(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156253
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】輪重推定方法、及びこの方法を用いた軌道の監視方法
(51)【国際特許分類】
B61K 9/08 20060101AFI20241029BHJP
B61K 13/00 20060101ALI20241029BHJP
E01B 35/00 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
B61K9/08
B61K13/00 A
E01B35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070562
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】504158881
【氏名又は名称】東京地下鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003155
【氏名又は名称】弁理士法人バリュープラス
(72)【発明者】
【氏名】谷本 益久
(72)【発明者】
【氏名】松本 耕輔
(72)【発明者】
【氏名】金子 将大
(72)【発明者】
【氏名】新井 逸郎
(72)【発明者】
【氏名】道辻 洋平
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 柚季
【テーマコード(参考)】
2D057
【Fターム(参考)】
2D057AB01
2D057AB06
(57)【要約】
【課題】営業車両によって継続的かつ長期的にデータを取得することが可能で、かつ、瞬間的に発生する輪重変動にも追従可能とすることで高精度化された輪重推定方法等を実現する。
【解決手段】軸箱の上下方向の振動の加速度を計測する第1センサと、軸ばねのたわみ量を計測する第2センサと、を備えた営業車両を走行させる。第1センサによる内軌側の出力値と外軌側の出力値を、それぞれ所要の係数を掛けた上で加算し、内軌側及び外軌側についてそれぞれ車輪位置における上下加速度を求める第1ステップと、重力項と、左右の軸ばね力項と、第1ステップの出力値から計算する慣性力項とに基づいて、内軌側及び外軌側についてそれぞれ輪重を推定する第2ステップと、を有する輪重推定方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内軌側及び外軌側について軸箱の上下方向の振動の加速度を計測する第1センサと、内軌側及び外軌側について軸ばねのたわみ量を計測する第2センサと、を備えた営業車両を走行させて、前記営業車両の走行時の輪重を推定する方法であって、
前記第1センサによる内軌側の出力値と外軌側の出力値を、それぞれ所要の係数を掛けた上で加算し、内軌側及び外軌側についてそれぞれ車輪位置における上下加速度を求める第1ステップと、
輪軸の重量と重力加速度と所要の係数を掛け算して求める重力項と、前記第2センサによる内軌側の出力値と外軌側の出力値を、それぞれ所要の係数を掛けた上で加算して求める軸ばね力項と、輪軸の質量と1/2と前記第1ステップの出力値を掛け算して求める慣性力項とに基づいて、内軌側及び外軌側についてそれぞれ輪重を推定する第2ステップと、を有する、輪重推定方法。
【請求項2】
内軌側及び外軌側について車輪板部の曲げによる水平方向の変形量を計測する第3センサを更に備え、
前記第2ステップと共に、前記第3センサによる外軌側の出力値から内軌側の出力値を減算して所要の係数を掛けて求める横力項を加算もしくは減算して、内軌側及び外軌側についてそれぞれ輪重を推定する第3ステップを含む、請求項1に記載の輪重推定方法。
【請求項3】
前記第2ステップは、下記式(1)および(2)で表される演算を行う工程を少なくとも含む、請求項1に記載の輪重推定方法。
【数1】
【数2】
(ここで、
P
l:外軌側車輪の輪重推定値
P
r:内軌側車輪の輪重推定値
Z
r:磁歪式変位計で計測される内軌側軸ばねの上下変位
Z
l:磁歪式変位計で計測される外軌側軸ばねの上下変位
a
zl:外軌側車輪位置における上下加速度
a
zr:内軌側車輪位置における上下加速度
b
l:輪軸中心から外軌側車輪とレールの接触点までの距離
b
r:輪軸中心から内軌側車輪とレールの接触点までの距離
m:輪軸の質量
b
z:軸ばね間距離の半分の値
k:軸ばねの上下ばね定数
である。)
【請求項4】
前記第2ステップ及び前記第3ステップは、下記式(3)および(4)で表される演算を行う工程を少なくとも含む、請求項2に記載の輪重推定方法。
【数3】
【数4】
(ここで、
P
l:外軌側車輪の輪重推定値
P
r:内軌側車輪の輪重推定値
Z
r:磁歪式変位計で計測される内軌側軸ばねの上下変位
Z
l:磁歪式変位計で計測される外軌側軸ばねの上下変位
Q
r:内軌側車輪にかかる横圧
Q
l:外軌側車輪にかかる横圧
a
zl:外軌側車輪位置における上下加速度
a
zr:内軌側車輪位置における上下加速度
b
l:輪軸中心から外軌側車輪とレールの接触点までの距離
b
r:輪軸中心から内軌側車輪とレールの接触点までの距離
m:輪軸の質量
g:重力加速度
b
z:軸ばね間距離の半分の値
k:軸ばねの上下ばね定数
r:車輪径
である。)
【請求項5】
前記第1ステップは、下記式(5)および(6)で表される演算を行う工程を少なくとも含む、請求項3に記載の輪重推定方法。
【数5】
【数6】
(ここで、
a
zl:外軌側車輪位置における上下加速度
a
zr:内軌側車輪位置における上下加速度
a
sl:外軌側軸箱加速度センサによる出力値
a
sr:内軌側軸箱加速度センサによる出力値
b
s:輪軸中心から内外の軸箱加速度センサ設置位置までの距離
b
l:輪軸中心から外軌側車輪とレールの接触点までの距離
b
r:輪軸中心から内軌側車輪とレールの接触点までの距離
である。)
【請求項6】
前記第1ステップは、下記式(5)および(6)で表される演算を行う工程を少なくとも含む、請求項4に記載の輪重推定方法。
