IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アクセル技研の特許一覧

<>
  • 特開-2室型低圧鋳造用溶湯保持炉 図1
  • 特開-2室型低圧鋳造用溶湯保持炉 図2
  • 特開-2室型低圧鋳造用溶湯保持炉 図3
  • 特開-2室型低圧鋳造用溶湯保持炉 図4
  • 特開-2室型低圧鋳造用溶湯保持炉 図5
  • 特開-2室型低圧鋳造用溶湯保持炉 図6
  • 特開-2室型低圧鋳造用溶湯保持炉 図7
  • 特開-2室型低圧鋳造用溶湯保持炉 図8
  • 特開-2室型低圧鋳造用溶湯保持炉 図9
  • 特開-2室型低圧鋳造用溶湯保持炉 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156292
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】2室型低圧鋳造用溶湯保持炉
(51)【国際特許分類】
   B22D 18/04 20060101AFI20241029BHJP
   B22D 18/06 20060101ALI20241029BHJP
   B22D 45/00 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
B22D18/04 U
B22D18/06 509W
B22D45/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070636
(22)【出願日】2023-04-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年12月28日、Al ある,第660号,A:1頁,株式会社軽金属通信ある社 令和5年2月20日、http://axellgiken.com/
(71)【出願人】
【識別番号】516016632
【氏名又は名称】株式会社アクセル技研
(74)【代理人】
【識別番号】100100170
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 厚司
(72)【発明者】
【氏名】村上 浩一
(72)【発明者】
【氏名】外園 義晃
(57)【要約】      (修正有)
【課題】加圧気体の使用量を低減でき、加圧部の大気解放時の加圧気体に起因する問題を抑制できる2室型低圧鋳造用溶湯保持炉を提供する。
【解決手段】溶湯保持室と溶湯加圧室が溶湯流路開口を介して連通接続され、溶湯加圧室が加圧部と出湯部を備え、溶湯保持室と溶湯加圧室の炉内壁2が溶湯貯留容器4と断熱層5とから構成され、加圧部の空間に加圧気体を導入して出湯部を介して溶湯を金型のキャビティに供給する。溶湯貯留容器4の加圧部は、上部溶湯貯容器4aと下部溶湯貯留容器4bに接合部6を介して区画され、接合部6の炉内側接合端が溶湯の下限溶湯面の下方に位置している。断熱層5の加圧部は、一方端部が接合部6内に位置し他方端部が加圧部の炉殻に接続固定される圧力隔壁部材7を介して、加圧領域の第1断熱層5aと非加圧領域の第2断熱層5bとに区画される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯保持室と溶湯加圧室が当該溶湯保持室の炉床に設けた開閉自在な溶湯流路開口を介して連通接続され、前記溶湯加圧室が底部で連通する加圧部と出湯部を備え、前記溶湯保持室と前記溶湯加圧室の炉内壁が不定形耐火材からなる溶湯貯留容器と当該溶湯貯留容器の裏面側に位置する断熱層とから構成され、前記加圧部の空間に加圧気体を導入して前記出湯部を介して所定温度に維持された溶湯を金型のキャビティに供給する2室型低圧鋳造用溶湯保持炉であって、
前記溶湯貯留容器の前記加圧部は、上部溶湯貯容器と下部溶湯貯留容器に接合部を介して区画され、前記接合部の炉内側接合端が溶湯の下限溶湯面の下方に位置し、
前記断熱層の前記加圧部は、一方端部が前記接合部内に位置し他方端部が前記加圧部の炉殻に接続固定される圧力隔壁部材を介して、加圧領域の第1断熱層と非加圧領域の第2断熱層とに区画されることを特徴とする2室型低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項2】
