IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 明治ホールディングス株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-騒音性難聴予防用組成物 図1
  • 特開-騒音性難聴予防用組成物 図2A
  • 特開-騒音性難聴予防用組成物 図2B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156318
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】騒音性難聴予防用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/13 20160101AFI20241029BHJP
   A61K 31/706 20060101ALI20241029BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20241029BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20241029BHJP
   A23L 33/15 20160101ALI20241029BHJP
【FI】
A23L33/13
A61K31/706
A61P27/16
A23L2/00 F
A23L2/52
A23L33/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070682
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】311002148
【氏名又は名称】明治ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萬治 愛子
(72)【発明者】
【氏名】若林 潤
(72)【発明者】
【氏名】森藤 雅史
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C086
【Fターム(参考)】
4B018MD18
4B018MD23
4B018MD44
4B018ME14
4B117LC04
4B117LK06
4B117LK16
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA34
(57)【要約】
【課題】 騒音性難聴に対して予防作用を有する組成物を提供すること。
【解決手段】 騒音性難聴の予防のための組成物であり、
ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を有効成分として含有し、
前記騒音性難聴が、音圧100dBで1時間以上の騒音又はこれに相当する騒音による負荷によって惹起される難聴であり、かつ、
前記騒音の負荷の14日以上前から対象に経口投与される
ことを特徴とする、騒音性難聴予防用組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
騒音性難聴の予防のための組成物であり、
ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を有効成分として含有し、
前記騒音性難聴が、音圧100dBで1時間以上の騒音又はこれに相当する騒音による負荷によって惹起される難聴であり、かつ、
前記騒音の負荷の14日以上前から対象に経口投与される
ことを特徴とする、騒音性難聴予防用組成物。
【請求項2】
前記対象において、前記騒音の負荷前の周波数32kHzの音域におけるABR検査で測定される音圧閾値(pre(dB SPL))と、前記騒音の負荷から1日後に周波数32kHzの音域におけるABR検査で測定される音圧閾値(day1(dB SPL))との差(day1-pre)が45dB SPL以下であることを特徴とする、請求項1に記載の騒音性難聴予防用組成物。
【請求項3】
飲食組成物、医薬組成物、又は医薬部外組成物であることを特徴とする、請求項1に記載の騒音性難聴予防用組成物。
【請求項4】
ヒトに対する投与量が、体重1kgあたり、かつ、1日あたり、ニコチンアミドモノヌクレオチド量で0.01~500mgであることを特徴とする、請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の騒音性難聴予防用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、騒音性難聴予防用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物の聴力低下の主な原因の1つとして騒音暴露が挙げられ、騒音暴露(騒音による負荷)によって惹起される聴力の低下を「騒音性難聴」と呼ぶ。騒音性難聴は内耳、蝸牛神経、脳等の障害によって発症し、特に、音の刺激を神経の電気信号に変換する役割を担う蝸牛内の有毛細胞が損傷することに起因する。損傷した有毛細胞は再生されないため、聴力の回復が困難であり、騒音性難聴では特に予防が重要である。
