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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156313
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】トンネル進捗出力システム
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/00 20060101AFI20241029BHJP
   G06Q 50/08 20120101ALI20241029BHJP
   E21D 11/10 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
E21D9/00 Z
G06Q50/08
E21D11/10 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070672
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(71)【出願人】
【識別番号】591168426
【氏名又は名称】菅機械工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515163483
【氏名又は名称】K’zシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】副島 幸也
(72)【発明者】
【氏名】涌井 遼平
(72)【発明者】
【氏名】森山 恭衡
(72)【発明者】
【氏名】梶谷 和志
(72)【発明者】
【氏名】山口 和秀
【テーマコード(参考)】
2D155
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
2D155AA02
2D155BA06
2D155CA01
2D155DB02
2D155DB05
2D155LA13
5L049CC07
5L050CC07
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、従来技術に比して容易かつ高精度で個別工程(工種)を判定することによって、トンネル進捗を把握することができるトンネル進捗出力システム提供することである。
【解決手段】本願発明のトンネル進捗出力システムは、建設機械に設けられる電動機器の電源操作に基づいてトンネル掘削で行われる複数の異なる個別工程の中から1の個別工程を選定するとともに、一連の複数種類の個別工程からなる掘削サイクルに基づいてトンネル掘削の進捗状況を出力するシステムであって、トリガー信号受信手段と選定手段、サイクル回数計上手段を備えたものである。サイクル回数計上手段は、掘削サイクルを構成する一連の個別工程が選定されると、1のサイクル回数を計上する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械に設けられる電動機器の電源操作に基づいてトンネル掘削で行われる複数の異なる個別工程の中から1の該個別工程を選定するとともに、一連の複数種類の該個別工程からなる掘削サイクルに基づいてトンネル掘削の進捗状況を出力するシステムであって、
前記個別工程に用いられる前記建設機械に搭載され、前記電動機器の電源操作に係るトリガー信号を受信するトリガー信号受信手段と、
前記トリガー信号受信手段が受信した前記トリガー信号に基づいて、前記個別工程を選定する選定手段と、
前記掘削サイクルを構成する一連の前記個別工程が選定されると、1のサイクル回数を計上するとともに、該サイクル回数の累計である累積サイクル回数を計上するサイクル回数計上手段と、を備え、
前記トリガー信号受信手段は、前記建設機械に設けられる前記電動機器のうちあらかじめ定められた特定電動機器の電源がONとされたときの起動トリガー信号を受信するとともに、該特定電動機器の電源ONが解除されたときの停止トリガー信号を受信し、
前記選定手段は、前記トリガー信号を受信した前記トリガー信号受信手段に係る前記建設機械に基づいて前記個別工程を選定し、
トンネル掘削の進捗状況として前記累積サイクル回数を出力する、
ことを特徴とするトンネル進捗出力システム。
【請求項2】
建設機械に設けられる電動機器の電源操作に基づいてトンネル掘削で行われる複数の異なる個別工程の中から1の該個別工程を選定するとともに、一連の複数種類の該個別工程からなる掘削サイクルに基づいてトンネル掘削の進捗状況を出力するシステムであって、
前記個別工程に用いられる前記建設機械に搭載され、前記電動機器の電源操作に係るトリガー信号を受信するトリガー信号受信手段と、
前記トリガー信号受信手段が受信した前記トリガー信号に基づいて、前記個別工程を選定する選定手段と、
前記掘削サイクルを構成する一連の前記個別工程が選定されると、1のサイクル回数を計上するとともに、該サイクル回数の累計である累積サイクル回数を計上するサイクル回数計上手段と、
前記掘削サイクルを構成する一連の前記個別工程が選定されると、該掘削サイクルの種別である支保パターンを推定する支保パターン推定手段と、
前記支保パターン推定手段が推定した前記支保パターンに応じて、パターン別掘削長を設定するパターン別掘削長設定手段と、を備え、
前記トリガー信号受信手段は、前記建設機械に設けられる前記電動機器のうちあらかじめ定められた特定電動機器の電源がONとされたときの起動トリガー信号を受信するとともに、該特定電動機器の電源ONが解除されたときの停止トリガー信号を受信し、
前記選定手段は、前記トリガー信号を受信した前記トリガー信号受信手段に係る前記建設機械に基づいて前記個別工程を選定し、
前記支保パターン推定手段は、あらかじめ計画された前記掘削サイクルに係る前記支保パターンの順と、前記累積サイクル回数と、に基づいて該支保パターンを推定し、
前記パターン別掘削長設定手段によって設定された前記パターン別掘削長に基づいて、トンネル掘削距離を出力する、
ことを特徴とするトンネル進捗出力システム。
【請求項3】
建設機械に設けられる電動機器の電源操作に基づいてトンネル掘削で行われる複数の異なる個別工程の中から1の該個別工程を選定するとともに、一連の複数種類の該個別工程からなる掘削サイクルに基づいてトンネル掘削の進捗状況を出力するシステムであって、
前記個別工程に用いられる前記建設機械に搭載され、前記電動機器の電源操作に係るトリガー信号を受信するトリガー信号受信手段と、
前記トリガー信号受信手段が受信した前記トリガー信号に基づいて、前記個別工程を選定する選定手段と、
前記掘削サイクルを構成する一連の前記個別工程が選定されると、1のサイクル回数を計上するサイクル回数計上手段と、
前記掘削サイクルを構成する一連の前記個別工程が選定されると、該掘削サイクルに係る掘削サイクル時間を算出するサイクル時間算出手段と、
前記サイクル時間算出手段によって算出された前記掘削サイクル時間に基づいて、該前記掘削サイクルの種別である支保パターンを推定する支保パターン推定手段と、
前記支保パターン推定手段が推定した前記支保パターンに応じて、パターン別掘削長を設定するパターン別掘削長設定手段と、をさらに備え、
前記トリガー信号受信手段は、前記建設機械に設けられる前記電動機器のうちあらかじめ定められた特定電動機器の電源がONとされたときの起動トリガー信号を受信するとともに、該特定電動機器の電源ONが解除されたときの停止トリガー信号を受信し、
前記選定手段は、前記トリガー信号を受信した前記トリガー信号受信手段に係る前記建設機械に基づいて前記個別工程を選定するとともに、前記起動トリガー信号の受信時刻と前記停止トリガー信号の受信時刻に基づいて該個別工程の作業時間を算出し、
前記サイクル時間算出手段は、前記掘削サイクルを構成する前記個別工程に係る前記作業時間に基づいて前記掘削サイクル時間を算出し、
前記支保パターン推定手段は、あらかじめ設定された前記支保パターンごとの標準掘削サイクル時間と、前記掘削サイクル時間と、を照らし合わせることによって前記支保パターンを推定し、
前記パターン別掘削長設定手段によって設定された前記パターン別掘削長に基づいて、トンネル掘削距離を出力する、
ことを特徴とするトンネル進捗出力システム。
【請求項4】
