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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156283
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】発光素子及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/30 20100101AFI20241029BHJP
【FI】
H01L33/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070619
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】谷島 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】藤井 優作
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA43
5F241CA05
5F241CA23
5F241CA36
5F241CA65
5F241CA73
5F241CA74
5F241CA77
5F241CB11
(57)【要約】
【課題】接着剤やSiOを用いずに素子本体とサファイア基板とが貼り合わされている貼り合わせ部の接合を強化することのできる発光素子を提供する。
【解決手段】発光素子は、素子本体とサファイア基板90とを備えている。素子本体は、積層方向にAlGaAs系半導体層50、n型電流拡散層60、及びAsを成分として含まないInGa系半導体のキャップ層70とを有している。アモルファス層80は、素子本体とサファイア基板90との間に介在し、キャップ層70とサファイア基板90との構成元素を成分として含んでいる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性層が第1半導体層と第2半導体層との間に配置され前記第2半導体層の側から光を出射するAlGaAs系半導体層と、
前記第2半導体層の光出射側に形成されている、Asを成分として含まないInGa系半導体のキャップ層と、
前記キャップ層の光出射側に配置されているサファイア基板と、
前記キャップ層と前記サファイア基板との間に介在し前記キャップ層と前記サファイア基板との構成元素を成分としているアモルファス層と、
を備えている、発光素子。
【請求項2】
前記キャップ層及び前記サファイア基板の面方位はc面(001)である、請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記キャップ層はInGaPである、請求項1又は2に記載の発光素子。
【請求項4】
アルミニウムに対する酸素の比率は、TEM-EDSで分析したとき、前記アモルファス層の方が前記サファイア基板より大きい、請求項1記載の発光素子。
【請求項5】
前記アモルファス層は、Pを含む、請求項1又は4に記載の発光素子。
【請求項6】
TEM-EDS分析による前記アモルファス層の元素別のAtom-%は、前記キャップ層側から前記サファイア基板側の方へ進むに連れて、In及びGaは減少し、Alは増加している、請求項1又は4に記載の発光素子。
【請求項7】
前記キャップ層は、前記AlGaAs系半導体層のAsが前記アモルファス層に侵入するのを阻止する厚さを有している、請求項1に記載の発光素子。
【請求項8】
GaAs基板上に、エピタキシャル成長により少なくとも第1半導体層、活性層、及び第2半導体層を順番に成膜させてAlGaAs系半導体層を作成する工程と、
前記AlGaAs系半導体層の前記第2半導体層側の光出射側に、Asを成分として含まないInGa系半導体のキャップ層をエピタキシャル成長により形成する工程と、
前記キャップ層とサファイア基板との貼り合わせ前の前記キャップ層と前記サファイア基板との貼り合わせ面に対しプラズマ活性化処理を行う工程と、
前記キャップ層と前記サファイア基板との前記貼り合わせ面同士を貼り合わせて前記貼り合わせ面の間に前記キャップ層と前記サファイア基板との構成元素を成分とするアモルファス層を形成する工程と、
を含む、発光素子の製造方法。
【請求項9】
