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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156295
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】導電性組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/52 20140101AFI20241029BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
C09D11/52
H01B1/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070640
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003823
【氏名又は名称】弁理士法人柳野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田上 安宣
(72)【発明者】
【氏名】久保田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】青野 竜也
【テーマコード(参考)】
4J039
5G301
【Fターム(参考)】
4J039AD03
4J039AD09
4J039AD12
4J039BA06
4J039BA39
4J039BC07
4J039BC13
4J039BC19
4J039BC33
4J039BC44
4J039BE01
4J039CA07
4J039EA24
4J039EA43
4J039FA02
4J039GA10
5G301DA03
5G301DA05
5G301DA06
5G301DA10
5G301DA42
5G301DD01
5G301DD02
5G301DE01
(57)【要約】
【課題】硬化膜が柔軟性を有するとともに、高メッシュスクリーン版で印刷した際にも、電子デバイスで適応可能な導電性を発現するとともに、印刷後から硬化迄の時間が長い場合にも導電性の変化が小さく印刷後の経時安定性に優れる、アクリル樹脂をバインダーとして用いた導電性組成物を提供すること。
【解決手段】(A)所定のモノマー(a1)に由来する構成単位が20~100モル%、前記モノマー(a1)と共重合可能なモノマー(a2)に由来する構成単位が0~80モル%で構成され、重量平均分子量が1,000~1,000,000である重合体 5~30質量%、(B)所定の多価フェノール誘導体 0.1~20質量%、(C)導電性粒子 50~94質量%、(D)ポリイソシアネート 0.5~20質量%、を含有する導電性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(1)で表されるモノマー(a1)に由来する構成単位が20~100モル%、前記モノマー(a1)と共重合可能なモノマー(a2)に由来する構成単位が0~80モル%で構成され、重量平均分子量が1,000~1,000,000である重合体 5~30質量%、
(B)下記式(2)で表される多価フェノール誘導体 0.1~20質量%、
(C)導電性粒子 50~94質量%、
(D)ポリイソシアネート 0.5~20質量%、
を含有する導電性組成物。
【化1】
(式(1)中、Rは水素原子またはメチル基、Rは単結合、アミド基またはエステル基である。)
【化2】
(式(2)中、R~Rは、それぞれ独立して水素原子、水酸基または炭素数1~6の炭化水素基であり、少なくとも一つは水酸基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品実装の分野などにおいて、プリント基板で代表される銅箔をエッチングによりパターニングして形成した導電性回路の代替として、銀ペーストや銅ペーストなどの導電性金属粒子を主成分とする導電性組成物をスクリーン印刷などで印刷後に熱硬化させることで形成した導電性回路を使用する技術への注目があつまっている。
【0003】
この導電性組成物は、一般に、導電性粒子及びバインダーを含み、このバインダーとしては、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂などのバインダー樹脂が使用されている。なかでも、アクリル樹脂は、組み合わせるモノマーによって耐衝撃性、熱可塑性、光反応性など様々な特性を付与したバインダー樹脂の樹脂設計がしやすいといった利点がある。
【0004】
近年、メタバースなどの進展に伴いウェアラブルデバイスに使用される基材もポリウレタンに代表されるよう柔軟性の高いものが増えてきている。一方、一般に、アクリル樹脂をバインダーとして含む導電性組成物の硬化膜は、ポリエステル樹脂やウレタン樹脂をバインダーとして含むものに比べ柔軟性に劣り、折り曲げると容易に破断する傾向にあるとされている。
【0005】
特許文献1には、所定のアクリル系バインダー樹脂、並びに、このアクリル系バインダー樹脂、有機溶媒及び金属粒子を含有する導電性組成物が開示されている。そして、この導電性組成物を用いて銅箔表面に形成された塗工膜は、所定条件にて折り曲げるマンドレル試験を行った後に銅箔との間の剥離が抑制され、塗布膜の硬化物は導電性に優れるとされている。尚、塗布膜の硬化物を折り曲げた場合の特性に関しては開示されていない。
【0006】
また、導電性組成物からスクリーン印刷により形成する導電性回路においては、ウェアラブルデバイスなどの各種デバイスの多機能化に伴い印刷配線の細線化も進んでおり、印刷には400~500メッシュといった細かな目のスクリーン版が使用されている。しかし、細かな目のスクリーン版でアクリル系バインダー樹脂を含む導電性組成物(ペースト)を用いて配線を印刷する場合、他のバインダー樹脂に比べ空気の巻き込み量が激しく、印刷後の硬化膜中の金属粒子を酸化させて導電性が低下する場合があることが問題となっている。
【0007】
