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特開2024-156212イオン交換膜の分解処理方法及びそれを行うための装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156212
(43)【公開日】2024-11-01
(54)【発明の名称】イオン交換膜の分解処理方法及びそれを行うための装置
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/16 20060101AFI20241025BHJP
【FI】
C08J11/16 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070513
(22)【出願日】2023-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】堀 久男
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA14
4F401CA08
4F401CA75
4F401CB01
4F401EA07
4F401EA08
4F401EA46
4F401FA01Z
(57)【要約】
【課題】イオン交換膜の新しい分解処理方法を提供すること。
【解決手段】アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の塩基性化合物の存在下、処理対象であるイオン交換膜を250℃以上の亜臨界水に接触させる工程を含むことを特徴とするイオン交換膜の分解処理方法を用いればよい。この亜臨界水の温度は300℃以上であることが好ましく、350℃以上であることがより好ましい。また、本発明によれば、フッ素原子を含有するポリマーからなるイオン交換膜も好ましく分解処理することが可能である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の塩基性化合物の存在下、処理対象であるイオン交換膜を250℃以上の亜臨界水に接触させる工程を含むことを特徴とするイオン交換膜の分解処理方法。
【請求項2】
前記イオン交換膜が、フッ素原子含有ポリマーで形成されたものである請求項1記載のイオン交換膜の分解処理方法。
【請求項3】
前記亜臨界水の温度が300℃以上である請求項1記載のイオン交換膜の分解処理方法。
【請求項4】
前記塩基性化合物が水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムである請求項1記載のイオン交換膜の分解処理方法。
【請求項5】
アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の塩基性化合物の存在下、処理対象であるイオン交換膜を250℃以上の亜臨界水に接触させるための反応容器を備えることを特徴とするイオン交換膜の分解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換膜の分解処理方法及びそれを行うための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオン交換膜は、イオン交換樹脂を膜状にしたものであり、きわめて小さい空孔を備える。そして、その空孔内部に面してスルホン酸ナトリウム基(-SONa)や四級アンモニウム塩からなる基等のイオン交換基が存在することで、カチオンとアニオンのいずれか一方のイオンを通過させる一方で、他方のイオンは通過させない性質を備える。このような性質を利用して、イオン交換膜は、海水の淡水化、製塩、各種物質の精製等に利用されるほか、イオン交換膜の備える高い導電性に着目して固体高分子形燃料電池(PEFC)における電解質としても応用されている。
【0003】
こうしたイオン交換膜の中でも、化学的な安定性や耐熱性の点からフルオロカーボン系のイオン交換膜が広く用いられている。フルオロカーボン系のイオン交換膜は、パーフルオロビニル化合物と、イオン交換基又はその前駆体となる基を備えたフッ化ビニル化合物とを共重合して調製されたものであり、ポリテトラフルオロエチレンを主鎖とし、その主鎖からイオン交換基を末端に含む側鎖が形成されたポリマーからなることが多い。そして、その側鎖もまた、パーフルオロアルキレン鎖で形成されることが好ましいとされる(例えば、特許文献1、2等を参照)。
