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特開2024-1563094WSシステム診断装置及び4WSシステム診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156309
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】4WSシステム診断装置及び4WSシステム診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20241029BHJP
   B62D 7/14 20060101ALI20241029BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20241029BHJP
   B60W 50/02 20120101ALI20241029BHJP
【FI】
G01M17/007 D
B62D7/14 A
B62D6/00
B60W50/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070666
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】足立 慎治
(72)【発明者】
【氏名】杉原 顕
(72)【発明者】
【氏名】土居 剛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正幸
【テーマコード(参考)】
3D034
3D232
3D241
【Fターム(参考)】
3D034CA10
3D034CD09
3D034CD10
3D232CC38
3D232DA32
3D232DA84
3D232DB20
3D232DC33
3D232DC34
3D232EA04
3D232EC22
3D232EC34
3D232GG01
3D241BA65
3D241CC03
3D241CC08
3D241CC17
3D241CE05
3D241DA55Z
3D241DA56Z
(57)【要約】
【課題】4WSシステムの診断を簡便に行うことが可能な4WSシステム診断装置等を提供する。
【解決手段】車両の前輪及び後輪を操舵する4WSシステムの診断装置であって、路面に設けられる指標120,130と自車両1の車体との位置関係を認識する環境認識部50と、指標が設けられた路面で車両に所定の初期位置から予め設定された走行パターンの自動走行を行わせる自動運転制御部10と、自動走行が終了した際に環境認識部が指標と車体との位置関係を認識した結果に基づいて、4WSシステムの正常又は異常を診断する4WSシステム診断部とを備える構成とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前輪及び後輪を操舵する4WSシステムの診断装置であって、
路面に設けられる指標と自車両の車体との位置関係を認識する環境認識部と、
前記指標が設けられた路面で車両に所定の初期位置から予め設定された走行パターンの自動走行を行わせる自動運転制御部と、
前記自動走行が終了した際に前記環境認識部が前記指標と前記車体との位置関係を認識した結果に基づいて、前記4WSシステムの正常又は異常を診断する4WSシステム診断部と
を備えることを特徴とする4WSシステム診断装置。
【請求項2】
前記走行パターンは、前記前輪と前記後輪とで同相方向の操舵を行うものであり、
前記指標は前記初期位置における車両前後方向に沿って延在する直線状に形成され、
前記4WSシステム診断部は、前記自動走行が終了した後の車体の横方向移動量及び前記指標に対する姿勢に基づいて前記4WSシステムの診断を行うこと
を特徴とする請求項1に記載の4WSシステム診断装置。
【請求項3】
前記走行パターンは、前記前輪と前記後輪とで逆相方向の操舵を行うものであり、
前記指標は、前記初期位置における車両前後方向に対して異なった方向に延在する直線状に形成され、
前記自動運転制御部は、車体の前後方向と前記指標の延在方向とが平行となった際に前記自動走行を終了し、
前記4WSシステム診断部は、前記自動走行が終了した後の前記指標に対する車体の横位置に基づいて前記4WSシステムの診断を行うこと
を特徴とする請求項1に記載の4WSシステム診断装置。
【請求項4】
前記指標は、平行に複数設けられ、
前記4WSシステム診断部は、前記自動運転制御部における目標軌跡を示す第1の指標と、前記自動走行において実際に車両が通過した軌跡を示す第2の指標との位置関係に基づいて前記4WSシステムの診断を行うこと
を特徴とする請求項3に記載の4WSシステム診断装置。
【請求項5】
車両の前輪及び後輪を操舵する4WSシステムの診断方法であって、
路面に所定のパターンを有する指標を設けた走行検証路を設定し、
