IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 土屋 仁司の特許一覧

特開2024-156226天体追尾システム及び天体追尾制御プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156226
(43)【公開日】2024-11-05
(54)【発明の名称】天体追尾システム及び天体追尾制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04N 23/695 20230101AFI20241028BHJP
   H04N 5/222 20060101ALI20241028BHJP
   G03B 15/00 20210101ALI20241028BHJP
   G03B 17/00 20210101ALI20241028BHJP
   G03B 17/56 20210101ALI20241028BHJP
【FI】
H04N23/695
H04N5/222 100
G03B15/00 P
G03B17/00 B
G03B17/56 A
G03B17/56 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070523
(22)【出願日】2023-04-23
(71)【出願人】
【識別番号】723004772
【氏名又は名称】土屋 仁司
(72)【発明者】
【氏名】土屋 仁司
【テーマコード(参考)】
2H105
5C122
【Fターム(参考)】
2H105AA12
2H105AA13
2H105AA14
2H105AA17
5C122EA66
5C122GD04
5C122GD06
5C122HA88
5C122HB01
5C122HB06
5C122HB10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】撮影視野が回転しない、低コストで使いやすい天体追尾システムを提供する。
【解決手段】天体追尾システムは、撮像装置であるスマートフォン1を設置し、撮像装置の光軸を水平方向に回転する水平回転軸21と、撮像装置の光軸を垂直方向に回転する第2の垂直回転軸22と、撮像装置の光軸を回転軸とする光軸周りの回転軸23とを有する電子ジンバル2と、電子ジンバルに水平回転軸の回転と、垂直回転軸の回転と、光軸周りの回転軸の回転と、を制御して撮像装置の光軸が天体の日周運動を追尾するように回転させる回転制御部25と、を有する。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像装置を設置し、前記撮像装置の光軸を水平方向に回転する第1の回転機構と、前記撮像装置の光軸を垂直方向に回転する第2の回転機構と、前記撮像装置の光軸を回転軸とする第3の回転機構とを有する架台と、
前記架台の第1の回転機構の回転と、前記第2の回転機構の回転と、前記第3の回転機構の回転とを制御して前記撮像装置の光軸が天体の日周運動を追尾するように回転させる制御端末とで構成される天体追尾システム。
【請求項2】
請求項1に記載の制御端末は、
地球の自転の角速度を前記撮像装置が位置している緯度に基づいて自転水平成分ωと自転垂直成分ωとに分割する水平垂直成分分割ステップと、
前記自転水平成分を、前記撮像装置の光学系の光軸が向いている方位方向の成分ωhzと、水平面上で前記光軸が向いている方位と直行する方向の成分ωalとに分割する方位成分分割ステップと、
前記撮影撮像の光軸が向いている方位方向の成分ωhzを、前記撮像装置の光軸が向いている仰角の余弦で除算して前記撮像装置の光軸周りの角速度である光軸角速度ωrollを算出する光軸角速度算出ステップと、
前記方位成分分割ステップで求められた、光軸が向いている方位と直行する方向成分ωalを高度角速度として算出する高度角速度算出ステップと、
前記自転垂直方向成分ωから、光軸周りの角速度角速度ωrollに前記撮像装置の仰角の正弦を乗算して求められる角速度ωvzを減算して方位角角速度ωazを算出する方位角角速度算出ステップと、を有し、
前記方位角角速度ωazに基づいて、前記第1の回転機構を制御し、
前記高度角速度ωalに基づいて、前記第2の回転機構を制御し、
前記光軸角速度ωrollに基づいて、前記第3の回転機構を制御することを特徴とする請求項1に記載の天体追尾システム。
【請求項3】
請求項1に記載の制御端末は、
地球の自転の角速度を前記撮像装置が位置している緯度に基づいて自転水平成分ωと自転垂直成分ωとに分割する水平垂直成分分割ステップと、
前記自転水平成分を、前記撮像装置の光学系の光軸が向いている方位方向の成分ωhzと、水平面上で前記光軸が向いている方位と直行する方向の成分ωalとに分割する方位成分分割ステップと、
前記撮影撮像の光軸が向いている方位方向の成分ωhzを、前記撮像装置の光軸が向いている仰角の余弦で除算して前記撮像装置の光軸周りの角速度である光軸角速度ωrollを算出する光軸角速度算出ステップと、
前記光軸角速度ωrollに基づいて、前記第3の回転機構を制御し、
前記撮像装置の光軸がある時点において向いている赤経及び赤緯から時間経過と共に、前記赤経及び赤緯に対応する方位及び高度を算出し、
前記撮像装置の光軸が、前記方位及び高度を向くように、第1の回転機構および第2の回転機構を制御することを特徴とする請求項1に記載の天体追尾システム。
【請求項4】
前記制御端末は、自身が位置する地点の緯度を取得する緯度取得部と、
前記撮像装置の光軸が向いている方向の方位角を取得する方位取得部と、
前記撮像装置の光軸の仰角を取得する仰角取得部と、をさらに有し、
前記緯度取得部で取得した緯度と、前記方位取得部で取得した方位角と、前記姿勢検出部で取得した仰角(高度)とに基づいて、前記架台の第1の回転機構と、第2の回転機構と、第3の回転機構と、を制御することを特徴とする請求項1に記載の天体追尾システム。
【請求項5】
請求項1記載の制御端末は、被写体像を撮影して画像データを生成する撮像部をさらに有し、前記架台に設置することを特徴とする請求項1に記載の天体追尾システム。
【請求項6】
撮像装置を設置し、前記撮像装置の光軸を水平方向に回転する第1の回転機構と、前記撮像装置の光軸を垂直方向に回転する第2の回転機構と、前記撮像装置の光軸を回転軸とする第3の回転機構とを有する架台の前記各回転機構を制御するプログラムであって、
前記架台に設置された前記撮像装置の光軸が天体を追尾するように制御するための天体追尾パラメータ算出ステップと、
前記天体追尾パラメータ算出ステップで算出された結果に基づいて、記架台の第1の回転機構の回転を制御する方位角追尾ステップと、