【数5】
【数6】
(ここで、
a
zl:外軌側車輪位置における上下加速度
a
zr:内軌側車輪位置における上下加速度
a
sl:外軌側軸箱加速度センサによる出力値
a
sr:内軌側軸箱加速度センサによる出力値
b
s:輪軸中心から内外の軸箱加速度センサ設置位置までの距離
b
l:輪軸中心から外軌側車輪とレールの接触点までの距離
b
r:輪軸中心から内軌側車輪とレールの接触点までの距離
である。)
【請求項7】
前記第3ステップは、前記横力項を求めるときに、輪軸の面ブレに起因した信号を低減するノッチフィルタを適用する処理を含む、請求項2、4、6の何れかに記載の輪重推定方法。
【請求項8】
営業車両であって、
前記第1センサの出力信号を受信する軸箱上下振動信号受信部と、前記第2センサの出力信号を受信する軸ばね上下変位信号受信部と、前記第3センサの出力信号を受信する車輪変位信号受信部とを有する台車と、
車体部と、床下部と、を備え、
前記車体部から送信される速度信号及び列車情報を入力すると共に、前記軸箱上下振動信号受信部、前記軸ばね上下変位信号受信部及び前記車輪変位信号受信部とアンプ部を介して接続され、情報処理装置に対し、請求項1~6の何れかに記載の輪重推定方法を実施可能なデータを送信する制御部が、前記床下部に設けられている、営業車両。
【請求項9】
軌道の状態を測定可能な営業車両であって、
前記車体部に、前記情報処理装置が備えられており、
前記情報処理装置は、
前記第1センサによる内軌側の出力値と外軌側の出力値を、それぞれ所要の係数を掛けた上で加算し、内軌側及び外軌側についてそれぞれ車輪位置における上下加速度を求める第1ステップと、
輪軸の重量と重力加速度と所要の係数を掛け算して求める重力項と、前記第2センサによる内軌側の出力値と外軌側の出力値を、それぞれ所要の係数を掛けた上で加算して求める軸ばね力項と、輪軸の質量と1/2と前記第1ステップの出力値を掛け算して求める慣性力項とに基づいて、内軌側及び外軌側についてそれぞれ輪重を推定する第2ステップと、を実行する、請求項8に記載の営業車両。
【請求項10】
前記営業車両を走行させて、前記第3センサの出力値に基づいて内軌側横圧と外軌側横圧をそれぞれ求め、これらの値を請求項2、4、6の何れかに記載の輪重推定方法により求めた内軌側輪重及び外軌側輪重でそれぞれ除して、内軌側及び外軌側について脱線係数をそれぞれ算出し、前記営業車両の走行区間における脱線係数の変化を監視する、軌道の監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、営業車両より得られたデータに基づいて輪重を推定する方法、及びこの方法を用いた軌道の監視方法、及びこの方法を実施するための営業車両等に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の走行安全性を測る指標として、脱線係数が用いられている。脱線係数は、鉄道車両の車輪とレールとの間に作用する鉛直荷重である輪重Pと、鉄道車両の車輪とレールとの間に作用する水平荷重である横圧Qの比であり、QをPで除した値であるQ/Pで表される。
【0003】
脱線係数は、車輪をレールに押しつける輪重Pに対し、車輪を逸脱させる方向に作用する横圧Qが大きくなれば脱線の危険性が高まることを示す数値と考えることができる。脱線係数は、車両自体の走行安全性を示す指標となるとともに、何らかの理由でレールに変位が生じた場合は脱線係数の変化として捉えることができるため、軌道の異常を検出することにも活用されている。
【0004】
従来、輪重P及び横圧Qを一定程度の精度で推定することが可能なセンサが取り付けられたPQモニタリング台車を用いることにより、脱線係数を日常的に測定可能とすることが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献1を参照)。
【0005】
脱線係数の測定は、一般的には、車輪を加工して歪みゲージを貼付したPQ輪軸が使用されている。PQ輪軸では、車輪に空けた孔に貼り付けた歪みゲージを用いて、輪重による車輪縦方向の変形を検出すると共に、横圧による車輪の曲げ変形を検出している。しかし、PQ輪軸による脱線係数の測定は、新しい路線が開業する際や新型車両が導入される際など、ごく限られた場合にのみ行われ、単発的ないしは間欠的な測定しか行えず、計測頻度は極めて低いものであった。その理由は、歪ゲージを貼り付けるため輪軸に孔をあける必要があり、孔が空いた輪軸では強度上の問題から営業線において長期に使用できず、熱の影響を避ける必要があってブレーキを作用させることができないため、営業運行の車両には用いることができなかったからである。
【0006】
これに対し、PQモニタリング台車では、車輪ではなく、台車枠等の静止系に歪みゲージや各種センサを貼り付けて、輪重Pや横圧Qを一定程度の精度で推定することが可能となり、営業車両に搭載して継続的かつ長期的に大量のデータを取得し、脱線係数Q/Pを常時観測することが可能になっている。
【0007】
PQモニタリング台車において輪重Pを推定するためには、その計測値が、たとえば横圧や加減速による力など、種々の外力に対して極力影響を受けないことを考慮する必要がある。一般に、PQモニタリング台車では、これらの外力の影響を極力除外するため、可能な限り車輪に近い位置で輪重Pに相当する信号を検出している。具体的には、非特許文献1に記載されているように、軸ばねにセンサ(磁歪式変位計)を取付け、軸ばねに発生する歪・たわみを計測する方法が用いられている。
【0008】
また、PQモニタリング台車では、横圧Qを推定するために、例えば、特許文献1に示すように、台車軸箱下部に治具を用いて横圧測定用のセンサ(非接触変位計)を取付け、車輪の曲げ変形量を検出する方法が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006-88967号公報
【特許文献2】特開2015-51674号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「PQ輪軸を用いない車輪/レール接触力の測定方法」、日本機械学会論文集(C編)77巻774号(2011-2)、p.147-155