【0004】
フルオロカーボン系のイオン交換膜は、上記のように優れた特性を備えるので、その使用においては高い利点を享受することができるが、使用を終えて廃棄処理を行う際にはその化学的な安定性ゆえに困難を生じがちである。すなわち、フルオロカーボン系のイオン交換膜を焼却しようとすれば、共有結合の中で最強である炭素-フッ素結合の存在によりその分解には高温での処理が必要になるばかりでなく、焼却により発生するフッ化水素ガスによる焼却炉材の劣化を招くことになる。このため、フルオロカーボン系のイオン交換膜を廃棄処分しようとすれば埋め立て処理が必要となるが、廃棄物の最終処分場が逼迫している現状ではそれも問題である。したがって、フルオロカーボン系のイオン交換膜についての、焼却でもなく埋め立てでもない、新たな廃棄物処理法が求められている。また、フルオロカーボン系のイオン交換膜を上記のように焼却処分すると、フルオロカーボンに含まれるフッ素原子がフッ化水素ガスとして拡散してしまうため、そのフッ素原子のリサイクルも困難である。
【0005】
一方、フッ素原子含有ポリマーに関しては、本発明者らにより、これを亜臨界水に接触させることにより分解する処理方法が提案されている(特許文献3及び4を参照)。これらのうち、特許文献4に記載された発明では、塩基性化合物の存在下でフッ素原子含有ポリマーを200℃以上の亜臨界水に接触させることが提案されている。しかしながら、その分解対象となるフッ素原子含有ポリマーは、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)等とされており、ポリテトラフルオロエチレンのように水素原子の存在しないポリマーでは分解が困難とされていた(特許文献4、段落0018を参照)。また、特許文献3及び4記載の発明では、上記イオン交換基のような置換基がフッ素原子含有ポリマーに結合している場合にも問題無く分解されるかどうかが示されてはいなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-279112号公報
【特許文献2】特開2019-108607号公報
【特許文献3】特開2018-104578号公報
【特許文献4】特開2021-155478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、イオン交換膜の新しい分解処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、以上の課題を解決すべく鋭意検討を進めた結果、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の塩基性化合物の存在下にて、分解対象となるイオン交換膜を250℃以上の亜臨界水に接触させるとそのイオン交換膜を分解処理することが可能であり、また、そのイオン交換膜にフッ素原子が含まれていた場合には、そのフッ素原子も高い収率で回収可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、以下のようなものを提供する。
【0009】
(1)本発明は、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の塩基性化合物の存在下、処理対象であるイオン交換膜を250℃以上の亜臨界水に接触させる工程を含むことを特徴とするイオン交換膜の分解処理方法である。
【0010】
(2)また本発明は、上記イオン交換膜が、フッ素原子含有ポリマーで形成されたものである(1)項記載のイオン交換膜の分解処理方法である。
【0011】
(3)また本発明は、上記亜臨界水の温度が300℃以上である(1)項又は(2)項記載のイオン交換膜の分解処理方法である。
【0012】
(4)また本発明は、上記塩基性化合物が水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムである(1)項~(3)項のいずれか1項記載のイオン交換膜の分解処理方法である。
【0013】
