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特開2024-156273物流シミュレーション装置の構成決定支援方法及び構成決定支援装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156273
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】物流シミュレーション装置の構成決定支援方法及び構成決定支援装置
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/083 20240101AFI20241029BHJP
【FI】
G06Q10/083
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070600
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富山 伸司
(72)【発明者】
【氏名】島田 捷生
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 淳皓
【テーマコード(参考)】
5L010
5L049
【Fターム(参考)】
5L010AA16
5L049AA16
(57)【要約】
【課題】多くの工数をかけずに精度のよい物流シミュレーション装置を構成可能な物流シミュレーション装置の構成決定支援方法及び構成決定支援装置を提供すること。
【解決手段】本発明に係る物流シミュレーション装置の構成決定支援方法は、移動予定の荷物に関する情報を用いて、各設備への作業割り当ての組み合わせ、各設備への作業割り当てにより定まる作業効率、及び各設備への作業割り当てにより定まる作業完了時間のうちの少なくとも一つを考慮した指標を算出する指標算出ステップと、指標算出ステップにおいて算出された指標に基づいて、各設備が次に行う作業を決定する作業割当ルール、又は、各作業を担当する設備及び各作業の実行時刻又は作業順を指定する作業スケジュールのどちらに従って、各設備に作業を割り当てるかを決定する決定ステップと、決定ステップにおける決定結果を出力する出力ステップと、を含む。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷物を運搬する設備、荷物を保管する設備、及び荷物の移載を行う設備を備える物流設備における各設備の状態を計算機上で可視化する物流シミュレーション装置の構成決定支援方法であって、
移動予定の荷物に関する情報を用いて、各設備への作業割り当ての組み合わせ、各設備への作業割り当てにより定まる作業効率、及び各設備への作業割り当てにより定まる作業完了時間のうちの少なくとも一つを考慮した指標を算出する指標算出ステップと、
前記指標算出ステップにおいて算出された指標に基づいて、各設備が次に行う作業を決定する作業割当ルール、又は、各作業を担当する設備及び各作業の実行時刻又は作業順を指定する作業スケジュールのどちらに従って、各設備に作業を割り当てるかを決定する決定ステップと、
前記決定ステップにおける決定結果を出力する出力ステップと、
を含む、物流シミュレーション装置の構成決定支援方法。
【請求項2】
前記指標算出ステップは、各設備への作業割り当ての組み合わせ数、一つの作業に対して同時に複数の設備を割り当てる際の制約を満足する各設備への作業割り当ての組み合わせ毎の作業効率分布、及び設備に作業を割り当てたときに該設備が該作業を完了するまでに要する時間の分布のうちの少なくとも一つの指標を算出する、請求項1に記載の物流シミュレーション装置の構成決定支援方法。
【請求項3】
前記決定ステップは、前記作業割当ルール又は前記作業スケジュールのどちらを選択するのが良いかを判断可能な一元化した評価値を算出し、当該評価値の閾値に従って作業割当ルール又は作業スケジュールを選択するステップを含む、請求項1に記載の物流シミュレーション装置の構成決定支援方法。
【請求項4】
前記荷物を運搬する設備は、牽引部とパレットとが分離可能な運搬車両であり、パレット運搬作業への運搬車両の割り当て方法及びパレットへの運搬ロットの割り当て方法を決定する際、前記指標算出ステップ及び前記決定ステップを実行する、請求項1~3のうち、いずれか1項に記載の物流シミュレーション装置の構成決定支援方法。
【請求項5】
荷物を運搬する設備、荷物を保管する設備、及び荷物の移載を行う設備を備える物流設備における各設備の状態を計算機上で可視化する物流シミュレーション装置の構成決定支援装置であって、
移動予定の荷物に関する情報を用いて、各設備への作業割り当ての組み合わせ、各設備への作業割り当てにより定まる作業効率、及び各設備への作業割り当てにより定まる作業完了時間のうちの少なくとも一つを考慮した指標を算出する指標算出手段と、
前記指標算出手段によって算出された指標に基づいて、各設備が次に行う作業を決定する作業割当ルール、又は、各作業を担当する設備及び各作業の実行時刻又は作業順を指定する作業スケジュールのどちらに従って、各設備に作業を割り当てるかを決定する決定手段と、
前記決定手段の決定結果を出力する出力手段と、
を備える、物流シミュレーション装置の構成決定支援装置。
【請求項6】
前記指標算出手段は、各設備への作業割り当ての組み合わせ数、一つの作業に対して同時に複数の設備を割り当てる際の制約を満足する各設備への作業割り当ての組み合わせ毎の作業効率分布、及び設備に作業を割り当てたときに該設備が該作業を完了するまでに要する時間の分布のうちの少なくとも一つの指標を算出する、請求項5に記載の物流シミュレーション装置の構成決定支援装置。
【請求項7】
前記決定手段は、前記作業割当ルール又は前記作業スケジュールのどちらを選択するのが良いかを判断可能な一元化した評価値を算出し、当該評価値の閾値に従って作業割当ルール又は作業スケジュールを選択する請求項5に記載の物流シミュレーション装置の構成決定支援装置。
【請求項8】
