(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156281
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】倣い加工装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 35/121 20060101AFI20241029BHJP
B23Q 35/12 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
B23Q35/121
B23Q35/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070614
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】713004904
【氏名又は名称】有限会社雉子舎
(71)【出願人】
【識別番号】596066851
【氏名又は名称】株式会社共栄製作所
(71)【出願人】
【識別番号】391016842
【氏名又は名称】岐阜県
(74)【代理人】
【識別番号】100181250
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 信介
(72)【発明者】
【氏名】音羽 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】竹川 聡
(72)【発明者】
【氏名】森茂 智彦
(57)【要約】
【課題】簡易な構成で倣い加工を可能とする倣い加工装置(1)を提供する。
【解決手段】固定部10に製品見本3が装着されている場合に、製品見本3の表面に接触することによって製品見本3の表面形状をなぞって製品見本3の表面形状の固定部10に対する垂直方向の位置、及び、固定部10とトレース部20の相対的な水平方向の位置を計測し、切削データとして格納する。固定部10に加工対象物5が装着されている場合には、格納部60に格納された切削データに基づき、水平位置駆動部40を制御することにより固定部10とトレース部20の水平方向の相対位置を変化させるとともに、切削部70の切削位置が製品見本3の表面形状の固定部10に対する垂直方向の位置となるように切削部垂直位置駆動部80を制御する倣い加工装置1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品見本又は加工対象物のいずれかを装着し固定する固定部と、
前記固定部に前記製品見本が装着されている場合に、前記製品見本の表面に接触することによって前記製品見本の表面形状をトレースするトレース部と、
前記トレース部を垂直方向に移動させるトレース部垂直位置移動部と、
前記固定部と前記トレース部の水平方向の相対位置を変化させる水平位置駆動部と、
前記固定部に対する前記トレース部の垂直位置、及び、水平位置を計測する計測部と、
前記計測部で計測した前記トレース部の前記垂直位置、及び、前記水平位置を切削データとして格納する格納部と、
前記固定部に固定された前記加工対象物を切削する円盤状の切削部と、
前記切削部を垂直方向に移動させる切削部垂直位置駆動部と、
前記固定部に前記製品見本が装着されている場合、前記水平位置駆動部を制御することにより前記固定部と前記トレース部との水平方向の相対位置を制御しつつ前記計測部により前記製品見本に対する前記トレース部の前記垂直位置と前記水平位置を計測し、該計測した前記トレース部の前記垂直位置、及び、前記水平位置を切削データとして前記格納部に格納させ、
前記固定部に前記加工対象物が装着されている場合には、前記格納部に格納された前記切削データに基づき、前記水平位置駆動部を制御することにより前記固定部と前記切削部の水平方向の相対位置を変化させるとともに、前記切削部の切削位置が前記製品見本の表面形状の前記固定部に対する垂直方向の位置となるように前記切削部垂直位置駆動部を制御する制御部と、
を備えたことを特徴とする倣い加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載の倣い加工装置において、
前記制御部は、
前記水平位置駆動部により前記トレース部と前記固定部の水平位置を、起点位置から折り返し位置へ直線的に移動させた後、直角方向へ所定の距離だけ移動させ、その後、逆方向へ平行移動させることを繰り返すことによって前記製品見本の表面形状をトレースすることを特徴とする倣い加工装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の倣い加工装置おいて、