前記接合部の炉内側接合端が溶湯の下限溶湯面の下方近傍に位置することを特徴とする請求項1に記載の2室型低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項3】
前記圧力隔壁部材が鋼板であることを特徴とする請求項1又は2に記載の2室型低圧鋳造用溶湯保持炉。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低圧鋳造法によりアルミニウム合金等の鋳造品を製造するのに好適な溶湯保持室と溶湯加圧室からなる2室型低圧鋳造用溶湯保持炉に関し、詳しくは、溶湯加圧室が出湯部と加圧部から構成された2室型低圧鋳造用溶湯保持炉の加圧部の炉内壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
溶湯保持室と溶湯加圧室からなる2室型低圧鋳造用溶湯保持炉として、特許文献1には、溶湯保持室と溶湯加圧室が当該溶湯保持室の炉床に設けた開閉自在な溶湯流路を介して連通接続され、溶湯加圧室が底部で連通する加圧部と出湯部を備え、加圧部の空間に加圧気体を導入して出湯部を介して溶湯を金型のキャビティに供給する2室型低圧鋳造用溶湯保持炉が開示されている。
【0003】
2室型低圧鋳造用溶湯保持炉の鋳造操作では、溶湯流路を開成して溶湯保持室内の溶湯を溶湯加圧室内に導入し、溶湯加圧室内の溶湯面が所定高さに達したことを加圧部に設置した湯面センサが検知した時点で、溶湯流路を閉鎖した後、加圧部内に乾燥空気等の加圧気体を導入して、出湯部を介して所定温度に維持された溶湯を金型のキャビティに供給し、所定時間経過後、加圧部を大気開放することを繰り返し、溶湯保持室内の溶湯が所定量まで減少した時点で、溶湯保持室の溶湯供給口を開成して新たな溶湯を溶湯保持室に供給する。
【0004】
2室型低圧鋳造用溶湯保持炉の炉内壁は、溶湯に直接接触する不定形耐火材の一体焼成隊からなる溶湯貯留容器と、当該溶湯貯留容器の裏面側、即ち、炉殻(鉄皮)と溶湯貯留容器との間に位置する断熱ボード等の断熱層とで構成されている。例えば、特許文献2には、炭化珪素系不定形耐火材からなる溶湯貯留容器と、当該溶湯貯留容器の外面にセラミックファイバー層、耐アルミナ耐火板(セラミックファイバーブランケット)、高温用耐熱板(珪酸カルシウム保温板)、充填剤(多孔性粒状耐火材)、及び低温用断熱板(パーライトボード)を順次積層した断熱層とからなる溶湯貯留槽が開示されている。なお、溶湯貯留容器の不定形耐火材として、アルミナ系不定形耐火材も使用される。
【0005】
2室型低圧鋳造用溶湯保持炉の炉内壁は、まず断熱層を施工した後、当該断熱層に対向するように型枠を設置し、型枠と断熱層とで形成される空間に水等で混錬した不定形耐火材を流し込み、所定時間放置して脱枠し、所定の昇温曲線で乾燥焚きすることで、溶湯貯留容器を成形する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-138250号公報
【特許文献2】特公平5-83835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の2室型低圧鋳造用溶湯保持炉の場合、炉内壁が通気性を有し、かつ溶湯貯留容器が不定形耐火材の一体焼成体であることから、以下のような問題があった。
【0008】
第1に、加圧部に加圧気体を導入して出湯部を介して金型のキャビティ内に溶湯を供給する際、溶湯加圧室の炉内壁中における加圧気体の滞留領域が広範囲になり、それだけ加圧気体が多量に必要になるとともに、加圧時間が長いうえ、加圧部の大気開放の際の排気時間が長くなり、生産性が悪い。
第2に、加圧部の大気開放の際、炉内壁中に滞留していた加圧気体が加圧部の炉内壁の表面から溶湯中に流出して、発泡現象を生じ、多量の酸化物の生成や溶湯の早期劣化の原因となる一方、この酸化物が溶湯表面に堆積して加圧部の湯面センサによる定湯面(所定高さ)の検出が困難となる。
第3に、生成酸化物の除去作業が頻繁となる。
第4に、加圧部の炉内壁の表面に固着した酸化物等の除去作業時、溶湯貯留容器が損傷した場合、補修が不可能である。