トンネル掘削の進捗の程度を示す第1軸と、時間を示す第2軸と、によって構成されるグラフに、時間に応じたトンネル掘削の進捗の程度を表した斜線工程表を出力する工程表出力手段を、さらに備えた、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のトンネル進捗出力システム。
【請求項5】
前記トンネル掘削距離に基づいて、換気用風管が設置された長さである風管長を求める風管長算出手段と、
前記換気用風管に対して送風する送風機を制御する設備制御手段と、をさらに備え、
前記設備制御手段は、前記風管長に基づいて送風に伴う圧力損失を算出するとともに、該圧力損失に応じて前記送風機の出力を調整する、
ことを特徴とする請求項2又は請求項3記載のトンネル進捗出力システム。
【請求項6】
前記設備制御手段に制御されながら稼働する前記送風機の稼働時間を計測する稼働時間計測手段と、
前記送風機の出力別の前記稼働時間に、あらかじめ出力別に設定された単位時間当たりのCO排出量を乗ずることによって、前記送風機の稼働に伴うCO排出量を算出するCO排出量算出手段と、をさらに備えた、
ことを特徴とする請求項5記載のトンネル進捗出力システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、トンネル掘削の進捗を把握する技術に関するものであり、より具体的には、建設機械に設けられる電動機器の電源操作に基づいて実施中の工種を判定し、これによりトンネルの進捗を把握することができるトンネル進捗出力システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国の国土は、およそ2/3が山地であるといわれており、そのため道路や線路など(以下、「道路等」という。)は必ずといっていいほど山地部を通過する区間がある。この山地部で道路等を構築するには、斜面の一部を掘削する切土工法か、地山の内部をくり抜くトンネル工法のいずれかを採用するのが一般的である。トンネル工法は、切土工法に比べて施工単価(道路等延長当たりの工事費)が高くなる傾向にある一方で、切土工法よりも掘削土量(つまり排土量)が少なくなる傾向にあるうえ、道路等の線形計画の自由度が高い(例えば、ショートカットできる)といった特長があり、これまでに建設された国内のトンネルは10,000を超えるといわれている。
【0003】
山岳トンネルの施工方法としては、昭和50年代までは鋼アーチ支保工に木矢板を組み合わせて地山を支保する「矢板工法」が主流であったが、現在では地山強度を積極的に活かすNATM(New Austrian Tunnelling Method)が主流となっている。NATMは、地山が有する強度(アーチ効果)に期待する設計思想が主な特徴であり、そのため従来の矢板工法に比べトンネル支保工の規模を小さくすることができ、しかも施工速度が向上するため施工コストを減縮することができる。
【0004】
また我が国におけるNATMは、本格的に実施されて以来、飛躍的に掘削技術が進歩しており、種々の補助工法が開発されることによって様々な地山に対応することができるようになり、さらに掘削機械(特に、自由断面掘削機)の進歩によって発破掘削のほか機械掘削も選択できるようになった。この機械掘削は、掘削断面積や線形にもよるものの一般的には比較的低い強度(例えば、一軸圧縮強度が49N/mm以下)の地山に対して採用されることが多く、他方、対象地山に岩盤が存在する場合はやはり発破掘削が採用されることが多い。
【0005】
ここでNATMによる掘削手順について簡単に説明する。はじめに、トンネル切羽の掘削を行う。発破掘削の場合は、ドリルジャンボによって削孔して火薬(ダイナマイト)を装填し、作業員とドリルジャンボが退避したうえで発破を実行し、一方、機械掘削の場合は、自由断面掘削機によってトンネル切羽を切削していく。1回(1サイクル)の掘削進行長(1スパン長)は地山の強度に応じて設定される支保パターンによって異なるが、一般的には1.0~2.0mのスパン長で掘削が行われる。1スパン長の掘削を行うと、不安定化した地山部分(浮石など)を払い落とす「こそく」を行いながらダンプトラック(あるいはレール工法)によってズリを搬出(ズリ出し)していく。そしてズリ出し後に、鏡吹付けや1次コンクリート吹付けを行ったうえで必要に応じて(支保パターンによって)鋼製支保工を建て込み、2次コンクリート吹付けを行い、その後ロックボルトの打設を行う。なお、1次コンクリート吹付け工と2次コンクリート吹付け工、ロックボルト工は、掘進したスパン長分、すなわち素掘り部分のトンネル内周面(側壁から天端にかけた周面)に対して行われる。
【0006】
このようにNATMは、削岩(例えば、切羽削孔~発破)、ズリ出し、鋼製支保工建込み、コンクリート吹付け、ロックボルト打設といった一連の各工程(以下、便宜上ここでは「個別工程」という。)を繰り返し行うことによって、1スパン(1.0~2.0m)ずつ掘進していく工法である。そしてこれら一連の個別工程の流れは「掘削サイクル」と呼ばれ、また1の掘削サイクルをタイムテーブルで表したものを「サイクルタイム」と呼んでおり、掘削サイクルを構成する各個別工程はそれぞれクリティカルパスとなっている。したがって、これらの個別工程にかかる作業時間を把握してサイクルタイムを分析することは、トンネル掘削の効率化にとって極めて重要である。すなわち、サイクルタイムを分析することによって、トンネル掘削における無理や無駄を把握することができ、その結果、実績に基づく適切な原価管理と工程管理を行うことができるようになるわけである。そのため、多くのトンネル掘削現場でサイクルタイムの調査が実施されている。
【0007】
従来、サイクルタイムの調査を行う、つまり個別工程(削岩、ズリ出し、鋼製支保工建込み、コンクリート吹付け、ロックボルト打設)ごとに施工時間を計測するにあたっては、トンネル切羽周辺にいる調査者が目視観察を行いながらストップウォッチなどでその時間を計測して野帳等に記録していた。この調査者として施工管理者や掘削作業者(いわゆる坑夫)に担当させるのが主流であるが、他の業務や作業と兼務しながら行うことが求められ、さらにデータの未取得や誤取得が生じることもあることからそのチェックや修正が必要となり、その労力は相当な負担となっていた。
【0008】
そこで、トンネル切羽に調査者を配置することなく、サイクルタイムを自動取得することが考えられる。例えば、重機にICタグ(RFIDなど)を取り付け、そのICタグからのログ情報を取得すれば、サイクルタイムを自動取得することができる。しかしながら、このようにICタグを利用する手法では、実際に稼働する重機等に新たな設備を設ける必要があり、モデル現場では実施することができたとしても、すべてのトンネル掘削現場に適用するとなるとその設置費やメンテナンスなどの面から容易ではない。
【0009】
またサイクルタイムを自動取得する手法としては、画像を利用することも考えられる。つまり、トンネル切羽を撮影した映像や画像を自動認識することによってトンネル切羽での作業状況(個別工程の別)を把握するとともに、撮影時間に基づいて当該作業にかかった時間を把握するわけである。トンネル切羽の画像を自動認識するにあたってはディープラーニングといった機械学習を利用することが考えられるが、現状の技術水準では画像内における施工機械などの位置やサイズにばらつきがあると正しく認識することができず、その結果、サイクルタイムを正確に取得することができないという問題があった。
【0010】
そのほか、各個別工程で用いられる建設機械の稼働状況に基づいてサイクルタイムを自動取得することも考えられる。例えば特許文献1は、トンネル掘削のサイクルタイムを取得するものではないが、エンジン回転数に基づいて建設機械(例えばタイヤローラ)の稼働履歴を把握する技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2021-56938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に開示される技術は、エンジン回転数が閾値を超えるとそのタイヤローラが稼働していると考え、この閾値を超えた連続時間をタイヤローラの稼働時間とするものである。つまり、推定しようとする稼働時間の精度は、事前に設定する閾値に大きく依存することとなり、換言すれば閾値を適切に設定しなければ正しい稼働時間が得られない。また、特許文献1の技術をトンネル掘削におけるサイクルタイム取得に適用した場合、個別工程ごとに異なる建設機械が用いられるためそれぞれの建設機械に対して適切な閾値を設定することが求められる。しかしながら、複数種類の建設機械にそれぞれ適切な閾値を設定することはより困難であり、仮に事前に試験等を行ったうえで閾値を設定するとしてもその労力やコストをかけるほど効果があるとは考えにくい。さらに、トンネル掘削における建設機械は作業中であっても稼働と休止が繰り返されることも珍しくなく、そのため特許文献1の技術では1の個別工程を分断して(つまり2以上の個別工程として)稼働時間を認定してしまう不都合も考えられる。
