(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156323
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】焼結多孔質体の製造方法及び焼結多孔質体
(51)【国際特許分類】
C04B 38/06 20060101AFI20241029BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20241029BHJP
A01G 24/12 20180101ALI20241029BHJP
C09K 17/02 20060101ALI20241029BHJP
C09K 17/14 20060101ALI20241029BHJP
C09K 17/40 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
C04B38/06 C
C04B38/00 304Z
A01G24/12
C09K17/02 H
C09K17/14 H
C09K17/40 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070693
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】521212786
【氏名又は名称】株式会社TOWING
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田島 孝敏
(72)【発明者】
【氏名】甚野 智子
(72)【発明者】
【氏名】川上 好弘
(72)【発明者】
【氏名】石川 洋二
(72)【発明者】
【氏名】西田 宏平
(72)【発明者】
【氏名】西田 亮也
【テーマコード(参考)】
2B022
4G019
4H026
【Fターム(参考)】
2B022BA02
2B022BB01
4G019GA04
4G019KA04
4H026AA01
4H026AA07
4H026AB03
(57)【要約】
【課題】安価かつ容易に、土質材料を母材とする焼結多孔質体を製造することである。
【解決手段】土質材料を母材とする粒体状の焼結多孔質体を製造するための、焼結多孔質体の製造方法であって、加熱により消失する粉粒体状の空隙形成材と前記母材との混合物から成形体を取得する成形工程と、段階的に昇温して前記成形体を焼成する焼成工程と、を備え、前記空隙形成材に、有機性材料を用いる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土質材料を母材とする粒体状の焼結多孔質体を製造するための、焼結多孔質体の製造方法であって、
加熱により消失する粉粒体状の空隙形成材と前記母材との混合物から成形体を取得する成形工程と、
段階的に昇温して前記成形体を焼成する焼成工程と、を備え、
前記空隙形成材に、有機性材料を用いることを特徴とする焼結多孔質体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の焼結多孔質体の製造方法において、
前記有機性材料を粉砕して、前記空隙形成材に用いる特徴とする焼結多孔質体の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の焼結多孔質体の製造方法において、
前記有機性材料が、有機性廃棄物であることを特徴とする焼結多孔質体の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の焼結多孔質体の製造方法において、
前記成形体が、前記混合物を造粒することにより取得されることを特徴とする焼結多孔質体の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の焼結多孔質体の製造方法により製造されていることを特徴とする焼結多孔質体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土質材料を母材とする焼結多孔質体の製造方法及び焼結多孔質体に関する。
【背景技術】
【0002】
農作物の育成に好適な環境は、土壌微生物群によって土壌中の有機物を代謝して土壌の生化学的環境を好適に維持すること、また、土壌の透水・通気性および、保水性などの物理的環境を好適に維持することにより形成される。例えば、特許文献1には、このような環境を人工的に整えた緑化システムが開示されている。
