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特開2024-156216半導体基板、その製造方法及び半導体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156216
(43)【公開日】2024-11-01
(54)【発明の名称】半導体基板、その製造方法及び半導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/073 20120101AFI20241025BHJP
   H01L 21/208 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
H01L31/06 420
H01L21/208 Z
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2023140361
(22)【出願日】2023-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2023125665
(32)【優先日】2023-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】722004171
【氏名又は名称】株式会社QDジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】玉浦 裕
(72)【発明者】
【氏名】川本 忠
【テーマコード(参考)】
5F053
5F251
【Fターム(参考)】
5F053AA50
5F053BB60
5F053DD20
5F053FF01
5F053GG03
5F053HH02
5F053JJ01
5F053JJ03
5F053LL05
5F053RR12
5F251AA09
5F251CB29
5F251CB30
5F251FA04
5F251FA06
5F251GA03
5F251GA05
(57)【要約】
【課題】 ウェットプロセスを用いて製造可能であり、FeZnS系の半導体組成物からなる半導体基板及びその製造方法の提供。
【解決手段】 半導体基板は、可撓性を有する基板の上に、ZnS及びFeSを含むp型半導体層を積層させて含む。その製造方法は、亜鉛フェライトめっき層を、水素ガスに曝して水素還元処理後に、硫化水素ガスに曝してZnS及びFeSからなるp型半導体である半導体層を形成する工程を備える。亜鉛フェライトめっき層の製造方法においては、基板の膜形成部を上流から下流に送って平皿の上面開口の上に配置し、基板の膜形成部を平皿の内部に配置させ、平皿内にFe及びZnを含む反応液を充填し金属膜を形成させ、その後、反応液を酸化液に変えて金属膜を酸化させて亜鉛フェライトめっき層を形成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する基板の上に、ZnS及びFeSを含むp型半導体層を積層させて含むことを特徴とする半導体基板。
【請求項2】
前記p型半導体層はZnS及びFeSの固溶体からなることを特徴とする請求項1記載の半導体基板。
【請求項3】
前記p型半導体層の上にはZnOからなるn型半導体層を積層させて含むことを特徴とする請求項1記載の半導体基板。
【請求項4】
前記n型半導体層の上には透明電極を積層させて含むことを特徴とする請求項3記載の半導体基板。
【請求項5】
前記基板と前記p型半導体層との間には、Alからなる金属電極層を挿入されていることを特徴とする請求項4記載の半導体基板。
【請求項6】
前記基板はPETからなることを特徴とする請求項4記載の半導体基板。
【請求項7】
可撓性を有する基板の上に、ZnS及びFeSからなるp型半導体層を積層させた半導体基板の製造方法であって、
前記基板の上に形成された亜鉛フェライトめっき層を、水素ガスに曝して水素還元処理の後に、硫化水素ガスに曝してZnS及びFeSからなるp型半導体である前記p型半導体層を形成する工程を備えることを特徴とする半導体基板の製造方法。
【請求項8】
前記p型半導体層はZnS及びFeSの固溶体からなることを特徴とする請求項7記載の半導体基板の製造方法。
【請求項9】
帯状の前記基板を長手方向に送りつつ反応室を通過させて前記基板の上にZn1-xFe2+ Fe3+ (x=0~1)からなる前記亜鉛フェライトめっき層を形成する工程を備えることを特徴とする請求項7記載の半導体基板の製造方法。
【請求項10】
