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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156277
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】光走査装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 26/10 20060101AFI20241029BHJP
【FI】
G02B26/10 104Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070606
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松丸 直也
【テーマコード(参考)】
2H045
【Fターム(参考)】
2H045AB02
2H045AB25
2H045AB33
2H045BA13
(57)【要約】
【課題】光走査装置において回転軸線の回りに往復回動して走査光を生成するミラー部の回動に係る駆動電圧に対する感度特性が回動幅の両端範囲において変化するときに、回動速度を一定に保持する回動角度範囲を拡張する。
【解決手段】光走査装置10は、ミラー部31と、ミラー部31を所定の回転軸線の回りに往復回動させる外側アクチュエータ35と、外側アクチュエータ35に周期波形の駆動電圧Vxを供給する光偏向器制御部20とを備えている。周期波形は、サブ区間Db1-Db5を有する立ち上がり区間Dbを含んでいる。立ち上がり区間Dbのサブ区間Db2,Db4は、駆動電圧Vxの変化速度Exが所定値Excを維持するように設定される。サブ区間Db1,Db5の駆動電圧Vxの変化速度Exは、Excより大きい値に設定されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミラー部と、
供給電圧に応じて前記ミラー部を所定の回転軸線の回りに往復回動させるアクチュエータと、
周期波形の駆動電圧を生成して前記アクチュエータに供給する駆動電圧生成部と、
を備え、
前記アクチュエータは、前記供給電圧の単位変化量に対する前記回転軸線の回りのミラー部の回動角度の単位変化量としての駆動電圧感度が、前記供給電圧の変化幅の両端範囲では、中間範囲より低下するアクチュエータであり、
前記駆動電圧生成部が生成する前記駆動電圧は、前記周期波形において、電圧値が立ち上がる立ち上り区間、前記電圧値が立ち下がる立ち下がり区間、及び前記立ち上り区間と前記立ち下がり区間との間に介在する折り返し区間とを含み、
前記立ち上り区間及び前記立ち下がり区間の少なくとも一方は、前記電圧値の変化速度の絶対値が所定値を維持する1つ以上の維持区間と、両側から前記折り返し区間と前記維持区間との間に挟まれて前記電圧値の変化速度の絶対値が前記所定値より大きい値に設定されている1つ以上の変更区間とを有している、光走査装置。
【請求項2】
前記電圧値の前記変化速度は、前記立ち上り区間では前記変更区間の方が前記維持区間より大きく設定され、前記立ち下がり区間では、前記変更区間の方が前記維持区間より小さく設定されている、請求項1に記載の光走査装置。
【請求項3】
前記少なくとも一方は、2つの前記維持区間と、両維持区間の間に挟まれている連結区間とを有し、
前記電圧値の変化速度は、前記変更区間と前記連結区間とにおいて前記所定値より共に大きいか共に小さく設定されている、請求項1に記載の光走査装置。
【請求項4】
前記駆動電圧の前記周期波形は、複数の正弦波に基づき設定した元波形に対し、前記元波形と前記少なくとも一方における前記駆動電圧の前記電圧値の変化速度の絶対値が前記維持区間より長い区間長さにわたり前記所定値に維持されるように設定した基準波形との差分を追加した波形であり、
前複数の正弦波とは、前記周期波形の周期と同一の周期を有する駆動電圧のフーリエ級数展開に含まれるm個のa・sin(2πn/T+φ)の正弦波であり、ただし、mは2以上の整数、nは、1からmまでの各整数であり、φは所定値の偏差であり、Tは、前記周期波形の周期である、請求項1~3のいずれか1項に記載の光走査装置。
【請求項5】