【0013】
ところで、トンネル掘削では日々進捗していくことから、トンネル掘削の進捗の程度(以下、単に「トンネル進捗」という。)を常に確認している。例えば、施工管理者が毎朝トンネル切羽まで足を運び、鋼製支保工にマーキングされた番号などを頼りに掘削延長を計測し、さらにトンネル郊外にある管理棟や施工現場事務所などに戻って記録することによってトンネル進捗を施工現場内で共有している。なお、トンネル進捗は、掘削開始から掘削サイクルを繰り返した累積回数で表すこともあるし、坑口から切羽までのトンネル掘削距離(いわゆる、Tunnel Distance:TD)で表すこともある。
【0014】
このように、トンネル進捗の計測は、サイクルタイムの調査と同様、施工管理者など人によって実施されており、負担する作業量が増大するうえに、その日の計測漏れや誤計測が生じることもある。そこで、施工管理者などに頼ることなく、自動的にトンネル進捗を計測することができる技術が求められていた。
【0015】
また、トンネル掘削において最も大きな電力を消費するのが換気設備であるが、電力消費を抑えるべくその出力を適宜調整しながら換気設備を運転することは稀であった。例えば、換気設備はトンネル掘削における最大延長に対する風管の抵抗を見込んだ設計となっており、風管の敷設長(以下、単に「風管長」という。)がまだ短い期間であっても概ね最大出力で運転するのが主流であった。近年のSDGzに対する意欲の高まりからCO発生の抑制が求められる状況であり、電力消費を抑えることでCO発生を抑制することは急務と言える。そこで、トンネル進捗を計測することによって風管長を推定し、その風管長における圧力損失を考慮したうえで適宜出力を自動調整しながら、換気設備を運転することによって、CO発生を抑制することができる技術が求められていた。
【0016】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、従来技術に比して容易かつ高精度で個別工程(工種)を判定することによって、トンネル進捗を把握することができるトンネル進捗出力システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願発明は、建設機械に設けられる電動機器の電源操作に基づいて個別工程の工種を判定する、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0018】
本願発明のトンネル進捗出力システムは、建設機械に設けられる電動機器の電源操作に基づいてトンネル掘削で行われる複数の異なる個別工程の中から1の個別工程を選定するとともに、一連の複数種類の個別工程からなる「掘削サイクル」に基づいてトンネル掘削の進捗状況を出力するシステムであって、トリガー信号受信手段と選定手段、サイクル回数計上手段を備えたものである。このうちトリガー信号受信手段は、個別工程に用いられる建設機械に搭載され電動機器の電源操作に係る「トリガー信号」を受信する手段であり、選定手段は、トリガー信号受信手段が受信したトリガー信号に基づいて個別工程を選定する手段である。またサイクル回数計上手段は、掘削サイクルを構成する一連の個別工程が選定されると、1のサイクル回数を計上するとともに、サイクル回数の累計である「累積サイクル回数」を計上する手段である。なおトリガー信号受信手段は、建設機械に設けられる電動機器のうちあらかじめ定められた「特定電動機器」の電源がONとされたときの「起動トリガー信号」を受信し、特定電動機器の電源ONが解除されたときの「停止トリガー信号」を受信(検知)する。また選定手段は、トリガー信号を受信したトリガー信号受信手段に係る建設機械に基づいて個別工程を選定する。これにより、選定手段によって選定された個別工程が、現在、トンネル切羽で行われている個別工程であると判定することができる。そして、トンネル掘削の進捗状況として累積サイクル回数を出力する。
【0019】
本願発明のトンネル進捗出力システムは、支保パターン推定手段とパターン別掘削長設定手段をさらに備えたものとすることもできる。この支保パターン推定手段は、掘削サイクルを構成する一連の個別工程が選定されると、掘削サイクルの種別である「支保パターン」を推定する手段である。またパターン別掘削長設定手段は、支保パターン推定手段が推定した支保パターンに応じて、「パターン別掘削長」を設定する手段である。なお支保パターン推定手段は、あらかじめ計画された支保パターンの順と、累積サイクル回数に基づいて支保パターンを推定する。この場合、パターン別掘削長設定手段によって設定されたパターン別掘削長に基づいて、トンネル進捗としての「トンネル掘削距離」を出力する。
【0020】
本願発明のトンネル進捗出力システムは、サイクル時間算出手段と支保パターン推定手段、パターン別掘削長設定手段をさらに備えたものとすることもできる。このサイクル時間算出手段は、掘削サイクルを構成する一連の個別工程が選定されると、掘削サイクルを構成する個別工程に係る作業時間に基づいて、掘削サイクルに係る「掘削サイクル時間」を算出する手段である。なお、この場合のサイクル回数計上手段は、掘削サイクルを構成する一連の個別工程が選定されると1のサイクル回数を計上し、また選定手段は、トリガー信号を受信したトリガー信号受信手段に係る建設機械に基づいて個別工程を選定するとともに、起動トリガー信号の受信時刻と停止トリガー信号の受信時刻に基づいて個別工程の作業時間を算出する。そして、支保パターン推定手段は、あらかじめ設定された支保パターンごとの「標準掘削サイクル時間」と掘削サイクル時間を照らし合わせることによって支保パターンを推定する。この場合、パターン別掘削長設定手段によって設定されたパターン別掘削長に基づいて、トンネル進捗としての「トンネル掘削距離」を出力する。
【0021】
本願発明のトンネル進捗出力システムは、工程表出力手段をさらに備えたものとすることもできる。この工程表出力手段は、第1軸(トンネル掘削の進捗の程度を示す)と第2軸(時間を示す軸)によって構成されるグラフに、時間に応じた累積サイクル回数やトンネル掘削距離(トンネル掘削の進捗の程度)を表した「斜線工程表」を出力する手段である。
【0022】
本願発明のトンネル進捗出力システムは、風管長算出手段と設備制御手段をさらに備えたものとすることもできる。この風管長算出手段は、トンネル掘削距離に基づいて、換気用風管が設置された長さである風管長を求める手段である。また設備制御手段は、換気用風管に対して送風する送風機を制御する手段である。なお設備制御手段は、風管長に基づいて送風に伴う圧力損失を算出するとともに、圧力損失に応じて送風機の出力を調整する。
【0023】
本願発明のトンネル進捗出力システムは、稼働時間計測手段とCO排出量算出手段をさらに備えたものとすることもできる。この稼働時間計測手段は、設備制御手段に制御されながら稼働する送風機の稼働時間を計測する手段である。またCO排出量算出手段は、送風機の出力別の稼働時間に、あらかじめ出力別に設定された単位時間当たりのCO排出量を乗ずることによって、送風機の稼働に伴うCO排出量を算出する手段である。
【発明の効果】
【0024】
本願発明のトンネル進捗出力システムには、次のような効果がある。
(1)トンネル切羽にサイクルタイムの調査者を常時配置することなく、しかも昼夜2交代制であっても随時サイクルタイムを取得することができるうえ、自動的にトンネル進捗を出力することができる。その結果、施工管理者などの負担が軽減され、常に正確かつ最新のトンネル進捗を把握することができる。
(2)風管長に基づいて算出される圧力損失を考慮したうえで送風機の出力を調整する場合、送風機に係る電力消費を抑えることができ、すなわちCO排出量が低減され、しかも施工に携わる者の環境への意識高揚を図ることができる。