前記天体追尾パラメータ算出ステップで算出された結果に基づいて、前記架台の第2の回転機構の回転を制御する高度追尾ステップと、
前記天体追尾パラメータ算出ステップで算出された結果に基づいて、前記架台の第3の回転機構の回転を制御する視野回転追尾ステップと、を有する天体追尾制御プログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天体の日周運動に追尾しながら撮影する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラの高感度特性の高性能化により手軽に天体の写真を撮影出来るようになった。天体写真には、天体と風景を同じ画角内に収める星景写真や、星座などを主な被写体とする星空写真などがある。
【0003】
天体を撮影する場合、撮影感度を上げたり、露光時間を長くしたりして明るく撮影を行うが、撮影感度を上げるとノイズが増加して画質が低下し、露光時間を長くすると天体の日周運動の影響で天体の像が流れて、天体を点で捉えられなくなる。
【0004】
一般的に天体を点として撮影するのに適したシャッター速度は、500ルールと呼ばれる目安があり、500を撮影光学系の焦点距離(35mm換算焦点距離)で除算した秒数以内にする必要があると言われている。しかしながら、前述のシャッター速度では天体によっては十分な明るさが確保できない場合が多い。
このため、低ノイズで明るく天体を撮影するためには、天体追尾撮影という撮影手法が用いられる。
【0005】
天体追尾撮影とは、カメラの撮影視野(または撮影光学系の光軸)を天体の日周運動に追従させて撮影する方法で、一般的には赤道儀を用いる。この他、簡易的に経緯台を用いる方法もある。
【0006】
赤道儀とは、図4Aに示したように、地軸に対して平行に回転軸を設置し、地球の自転(以降、自転と略す場合がある)による回転を打ち消すように、回転させる。赤道儀に設置されたカメラの光軸は、所定の赤経及び赤緯を追従し続けることになり、結果として天体に追尾して撮影できる。しかしながら、赤道儀は回転軸を地軸に平行に設置する難易度の高い調整が必要であり、また、高価であることが難点である。
【0007】
一方経緯台は、方位方向の回転軸と、高度方向の回転軸の2軸で天体を追尾する方法である。ある地点で、ある時間に見える天体の方位及び高度は、天体の赤経及び赤緯から求めることができる。例えば、非特許文献1に示したような方法がある。従って、特定の赤経及び赤緯が見える方位及び高度を、時間ごとに求め経緯台の方位及び高度を追従させることで天体に追尾した撮影が行える。
【0008】
しかしながら、経緯台は天体を追従するに従い撮影視野が回転してしまう問題がある。従って、長時間天体を追尾しながら撮影すると、撮影視野の周辺部が視野の回転の影響を受けて、天体を点で撮影できなくなる問題がある。また、従来の天体が見える方向を算出する方法では、撮影視野の回転量まで求めることが出来ず、別途複雑な演算により求める必要がある。
【0009】
以上の様な問題から、本願出願人は、特許文献1において、カメラの手ぶれ補正機能を用いて撮影視野を天体の日周運動に追尾させつつ撮影視野の回転も合わせてする方法を提案している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】天体の位置計算(長沢 工 著:ISBN978-4-8052-0225-8)
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO-A-2021/044585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、カメラの手ぶれ補正機能を用いた天体追尾撮影では以下の様な問題がある。
一つ目の問題点として、天体を追尾可能な時間に制限がある。これは、カメラ向きは変化しないため、手ぶれ補正機構で撮影視野の変更可能な範囲を超えて天体を追尾することは出来ないためである。
【0013】
二つ目の問題点として、天体の追尾時間が長くなるほど撮影視野周辺部の天体が点で捉えられなくなる問題がある。一般的な撮影レンズは中心射影という射影方式が採用されている。中心射影の光学系では、カメラの回転による像への影響が、撮影視野周辺部ほど大きくなる特徴がある。しかしながら、手ぶれ補正による撮影視野の移動量は撮影視野内全域において同じである。従って、手ぶれ補正で天体に追尾しても撮影視野周辺部では補正移動量が不足して補正残りが生じ、結果として撮影視野周辺部の天体が点で捉えられなくなる。
【0014】
三つ目の問題点として、特許文献1の方法では、カメラ内に天体追尾に対応するための特別な構成が必要である。従って、特許文献1で提案した機能を搭載したカメラでしか天体追尾撮影が出来ない。
【0015】
一方近年、電子ジンバル(電子スタビライザ)といった製品が広がりつつある。電子ジンバルとは、カメラを設置する携帯用の架台で、水平垂直及び光軸周りの三つの回転軸を持ち、手ぶれを補正して安定した映像の撮影を支援する機材である。
【0016】
この電子ジンバルは、水平に設置することで、方位と高度を変更する経緯台と同様の機能を有する上に、光軸周りの回転ができる。従って、天体に追尾しながら撮影視野の回転を補正することも使用可能である。しかしながら、特許文献1で開示した天体追尾パラメータの算出方法は、そのままでは経緯台に適用できない。
【0017】
本発明は上記問題点に着眼しなされたものであり、天体追尾撮影に電子ジンバルを経緯台として用いることで、上述した従来技術の様々な問題点を解決し、従来の経緯台に無い撮影視野の回転の補正を可能にする。さらに、従来の方式と比較して手軽で低価格な天体追尾システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
以上の述べた課題を解決するために、本発明の天体追尾システムの第1の様態は、撮像装置を設置し、前記撮像装置の光軸を水平方向に回転する第1の回転機構と、前記撮像装置の光軸を垂直方向に回転する第2の回転機構と、前記撮像装置の光軸を回転軸とする第3の回転機構とを有する架台と、前記架台の第1の回転機構の回転と、前記第2の回転機構の回転と、前記第3の回転機構の回転とを制御して前記撮像装置の光軸が天体の日周運動を追尾するように回転させる制御端末とで構成される。
【0019】