前記キャップ層と前記サファイア基板との貼り合わせは、前記キャップ層と前記サファイア基板との面方位をc面(001)に揃えて行う、請求項8に記載の発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サファイア基板を備える発光素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線発光素子は、発光部としてのAlGaAs系半導体層を含む素子本体と、光透過板としてのサファイア基板とが貼り合わされて、作成されている(例:特許文献1,2)。
【0003】
特許文献1の発光素子では、素子本体の貼り合わせ側にInGaP/AlInGaPをエピタキシャル成長により形成した後、素子本体とサファイア基板とを接着剤で貼り合わせている。
【0004】
特許文献2の発光素子では、素子本体の貼り合わせ側にInGaP/AlInGaPをエピタキシャル成長により形成した後、エピタキシャル成長層とサファイア基板との貼り合わせ面にそれぞれSiO膜を形成し、両SiO膜同士を、接着剤を介さずに接合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6729275号公報
【特許文献2】特開2017-126720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の発光素子における素子本体とサファイア基板との貼り合わせでは、接着剤層が介在しているので、アニール処理の際の温度(例:300℃以上)で、接着剤層の接着力が弱められてしまう。
【0007】
特許文献2の発光素子における素子本体とサファイア基板との貼り合わせでは、SiO膜を接合界面として接合しているが、波長940nmの光でのSiOの屈折率(約1.4)はサファイアの屈折率(約1.7)よりも小さい。その結果、素子本体側のエピタキシャル層とSiOとの界面の屈折率差はエピタキシャル層とサファイア基板との界面の屈折率差よりも大きくなってしまい、素子本体側の全反射成分が増加することにより、素子本体からの光取り出し効率の低下につながる。
【0008】
本発明の目的は、接着剤やSiOを用いずに素子本体とサファイア基板とを貼り合わせるとともに、貼り合わせ部の接合を強化することのできる発光素子及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、次の知見に基づく。(a)接着剤無しで素子本体とサファイア基板とを貼り合わせた後、300℃以上でアニール処理を行うと、素子本体の貼り合わせ側のAlGaAs層の接合界面の微細なボイドにAs(ヒ素)が析出して、ボイドを拡張してしまい、これが接合力の低下につながっている。(b)Asを成分として含まないInGa系半導体の層でAlGaAs層を被膜してから、貼り合わせると、該被膜とサファイア基板との間に形成されたアモルファス層は、アニール処理時にボイド内のAsの析出がなくなる。
【0010】
本発明の発光素子は、
活性層が第1半導体層と第2半導体層との間に配置され前記第2半導体層の側から光を出射するAlGaAs系半導体層と、
前記第2半導体層の光出射側に形成されている、Asを成分として含まないInGa系半導体のキャップ層と、
前記キャップ層の光出射側に配置されているサファイア基板と、
前記キャップ層と前記サファイア基板との間に介在し前記キャップ層と前記サファイア基板との構成元素を成分としているアモルファス層と、
を備えている。
【0011】
本発明の発光素子の製造方法は、
GaAs基板上に、エピタキシャル成長により少なくとも第1半導体層、活性層、及び第2半導体層を順番に成膜させてAlGaAs系半導体層を作成する工程と、
前記AlGaAs系半導体層の前記第2半導体層側の光出射側に、Asを成分として含まないInGa系半導体のキャップ層をエピタキシャル成長により形成する工程と、
前記キャップ層とサファイア基板との貼り合わせ前の前記キャップ層と前記サファイア基板との貼り合わせ面に対しプラズマ活性化処理を行う工程と、
前記キャップ層と前記サファイア基板との前記貼り合わせ面同士を貼り合わせて前記貼り合わせ面の間に前記キャップ層と前記サファイア基板との構成元素を成分とするアモルファス層を形成する工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、サファイア基板側の貼り合わせ面に対して素子本体側の貼り合わせ面にはAsを成分として含まないInGa系半導体のキャップ層が設けられ、貼り合わせに伴いキャップ層とサファイア基板との間には、キャップ層及びサファイア基板の構成元素を成分とする、Asを成分として含まないアモルファス層が形成される。これにより、貼り合わせ部におけるAsの析出が抑制されて、素子本体とサファイア基板との接合力の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】赤外線発光素子の製造途中で生成される最大積層時の積層構造の断面図である。