【0003】
従来、騒音性難聴については、例えば、特表2015-524408号公報(特許文献1)において、ニコチンアミドリボシド(NR)の有効量を哺乳動物に投与することにより、その難聴を予防又は治療する方法が記載されている。また、例えば、中国特許出願公開第105535009号明細書(特許文献2)には、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を含む、聴力損失を予防し治療する薬物又は健康食品が記載されており、腹腔投与により、騒音性難聴に対する予防作用を評価したことが記載されている。しかしながら、経口投与による騒音性難聴の予防に注目した研究は、未だ十分になされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2015-524408号公報
【特許文献2】中国特許出願公開第105535009号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、騒音による負荷によって聴力が低下する騒音性難聴に対して予防作用を有する組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ね、騒音性難聴の予防に有効な成分を探索したところ、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を騒音による負荷に先んじてマウスに経口投与しておくことによって、これを投与しなかった場合には騒音の負荷により聴力が著しく低下したのに対して、これを投与した場合にはかかる聴力の低下を有意に抑制できる、すなわち、ニコチンアミドモノヌクレオチドには騒音性難聴の予防作用があることを新たに見い出した。よって、ニコチンアミドモノヌクレオチドを有効成分とする組成物を対象に経口投与(摂取も含む)せしめることにより、特に騒音性難聴を予防できることが明らかとなり、本発明を完成するに至った。かかる知見により得られた本発明の態様は次のとおりである。
[1]
騒音性難聴の予防のための組成物であり、
ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を有効成分として含有し、
前記騒音性難聴が、音圧100dBで1時間以上の騒音又はこれに相当する騒音による負荷によって惹起される難聴であり、かつ、
前記騒音の負荷の14日以上前から対象に経口投与される
騒音性難聴予防用組成物。
[2]
前記対象において、前記騒音の負荷前の周波数32kHzの音域におけるABR検査で測定される音圧閾値(pre(dB SPL))と、前記騒音の負荷から1日後に周波数32kHzの音域におけるABR検査で測定される音圧閾値(day1(dB SPL))との差(day1-pre)が45dB SPL以下である、[1]に記載の騒音性難聴予防用組成物。
[3]
飲食組成物、医薬組成物、又は医薬部外組成物である、[1]又は[2]に記載の騒音性難聴予防用組成物。
[4]
ヒトに対する投与量が、体重1kgあたり、かつ、1日あたり、ニコチンアミドモノヌクレオチド量で0.01~500mgである、[1]~[3]のうちのいずれか一項に記載の騒音性難聴予防用組成物。
[5]
騒音性難聴の予防のためのニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)の使用であり、
前記騒音性難聴が、音圧100dBで1時間以上の騒音又はこれに相当する騒音による負荷によって惹起される難聴であり、
前記騒音の負荷の14日以上前から対象に経口投与される、使用。
[6]
騒音性難聴予防用組成物の製造のための、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)の使用であり、
前記騒音性難聴が、音圧100dBで1時間以上の騒音又はこれに相当する騒音による負荷によって惹起される難聴であり、
前記騒音の負荷の14日以上前から対象に経口投与される、使用。
[7]
騒音性難聴の予防方法であり、
前記騒音性難聴が、音圧100dBで1時間以上の騒音又はこれに相当する騒音による負荷によって惹起される難聴であり、
前記騒音の負荷の14日以上前から、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)の有効量を対象に経口投与する工程を含む、