(3)支保パターンを推定するとともに、支保パターンに応じてパターン別掘削長を選定する場合、トンネル進捗としてトンネル掘削距離を出力することができる。
(4)風管長に基づいて算出される圧力損失を考慮したうえで換気設備の出力を調整する場合、換気設備に係る電力消費を抑えることができ、すなわちCO排出量が低減され、しかも施工に携わる者の環境への意識高揚を図ることができる。
(5)従来、切羽作業の種別を把握するにあたっては、電話等によって確認したり、坑内を撮影した画像や動画によって判断したりしていた。本願発明によれば、坑外の表示位置でリアルタイムに状況を把握することができるようになる。その結果、切羽作業に影響されやすい作業を、坑内でスムーズに行うことができる。例えば、セントル(打設型枠)移動時に風管が支障となる場合、換気設備の停止が必要となるが、切羽状況をリアルタイムで把握することができるため、無駄な待機時間なく作業を進めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】個別工程と使用機械、特定電動機器の関係を模式的に示すモデル図。
図2】トンネル掘削で行われる個別工程と、それぞれの個別工程で用いられる使用機械、そして使用機械で設定される特定電動機器の例を示すモデル図。
図3】本願発明のトンネル進捗出力システムの主な構成を示すブロック図。
図4】使用時間と補正時間、作業時間の関係を模式的に表すモデル図。
図5】あらかじめ設定された「5種類の支保パターン、5種類の個別工程に係る作業時間、及び標準掘削サイクル時間の関係」を示すモデル図。
図6】あらかじめ設定された「支保パターンごとの掘削進行長」を示すモデル図。
図7】「斜線工程表」を示すモデル図。
図8】本願発明のトンネル進捗出力システムが作業時間を算出するまでの主な処理の流れを示すフロー図。
図9】本願発明のトンネル進捗出力システムがCO2排出量を算出するまでの主な処理の流れを示すフロー図。
図10】(a)は特定電動機器の「稼働状態」と「休止状態」を模式的に示すモデル図であり、(b)は稼働状態と休止状態の組み合わせに応じて個別工程が選定されることを模式的に示すモデル図。
図11】異なる使用機械のトリガー信号の組み合わせに応じて個別工程が選定されることを模式的に示すモデル図。
図12】トンネル進捗出力方法の主な工程を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本願発明のトンネル進捗出力システムの実施の例を図に基づいて説明する。
【0027】
1.全体概要
本願発明は、切羽掘削やズリ出し、鋼製支保工建込み、コンクリート吹付け、ロックボルト打設といった「個別工程」ごとにそれぞれ異なる種類の建設機械が使用されることに着目するとともに、この建設機械に設けられた電動機器の電源操作に着目してなされた発明である。なお、建設機械には複数種類の電動機器が設けられることもあり、着目すべき電動機器はあらかじめ設定される。便宜上ここでは、着目すべき電動機器のことを特に「特定電動機器」ということとし、また個別工程に使用される建設機械のことを「使用機械」ということとする。
【0028】
図1は、個別工程と使用機械、特定電動機器の関係を模式的に示すモデル図である。この図では3つの個別工程(個別工程01~03)が示されており、例えば個別工程01では使用機械Aが用いられ、この使用機械Aに設けられた電動機器のうち特定電動機器Aが設定されている。そして使用機械Aには、特定電動機器Aを電源操作したときの信号(以下、「トリガー信号」という。)を受信するトリガー信号受信手段Aが搭載されている。より詳しくは、特定電動機器Aに接続されたトリガー信号受信手段Aは、特定電動機器Aの電源がONとされたときのトリガー信号(以下、特に「起動トリガー信号」という。)を受信するとともに、特定電動機器Aの電源ONが解除されたタイミング、つまり電源ONから電源OFFに切り替わった状況を検知する。なお、特定電動機器の電源ONが解除された(電源OFFとされた)タイミングでトリガー信号受信手段が検知する情報のことを特に「停止トリガー信号」ということとし、トリガー信号受信手段がこの停止トリガー信号を検知することを便宜上ここでは停止トリガー信号を「受信する」ということとする。
【0029】
個別工程01では使用機械Aに対して1の特定電動機器Aを設定しているが、これに限らず1の使用機械に対して2以上の種類の特定電動機器を設定することもできる。例えば、個別工程02では使用機械Bが用いられ、この使用機械Bに設けられた電動機器のうち特定電動機器B1と特定電動機器B2が設定されている。そして使用機械Bには、特定電動機器B1のトリガー信号を受信するトリガー信号受信手段B1と、特定電動機器B2のトリガー信号を受信するトリガー信号受信手段B2が搭載されている。
【0030】
また、個別工程01や個別工程02では1の個別工程で1の使用機械(使用機械Aや使用機械B)が使用されるが、個別工程の工種によっては2以上の種類の使用機械が用いられることもある。この場合は、それぞれの使用機械に対して特定電動機器を設定するとよい。例えば、個別工程03では使用機械Cと使用機械Dが用いられ、使用機械Cに設けられた電動機器のうち特定電動機器Cが設定され、さらに使用機械Dに設けられた電動機器のうち特定電動機器Dが設定されている。そして、使用機械Cには特定電動機器Cのトリガー信号を受信するトリガー信号受信手段Cが搭載され、使用機械Dには特定電動機器Dのトリガー信号を受信するトリガー信号受信手段Dが搭載されている。
【0031】
このように、1の特定電動機器には1のトリガー信号受信手段が接続される。したがって、トリガー信号受信手段を特定することができれば、特定電動機器を特定することができ、すなわちその特定電動機器が設けられた使用機械を特定することができ、その結果、その使用機械に係る個別工程を判定することができるわけである。トリガー信号受信手段を特定するにあたっては、他と識別可能な識別子(ID:IDentification)をあらかじめトリガー信号受信手段に付与しておき、この識別子を組み合わせたトリガー信号を取り扱う仕様にすることができる。トリガー信号受信手段は、特定電動機器の電源操作に係る電気コードに連結するなど、特定電動機器側のリレーによるON/OFF(入り/切り)のトリガー信号を受信することができる状態とされる。この場合、トリガー信号はアナログ信号であるから、トリガー信号受信手段がこれをデジタル信号に変換(A/D変換)することになるが、このときにそのトリガー信号受信手段の識別子をデジタル信号に付与するとよい。
【0032】
上記したとおり、トリガー信号受信手段はトリガー信号として起動トリガー信号と停止トリガー信号を受信する。したがって、起動トリガー信号と停止トリガー信号を利用すれば特定電動機器が稼働した時間を推定することができ、すなわちその特定電動機器が設けられた使用機械が稼働した時間を推定することができ、その結果、その使用機械に係る個別工程が実施された時間(以下、「作業時間」という。)を推定することができる。すなわち、トリガー信号受信手段が受信したトリガー信号を利用すれば、トンネル切羽で実施中の(あるいは実施された)個別工程を判定することができるうえ、その個別工程の作業時間を推定することができるわけである。
【0033】
図2は、トンネル掘削で行われる個別工程と、それぞれの個別工程で用いられる使用機械、そして使用機械で設定される特定電動機器の例を示すモデル図である。この図の例では、「切羽掘削」と「ズリ出し」、「1次コンクリート吹付け」、「鋼製支保工建込み」、「2次コンクリート吹付け」、「ロックボルト打設」の組み合わせによって構成され、図に示す順で実施される「掘削サイクル」が示されている。そして切羽掘削では、機械掘削の場合は「ツインヘッダ(自由断面掘削機)」が使用機械とされるとともにその「前照灯」が特定電動機器として設定され、発破掘削の場合は「ドリルジャンボ」が使用機械とされるとともにその「油圧ポンプ」が特定電動機器として設定されている。またズリ出しでは、ズリ積込み用の「サイドダンプ」が使用機械とされるとともにその「前照灯」が特定電動機器として設定されている。すなわち、この図に示す切羽掘削とズリ出しは、図1に示す「個別工程01」のパターンで使用機械や特定電動機器が設定されている。
【0034】