図2図1の積層構造の主要部の特徴を簡略的に示す断面図である。
図3】アモルファス層及びその両側の隣接部分の積層範囲についてのTEM-EDSによる成分分析と散乱電子像とを示す図である。
図4】積層方向にアモルファス層及びその両側の隣接部分の積層範囲についてのTEMによる透過電子像を示す図である。
図5A】キャップ層を形成することなくエピタキシャル成長層とサファイア基板とを貼り合わせた後のエピタキシャル成長層のエピタキシャル接合界面のアニール処理前及びアニール処理後の外観図である。
図5B】キャップ層をエピタキシャル成長層の表面に形成してから、キャップ層とサファイア基板とを貼り合わせた後のキャップ層のエピタキシャル接合界面のアニール処理前及びアニール処理後の外観図である。
図5C図5Aのアニール処理後のエピタキシャル成長層のエピタキシャル接合界面のボイドの撮影図である。
図6図1の積層構造が製造される前段階の素子本体とサファイア基板との貼り合わせの工程を示す図である。
図7図1の積層構造に対してエッチングを施してGaAs基板を除去した後の積層構造を示している。
図8図7の工程に続く赤外線発光素子の製造工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下においては、本発明の好適な実施形態について説明するが、これらを適宜改変し、組合せてもよい。また、以下の説明及び添付図面において、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符を付して説明する。
【0015】
[全体の積層構造]
図1は、赤外線発光素子110(図8)の製造途中で生成される最大積層時の積層構造100の断面図である。図2は、積層構造100の主要部の特徴を簡略的に示す断面図である。赤外線発光素子110の製造は、積層構造100の生成までは層を順次積層していき、その後、エッチングによる削除が順次、行われる。したがって、積層構造100は、赤外線発光素子110の製造過程に生成される最大積層時の積層構造であり、赤外線発光素子110の製造に関与する全部の層を有している。
【0016】
なお、明細書で使用している各元素記号が意味する元素名は次のとおりである。In:インジウム、Ga:ガリウム、As:ヒ素、P:リン、Al:アルミニウム、O:酸素、Au:金、Si:ケイ素、N:窒素。各化学式が意味する物質名は次のとおりである。Al:アルミナ、O:酸素、SiO:二酸化ケイ素。各略記の意味は次のとおりである。CSL:電流拡散層、MQW:(Multiple Quantum Well)。
【0017】
積層構造100における素子本体側の積層は、GaとAsを成分とする基板本体11の表面に、図1において上から下の方向(以下、「積層方向」という。)の順番にi型GaAsバッファ12からキャップ層70までの層のすべてがエピタキシャル成長により形成される。エピタキシャル成長は、例えばMOCVD法によって行われる。この積層が終了すると、次に、素子本体と、サファイア基板90とが面方位をサファイア基板90の面方位のc面(001)に揃えて相互に貼り合わされる。なお、厳密にc面(001)に揃える必要はない。貼り合わせに支障のない程度に、c面(001)に対して所定のオフ角範囲内に揃えることは、当業者の設計事項の範囲内であるとともに、ここで言う「c面(001)に揃える」の概念に含むものとする。
【0018】
アモルファス層80は、キャップ層70とサファイア基板90との貼り合わせに伴い、キャップ層70の構成元素(In、Ga及びP)及びサファイア基板90の構成元素(Al及びO)を成分として生成される。なお、貼り合わせは、図6で後述するように、素子本体とアモルファス層80とを積層方向の両側から加圧しつつ、加熱して行ったり、貼り合わせに先立ち、貼り合わせ面にプラズマ活性化処理を行っている。
【0019】
積層構造100は、図1において積層方向の順番にGaAs基板10、p型半導体20、活性層30、n型半導体層40、n型電流拡散層60、キャップ層70、アモルファス層80、及びサファイア基板90を備えている。GaAs基板10は、p型半導体20、活性層30、n型半導体層40、n型電流拡散層60及びキャップ層70をエピタキシャル成長で形成するため用いられるものであり、貼り合わせ後、除去される。したがって、GaAs基板10は、最終製品としての赤外線発光素子110の構成要素としては含まれない。
