(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156242
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】破砕工法
(51)【国際特許分類】
E21C 37/00 20060101AFI20241029BHJP
【FI】
E21C37/00
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070541
(22)【出願日】2023-04-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】399048869
【氏名又は名称】株式会社神島組
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】神島 昭男
(72)【発明者】
【氏名】神島 充子
【テーマコード(参考)】
2D065
【Fターム(参考)】
2D065GA01
(57)【要約】
【課題】環境破壊を防止しつつ、河川、湖沼、海などの水面から露出して存在する岩盤、岩石、コンクリート構造物などの被破砕物を破砕することができる破砕工法および当該破砕工法に好適な割岩装置を提供する。
【解決手段】この発明は、被破砕物の中央領域に所定深さのピットを形成するピット形成工程と、ピットのうち水際隣接領域に対向する対向領域に第1盛り土を形成する盛り土形成工程と、水際隣接領域の一部を破砕予定領域とし、第1盛り土を挟んでピットと対向するように破砕予定領域に削孔を形成する削孔形成動作、削孔が形成された破砕予定領域を破砕する破砕動作、および破砕動作により破砕された破砕物を破砕予定領域から除去するとともに第2盛り土を形成して埋め戻す埋戻動作を含む破砕埋戻工程とを、備え、破砕予定領域を水際に沿って移動させながら破砕埋戻工程を水際隣接領域全体にわたって実行する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面から露出して存在する被破砕物を破砕する破砕工法であって、
前記被破砕物のうち前記水面と接している水際に沿って水際隣接領域を残して前記被破砕物の中央領域に所定深さのピットを形成するピット形成工程と、
前記ピットのうち前記水際隣接領域に対向する対向領域に第1盛り土を形成する盛り土形成工程と、
前記水際隣接領域の一部を破砕予定領域とし、前記第1盛り土を挟んで前記ピットと対向するように前記破砕予定領域に削孔を形成する削孔形成動作、前記削孔が形成された前記破砕予定領域を破砕する破砕動作、および前記破砕動作により破砕された破砕物を前記破砕予定領域から除去するとともに第2盛り土を形成して埋め戻す埋戻動作を含む破砕埋戻工程とを、備え、
前記破砕予定領域を前記水際に沿って移動させながら前記破砕埋戻工程を前記水際隣接領域全体にわたって実行する
ことを特徴とする破砕工法。
【請求項2】
請求項1に記載の破砕工法であって、
前記ピット形成工程は、前記破砕埋戻工程に使用される建設機械が前記水際隣接領域上を前記水際に沿って走行可能となるように、前記水際隣接領域を残す、破砕工法。
【請求項3】
請求項2に記載の破砕工法であって、
前記盛り土形成工程は、前記建設機械が前記第1盛り土上を前記水際隣接領域に沿って走行可能となるように、前記第1盛り土を形成する、破砕工法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の破砕工法のうち前記破砕動作を実行するために前記削孔の周囲を割岩する割岩装置であって、
前記削孔を形成された削孔形成方向に対して傾斜した第1楔側傾斜面と前記第1楔側傾斜面の傾斜方向と反対の方向に傾斜した第2楔側傾斜面とが先端部に設けられることで前記先端部が先細り形状を有し、前記第1楔側傾斜面を前記削孔の内壁面のうち前記水際側の第1壁面部位に向けた姿勢で、前記削孔に対して前記先端部を挿脱可能な楔部材と、
前記第1楔側傾斜面に対して摺動可能な第1羽根側傾斜面と、前記第1壁面部位に当接可能な第1当接面とが前記ピットの深さと同じまたは長くなるように延設された延設された水際側羽根部材と、
前記第2楔側傾斜面に対して摺動可能な第2羽根側傾斜面と、前記内壁面のうち反水際側の第2壁面部位に当接可能な第2当接面と前記ピットの深さと同じまたは長くなるように延設された延設された反水際側羽根部材と、を有し、
前記削孔形成方向に沿った前記楔部材の移動に伴って前記第2羽根側傾斜面および前記第2羽根側傾斜面がそれぞれ前記第1楔側傾斜面に対して相対的に摺動することで、