本発明の天体追尾システムの第2の様態は、第1の様態の特徴に加えて、制御端末は、地球の自転の角速度を前記撮像装置が位置している緯度に基づいて自転水平成分ωと自転垂直成分ωとに分割する水平垂直成分分割ステップと、前記自転水平成分を、前記撮像装置の光学系の光軸が向いている方位方向の成分ωhzと、水平面上で前記光軸が向いている方位と直行する方向の成分ωalとに分割する方位成分分割ステップと、前記撮影撮像の光軸が向いている方位方向の成分ωhzを、前記撮像装置の光軸が向いている仰角の余弦で除算して前記撮像装置の光軸周りの角速度である光軸角速度ωrollを算出する光軸角速度算出ステップと、前記方位成分分割ステップで求められた、光軸が向いている方位と直行する方向成分ωalを高度角速度として算出する高度角速度算出ステップと、前記自転垂直方向成分ωから、光軸周りの角速度角速度ωrollに前記撮像装置の仰角の正弦を乗算して求められる角速度ωvzを減算して方位角角速度ωazを算出する方位角角速度算出ステップとを有し、前記方位角角速度ωazに基づいて、前記第1の回転機構を制御し、前記高度角速度ωalに基づいて、前記第2の回転機構を制御し、前記光軸角速度ωrollに基づいて、前記第3の回転機構を制御することを特徴とする。
【0020】
本発明の天体追尾システムの第3の様態は、第1の様態の特徴に加えて制御端末は、地球の自転の角速度を前記撮像装置が位置している緯度に基づいて自転水平成分ωと自転垂直成分ωとに分割する水平垂直成分分割ステップと、前記自転水平成分を、前記撮像装置の光学系の光軸が向いている方位方向の成分ωhzと、水平面上で前記光軸が向いている方位と直行する方向の成分ωalとに分割する方位成分分割ステップと、前記撮影撮像の光軸が向いている方位方向の成分ωhzを、前記撮像装置の光軸が向いている仰角の余弦で除算して前記撮像装置の光軸周りの角速度である光軸角速度ωrollを算出する光軸角速度算出ステップと、前記光軸角速度ωrollに基づいて、前記第3の回転機構を制御し、前記撮像装置の光軸がある時点において向いている赤経及び赤緯から時間経過と共に、前記赤経及び赤緯に対応する方位及び高度を算出し、前記撮像装置の光軸が、前記方位及び高度を向くように、第1の回転機構および第2の回転機構を制御することを特徴とする。
【0021】
本発明の天体追尾システムの第4の様態は、本発明の第1の様態の特徴に加えて、前記制御端末は、自身が位置する地点の緯度を取得する緯度取得部と、前記撮像装置の光軸が向いている方向の方位角を取得する方位取得部と、前記撮像装置の光軸の仰角を取得する仰角取得部と、をさらに有し、前記緯度取得部で取得した緯度と、前記方位取得部で取得した方位角と、前記姿勢検出部で取得した仰角(高度)とに基づいて、前記架台の第1の回転機構と、第2の回転機構と、第3の回転機構とを制御することを特徴とする。
【0022】
本発明の天体追尾システムの第5の様態は、本発明の第1の様態の特徴に加えて、前記制御端末は、被写体像を撮影して画像データを生成する撮像部をさらに有し、前記架台に設置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の天体追尾システムによれば、撮像装置の機能に関係なく、撮影視野が回転しない天体追尾撮影ができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1A】第1の実施形態の天体追尾システムの外形の一例の正面(被写体側)視を示す外形図
図1B】第1の実施形態の天体追尾システムの外形の一例の背面(操作画面側)視を示す外形図
図1C】第1の実施形態の天体追尾システムの外形の一例の側面視を示す外形図
図2A】撮影高度方向の一例を示す外形図
図2B】撮影方位方向の一例を示す外形図
図3】経緯台に設置された望遠鏡システムの一例を示す外形図
図4A】地球の自転と撮影地点における地球の自転の水平角速度成分と垂直角速度成分を示す図
図4B】水平角速度成分と撮影方位の角速度成分と撮影方位と直行する方向の角速度成分の関係を示す図
図4C】水平角速度成分の撮影方位方向の角速度成分と垂直方向の角速度成分と撮影方向の角速度成分の関係を示す図
図5A】第1の実施形態の天体追尾パラメータ算出手順の一例を示すフローチャート図
図5B】第1の実施形態の変形例の天体追尾パラメータ算出手順の一例を示すフローチャート図
図6A】第1の実施形態の制御端末の機能の構成の一例を示すブロック図
図6B】第1の実施形態の回転制御部の機能の構成の一例を示すブロック図
図7】第1の実施形態の撮影時の手順の一例を示すフローチャート図
図8A】第2の実施形態の天体追尾システムの外形の一例の正面視を示す外形図
図8B】第2の実施形態の天体追尾システムの外形の一例の側面視を示す外形図
図9】第2の実施形態の撮影前の初期設定の手順の一例を示すフローチャート図
図10】第2の実施形態の天体追尾システムの制御端末の操作画面の一例を示す図
図11】第2の実施形態の変形例の天体追尾システムの外形の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0025】
<従来の天体追尾方法>
本発明の天体追尾システムの説明に先立ち、従来の経緯台での天体追尾方法について説明する。
図3は、経緯台に設置された望遠鏡システムの一例を示す外形図である。
天体望遠鏡3は、接眼レンズ31を備え、接眼レンズ31を覗くことで天体を観察できる。天体望遠鏡3は、経緯台4に設置され、経緯台4は、方位角回転軸41と、高度回転軸42とを備え、外部制御により方位回転軸41と高度回転軸42とを、天体の日周運動に追従するように回転することで、目標の天体が望遠鏡3の視野外に移動することなく観察できる。
【0026】
この時、目標の天体の赤経及び赤緯から、観測地点の緯度と、経度と、時間から、目標の天体が見える方位角と高度が算出される。従って、時間の経過と共に、目標の天体の方位角と高度を算出し、算出結果から経緯台の方位回転軸41と、高度回転軸42と、を回転させることで天体を追尾できる。
【0027】
前述したような既存の経緯台では、天体望遠鏡3の光軸周りの回転に追従できないため、天体望遠鏡3の視野内に捉えている天体は、時間の経過に伴い視野の中心を回転軸として回転することになる。このような視野の回転は、天体の観察が目的の場合には特に問題では無いが、接眼レンズ31にカメラを設置して撮影を行う場合は、視野の回転により視野端部の天体が流れた画像になる。
【0028】
このような視野の回転が生じないようにするためには、赤道儀を使用する必要があるが、赤道儀は、極軸合わせといった高度な調整技術が必要で、さらに高価であるといった問題がある。
【0029】
<本発明の天体追尾方法概要>
一方本発明の天体追尾方法について簡単に説明する。
