(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001562
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】研磨方法および研磨装置
(51)【国際特許分類】
B24B 13/02 20060101AFI20231227BHJP
B24B 49/10 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
B24B13/02 G
B24B49/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100295
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕樹
【テーマコード(参考)】
3C034
3C049
【Fターム(参考)】
3C034AA13
3C034BB91
3C034CA11
3C049AA02
3C049AA12
3C049AA16
3C049AB05
3C049AC02
3C049BA07
3C049BB02
3C049BC02
3C049CA01
3C049CB01
(57)【要約】
【課題】不良となるワークの発生を抑制することができる研磨方法および研磨装置を提供すること。
【解決手段】研磨方法は、第一の研磨加工を行う工程と、第一の研磨加工後に、ワークを保持するワーク保持機構の中心軸方向における高さ位置を取得する工程と、ワーク保持機構の高さ位置と、予め取得したワークの厚みとに基づいて、砥石の研磨面の高さを算出する工程と、第一の研磨加工の前後の砥石の研磨面の高さに基づいて、第一の研磨加工後の砥石の研磨面の高さ変化量を算出する工程と、砥石の研磨面の曲率半径を取得する工程と、砥石の研磨面の高さ変化量と、砥石の研磨面の曲率半径とに基づいて、第一の研磨加工後の砥石の研磨面の面積の変化量を算出する工程と、砥石の研磨面の面積の変化量に基づいて、ワークの研磨加工条件を調整する工程と、調整後の研磨加工条件に基づいて、第二の研磨加工を行う工程と、を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
揺動させた砥石と、中心軸回りに回転させたワークとを接触させて、第一の研磨加工を行う工程と、
前記第一の研磨加工後に、前記ワークを保持するワーク保持機構の前記中心軸方向における高さ位置を取得する工程と、
前記ワーク保持機構の高さ位置と、予め取得した前記ワークの厚みとに基づいて、前記砥石の研磨面の高さを算出する工程と、
前記第一の研磨加工の前後の前記砥石の研磨面の高さに基づいて、前記第一の研磨加工後の前記砥石の研磨面の高さ変化量を算出する工程と、
前記砥石の研磨面の曲率半径を取得する工程と、
前記砥石の研磨面の高さ変化量と、前記砥石の研磨面の曲率半径とに基づいて、前記第一の研磨加工後の前記砥石の研磨面の面積の変化量を算出する工程と、
前記砥石の研磨面の面積の変化量に基づいて、前記ワークの研磨加工条件を調整する工程と、
調整後の研磨加工条件に基づいて、第二の研磨加工を行う工程と、
を含む研磨方法。
【請求項2】
前記ワークの厚みとして、前記第一の研磨加工の前に行われた研磨加工後の前記ワークの厚みを取得する工程を更に含む請求項1に記載の研磨方法。
【請求項3】
前記研磨加工条件を調整する工程は、前記砥石の研磨面の面積の変化量が、予め定めた閾値を超えた場合に、前記砥石を加工することにより、前記研磨面の面積を所定の研磨面の面積へと補正する請求項1または請求項2に記載の研磨方法。
【請求項4】
前記研磨加工条件を調整する工程は、前記砥石の研磨面の面積の変化量が、予め定めた閾値を超えた場合に、前記砥石と前記ワークとの接触圧力、または前記砥石の揺動角を変更する請求項1または請求項2に記載の研磨方法。
【請求項5】
前記研磨加工条件を調整する工程は、更に、前記ワークの曲率半径と、前記砥石の研磨面の面積との関係性に基づいて、前記研磨加工条件の調整の要否を判定し、前記研磨加工条件の調整が必要と判定した場合に、前記研磨加工条件を調整する請求項3に記載の研磨方法。
【請求項6】
前記砥石の研磨面の高さ変化量に基づいて、前記砥石の揺動中心と、前記砥石の研磨面の曲率中心とを一致させる工程を更に含む請求項5に記載の研磨方法。
【請求項7】
前記高さ位置を取得する工程は、前記第一の研磨加工後に変化する、前記ワークの厚みおよび前記砥石の厚みの合計の変化を測定する工程であり、