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のとおり、PQモニタリング台車を用いれば、営業車両での日常的な測定データに基づいて輪重Pを推定することができる。
【0012】
しかしながら、従来のPQモニタリング台車による輪重の推定は、磁歪式変位計を使用して軸ばねの変位量を測定しているため、瞬間的に発生する衝撃的な輪重変動には追随できない。そのため、従来の輪重推定方法は、瞬間的な輪重変動を測定しておらず、軌道の局所的な変化には対応できないところがあった。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、営業車両によって継続的かつ長期的にデータを取得することが可能で、かつ、瞬間的に発生する輪重変動にも追従可能とすることで高精度化された輪重推定方法、及びこの方法を用いた軌道の監視方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するため、本発明者らは、鋭意検討した結果、PQモニタリング台車の軸箱に振動加速度計を取付け、この振動加速度計から得られるデータを考慮した演算を行うことで、レール面に対して鉛直方向の瞬間的な荷重を含めて輪重を精度の良く推定できることを見出した。本発明は、上記本発明者らの知見に基づき完成したものである。
【0015】
本発明の輪重推定方法は、
内軌側及び外軌側について軸箱の上下方向の振動の加速度を計測する第1センサと、内軌側及び外軌側について軸ばねのたわみ量を計測する第2センサと、を備えた営業車両を走行させて、営業車両の走行時の輪重を推定する方法であって、
第1センサによる内軌側の出力値と外軌側の出力値を、それぞれ所要の係数を掛けた上で加算し、内軌側及び外軌側についてそれぞれ車輪位置における上下加速度を求める第1ステップと、
輪軸の重量と重力加速度と所要の係数を掛け算して求める重力項と、第2センサによる内軌側の出力値と外軌側の出力値を、それぞれ所要の係数を掛けた上で加算して求める軸ばね力項と、輪軸の質量と1/2と第1ステップの出力値を掛け算して求める慣性力項とに基づいて、内軌側及び外軌側についてそれぞれ輪重を推定する第2ステップと、を有している。
【0016】
本発明は、内軌側及び外軌側について車輪板部の曲げによる水平方向の変形量を計測する第3センサを更に備え、
第2ステップと共に、第3センサによる外軌側の出力値から内軌側の出力値を減算して所要の係数を掛けて求める横力項を加算もしくは減算して、内軌側及び外軌側についてそれぞれ輪重を推定する第3ステップを含むようにしてもよい。
【0017】
本発明は、第2ステップについては、下記式(1)および(2)で表される演算を行う工程を少なくとも含むようにしてもよい。
【数1】
【数2】
(ここで、
P
l:外軌側車輪の輪重推定値
P
r:内軌側車輪の輪重推定値
Z
r:磁歪式変位計で計測される内軌側軸ばねの上下変位
Z
l:磁歪式変位計で計測される外軌側軸ばねの上下変位
a
zl:外軌側車輪位置における上下加速度
a
zr:内軌側車輪位置における上下加速度
b
l:輪軸中心から外軌側車輪とレールの接触点までの距離
b
r:輪軸中心から内軌側車輪とレールの接触点までの距離
m:輪軸の質量
b
z:軸ばね間距離の半分の値
k:軸ばねの上下ばね定数
である。)
【0018】
本発明は、第2ステップと第3ステップについては、下記式(3)および(4)で表される演算を行う工程を少なくとも含むようにしてもよい。
【数3】
【数4】
(ここで、
P
l:外軌側車輪の輪重推定値
P
r:内軌側車輪の輪重推定値
Z
r:磁歪式変位計で計測される内軌側軸ばねの上下変位
Z
l:磁歪式変位計で計測される外軌側軸ばねの上下変位
Q
r:内軌側車輪にかかる横圧
Q
l:外軌側車輪にかかる横圧
a
zl:外軌側車輪位置における上下加速度
a
zr:内軌側車輪位置における上下加速度
b
l:輪軸中心から外軌側車輪とレールの接触点までの距離
b
r:輪軸中心から内軌側車輪とレールの接触点までの距離
m:輪軸の質量
g:重力加速度
b
z:軸ばね間距離の半分の値
k:軸ばねの上下ばね定数
r:車輪径
である。)
【0019】
本発明は、第1ステップについては、下記式(5)および(6)で表される演算を行う工程を少なくとも含むようにしてもよい。なお、本発明では、横力項を加味した第3ステップを含む場合でも、含まない場合でも、第1ステップにおいて、下記式(5)および(6)で表される演算を行う工程を含むことができる。
【数5】
【数6】
(ここで、
a
zl:外軌側車輪位置における上下加速度
a
zr:内軌側車輪位置における上下加速度
a
sl:外軌側軸箱加速度センサによる出力値
a
sr:内軌側軸箱加速度センサによる出力値
b
s:輪軸中心から内外の軸箱加速度センサ設置位置までの距離
b
l:輪軸中心から外軌側車輪とレールの接触点までの距離
b
r:輪軸中心から内軌側車輪とレールの接触点までの距離
である。)
【0020】
本発明は、第3ステップは、横力項を求めるときに、輪軸の面ブレに起因した信号を低減するノッチフィルタを適用する処理を含むようにしてもよい。
【0021】
本発明の営業車両は、
第1センサの出力信号を受信する軸箱上下振動信号受信部と、第2センサの出力信号を受信する軸ばね上下変位信号受信部と、第3センサの出力信号を受信する車輪変位信号受信部とを有する台車と、
車体部と、床下部と、を備え、
車体部から送信される速度信号及び列車情報を入力すると共に、軸箱上下振動信号受信部、軸ばね上下変位信号受信部及び車輪変位信号受信部とアンプ部を介して接続され、情報処理装置に対し、上述した何れかの輪重推定方法を実施可能なデータを送信する制御部が、床下部に設けられている。
【0022】
本発明では、軌道の状態を測定可能な営業車両は、車体部に、上記した情報処理装置を備えるようにしてもよい。この場合、当該情報処理装置が、上述した第1ステップと第2ステップを実行する。
