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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156271
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】化粧料用樹脂組成物および化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/72 20060101AFI20241029BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20241029BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
A61K8/72
A61Q1/00
A61K8/81
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070597
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】張 愛玲
(72)【発明者】
【氏名】小池 隆明
(72)【発明者】
【氏名】酒井 禎之
(72)【発明者】
【氏名】今里 安紀子
(72)【発明者】
【氏名】藤川 大輔
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AC022
4C083AC102
4C083AC122
4C083AC442
4C083AD091
4C083AD092
4C083AD262
4C083BB26
4C083BB32
4C083CC01
4C083CC11
4C083DD16
4C083EE01
4C083EE06
4C083EE07
4C083EE10
4C083EE11
4C083FF01
(57)【要約】
【課題】
保存安定性に優れ、塗膜の耐水性、耐塩水性、耐油性、化粧持ち性に優れた化粧料用樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】
皮膚上に塗布するための化粧料用樹脂組成物であって、前記化粧料用樹脂組成物の塗膜は、周波数0.1Hz以上10Hz以下の範囲における37℃で測定された貯蔵弾性率が1×104Pa以上1×109Pa以下であり、前記化粧料用樹脂組成物の塗膜に対して25℃にて水を着弾させた際、着弾1秒後における水の接触角が、5°以上90°以下である化粧料用樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚上に塗布するための化粧料用樹脂組成物であって、前記化粧料用樹脂組成物の塗膜は、周波数0.1Hz以上10Hz以下の範囲における37℃で測定された貯蔵弾性率が1×104Pa以上1×109Pa以下であり、前記化粧料用樹脂組成物の塗膜に対して25℃にて水を着弾させた際、着弾1秒後における水の接触角が、5°以上90°以下である化粧料用樹脂組成物。
【請求項2】
水性媒体と重合体(A)とを含み、前記重合体(A)は、エチレン性不飽和単量体の重合体であり、前記エチレン性不飽和単量体全質量を基準として、25℃におけるオクタノール/水分配係数(Log Kow)が0.4以上2.5未満の非イオン性エチレン性不飽和単量体(a)を90.0質量%以上99.5質量%以下含み、前記重合体(A)の酸価は、3.0mgKOH/g以上50.0mgKOH/g以下である請求項1記載の化粧料用樹脂組成物。
【請求項3】
前記単量体(a)が、25℃におけるオクタノール/水分配係数の対数(Log Kow)が0.4以上2.0未満の非イオン性エチレン性不飽和単量体(a-1)と、オクタノール/水分配係数の対数(Log Kow)が2.0以上2.5未満の非イオン性エチレン性不飽和単量体(a-2)とを含み、前記単量体(a-1)を20.0質量%以上79.5質量%以下および前記単量体(a-2)を20.0質量%以上79.5質量%以下含んでなる請求項1記載の化粧料用樹脂組成物。
【請求項4】
前記重合体(A)の平均粒子径が、30nm以上400nm以下である請求項1記載の化粧料用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4いずれか記載の化粧料用樹脂組成物を含んでなる化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚上に塗布するための化粧料用樹脂組成物、およびそれを含む化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日常生活においてマスクやフェイスシールド、保護メガネ等の保護具を長時間着用する状況が増加している。このような保護具を長時間着用する環境下では、皮膚が呼気由来の蒸気や水分、塩分を含む汗、油分を含む皮脂等により晒され、従来の化粧料用樹脂を用いた化粧料では耐久性が不足し、化粧持ち性等の性能が著しく悪化する事が問題となっている。
【0003】
特許文献1には、カルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体と炭素数1~4のアルキル基を有するエチレン性不飽和単量体、炭素数5以上のアルキル基を有するエチレン性不飽和単量体を所定量含むエチレン性不飽和単量体の混合物を乳化重合して得られる重合体を用いた化粧料用樹脂組成物が開示されている。上記の化粧料用樹脂組成物の塗膜は一定の耐水性を期待できるものの汗の塩分や皮脂の油分が豊富に存在する状況を想定していない。したがって、保護具を着用した状況や塗布から長時間経過した環境下においては化粧料が皮膚から容易に剥がれてしまい化粧持ち性が悪化してしまう。
【0004】
特許文献2には、メチルメタクリレートと2-エチルヘキシルアクリレートを共重し、粒径分布の変動係数が15%以下の重合体を含む化粧料用樹脂組成物が開示されている。この化粧料用樹脂組成物は保存安定性に劣る上、皮脂等の油分に対して耐久性のある塗膜設計になっていないため、優れた化粧持ち性等を長時間維持する事は難しい。
【0005】
また特許文献3には(メタ)アクリロイル基含有のエチレン性不飽和単量体を重合して得られるガラス転移温度20℃以下のアクリル樹脂を含む化粧料用樹脂組成物が開示されている。この化粧料樹脂組成物の塗膜に関しても汗や皮脂成分が豊富に混在する環境下において著しく性能が悪化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-002207号公報
