(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156259
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】魚肉練製品様食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 17/00 20160101AFI20241029BHJP
A23L 29/269 20160101ALI20241029BHJP
【FI】
A23L17/00 101C
A23L17/00 101D
A23L29/269
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070574
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松山 勇介
(72)【発明者】
【氏名】水野 陽平
【テーマコード(参考)】
4B034
4B041
【Fターム(参考)】
4B034LC05
4B034LK02X
4B034LK10X
4B034LK13X
4B034LK16X
4B034LK17X
4B034LK29X
4B034LP01
4B034LP04
4B034LP11
4B041LC03
4B041LD01
4B041LH02
4B041LH11
4B041LH18
4B041LK03
4B041LK11
4B041LK18
4B041LK36
4B041LK50
4B041LP01
4B041LP13
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、食感のよい魚肉練製品様食品をカードランをゲルの主体として製造する方法、および該方法により得られる魚肉練製品の様食品を提供することにある。
【解決手段】カードランに、魚肉すり身を該カードラン1重量部に対して6重量部以下となるように添加、混合し、ゲルを形成させることで、カードランゲルを主体としつつも、自然な魚肉の風味を有し、かつ食感もよい魚肉練製品様食品を提供することができる。魚肉すり身どうしを結着させるために必要な食塩を低減することもできるというメリットもある。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カードランに、魚肉すり身を該カードラン1重量部に対して6重量部以下となるように添加、混合する工程を有する、カードランゲルを主体とする魚肉練製品様食品の製造方法。
【請求項2】
魚肉すり身の添加量が、カードラン1重量部に対して、2.0~6.0重量部である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
魚肉練製品様食品が、カードランを3.5重量%以上含有する組成物である、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
カードランおよび魚肉すり身を含有する魚肉練製品様食品であって、該カードランの含有量が3.5重量%以上であり、かつ該カードランに対する魚肉すり身の含有重量比が6.0以下である、魚肉練製品様食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚肉練製品様食品またはその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、植物由来素材等を使用した肉代替食品のような、SDGsを意識した食品の開発は急速に進みつつある。このような食品の素材としては植物由来素材以外に増粘多糖類や香料などの素材が使用されるが、増粘多糖類に分類されるカードランもその一つである。カードランにより形成されるゲルは耐熱性、耐冷凍性など様々な特性を有するため、様々な食品の素材として活用されているが、ゲルの食感の類似性から、イカ様食品のような魚介様食品に利用されることも多い。
【0003】
例えば、カードランの上位概念である加熱凝固性β-1,3-グルカンの繊維状ゲルを成形してなる、かに・えび・貝柱様食品が知られている(特許文献1参照)。該食品はカードランを使用した繊維状のゲルを利用して模造的に食品を製造しているためアレルゲンフリーな食品を製造するのに適している。カードラン自体には風味がないため調味料等を用いて風味付けをするが、調味料の原料の工夫により、菜食主義にも対応可能な魚介様食品とすることができる。
【0004】
一方で、魚介原料を用いる水練食品などの製造においては資源保護やコストの観点から魚介原料を低減したいとのニーズがあり、該ニーズに対して、たとえば、魚肉100重童部に対しカードランを0.01~5重量部添加させて魚肉すり身の弾力を向上させることが知られている(特許文献2参照)。また、魚肉すり身とカードランの組合せに他の成分を添加するなどの発明はいくつかなされている(特許文献3~6参照)。しかし、いずれの方法においても魚介原料を低減すると食感が低下することもあり、大幅に低減することはなされていない。
【0005】
このような背景から、カードランゲルを主体とする組成物に、少量の魚介原料を配合するとの報告はこれまでなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08―238075
【特許文献2】特開平02―072846
【特許文献3】特開平02―065762
【特許文献4】特開平02―079960
【特許文献5】特開平03―098557