【0009】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、溶湯加圧室の加圧部に導入する加圧気体の使用量を低減でき、加圧部の大気解放時の加圧気体に起因する問題を抑制できる2室型低圧鋳造用溶湯保持炉を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための第1の手段として、本発明は、
溶湯保持室と溶湯加圧室が当該溶湯保持室の炉床に設けた開閉自在な溶湯流路開口を介して連通接続され、前記溶湯加圧室が底部で連通する加圧部と出湯部を備え、前記溶湯保持室と前記溶湯加圧室の炉内壁が不定形耐火材からなる溶湯貯留容器と当該溶湯貯留容器の裏面側に位置する断熱層とから構成され、前記加圧部の空間に加圧気体を導入して前記出湯部を介して所定温度に維持された溶湯を金型のキャビティに供給する2室型低圧鋳造用溶湯保持炉であって、
前記溶湯貯留容器の前記加圧部は、上部溶湯貯容器と下部溶湯貯留容器に接合部を介して区画され、前記接合部の炉内側接合端が溶湯の下限溶湯面の下方に位置し、
前記断熱層の前記加圧部は、一方端部が前記接合部内に位置し他方端部が前記加圧部の炉殻に接続固定される圧力隔壁部材を介して、加圧領域の第1断熱層と非加圧領域の第2断熱層とに区画されることを特徴とする。
【0011】
前記接合部の炉内側接合端が溶湯の下限溶湯面の下方近傍に位置することが好ましい。
【0012】
前記圧力隔壁部材が鋼板であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、加圧部に加圧気体を導入する際には、加圧気体が上部溶湯貯留容器中及び第1断熱層中にのみ流入し、下部溶湯貯留容器中及び第2断熱層中に流入しないので、加圧気体の使用量及び昇圧時間が低減できる。加圧部を大気開放する際には、溶湯中への加圧気体の放出量が低減し、大気解放時間の短縮ができる。加圧気体の放出量が低減できることから、酸化物等の異物の生成を抑制して、溶湯の清浄度を長期に維持できるとともに、溶湯面での酸化物の堆積が抑制でき、定湯面が長期に安定して管理・抑制でき、さらに酸化物の除去作業間隔を長期化することができる。昇圧時間と大気解放時間の短縮及び酸化物の除去作業の長期化により、生産性の向上が図れる。酸化物等の固着物は、上部溶湯貯留容器の表面であり、損傷時の補修対応が可能となる。
【0014】
請求項2の発明によれば、加圧領域が減少し、加圧気体の使用量の低減が図れる。
【0015】
請求項3の発明によれば、圧力隔壁部材が鋼板であるため、圧力隔壁部材の耐久性及び製作性が向上するという効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る2室型低圧鋳造用溶湯保持炉の平面図。
図2図1のII-II線における断面図。
図3図1のIII-III線における断面図。
図4】圧力隔壁部材の周囲の拡大断面図。
図5】圧力隔壁部材の平面図及び断面図。
図6】上部溶湯貯留容器と下部溶湯貯留容器の接合部の変形例を示す図。
図7】低圧鋳造用溶湯保持炉の製造工程を示す図。
図8図7に続く低圧鋳造用溶湯保持炉の製造工程を示す図。
図9図8に続く低圧鋳造用溶湯保持炉の製造工程を示す図。
図10図9に続く低圧鋳造用溶湯保持炉の製造工程を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を添付図面に従って説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る2室型低圧鋳造用溶湯保持炉(以下、単に「溶湯保持炉」という。)1を示す。溶湯保持炉1は、溶湯保持室10と溶湯加圧室20とを備え、両室は溶湯流路30を介して連通接続されている。溶湯加圧室20は、底部で連通する加圧部20aと出湯部20bを備えている。溶湯加圧室20の加圧部20aと出湯部20bは、図1においてX方向に配置され、溶湯保持室10と溶湯加圧室20の加圧部20aは、図1においてY方向に配置されることにより、溶湯保持炉1は、平面より視て、L字形に配置されている。
【0019】