【特許文献2】特開2016-160222号公報
【特許文献3】特開2020-063300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、化粧料用樹脂組成物の保存安定性に優れ、塗膜の耐水性、耐塩水性、耐油性も良好で、過酷な条件下でも優れた化粧持ち性を長時間維持し、皮膚刺激性も極めて少ない化粧料用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記諸問題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。
すなわち、本発明は、皮膚上に塗布するための化粧料用樹脂組成物であって、上記化粧料用樹脂組成物の塗膜は、周波数0.1Hz以上10Hz以下の範囲における37℃で測定された貯蔵弾性率が1×104Pa以上1×109Pa以下であり、上記化粧料用樹脂組成物の塗膜に対して25℃にて水を着弾させた際、着弾1秒後における水の接触角が、5°以上90°以下である化粧料用樹脂組成物に関する。
【0009】
また、本発明は、水性媒体と重合体(A)とを含み、上記重合体(A)は、エチレン性不飽和単量体の重合体であり、上記エチレン性不飽和単量体全質量を基準として、25℃におけるオクタノール/水分配係数(Log Kow)が0.4以上2.5未満の非イオン性エチレン性不飽和単量体(a)を90.0質量%以上99.5質量%以下含み、上記重合体(A)の酸価は、3.0mgKOH/g以上50.0mgKOH/g以下である上記化粧料用樹脂組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、上記単量体(a)が、25℃におけるオクタノール/水分配係数の対数(Log Kow)が0.4以上2.0未満の非イオン性エチレン性不飽和単量体(a-1)と、オクタノール/水分配係数の対数(Log Kow)が2.0以上2.5未満の非イオン性エチレン性不飽和単量体(a-2)とを含み、上記単量体(a-1)を20.0質量%以上79.5質量%以下および上記単量体(a-2)を20.0質量%以上79.5質量%以下含んでなる上記化粧料用樹脂組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、上記重合体(A)の平均粒子径が、30nm以上400nm以下である上記化粧料用樹脂組成物に関する。
【0012】
また、本発明は、上記化粧料用樹脂組成物を含んでなる化粧料に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、化粧料用樹脂組成物の保存安定性に優れ、塗膜の耐水性、耐塩水性、耐油性も良好で過酷な条件下でも優れた化粧持ち性を長時間維持し、皮膚刺激性も極めて少ない化粧料用樹脂組成物を提供することができる。したがって、ファンデーションやブラッシャー、フェースパウダー、アイシャドー、アイライナー、アイブロウ、マスカラ、コンシーラー、リップスティック、リップグロス、リップペンシル等の皮膚上に塗布する化粧料において、優れた性能を発現する化粧料用樹脂組成物として用いる事ができる。
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本明細書において、「~」を用いて特定される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値の範囲として含むものとする。
また、25℃におけるオクタノール/水分配係数(Log Kow)が0.4以上2.5未満の非イオン性エチレン性不飽和単量体(a)、25℃におけるオクタノール/水分配係数の対数(Log Kow)が0.4以上2.0未満の非イオン性エチレン性不飽和単量体(a-1)、オクタノール/水分配係数の対数(Log Kow)が2.0以上2.5未満の非イオン性エチレン性不飽和単量体(a-2)、およびその他エチレン性不飽和単量体(a-3)を、それぞれ単量体(a)、単量体(a-1)、単量体(a-2)、および単量体(a-3)と略記することがある。
【0015】
本明細書中で説明される各成分は、かかる例示のみに限定されるものではなく、特に注釈しない限り、それぞれ独立に一種単独でも二種以上を併用してもよい。
尚、非イオン性エチレン性不飽和単量体とは、水性媒体中にあるときに、電離してイオンとなる官能性(「イオン性官能基」と称する)を有さないエチレン性不飽和単量体であり、例えば、カルボキシ基等のイオン性官能基を有さないエチレン性不飽和単量体を意味する。
【0016】
《化粧料用樹脂組成物》
本発明の化粧料用樹脂組成物は、皮膚上に塗布するための化粧料用樹脂組成物であり、化粧料用樹脂組成物の塗膜は、周波数0.1Hz以上10Hz以下の範囲における37℃で測定された貯蔵弾性率が1×104Pa以上1×109Pa以下であり、化粧料用樹脂組成物の塗膜に対して25℃にて水を着弾させた際、着弾1秒後における水の接触角が5°以上90°以下である化粧料用樹脂組成物である。
また、本発明の化粧料用樹脂組成物は、水性媒体と重合体(A)とを含み、重合体(A)は、エチレン性不飽和単量体の重合体であり、エチレン性不飽和単量体全質量を基準として25℃におけるオクタノール/水分配係数(Log Kow)が0.4以上2.5未満の非イオン性エチレン性不飽和単量体(a)を90.0質量%以上99.5質量%以下含み、重合体(A)の酸価は3.0mgKOH/g以上50.0mgKOH/g以下であることが好ましい。
本発明の化粧料用樹脂組成物は、保存安定性に優れる他、塗膜の耐水性、耐塩水性、耐油性が大変良好で、より過酷な条件下においても優れた化粧持ち性を長時間維持しながら、皮膚刺激性も極めて少ない化粧料用樹脂組成物を得る事ができる。
【0017】
<水性媒体>
水性媒体とは、水性の分散媒または水性の溶媒を指す。水性媒体としては、水を使用することが好ましいが、必要に応じて、水溶性の溶剤を使用することもできる。水溶性の溶剤としては、例えば、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類等が挙げられる。
【0018】
<重合体(A)>