【0020】
GaAs基板10は、積層方向に順番に基板本体11、i型GaAsバッファ12及びInGaPエッチストップ13を有している。図2において、エピタキシャル成長層102は、図1のi型GaAsバッファ12からn型電流拡散層60までの積層の全体を意味している。キャップ層70は、エピタキシャル成長層102の表面にエピタキシャル成長で形成される。
【0021】
接合前の積層構造には、キャップ層70及びサファイア基板90の構成元素を成分として生成されるアモルファス層80は存在していなかった。
【0022】
AlGaAs系半導体層50は、積層方向に順番に第1半導体としてのp型半導体20と、活性層30と、第2半導体としてのn型半導体層40とから構成されている。p型半導体20は、積層方向に順番にp型AlGaAsコンタクト21、p型AlGaAs電流拡散層22及びp型AlGaAsクラッド層23を有している。活性層30は、積層方向の順番にi型AlGaAs層31、InGaAs/GaAsP_MQW層32及びi型AlGaAs層33を有している。n型半導体層40は、単一のn型のAlGaAsクラッド層から構成されている。n型電流拡散層60及びキャップ層70は、AlGaAsから成る。
【0023】
各層の厚さの一例は、次のとおりである。i型GaAsバッファ12:400nm、InGaPエッチストップ13:50nm、p型AlGaAsコンタクト21:30nm、p型AlGaAs電流拡散層22:600nm、p型AlGaAsクラッド層23:500nm、i型AlGaAs層31:500nm、InGaAs/GaAsP_MQW層32:130nm、i型AlGaAs層33:500nm、n型半導体層40:500nm、n型電流拡散層60:5000nm、キャップ層70:90nm、アモルファス層80:15nm。
【0024】
[キャップ層]
実施形態のInGaPのキャップ層70は、In0.5-Ga0.5-P1.0の組成のものを使用した。キャップ層70の膜厚が薄ければInx-Ga(1-x)Pは、0<x<1の範囲でもよいが、キャップ層70の膜厚はアモルファス層80の膜厚より十分厚くした方が、キャップ層70の上に成長させた半導体層のアモルファス化を防ぐことができるため、臨界膜厚の観点からIn組成xの範囲は0.35≦x≦0.65程度になるように調整した方がよい。
【0025】
[アモルファス層]
図3は、アモルファス層80及びその両側の隣接部分の積層範囲についてのTEM(透過電子顕微鏡)-EDSによる成分分析と散乱電子像(ZC)とを併せて示す図である。なお、TEM-EDSによる成分分析において、InGaPのキャップ層70におけるOとAlは、ノイズである。すなわち、キャップ層70には、OとAlとは成分として含まれていない。
【0026】
図3の散乱電子像(グレイスケール画像)では、重い原子ほど白っぽく、軽い原子ほど黒っぽくなっている。アモルファス層80の厚さは、15nmである。散乱電子像からは、アモルファス層80において、サファイア基板90側からキャップ層70側に進むに連れて、重い原子が増えていることが分かる。
【0027】
図3の成分分析から次のことが分かる。
(a)アモルファス層80は、キャップ層70の構成元素としてのIn、Ga及びPと、サファイア基板90の構成元素としてのAl及びOとを成分として含むこと。
【0028】
(b)Alに対するOの比率(Atom-%での比率)は、アモルファス層80の方がサファイア基板90より大きいこと。詳細には、アモルファス層80におけるAlのAtom-%は、サファイア基板90側からキャップ層70側に進むに連れて明確に減少していくのに対し、アモルファス層80におけるOのAtom-%は、サファイア基板90側からキャップ層70側に進むに連れて、同一か緩慢な減少を維持し、アモルファス層80の厚さの中心を超えてから急峻に減少している。
【0029】
(c)アモルファス層80は、Asは含まず、Pは含んでいること。
(d)アモルファス層80では、キャップ層70側からのInGaPとサファイア基板90側からのAlとが段階的(graded)に変化しながら混交していること。段階的に変化しながらの混交は、接合が現実に起きていることの証拠である。段階的な混交を詳細に説明すると、アモルファス層80において、キャップ層70の構成元素としてのIn、Ga及びPのAtom-%は、キャップ層70から遠ざかってサファイア基板90に接近するに連れて減少し、サファイア基板90の構成元素としてのAlは、サファイア基板90から遠ざかってキャップ層70に接近するに連れて減少している。