前記ワークの厚みおよび前記砥石の厚みの合計の変化は、前記ワーク保持機構に設けられ、前記中心軸方向における前記ワークの変位を測定する変位センサによって測定する、
請求項1に記載の研磨方法。
【請求項8】
研磨加工を行うワークを保持するワーク保持機構と、
前記ワークを研磨するための砥石と、
前記砥石を保持し、揺動させるための砥石保持機構と、
前記ワーク保持機構の高さ位置を測定する高さ測定機構と、
前記砥石の研磨面の面積を補正するための補正加工機構と、
研磨加工を行った前記ワークの厚みと、前記ワーク保持機構の高さ位置とに基づいて、前記砥石の研磨面の面積の変化量を算出する砥石面積算出機構と、
前記砥石の研磨面の面積の変化量に基づいて、前記補正加工機構による前記砥石の補正の要否を判定する補正要否判定機構と、
を備える研磨装置。
【請求項9】
前記補正要否判定機構は、前記砥石の研磨面の面積の変化量と、研磨加工に投入するワークの加工前の曲率半径とに基づいて、前記補正加工機構による前記砥石の補正の要否を判定する、
請求項8に記載の研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨方法および研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、研磨加工対象のワークと砥石との接触面積に基づいて、加工圧力、加工回転数等の研磨加工条件を決定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワークの研磨加工では、回転させたワークと、揺動および回転させた砥石とをこすり合わせることにより、砥石の形状がワークの形状に近付くように研磨を行う。これにより、ワークの形状を所望の球面形状とする。この研磨加工では、複数のワークを同じ砥石で加工すると、砥石も徐々に摩耗するため、後のほうで加工するワークの形状も変化する。
【0005】
研磨加工を繰り返すことにより、砥石の研磨面が摩耗すると、砥石の研磨面の高さ(深さ)が変化し、当該研磨面の面積も変化してしまう。このように砥石の研磨面の面積が変化すると、それまでと同様の研磨加工条件で研磨加工を行っても、ワークの研磨量が変化してしまう。その結果、ワークの加工品質が想定とは異なってしまい、不良の発生につながるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、不良となるワークの発生を抑制することができる研磨方法および研磨装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る研磨方法は、揺動させた砥石と、中心軸回りに回転させたワークとを接触させて、第一の研磨加工を行う工程と、前記第一の研磨加工後に、前記ワークを保持するワーク保持機構の前記中心軸方向における高さ位置を取得する工程と、前記ワーク保持機構の高さ位置と、予め取得した前記ワークの厚みとに基づいて、前記砥石の研磨面の高さを算出する工程と、前記第一の研磨加工の前後の前記砥石の研磨面の高さに基づいて、前記第一の研磨加工後の前記砥石の研磨面の高さ変化量を算出する工程と、前記砥石の研磨面の曲率半径を取得する工程と、前記砥石の研磨面の高さ変化量と、前記砥石の研磨面の曲率半径とに基づいて、前記第一の研磨加工後の前記砥石の研磨面の面積の変化量を算出する工程と、前記砥石の研磨面の面積の変化量に基づいて、前記ワークの研磨加工条件を調整する工程と、調整後の研磨加工条件に基づいて、第二の研磨加工を行う工程と、を含む。
【0008】
本発明に係る研磨方法は、上記発明において、前記ワークの厚みとして、前記第一の研磨加工の前に行われた研磨加工後の前記ワークの厚みを取得する工程を更に含む。
【0009】
本発明に係る研磨方法は、上記発明において、前記研磨加工条件を調整する工程は、前記砥石の研磨面の面積の変化量が、予め定めた閾値を超えた場合に、前記砥石を加工することにより、前記研磨面の面積を所定の研磨面の面積へと補正する。
【0010】
本発明に係る研磨方法は、上記発明において、前記研磨加工条件を調整する工程は、前記砥石の研磨面の面積の変化量が、予め定めた閾値を超えた場合に、前記砥石と前記ワークとの接触圧力、または前記砥石の揺動角を変更する。
【0011】
本発明に係る研磨方法は、上記発明において、前記研磨加工条件を調整する工程は、更に、前記ワークの曲率半径と、前記砥石の研磨面の面積との関係性に基づいて、前記研磨加工条件の調整の要否を判定し、前記研磨加工条件の調整が必要と判定した場合に、前記研磨加工条件を調整する。