重合体(A)は、3.0mgKOH/g以上50.0mgKOH/g以下の酸価を有し、エチレン性不飽和単量体の全質量を基準として、25℃におけるオクタノール/水分配係数(logKow)が0.4以上2.5未満の非イオン性エチレン性不飽和単量体(a)を90.0質量%以上99.5質量%以下含むエチレン性不飽和単量体の重合体であることが好ましい。
【0019】
重合体(A)は、3.0mgKOH/g以上50.0mgKOH/g以下の範囲内に酸価を有するが、5.0mgKOH/g以上40.0mgKOH/g以下の範囲内に酸価を有することが好ましい。上記の範囲内に酸価を有することにより、重合体(A)と皮膚の密着性が向上する。更に重合体(A)の塗膜の強度が向上し、塗膜の耐水性、耐塩水性、耐油性が良好でより過酷な条件下においても優れた化粧持ち性を長時間維持し、皮膚刺激性も極めて少ない。また化粧料用組成物の保存安定性も良好である。
【0020】
[単量体(a)]
単量体(a)は、25℃におけるオクタノール/水分配係数の対数(Log Kow)が0.4以上2.5未満であり、好ましくは1.0以上2.3未満であるエチレン性不飽和単量体である。Log Kowが上記の範囲であることにより、化粧料用樹脂組成物の塗膜が耐水性、耐塩水性、耐油性に大変優れ、過酷な条件下でも長時間優れた化粧持ち性を発現する。
【0021】
Log Kowは、下記の(式1)により表され、ある化合物Xが水相と油相(オクタノール)、どちらに分配されやすいかを表す指標として用いられる。各エチレン性不飽和単量体のLog Kowは、フラスコ振盪法やHPLC法等の実験からも算出できるし、ハンセン溶解度パラメータソフトHSPiPのYMB法(物性推算機能)等、化学構造からのシミュレーションで算出することも可能であるが、本明細書におけるLog Kowは、ハンセン溶解度パラメータソフトHSPiP(pirika.com LLC製)のYMB法(Version5.2.05)により算出された値である。
(式1)
Log Kow=Log(オクタノール相における化合物Xの濃度/水相における化合物Xの濃度)
【0022】
単量体(a)は、エチレン性不飽和単量体全質量(100質量%)を基準として、90.0質量%以上99.5質量%以下含有することが好ましく、91.5質量%以上98.5質量%以下で含有することがより好ましい。含有率が上記の範囲であることにより、化粧料用樹脂組成物の保存安定性が良好で、塗膜の耐水性、耐塩水性、耐油性が大変優れ、過酷な条件下でも優れた長時間優れた化粧持ち性を発現する。皮膚刺激性も極めて少ない。
【0023】
単量体(a)は、Log Kowの数値範囲の違いにより、単量体(a-1)と単量体(a-2)とに大別できる。単量体(a)は、単量体(a―1)と単量体(a―2)とを含むことが好ましく、単量体(a)全質量(100質量%)を基準として、単量体(a―1)を20.0質量%以上79.5質量%以下の範囲、単量体(a―2)を20.0質量%以上79.5質量%以下の範囲で含むことが好ましい。上記の範囲で単量体(a―1)と単量体(a―2)を含む事により、その相乗効果から皮膚表面と化粧料用樹脂組成物の親和性がより向上し、皮膚上における塗膜の追従性もより良化する事から耐水性、耐塩水性、耐油性がより向上する。更により過酷な条件下でも優れた化粧持ち性を長時間発現できる。
【0024】
[単量体(a-1)]
単量体(a-1)は、25℃におけるオクタノール/水分配係数の対数(Log Kow)が0.4以上2.0未満であり、好ましくは1.0以上2.0未満であるエチレン性不飽和単量体である。Log Kowが上記の範囲であることにより、化粧料用樹脂組成物の塗膜の耐油性がより向上し、化粧持ち性もより向上する。皮膚刺激性もより少ない。
【0025】
単量体(a-1)の具体例としては、例えば、メトキシエチルアクリレート(Log Kow=0.45)、メチルアクリレート(Log Kow=0.65)、ビニルアセタート(Log Kow=0.65)、(メトキシエチルメタクリレート(Log Kow=1.15)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(Log Kow=0.7)、4-ヒドロキシブチルアクリレート(Log Kow=0.56)、イソプロピルアクリルアミド(Log Kow=0.54)、ジアセトンアクリルアミド(Log Kow=0.84)、2-アセトアセトキシエチルメタクリレート(Log Kow=0.61)、グリシジルメタクリレート(Log Kow=0.95)、3,4-エポキシシクロヘキシルアクリレート(Log Kow=1.78)、メチルメタクリレート(Log Kow=1.27)、エチルアクリレート(Log Kow=1.16)、エチルメタクリレート(Log Kow=1.78)、トリフルオロエチルアクリレート(Log Kow=1.57)、トリフルオロメタクリレート(Log Kow=1.95)、エチレングリコールジメタクリレート(log Kow 1.90)等が挙げられる。中でも、皮膚表面への刺激性がより少なく、塗膜がより良好な耐油性を発現する観点から、単量体(a-1)は、メチルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、エチルアクリレートであることが好ましく、メチルメタクリレートであることがより好ましい。
【0026】
[単量体(a-2)]
単量体(a-2)は、25℃におけるオクタノール/水分配係数の対数(Log Kow)が2.0以上2.5未満であり、好ましくは2.0以上2.3未満であるエチレン性不飽和単量体である。Log Kowが上記の範囲であることで化粧料用樹脂組成物の塗膜が耐水性、耐塩水性により優れ、化粧持ち性もより向上する。
【0027】
単量体(a-2)の具体例としては、例えば、t-ブチルアクリレート(Log Kow=2.06)、イソブチルアクリレート(log Kow 2.09)、アリルメタクリレート(Log Kow=2.10)、n-ブチルアクリレート(Log Kow=2.23)、n-プロピルメタクリレート(Log Kow=2.28)、ベンジルアクリレート(Log Kow=2.32)、フェノキシエチルアクリレート(Log Kow=2.44)、フェノキシジエチレングリコールアクリレート(Log Kow=2.33)、3-(メタクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシラン(Log Kow=2.42)等が挙げられる。中でも、より良好な耐水性、耐塩水性を発現する観点から、エチレン性不飽和単量体(a-2)は、n-ブチルアクリレート、アリルメタクリレート、イソブチルアクリレートであることが好ましく、n-ブチルアクリレートであることがより好ましい。
