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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015622
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】硬帆を備えた船舶
(51)【国際特許分類】
   B63H 9/061 20200101AFI20240130BHJP
   B63H 9/10 20060101ALI20240130BHJP
   B63H 9/067 20200101ALI20240130BHJP
   B63B 15/02 20060101ALI20240130BHJP
   F16H 25/20 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
B63H9/061
B63H9/10 A
B63H9/06 A
B63B15/02 B
F16H25/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117816
(22)【出願日】2022-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】391058082
【氏名又は名称】株式会社名村造船所
(74)【代理人】
【識別番号】110004059
【氏名又は名称】弁理士法人西浦特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【弁理士】
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【弁理士】
【氏名又は名称】出山 匡
(72)【発明者】
【氏名】徳留 祐二
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AA42
3J062AB21
3J062AC07
3J062BA12
3J062CD02
3J062CD22
(57)【要約】
【課題】 大きな面積を有しつつ、小さな格納庫に格納することができる硬帆を備えた船舶を提供する。
【解決手段】 硬帆27を甲板上に突出させて風による推進力を得る使用時には、上端荷重保持部37及び駆動機構39からなる保持構造によって、延伸帆部33,35を帆本体31から幅方向WD外側に移動させて延ばし、硬帆27の幅方向WDの長さを延伸する。荷役時や嵐の時などに、硬帆27を格納庫29に格納する不使用時には、保持構造によって延伸帆部33,35を幅方向WD内側に移動させて帆本体31内に収納し、幅方向の長さを縮小することができる。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
風を受けて推進力を発生し、使用時には甲板上において垂直方向に突出し、不使用時には前記甲板下に設けられた格納庫に格納される硬帆と、前記硬帆を上下方向に昇降させる昇降装置を有する1以上の風力推進装置を備えた船舶であって、
前記風力推進装置は、前記硬帆が固定されて前記昇降装置によって昇降される装置本体を備え、
前記硬帆は、前記装置本体に支持された帆本体と、該帆本体から幅方向に延びる延伸帆部と、前記帆本体に前記延伸帆部を幅方向に移動可能に保持させる保持構造を備えており、
前記保持構造は、前記甲板上に前記硬帆が出ているときには、前記延伸帆部を前記幅方向外側に移動可能に保持し、前記硬帆を前記格納庫に収納するときには、前記延伸帆部を前記幅方向内側に移動可能に保持することを特徴とする硬帆を備えた船舶。
【請求項2】
前記保持構造は、
前記帆本体の上端近くに配置され、前記延伸帆部を前記帆本体から吊り下げるように、前記延伸帆部の荷重を保持する上端荷重保持部と、
前記延伸帆部を前記幅方向に移動させる力を前記延伸帆部に与える駆動機構を備えていることを特徴とする請求項1に記載の硬帆を備えた船舶。
【請求項3】
前記駆動機構は、前記延伸帆部の移動過程において少なくとも一時的に、前記延伸帆部の前記荷重の少なくとも一部を保持する請求項2に記載の硬帆を備えた船舶。
【請求項4】
前記駆動機構は、前記帆本体に対して回転可能に固定されて前記幅方向に延びるネジ付きロッド部材と、前記延伸帆部に対して少なくとも前記ネジ付きロッド部材の軸方向について固定されており、且つ前記ネジ付きロッド部材に螺合されたナット部材と、前記ネジ付きロッド部材を回転駆動して前記ナット部材を前記ネジ付きロッド部材に沿って前記幅方向に移動させる駆動源とを備えている請求項3に記載の硬帆を備えた船舶。
【請求項5】
前記ナット部材は、前記ネジ付きロッド部材の上半分と螺合する半割ナット部材である請求項4に記載の硬帆を備えた船舶。