方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、騒音による負荷によって聴力が低下する騒音性難聴に対して予防作用を有する組成物を提供することが可能となる。また、本発明の組成物は、飲食組成物としても提供することができるため、摂取により経口投与しやすく、また、習慣化しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】試験例1の投与試験における投与期間、騒音負荷、及びABR検査の日程を示す概略図である。
図2A】試験例1のABR検査で測定された、各群の各ABR検査時期(day:-15、1、7、14)における音圧閾値の平均値(dB SPL)及び標準誤差を示すグラフである。
図2B】試験例1のABR検査で測定された、各群ごとの騒音負荷から1、7、14日後(day:1、7、14)の各音圧閾値から投与前(day:-15)の音圧閾値を引いた音圧閾値差(ΔdB SPL)及びその標準誤差を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0010】
<騒音性難聴予防用組成物>
本発明は、ニコチンアミドモノヌクレオチドを有効成分として含有する騒音性難聴の予防のための組成物(本明細書中、場合により「騒音性難聴予防用組成物」又は単に「本発明の組成物」という)を提供する。
【0011】
本発明の騒音性難聴予防用組成物に含有される有効成分は、ニコチンアミドモノヌクレオチド(本明細書中、場合により「NMN」ともいう)である。本発明者らは、ニコチンアミドモノヌクレオチドが、特に騒音の負荷によって惹起される聴力の低下の予防作用を有し、優れた騒音性難聴の予防作用を奏することを見い出した。
【0012】
本発明に係るニコチンアミドモノヌクレオチドとは、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドのことを示し、NMNとも略す。β-ニコチンアミドモノヌクレオチドは、ニコチンアミド及びニコチンアミドリボシドが生体内でニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH、NAD)に変換される際の中間代謝物である。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドは、酸化還元補酵素として生体内の脱水素反応で中心的な役割を果たすことが知られている。
【0013】
本発明に係るニコチンアミドモノヌクレオチドとしては、遊離の形態(フリー体)であっても、水和物や塩の形態であってもよく、本明細書中、単に「ニコチンアミドモノヌクレオチド」という場合にはこれらのいずれも包含する。前記塩としては、本発明の効果が阻害されない限り特に限定されず、食品又は医薬品上許容可能な塩が挙げられ、より具体的には、例えば、有機酸(例えば、酢酸、酒石酸、脂肪酸等)、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、過塩素酸等)、無機塩基(例えば、カリウム、ナトリウム、亜鉛等)などとの塩が挙げられ、これらの塩のうちの1種であっても2種以上の組み合わせであってもよい。本発明に係るニコチンアミドモノヌクレオチドの形態は、組成物の形態、投与方法等に応じて適宜選択することができる。
【0014】
本発明に係るニコチンアミドモノヌクレオチドの由来としては特に限定されず、例えば、素材や食品(肉類、乳、野菜類、甲殻類(エビ、カニ)、キノコなど)等から、搾汁、濃縮、精製、析出、及び抽出等の従来公知の方法又はそれに準じた方法を用いて得ることができる。また、本発明に係るニコチンアミドモノヌクレオチドとしては、乳酸菌等の発酵物などの、微生物を用いて生産したものや、化学的に合成したもの等であってもよい。さらに、市販のもの(例えば、Sigma Aldrich社製、東京化成工業社製、又はオリエンタル酵母工業社製のβ-ニコチンアミドモノヌクレオチド等)を適宜入手してもよい。
【0015】
本発明の組成物において、ニコチンアミドモノヌクレオチドの含有量(フリー体換算、以下同じ)としては、組成物の形態、投与量、投与の目的や方法等に応じて適宜調整されるものであるため、特に限定されず、組成物の全質量に対して0.001~100質量%とすることができるが、例えば、本発明の組成物が飲食組成物である場合には、0.01~10質量%であることがより好ましく、0.01~1質量%であることがさらに好ましい。また、例えば、医薬組成物又は医薬部外組成物である場合には、0.01~10質量%であることがより好ましい。
【0016】