【特許文献6】特開平05―023143
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、食感のよい魚肉練製品様食品をカードランを主原料として製造する方法、および該方法により得られる魚肉練製品様食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の(1)~(4)に関する。
(1)カードランに、魚肉すり身を該カードラン1重量部に対して6重量部以下となるように添加、混合する工程を有する、カードランゲルを主体とする魚肉練製品様食品の製造方法。
(2)魚肉すり身の添加量が、カードラン1重量部に対して、2.0~6.0重量部である、上記(1)の方法。
【0009】
(3)魚肉練製品様食品が、カードランを3.5重量%以上含有する組成物である、上記(1)または(2)の製造方法。
(4)カードランおよび魚肉すり身を含有する魚肉練製品様食品であって、該カードランの含有量が3.5重量%以上であり、かつ該カードランに対する魚肉すり身の含有重量比が6.0以下である、魚肉練製品様食品。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、カードランゲルを主体としつつも、自然な魚肉の風味を有し、かつ食感もよい魚肉練製品様食品を提供することができる。また、魚肉すり身どうしを結着させるために必要な食塩を低減することもできるとのメリットもある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に用いられるカードランは、微生物による発酵生産物、天然抽出物、合成物(酵素、化学)などいずれの由来のものでも用いることができるが、食品への利用という観点から、発酵生産物または天然抽出物が好ましく、より好ましくは、食品への利用実績の多い、微生物による発酵産物、特に好ましくは、アグロバクテリウム属に属する微生物によって生産されたものが用いられる。特にアルカリゲネス属またはアグロバクテリウム属に属する微生物によって生産されるカードランが、物性のよさ、入手容易性等から好ましく用いられる。
【0012】
アルカリゲネス属またはアグロバクテリウム属に属する微生物としては、例えばアルカリゲネス フェカリス バール ミクソゲネス10C3K株[アグリカルチュラル バイオロジカル ケミストリー(Agricultural Biological Chemistry),Vol.30, page 196(1966)]、アルカリゲネス フェカリス バール ミクソゲネス10C3K株の変異株NTK-u(IFO 13140)(特公昭48-32673号)、アグロバクテリウム ラジオバクター(IFO 13127)およびその変異株U-19(IFO 13126)により生産される(特公昭48-32674号)ものがあげられる。カードランは、市販されており、容易に入手することができる(例えば、三菱商事ライフサイエンス社製)。
【0013】
本発明に用いられる魚肉すり身は、魚やイカ、エビなどをすり潰し、必要に応じて食塩等を加えて練ったもので、蒲鉾、つくね、竹輪等のいわゆる魚肉練り製品に使用可能なものであればいずれも用いることができる。魚肉の原料は、スケトウダラ、ホッケ、ワラズカ、イワシ、ホキ、サバ、グチ、タチ、ハモ、エソ、トビウオ、キンキコマイ、イトヨリ等があげられるが、これらに限られない。
【0014】
カードラン自体は水に不溶であるため、本発明ではカードランを膨潤化またはゲル化させて用いる。例えば、カードランと水とを高速撹拌機を用いて混合し分散液として用いる方法、カードランと水とを高速撹拌機を用いて均一化し、得られた分散液を約50~65℃に加熱し、次いで40℃以下に冷却して用いる方法、カードランを常温下、水に分散させておき、これに例えば熱湯を加えて瞬時に温度を約50~60℃に調整し、次いで40℃以下に冷却して用いる方法、カードランの水分散液をpH11以上の強アルカリに調整し、40℃以下でカードランを溶解させ、この液に酸を添加してpH2~10に調整して用いる方法、等があげられる。
【0015】
カードランは製剤に含有されていてもよい。例えば、アルカリ剤を含有するカードラン製剤(例えば、三菱商事ライフサイエンス社製、オルガノフードテック社製のカードラン製剤CD-ESなど)は、水を加えて低速以上で撹拌することでカードランをアルカリ溶解状態とできるため好ましく用いられる。
【0016】
魚肉すり身にカードランを添加した後上記方法でカードランを膨潤またはゲル化させるか、好ましくは上記方法で膨潤またはゲル化させたカードラン分散液に魚肉すり身を添加、混合することで本発明の魚肉練製品様食品を製造することができるが、本発明はカードランゲルを組成物の主体とする点で、従来の魚肉すり身とカードランを含有する魚肉練製品様食品とは異なる。
【0017】
すなわち、本発明の魚肉練製品様食品は、カードランを3.5重量%以上、好ましくは4.0重量%以上、より好ましくは4.5重量%以上含有し、魚肉すり身の含有量が該カードラン1重量部に対して6重量部以下、好ましくは0.5~6.0重量部、より好ましくは1.0~6.0重量部、さらに好ましくは2.0~6.0重量部である、カードランおよび魚肉すり身を含有する、カードランゲルを主体とする組成物である。
【0018】
本発明の魚肉練製品様食品は、カードランおよび魚肉すり身以外に、通常の魚肉練製品に使用可能な原料である、でん粉、加工澱粉、セルロース等の多糖類、油脂、食塩、砂糖、酵母エキス、酒、みりん、酸、酸味料、pH調整剤、その他食品添加物等を含有してよい。