カメラの撮影地点及び撮影方向から地球の自転の影響を、水平軸周りの角速度と、垂直軸周りの角速度と、カメラの光軸周りの角速度として求めて、その角速度を打ち消すように、電子ジンバルの3つの回転軸を回転させる。
地球の自転の影響を打ち消すことで、結果的にカメラの光軸が天体を追尾することになる。
【0030】
<各実施形態共通:天体追尾パラメータ算出手順>
以降に図4A図4Cと、図5Aを用いて、天体追尾パラメータ算出手順と原理を説明する。天体追尾パラメータとは、地球の自転の影響による高度角速度(水平軸を回転軸とする角速度)と、方位角角速度(垂直軸を回転軸とする角速度)と、カメラの光軸を回転軸とする角速度である。
図5Aは天体追尾パラメータ算出手順を示すフローチャート図である。
【0031】
<天体追尾パラメータ算出手順:自転角速度の水平垂直成分分割S1>
天体追尾パラメータ算出を開始すると先ず、自転水平垂直成分分割S1を実行する。
図4Aは、地球の自転とある地点における地球の自転の水平角速度成分と垂直角速度成分を示す図である。撮影地点における地球の自転の影響は、地軸と平行な軸を回転軸とする回転で、回転の角速度ωrotは、約0.004167dps(degree per second)である。
【0032】
地球上の撮影地点から天体(地球外の被写体)を撮影する場合、地球の自転による回転によりカメラの光軸の向きが回転する。また、地表面の回転による移動で光軸が平行移動する。天体を撮影する場合、天体は無限遠のため撮影倍率がほぼゼロになり光軸の平行移動による影響は無い。従って、地球の自転による回転の影響だけを除去出来ればよい。
【0033】
図4Aはある緯度における自転角速度の水平角速度成分ωと、垂直角速度成分ωの関係を示す図である。
撮影地点における緯度θlatを用いて、北向きの水平角速度成分ωが以下式で算出できる。
【数1A】
同様に、垂直角速度成分ωは、以下式で求められる。
【数1B】
【0034】
<天体追尾パラメータ算出手順:方位成分分割S2>
次に、方位成分分割S2で撮影方位の角速度成分ωhzを求める。
図4Bは、水平角速度成分ωと、撮影方位の角速度成分ωhzと、撮影方位と直行する方向の角速度成分ωalの関係を示す図である。
【0035】
自転水平角速度成分ωは、北方向を向いているが(南半球の場合は南で自転角速度は負の値)、カメラが向いている撮影方位方向を回転軸とする撮影方位の角速度成分ωhzと、水平面上で前記の撮影方位方向と直行する方向を回転軸とする撮影方位と直行する方向の角速度成分ωalとに分割される。
【0036】
撮影方位方向とは、図2Bに示すように、撮像部11の撮像光学系の光軸が向いている方向で、撮影光学系の光軸を水平面上に投影した線であらわされる。撮影方位角θazは北を0°として、例えば時計周りで、北方向への水平面上の線と、撮影方位を表す線とがなす角度である。
図4Bで説明したように、撮影方位方向を回転軸とする角速度成分ωhzは、数2の式により算出できる。
【数2】
【0037】
<天体追尾パラメータ算出手順:光軸角速度算出S3>
次に、光軸角速度算出S3でカメラの光軸周りの角速度である光軸角速度ωrollが算出される。
図4Cは、撮影方位の角速度ωhzと、垂直方向の角速度成分ωと、光軸角速度ωrollの関係を示す図である。
光軸角速度ωrollは、撮影方位の角速度ωhzと、光軸周りの角速度の垂直方向の角速度成分ωvzに分割される。
図4Cで示したように、撮影方位の角速度ωhzに対応する光軸角速度ωrollは、撮影高度θalを用いて、数3の式により算出できる。
撮影高度θalとは、図2Aに示したように、撮像部11の撮影光学系の光軸と水平面がなす角度である。
【数3】
【0038】
<天体追尾パラメータ算出手順:高度速度算出S4>
次に、高度角速度算出S4で、高度角速度ωalを算出する。
図4Bに示すように、撮影方位と直行する方向を回転軸とする角速度は、地球の自転によりカメラに生じる高度角速度ωalである。
以上からカメラが向いている撮影方位θazを用いて、数4の式から高度方向角速度ωalが算出できる。
【数4】
【0039】
<天体追尾パラメータ算出手順:方位角角速度算出S5>
次に、方位角角速度算出S5で方位角角速度ωazを算出する。
方位角角速度ωazは、図4Cに示したように、自転角速度の垂直方向成分ωから、光軸周りの角速度の垂直方向角速度成分ωvzを除いた値である。
従って、光軸角速度ωrollに対応する垂直方向の角速度成分ωvzは、数5Aにより算出される。
【数5A】
【0040】
以上から、方位角角速度ωacは、数5Bにより算出される。
【数5B】
【0041】
以上述べたように算出された、方位角角速度ωacと、高度角速度ωalと、光軸周りの角速度ωrollとが天体追尾パラメータとなる。
以上のように、天体に追尾するためのパラメータ(方位角角速度および高度角速度)や、天体追尾に伴う撮影視野の回転量を比較的簡易な三角関数を用いて算出することができるので、従来のような天体の見える方向を計算する複雑な計算式を利用する必要がなくなるので、演算に使用する演算器の性能を抑えることができ、システムのコストを抑えることができる。また、従来の経緯台にない視野の回転の補正が可能になる。
【0042】
<第1の実施形態:概要>
第1の実施形態は、請求項1と、請求項2と、請求項4と、請求項5と、請求項6に対応している。請求項中の撮像装置及び制御端末は、スマートフォン1が対応し、請求項中の架台は、電子ジンバル2が対応している。
電子ジンバル2にスマートフォン1が設置され、スマートフォン1は電子ジンバル2を制御してスマートフォン1の撮像部11の撮影視野が、天体の日周運動を追尾するように動かす。従って、スマートフォンで撮影された天体は日周運動の影響を受けず点で撮影される。
【0043】
<第1の実施形態:外形>
図1A図1B及び図1Cは、第1の実施形態の天体追尾システムの外形を示す外形図である。
図1Aは正面視で、被写体(天体側)から見た外形図である。
図1Bは背面視で、操作パネル側から見た外形図である。
図1Cは側面から見た外形図である。
【0044】
第1の実施形態の天体追尾システムは、制御端末でありカメラ(撮像装置)であるスマートフォン1と、スマートフォン1の架台となる電子ジンバル2とで構成される。
【0045】
<第1の実施形態:構成 スマートフォン>
スマートフォン1は、撮像部11と、表示パネル12とを備えている。
撮像部11は、被写体像を撮影して画像データを生成する。
表示パネル12は、カメラ11で撮影された映像を表示したり、電子ジンバル2をコントロールする画面を表示したりする。また、表示パネル12は、タッチパネルが構成され、利用者がタッチ操作をすることで、撮像部11の撮影動作をコントロールしたり、電子ジンバル2の向きを変更したりできる。