【0028】
[単量体(a-3)]
単量体(a-3)は、単量体(a)以外の単量体(a)と重合可能なエチレン性不飽和単量体である。
単量体(a-3)としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート等の芳香族系エチレン性不飽和体;
ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等の直鎖または分岐アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の脂環基含有エチレン性不飽和単量体;
ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート等のフッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
(無水)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、または、これらのアルキルもしくはアルケニルモノエステル、コハク酸β-(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、けい皮酸等のカルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体;
2-アクリルアミド2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸、アリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸アンモニウム、ビニルスルホン酸等のスルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体;
(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、
N-エトキシメチル-(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有エチレン性不飽和単量体;
2-ヒドロキシエチルアクリレート等の水酸基含有エチレン性不飽和単量体;
メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のポリオキシエチレン基含有エチレン性不飽和単量体;
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノスチレン、ジエチルアミノスチレン等のアミノ基含有エチレン性不飽和単量体;
等が挙げられる。
【0029】
単量体(a-3)は、エチレン性不飽和単量体全質量100質量%を基準として、0.5質量%以上10.0質量%以下含むことが好ましく、1.5質量%以上8.5質量%以下含むことがより好ましい。
【0030】
[重合体(A)の合成方法]
重合体(A)の合成方法としては、溶液重合、乳化重合、塊状重合等が挙げられるが、反応熱の制御等の観点から乳化重合が好ましい。
【0031】
乳化重合は、界面活性剤の存在下で実施することが好ましい。界面活性剤としては、例えば、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。この中でも、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤が好ましく、アニオン性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤がより好ましい。界面活性剤は、反応性界面活性剤であってもよく、非反応性界面活性剤であってもよい。
【0032】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム等の高級脂肪酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルアリールスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、モノオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸ナトリウム等のアルキルスルホコハク酸エステル塩およびその誘導体、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩等が挙げられる。
【0033】
非反応性ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエート等のソルビタン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート等のポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル、オレイン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライド等のグリセリン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ブロックコポリマー、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル等が挙げられる。
【0034】
また、反応性界面活性剤は、ラジカル重合が可能な不飽和二重結合を1個以上有するアニオン性界面活性剤またはノニオン性界面活性剤である。
反応性アニオン性界面活性剤は、例えば、主骨格がスルホコハク酸エステル、アルキルエーテル、アルキルフェニルエーテル、アルキルフェニルエステル、(メタ)アクリレート硫酸エステル、リン酸エステル等であるものが好ましい。
反応性ノニオン性界面活性剤は、例えば、主骨格がアルキルエーテル、アルキルフェニルエーテル、アルキルフェニルエステル等であるものが好ましい。
【0035】
界面活性剤は、エチレン性不飽和単量体混合物100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下で使用することが好ましく、0.5質量部以上5質量部以下使用することがより好ましい。界面活性剤を適量使用することで重合安定性が向上し、皮膚に対して悪影響を与えにくい。
【0036】