(5)本発明は、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の塩基性化合物の存在下、処理対象であるイオン交換膜を250℃以上の亜臨界水に接触させるための反応容器を備えることを特徴とするイオン交換膜の分解装置でもある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、イオン交換膜の新しい分解処理方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のイオン交換膜の分解処理方法の一実施態様、及びイオン交換膜の分解装置の一実施形態について説明する。なお本発明は、以下の実施態様及び実施形態に何ら限定されるものでなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することが可能である。
【0016】
<イオン交換膜の分解処理方法>
まずは、本発明のイオン交換膜の分解処理方法の一実施態様について説明する。本発明のイオン交換膜の分解処理方法は、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の塩基性化合物の存在下、処理対象であるイオン交換膜を250℃以上の亜臨界水に接触させる工程を含むことを特徴とする。本工程を備えさえすれば本発明の効果を得ることができ、本発明の範囲に含まれることになる。その他の工程としては、分解反応の効率を高めるために処理対象であるイオン交換膜を細かく裁断する前処理工程を挙げることができるが、このような前処理は必須ではない。前処理を行う場合、フッ素原子含有ポリマーが粉末状になるまで小径化させておくことが望ましい。
【0017】
本発明にて処理対象となるイオン交換膜は、イオン交換基を備えたポリマーにより形成された膜であり、これまでイオン交換樹脂として用いられてきたものを膜状に成形したものに相当する。イオン交換膜には微細な孔が形成されており、この孔の内部には上記イオン交換基を備えたポリマーが露出している。イオン交換基は、カチオン型とアニオン型とがあり、アニオン型であれば、スルホナート基(-SO )やカルボキシラート基(-COO)等が挙げられ、カチオン型であれば、四級アンモニウムカチオン基(-NR )等が挙げられる。アニオン型のイオン交換膜は、ナトリウムイオン等のカチオンを通過させる一方で、アニオンを通過させない。一方、カチオン型のイオン交換膜は、アニオンを通過させる一方で、カチオンを通過させない。イオン交換膜は、このような性質を利用した様々な応用がされており、一例として海水の淡水化、海水からの製塩、化合物の精製、固体高分子形燃料電池における電解質等において広く利用されている。なお、こうしたイオン交換膜を形成させるポリマーの前駆体として、フッ化スルホニル基やアルコキシカルボニル基(すなわちカルボキシ基のアルキルエステル)等を備えたポリマーを用いて、これをイオン交換膜製造のための原料とすることもあるが、こうした前駆体のポリマーもまた本発明における分解処理対象となり、本発明ではこれら前駆体のポリマーも「イオン交換膜」に含めるものとする。
【0018】
イオン交換膜としては、多くの場合、化学的な安定性や耐熱性等の要求性能を満足させるために、フッ素原子含有ポリマーを用いたフルオロカーボン系のものが用いられる。上述の通り、このようなイオン交換膜は、パーフルオロビニル化合物と、イオン交換基又はその前駆体となる基を備えたフッ化ビニル化合物とを共重合して調製されたものであり、廃棄物処理の問題を生じがちである。本発明のイオン交換膜の分解処理方法は、こうしたフッ素原子含有ポリマーからなるものであっても好適に適用される。
【0019】
亜臨界水は、加圧されることにより、100℃を超え、臨界温度である374℃よりも低い温度範囲にある液体状態の水である。亜臨界水は、100℃以下の水とは物性面で異なる性質を備えており、特に200℃~300℃の範囲にある亜臨界水では、比誘電率が大きく低下して室温におけるメタノールやアセトンとほぼ同等の脂溶性を示したり、室温で10-14mol/Lだったイオン積が10-11mol/Lのオーダーとなって、水素イオン及び水酸化物イオンの濃度が室温の水よりも30倍高くなったりする。このため、特に200℃~300℃の亜臨界水では、室温の水とは異なる反応性を示すことが知られている。本発明では、250℃以上の亜臨界水が用いられ、好ましくは300℃以上の亜臨界水が用いられ、より好ましくは350℃以上の亜臨界水が用いられる。
【0020】