前記第2当接面が前記第2壁面部位に当接しつつ前記第1当接面が前記第1壁面部位を前記水際側に押圧し、前記ピットと同じ深さにわたって前記削孔から前記水際に向けて亀裂を発生させる
ことを特徴とする割岩装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、河川、湖沼、海などの水面から露出して存在する岩盤、岩石、コンクリート構造物などの被破砕物を破砕する破砕工法および当該破砕工法に好適な割岩装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本願出願人は、陸上に存在する岩盤、岩石、コンクリート構造物などの被破砕物を破砕する破砕技術およびそれに好適な割岩装置を数多く提案してきた(例えば特許文献1~特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4636294号公報
【特許文献2】特許第4961574号公報
【特許文献3】特許第5034001号公報
【特許文献4】特許第5145503号公報
【特許文献5】特許第5145504号公報
【特許文献6】特許第5352807号公報
【特許文献7】特許第5352807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、河川、湖沼、海などの水面から露出して存在する岩盤、岩石、コンクリート構造物などの被破砕物の破砕に、上記破砕技術をそのまま適用するのは困難であった。例えば
図1(a)に示すように、岩盤2が広範囲にわたって隆起して河川1の幅を狭くしているケースでは、当該岩盤2を取り除いて洪水が流れる面積を広くすることが望まれる。また、岩盤2の一部を破砕して調整池などの整備する計画もある。このような場合、岩盤のうち河川1に面している領域(以下「水際隣接領域」という)を従来の破砕技術を用いて破砕すると、その際に発生する土砂などが大量に河川に流れ込み、川の水を濁らせてしまうなどの環境破壊につながる。特に、当該河川1の水が水道料用水や農業用水として利用されるとき、大量の土砂流入を回避する必要があるが、従来の破砕技術では、これを回避するのが難しかった。
【0005】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、環境破壊を防止しつつ、河川、湖沼、海などの水面から露出して存在する岩盤、岩石、コンクリート構造物などの被破砕物を破砕することができる破砕工法および当該破砕工法に好適な割岩装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様は、水面から露出して存在する被破砕物を破砕する破砕工法であって、被破砕物のうち水面と接している水際に沿って水際隣接領域を残して被破砕物の中央領域に所定深さのピットを形成するピット形成工程と、 ピットのうち水際隣接領域に対向する対向領域に第1盛り土を形成する盛り土形成工程と、水際隣接領域の一部を破砕予定領域とし、第1盛り土を挟んでピットと対向するように破砕予定領域に削孔を形成する削孔形成動作、削孔が形成された破砕予定領域を破砕する破砕動作、および破砕動作により破砕された破砕物を破砕予定領域から除去するとともに第2盛り土を形成して埋め戻す埋戻動作を含む破砕埋戻工程とを、備え、破砕予定領域を水際に沿って移動させながら破砕埋戻工程を水際隣接領域全体にわたって実行することを特徴としている。
【0007】
また、本発明の第2態様は、破砕工法のうち破砕動作を実行するために削孔の周囲を割岩する割岩装置であって、削孔を形成された削孔形成方向に対して傾斜した第1楔側傾斜面と第1楔側傾斜面の傾斜方向と反対の方向に傾斜した第2楔側傾斜面とが先端部に設けられることで先端部が先細り形状を有し、第1楔側傾斜面を削孔の内壁面のうち水際側の第1壁面部位に向けた姿勢で、削孔に対して先端部を挿脱可能な楔部材と、第1楔側傾斜面に対して摺動可能な第1羽根側傾斜面と、第1壁面部位に当接可能な第1当接面とがピットの深さと同じまたは長くなるように延設された延設された水際側羽根部材と、第2楔側傾斜面に対して摺動可能な第2羽根側傾斜面と、内壁面のうち反水際側の第2壁面部位に当接可能な第2当接面とピットの深さと同じまたは長くなるように延設された延設された反水際側羽根部材と、を有し、削孔形成方向に沿った楔部材の移動に伴って第2羽根側傾斜面および第2羽根側傾斜面がそれぞれ第1楔側傾斜面に対して相対的に摺動することで、第2当接面が第2壁面部位に当接しつつ第1当接面が第1壁面部位を水際側に押圧し、ピットと同じ深さにわたって削孔から水際に向けて亀裂を発生させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