車両を前記走行検証路の所定の初期位置に設置して車体と前記指標との位置関係を認識し、
前記走行検証路で車両に予め設定された走行パターンの自動走行を行わせ、
前記自動走行が終了した際に前記指標と前記車体との位置関係を認識した結果に基づいて、前記4WSシステムの正常又は異常を診断すること
を特徴とする4WSシステム診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の4WSシステムを診断する4WSシステム診断装置及び4WSシステム診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4輪操舵(4WS)を行う車両に関する技術として、例えば特許文献1には、車速センサと、前輪の操舵角センサと、車体のヨー運動を検出するヨーレートセンサと、各センサが検出した検出値に応じて後輪点舵角を延在する電子制御装置と、電子制御装置からの信号によって制御される後輪操舵機構と、電子制御装置に設けられたヨーレートセンサ故障検出手段とを備える四輪操舵装置が記載されている。具体的には、予め実車走行により走行状態に応したヨーレート変化率の境界値α1.α2を求めておき、この境界値と算出されるヨーレート変化率とを比較してヨーレートセンサの故障を検知できること、及び、ヨーレートセンサか故障していると判定されると、後輪転舵用の方向切換弁のバルブ駆動ソレノイドがオフとなり後輪か中立位置に復帰すること等が記載されている。
特許文献2には、制動力制御と4WS制御とを組み合わせた制御を行なう車両運動制御装置において、目標後輪舵角算出部で目標後輪舵角を算出し、舵角制御を行なうことが記載されている。また、舵角制御に使用される、車輪速度センサ、後輪舵角センサ,ヨーレートセンサの各センサの故障診断部と、目標後輪舵角算出部,後輪操舵量設定部,後輪操舵信号出力部の回路の故障診断部および後輪操舵モータの故障診断部が主に舵角制御故障診断手段としての回路を形成することが記載されている。
また、特許文献3には、4WSに関する技術ではないが、ヨーレートセンサにより検出されたヨーレート検出値のずれを正確に検出するため、自車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサと、自車両の前方の物体を検知する前方物体検知センサと、前方物体検知センサにより検知された物体が固定物であるのかを認識する前方物体認識部と、前方物体認識部により認識された固定物が自車両に対してその横方向に相対的に移動する横移動量を測定する横移動量測定部と、横移動量測定部により測定された横移動量に基づいて、自車両のヨーレートを推定するヨーレート推定部と、ヨーレートセンサにより検出されたヨーレート検出値の、ヨーレート推定部により推定された推定ヨーレート値からのずれを検出するずれ検出部とを設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平 4-135980号公報
【特許文献2】特開平 9-109866号公報
【特許文献3】特開2012- 66777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の走行環境に関わらず、より安定した走行性能を確保するため、4輪操舵(4WS)システムが見直されつつある。
近年の4WSシステムにおいては、小回り性能の向上や旋回初期のヨー制御に特化した90年代ごろのものとは異なり、後輪の舵角や操舵タイミングを前輪の操舵動作に応じて高度に制御したものとなっている。
しかし、このような4WSシステムは、後輪の舵角や操舵タイミングが所定値からずれた場合には、乗員に違和感を与える原因ともなり得ることから、日常的な整備、調整の重要性が大きい。
したがって、4WSシステムの正常、異常の診断を、一般的なサービス拠点において簡便に行うことが要望されている。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、4WSシステムの診断を簡便に行うことが可能な4WSシステム診断装置及び4WSシステム診断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明の一態様に係る4WSシステム診断装置は、車両の前輪及び後輪を操舵する4WSシステムの診断装置であって、路面に設けられる指標と自車両の車体との位置関係を認識する環境認識部と、前記指標が設けられた路面で車両に所定の初期位置から予め設定された走行パターンの自動走行を行わせる自動運転制御部と、前記自動走行が終了した際に前記環境認識部が前記指標と前記車体との位置関係を認識した結果に基づいて、前記4WSシステムの正常又は異常を診断する4WSシステム診断部とを備えることを特徴とする。