前記基板の膜形成部を上流から下流に送って平皿の上面開口の上に配置し、前記基板の前記膜形成部を前記平皿の内部に配置させる工程、
前記平皿内にFe及びZnを含む反応液を充填し金属膜を形成させる工程、及び、
前記反応液を酸化液に変えて前記金属膜を酸化させて亜鉛フェライトめっき層を形成する工程を備えることを特徴とする請求項9記載の半導体基板の製造方法。
【請求項11】
前記金属膜を形成させる工程と、前記金属膜を酸化させて亜鉛フェライトめっき層を形成する工程とを繰り返すことを特徴とする請求項10記載の半導体基板の製造方法。
【請求項12】
前記反応液はFeCl及びZnClの混合液であることを特徴とする請求項10記載の半導体基板の製造方法。
【請求項13】
前記酸化液はNaNOであることを特徴とする請求項12記載の半導体基板の製造方法。
【請求項14】
前記亜鉛フェライトめっき層を形成する工程において、加熱ブロックにより前記基板の背面を接触加熱して前記膜形成部の温度を100℃以上で制御することを特徴とする請求項10記載の半導体基板の製造方法。
【請求項15】
前記反応液及び前記酸化液はそれぞれ前記基板の送り方向に沿って前記平皿の内部を流通させることを特徴とする請求項10記載の半導体基板の製造方法。
【請求項16】
ZnS及びFeSを含む半導体の製造方法であって、
亜鉛フェライトを還元処理する工程、及び、
前記還元処理を受けた亜鉛フェライトを硫化水素ガスに曝露する工程、
を備えることを特徴とするZnS及びFeSを含む半導体の製造方法。
【請求項17】
前記亜鉛フェライトを還元処理する工程が、前記亜鉛フェライトを水素を含むガスに曝露する工程であることを特徴とする請求項16記載の半導体の製造方法。
【請求項18】
前記ZnS及びFeSを含む半導体が、ZnS及びFeSの固溶体からなるp型半導体であることを特徴とする請求項16又は17に記載の半導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FeZnS系の半導体組成物からなる半導体基板、その製造方法及び半導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化鉄は、地球上に豊富に存在する元素であるFeとSからなり、自然界でもパイライト(黄鉄鉱)として広く存在している。かかる硫化鉄を化学量論組成からSを多く又は少なく調整すると、それぞれp型及びn型の導電性を示す固形半導体として機能することが知られている。また、硫化鉄に不純物を添加し導電性が得られることも知られている。
【0003】
ここまで、FeSのFeの一部をZnで置き換えたFe1-xZn(x=0~1)において、Fe:Zn比を2:1とするとき、0.5eV程度のバンドギャップを有することが知られており(例えば、非特許文献1の理論計算を参照)、かかるFeZnS系の半導体組成物が太陽電池をはじめとした各種光学機器の光吸収材の用途に好適であると考えられる。
【0004】
ところで、半導体としての二硫化鉄(FeS)の合成方法はいくつか提案されている。例えば、特許文献1では、硫黄(S)の融点よりも高い温度で、酸化第二鉄(Fe)、硫化水素(HS)及びSを反応させるFeSの製造方法が開示されている。また、特許文献2では、硫酸鉄(FeSO)の水和物と、チオ硫酸ナトリウム(Na)と、Sとを混合し、pHを1.0~7.0の範囲に調整して水熱処理するFeSの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2010-540387号公報
【特許文献2】特開2011-256090号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Jun Hu, Yanning Zhang, Matt Law, and Ruqian Wu;"Increasing the Band Gap of Iron Pyrite by Alloying with Oxygen"; Journal of the American Chemical Society 2012, 134, 32, 13216-13219
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
真空プロセスを用いた従来のSi系材料からなる半導体基板の製造方法に対して、FeZnS系の半導体組成物は、上記したようにウェットプロセスを用いて製造可能であり、コスト面、取り扱いやすさなどの点で製造性に優れるが、一方で、高温の熱処理が必要となる。このため、熱処理を不要又は比較的低温と出来れば、ウェットプロセスを活かして新たな半導体基板の提案も期待されるところである。
