(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156256
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】角形ケースの製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/26 20060101AFI20241029BHJP
B21D 51/18 20060101ALI20241029BHJP
B21D 51/26 20060101ALI20241029BHJP
H01M 50/103 20210101ALI20241029BHJP
【FI】
B21D22/26 C
B21D51/18 A
B21D51/26 F
H01M50/103
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070567
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】516111063
【氏名又は名称】有限会社山内エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100092808
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 亘
(74)【代理人】
【識別番号】100140981
【弁理士】
【氏名又は名称】柿原 希望
(72)【発明者】
【氏名】山内 章
(72)【発明者】
【氏名】大西 堅幸
【テーマコード(参考)】
4E137
5H011
【Fターム(参考)】
4E137AA01
4E137AA10
4E137BA04
4E137BA05
4E137BB01
4E137CA07
4E137CA09
4E137CA24
4E137GA02
4E137GB10
4E137GB18
5H011AA09
5H011CC06
5H011DD05
(57)【要約】
【課題】絞り加工やしごき加工方法では、一般的にコーナー部の曲率半径を下げて角をシャープにすると、特に底面四隅のコーナー部分の肉が不足して、肉厚が不十分となったり、亀裂が発生したりするという問題点がある。
【解決手段】この角形ケースの製造方法は、中間形状品20の底面22を内側に凹んだ凹形状とし、後にこれを平面とする。これによって凹形状部分の特に立ち上がり部分及び立ち下り部分に生じた余肉を底面の辺及び四隅のコーナー部に寄せておき、最終絞り工程S106において、底面のコーナー部分がシャープな金型を用いて最終絞り加工を行う。このとき、最後の中間形状品20aのコーナー部分には、余肉が寄せられているから、十分な量の肉(金属材料)が存在し、底面のコーナー部分を曲率半径Rが小さなシャープな形状に加工しても肉量の不足による薄化や亀裂、割れ等が生じることはない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面が空いた有底の角形ケースを作製する角形ケースの製造方法であって、
所定の形状に打ち抜かれた金属製のブランクに絞り加工を行って初回絞り品を作製する初回絞り工程と、
前記初回絞り品に再絞り加工を行って中間形状品とし、前記中間形状品に対しさらに再絞り加工を複数回行って前記中間形状品を目的の寸法に近付ける再絞り工程と、
前記再絞り工程で得られた最後の中間形状品に最終絞り加工を行って底面が平面なプレス完成品とする最終絞り工程と、を有し、
前記中間形状品のうち、少なくとも一つ以上の中間形状品の底面の形状が内側に凹んだ凹形状となっていることを特徴とする角形ケースの製造方法。
【請求項2】
最後の中間形状品の底面が凹形状であり、前記最後の中間形状品の長辺方向の寸法をLとし、底面の凹みの深さをAとしたときに、
深さAが (0.05×L) の値を超えないことを特徴とする請求項1記載の角形ケースの製造方法。
【請求項3】
ブランクの厚みをtとした時に、プレス完成品の底面のコーナー部の曲率半径Rが
0.5×t≦R≦2×t