【0012】
本発明に係る研磨方法は、上記発明において、前記砥石の研磨面の高さ変化量に基づいて、前記砥石の揺動中心と、前記砥石の研磨面の曲率中心とを一致させる工程を更に含む。
【0013】
本発明に係る研磨方法は、上記発明において、前記高さ位置を取得する工程は、前記第一の研磨加工後に変化する、前記ワークの厚みおよび前記砥石の厚みの合計の変化を測定する工程であり、前記ワークの厚みおよび前記砥石の厚みの合計の変化は、前記ワーク保持機構に設けられ、前記中心軸方向における前記ワークの変位を測定する変位センサによって測定する。
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る研磨装置は、研磨加工を行うワークを保持するワーク保持機構と、前記ワークを研磨するための砥石と、前記砥石を保持し、揺動させるための砥石保持機構と、前記ワーク保持機構の高さ位置を測定する高さ測定機構と、前記砥石の研磨面の面積を補正するための補正加工機構と、研磨加工を行った前記ワークの厚みと、前記ワーク保持機構の高さ位置とに基づいて、前記砥石の研磨面の面積の変化量を算出する砥石面積算出機構と、前記砥石の研磨面の面積の変化量に基づいて、前記補正加工機構による前記砥石の補正の要否を判定する補正要否判定機構と、を備える。
【0015】
本発明に係る研磨装置は、上記発明において、前記補正要否判定機構は、前記砥石の研磨面の面積の変化量と、研磨加工に投入するワークの加工前の曲率半径とに基づいて、前記補正加工機構による前記砥石の補正の要否を判定する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る研磨方法および研磨装置では、砥石の研磨面の面積の変化量に基づいて、ワークの研磨加工条件を調整することにより、想定通りの品質でワークを加工することができるため、不良となるワークの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る研磨装置の構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態に係る研磨装置の砥石の側面図であり、砥石の高さおよび内径の変化を説明するための説明図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態に係る研磨装置における補正加工機構の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施の形態に係る研磨方法の流れを示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、本発明の実施の形態に係る研磨方法において、ワークの加工品質を管理するためのチャート表の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る研磨方法および研磨装置の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、以下の実施の形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものも含まれる。
【0019】
(研磨装置)
本発明の実施の形態に係る研磨装置について、
図1~
図3を参照しながら説明する。研磨装置1は、ワークWの研磨加工を行うためのものである。この研磨装置1は、凸面加工されたワークWと、凹面加工されたワークWのいずれについても研磨加工を行うことが可能である。本実施の形態では、
図1に示すように、凸面加工されたワークWの研磨加工を行う研磨装置1について説明する。
【0020】
研磨装置1は、ワーク保持機構11と、加圧シリンダ12と、ワーク回転機構13と、高さ測定機構14と、砥石15と、砥石保持機構16と、砥石回転機構17と、砥石面積算出機構18と、補正要否判定機構19と、補正加工機構20と、形状評価機構21と、を備えている。なお、
図1では、砥石面積算出機構18、補正要否判定機構19および形状評価機構21を別々の装置として図示しているが、これらの機構は一つの装置によって構成されてもよい。
【0021】
