(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156262
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】クレーンにおけるつり荷のずれ落ち検知方法
(51)【国際特許分類】
B66D 1/54 20060101AFI20241029BHJP
【FI】
B66D1/54 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070577
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】504005781
【氏名又は名称】株式会社日立プラントメカニクス
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】草野 智之
(72)【発明者】
【氏名】岸本 至康
(57)【要約】
【課題】クレーンに用いられるインバータ制御方式の巻上げ下げ装置におけるつり荷のずれ落ちを直接検知することを可能にすることで、グレージング現象の初期段階でブレーキの異常を検出することができるようにしたクレーンにおけるつり荷のずれ落ち検知方法を提供すること。
【解決手段】ブレーキBrのブレーキ閉じ状態が確立する予め設定したタイマー設定時間T1が経過した時に、インバータINVの出力を遮断するとともに、その時点のエンコーダの巻上げ高さパルス位置H1を記録し、ブレーキBrがブレーキ閉じ状態で、かつ、インバータINVの出力が遮断した状態で、エンコーダの巻上げ高さパルス位置Hを継続して検知し、エンコーダの巻上げ高さパルス位置H1と継続して検知したエンコーダの巻上げ高さパルス位置Hの位置ずれ量が予め設定した値を超えた時にブレーキBrの異常と判断する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンに用いられるインバータ制御方式の巻上げ下げ装置におけるつり荷のずれ落ちを検知する方法であって、
(1)巻上げ下げ装置の巻上げ下げ停止時に、インバータに対する運転指令をOFFにしてインバータの出力周波数を漸次低下させることにより巻上げモータの減速を行うとともに、インバータの出力周波数が予め設定した周波数に達した時に、ブレーキに対してブレーキ閉じ指令を出し、
(2)ブレーキのブレーキ閉じ状態が確立する予め設定したタイマー設定時間が経過した時に、インバータの出力を遮断するとともに、その時点のエンコーダの巻上げ高さパルス位置を記録し、
(3)ブレーキBrがブレーキ閉じ状態で、かつ、インバータの出力が遮断した状態で、エンコーダの巻上げ高さパルス位置を継続して検知し、
(4)前記(2)で記録したエンコーダの巻上げ高さパルス位置と前記(3)で継続して検知したエンコーダの巻上げ高さパルス位置の位置ずれ量が予め設定した値を超えた時にブレーキの異常と判断する
ことを特徴とするクレーンにおけるつり荷のずれ落ち検知方法。
【請求項2】
さらに、
(5)巻上げ下げ装置の巻上げ下げ停止時に、インバータに対する運転指令をOFFにしてインバータの出力周波数を漸次低下させることにより巻上げモータの減速を行うとともに、インバータの出力周波数が予め設定した周波数に達した時に、エンコーダの巻上げ高さパルス位置を検知し、
(6)前記(5)で記録した記録したエンコーダの巻上げ高さパルス位置と前記(3)で継続して検知したエンコーダの巻上げ高さパルス位置の位置ずれ量が予め設定した値を超えた時にブレーキの異常と判断する
ことを特徴とする請求項1に記載のクレーンにおけるつり荷のずれ落ち検知方法。
【請求項3】
さらに、
(7)巻上げ下げ装置の巻上げ下げ停止時に、エンコーダの巻上げ高さパルス位置及びインバータの出力周波数を継続して検知するとともに、時間計測を行い、