前記アクチュエータは、前記回転軸線の方向に配列されてミアンダパターンで結合する複数の圧電カンチレバーから構成されている、請求項4に記載の光走査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸線の回りに往復回動するミラー部に光源からの出射光を反射させて走査光を生成する光走査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の光偏向器を用いて、走査光を生成する走査装置が知られている。
【0003】
特許文献1は、光偏向器を用いてラスタースキャン用の走査光を生成する光走査装置を開示する。この光走査装置では、光偏向器のミラー部は、直交する共振軸と非共振軸との2軸の回りに往復回動し、光源からの入射光を反射して、反射光を2次元に走査する走査光として出射している。
【0004】
特許文献1には、ミラー部を非共振軸回りに往復回動させるアクチュエータにのこぎり波の駆動電圧を供給したとき、非共振軸の回りの一次共振と共振軸の方向のポンピングとに起因する振動が重畳するという知見が開示されている。そして、この知見に基づいて、非共振軸の回りの一次共振と共振軸の方向のポンピングを抑制するため、非共振軸の軸回りの回動角度を検出し、所望の回動角度の変化(例:のこぎり波)と検出値の変化との差分に相当する差分電圧を、所望の回動角度の変化に対応する所望電圧(例:のこぎり波電圧)に重畳した重畳電圧を駆動電圧としてアクチュエータに供給している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許6324817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的なMEMS型の光偏向器では、アクチュエータの駆動電圧の単位変化量に対する回転軸線の回りのミラー部の回動角度の単位変化量としての駆動電圧感度は、駆動電圧の変化幅の両端範囲では、中間範囲より低下する。一方、非共振軸の回りのミラー部の回動速度は、走査光による走査線密度を均一化するために、回動幅の全体にわたる均一性が望まれる。
【0007】
特許文献1の光走査装置におけるアクチュエータへの供給電圧では、直線で上昇する元電圧(のこぎり波形の電圧)に重畳される差分電圧は、元電圧の立ち上り区間の各サブ区間において異なる増減周期でかつ異なる増減幅で増減している(特許文献1/図6)。これは、非共振軸の回りのミラーの一次共振や共振軸方向のミラーのポンピングの抑制には有効であるものの、ミラーの回動速度の一定区間を駆動電圧感度の低下する、駆動電圧の変化幅の両端範囲に拡張することには寄与が少ない。また、駆動電圧が各サブ区間において異なる増減周期でかつ異なる増減幅で増減していることは、立ち上り区間の駆動電圧感度の均一の中間範囲区間におけるミラー部の回動角度の変化速度を不均一にさせる可能性もある。
【0008】
本発明の目的は、ミラー部がアクチュエータにより回転軸線の回りに往復回動して走査光を生成する場合の駆動電圧感度についての特性が回動幅の両端範囲において変化するときに、ミラー部が等回動速度で回動する回動角度範囲を有効に拡張することができる光走査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の光走査装置は、
ミラー部と、
供給電圧に応じて前記ミラー部を所定の回転軸線の回りに往復回動させるアクチュエータと、
周期波形の駆動電圧を生成して前記アクチュエータに供給する駆動電圧生成部と、を備え、
前記アクチュエータは、前記供給電圧の単位変化量に対する前記回転軸線の回りのミラー部の回動角度の単位変化量としての駆動電圧感度が、前記供給電圧の変化幅の両端範囲では、中間範囲より低下するアクチュエータであり、
前記駆動電圧生成部が生成する前記駆動電圧は、前記周期波形において、電圧値が立ち上がる立ち上り区間、前記電圧値が立ち下がる立ち下がり区間、及び前記立ち上り区間と前記立ち下がり区間との間に介在する折り返し区間とを含み、