ワーク保持機構11は、加工対象のワークWを保持するための機構である。ワークWとしては、例えばΦ1~3mm程度のガラスレンズが挙げられる。加圧シリンダ12は、ワーク保持機構11を、ワークWの中心軸(以下、「ワーク回転軸」という)Aw方向に所定の圧力で押圧するための機構である。ワーク回転機構13は、ワーク保持機構11を、ワーク回転軸Aw回りに回転させるための機構である。
【0022】
高さ測定機構14は、ワーク保持機構11の高さ位置を測定するための機構である。この高さ測定機構14は、ワーク保持機構11に設けられている。また、高さ測定機構14は、例えばワーク回転軸Aw方向におけるワークWの変位を測定する変位センサ(例えばZ軸スケール等)によって構成される。
【0023】
ここで、ワークWの研磨加工を行うと、砥石15とワークWの双方が摩耗していく。その結果、両者の摩耗分だけ、加圧シリンダ12によってワーク保持機構11が押圧され、当該ワーク保持機構11の位置が下方に下がっていく。そのため、
図1に示すように、ワーク保持機構11に高さ測定機構14を設置することにより、ワークWおよび砥石15の合計した摩耗量を検出することができる。
【0024】
砥石15は、ワークWを研磨するための工具である。この砥石15の縁には、カケ防止のための平坦部151が設けられている。また、砥石15は、ワークWを研磨するための研磨面152を有している。砥石保持機構16は、砥石15を保持し、所定の揺動中心回りに揺動させるための機構である。砥石回転機構17は、砥石保持機構16を、砥石15の中心軸(以下、「砥石回転軸」という)At回りに回転させるための機構である。
【0025】
また、砥石保持機構16は、研磨加工によって砥石15が摩耗し、例えば
図2に示すように砥石15の研磨面152の高さが変化した場合に、砥石15の研磨面152の高さ変化量に基づいて、砥石15の位置を上方向に補正する。これにより、砥石15の揺動中心と、砥石15の研磨面152の曲率中心とを一致させる。
【0026】
砥石面積算出機構18は、砥石15の研磨面152の面積の変化量を算出するための機構である。砥石面積算出機構18は、研磨加工を行ったワークWの厚みと、ワークWの曲率半径と、高さ測定機構14によって測定されたワーク保持機構11の高さ位置とに基づいて、砥石15の研磨面152の面積の変化量を算出する。具体的には、今回と1個前の研磨後のワークWの厚みと、今回と1個前のワーク保持機構11の高さ位置のデータとを用いて、砥石15の高さ変化量を算出する。更に、ワークWの曲率半径と研磨面152の曲率半径とが略一致しているとみなして、前記砥石高さ変化量と前記研磨面152の曲率半径とから、砥石面積を算出する。
【0027】
なお、「ワークWの厚み」および「ワークWの曲率半径」は、例えば図示しない厚み測定装置および、形状評価機構21によって測定された測定値を用いることができる。また、算出される砥石面積は、加工した結果としてのワークWを評価および算出することで得られる値である。そのため、算出された砥石面積の情報を次の加工に反映するには、砥石面積の算出が終わるまで研磨加工を中断する必要がある。しかし、1個当たりの加工による砥石面積の変化は必ずしも大きくないため、砥石面積の算出を待たずに次の加工に入ってしまうことにより連続的な生産を行うことが可能であり、より生産性を向上できる。
【0028】
補正要否判定機構19は、砥石15の補正の要否を判定するための機構である。補正要否判定機構19は、砥石15の研磨面152の面積の変化量に基づいて、補正加工機構20による砥石15の補正の要否を判定する。
【0029】
補正加工機構20は、砥石15の研磨面152の面積を補正するための機構である。補正加工機構20は、
図3に示すように、砥石15の平坦部151を研削することにより、砥石15の研磨面152の面積を補正する。
【0030】
形状評価機構21は、研磨装置1に今回投入されるワークWの加工前の形状を評価するためにも用いられる機構である。形状評価機構21は、例えば予め用意された、ワークWの加工品質を管理するためのチャート表(後記する
図5参照)等に基づいて、ワークWの形状を評価する。なお、「ワークWの形状」とは、具体的にワークWの曲率半径のことを示している。
【0031】
(研磨方法)
本発明の実施の形態に係る研磨方法について、
図4および
図5を参照しながら説明する。実施の形態に係る研磨方法では、
図4に示すように、第一の研磨加工工程(ステップS1)と、高さ位置取得工程(ステップS2)と、厚み取得工程(ステップS3)と、高さ算出工程(ステップS4)と、高さ変化量算出工程(ステップS5)と、砥石内径算出工程(ステップS6)と、面積変化量算出工程(ステップS7)と、加工条件調整工程(ステップS8)と、第二の研磨加工工程(ステップS9)と、を実施する。