前記制御部は、
前記格納部に格納された前記トレース部の前記水平位置から、前記トレース部の水平移動方向を算出し、
前記格納部に格納された前記トレース部の前記起点位置から前記折り返し位置までの複数の平行な直線的な位置データの内から選択した任意の複数の直線的な位置データに従って前記切削部を移動させる際、算出した前記トレース部の水平移動方向が、前記切削部の移動方向と反対の方向であって、前記反対の方向となる前記トレース部の位置データが2つ以上連続している場合に、前記格納部に格納された前記トレース部の前記切削データを、前記計測部で計測した順番とは逆の順番から前記切削部を移動させることを特徴とする倣い加工装置。
【請求項4】
請求項1に記載の倣い加工装置において、
前記制御部は、
前記格納部に格納された前記トレース部の前記切削データのうち連続する一部の前記切削データと、該一部の前記切削データから前記製品見本の前記表面形状において線対称となる前記切削データとに基づき前記加工対象物の前記表面形状の全体を切削するように前記切削部を移動させることを特徴とする倣い加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原型モデルに倣って製品を複製加工する倣い加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ加工において、距離センサを用いて加工対象物とレーザ加工ヘッドのノズル先端の距離を測定し、測定値が設定ギャップ距離となるように加工プログラムの補正を行うようにして倣い加工を行う倣い加工装置があった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記従来の倣い加工装置では、加工対象物とレーザ加工ヘッドのノズル先端の距離を測定する距離センサが必要であり、また、加工対象物とレーザ加工ヘッドの距離に基づいて加工プログラムの補正を行うなど、ハードウエア的にもソフトウエア的にも複雑な構成であるという問題があった。
【0005】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたもので、簡易な構成で倣い加工を可能とする倣い加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することが可能である。なお、本欄における括弧内の参照符号や補足説明等は、本発明の理解を助けるために、後述する実施形態との対応関係を示したものであって、本発明を何ら限定するものではない。
【0007】
[適用例1]
適用例1に記載の倣い加工装置(1)は、
製品見本(3)又は加工対象物(5)のいずれかを装着し固定する固定部(10)と、
前記固定部(10)に前記製品見本(3)が装着されている場合に、前記製品見本(3)の表面に接触することによって前記製品見本(3)の表面形状をトレースするトレース部(20)と、
前記トレース部(20)を垂直方向に移動させるトレース部垂直位置移動部(30)と、
前記固定部(10)と前記トレース部(20)の水平方向の相対位置を変化させる水平位置駆動部(40)と、
前記固定部(10)に対する前記トレース部(20)の垂直位置、及び、水平位置を計測する計測部(50)と、
前記計測部(50)で計測した前記トレース部(20)の前記垂直位置、及び、前記水平位置を切削データとして格納する格納部(60)と、
前記固定部(10)に固定された前記加工対象物(5)を切削する円盤状の切削部(70)と、
前記切削部(70)を垂直方向に移動させる切削部垂直位置駆動部(80)と、
前記固定部(10)に前記製品見本(3)が装着されている場合、前記水平位置駆動部(40)を制御することにより前記固定部(10)と前記トレース部(20)との水平方向の相対位置を制御しつつ前記計測部(50)により前記製品見本(3)に対する前記トレース部(20)の前記垂直位置と前記水平位置を計測し、該計測した前記トレース部(20)の前記垂直位置、及び、前記水平位置を切削データとして前記格納部(60)に格納させ、