本発明の組成物は、本発明の効果が阻害されない限り、ニコチンアミドモノヌクレオチドの他に、さらに、食品又は医薬品上許容可能な他の成分を含有していてもよい。前記他の成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、水、脂質、糖類、糖アルコール類、ミネラル類、ビタミン類、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、有機酸、乳酸菌(ラクトバチルス属、ビフィドバクテリウム属等)、酵母、前記乳酸菌及び/又は酵母の処理物(破砕処理物、加熱処理物等)、前記乳酸菌及び/又は酵母の発酵物、製剤化補助剤、ニコチンアミドモノヌクレオチド以外の他の有効成分が挙げられる。
【0017】
前記脂質としては、特に限定されないが、より具体的には、例えば、大豆油、コーン油、パーム油、エゴマ油、キャノーラ油、サフラワー油、ひまわり油、ごま油、米油、ぶどう種子油、魚油、べに花油、なたね油、及び落花生油等の天然油脂;炭素数6~12程度の中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)等の合成油脂が挙げられる。
【0018】
前記糖類としては、特に限定されないが、より具体的には、例えば、デンプン、デキストリン、マルトデキストリン、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラクツロース、イヌリン、麦芽糖、ショ糖、グルコース、及びシクロデキストリンが挙げられる。
【0019】
前記糖アルコール類としては、特に限定されないが、より具体的には、例えば、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、エリスリトール、還元水飴、還元パラチノース等の甘味料が挙げられる。
【0020】
前記ミネラル類としては、特に限定されないが、より具体的には、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、リン、鉄、マンガン、銅、亜鉛、ヨウ素、亜鉛、セレン、クロム、及びモリブデンが挙げられる。
【0021】
前記ビタミン類としては、特に限定されないが、ビタミンA、B1、B2、B5、B6、B7、B9、B12、C、D、E、Kが挙げられる。
【0022】
前記製剤化補助剤としては、特に限定されないが、より具体的には、例えば、溶剤、分散剤、乳化剤、増粘剤、増粘安定剤、ゲル化剤、界面活性剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味剤、溶解助剤、懸濁剤、コーティング剤、担体(固体担体、水等の液体担体)、保存剤、香料、着色剤、pH調整剤が挙げられる。
【0023】
前記ニコチンアミドモノヌクレオチド以外の他の有効成分としては、特に限定されないが、より具体的には、例えば、食物繊維(難消化性デキストリン等)、果実・野菜及びその加工品、動物及び植物抽出エキス、天然由来高分子(コラーゲン、ヒアルロン酸、コンドロイチン等)等が挙げられる。
【0024】
上記の他の成分としては、1種のみであっても2種以上が含有されていてもよい。また、これら他の成分を含有する場合、当該他の成分の含有量は特に限定されず、組成物の形態、投与量、投与の目的や方法等に応じて適宜調整することができる。
【0025】
本発明の組成物の投与形態は、経口投与であり、本発明の組成物は、かかる投与形態に応じた経口用組成物とすることができる。また、本発明の組成物は、組成物を投与する目的、対象、方法、投与量等に応じて、例えば、医薬組成物、医薬部外組成物、飲食組成物、又は飼料組成物とすることができる。
【0026】
本発明に係る医薬組成物及び医薬部外組成物としては、例えば、製剤とすることができ、その形態は特に限定されないが、例えば、錠剤、丸剤、顆粒剤、散剤、粉末剤、カプセル剤等の固形剤;一般液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤等の液剤;ゼリー剤等が挙げられる。前記製剤は、例えば、ニコチンアミドモノヌクレオチドに前記製剤化補助剤のうちの1種又は2種以上、さらに必要に応じて前記他の成分のうちの1種又は2種以上を加えて、公知の方法又はそれに準じた方法によって製造することができる。
【0027】
本発明に係る飲食組成物の形態としては、特に限定されず、例えば、バーのような固形状、飲料や流動食のような液状、ペースト状、半液体状、ゲル状(ゼリー状)、ゲル状油脂(半固形状油脂)、粉末状等の形態が挙げられる。また、前記飲食組成物としては、流動食、粉末流動食、栄養ペースト、経口栄養剤、飲料、ゲル状食品などとして、患者や高齢者、乳幼児等に投与することもできる。
【0028】