【0046】
<第1の実施形態:構成 電子ジンバル>
電子ジンバル2は、水平回転軸21と、垂直回転軸22と、光軸周りの回転軸23と、グリップ24と、回転制御部25と、固定機構26とを備えている。
電子ジンバル2には、固定機構26で挟み込むようにしてスマートフォン1が固定されている。
【0047】
電子ジンバル2が備える各回転軸(水平回転軸21、垂直回転軸22、光軸周りの回転軸23)は、同じ構造でもよく、回転軸の向く方向が異なる。各回転軸には、内部にモータが備えられて、電子ジンバル2本体内部の回転制御部25からの指示により回転する。モータは例えばステッピングモータなど回転量を正確にコントロールできるモータが望ましい。
【0048】
水平回転軸21は、設置された撮像装置を、電子ジンバル2のヨー方向に回転させる。垂直回転軸22は、設置された撮像装置を、電子ジンバル2のピッチ方向に回転させる。光軸周りの回転軸23は、設置された撮像装置の光軸周りに撮像装置を回転させる。
グリップ24は利用者が支持するために握る部分である。
また、グリップ24の下部には、三脚に固定するための三脚穴241が備えられている。
【0049】
利用者は、電子ジンバル2に撮像装置を設置して、グリップ24を支持してスマートフォン1で撮影する。電子ジンバル2は、利用者の動きにより生じる回転運動を検出して、回転運動を打ち消すように、電子ジンバル2の各回転軸を回転させる。前述の制御は、電子ジンバル2本体内部の回転制御部により行われる。以上により、利用者が歩行したりしてカメラが揺れても安定した映像が撮影される。
【0050】
本発明の天体追尾システムでは、電子ジンバル2は三脚に三脚穴241により接続されて水平を合わせて設置される。電子ジンバル2は固定されるため、各回転軸は、揺れを打ち消す回転は行われず、地球の自転を打ち消す回転を行う。
なお、電子ジンバル2は、3軸の回転軸を持つ架台であればよく、携帯できる必要は無い。
【0051】
<第1の実施形態:制御端末の構成 スマートフォン内部構成>
図6Aは、スマートフォン1の機能の構成を示すブロック図である。
スマートフォン1は、撮像部11と、UI(User Interfaceの略称)12iと、CPU(Central Processor Unit)13と、緯度取得部14と、方位取得部15と、姿勢検出部16と、通信部A17と、記録部18とを有する。
【0052】
<第1の実施形態:スマートフォン内部構成 撮像部>
撮像部11は、被写体像を撮影して画像データを生成する。
【0053】
<第1の実施形態:スマートフォン内部構成 UI>
UI12iは、表示パネル12の表面にタッチセンサが一体で備えられる。表示パネルは例えば、LCD(Liquid Crystal Display)、TFT(Thin Film Transistor)、有機EL(Electro Luminescence)などがある。
【0054】
利用者は、表示パネル12に表示される被写体像で撮影画角を把握したり、表示されたスイッチの位置にタッチしたりすることで、撮影や電子ジンバル2のコントロールなど様々な動作が行われる。
UI12iは、表示と操作が一体である必要はなく別体として構成されてもよいし、ボタンなどにより構成されてもよい。
【0055】
<第1の実施形態:スマートフォン内部構成 CPU>
CPU13は、スマートフォン1の全体の様々な制御を行う。
本発明に関わる制御としては、緯度取得部14、方位取得部15、姿勢検出部16からの検出結果を利用して、天体追尾パラメータを算出する。
また、算出したパラメータを、通信部A17を経由して、電子ジンバル2に回転の指示を行う。また、撮像部11に指示をして撮影を行ったり、撮影された画像を記録部18に記録したりする。
【0056】
<第1の実施形態:スマートフォン内部構成 緯度取得部>
緯度取得部14は、例えばGPS(Global Positioning Service)でありスマートフォン1が位置する場所の緯度を取得する。緯度取得部14は、GPSを有する外部端末から取得するようにしてもよいし、UIにより利用者が入力するようにしてもよい。
【0057】
<第1の実施形態:スマートフォン内部構成 方位取得部>
方位取得部15は、例えば方位センサであり、撮像部11の光学系が向いている方位を検出する。方位取得部15は、電子ジンバル2に設置されたカメラに方位を検出する機能がある場合には、カメラから取得するようにしてもよいし、UI12iを経由して利用者が入力するようにしてもよい。
【0058】
方位センサは、地磁気を検出して方位を算出する。
地磁気には、磁気偏角という誤差があり、真北と磁北は一致しない場合がある。本発明の天体追尾システムでは、真北からの方位が必要なため、方位センサでは多少の誤差が生じる。磁気偏角は場所により変化し、既知の値である。近年のスマートフォンでは、真北の検出が可能なものも登場している。また、方位に多少の誤差が生じても広角から標準域(35mm換算焦点距離で概ね70mm以下の焦点距離)までの撮影では撮影画像への影響は軽微である。
【0059】
<第1の実施形態:スマートフォン内部構成 姿勢検出部>
姿勢検出部16は、例えば加速度センサで、重力の方向を検出することでスマートフォン1の姿勢を検出する。第1の実施形態の天体追尾システムでは、撮像部11の撮影光学系の光軸の仰角、つまり撮影高度を取得する。姿勢取得部15は、電子ジンバル2に設置されたカメラから撮影高度を取得してもよいし、UI12iを経由して利用者が入力するようにしてもよい。
【0060】
<第1の実施形態:スマートフォン内部構成 通信部A>
通信部A17は、例えば、Wifi(登録商標)や、Bluetooth(登録商標)などの一般的な無線通信を用いて、電子ジンバル2と通信を行いCPUからの回転指示を送信する。なお、通信部A17は、USB(Universal Serial Bus)などの有線通信でも構わないが、利便性を考慮すると無線通信が望ましい。
【0061】
<第1の実施形態:スマートフォン内部構成 記録部>
記録部18は、フラシュメモリなどの不揮発性のメモリで、撮影した画像データを記録する。記録部18は、着脱可能なメモリカードであってもよい。
【0062】
<第1の実施形態:制御端末変形の一例>
以上述べたように制御端末であり、撮像装置であるスマートフォン1が構成されるが、上述した機能を有すれば、他の機能が追加されたとしても、本発明の天体追尾システムの技術範囲内である。
【0063】