(8)予め設定した一定周期時間を経過する毎に、当該周期時間での巻上げ高さ位置の理論値を演算し、該巻上げ高さ位置の理論値と前記(7)で継続して検知したエンコーダの巻上げ高さパルス位置の位置ずれ量が予め設定した値を超えた時にブレーキの異常と判断する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のクレーンにおけるつり荷のずれ落ち検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンに用いられるインバータ制御方式の巻上げ下げ装置におけるつり荷のずれ落ちを検知する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、クレーンに用いられるインバータ制御方式の巻上げ下げ装置においては、巻上げや巻下げ時の制動やつり荷のずれ落ちを防止するためにブレーキが用いられている。
このブレーキは、摩擦材(ブレーキパッド、ブレーキライニング等)と、この摩擦材が擦り付けられる摺動面とが摩擦接触することにより発生する摩擦力により、制動力を得るようにしている。
【0003】
ところで、クレーンに用いられるインバータ制御方式の巻上げ下げ装置のブレーキの使用方法として、特許文献1に開示されているように、インバータの制動により減速を行い摺動面の回転数が下がってから摩擦材を摺動面に当接させることでブレーキをかける方式が採用されている。この方式の場合、摩擦材の摩耗が少なく、長持ちする利点がある反面、いつまでも古い摩擦面が摩擦材の表面に残って鏡面となり、摩耗材の摩擦力が低下するグレージング現象(例えば、特許文献2参照。)が生じるおそれがあった。
【0004】
グレージング現象が進行してくると、ブレーキの摩擦力が全体的に低下してくるので、健全状態では摩擦力の最低値でもつり荷の保持が可能であったものが、グレージング現象の初期段階では、ずり落ちが発生しかけながら摩擦力を回復してつり荷を保持する状態が発生する。そして、その状態が継続している間に、つり荷を保持できない状態に至り、つり荷が床面までずり落ちる状態へと段階が進む。
【0005】
このグレージング現象に対しては、グレージング現象の初期段階でブレーキの異常を検出し、ブレーキの異常を報知することで、ブレーキを補修することを可能にし、つり荷が床面までずり落ちることを防止し、クレーンの安全を確保することが要請されている。
【0006】
この要請に応えるものとして、特許文献3には、ブレーキに備えた接触器やリミットスイッチ等のスイッチがオフとなった時点での位置を位置検出器によりプログラマブルロジックコントローラ(本明細書において、「PLC」という。)に読み込み、その後モータの回転が零となった時点での位置を位置検出器によりPLCに読み込んで、ブレーキに備えたスイッチがオフとなった時点での位置とモータの回転が零となった時点での位置との差をブレーキのすべり量として、このすべり量と予め設定されたすべり量とをPLCにおいて比較してブレーキの異常を監視するクレーン停止用ブレーキの異常監視方法が開示されている。
【0007】
ところで、特許文献3に開示された方法は、インバータ制御のクレーンの特性、すなわち、インバータ制御のクレーンは、特許文献1に開示されているように、巻上げ動作を停止する際、つり荷がずり落ちないように、ブレーキが閉じ始めた後もインバータ出力を出し続け、巻上げモータがトルクを発揮し続ける状態を継続し、ブレーキの制動力が発揮される時間を待ってからインバータの出力を切るようにしているが、この時、巻上げブレーキが止めようとする力より、巻上げモータが動作しようとする力が勝っていることに対応するようにしたものである。
【0008】
また、停止前の減速中の制動距離の監視方法として、特許文献4に開示された方法があるが、この方法は、クレーンに用いられるインバータ制御方式の巻上げ下げ装置における
つり荷のずれ落ちを直接検知するものではないため、ブレーキの異常(制動距離の異常)を正確に捉えることが困難な場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2―84088号公報
【特許文献2】特開平7―243458号公報
【特許文献3】特開平5―97389号公報
【特許文献4】特開平2―84090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、クレーンに用いられるインバータ制御方式の巻上げ下げ装置におけるつり荷のずれ落ちを直接検知することを可能にすることで、グレージング現象の初期段階でブレーキの異常を検出することができるようにしたクレーンにおけるつり荷のずれ落ち検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本第一発明のクレーンにおけるつり荷のずれ落ち検知方法は、クレーンに用いられるインバータ制御方式の巻上げ下げ装置におけるつり荷のずれ落ちを検知する方法であって、