【0032】
なお、実施の形態に係る研磨方法において、第一の研磨加工工程(ステップS1)は、第一のワークWに対して研磨加工を行う工程であり、第二の研磨加工工程(ステップS9)は、第一のワークWとは異なる第二のワークWに対して研磨加工を行う工程である。
【0033】
また、第一の研磨加工工程(ステップS1)は、前回の研磨加工後に行われた加工条件調整工程(ステップS8)によって決定された研磨加工条件に基づいて実施される。また、加工条件調整工程(ステップS8)は、第二の研磨加工工程(ステップS9)の研磨加工条件を決定するために実施する。また、実施の形態に係る研磨方法のうち、高さ算出工程、高さ変化量算出工程、砥石内径算出工程および面積変化量算出工程は、砥石面積算出機構18が主体となって実施される。
【0034】
<第一の研磨加工工程>
第一の研磨加工工程では、砥石15とワークWとを接触させて研磨加工を行う(ステップS1)。第一の研磨加工工程では、砥石保持機構16によって、砥石15を砥石回転軸At回りに回転させつつ、揺動させる。また、ワーク保持機構11によって、ワークWをワーク回転軸Aw回りに回転させる。そして、回転および揺動させた砥石15と、回転させたワークWとをこすり合わせることにより、ワークWの研磨加工を行う。
【0035】
<高さ位置取得工程>
高さ位置取得工程では、第一の研磨加工工程の後に、ワークWを保持するワーク保持機構11のワーク回転軸Aw方向における高さ位置を取得する(ステップS2)。高さ位置取得工程では、例えば変位センサからなる高さ測定機構14によって、第一の研磨加工工程後に変化する、当該ワークWの厚みおよび砥石15の厚みの合計の変化を測定する。
【0036】
すなわち、高さ測定機構14は、ワーク保持機構11の高さ位置を測定することにより、ワークWの厚みと砥石15の厚みとの合計値(以下、「厚み合計値」という)を測定する。また、高さ測定機構14は、研磨装置1によってワークWの研磨加工を行うたびに厚み合計値を測定することにより、今回の研磨加工における厚み合計値と、前回の研磨加工における厚み合計値との差、すなわち厚み合計値の変化量を測定する。
【0037】
<厚み取得工程>
厚み取得工程では、研磨加工を行ったワークWの厚み(肉厚)を取得する(ステップS3)。厚み取得工程では、研磨加工後のワークWの厚みを、図示しない厚み測定機構によって測定する。その際、ワークWの厚みとともに、形状評価機構21を用いて当該ワークWの曲率半径を測定してもよい。
【0038】
ここで、厚み取得工程では、研磨加工中のワークWを研磨装置1から一時的に外してワークWの厚みを測定してもよいが、第一の研磨加工工程の前に行われた研磨加工工程後のワークWの厚みを取得することがより好ましい。なぜなら、高さ位置取得工程でワーク保持機構11の高さを取得しているときは、研磨加工中のワークWの厚みを取得することができない。そのため、ワークWをワーク保持機構11から取り外して測定する必要があるため、研磨加工を中断することになってしまう。また、研磨加工中にワークWを付け外しすると、加工不良が発生しやすくなる。一方、厚み取得工程において、既に研磨加工が行われたワークWの厚みを取得することにより、研磨加工を中断することなく、ワークWの研磨加工条件の調整に必要な情報を取得することができる。
【0039】
<高さ算出工程>
高さ算出工程では、高さ位置取得工程で取得したワーク保持機構11の高さ位置と、厚み取得工程で取得したワークWの厚みとに基づいて、砥石15の研磨面152の高さを算出する(ステップS4)。高さ算出工程では、ワーク保持機構11の高さ位置、すなわちワークWおよび砥石15の厚み合計値から、ワークWの厚みを差し引くことにより、砥石15の研磨面152の高さを算出する。
【0040】
<高さ変化量算出工程>
高さ変化量算出工程では、第一の研磨加工工程の前後の砥石15の研磨面152の高さに基づいて、第一の研磨加工工程後の、砥石15の研磨面152の高さ変化量を算出する(ステップS5)。高さ変化量算出工程では、第一の研磨加工工程(今回の研磨加工)後における砥石15の研磨面152の高さから、第一の研磨加工工程の前に行われた研磨加工工程(前回の研磨加工)後における砥石15の研磨面152の高さを差し引くことにより、砥石15の研磨面152の高さ変化量を算出する。なお、上記は砥石高さの絶対値から高さ変化量を算出する方法であるが、相対的変化量から、高さ変化量を算出してもよい。具体的には、今回の研磨時のワーク保持機構11の高さと前回の研磨時のワーク保持機構11の高さとの差分から、今回の研磨後のワークWの厚みと前回の研磨後のワークWの厚みとの差分を差し引くことにより、砥石15の研磨面152の高さ変化量を算出する。