前記荷物を運搬する設備は、牽引部とパレットとが分離可能な運搬車両であり、前記指標算出手段及び前記決定手段は、パレット運搬作業への運搬車両の割り当て方法及びパレットへの運搬ロットの割り当て方法を決定する際に処理を実行する、請求項5~7のうち、いずれか1項に記載の物流シミュレーション装置の構成決定支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物流設備における設備の状態を計算機上で可視化する物流シミュレーション装置の構成決定支援方法及び構成決定支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、製造業において工場で製造された製品は、梱包後、運搬車両やAGV(Automatic Guided Vehicle)等の台車を用いて製品置場(製品ヤードや製品倉庫)まで移動され、搬出日まで製品置場で保管される。そして、搬出日になると、製品は、製品置場から搬出された後、荷役設備によって運搬車や運搬船に積み込まれて客先や物流センター等に搬送される。搬出日までの製品移動は、搬出後の製品移動に比べると移動距離や移動時間が短い。また、搬出後の製品移動に関しては、客先や物流センター等への移動時間が他の作業(例えば運搬車や運搬船への積み込み作業)に比べて非常に長い。このため、製品移動時にどのような経路を選択するかが物流効率化や物流能力増強を実現するための大きな要因となる。このような背景から、移動経路選択方法に焦点を当てて製品の物流計画を立案することが多い。
【0003】
しかしながら、搬出日までの製品移動に関しては、各設備の荷役作業や移動作業の処理時間に大きな差がないため、どの作業が物流全体の遅延を引き起こしているのか判別しにくい状況が発生しやすい。特に大規模な工場になると、多数及び多種の設備が同時並行で作業を行っており、各設備が作業を連携して製品が移動されていく。このため、例えば作業の終了タイミングがずれること等によって設備の待機状態が発生し、それが他の作業の遅延を連鎖的に引き起こし、設備全体での大きな遅延へと繋がっていくことがある。このような遅延の発生を防ぐためには、生産計画が遅延を起こしにくいものかどうか事前に確認したり、操業途中で遅延が発生した際に原因究明を行ったりすることが重要である。ところが、多数及び多種の設備が操業している状態において、そのようなことを人手で行うことは難しい。
【0004】
このような課題に対して、設備全体での作業の進行状況を計算機によってシミュレートし、その結果を操業に反映させる技術が提案されている。具体的には、特許文献1には、処理装置間でワークを搬送する搬送車のシミュレーションシステムに関する技術が記載されている。特許文献1に記載の技術は、搬送車のスケジュールを作成後、シミュレーションを実行して搬送車間の干渉を事前に確認し、その後で干渉を回避するようにスケジュールを修正する。また、特許文献2には、半導体工場の処理工程ラインのレイアウトを決定するシミュレーションに関する技術が記載されている。特許文献2に記載の技術は、複雑な製造工程を再現したシミュレーションでは計算時間がかかるため、対象を単純化して計算時間の短縮を実現している。詳しくは、特許文献2に記載の技術は、処理装置を頂点、搬送路を辺とするグラフで対象を表現して、線形計画法によって搬送区間毎の単位時間あたりの搬送量を算出する。
【0005】
特許文献1,2に記載の技術はいずれも、搬送スケジュールを作成し、それに基づいてシミュレーションを実行するものである。ところが、搬送スケジュールの作成には計算機プログラムが用いられるが、計算機プログラムを製作するには多くの労力が必要となることが多い。例えば種々の複雑な制約条件を満たす必要がある場合、計算機プログラムは複雑で大規模なものになりやすく、計算機プログラムの製作に大きな工数を要する。また、生産物流計画の分野では、スケジュール候補の組み合わせ数が膨大であることが多く、各組合せを調べるために計算機プログラムの処理時間が長くなりやすい。一方、組み合わせの数に関わらず短時間でスケジュールを生成可能な計算機プログラムもあるが、そのような計算機プログラムでは処理が非常に複雑になりやすい。
【0006】
このため、搬送スケジュールを作成せずにシミュレーションを行う技術も提案されている。具体的には、特許文献3には、人中心型生産ラインに対して、作業員が次に行くべき場所及び次に行うべき作業をルールで決定する操業において、ルールの条件式に用いる変数を最適化する技術が記載されている。また、特許文献4には、工程間の搬送負荷に基づいてルールにより実行作業を決めてシミュレーションを行う技術が記載されている。特許文献3,4に記載の技術はいずれも、ルールに基づいて人員や設備が次に行う作業のシミュレーションを行うものである。ここで使用されているルールは、次に運ぶ製品をどれにするか、次の製品の搬送先をどこにするか等、短期的な意思決定を行うためのものである。このため、対象期間の作業順や複数の作業の実行時刻を決定するスケジューリングと比較して、計算機への実装するための負荷は低くなる。一方で、短期的な視点での意思決定を行うため、特許文献1,2に記載の技術と比較して非効率な作業割当になってしまう場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-49500号公報
【特許文献2】特開2017-117397号公報
【特許文献3】特開平11-306162号公報
【特許文献4】特開2001-117624号公報
【特許文献5】特開2005-350158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、特許文献1~4に記載の技術はいずれもスケジューリングとルールの一方のみを用いて作業割り当て処理を行って作業の状態を可視化しているが、スケジューリング及びルールにはそれぞれ一長一短がある。また、作業割り当て処理に関してスケジューリングとルールを適切に使い分ける基準が不明であるため、いずれを利用すると効率のよい操業をシミュレーションできるかが明確でないという課題があった。そこで、本願発明の発明者らは、作業割り当て処理においてスケジューリングとルールのどちらを用いるかを適切に決定することにより、大きな工数をかけずに精度のよい物流シミュレーション装置を構成することを考えた。