また、印刷された導電性組成物は、すぐに加熱硬化するほうが望ましいが、実際には、バッチ炉で硬化する際には一定枚数の印刷物ができてからまとめて硬化を行うのが通常である。そのため、印刷物が大気中に印刷が終了するまで2時間程度放置されることになる。一方、印刷された導電性組成物は、溶剤の乾燥やバインダー樹脂の印刷時に巻き込んだ空気や大気からの酸素暴露に伴いバインダー樹脂の一部が変性し、印刷物表面に乾固膜の形成が進む。表面が乾固した状態で加熱硬化させると印刷膜中の溶剤の揮発が阻害されて印刷膜中に空隙が多数発生し、これが原因で硬化物の導電性が著しく低下する場合があるといったことも問題となっている。特に細かいメッシュでの印刷では、上述のように酸素巻き込みが多くこの問題が顕著に発生しやすい。
【0008】
導電性回路の形成に用いられるものではないが、特許文献2には、塩化ビニル共重合樹脂および所定のアクリル樹脂を含むバインダー樹脂と、環状ケトン系有機溶剤を含む有機溶剤とを含むスクリーン印刷用インキが記載されている。またこのスクリーン印刷用インキには、有機・無機顔料、消泡剤、レベリング剤、その他の添加剤を配合できることは記載されている。そして、このようなスクリーン印刷用インキは、常温での経時安定性に優れた印刷物を提供できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2020-128451号公報
【特許文献2】特開2022-130777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載のバインダー樹脂を含む導電性組成物は、ペーストと銅箔との折り曲げ時の密着性は良好であるものの、硬化膜にした場合の柔軟性は、例えばウェアラブルデバイスなどの柔軟性の高い基材に適用するには改善の余地があることが判明した。また、特許文献2には、所定のアクリル樹脂等を含むスクリーン印刷用インキにおいて、消泡剤を用いることは記載されているが、前述のようにスクリーン版をペーストが抜ける際に巻き込まれる空気の影響を抑制し、導電性の低下を抑制することは困難であることを確認した。さらに、特許文献1、2には、スクリーン印刷物が大気中に放置された場合の硬化膜の導電性の低下に関して開示されていない。
【0011】
このようにアクリル樹脂をバインダーとして用いた場合でも、硬化膜が柔軟性を有するとともに、高メッシュスクリーン版で印刷した際にも、電子デバイスで適応可能な導電性を発現するとともに、印刷後から硬化までの時間が長い場合にも導電性の変化が小さく印刷後の経時安定性に優れる、導電性組成物というものはないのが現状である。
【0012】
そこで、本発明は、硬化膜が柔軟性を有するとともに、高メッシュスクリーン版で印刷した際にも、電子デバイスで適応可能な導電性を発現するとともに、印刷後から硬化迄の時間が長い場合にも導電性の変化が小さく印刷後の経時安定性に優れる、アクリル樹脂をバインダーとして用いた導電性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定の組成を有する導電性組成物により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下の導電性組成物に関するものである。
【0014】
(A)下記式(1)で表されるモノマー(a1)に由来する構成単位が20~100モル%、前記モノマー(a1)と共重合可能なモノマー(a2)に由来する構成単位が0~80モル%で構成され、重量平均分子量が1,000~1,000,000である重合体 5~30質量%、
(B)下記式(2)で表される多価フェノール誘導体 0.1~20質量%、
(C)導電性粒子 50~94質量%、
(D)ポリイソシアネート 0.5~20質量%、
を含有する導電性組成物。
【0015】
【化1】
【0016】
(式(1)中、Rは水素原子またはメチル基、Rは単結合、アミド基またはエステル基である。)
【0017】
【化2】
【0018】
(式(2)中、R~Rは、それぞれ独立して水素原子、水酸基または炭素数1~6の炭化水素基であり、少なくとも一つは水酸基である。)
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、硬化膜が柔軟性を有するとともに、高メッシュスクリーン版で印刷した際にも、電子デバイスで適応可能な導電性を発現するとともに、印刷後から硬化迄の時間が長い場合にも導電性の変化が小さく印刷後の経時安定性に優れる、アクリル樹脂をバインダーとして用いた導電性組成物を提供することができる。特にメッシュ数が300以上の高メッシュスクリーンで印刷する場合に、本発明の効果が顕著に発現する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明はこれに限定されない。
なお、本明細書において記号「~」を用いて規定された数値範囲は「~」の両端(上限および下限)の数値を含むものとする。例えば「2~5」は2以上かつ5以下を表す。更に、濃度または量を特定した場合、任意のより高い方の濃度または量と、任意のより低い方の濃度または量とを関連づけることができる。例えば「2~10質量%」および「好ましくは4~8質量%」の記載がある場合、「2~4質量%」、「2~8質量%」、「4~10質量%」および「8~10質量%」の記載も包含される。
【0021】
本発明の実施形態に係る導電性組成物は、(A)下記式(1)で表されるモノマー(a1)に由来する構成単位が20~100モル%、前記モノマー(a1)と共重合可能なモノマー(a2)に由来する構成単位が0~80モル%で構成され、重量平均分子量が1,000~1,000,000である重合体 5~30質量%、(B)下記式(2)で表される多価フェノール誘導体 0.1~20質量%、(C)導電性粒子 50~94質量%、(D)ポリイソシアネート 0.5~20質量%を含有する。
【0022】
【化3】
【0023】
(式(1)中、Rは水素原子またはメチル基、Rは単結合、アミド基またはエステル基である。)
【0024】
【化4】
【0025】
(式(2)中、R~Rは、それぞれ独立して水素原子、水酸基または炭素数1~6の炭化水素基であり、少なくとも一つは水酸基である。)
【0026】
以下、導電性組成物に含まれる各成分について説明する。
【0027】
〔成分(A):重合体〕