【0023】
本発明の軌道の監視方法は、
営業車両を走行させて、第3センサの出力値に基づいて内軌側横圧と外軌側横圧をそれぞれ求め、これらの値を上述した何れかの輪重推定方法により求めた内軌側輪重及び外軌側輪重でそれぞれ除して、内軌側及び外軌側について脱線係数をそれぞれ算出し、営業車両の走行区間における脱線係数の変化を監視するものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、営業車両より得られたデータに基づいて輪重を推定する方法において、従来のPQモニタリング台車と同様、内軌側及び外軌側について軸ばねのたわみ量を計測する第2センサから得られるデータを用いることに加え、従来は存在しなかった新規な構成として、内軌側及び外軌側について軸箱の上下方向の振動の加速度を計測する第1センサ(例えば振動加速度計)を設けて、第1センサから得られるデータを用いた演算を行うものである。
【0025】
そのため、本発明では、第1センサによる内軌側の出力値と外軌側の出力値を、それぞれ所要の係数を掛けた上で加算し、内軌側及び外軌側についてそれぞれ車輪位置における上下加速度を求める第1ステップを有する。
【0026】
また、本発明は、輪軸の重量と重力加速度と所要の係数を掛け算して求める重力項と、第2センサによる内軌側の出力値と外軌側の出力値を、それぞれ所要の係数を掛けた上で加算して求める軸ばね力項と、輪軸の質量と1/2と第1ステップの出力値を掛け算して求める慣性力項とに基づいて、内軌側及び外軌側についてそれぞれ輪重を推定する第2ステップを有する。
【0027】
本発明によれば、営業車両によって継続的かつ長期的に営業車両が走行する軌道のデータを取得することができることに加え、内軌側及び外軌側についてそれぞれ車輪位置における上下加速度を加味した演算を行うことにより、瞬間的に発生する輪重変動にも追従することができるので、輪重を精度良く推定することが可能となる。
【0028】
本発明の輪重推定方法において、推定される輪重の精度を更に高めるためには、営業車両に、内軌側及び外軌側について車輪板部の曲げによる水平方向の変形量を計測する第3センサを設けると共に、第3センサによる外軌側の出力値から内軌側の出力値を減算して所要の係数を掛けて求める横力項を加算もしくは減算する第3ステップを含むようにすることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、実施形態に係る輪重推定方法の推定式に用いるパラメータの意味を示す説明図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る輪重推定方法において用いるパラメータと関数の入出力の関係を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係るPQモニタリング台車において第1センサ(振動加速度計)と第2センサ(磁歪式変位計)の取付け位置を示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係るPQモニタリング台車において第3センサ(非接触変位計)の取付け位置を示す図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る輪重推定方法を実施する営業車両の構成を示すシステムブロック図である。
【
図6】
図6(a)は、実施形態に係る輪重推定方法により、営業車両を走行させた区間において輪重を推定した結果を示すグラフ、
図6(b)は、第1センサを用いない従来の輪重推定方法により、同じ区間で輪重を推定した結果を示すグラフである。
【
図7A】
図7Aは、横力項を含む実施形態に係る輪重推定方法により、営業車両を走行させた区間において輪重を推定した結果を示すグラフである。
【
図7B】
図7Bは、
図7Aのデータから慣性力項に基づく値を除いた準静的な輪重変化を示すグラフである。
【
図8A】
図8Aは、横力項を含まない実施形態に係る輪重推定方法により、営業車両を走行させた区間において輪重を推定した結果を示すグラフである。
【
図8B】
図8Bは、
図8Aのデータから慣性力項に基づく値を除いた準静的な輪重変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の一例であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0031】
本実施形態の輪重推定方法では、第1センサ、第2センサ、及び第3センサを設けたPQモニタリング台車を使用する。本実施形態は、継続的かつ長期的に軌道のデータを取得することができることに加え、内軌側及び外軌側についてそれぞれ車輪位置における上下加速度を加味した演算を行うことにより、瞬間的に発生する輪重変動にも追従できることを目的とした精度の高い輪重推定方法である。
【0032】
[各パラメータの説明]
本実施形態の輪重推定方法を実施するために用いるPQモニタリング台車10は、
図1に示すように、左車輪11と右車輪12を備えている。PQモニタリング台車10は、営業車両として走行させることが可能な台車である。左側レール13と右側レール14からなる軌道は曲線区間であり、左車輪11側が高く、右車輪12側が低くなるようにカントが設けられている。
【0033】
図1に示す例では、左車輪11は外軌側車輪であり、右車輪12は内軌側車輪である。カントは、左車輪11側が低く右車輪12側が高くなるように設けられている場合もあるので、本明細書では、必要に応じて、外軌側車輪、内軌側車輪の用語を用いる。
図1の例では、左車輪11が外軌側車輪、右車輪12が内軌側車輪である。PQモニタリング台車10は、左車輪11と右車輪12をそれぞれ支持する軸ばね15,16を備える。
【0034】
以下、本実施形態の輪重推定方法に用いる推定式において使用するパラメータの意味について説明する。最初に、本実施形態で使用するパラメータを列記する。
【0035】
Pl:左車輪の輪重推定値(推定値)
Pr:右車輪の輪重推定値(推定値)