これによれば、通常は運転支援制御や自動運転制御のために設けられ自車両周囲の物体の形状、自車両に対する位置関係などを認識する環境認識部を用いて、所定の走行パターンの自動走行後における車両と指標との位置関係を認識することにより、簡便にかつ精度よく4WSシステムの診断を行うことができる。
例えば、前輪、後輪の少なくとも一方の転舵タイミングや舵角が適正でない場合には、車両が自動走行によって形成する走行軌跡は本来の走行軌跡から乖離する。
本発明によれば、本来の走行軌跡に対する実際の走行軌跡の乖離を環境認識部によって認識することにより、4WSシステムに異常が存在する場合に適切に診断を行うことができる。
【0006】
本発明において、前記走行パターンは、前記前輪と前記後輪とで同相方向の操舵を行うものであり、前記指標は前記初期位置における車両前後方向に沿って延在する直線状に形成され、前記4WSシステム診断部は、前記自動走行が終了した後の車体の横方向移動量及び前記指標に対する姿勢に基づいて前記4WSシステムの診断を行う構成とすることができる。
これによれば、4WSシステムが前輪、後輪を同相方向に転舵する同相モードにおける機能を適切に診断することができる。
【0007】
本発明において、前記走行パターンは、前記前輪と前記後輪とで逆相方向の操舵を行うものであり、前記指標は、前記初期位置における車両前後方向に対して異なった方向に延在する直線状に形成され、前記自動運転制御部は、車体の前後方向と前記指標の延在方向とが平行となった際に前記自動走行を終了し、前記4WSシステム診断部は、前記自動走行が終了した後の前記指標に対する車体の横位置に基づいて前記4WSシステムの診断を行う構成とすることができる。
これによれば、4WSシステムが前輪、後輪を逆相方向に転舵する逆相モードにおける機能を適切に診断することができる。
【0008】
本発明において、前記指標は、平行に複数設けられ、前記4WSシステム診断部は、前記自動運転制御部における目標軌跡を示す第1の指標と、前記自動走行において実際に車両が通過した軌跡を示す第2の指標との位置関係に基づいて前記4WSシステムの診断を行う構成とすることができる。
これによれば、簡単なロジックにより適切に逆相モードにおける機能を診断することができる。
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明の一態様に係る4WSシステム診断方法は、車両の前輪及び後輪を操舵する4WSシステムの診断方法であって、路面に所定のパターンを有する指標を設けた走行検証路を設定し、車両を前記走行検証路の所定の初期位置に設置して車体と前記指標との位置関係を認識し、前記走行検証路で車両に予め設定された走行パターンの自動走行を行わせ、前記自動走行が終了した際に前記指標と前記車体との位置関係を認識した結果に基づいて、前記4WSシステムの正常又は異常を診断することを特徴とする。
本発明においても、上述した4WSシステム診断装置に係る発明と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、4WSシステムの診断を簡便に行うことが可能な4WSシステム診断装置及び4WSシステム診断方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明を適用した4WSシステム診断装置の実施形態を有する車両のシステム構成を示す図である。
図2】実施形態の4WSシステム診断装置において用いられる走行検証路の構成を示す図である。
図3】実施形態の4WSシステム診断装置の動作を示すフローチャートの第1分図である。
図4】実施形態の4WSシステム診断装置の動作を示すフローチャートの第2分図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した4WSシステム診断装置及び4WSシステム診断方法の実施形態について説明する。
実施形態の4WSシステム診断装置、4WSシステム診断方法は、例えば乗用車等の4輪の自動車に設けられる4輪操舵(4WS)システムの健全性を診断するものである。
図1は、実施形態の4WSシステムを有する車両のシステム構成を示す図である。
【0013】
車両1は、自動運転制御ユニット10、操舵制御ユニット20、モータジェネレータ制御ユニット30、ブレーキ制御ユニット40、環境認識ユニット50、診断ポート60等を有する。
各ユニットは、例えばCPU等の情報処理部、RAMやROMなどの記憶部、入出力インターフェイス、及び、これらを接続するバス等を有するマイクロコンピュータとして構成されている。
また、各ユニット及び診断ポート60は、例えばCAN通信システム等の車載LANを介して、あるいは直接に、相互に通信可能に接続されている。
【0014】
自動運転制御ユニット10は、環境認識ユニット50から提供される情報等に基づいて、車両1を自動的に走行されるものである。
自動運転制御ユニット10は、車両の加減速、操舵などに関する時系列の情報を含む自動運転シナリオを生成する。