【0008】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、ウェットプロセスを用いて製造可能であり、FeZnS系の半導体組成物からなる半導体基板、その製造方法及び半導体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるZnS及びFeSを含む半導体層を含む半導体基板は、ZnとFeの組成を変化させてバンドギャップを調整可能であり、半導体基板としての産業上の利用可能性に富むものである。そして、ウェットプロセスを用いて製造可能であり、しかも、高温での熱処理が不要であるから、樹脂のような基板を用いることができて、製造面でのコスト面、取り扱いやすさに優れるだけでなく、大幅な軽量化も可能である。
【0010】
すなわち、本発明による半導体基板は、可撓性を有する基板の上に、ZnS及びFeSを含むp型半導体層を積層させて含むことを特徴とする。
【0011】
かかる特徴によれば、曲面などにも添付して用いることができ、応用性に富むのである。
【0012】
上記した発明において、前記p型半導体層はZnS及びFeSの固溶体からなることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、安定性に優れるとともに、固溶体の組成比からバンドギャップを広く調整し得て、応用性に富むのである。
【0013】
上記した発明において、前記p型半導体層の上にはZnOからなるn型半導体層を積層させて含むことを特徴としてもよい。また、前記n型半導体層の上には透明電極を積層させて含むことを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、安価な材料からp-n接続を構成でき、コスト面に優れるpn素子と出来るのである。
【0014】
上記した発明において、前記基板と前記p型半導体層との間には、Alからなる金属電極層を挿入されていることを特徴としてもよい。また、前記基板はPETからなることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、汎用的な材料を用いつつ、曲面などにも添付して用いることができ、応用性に富むのである。
【0015】
また、本発明による半導体基板の製造方法は、可撓性を有する基板の上に、ZnS及びFeSからなる半導体層を積層させた半導体基板の製造方法であって、前記基板の上に形成された亜鉛フェライトめっき層を、水素ガスに曝して水素還元処理の後に、硫化水素ガスに曝してZnS及びFeSの固溶体からなるp型半導体である前記半導体層を形成する工程を備えることを特徴とする。
【0016】
かかる特徴によれば、曲面などにも添付して用いることができる半導体基板を効率よく製造できるのである。
【0017】
上記した発明において、前記p型半導体層はZnS及びFeSの固溶体からなることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、安定性に優れるとともに、固溶体の組成比からバンドギャップを広く調整し応用性に富む半導体基板を効率よく製造できるのである。
【0018】
上記した発明において、帯状の前記基板を長手方向に送りつつ反応室を通過させて前記基板の上にZn1-xFe2+ Fe3+ (x=0~1)からなる前記亜鉛フェライトめっき層を形成する工程を備えることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、半導体基板を効率よく製造できるのである。
【0019】
上記した発明において、前記基板の膜形成部を上流から下流に送って平皿の上面開口の上に配置し、前記基板の前記膜形成部を前記平皿の内部に配置させる工程、前記平皿内にFe及びZnを含む反応液を充填し金属膜を形成させる工程、及び、前記反応液を酸化液に変えて前記金属膜を酸化させて亜鉛フェライトめっき層を形成する工程を備えることを特徴としてもよい。また、前記金属膜を形成させる工程と、前記金属膜を酸化させて亜鉛フェライトめっき層を形成する工程とを繰り返すことを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、平滑性に優れた半導体基板を効率よく製造できるのである。
【0020】