【0009】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、その目的は、多くの工数をかけずに精度のよい物流シミュレーション装置を構成可能な物流シミュレーション装置の構成決定支援方法及び構成決定支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る物流シミュレーション装置の構成決定支援方法は、荷物を運搬する設備、荷物を保管する設備、及び荷物の移載を行う設備を備える物流設備における各設備の状態を計算機上で可視化する物流シミュレーション装置の構成決定支援方法であって、移動予定の荷物に関する情報を用いて、各設備への作業割り当ての組み合わせ、各設備への作業割り当てにより定まる作業効率、及び各設備への作業割り当てにより定まる作業完了時間のうちの少なくとも一つを考慮した指標を算出する指標算出ステップと、前記指標算出ステップにおいて算出された指標に基づいて、各設備が次に行う作業を決定する作業割当ルール、又は、各作業を担当する設備及び各作業の実行時刻又は作業順を指定する作業スケジュールのどちらに従って、各設備に作業を割り当てるかを決定する決定ステップと、前記決定ステップにおける決定結果を出力する出力ステップと、を含む。
【0011】
前記指標算出ステップは、各設備への作業割り当ての組み合わせ数、一つの作業に対して同時に複数の設備を割り当てる際の制約を満足する各設備への作業割り当ての組み合わせ毎の作業効率分布、及び設備に作業を割り当てたときに該設備が該作業を完了するまでに要する時間の分布のうちの少なくとも一つの指標を算出するとよい。
【0012】
前記決定ステップは、前記作業割当ルール又は前記作業スケジュールのどちらを選択するのが良いかを判断可能な一元化した評価値を算出し、当該評価値の閾値に従って作業割当ルール又は作業スケジュールを選択するステップを含むとよい。
【0013】
前記荷物を運搬する設備は、牽引部とパレットとが分離可能な運搬車両であり、パレット運搬作業への運搬車両の割り当て方法及びパレットへの運搬ロットの割り当て方法を決定する際、前記指標算出ステップ及び前記決定ステップを実行するとよい。
【0014】
本発明に係る物流シミュレーション装置の構成決定支援装置は、荷物を運搬する設備、荷物を保管する設備、及び荷物の移載を行う設備を備える物流設備における各設備の状態を計算機上で可視化する物流シミュレーション装置の構成決定支援装置であって、移動予定の荷物に関する情報を用いて、各設備への作業割り当ての組み合わせ、各設備への作業割り当てにより定まる作業効率、及び各設備への作業割り当てにより定まる作業完了時間のうちの少なくとも一つを考慮した指標を算出する指標算出手段と、前記指標算出手段によって算出された指標に基づいて、各設備が次に行う作業を決定する作業割当ルール、又は、各作業を担当する設備及び各作業の実行時刻又は作業順を指定する作業スケジュールのどちらに従って、各設備に作業を割り当てるかを決定する決定手段と、前記決定手段の決定結果を出力する出力手段と、を備える。
【0015】
前記指標算出手段は、各設備への作業割り当ての組み合わせ数、一つの作業に対して同時に複数の設備を割り当てる際の制約を満足する各設備への作業割り当ての組み合わせ毎の作業効率分布、及び設備に作業を割り当てたときに該設備が該作業を完了するまでに要する時間の分布のうちの少なくとも一つの指標を算出するとよい。
【0016】
前記決定手段は、前記作業割当ルール又は前記作業スケジュールのどちらを選択するのが良いかを判断可能な一元化した評価値を算出し、当該評価値の閾値に従って作業割当ルール又は作業スケジュールを選択するとよい。
【0017】
前記荷物を運搬する設備は、牽引部とパレットとが分離可能な運搬車両であり、前記指標算出手段及び前記決定手段は、パレット運搬作業への運搬車両の割り当て方法及びパレットへの運搬ロットの割り当て方法を決定する際に処理を実行するとよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る物流シミュレーション装置の構成決定支援方法及び構成決定支援装置によれば、多くの工数をかけずに精度のよい物流シミュレーション装置を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の一実施形態である物流シミュレーション装置の対象となる物流設備の構成を示す模式図である。
図2図2は、図1に示す運搬車両の構成例を示す模式図である。
図3図3は、図1で示す物流設備における各設備の状態を可視化するための物流シミュレーション装置の構成を示すブロック図である。
図4図4は、運搬ロット情報の一例を示す図である。
図5図5は、図3に示す物流シミュレーション装置よる物流シミュレーションの流れを示すフローチャートである。
図6図6は、運搬ロット毎に発生する作業を示す図である。
図7図7は、運搬作業スケジュールの一例を示す図である。
図8図8は、運搬作業スケジュールの一例を示す図である。
図9図9は、運搬車両が利用可能なパレットのリストの一例を示す図である。
図10図10は、作業割り当ての組み合わせの効率値レコードの一例を示す図である。
図11図11は、本発明の一実施形態である物流シミュレーション装置の構成決定支援装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である物流シミュレーション装置の構成決定支援方法及び構成決定支援装置について説明する。
【0021】
〔物流設備〕
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態である物流シミュレーション装置の対象となる物流設備の構成について説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態である物流シミュレーション装置の構成方法の対象となる物流設備の構成を示す模式図である。図1に示す物流設備1で扱われる荷物は鉄鋼製品であるコイルCであり、荷物移動設備は大きく分けて荷役設備及び運搬設備に分類される。荷役設備は天井クレーン2及び船積クレーン3であり、運搬設備は運搬車両4である。工場で製造されたコイルCは、運搬車両4によって製品倉庫5a~5c内に搬入される。製品倉庫5a~5cは、出荷までコイルCを一時的に保管しておくバッファの役割を担っており、運搬船6が停泊する出荷バース(Aバース~Cバース)に沿って配置されている。製品倉庫5a~5cはそれぞれ複数の棟(建屋)が隣接する形で構成されており、各棟には天井クレーン2及び運搬車両4が1基ずつ進入するためのエリアである車両搬入出間口7が設置されている。天井クレーン2は、運搬車両4によって運ばれてきたコイルCを棟内に移動したり、出荷が近づいたコイルCを出荷バースに搬出したりするために用いられる。コイルCを積み込む運搬船6がそのコイルCを保管している棟から遠くに停泊している場合、天井クレーン2はそのコイルCを運搬車両4に乗せ、運搬車両4は運搬船6が停泊している出荷バースまでコイルCを移動させる。