【0041】
<砥石内径算出工程>
砥石内径算出工程では、砥石15の研磨面152の内径を算出する(ステップS6)。砥石内径算出工程では、厚み取得工程で厚みとともに取得したワークWの曲率半径に基づいて、砥石15の研磨面152の内径を算出する。なお、砥石内径算出工程では、測定したワークWの曲率半径を、砥石15の研磨面152の曲率半径として用いてもよいが、砥石15の研磨面152の曲率半径を直接測定した計測値を用いてもよい。
【0042】
<面積変化量算出工程>
面積変化量算出工程では、高さ変化量算出工程で算出した砥石15の研磨面152の高さ変化量と、砥石内径算出工程で算出した砥石15の研磨面152の内径とに基づいて、第一の研磨加工工程後の、砥石15の研磨面152の面積の変化量を算出する(ステップS7)。なお、本実施の形態では、算出した砥石15の研磨面152の内径と、研磨面152の高さ変化量とから砥石15の研磨面152の面積を算出したが、砥石15の研磨面152の内径の代わりに、研磨面152の曲率半径を用いて、砥石15の面積を算出することも可能である。
【0043】
<加工条件調整工程>
加工条件調整工程では、面積変化量算出工程で算出した砥石15の研磨面152の面積の変化量に基づいて、第二の研磨加工工程における、ワークWの研磨加工条件を調整する(ステップS8)。
【0044】
加工条件調整工程では、例えば
図3に示すように、補正加工機構20によって砥石15の平坦部151を加工することにより、砥石15の研磨面152の面積を、所定(所望)の研磨面152の面積へと補正する。なお、加工条件調整工程における砥石15の平坦部151の加工は、例えば砥石15の研磨面152の面積の変化量が、予め定めた閾値を超えた場合に実施する。このように、ワークWの加工品質を保つために、砥石15の研磨面152の面積を補正することにより、ワークWの研磨量を調整することができる。なお、本実施の形態では、砥石15の研磨面152の内径を算出しているため、平坦部151がなくなってしまい、砥石15の内径のエッジ部が鋭角になってしまうことによる砥石15の縁欠けを防止するように、補正加工機構20を活用することも可能である。
【0045】
また、加工条件調整工程では、例えば砥石15とワークWとの接触圧力、または砥石15の揺動角を変更することにより、研磨加工条件を調整してもよい。この場合、砥石15の研磨面152の面積の変化量が、予め定めた閾値を超えた場合に、砥石15とワークWとの接触圧力、または砥石15の揺動角を変更する。このように、ワークWの加工品質を保つために、砥石15とワークWとの接触圧力や砥石15の揺動角を変更することにより、ワークWの研磨量を調整することができる。
【0046】
また、加工条件調整工程では、更に、ワークWの曲率半径と、砥石15の研磨面152の面積との関係性に基づいて、研磨加工条件の調整の要否を判定し、研磨加工条件の調整が必要と判定した場合に、当該研磨加工条件を調整してもよい。この場合、形状評価機構21によって、例えば
図5に示すような、予め用意されたチャート表に基づいて、研磨加工条件の調整の要否を判定する。
【0047】
すなわち、加工条件調整工程では、研磨装置1に投入されるワークWの曲率半径、または砥石15の研磨面152の面積が、チャート表に定義された管理範囲(同図で「Area1」と表記)内である場合、研磨加工条件の調整が不要であると判定する。一方、加工条件調整工程では、研磨装置1に投入されるワークWの曲率半径、または砥石15の研磨面152の面積が、チャート表に定義された管理範囲外である場合、研磨加工条件の調整が必要であると判定する。以下、チャート表のより具体的な使用方法について、
図5を参照しながら説明する。
【0048】
図5は、直径Φ1mmのワークWを加工する際のチャート表を示している。同図において、縦軸はこれから研磨装置1に投入するワークWの曲率半径、横軸は砥石15の面積である。また、同図のチャート表は、実施の形態に係る研磨方法を実施する前に、一般的な統計手法(例えば重回帰分析等)を利用して予め作成しておく。重回帰分析を利用する場合、研磨加工後のワークWの品質(NR(ニュートンリング)本数)を目的変数とし、投入するワークWの品質(NR本数)および砥石15の面積を説明変数とする。