自動運転制御ユニット10は、生成された自動運転シナリオに従って、車両の加減速、操舵を制御する。
また、自動運転制御ユニット10は、4WSシステムの診断時においては、予め設定された所定の加減速、操舵のパターンに従って車両を自動走行させる機能を有する。
この点に関しては後に詳しく説明する。
【0015】
操舵制御ユニット20は、車両の前輪及び後輪の操舵(転舵)を統括的に制御するものである。
操舵制御ユニット20は、前輪操舵アクチュエータ21、後輪操舵アクチュエータ22に指令値を与え、各アクチュエータによる転舵を制御する機能を有する。
前輪操舵アクチュエータ21、後輪操舵アクチュエータ22は、例えば電動モータを有する電動アクチュエータである。
前輪操舵アクチュエータ21、後輪操舵アクチュエータ22は、前輪及び後輪にそれぞれ設けられた操舵装置を駆動し、前輪及び後輪を転舵する。
【0016】
モータジェネレータ制御ユニット30は、車両1の走行用動力源であるモータジェネレータを制御するものである。
モータジェネレータ制御ユニット30は、駆動時におけるモータジェネレータの出力トルク、及び、回生発電時におけるモータジェネレータの回生制動トルクを制御する。
【0017】
ブレーキ制御ユニット40は、車両1の液圧式サービスブレーキ、及び、モータジェネレータによる回生発電ブレーキを統括的に制御するものである。
ブレーキ制御ユニット40は、液圧式サービスブレーキ、回生発電ブレーキの制動力を協調制御する機能を有する。
【0018】
環境認識ユニット50は、例えば運転支援制御や自動運転制御等を目的として、車両1の周囲の環境を認識するものである。
環境認識ユニット50には、ADAS用のセンサとして、例えばフロントカメラ51、サイドカメラ52等が接続されている。
フロントカメラ51、サイドカメラ52は、例えば、単眼又はステレオカメラを有する。
【0019】
環境認識ユニット50は、フロントカメラ51、サイドカメラ52が撮像した画像データに画像処理を行うことにより、車両1の前方及び側方に存在する物体や、路面に設けられた指標の形状、及び、車両1に対する相対位置等を検出する機能を有する。
また、環境認識ユニット50は、後述する走行検証路100での自動走行前後の車両1と各評価ラインとの位置関係を認識することにより、4WSシステムの正常又は異常を診断する4WSシステム診断部としての機能を有する。この点に関しては、後に詳しく説明する。
【0020】
診断ポート60は、例えば車両1のサービス拠点に備えられた診断ツール70が着脱可能に接続される端子を備えている。
診断ツール70は、診断ポート60を介して車載された各ユニットと通信を行うことが可能となっている。
また、診断ツール70は、各ユニット等のオンボードダイアグノーシスを行うため、疑似信号を生成する機能を備えている。
【0021】
図2は、実施形態の4WSシステム診断装置において用いられる走行検証路の構成を示す図である。
走行検証路は、例えば、舗装された平坦な路面上に、白色等のペイントによって指標を形成して構成されている。
走行検証路は、例えば、車両1のサービス拠点(車両販売店、修理工場等)の駐車場などに設けることができる。
【0022】
走行検証路100は、スタートライン110、第1評価ライン120、第2評価ライン群130、車両幅確認ライン140等を有する。
スタートライン110は、走行検証路100の始点を示す指標である。
スタートライン110は、走行検証路100に進入する車両1の車幅方向に沿って延在する直線状の指標である。
スタートライン110の両端部は、第1評価ライン120に対して左右に張り出している。
【0023】
第1評価ライン120は、走行検証路100に進入する車両1の直進方向に沿って延在する直線状の指標である。
第1評価ライン120は、車両1の左右にそれぞれ設けられる。
第1評価ライン120のスタートライン110側の端部は、スタートライン110と接続されている。
第1評価ライン120は、例えば、20乃至30m程度の長さに設定することができる。
【0024】
第2評価ライン群130は、第1評価ライン120の途中から、車両1から見て斜め前方側へ平行に延在する複数の直線状の指標からなる。
第2評価ライン群130は、例えば、第2評価ライン131R乃至134R、131L乃至134Lを有する。
第1評価ライン120に沿って走行してきた車両1が左折して進入する側(図2における上方)においては、第2評価ライン131Rは、第2評価ライン131Lに対して右側(スタートライン110から遠い側)に配置されている。
第2評価ライン131Rと第2評価ライン131Lとの間隔は、例えば、車両1のトレッド幅(左右車輪の間隔)と同程度に設定されている。
【0025】
第2評価ライン132R、133R、134Rは、第2評価ライン131Rの右側(スタートライン110から遠い側)に、所定の間隔で順次配列された平行線状の指標である。