Zr:磁歪式変位計で計測される右軸ばねの上下変位(測定値)
Zl:磁歪式変位計で計測される左軸ばねの上下変位(測定値)
Qr:右車輪にかかる横圧(測定値)
Ql:左車輪にかかる横圧(測定値)
asr:右軸箱振動加速度計による出力値(測定値)
asl:左軸箱振動加速度計による出力値(測定値)
bl:輪軸中心から左車輪とレールの接触点までの距離(近似値)
br:輪軸中心から右車輪とレールの接触点までの距離(近似値)
【0036】
ここで、b
lとb
rに関し、線形モデルを使用した場合の近似の一例は、下記式(7)および式(8)のとおりである。
【数7】
【数8】
【0037】
b0:軌間が一定で軌道変位のない直線軌道において輪軸が中立状態にあるときの輪軸中心から左右の車輪・レール接触点までの距離(設計値)
y:輪軸の左右移動量(近似値)
δ:フランジ遊間の大きさ(設計値)
s:スラックの大きさ(設計値)
【0038】
ここで、yについては、直線区間、左曲線区間、右曲線区間に応じて、下記式(9)のように定義する。
【数9】
【0039】
m:輪軸の質量(設計値)
g:重力加速度(既知)
bz:軸ばね間距離の半分の値(設計値)
k:軸ばねの上下ばね定数(設計値)
bs:輪軸中心から左右の軸箱加速度センサ設置位置までの距離(設計値)
r:車輪径(設計値)
azl:左車輪位置における上下加速度
azr:右車輪位置における上下加速度
【0040】
上記パラメータの意味に関し、
図1を参照しながら、説明を補充する。
【0041】
左車輪11の輪重推定値はPlとし、右車輪12の輪重推定値はPrとする。PlとPrは本実施形態の輪重推定方法による演算によって最終的に推定される結果の値であり、本発明が目的とする値である。
【0042】
右軸ばね16の上下変位はZrとし、左軸ばね15の上下変位はZlとする。ZrとZlは磁歪式変位計で計測される値であり、測定値である。磁歪式変位計は、第2センサに相当するものである。
【0043】
右車輪12にかかる横圧はQrとし、左車輪11にかかる横圧はQlとする。QrとQlは非接触変位計で計測される値であり、測定値である。非接触変位計は、第3センサに相当するものである。
【0044】
左軸箱用の振動加速度計による出力値はaslとし、右軸箱用の振動加速度計による出力値はasrとする。aslとasrは振動加速度計で計測される値であり、測定値である。振動加速度計は第1センサに相当するものである。
【0045】
左車輪11の位置における上下加速度はazlとし、右車輪12の位置における上下加速度はazrとする。azlとazrは、振動加速度計からの出力値を入力し、後記する第1ステップの演算を行うことで求められる値である。
【0046】
輪軸中心から左右の軸箱に設けた振動加速度計の設置位置までの距離はbsとする。本実施形態では、bsは設計値を用いる。
【0047】
輪軸中心から左車輪11とレールの接触点までの距離はblとし、輪軸中心から右車輪12とレールの接触点までの距離はbrとする。本実施形態では、blとbrは、近似値として求められる値を用いる。近似値を求めるために、上述のとおり輪軸の左右移動量y、フランジ遊間の大きさδ、スラックの大きさsを用いた線形モデルを使用する。
【0048】
輪軸の重量はmとする。本実施形態では、mは設計値を用いる。
【0049】
重力加速度はgとする。gは既知の値であり、具体的には、9.80665m/s2である。
【0050】
軸ばね15,16間距離の半分の値はbzとする。bzは設計値を用いる。
【0051】
軸ばね15,16の上下ばね定数はkとする。本実施形態では、kは設計値を用いる。
【0052】
車輪径はrとする。本実施形態では、rは設計値を用いる。ただし、rは車輪転削の度に変更を行う。
【0053】
[推定式の説明]
次に、本実施形態の輪重推定方法の推定式の一例を説明する。
図2では、関数Aに入力されるパラメータと関数Aが出力するパラメータの関係、及び、関数Bに入力されるパラメータと関数Bが出力するパラメータの関係をブロック図として示している。
図2において、関数Aが行う演算処理は、第1ステップに相当する。関数Bが行う演算処理は、第2ステップ及び第3ステップに相当する。
【0054】
第1ステップでは、下記式(5)および(6)で表される関数Aの演算を行う。具体的に、第1ステップは、左軸箱の振動加速度計による出力値a
slと、右軸箱の振動加速度計による出力値a
srと、輪軸中心から左右の軸箱加速度センサ設置位置までの距離b
sと、輪軸中心から左車輪11とレール13の接触点までの距離b
lと、輪軸中心から右車輪12とレール14の接触点までの距離b
rを入力値とするものである。そして、下記式(5)および(6)に示す演算を行う。
【数10】
【数11】
【0055】
つまり、第1ステップでは、第1センサによる内軌側の出力値と外軌側の出力値を、それぞれ輪軸の左右移動量に基づいた係数を掛けた上で加算し、内軌側及び外軌側についてそれぞれ車輪位置における上下加速度を求めている。第1ステップによる演算の結果、得られる出力値は、左車輪11の位置における上下加速度azlと、右車輪12の位置における上下加速度azrである。
【0056】
第2ステップ及び第3ステップでは、下記式(3)および(4)で表される関数Bの演算を行う。具体的に、第2ステップは、磁歪式変位計で計測される右軸ばね16の上下変位Z
rと、磁歪式変位計で計測される左軸ばね15の上下変位Z
lと、左車輪11の位置における上下加速度a
zlと、右車輪12の位置における上下加速度a
zrと、輪軸中心から左車輪11とレール13の接触点までの距離b
lと、輪軸中心から右車輪12とレール14の接触点までの距離b
rと、輪軸の質量mと、重力加速度gと、軸ばね15,16間の距離の半分の値b
zと、軸ばね15,16の上下ばね定数kと、車輪径rを入力値とするものである。このうち、左車輪位置における上下加速度a
zlと、右車輪位置における上下加速度a
zrは、第1ステップの出力値である。また、第3ステップは、右車輪12にかかる横圧Q
rと、左車輪11にかかる横圧Q
lと、輪軸中心から左車輪11とレール13の接触点までの距離b