なお、緯度取得部14、方位取得部15、姿勢検出部16は、一体として構成されてもよい。具体的には、星図をUI12iに表示し、利用者が撮影方向を星図から指定するようにする。星図は緯度及び経度に基づいて表示され、緯度、経度、時間から所定の天体がみえる方向を非特許文献1の方法を利用して算出する。算出された方向から、方位角と高度を求め、天体追尾パラメータの算出に利用してもよい。また、星図によらず、カメラの撮影視野内にある天体を認識し、天体から方位と高度を求めるようにしてもよい。
このように天体の位置から方位と高度を求める方法によれば、センサで生じる誤差の影響を受けないため、より正確な天体追尾ができる。
【0064】
<第1の実施形態:電子ジンバルの構成 回転制御部>
図6Bは、電子ジンバル2の本体内に構成される回転制御部25の機能の構成の一例を示す図である。
回転制御部25は、回転量算出部251と、角速度センサ252と、モータ制御部253と、通信部B254とを有する。
【0065】
<第1の実施形態:回転制御部構成 角速度センサ>
角速度センサ252は、3軸の回転角速度を検出するセンサで、電子ジンバルのヨー方向、ピッチ方向及びロール方向に生じる回転速度を検出する。角速度センサ252は、1軸の回転角速度を検出するセンサを3個で構成してもよい。また、検出する回転は、ヨー方向、ピッチ方向及びロール方向に限定されず、水平回転軸21、垂直回転軸22及び光軸周りの回転軸23に検出する回転軸を合わせるようにしてもよい。
角速度センサ252は、天体追尾機能とは関係ないのでなくてもよい。
【0066】
<第1の実施形態:回転制御部構成 回転量算出部>
回転量算出部251は、角速度センサ252で検出された3軸の回転角速度に基づいて、回転を打ち消すための、水平回転軸21、垂直回転軸22及び光軸周りの回転軸23の回転量を算出する。
具体的には、角速度センサ252から一定周期で検出される角速度を時間積分すると、回転角度が求められる。したがって、求められた回転角度を符号反転し、逆方向の回転を指示して各回転軸を回転させることで電子ジンバル2に生じた回転を打ち消すことができる。
上記動作は、本発明の天体追尾システムとは関係ないので無くてもよい。
【0067】
また、通信部B254から取得した外部制御端末からの回転量指示に基づいて回転量を出力する。電子ジンバル2が天体追尾システムとして動作する場合は、このように、通信部B254から取得した回転量指示に基づいて動作する。
回転量算出部251は、CPU上で動作するプログラムとして構成してもよい。
【0068】
<第1の実施形態:回転制御部構成 モータ制御部>
モータ制御部は、水平回転軸21、垂直回転軸22及び光軸周りの回転軸23のそれぞれに備えられたモータに対して、回転量算出部により算出した回転量に基づいて、回転量に相当する回転を行うパルス信号を出力する。例えば、ステッピングモータが1パルス0.1°回転する場合、モータ制御部253が、回転量算出部251から1°の回転量を取得すると、モータ制御部253は10パルス出力する。
【0069】
モータはステッピングモータに限定されず様々なモータを用いてもよい。モータ制御部253は使用されたモータの種類に応じた制御を行うようにする。
【0070】
<第1の実施形態:回転制御部構成 通信部B>
通信部B254は、制御端末であるスマートフォン1と通信し回転指示(少なくとも回転軸と回転量を含む)を取得し、回転量算出部251に出力する。
回転量算出部251は、通信部Bから回転する軸と回転量の指示を取得すると、モータ制御部253に回転量を出力する。従って、制御端末であるスマートフォン1から通信部B254を介して、電子ジンバル2の各回転軸の回転を制御することができる。
【0071】
<第1の実施形態:撮影制御>
第1の実施形態の天体追尾システムは、撮影を行うカメラと電子ジンバル2に天体追尾動作を指示する制御端末が一体として構成されるスマートフォン1で、電子ジンバル2は撮影時のみ天体に追尾した動作を行うようにしてもよい。
【0072】
撮影に先立ち、電子ジンバル2は水平回転軸21が水平に、垂直回転軸22が垂直方向になるように、利用者により調整して設置され、電子ジンバル2に設置されたスマートフォン1は、所望の撮影方向に向けてフレーミングされているものとする。
【0073】
図7は、第1の実施形態の天体追尾システムで天体の撮影を行う場合の、撮影制御の流れを示すフローチャートである。
撮影制御が開始されると先ず、CPU13は緯度取得部14から緯度θlatを取得する。(S11)
次に、CPU13は、方位取得部15から方位角θazを取得する。(S12)
次に、CPU13は、姿勢検出部16から高度θalを取得する。(S13)
次に、CPU13は、取得した緯度θlatと、方位角θazと、高度θalとに基づいて、図5Aに示す天体パラメータ算出手順に従って、天体追尾パラメータを算出する。(S14)
次に、CPU13は、撮像部11に露光開始を指示し、撮像部11は露光を開始する。(S15)
次に、CPU13は、通信部A17を介して、電子ジンバル2に回転量を指示する。
次に、露光時間が終了したかを判定し(S17)、露光が継続している場合(S17でNを選択)は、定期的に電子ジンバル2に対して回転量を指示する。
露光が終了した場合(S17でYを選択)は、撮影を終了し、撮像部11から撮影された画像データを読み出し、記録部18に記録する。
【0074】
以上、撮像部11が露光中だけ天体に追尾した動作を電子ジンバル2に指示する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、露光中以外も常に追尾するように制御してもよいし、露光終了時に天体に追尾して回転した回転量をもとに戻すように動いてもよい。
【0075】
<第1の実施形態:撮影制御 回転量>
S16で行う回転量の指示に関して説明する。
天体追尾パラメータは角速度(degree per second)であるが回転量指示は角度で行う。例えば、天体追尾パラメータの方位角角速度が0.002dpsで、電子ジンバル2に指示できる角度の最小が0.01°であったとすると、CPU13は、5秒周期で0.01°の回転量を水平回転軸21の回転量として電子ジンバル2に指示する。
同様に、垂直回転軸22及び光軸周りの回転軸23についても指示する。
【0076】
なお、回転量を指示する周期は、回転量の指示が必要なタイミングで行ってもよいし、0.1秒などの一定周期で処理し、回転量の指示が必要なタイミングに近い周期の処理で送るようにしてもよい。
【0077】
なお、図7の撮影シーケンスで説明したように、撮影前に算出した天体追尾パラメータにより回転量の指示を継続してもよいが、回転量の指示に基づいて、方位角及び高度を更新するようにしてもよい。このようにすることで、例えば1時間を超えるような長時間の撮影でも正確に天体を追尾できる。
