解液の物性に応じて、適宜選択される。例えば、バナジウム含有溶液中のバナジウムを平均価数4未満に還元する条件で電解する場合、得られる電解液を、原料粉末の溶解液として使用することができる。また、平均価数3.5に還元する条件で電解する場合、得られる電解液を、そのまま、レドックスフロー電池用電解液の製品とすることができる。また、平均価数3以下、好ましくは平均価数2まで還元する条件で電解した電解液を貯蔵しておき、別途、原料粉末の溶解液として使用してもよい。
【0033】
レドックスフロー電池用電解液としては、不純物の混入は少ないことが好ましい。この製造方法によれば、バナジウム含有溶液を電解還元して、平均価数2まで還元する過程で、Ni等の不純物が陰極上に析出することにより、溶液中から除去される。こうして得られた平均価数2のバナジウムを含む電解液を、原料粉末の溶解液として使用することにより、高純度の電解液を得ることができる。なお、電解液及びバナジウム含有溶液中のバナジウムの平均価数は、既知の方法により測定することができる。例えば、電圧計等により電解液及び溶液の電位を検出する方法、吸光光度計等により電解液及び溶液の色相又は吸光度を測定得る方法が挙げられる。
【実施例0034】
以下、実施例によって本開示の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本開示が限定的に解釈されるべきではない。
【0035】
[実施例1]
図1に示された基本構成を備えた製造設備を用いて、バナジウムレドックスフロー電池用電解液の製造をおこなった。始めに、原料粉末である五酸化バナジウム(V)と、予め濃度を調整した硫酸液と、3価のバナジウムを含む溶解液(バナジウム濃度1.7mol/L)とを溶解槽に投入し、60℃にて6時間混合撹拌することにより、4価のバナジウムを含むバナジウム含有溶液(バナジウム濃度1.7mol/L、硫酸濃度4.3mol/L)を得た。溶解槽への投入量は、五酸化バナジウム中のバナジウム(V5+)と溶解液中のバナジウム(V3+)とが、モル比で1:1となるように調整した。このバナジウム含有溶液を電解槽にて、50mA/cmの条件で電解還元することにより、平均価数3.5のバナジウムを含む電解液を得た。この電解液の一部を製品として、製品抜き出しラインから採取した後、さらに電解還元を続行して、平均価数3価のバナジウムを含む電解液(バナジウム濃度1.7mol/L、硫酸濃度4.3mol/L)を得た。この電解液と五酸化バナジウムとを、バナジウム(V5+)と溶解液中のバナジウム(V3+)とが、モル比で1:1となるように溶解槽に投入して、電解還元を繰り返すことにより、実施例1のバナジウムレドックスフロー電池用電解液の連続製造をおこなった。
【0036】
[実施例2]
溶解槽への投入量を、五酸化バナジウム中のバナジウム(V5+)と溶解液中のバナジウム(V3+)とが、モル比で1:2となるように調整した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の電解液の連続製造をおこなった。
【0037】
[実施例3]
溶解槽への投入量を、五酸化バナジウム中のバナジウム(V5+)と溶解液中のバナジウム(V3+)とが、モル比で1:3となるように調整した以外は、実施例1と同様にして、実施例3の電解液の連続製造をおこなった。
【0038】
[実施例4]
実施例4では、実施例1において、平均価数3.5のバナジウムを含む電解液を得た後、さらに電解還元を続行して平均価数2のバナジウムを含む溶解液を調整した。この電解還元により、陰極上に微量の付着物を確認した。得られた平均価数2価のバナジウムを含む溶解液(バナジウム濃度1.6mol/L、硫酸濃度4.3mol/L)と、五酸化バナジウムとを、バナジウム(V5+)と溶解液中のバナジウム(V2+)とがモル比で1:1となるように溶解槽に投入し、60℃にて6時間混合撹拌して還元溶解することにより、実施例4のバナジウムレドックスフロー電池用電解液(平均価数3.5価、バナジウム濃度1.6mol/L、硫酸濃度4.3mol/Lを得た。
【0039】
実施例1-4に示されるように、本開示の製造方法及び製造装置によれば、高価な薬剤を使用することなく、効率的にバナジウムレドックスフロー電池用電解液を製造することができた。この結果から、本開示の優位性は明らかである。
【0040】
[開示項目]
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態を開示する。
【0041】
[項目1]
5価のバナジウムを含む原料粉末と、4価未満のバナジウムを含む溶解液と、を準備すること
この原料粉末と溶解液とを混合してバナジウム含有溶液を得ること
及び
このバナジウム含有溶液を電解還元して電解液を得ること
を含み、
この電解液の一部を原料粉末の溶解液として使用する、バナジウムレドックスフロー電池用電解液の製造方法。
【0042】
[項目2]
溶解液に含まれるバナジウムの平均価数がxであり、このバナジウムのモル数がaであり、原料粉末に含まれる5価のバナジウムのモル数がbであるとき、この原料粉末と溶解液とを、以下の関係式を満たす条件で混合する、項目1に記載のバナジウムレドックスフロー電池用電解液の製造方法。なお、式中、a及びbは0を超える実数であり、xは2以上4未満の実数である。
(4-x)×a≧b
【0043】
[項目3]
この電解液の一部を溶解液として保存すること、をさらに含む項目1又は2に記載のバナジウムレドックスフロー電池用電解液の製造方法。
【0044】
[項目4]
保存する電解液が平均価数2のバナジウムを含む、項目3に記載のバナジウムレドックスフロー電池用電解液の製造方法。
【0045】
[項目5]
バナジウム含有溶液を電解還元して電解液を得る電解槽と、この電解槽と循環可能に設けられた電解液の貯留槽と、この貯留槽を介して、電解槽にバナジウム含有溶液を供給可能に設けられた溶解槽と、この溶解槽に5価のバナジウムを含む原料粉末を供給する原料供給ラインと、電解液の一部を溶解液として溶解槽に供給する溶解液供給ラインと、を備えているバナジウムレドックスフロー電池用電解液の製造装置。
【0046】
以上説明された方法及び設備は、レドックスフロー電池用電解液以外の用途にも適用されうる。
【符号の説明】
【0047】
1・・・電解槽
1a・・・陰極セル
1b・・・陽極セル
1c・・・隔膜
2・・・貯留槽
3・・・溶解槽
4・・・陽極液槽
5・・・気液分離器
10・・・原料供給ライン
12・・・溶解液供給ライン
14・・・第一循環ライン
16・・・バナジウム含有溶液供給ライン
18・・・第二循環ライン
20・・・製品抜き出しライン
22・・・陽極液供給ライン
23・・・酸素抜き出しライン
図1