lと、輪軸中心から右車輪12とレール14の接触点までの距離b
rと、車輪径rを入力値とするものである。そして、第2ステップ及び第3ステップは、下記式(3)および(4)に示す演算を行う。
【数12】
【数13】
【0057】
上記推定式は、左から順番に「重力項」+「右軸ばね力項」+「左軸ばね力項」+「慣性力項」+「横力項」を計算しているものである。
【0058】
つまり、第2ステップでは、輪軸の重量と重力加速度と輪軸の左右移動量に基づいた係数を掛け算して求める「重力項」と、第2センサによる内軌側の出力値と外軌側の出力値を、それぞれ輪軸の左右移動量及び軸ばねの上下ばね定数に基づいた係数を掛けた上で加算して求める「軸ばね力項」と、輪軸の質量と1/2と第1ステップの出力値を掛け算して求める「慣性力項」を加算している。さらに、第3ステップでは、第3センサによる外軌側の出力値から内軌側の出力値を減算して輪軸の左右移動量に基づいた係数を掛けて求める「横力項」を加算もしくは減算して、内軌側及び外軌側についてそれぞれ輪重を推定している。第2ステップ及び第3ステップにより得られる出力値は、左車輪の輪重推定値Plと、右車輪の輪重推定値Prである。
【0059】
[センサの説明]
本実施形態の輪重推定方法を実施するPQモニタリング台車10には、内軌側と外軌側の双方に、それぞれ3種類のセンサが取付けられている。具体的に、
図3に示すように、PQモニタリング台車10には、右車輪12側の軸箱及び左車輪11側の軸箱について、それぞれ上下方向の振動の加速度を計測する振動加速度計1が取付けられている。振動加速度計1は結束バンド1aにより台座に取り付けられている。振動加速度計1は、内軌側及び外軌側について軸箱の上下方向の振動の加速度を計測する第1センサに相当する。また、PQモニタリング台車10には、右車輪12側及び左車輪11側について各軸ばねのたわみ量を計測する磁歪式変位計2が取付けられている。磁歪式変位計2は、内軌側及び外軌側について軸ばねのたわみ量を計測する第2センサに相当する。
【0060】
また、PQモニタリング台車10には、
図4に示すように、右車輪12側及び左車輪11側について各車輪板部の曲げによる水平方向の変形量を計測する非接触変位計3a,3b,3cが取付けられている。具体的には、軸受17を介して回転自在に輪軸を支持する軸箱18に、第1変位計取付け座19を介して非接触変位計3aを配置している。
【0061】
非接触変位計3aは、営業車両の走行中に車輪20のリム部20a又は板部20bの変形量を計測する。また、非接触変位計3bは、軸箱18に第2変位計取付け座21を介して取付けられており、車輪20のボス部20cの変位を計測して、その差から横圧に相当する車輪20のリム部20a又は板部20bの変形量を演算する。さらに、非接触変位計3cは、車軸に対して非接触変位計3bと対称の位置に配置されており、軸箱18の傾きを補正する。これら非接触変位計3a,3b,3cは、内軌側及び外軌側について車輪板部の曲げによる水平方向の変形量を計測する第3センサに相当する。
【0062】
一般に横圧による車輪変形を検出するためには、検出される変位量は最低0.005mm程度の精度を必要とする。この精度は変位計の分解能0.002mmに対しては可能な値であるが、センサの取り付け等に起因する誤差やノイズを考慮した補正を要する。そこで、本実施形態では、例えば前述した特許文献1等で開示されている公知の補正方法を利用する。具体的に、本実施形態では、上述した3つの非接触変位計3a,3b,3cを用いて軸箱と車輪の間の相対変位を考慮した補正を行うことで横圧推定値の精度を向上させている。本実施形態では、先ず、ベアリングのスラスト隙間などによって輪軸が軸箱に対してスラスト方向に移動する量δsを求める。次に、台車枠にかかる横方向力などにより軸箱が輪軸に対して傾く量δTを求めた上で、補正後の板部変形量δを求める。具体的には、補正後の板部変形量δは、非接触変位計3a,3b,3cがそれぞれ捉えた変位量により次式で表わされる。
【0063】
δs=(δ1+δ2)/2
δT= B・tanθ=(B/A)(δ2-δ1)
δ=δ3- (δs+δT)
=δ3- (δ1+δ2)/2-(B/A)(δ2-δ1)
上記式中、δ1は車輪ボス部上部変位、δ2は車輪ボス部下部変位、δ3は車輪板部変位、Aはボス部設置上下センサ間距離、Bは車軸中心から車輪板部設置センサ間距離、θは軸箱から車輪間の相対傾き角である(特許文献1の第2図を参照)。
【0064】
[営業車両及びPQデータ無線伝送装置の説明]
図5に示すように、本実施形態で使用した営業車両は、車体部50と床下部60と台車70を備えている。車体部50には、情報処理装置81、地車間通信機能装置82及びアンテナ83を備えたPQデータ無線伝送装置80が設置されている。PQデータ無線伝送装置80は、無線を使用することで営業車両の外部の装置との間でデータ通信を行うことが可能な装置である。
【0065】
台車70には、PQモニタリング台車10が用いられている。台車70は、振動加速度計1の出力信号を受信する軸箱上下振動信号受信部71と、磁歪式変位計2の出力信号を受信する軸ばね上下変位信号受信部72と、非接触変位計3a,3b,3cの出力信号を受信する車輪変位信号受信部73を少なくとも備えている。台車70は更にモノリンク荷重信号受信部を備えていてもよい。
【0066】
床下部60には、車体部50から送信される速度信号51と列車情報52を少なくとも入力可能なPQモニタ制御器61が設置されている。列車情報52には、営業車両を特定する車両番号のほか、営業車両の位置データ、時刻データなどが含まれる。PQモニタ制御器61と情報処理装置81は、車体部50に設けたDC100V電源53から電源供給を受けている。
【0067】
PQモニタ制御器61は、軸箱上下振動信号受信部71、軸ばね上下変位信号受信部72、車輪変位信号受信部73のそれぞれと、コネクタ台62及びアンプ部63を介して接続されている。アンプ部63では、信号増幅等の処理が行われる。その後、データは情報処理装置81に送られ演算処理が行われる。PQモニタ制御器61は、情報処理装置81に対し、本実施形態の輪重推定方法を実施するのに必要なデータを送信する制御部に相当する。