前記固定部(10)に前記加工対象物(5)が装着されている場合には、前記格納部(60)に格納された前記切削データに基づき、前記水平位置駆動部(40)を制御することにより前記固定部(10)と前記切削部(70)の水平方向の相対位置を変化させるとともに、前記切削部(70)の切削位置が前記製品見本(3)の表面形状の前記固定部(10)に対する垂直方向の位置となるように前記切削部垂直位置駆動部(80)を制御する制御部(90)と、
を備えたことを要旨とする。
【0008】
このような倣い加工装置(1)では、固定部(10)に固定されている製品見本(3)に対し、トレース部(20)により、製品見本(3)の表面形状をなぞることで製品見本(3)の表面形状全体をトレースする。
【0009】
また、このようにして製品見本(3)の表面形状をトレースする際に、固定部(10)に対するトレース部(20)の水平方向位置と垂直方向位置を計測部(50)で計測し、切削データとして格納部(60)に格納する。
一方、固定部(10)に加工対象物(5)が装着されている場合には、制御部(90)により、格納部(60)に格納された切削データに基づいて切削部(70)を移動させる。
【0010】
すると、切削部(70)は、加工対象物(5)の表面を、製品見本(3)の表面形状に沿って移動したトレース部(20)と同じ軌跡を移動し、切削するため、加工対象物(5)は製品見本(3)と同じ表面形状を有することとなる。
【0011】
これにより、複雑な制御装置や駆動手段を必要とせずに、自由なデザインの凹凸を有する表面形状を簡単に複製加工することができる。
さらに、トレース部(20)と切削部(70)の刃の大きさが等しく、トレース部(20)が製品見本(3)の表面形状と接する位置と、切削部(70)の刃の位置が等しいため、格納部(60)に格納された切削データに、何らかの補正処理をすることなく、切削データに従って切削部(70)を移動するだけで、加工対象物(5)は製品見本(3)と同じ表面形状を有することとなる。
【0012】
[適用例2]
適用例2に記載の倣い加工装置(1)は、
適用例1に記載の倣い加工装置(1)において、
前記制御部(90)は、
前記水平位置駆動部(40)により前記トレース部(20)と前記固定部(10)の水平位置を、起点位置から折り返し位置へ直線的に移動させた後、直角方向へ所定の距離だけ移動させ、その後、逆方向へ平行移動させることを繰り返すことによって前記製品見本(3)の表面形状をトレースすることを要旨とする。
【0013】
このように、トレース部(20)が製品見本(3)の表面形状をジグザグに並行移動することにより、同一方向にトレース部(20)が移動することで製品見本(3)の表面形状をトレースする場合よりも、製品見本(3)の表面形状をトレースする時間を短縮することができる。
【0014】
[適用例3]
適用例3に記載の倣い加工装置(1)は、
適用例1又は適用例2に記載の倣い加工装置(1)において、
前記制御部(90)は、
前記格納部(60)に格納された前記トレース部(20)の前記水平位置から、前記トレース部(20)の水平移動方向を算出し、
前記格納部(60)に格納された前記トレース部(20)の前記起点位置から前記折り返し位置までの複数の平行な直線的な位置データの内から選択した任意の複数の直線的な位置データに従って前記切削部(70)を移動させる際、算出した前記トレース部(20)の水平移動方向が、前記切削部(70)の水平移動方向と反対の方向であって、前記反対の方向となる前記トレース部(20)の位置データが2つ以上連続している場合に、前記格納部(60)に格納された前記トレース部(20)の前記切削データを、前記計測部(50)で計測した順番とは逆の順番から前記切削部(70)を移動させることを要旨とする。
【0015】
このように、加工対象物(5)を切削加工する際に、製品見本(3)をトレースした際のトレース部(20)の水平移動方向を算出することで、トレース部(20)の移動軌跡と異なる軌跡で切削部(70)を移動させて加工対象物(5)を切削加工することができるようになる。
【0016】
すなわち、切削部(70)の移動を制御することにより、トレース部(20)が、常に一方方向に製品見本(3)の表面形状をトレースしたか、または、水平方向においてX方向に一方方向にトレースした後、Y方向に移動して水平方向を逆方向に移動することを繰り返しトレースしたかに関わらず、加工対象物(5)の表面を切削する際に、切削部(70)を常に、水平方向においてX方向に一方方向にトレースした後、Y方向に移動して水平方向を逆方向に移動することを繰り返し移動させることができ、加工時間を短縮することができる。
【0017】