第2評価ライン132L、133L、134Lは、第2評価ライン131Lの左側(スタートライン110から近い側)に、所定の間隔で順次配列された平行線状の指標である。
【0026】
各第2評価ライン131R乃至134R、131L乃至134Lの第1評価ライン120側の端部は、第1評価ライン120と交差して配置されている。
各第2評価ライン131R乃至134R、131L乃至134Lと第1評価ライン120とがなす角度θは、0°乃至90°程度に設定することができ、例えば45°程度に設定することができる。
各第2評価ライン131R乃至134R、131L乃至134Lの第1評価ライン120からの突出量は、車両1の全長よりも長く、例えば7m程度に設定することができる。
【0027】
車両幅確認ライン140は、第1評価ライン120の内側に、第1評価ライン120と平行に延在する直線状の指標である。
車両幅確認ライン140は、平行に一対が設けられている。
左右の車両幅確認ライン140の間隔は、例えば、車両1のトレッド幅と同等に設定されている。
【0028】
図3図4は、実施形態の4WSシステム診断装置の動作を示すフローチャートの第1分図、第2分図である。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0029】
<ステップS01:診断ツール装着>
サービス拠点に入庫した車両1の診断ポート60に、診断ツール70を接続する。
その後、ステップS02に進む。
【0030】
<ステップS02:イグニッションオン>
車両1の主電源スイッチであるイグニッションスイッチをオンとし、車両1の主電源を投入する。
その後、ステップS03に進む。
【0031】
<ステップS03:4WS機能診断>
診断ツール70を操作し、予備的な4WS機能診断を行う。
予備的な4WS機能診断は、4WSシステムの構成部品(操舵制御ユニット20、前輪操舵アクチュエータ21、後輪操舵アクチュエータ22等)の故障の有無を診断するものである。これは、後述する走行検証路を用いた4WS機能診断の前提となる診断である。
この予備的な4WS機能診断においては、診断ツール70を用いて、操舵制御ユニット20に疑似信号を与えることにより、操舵制御ユニット20の正常作動を確認するとともに、前輪操舵アクチュエータ21、後輪操舵アクチュエータ22の抵抗値を確認する。
診断結果が正常である場合にはステップS05に進み、その他の場合にはステップS04に進む。
【0032】
<ステップS04:部品交換>
ステップS03において異常が検出された部品の交換を行う。
その後、ステップS05に進む。
【0033】
<ステップS05:4WS診断モードオン>
診断ツール70を操作し、環境認識ユニット50及び自動運転制御ユニット10において走行検証路を用いた4WSシステムの診断を行う4WS診断モードをオンとする。
その後、ステップS06に進む。
【0034】
<ステップS06:4WS同相診断モード開始>
診断ツール70を操作し、前輪及び後輪を同相方向に転舵する際の4WSシステムの診断を行う4WS同相診断モードを開始する。
その後、ステップS07に進む。
【0035】
<ステップS07:走行検証路スタート位置に停車>
車両1を、走行検証路100のスタートライン110の直前に停車させる。
このとき、車両1の前後方向が第1評価ライン120と平行となるようにする。また、車両1の横位置が左右の第1評価ライン120の間隔内(好ましくは中央)となるようにする。
その後、ステップS08に進む。
【0036】
<ステップS08:評価ラインイニシャライズ>
環境認識ユニット50は、第1評価ライン120、第2評価ライン群130の自車両に対する相対位置を認識し、4WS診断の基準となる各評価ラインの位置をイニシャライズする。
その後、ステップS09に進む。
【0037】
<ステップS09:自動走行(同相モード)実行>
自動運転制御ユニット10は、4WS同相モード診断用として予め設定されたパターンに従って、車両1を自動運転により走行(自動走行)させる。
例えば、車両1を発進させて所定の車速までは直進状態を維持し、所定の車速に到達後、前輪及び後輪を同方向に操舵する同相モードで所定の舵角まで転舵し、その後所定の距離を走行後、車両を自動的に停止させる。
このような車両の自動走行は、例えば、ドライバによるアクセル操作等をトリガーとして開始される。
自動走行の終了後、ステップS10に進む。
【0038】
<ステップS10:自動走行終了時評価ラインと車体との位置関係認識>
環境認識ユニット50は、自動走行終了後に、第1評価ライン120の自車両に対する相対位置を認識する。
これにより、環境認識ユニット50は、第1評価ライン120に対する車両1の相対変位を認識可能となる。