本発明の実施形態で用いられる成分(A)は、前記式(1)で表されるモノマー(a1)に由来する構成単位が20~100モル%、前記モノマー(a1)と共重合可能なモノマー(a2)に由来する構成単位が0~80モル%で構成され、重量平均分子量が1,000~1,000,000である重合体(以下、重合体(A)と称する場合がある。)である。この重合体(A)は、本発明の実施形態に係る導電性組成物においてバインダーとして作用する。
【0028】
モノマー(a1)としては、式(1)で示される化合物であれば特に限定はない。式(1)中、Rは、前述のいずれでもよいが、耐加水分解性の観点からはメチル基が好ましい。Rは、前述のいずれでもよいが、導電性の観点からは、エステル基が好ましい。モノマー(a1)の具体例としては、例えば、4-ヒドロキシフェニルメタクリレート、4-ヒドロキシスチレン、N-(4-ヒドロキシフェニル)メタクリルアミド、4-ヒドロキシフェニルアクリレートなどが挙げられる。式(1)で示される化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0029】
重合体(A)は、モノマー(a1)のみで構成される重合体でもよいし、モノマー(a1)と、これと共重合可能なモノマー(a2)との共重合体でもよい。モノマー(a2)との共重合体にすることで、モノマー(a2)に基づく特性を付与することができる。モノマー(a2)としては、モノマー(a1)と共重合可能なビニル系モノマーであれば特に制限されず、例えば、アニオン系、カチオン系などのイオン性単量体やノニオン性単量体、(メタ)アクリル酸エステル化合物、スチレンなどの芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物、アクリルアミド化合物、ビニルエステル、ビニルエーテル、マレート、フマレート、α-オレフィンなどの公知の物質を挙げることができる。導電性の観点からは、メタクリル酸エステル化合物が好ましく、また、1級水酸基を有するものが好ましい。メタクリル酸エステル化合物の具体例としては、メタクリル酸メチル、ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコール-テトラメチレングリコールモノメタクリレートなどが挙げられる。モノマー(a2)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組合わせて用いてもよい。導電性の観点からは、少なくとも1種は1級水酸基を有するものを用いるのが好ましい。また、1級水酸基を有するモノマー(a2)の構造は、特に限定はないが、スクリーン印刷時の導電性とスクリーン印刷後の静置安性の観点から、(メタ)アクリル酸部位と水酸基部位のリンカー部は、アルキレン骨格の場合、炭素数1~6が好ましく、アルキレンオキサイド骨格の場合、繰り返し単位が1~10のものが好ましい。具体的には、(メタ)アクリル酸と1級水酸基を少なくとも1つ含む2つ以上の水酸基を有する多価アルコールとのエステルが好ましく、当該多価アルコールとしては、アルキレン骨格を有するもの、アルキレンオキサイド骨格を有するものがより好ましく、アルキレン骨格を有する場合は、当該骨格の炭素数が1~6、アルキレンオキサイド骨格を有する場合は、当該骨格の繰り返し単位が1~10であるものがさらに好ましい。
【0030】
重合体(A)におけるモノマー(a1)及びモノマー(a2)に由来する構成単位のモル%は、前述の各比率であればよい。即ち、重合体(A)は、モノマー(a1)に由来する構成単位が20~100モル%であり、モノマー(a2)に由来する構成単位が0~80モル%である。重合体(A)に含まれるモノマーに由来する構成単位の比率は、GC/MS分析により測定することができる。また、合成時の配合比から算出することもできる。各構成単位の好ましいモル比は、モノマー(a1)が30~100モル%で、モノマー(a2)が0~70モル%である。モノマー(a2)を含む場合の各構成単位の好ましいモル比は、モノマー(a1)が30~80モル%で、モノマー(a2)が20~70モル%である。成分(a2)のモル比が80%より多いと、導電性粒子の分散性が低下し、優れた導電性を示す硬化膜が得られ難くなることがある。
【0031】
重合体(A)には、モノマー(a1)及びモノマー(a2)以外のモノマー類に由来する構成単位を含むことができる。その場合、物性を損なわない程度の含有量が好ましく、例えば、重合体(A)全体中0~40モル%が好ましい。
【0032】
重合体(A)の重量平均分子量は、1,000~1,000,000であり、好ましくは2,000~800,000、より好ましくは3,000~300,000である。重合体(A)の重量平均分子量が1,000より低いと、重合体(A)の強度や粘度が不足し、重量平均分子量が1,000,000より高いと、溶媒溶解性や印刷適性の低下が生じるおそれがある。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いてポリスチレン換算で求めることができる。
【0033】
重合体(A)が共重合体である場合、共重合体の構造はランダムでもブロックでもよいが、ランダム共重合体が好ましい。
【0034】
前述の重合体(A)は、例えば、モノマー(a1)又はモノマー(a1)及びモノマー(a2)を含有するモノマー液をラジカル重合させることにより得ることができる。重合は公知の方法で行うことができる。例えば、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などが挙げられるが、重合体(A)の重量平均分子量を上記所望の範囲内に調整しやすいという面で、溶液重合や懸濁重合が好ましい。溶液重合や懸濁重合では、例えば、前述のモノマー(a1)又はモノマー(a1)及びモノマー(a2)(必要に応じて他のモノマー類を用いる場合を含む)を、所定の条件で、重合開始剤の存在下、重合溶媒中で重合反応させることで得ることができる。
【0035】