【0019】
本発明の魚肉練製品様食品の製造方法を例示すると、魚肉すり身を空ずりしした後、食塩を加えて塩ずりする。別途、カードランをアルカリ性にして溶解させ、乳酸等の酸で中和した後、魚肉すり身以外の他の原料を加えて高速混合し、必要に応じて脱気し、これを前記の塩ずりまでの工程を行った魚肉すり身に加えて本ずりを行い、必要に応じて脱気した後、必要に応じて成形し、適宜容器に入れた後で少なくとも80℃以上、好ましくは90℃以上、より好ましくは95℃以上で所定時間加熱するか、120℃以上でレトルト加熱する。
【0020】
本発明の魚肉練製品様食品は、カードランを主体とすることによる耐熱性以外に、魚肉すり身による魚肉練製品と同等の硬さを有するという物性面での特徴を有する。
したがって、本発明の魚肉練製品様食品は、魚肉すり身を用いる練製品と同様に用いることができる上、レトルト製品の具材としても使用可能である。また、一般的に、魚肉すり身は、加熱すると色が黒ずむなどの変色が生じるが、本発明の魚肉練製品様食品は、加熱後も変色が少ないとのメリットもある。
【0021】
また、魚肉すり身を主体とする練製品においては、調味目的以外に、すり身どうしの結着性を得るためにも食塩が必要であるが、本発明の魚肉練製品様食品では結着の必要性が少ないため、食塩量を低減することができるとのメリットもある。さらに、蒲鉾などの魚肉練製品では、成形後、一定時静置する「坐り」の工程が行われるが、本発明の魚肉練製品様食品は、魚肉すり身を含有するにもかかわらず、坐り工程を必要としない点もメリットである。
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【実施例0022】
(1)以下の調製方法における各原料を表1に示す。各原料は、最終的に表1に示す配合量となる量を用いた。
カードラン(カードラン製剤CD-ES。カードランを70%含有し、アルカリ剤を含む。三菱商事ライフサイエンス株式会社)に水を加え、分散させて5分間以上静置後、撹拌しながら乳酸で中和した。これに、加工澱粉、セルロースパウダー、植物油、食塩、こく味調味料、砂糖および酵母エキス、を加えて高速混合し、脱気した。
別途、スケトウダラの魚肉すり身を空ずりしした後、食塩を加えて塩ずりした。
これに、脱気工程まで行ったカードラン全量を加えて本ずりを行い、脱気した後、容器に入れ、一定時間放置するいわゆる「坐り」の工程を経ずに95℃で40分間スチーム加熱、または121℃で10分間レトルト加熱した。
表1において、対照区1がカードランによる通常の蒲鉾代替品に該当し、対照区2が通常の蒲鉾に該当する。また、表2に各試験区における原料の含有量の比較を示した。
【0023】
【0024】
【0025】
(2)上記(1)で調製した各試験区の食品の硬さおよび弾力をクリープメーター(山電社製)を用いて測定した。
測定条件:
プランジャー:直径8mmの円柱プランジャー
測定速度 :1mm/秒
サンプル厚 :20mm
測定歪率 :95%
【0026】
「硬さ」は破断荷重(N)で、また、「弾力」は破断歪率(%)で表現される。破断荷重が大きいほど硬く、また、破断歪率が大きいほど弾力が強いといえる。
表3に各試験区の食品の破断荷重を、また、表4に各試験区の食品の破断歪率を、最終加熱方法(スチームまたはレトルト)別に示す。
【0027】
【0028】
【0029】
(3)加熱後の各試験区の食品の色味について表5に示す。
【0030】
【0031】
また、各試験区の食品を4名のパネラーが食し、官能評価結果を、スチーム加熱およびレトルト加熱のそれぞれについて行った。結果を表6および7に示す。
【0032】
【0033】
【0034】
(4)評価のまとめ
表3および4の結果に示すとおり、通常、蒲鉾において魚肉を低減すると加熱による硬さや弾力性が著しく低減するが、カードランによる蒲鉾代替品(対照区1)に魚肉すり身を少量添加した実施例1および2の食品(本発明品)でも、すり身を多く含む比較例1とほぼ同等の硬さと弾力性を得ることができる。さらに色味についても、実施例1および2では加熱による悪化を抑えることができる。また、表6および7に示すとおり、実施例1および2の風味や食感は、比較例1と遜色ないものである。
なお、上記実施例において、カードラン製剤の代わりにアルカリ溶解させたカードランを用い、かつ魚肉すり身を塩ずりしない食品を調製し、同様な官能評価を試みたところ、実施例1および実施例2の魚肉練製品様食品と遜色ない評価が得られた。
【0035】
このように、カードランによる蒲鉾代替品に、少量の魚肉すり身を添加しても蒲鉾から魚肉を低減させたものと同等の風味、食感が得られるだけでなく、色味についても加熱による悪化を抑制することができる。また、塩ずりしないすり身も使用できる可能性があることから、本発明によれば、食塩含有量の低減および工程数の削減も期待できる。
カードランゲルを主体としつつも、自然な魚肉の風味を有し、かつ食感もよい魚肉練製品様食品を提供することができる。また、魚肉すり身どうしを結着させるために必要な食塩を低減することもできる。本発明の魚肉練製品様食品は、魚肉すり身を用いる練製品と同様に用いることができる上、レトルト製品の具材としても使用できる。また、一般に、魚肉すり身は、加熱すると色が黒ずむなどの変色が生じるが、本発明の魚肉練製品様食品は、加熱後も変色が少ないとのメリットもある。