【請求項6】
前記駆動機構は、前記帆本体に固定され、前記ネジ付きロッド部材の全長に亘って、前記ネジ付きロッド部材のネジ山の外径と同一サイズの内径であり、平滑な半円筒形状の内周面を有する支持溝が設けられた支持部材を更に備えている請求項5に記載の硬帆を備えた船舶。
【請求項7】
前記延伸帆部が完全に延伸した状態における前記帆本体及び前記延伸帆部からなる硬帆全体の水平断面形状の輪郭が弧状を呈する形を有しており、
前記半割ナット部材は、前記ネジ付きロッド部材の軸線方向に位置する前記延伸帆部の先端側の端部に連結構造を介して移動可能に固定され、
前記連結構造は前記ネジ付きロッド部材の軸線と交差して水平方向に延びる仮想線に沿って所定の範囲内で前記延伸帆部が前記半割ナット部材に対して移動可能なように、半割ナット部材と前記延伸帆部とを連結する構造を有する請求項4に記載の硬帆を備えた船舶。
【請求項8】
前記連結構造は、前記半割ナット部材の上部から上方向に突設された円柱部と、前記延伸帆部の下端近くに設けられ、前記円柱部が移動可能に嵌合し、前記ネジ付きロッド部材の軸線と交差して水平方向に延びる仮想線に沿って所定の長さを有する長孔部を備えている請求項7に記載の硬帆を備えた船舶。
【請求項9】
前記上端荷重保持部は、
前記帆本体の上端近くを幅方向に延びるガイドレールと、
前記延伸帆部に対して回転可能に設けられて前記ガイドレールの転動面上を転動する1以上の転動体とを備えている請求項2乃至8のいずれか1項に記載の硬帆を備えた船舶。
【請求項10】
前記帆本体の幅方向の両側に一対の前記延伸帆部が配置されており、
前記帆本体と前記一対の延伸帆部は、前記帆本体の内部に前記一対の延伸帆部が収納されるようにそれぞれ構成されている請求項1乃至8のいずれか1項に記載の硬帆を備えた船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硬帆を備えた船舶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バルク船等の大型船舶は、大量の化石燃料を消費するため、CO2の排出源となっている。化石燃料の消費を抑えるため、大型船舶に硬帆を設け、推進力を補助して、CO2の排出を削減する試みが進められている。特許第5828409号公報(特許文献1)に開示の船舶では、甲板上に複数の硬帆を設置し、風力を用いて、補助的に推進力を得るようにしている。図17には、甲板の下に配置された上下方向に延びる昇降装置によって硬帆が上下動して格納庫に収納され、暴風時や荷役時に対応する格納構造が開示されている。また、最大の推進力を得るために、硬帆の面積は最大限広いことが好ましい。実開昭61-187800公開実用新案公報(特許文献2)には、操船に必要な視界やレーダ探知範囲を確保するために硬帆の高さを抑える代わりに、硬帆を水平方向に伸縮可能として面積を十分に広くとれるようにした硬帆が開示されている。硬帆は油圧シリンダ機構を利用して伸縮させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5828409号公報
【特許文献2】実開昭61-187800公開実用新案公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
甲板の下に設けられる硬帆の格納庫は、船体の重量や剛性等の設計に影響し、船舶の積載量を限定するので、そのサイズは可能な限り小さい方が有利である。しかし格納庫が小さくなれば、格納される硬帆の面積も小さくなり、十分な推進力を得られない。特許文献2に記載の硬帆のように硬帆を水平方向に延ばすことができれば、甲板上における硬帆の面積を大きくすることは可能である。しかしながら特許文献2には、レーダ探知の際にレーダ探知の障害にならない範囲まで硬帆の幅寸法を短くするという発想が開示されているだけで、硬帆を甲板下に設けた格納庫に収納すること及び収納する際に生じる問題は開示も示唆もない。
【0005】
本発明の一つの目的は、大きな面積を有しつつ、小さな格納庫に格納することができる硬帆を備えた船舶を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、延伸時に硬帆が歪んで変形するのを防止でき、又は最小限の設定範囲内に抑えることができる硬帆を備えた船舶を提供することにある。
【0007】
本発明のさらに他の目的は、延伸及び縮小が短時間でスムーズに実行可能な硬帆を備えた船舶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明が対象とする船舶は、風を受けて推進力を発生し、使用時には甲板上において垂直方向に突出し、不使用時には甲板下に設けられた格納庫に格納される硬帆と、硬帆を上下方向に昇降させる昇降装置を有する1以上の風力推進装置を備えた船舶である。