上記した発明において、前記反応液はFeCl及びZnClの混合液であることを特徴としてもよい。更に、前記酸化液はNaNOであることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、汎用材料を用いて、半導体基板を効率よく製造できるのである。
【0021】
上記した発明において、前記亜鉛フェライトめっき層を形成する工程において、加熱ブロックにより前記基板の背面を接触加熱して前記膜形成部の温度を100℃以上で制御することを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、半導体基板を安定かつ効率よく製造できるのである。
【0022】
上記した発明において、前記反応液及び前記酸化液はそれぞれ前記基板の送り方向に沿って前記平皿の内部を流通させることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、平滑性に優れた半導体基板を効率よく製造できるのである。
【0023】
また、本発明による半導体の製造方法は、ZnS及びFeSを含む半導体の製造方法であって、亜鉛フェライトを還元処理する工程、及び、前記還元処理を受けた亜鉛フェライトを硫化水素ガスに曝露する工程、を備えることを特徴とする。
【0024】
かかる特徴によれば、ZnS及びFeSを含む半導体を効率よく製造できるのである。
【0025】
上記した発明において、前記亜鉛フェライトを還元処理する工程が、前記亜鉛フェライトを水素を含むガスに曝露する工程であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、上記した半導体を安定して効率良く製造できる。
【0026】
上記した発明において、前記ZnS及びFeSを含む半導体が、ZnS及びFeSの固溶体からなるp型半導体であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、安定性に優れるとともに、固溶体の組成比からバンドギャップを広く調整し得て、応用性に富む半導体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明による半導体基板の断面図である。(a)はp型半導体基板、(b)p-n接合半導体基板である。
図2】本発明による半導体基板の製造フロー図である。
図3】本発明による半導体基板の製造装置の側面図である。
図4】本発明による半導体基板の製造装置の(a)要部の上面図及び(b)要部の側面図である。
図5】本発明による半導体基板の他の製造装置のブロック図である。
図6】本発明による製造方法を模した半導体基板のXRDプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明による1つの実施例としての半導体基板について説明する。
【0029】
図1(a)に示すように、半導体基板A1は、可撓性を有する、例えば、樹脂からなる基板10の上に、金属電極層12、及び、ZnS及びFeSを含むp型半導体層14を積層させてなる。後述するように、本実施例の半導体基板A1は水溶液プロセスを用いて製造され、真空プロセスや高温でのアニーリングプロセスを用いることなく製造可能である。そのため、樹脂のような低融点の材料からなる基板10を用いることができ、変形に対する柔軟性を有し、例えば、半導体基板A1は、曲面などにも添付して用いることができ得て、非常に応用性に富むことになるのである。なお、p型半導体層14は、必要に応じて不純物を添加されていてもよい。
【0030】
基板10は、可撓性を有する樹脂シート、例えば、PETからなる汎用樹脂シートが好ましい。また、可撓性を有する材料であれば、樹脂以外にも、金属、木材(合板)、紙、又は、セラミックスなどからなる材料を用い得る。その厚さは半導体素子として必要とされる機械的性質等に対して決定され得る。また半導体層の形成に水溶液プロセスを用いるため、基板10の積層表面側のぬれ性が検討されるが、p型半導体層14との間に金属電極層12を挿入させるため、少なくとも金属膜を付与できるものであればよい。
【0031】
金属電極層12は、パイライト(FeS)を主とするp型半導体層14との仕事関数の観点から、銀を好適には用い得るが、コストの面からアルミニウム又はその合金からなることも好ましい。かかる場合、基板10及び金属電極層12の間に正孔輸送層(HTL:Hole Transport Layer)を介挿させることも好ましい。
【0032】