上記発明によれば、環境破壊を防止しつつ、河川、湖沼、海などの水面から露出して存在する岩盤、岩石、コンクリート構造物などの被破砕物を破砕することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る破砕工法を施工した現場の施工前と施工後とを模式的に示す図である。
【
図2A】本発明に係る破砕工法の一実施形態における工程の一部を模式的に示す図である。
【
図2B】本発明に係る破砕工法の一実施形態における工程の一部を模式的に示す図である。
【
図2C】本発明に係る破砕工法の一実施形態における工程の一部を模式的に示す図である。
【
図2D】本発明に係る破砕工法の一実施形態における工程の一部を模式的に示す図である。
【
図2E】本発明に係る破砕工法の一実施形態における工程の一部を模式的に示す図である。
【
図2F】本発明に係る破砕工法の一実施形態における工程の一部を模式的に示す図である。
【
図3】本発明に係る割岩装置で使用される割岩工具の一例を示す図である。
【
図4】
図3に示す構造の割岩工具を用いた破砕予定領域の破砕動作を示す図である。
【
図5】楔部材と羽根部材とに設けられた溝部の対向関係を示す模式図である。
【
図6】本発明に係る割岩装置で使用される割岩工具の他の例を示す図である。
【
図7】本発明に係る割岩装置で使用される割岩工具の別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は本発明に係る破砕工法を施工した現場の施工前と施工後とを模式的に示す図であり、同図(a)が施工前を示し、同図(b)が施工後を示している。同図では、破砕工法の施工対象の一例として、河川1の流域において広範囲にわたって隆起している岩盤2が示されている。この岩盤2の存在により、河川1の幅が局所的に狭くなっており、洪水の脅威にさらされている。そこで、岩盤2の一部を利用して治水設備などを設置する、あるいは岩盤2の撤去により河川1の水位を下げるなどが計画されることがある。このような計画を円滑に進めるために、例えば同図(b)に示すように岩盤2の中央領域2aを除去する一方で、岩盤2のうち河川1に面している領域を、つまり水際隣接領域2bについては岩盤2を破砕し、埋め戻すことが提案されている。なお、水際隣接領域2bについては、建設機械や運搬車両などが走行するとともに各種作業できる程度の幅を確保するのが望ましい。そこで、本実施形態では、次に詳述するように、本発明の「被破砕物」の一例である岩盤2に対し、ピット形成工程と、盛り土形成工程と、破砕埋戻工程とを実行している。以下、図面を参照しつつ本発明に係る破砕工法の一実施形態について説明する。
【0011】
図2Aないし
図2Fは本発明に係る破砕工法の一実施形態における工程の一部を模式的に示す図である。これらの図面では、岩盤2が河川1の堤防1bに接続されており、当該接続部分2cを介して堤防1bと岩盤2との間を建設機械や運搬車両などが走行可能となっているが、もちろん岩盤2が堤防1bから離れている場合には、両者の間に、橋を仮設してもよい。
【0012】
図2Aはピット形成工程を実行した後の岩盤の様子を示す図であり、同図(a)は上方から見た平面図であり、同図(b)はB-B線断面図である。本実施形態では、同図(a)に示すように、建設機械や運搬車両などが走行可能な領域2dを残し、岩盤2の中央部2eを除去する。この中央部2eは河川1と直接接していないため、従来の破砕除去技術を用いて中央部2eを破砕し、除去することができる。例えば本願出願人が提案する「芯抜きセリ矢工法」(インターネット<URL:http://kamishimagumi.co.jp/technique/sinnuki/15sinnukipanfu.pdf>)を用いることができる。その具体的な作業内容は、
・中央部2eの表面中心部及び外周部をクローラードリルにて削孔する、
・上記削孔に芯抜きセリ矢(特許文献3)をセットした後で、芯抜きセリ矢を「破砕→回転→破砕→回転」を4回繰り返し、平面として1層目の全方位破砕を行う、
・2~n層目も、同様の破砕を繰り返す、
・バックホウなどの建設機械で引き起し、破砕片を中央部2eから除去する、
である。これによって、
図2A(b)に示すように、例えば河川1の河床と同程度の深さHを有するピット3を形成する(ピット形成工程)。
【0013】
次に、