図2に示すように、溶湯保持炉1の炉内壁2は、炉殻3の内側に、溶湯を貯留する溶湯貯留容器4と、当該溶湯貯留容器4の裏面側、即ち炉殻3と溶湯貯留容器4の間に位置する断熱層5とからなっている。
【0020】
溶湯貯留容器4は、不定形耐火材から構成されている。不定形耐火材としては、例えばカルデリス株式会社製の商品名:ALKON CAST(アルコン キャスト)等のアルミナ質が好適である。
【0021】
断熱層5は、多層断熱構成で、耐火断熱性不定形耐火物、及びシリカ質やケイ酸カルシウム質等の断熱ボードが好適である。
【0022】
図3に示すように、溶湯加圧室20の加圧部20aにおける溶湯貯留容器4は、上部溶湯貯留容器4aと下部溶湯貯留容器4bとに上下に区画されている。上部溶湯貯貯留容器4aの下端面と下部溶湯貯留容器4bの上端面は、階段状の接合部6を形成している。接合部6の炉内側接合端は、加圧気体の使用量の低減化及びこの低減に伴う酸化物等の抑止の観点から、溶湯の下限溶湯面(LL)より下方で、可能な限り下限溶湯面(LL)の下方近傍とすることが好ましい。
【0023】
上部溶湯貯留容器4aは、上端と下端が開口した矩形筒形であり、図4に示すように、下端面の内周側には環状の下向凸部6aが形成され、上端面は、溶湯の定溶湯面(NL)より上方に位置している。上部溶湯貯留容器4aの外周側には、後述する保持部材8の保持板8aが載置される棚部6cが形成されている。
【0024】
下部溶湯貯留容器4bは、加圧部20aの下部、出湯部20b、及び加圧部20aと出湯部20bを連通する連通部20cを形成し、加圧部20aの上端及び出湯部20bの上端が開口している。図4に示すように、加圧部20aの上端面の外周側には、上部溶湯貯留容器4aの環状の下向凸部6aに係合して階段状の接合部6を形成するように、上向凸部6bが形成されている。
【0025】
溶湯加圧室20の加圧部20aにおける断熱層5は、上部溶湯貯留容器4a側に位置する加圧領域である第1断熱層5aと、上部溶湯貯留容器4a側の一部及び下部溶湯貯留容器4b側に位置する非加圧領域である第2断熱層5bとに圧力隔壁部材7を介して上下・左右に区画されている。
【0026】
圧力隔壁部材7は、鋼板、例えばステンレス鋼板(厚さ:2~4mm)で形成され、図5に示すように、L字形の縦断面形状を有し、底に開口部7eを有する矩形箱形で、4つの側面からなる側面部7aと、当該側面部7aの下端に溶接接合された矩形枠状の底面部7bと、当該底面部7bの内縁に溶接接合された矩形枠状の挿入部7cと、側面部7aの上端に溶接接合された矩形枠状の第1天井板7dとからなる。挿入部7cの板厚は、接合部6の隙間を介して溶湯が第1断熱層5a内へ過剰に流入するのを抑止する観点から、底面部7bより薄くすることが好ましい。圧力隔壁部材7の側面部7aは、円形箱形状であってもよい。第1天井板7dは、図4に示すように、第2天井板7fによって炉殻3の外天板3bに溶接により接続固定され、第1天井板7dと第2天井板7fとで圧力隔壁部材7の天井を形成する。底面部7bの挿入部7cは、上部溶湯貯留容器4aの下端と下部溶湯貯留容器4bの上端との接合部6の外周側に挿入されて挟持されている。
【0027】
保持部材8は、図4及び図5に示すように、上部溶湯貯留容器4aの棚部6cに圧接する矩形状で中央に開口を有する保持板8aと、圧力隔壁部材7の側面部7aに上端面が上部溶湯貯留容器4aの棚部6cと同一高さになるように溶接固定された複数(8本)の支持板8bと、圧力隔壁部材7の底面部7bの周方向に等間隔で垂直に溶接固定された複数(8本)のボルト8cと、保持板8aとボルト8cを固定するナット8dとからなる。保持板8aの開口に貫通するボルト8cにナット8dを取り付けて締め付けることで、上部溶湯貯留容器4aの浮き上がりと接合部6の位置ずれを防止している。
【0028】
図2に示すように、溶湯保持室10は、上部に天井断熱蓋11と、該天井断熱蓋11に形成された溶湯供給口11aを開閉可能にする断熱蓋12とを備えるとともに、内部に浸漬チューブヒータ13が配置され、内部に貯えた溶湯を所定温度範囲に保持する。また、溶湯保持室10の内部に貯えた溶湯は、溶湯の供給完了時である上限位置と溶湯の供給開始時である下限位置の間に保持されている。
【0029】