例えば、左右の第1評価ライン120の間隔に設定された走行レーンからの車両1の逸脱量、及び、第1評価ライン120に対する車両1の角度(傾斜)を認識することができる。
その後、ステップS11に進む。
【0039】
<ステップS11:車両変位既定範囲逸脱判断>
環境認識ユニット50は、ステップS10において認識した車両1の第1評価ライン120に対する変位が、予め設定された既定範囲を逸脱(変位が上限値超又は下限値未満)したか否かを判別する。
車両1の変位が既定範囲を逸脱する場合はステップS12に進み、その他の場合はステップS13に進む。
【0040】
<ステップS12:操舵制御ユニット学習>
操舵制御ユニット20は、同相モードにおける後輪の舵角、操舵タイミングの少なくとも一方が適正ではないものとして、車両変位の既定範囲からの逸脱が低減される方向に、後輪の舵角、操舵タイミングの学習補正を行う。
その後、ステップS13に進む。
【0041】
<ステップS13:所定回数診断終了判断>
環境認識ユニット50は、ステップS07乃至S11における診断を所定回数終了したか否かを判別する。
例えば、左右方向それぞれ所定の回数(例えば3回)ずつ診断を終了した場合に、所定回数診断を終了したと判断することができる。
所定回数の診断が終了した場合はステップS14に進み、その他の場合はステップS07に戻り、以降の処理を繰り返す。
【0042】
<ステップS14:4WS逆相診断モード開始>
診断ツール70を操作し、前輪及び後輪を逆相方向に転舵する際の4WSシステムの診断を行う4WS逆相診断モードを開始する。
その後、ステップS15に進む。
【0043】
<ステップS15:走行検証路スタート位置に停車>
車両1を、走行検証路100のスタートライン110の直前に停車させる。
このとき、車両1の前後方向が第1評価ライン120と平行となるようにする。また、車両1の横位置が左右の第1評価ライン120の間隔内となるようにする。
その後、ステップS16に進む。
【0044】
<ステップS16:評価ラインイニシャライズ>
環境認識ユニット50は、第1評価ライン120、第2評価ライン群130の自車両に対する相対位置を認識し、4WS診断の基準となる各評価ラインの位置をイニシャライズする。
その後、ステップS17に進む。
【0045】
<ステップS17:自動運転(逆相モード)実行>
自動運転制御ユニット10は、4WS逆相モード診断用として予め設定されたパターンに従って、車両1を自動運転により走行させる。
例えば、車両1を発進させて所定の車速まで加速し、その後左右の車輪が車両幅確認ライン140に沿って走行するよう車両1を直進させる。
その後、所定の位置まで到達時に、前輪及び後輪をそれぞれ逆相方向に転舵する。
その後、車両1の前後方向が第2評価ライン群130を構成する各評価ラインの延在方向と平行になった状態(車両1の初期状態からのヨー角が第2評価ライン群130の傾斜角θと一致した状態)で車両1を停車させる。
ここで、前輪、後輪の舵角及び転舵開始のタイミングは、例えば、4WSシステムが正常である場合に、右側の前輪及び後輪が第2評価ライン131R上に位置し、左側の前輪及び後輪が第2評価ライン131L上となるように設定される。
自動走行の終了後、ステップS18に進む。
【0046】
<ステップS18:自動走行終了時評価ラインと車体との位置関係認識>
環境認識ユニット50は、自動走行終了後に、第2評価ライン群130を構成する各評価ラインの自車両に対する相対位置を認識する。
これにより、環境認識ユニット50は、右側の前輪及び後輪が第2評価ライン131R上に位置し、左側の前輪及び後輪が第2評価ライン131L上となる状態からの車両1の相対変位を認識可能となる。
その後、ステップS19に進む。
【0047】
<ステップS19:車両変位既定範囲逸脱判断>
環境認識ユニット50は、ステップS18において認識した車両1の第2評価ライン群130に対する横方向変位が、予め設定された既定範囲を逸脱したか否かを判別する。
例えば、図2に示すように車両1が左方向に転進する場合に、後輪の舵角が小さいか後輪の操舵タイミングが遅い場合は、車両1の小回り性能が低下する結果、自動走行終了時の車両1は既定範囲に対して右側へ変位する。例えば、本来であれば右側の前輪、後輪が第2評価ライン131R上に位置すべきところ、これよりも右側の第2評価ライン132R,133R,134R側にずれることになる。
また、後輪の舵角が大きいか後輪の操舵タイミングが早い場合には、車両1の小回り性能が促進される結果、自動走行終了時の車両1は既定範囲に対して左側へ変位する。例えば、左側の前輪、後輪が第2評価ライン131L上に位置すべきところ、これよりも左側の第2評価ライン132L,133L,134L側にずれることになる。
車両1の変位が既定範囲を逸脱する場合はステップS20に進み、その他の場合はステップS21に進む。
【0048】
<ステップS20:操舵制御ユニット学習>