乳化重合には、ラジカル重合開始剤( 以下、単に「重合開始剤」ともいう) を使用することが好ましい。上記重合開始剤は、公知の油溶性重合開始剤や水溶性重合開始剤を使用することができる。
油溶性開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルオキシベンゾエート、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ-2 -エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス-シクロヘキサン-1-カルボニトリル等のアゾ化合物が挙げられる。
水溶性重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド等が挙げられる。
【0037】
重合を実施する際に、重合開始剤とともに還元剤や遷移金属塩を併用することができる。これらを併用することで重合開始剤の分解が促進される。
還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、エリソルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、ホルムアルデヒドスルホキシラート等の金属塩等の還元剤有機化合物、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム等の還元性無機化合物等が挙げられる。
遷移金属塩としては、例えば、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、硫酸銅等が挙げられる。
【0038】
本発明における乳化重合には、水溶性重合開始剤を使用することが好ましい。重合開始剤は、単量体混合物100質量部に対して、0.03質量部以上5質量部以下を使用することが好ましい。還元剤は、単量体混合物100質量部に対して、0.01質量部以上2.5質量部以下を使用することが好ましい。遷移金属塩は、単量体混合物100質量部に対して、0.0001質量部以上0.002質量部以下を使用することが好ましい。重合開始剤の添加方法は、例えば、初期一括仕込み、分割仕込み、連続滴下等が挙げられるが、特に限定されない。また、重合反応の終点を早める観点では、反応系内に単量体を添加する終了前または終了後に、重合開始剤の一部を反応系内に添加しても良い。
【0039】
乳化重合の際、必要に応じて、緩衝剤、連鎖移動剤、塩基性化合物等を使用することができる。
緩衝剤としては、例えば、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム等が挙げられる。
連鎖移動剤としては、例えば、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、ステアリルメルカプタン、3-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸n-オクチル、3-メルカプトプロピオン酸2-エチルヘキシル、チオグリコール酸n-オクチル、チオグリコール酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。これらの中でも、3-メルカプトプロピオン酸2-エチルヘキシル、チオグリコール酸2-エチルヘキシルが好ましく、チオグリコール酸2-エチルヘキシルがより好ましい。
連鎖移動剤は、単量体混合物100質量部に対して、0.01質量部以上0.1質量部以下を使用することが好ましい。
塩基性化合物は、中和に使用し、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、n-ブチルアミン等のアルキルアミン、2-ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール等のアルコールアミン、モルホリン、アンモニア等が挙げられる。塩基性化合物は、揮発性の観点からアンモニアが好ましい。
【0040】
乳化重合の方法は、例えば、反応槽にエチレン性不飽和単量体、界面活性剤、水を全て仕込み、反応させるバッチ反応、単量体を徐々に反応槽に滴下して反応させる滴下反応等が挙げられる。これらの中でも、重合反応の発熱を制御しやジブチレングリコールすい観点で滴下反応が好ましい。また、滴下反応は、重合安定性をより向上させるために、単量体、水、界面活性剤を混合撹拌し、乳化状態にしたプレエマルジョンを形成してから滴下することが好ましい。
【0041】
乳化重合によって得られる重合体(A)は、粒子の形状をしている。粒子の平均粒子径は、30nm以上400nm以下であることが好ましく、35nm以上365nm以下であることがより好ましい。平均粒子径が上記の範囲である事により、化粧料用樹脂組成物の保存安定性がより良好である。また、塗膜中の欠陥生成や一部成分の偏析が抑制され、より密で均質な塗膜を形成できることから、耐水性、耐塩分性、耐油性がより向上し、長時間の化粧持ち性もより優れる。
なお、本明細書における平均粒子径とは、動的光散乱測定法を使用したメジアン径(D50)の値である。平均粒子径の測定方法の例としては、ポリマー粒子の水分散体を水で500倍に希釈した希釈液を作成し、当該希釈液を約5mL使用して動的光散乱粒子径分布測定装置(マイクロトラックベル社製NANOTRAC WAVEII EX150)で測定できる。
【0042】
重合体(A)の含有率は、化粧料用樹脂組成物全量を基準として、5.0質量%以上50.0質量%以下の範囲であることが好ましく、10.0質量%以上40.0質量%以下の範囲であることがより好ましい。含有率が上記の範囲である事により、塗膜の耐水性、耐塩分性、耐油性がより向上し、化粧持ち性もより向上する。
【0043】
<任意成分>
本発明の化粧料用樹脂組成物は、任意成分として、顔料、顔料分散剤、増粘剤、保湿剤、防腐剤、溶剤、消泡剤、濡れ剤等の各種添加剤を含むことができる。
【0044】