【0009】
本発明では、風力推進装置は、硬帆が固定されて昇降装置によって昇降される装置本体を備え、硬帆は、装置本体に支持された帆本体と、帆本体から幅方向に延びる延伸帆部と、帆本体に延伸帆部を幅方向に移動可能に保持させる保持構造とを備えている。本発明においては、保持構造が、甲板上に硬帆が突出しているときには、延伸帆部を幅方向外側に移動可能であり、硬帆が格納庫に収納される際には、延伸帆部を幅方向内側に移動可能に保持する。
【0010】
本発明においては、硬帆は、不使用時には装置本体が下降した位置にあって甲板下に設けられた格納庫に格納されている。硬帆を使用する時には装置本体を上昇させて硬帆が甲板上において垂直方向に突出させた後に、保持構造によって、延伸帆部を帆本体から幅方向外側に移動させて幅方向の長さを延伸することにより、硬帆の面積を大きくする。硬帆を格納する際には、装置本体を下降させる前に、保持構造により延伸帆部を幅方向内側に移動させて、格納庫に格納可能なように硬帆全体の幅方向の長さを縮小する。その後、装置本体を下降させて、硬帆を格納庫に格納する。よって本発明によると、大きな面積の硬帆を小さな格納庫に格納することができ、これにより、船舶の構造や積載量を制限することなく、十分な推進力を実現することができる。
【0011】
保持構造は、帆本体の上端近くに配置され、延伸帆部を帆本体から吊り下げるように保持する上端荷重保持部と、延伸帆部を幅方向に移動させる力を延伸帆部に与える駆動機構を備えていてもよい。
【0012】
このように延伸帆部を帆本体から吊り下げるように保持することにより、特に硬帆が大型の場合に(例えば延伸帆部を延伸して、幅25m以上、高さ8m以上の場合)、延伸帆部を幅方向外側に延ばしたときに、延伸帆部が自重で帆本体に対して傾いた状態になって、延伸帆部が帆本体に対して偏った力を加えることを阻止することができる。その結果、硬帆の歪みや変形を防止または最小限に抑えつつ、延伸帆部をスムーズに移動させることができる。
【0013】
荷重保持部は1つの延伸帆部に対し複数備えることもできるが、硬帆全体の重量がその分増加するので、好ましくは上端近くに1つである。同じ理由で駆動機構も1つであることが好ましい。また荷重保持部が駆動機構を含んでいてもよいが、帆本体の重心が高くなり、硬帆の構造や強度に関する制限が生じる。従って駆動機構は、帆本体の下端近くに配置されることが好ましい。
【0014】
駆動機構は、延伸帆部をスムーズに移動させるために、延伸帆部の荷重を負荷しないように設計することもできるが、延伸帆部の移動過程において少なくとも一時的に、延伸帆部の荷重の少なくとも一部を保持するように構成してもよい。例えば、荷重保持部が延伸帆部を幅方向外側に延ばしきった後、帆本体の下端近くに配置された駆動機構をさらに駆動することにより、延伸帆部が帆本体に対して垂れ下がるのを、下方から持ち上げるようにして防止又は補正する。
【0015】
駆動機構は、帆本体に対して回転可能に固定されて幅方向に延びるネジ付きロッド部材と、延伸帆部に対して少なくともネジ付きロッド部材の軸方向について固定されており、且つネジ付きロッド部材に螺合されたナット部材と、ネジ付きロッド部材を回転駆動してナット部材をネジ付きロッド部材に沿って幅方向に移動させる駆動源とを備えていてもよい。
【0016】
このようなナット部材とネジ付きロッド部材との組み合わせからなる駆動機構は、油圧シリンダと比べて小型且つ安価に構成することができる上、延伸帆部の停止位置を細かく調整することができ、しかも位置の固定のために外部からエネルギー(油圧)を供給し続ける必要がなく、経済的であるという利点が得られる。
【0017】
ナット部材は、ネジ付きロッド部材の上半分と螺合する半割ナット部材であってもよい。半割ナット部材を採用することにより、延伸帆部の移動中にネジ付きロッド部材と螺合する部分に偏荷重が生じても、駆動機構により延伸帆部が下方に引っ張られて変形したり歪んだりすることがなく、ネジ山の固着やネジ山の変形も生じにくくなり、駆動機構の耐久性を高めることができる。
【0018】
駆動機構は、帆本体に固定され、ネジ付きロッド部材の全長に亘って、ネジ付きロッド部材の下半分のネジ山と接触する半円筒形状の支持溝が設けられた支持部材を更に備えていていてもよい。支持部材はネジ付きロッド部材を下方から支持し、半割ナット部材を介して延伸帆部の荷重がかかった場合には、ネジ付きロッド部材を支持して湾曲を防止し、ネジ付きロッド部材の破損や駆動機構の作動停止等を回避することができる。また支持溝に潤滑油を溜めることにより、半割ナット部材とネジ付きロッド部材との間の摩擦を容易に長時間に亘り軽減することができる。