【0003】
特許文献1の緑化システムは、多孔質セラミック粒子を含有することで農作物の育成に好適な環境を実現したものである。多孔質セラミック粒子は、粘土と炭素材料を混合して水を加え、板状やブロック状に成形し焼成したのち、これを破砕することにより取得する。
【0004】
しかし、このような焼成物を破砕する工程を含む方法では、多孔質セラミック粒子の粒径が制御できないだけでなく、植物の成長に必要な無機態窒素の生成に関与する微生物群が定着しやすい細孔を破損しやすい、といった課題が生じていた。
【0005】
このような中、発明者らは特許文献2で示すように、所望の粒径を有する焼結多孔質体を安定的に製造する方法を開発した。具体的には、土質材料と空隙形成材とを混合するとともに水を加えた材料を所望の粒径に造粒しておき、これを焼成して粒状の焼結多孔質体を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-27503号公報
【特許文献2】特願2021-187316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2の製造方法によれば、焼結多孔質体の粒径を制御しやすく、また、焼成物を破砕する工程を省略できるため、細孔の破損を抑制できる。ところで、焼結多孔質体を製造するにあたっては、空隙形成材として炭素材料を採用している。炭素材料のなかでも特に、人造黒鉛パウダーは粒径が均一であるとともに、加熱すると不純物が残らず消失するため、所望の空隙径及び空隙率を得やすい好適な材料である。
【0008】
しかし、人造黒鉛パウダーは、大掛かりな炭化設備を利用した炭化処理によって生成される工業製品である。このため、市場に流通しているものの販売元が限定され、また価格も高価であることから、焼結多孔質体の製造に対する影響は大きく、これに替わる材料の開発が望まれていた。
【0009】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、安価かつ容易に、土質材料を母材とする焼結多孔質体を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するため、本発明の焼結多孔質体の製造方法は、土質材料を母材とする粒体状の焼結多孔質体を製造するための、焼結多孔質体の製造方法であって、加熱により消失する粉粒体状の空隙形成材と前記母材との混合物から成形体を取得する成形工程と、段階的に昇温して前記成形体を焼成する焼成工程と、を備え、前記空隙形成材に、有機性材料を用いることを特徴とする。
【0011】
本発明の焼結多孔質体の製造方法は、前記有機性材料を粉砕して、前記空隙形成材に用いることを特徴とする。
【0012】
本発明の焼結多孔質体の製造方法は、前記有機性材料が、有機性廃棄物であることを特徴とする。
【0013】
本発明の焼結多孔質体の製造方法は、前記成形体が、前記混合物を造粒することにより取得されることを特徴とする。
【0014】
本発明の焼結多孔質体は、本発明の焼結多孔質体の製造方法により製造されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の焼結多孔質体の製造方法及び焼結多孔質体によれば、有機性材料を乾燥し粉砕して生成した粉粒体を、空隙形成材として用いる。これにより、人造黒鉛パウダーなどの工業製品を空隙形成材として採用する場合と比較して、安価でかつ容易に、土質材料を母材とする焼結多孔質体を製造することが可能となる。また、空隙形成材の生成工程に炭化処理が省略されるため、省エネルギー化に寄与できる。
【0016】
また、焼結多孔質体は、有機態窒素を分解して植物の栄養となる無機態窒素を生成する微生物群が生息可能な環境を創出できる材料であり、微生物群を固定化すれば、植物を健全に生育することができる土壌として活用できる。してみれば、有機性廃棄物のなかでも食品廃棄物を空隙形成材として採用すれば、食品廃棄物を利用して焼結多孔質体を作成し、作成した焼結多孔質体を利用して農作物を生育するといった、食物サイクルを実現することも可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、空隙形成材に有機性材料を採用することにより、安価かつ容易に土質材料を母材とする焼結多孔質体を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態における焼結多孔質体と焼結プログラムの概略を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態における焼結多孔質体の製造方法を示す図である(その1)。