顔料としては例えば、カーボンブラック、酸化鉄粒子(黒酸化鉄粒子、黄酸化鉄粒子等)、酸化チタン、紺青、群青、弁柄、酸化クロム、水酸化クロム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化コバルト、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、炭酸カルシウム、チタンイエロー、魚鱗箔、オキシ塩化ビスマス、青色1号、青色2号、青色404号、赤色201号、赤色202号、赤色220号、赤色102号、赤色104号、黄色4号等の有機顔料、アルミコーティングポリエステルフィルム、積層フィルム末、マイカチタン、カルミン被膜マイカチタン、酸化クロム被膜マイカチタン、酸化鉄被膜マイカチタン、酸化鉄・カルミン被膜マイカチタン、酸化鉄・紺青被膜マイカチタン、青被覆マイカチタン、紺青被膜マイカチタン、ベンガラ被膜マイカ、ベンガラ被膜マイカチタン、ベンガラ・カルミン被膜マイカチタン、ベンガラ・酸化鉄被膜マイカチタン、ベンガラ・紺青被膜マイカチタン、ベンガラ・酸化鉄・紺青被膜マイカチタン等の光輝性顔料等の少なくとも1種(各単独または2種以上の混合物)が挙げられる。
【0045】
顔料分散剤としては、上記の重合体(A)の合成で例示した各種界面活性剤や水溶性のアクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の高分子分散剤等が挙げられる。
【0046】
増粘剤としては、例えば、アルカリ膨潤型増粘剤、会合性ポリウレタン、カルボキシビニルポリマー、増粘性多糖類、粘土鉱物等が挙げられる。
保湿剤としては、例えば、ソルビトール、キシリトール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ピロリドンカルボン酸塩、DL-ピロリドンカルボン酸塩等が挙げられる。
【0047】
溶剤としては、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等の1価アルコール類;
1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール#200、ポリエチレングリコール#400、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ジブチレングリコール等の2価アルコール(グリコール)類;
【0048】
エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、1,2-ブチレングリコールモノメチルエーテル、1,3-ブチレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールモノアルキルエーテル類;
【0049】
グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,4-ブタントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、ジグリセリン、ポリグリセリン等の鎖状ポリオール化合物;
アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソデシル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジオクチル、セバシン酸ジイソデシル等のジカルボン酸アルキルエステル類;
アルカンやパラフィン、スクワレン等の炭化水素類;
オリーブ油やひまわり油等の長鎖脂肪酸類;化粧料用樹脂組成物の評価
等が挙げられる。
【0050】
防腐剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、フェノキシエタノール、4-ヒドロキシアセトフェノン、デヒドロ酢酸、カプリリルグリコール、ペンチレングリコール等が挙げられる。
消泡剤としては、例えば、シリコーン系消泡剤、鉱物油系消泡剤等が挙げられる。
濡れ剤としては、重合体(A)の合成で例示した各種界面活性剤等が挙げられる。
【0051】
≪化粧料用樹脂組成物の塗膜形成≫
本発明の化粧料用樹脂組成物は、水性媒体が揮発する事により塗膜が形成される。化粧料用樹脂組成物を塗布して塗膜を形成させる方法としては、手やスポンジ、ブラシに筆穂、ペン芯等で皮膚上に直接塗布し、自然乾燥させて膜を形成させる方法、剥離性の基材に一旦、化粧料用樹脂組成物を塗工、乾燥させて塗膜を形成させた後、皮膚上に転写する方法等、公知の塗膜形成方法が挙げられる。
【0052】
化粧料用樹脂組成物の単位面積当たりの塗布量は、特に限定されないが、優れた接着性を発現させる観点から乾燥質量換算で2g/m2、50g/m2以下の範囲である事が好ましく、更に好ましくは10g/m2以上、40g/m2以下である。
【0053】
本発明の化粧料用樹脂組成物の塗膜は、37℃で周波数0.1~10Hzの測定条件(周波数分散モード)における貯蔵弾性率が1×104Pa以上1×109Pa以下の範囲であり、より好ましくは2×104Pa以上1×108Pa以下の範囲である。貯蔵弾性率が上記の範囲である事により、化粧料用樹脂組成物の塗膜が皮膚の動きにより追従できるため、塗膜の欠陥ができにくく、耐水性、耐塩水性、耐油性に大変優れる。また過酷な条件下においても長時間良好な化粧持ち性を維持できる。皮膚刺激性も極めて少ない。貯蔵弾性率は、化粧料用樹脂組成物の塗膜を作製し、粘弾性測定装置を用いて容易に測定することができる。
【0054】
本発明の化粧料用樹脂組成物の塗膜に対して、25℃で水を着弾させた際、着弾1秒後における水の接触角は、5°以上90°以下の範囲であり、好ましくは5°以上50°以下の範囲である。塗膜に対する水の接触角が上記の範囲である事により、塗膜から溶出または表面に偏析する親水性成分や親油性成分が少なく、化粧料用樹脂組成物の形成する塗膜の界面物性に悪影響が生じ難い。したがって塗膜が優れた耐水性、耐塩水性、耐油性を発現する。また過酷な条件下においても長時間良好な化粧持ち性を維持できる。水の接触角は、基材上に化粧料用樹脂組成物を塗布して塗膜を作製した塗工面について、接触角測定装置を用いて水を着弾させて測定することができる。
【0055】
<化粧料>
本発明の化粧料は、本発明の化粧料用樹脂組成物を含んでなる。本発明の化粧料は、その他成分として、所望に応じて水性成分、油性成分、界面活性剤、顔料、粉体等と配合することができる。
【実施例0056】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、特に断らない限り、実施例における「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表し、表中の数値は、固形分質量であり、空欄は使用していないことを表す。
【0057】
<酸価>