【0049】
例えば研磨装置1に投入されるワークWの曲率半径と砥石15の面積とが、
図5のArea1内の範囲である場合に、研磨加工後のワークWが良品(所望の曲率半径を有するワークW)となる場合を考える。この場合、研磨装置1に投入するワークWの曲率半径や砥石15の面積を、このArea1内の任意の範囲で設定する。
【0050】
具体的には、
図5において、ワークWの曲率半径R1は「NR1本」に設定し、曲率半径R2は「NR2本」に設定した。また、砥石15の面積S1は「0.70mm
2」に設定し、面積S2は「0.78mm
2」に設定した。この場合、同図のAで示すように、砥石15の面積をS1~S2の間で維持することにより、曲率半径R1~R2の範囲のワークWを研磨加工したものは、良品となる。
【0051】
また、
図5のチャート表を、以下のように用いることも可能である。例えば研磨装置1に投入するワークWの曲率半径が、R1~R2から外れてR4(例えばNR4本)である場合、砥石15の面積をS1~S2に維持したままでは、研磨加工されたワークWは不良となってしまう。そこで、
図5のBで示すように、加工条件調整工程において、砥石15の面積をS3に補正することにより、良品を得ることが可能となる。また、上記とは逆に、前回の研磨加工の結果、砥石15の面積がS3となった場合には、それに合わせて曲率半径R4のワークWを研磨装置1に投入することにより、良品を得ることが可能となる。
【0052】
ここで、砥石15の研磨面152の面積の大小は、研磨装置1に投入されるワークWの曲率半径の補正能力に関係するため、投入されるワークWの曲率半径が、研磨加工後の目標の曲率半径に近い場合は、砥石15の研磨面152の面積が多少小さくても、良好な研磨品質を得ることが可能である。
【0053】
そこで、加工条件調整工程では、
図5に示すように、研磨装置1に投入されるワークWの品質(曲率半径)に応じて、砥石15の補正加工の要否を判定することが好ましい。すなわち、同図に示すようなチャート表を予め用意することにより、投入するワークWの曲率半径と、砥石15の面積とから、研磨加工後の出来栄えのワークWの品質を推定することができる。この仕組みを活用し、予め研磨加工後のワークWの品質を推定し、不良と推定した場合は砥石15の補正加工を行うことにより、ワークWの品質をフィードフォワード的に安定化させることができる。また、研磨装置1に対して、形状がばらついているワークWを投入したとしても、所望の形状のワークWを連続して自動加工することができ、生産性を高めることができる。
【0054】
<第二の研磨加工工程>
第二の研磨加工工程では、加工条件調整工程で調整された研磨加工条件に基づいて、ワークWの研磨加工を行う(ステップS9)。第二の研磨加工工程では、第一の研磨加工工程と同様に、回転および揺動させた砥石15と、回転させたワークWとをこすり合わせることにより、ワークWの研磨加工を行う。
【0055】
<球心一致工程>
ここで、本発明の実施の形態に係る研磨方法では、例えば面積変化量算出工程の後、かつ第二の研磨加工工程の前に、球心一致工程を実施してもよい。球心一致工程では、高さ変化量算出工程で算出した砥石15の研磨面152の高さ変化量に基づいて、砥石15の揺動中心と、砥石15の研磨面152の曲率中心とを一致させる。この場合、例えば砥石保持機構16によって、砥石15の研磨面152が摩耗した分(高さ変化量分)だけ、砥石15の位置を上方(
図1の場合)に移動させることにより、砥石15の揺動中心と、砥石15の研磨面152の曲率中心とを一致させる。なお、球心一致工程は、ワークWを研磨加工するごと(ワークWごと)に実施する。
【0056】
砥石15の研磨面152の高さが変化すると、研磨面152の面積だけではなく、研磨面152の曲率中心も変化することになる。そのため、上記のように、砥石15の研磨面152の摩耗に応じて砥石15を位置補正することにより、砥石15の揺動中心および揺動半径を変化させずに、より高い精度でワークWを研磨加工することができる。
【0057】