また、格納部(60)に格納された切削データを間引いて粗加工する際にも、格納された位置の間引き量に関わらず、切削部(70)を、常に水平方向においてX方向に一方方向にトレースした後、Y方向に移動して水平方向を逆方向に移動することを繰り返し移動させることができ、加工時間を短縮することができる。
【0018】
[適用例4]
適用例4に記載の倣い加工装置(1)は、
適用例1~適用例3のいずれか1項に記載の倣い加工装置(1)において、
前記制御部(90)は、
前記格納部(60)に格納された前記トレース部(20)の前記切削データのうち連続する一部の前記切削データと、該一部の前記切削データから前記製品見本(3)の前記表面形状において線対称となる前記切削データとに基づき前記加工対象物(5)の前記表面形状の全体を切削するように前記切削部(70)を移動させることを要旨とする。
【0019】
このように、製品見本(3)の表面形状の半分の領域に相当する切削データを線対称となるようにひっくり返し、そのひっくり返した切削データに基づいて、製品見本(3)の表面形状の残り半分の領域も切削することで、製品見本(3)の表面形状が線対称である場合には、製品見本(3)の表面形状全体をトレース部でトレースし、切削データを取得することなく、線対称となる表面形状の半分の領域をトレース部(20)でトレースするだけで足り、短時間で製品見本(3)の表面形状データを取得することができる。
その他に、線対称にすることにより、製品見本が手加工品などの場合に、左右の形状誤差を減らこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】倣い加工装置の概略の構成を示す外観図である。
【
図2】倣い加工装置の機能的な概略の構成を示すブロック図である。
【
図3】格納部に格納された切削データのイメージを示す図である。
【
図4】トレース部又は切削部の移動軌跡の例を示す図である。
【
図5】その他の実施形態におけるトレース部20又は切削部70の移動軌跡の例を示す図である。
【
図6】製品見本の表面形状の切削データを線対称となるように生成する場合の切削データの生成のイメージを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明が適用された実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明の実施の形態は、下記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を取りうる。
【0022】
(倣い加工装置の構成)
まず、
図1、
図2に基づいて本発明に係る倣い加工装置1の構成について説明する。
【0023】
図1は、倣い加工装置1の概略の構成を示す外観図であり、
図1(a)は正面図、
図1(b)は側面図、
図1(c)は上面図である。また、
図2は、倣い加工装置1の機能的な概略の構成を示すブロック図である。
【0024】
図1に示すように、倣い加工装置1は、ワーク固定部10、トレース部20、トレース部垂直位置移動部30、水平位置駆動部40、計測部50、格納部60、切削部70、切削部垂直位置駆動部80、制御部90、操作表示部100、ベース110を備えている。
【0025】
固定部10は、製品見本3又は加工対象物5が固定される部分であり、樹脂材料で形成されているが、ステンレスやアルミなどの金属材料で形成されても良い。また、固定部10の製品見本3又は加工対象物5の設置部分には、吸着用の穴が設けられており、製品見本3又は加工対象物5は、エアーによる吸着で固定部(10)に固定される。なお、それ以外でも、ボルト等によって、固定部10に固定しても良い。
【0026】
なお、製品見本3とは、いわゆる倣い加工するための原型となるものであり、例えば、椅子などの木製、樹脂製又は金属製のいわゆる「型」である。また、加工対象物5とは、製品見本3と同じ形状に加工される物であり、素材としては、主に木材であるが、木材の他に樹脂や金属材料などどのような材料であってもよい。
【0027】
トレース部20は、固定部10に製品見本3が装着されている場合に、製品見本3の表面に接触して、表面形状をトレースする部分である。
トレース部20は、ステンレスやアルミなどの金属材料や樹脂材料を後述する切削部70と同じ形状の円盤状に形成されたものであり、製品見本3の表面形状をトレースする。本実施例では、トレース部20は回転せずに製品見本3の表面形状をトレースするが、回転しながらトレースさせても良い。または、トレース部20と切削部70が同じ形状であれば、その他の形状でも良い。