本発明に係る飲食組成物の例としては、特に限定されないが、例えば、飲料(茶類、炭酸飲料、ココア、コーヒー、乳酸菌飲料、豆乳飲料、果汁・野菜汁飲料、清涼飲料、栄養飲料、アルコール飲料等)、加工食品(チョコレート、ガム、グミ、ゼリー、焼菓子(パン、ケーキ、クッキー、ビスケット等)、キャンデー等)、乳製品(調製粉乳(粉末ミルク等)、調整乳、乳飲料、発酵乳、ヨーグルト、アイスクリーム、チーズ、クリーム、バター、マーガリン、練乳等)、調味料(ソース、スープ、ドレッシング、マヨネーズ、マヨネーズタイプ調味料、クリーム等)、サプリメント、食用油、機能性食用油脂が挙げられる。このような飲食組成物は、例えば、既存の飲食品又はその原料若しくは製造過程の中間産物に、本発明に係るニコチンアミドモノヌクレオチドを配合する方法等によって製造することができる。この場合に配合するニコチンアミドモノヌクレオチドは、前記医薬組成物又は医薬部外組成物の形態であってもよい。
【0029】
また、本発明に係る飲食組成物としては、例えば、一般食品、健康食品、機能性食品、保健機能食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、栄養補助食品、機能性表示食品等)、特別用途食品(例えば、幼児用食品、妊産婦用食品、病者用食品等)、メディカルフード(米国食品医薬品局(FDA)及びオーファンドラッグ法により定義された医師の管理において処方される食品)、治療食(治療の目的を果たすものであり、医師による食事箋に従って栄養士等が作成した献立に基づいて調理されたもの)、食事療法食としてもよい。また、前記飲食組成物には、その製品において本発明に係るニコチンアミドモノヌクレオチドによりもたらされる作用・効能(騒音性難聴の予防)が表示されていてもよい。
【0030】
本発明に係る飼料組成物としては、飼料組成物を投与する目的、対象、方法、投与量等に応じて、上記飲食組成物を適宜改変したものが挙げられる。
【0031】
本発明の組成物としては、製造後から投与までの間、包装容器内に包装(好ましくは封入)されていることが好ましい。前記包装容器としては、特に限定されるものではないが、例えば、包装紙、包装袋、ソフトバック、チューブ、チアパック、紙容器、缶、ボトル、カプセルが挙げられる。
【0032】
本発明の組成物は、上記のニコチンアミドモノヌクレオチドを有効成分として含有し、対象に騒音の負荷の14日以上前から経口投与される。これにより、前記対象における騒音性難聴が予防される。そのため、本発明は、騒音性難聴の予防のための、ニコチンアミドモノヌクレオチドの使用、並びに、騒音性難聴の予防用組成物の製造のための、ニコチンアミドモノヌクレオチドの使用も提供する。また、本発明の組成物は、前記騒音性難聴の改善のために用いてもよいが、かかる用途は除外してもよい。
【0033】
前記対象としては、ヒト又は非ヒト哺乳動物が挙げられ、前記非ヒト哺乳動物としては、マウス、ヒツジ、ウシ、ブタ、ウマ、サル、イヌ、ネコ、ウサギ等が挙げられる。前記対象としては、騒音性難聴の発症の予防を目的とする者であるが、既に騒音性難聴に罹患している者であってもよい。また、本発明において、経口投与には、前記飲食組成物や前記飼料組成物等の摂取も含む。
【0034】
本発明の組成物は、騒音の負荷の14日以上前(騒音負荷日を0日として、-14日以前)から継続的に負荷日の前日まで、すなわち前記負荷の14日以上前から14日間以上、前記対象に経口投与される。前記騒音の負荷前の投与日数としては、少なくとも7日間以上であることが好ましく、14日間以上であることがより好ましい。前記投与日数の上限としては特に制限されないが、30日間であることが好ましく、25日間であることがより好ましい。本発明において、「継続的」とは、毎日であることが好ましく、下記の投与量で1日1回~複数回(好ましくは1回)であることがより好ましい。
【0035】
本発明の組成物は、前記騒音の負荷日及び/又は負荷後にさらに投与されることも好ましい。この場合、当該騒音の負荷後の投与日数としては、騒音負荷日を0日として、0~30日後の間であることが好ましく、0~14日後の間(15日間)であることがより好ましい。
【0036】
本発明の組成物の投与量としては、組成物の形態;投与の目的や方法;対象の種、年齢、体重、性別、既往症等を考慮して、個々の場合に応じて適宜決定することができる。よって、特に限定されるものではないが、例えば、ヒト(好ましくは、成人)に対する投与量としては、ニコチンアミドモノヌクレオチドの量(フリー体換算、以下同じ)で、対象の体重1kgあたり、かつ、1日あたり、0.01~500mgであることが好ましく、例えば、1~500mg、2~250mg、10~200mgであることがより好ましい。
【0037】