また、1次コンクリート吹付けと鋼製支保工建込み、2次コンクリート吹付けでは、いずれも「コンクリート吹付機(エレクター付き)」が使用機械とされるとともに、その「コンプレッサ」と「油圧ポンプ」が特定電動機器として設定されている。なお、コンクリート吹付機のコンプレッサは、コンクリートを吹付ける際に使用され、一方の油圧ポンプはコンクリートを吹付ける際(ブームの移動)にも鋼製支保工を建込む際(エレクタの移動)にも使用される。すなわち、この図に示す1次コンクリート吹付けと鋼製支保工建込み、2次コンクリート吹付けは、図1に示す「個別工程02」のパターンで使用機械や特定電動機器が設定されている。もちろんこの例に限らず、1次コンクリート吹付け2次コンクリート吹付けでは「コンプレッサ」のみを特定電動機器として設定し、鋼製支保工建込みでは「油圧ポンプ」のみを特定電動機器として設定することもできる。
【0035】
さらに、ロックボルト打設では、「ドリルジャンボ」と「モルタル注入ポンプ」が使用機械とされるとともに、ドリルジャンボに対してはその「油圧ポンプ」が特定電動機器として設定され、モルタル注入ポンプに対してはその「電動モータ」が特定電動機器として設定されている。なお、ロックボルト打設におけるドリルジャンボは、ロックボルト用の削孔とロックボルト挿入に用いられ、一方のモルタル注入ポンプは、ロックボルト孔へのモルタル注入に用いられる。すなわち、この図に示すロックボルト打設は、図1に示す「個別工程03」のパターンで使用機や特定電動機器が設定されている。もちろんこの例に限らず、ロックボルト打設では、「ドリルジャンボ」のみを使用機械としたうえで、その「油圧ポンプ」を特定電動機器として設定することもできる。
【0036】
2.トンネル進捗出力システム
次に、本願発明のトンネル進捗出力システムについて詳しく説明する。
【0037】
図3は、本願発明のトンネル進捗出力システム100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように本願発明のトンネル進捗出力システム100は、トリガー信号受信手段101と選定手段102、サイクル回数計上手段103を含んで構成され、さらに支保パターン推定手段104やパターン別掘削長設定手段105、サイクル時間算出手段106、工程表出力手段107、風管長算出手段108、設備制御手段109、稼働時間計測手段110、CO排出量算出手段111、出力手段112、通信機器113、工程表示制御手段114、工程表示手段115、補正時間記憶手段116、支保パターン記憶手段117、標準サイクル時間記憶手段118、掘削長記憶手段119などを含んで構成することもできる。
【0038】
トンネル進捗出力システム100を構成する主な要素のうち選定手段102とサイクル回数計上手段103、支保パターン推定手段104、パターン別掘削長設定手段105、サイクル時間算出手段106、工程表出力手段107、風管長算出手段108、設備制御手段109、稼働時間計測手段110、CO排出量算出手段111、工程表示制御手段114は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。すなわち、所定のプログラムによってコンピュータ装置に演算処理を実行させることで、それぞれ手段特有の処理を行うわけである。このコンピュータ装置は、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリを具備しており、さらにマウスやキーボード等の入力手段やディスプレイを含むものもあり、例えばパーソナルコンピュータ(PC)やサーバなどによって構成することができる。コンピュータ装置がディスプレイを含む場合、このディスプレイを出力手段112として利用することもできる。
【0039】
また、後述する「補正時間」を記憶する補正時間記憶手段116や支保パターン記憶手段117、標準サイクル時間記憶手段118、掘削長記憶手段119は、汎用的コンピュータの記憶装置を利用することもできるし、データベースサーバに構築することもできる。データベースサーバに構築する場合、ローカルなネットワーク(LAN:Local Area Network)に置くこともできるし、インターネット経由(つまり無線通信)で保存するクラウドサーバとすることもできる。
【0040】
以下、トンネル進捗出力システム100の主な構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0041】
(トリガー信号受信手段)
トリガー信号受信手段101は、既述したとおり使用機械に搭載されるとともに特定電動機器に接続され、その特定電動機器のトリガー信号(起動トリガー信号と停止トリガー信号)を受信するものである。より具体的には、特定電動機器の電源操作に係る電気コードにトリガー信号受信手段を連結することによって、特定電動機器側のリレー開閉による電流の有無を検知し、これにより特定電動機器側の電源ON/OFF(入り/切り)のトリガー信号を受信する。またトリガー信号受信手段101は、受信したアナログ形式のトリガー信号をデジタル信号に変換(A/D変換)するとともに、そのデジタル形式のデジタル信号に当該トリガー信号受信手段101の識別子を付与し、さらに一時的に(あるいは不揮発的に)トリガー信号と識別子を記憶することもできる。
【0042】
(通信機器)
通信機器113は、トンネル坑内に設置され、トリガー信号受信手段101が受信したトリガー信号を選定手段102に送信するもので、WiFi(登録商標)などを利用したいわゆるアクセスポイントである。そのため、通信機器113と選定手段102は無線(あるいは有線)によって接続されており、また通信機器113とトリガー信号受信手段101も無線(あるいは有線)によって接続されている。したがって、通信機器113を設置すると選定手段102はリアルタイムでトリガー信号を受け取ることができ、後続の処理(例えば、個別工程の選定)もやはりリアルタイムで実行することができる。なお、通信機器113を省略しトリガー信号受信手段101にトリガー信号と識別子を記憶させることもできるが、その場合は個別工程の選定などの処理はリアルタイムで実行することが難しく、事後的に判定することとなる。すなわち、通信機器113を設置すれば現在トンネル切羽で実施中の個別工程を把握することができるが、通信機器113を省略すればその分のコストは削減できるものの実施後の個別工程を把握するに留まることとなる。
【0043】
(選定手段)
選定手段102は、トリガー信号を受信し、受信したトリガー信号を利用して個別工程を選定する手段であり、さらに受信した起動トリガー信号と停止トリガー信号に基づいてその個別工程の作業時間を算出することもできる。より詳しくは、選定手段102がトリガー信号に含まれる識別子によって特定電動機器を特定するとともに、その特定電動機器が設けられた使用機械を特定し、さらに当該掘削サイクルを構成する複数の個別工程の中からその使用機械に係る個別工程を選定する。このとき、掘削サイクルを構成する個別工程の実施順は決められていることから、直前の個別工程に基づいて個別工程を選定する仕様とすることもできる。また選定手段102は、起動トリガー信号を受信した時刻を起点とし、停止トリガー信号を受信した時刻を終点としたうえで、起点から終点までの期間のうち一部(あるいは全部)をその個別工程の作業時間として算出する。なお選定手段102は、トンネル坑内に設置することもできるが、トンネル郊外にある管理棟や施工現場事務所など比較的環境が整った場所に設置するとよい。
【0044】
(工程表示制御手段)
工程表示制御手段114は、選定手段102によって選定された個別工程を工程表示手段115に表示させるものである。この工程表示手段115は、トンネル坑口の周辺に設置され、例えば現在トンネル切羽で実施中の個別工程を表示する電光掲示板等である。あるいは、実施中の個別工程とともに、前工程や後続工程の個別工程を表示する仕様とすることもできる。実施中の個別工程を表示することにより、来客者など関係者以外の者に案内することができるため、危険な工種の場合はトンネル坑内への進入が回避されるなど安全性が向上する。またトンネル郊外で待機する作業者にとっては、後続工程に関する適切な準備を行うことができ、効率的に次の工程の作業を行うことができる。なお工程表示制御手段114は、選定手段102と同じ場所(例えば、管理棟や施工現場事務所など)に設置するとよい。