前記立ち上り区間及び前記立ち下がり区間の少なくとも一方は、前記電圧値の変化速度の絶対値が所定値を維持する1つ以上の維持区間と、両側から前記折り返し区間と前記維持区間との間に挟まれて前記電圧値の変化速度の絶対値が前記所定値より大きい値に設定されている1つ以上の変更区間とを有している。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、立ち上り区間及び立ち下がり区間の少なくとも一方は、駆動電圧の電圧値の変化速度の絶対値が所定値を維持する1つ以上の維持区間と、両側から折り返し区間と前記維持区間との間に挟まれて電圧値の変化速度の絶対値が所定値より大きい値に設定されている1つ以上の変更区間とを有している。これにより、ミラー部の回動幅の両端範囲において中間範囲より駆動電圧感度が低下する場合にも、ミラー部の回動角度範囲の中間部における回動角度の変化速度の変動を抑制しつつ、等回動速度で回動する回動角度範囲を両端範囲の方へ拡張することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】光走査装置の全体図である。
図2】外側アクチュエータに対する光偏向器制御部の駆動電圧と横回転軸線の回りのミラー部の回動角度との関係を示す図である。
図3】横回転軸線の回りのミラー部の回動周期におけるミラー部の振れ角及び駆動電圧の変化速度の変化を示す図である。
図4図3の振れ角を生じさせる駆動電圧の生成方法のフローチャートである。
図5】立ち上がり区間における横回転軸線の回りのミラー部の振れ角の変化速度について従来の光走査装置と実施形態の光走査装置とで対比した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下においては、本発明の好適な実施形態について説明するが、これらを適宜改変し、組合せてもよい。また、以下の説明及び添付図面において、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符を付して説明する。
【0013】
(装置全体)
図1は、光走査装置10の全体図である。光走査装置10は、光偏向器12と、制御装置14と、レーザ光源16とを備えている。制御装置14は、光偏向器12の内側圧電アクチュエータ33及び外側アクチュエータ35を制御する光偏向器制御部20と、レーザ光源16を制御する光源駆動部22とを備えている。
【0014】
光偏向器12は、MEMSデバイスとして製造され、ミラー部31、トーションバー32、内側圧電アクチュエータ33、可動枠34、外側アクチュエータ35及び固定枠36を備えている。固定枠36は、横長の矩形枠であり、円形のミラー部31は、固定枠36の中心に配置されている。横回転軸線Ax及び縦回転軸線Ayは、ミラー部31の中心Oで直交している。ミラー部31は、縦回転軸線Ayの回りに回動自在にトーションバー32を介して可動枠34に支持されている。可動枠34は、中心Oを通りかつ固定枠36の横辺に平行な回転軸線の回りに回動自在に外側アクチュエータ35を介して固定枠36に支持されている。
【0015】
1対のトーションバー32の各々は、ミラー部31の両側においてミラー部31から縦回転軸線Ayに沿って突出している。1対の内側圧電アクチュエータ33は、両端において各トーションバー32の中間部に結合して、ミラー部31を外側から包囲する内側環状体を構成する。外側環状体の可動枠34は、1対の内側圧電アクチュエータ33が構成する内側環状体を外側から包囲している。
【0016】
各トーションバー32は、両端においてミラー部31と可動枠34の内周とに結合している。各内側圧電アクチュエータ33は、圧電アクチュエータであり、両端において各トーションバー32の中間部に結合しているとともに、外周側の中間部においてかつ横回転軸線Ax上で可動枠34の内周に結合している。これにより、1対の内側圧電アクチュエータ33は、1対のトーションバー32を介してミラー部31を縦回転軸線Ayの回りに往復回動させる。
【0017】
1対の外側アクチュエータ35は、光走査装置10の横方向に可動枠34の両側に相互に対称な関係で配置されている。各外側アクチュエータ35は、複数の圧電カンチレバーを有している。これら複数の圧電カンチレバーは、長手方向を光走査装置10の縦方向に揃え、相互に平行に延在するミアンダパターンで配列され、直列に結合している。各外側アクチュエータ35は、一端側において可動枠34に結合し、他端側において固定枠36に結合している。
【0018】
制御装置14の光偏向器制御部20は、光偏向器12の内側圧電アクチュエータ33及び外側アクチュエータ35にそれぞれ駆動電圧Vy,Vxを供給して、それぞれ縦回転軸線Ay及び横回転軸線Axの回りのミラー部31の回動角度Wy,Wx(図2)を制御する。
【0019】