前述のラジカル重合において使用可能な重合開始剤は、公知のものを使用することができる。例えば、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキサイドカーボネートなどの有機過酸化物、2,2’-アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系重合開始剤などを挙げることができる。これらの重合開始剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。重合開始剤の使用量は、用いるモノマーの種類や組み合わせ、反応条件などに応じて適宜設定することができる。なお、重合開始剤を投入するに際しては、例えば、全量を一括仕込みしてもよいし、一部を一括仕込みして残りを滴下してもよいし、全量を滴下してもよい。また、前記モノマーとともに重合開始剤を滴下すると、反応の制御が容易となるので好ましく、さらにモノマー滴下後も重合開始剤を添加すると、残存モノマーを低減できるので好ましい。
【0036】
また、ラジカル重合においては、必要に応じて連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤は公知のものを用いることができ、例えば、n-ドデシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、チオグリコール酸、チオグリコール酸オクチル等のメルカプタン類;メルカプト酢酸やメルカプトプロピン酸のようなメルカプトカルボン酸とそれらのエステル;メルカプトエタノール;ハロゲン化化合物;2量体アルファメチルスチレン等が挙げられる。
【0037】
溶液重合の際に使用可能な重合溶媒としては、モノマーと重合開始剤が溶解するものを使用することができ、具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどを挙げることができる。重合溶媒に対する全モノマー(合計量)の濃度は、重合体(A)の重量平均分子量の調整の観点、重合反応時の発熱制御の観点から、10~60質量%が好ましく、より好ましくは20~50質量%である。
【0038】
溶液重合によりモノマーを反応させる際の反応容器への投入の仕方としては、特に限定はなく、例えば、全量を一括仕込みしても良いし、一部を一括仕込みして残りを滴下しても良いし、あるいは全量を滴下しても良い。発熱の制御しやすさから、一部を一括仕込みして残りを滴下するか、または全量を滴下するのが好ましい。
【0039】
重合温度は、重合溶媒の種類などに応じて適宜設定することができ、例えば、50℃~110℃である。重合時間は、重合開始剤の種類と重合温度に応じて適宜設定することができる。例えば、重合開始剤としてジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートを使用した場合、重合温度を70℃として重合すると、重合時間は6時間程度が適している。
【0040】
成分(A)の含有量は、導電性組成物中、固形分基準で5~30質量%であり、好ましくは5~20質量%である。成分(A)の含有量が5質量%より少ないと、導電性組成物を用いて印刷するときに十分な流動性がでずに印刷時にカスレが生じるといった不具合がおこりやすい傾向にある。成分(A)の含有量が30質量%より多いと、導電性組成物中における成分(C)の導電性粒子同士が接触し難くなり、優れた導電性を示す硬化膜が得られないことがある。
【0041】
〔成分(B):多価フェノール誘導体〕
本発明の実施形態で用いられる成分(B)は、前記式(2)で表される多価フェノール誘導体(以下、単に「多価フェノール誘導体」と称する場合がある。)である。
多価フェノール誘導体としては、式(2)中のR~Rは、前述の何れかで、かつ、少なくとも一つが水酸基であればよい。
導電性、導電性の変化率の観点からは、水酸基の数は多いほど好適である。一方、印刷性の観点からは、高メッシュ数の印刷版の場合、水酸基が多いと増粘が大きくなり目詰まりの原因になることから、R~R中の水酸基の数は、1~3が好ましく、より好ましくは2である。また、水酸基の置換部位は、特に限定はないが、導電性、導電性の変化率の観点からは、オルト位(即ちR及びR)よりもパラ位(即ちR)に導入されることが好ましい。
【0042】
炭素数1~6の炭化水素基としては、特に限定はなく、適宜選択することができる。炭化水素基の炭素数は、導電性、導電性の変化率の観点からは小さい方が好ましく、1~3が好ましい。また、炭化水素基は、例えば、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基などが挙げられる。また脂肪族炭化水素基は、炭素数が2以上の場合は飽和でも良いし、不飽和でもよく、また、炭素数が3以上の場合は直鎖でも良いし、分岐を有するものでもよい。これらのうち、導電性、導電性の変化率の観点からは、脂肪族炭化水素基が好ましい。炭素数1~6の炭化水素基の置換部位は、特に限定はないが、オルト位(即ちR及びR)が好ましい。導電性、導電性の変化率の観点からは、置換数は、少ない方が好ましく、0または1が好ましい。
【0043】
多価フェノール誘導体の具体例としては、ピロガロール、1,2-ジヒドロキシベンゼン、1,3-ジヒドロキシベンゼン、1,4-ジヒドロキシベンゼン、2,5-ジヒドロキシトルエン、tert-ブチルヒドロキノン、2,5-ジヒドロキシ-m-キシレン、2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン、1,2,3-トリヒドロキシベンゼン、1,2,4-トリヒドロキシベンゼンなどが挙げられる。
【0044】
多価フェノール誘導体の含有量は、導電性組成物中、固形分基準で0.1~20質量%であればよいが、塗布膜の表面の乾燥抑制および柔軟性向上効果の観点からは0.3~18質量%が好ましい。
【0045】
〔成分(C):導電性粒子〕
本発明の実施形態で用いられる成分(C)は導電性粒子であり、例えば、銀、ニッケル、金、銅などの無機導電性粒子を用いることができる。導電性の観点からは、銀、銅が好ましく、耐マイグレーションの観点、デバイスの駆動などの高印加電圧領域での使用の観点からは、銅が好ましい。銅粒子は、銅のみからなっていてもよいが、銀や白金などの銅以外の金属、金属酸化物、金属硫化物を更に含有していてもよい。銅粒子が銅以外の金属、金属酸化物、金属硫化物を更に含有する場合、銅粒子中の銅の質量比率は50質量%以上とすることが好ましい。また、銅粒子は表面層や突起物が形成された形状であってもよい。
【0046】