【0078】
前述した長時間の露光は、1回の露光で行われるとは限らない。
複数回露光を行い、合成処理を行う撮影方法などもある。例えば、複数回露光した画像を平均化合成により合成すると、合成枚数が多いほど、ノイズが軽減され高精細な画像が撮影できる。
【0079】
<第1の実施形態:キャリブレーション動作>
スマートフォン1に搭載されている方位センサや姿勢センサは、誤差を生じる場合がある。このような場合に、スマートフォンの機能としてキャリブレーションにより誤差を解消できる。一般的には、スマートフォンの縦方向の軸と、横方向の軸と、パネル面と直行する方向の3つの軸で1回転するように動かせばよい。
【0080】
この操作を、電子ジンバル2で行うように、スマートフォン1から回転量を指示する。こうすることで、手で回すよりも正確に回転させることが出来るので、手で行うよりも正確なキャリブレーションが行える。以上述べたようなキャリブレーション動作を最初の1枚目を撮影する前に行うようにしてもよい。
<第1の実施形態:効果>
【0081】
以上述べてきたように、第1の実施形態の天体追尾システムによれば、スマートフォンと電子ジンバルを使用することで、手軽に天体追尾撮影が行える。これにより、スマートフォンのような撮像素子が小さく、高感度撮影が苦手なカメラでも、天体を点で捉えノイズの少ない美しい天体画像が撮影できる。
【0082】
また、架台側に、3軸の回転機構を持つことで、撮像装置側に特別な構成は必要なく、どのような撮像装置を用いても天体追尾効果が得られる。
【0083】
また、従来の経緯台の天体追尾方法では、方位及び高度の変化に伴い、撮影視野が回転するため撮影視野周辺の天体が点で撮影できないが、第1の実施形態の天体追尾システムによれば、方位方向、高度方向、光軸周りのすべての回転が補正されるので、撮影視野周辺部も天体が点で撮影できるので、赤道儀と同等の天体追尾効果が得られる。
【0084】
また、スマートフォンに内蔵されたGPSや方位センサ、姿勢センサを用いることで、極軸合わせや、経緯台で必要なキャリブレーションが必要なく、特に専門的な知識を必要とせず手軽に天体追尾撮影ができる。
【0085】
また、本発明の天体追尾システムでは、電子ジンバル内に天体に追尾するための特別な構成は必要なく、通信手段があり外部端末から回転量が指示できるようになっていれば、すでに市場に出回っている電子ジンバルでも天体追尾システムとして利用できる。
【0086】
<第1の実施形態の変形例:概要>
第1の実施形態の変形例は、請求項1と、請求項3と、請求項6に対応している。
構成は、第1の実施形態と同じであり、制御端末であるスマートフォン1で求める天体追尾パラメータが異なる。
第1の実施形態では、天体追尾パラメータは、方位角角速度ωazと、高度角速度ωalと、光軸角速度ωrollを算出していたが、第1の実施形態の変形例では、光軸角速度ωrollのみを算出し、高度角速度ωalと方位角角速度ωazは、従来の手法を用いて算出する。
以降、第1の実施形態と異なる部分のみを説明する。
【0087】
<第1の実施形態の変形例:天体追尾パラメータの算出>
図5Bは、第1の実施形態の変形例の天体追尾パラメータの算出手順の一例を示す図である。
第1の実施形態に対して高度角速度算出S4と方位角角速度算出S5が無く、代わりに追尾対象算出S6から方位角角速度・高度角速度算出S8が追加になっている。
自転角速度の水平垂直成分分割S1から光軸角速度算出S3は、第1の実施形態で説明したため、説明を省略する。
【0088】
光軸角速度算出S3が終了すると、次に、追尾対象算出S6が行われる。
追尾対象とは、天体追尾を開始する時点で、カメラの光学系の光軸が向いている位置に対応する赤経及び赤緯である。
【0089】
追尾対象は、緯度、経度、日時、撮影方位、撮影高度の情報を取得し、非特許文献1で開示されている方法で算出する。緯度及び経度は、スマートフォン1が持つGPSにより取得することが考えられる。また、日時は、スマートフォン1が持つ時計及びカレンダー機能により取得することが可能である。撮影方位及び撮影高度は、第1の実施形態と同様に求める。
【0090】
次に、算出した追尾対象である赤経及び赤緯が所定時間経過後どの方位角及び高度に見えるかを算出する。(S7)方位角及び高度も非特許文献1で開示された方法により算出できる。
【0091】
次に、追尾対象の所定時間経過後の位置算出S7で求められた方位角及び高度の変化量から、方位角角速度ωazと、高度角速度ωalを算出する。(S8)
【0092】
以上求められた角速度に基づいて、電子ジンバル2の各回転軸の回転を制御することでカメラの光軸を天体の日周運動に追尾させ、さらに、撮影視野の回転を補正することができる。
【0093】
なお、追尾対象算出S6から方位角角速度・高度角速度算出S8で説明した方位角角速度と、高度角速度の算出方法は一例であり、この方法に限定されるものではない。例えば、算出する順番を変えてもよいし、角速度ではなく定期的に角度の変化量を求めるようにしてもよい。
また、他に知られている天体に追尾するための方位及び高度を算出する方法があればその手法を用いてもよい。
【0094】
<第1の実施形態の変形例:効果>
以上のように、従来の天体追尾システムに対して、撮影視野の回転の補正を容易に追加できる。
【0095】
つまり、第1の実施形態の変形例は、経緯台への適用が可能である。
例えば、天文台は、経緯台の一つの実施形態であるが、天文台の望遠鏡で天体を撮影する場合、撮影が長時間になると、撮影視野が回転してしまう。特に天文台では暗い天体を撮影する場合が多いので撮影が長時間にわたり行われるので、視野の回転の影響を受けやすい。
【0096】
このような問題を防ぐために、イメージローテータという機材を用いて撮像素子を回転することが行われている。イメージローテータを用いる場合、イメージローテータの角速度は、前述した天体追尾パラメータの光軸周りの角速度ωrollを用いることができる。
【0097】
<第2の実施形態:概要>
第2の実施形態は、請求項1と、請求項2と、請求項4と、請求項6に対応している。
請求項中の制御端末は、スマートフォン1が対応し、請求項中の架台は、電子ジンバル2が対応し、請求項中の撮像装置は、カメラ6が対応する。
【0098】
第2の実施形態では、制御端末1にカメラ6が向いている方向を認識させることで、以降は操作端末であるスマートフォン1はジンバルに設置することなく利用者の手元で操作が可能になる。