【0028】
トレース部垂直位置移動部30は、固定部10に対してトレース部20を垂直方向に移動させることでトレース部20を製品見本3に押し付けつつ、製品見本3の表面形状に従ってトレース部20を垂直方向に移動させる部分である。
【0029】
トレース部垂直位置移動部30において、トレース部20を製品見本3に押し付けつつ、製品見本3の表面形状に従ってトレース部を垂直方向に移動させるために、エアーシリンダ又はコイルバネなどの付勢手段を用いている。また、このような付勢手段を用いずに、トレース部の自重によってトレースさせても良い。
【0030】
水平位置駆動部40は、固定部10とトレース部20の水平方向の相対位置を変化させる部分である。この水平位置駆動部40とトレース部垂直位置移動部30とにより、トレース部20を垂直方向に移動させつつ、固定部10に対するトレース部20の水平位置を変化させることにより、製品見本3の表面形状全体をトレースさせる。
【0031】
本実施形態においては、固定部10は移動させず、トレース部20を水平方向に移動させることで、固定部10とトレース部20の水平方向の相対位置を変化させている。
また、トレース部20を水平方向に移動させるために、X方向、Y方向それぞれに図示しない電動モータ(X軸駆動用モータ40aとY軸駆動用モータ40b)とX軸及びY軸用のボールねじとを有し、トレース部20及び切削部(70)を移動させる。
【0032】
計測部50は、固定部10に対するトレース部20の垂直位置、及び、固定部10とトレース部20の相対的な位置、移動方向を計測する部分である。
【0033】
格納部60は、計測部50で計測したトレース部20の垂直位置及び水平位置を切削データとして格納する、いわゆるメモリである。
【0034】
ここで格納部60は、具体的にはハードディスク、SDカードなどの外部記憶装置であり、本実施形態では、後述する制御部90の外部記憶装置として共有して使用している。したがって、外部記憶装置に記憶してもよいが、制御部90のRAMに記憶するようにしてもよい。
【0035】
切削部70は、加工対象物5を切削するための部分であり、本実施形態では、トレース部20と同じ直径と幅を有する円盤状鋸刃(いわゆる側フライス)であり、高速度鋼製のものを用いるが、加工対象物5の材質によって他の材質の刃を用いてもよい。
【0036】
切削部垂直位置駆動部80は、制御部90の指令に応じて、切削部70を固定部10に対して垂直方向に移動させるとともに、切削部70を回転させる部分である。
切削部垂直位置駆動部80は、切削部70を垂直方向に移動させるための図示しない電動モータ(垂直駆動用モータ80a)とボールねじ及び切削部70を回転させるための電動モータ(加工刃物回転用モータ80b)を備えている。
【0037】
制御部90は、固定部10に製品見本3が装着されている場合、水平位置駆動部40を制御することにより製品見本3の表面形状をトレースし、切削データを格納部60に記憶する。
【0038】
また、固定部10に加工対象物5が装着されている場合には、格納部60に格納された切削データに基づき、水平位置駆動部40及び切削部垂直位置駆動部80を制御することにより加工対象物5を切削する。
【0039】
制御部90は、図示しない電源、CPU、ROM、RAM、I/Oを備えている。また、外部記憶装置として格納部60を備えている。
また、制御部90は、計測部50、X軸駆動用モータ40a、Y軸駆動用モータ40b、垂直駆動用モータ80a、加工刃物回転用モータ80b、操作表示部100と接続されている。
【0040】
制御部90は、CPUにより、制御部90の電源投入時にROM又は外部記憶装置に格納された制御プログラムを読み込んで実行することにより各種制御を実行する。制御部90での制御内容については、詳細を後述する。
【0041】
操作表示部100は、倣い加工装置1の操作、トレース状況及び切削状況の表示を行う部分であり、ディスプレイと各種スイッチ、ランプを備えている。
操作表示部100を用いて、作業者は、製品見本3の表面形状をトレースする場合の、トレース軌跡を設定すると同時に、製品見本3の表面形状の切削データの取得間隔を設定する。
【0042】
また、トレース部20の代わりに、切削部70を用いて加工対象物5を加工する際に、操作表示部100を用いて、切削部70の移動軌跡が設定される。