本発明の組成物によって予防される騒音性難聴は、具体的には、音圧100dBで1時間以上の騒音、好ましくは音圧110dBで2時間以上の騒音又はこれに相当する騒音による負荷によって惹起される難聴である。音圧110dBの騒音に相当する騒音としては、例えば、ピアノ、音楽会場、クラブ、犬の鳴き声、自動車のクラクション、建設現場が挙げられる。前記騒音の上限としては、例えば、音圧110bBで3時間が挙げられる。また、前記騒音の周波数としては、8~96kHzであることが好ましい。
【0038】
本発明に係る騒音性難聴としては、周波数17kHz以上、20kHz以上、23kHz以上、25kHz以上、30kHz以上の音域における聴力低下が挙げられるが、周波数32kHz以上の音域における聴力低下であることが好ましい。本発明者らは、ニコチンアミドモノヌクレオチドがかかる高音域における聴力の低下を特に抑制できることを見出した。前記聴力低下の音域の上限としては、例えば、50kHz、又は96kHzが挙げられる。これらの上限値と下限値とは適宜組み合わせることができ、本発明に係る騒音性難聴としては、17~96kHz、20~96kHz、23~96kHz、25~96kHz、30~96kHz、32~96kHz、又は32~50kHzの音域における聴力低下であることがさらに好ましい。本発明の組成物としては、低音域(例えば、17kHz未満(例えば16kHz以下)、20kHz未満(例えば19kHz以下)、23kHz未満(例えば22kHz以下)、25kHz未満(例えば24kHz以下))、30kHz未満(例えば29kHz以下))、32kHz未満(例えば31kHz以下))における聴力低下の予防のためにも用いてよいが、かかる用途は除外してもよい。
【0039】
本発明において、前記騒音性難聴が予防されることは、臨床的に前記音域における聴力低下が抑制されたことの他、例えば、本発明の組成物又はニコチンアミドモノヌクレオチドを投与しなかった群、騒音負荷のなかった群、又は騒音負荷前の同一対象を基準として、前記音域における聴力が維持されたこと等によって確認することができる。
【0040】
より具体的には、例えば、前記対象において、前記騒音の負荷前の周波数32kHzの音域におけるABR検査で測定される音圧閾値(pre(dB SPL))と、前記騒音の負荷から1日後に周波数32kHzの音域におけるABR検査で測定される音圧閾値(day1(dB SPL))との差(day1-pre)が45dB SPL以下であることが好ましく、40dB SPL以下であることがより好ましく、35dB SPL以下であることがさらに好ましい。また、例えば、前記対象において、前記騒音の負荷前の周波数32kHzの音域におけるABR検査で測定される音圧閾値(pre(dB SPL))と、前記騒音の負荷から14日後に周波数32kHzの音域におけるABR検査で測定される音圧閾値(day14(dB SPL))との差(day14-pre)が25dB SPL以下であることが好ましく、20dB SPL以下であることがより好ましく、15dB SPL以下であることがさらに好ましい。
【0041】
或いは、例えば、本発明の組成物又はニコチンアミドモノヌクレオチドを投与しなかった群(対照群)を基準として、前記騒音の負荷前の周波数32kHzの音域におけるABR検査で測定される音圧閾値(pre(dB SPL))と、前記騒音の負荷から1日後に周波数32kHzの音域におけるABR検査で測定される音圧閾値(day1(dB SPL))との差(day1-pre)が、前記対照群の(day1-pre)の90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、70%以下であることがさらに好ましい。また、例えば、前記対象において、前記騒音の負荷前の周波数32kHzの音域におけるABR検査で測定される音圧閾値(pre(dB SPL))と、前記騒音の負荷から14日後に周波数32kHzの音域におけるABR検査で測定される音圧閾値(day14(dB SPL))との差(day14-pre)が、前記対照群の(day14-pre)の70%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましく、50%以下であることがさらに好ましい。
【0042】
前記ABR検査は、Auditory Brainstem Response(聴性脳幹反応)検査であり、適宜公知の方法で実施することができる。好ましくは下記の実施例に記載の方法が挙げられ、また、ヒトに対しては、例えば、左右の耳たぶと頭部(頭頂部と前額部)との計4ヶ所に脳波形の電極をとりつけ、音圧範囲:10-90dB、音の種類:32kHzのTone burstの音刺激を与え、Sampling time:10ms、Sampling rate:40kHz、Bandpass filter:1-3000Hz、加算回数:500回の記録条件で波形を記録し、前記波形が検出された最小音圧を周波数32kHzの音域における音圧閾値(dB SPL)とすることができる。