導電性粒子は市販のものをそのまま用いても良いが、耐酸化性の向上などを目的に、表面を被覆した表面被覆導電性粒子を用いることが好ましい。中でも、アミン化合物により表面を被覆した表面被覆導電性粒子を用いることが好ましく、下記式(3)で表されるアミン化合物により表面を被覆した表面被覆導電性粒子を用いることがより好ましい。
【0047】
【化5】
【0048】
(式(3)中、mは0~3の整数、nは0~2の整数であり、n=0のとき、mは0~3のいずれかであり、n=1またはn=2のとき、mは1~3のいずれかである。)
【0049】
上記式(3)で表されるアミン化合物などのアミン化合物で表面を被覆した表面被覆導電性粒子は、より良好な耐酸化性を得る観点から、脂肪族モノカルボン酸でさらに被覆された表面被覆導電性粒子とすることが好ましい。これにより導電性粒子表面は、アミン化合物により形成された第1被覆層と、脂肪族モノカルボン酸により形成された第2被覆層とで被覆される。好ましくは、第1被覆層は導電性粒子表面に形成され、第2被覆層は第1被覆層上に形成される。
【0050】
第2被覆層を形成する脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数8~24の脂肪族モノカルボン酸が好ましい。該脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸、直鎖不飽和脂肪族モノカルボン酸、分岐飽和脂肪族モノカルボン酸、分岐不飽和脂肪族モノカルボン酸が挙げられる。
【0051】
炭素数8~24の直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキジン酸などが挙げられる。炭素数8~24の直鎖不飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸などが挙げられる。炭素数8~24の分岐飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、2-エチルヘキサン酸などが挙げられる。上記脂肪族モノカルボン酸として、上記化合物から選ばれる一種を単独で使用し、または二種以上を併用することもできる。
【0052】
表面被覆導電性粒子を製造する方法は特に限定されない。アミン化合物で表面を被覆した表面被覆導電性粒子を得る方法としては、例えば、導電性粒子を塩化アンモニウム水溶液などにより洗浄した後、該洗浄後の導電性粒子をアミン化合物の溶液中に添加し、必要に応じて加熱する方法、導電性粒子を例えば塩化アンモニウムとアミン化合物を含む溶液に添加し、必要に応じて加熱する方法などが挙げられる。
【0053】
アミン化合物により形成された第1被覆層と、脂肪族モノカルボン酸により形成された第2被覆層とで被覆された表面被覆導電性粒子の製造方法としては、例えば、アミン化合物で表面を被覆した表面被覆導電性粒子を、脂肪族モノカルボン酸の溶液に添加する方法が挙げられる。なお、脂肪族モノカルボン酸の溶液に添加した後に、必要に応じて、加熱してもよい。
【0054】
導電性粒子の平均粒径(D50)については、特に限定されないが、成分(C)としての導電性粒子を含有する導電性組成物をディスペンサー印刷やスクリーン印刷などの各種印刷方法において良好に印刷可能とするためには、導電性粒子の平均粒径(D50)を制御することが好ましい。具体的には、導電性粒子の平均粒径(D50)は、5nm~20μmであることが好ましく、10nm~10μmであることがより好ましい。なお、導電性粒子の平均粒径(D50)は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製、マイクロトラックMT3000II)により測定することができる。
【0055】
また、導電性粒子のBET比表面積は0.05~400m/gであることが好ましく、0.1~200m/gであることがより好ましい。なお、導電性粒子のBET比表面積は、比表面積測定装置(例えば、ユアサアイオニクス株式会社製、モノソーブ)を用いてBET1点法により測定することができる。
【0056】
導電性粒子の形状やアスペクト比(粒子の長径と短径との比)に特に制限はなく、球状、多面体状、扁平状、板状、フレーク状、薄片状、棒状、樹枝状、ファイバー状等の各種形状のものを用いることができる。導電性粒子は、構成成分、平均粒径、形状、アスペクト比等の異なるもの中から選ばれる一種を単独で使用し、または二種以上を併用することもできる。
【0057】
成分(C)の含有量は、導電性組成物中、固形分基準で50~94質量%であり、流動性と導電性の両立の観点からは55~94質量%が好ましい。成分(C)の含有量が50質量%より少ないと硬化時に導電性粒子同士の接触が難しくなり、優れた導電性を示す硬化膜が得られないことがある。
【0058】
〔成分(D):ポリイソシアネート〕
本発明の実施形態で用いられる成分(D)はポリイソシアネートである。ポリイソシアネートとしては、例えば、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート及びこれらの誘導体、並びに、末端イソシアネート基含有化合物などが挙げられる。硬化膜の柔軟性の観点からは、脂肪族ジイソシアネートならびにその誘導体が好ましい。誘導体としては、ビウレット化、イソシアヌレート化、アダクト化したものが挙げられるが、密着性の観点からはイソシアネートの一部が3量体を形成しイソシアヌレート骨格をもつもの(トリイソシアヌレート)がより好ましい。
【0059】
また、ポリイソシアネートはブロック剤によってブロック化されていてもよい。ブロック化されることで使用時間が伸びるとともに印刷安定性にも好適に働く。ブロック剤としては、イソシアネートと反応する活性水素(酸素、硫黄又は窒素に結合された水素)を含有し、その生成物は可逆性であり、すなわち熱によりブロック解除するものであればどのようなものでも良く、代表的なブロック剤は、オキシム類、ラクタム類、フェノール類、活性メチレン類、ピラゾール類、メルカプタン類、イミダゾール類、アミン類、イミン類、トリアゾール類、ヒドロキシルアミン類及び脂肪族、脂環式又は芳香族アルキルモノアルコール類から選択される誘導体があげられる。なかでもピラゾール類は比較的解離温度が低く、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの加熱温度が高くできないプラスチック基板においては好適に働く。ピラゾール類としては、例えば、2,2-ジメチルピラゾール、3,5-ジメチルピラゾールなどが挙げられる。イソシアヌレート骨格と、ヘキサメチレンジイソシアネート由来の3つのイソシアネート基とを持ち、3,5-ジメチルピラゾールでブロックされたポリイソシアネートの市販品として、例えば、旭化成株式会社製、デュラネートSBN-70Dなどを挙げることができるが、これに限定されるわけではない。