【
図3】本発明の実施の形態における焼結多孔質体の製造方法を示す図である(その2)。
【
図4】本発明の実施の形態における焼結多孔質体の製造に用いる装置を示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態における実験1の結果を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施の形態における実験2の結果を示すグラフである。
【
図7】本発明の実施の形態における実験3で用いる成形体の配合を示す図である。
【
図8】本発明の実施の形態における実験3で採用する焼成プログラムを示す図である。
【
図9】本発明の実施の形態における有機性材料を使用した焼結多孔質体の状態を示す図である。
【
図10】本発明の実施の形態における有機性材料を使用した焼結多孔質体の粒径加積曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、炭化処理を行っていない有機性材料を空隙形成材として利用することで、安価でかつ容易に焼結多孔質体を製造する方法である。以下に
図1~
図10を参照しつつ、その詳細を説明する。
【0020】
≪≪≪焼結多孔質体≫≫≫
焼結多孔質体10は、
図1(a)で示すように、複数の細孔14が設けられた土質材料よりなる母材11の焼成物であり、空隙形成材の形成工程、成形工程、焼成工程、ふるい分け工程を経て製造される。各工程の詳細は
図3を参照しつつ後述するが、大まかには次のとおりである。
【0021】
空隙形成材の形成工程は、炭化処理していない有機性材料を乾燥し粉砕することにより、所望の粒径を有する粉粒体の空隙形成材12を取得する。成形工程は、土質材料よりなる母材11と空隙形成材12とを混合し、湿式造粒法により造粒して粒体状の成形体13を作成する。
【0022】
焼成工程は、成形体13を、
図1(b)で示すような2段階焼成(段階的に昇温)を採用した焼成プログラムで、焼成する。つまり、成形工程で作成した成形体13を低温領域で加熱し、空隙形成材12を消失させたのちに昇温し、高温領域で加熱して母材11どうしを焼結させる。
【0023】
ふるい分け工程は、焼成工程で取得した焼結多孔質体10をふるい分けし、用途に見合った粒子径範囲(粒子径の分布する主な範囲)の焼結多孔質体10を回収する。
【0024】
このような焼結多孔質体10の製造に用いる母材11は、例えば、シリカ(二酸化ケイ素SiO2)及びアルミナ(酸化アルミニウムAl2O3)を主成分とする玄武岩質の土質材料が適しており、玄武岩の加工品や富士山溶岩石の加工品などを事例に挙げることができる。
【0025】
また、陶土や陶磁器の素地、焼きレンガとして使用される材料、もしくは埋め戻し土や現地発生土など、空隙形成材12に採用した有機性材料が燃焼する温度(有機性材料が消失する温度)より高い温度で一定時間加熱することにより焼結する材料であれば、いずれも母材11として採用できる。
【0026】
一方、空隙形成材12は、粉粒体状に粉砕することが可能であって、所定の温度領域で一定時間加熱することにより消失する有機性材料であれば、いずれも採用可能である。本実施の形態では、有機性廃棄物を採用する場合を事例に挙げる。有機性廃棄物は、野菜かすや醸造かす、発酵かすまたは魚のあらなど、食品等から生じる固形状の食品廃棄物や、家畜ふん尿、汚泥、農業残さ、木質系廃棄物などをいう。また、有機性廃棄物が得られない場合は、二酸化炭素の吸収効率が高い藻類などを用いてもよい。
【0027】
≪≪≪土壌化の可能な焼結多孔質体≫≫≫
上記の焼結多孔質体10は、植物を栽培することのできる土壌を創出する材料とすることができる。
【0028】
一般に植物は、有機態窒素を分解して植物の栄養となる無機態窒素を生成する微生物群が生息する場所で、健全に生育することができる。そして微生物群は、いわゆる土壌の3性質(物理性、化学性、生物性)が整った環境で、生息することが知られている。つまり、土壌を創出する材料として利用可能な焼結多孔質体10は、この土壌の3性質を作り出し微生物群を固定化(土壌化)できるよう、粒子径範囲、細孔径、及び空隙率を制御すればよい。