【0019】
帆本体及び延伸帆部からなる硬帆全体の水平断面形状の輪郭が弧状(翼型)を呈する形を有しているのが空気力学上有利である。この場合、半割ナット部材は、ネジ付きロッド部材の軸線方向に位置する延伸帆部の先端側の端部に連結構造を介して移動可能に固定されていてもよい。連結構造はネジ付きロッド部材の軸線と交差して水平方向に延びる仮想線に沿って所定の範囲内で延伸帆部が半割ナット部材に対して移動可能なように、半割ナット部材と延伸帆部とを連結する構造を有しているのが好ましい。このような連結構造を採用すれば、直線状のネジ付きロッド部材にナット部材を螺合させても、延伸帆部を弧状の軌跡を描きながらスムーズに移動させることができる。
【0020】
連結構造は、半割ナット部材の上部から上方向に突設された円柱部と、延伸帆部の下端近くに設けられ、円柱部が移動可能に嵌合し、ネジ付きロッド部材の軸線と交差して水平方向に延びる仮想線に沿って所定の長さを有する長孔部を備えた構造とすることができる。このような連結構造であれば、半割ナット部材をネジ付きロッド部材に沿って直線的に移動させても、相対的に見て円柱部が長孔部内を移動することにより、延伸帆部は弧の軌跡を描いて移動することができる。したがって直線的な動きをするネジ付きロッド部材とナット部材からなる駆動機構を用いても、弧の軌跡を描くように、延伸帆部を移動させることができる。ネジ付きロッド部材の垂直な半径方向についても、適当な遊びを設けて、円柱部が長孔内を大きな抵抗なく移動できるようにしてもよい。
【0021】
上端荷重保持部は、帆本体の上端近くを幅方向に延びるガイドレールと、延伸帆部に対して回転可能に設けられてガイドレールの転動面上を転動する1以上の転動体とを備えていてもよい。このようなガイドレールと転動体との組み合わせは、比較的軽量且つ単純な構成で、延伸帆部の荷重を吊り下げるように保持することができる。
【0022】
帆本体の幅方向の両側に一対の延伸帆部が配置されており、帆本体と一対の延伸帆部は、帆本体の内部に一対の延伸帆部が収納されるようにそれぞれ構成されていてもよい。このように延伸帆部を帆本体の内部に収納することにより、延伸帆部を縮小した硬帆の厚さ(前後方向の長さ)を最小に抑え、これにより硬帆の格納庫のサイズも小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明を適用することができる硬帆を備えた船舶の一例である、ばら積み貨物船の斜視図である。
図2図1のばら積み貨物船の左側面図(右舷側から見た側面図)である。
図3図1のばら積み貨物船の平面図である。
図4】第7船倉~第9船倉が設けられた船体の後方部分を示した図である。
図5】(A)は図5(B)に示した本実施の形態の船舶で用いる風力推進装置のA-A線断面図であり、(B)は表装パネルを透明なものとして内部の構造を見えるようにした縮小状態の硬帆の正面図であり、(C)は図5(B)のC-C線断面図である。
図6】(A)は図6(B)に示した本実施の形態の船舶で用いる風力推進装置のA-A線断面図であり、(B)は表装パネルを透明なものとして内部の構造を見えるようにした延伸状態の硬帆の正面図であり、(C)は図6(B)のC-C線断面図である。
図7】(A)及び(B)はそれぞれ、図5の縮小状態の硬帆におけるトロリー近辺の構造を拡大して示す拡大平面図と拡大正面図であり、(C)及び(D)はそれぞれ、駆動機構近辺の構造を示す拡大正面図と拡大C-C線断面図である。
図8】(A)(B)及び(C)はそれぞれ、図6(A)(B)及び(C)の延伸状態の硬帆の3箇所の主要部分の構造を示すために拡大した図である。
図9図6(B)のIX-IX線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の船舶の実施の形態を詳細に説明する。図1乃至図4を用いて本発明が適用可能な船舶の一例の構成を説明する。図1乃至図4に示した構造では、本発明の構成において必須要件である延伸帆部の保持構造は図に示されていない。図2は、図1のばら積み貨物船の左側面図(右舷側から見た側面図)であり、図3は、平面図である。また図4は、後述する第7船倉~第9船倉が設けられた船体の後方部分の一部切り欠き斜視図である。
【0025】
<全体構成>