駆動電圧Vyの周波数(例:20kHz)は、縦回転軸線Ayの回りのミラー部31の共振周波数に対応し、これにより、ミラー部31は、縦回転軸線Ayの回りに共振周波数で往復回動する。駆動電圧Vxの周波数(例:60Hz)は、ミラー部31の非共振周波数に対応し、これにより、ミラー部31は横回転軸線Axの回りに非共振周波数で往復回動する。
【0020】
制御装置14の光源駆動部22は、レーザ光源16への駆動電流Idを制御して、これにより、レーザ光源16から出射するレーザ光Laの点灯及び消灯、並びに点灯中のレーザ光Laの強度を制御する。
【0021】
光走査装置10の作動中、ミラー部31は、縦回転軸線Ay及び横回転軸線Axの2つの回転軸線の回りにそれぞれ共振周波数及び非共振周波数で往復回動している。ミラー部31は、レーザ光源16から入射したレーザ光Laを反射し、走査光Lbとして出射する。走査光Lbは、二次元の走査光として照射範囲をラスタースキャンする。縦回転軸線Ay及び横回転軸線Axの回りのミラー部31の往復回動は、走査光Lbによるラスタースキャンにおいてそれぞれ横方向及び縦方向の走査に対応する。
【0022】
各外側アクチュエータ35の複数の圧電カンチレバーについて光走査装置10の横方向に固定枠36との結合点から可動枠34との結合点の方への並び順に1,2,・・・の番号を付ける。その場合、奇数番の圧電カンチレバーへの駆動電圧Vxと偶数番の圧電カンチレバーへの駆動電圧Vxとは、複数の圧電カンチレバーが共働して可動枠34を横回転軸線Axの回りに同一側に回動させるために、駆動電圧Vxは奇数番と偶数番とで相互に逆位相となる。
【0023】
(光偏向器の特性)
図2は、外側アクチュエータ35に対する光偏向器制御部20の駆動電圧Vxと横回転軸線Axの回りのミラー部31の回動角度Wxとの関係を示している。図2において、端点Pa,Pbは、特性線の両端を示す。Vxa,Vxbは、それぞれ端点Pa,Pbの駆動電圧Vxの値である。Wxa,Wxbは、それぞれ端点Pa,Pbの回動角度Wxの値である。
【0024】
外側アクチュエータ35は、図2の特性線の範囲内で使用される。ここで、この特性線の傾きを駆動電圧感度SExと定義する。詳細には、駆動電圧感度SExは、駆動電圧Vxの単位変化量に対する回動角度Wxの変化量である。図2の特性線の特徴は、駆動電圧感度SExが横軸方向の両端部の範囲(横軸の目盛りで0.1-0.3と0.8-1.0との2つの範囲)においてその内側の中間範囲(横軸の目盛りで0.3-0.8の1つの範囲)より小さくなっていること、すなわち横軸方向の両端部の範囲の全体において等しくなっていないことである。
【0025】
特性線における線形範囲は、横軸方向に長いほど好ましい。なぜなら、駆動電圧Vxを等速で変化したときに、走査光Lbの縦方向走査における走査線間隔を均一にすることができるからである。これは、走査光Lbにより生成する映像の品質を高めることに寄与する。
【0026】
(駆動電圧の制御)
図3は、横回転軸線Axの回りのミラー部31の1つの回動周期Tにおけるミラー部31の振れ角Ux及び駆動電圧Vxの変化速度Exの変化を示している。振れ角Uxは、横回転軸線Axの回りのミラー部31の振れ幅の中心を0°としている。これに対し、図2の回動角度Wxは、横回転軸線Axの回りのミラー部31の振れ幅の一端を0°としている。したがって、振れ角Uxと回動角度Wxとは、基準の回動角度(0°)が相違するのみであり、すなわち呼び名が相違するのみである。
【0027】
回動周期Tは、下側折り返し区間Da、立ち上がり区間Db、上側折り返し区間Dc及び立下り区間Ddの4つの区間から成る。立ち上がり区間Dbは、さらに、時間順にサブ区間Db1,Db2,Db3,Db4,Db5の5つのサブ区間に分けられる。
【0028】
図3の振れ角Uxと図2の駆動電圧Vxとは増減関係が同一となっている。図3の各区間及びサブ区間について、図2の駆動電圧Vxと関連で説明する。下側折り返し区間Daは、駆動電圧Vxが減少方向から増加方向へ折り返す区間である。立ち上がり区間Dbは、駆動電圧Vxが最小値から最大値の方に進む途中区間である。上側折り返し区間Dcは、駆動電圧Vxが増加方向から減少方向に折り返す区間である。立下り区間Ddは、vxが最大値から最小値の方に進む途中区間である。
【0029】