【0030】
図4は、積層方向にアモルファス層80及びその両側の隣接部分の積層範囲についてのTEM(Transmission Electron Microscope/透過電子顕微鏡)による透過電子像を示す図である。透過電子像では、密度が高くなるほど、黒っぽく、密度が低くなるほど、白っぽく表示される。図4のアモルファス層80の厚さは、図3のアモルファス層80の厚さと同じく15nmである。
【0031】
図4からは次のことが分かる。
(a)InGaPからなるキャップ層70は、積層方向に両側のAlGaAsからなるn型電流拡散層60及びAlからなるサファイア基板90より密度が高いこと。
(b)アモルファス層80は、密度がn型電流拡散層60、キャップ層70及びサファイア基板90のどれよりも低いこと。
【0032】
図5Aは、キャップ層70を形成することなくエピタキシャル成長層102(図2)とサファイア基板90とを貼り合わせた後のエピタキシャル成長層102のエピタキシャル接合界面(従来のエピタキシャル接合界面)のアニール処理前及びアニール処理後の外観図である。図5Bは、キャップ層70をエピタキシャル成長層102の表面に形成してから、キャップ層70とサファイア基板90とを貼り合わせた後のキャップ層70のエピタキシャル接合界面(本発明の実施形態のエピタキシャル接合界面)のアニール処理前及びアニール処理後の外観図である。アニール処理は、従来及び実施形態共に370℃で5分行っている。図5Cは、図5Aのアニール処理後のエピタキシャル成長層102のエピタキシャル接合界面のボイドの撮影図である。
【0033】
図5Aからは、キャップ層70を形成することなくエピタキシャル成長層102とサファイア基板90とを接着剤無しで貼り合わせてから、アニール処理を行うと、ボイドが拡大していることが分かる。そして、図5Cから、拡大したボイドの中にAsが析出していることが分かる。これらのことから、エピタキシャル成長層102とサファイア基板90との接合界面へのAsの析出を防止すれば、接合部のボイドによる接合力の低下が防止できるという知見が得られる。
【0034】
そして、この知見に基づき、キャップ層70をエピタキシャル成長層102の表面に形成して、キャップ層70とサファイア基板90とを貼り合わせてからアニール処理を実施したところ、図5Bから分かるように、キャップ層70の接合界面におけるAsの析出によるボイドの拡大がないことが分かった。こうして、接合力が強化された。
【0035】
[製造方法]
図6図8を参照して、赤外線発光素子110の製造方法について説明する。なお、素子本体とは、積層構造100の製造前(接合前)までは、積層方向に基板本体11からキャップ層70までの積層部分を指し、積層構造100からGaAs基板10を除去した後は、積層方向にp型AlGaAsコンタクト21からキャップ層70までの積層部分を指すものとする。
【0036】
図6は、図1の積層構造100が製造される1段階前の素子本体とサファイア基板90との貼り合わせの工程を示している。図6の工程では、素子本体側の貼り合わせ面としてのキャップ層70の光出射側の面と、サファイア基板90の光入射側の面とは、プラズマ活性化の処理を施される。これにより、両貼り合わせ面にはダングリングボンドが生成される。
【0037】
この後、両貼り合わせ面は、突き合わされる。そして、積層構造100の積層方向の両側から加圧しつつ、加熱され、貼り合わせが終了する。図1の積層構造100は、この貼り合わせ後の積層構造である。
【0038】
図7は、図1の積層構造100に対してエッチングを施してGaAs基板10を除去した後の積層構造を示している。GaAs基板10のエッチングには、例えば、アンモニア水及び過酸化水素水のうちの少なくとも1つを含む混合液によるウェットエッチングが採用される。
【0039】
図8は、図7の工程に続く赤外線発光素子110の製造工程図である。最初に、図7の積層構造のp型半導体20の上面に片側の半部に寄せて第1オーミック電極91が形成される(図8の上から1番目の工程)。第1オーミック電極91は、例えば蒸着法によるAuの成膜により形成される。この後、p型半導体20に対してアニール処理が実施される。
【0040】
次に、p型半導体20において第1オーミック電極91が形成されなかった方の半部をエッチングよりn型電流拡散層60の上面92まで削除し、上面92を露出させる(図8の上から2番目の工程)。