【0043】
ベース110は、倣い加工装置1の基礎となる部分であり、上記の固定部10、トレース部20、トレース部垂直位置移動部30、水平位置駆動部40、計測部50、格納部60、切削部70、切削部垂直駆動部80、制御部90、操作表示部100を設置するためのステンレスなどの金属製の平板111及び設置場所との間で平板を支持する複数の金属製の脚部112を備えている。
【0044】
また、各脚部112には、移動するためのキャスタ113、ベースを固定するためのアジャスタ114を備えている。
【0045】
(制御部における制御内容)
次に、制御部90で実行する制御の内容について説明する。制御部90では、以下の(ア)~(カ)に示す制御を行う。
(ア)操作表示部100で入力された、固定部10に装着された製品見本3の基準位置、寸法を取得する。
【0046】
(イ)操作表示部100からのトレース開始を受け付けると、制御部90は、水平位置駆動部40のX軸駆動用モータ40a、Y軸駆動用モータ40bに駆動指令信号を出力する。
(ウ)計測部50からトレース部20の切削データ(垂直位置、水平位置)を所定の移動間隔又は時間間隔で取得し、順次格納部60に格納する。
図3に格納部60に格納する切削データのイメージを示す。なお、
図3において、「X」はX軸方向の水平位置、「Y」はY軸方向の水平位置、「Z」は垂直位置を示す。
【0047】
(エ)製品見本3の表面形状を、設定した水平方向移動パターン、データ取得間隔で取得したと判断した場合、水平位置駆動部40のX軸駆動用モータ40a、Y軸駆動用モータ40bに指令信号を出力し、トレース部20をデフォルト位置に戻す。デフォルト位置としては、基準位置(例えば、固定部10の左上隅)とする。
【0048】
(オ)製品見本3の代わりに加工対象物5が固定部10に装着され、トレース部20の代わりに切削部70が装着され、加工の開始指令を操作表示部100から受け付けると、切削部垂直位置駆動部80の切削部回転用モータ80bに指令信号を出力し切削部70を回転させつつ、格納部60から切削データを読み出し、切削部70の位置を切削データと同じ位置になるよう、かつ、設定された切削軌跡通りに切削部70を移動するよう切削部垂直位置駆動部80の垂直駆動用モータ80a及び水平位置駆動部40のX軸駆動用モータ40a及びY軸駆動用モータ40bに指令信号を出力する。
【0049】
(カ)すべての切削データに対して、切削部70を移動させたと判断した場合、切削部垂直位置駆動部80の切削部回転用モータ80bに指令信号を出力し、切削部70の回転を止め、水平位置駆動部40のX軸駆動用モータ40a及びY軸駆動用モータ40bに指令信号を出力し、切削部70を加工開始位置に移動する。加工開始位置としては、トレース部20のトレース開始位置と同じとする。
【0050】
(倣い加工装置1の操作と作動)
次に、倣い加工装置1の操作と作動について説明する。
【0051】
倣い加工装置1を用いた加工時の操作と作動は、以下の(a)~(g)に示す通りである。
(a)作業者が固定部10に製品見本3を装着する。
【0052】
(b)作業者が操作表示部100において、トレース軌跡、データ計測間隔を設定し、トレース開始ボタンを押す。
ここで、
図4に基づいて、トレース軌跡について説明する。
図4において、矢印は、トレース部20の移動方向を示し、破線は、表面形状の位置を計測することなくトレース部20の移動を行う区間であることを示している。
【0053】
図4は、トレース部20又は切削部70の移動軌跡の例を示す図であり、水平方向において、X方向に起点位置(
図4中「A」で示す)から折り返し位置(
図4中「B」で示す)へ直線的に移動させた後、Y方向へ所定の距離だけ移動させ、その後逆方向に平行移動させることを繰り返す移動軌跡(以降、ジグザグ軌跡と呼ぶ)を示している。
【0054】
(c)トレース部20が移動し、設定したトレース軌跡に従って製品見本3の表面を並行方向に移動しつつ、製品見本3の表面形状の垂直位置データ及び水平位置データを取得し格納部60に記憶される。
(d)トレースが完了し、トレース部20がデフォルト位置に戻ったことを確認後、作業者が製品見本3を固定部10から外し、加工対象物5を固定部10に装着する。
【0055】
(e)作業者が操作表示部100において、加工対象物5の装着が完了したことを入力する。
(f)作業者が操作表示部100において、加工開始ボタンを押す。