であることを特徴とする請求項1記載の角形ケースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス加工による角形ケースの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、電気自動車やハイブリット車に用いられる二次電池(充電可能なリチウムイオン電池)の電池ケースとして有底角形の金属製ケースが用いられている。このような角形ケースの製造方法として、一枚の金属製のブランクを複数回、絞り加工やしごき加工を行って徐々に目的の形状に変形させてゆき、最終的に継ぎ目のない所望の角形ケースとするものがある。このような角形ケースの製造方法に関し、例えば下記[特許文献1]には板厚などの制約を受けない「電池ケースの製造方法」に関する発明が開示されている。また、本願発明者らは、このような角形ケースの製造方法に関し、従来よりも少ないプレス回数で所望の角形ケースを製造することが可能な下記[特許文献2]に記載の発明を行った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-158014号公報
【特許文献2】特開2019-166527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記の[特許文献1]には底面のコーナー部の曲率半径を小さく形成することが記載されている。しかしながら、コーナー部の曲率半径をどのようにして下げるかに関する具体的な記述はなく、また一般的に絞り加工やしごき加工方法では、コーナー部の曲率半径を下げて角をシャープにすると、特に底面四隅のコーナー部分の肉が不足して、肉厚が不十分となったり、亀裂が発生したりするという問題点がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、肉厚が十分でかつ底面のコーナー部分をシャープに形成することが可能な角形ケースの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
(1)上面が空いた有底の角形ケースを作製する角形ケースの製造方法であって、
所定の形状に打ち抜かれた1枚の金属製のブランク1に絞り加工を行って初回絞り品10を作製する初回絞り工程S102と、
前記初回絞り品10に再絞り加工を行って中間形状品(第1の中間形状品20)とし、前記中間形状品20に対しさらに再絞り加工を複数回行って前記中間形状品を目的の寸法に近付ける再絞り工程S104と、
前記再絞り工程S104で得られた最後の中間形状品20aに最終絞り加工を行って底面82が平面なプレス完成品80とする最終絞り工程S106と、を有し、
前記中間形状品20のうち、少なくとも一つ以上の中間形状品の底面の形状が内側に凹んだ凹形状となっていることを特徴とする角形ケースの製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(2)最後の中間形状品20aの底面22aが凹形状であり、前記最後の中間形状品20aの長辺方向の寸法をLとし、底面22の凹みの深さをAとしたときに、深さAが、(0.05×L)の値を超えないことを特徴とする上記(1)記載の角形ケースの製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(3)ブランク1の厚みをtとした時に、プレス完成品80の底面22のコーナー部の曲率半径Rが
0.5×t≦R≦2×t
であることを特徴とする上記(1)記載の角形ケースの製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る角形ケースの製造方法は、少なくとも一つ以上の中間形状品の底面の形状を内側に凹んだ凹形状とし、これを最終的に平面とする。そして、この凹形状の底面が平面となることで生じる余肉を塑性変形により底面の辺及び四隅のコーナー部に寄せておき最終絞り加工を行う。これにより、最後の中間形状品のコーナー部分には十分な量の金属材料が存在し、底面のコーナー部分を曲率半径の小さなシャープな形状としても肉量の不足による薄化や亀裂、割れ等が生じることはない。これにより、底面のコーナー部分がシャープな角形ケースの製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る角形ケースの製造方法の工程フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る角形ケースの製造方法の実施の形態について図面に基づいて説明する。尚、本発明は上記のように車載用二次電池の電池ケースに好適なものであるが、特にこれに限定される訳ではなく、その他の電気機器、機械機器、輸送機器、医療機器、日用品、玩具等の構成部品、構成ユニットのケースやカバー、筐体等、有底角形であれば如何なるものに適用しても良い。