p型半導体層14は、ZnS及びFeSを含むZnFeからなり、後述する亜鉛フェライト(ZnFe)を出発点とした製造方法においては、ZnS及びFeSの固溶体からなる。つまり、亜鉛フェライトの正スピネル構造中のZnOはAサイト(4配位)であり、ZnSは4配位ウルツ鋼型である。硫化水素処理工程(S32、図2を参照)では、ZnのO2-がS2-に交換されるが、このとき結晶構造は維持される。また、正スピネル中の2個のFe3+はBサイト6配位であり、パイライト(pyrite、FeS)のNaCl型と同じ面心立方であり、これもO2-がS2-に交換されても結晶構造は維持される。さらに、ZnS(硫化亜鉛)の格子定数aはa=0.542nmである一方、FeSの格子定数aもa=0.542nmで同一である。つまり、Zn2+とFe2+とは、ZnSとFeSの構造で結晶固体中に固溶できるのである。
【0033】
ここで、x=0.1,0.3,0.5となるように、3種類のZn1-xFe2+ Fe3+ 膜(約40nm厚さ)を用意し、後述するように、O2-をS2-に交換する反応を進めてパイライトへと変化させてp型半導体層14を形成させた。各膜を可視遠赤外吸収によりバンドギャップ測定したところ、それぞれ、0.8、0.6、0.4eVとなった。つまり、ZnS及びFeSの固溶体中のx値を変化させることで、可視から遠赤外領域の範囲でバンドギャップを変化させ得るのである。このように、半導体基板A1は、安定性に優れるとともに、固溶体の組成比からバンドギャップを広く調整し得て、応用性に富むのである。例えば、遠赤外領域にて発電を行う太陽電池の如きでは、可視光領域の光を透過させて、当該領域の波長の光で発電を行う他の太陽電池と重ねて組み合わせるような応用も可能である。
【0034】
更に、図1(b)に示すように、半導体基板A1を含む1つの実施例である半導体素子A2は、p型半導体層14の上に、p-n接続を構成するn型半導体層24、及び、金属電極層12と対をなす透明電極層22を積層させてなる。また、透明電極層22の上には、好ましくは、透明基板20を与えられる。
【0035】
n型半導体層24は、p型半導体層14とのp-n接続を構成できれば限定されるものではないが、典型的には、ZnOからなる。安価なn型半導体層24との組み合わせとして安価な材料であり、コスト面にも優れるのである。
【0036】
透明電極層22は、典型的には、ITO(酸化インジウム錫)のような公知の透明な導電膜を用い得る。
【0037】
透明基板20は、半導体素子A2の保護膜として機能するとともに、半導体基板A1以外の部分を製造後、半導体基板A1と接合させる場合に必要となり得る。これには、例えば、PETを用いることが好ましい。
【0038】
次に、上記した半導体基板A1の1つの実施例である製造方法について、図2に沿って説明する。なお、半導体基板A1の製造方法は、大きく分けて、亜鉛フェライト膜連続形成工程(S1)と、切断工程(S2)、パイライト形成工程(S3)との3段階の工程を経て与えられる。
【0039】
図3に示すように、亜鉛フェライト膜連続形成工程(S1)では、金属電極層12として蒸着膜を表面に与えられた帯状のPETフィルムからなる基板10を繰り出しロール41からガイドロール44aを介して長手方向に送出させながら、後述するように反応室53内部で一旦停止と移動とを繰り返した上で反応室53を連続的に通過させ、反応室53を通過後、ガイドロール44bを介して巻き取りロール43で巻き取っていく。反応室53では、その内部にある平皿55の上に沿って基板10が移動し加熱されつつ、金属電極層12の上に反応液及び酸化液からなるめっき液をこの順に塗布して反応させ、xを調整された所定の成分組成のZn1-xFe2+ Fe3+ からなる亜鉛フェライトめっき層を連続的に形成していく。
【0040】
より具体的には、反応室53の内部は、バルブ34aの開放によってガスタンク34からのArガス等の不活性ガスをパージされ、不活性ガス雰囲気とされる。そして、送出されてきた基板10を反応室53の内部にある平皿55の上面開口の上に配置し停止させる。平皿55の上に配置された基板10の更に上側には3つの加熱ブロック51a~51cが基板10の長手方向に一定間隔で並んで配置されており、それぞれ上下動を可能とされる。加熱ブロック51a~51cは、めっき液の流通などによっても温度が変動しづらいよう、熱容量を大とすることが好ましく、例えば、大理石からなる略直方体のブロックにヒーターを埋め込んで構成される。
【0041】