以上説明した本実施の形態に係る研磨方法および研磨装置では、ワーク保持機構11の高さ位置と、ワークWの厚さとに基づいて、砥石15の研磨面152の高さを算出する。また、砥石15の研磨面152の高さと、砥石15の研磨面152の曲率半径とに基づいて、砥石15の研磨面152の面積の変化量を算出する。そして、砥石15の研磨面152の面積の変化量に基づいて、ワークWの研磨加工条件を調整することにより、想定通りの品質でワークWを加工する。これにより、不良となるワークWの発生を抑制し、ワークWの加工品質を保つことができる。
【0058】
また、本実施の形態に係る研磨方法および研磨装置では、経時的に変化する砥石15の形状(研磨面152の面積)を、ワーク保持機構11の高さ位置と、ワークWの厚さとから推定し、必要に応じて、次回のワークWの研磨加工前に砥石15の補正加工、またはワークWとの接触圧力等の変更を行う。
【0059】
これにより、研磨装置1を停止させて砥石15の研磨面152の高さや面積を測定することなく、砥石15の研磨面152の面積の変化を把握することができる。その結果、適切な砥石15の形状を常に維持したまま、ワークWを連続加工することができる。また、砥石15の補正加工を自動で行うことができるため、不良となるワークWの発生を抑制することができる。すなわち、ワークWの不良が発生するたびに、研磨装置1を止めて作業者が条件調整や補正加工を行うことなく、連続して良品を得ることができるため、生産性の高い研磨装置1を実現することができる。
【0060】
例えば従来は、研磨装置を定期的に停止させ、砥石にセンサを押し当てて砥石の高さを直接測定していた。この場合、研磨装置から砥石を取り外す必要があり、かつ砥石を取り外したタイミングでしか高さが分からなかった。一方、本実施の形態に係る研磨方法および研磨装置では、ワーク保持機構11の高さ位置の情報と、ワークWの厚みと、ワークWまたは砥石15の曲率半径の情報だけで砥石15の研磨面152の面積を求めることができる。更に、新しいワークWを加工するたびに砥石15の研磨面152の面積を求めるため、砥石15の研磨面152の面積の変化量をリアルタイムに把握することができる。
【0061】
以上、本発明に係る研磨方法および研磨装置について、発明を実施するための形態により具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【0062】
例えば、研磨加工対象のワークWとしては、ガラスレンズ以外にも、本質的にはレンズ形状や球面形状に加工する対象物に対して広く適用可能である。また、ワークWとしては、主にガラス素材が適用対象となるが、研磨加工が適用できる素材であれば、例えばガラス、サファイヤ、アルミナ等のセラミック、金属、樹脂、石材等、制限を受けるものではない。
【0063】
また、研磨装置1の装置構成は、本発明と同様の作用を発揮できるものであれば、各構成要素が一体的に構成されたものであってもよく、あるいは構成要素ごとに分割して設置されたものであってもよい。
【0064】
また、加工条件調整工程において、砥石15の補正加工の要否を判定するロジックは、
図5に示したように、具体的なワークWの形状ごとに、当該ワークWの曲率精度と加工条件のパラメータとから統計的に求めることが望ましいが、様々なワークWの形状に適用できるように、一般化した判定基準を設定してもよい。
【0065】
また、ワークWの曲率精度は、研磨装置1に投入するワークWを予め全数検査する手段もあるが、例えばロット検査での検査結果を活用する等も、効率向上には有用である。
【0066】
また、砥石15の研磨面152の面積に応じて、良品が得られるワークWを投入し、該当するワークWがなくなったら、砥石15の補正加工を行う等、生産の都合に応じて様々な管理方法の工夫も、本発明を活用することによって可能となることはいうまでもない。
【0067】
また、砥石15の研磨面152の面積の変化に応じて、当該砥石15の研磨面152の面積を変化させる補正加工機構20に代えて、増加した研磨面152の面積に応じて、砥石15とワークWとの接触圧力を一定とするような圧力変更を行う手段や、砥石15の揺動角度や、揺動速度等の、砥石15とワークWとの相対速度を変化させるような手段を採用してもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 研磨装置
11 ワーク保持機構
12 加圧シリンダ
13 ワーク回転機構
14 高さ測定機構
15 砥石
151 平坦部
152 研磨面
16 砥石保持機構
17 砥石回転機構
18 砥石面積算出機構
19 補正要否判定機構
20 補正加工機構
21 形状評価機構
At 砥石回転軸
Aw ワーク回転軸
W ワーク