図2Bに示すように、領域2dに沿って運搬車両などを走行させ、ピット3のうち水際隣接領域2bに対向する対向領域31に盛り土41を形成する(盛り土形成工程)。この盛り土41が本発明の「第1盛り土」の一例に相当している。また、盛り土形成工程に続いて実行される破砕埋戻工程では、水際隣接領域2bの一部を破砕予定領域とし、作業を進める(
図2C~
図2F)。ここでは、当該破砕予定領域に対応する対向領域31のみに第1盛り土41を形成している。これにより、建設機械や運搬車両などの走行や作業が可能となる領域(以下、「走行作業領域」という)が第1盛り土41の上面に形成され、次に説明するように利用される。
【0014】
ここでは、第1盛り土41の一部について説明したが、もちろん次に説明する破砕埋戻工程を実行する前に水際隣接領域2bの全周に対応して第1盛り土41を一括して形成してもよい。また、第1盛り土41を複数回に分けて形成し、第1盛り土41の形成毎に、次に説明する破砕埋戻工程を実行してもよい。
【0015】
次に、破砕埋戻工程について説明する。まず
図2Cに示すように、水際隣接領域2bのうち最初に破砕埋戻工程を施す破砕予定領域2b1の周囲にクローラードリル5、割岩装置6および油圧ショベル7(「ユンボ」と称されることもある)が走行して位置決めされる。これらのうちクローラードリル5は、同図(d)に示すように、破砕予定領域2b1に隣接しながら領域2dの上面に固定され、破砕予定領域2b1に削孔8を形成する(削孔形成動作)。なお、同図では、削孔8は1個のみ図示されているが、実際には破砕予定領域2b1全体に対し、予め設定された間隔で複数個形成される。この点については、他の破砕予定領域に対しても同様である。
【0016】
割岩装置6が走行作業領域上を走行し、破砕予定領域2b1の近傍に固定される。そして、割岩装置6は、削孔8に対して割岩工具61の先端部を挿入し、削孔8の周囲を割岩して破砕する(破砕動作)。より詳しくは、割岩装置6は、建設機械の一例であるクレーン車を有している。このクレーン車は、同図に示すように、削孔8が形成された破砕予定領域2b1に隣接した位置で駐車され、当該位置から削孔8の上方空間に向けてアームを伸ばしている。そして、アームの先端からワイヤーが垂下し、その先端に割岩工具61が取り付けられている。なお、割岩装置6の詳しい構成および動作については、後で詳述する。
【0017】
油圧ショベル7が走行作業領域上を走行し、破砕予定領域2b1の近傍に固定される。そして、割岩装置6により亀裂が導入された破砕予定領域2b1を掘り起し、破砕片の全部または一部を破砕予定領域2b1から取り除くとともに、
図2Dに示すように、破砕予定領域2b1に対して盛り土42を行う(埋戻動作)。この盛り土42が本発明の「第2盛り土」の一例に相当している。このとき、本実施形態では、破砕予定領域2b1の一部、より具体的にはクローラードリル5に近接する部分への盛り土形成を行わず、水際領域(
図2E中の符号1a)を形成している。このため、次の破砕予定領域(
図2E中の符号2b2)は河川1のみならず、当該水際領域1aとも面することとなり、次の破砕予定領域(
図2E中の符号2b2)の自由面が広がる。
【0018】
次に、こうしたクローラードリル5、割岩装置6および油圧ショベル7による破砕埋戻工程が実行された破砕予定領域2b1と水際に沿って隣接する領域(
図2E中の符号2b2)を、次の破砕予定領域とし、破砕埋戻工程を実行する。ここでは、上記水際領域が存在することから、油圧ショベル7の配設位置を変更しているが、破砕予定領域2b2の周囲にクローラードリル5、割岩装置6および油圧ショベル7が配置され、破砕予定領域2b1に対する破砕埋戻工程と同様の工程が実行される。
【0019】
ここでは、クローラードリル5は、同図(d)に示すように、破砕予定領域2b1に隣接しながら領域2dの上面に固定された状態で、破砕予定領域2b2に削孔8を形成する(削孔形成動作)。割岩装置6は走行作業領域上を走行し、破砕予定領域2b1の近傍に固定される。そして、割岩装置6は、削孔8に対して割岩工具61の先端部を挿入し、削孔8の周囲を割岩して破砕する(破砕動作)。さらに、油圧ショベル7は走行作業領域から盛り土42に移動し、破砕予定領域2b2の近傍に固定される。そして、割岩装置6により亀裂が導入された破砕予定領域2b2を掘り起し、破砕片の全部または一部を破砕予定領域2b1から取り除くとともに、
図2Fに示すように、破砕予定領域2b2に対して盛り土42を行い(埋戻動作)、埋戻した領域を水際隣接領域2b(
図1参照)に沿って拡張していく。
【0020】
このように破砕予定領域を水際に沿って移動させながら上記破砕埋戻工程を水際隣接領域全体にわたって実行することで、河川1と接触を抑制しながら岩盤2を破砕し、