【0043】
<騒音性難聴の予防方法>
上記のとおり、ニコチンアミドモノヌクレオチドを前記対象に投与することで、同対象の騒音性難聴を予防させることができる。そのため、本発明は、前記騒音の負荷の14日以上前から、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)の有効量を対象に経口投与する工程を含む、騒音性難聴の予防方法(以下、場合により「本発明の方法」という)も提供する。本発明の方法は、上記の騒音性難聴に起因する各疾患又は症状の予防方法とすることもできる。
【0044】
本発明の方法において、ニコチンアミドモノヌクレオチドは、そのまま、より好ましくは本発明の組成物として投与することができ、前記対象に経口投与される。上記のとおり、本発明において、経口投与には、前記飲食組成物や前記飼料組成物等の摂取も含む。
【0045】
本発明の方法において、ニコチンアミドモノヌクレオチドの有効量としては、投与の目的や方法;対象の種、年齢、体重、性別、既往症等を考慮して、個々の場合に応じて適宜決定されるものであるため、特に限定されないが、上述の本発明の組成物の投与量と同じく、例えば、ヒト(好ましくは、成人)に対しては、ニコチンアミドモノヌクレオチドの量(フリー体換算、以下同じ)で、対象の体重1kgあたり、かつ、1日あたり、0.01~500mgであることが好ましく、また、0.5~200mg、0.5~100mg、1~50mgであることも好ましい。上記のとおり、投与は、1日1回であっても複数回に分けておこなってもよい。
【実施例0046】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
<試験例1>
1.試験組成物の調製
β-ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN、フリー体)を電子天秤を用いて秤量し、媒体(注射用水、株式会社大塚製薬工場製)で溶解して、NMN濃度50mg/mLの試験組成物(実施例)を調製した。また、ニコチンアミドモノヌクレオチドを含有させない前記媒体のみ(NMN濃度:0mg/mL)を、対照組成物(比較例)とした。
【0048】
2.混合麻酔薬の調製
ケタラール(登録商標)禁注用500mg(ケタミン塩酸塩、第一三共プロファーマ株式会社製)を2mLと、セラクタール(登録商標)2%注射液(キシラジン塩酸塩、バイエル薬品株式会社製)を1mLとを混合して、混合麻酔薬を調製した。
【0049】
3.マウス
雄SPFマウス(系統:C57BL/6J、日本チャールズ・リバー株式会社製)を入手し、先ず、8日間の予備飼育期間を設けた。この予備飼育期間中に体重測定を3回、下記4.のABR検査を1回、一般状態(全身観察、排泄状態、歩行状態等)の観察を1日1回(計8回)行い、体重推移、ABR検査の結果、及び一般状態に異常が認められなかったマウスを群分けした。
【0050】
群分けは、前記予備飼育期間中のABR検査において、周波数16kHz、24kHz、及び32kHzにおける音圧閾値(最小可聴値)の総和が最も高いマウス2例を群分け対象から除外し、コンピュータプログラム(IBUKI、株式会社日本バイオリサーチセンター製)を用いて、体重を層別に分けた後、無作為抽出法により、各群の平均体重及び分散がほぼ等しくなるようにして、8匹ずつ、2群に群分けした。
【0051】
前記予備飼育期間及び下記5.の投与試験期間中、マウスは、環境エンリッチメント(巣作りシート及びオートクレーブ処理した床敷(ペパークリーン、日本エスエルシー株式会社製))を入れた平床式プラスチック製ケージ(幅:175mm×奥行:245mm×高さ:125mm)を用いて、1ケージあたり2匹の群飼育で、管理温度:18.0~28.0°C(実測値:22.3~24.8°C)、管理湿度:30.0~80.0%RH(実測値:40.2~63.4%RH)、明暗期:各12時間(照明:6時~18時)、換気回数:12回/時(フィルターを通した新鮮空気)の飼育条件に維持された飼育室で飼育した。
【0052】
また、前記予備飼育期間及び下記6.の投与試験期間中、マウスには、飼料として、製造後9ヵ月以内の固型飼料(Lab Diet5053(PicoLab RodentDiet 20)、日本エスエルシー株式会社製)を給餌器に入れて自由に摂取させた。また、飲料水として、水道水を給水瓶に入れて自由に摂取させた。
【0053】
4.ABR(Auditory Brainstem Response、聴性脳幹反応)検査