亜臨界水の調製に用いられる水としては特に限定されず、水道水、イオン交換水、蒸留水、井戸水等、どのようなものを用いてもよいが、共存する塩等の影響による副反応を抑制するとの観点からはイオン交換水や蒸留水が好ましく挙げられる。用いる水の量については、処理対象であるイオン交換膜が十分に浸る程度であればよいが、加圧のための密閉容器へ導入する水の量が極端に少ないと加熱後すべて水蒸気になり亜臨界水の状態にならないため注意が必要である。
【0021】
本発明では、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の塩基性化合物が用いられる。例えば、ポリマー鎖の末端に存在するイオン交換基がスルホナート基(-SO )となっている場合を例に挙げると、その根元の炭素原子を、塩基性化合物より供給される水酸化物イオン(OH)が攻撃し、その炭素原子に水酸基が結合するとともに、その炭素原子に結合していたスルホナート基が亜硫酸イオン(SO 2-)として放出される。これにより、ポリマー末端が、パーフルオロ基に水酸基が結合した不安定な構造となり、ここからフッ化水素(HF)が外れて末端が-COFとなる。これが加水分解されると、末端が-COOとなり、そこからCOが外れることでポリマー鎖が短くなっていくような反応機構が考えられ、こうした一連の反応を生じさせるために塩基性化合物が必要になる。
【0022】
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等が挙げられ、これらの中でも、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが好ましく挙げられる。
【0023】
アルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が挙げられる。
【0024】
昇温して亜臨界水とする前の水中における塩基性化合物の濃度としては、0.5M~6.0M程度が挙げられる。なお、当業者にとって周知なように、単位の「M」はmol/Lを意味する。昇温して亜臨界水とする前の水中における塩基性化合物の濃度として、より好ましくは1.0M~3.0Mが挙げられ、さらに好ましくは1.0M~2.0Mが挙げられる。
【0025】
次に、塩基性化合物を含んだ亜臨界水にイオン交換膜を接触させて分解を行う方法について説明する。処理対象であるイオン交換膜の量に応じたサイズの圧力容器に水、塩基性化合物、及び処理対象であるイオン交換膜を加え、圧力容器内部を加圧して密閉する。圧力容器内部を加圧するには、気体を封入すればよい。このような気体としては、空気、アルゴン、窒素等を挙げることができる。加圧の程度としては0.5~0.8MPa程度を挙げることができるが、特に限定されない。
【0026】
上記の過程を経た圧力容器を加熱して分解反応を開始させる。加熱の温度は250℃以上であるが、300℃以上であることが好ましく、350℃以上であることがより好ましい。圧力容器自体が加熱手段を備える場合には、その加熱手段を用いて加熱すればよく、圧力容器自体が加熱手段を備えない場合には、圧力容器全体をオートクレーブやオーブン中で加熱すればよい。反応時間としては6時間~24時間程度を挙げることができる。
【0027】
処理対象であるイオン交換膜がフッ素原子含有ポリマーからなる場合には、イオン交換膜に含まれていたフッ素原子が反応終了後の水中にフッ化物イオンとなって含まれている。フッ化物イオンは、カルシウムイオンと反応させることにより、あらゆるフッ素化合物の原料となるフッ化カルシウムに転換させることができる。このため、本発明の方法を用いてイオン交換膜の廃棄物処理を行うことにより、資源の有効活用を行うことが可能になる。
【0028】
<フッ素原子含有ポリマーの分解装置>
上記本発明のイオン交換膜の分解処理方法を実現することのできる装置も本発明の一つである。この装置は、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の塩基性化合物の存在下、処理対象であるイオン交換膜を250℃以上の亜臨界水に接触させるための反応容器を備えることを特徴とする。
【0029】
本発明の装置は、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の塩基性化合物を含む水と、分解対象であるイオン交換膜とを圧力容器の内部に導入することができ、その内部を加圧状態で加熱することが可能である。その際の加熱温度は、250℃以上であり、好ましくは300℃以上であり、より好ましくは350℃以上である。圧力容器の内部には、その内容物を撹拌するための撹拌装置を備えることが望ましい。その他の事項については、上記フッ素原子含有ポリマーの分解方法で説明した通りであるので、ここでの説明を省略する。