下側折り返し区間Daは、図2において横軸の目盛りで0.1-0.2の範囲の駆動電圧Vxが使用される範囲である。サブ区間Db1は、図2において横軸の目盛りで0.2-0.3の範囲の駆動電圧Vxが使用される範囲である。サブ区間Db2,Db3,Db4は、図2において横軸の目盛りで0.3-0.8の範囲の駆動電圧Vxが使用される範囲である。サブ区間Db5は、図2において横軸の目盛りで0.8-0.9の範囲の駆動電圧Vxが使用される範囲である。上側折り返し区間Dcは、図2において横軸の目盛りで0.9-1.0の範囲の駆動電圧Vxが使用される範囲である。立下り区間Ddは、その両端部範囲では、図2において横軸の目盛りで0.2-0.3及び0.8-0.9の範囲の駆動電圧Vxが使用され、その中間範囲では、図2において横軸の目盛りで0.3-0.8の範囲の駆動電圧Vxが使用される。
【0030】
サブ区間Db2,Db4は、駆動電圧Vxの変化速度Ex(駆動電圧Vxの振幅の時間微分)が所定値Excを維持する区間である。サブ区間Db1,Db3,Db5は、変化速度Exが所定値Excを上回っている区間である。
【0031】
図3は、また、外側アクチュエータ35の特性が図2で示したように、両端範囲の駆動電圧感度SExが低下するにもかかわらず、駆動電圧Vxの変化速度Exが図3の下側の特性線に一致するように駆動電圧Vxを制御することにより、立ち上がり区間Dbにおける振れ角Uxの線形区間の区間幅が拡張したこと(図3の上側の特性線)を示している。すなわち、サブ区間Db1及びサブ区間Db5における変化速度ExをExcより大きくしたことにより、振れ角Uxの傾き(時間微分)が一定値を維持する時間幅が、従来はサブ区間Db2-サブ区間Db4の区間だけであったのに対し、光走査装置10では、サブ区間Db1-サブ区間Db5の区間に拡張されていることを示している。
【0032】
なお、図3では、振れ角Uxの傾きが一定値を維持する時間が、光走査装置10では、立ち上がり区間Dbの区間を越えて、下側折り返し区間Da及び上側折り返し区間Dcの区間にも突入している。しかしながら、この光走査装置10では、レーザ光源16は、下側折り返し区間Da、上側折り返し区間Dc及び立下り区間Ddでは消灯するので、これらの突入は縦方向における走査光Lbの走査線間隔の均一領域の拡張にはならない。
【0033】
(駆動電圧の生成)
図4は、図3の振れ角Uxを生じさせる駆動電圧Vxの生成方法のフローチャートである。図4の処理は、ユーザ段階における処理ではなく、光走査装置10をその製造工場から出荷する前に実施される。したがって、光走査装置10がユーザに渡る時には、光走査装置10の特性は、すでに図3で示すものに設定済みとなっている。
【0034】
ステップS101では、複数の正弦波を足し合わせる(重畳する)ことで波形を生成した近似のこぎり波を生成する。ここで、近似のこぎり波とは、周期と変動幅が同一である真正の(無変更の)のこぎり波に対して周期内の最大差分が所定値以下に保持されるという条件を具備する波形をいうものとし、本発明の元波形に相当する。
【0035】
近似のこぎり波を生成する複数の正弦波とは、真正ののこぎり波をフーリエ級数展開したときに含まれるm個の正弦波から選択し、それらを合成したものである。詳細には、近似のこぎり波は、真正ののこぎり波(=f(t))をフーリエ級数展開式(f(t)=a/2+Σn=1 ・sin(2πn/T+φ)からaとn=1からn=mまでの正弦波を選択し、それらの合成(=a/2+Σn=1 ・sin(2πn/T+φ))したものに基づいている。
【0036】
すなわち、mは2以上の整数、nは、1からmまでの各整数であり、φは偏差(所定値)であり、Tは、横回転軸線Axの回りのミラー部31の1回動周期T(図)である。各aは、フーリエ級数展開の公式から決まる。さらに、近似のこぎり波は、1回動周期Tにおける真正ののこぎり波の波形との最大差分が所定の閾値以下であるという条件が付けられる。
【0037】
ステップS102では、近似のこぎり波を時間微分して得られる近似のこぎり波の振幅の変化速度、すなわち元波形の振幅の変化速度を算出する。
【0038】
ステップS103では、ステップS102の元波形について理想波形との差分を算出する。ここで理想波形とは、駆動電圧Vxの電圧値の変化速度が中間範囲(Db2-Db4)より長い区間長さにわたり所定値Excに維持されるように設定した波形、すなわち駆動電圧Vxの電圧値について理想の変化速度を設定した波形であり、本発明の「基準波形」に相当する。
【0039】