図3に示すように、溶湯加圧室20は、加圧部20aの上部に開口部21aを有する天蓋21を備え、開口部21aに開閉蓋22を有している。天蓋21には、加圧部20aに加圧気体を導入する加圧ポート21bと定湯面センサ29が設けられている。定湯面センサ29は、下端が加圧部20aの溶湯の定溶湯面(NL)に位置し、加圧部20aの溶湯の定溶湯面NLを検出するようになっている。連通部20cは、内部に浸漬チューブヒータ24が配置され、内部に貯えた溶湯を所定温度範囲に保持する。出湯部20bには、炉殻3の天板3aの上に、ダイベース25が固定され、該ダイベース25の上に金型26が固定されている。
【0030】
図2に戻ると、溶湯流路30は、溶湯保持室10の底と溶湯加圧室20の加圧部20aの側面とを連通するように形成されている。溶湯流路30の溶湯保持室10側の溶湯流路開口31に弁座32が形成され、該弁座32の上方には、溶湯保持室10の天井断熱蓋11を昇降可能に貫いて、溶湯流路30を開閉する遮断弁33が設けられている。すなわち、遮断弁33は、下降時に弁座32を押圧して溶湯流路30を閉じ、上昇時に弁座32から離れて溶湯流路30を開く。
【0031】
図4では、炉殻3と圧力隔壁部材7との接続構造として、圧力隔壁部材7の第1天井板7dを第2天井板7fを介して加圧部20aの外天板3bに溶接接続しているが、これに限るものではない。例えば、圧力隔壁部材7の第1天井板7dを、第2天井板7fを介して、外天板3bの下方の炉殻3に溶接固定するようにしてもよいし。また、第2天井板7fを外天板3bと内天板3cの間に介在させて、内天板3cと外天板3bをボルトで固定してもよい。
【0032】
図6は、上部溶湯貯貯留容器4aの下端面と下部溶湯貯留容器4bの上端面との接合部6の変形例を示す。図6中、圧力隔壁部材7の挿入部7c以外は、簡略のためハッチングは省略されている。図6(a)では、上部溶湯貯留容器4aの下端面の外周側に下向凸部6aが形成される一方、下部溶湯貯留容器4bの上端面の内周側に下向凸部6aと係合して階段状となるように上向凸部6bが形成されて、上部溶湯貯留容器4aの下向凸部6aと下部溶湯貯留容器4bの上端面の間に圧力隔壁部材7の挿入部7cが挿入されて挟持されている。図6(b)では、上部溶湯貯留容器4aの下端面に環状の凹部6dが形成され、下部溶湯貯留容器4bの上端面に凹部6dに係合する環状の凸部6eが形成されて、上部溶湯貯留容器4aの外周側下端面と、下部溶湯貯留容器4bの外周側上端面との間に圧力隔壁部材7の挿入部7cが挿入されて挟持されている。図6(c)では、上部溶湯貯留容器4aの下端面に環状の凸部6eが形成され、下部溶湯貯留容器4bの上端面に環状の凸部6e係合する環状の凹部6dが形成されて、上部溶湯貯留容器4aの外周側下端面と下部溶湯貯留容器4bの外周側上端面との間に圧力隔壁部材7の挿入部7cが挿入されて挟持されている。
【0033】
第1実施形態の溶湯加圧室20aの炉内壁6は、以下の手順で施工する。
【0034】
まず、図7に示すように、炉殻3の内側に、断熱ボード等で第2断熱層5bを形成する。続いて、第2断熱層5bの内側に下部溶湯貯留容器4b用の型枠(加圧部20aの上部溶湯貯留容器4aに該当する部分を除く。)を配置し、第2断熱層5bと型枠とで形成される空間内に混錬した不定形耐火材を流し込み、養生後に型枠を取り外して、下部溶湯容器4bを形成する。この状態で、下部溶湯貯留容器4bを所定の昇温曲線で乾燥焚きし、常温に降温する。
【0035】
図8に示すように、下部溶湯貯留容器4bの上端面にモルタルSを塗布した後、予め型枠を用いて成型し、乾燥・焼成した上部溶湯貯留容器4aを組み込んだ圧力隔壁部材7を載置し、上部溶湯貯留容器4aを下部溶貯留容器4bに嵌合する。なお、上部溶湯貯留容器4aの圧力隔壁部材7への組み込みは、保持部材8の保持板8aの一方側を上部溶湯貯留容器4aの棚部6c表面で、他方側を支持板8b上端面で支持した状態で保持板8aから突出するボルト8cにナット8dを締め付けて行う。
【0036】
図9に示すように、圧力隔壁部材7の炉外側と断熱層5bの炉内側の空間(A)及び圧力隔壁部材7の炉内側と上部溶湯溶湯貯留容器4aの炉外側とで形成される空間の上部を除く空間(Ba)に、断熱層5bの炉内側を形成する不定形耐火材を流し込む。不定形耐火材の養生後、第2天井板7fの炉内側を第1天井板7dに第2天井板7fの炉外側を外天板3bに溶接固定する。