図1の本実施の形態のばら積み貨物船1は、船舶の安全性確保のための規則を定める多国間条約「海上における人命の安全のための国際条約(International Convention for the Safety of Life at Sea)(SOLAS条約)」の対象となる、全長55m以上の大型船舶である。ばら積み貨物船1は、船体3の進行方向FDの一方の端部に船首5を有し、他方の端部に船尾7を有し、船体3上に甲板(上甲板)9を有している。ばら積み貨物船1は、船体3内が複数の区画に区切られており、甲板9の下に、図4に一部を示すように、貨物を積載する船倉11(第1船倉11A~第9船倉11I)が形成されている。なお、図1には、第1船倉~第9船倉が内部に存在する位置に、符号11A~11Iを付してある。第1船倉11A~第9船倉11Iのそれぞれは、甲板9に開口した開口部13A~13Iと、開口部13A~13Iの周囲を取り囲む縁材(ハッチコーミング)15A~15Iと、船体の幅方向WDにスライドし、開口部13A~13Iを閉じるハッチカバー17A~17Iを備えている。船尾7には、船橋19と、レーダマスト21と、煙突23が設けられている。
【0026】
本実施の形態のばら積み貨物船1は、8台の風力推進装置25として硬帆装置を備えている。本実施の形態では、具体的には、8台の風力推進装置25は、8台の硬帆装置25A~25Hである。8台の硬帆装置25A~25Hは、それぞれ風力推進力発生部である硬帆27A~27Hを備えている。図1乃至図3では、硬帆装置25A~25Hは、使用状態にあり、甲板9上において上下方向VD上方向きに硬帆27A~27Hが突出した状態になっている。8台の硬帆装置25A~25Hは、船舶の進行方向FDに並ぶ2つの船倉11の間(例えば、第1船倉11Aと第2船倉11Bの間、第2船倉11Bと第3船倉11Cの間・・・)に配置された格納庫(29A~29H)とセットになっている。なお図1には、格納庫が存在する位置に符号29A~29Hを付してある。後述のように、硬帆27A~27Hは、甲板9下に設けられた格納庫29A~29H内に格納可能な構成となっている。
【0027】
<硬帆装置の昇降機構>
図4には、第7船倉11G~第9船倉11Iが設けられた船体3の後方部分を示してある。図示したように、第7船倉11Gと第8船倉11Hの間や、第8船倉11Hと第9船倉11Iの間には、船倉同士を隔てる隔壁(30A~30H)が設けられている。なお図4には、隔壁30Gと隔壁30Hを示してあり、その他の図には隔壁30A~30Fは図示していない。この隔壁30A~30Hは、船舶の進行方向に間隔をあけて並ぶ2枚の隔壁板によって構成されている。この2枚の隔壁板の間に硬帆を収納する格納庫29が設けられている。
【0028】
図4には全ては図示していないが、第1船倉11Aと第2船倉11Bの間には格納庫29A、第2船倉11Bと第3船倉11Cの間には格納庫29B・・・というように、船体3には計8個の格納庫29A~29H(図1参照)が設けられており、それぞれが硬帆装置25A~25Hとセットになっている。図4に示した例では、硬帆27Gは、格納庫29Gから出された使用状態であり、硬帆27Hは、格納庫29H内に格納された不使用状態である。必要に応じて硬帆を格納庫内に収納することができるため、風力が航行の妨げになる場合は全ての硬帆を格納庫に格納する事で通常の船舶として航行可能であり、また港にて硬帆を格納庫に格納すれば、硬帆が荷役クレーンの妨げにならない。
【0029】
以下では、説明の便宜上、特に区別する必要がある場合を除き、格納庫は符号29、硬帆は符号27、風力推進装置は符号25として説明し、他の格納庫、硬帆及び風力推進装置については、説明を省略する。
【0030】
格納庫29は、船体3の幅方向WD、上下方向VD及び進行方向FDに延びる形状をしている。風力推進装置25は、風力推進力発生部である硬帆27と、硬帆27が固定された装置本体45(図5(B)、図6(B)に示す)と、装置本体45に繋いだワイヤを巻き上げ、巻き下ろして硬帆27を上下方向に昇降させる昇降装置(図示せず)とを備えている。装置本体45は、硬帆27を回転可能に支持する軸構造部49と、該軸構造部49を回動させる回動駆動源を含んだ駆動装置(図示せず)を備えている。
【0031】
<硬帆の拡張>
本実施の形態においては、図1に示す8枚の硬帆のうち後方の硬帆27D~27Hは、それぞれ幅方向WD(軸構造部49の回転により船舶の幅方向WDから角度が変化した場合も含む)の長さが伸縮する構造を有している。具体的には、図5以下に示すように、軸構造部49の支持する帆本体31の内部に一対の延伸帆部33,35を収納している。甲板9上に硬帆27を突出した状態で、一対の延伸帆部33,35を幅方向WDの両方の外側に延ばすことにより、風を受ける硬帆27の面積を拡張させる。
【0032】
なお本実施の形態における硬帆27D~27Hは、各図に示すようにそれぞれサイズが異なるが、延伸帆部を延ばした後の幅方向WDの長さは38.2m、上下方向VDの高さは8.4m~14.3mである。
【0033】
図5及び図7は縮小した状態で表装パネル及び骨材を透明なものして示した硬帆全体及び各部の図を示し、図6図8及び図9は同じ硬帆の延伸した状態の表装パネル及び骨材を透明なものして示した硬帆全体及び各部の図を示している。