(g)切削部70が回転を始め、製品見本3の表面形状をトレースした際のトレース軌跡で、格納部60に格納されている切削データと同じ位置に移動し、加工対象物5を製品見本3の表面形状と同じ形状に切削し、製品見本3の複製を制作する。
【0056】
(倣い加工装置の特徴)
上記のような倣い加工装置1では、トレース部20として円盤状の板を製品見本3に接触させながら製品見本3の表面形状をトレースし、水平方向、垂直方向の位置データを計測部50で計測していく。このようにして、製品見本3の表面形状を位置データとして計測し、計測した位置データは切削データとして格納部60に格納する。
【0057】
その後、トレース部20として用いた円盤状の板と同じ径と幅の側フライスをその回転中心がトレース部20として用いた円盤状の板の回転中心と同じになるように取り付け、側フライスを回転させた状態で、トレースしたのと同じ軌跡で、格納された位置データと同じ位置になるように切削部70を移動させる。すると、加工対象物5の表面形状は、製品見本3の表面形状と同じ形状となる。
【0058】
つまり、製品見本3の表面形状をトレースした際に取得した位置データに、何ら演算加工しなくとも、取得した位置データそのものによって、倣い加工を行うことができ、従来の倣い加工装置に比べ簡単に加工することが可能となる。
【0059】
[その他の実施形態]
(1)上記実施形態では、トレース部20の移動軌跡がいわゆるジグザク軌道となるようにトレースしていたが(
図4参照)、
図5に示すように他の移動軌跡となるようにしてもよい。
図5は、トレース部20又は切削部70の移動軌跡のその他の例を示す図であり、水平方向において、X方向に起点位置(
図5中「A」で示す)から折り返し位置(
図5中「B」で示す)へ直線的に移動させた後、起点位置からY方向へ所定の距離だけ移動させ、その後同じ方向に平行移動させることを繰り返す移動軌跡(以降、平行軌跡と呼ぶ)を示している。
【0060】
このようにトレース部20のトレースを同じ向きで行うことにより、水平位置駆動部40において構造的にバックラッシュなどがあっても、精度よく切削データを取得することができる。
【0061】
(2)上記実施形態では、トレース部20として円盤状のものを用い、切削部70として、同一の径の円盤状鋸刃を用いたが、トレース部20、切削部70ともに、特に円盤状である必要はなく、トレース部20としては、スティック状、円柱状等どのような形状でも良く、また、切削部70も、加工対象物5の材質や、加工する表面形状に応じて、他の切削工具、例えばエンドミル、正面フライス等を用いても良い。
【0062】
ただし、トレース部20の形状、大きさと異なる大きさ、形状の切削部70を用いる場合には、トレース部20が製品見本3に接する部分の位置と、切削部70を取り付けたときの刃の部分の位置が同一となるようにしなければならない。
【0063】
もっとも、トレース部20が製品見本3に接する部分の位置と、切削部70を取り付けたときの刃の部分の位置が同一でなくとも、切削するときに、格納部60に格納された切削データにその差分を補正することにより、製品見本3の表面形状を複製加工することができる。
【0064】
(3)上記実施形態においては、切削時、切削軌跡をトレース時の軌跡と同じとしたが、切削時の切削部70の移動軌跡がトレース時のトレース部20の移動軌跡と同じである必要はなく、異なる軌跡となっても良い。
【0065】
この場合、加工対象物5を切削加工する際に、製品見本3をトレースした際のトレース部20の水平移動方向を算出する。なお、水平移動方向は、格納部60に格納されている切削データの水平位置データの差分から水平移動方向を算出する。
【0066】
切削加工時にトレース時と異なる移動軌跡としたい場合、作業者が加工開始ボタンを押す前に、切削軌跡を操作表示部100において入力する。
トレース時と異なる移動軌跡を選択した結果、格納部60に記憶された切削データを計測した順番通りに切削部70を移動させることができない場合には、制御部90において、切削部70の移動方向と反対の移動方向データを有する2以上の連続する位置データに関しては、その位置データを取得した順番を逆からたどって切削部70を移動させるように水平位置駆動部40、及び切削部垂直位置駆動部80に指示することで製品見本3の表面形状を複製加工することができる。
【0067】