本試験において、ABR検査は、次の方法で行った。先ず、27G注射針(テルモ株式会社製)を取り付けたポリプロピレン製ディスポーザブル注射筒(テルモ株式会社)を用いて、上記2.で調製した混合麻酔薬を対象のマウスの背部に皮下投与(投与液量:2mL/kg)して麻酔した。麻酔後、関電極を検耳(右耳)の外耳付近の頭部皮下に、不関電極を頭頂部皮下に、アース電極を頸部皮下に、それぞれ装着した。電極からABRの電位を生体電位アンプ(Model:ER-1、Cygnus Technology Inc.製)に誘導し、データ収録・解析システム(PowerLab、Sampling soft:LabChart ver.8、ADInstruments製)に、Sampling time:10ms、Sampling rate:40kHz、Bandpass filter:1-3000Hz、加算回数:500回の記録条件で記録した。
【0054】
音刺激は、Coupler type speaker(Model:ES1spc、バイオリサーチセンター株式会社製)を右外耳道に挿入し、TDT音響システム(ZBus for system3、Tucker-Davis Technologies Inc.製)より与えた(音圧範囲:10-90dB、音の種類:32kHzのTone burst)。前記32kHzの音について、最初に90dBの音刺激を与えてABR波形を記録し、その後、音圧を適宜変更して、ABRの波形が消失する最大音圧とABRの波形が検出される最小音圧とを5dB刻みで確認した。ABRの波形が検出された最小音圧を周波数32kHzの音における音圧閾値(dB SPL)とした。
【0055】
5.騒音負荷
本試験において、騒音負荷は、次の方法で行った。先ず、27G注射針(テルモ株式会社製)を取り付けたポリプロピレン製ディスポーザブル注射筒(テルモ株式会社)を用いて、上記2.で調製した混合麻酔薬を対象のマウスの背部に皮下投与(投与液量:2mL/kg)して麻酔した。麻酔後、Coupler type speaker(Model:ES1spc、バイオリサーチセンター株式会社製)を右外耳道に挿入し、TDT音響システム(ZBus for system3、Tucker-Davis Technologies Inc.製)より、音刺激(音圧範囲:110dB、音の種類:中心周波数8kHzのオクターブバンドノイズ)を2時間与えた。
【0056】
6.投与試験
上記3.で群分けしたマウスの一方の群を「対照群」とし、もう一方の群を「NMN群」とした。対照群には、上記1.で調製した対照組成物(比較例)を10mL/kg(NMN投与量:0mg/kg)となるように、NMN群には、上記1.で調製した試験組成物(実施例)を10mL/kg(NMN投与量:500mg/kg)となるように、それぞれ経口投与した。投与は、29日間にわたって、1日1回行った。各群のマウスに対して、投与開始(day:-14)から14日目(day:0)に、上記5.の騒音負荷を1回行った。投与前(8週齢時、pre、day:-15)、騒音負荷日(day:0)から1日後(day:1)、7日後(day:7)、14日後(day:14)に、上記4.のABR検査を行い、音圧閾値(dB SPL)を測定した。投与期間、騒音負荷、及びABR検査の日程の概略図を図1に示す。
【0057】
7.ABR検査結果の解析
上記6.の投与試験中のABR検査で測定された周波数32kHzにおける音圧閾値について、各群(対照群(n=8)、NMN群(n=8))の各ABR検査時期(day:-15、1、7、14)ごとに平均値及び標準誤差を算出した。図2Aに、各群の各ABR検査時期(day)における音圧閾値(dB SPL)の平均値を示し、標準誤差((dB SPL)±S.E.)をバーで示す。また、図2Bには、騒音負荷から1、7、14日後(day:1、7、14)の各音圧閾値から投与前(day:-15)の音圧閾値を引いた値の平均値を音圧閾値差(ΔdB SPL)として示し、その標準誤差((ΔdB SPL)±S.E.)をバーで示す。
【0058】
図2Aに示したように、対照群及びNMN群のいずれにおいても、騒音負荷によって有意に音圧閾値が上昇した(Wilcoxonの符号順位検定によるp値<0.01、図2A中「**」)。ただし、図2Bに示したように、その上昇量は、対照群に比べてNMN群の方が有意に小さかった(Wilcoxonの符号順位検定によるp値<0.05、図2B中「#」)。よって、NMNの騒音負荷前の投与によって騒音性難聴が有意に抑制、すなわち予防されたことが確認された。なお、各Wilcoxonの順位和検定は、統計プログラム(SASシステム、SAS Institute Japan株式会社製)を用いて行った。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上説明したように、本発明によれば、騒音性難聴に対して予防作用を有する組成物を提供することが可能となる。
図1
図2A
図2B