【0060】
上記のポリイソシアネートは1種単独で用いてもよいし、2種以上を組合わせて用いてもよい。成分(D)の含有量は、導電性の観点から、導電性組成物中、固形分基準で0.5~20質量%であり、好ましくは1~18質量%であり、より好ましくは2~18質量%である。
【0061】
〔その他成分〕
実施形態に係る導電性組成物は、上記の成分(A)~(D)以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、溶剤、酸化防止剤、滑剤、分散剤、硬化剤、硬化促進剤、粘度調整剤、発泡剤、消泡剤等の各種添加剤を含有してもよい。また、導電性組成物は、原料成分および製造過程の装置等から不可避的に混入し得る不純物を含んでいてもよい。尚、これらの成分の何れかを含む場合は、導電性組成物中、固形分基準で0質量%より多く50質量%以下とすることができ、30質量%以下が好ましい。尚、溶剤の含有量は後述する。
【0062】
(酸化防止剤)
実施形態に係る導電性組成物は、保管中に生じる各成分の性能維持を目的に、酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤の種類としては、特に制限はなく、用途等に応じて、様々な酸化防止剤を用いることができる。例えば、2,2-ビピリジル、1,10-フェナントロリン等の含窒素複素環化合物類;N,N’-ビス(サリチリデン)エチレンジアミン(汎用名:Salen)、N,N’-ビス(サリチリデン)-1,2-プロパンジアミン、N,N’-ビス(サリチリデン)-1,3-プロパンジアミン、N,N’-ビス(サリチリデン)-1,2-フェニレンジアミン等のシッフ塩基類;1,2-フェニレンジアミン、1,3-フェニレンジアミン、1,4-フェニレンジアミン、2,5-ジメチル-1,4-フェニレンジアミン、2,3,5,6-テトラメチル1,4-フェニレンジアミン、N,N-ジメチル-1,4-フェニレンジアミン、N,N,N’N’-テトラメチル-1,4-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-1,4-フェニレンジアミン等の芳香族ジアミン類;p-メトキシフェノール;L-アスコルビン酸、6-O-パルミトイル-L-アスコルビン酸、6-O-ステアロイル-L-アスコルビン酸、テトラ2-ヘキシルデカン酸アスコルビル等のアスコルビン酸類等が挙げられるが、これらに限定されない。酸化防止剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組合わせて用いてもよい。2種以上を組合わせて用いる場合の混合比率は特に制限されない。
【0063】
(溶剤)
実施形態に係る導電性組成物は、塗工性の改善や粘度の調節を目的に、溶剤を含有してもよい。溶剤の種類としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのエーテル系アルコール類;プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールなどの非エーテル系アルコール類;シクロヘキサノールアセテート、メチルメトキシプロピオネート、エチルエトキシプロピオネート、1,6-ヘキサンジオールアセテートなどのエステル類;イソホロン、シクロヘキサノンなどのケトン類;テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、ジヒドロテルピニルアセテート、イソボルニルシクロヘキサノールなどのテルペン類;オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、ヘキサデカン、炭酸プロピレンなどのその他の炭化水素類等が挙げられるが、これらに限定されない。溶剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組合わせて用いてもよい。2種以上を組合わせて用いる場合の混合比率は特に制限されない。
【0064】
溶剤の種類としては、上記エーテル系アルコール類、上記エステル類および上記テルペン類から選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましい。これらの溶剤を2種以上混合する場合の混合比率も特に制限されない。
【0065】
実施形態に係る導電性組成物が溶剤を含有する場合、溶剤の含有量は、導電性組成物全体中、好ましくは1~30質量%であり、より好ましくは1~15質量%である。尚、他の成分が溶剤を含む場合は、これを含む。
【0066】
(滑剤)
実施形態に係る導導電性組成物は、成分(C)の導電性粒子の分散性調節を目的に、滑剤を適宜添加することができる。滑剤の種類としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸などの脂肪酸類;ナトリウム、カリウム、バリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、スズなどの金属と前記脂肪酸類とから形成された脂肪酸金属塩類;ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、ベヘン酸アミド、パルミチン酸アミド、ラウリン酸アミドなどの脂肪酸アミド類;ステアリン酸ブチルなどの脂肪酸エステル類;パラフィンワックス、流動パラフィン等のワックス類;エチレングリコール、ステアリルアルコール等のアルコール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびこれらの変性物からなるポリエーテル類;シリコーンオイル等のポリシロキサン類;フッ素系オイルなどのフッ素化合物などが挙げられる。滑剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組合わせて用いてもよい。2種以上を用いる場合の混合比率は特に制限されない。本発明ではラウリン酸の効果が高く、市販品としては、例えば、日油株式会社製のNAA-122が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0067】