【0041】
次に、露出した上面92に第2オーミック電極93を形成する(図8の上から3番目の工程)。第2オーミック電極93も、第1オーミック電極91と同様に、例えば蒸着法によるAuの成膜により形成される。この後、n型電流拡散層60及びn型半導体層40に対してアニール処理が実施される。
【0042】
次に、第1オーミック電極91及び第2オーミック電極93の上面は露出させつつ、AlGaAs系半導体層50の露出部及び上面92を保護膜95により被覆して、赤外線発光素子110を完成する(図8の下から1番目の工程)。保護膜95は、主成分として例えばSiOやSiNを選択することができる。なお、保護膜95は、省略することができる。
【0043】
図8は、1つの赤外線発光素子110の製造工程として説明しているが、実際には、基板本体11を複数の赤外線発光素子110をまとめて製造する基板として使用され、複数の赤外線発光素子110を一括製造してから、その一括製造物をダイシングによりチップとしての赤外線発光素子110に分割している。
【0044】
赤外線発光素子110をパッケージ内に組み込んだモジュールとしての発光装置は、図8の赤外線発光素子110に対して、周知のダイマウント、ボンディング及びモールド・トリムの処理を順番に行って製造される。
【0045】
図8では、第2オーミック電極93は、n型のAlGaAsクラッド層から構成されているn型半導体層40に形成されている。しかしながら、第2オーミック電極93は、n型電流拡散層60に形成することも可能であるし、p型半導体20のp型AlGaAsコンタクト21と同様に、n型半導体層40にもn型AlGaAsコンタクトを設け、その表面に形成することも可能である。
【0046】
積層構造100では、素子本体とサファイア基板90との貼り合わせにSiOを接合界面として用いない。波長940nmの光でのSiOの屈折率(約1.4)はサファイア基板90の屈折率(約1.7)よりも小さい。したがって、SiOを用いると、、素子本体側のエピタキシャル層としてのn型電流拡散層60とSiOとの界面の屈折率差は、n型電流拡散層60とアモルファス層80との界面の屈折率差よりも大きくなってしまい、素子本体側の全反射成分が増加することにより、光透過板としてのサファイア基板90からの光取り出し効率の低下につながる。積層構造100では、SiOを接合界面として用いないことにより、このような光取り出し効率の低下を回避することができる。
【0047】
[補足及び変形例]
積層構造100では、キャップ層70の厚さは90nmとしているが、キャップ層70の厚さは、AlGaAs系半導体層50のAsがアモルファス層80に侵入するのを阻止する厚さが確保されれば、キャップ層70の厚さは90nmより薄くてもよい。
【0048】
本発明の第1半導体層及び第2半導体層は、それぞれ赤外線発光素子110のp型半導体20及びn型半導体層40に相当する。本発明では、第1半導体層及び第2半導体層をそれぞれn型及びp型とすることもできる。
【0049】
赤外線発光素子110では、キャップ層70としてInGaPが用いられている。キャップ層70の役割は、素子本体とサファイア基板90との貼り合わせの接合界面にアニール処理に伴いボイドを拡張させるAsを析出させないことである。したがって、本発明のキャップ層は、Asを成分して含まないInGa系の半導体の層であれば、P以外の成分を含むInGa系の半導体の層であってもよい。
【0050】
積層構造100で使用されている各物質の格子定数は次のとおりである。AlGaAs:5.6546、InGaP:5.6596、サファイア:4.7588。すなわち、n型電流拡散層60、キャップ層70、及びサファイア基板90の格子定数は、厳密には等しくないが、キャップ層70とサファイア基板90とは、問題なく接合して、間にアモルファス層80が形成されている。
【0051】
積層構造100で使用されている各物質について、波長が940nmの光に対する屈折率は次のとおりである。AlGaAs:3.45、InGaP:3.22、サファイア:1.76。
【符号の説明】
【0052】
10・・・GaAs基板、20・・・p型半導体、30・・・活性層、40・・・n型半導体層、50・・・AlGaAs系半導体層、60・・・n型電流拡散層、70・・・キャップ層、80・・・アモルファス層、90・・・サファイア基板、110・・・赤外線発光素子(発光素子)。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8