図4を併せて参照すると、加熱ブロック51a~51cのそれぞれの下方の平皿55内の位置が膜形成位置C1~C3となる。ここで、平皿55の上に送られてきた基板10は、その略長方形の領域である膜形成部を膜形成位置C1上に配置したところで停止される。つまり、膜形成部は加熱ブロック51aに対向する位置に配置される。ここで、加熱ブロック51aは、基板10の膜形成部を平皿55の内部の膜形成位置C1に配置させるよう下方に移動されて膜形成部を所定の圧力Pで押圧するようにされる。加熱ブロック51aは、あらかじめ加熱されて所定の温度とされており、基板10の膜形成部を加熱する。ここで、膜形成部において、上方の面(背面)には加熱ブロック51aが当接し接触加熱するが、加熱ブロック51aの熱容量が大きいため、膜形成部を安定かつ効率よく加熱できる。そして、基板10は、亜鉛フェライトめっき層を形成させる面(前面)、すなわち金属電極層12の形成されている面を下方に向けて送出されている。
【0042】
めっき液は、Fe及びZnを含む反応液と、反応液による前駆膜を酸化させる酸化液と、からなる。反応液は第1タンク31から第1バルブ31aを開放することによって平皿55に充填され、充填された状態を維持しつつ流通するように送出され、下側から金属電極層12に接触する(同図(b)矢印参照)。流通する反応液は、平皿55から外部に向けて排液バルブ33aの開放により排液タンク33へ排出される。反応液はさらに循環させて平皿55に流通させるようにしてもよい。これによって金属膜13を形成させてから、第1バルブ31aを閉じ反応液を排出させる。
【0043】
次に、酸化液は第2タンク32から第2バルブ32aを開放することによって平皿55に充填され、充填された状態を維持しつつ流通するように送出され、形成された金属膜13に接触し、金属膜13を酸化させる。これによって金属電極層12の上に亜鉛フェライトめっき層を形成させる。そして、加熱ブロック51aを上方に移動させて、酸化液を排出しつつ、亜鉛フェライトめっき層を形成された基板10を下流に送る。
【0044】
下流に送られた基板10は、さらに、膜形成部を膜形成位置C2に対応する位置で停止される。そして、加熱ブロック51bは、下方に移動されて膜形成部を所定の圧力Pで押圧しつつ膜形成位置C2に配置させ、接触加熱する。さらに、上記と同様に反応液、酸化液の順に流通させて塗布し、2層目の亜鉛フェライトめっき層を形成させる。さらに、同様に、基板10を下流に送って膜形成位置C3で3層目の亜鉛フェライトめっき層を形成させる。
【0045】
このようにすることで、基板10の膜形成部に膜形成位置C1~C3のそれぞれで1層ずつ、合計3層の亜鉛フェライトめっき層を形成させることができる。
【0046】
上記した動作を加熱ブロック51a~51cの3つを同時に稼働させて行うと、膜形成位置C1~C3のそれぞれで同時に亜鉛フェライトめっき層を形成させることができる。そして、膜形成位置C1で1層目、膜形成位置C2で2層目、膜形成位置C3で3層目の亜鉛フェライトめっき層を同時に形成させるように、動作を繰り返すのである。すると、基板10の最初の膜形成部から、上流側(紙面左側)の位置に3層の亜鉛フェライトめっき層を形成させた膜形成部を繰り返し等ピッチで得ることができる。このようにして、基板10に連続的に亜鉛フェライトめっき層を形成させることができる。
【0047】
典型的には、反応液はFeCl及びZnClの混合液、酸化液はNaNOの溶液を用いることで汎用材料から半導体基板を効率よく製造できるが、他の公知の液体材料であってもよい。また、典型的には、反応温度を60~150℃、好ましくは、100℃以上に制御することが好ましく、熱容量の大きい加熱ブロック51a~51cによる接触加熱を利用して温度調整することで、半導体基板を安定かつ効率よく製造できるのである。
【0048】
反応室53内で基板10を停止させる時間は、めっき層の厚さ、反応温度などを考慮して決定される。なお、平皿55に充填させるめっき液は、基板10の送り方向の上流側から下流側、すなわち膜形成位置C1側からC3側に向けて流通させるようにすることも好ましい。このようにすると、1層目を形成する膜形成位置C1側により新しいめっき液を供給できる。また、上記では加熱ブロック51a~51cの3つを設けたが、加熱ブロックの数を変えて、形成される亜鉛フェライトめっき層の数を変えてもよい。
【0049】
また、酸化液を用いることなく、反応液にて得られた前駆膜を空気酸化することも可能である。この場合、基板10に酸化液とともに空気を巻き込むように供給する。例えば、反応室53内で平皿55と基板10との間に搬送フィルムを基板10の送り速度よりも遅く又は早く送ることで、基板10と搬送フィルムの間に空気を巻き込むように酸化液とともに基板10に導くことを考慮できる。