【実施例0030】
以下、実施例を示すことにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0031】
[SONaポリマーの分解処理]
イオン交換基として、スルホン酸ナトリウム基(-SONa)を備えたイオン交換膜の分解を行った。
【0032】
(実施例1)
スルホン酸ナトリウム基(-SONa)を備えたイオン交換膜30mgと、1.0M水酸化カリウム水溶液10mLを熱水リアクターに入れ、アルゴンガスで0.6MPaまで加圧した後、300℃で6時間反応させた。反応時の圧力は、9.5MPaだった。反応終了後、内容物を室温まで冷却し、水相に生成したフッ化物イオン、硫酸イオン(SO 2-)及び亜硫酸イオン(SO 2-)をイオンクロマトグラフィーで定量した。その結果、水相に生成したフッ化物イオンの収率は97%であり、硫酸イオンの収率は2%であり、亜硫酸イオンの収率は90%だった。なお、これら収率は、分解対象としたイオン交換膜に含まれるフッ素原子又は硫黄原子のモル数を分母とし、定量されたフッ化物イオンのモル数、又は硫酸イオン若しくは亜硫酸イオンのモル数を分子として算出したものである。また、水相に含まれる残留全有機体炭素(TOC)の比率(イオン交換膜に含まれる炭素原子のモル数を分母として、TOCのモル数を分子として算出した。)を求めたところ28%だった。なお、これら収率等は、全てモル数ベースで算出したものである。そして、これらのことは以下同様である。また、既に述べたように、1.0M水酸化カリウム水溶液の「M」は、mol/Lを意味する。
【0033】
(実施例2)
0.1M水酸化カリウム水溶液10mLを用いたことを除いて、実施例1と同様の手順でスルホン酸ナトリウム基(-SONa)を備えたイオン交換膜の分解処理を行った。その結果、水相に生成したフッ化物イオンの収率は59%であり、硫酸イオンの収率は19%であり、亜硫酸イオンの収率は5%だった。また、残留TOCの比率は61%だった。
【0034】
(実施例3)
反応温度を250℃としたことを除いて、実施例1と同様の手順でスルホン酸ナトリウム基(-SONa)を備えたイオン交換膜の分解処理を行った。反応時の圧力は、4.6MPaだった。その結果、水相に生成したフッ化物イオンの収率は23%であり、硫酸イオンの収率は0%であり、亜硫酸イオンの収率は19%だった。また、残留TOCの比率は28%だった。
【0035】
(実施例4)
反応温度を250℃とし、さらに反応時間を18時間としたことを除いて、実施例1と同様の手順でスルホン酸ナトリウム基(-SONa)を備えたイオン交換膜の分解処理を行った。その結果、水相に生成したフッ化物イオンの収率は67%であり、硫酸イオンの収率は8%であり、亜硫酸イオンの収率は62%だった。また、残留TOCの比率は60%だった。
【0036】
(実施例5)
1.0M水酸化カリウム水溶液に代えて1.0M水酸化ナトリウム水溶液を用いたことを除いて、実施例1と同様の手順でスルホン酸ナトリウム基(-SONa)を備えたイオン交換膜の分解処理を行った。その結果、水相に生成したフッ化物イオンの収率は104%であり、硫酸イオンの収率は0%であり、亜硫酸イオンの収率は100%だった。また、残留TOCの比率は5%だった。
【0037】
(比較例1)
1.0M水酸化カリウム水溶液10mLに代えて蒸留水10mLを用いたことを除いて、実施例1と同様の手順でスルホン酸ナトリウム基(-SONa)を備えたイオン交換膜の分解処理を行った。その結果、水相に生成したフッ化物イオンの収率は0.1%であり、硫酸イオンの収率は0%であり、亜硫酸イオンの収率は0%だった。また、残留TOCの比率は99%だった。
【0038】
実施例1~5、及び比較例1の結果をまとめたものを表1に示す。表1に示すように、実施例1では、フッ化物イオンの収率が97%であり、硫酸イオン及び亜硫酸イオンの収率の和が92%だったことから、実験に用いたイオン交換膜は、ほぼ完全に近い状態で分解されたものと考えられる。また、反応温度については、反応温度を250℃とするよりも300℃としたもののほうがフッ化物イオンの収率や硫酸イオン及び亜硫酸イオンの収率の和が高く、分解が進むことがわかる。なお、反応溶液中に塩基性化合物を添加しなかった比較例1では殆ど分解が進まなかった。