【0029】
≪≪≪焼結多孔質体の製造方法≫≫≫
以下に、粒子径範囲、空隙率及び細孔径を制御し、土壌化の可能な焼結多孔質体10を製造する大まかな手順を、
図2及び
図3で示すフローを参照しつつ説明する。
【0030】
≪≪Step1:焼結多孔質体の設計≫≫
焼結多孔質体10を製造するにあたっては、
図2で示すように、まずはその用途に応じて、粒子径範囲、空隙率、及び細孔径を設計する。
【0031】
土壌化の可能な焼結多孔質体10は、砂から中礫程度の粒子径を有すること、前述した微生物群の生育する場所(住処)となる大きさの細孔を作ることを考慮すると、粒子径範囲を0.5mm以上20mm以下、好適には1mm以上9.5mm以下に製造するとよい。また、細孔径は例えば、10μm以上の大きな細孔14を含むよう製造するとよい。
【0032】
そして、これらの条件のもと、微生物群が細孔14に定着・活性化状態に置かれ、植物への栄養分供給能力を確保でき、土壌の三相分布(固相、液相、気相)が整い、好気環境と嫌気環境のバランスが取れた状態となる環境を創出可能な空隙率を、焼結多孔質体10に確保する。
【0033】
≪≪Step2:使用材料の設定≫≫
≪Step2-1:母材11の選定≫
母材11として採用する土質材料は、Step1で設定した粒子径範囲に基づいて選定する。
【0034】
まず、Step1で設定した粒子径範囲の焼結多孔質体10を取得できるよう、成形体13の粒子径を設定する。そして、この粒子径の成形体13を作成できる土質材料を選定する。土壌化の可能な焼結多孔質体10を、好適な粒子径範囲1mm以上9.5mm以下に設定する場合を事例にあげると、成形体13の粒子径は、焼成時の収縮を考慮して10mm以下に設定することが好ましい。
【0035】
このような成形体13を成形可能な土質材料は、空隙形成材12に採用した有機性材料が燃焼する温度より高い温度で一定時間加熱することにより焼結するものであって、粒径2mm以下、平均粒径(D50)10μm以上200μm以下が好ましい。例えば、大沢石粉砕(富士山の大沢溶岩加工品)や月レゴリスの模擬砂などを採用できる。もしくは、これら複数の土質材料を混合し、粒度を調整して採用してもよい。
【0036】
≪Step2-2:空隙形成材12の選定と空隙形成材12の添加比の設定≫
空隙形成材12には、Step1で設定した細孔径に対応可能な有機性材料を選定する。また、Step1で示した空隙率の要件に基づいて、空隙形成材12の添加比を設定する。土壌化の可能な焼結多孔質体10は、空隙形成材12の添加比の下限値を10%に設定することが好ましく、より好ましくは30%が好ましい。
【0037】
その一方で、上限値は50%に設定することが好ましい。これは、次の理由による。焼結多孔質体10を製造するにあたっては、前述のとおり成形工程で成形体13を湿潤造粒法により成形する。湿式造粒法は、適量の水を添加しつつ造粒する方法であり、空隙形成材12の添加比が50%を超えると、水の添加量が増大し湿潤造粒法では造粒が困難となる恐れが生じるためである。
【0038】
≪Step2-3:成形体13の成形可能性、及び焼成後の硬さによる空隙形成材12の選別≫
成形工程で採用する湿式造粒法は、母材11と空隙形成材12の混合物に、適量の水を添加しつつ造粒することにより成形する方法であり、水の添加量は空隙形成材12に採用した材料によって異なる。
【0039】
含水比(母材11と空隙形成材12とを足し合わせた重量に対する水の重量)が大きいと、スラリー状となり造粒操作ができない、造粒できても成形体13どうしが付着しやすい、成形体13を焼成した後の硬さが、焼結多孔質体10に予定する使用形態に適合しない、などの不具合が生じやすい。
【0040】
このため、成形体13の成形可能性、及び焼成後の硬さについて検証を行い、これらを満足する有機性材料を空隙形成材12に選別し、焼結多孔質体10を製造する。土壌化の可能な焼結多孔質体10は、植物の生育予定領域への搬送時や生育予定領域への撒き出し作業などにより、破損しない程度の硬さを有することが好ましい。これらを考慮し、材料の選定を行う。
【0041】
≪≪焼結多孔質体の製造:Step3≫≫