以降図を用いて、第2の実施形態について説明を行うが、第1の実施形態と同じ構成及び制御については適宜説明を省略する。
【0099】
図8A図8Bは、第2の実施形態の天体追尾システムの外形の一例を示す外形図である。
図8Aは、第2の実施形態の天体追尾システムを正面視(被写体側)した図であり、図8Bは、第2の実施形態の天体追尾システムを側面視した図である。
電子ジンバル2には、カメラ6が設置される。
カメラ6上部には、制御端末となるスマートフォン1が設置さている。
スマートフォン1は、後で説明する初期設定のために、カメラ6上部に設置されているが、撮影中は、利用者の手元で操作するようにしてもよい。
【0100】
<第2の実施形態:構成 スマートフォン>
第2の実施形態の、制御端末にあたるスマートフォン1は、第1の実施形態のスマートフォン1と構成は同じである。
第1の実施形態の撮像部11は、第2の実施形態では撮影は行わないが、初期設定の際に利用してもよい。
【0101】
<第2の実施形態:構成 電子ジンバル>
第2の実施形態の電子ジンバル2は、第1の実施形態の電子ジンバル2と同じ構成である。
【0102】
<第2の実施形態:初期化処理>
初期化処理は、スマートフォン1が電子ジンバル2に設置されているカメラ6が向いている方位角及び高度を取得するための処理である。
図8Bに示すように、カメラ6の撮影光学系の光軸と、スマートフォン1の撮影光学系の光軸の向きが一致するように設置してカメラ6の撮影工学系の光軸の方位角と高度を取得する。
【0103】
本発明の天体追尾システムは、撮影対象が天体であり、初期化処理の場合に、例えば、カメラ6で明るい天体を撮影視野の中心に位置させ、スマートフォン1でも同じ天体が撮影視野の中心に位置するようにスマートフォン1の向きを合わせる。こうすることで、カメラ6と、スマートフォン1の向きが一致し、カメラ6の向きをスマートフォン1で認識できる。このように、無限遠の被写体を利用して合わせる方法であれば、必ずしもカメラ6にスマートフォン1を設置する必要は無い。
【0104】
図9は、第2の実施形態の初期化処理の手順の流れの一例を示したフローチャートである。
先ず利用者が、電子ジンバル2を三脚に設置して水平回転軸21を水平に合わせる。(S21)
次に、前述したように、カメラ6の撮影光学系の光軸と、スマートフォン1の撮影光学系の光軸を一致させる。(S22)
次に、方位角及び高度をスマートフォン1内の方位センサ及び姿勢センサから取得する。(S23)
次に、取得した方位角と高度をロックし処理を終了する。(S24)
【0105】
以降は、方位角と、高度は、センサから取得せず、ロックした方位角と高度に対して、電子ジンバル2に対して指示した方位角回転量と、高度回転量を加算するようにする。このように、方位角及び高度を指示した回転量から算出することで、スマートフォン1を手元に持って、電子ジンバル2を制御してカメラ6の向きを変化させても、カメラ6が向いている方位角と高度は把握出来る。
【0106】
<第2の実施形態:操作画面表示>
図10は制御端末となるスマートフォン1の操作画面の一例を示す図である。
表示パネル12上に、UPボタン121と、DOWNボタン122と、RIGHTボタン123と、LEFTボタン124と、Trackingボタン125とが表示されている。表示パネル12は、タッチパネルになっているので、前述の各ボタンの位置をタッチすると、所定の動作指示が電子ジンバル2に送信される。
【0107】
UPボタン121が押されると、スマートフォン1から電子ジンバル2に対して、高度を増加する方向、つまりカメラ6の撮影視野が上に移動するように垂直回転軸22を回転するように指示する。
【0108】
DOWNボタン122が押されると、スマートフォン1から電子ジンバル2に対して、高度を減少する方向、つまりカメラ6の撮影視野が下に移動するように垂直回転軸22を回転するように指示する。
【0109】
RIGHTボタン123が押されると、スマートフォン1から電子ジンバル2に対して、方位角を増加する方向、つまりカメラ6の撮影視野が右に移動するように水平回転軸21を回転するように指示する。
【0110】
LEFTボタン124が押されると、スマートフォン1から電子ジンバル2に対して、方位角を減少する方向、つまりカメラ6の撮影視野が左に移動するように水平回転軸21を回転するように指示する。
【0111】
利用者は、上記の各ボタンを操作して、カメラ6の撮影視野を所望の位置に移動させる。スマートフォン1から指示された回転量は、スマートフォン1内部のCPU13で方位角及び高度に加算されるので、カメラ6の撮影方向は、スマートフォン1で把握できている。
【0112】
Trackingボタン125が押されると、第1の実施形態同様にカメラ6の緯度、及びカメラ6の光軸の方位角、高度に基づいて天体追尾パラメータが算出され、天体追尾パラメータに基づいた回転量が、スマートフォン2から電子ジンバル2に指示される。
【0113】
<第2の実施形態:効果>
以上述べてきたように、第2の実施形態の天体追尾システムによれば天体に追尾するための特別な構成を備えていないカメラでも天体撮影が行える。また、スマートフォンを手元に持ち操作が出来るので、操作が容易で遠隔でも操作出来るので手軽に天体追尾撮影が行える。
【0114】
<第2の実施形態の変形例>
図11は、第2の実施形態の変形例の構成を示す外形図である。
第2の実施形態の変形例は、第2の実施形態に対して、電子ジンバル2の光軸周りの回転軸23の向きが異なる。第2の実施形態の変形例では、カメラ6の光軸と、電子ジンバル2の光軸周りの回転軸の方向が一致していない。
【0115】
このような場合でも、第2の実施形態同様にカメラ6の光軸周りの角速度を算出して、撮影画像への影響が前述の算出結果と同等になるように、電子ジンバル2の光軸周りの回転軸23の角速度と、水平回転軸21の角速度を算出する。
【0116】
こうすることで、カメラ6の光軸と、電子ジンバル2の光軸周りの回転軸の方向が一致していない場合でも天体の日周運動による視野の回転が無い天体追尾撮影が可能になる。
【符号の説明】
【0117】
1 スマートフォン、11 撮像部、12 表示パネル、12i UI、 13 CPU、14 緯度取得部、15 方位取得部、16 姿勢検出部、17 通信部A、18 記録部、2 電子ジンバル、21 水平回転軸、22 垂直回転軸、23 光軸周りの回転軸、24 グリップ、25 回転制御部、251 回転量算出部、252 角速度センサ、253 モータ制御部、254 通信部B
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11