(1)巻上げ下げ装置の巻上げ下げ停止時に、インバータに対する運転指令をOFFにしてインバータの出力周波数を漸次低下させることにより巻上げモータの減速を行うとともに、インバータの出力周波数が予め設定した周波数に達した時に、ブレーキに対してブレーキ閉じ指令を出し、
(2)ブレーキのブレーキ閉じ状態が確立する予め設定したタイマー設定時間が経過した時に、インバータの出力を遮断するとともに、その時点のエンコーダの巻上げ高さパルス位置を記録し、
(3)ブレーキBrがブレーキ閉じ状態で、かつ、インバータの出力が遮断した状態で、エンコーダの巻上げ高さパルス位置を継続して検知し、
(4)前記(2)で記録したエンコーダの巻上げ高さパルス位置と前記(3)で継続して検知したエンコーダの巻上げ高さパルス位置の位置ずれ量が予め設定した値を超えた時にブレーキの異常と判断する
ことを特徴とする。
【0012】
この場合において、さらに、
(5)巻上げ下げ装置の巻上げ下げ停止時に、インバータに対する運転指令をOFFにしてインバータの出力周波数を漸次低下させることにより巻上げモータの減速を行うとともに、インバータの出力周波数が予め設定した周波数に達した時に、エンコーダの巻上げ高さパルス位置を検知し、
(6)前記(5)で記録した記録したエンコーダの巻上げ高さパルス位置と前記(3)で継続して検知したエンコーダの巻上げ高さパルス位置の位置ずれ量が予め設定した値を超えた時にブレーキの異常と判断する
ことができる(本第二発明)。
【0013】
また、さらに、
(7)巻上げ下げ装置の巻上げ下げ停止時に、エンコーダの巻上げ高さパルス位置及びインバータの出力周波数を継続して検知するとともに、時間計測を行い、
(8)予め設定した一定周期時間を経過する毎に、当該周期時間での巻上げ高さ位置の理論値を演算し、該巻上げ高さ位置の理論値と前記(7)で継続して検知したエンコーダの
巻上げ高さパルス位置の位置ずれ量が予め設定した値を超えた時にブレーキの異常(制動距離の異常)と判断することができる(本第三発明)。
【発明の効果】
【0014】
本第一発明のクレーンにおけるつり荷のずれ落ち検知方法によれば、クレーンに用いられるインバータ制御方式の巻上げ下げ装置におけるつり荷のずれ落ちを直接検知することを可能にすることで、グレージング現象の初期段階でブレーキの異常を検出し、ブレーキの異常を報知することで、ブレーキを補修することを可能にし、つり荷が床面までずり落ちることを防止し、クレーンの安全を確保することができ、クレーンによる物品の運搬精度の維持、向上やクレーン操作の合理化を図ることができる。
【0015】
また、本第二発明によれば、ブレーキの経年劣化、ギャップ調整不良や粉塵混入等の要因により、ブレーキの動作時間が長くなったり、ブレーキの摩擦力低下等で、正常停止時より巻上げ高さパルス数が大きくなったりすること、すなわち、巻上げ下げの距離が長くなることを検出することができる。
【0016】
また、本第三発明によれば、巻上げ下げを停止させる時、ブレーキの異常やインバータの制御異常により本来の減速レートから逸脱し、本来の制動距離で停止できない状態を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本第一~第三発明の監視タイミングを示すタイムチャートである。
【
図2】本発明のクレーンにおけるつり荷のずれ落ち検知方法(第一発明)の一実施例を示す巻上げ停止時のタイムチャートである。
【
図4】同第一発明の巻下げ停止時のタイムチャートである。
【
図5】同第二発明の一実施例を示すタイムチャートである。
【
図6】同第三発明の一実施例を示すタイムチャートである。
【
図7】同第三発明の一実施例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のクレーンにおけるつり荷のずれ落ち検知方法の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0019】