【0045】
(補正時間記憶手段)
既述したとおり選定手段102は、起動トリガー信号を受信した時刻を起点とし、停止トリガー信号を受信した時刻を終点としたうえで、起点から終点までの期間のうち一部(あるいは全部)をその個別工程の作業時間として算出する。ところが個別工程によっては、使用機械が移動する時間や、種々の準備に係る時間など、個別工程の作業時間としてはふさわしくない時間帯が生じることもある。そこで、あらかじめ個別工程ごとに「ふさわしくない時間」を「補正時間(正負で設定可能)」として設定しておき、この補正時間を補正時間記憶手段116に記憶しておくとよい。この場合、選定手段102は、補正時間を勘案したうえで作業時間として算出する。より具体的には、選定手段102が選定した個別工程で補正時間記憶手段116に照会するとともに、その個別工程に係る補正時間を補正時間記憶手段116から読み出す。そして、図4に示すように起動トリガー信号の受信時刻(起点)から停止トリガー信号の受信時刻(終点)までを使用機械の「使用時間」とし、この使用時間から補正時間を差し引くことで「作業時間」を算出する。もちろん、個別工程ごとに異なる補正時間を設定することができ、特定の個別工程には補正時間を設定しないこともできる。
【0046】
(サイクル回数計上手段)
サイクル回数計上手段103は、掘削サイクルを構成する一連の個別工程が選定されると、1の「サイクル回数」を計上する手段であり、さらに掘削開始からのサイクル回数の累計である「累積サイクル回数」を計上することもできる。既述したとおり掘削サイクルは、一連の複数種類の個別工程によって構成され、もちろんその実施順もあらかじめ定められている。例えば図2に示す掘削サイクルは、「切羽掘削」と「ズリ出し」、「1次コンクリート吹付け」、「鋼製支保工建込み」、「2次コンクリート吹付け」、「ロックボルト打設」の個別工程によって構成され、またその順で実施される。したがってサイクル回数計上手段103は、選定手段102によって一連の個別工程が選定されると、1のサイクル回数を計上し、累積サイクル回数を計上する。例えば図2のケースでは、選定手段102によって「切羽掘削」~「ロックボルト打設」が選定されると、サイクル回数計上手段103がサイクル回数や累積サイクル回数を計上する。なおサイクル回数計上手段103は、上記したとおり自動的にサイクル回数を計上する仕様とすることもできるし、オペレータ操作によってサイクル回数を計上する仕様とすることもできる。
【0047】
(サイクル時間算出手段)
サイクル時間算出手段106は、掘削サイクルを構成する一連の個別工程が選定されると(つまり、サイクル回数計上手段103が1のサイクル回数を計上すると)、「掘削サイクル時間」を算出する手段である。ここで掘削サイクル時間とは、1の掘削サイクルに掛かる施工時間のことであり、すなわち掘削サイクルを構成する個別工程に係る作業時間の総和である。サイクル時間算出手段106は、選定手段102によって算出された個別工程に係る作業時間に基づいて、掘削サイクル時間を算出する。
【0048】
(支保パターン推定手段)
支保パターン推定手段104は、掘削サイクルを構成する一連の個別工程が選定されると(つまり、サイクル回数計上手段103が1のサイクル回数を計上すると)、その掘削サイクルの「支保パターン(いわば、掘削サイクルの種別)」を推定する手段である。トンネル掘削を実施するにあたっては、事前に地質調査と実施設計が行われ、支保パターンごとの延長を示すトンネル計画縦断図が作成される。つまり、トンネル坑口から順に並べられる掘削サイクルごとの支保パターンはあらかじめ設定されており、累積サイクル回数が分かれば、その掘削サイクル(最後に加算した掘削サイクル)に対応する計画上の支保パターンを把握することができる。より詳しくは、「掘削サイクルと支保パターン」の組み合わせをトンネル坑口から順に並べたテーブル(以下、「支保パターンテーブル」という。)を支保パターン記憶手段117(図3)に記憶させ、サイクル回数計上手段103によって計上された累積サイクル回数を支保パターン記憶手段117に照会することによって、その累積サイクル回数に対応する支保パターンを読み出すわけである。もちろん、トンネル掘削中に設計変更が行われたときは、その都度、オペレータ操作によって支保パターンテーブルを修正するとよい。
【0049】
支保パターン推定手段104は、累積サイクル回数に基づいて支保パターンを推定する仕様に代えて(あるいは、加えて)、「掘削サイクル時間」に基づいて支保パターンを推定する仕様とすることもできる。過去に実施された同規模の他のトンネルの施工実績や、当該トンネルの途中までの実績などから、それぞれ支保パターンごとの標準的な掘削サイクル時間(以下、単に「標準掘削サイクル時間」という。)を設定することができる。例えば図5では、5種類の支保パターン(D2パターンとD1パターン、C2パターン、C1パターン、Bパターン)と、5種類の個別工程(切羽掘削とズリ出し、1次コンクリート吹付け、鋼製支保工建込み、2次コンクリート吹付け、ロックボルト打設)に係る作業時間、そして標準掘削サイクル時間との関係があらかじめ設定されている。
【0050】
この場合、掘削サイクル時間を得ることができれば、その掘削サイクル時間と近似する(あるいは一致する)標準掘削サイクル時間から支保パターンを推定することができる。より詳しくは、「支保パターンと標準掘削サイクル時間」の組み合わせからなるテーブル(以下、「標準時間テーブル」という。)を標準サイクル時間記憶手段118(図3)に記憶させ、サイクル時間算出手段106によって算出された掘削サイクル時間を標準サイクル時間記憶手段118に照会することによって、その掘削サイクル時間と近似する(あるいは一致する)標準掘削サイクル時間を抽出するととともに、その標準掘削サイクル時間に対応する支保パターンを読み出すわけである。もちろん、トンネル掘削中に標準時間テーブルの見直しが行われたときは、その都度、オペレータ操作によって標準時間テーブルを修正するとよい。
【0051】
(パターン別掘削長設定手段)
パターン別掘削長設定手段105は、支保パターン推定手段104によって推定された支保パターンに応じて、「パターン別掘削長」を設定する手段である。ここでパターン別掘削長とは、1回(1サイクル)の掘削サイクルの掘削進行長(1スパン長)であって、支保パターンごとの掘削進行長である。このパターン別掘削長は、図6に示すように1.0~2.0mで設定されるのが一般的である。つまり、支保パターン推定手段104によって支保パターンが推定されると、その掘削サイクルに対応するパターン別掘削長を把握することができる。より詳しくは、図6に示すような「支保パターンごとの掘削進行長(つまり、パターン別掘削長)」からなるテーブル(以下、「標準掘削長テーブル」という。)を掘削長記憶手段119(図3)に記憶させ、支保パターン推定手段104によって推定された支保パターンを掘削長記憶手段119に照会することによって、その支保パターンに対応するパターン別掘削長を読み出すわけである。そしてパターン別掘削長設定手段105は、掘削開始から累積されたパターン別掘削長(つまり、トンネル坑口から現状の切羽までの距離)である「トンネル掘削距離」を算出する。
【0052】
(工程表出力手段)
工程表出力手段107は、「斜線工程表」をディスプレイなどの出力手段112(図3)に出力する手段である。ここで斜線工程表とは、直交する2軸によって構成されるグラフに、時間に応じたトンネル掘削距離を表したものである。例えば図7では、横軸にトンネル掘削距離を示し、縦軸に掘削開始からの経過時間を示しており、経過時間に応じたトンネル掘削距離をプロットすることによって斜線工程表を生成している。また図7の斜線工程表では、トンネル掘削距離に加え、インバート施工距離や防水工施工距離、覆工コンクリート施工距離なども表示している。なお、トンネル掘削距離と累積サイクル回数がともにトンネル掘削の進捗状況を示す値であることを考えれば、トンネル掘削距離に代えて累積サイクル回数によって斜線工程表を生成することもできる。
【0053】
(風管長算出手段)