重合体(A)の酸価は、乾燥させた樹脂1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表される数値である。JIS K2501に記載の方法に従い、自動滴定装置(HIRANUMA社製「COM」)水酸化カリウム・エタノール溶液を用いて電位差滴定により測定した。
【0058】
<平均粒子径>
下記方法により製造された重合体(A)の水分散体を水で500倍に希釈した希釈液を調製し、当該希釈液を約5mL使用して動的光散乱粒子径分布測定装置(マイクロトラックベル社製NANOTRAC WAVEII EX150)を用いて25℃にて測定した。得られたD50粒子径(メディアン径)を平均粒子径とした。
【0059】
<顔料分散樹脂水溶液の調製>
[製造例1]
還流冷却管、滴下ロート、攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、原料投入口を具備するフラスコ内(反応槽)にn-プロパノール53.2部を仕込み、窒素ガスで置換しながら撹拌し、昇温して内温を90℃まで上げた。そこにアクリル酸ブチル39部、アクリル酸23部、スチレン38部、n-プロパノール6部および2,2´-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル(和光純薬社製)3.5部の混合物を、内温を90℃に維持したまま、滴下ロートから3時間かけて滴下した。滴下完了から1時間経過後、2,2´-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.3部をn-プロパノール0.6部に溶解させた溶液を30分間隔で6回添加し、更に3時間撹拌して反応を完了させ、顔料分散用の共重合体を得た。得られた顔料分散樹脂溶液を乾燥して溶剤や残留モノマーを揮発させ、顔料分散樹脂を固形で取り出した。次に攪拌機を備えた別のフラスコに、上記の顔料分散樹脂の固形を50.0部、25%アンモニア水(キシダ化学社製)15.0部、水132.0部を加えて撹拌しながら昇温し、顔料分散樹脂を中和、溶解させて顔料分散樹脂の水溶液を調製した。溶解後、更に水を加えて顔料分散樹脂水溶液の固形分を25.0%になるよう調整した。
【0060】
<濃縮顔料分散液の調製>
[製造例2]
製造例1で調製した顔料分散樹脂の水溶液30.0部とカーボンブラック(Geotech社D&C BLACK No.2)20.0部、水30.0部を容器に入れ、ペイントコンディショナーにて2時間分散し、濃縮顔料分散液を得た。
[製造例3]
製造例1で調製した顔料分散樹脂の水溶液30.0部と黒酸化鉄(チタン工業製BL-100HP)10.0部、水20.0部を容器に入れ、ペイントコンディショナーにて2時間分散し、濃縮顔料分散液を得た。
【0061】
<化粧料用樹脂組成物の製造>
[実施例1]
還流冷却管、滴下ロート、攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、原料投入口を具備するフラスコ内(反応槽)に、水73.6部、アニオン性界面活性剤としてエマール20C(花王社製ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、有効成分25質量%)0.48部、非反応性ノニオン性界面活性剤としてエマルゲン109P(花王社製ポリオキシエチレンラルリルエーテル、有効成分100質量%)0.12部、非反応性ノニオン性界面活性剤としてレオドールTW-L120(花王製ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、有効成分100質量%)0.12部を仕込み、窒素ガス導入下で撹拌しながら、内温が78℃になるまで昇温した。一方、メトキシエチルクリレート10.0部、エチルメタクリレート40.0部、トリフルオロエチルメタクリレート13.0部、イソブチルアクリレート10.0部、ベンジルアクリレート2.0部、フェノキシエチルアクリレート20.0部、アクリロニトリル2.0部、アクリルアミド0.5部、2-ヒドロキシエチルアクリレート0.5部、アクリル酸1.0部、ジアリルフタレート1.0部とエマール20Cを4.32部、エマルゲン109Pを0.48部、レオドールTW-L120を0.48部、水32.0部を撹拌混合してプレエマルジョン(エチレン性不飽和単量体の乳化物)を調製し、滴下ロート(滴下槽)に仕込んだ。更にプレエマルジョンの7%である9.6部を反応槽に添加した。
【0062】
内温が安定した後、重合開始剤として、過硫酸アンモニウムの10%水溶液2.0部をフラスコ内に添加して20分経過させた後、滴下ロートからプレエマルジョンの残部と過硫酸アンモニウムの10%水溶液2.0部を240分間かけて滴下し、昇温して内温を80℃に保ちながら反応を行った。滴下終了から1時間半後に過硫酸アンモニウム10%水溶液を1.0部添加し、80℃を維持しながら更に3時間反応させる事で重合体(A)の水分散体を得た。反応終了後、室温25℃で25%アンモニア水を重合体(A)の酸価に対して100%中和になるように添加して中和した後、更に水を添加して重合体(A)の水分散体の固形分が40.0%になるように調整して、目的の化粧料用樹脂組成物を得た。
【0063】
[実施例2~19、比較例1、2]
表1、2に示す配合組成、および配合量(質量部)とした以外は、実施例1と同様の方法により化粧料用樹脂組成物を得た。尚、実施例10、11については、フラスコ内(反応槽)に仕込むエマール20Cを0.6部から順に1.2部、1.1部に変更した。実施例12、13についてはフラスコ内(反応槽)に仕込む水の量を順に53.6部、51.6部、プレエマルジョン用の水を32.0部から順に22.0部、20.0部に変更し、更に中和後に水を添加して最終的な固形分を50.0%になるように調整した。比較例2ではプレエマルジョン用のエチレン性不飽和単量体の混合物にチオグリコール酸2-エチルヘキシルを1.5部更に添加した。
【0064】
[実施例20]
実施例7で得られた化粧料用樹脂組成物18.0部、製造例2の濃縮顔料分散液50.0部、顔料分散剤としてレオドールTW-S320V(花王製ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、有効成分100質量%)0.5部、NTC-CARBOMER 380(日光ケミカルズ製カルボキシビニルポリマー、有効成分100質量%)0.3部、エタノール0.5部、水30.7部をディスパーで撹拌、混合して化粧料用樹脂組成物を得た。