【0010】
ここで、
図1は本発明に係る角形ケースの製造方法の工程フローチャートである。また、
図2は本発明に係るブランクを示す図である。また、
図3は本発明に係る初回絞り品を示す図である。また、
図4は本発明に係る第1の中間形状品を示す図である。また、
図5は本発明に係る最後の中間形状品を示す図である。また、
図6は本発明に係るプレス完成品を示す図である。尚、
図3、
図4、
図5の破線は比較のために図示した他の成形品(初回絞り品、中間形状品、プレス完成品)を示す。
【0011】
先ず、本発明に係る角形ケースの製造方法では、例えば所定の厚みの金属板を打ち抜いて、
図2に示すような所定の形状のブランク1を取得する(打ち抜き工程S100)。尚、本発明に用いる金属板の材質は絞り加工が可能な金属であれば、特に限定は無く、銅、真鍮、アルミニウム等を用いることができる。ただし、上記の車両用の電池ケースではアルミニウムを用いることが多い。また、ブランク1の形状は予め設計されたものであり、ここでは上面視で略ラグビーボール形状のものの例を示す。
【0012】
次に、この所定の形状に打ち抜かれた1枚のブランク1に周知のプレスによる絞り加工を行って、
図3に示すような初回絞り品10を作製する(初回絞り工程S102)。ここで、初回絞り品10は、
図3(a)に示す上面図及び
図3(b)に示すX-X視断面図、
図3(c)に示す側面図にあるように、上面が空いた略楕円形状を呈し、高さ寸法は破線で示すプレス完成品80よりも低く、また、長辺方向、短辺方向の幅寸法はいずれもプレス完成品80よりも大きい。尚、初回絞り品10の底面12は後述の凹形状としても良いが平面で形成しても構わない。
【0013】
次に、本発明の再絞り工程S104及び中間形状品20に関して説明を行う。尚、ここでは最も基本的な例として、最初の再絞り加工による第1の中間形状品20の底面22を凹形状とし、この底面22の凹みの度合いを再絞り加工を行うにつれて徐々に平面に近付けてゆき、最終絞り工程S106で平面とする例を説明する。ただし、本発明はこの例に限定されるものではなく、再絞り加工の回数、プレス完成品80の外形寸法、周長、ブランク1の材質、厚み、また作業性、所要時間、要求される寸法精度等によっては、例えば中間形状品の底面を再絞り工程S104の途中の時点で平面とし、これを最終絞り工程S106まで維持するようにしても良い。また、再絞り工程S104の序盤には底面22の凹み度合いを変化させず終盤の再絞り加工で平面に近付けるようにしても良い。さらに特殊な場合には、再絞り工程S104の途中で中間形状品の底面を凹形状とし、後に平面としても良い。いずれの場合にしろ、本発明では中間形状品20の形状の変遷において、少なくとも一つ以上の中間形状品の底面が内側に凹んだ凹形状の状態をとることとなる。
【0014】
そして、上記の最も基本的な再絞り工程S104では、初回絞り品10に対し周知の再絞り加工(しごき絞り加工)を行い、第1の中間形状品20とする。この第1の中間形状品20は
図4(a)の上面図にあるように、長辺方向、短辺方向の幅寸法は図中の破線で示す初回絞り品10よりも小さく、プレス完成品80よりも大きい値を取る。また、
図4(b)のXa-Xa断面図にあるように、高さ寸法は初回絞り品10よりも高く、プレス完成品80よりも低い値を取る。そして、この第1の中間形状品20の底面22は、プレス完成品80の底面82から見て内側に凹んだ凹形状となっている。尚、底面82の凹形状は図面に示したものに限定されず、例えば側面視で長辺方向に弓型をなした湾曲面としても良いし、少なくとも両方の短辺近傍に凹みを有する略波型形状としても良い。尚、この底面22の最適な凹みの度合いや深さ等は、プレス完成品80の外形寸法、周長、ブランク1の材質、厚み等によりそれぞれ異なるが、一般的にケースの周長が大きい程、凹形状の深さは深くなる。
【0015】