上記のとおり、Step2で母材11となる土質材料、空隙形成材12となる有機性材料、空隙形成材12の添加比、成形体13の粒径、水の添加量を設定したところで、
図3で示すように、以下の手順により土壌化の可能な焼結多孔質体10を製造する。
【0042】
≪空隙形成材の作成工程:Step3-0≫
空隙形成材12として採用する予定の有機性材料を、必要に応じて乾燥したのち粉砕して微粉砕物を得る。これをふるい分けして粉粒体を取得し、空隙形成材12とする。粉粒体の粒径は、母材11として使用する土質材料の平均粒径((D50)10μm以上200μm以下)と同程度が好ましく、より好ましくは、粒径100μm前後である。このような粒径に粉砕すると、前述した成形工程で成形体13を製造した際に、母材11とともに均質に混ざりやすく、また、Step1で設計した焼結多孔質体10の細孔14を実現しやすい。
【0043】
≪成形工程:Step3-1≫
母材11と空隙形成材12とを混合したのち、この混合物を湿式造粒法により造粒し成形体13を成形する。湿式造粒法による造粒操作はいずれの手段を採用してもよいが、例えば、
図4で示すような、パン型造粒機30を採用するとよい。
【0044】
具体的には、パン型造粒機30に備えた傾斜姿勢のパン31に母材11と空隙形成材12とを投下し、パン31を回転させながら両者を均等に混合する。次に、パン31を回転させながら水15を少量ずつ加え、母材11と空隙形成材12の混合物を造粒する。母材11と空隙形成材12の混合物は、パン31の底部や側面に付着しやすいため、必要に応じてスクレーパー32や手で付着物をかき落としつつ造粒する。
【0045】
Step2-1で述べたように、土壌化の可能な焼結多孔質体10で予定する粒子径範囲1mm以上9.5mm以下を考慮すると、成形体13の粒子径は10mm以下が好ましい。造粒操作により粒子径10mm以下の成形体13を得るには、5mm程度の粒径を目標に造粒時間を設定し、造粒操作を行うとよい。このように、成形工程で成形体13を粒体状に成形すると、一般に焼成工程のあとに実施される、粉粒体が発生するような切断や破砕といった後加工工程を省略でき、作業性が大幅に向上する。
【0046】
こうして成形体13を成形したのち、例えば耐熱容器40などに取り出し、一定時間加温して乾燥する。乾燥作業は、表面にひび割れが生じない程度、かつ内部水分が均質となるよう、成形体13の大きさや含水比などを考慮しつつ、乾燥温度や乾燥時間を適宜設定する。
【0047】
≪焼成工程Step3-2≫
上記のStep3-1で乾燥させた成形体13を焼成する。焼成プログラムには前述したように、2段階焼成(段階的に昇温)を採用し、低温領域で一定時間加熱して空隙形成材12を消失させたのちに昇温し、高温領域で一定時間加熱して母材11を焼結させる。
【0048】
低温領域の設定温度は、空隙形成材12で採用した有機性材料が燃焼する温度に基づいて設定し、加熱時間は、成形体13の中心部まで昇温し空隙形成材12を消失させるために必要な加熱時間を設定する。また、高温領域の設定温度は、母材11で採用した土質材料の焼結温度に基づいて設定し、加熱時間は、成形体13の中心部まで昇温し母材11を焼結するために必要な加熱時間を設定する。
【0049】
このように、焼成工程で2段階焼成を採用すると、加熱時間が制御しやすいため、成形体13の表面に溶融部分が生じたり、内部に未焼結部分が残るといった不具合を回避しやすい。したがって、
図1(a)で示すような、中心部まで空隙形成材12の消失跡に細孔14が形成された高品質な焼結多孔質体10を安定的に取得することが可能となる。
【0050】
≪ふるい分け工程:Step3-3≫
上記のStep3-2で成形体13を焼成したのち、ふるい分けを行って所望の粒子径範囲の焼結多孔質体10を回収する。Step3-1で成形体13の粒径を、焼結多孔質体10に要求される粒子径範囲を考慮した大きさに造粒しているから、所望の粒子径範囲の焼結多孔質体10を効率よく取得でき、焼結多孔質体10を高い回収率で取得できる。
【0051】
土壌化の可能な焼結多孔質体10は、Step1で述べたように、粒子径範囲1mm以上9.5mm以下に設定したから、ふるい分けを行ってこの範囲の焼結多孔質体10を回収する。これにより、回収した焼結多孔質体10は、細孔径が10μm以上の大きい細孔14を多く含み、粒子径範囲を1mm以上9.5mm以下に調整される。こうして、母材11として採用した土質材料と比べて、通気性、透水性及び保水性が大幅に改善された、砂から細礫程度の大きさの焼結多孔質体10を取得できる。