風管長算出手段108は、パターン別掘削長設定手段105によって算出されたトンネル掘削距離に基づいて、「風管長」を求める手段である。ここで風管長とは、換気用風管が設置されている現状の長さである。したがって、トンネル切羽が進むに伴って、風管長も順次変化していく。風管長算出手段108が風管長を求めるにあたっては、パターン別掘削長設定手段105によって算出されたトンネル掘削距離が基準とされ、トンネル掘削距離をそのまま風管長とすることもできるし、トンネル掘削距離から所定長さ(例えば10mなど)を減じることによって風管長を求めることもできる。
【0054】
(設備制御手段)
設備制御手段109は、トンネル坑内の風管に空気を送る送風機や、トンネル坑内に設置された集塵機の出力を調整するものである。坑夫の主な作業場所であるトンネル切羽では、工種によってその環境(特に、空気環境)が大きく異なる。例えば、鋼製支保工を建込むときにはそれほど環境は悪くないが、他方、切羽掘削やコンクリート吹付けを行うときは粉塵が多発しその環境は劣悪となる。つまり、送風機や集塵機は、工種に応じた強弱を付けて稼働させるのが望ましい。そこで、設備制御手段109が、選定手段102によって選定された個別工程に応じて送風機や集塵機の出力を調整するわけである。例えば、選定手段102が個別工程として鋼製支保工建込みを選定した場合、設備制御手段109は送風機や集塵機を比較的小さい出力で稼働させ、選定手段102が個別工程として切羽掘削やコンクリート吹付けを選定した場合、設備制御手段109は送風機や集塵機を比較的大きい出力で稼働させるとよい。なお設備制御手段109は、工程表示制御手段114と同様、選定手段102と同じ場所(例えば、管理棟や施工現場事務所など)に設置するとよい。
【0055】
また設備制御手段109は、風管長算出手段108によって求められた風管長に基づいて、換気設備(特に、ブロワといった送風機)の出力を調整することもできる。風管長が長いほどその圧力損失は大きくなる。当然ながら、トンネル貫通直前における風管長を想定したうえで送風機の規模は計画されており、したがって相当程度の風管長になると送風機は最大に近い出力で稼働することになる。換言すれば、まだ風管長が短いときは、それほど大きな出力で送風機を稼働させる必要がない。したがって設備制御手段109は、風管長に基づいて送風に伴う圧力損失を算出し、その圧力損失に応じて送風機の出力を調整するとよい。例えば、3段階の出力で稼働する送風機を利用する場合、設備制御手段109は算出された圧力損失を考慮したうえで3段階のうちいずれかを選択して送風機を稼働させる。
【0056】
(稼働時間計測手段)
稼働時間計測手段110は、送風機に取り付けられて、設備制御手段109に制御されながら稼働する送風機の稼働時間を計測する手段である。また稼働時間計測手段110は、送風機の出力の大きさ(例えば3段階の出力)ごとに分けて、その稼働時間を計測することができる。あるいは送風機のほか施工現場内で使用する様々な装置や機器に稼働時間計測手段110を取り付けて、これら装置等の稼働時間を計測することもできる。
【0057】
(CO排出量算出手段)
CO排出量算出手段111は、稼働時間計測手段110によって計測された送風機の稼働時間に「単位時間当たりのCO排出量」を乗ずることによって、送風機の稼働に伴うCO排出量を算出する手段である。この単位時間当たりのCO排出量は、あらかじめ送風機の出力(例えば3段階の出力)別に設定される。したがってCO排出量算出手段111は、稼働時間計測手段110によって計測された出力(例えば3段階の出力)別の稼働時間に、その出力に応じた単位時間当たりのCO排出量を乗じ、それらを総和することによってCO排出量を算出する。また、稼働時間計測手段110によって様々な装置等の稼働時間が計測される場合は、これら装置等の稼働時間に「単位時間当たりのCO排出量」を乗ずることによって、装置等の稼働に伴うCO排出量を算出することもできる。ただしこの場合、装置や機器ごとに単位時間当たりのCO排出量を設定しておくとよい。
【0058】
図8図9を参照しながら本願発明のトンネル進捗出力システム100を使用したときの主な処理の流れについて説明する。図8は、トンネル進捗出力システム100が作業時間を算出するまでの主な処理の流れを示すフロー図であり、図9は、トンネル進捗出力システム100がCO排出量を算出するまでの主な処理の流れを示すフロー図である。なお図8図9では、中央の列に実施する処理を示し、左列にはその処理に必要な入力情報を、右列にはその処理から生まれる出力情報を示している。
【0059】
例えば、坑夫がツインヘッダ(あるいはロードヘッダ)の前照灯の電源をONにすると、トリガー信号受信手段101が起動トリガー信号を受信する(図8のStep201)。起動トリガー信号を受信したタイミングで選定手段102が個別工程を選定することもできるが、操作ミスなどのノイズを排除するため起動トリガー信号の受信後に一定期間だけ待機するとよい(図8のStep202)。そして、あらかじめ定めた一定期間が経過すると(図8のStep203のYes)後続の処理に進み、一定期間が経過していなければ(図8のStep203のNo)引き続き待機する。
【0060】
起動トリガー信号の受信後に一定期間が経過すると、選定手段102がトリガー信号(起動トリガー信号)に基づいて掘削サイクルを構成する複数の個別工程の中から個別工程を選定する(図8のStep204)。このとき、前工程として選定した個別工程を参考にしたうえで選定するとよい。例えば、サイドダンプ(使用機械)の前照灯(特定電動機器)に係る起動トリガー信号を受信した場合、前工程として切羽掘削が選定されていることを確認したうえで、ズリ出しを個別工程として選定するわけである。ところで、図1に示す「個別工程01」のパターンであれば、選定手段102は1の特定電動機器を特定することができ、1の使用機械を特定することができるが、図1に示す「個別工程02」や「個別工程03」のパターンでは複数の情報が得られるため種々の手法で個別工程を選定することができる。
【0061】
例えば個別工程02のパターンでは、1の使用機械に対して複数の特定電動機器が設定されているため、複数のトリガー信号を利用することができる。この場合、それぞれの特定電動機器の「稼働状態」と「休止状態」を判定したうえで個別工程を選定するとよい。図10(a)は、特定電動機器の「稼働状態」と「休止状態」を模式的に示すモデル図であり、図10(b)は、稼働状態と休止状態の組み合わせに応じて個別工程が選定されることを模式的に示すモデル図である。この図に示すように、同一の特定電動機器に係る起動トリガー信号の受信時刻から停止トリガー信号の受信時刻までが「稼働状態」とされ、同一の特定電動機器に係る停止トリガー信号の受信時刻から次の起動トリガー信号の受信時刻までが「休止状態」とされる。そして選定手段102は、例えばコンクリート吹付機(使用機械)の油圧ポンプ(特定電動機器)が稼働状態であってコンプレッサ(特定電動機器)が休止状態であれば個別工程として「鋼製支保工建込み」を選定し、コンクリート吹付機の油圧ポンプとコンプレッサがともに稼働状態であれば個別工程として「コンクリート吹付け」を選定する。
【0062】
また個別工程03のパターンでは、1の個別工程に対して複数の使用機械が設定されているため、複数のトリガー信号を利用することができる。この場合、作業時間の起点と終点を、それぞれ異なる使用機械のトリガー信号によって判定するとよい。図11は、異なる使用機械のトリガー信号の組み合わせに応じて個別工程が選定されることを模式的に示すモデル図である。発破掘削の場合、ロックボルト打設の後に切羽掘削が行われるため、ロックボルト打設の開始時にドリルジャンボ(使用機械)の油圧ポンプ(特定電動機器)に係る起動トリガー信号を受信した後に、切羽掘削の終了時にドリルジャンボの油圧ポンプに係る停止トリガー信号を受信することも考えられる。つまり、ロックボルト打設と切羽掘削の間に区切りとなるトリガー信号を受信することがなく、ロックボルト打設と切羽掘削が一連の個別工程(この場合、ロックボルト打設が継続している)と判定され、ロックボルト打設と切羽掘削を適切に選定することができない。
【0063】