【0039】
【表1】
【0040】
[COONaポリマーの分解処理]
イオン交換基として、カルボン酸ナトリウム基(-COONa)を備えたイオン交換膜の分解を行った。
【0041】
(実施例6)
カルボン酸ナトリウム基(-COONa)を備えたイオン交換膜30mgと、1.0M水酸化カリウム水溶液10mLを熱水リアクターに入れ、アルゴンガスで0.6MPaまで加圧した後、350℃で18時間反応させた。反応時の圧力は、17.8MPaだった。反応終了後、内容物を室温まで冷却し、水相に生成したフッ化物イオンをイオンクロマトグラフィーで定量した。その結果、水相に生成したフッ化物イオンの収率は99%だった。また、水相に含まれる残留TOCの比率を求めたところ14%だった。
【0042】
(実施例7)
反応時間を6時間としたことを除いて、実施例6と同様の手順でカルボン酸ナトリウム基(-COONa)を備えたイオン交換膜の分解処理を行った。その結果、水相に生成したフッ化物イオンの収率は71%だった。また、残留TOCの比率は7%だった。
【0043】
(実施例8)
反応温度を300℃とし、さらに反応時間を6時間としたことを除いて、実施例6と同様の手順でカルボン酸ナトリウム基(-COONa)を備えたイオン交換膜の分解処理を行った。反応時の圧力は、9.3MPaだった。その結果、水相に生成したフッ化物イオンの収率は4%だった。また、残留TOCの比率は3%だった。
【0044】
(比較例2)
1.0M水酸化カリウム水溶液10mLに代えて蒸留水10mLを用いたことを除いて、実施例6と同様の手順でカルボン酸ナトリウム基(-COONa)を備えたイオン交換膜の分解処理を行った。その結果、水相に生成したフッ化物イオンの収率は3.2%だった。なお、比較例2についての残留TOCの測定は行っていない。
【0045】
実施例6~8、及び比較例2の結果をまとめたものを表2に示す。表2に示すように、イオン交換基としてカルボン酸ナトリウム基を備える場合は、スルホン酸ナトリウム基を備えた場合よりも反応が進行しにくく、反応温度を350℃以上とするのが好ましいことがわかる。
【0046】
【表2】
【0047】
[フッ化スルホニル(-SOF)ポリマーの分解処理]
スルホン酸ナトリウム基(-SONa)を備えたイオン交換膜の前駆体となるフッ化スルホニル(-SOF)ポリマーの分解を行った。
【0048】
(実施例9)
フッ化スルホニルポリマー30mgと、1.0M水酸化カリウム水溶液10mLを熱水リアクターに入れ、アルゴンガスで0.6MPaまで加圧した後、300℃で6時間反応させた。反応時の圧力は、9.5MPaだった。反応終了後、内容物を室温まで冷却し、水相に生成したフッ化物イオン、硫酸イオン及び亜硫酸イオンをイオンクロマトグラフィーで定量した。その結果、水相に生成したフッ化物イオンの収率は101%であり、硫酸イオンの収率は69%であり、亜硫酸イオンの収率は27%だった。また、水相に含まれる残留TOCの比率を求めたところ30%だった。これらの結果から、スルホン酸ナトリウム基を備えたイオン交換膜の前駆体となるフッ化スルホニルポリマーについても十分に良好な収率で分解処理できることがわかる。
【0049】
[COOCHポリマーの分解処理]
カルボン酸ナトリウム基(-COONa)を備えたイオン交換膜の前駆体となるメトキシカルボニル基(-COOCH)を備えたポリマー(メチルエステルポリマーと呼ぶ。)の分解を行った。
【0050】
(実施例10)
メチルエステルポリマー30mgと、1.0M水酸化カリウム水溶液10mLを熱水リアクターに入れ、アルゴンガスで0.6MPaまで加圧した後、350℃で18時間反応させた。反応時の圧力は、17.8MPaだった。反応終了後、内容物を室温まで冷却し、水相に生成したフッ化物イオンをイオンクロマトグラフィーで定量した。その結果、水相に生成したフッ化物イオンの収率は100%だった。また、水相に含まれる残留TOCの比率を求めたところ10%だった。
【0051】
(実施例11)
反応時間を6時間としたことを除いて、実施例10と同様の手順でメチルエステルポリマーの分解処理を行った。その結果、水相に生成したフッ化物イオンの収率は62%だった。また、残留TOCの比率は10%だった。
【0052】
以上、各実施例にて示されるように、本発明によれば、イオン交換膜及びその前駆体となるポリマーを良好に分解可能であることが理解できる。