【0052】
また、回収した焼結多孔質体10は、有機態窒素を分解して植物の栄養となる無機態窒素を生成する微生物群が、生息可能な環境を創出できる程度の空隙率を備えている。したがって、土壌化の可能な焼結多孔質体10は、微生物群を固定化することにより、植物を健全に生育することができる土壌として、活用することが可能となる。
【0053】
≪≪≪参考例:空隙形成材に人造黒鉛パウダーを採用した場合≫≫≫
参考例として、空隙形成材12に人造黒鉛パウダーを採用し、上記の手順で焼結多孔質体10を製造した結果を以下に示す。
【0054】
空隙形成材12に人造黒鉛パウダー(粒径100μm前後,体積平均値125μm程度)を採用するとともに、母材11に月レゴリスの模擬砂(粒径2mm以下、D50≒70μm)を採用し、空隙形成材12の添加比30%の成形体13を作成した。この成形体13を、800℃もしくは900℃の低温領域で10時間加熱したのち昇温し、1100℃の高温領域で1時間加熱する2段階焼成した。
【0055】
すると、
図9で示すように、内部まで焼結した高品質な焼結多孔質体10を安定して製造することが可能となる。このときの空隙の大きさは、100μm程度であった。これらの結果を目安とし、空隙形成材12として有機性廃棄物を採用した場合の焼結多孔質体10について、以下のとおり検証を行った。
【0056】
≪≪≪実施例:空隙形成材に有機性廃棄物を採用した場合≫≫≫
本実施の形態では、有機性廃棄物として「コーヒーかす」及び「緑茶がら」を採用した。また、比較例として「もみ殻燻炭」を採用した。「コーヒーかす」は、コーヒー豆を挽いてコーヒーを淹れた後に残ったかすであり、「緑茶がら」は、緑茶を淹れた後に残った茶がらである。他方、「もみ殻燻炭」は、もみ殻を炭化させたバイオマス由来の炭化物である。
【0057】
≪実験1:有機性廃棄物から所望粒径の粉粒体を得られることの検証≫
実験は、上記の「コーヒーかす」と「緑茶がら」を105℃で十分乾燥させたのち、これらを微粉砕して微粉砕物を取得した。粉砕方法は、それぞれクラッシュミルで粉砕したのち、振動ミルや遊星型ボールミルを適宜利用した。さらに、取得した微粉砕物をふるい分けし、空隙形成材12として利用可能な粒径の、粉粒体を取得した。
【0058】
その結果、「コーヒーかす」の微粉砕物から212μm以下の粉粒体、「緑茶がら」の微粉砕物から150μm以下の粉粒体を取得できた。一方、比較例として採用した「もみ殻燻炭」の微粉砕物からは、150μm以下の粉粒体を取得できた。
図5(a)~(c)に、これら粉粒体の粒径分布を示す。
【0059】
上記のとおり、「コーヒーかす」「緑茶がら」及び「もみ殻燻炭」のいずれからも、人造黒鉛パウダーと同程度の粉粒体(粒径100μm前後)を取得できた。そこで、実験2では、これらを空隙形成材12として採用した場合に、空隙形成材12を消失させるために必要な加熱温度を検証する実験を行った。
【0060】
≪実験2:空隙形成材12を消失させるために必要な加熱温度の検証≫
実験は、「コーヒーかす」「緑茶がら」及び比較例の「もみ殻燻炭」について、≪実験1≫で取得した粉粒体を加熱して温度推移と質量推移を観測し、粉粒体が完全に燃焼する温度を確認した。その結果を温度推移曲線と質量減少曲線として、
図6(a)~(c)に示す。
【0061】
比較例である「もみ殻燻炭」の粉粒体について、
図6(c)の質量減少曲線の変曲点(TG)及び発熱ピーク(DTA)を見ると、温度上昇により徐々に減少し始めた質量は、300℃付近で大きく減少する。その後、394.5℃で発熱ピークとなり、450℃程度で完全に燃焼している。
【0062】
「コーヒーかす」の粉粒体について、
図6(a)の質量減少曲線の変曲点(TG)及び発熱ピーク(DTA)を見ると、温度上昇により徐々に減少し始めた質量は、250℃付近で大きく減少する。その後、491.3℃で発熱ピークとなり、500℃程度で完全に燃焼している。
【0063】
「緑茶がら」の粉粒体について、
図6(b)の質量減少曲線の変曲点(TG)及び発熱ピーク(DTA)を見ると、温度上昇により徐々に減少し始めた質量は、250℃付近で大きく減少する。その後、512.9℃程度で発熱ピークとなり、完全に燃焼している。
【0064】