図1(b)に示すような構造に造成することができる。
【0021】
また、盛り土41(走行作業領域)を設けたことで、破砕埋戻工程は常に破砕予定領域2b1、2b2、…とピット3との間に盛り土41が介在した状態で実行される。したがって、破砕予定領域2b1、2b2、…を破砕したとしても、破砕された破砕予定領域2b1、2b2、…からピット3に水が侵入するのを効果的に防止することができる。また、破砕予定領域2b1、2b2、…が河川1と接する領域は最小限に止められるため、破砕埋戻工程中に河川1に流れ込む土砂などを抑制し、環境破壊を効果的に防止することができる。
【0022】
次に、上記破砕埋戻工程で使用される割岩工具61の構成および動作について、
図3ないし
図5を参照しつつ説明する。
【0023】
図3は本発明に係る割岩装置で使用される割岩工具の一例を示す図である。この割岩工具61は、特許文献3に記載の工具(破砕装置)と同様に、1つの楔部材62と、2つの羽根部材63、64とで構成されている。ただし、本実施形態では、削孔8に形成方向(本発明の削孔形成方向に相当)において、河川1の河床と同程度の深さHと同程度にわたって破砕予定領域2b1を割岩する必要があるため、割岩工具61は、以下の構成において、特許文献3に記載の工具と大きく相違している。
【0024】
割岩工具61を構成する楔部材62および羽根部材63、64はいずれも削孔形成方向に長く延設された軸体構造を有しており、深さHよりも長くなっている。より具体的には、楔部材62の先端部では、削孔形成方向(
図3における上下方向)に対して傾斜した第1楔側傾斜面621と第1楔側傾斜面621の傾斜方向と反対の方向に傾斜した第2楔側傾斜面622とが設けられており、先端部全体としては先細り形状を有している。そして、割岩処理を行うために、楔部材62の先端部は、第1楔側傾斜面621を削孔8の内壁面のうち水際側(
図3の右手側)の第1壁面部位に向けた姿勢で、削孔8に対して挿脱可能となっている。
【0025】
羽根部材63は、本発明の「水際側羽根部材」の一例に相当するものであり、第1楔側傾斜面621に対して摺動可能な第1羽根側傾斜面631と、第1壁面部位に当接可能な第1当接面632とを有している。これら第1羽根側傾斜面631および第1当接面632はピット3の深さHと同じまたは長くなるように延設されている。
【0026】
羽根部材64は、本発明の「反水際側羽根部材」の一例に相当するものであり、第2楔側傾斜面622に対して摺動可能な第2羽根側傾斜面641と、内壁面のうち反水際側の第2壁面部位に当接可能な第2当接面642とを有している。これら第2羽根側傾斜面641および第2当接面642についても、羽根部材63と同様に、ピット3の深さHと同じまたは長くなるように延設されている。
【0027】
本実施形態では、2つの羽根部材63、64の当接面632、642は、基本的に円弧面であるが、削孔形成方向において、面形状が互いに異なるように仕上げられている(なお、ここでの円弧面とはその断面が厳密に円の一部である必要はなく、断面が楕円の一部であるような場合も含むものとする)。これは、割岩工具61により割岩すべき領域が削孔形成方向において従来技術よりも格段に広がっていることに起因するものである。より具体的には、位置P1~P4では、当接面632、642は円弧面であるのに対し、位置P1、P2の間、位置P2、P3の間、位置P3、P4の間では、特許文献2と同様に、円弧面に削孔形成方向に沿って延びる切欠部637、647を形成し、切欠部637、647によって周方向に分断された部分円弧面が当接面として構成されている。
【0028】
図4は、
図3に示す構造の割岩工具を用いた破砕予定領域の破砕動作を示す図である。上記ように構成された2つの羽根部材63、64は、傾斜面631、641が向かい合うように配設されている。羽根部材63、64がこのように配置されることにより、傾斜面631、641によって挟まれる空間は羽根部材63、64の先端側ほど細くなる先細り形状となる。この先細り形状の空間に、この空間と同様に先細り形状に構成された楔部材62が挿入される。さらに、楔部材62の後端部は、油圧シリンダ65に油を給排することにより削孔形成方向に進退移動するピストンロッド(図示省略)に連結されている。この状態のまま、同図に示すように、割岩工具61の先端部が削孔8に挿入される。
【0029】