これらの滑剤の中で、分散性の観点から、脂肪酸類および脂肪酸金属塩類から選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましく、更に、ステアリン酸マグネシウム及びラウリン酸から選択される少なくとも1種を用いることがより好ましい。
【0068】
実施形態に係る導電性組成物が滑剤を含有する場合、滑剤の含有量は、導電性組成物中、固形分基準で、好ましくは0.01~10質量%であり、より好ましくは0.1~5質量%、さらに好ましくは0.2~3質量%である。
【0069】
以上のような導電性組成物は、前述の各成分を定法に従って混合、混練することで得ることができる。導電性組成物の形態は用途等に応じて適宜決定することでき、特に高メッシュのスクリーン版(高メッシュ版)を用いる場合は、液状が好ましい。また、導電性組成物を用いて定法に従って形成した塗膜を加熱することで導電性の硬化膜(金属膜)が得られる。塗膜の形成は、公知の塗工機により行うことができ、導電性回路の形成においては、ダイコーター、インクジェットプリンタ、スクリーン印刷機、グラビアオフセット印刷機、パッド印刷機など各種塗工機を用いて容易にパターニングすることができる。特に、スクリーン印刷機は10μm以上の厚膜印刷が可能であり、高導電性の回路が要求される方法として好適である。スクリーン印刷で塗布する場合、その25℃における粘度は、例えば500mPa・s以上300Pa・s以下であるものが好ましい。25℃で液状且つ均一であることが好ましい。
【0070】
前述の導電性組成物は、柔軟性のある基材にも適用可能な柔軟性を有する硬化膜を形成することができる。この硬化膜の柔軟性は、後述する実施例の欄に記載のように、180°の折り曲げ性により評価することができる。
【0071】
前述の導電性組成物を用いることで、例えば400メッシュと高メッシュのスクリーン版のスクリーン印刷により形成された印刷物であっても、その硬化膜は、良好な導電性を有し、アクリル系バインダー樹脂を用いた場合でも空気の巻き込みが抑制されていると考えられる。この導電性は、例えば、後述する実施例の欄において測定される体積抵抗率により評価することができる。一般的な電子デバイスを駆動させる観点から、例えば、その体積抵抗率は100μΩ・cm以下が好ましく、30μΩ・cm以下がより好ましい。
【0072】
前述の導電性組成物を用いることで、例えば400メッシュと高メッシュのスクリーン版のスクリーン印刷により形成された印刷物であっても、印刷後から硬化までの時間が2時間と長い場合にも、その硬化膜の導電性は、印刷直後に硬化した硬化膜と比較してその低下が抑制され、実用上使用可能なものであり、印刷後の経時安定性に優れる。この長時間静置後の導電性の変化の評価は、後述する実施例の欄において測定される体積抵抗率の変化率により評価することができる。
【実施例0073】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0074】
(製造例1:重合体1の製造)
撹拌機、温度計、冷却器、滴下ロート及び窒素導入管を取り付けた1Lセパラブルフラスコに、ジエチレングリコールモノエチルエーテル100gを仕込み、セパラブルフラスコ内を窒素置換して、窒素雰囲気下にした。モノマー(a1)としての4―ヒドロキシフェニルメタクリレート(モノマー(a1-1))280gをジエチレングリコールモノエチルエーテル277gに溶解させたモノマー溶液、及び、t-ブチルパーオキサイドカーボネート43gをジエチレングリコールモノエチルエーテル43gに溶解させた重合開始剤溶液をそれぞれ調製した。次いで、セパラブルフラスコ内を75℃まで昇温し、モノマー溶液及び重合開始剤溶液を同時にそれぞれ2時間かけて滴下した。その後、75℃で4時間反応させ重合体1を得た。
【0075】
(製造例2:重合体2の製造)
連鎖移動剤としてn-ドデシルメルカプタンを42g加えた以外は重合例1と同様にして重合体2を得た。
【0076】
(製造例3:重合体3の製造)
セパラブルフラスコ内への窒素置換を行わず、t-ブチルパーオキサイドカーボネートの使用量を14gに変更した以外は重合例2と同様にして重合体3を得た。
【0077】
(製造例4~12:重合体4~12の製造)
表1に示すモノマー(a1)、表2に示すモノマー(a2)を用い、表3に示す仕込み量になるように調製したモノマー溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、重合体4~12を得た。
【0078】
(重量平均分子量の測定)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件により、共重合体1~12の重量平均分子量を求めた。測定結果を表3に示す。
装置:東ソー(株)社製、HLC-8220
カラム:shodex社製、LF-804
標準物質:ポリスチレン
溶離液:THF(テトラヒドロフラン)
流量:1.0ml/min
カラム温度:40℃
検出器:RI(示差屈折率検出器)
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
(製造例13:表面処理導電性粒子の製造)
水100gに対し塩化アンモニウム5gを溶解した塩化アンモニウム水溶液を調製した。銅粒子[三井金属鉱業株式会社製「1400YP」;粒径(D50)6μm、BET比表面積0.60m/g、形状:板状2μm、BET比表面積0.40m/g、形状:球状]50gを、塩化アンモニウム水溶液に添加し、窒素バブリング下、30℃で60分間攪拌した。撹拌は、メカニカルスターラーを使用し、回転数150rpmで実施した。以下、撹拌は同様の撹拌装置を使用して同じ回転数で行なった。撹拌終了後、5C濾紙の桐山ロートを用いて減圧濾過にて銅粒子を濾別し、つづいて、桐山ロート上で150gの水により銅粒子の洗浄を2回行なった。