【0037】
次に、図10に示すように、空間(Ba)部に流し込んだ不定形耐火材の表面と内天板3cの炉内側表面と内天板3cの炉内側端面からの仮想垂面で形成される空間(Bb)に断熱ボード等の断熱材を配置した後、内天板3cを外天板3bに溶接固定する。
【0038】
なお、空間(Ba)及び空間(Bb)を不定形耐火材で構成してもよい。この場合、前記空間(A)に不定形耐火材を流し込み、不定形耐火材の養生後、第2天井板7fの炉内側を第1天井板7dに第2天井板7fの炉外側を外天板3bに溶接固定した後、上部溶湯貯留容器4aの上端面に型枠を配置し、型枠と圧力隔壁部材7の炉内側と上部溶湯溶湯貯留容器4aの炉外側とで形成される空間に不定形耐火材を流し込む。
【0039】
次に、第1実施形態の溶湯保持炉1の作用を説明する。
【0040】
図3において、溶湯加圧室20の加圧部20a内(溶湯貯留容器4内)の溶湯を金型26に供給するために、加圧ポート21bから溶湯加圧室20の加圧部20a内(溶湯貯留容器4内)に加圧気体を導入すると、図4に示すように、加圧気体の一部は、炉内壁2中に流入する。すなわち、天蓋21と上部溶湯貯留容器4aの接触部の隙間、湯面より上方の上部溶湯貯留容器4aの内表面の非浸漬部位から、加圧気体が上部溶湯貯留容器4a中及び第1断熱層5a中に流入する。一方、下部溶湯貯留容器4bの内表面は、溶湯に浸漬しているので、下部溶湯貯留容器4b中には、加圧気体は流入しない。また、上部溶湯貯留容器4aの下端面と下部溶湯貯留容器4bの上端面は、下向凸部6aと上向凸部6bが圧力隔壁部材7の挿入板7を介在して係合しているうえ、接合部6に流入する溶湯が加圧気体に対するシール効果を有するので、上部溶湯貯留容器4aから下部溶湯貯留容器4bへの加圧気体の流入は抑制される。さらに、第2断熱層5bは、圧力隔壁部材7により第1断熱層5aと隔絶されているので、加圧気体は流入しない。
【0041】
炉内壁2中に含まれる気体の圧力変化は、溶湯圧力変化に比べて、炉内壁2の通気抵抗による遅れを生じ、応答圧力と炉内壁2中の気体圧力との間に圧力差が生じる。この結果、加圧部20a内を大気開放して減圧したとき、炉内壁2中の気体圧力が溶湯圧力より高圧となり、第1断熱層5a及び上部溶湯貯留容器4a中に存在する加圧気体が上部溶湯貯留容器4aの表面から放出されて気泡が発生する。
【0042】
上部溶湯貯留容器4aと下部溶湯貯留容器4bとの接合部6は、溶湯浸漬部位にあって、下部溶湯貯留容器4b中には加圧気体が存在しないので、下部溶湯貯留容器4bの内表面からの発泡現象は防止される。
【0043】
このように、溶湯加圧室20の加圧部20a内(溶湯貯留容器4内)に加圧気体を導入する際には、加圧気体が上部溶湯貯留容器4a中及び第1断熱層中5aにのみ流入し、下部溶湯貯留容器4b中及び第2断熱層5b中に流入しないので、加圧気体の使用量が大幅に低減できる一方、溶湯加圧室20の加圧部20a内を大気開放する際には、加圧気体の放出量が低減するに伴い、酸化物等の異物の生成を抑止して、溶湯の清浄度を長期に維持できるとともに、溶湯面上への酸化物の堆積に起因する定湯面の検知不良を防止でき、さらに発泡現象に起因する鋳造品への異物の混入及び鋳物巣の発生等の鋳造不良等を防止できる。
【符号の説明】
【0044】
1…2室型低圧鋳造用溶湯保持炉
2…炉内壁
3…炉殻
3a…天板
3b…外天板
3c…内天板
4…溶湯貯留容器
4a…上部溶湯貯留容器
4b…下部溶湯貯留容器
5…断熱層
5a…第1断熱層
5b…第2断熱層
6…接合部
6a…下向凸部
6b…上向凸部
6c…棚部
7…圧力隔壁部材
7a…側面部
7b…底面部
7c…挿入部
7d…第1天井板
7e…開口部
7f…第2天井板
8…保持部材
8a…保持板
8b…支持板
8c…ボルト
8d…ナット
10…溶湯保持室
20…溶湯加圧室
20a…加圧部
20b…出湯部
26…金型
26a…キャビティ
30…溶湯流路

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10