まず、表1及び
図1に、本第一~第三発明の概要及びその監視タイミングを示す。
【0020】
【0021】
図2に、本第一発明のクレーンにおけるつり荷のずれ落ち検知方法(第一発明)の一実施例のタイムチャート、
図3に同フローチャートを示す。
このクレーンにおけるつり荷のずれ落ち検知方法は、クレーンに用いられるインバータ制御方式の巻上げ下げ装置におけるつり荷のずれ落ちを検知する方法であって、
(1)巻上げ下げ装置の巻上げ下げ停止時に、インバータINVに対する運転指令をOFFにしてインバータINVの出力周波数を漸次低下させることにより巻上げモータの減速を行うとともに、インバータINVの出力周波数が予め設定した周波数F1に達した時に、ブレーキBrに対してブレーキ閉じ指令を出し、
(2)ブレーキBrのブレーキ閉じ状態が確立する予め設定したタイマー設定時間T1が経過した時に、インバータINVの出力を遮断するとともに、その時点のエンコーダの巻上げ高さパルス位置H1を記録し、
(3)ブレーキBrがブレーキ閉じ状態で、かつ、インバータINVの出力が遮断した状態で、エンコーダの巻上げ高さパルス位置Hを継続して検知し、
(4)前記(2)で記録したエンコーダの巻上げ高さパルス位置H1と前記(3)で継続して検知したエンコーダの巻上げ高さパルス位置Hの位置ずれ量ΔH1が予め設定した値を超えた時にブレーキBrの異常と判断する
ものである。
【0022】
ここで、ブレーキBrに対してブレーキ閉じ指令を出すインバータINVの周波数F1は、例えば、0~25Hz程度の任意の値に設定することができる。
また、ブレーキBrの異常と判断する位置ずれ量ΔH1は、エンコーダのパルス分解能や遊び(誤差)を考慮して決定するようにし、例えば、5~100mm程度の任意の値に設定することができる。
【0023】
また、タイマー設定時間T1の起算点及びタイマー設定時間T1は、ブレーキBrのブレーキ閉じ状態が確立する時間を特定できるようにすればよく、本実施例においては、タイマー設定時間T1の起算点を、ブレーキBrに対してブレーキ閉じ指令を出した時点にブレーキBrの動作遅れ時間を加算した時点に置くようにしているが、例えば、タイマー設定時間T1の起算点を、インバータINVに対する運転指令をOFFにしてインバータINVの出力周波数がクリープ周波数(0~数Hz)まで低下した時点に置くようにすることもできる。
【0024】
なお、
図2に示すタイムチャートは、巻上げ下げ装置の巻上げ停止時を示し、巻下げ停止時は、
図4に示すタイムチャートのように、エンコーダ値が異なる挙動を示す。なお、
図4に示すタイムチャートのエンコーダ値の破線は、グレージング現象(つり荷のずれ落ち)が発生している状態を示している。
【0025】
本第一発明では、ブレーキのすべり量の測定を、ブレーキを作動させてからではなく、インバータの出力を遮断してから測定している。インバータ制御のクレーンの巻上げ装置では、ブレーキを作動させてブレーキの制動力が確立するまではインバータを出力し続け、つり荷のずれ落ちを防止しているが、インバータ出力によるモータ駆動力とブレーキ作動による制動力の両方が動作しているタイミングでエンコーダの巻上げ高さパルス位置を測定しても、モータにより回されている移動量を測定してしまい、ブレーキの制動力の変化により前記の移動量が変動する値が小さく、上手く異常を捉えることができない場合がある。
そこで、本第一発明では、インバータの出力を遮断した時からエンコーダの巻上げ高さパルス位置の変化量を測定することで、モータ駆動力が無い状態でブレーキの制動力だけの状態でエンコーダの巻上げ高さパルス位置の変化量を測定し、確実にブレーキの制動力の低下を捉えることができる。
【0026】
ブレーキの制動力は、制動をかけている間は常に制動力が変動している。ブレーキの摩擦材が鏡面化したグレージング状態になる過程では、いきなり制動力が無くなるわけではなく、その初期段階では、制動力不足の状態と制動力の回復を短時間の間に繰り返し、最終的に制動力を回復しつり荷の保持を行う動作となる。