【0068】
本実施形態では、車体部50に情報処理装置81が備えられている。情報処理装置81は、中央処理装置(CPU)、主記憶(メモリ)、二次記憶装置(HDD、SSD等)を備えており、二次記憶装置に記録されているアプリケーションプログラムを主記憶にロードして中央処理装置において所要の演算を行うことができる。そして、情報処理装置81は、振動加速度計1による内軌側の出力値と外軌側の出力値を、それぞれ輪軸の左右移動量に基づいた係数を掛けた上で加算し、内軌側及び外軌側についてそれぞれ車輪位置における上下加速度を求める第1ステップと、輪軸の重量と重力加速度と輪軸の左右移動量に基づいた係数を掛け算して求める「重力項」と、第2センサによる内軌側の出力値と外軌側の出力値を、それぞれ輪軸の左右移動量及び軸ばねの上下ばね定数に基づいた係数を掛けた上で加算して求める「軸ばね力項」と、輪軸の質量と1/2と第1ステップの出力値を掛け算して求める「慣性力項」とに基づいて、内軌側及び外軌側についてそれぞれ輪重を推定する第2ステップを実行する。本実施形態の営業車両は、軌道の状態を測定可能な営業車両である。
【0069】
[走行試験1]
本実施形態の輪重推定方法の効果を確認するため、地下鉄の営業線において上記構成のPQモニタリング台車を実装した営業車両を走行させて走行試験1を実施した。走行試験1では、振動加速度計の出力値は使用せずに磁歪式変位計の出力値のみを使用する従来の輪重推定方法も同時に実施した。走行試験1は、東京メトロ千代田線の北千住駅~町屋駅の区間において通常の営業時間帯に行った。
【0070】
本実施形態の輪重推定方法による結果を
図6(a)に示すと共に、従来の推定方法による結果を
図6(b)に示す。各グラフにおいて縦軸は車両進行方向前方の左車輪の輪重推定値P
lを、横軸は営業車両の走行距離を示している。
【0071】
両グラフを比較すると、たとえば走行距離3.5km前後、4km手前、4.3km付近、5.3km前後の曲線区間において、本実施形態の輪重推定方法は、従来方法と比較して、振動的な輪重が精度よく観測されていることが確認できた。また、走行距離3.75km前後の分岐器が存在する場所での衝撃や、走行距離4.5~5kmの定尺レールの継ぎ目部による衝撃も、本実施形態の輪重推定方法を用いた場合は精度よく検出された。なお、
図6では、左車輪の輪重のみを示しているが、右車輪の輪重についても同様の結果が得られることを確認した。
【0072】
[実施形態の第1変形例]
本変形例の輪重推定方法は、
図2のブロック図において、関数Aが行う演算処理については、前述した式(5)および式(6)を用いた第1ステップと同じ演算処理を行うが、関数Bが行う演算処理については、横力項を考慮した演算は行わず、下記式(1)および式(2)を用いた第2ステップのみを実施する。
【0073】
具体的に、本変形例の第2ステップは、磁歪式変位計で計測される右軸ばね16の上下変位Z
rと、磁歪式変位計で計測される左軸ばね15の上下変位Z
lと、左車輪11の位置における上下加速度a
zlと、右車輪12の位置における上下加速度a
zrと、輪軸中心から左車輪11とレール13の接触点までの距離b
lと、輪軸中心から右車輪12とレール14の接触点までの距離b
rと、輪軸の質量mと、重力加速度gと、軸ばね15,16間の距離の半分の値b
zと、軸ばね15,16の上下ばね定数kと、車輪径rを入力値とするものである。このうち、左車輪位置における上下加速度a
zlと、右車輪位置における上下加速度a
zrは、第1ステップの出力値である。
【数14】
【数15】
【0074】
上記推定式は、左から順番に「重力項」+「右軸ばね力項」+「左軸ばね力項」+「慣性力項」を計算しているものである。
【0075】
つまり、第2ステップのみを行い、輪軸の重量と重力加速度と輪軸の左右移動量に基づいた係数を掛け算して求める「重力項」と、第2センサによる内軌側の出力値と外軌側の出力値を、それぞれ輪軸の左右移動量及び軸ばねの上下ばね定数に基づいた係数を掛けた上で加算して求める「軸ばね力項」と、輪軸の質量と1/2と第1ステップの出力値を掛け算して求める「慣性力項」を加算している。本変形例では、第2ステップにより得られる出力値が、左車輪の輪重推定値Plと、右車輪の輪重推定値Prである。
【0076】
[走行試験2]
横力項も加味した式(3)および式(4)の演算を行う前述の実施形態の輪重推定方法と、横力項は考慮しない本変形例の輪重推定方法とで効果の違いを比較するため、地下鉄の営業線においてPQモニタリング台車を実装した営業車両を走行させて走行試験2を実施した。走行試験2は、東京メトロ千代田線の千駄木駅~根津駅間の区間において通常の営業時間帯に行った。
【0077】
横力項も加味した演算を行う前述の実施形態の方法による輪重変化を
図7Aに示すと共に、そのデータから慣性力項(第1ステップ)に基づく値を除いた準静的な輪重変化を
図7Bに示す。また、横力項は考慮しない本変形例の方法による輪重変化を
図8Aに示し、そのデータから慣性力項(第1ステップ)に基づく値を除いた準静的な輪重変化を
図8Bに示す。各グラフにおいて縦軸は車両進行方向前方の右車輪の輪重推定値はP
rを、横軸は営業車両の走行距離を示している。
【0078】
図7Aのグラフと、横力項を考慮しない本変形例の結果を示す
図8Aのグラフを比較すると、走行距離8.8~8.95kmの区間の曲線において、
図7Aのグラフの方が大きな値を検出している。同じ傾向は、慣性力項(第1ステップ)を除いた
図7Bのグラフと
図8Bのグラフの比較においても確認できる。この差が横力項を加味した演算を行うことによる効果と言うことができる。
【0079】
従って、本発明では、推定される輪重の精度を更に高めたい場合は、内軌側及び外軌側について車輪板部の曲げによる水平方向の変形量を計測する第3センサ(一例として非接触変位計3a,3b,3c)を設けると共に、第3センサによる外軌側の出力値から内軌側の出力値を減算して輪軸に作用する横力に基づいた係数を掛けて求める横力項を加算もしくは減算する第3ステップを含むようにすることがより好ましい。