【0034】
風力推進装置25は、硬帆27と、硬帆27が固定されて、昇降装置によって昇降される装置本体45を備えている。硬帆27は、装置本体45に軸構造部49を介して支持された帆本体31と、帆本体31から幅方向WD外側の両方に延びる2つの延伸帆部33,35と、帆本体31に延伸帆部33,35を幅方向WDに移動可能に保持させる保持構造とを備えている。保持構造は、甲板9上に硬帆27が出ているときにおいて、延伸帆部33,35を幅方向WDのそれぞれ左右向き外側に移動可能に保持し、また硬帆27を格納庫29に収納する際には、延伸帆部33,35を幅方向WDのそれぞれ左右向き内側に移動可能に保持する。
【0035】
保持構造は、帆本体31の上端近くに配置され、延伸帆部33,35を帆本体31から吊り下げるように保持する上端荷重保持部37と、延伸帆部33,35を幅方向WDに移動させる力を延伸帆部33,35に与える駆動機構39を備えている。
【0036】
帆本体31は幅方向の両端が開口する箱形状を有しており、帆本体31の両端部から延伸帆部33,35が挿入されている状態になっている。すなわち帆本体31の内部に延伸帆部33,35が幅方向に移動可能に配置されている。上端荷重保持部37は、図8及び図9に示すように、帆本体31の上端近くを幅方向WDに延びるガイドレール61と、延伸帆部33,35に対して回転可能に設けられてガイドレール61の転動面上を転動する複数のトロリーホイール63とを備えている。図9に示すように、帆本体31の上端天板部31Aには、ガイドレール61が幅方向に延びるように固定されている。梁渡されている。ガイドレール61は図9に示すようにI形鋼であり、上下のフランジ611,612のうち下方のフランジ612の上面がトロリーホイール63の転動面となる。
【0037】
延伸帆部33,35は、帆本体31の内部に位置する一方の端部に開口部を有する箱形状を有している。そして帆本体31の内部に位置する延伸帆部33,35の上端天板部33A,35A上には、トロリーホイール63が固定されている。トロリーホイール63は、ガイドレール61のフランジ612上に2個のホイール部が配置される構造を有しており、ホイールがガイドレール61のフランジ612上を回転しながら移動する。このようなガイドレール61とトロリーホイール63との組み合わせは、比較的軽量且つ単純な構成で、延伸帆部33,35をガイドレール61に吊り下げた状態で保持することを可能にする。
【0038】
図8に示すように、トロリーホイール63は、延伸帆部33,35の帆本体31側の端部にそれぞれに備えられている。本実施の形態では、ガイドレール61とトロリーホイール63とにより、上端荷重保持部37が構成されている。トロリーホイール63のホイール部はガイドレール61のウェブ614を挟んだ両側に、幅方向に2個並んで、計4個が配置されている。トロリーホイール63を含むトロリーとしては、例えば既製の30トン定格のものを用いることができる。
【0039】
ガイドレール61は、横断面形状が弧状を呈する帆本体31の内部をスライドできるように湾曲している。ガイドレール61は、帆本体31の幅方向全体に亘り一本で構成されており、帆本体31のビームを兼ねている。ガイドレール61の両端にはストッパー(図示せず)が備えられており、トロリーホイール63が幅方向WD外側に移動していくと、ストッパーに突き当たって停止し、それ以上の移動が制限される。
【0040】
駆動機構39は、帆本体31の底壁部31Bに沿って配置されて、底壁部31Bに対して回転自在に固定された2本のネジ付きロッド部材411,412と、2本のネジ付きロッド部材411,412と、2本のネジ付きロッド部材411,412に螺合する2つの半割ナット部材43と、2本のネジ付きロッド部材411,412を回転駆動する駆動装置51とを備えている。半割ナット部材43,43は、延伸帆部33,35の底壁部35Bの帆本体31側の端部に固定されている。半割ナット部材43,43は、ネジ付きロッド部材411,412の雄ネジ部にそれぞれ螺合される雌ネジ部を備えており、ネジ付きロッド部材411,412をそれぞれ回転駆動すると、半割ナット部材43,43はネジ付きロッド部材411,412に沿って幅方向WDにそれぞれ移動する。
【0041】
図8(B)に示すように、駆動装置51は、駆動モータ511と、上下方向VD上向きに延びる駆動モータ511の駆動軸に固定された駆動側ベベルギア512と、駆動側ベベルギア512を挟んで対向して配置され、それぞれ駆動側ベベルギア512に噛合し、それぞれネジ付きロッド部材411,412に固定されて、駆動側ベベルギア512に従って回転する従動側ベベルギア513,514からなる。