本発明では、ブレーキの制動力が完全に不足状態になりつり荷が床までずれ落ちてしまう前に、制動力が不足しかける初期段階でつり荷が僅かにずれ落ちて止まる現象を捉え、制動力が不足しかける初期段階を確実に捉えることができる。
【0027】
本第一発明のクレーンにおけるつり荷のずれ落ち検知方法によれば、クレーンに用いられるインバータ制御方式の巻上げ下げ装置におけるつり荷のずれ落ちを直接検知することを可能にすることで、グレージング現象の初期段階でブレーキBrの異常を検出し、ブレーキBrの異常を報知することで、ブレーキBrを補修することを可能にし、つり荷が床面までずり落ちることを防止し、クレーンの安全を確保することができ、クレーンによる物品の運搬精度の維持、向上やクレーン操作の合理化を図ることができる。
【0028】
ところで、本第一発明の方式は巻上げモータが停止状態の時にインバータINVの出力を遮断するシステムについて説明したものであるが、所謂センサ付きベクトル制御方式のインバータにおいて、ゼロサーボ、サーボロック或いは予備励磁と称するモータの停止トルクの発生が可能な制御方式においては、巻上げモータの停止中も巻上げモータが継続的にモータトルクを発生し続けているシステムがある。このような制御方式の場合には、巻上げモータのゼロサーボ、サーボロック或いは予備励磁と称する停止制御を遮断した時に、エンコーダの巻上げ高さパルス位置H1を記録し、その後にエンコーダの巻上げ高さパルス位置Hが変化しないことを監視することで、巻上げ停止中も巻上げモータが継続的にモータトルクを発生し続けているシステムでも、グレージング現象の初期段階でブレーキBrの異常を検出することができる。
【0029】
次に、
図5に、本第二発明の一実施例のタイムチャートを示す。
この本第二発明は、さらに、
(5)巻上げ下げ装置の巻上げ下げ停止時に、インバータINVに対する運転指令をOFFにしてインバータINVの出力周波数を漸次低下させることにより巻上げモータの減速を行うとともに、インバータINVの出力周波数が予め設定した周波数F1に達した時に、エンコーダの巻上げ高さパルス位置H1を検知し、
(6)前記(5)で記録した記録したエンコーダの巻上げ高さパルス位置H1と前記(3)で継続して検知したエンコーダの巻上げ高さパルス位置Hの位置ずれ量ΔH2が予め設
定した値(許容値)を超えた時にブレーキBrの異常(すべり量異常)と判断する
ものである。
【0030】
ここで、巻上げ下げ装置の速度が高速(インバータINVの出力周波数が高い状態)からの停止と、低速(インバータINVの出力周波数が低い状態)からの停止とでは、必然的に位置ずれ量ΔH2が異なることになるので、巻上げ下げ装置の速度に応じて、2種類又は3種類以上の許容値を設定しておき、この許容値に基づいて、ブレーキBrの異常(すべり量異常)と判断するようにする。
【0031】
本第二発明によれば、モータが低速駆動しようとする駆動力とブレーキが停止しようとする摩擦制動力が互いに干渉する状態にあるので、僅かにブレーキの制動力が低下しただけでモータが低速駆動しようとする駆動力が勝るため、ブレーキが僅かに制動力が低下した初期の段階から検出ができる。しかし、この時の速度の変化量は、誘導モータのすべり量分しか変化しないので検出変化量が微量で、第二発明でブレーキの制動力低下を検出できずにさらにブレーキの制動力低下が進行する場合がある。
第二発明でブレーキの制動力低下がさらに進行すると、ブレーキ単体でつり荷の荷重負荷をブレーキが保持できなくなり、その初期段階でモータの駆動力が無くなりブレーキ単体の制動力のみになった時に僅かにずれ落ちが生じるようになり、この時第一発明の検出で異常が確実に検出ができる。
このように、ブレーキ制動力低下のより初期段階で検出できる第二発明と、検出が困難な第二発明の欠点を補う確実な検出が可能な第一発明を組み合わせることで、より確実なブレーキ制動力低下の症状を検出することが可能となる。
【0032】
ブレーキ制動力低下は、ブレーキ表面が摩耗せずにブレーキの摩擦材が鏡面状になるグレージング現象のほか、ブレーキ摩擦材と摺動面の間に異物が混入した場合や。ブレーキトルク調整不良やブレーキトルクばね劣化等の場合にも発生し、第二発明と第一発明の双方がこれらブレーキ制動力の低下の検出に対応している。