【0023】
図2に運搬車両4の構成例を示す。図2に示すように、運搬車両4は、牽引部4aと荷物積載部であるパレット4bとが分離可能な構造を有している。牽引部4aは、工場でコイルCが載せられたパレット4bを接続し、指示された製品倉庫までそのパレット4bを運搬する。牽引部4aは、製品倉庫に到着すると、車両搬入出間口7に進入してパレット4bを下す。パレット4bを下すと、牽引部4aは、同じ車両搬入出間口7に置かれている別のパレット4bを接続するか、車両搬入出間口7から退出して他のパレット4bを運搬するためパレット4bが置かれている車両搬入出間口7まで移動する。製品倉庫に置かれたパレット4bの上に載せられたコイルCは、天井クレーン2によって製品倉庫の中に移動させられる(これを入庫と呼ぶ)。パレット4bに載せられている全てのコイルCが製品倉庫内に移動されると、牽引部4aは、空のパレット4bを載せて車両搬入出間口7から退出する。この牽引部4aは、車両搬入出間口7までパレット4bを運んできた牽引部4aと別のものであってもよい。
【0024】
このように運搬車両4は牽引部4aとパレット4bが分離可能な構造を有しているため、牽引部4aの移動作業(走行)とパレット4bへの荷役作業を並行して実行できる。一般的なトラック等のように牽引部と荷物積載部が分離できない構造の車両では、荷役作業中に車両は停止している必要があるが、そのような車両に比べて分離可能な車両では効率的な運搬が可能になる。一方で、分離可能な車両の運搬作業は、他の運搬作業の影響を受けやすい。これは、同じパレット4bを複数の牽引部4aが使用するためであり、例えばある製品を載せたパレットP1を牽引部V1が工場から製品倉庫へ運搬し、その後に製品倉庫で製品を下ろし終わったパレットP1を牽引部V2が、別の製品を載せてもらうため工場へ運搬するような操業を行う場合である。この場合には、牽引部V1の作業が遅れてパレットP1の運搬が遅れた場合、その遅れが製品倉庫での荷役(下ろし)作業やその後の牽引部V2の作業遅れを連鎖的に発生させることになる。また、同じ工場や製品倉庫の車両搬入出間口に複数の牽引部やパレットが入ってくるため、図1で示した物流設備1は、各設備の作業遅れが互いに影響しやすい形態となっている。
【0025】
このような形態を有する物流設備1では、ある設備が作業遅れを起こした場合、遅れが連鎖的に影響し合っているため、その根本原因を知ることは難しい。このため、物流設備1における各設備の状態をシミュレーションによって計算機上で可視化し、作業遅れの原因を解析するアプローチがとられることがある。生産や物流等を対象としたシミュレーションの場合、生産や物流で必要となる作業をどの設備に割当て、作業をどの順番又はどの時刻に実行するかを決める必要がある。この点で、生産や物流等を対象としたシミュレーションは、対象の動きを方程式等で表現できる物理モデルシミュレーションとは異なるといえる。
【0026】
〔物流シミュレーション装置〕
次に、図3図4を参照して、図1で示した物流設備1における各設備の状態を可視化するための物流シミュレーション装置の構成について説明する。
【0027】
図3は、図1で示した物流設備1における各設備の状態を可視化するための物流シミュレーション装置の構成を示すブロック図である。図3に示すように、物流シミュレーション装置は、与えられた状況に対して物流設備1における各設備に発生する状況(待ち、停止時間の発生、置場満杯状況等)を確認するためのものであり、情報保存装置100を備えている。情報保存装置100は、計画作成やシミュレーションの実行の際に必要な情報を保存する記憶装置であり、設備情報データベース(設備情報DB)100a、荷物情報データベース(荷物情報DB)100b、及び作業情報データベース(作業情報DB)100cを備えている。
【0028】
設備情報DB100aは、コイルCを運搬する運搬設備、コイルCを保管する置場設備、及びコイルCの移載を行う荷役設備に関する情報を格納する。具体的には、設備情報DB100aには、各設備の稼働情報、各設備の仕様に関する情報、各設備への作業割当制約情報、及び各設備への作業割当ルールに関する情報が格納されている。各設備の稼働情報には、各設備(天井クレーン2、船積クレーン3、運搬車両4)の台数、現在位置、休止・メンテナンスに関する情報が含まれる。各設備の仕様に関する情報には、各設備のサイクルタイム(クレーンの場合)、走行速度、最大搬送重量、容量(製品倉庫及び置場の場合)に関する情報が含まれる。各設備への作業割当制約情報には、同時に作業を実行可能な設備の組み合わせを限定する等の制約に関する情報が含まれる。各設備への作業割当ルールに関する情報には、作業計画を立てずに作業の優先度等によって設備が次に行う作業を決定するルールに関する情報が含まれる。
【0029】
荷物情報DB100bは、移動予定のコイルCに関する情報を格納する。具体的には、荷物情報DB10bには、運搬ロット情報及び出荷予定製品情報が格納されている。運搬ロット情報は、工場から製品倉庫へ運搬するコイルCをパレット単位にまとめた情報が含まれる。出荷予定製品情報には、コイルCの搬送に使用する運搬船、船倉、バース、及び船積クレーンに関する情報や、運搬船へのコイルCの船積順や船積予定時刻に関する情報が含まれる。
【0030】
作業情報DB100cは、必要な移動作業及び過去の移動作業の実績データに関する情報を格納する。具体的には、作業情報DB100cには、完了作業リスト、予定作業リスト、及び作業計画が格納されている。完了作業リストは、完了した作業に関する対象製品、使用設備、搬送元、搬送先、開始時刻、及び終了時刻に関する情報が含まれる。予定作業リストには、実施予定の作業に関する対象製品、使用設備、搬送元、搬送先、開始予定時刻、及び終了予定時刻に関する情報が含まれる。作業計画には、物流シミュレーションで実行する作業計画に関する情報が含まれる。
【0031】