【0080】
もっとも、本発明では、第1センサ(一例として振動加速度計1)の出力値を考慮した演算を行うことによる効果は顕著に大きいもので、
図7Aと
図7Bの結果を比較すればレールとレールの接続部に設ける隙間(継目部)やレール表面の摩耗による凹凸等を原因とする衝撃を高い精度で推定しているのに対し、更に横力項を加味した演算を行うことによる効果は、全体の効果の中では比較的小さなものである。
【0081】
従って、横力項を考慮しない本変形例の輪重推定方法も、一定以上の精度を保ちつつ、設備にかかるコストを低減できる、あるいはメンテナンスの手間が少なくて済む等の利点がある。
【0082】
[実施形態の第2変形例]
上述の実施形態において、第3ステップを実施して横力項も含めた演算を行う場合、非接触変位計3a,3b,3cによる出力データには、車輪と輪軸が直角に嵌め合っておらずブレが発生している「面ブレ」に起因した変位のデータも含まれている。従前は、面ブレについては加算平均処理によって対処していたところ、加算平均処理では失われてしまうデータもあって瞬間的な横圧を測定することが難しいという課題があった。
【0083】
そこで、本変形例では、面ブレに起因した信号を低減するためにノッチフィルタを適用することで、高精度な横圧推定を可能とした。すなわち、本変形例の輪重推定方法では、第3ステップは、横力項を求めるときに、輪軸の面ブレに起因した信号を低減するノッチフィルタを適用する処理を含むようにする。
【0084】
具体的には、非接触変位計3a,3b,3cによる出力データに基づいて横力項を求める場合は、走行距離に対するデータに変換した上で、以下の式10に示すノッチフィルタを適用することで、面ブレに起因していると考えられる成分の振幅を効果的に低減することができる。また、このノッチフィルタを利用する方法によれば、従来の加算平均処理とは異なり、瞬間的な横圧の増大も検知しやすい。
【数16】
(ここで、
ω
n:ノッチ角周波数[rad/s] = v/r
0
ξ:減衰パラメータ
ω
d:走行距離基準の面ブレ周波数 = 1/r
0
r
0:車輪の半径[m]
d
s:距離基準のサンプリング周期
である。)
【0085】
[実施形態の第3変形例]
鉄道車両の脱線に対する指標を定め、指標を評価し、評価結果に応じた対策を施すことは鉄道車両の走行安全性を向上させる上で重要である。鉄道車両の車輪とレールとの間に作用する鉛直荷重である輪重Pと、鉄道車両の車輪とレールとの間に作用する水平荷重である横圧Qの比である脱線係数(Q/P)は、軌道変位やレールの支持状態、車輪とレール間の接触状態によって大きく変化することが知られている。
【0086】
そのため、輪重Pと横圧Qの各推定値から求めた脱線係数を把握することで、レールの状態を推定することも可能と考えられる。一方で、従来、レールの状態を計測するためにレール検測車等を用いて軌道変位の値が測定されているが、こうした測定は間欠的にしか行うことができず、短期的な変化を捉えることができない。
【0087】
そこで、本変形例の軌道の監視方法では、軌道の状態変化を適時に把握するため、上述した実施形態の輪重推定方法を用いて輪重Pをこれまでよりも高い精度で推定した上で、営業線における脱線係数(Q/P)を常時観測する。
【0088】
本変形例では、例えばPQモニタリング台車10を実装した営業車両を走行させて、第3センサ(一例として非接触変位計3a,3b,3c)の出力値に基づいて内軌側横圧と外軌側横圧(Qr、Ql)をそれぞれ求め、これらの値を上述した実施形態の輪重推定方法により求めた内軌側輪重及び外軌側輪重(Pr、Pl)でそれぞれ割り算して、内軌側及び外軌側について脱線係数(Qr/Pr、Ql/Pl)をそれぞれ算出し、営業車両の走行区間における脱線係数の変化を監視する。
【0089】
本変形例による軌道の監視方法の結果を視覚的に把握しやすくするには、横軸に営業車両の走行距離を、縦軸に脱線係数を取ってグラフ化するようにすればよい。なお、脱線係数は、特定の台車の進行方向前側の輪軸が有する外軌側車輪について、鉄道車両が軌道の曲線区間を走行する場合における外軌脱線係数を把握するのが一般的であるから、本変形例においても同様に外軌脱線係数を把握するようにしてもよい。
【0090】
本変形例の軌道の監視方法は、レール検測車等を用いて軌道変位の値を測定する方法と比較すれば正確性に劣るかも知れないが、営業線における異常値の早期発見という目的からは必要な精度を十分に満たしている。また、従来のPQモニタリング台車による監視方法と比較すると、突発的な輪重Pを高精度に検出できるという利点があるため、たとえばレールの継ぎ目落ち、レール折損、レールはく離等の軌道の異常を早期かつ的確に把握することができる。
【0091】
[その他の変形例]
上述の実施形態において、情報処理装置81は、営業車両の外部に存在してもよい。この場合、営業車両を走行中は、PQモニタ制御器61の出力データを二次記憶装置に記録のみしておき、後日外部の情報処理装置を用いて記録したデータを読み込み、上述した第1ステップ、第2ステップ、第3ステップの演算を行うようにすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、営業車両を用いて輪重や脱線係数の変化を常時監視し、リアルタイムで走行安全性を確認しつつ、軌道の状態の変化や異常値を早期に発見できるシステム等に適用可能である。
【符号の説明】
【0093】
1 振動加速度計(第1センサ)
2 磁歪式変位計(第2センサ)
3a,3b,3c 非接触変位計(第3センサ)
11 左車輪
12 右車輪
13 左側レール
14 右側レール
15 左軸ばね
16 右軸ばね
17 軸受
18 軸箱
50 車体部
51 速度信号
52 列車情報
60 床下部
61 PQモニタ制御器
62 コネクタ台
63 アンプ部
70 台車
71 軸箱上下振動信号受信部
72 上下変位信号受信部
73 車輪変位信号受信部
80 PQデータ無線伝送装置
81 情報処理装置