【0050】
亜鉛フェライト膜形成工程(S1)にて巻き取りロール43で巻き取られた基板10は、切断工程(S2)において切断される。切断においては、膜形成部C1~C3のそれぞれを別個に分離するように基板10を長手方向に垂直な面で切断する。
【0051】
続く、パイライト形成工程(S3)では、亜鉛フェライト膜連続形成工程(S1)にて金属電極層12を与えられた基板10の上に形成された亜鉛フェライトめっき層のO2-をS2-に交換する反応を進めてパイライトへと変化させる。ここで、S2-への交換には、硫化水素で処理するが(硫化水素処理工程、S32)、かかる処理には、前処理としての還元処理(水素還元処理工程、S31)が必要となる。
【0052】
切断工程(S2)で切断された切断後基板は、別途用意された反応室に移送される。反応室では、亜鉛フェライトめっき層の表面に水素ガスを接触させて水素還元処理する水素還元処理工程(S31)、水素ガスの供給を停止して表面に硫化水素ガスを接触させてS2-イオンを内部に拡散させてFeS及びFeSを形成させる硫化水素処理工程(S32)、硫化水素ガスの供給を停止して保持しp型半導体とする保持工程(S22)を外気に曝されることなく一連で処理される。これにより、半導体基板をより効率よく製造できるのである。
【0053】
より詳細には、図5に示すように、反応チャンバー61は反応装置60に備えられる。反応装置60は、反応チャンバー61の内部に切断された切断後基板10aを略水平に載置できる棚62-1~62-4を備える。切断後基板10aは、棚62-1~62-4に亜鉛フェライトめっき層を上に向けて載置され、循環するガスに曝されるようにされる。また、反応装置60は、棚62-1~62-4のそれぞれに向けてガスを循環させるためのガス循環路63を備え、水素ガスを供給する水素タンク65及び硫化水素ガスを供給する硫化水素タンク66にそれぞれ水素ガスバルブ65a及び硫化水素ガスバルブ66aを介して接続される。ガス循環路63には、さらに、ガスを循環させるためのポンプ67と、外部にガスを排出させるためにポンプ67の下流側に配置される分岐に備えられる排気バルブ68と、この分岐の下流側に配置されて排気の際などにガスの流通を停止させるための停止バルブ69とを備える。
【0054】
つまり、水素還元処理工程(S31)では、ポンプ67を稼働させつつ水素ガスバルブ65aを開けることで、水素ガスを循環させて切断後基板10aに接触させることができる。また、水素ガスの供給を停止後、硫化水素処理工程(S32)では、ポンプ67を稼働させつつ硫化水素ガスバルブ66aを開けることで、硫化水素ガスを循環させて切断後基板10aに接触させることができる。
【0055】
ここで、反応チャンバー61内の水素ガスによる水素還元処理工程(S31)では、
Fe3+(δ‘)+O2-(1/2δ’)+H(δ‘)
=Fe2+(δ’)+V(O2-)(1/2δ‘)+δ’HO (式1)
の反応が進行する。ここで、δ’はFe3+の還元された成分比、V(O2-)はO2-を脱離させて生じた欠損サイトである。水素ガスは表面に沿って流通させることが好ましい。
【0056】
続いて、硫化水素処理工程(S32)では、水素ガスの供給を停止した後、亜鉛フェライト層の表面に硫化水素ガスを接触させてS2-イオンを内部に拡散させて表面近傍にFeS及びFeSを形成させる。ここで形成される被膜は酸素欠損亜鉛フェライトからなる。つまり、上記式1の水素ガスによる還元処理を受けて形成された酸素欠損化合物に硫化水素を反応させるが、その反応式は、次の式2及び式3(2つの反応が2eを介して進行する)で表される。
Fe2+(δ)+V(O2-)(1/2δ)+δHS+2e(δ)
=δFeS+δH (式2)
Fe2+(2δ)=Fe3+(2δ)+2e(δ) (式3)
【0057】
硫化水素処理工程(S32)の反応初期には、亜鉛フェライト層の表面近傍に黒色のFeSが形成され(式2)、同時に、表面近傍では水素ガスによる還元によって形成されたFe2+がFe3+に酸化される(式3)。かかる反応については、FeSの黒色の発色が反応途中に観測されることからも確認できる。
【0058】
保持工程(S33)では、硫化水素ガスの供給を停止しそのまま保持して、FeS及びFeSをZnS及びFeSの固溶体とする。硫化水素ガスに曝された被膜は、時間とともにZnFe皮膜であるp型半導体層14へと変化する。つまり、最初に成膜した亜鉛フェライト層の一部に、ZnS及びFeSの固溶体からなる半導体層が形成された半導体薄膜となるのである。