情報保存装置100の各データベースの内容は、各設備の作業状況が変化するのに従って随時更新される。運搬車両4は、担当した運搬作業が開始・終了、もしくは設定されたポイントを通過する等した際、運搬車両4上に設置された運搬車両通信装置101を介してその情報を情報保存装置100に送信する。情報保存装置100は送信されてきた情報に従って各データベースを更新する。天井クレーン2及び船積クレーン3にも同様の通信装置(天井クレーン通信装置102,船積クレーン通信装置103)が設置されており、クレーンの移動開始・終了や荷物の積載、下ろしの時点でその情報を情報保存装置100に通信する。
【0032】
本実施形態の物流シミュレーション装置は、入力部104を備えている。入力部104は、物流シミュレーションを行う際に与える様々な操業条件を入力するための装置である。本実施形態では、入力部104は、シミュレーション条件入力部104a及びルール入力部104bを備えている。
【0033】
シミュレーション条件入力部104aは、今後の操業で発生する可能性のある状況を入力する装置である。入力する情報としては、雨天や強風等による船積クレーン3の作業停止時間帯、設備故障による停止時間帯、優先出荷製品の追加に関する情報(出荷期限日や製品個数設定等)、及び生産品種の割合変更に関する情報(変更量や変更時間帯等)を例示できる。これにより、上記の状況が発生した場合に物流設備1全体でどのような現象が起こるのかを物流シミュレーションにより可視化することができる。もちろん、現状の操業状態が変更なく続いた場合の物流シミュレーションを実行することも可能である。
【0034】
ルール入力部104bは、各設備が作業を実行する際に従うルールを入力する。例えば天井クレーン2がどの製品の荷役作業を優先して実行するかを決めたり、作業を行うことができる複数の設備がある場合にどの設備を選択するかということを決めたりするルールをルール入力部104bで設定する。設定されたルールは、情報保存装置100の設備情報DB100aに作業割当ルールとして格納される。
【0035】
本実施形態の物流シミュレーション装置は、作業生成部105及びシミュレーション計画生成部106を備えている。作業生成部105は、情報保存装置100に格納されているデータを用いて1作業単位の作業データを生成する。例えば運搬車両4の作業については、作業生成部105は、運搬ロット情報を用いて作業データを生成する。運搬ロット情報の一例を図4に示す。図4に示すように、運搬ロット情報のレコードは製品単位(製品ID)で生成されており、各製品をパレット単位でまとめた運搬ロットIDが付与されている。また、各運搬ロットを乗せることのできるパレットの種類も指定されている。図4に示す例では、運搬ロット情報は、運搬ロットID、ロット合計重量、製品ID、パレット種類、ロット製品個数、搬送元間口、搬送先倉庫棟番号、及び搬出予定時刻に関する情報を含む。
【0036】
シミュレーション計画生成部106は、作業生成部105が生成した作業について、作業を実行する設備及び実行する順番又は日時を決定して作業計画を生成する。作業生成部105はシミュレーション計画生成部106が作成した作業計画を情報保存装置100の作業情報DB100cに格納する。
【0037】
本実施形態の物流シミュレーション装置は、シミュレーション部107を備えている。シミュレーション部107は、作業生成部105が生成した1作業単位の作業データ、シミュレーション計画生成部106が生成した作業計画、及び情報保存装置100に格納されている設備への作業割当ルールに基づいて、物流設備1における各設備の作業についての計算機シミュレーションを実行する。
【0038】
シミュレーション部107には、各設備の動きをモデル化して計算機上で動作させる計算機プログラムであるモデル群A及びモデル群Bが格納されている。シミュレーション部107は、これら計算機プログラムを実行する。モデル群Aは、作業割当ルールに基づいて作業割当、実行順又は実行日時を決定する。モデル群Bは、シミュレーション計画生成部106が生成した作業計画に基づいて、作業割当、実行順又は実行日時を決定する。作業スケジュールを生成せずに外部から与えるようにしても構わない。計算機シミュレーションの結果は、シミュレーション情報出力部108によって可視化され、物流シミュレーション装置のユーザに必要な情報を提供する。
【0039】
〔物流シミュレーションの流れ〕
次に、図5を参照して、上記物流シミュレーション装置による物流シミュレーションの流れについて説明する。
【0040】
図5は、図3に示す物流シミュレーション装置よる物流シミュレーションの流れを示すフローチャートである。物流シミュレーションの際は、まず、作業生成部105が、情報保存装置100内の3種類のデータベースから必要なデータを抽出する(ステップS1)。次に、作業生成部105が、抽出されたデータに基づいて可視化対象になる時間帯における各設備の作業及び制約条件を生成する(ステップS2)。次に、シミュレーション計画生成部106が、生成された作業の計画を生成する(ステップS3)。次に、シミュレーション部107が、作業スケジュール又は作業割当ルールを用いて計算機シミュレーションを実施する(ステップS4)。そして最後に、シミュレーション情報出力部108が、計算機シミュレーションの結果を出力する(ステップS5)。
【0041】
ここで、作業スケジュール及び作業割当ルールのどちらを用いて作業割り当て処理を実行するかを決定して物流シミュレーション装置の構成を決定する必要がある。以下では、作業スケジュール及び作業割当ルールのどちらを用いて作業割り当て処理を実行するかの決定を支援する物流シミュレーション装置の構成決定支援方法及び構成決定支援装置について説明する。
【0042】
<物流シミュレーション装置の構成決定支援方法及び構成決定支援装置>
まず、作業割り当て処理を実行する上で決定の対象となる作業スケジュール及び作業割当ルールについて説明する。
【0043】
〔作業スケジュール〕
まず、図6図7を参照して、作業スケジュールの一例について説明する。
【0044】