洗浄した銅粒子を、40質量%のジエチレントリアミン水溶液250gに添加し、窒素バブリンクをしながら60℃下で1時間加熱撹拌を行なった。
撹拌を止めて5分間静置した後、上澄み液約200gを抜き取って除去した。つづいて、沈殿物に洗浄用溶剤としてイソプロパノール200gを添加し、30℃で3分間撹拌を行なった。撹拌を止めて5分間静置した後、上澄み液約200gを抜き取って除去し、その後、2質量%のラウリン酸イソプロパノール溶液250gを添加した後、30℃で30分間攪拌した。
撹拌終了後、5C濾紙の桐山ロートを用いて減圧濾過にて銅粒子を濾別した。得られた銅粒子を25℃で3時間減圧乾燥することにより、表面処理銅粒子を得た。
【0083】
(実施例1)
〔導電性組成物の製造〕
成分(A)として重合体1を19.2g(固形分40%)として、成分(B)として表4に示すように1,4-ジヒドロキシベンゼン(多価フェノール誘導体(b-2))を4.8g、成分(C)として製造例13の表面被覆銅粒子を79.3g、成分(D)としてブロックポリイソシアネート[旭化成株式会社製、デュラネートSBN-70D、固形分70質量%、溶剤:ジプロピレングリコールモノメチルエーテル]を7.1g、滑剤としてラウリン酸(日油株式会社製、NAA-122)を2.0g、酸化防止剤としてN,N’-ビス(サリチリデン)エチレンジアミン(Salen)を1.3g、溶剤としてジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートを2.0g混合した。次に、プラネタリーミキサー[株式会社シンキー製、ARV-310]を用いて、室温下、回転数2000rpmで120秒間撹拌し、1次混練を行なった。次に、3本ロールミル[株式会社永瀬スクリーン印刷研究所製、EXAKT-M80S]を用いて、室温、ロール間距離5μmの条件下で5回通すことで、2次混練を行なった。2次混練で得られた混練物を、プラネタリーミキサー[株式会社シンキー製、ARV-310]を用いて、室温、真空条件下、回転数1000rpmで90秒間撹拌し脱泡混練することにより導電性組成物を製造した。導電性組成物の各成分の配合(固形分基準)を表5に示す。
【0084】
〔硬化膜の180°折り曲げ性〕
得られた導電性組成物を幅1cm長さ3cm厚み50μmでメタルマスクを用いて離型フィルム上に塗布した後、ホットプレートにて150℃で30min硬化をおこなった。離型フィルムから剥離した硬化膜をR=1φmmの曲面に沿って180°に折り曲げ、折り曲げ性を下記評価基準により判定した。
◎:破断無し、折り曲げ痕無し
○:破断無し、折り曲げ痕残る
×:破断有
【0085】
(400メッシュ版スクリーン印刷の硬化膜の導電性)
得られた導電性組成物を、スクリーン印刷機(マイクロ・テック株式会社製、MT-320T)を用いてPET基板上に400メッシュのスクリーン版(400メッシュ版)によりWETターゲット膜厚30μmになるように2.5cm角ベタ膜に印刷した。得られた印刷物を直ちに対流オーブンにて大気下150℃で30分間加熱することで硬化膜を得た。硬化膜の体積抵抗率を低抵抗率計(日東精工アナリテック株式会社製、Loresta-GP MCP-T610)を用いて測定し、下記の評価基準により硬化膜の導電性を判定した。体積抵抗率の値が小さいほど、硬化膜に電流が流れやすく導電性が優れていることを示す。
◎: 体積抵抗率の値が50μΩ・cm未満である。
○: 体積抵抗率の値が50μΩ・cm以上、100μΩ・cm未満である。
×: 体積抵抗率の値が100 μΩ・cm以上である。
【0086】
(400メッシュ版スクリーン印刷物の経時安定性)
印刷物を23℃で2時間大気下で静置した後加熱したこと以外は前述の「400メッシュ版スクリーン印刷の硬化膜の導電性」の場合と同様にして硬化膜を作製した後、その体積抵抗率を測定した。この2時間静置を経た硬化膜の体積抵抗率(2時間静置後の体積抵抗率)と、前述の「400メッシュ版スクリーン印刷の硬化膜の導電性」と同様にして静置せず硬化させた硬化膜の体積抵抗率(静置なしの体積抵抗率)とから下記式(A)を用いて増加率として評価した。増加率が小さいほど変化が小さいことを示し、下記の判定基準により印刷物(ペースト膜)の経時安定性を評価した。
【0087】
【数1】
【0088】
◎:増加率≦30%
○:30<増加率≦100
×:100<増加率
【0089】
(実施例2~19、比較例1~3)
成分(B)を表4に示すものを用い、各成分の配合を表5~7に示すとおりとした以外は、実施例1と同様にして導電性組成物の製造、硬化膜の形成および評価を行った。各評価結果を表5~7に示す。
【0090】
【表4】
【0091】
【表5】
【0092】
【表6】
【0093】
【表7】
【0094】
実施例1~19では、硬化膜の180°の折り曲げ性はいずれも破断がなく十分な柔軟性を持っていた。
また、400メッシュ版のスクリーン印刷物の硬化膜の体積抵抗率はいずれも32~85μΩ・cmと100μΩ・cm未満であり、各種電子デバイスに適用可能な良好な導電性を有することが分かった。さらに、400メッシュ版のスクリーン印刷後、印刷物を2時間静置後、硬化させた硬化膜は、印刷直後に硬化させたものと比較して体積抵抗率の増加率は、15~65%といずれも100%以下であり、実生産に対応できる経時安定性を有することが分かった。
一方、比較例1は、多価フェノール誘導体(B)を含まないため、400メッシュ版のスクリーン印刷後の硬化膜の折り曲げ性が悪く、印刷物を2時間静置後、硬化させた硬化膜の導電性も要求を満たさなかった。また、比較例2は、使用している重合体(A)に前記式(1)で表されるモノマー(a1)が含まれておらず、硬化膜の180°の折り曲げ性、400メッシュ版のスクリーン印刷膜の硬化膜の導電性、印刷物を2時間静置後硬化させた硬化膜の導電性の全てで要求を満たさなかった。比較例3は重合体(A)が含まれておらず、硬化膜の折り曲げ性は優れるものの、400メッシュ版のスクリーン印刷膜の硬化膜の導電性、印刷物を2時間静置後硬化させた硬化膜の導電性の全てで要求を満たさなかった。