(4)上記実施形態においては、トレースした製品見本3の表面形状の切削データのすべてのデータを用いて切削加工しているが、製品見本3の表面形状によっては、粗加工で十分である場合等、格納されているデータを間引いて加工することで、加工時間を短縮させることができる。
なお、この場合においても、上記と同じ理由で、切削部70の移動軌跡は、トレース時の移動軌跡と同じである必要はなく、異なる軌跡となっても良い。
【0068】
(5)さらに、製品見本3の表面形状が線対称である場合には、トレース時に、表面形状のすべての位置データを取得する必要はなく、表面形状の線対称となる半分の範囲の切削データを取得し格納することで、制御部90において、線対称データを生成し、製品見本3の表面形状全体を複製加工することができる。
図6にこの際の格納部60における切削データの生成のイメージを示す。なお、
図6において一点鎖線の部分で切削データを線対称として全体の切削データを生成している。
【0069】
これにより、表面形状が全体として線対称な模様等である場合には、製品見本3を製作する際に、表面形状全体をトレースする必要はなく、線対称の半分の領域の模様、形状のみをトレースするだけで、加工対象物5を加工することが可能となる。
【0070】
(6)また、製品見本3の表面形状が線対称ではない場合においても、取得した切削データの一部を用いて、その線対称形状を加工することもできる。
【0071】
(7)さらに、制御部90において、格納された切削データに対して、切削データを一定の比率で拡大、縮小させたり、データ間隔を一定の比率で拡大、縮小させることにより、製品見本3の表面形状を際立たせる形で複製したり、逆になだらかにしたり、また、製品見本3より大きな外形寸法や、小さな外形寸法で複製することができる。
【0072】
(8)上記実施形態では、オペレータが、操作表示部100において、製品見本3の基準点、寸法を入力しているが、可視カメラを水平位置駆動部40等に装着し、可視カメラで取得した製品見本3、又は加工対象物5の画像を基に、制御部90で画像処理を行って、製品見本3の表面形状のトレースの基準点、製品見本3又は加工対象物5の寸法を抽出することで、オペレータによる操作表示部100における入力を省略させることもできる。
【0073】
(9)また、上記実施形態では、固定部10を固定し、トレース部20を水平方向に移動させることで、固定部10とトレース部20の水平方向の相対位置を変化させているが、トレース部20の水平方向の動きを固定し、固定部10を水平方向に動かすことで、固定部10とトレース部20の水平方向の相対位置を変化させることもできる。
【0074】
さらに、固定部10を例えばX方向のみ移動可能とし、トレース部20をY方向のみ移動可能とする、若しくは、固定部10をY方向のみ移動可能とし、トレース部20をX方向のみ移動可能とすることで、固定部10とトレース部20の水平方向の相対位置を変化させることもできる。
【0075】
(10)上記実施形態では、製品見本3をトレースして、その表面形状の位置データを切削データとして用いているが、コンピュータ上で作成した製品見本3の3Dデータ等から、製品見本3の表面形状の垂直位置データ及び水平位置データを算出し、算出した値を切削データとして格納部60に格納したうえで、当該切削データに従って加工対象物5を切削加工することもできる。
【0076】
(11)上記実施形態において、同一の切削部70を用いて、複数の加工対象物5を切削加工した結果、切削部70の切削刃が摩耗した場合、製品見本3の表面形状の切削データに従って加工対象物5を切削加工したのでは、加工対象物5を製品見本3の表面形状と同一となるように加工できない。
【0077】
このような場合には、切削部70を新しいものと交換しても良いし、加工対象物5を切削加工する際に、格納部60に格納された垂直位置データに切削部70の摩耗分を一律に加算し、加算後の垂直位置データを用いることで、切削部70を新しいものに交換することなく、加工対象物5を切削加工することもできる。
【符号の説明】
【0078】
1…倣い加工装置、3…製品見本、5…加工対象物、10…固定部、20…トレース部、30…トレース部垂直位置移動部、40…水平位置駆動部、40a…X軸駆動用モータ、40b…Y軸駆動用モータ、50…計測部、60…格納部、70…切削部、80…切削部垂直位置駆動部、80a…垂直駆動用モータ、80b…切削部回転用モータ、90…制御部、100…操作表示部、110…ベース、111…平板、112…脚部、113…キャスタ、114…アジャスタ。