特許文献5には、パレットが分離可能な運搬車両について、作業スケジュールを作成する技術が記載されている。特許文献5には、生成された運搬ロットに対して、その運搬ロットを積載するパレット及びそのパレットを移動させる運搬車両の割り当て及び各作業の実行時刻を決定する作業スケジュールの立案方法が記載されている。特許文献5に記載の技術では、適用対象の作業割当組み合わせ数が非常に大きくなるため、3種類の計算処理ステップによってスケジュール生成時間ができるだけ短くなるような工夫が施されている。このような立案処理を行うコンピュータプログラムがシミュレーション装置を構築する前に利用可能であれば、そのコンピュータプログラムを用いてシミュレーション装置を構築できる。しかしながら、そのようなコンピュータプログラムが利用できない場合には、複雑な処理のコンピュータプログラムを一から開発することになり、シミュレーション装置の構築に大きな負荷がかかる。
【0045】
運搬車両の作業の場合、搬送元と搬送先が同じ製品をまとめて1枚のパレットに積載し、パレット単位で搬送元から搬送先に製品を運搬する。1パレット分の製品(運搬ロット)を運ぶ場合、運搬ロット毎に図6に示す作業1~5が発生する。このうち作業1,3,5は運搬車両が担当する作業である。1つの運搬ロットに対して、それに対応する作業1,3,5は同じ運搬車両が全て実行しなければならないわけではなく、それぞれの作業を別々の運搬車両が担当しても構わない。運搬作業スケジュールの例を図7に示す。図7に示す運搬作業スケジュールでは、1レコードに1つの出発場所から1つの到着場所への移動作業が保存されている。「作業種」の項目における「単独走行」はパレットを積載しない牽引部だけの走行、「空パレット搬送」は運搬ロットを積載しないパレットを運ぶ走行(図6の作業1,5に相当)であり、「運搬ロット搬送」は運搬ロットを積載したパレットの走行(図6の作業3に相当)を意味する。パレットIDには、運搬ロットレコード(図4)で指定されたパレット種のレコードが選択されて割り当てられている。
【0046】
〔作業割当ルール〕
次に、図8図9を参照して、作業割当ルールの一例について説明する。
【0047】
作業割当ルールは、作業スケジュールのように事前に作業を行う設備を決めることはせず、シミュレーション実行時の状況によって優先順位等に基づいて作業を割り当てる設備を決定する。ここでは、運搬ロットを載せるパレットの決定に作業割当ルールを用いる例について説明する。但し、運搬車両への運搬ロットの割り当てについては、事前に図8のように運搬車両が担当する運搬ロット、作業順、及び希望運搬開始時刻が運搬作業スケジュールとして決められているものとする。また、現時点で各運搬車両が利用可能なパレットも図9に示すリストのように決められているものとする。図9に示すリストに含まれるパレットは、割り当てられている運搬車両以外は使用(運搬)することができないが、シミュレーション中にこのリスト情報は作業割当ルールに基づいて更新されるため、利用可能なパレットは随時変化する。パレットに関する作業割当ルールの例を以下に示す。
【0048】
(1)パレット不足判定ルール
(2)運搬ロット割り当てパレット選択ルール
(3)不要パレット解放ルール
【0049】
(1)のパレット不足判定ルールは、各運搬車両の使用可能パレットが足りない場合に使用可能パレットを追加するルールである。パレット不足判定ルールでは、各運搬車両に割り当てられた運搬ロット情報(図8)を収集し、下記のステップS11,S12の処理を実行する。
【0050】
ステップS11:対象運搬ロットの搬送元に対象運搬ロットを積載するための空パレットが搬入されていないことを条件として、運搬ロットのうち、次の条件を満たす最も作業順の早い作業を抽出する。
【0051】
ステップS12:抽出運搬ロットに対応するパレット種のパレットが対象運搬車両に割り当てられていて(図9)、そのうちの少なくとも1枚のパレットで次に積載する運搬ロットがまだ決まっていない場合、パレット不足なしとしてルール処理終了。そうでない場合には、パレット不足としてルール処理終了(前ステップの抽出運搬ロットに対応するパレット種を「不足パレット種」とする)。
【0052】
(2)の運搬ロット割り当てパレット選択ルールは、上記ステップS11で抽出された運搬ロットにパレットを割り当てるルールである。パレット不足判定ルールでパレット不足と判定された場合、該当するパレット種でどの運搬車両の利用可能パレットにもなっていないパレットのうち、運搬車両の現在位置から最も近くにあるパレットを選択する。一方、パレット不足判定ルールでパレット不足と判定されなかった場合には、対象運搬車両が利用可能なパレットのうち、運搬ロットを最も早くパレットから下し終わったパレットを選択する。
【0053】
(3)の不要パレット解放ルールは、各運搬車両が利用可能なパレット枚数に上限値を設定しておき、下記の条件1,2をいずれも満たした場合、運搬ロットを最も早く下し終わったパレットを利用可能パレットから外すルールである。
【0054】
条件1:対象運搬車両が利用可能なパレット枚数が上限値である。
条件2:パレット不足判定ルールでパレット不足と判定された。
【0055】
このような作業割当ルールを用いれば、作業スケジューリングよりも少ない労力で物流シミュレーション装置を構成することができる。なお、実操業において下記を満たす対象の作業割当処理に対しては、実操業と同様の処理を実装した物流シミュレーション装置を構成すればよい。
【0056】
・作業割当計画を作成する計算機プログラムが使われている、又は、作業割当計画を人手で作成したりしていてもその手順がはっきり決まっている対象(作業スケジュールを適用)
・操業ルールで自動的に作業割当が行われている、又は、人手でも操業ルールが明確に決められていて作業割当が行われている対象(作業割当ルールを適用)
【0057】
〔作業割当方法の決定手順〕
作業割当方法について、作業スケジューリングや作業割当ルールの詳細な基準が決められていない対象の場合、前述のアプローチで作業割当処理を行うことが困難になる。本実施形態では、パレット運搬作業への運搬車両の割り当て及び運搬ロットのパレットへの割り当てを決める際に作業スケジュール及び作業割当ルールのどちらを用いるかを決定する方法について説明する。この決定の際に用いる指標としては以下の3つの指標がある。
【0058】
指標1:各設備への作業割り当ての組み合わせ数
指標2:一つの作業に対して同時に複数の設備を割り当てる際の制約を満足する各設備への作業割り当ての組み合わせ毎の作業効率分布情報
指標3:設備に作業を割り当てたときに該設備が該作業を完了するまでに要する時間の分布情報
【0059】
〔指標1の計算方法〕