そこで、図11に示すように選定手段102は、ドリルジャンボとは異なる使用機械(モルタル注入ポンプ)に係るトリガー信号を利用する。例えば選定手段102は、ドリルジャンボの油圧ポンプに係る起動トリガー信号を受信したときに「ロックボルト打設」が開始されたと判定し、モルタル注入ポンプに係る停止トリガー信号を受信したときに「ロックボルト打設」が終了するとともに「切羽掘削」が開始されたと判定する。そして、ドリルジャンボの油圧ポンプに係る停止トリガー信号を受信したときに「切羽掘削」が終了したと判定する。すなわち選定手段102は、ドリルジャンボの油圧ポンプに係る起動トリガー信号の受信からモルタル注入ポンプに係る停止トリガー信号の受信までの間は「ロックボルト打設」を選定し、モルタル注入ポンプに係る停止トリガー信号の受信からドリルジャンボの油圧ポンプに係る停止トリガー信号の受信までの間は「切羽掘削」を選定するわけである。ここでトリガー信号受信手段101がドリルジャンボの油圧ポンプに係る起動トリガー信号を受信した後にモルタル注入ポンプに係る起動トリガー信号を受信することになるが、そのときは「ロックボルト打設」が継続していると判定する。なお、モルタル注入ポンプに係る停止トリガー信号を受信したときに「切羽掘削」が開始されたと判定する場合、実際よりも長い作業時間が算出される可能性もあることから、この場合は「補正時間」を減じることで作業時間を調整したうえで求めるとよい。
【0064】
選定手段102によって個別工程が選定されると、工程表示制御手段114がその個別工程を工程表示手段115に表示させ(図8のStep205)、設備制御手段109がその個別工程に応じて送風機や集塵機の出力を調整する(図8のStep206)。
【0065】
実施中の個別工程が終了し、例えば坑夫がツインヘッダ(あるいはロードヘッダ)の前照灯の電源をOFFとすると、トリガー信号受信手段101が停止トリガー信号を受信する(図8のStep207)。そして選定手段102が、起動トリガー信号を受信した時刻を起点、停止トリガー信号を受信した時刻を終点としたうえで、当該個別工程の作業時間を算出する(図8のStep208)。このとき、「補正時間」を用いることで作業時間を求めることができることは既述したとおりである。
【0066】
個別工程が選定され、その作業時間が算出されると、掘削サイクルが終了したか否かを判定する(図9のStep209)。すなわち、掘削サイクルのうち途中の個別工程が選定されたとき(図9のStep209のNo)は、掘削サイクルが終了していないと判定して個別工程の選定(図8のStep204)を継続して実施する。一方、掘削サイクルを構成する一連の個別工程がすべて選定されたとき(図9のStep209のYes)は、掘削サイクルが終了したと判定して、1のサイクル回数を計上するとともに、累積サイクル回数を計上する(図9のStep210)。
【0067】
サイクル回数や累積サイクル回数を計上すると、支保パターン推定手段104がその掘削サイクル(サイクル回数を計上した掘削サイクル)の「支保パターン」を推定し(図9のStep211)、パターン別掘削長設定手段105がその支保パターンに係る「パターン別掘削長」を設定するとともに「トンネル掘削距離」を算出する(図9のStep212)。
【0068】
トンネル掘削距離が得られると、工程表出力手段107が「斜線工程表」を更新し、その斜線工程表をディスプレイなどの出力手段112に出力する(図9のStep213)。また風管長算出手段108が、パターン別掘削長設定手段105によって算出されたトンネル掘削距離に基づいて風管長を算出し(図9のStep214)、設備制御手段109が、その風管長に基づいて送風に伴う圧力損失を算出するとともに、その圧力損失に応じて送風機の出力を調整する(図9のStep215)。
【0069】
稼働時間計測手段110は、連続して、あるいは定期的に、送風機等の稼働時間を計測する(図9のStep216)。そしてCO排出量算出手段111は、連続して(または定期的に)、あるいはオペレータ操作に応じて、送風機等の稼働に伴うCO排出量を算出する(図9のStep217)。
【0070】
3.トンネル進捗出力方法
続いてトンネル進捗出力方法について図12を参照しながら説明する。なお、トンネル進捗出力方法は、ここまで説明したトンネル進捗出力システム100を用いてトンネル進捗の程度(累積サイクル回数やトンネル掘削距離)を出力する方法であり、したがってトンネル進捗出力システム100で説明した内容と重複する説明は避け、トンネル進捗出力方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.トンネル進捗出力システム」で説明したものと同様である。
【0071】
図12は、トンネル進捗出力方法の主な工程を示すフロー図である。この図に示すように、まずはトリガー信号受信手段101が起動トリガー信号を受信する(図12のStep301)。例えば、坑夫によってサイドダンプの前照灯の電源がONにされると、トリガー信号受信手段101がサイドダンプの前照灯に係る起動トリガー信号を受信する。
【0072】
起動トリガー信号を受信すると、選定手段102によってそのトリガー信号(起動トリガー信号)に応じた個別工程を選定する(図12のStep302)。そして、工程表示制御手段114がその個別工程を工程表示手段115に表示させ(図12のStep303)、設備制御手段109がその個別工程に応じて送風機や集塵機の出力を調整する(図12のStep304)。
【0073】
実施中の個別工程が終了し、例えば坑夫がサイドダンプの前照灯の電源をOFFとすると、トリガー信号受信手段101が停止トリガー信号を受信する。そして選定手段102が、起動トリガー信号を受信した時刻を起点、停止トリガー信号を受信した時刻を終点としたうえで、当該個別工程の作業時間を算出する(図12のStep305)。
【0074】
個別工程が選定され、さらに掘削サイクルが終了したと判定されると、1のサイクル回数を計上するとともに、累積サイクル回数を計上する(図12のStep306)。そしてその掘削サイクルの「支保パターン」を推定し(図12のStep307)、その支保パターンに係る「パターン別掘削長」を設定するとともに「トンネル掘削距離」を算出する(図12のStep308)。またトンネル掘削距離が得られると、「斜線工程表」を更新するし、その斜線工程表をディスプレイなどの出力手段112に出力する(図12のStep309)。
【0075】
他方、施工中は連続して、あるいは定期的に、送風機等の稼働時間を計測し(図12のStep310)、送風機等の稼働時間に基づいてその稼働に伴うCO排出量を算出する(図12のStep311)。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本願発明のトンネル進捗出力システムは、トンネル掘削のほか、土工事やコンクリート工事など複数の異なる個別工程が交代制で行われる建設現場で利用することができる。本願発明によれば、工事のサイクルタイムを効率的に分析することができ、その結果、実績に基づく適切な原価管理を行うことができるようになり、延いては建設インフラストラクチャーにかかる費用の低減化を図ることができることを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明である。
【符号の説明】
【0077】
100 本願発明のトンネル進捗出力システム
101 (トンネル進捗出力システムの)トリガー信号受信手段
102 (トンネル進捗出力システムの)選定手段
103 (トンネル進捗出力システムの)サイクル回数計上手段
104 (トンネル進捗出力システムの)支保パターン推定手段
105 (トンネル進捗出力システムの)パターン別掘削長設定手段
106 (トンネル進捗出力システムの)サイクル時間算出手段
107 (トンネル進捗出力システムの)工程表出力手段
108 (トンネル進捗出力システムの)風管長算出手段
109 (トンネル進捗出力システムの)設備制御手段
110 (トンネル進捗出力システムの)稼働時間計測手段
111 (トンネル進捗出力システムの)CO排出量算出手段
112 (トンネル進捗出力システムの)出力手段
113 (トンネル進捗出力システムの)通信機器
114 (トンネル進捗出力システムの)工程表示制御手段
115 (トンネル進捗出力システムの)工程表示手段
116 (トンネル進捗出力システムの)補正時間記憶手段
117 (トンネル進捗出力システムの)支保パターン記憶手段
118 (トンネル進捗出力システムの)標準サイクル時間記憶手段
119 (トンネル進捗出力システムの)掘削長記憶手段
図1
図2
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図12