上記の結果から、空隙形成材12として有機性廃棄物を採用した場合に、空隙形成材12を消失させるための好適な加熱温度は、300℃以上600℃以下が好ましく、より好ましくは450℃~550℃程度である。これらの温度を参考に、空隙形成材12として有機性材料を採用し土壌化の可能な焼結多孔質体10を製造する際に適用する、2段階焼成を採用した焼成プログラムを作成するべく、次の実験を行った。
【0065】
≪実験3:焼成プログラムの作成≫
実験は、まず、Step3-1の成形工程で説明した手順により、空隙形成材12の添加比30%の成形体13を作成した。
図7に、成形体13を作成した際の配合を示す。
【0066】
母材11には、月レゴリスの模擬砂(粒径2mm以下、D50≒70μm)を採用し、空隙形成材12には、実施例として、≪実験1≫で粉粒体を取得した「コーヒーかす」及び「緑茶がら」を採用した。「コーヒーかす」は、微粉砕物をふるい分けした212μm以下の粉粒体を空隙形成材12として採用し、「緑茶がら」は、微粉砕物をふるい分けした150μm以下の粉粒体を空隙形成材12として採用した。
【0067】
また、比較例として、≪実験1≫で粉粒体を取得した「もみ殻燻炭」を空隙形成材12に採用し、成形体13を作成した。「もみ殻燻炭」は、微粉砕物をふるい分けした150μm以下の粉粒体を、空隙形成材12として採用した。
【0068】
焼成プログラムは、前述した≪実験2≫の結果に基づいて設定した。具体的には、「コーヒーかす」について、
図7及び
図8(a)で示すように、低温領域の加熱温度を、500℃(ケース1)と800℃(ケース2)の2つのケースに設定し、加熱時間はいずれも10時間に設定した。また、高温領域の設定温度を月レゴリスの模擬砂の粉砕加工品の焼結温度に基づき1100℃に設定し、加熱時間を1時間に設定した。
【0069】
「緑茶がら」については、
図7及び
図8(b)で示すように、低温領域の加熱温度を500℃に設定し、加熱時間を1時間(ケース3)、3時間(ケース4)、5時間(ケース5)の3つのケースに設定した。高温領域の設定温度は、月レゴリスの模擬砂の粉砕加工品の焼結温度に基づき1100℃に設定し、加熱時間を1時間に設定した。
【0070】
また、比較例である「もみ殻燻炭」は、「コーヒーかす」と同様に、低温領域の加熱温度を、500℃(ケース1)と800℃(ケース2)の2つのケースに設定し、加熱時間はいずれも10時間に設定した。また、高温領域の設定温度を月レゴリスの模擬砂の粉砕加工品の焼結温度に基づき1100℃に設定し、加熱時間を1時間に設定した。
【0071】
≪実験4:作成した焼結多孔質体10の仕上がりの検証≫
上記の焼成プログラムで焼成した結果、取得できた焼結多孔質体10の外形及び電子顕微鏡写真を
図9に示す。
【0072】
まず、比較例である「もみ殻燻炭」を使用した場合、低温領域を500℃に設定し10時間加熱した(ケース1)において、衝撃などによって容易に崩れることのない十分な硬さを有する粒体状の焼結多孔質体10を回収することができた。一方、低温領域を800℃に設定し、10時間加熱したケース2では、粒体状の焼結多孔質体10を回収できたが、強度が十分ではなかった。
【0073】
上記の(ケース1)で作成した焼結多孔質体10を電子顕微鏡で見ると、「もみ殻燻炭」が消失して形成された細孔に、燃えがらは見当たらない。また、分析の結果、細孔は大きいもので100μm程度、空隙率45%程度、乾燥密度1.4g/m3程度であった。この空隙率及び乾燥密度は、参考例として示した人造黒鉛パウダーを空隙形成材12として採用した場合の焼結多孔質体10と、ほぼ同等である。
【0074】
「コーヒーかす」を使用した場合、比較例である「もみ殻燻炭」を使用した場合と同様に、低温領域を500℃に設定し10時間加熱した(ケース1)において、衝撃などによって容易に崩れることのない十分な硬さを有する粒体状の焼結多孔質体10を回収することができた。一方、低温領域を800℃に設定し、10時間加熱した(ケース2)では、粒体状の焼結多孔質体10を回収できたが、強度が十分ではなかった。
【0075】
上記の(ケース1)で作成した焼結多孔質体10を電子顕微鏡で見ると、「コーヒーかす」が消失して形成された細孔に、燃えがらは見当たらない。また、分析した結果、細孔は大きいもので150μm程度、空隙率55%程度、乾燥密度1g/m3程度であった。この細孔及び空隙率は、「もみ殻燻炭」を使用した場合と比較して、やや大きい様子がわかる。つまり、参考例として示した人造黒鉛パウダーを使用した場合と比較してやや大きい。