ステップS104では、ステップS103で求めた差分に対して窓関数を掛ける。この窓関数を掛けた差分を「修正差分」という。窓関数の例としては、矩形窓、ガウス窓又はハミング窓である。
【0040】
ステップS105では、ステップS104で求めた修正差分とは逆位相の波形としての補正波形に対応する補正波形電圧を算出する。
【0041】
ステップS106では、補正波形電圧を近似のこぎり波に対応する電圧に重畳し、これを駆動電圧Vxとする。この駆動電圧Vxの立ち上がり区間Dbの部分を微分した波形が、図3で示す変化速度Exの波形である。
【0042】
図5は、立ち上がり区間Dbにおける横回転軸線Axの回りのミラー部31の振れ角Uxの変化速度Fxについて従来技術(特許文献1)の光走査装置と実施形態の光走査装置10とで対比した図である。上側のグラフが従来技術の変化速度Fxであり、下側のグラフが光走査装置10の変化速度Fxである。
【0043】
図5の下側のグラフの変化速度Fxは、図3の立ち上がり区間Dbにおける振れ角Uxの振幅の時間微分、すなわち振幅の変化速度に対応する。光走査装置10では、立ち上がり区間Dbにおける変化速度Fxは、変動が小さく、立ち上がり区間Db全体にわたり等しくなっていることが分かる。このことは、図2で駆動電圧感度が中間範囲に対して両端範囲で低下する特性であるにもかかわらず、変化速度Fxが両端範囲に相当する回動角度Wxにおいても中間範囲の回動角度Wxと等しくなって、縦方向の走査光Lbの走査線密度の均一化の幅が縦方向の両端側に拡張したことを意味する。
【0044】
図5の効果について補足すると、光走査装置10の立ち上がり区間Dbには、両側から2つのサブ区間Db2,Db4に挟まれて、サブ区間Db3(図3)が存在する。そして、サブ区間Db3の変化速度Exも、サブ区間Db1,Db5の変化速度Exと同様に、所定値Excより大きくなるように設定されている。サブ区間Db3の変化速度Exの増加自体は、直接的には立ち上がり区間Dbにおける振れ角Uxの線形区間の区間幅の拡張とは関係なく、ステップS102で差分を算出するときの元波形として真正ののこぎり波ではなく、各々が周期波形である複数の正弦波を合成した近似のこぎり波を採用して立ち上がり区間Dbの中間範囲の振れ角Uxの傾きの変動を抑制するために生成されたものである。
【0045】
しかしながら、立ち上がり区間Dbの中間範囲の振れ角Uxの傾きを一定に維持するために、駆動電圧Vxの変化速度を一定に維持する時間が長くなるほど、横回転軸線Axの回りのミラー部31の回動が不安定となり、異常振動が生じ易くなる。これに対し、サブ区間Db2,Db4の間に変化速度Exをサブ区間Db2,Db4より増加させたサブ区間Db3を設定することにより、立ち上がり区間Dbの中間範囲のミラー部31の回動の安定性が高まるので、サブ区間Db1,Db5における変化速度Exの増加効果を高めて、振れ角Uxの変化速度を一定に維持する時間を両端部範囲まで及ぼさせる拡張効果を一層高めることができる。
【0046】
(変形例)
実施形態としての光走査装置10では、外側アクチュエータ35の駆動電圧Vxをのこぎり波に準拠したものを採用している。本発明の光走査装置では、のこぎり波に代えて三角波に準拠した駆動電圧を採用することもできる。
【0047】
光走査装置10では、図3に示すように、変化速度Exは、サブ区間Db1,Db5において、所定値Excに対して正側(増加側)に変更(シフト)している。これは、光走査装置10では、立ち上がり区間Dbが外側アクチュエータ35における奇数番の圧電カンチレバーに正の駆動電圧Vxが供給される期間に相当し、これに整合させるために、偶数番の圧電カンチレバーにも所定値Excに対して正側に変更するためである。もし、立ち上がり区間Dbでなく、立下り区間Ddがラスタースキャンの縦方向の走査光Lbの走査区間(レーザ光源16の点灯期間)に設定されているときは、この立ち上がり区間Dbのサブ区間Db1,Db5に対応する立下り区間Ddのサブ区間Dd1,Dd5には、所定値Excに対して負側(減少側)に変更して、縦方向の走査光Lbの走査線密度の均一化の幅を縦方向の両端側に拡張することになる。
【符号の説明】
【0048】
10・・・光走査装置、12・・・光偏向器、14・・・制御装置、16・・・レーザ光源、20・・・光偏向器制御部、35・・・外側アクチュエータ。
図1
図2
図3
図4
図5