【0059】
ここで、反応の自由エネルギーΔGは、酸化物から硫化物へと変化する方向を示すが、反応の進行中、表面側を硫化物、内部側を酸化物とするような界面において、表面反応の自由エネルギーに依存するO2-とS2-の交換反応が進行する。式1のように、水素ガスによる水素還元処理を行っておいた場合、表面では水素ガスによってO2-イオンが脱離し内部との間に濃度勾配を生じて、O2-は内部から表面近傍へと移動することになる。また、界面(表面)では、O2-/S2-交換反応によってS2-が消費されるので、S2-は表面から内部方向へと移動するように拡散する。このO2-とS2-の交換反応では、元のZn1-xFe2+ xFe3+ 亜鉛フェライト相のスピネル構造中の金属イオンがそのサイトを移動しなくてもS2-イオンによる結晶の配位構造をそのまま維持し、ZnS及びFeSが混晶として1つの結晶構造を形成するのである。
【0060】
ここで、硫化水素処理工程(S32)では、式2および式3の反応がカップルして進行するが、更に、この反応に並行して次の反応が進行する。
FeS+HS=FeS+H (式4)
【0061】
式4の反応自由エネルギーは25~250℃の温度範囲においてマイナス(例えば、25℃で-41kJ/mol)であり、反応条件をこの温度範囲にすることで、上記した式1~3の反応式で形成されるFeS相から熱力学的かつ化学量論的な安定相となるx値を有するFeS相を合成することができるのである。
【0062】
なお、硫化水素ガスと水素ガスの混合ガスを供給することで、ZnS及びFeSの固溶体からなる半導体層を形成させてもよい。すなわち、水素還元処理工程(S31)及び硫化水素処理工程(S32)を単一の工程で行うのである。
【0063】
図6には、x=0.4としたZn0.6Fe2+ 0.4Fe3+ からなる亜鉛フェライト層(厚さ65nm)をPETフィルム上に与えた後、水素還元処理工程(S31)、硫化水素処理工程(S32)を模擬的に与えて得られたZnFe膜のXRDプロファイルを示した。なお、硫化水素処理工程(S32)では、120~150℃の範囲となるようして反応させた。このXRDプロファイルから判るように、未反応のフェライト相とともに、反応により形成されたZnS相、FeS相、FeS相が混在していることが判る。一方、保持工程(S33)を十分に与えると、単相の化合物となるが、Fe:Zn:S=0.4:2.6:2となり、化学量論的組成(Zn0.2Fe2.62.0)のFeS相(pyrite)となる。なお、水素還元処理工程(S31)を省略した場合、硫化水素処理工程(S32)において、少なくとも、120~150℃の温度範囲で処理しても、FeS相は形成されなかった。
【0064】
更に、半導体素子A2は、PETのような透明基板20の上に、ITOからなる透明電極層22及びZnOからなるn型半導体層24を積層させた多層構造体を用意し、上記した半導体基板A1のp型半導体層14に対して、n型半導体層24を合わせてp-n接続を構成して与え得る。
【0065】
なお、上記したような基板以外の形状のZnS及びFeSを含む半導体も同様に製造できる。すなわち、xを調整された所定の成分組成のZn1-xFe2+ Fe3+ からなる亜鉛フェライトを、例えば水素ガスに暴露するなどの還元処理を行う工程と、硫化水素ガスに曝露する工程とを経て、ZnS及びFeSを含む半導体を得るのである。上記と同様に得られた半導体は、例えば、ZnS及びFeSの固溶体からなるp型半導体であり、亜鉛フェライトの表層に形成される。
【0066】
以上、本発明による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれらの例に限定されるものではない。また、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0067】
10 基板
12 金属電極層
14 p型半導体層
20 透明基板
22 透明電極層
24 n型半導体層
31 第1タンク
32 第2タンク
41 繰り出しロール
43 巻き取りロール
44a、44b ガイドロール
53 反応室
55 平皿
51a~c 加熱ブロック
60 反応装置
61 反応チャンバー
62-1~4 棚
63 ガス循環路
65 水素タンク
66 硫化水素タンク66
67 ポンプ
A1 半導体基板
A2 半導体素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6