そして、第二発明においては、ブレーキの経年劣化やギャップ調整不良や電磁石等のブレーキアクチュエータの劣化等により、ブレーキBr動作遅れ時間が長くなった場合にも、異常検出が可能で、ブレーキの劣化や調整不良を早期に検出することが可能である。
【0033】
次に、
図6~
図7に、本第三発明の一実施例のタイムチャートを示す。
この本第三発明は、さらに、
(7)巻上げ下げ装置の巻上げ下げ停止時に、エンコーダの巻上げ高さパルス位置及びインバータINVの出力周波数を継続して検知するとともに、時間計測を行い、
(8)予め設定した一定周期時間(監視周期時間)を経過する毎に、当該周期時間での巻上げ高さ位置の理論値を演算し、前記(7)で継続して検知したエンコーダの巻上げ高さパルス位置該巻上げ高さ位置の理論値を超えた時にブレーキBrの異常(制動距離異常)と判断するものである。
【0034】
具体的には、
図7に示すように、操作入力が切れた時に、パルス(位置)と周波数(速度)を取り込み、同時に時間計測を開始し、その時間計測値が一定周期時間を経過する毎に、その周期時間での位置の理論値を演算し、位置の理論値とパルス値(実際位置)を比較し、その比較値が許容値から逸脱していた場合に異常と判断する。すなわち、以下の手順で処理を行う。
(1)監視周期開始時のパルス(位置)X
1、速度V
1を計算し、取り込む。
X
1:パルス(位置)
V
1:インバータの周波数より速度を換算
(2)閾値X
3を上記(1)で取り込んだパルス(位置)X
1、速度V
1と計測時間tから計算する。
(3)t時間後の現在値X
2に対し、以下の条件を満たした場合に異常と判断する。
X
2>X
3(巻下げ時)
X
2<X
3(巻上げ時)
【0035】
クレーンの運転操作信号を切り、クレーンが減速を開始しブレーキ閉周波数まで減速をする過程で、その減速のレートが目標どおりに減速しているか否か、すなわち、制動距離が長くなってしまっていないか否かを監視する時、その監視対象を、インバータの出力周波数であったり、モータの回転速度等を監視対象とした場合、異常を検知するための閾値ぎりぎりで周波数や回転速度が推移した場合、その瞬間では閾値に入っていたとしても、制動距離に対しては累積誤差として現れるため、制動距離は大きく目標値から外れているのに周波数や回転速度は閾値内で異常が検出できないという結果となってしまう。
本第三発明によれば、監視対象をエンコーダの巻上げ高さパルス位置とすることで、インバータの出力周波数やモータの回転速度の誤差の累積した結果を監視することができ、インバータの回生制動システムの故障など何らかの異常により、本来の減速レートから逸脱し、本来の制動距離で停止できない状態を確実に検出することが可能となり、より安全性の高いシステムを構築することができる。
【0036】
ここで、本第三発明は、クレーンの走行及び/又は横行装置のブレーキの異常(制動距離異常)を検出するために利用することができる。
具体的には、
(7’)クレーンの走行及び/又は横行装置の走行及び/又は横行停止時に、エンコーダの走行及び/又は横行位置及びインバータの出力周波数を継続して検知するとともに、時間計測を行い、
(8’)予め設定した一定周期時間を経過する毎に、当該周期時間での走行及び/又は横行位置の理論値を演算し、該走行及び/又は横行位置の理論値と前記(7’)で継続して検知したエンコーダの走行及び/又は横行位置の位置ずれ量が予め設定した値を超えた時にブレーキの異常と判断する
ことにより、クレーンの走行及び/又は横行装置のブレーキの異常やインバータの制御異常を検出することができる。
【0037】
以上、本発明のクレーンにおけるつり荷のずれ落ち検知方法について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のクレーンにおけるつり荷のずれ落ち検知方法は、クレーンに用いられるインバータ制御方式の巻上げ下げ装置におけるつり荷のずれ落ちを直接検知することを可能にすることで、グレージング現象の初期段階でブレーキの異常を検出することができることから、クレーンの用途に広く、好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0039】
INV インバータ
Br ブレーキ
PLC プログラマブルロジックコントローラ