次に、この第1の中間形状品20に対し、所定の金型を用いて再絞り加工(しごき絞り加工)を行って第2の中間形状品とする。そして、これらの作業を順次金型を変えながら複数回行って、第3、第4・・・の中間形状品としていく。そして、この再絞り加工を進めることで、中間形状品20の長辺方向、短辺方向の幅寸法を徐々に狭めプレス完成品80の寸法に近付けていく。また、高さ寸法を徐々に延ばすとともに、余分な部分を切除するトリミング作業を適宜行ってプレス完成品80の寸法に近付けていく。さらに、中間形状品20の底面22の凹み度合いを徐々に下げ平面に近付けていく。このとき、凹形状の底面22は平面よりも高さ(凹み)が存在する分、表面積が大きく、また再絞り加工が進むにつれ周長は徐々に狭まるから、この再絞り加工の最中に凹形状の底面22が平面に近付くと凹形状部分の特に立ち上がり部分及び立ち下り部分に余剰な肉(金属材料)が生じ、この余肉は塑性変形により流動して底面の辺及び四隅のコーナー部に寄せられる。また、一部の余肉は側面に流動する。尚、この再絞り加工の回数もプレス完成品80の外形寸法、周長、ブランク1の材質、厚み等によりそれぞれ異なる。
【0016】
そして、この再絞り加工を所定の回数行うことで最後の中間形状品20aが作製される(再絞り工程S104)。この最後の中間形状品20aは
図5(a)の上面図に示すように長辺方向、短辺方向の幅寸法が第1の中間形状品20よりもプレス完成品80の寸法に近づいた小さな値を取る。また、最後の中間形状品20aの高さ寸法は
図5(b)のXb-Xb断面図に示すように第1の中間形状品20よりもプレス完成品80の寸法に近づいた大きな値を取る。さらに、最後の中間形状品20aの底面22aの凹み度合いは平面もしくは第1の中間形状品20の底面22よりも平面に近づいた値を取る。尚、この最後の中間形状品20aの底面22aの形状及び凹み度合いもプレス完成品80の外形寸法、周長、ブランク1の材質、厚み等によりそれぞれ異なる。ただし、最後の中間形状品20aの底面22aが凹形状の場合には、この凹み度合いが過剰に大きい(深い)と皺等が発生する可能性が有るため、
図5(b)に示すように、最後の中間形状品20aの底面22aの凹みの深さをAとし、最後の中間形状品20aの長辺方向の寸法をLとしたときに、深さAが0.05×L(mm)を超えないことが好ましい。
【0017】
次に、最後の中間形状品20aに対し最終形状の金型を用いて最終絞り加工(しごき絞り加工)を行う。これにより、
図6(a)の斜視図、
図6(b)の上面図、
図6(c)のXc-Xc断面図に示すように、底面82が平面で所定の寸法を備えたプレス完成品80が作製される(最終絞り工程S106)。尚、このプレス完成品80の底面82の辺及びコーナー部には、先の再絞り工程S104によって凹形状部分の特に立ち上がり部分及び立ち下り部分の余肉が寄せられており、十分な量の肉(金属材料)を有する。このため、特にコーナー部の曲率半径Rを、例えば素材となる金属板の板厚、即ちブランクの厚みをtとした時に、
0.5×t ≦R≦ 2×t(mm)
となるようなシャープな形状に加工しても、肉(金属材料)の不足による薄化や亀裂、割れ等が生じることはない。
【0018】
尚、上記のようにして作製されたプレス完成品80は、上部開口の余剰部分の切除と端面処理とが行われることで、底面82のコーナー部分が十分な肉厚でかつシャープな形状の角形ケースとなる。
【0019】
以上のように、本発明に係る角形ケースの製造方法は、再絞り工程S104において、中間形状品20の底面22を内側に凹んだ凹形状とし、後にこれを平面とする。これによって凹形状部分の特に立ち上がり部分及び立ち下り部分に生じた余肉を底面の辺及び四隅のコーナー部に塑性変形により寄せておき、最終絞り工程S106において、底面のコーナー部分がシャープな金型を用いて最終絞り加工を行う。このとき、最後の中間形状品20aのコーナー部分には、前述のように再絞り工程S104において余肉が寄せられているから、十分な量の肉(金属材料)が存在し、底面のコーナー部分を曲率半径Rが小さなシャープな形状に加工しても肉量の不足による薄化や亀裂、割れ等が生じることはない。これにより、従来の絞り加工では得ることのできなかった底面のコーナー部分がシャープでほぼ直角な角形ケースの製造が可能となる。
【0020】
尚、本例で示した角形ケースの製造方法の手順、初回絞り品10、中間形状品20、20a、プレス完成品80等の形状、寸法などは一例であり、これに限定されるものではない。また、本発明に係る角形ケースの製造方法は、適宜、必要な工程を挿入しても良い他、本発明は本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0021】
1 ブランク
10 初回絞り品
20 第1の中間形状品
20a 最後の中間形状品
22、22a、82 底面
80 プレス完成品
S102 初回絞り工程
S104 再絞り工程
S106 最終絞り工程