【0042】
このような半割ナット部材43とネジ付きロッド部材411,412との組み合わせを含む駆動機構39は、油圧シリンダと比べて小型且つ安価に構成することができる上、延伸帆部33,35の停止位置を細かく調整することができる。しかも位置の固定のために外部からエネルギー(油圧)を供給し続ける必要がなく、経済的である。
【0043】
ネジ付きロッド部材411,412の軸線は、軸構造部49からほぼ幅方向WDに沿って外側に水平方向に延びる。図6(C)に示されているように、ネジ付きロッド部材411,412の軸線は、硬帆27の水平断面形状の輪郭が弧状であることに対応して、僅かに進行方向FD後方向き(船尾7に近づく方向向き)に傾斜している。他の実施の形態においては、ネジ付きロッド部材411,412の軸線の向きは、硬帆のサイズに応じて、幅方向WDと一致してもよく、あるいはより本実施の形態よりも大きく傾斜していてもよい。
【0044】
本実施の形態において、半割ナット部材43は、対応するネジ付きロッド部材411,412の上半分と螺合する。半割ナット部材を採用することにより、延伸帆部33,35の移動中にネジ付きロッド部材411,412と螺合する部分に偏荷重が生じても、駆動機構39により延伸帆部33,35が下方に引っ張られて変形したり歪んだりすることがなく、ネジ山の固着やネジ山の変形も生じにくくなり、駆動機構39の耐久性を高めることができる。
【0045】
図9及び図8(B)によく示されているように、駆動機構39は、ネジ付きロッド部材411,412に沿って延び且つ帆本体31の底壁部31Bに固定された細長い一対の支持部材53を更に備えている。支持部材53,53には、ネジ付きロッド部材411,412の全長に亘って延び、ネジ付きロッド部材411,412のネジ山の外径と同一サイズの内径を有する、平滑な半円筒形状の内周面(横断面形状が半円形形状の面)を備えた支持溝53Aが設けられている。支持部材53,53は、ネジ付きロッド部材411,412を下方から支持し、2つの半割ナット部材43を介して延伸帆部33,35の荷重がかかった場合に、ネジ付きロッド部材411,412を下方から支持してネジ付きロッド部材411,412が曲がることを防止して、ネジ付きロッド部材411,412の破損や駆動機構39の作動停止等の不具合の発生を回避する。支持溝53Aには潤滑油を溜めることにより、2つの半割ナット部材43とネジ付きロッド部材411,412との間の摩擦を軽減するようにしている。
【0046】
前述のように、帆本体31及び延伸帆部33,35からなる硬帆27全体の水平断面形状の輪郭が弧状(翼型)を呈する形を有しているので、本実施例の硬帆は空気力学上有利である。2つの半割ナット部材43は、ネジ付きロッド部材411,412の軸線方向に位置する延伸帆部33,35の先端側の端部に連結構造58を介して移動可能に固定されている。連結構造58はネジ付きロッド部材411,412の軸線と交差して水平方向に延びる仮想線PLに沿って所定の範囲内で延伸帆部33,35が半割ナット部材43に対して移動可能なように、半割ナット部材43と延伸帆部33,35とを連結する構造を有している。このような連結構造58を採用すれば、直線状のネジ付きロッド部材411,412に半割ナット部材43を螺合させても、延伸帆部33,35を弧状の軌跡を描きながらスムーズに移動させることができる。
【0047】
具体的な連結構造58は、図8(B)及び(C)に示すように、半割ナット部材43の上部から上方向に突設された円柱55と、延伸帆部33,35の下端近くに設けられて、円柱55が移動可能に嵌合し、仮想線PLに沿って所定の長さを有する長孔57を備えている。長孔57は、延伸帆部33,35の下端の最も内側に固定されたプレート59に設けられている。
【0048】
このような連結構造58であれば、半割ナット部材43をネジ付きロッド部材411,412に沿って直線的に移動させても、相対的に見て円柱55が長孔57を移動することにより(物理的には、長孔57を備えたプレート59が円柱55に対して移動することにより)、延伸帆部33,35は弧の軌跡を描いて移動することができる。したがって直線的な動きをするネジ付きロッド部材411,412と半割ナット部材43からなる駆動機構を用いても、弧の軌跡を描くように、延伸帆部33,35を移動させることができる。
【0049】
本実施の形態の硬帆を延伸する際には、上端荷重保持部37により延伸帆部33,35の荷重を支えた状態で、帆本体31の下端近くに配置された駆動機構39のネジ付きロッド部材411,412を駆動することにより、延伸帆部33,35が帆本体31に対して幅方向WDに移動する。
【0050】