次に、例えばクレーン車から油圧シリンダ65に油を供給すると、ピストンロッドとともに楔部材62は羽根部材63、64の傾斜面631、641と摺接しながら羽根部材63、64の先端側に移動し、羽根部材63、64が水平方向に互いに離間移動されて削孔8の内壁に押圧力を作用させる。特に、破砕予定領域2b1では河川1に面している側の壁面が自由面として機能し、破砕予定領域2b2、…では水際領域1aに面している側の壁面が自由面として機能することから、深さHにわたって削孔8から水際側に向って亀裂が導入され、破砕予定領域2b1、2b2、…が破砕される。しかも、削孔形成方向(同図の上下方向)において、互いに異なる深さ位置で亀裂の導入態様が相違しており、破砕予定領域2b1、2b2、…が細かく破砕される。
【0030】
また、楔部材62が羽根部材63、64の傾斜面631、641と摺接する際に摩擦や摩耗を軽減するために、割岩工具61では、摺接面(=楔側傾斜面621、622と羽根側傾斜面631、641)の間に潤滑剤を効果的に供給するために、
図5に示すように、楔側傾斜面621、622に削孔形成方向と平行に溝部623が設けられている。また、羽根部材63、64に対しても、溝部633、643が溝部623に対応して設けられている。溝部633、643は、それぞれ羽根部材63、64を貫通する潤滑剤案内孔634、644と接続されている。各潤滑剤案内孔634、644には、グリスニップル635、645が介挿されている。このため、羽根部材63、64の外部から潤滑剤案内孔634、644にグリスニップル635、645を圧入すると、潤滑剤が溝部623と、溝部633、643との間に供給される。なお、楔部材62および羽根部材63、64は削孔形成方向に延設されており、その長さは従来の割岩工具よりも格段に長くなっている。
【0031】
そこで、本実施形態では、削孔形成方向において溝部623を潤滑剤案内孔634に対応した数に分割している。つまり、複数の堰部材624がそれぞれ削孔形成方向において互いに離間しながら溝部623に設けられ、潤滑剤案内孔634毎に潤滑剤が対応する溝部623に止まる。また、複数の堰部材636がそれぞれ削孔形成方向において互いに離間しながら溝部633に設けられ、潤滑剤案内孔634毎に潤滑剤が対応する溝部633に止まる。さらに、複数の堰部材646がそれぞれ削孔形成方向において互いに離間しながら溝部643に設けられ、潤滑剤案内孔644毎に潤滑剤が対応する溝部643に止まる。その結果、削孔形成方向全体にわたって潤滑剤が均一に、しかも長時間にわたって作用する。
【0032】
ところで、ピット3の深さHは、人間の背丈を超えることが多く、それに対応して割岩工具61の長尺化は避けられない。特に、河川1の洪水に対応するためには、ピット3を例えば3m程度の深さHで設ける必要がある。それに応じて、作業者の背丈を超える位置にも潤滑剤案内孔634、644を設け、それらの潤滑剤案内孔634、644から潤滑剤を注入することになるが、その作業を作業者により行うのは必ずしも容易ではなく、作業効率が大幅に低下してしまう。そこで、本実施形態では、モーノポンプなどを用いて潤滑剤を潤滑剤案内孔634に圧送し、潤滑剤を注入している。これによって、作業効率の向上を図っている。
【0033】
また、傾斜面631、641によって挟まれる先細り形状の空間に楔部材62の先端部が一定の精度で挿入されている必要があるため、本願出願人が発明した連結機構(特許第6387505号)によって羽根部材63、64を相互に連結してもよい。ただし、従来の連結機構では、ボルト部材により羽根部材63、64を連結しているため、羽根部材63、64がねじれた状態になると、元の状態に戻すことが困難となる。そこで、
図6に示すように、2つの羽根部材63、64を、傾斜面同士が向かい合うように配置された状態で、連結機構13により連結している。ここで、
図6に示す連結機構13が従来技術(特許第6387505号)と大きく相違する点は、ボルトの代わりに、ワイヤーボルト134Wを用いている点である。なお、その他の構成は同一であるため、同一符号を付して構成説明を省略する。
【0034】
ワイヤーボルト134Wを用いることで、羽根部材63、64のねじれ関係を容易に修正することが可能となり、破砕埋戻工程を効率的に行うことが可能となっている。
【0035】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば上記実施形態では、位置P1~P4の全てにおいて、当接面632、642を円弧面に仕上げているが、全部または一部の位置、例えば
図7に示すように位置P3で上方からの平面視で水際方向に突起する形状に仕上げてもよい。また、切欠部638によって周方向に分断された部分円弧面に仕上げてもよい。
【0036】