パレット運搬作業を運搬車両へ割り当てる場合の指標1の計算方法を以下で説明する。いま、全運搬ロット数をN、全運搬車両数をnとすると、運搬車両が行う作業は1運搬ロットあたり3種類(図6参照)あるので、運搬車両の担当する作業数は3Nとなる。そして、制約なしで全運搬車両を割り当てる組み合わせは3Nとなるので、これを指標1とすることができる。計算に必要なデータは、設備情報DB100a、荷物情報DB100b、及び作業情報DB)100cから取得することができる。なお、1車両に割り当てられる最低作業数を設定したり、各種の操業制約を入れたりすることによって組み合わせ数を減らして指標1としてもよい。運搬車両の割り当てが完全に自由ではなく、下記の制約を付けている場合には作業割当の組み合わせ数は小さくなる。これらの制約は情報保存装置100にある設備情報DBの設備への作業割当制約情報によって指定できる。例えば運搬車両の割り当てについて下記の制約条件があるとする。
【0060】
・運搬ロットのルート(搬送元→搬送先)をグループにまとめ、同一グループの運搬ロットの運搬作業を同一の運搬車両が担当する(グループ数:N)。
・空パレットの運搬作業(作業1,5)を担当する運搬車両は対応する運搬作業(作業3)を担当する運搬車両と同一とする。
【0061】
この場合の組み合わせ数はNとなる。1台の運搬車両が担当するグループ数を上限値で制限すると組み合わせ数はさらに少なくなる。なお、組み合わせ数が膨大で正確に組み合わせ数が計算できない場合は、近似的に組み合わせ数を計算して指標1を設定してもよい。指標1が大きい場合は作業割当の組み合わせが多いということになり、作業スケジュールを作成するコンピュータプログラムを作成する負荷が高くなるため、その開発に十分な時間が取れない場合には作業割当ルールを採用した方が現実的な物流シミュレーション装置の構築が可能になる。
【0062】
〔指標2の計算方法〕
例えば図6に示す作業3では、運搬ロットに対してそれを積載するパレットとパレット毎の移動を行う運搬車両が割り当てられる。この異種設備(パレット、運搬車両)の割り当てについて下記の制約がある場合における指標2の計算方法について以下で説明する。
【0063】
[割り当て制約]
各時間帯で指定された運搬車両とパレットの組が同一の運搬ロットを担当する。割り当て制約の例を示す。例えばi番目の時間帯の開始時刻:2022/8/3 7:00~終了時刻:2022/8/3 12:00において、下記のように運搬車両とパレットの組が設定されているとする。
【0064】
(1)運搬車両1:パレットAK001、パレットAK002、パレットAK005、パレットBK001、パレットBK002
(2)運搬車両2:パレットAK003、パレットAK004、パレットAK006、パレットBK003、パレットBK004
(3)運搬車両3:パレットAK007、パレットAK008、パレットAK009、パレットBK005、パレットBK006
【0065】
この場合、例えば運搬ロットNN10017をi番目時間帯で運搬車両2に割り当てる場合は、運搬ロットNN10017を積載するパレットはパレット種がAKに限定されていれば、パレットAK003、パレットAK004、パレットAK006のいずれかを選ばなければならない(グループ(2)を選択したことになる)。指標2を計算する際には、この担当パレットをパレットAK003、パレットAK004、パレットAK006と変えた場合の影響を数値化する。処理の概要は下のようにまとめられる。
【0066】
(1)時間帯に運搬する運搬ロット群のデータを過去実績データ等に基づいて生成
(2)それらの運搬ロットを運搬車両に割り当てた各組合せを多数生成
(3)(2)で割当てられた組み合わせに対して、各運搬ロットを積載するパレットの組み合わせをさらに生成
【0067】
具体的な例で計算の流れを説明する。まず、運搬ロットを50個生成し、これを運搬車両3台(運搬車両1~運搬車両3)に割り当てた組み合わせを生成する。この組み合わせを生成する際には、可能な全組み合わせを生成してもよいし、過去実績で実際に割当てられていた組み合わせのみを生成してもよい。そして、運搬車両に割り当てられた運搬ロット50個を担当するパレットを、上記割り当て制約を満たすパレットに割り当てた組み合わせを生成する。各組合せでは、少数のパレットに偏って多くの作業が割り当てられるような組み合わせは除いてもよい。
【0068】
そして、上記の全ての組み合わせについて作業効率を計算する。作業効率の指標としては例えば「メイクスパン」等の値を利用する。メイクスパンとは、一番早い運搬ロットの運搬開始時刻から最も遅く運ばれた運搬ロットの運搬終了までの時間を意味する。メイクスパンは全作業が完了するまでにかかった全時間を意味しており、作業割当が十分に平準化されている場合、メイクスパンの値は小さくなる。逆に、一部の設備に作業が集中している場合には、その作業が集中した設備の作業完了時刻が遅くなるので、メイクスパンの値は大きくなる。各組合せについて計算機プログラム等を用いてメイクスパンの推定値を計算し、下式にしたがって各組合せの効率値を計算する。
【0069】
【数1】
【0070】
メイクスパンが最小となる組み合わせでは、上記効率値は100(最大値)となる。次に、各組合せの効率値レコードを作成し、そのレコードを降順にソートする(図10参照)。そして、全レコードのうち、設定値(本実施例では20%、40%、60%)番目のレコードを選択し、そのレコードの効率値を取得する。全レコード(全組み合わせ)数が100である場合には、上から20番目、40番目、60番目の効率値を取得し、それを設定値2とする。
【0071】
この設定値2で、20番目、40番目、60番目の値が最大値(100)に対して小さな値になっている場合は、最適な作業割当(1番目)とは異なる作業割当になった際、作業効率が急激に悪くなることを意味している。作業割当ルールを用いる場合、必ずしも最適な作業割当になっていないことが多い。このため、このような状況ではシミュレーションで実行される作業効率が現実操業からかけ離れて悪くなってしまう可能性があるので、作業割り当ての際は作業スケジュールを用いた方がよい。それとは逆に、20番目、40番目、60番目の値が100からあまり離れた値になっていない場合には、少しくらい最適な作業割当(1番目)と異なった作業割当になっていても作業効率が低下しないので、作業割当ルールを用いても作業効率が低下する可能性は低くなる。
【0072】