【0065】
[実施例21~24、比較例3~6]
表3に示す配合組成、および配合量(質量部)とした以外は、実施例20と同様の方法により化粧料用樹脂組成物を得た。
【0066】
《化粧料用樹脂組成物の評価》
上記で調製した化粧料用樹脂組成物を用い、塗膜の粘弾性測定と水の接触角を測定した。更に実物性評価として、保存安定性、耐水性、耐塩水性、耐油性、化粧持ち試験、皮膚刺激性を評価した。結果を表1~3に示す。
【0067】
<化粧料用樹脂組成物の塗膜の粘弾性測定>
化粧料用樹脂組成物を剥離性のシリコン型枠に流し込み40℃・3日間乾燥させ、膜厚1mmの化粧料用樹脂組成物の塗膜を得た。更に粘弾性測定装置(アントンパール社製モジュラーコンパクトレオメータMCR-302)を用い、37℃で周波数0.1~10Hzの範囲における塗膜の貯蔵弾性率を周波数分散モードで測定した。
[評価基準]
A:2×104Pa以上1×108Pa以下の範囲内である。良好。
B:2×104Pa以上1×108Paの範囲内ではないが、1×104Pa以上1×109Pa以下の範囲内である。実用上使用可。
C:1×104Pa未満または1×109Paを超える。実用上問題あり。
【0068】
<化粧料用樹脂組成物の塗膜に対する水の接触角測定>
ガラス基材上に化粧料用樹脂組成物を乾燥質量換算で50g/m2になるようにアプリケータで塗布して40℃・24時間の条件で乾燥させ、化粧料用樹脂組成物の塗膜を作製した。上記塗膜の塗工面に対し、自動接触角測定装置(協和界面社製DM-501)を用いて25℃で水を着弾させ、着弾1秒後における水の接触角を測定した。
【0069】
<保存安定性>
促進経時試験前の化粧料用樹脂組成物の粘度を測定した。次いで、容器に入れた化粧料用樹脂組成物を70℃・1ヶ月間静置して促進経時試験を行った。促進経時試験後、化粧料用樹脂組成物の粘度を再度測定した。粘度測定は25℃の条件でB型粘度計を用いて測定した。得られた粘度の値から下記式に基づいて促進試験前後における粘度変化率を算出した。
粘度変化率(%)=|初期の粘度-経時後の粘度|×100
[評価基準]
S:粘度変化率が5%未満。極めて良好。
A:粘度変化率が5%以上10%未満。良好。
B:粘度変化率が10%以上30%未満。実用上使用可。
C:粘度変化率が30%以上。実用上問題あり。
【0070】
<耐水性評価>
人工皮膚(ビューラックス社製バイオスキンプレートP001-001)に実施例1の化粧料用樹脂組成物を乾燥質量換算で20g/m2になるようにアプリケータで塗工して塗膜を形成した。塗工後、25℃・120分の条件で乾燥し、縦10mm、横20mmの試験片を作製した。ガラス瓶に水を入れ、作製した試験片を浸漬させて密栓し、バイオシェイカー(タイテック社製BR-43FH)で37℃・振とう速度100r/分の条件で10時間振とうした。振とう後、試験片を取り出して化粧料用樹脂組成物の塗膜の剥がれ具合を確認した。
[評価基準]
S:塗膜の剥がれた面積が塗工面積全体に対して1%未満。極めて良好。
A:塗膜の剥がれた面積が塗工面積全体に対して1%以上5%未満。良好。
B:塗膜の剥がれた面積が塗工面積全体に対して5%以上10%未満。実用上使用可。
C:塗膜の剥がれた面積が塗工面積全体に対して10%以上。実用上問題あり。
【0071】
<耐塩水性評価>
ガラス瓶に汗と同じ塩分濃度になるよう、0.4%の塩化ナトリウム水溶液を調製した後、耐水性評価と同じ手順で作製した試験片を浸漬させて密栓し、バイオシェイカーで37℃・振とう速度100r/分の条件で10時間、ガラス瓶を振とうした。浸透後、試験片を取り出して化粧料用樹脂組成物の塗膜の剥がれ具合を確認した。
[評価基準]
S:塗膜の剥がれた面積が塗工面積全体に対して1%未満。極めて良好。
A:塗膜の剥がれた面積が塗工面積全体に対して1%以上5%未満。良好。
B:塗膜の剥がれた面積が塗工面積全体に対して5%以上10%未満。実用上使用可。
C:塗膜の剥がれた面積が塗工面積全体に対して10%以上。実用上問題あり。
【0072】
<耐油性評価>
ガラス瓶に皮脂に近い油脂成分として、ホホバオイルを入れた後、耐水性評価と同じ手順で作製した試験片を浸漬させて密栓し、バイオシェイカーで37℃・振とう速度100r/分の条件で10時間ガラス瓶を振とうした。振とう後、試験片を取り出して化粧料用樹脂組成物の塗膜の剥がれ具合を確認した。
[評価基準]
S:塗膜の剥がれた面積が塗工面積全体に対して1%未満。極めて良好。
A:塗膜の剥がれた面積が塗工面積全体に対して1%以上5%未満。良好。
B:塗膜の剥がれた面積が塗工面積全体に対して5%以上10%未満。実用上使用可。
C:塗膜の剥がれた面積が塗工面積全体に対して10%以上。実用上問題あり。
【0073】
<化粧持ち試験>
10名の被験者の瞼に上記の化粧料用樹脂組成物を筆で塗布して自然乾燥で成膜させた。次に保護メガネを装着し、そのまま12時間経過した後の化粧持ちの状態を評価した。
[評価基準]
S:10名全員が化粧持ち良好と判断した。極めて良好。
A:8名または9名が化粧持ち良好と判断した。良好。
B:7名が化粧持ち良好と判断した。実用上使用可。
C:化粧持ち良好と判断したのが6名以下であった。実用上問題あり。
【0074】
<皮膚刺激性>
10名の被験者の腕の内側に上記の化粧料用樹脂組成物を塗布し、24時間後に被験者にかゆみや痛み等の異常を感じるか否かを評価した。
[評価基準]
S:異常を感じた被験者が0名である。極めて良好。
A:異常を感じた被験者が1名である。良好。
B:異常を感じた被験者が2名である。実用上使用可。
C:異常を感じた被験者が3名以上である。実用上問題あり。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
表中の略号は以下の通りである。
レオドールTW-S320V:トリステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.)(花王社製)
NTC-CARBOMER 380:カルボキシビニルポリマー(日光ケミカルズ社製)
【0079】
表1~3の結果からわかるように、実施例の化粧料用樹脂組成物は保存安定性に優れる上、塗膜の耐水性、耐塩水性、耐油性が良好で、過酷な条件下における化粧持ち性にも優れ、皮膚刺激性も極めて少ない事が分かった。一方で比較例の化粧料用樹脂組成物は、上記の性能のいずれかが著しく劣っており、実用上問題があることが明らかとなった。