本実施の形態においては、帆本体31の幅方向WDの両側に一対の延伸帆部33,35が配置されており、帆本体31と一対の延伸帆部33,35は、帆本体31の内部に一対の延伸帆部33,35が収納されるようにそれぞれ構成されていている。このように延伸帆部33,35を帆本体31の内部に収納することにより、延伸帆部33,35を縮小した硬帆の厚さ(進行方向FDの長さ)を最小に抑え、これにより硬帆27の格納庫29のサイズも小さくすることができる。
【0051】
<動作>
次に、本実施の形態の動作について説明する。
【0052】
本実施の形態の硬帆を備えたばら積み貨物船1は、港に停泊中の荷役時には、作業に支障がないように、硬帆27が、図5に示す延伸帆部33,35を縮小した状態で、甲板9下の格納庫29内に格納されている。
【0053】
ばら積み貨物船1が出港して外洋に至り、風力推進装置25を使用して推進力を得ようとする際には、昇降装置47により装置本体45を上昇させて、硬帆27を甲板9上に突出させる。
【0054】
次に駆動機構39を駆動してネジ付きロッド部材411,412を回転させると、ネジ付きロッド部材411,412に螺合していた半割ナット部材43が幅方向WD外側に移動する。半割ナット部材43は円柱55と長孔57とを介して半固定されている延伸帆部33,35を幅方向WD外側に移動させる。同時に上端荷重保持部37のトロリーホイール63がガイドレール61の転動面上を転動し、上端荷重保持部37は延伸帆部33,35を吊り下げて荷重を支持しながら、幅方向WD外側に移動する。
【0055】
トロリーホイール63がストッパーに当接すると、上端荷重保持部37は停止し図6に示す硬帆27を延伸した状態となる。
【0056】
硬帆27を延ばした後は軸構造部49を回転させて、風向きに応じて進行方向FDへの推進力が最大になるように角度を調整し、風による補助推進力を得て、ばら積み貨物船1を航行させる。
【0057】
硬帆27を格納する際には、駆動機構39を駆動してネジ付きロッド部材411,412を逆に回転させ、半割ナット部材43を幅方向WD内側に移動させると、上端荷重保持部37も従動し、延伸帆部33,35が縮小して、帆本体31内に収納され、図5に示す状態に戻る。その後、昇降装置47により装置本体45を下降させて、硬帆27を格納庫29に格納する。
【0058】
よって本実施の形態の硬帆27を備えたばら積み貨物船1によると、大きな面積の硬帆27を小さな格納庫29に格納することができ、十分な推進力を実現することができる。
【0059】
特に本実施の形態においては、延伸帆部33,35を帆本体31のガイドレール61とトロリーホイール63を備えたトロリーからなる上端荷重保持部37により吊り下げるように保持することにより、特に硬帆27が大型の場合に、延伸帆部33,35を幅方向WD外側に延ばしたときに、延伸帆部33,35が自重で帆本体31に対して傾いた状態になって、延伸帆部33,35が帆本体31に対して偏った力を加えることを阻止することができる。その結果、硬帆の歪みや変形を防止または最小限に抑えつつ、延伸帆部33,35をスムーズに移動させることができる。
【0060】
上記実施の形態は、一例として記載したものであり、その要旨を逸脱しない限り、本発明は本実施の形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、使用時には延伸帆部を帆本体から幅方向外側に移動させて幅方向の長さを延伸することにより、大きな面積を実現しつつ、不使用時には延伸帆部を幅方向内側に移動させて幅方向の長さを縮小することにより、小さな格納庫に格納することができる硬帆を備えた船舶を提供することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 ばら積み貨物船
3 船体
5 船首
7 船尾
9 甲板(上甲板)
11(11A~11I) 船倉
13(13A~13I) 開口部
15(15A~15I) 縁材
17(17A~17I) ハッチカバー
19 船橋
21 レーダマスト
23 煙突
25(25A~25H) 風力推進装置(硬帆装置)
27(27A~27H) 風力推進力発生部(硬帆)
29(29A~29H) 格納庫
31 帆本体
33,35 延伸帆部
37 上端荷重保持部
39 駆動機構
411,412 ネジ付きロッド部材
43 半割ナット部材
45 装置本体
47 昇降装置
49 軸構造部
51 駆動装置
511 駆動モータ
512 駆動側ベベルギア
513,514 従動側ベベルギア
53 支持部材
55 円柱
57 長孔
58 連結構造
59 プレート
61 ガイドレール
63 トロリーホイール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9