操舵制御ユニット20は、同相モードにおける後輪の舵角、操舵タイミングの少なくとも一方が適正ではないものとして、車両変位の既定範囲からの逸脱が低減される方向に、後輪の舵角、操舵タイミングの学習補正を行う。
その後、ステップS21に進む。
【0049】
<ステップS21:所定回数診断終了判断>
環境認識ユニット50は、ステップS15乃至S19における診断を所定回数終了したか否かを判別する。
例えば、左右方向それぞれ所定回数(例えば3回)ずつ診断を終了した場合に、所定回数診断を終了したと判断することができる。
所定回数の診断が終了した場合はステップS22に進み、その他の場合はステップS15に戻り、以降の処理を繰り返す。
【0050】
<ステップS22:各診断モード学習値メモリ>
操舵制御ユニット20は、各診断モードにおいて学習補正された学習値(補正値)を記憶する。
その後、ステップS23に進む。
【0051】
<ステップS23:4WS診断モードオフ>
診断ツール70を操作し、ステップS05でオンとした4WS診断モードをオフとする。
その後、ステップS24に進む。
【0052】
<ステップS24:イグニッションオフ>
車両1の主電源スイッチであるイグニッションスイッチをオフとし、車両1の主電源を遮断する。
その後、ステップS25に進む。
【0053】
<ステップS25:診断ツール取外し>
診断ポート60から診断ツール70を切断し、車両1から診断ツール70を取り外す。
その後、一連の処理を終了する。
【0054】
以上説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)通常は運転支援制御や自動運転制御のために設けられ自車両周囲の物体の形状、自車両に対する位置関係などを認識する環境認識ユニット50を用いて、所定の走行パターンの自動走行後における車両と各評価ライン(指標)との位置関係を認識することにより、簡便にかつ精度よく4WSシステムの診断を行うことができる。
例えば、前輪、後輪の少なくとも一方の転舵タイミングや舵角が適正でない場合には、車両1が自動走行によって形成する走行軌跡は本来の走行軌跡から乖離する。
本発明によれば、本来の走行軌跡に対する実際の走行軌跡の乖離を環境認識ユニット20によって認識することにより、4WSシステムに異常が存在する場合に適切に診断を行うことができる。
(2)同相モードにおいては、第1評価ライン120は初期位置における車両前後方向に沿って延在する直線状に形成され、環境認識ユニット50は、自動走行が終了した後の車体の横方向移動量及び指標に対する姿勢に基づいて4WSシステムの診断を行うことにより、4WSシステムが前輪、後輪を同相方向に転舵する同相モードにおける機能を適切に診断することができる。
(3)逆相モードにおいては、第2評価ライン群130は、初期位置における車両前後方向に対して異なった方向に延在する直線状に形成され、自動運転制御ユニット10は、車体の前後方向と指標の延在方向とが平行となった際に自動走行を終了し、環境認識ユニット50は、自動走行が終了した後の第2評価ライン群130に対する車体の横位置に基づいて4WSシステムの診断を行うことにより、4WSシステムが前輪、後輪を逆相方向に転舵する逆相モードにおける機能を適切に診断することができる。
(4)第2評価ライン群130は、平行に複数設けられた第2評価ライン131R-134R、131L-134Lからなり、環境認識ユニット50は、自動運転制御ユニット10における目標軌跡を示す第2評価ライン131R、131Lと、自動走行において実際に車両が通過した軌跡を示す他の第2評価ライン132R-134R,132L-134Lとの位置関係に基づいて4WSシステムの診断を行うことにより、簡単なロジックにより適切に逆相モードにおける機能を診断することができる。
【0055】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)4WSシステム診断装置、及び、診断対象となる車両の構成は、上述した実施形態の構成に限らず適宜変更することができる。
(2)実施形態における走行検証路の路面への各種マーキング(指標)の構成は一例であって、適宜変更することが可能である。
また、自車両と指標との位置関係を検出するセンサの種類や配置も特に限定されない。
【符号の説明】
【0056】
1 車両 10 自動運転制御ユニット
20 操舵制御ユニット 21 前輪操舵アクチュエータ
22 後輪操舵アクチュエータ 30 モータジェネレータ制御ユニット
40 ブレーキ制御ユニット 50 環境認識ユニット
51 フロントカメラ 52 サイドカメラ
60 診断ポート 70 診断ツール
100 走行検証路 110 スタートライン
120 第1評価ライン 130 第2評価ライン群
131R-134R,131L-134L 第2評価ライン
140 車両幅確認ライン

図1
図2
図3
図4