〔指標3の計算方法〕
運搬車両に作業を割り当てる場合には、図6の作業1,3,5の作業完了のために必要な時間を実績データ等に基づいて計算してその分布情報を生成し、生成された分布情報を指標3とする。分布情報としては例えば以下の値を用いればよい。
【0073】
・作業完了必要時間の平均値
・作業完了必要時間≦τ1を満たす実績レコード数が全レコード数の25%以下となる最大の定数τ1
・作業完了必要時間≦τ2を満たす実績レコード数が全レコード数の75%以下となる最大の定数τ2
【0074】
指標3が小さい値である場合、少ない設備台数で作業を完了させることができる。一方、指標3が大きい値である場合には、多数の設備が必要になるので、作業割当の際には大規模計算が必要になる。一般に、大規模計算を行うためには複雑な作業スケジュール作成プログラムが必要になる。このため、物流シミュレーション装置の構築に十分な工数をとれない場合には、作業割当ルールを用いて処理を簡略化させることになる。
【0075】
上述のようにして指標1~3の計算が完了すると、次に、以下の数式(2)に示すような指標1~3を変数とする関数を設定する。そして、関数の値が設定値以上である場合、シミュレーションプログラムの作業割当において作業スケジューリングを適用し、関数の値が設定値未満である場合には、シミュレーションプログラムの作業割当において作業割当ルールを適用する。
【0076】
【数2】
【0077】
上記数式(2)における各変数は下記を意味する。数式(2)の変数は7個であるが、変数の個数はこれに限定されるものではない。
【0078】
X:指標1
20:指標2の20番目のレコードの効率値
40:指標2の40番目のレコードの効率値
60:指標2の60番目のレコードの効率値
:指標3の作業完了必要時間の平均値
:指標3の作業完了必要時間≦τ1を満たす実績レコード数が全レコード数の25%以下となる最大の定数τ1
:指標3の作業完了必要時間≦τ2を満たす実績レコード数が全レコード数の75%以下となる最大の定数τ2
【0079】
関数Fは、変数の一次式で表されるものであってもよいし、非線形関数で定義してもよい。また、if文を使ったルールを用いて以下に示す数式(3),(4)のように関数Fを定義してもよい。
【0080】
【数3】
【0081】
【数4】
【0082】
数式(3),(4)中、p,q(k=1,…,6)及びr(k=1,2)はそれぞれ、各指標変数に掛けられるパラメータ及び定数項である。
【0083】
このような判定基準を用いることにより、物流シミュレーションにおける各設備への作業割当において作業スケジュールと作業割当ルールのいずれを使用するのが適切かを決定できる。これにより、必要最小限の負荷で物流シミュレーション装置を構成することができる。
【0084】
〔構成決定支援装置の構成〕
図11は、本発明の一実施形態である物流シミュレーション装置の構成決定支援装置の構成を示すブロック図である。図11に示すように、本発明の一実施形態である物流シミュレーション装置の構成決定支援装置200は、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置によって構成され、情報保存部201、指標算出部202、構成決定部203、及び出力部204を備えている。指標算出部202、構成決定部203、及び出力部204の機能は、情報処理装置内部の演算処理装置がコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
【0085】
情報保存部201は、ROM等の不揮発性の記憶装置によって構成され、設備情報DB201a、荷物情報DB201b、及び作業情報DB201cを記憶している。設備情報DB201a、荷物情報DB201b、及び作業情報DB201cには、図3に示す設備情報DB100a、荷物情報DB100b、及び作業情報DB100cに格納されているデータと同種のデータが格納されている。図3に示す設備情報DB100a、荷物情報DB100b、及び作業情報DB100cを共有してもよい。
【0086】
指標算出部202は、設備情報DB201a、荷物情報DB201b、及び作業情報DB201c内に格納されている実績データを用いて上記指標1~3を算出し、算出された指標1~3の情報を構成決定部203に出力する。
【0087】
構成決定部203は、指標算出部202によって算出された指標1~3を指標1~3を変数とする上記関数Fに代入することにより関数Fの値を算出する。そして、構成決定部203は、関数Fの値が設定値以上である場合、シミュレーションプログラムの作業割当において作業スケジューリングを適用することを決定する。一方、関数Fの値が設定値未満である場合には、構成決定部203は、シミュレーションプログラムの作業割当において作業割当ルールを適用することを決定する。
【0088】
出力部204は、構成決定部203によって決定された結果を示す情報を出力する。以後、オペレータは、出力部204から出力された情報に従って物流シミュレーション装置を構成する。これにより、必要最小限の負荷で物流シミュレーション装置を構成することができる。
【0089】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明が限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0090】
1 物流設備
2 天井クレーン
3 船積クレーン
4 運搬車両
4a 牽引部
4b パレット
5a~5c 製品倉庫
6 運搬船
7 車両搬入出間口
100 情報保存装置
100a 設備情報データベース(設備情報DB)
100b 荷物情報データベース(荷物情報DB)
100c 作業情報データベース(作業情報DB)
101 運搬車両通信装置
102 天井クレーン通信装置
103 船積クレーン通信装置
104 入力部
104a シミュレーション条件入力部
104b ルール入力部
105 作業生成部
106 シミュレーション計画生成部
107 シミュレーション部
108 シミュレーション情報出力部
200 物流シミュレーション装置の構成決定支援装置
201 情報保存部
202 指標算出部
203 構成決定部
204 出力部
C コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11