また、上記実施形態では、反水際側の当接面642を水際側の当接面632と同一形状に仕上げているが、異なる形状に仕上げてもよく、例えば円弧面に仕上げてもよい。
【0037】
また、上記実施形態では、建設機械としてキャタピラ方式で走行するものと、タイヤ方式で走行するものとを併用しているが、現場の状況に応じて適宜選択することができる。
【0038】
また、上記実施形態では、溝部に対して複数の堰部材を設けることで、潤滑剤を案内する溝部を複数に分割する構造を採用しているが、これらの個数や配置などについては任意である。また、グリスニップル635、645およびモーノポンプなどを用いて潤滑剤の注入を行っている。これらの構成については、特許文献2、3、7をはじめとして羽根部材と楔部材とを相対的に摺動させて割岩する割岩装置全般に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
この発明は、河川、湖沼、海などの水面から露出して存在する岩盤、岩石、コンクリート構造物などの被破砕物を破砕する破砕工法および当該破砕工法に好適な割岩装置全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1…河川
2…岩盤
2a…(岩盤の)中央領域
2b…水際隣接領域
2b1,2b2…破砕予定領域
2d…領域
2e…(岩盤の)中央部
3…ピット
41…(第1)盛り土
42…(第2)盛り土
5…クローラードリル
6…割岩装置
7…油圧ショベル
8…削孔
31…対向領域
61…割岩工具
62…楔部材
63…(水際側)羽根部材
64…(反水際側)羽根部材
621…第1楔側傾斜面
622…第2楔側傾斜面
623,633,643…溝部
624,636,646…堰部材
631…第1羽根側傾斜面
632…第1当接面
641…第2羽根側傾斜面
642…第2当接面
【手続補正書】
【提出日】2023-06-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面から露出して存在する被破砕物を破砕する破砕工法であって、
前記被破砕物のうち前記水面と接している水際に沿って水際隣接領域を残して前記被破砕物の中央領域に所定深さのピットを形成するピット形成工程と、
前記ピットのうち前記水際隣接領域に対向する対向領域に第1盛り土を形成する盛り土形成工程と、
前記水際隣接領域の一部を破砕予定領域とし、前記第1盛り土を挟んで前記ピットと対向するように前記破砕予定領域に削孔を形成する削孔形成動作、前記削孔が形成された前記破砕予定領域を破砕する破砕動作、および前記破砕動作により破砕された破砕物を前記破砕予定領域から除去するとともに第2盛り土を形成して埋め戻す埋戻動作を含む破砕埋戻工程とを、備え、
前記破砕予定領域を前記水際に沿って移動させながら前記破砕埋戻工程を前記水際隣接領域全体にわたって実行する
ことを特徴とする破砕工法。
【請求項2】
請求項1に記載の破砕工法であって、
前記ピット形成工程は、前記破砕埋戻工程に使用される建設機械が前記水際隣接領域上を前記水際に沿って走行可能となるように、前記水際隣接領域を残す、破砕工法。
【請求項3】
請求項2に記載の破砕工法であって、
前記盛り土形成工程は、前記建設機械が前記第1盛り土上を前記水際隣接領域に沿って走行可能となるように、前記第1盛り土を形成する、破砕工法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
この発明は、河川、湖沼、海などの水面から露出して存在する岩盤、岩石、コンクリート構造物などの被破砕物を破砕する破砕工法に関するものである。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0005
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0005】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、環境破壊を防止しつつ、河川、湖沼、海などの水面から露出して存在する岩盤、岩石、コンクリート構造物などの被破砕物を破砕することができる破砕工法を提供することを目的とする。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0039
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0039】
この発明は、河川、湖沼、海などの水面から露出して存在する岩盤、岩石、コンクリート構造物などの被破砕物を破砕する破砕工法全般に適用することができる。