【0076】
「緑茶がら」を使用した場合、低温領域を500℃に設定し3時間加熱した(ケース4)において、衝撃などによって容易に崩れることのない十分な硬さを有する粒体状の焼結多孔質体10を回収することができた。一方、低温領域を500℃に設定し1時間加熱した(ケース3)では、粒体状の焼結多孔質体10を回収することができたものの、指でつぶすことができる程度に脆い状態であった。また、低温領域を500℃に設定し5時間加熱した(ケース5)では、ケース3ほど脆くないものの、強度が十分ではなかった。
【0077】
上記の(ケース4)で作成した焼結多孔質体10を電子顕微鏡で見ると、「緑茶がら」が消失して形成された細孔に、燃えがらは見当たらない。また、分析の結果、細孔は大きいもので150μm程度、空隙率60%程度、乾燥密度1g/m3程度であった。「緑茶がら」を使用した場合、焼結多孔質体10に形成される細孔や空隙率は、「コーヒーかす」を使用した場合と、ほぼ同等である様子がわかる。
【0078】
≪実験5:焼結多孔質体10の粒度分布の検証≫
上記の≪実験4≫で、十分な硬さを有する焼結多孔質体10と判定した
図9の焼結多孔質体10について、粒度分布を
図10(a)(b)に示す。
【0079】
図10(a)で示すように、「もみ殻燻炭」を使用した焼結多孔質体10は、粒径が4.75~9.5mmが約5割を占める。一方、「コーヒーかす」を使用した場合、粒径が1.0~4.75mmが約5割を占め、「もみ殻燻炭」を使用した場合と比較して小さい粒径の焼結多孔質体10を取得できる。
【0080】
図10(b)で示すようにまた、「緑茶がら」を使用した場合、焼結多孔質体10は、粒径が1.0~4.75mmが約7割を占め、1.0mm未満が約2割を占めるなど、「コーヒーかす」を使用した場合と比較して小さい粒径の焼結多孔質体10を取得できる。
【0081】
上記のとおり、母材11に月レゴリスの模擬砂を採用するとともに、空隙形成材12として「コーヒーかす」を採用した場合、低温領域を500℃に設定し10時間加熱する焼成プログラム(ケース1)で2段階焼成を行う。また、「緑茶がら」を採用した場合、低温領域を500℃に設定し3時間加熱する焼成プログラム(ケース4)で、2段階焼成を採用する。
【0082】
これにより、人造黒鉛パウダーなどの工業製品を空隙形成材12として採用する場合と比較して、安価でかつ容易に、内部まで焼結した高品質な焼結多孔質体10を安定して製造することが可能となる。また、空隙形成材12の生成工程に炭化処理が省略されるため、省エネルギー化に寄与できる。
【0083】
なお、焼成プログラムは、空隙形成材12として採用する有機性廃棄物に応じて、低温領域の温度及び加熱時間を、適宜調整し設定するとよい。また、有機性廃棄物を粉砕し空隙形成材12として採用可能な粉粒体を作成するための粉砕手段も、なんら限定されるものではない。
【0084】
本発明の焼結多孔質体の製造方法及び焼結多孔質体10は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0085】
例えば、本実施の形態では、焼結多孔質体10の製造方法において、空隙形成材12と母材11の混合物を造粒し成形体13を取得したが、造粒する工程を省略し、成形体13を取得する方法を採用してもよい。
【0086】
また、本実施の形態では、土壌化の可能な焼結多孔質体10を製造する場合を事例に挙げているが、これに限定されるものではない。上記の焼結多孔質体の製造方法にしたがって、粒子径範囲、細孔径、空隙率を適宜設計・製造することにより、空隙形成材12として有機性材料を採用し、所望の用途に利用可能な焼結多孔質体10を製造することが可能である。
【0087】
さらに、有機性材料の中でも有機性廃棄物として、「コーヒーかす」及び「緑茶がら」を採用する場合を事例に挙げたが、もみ殻やイモ類の皮、根菜類の皮などの非可食部分、そして作物や植物の葉、茎、根などの非可食部分も採用可能である。このような非可食部分を採用すると、非可食部分を利用して焼結多孔質体10を製造し、焼結多孔質体10を利用して野菜などの農作物を栽培でき、非可食バイオマスを利用した農作物の生産に寄与することが可能となる。
【0088】
つまり、「コーヒーかす」「緑茶がら」や非可食部分などの食品廃棄物を空隙形成材12として採用すれば、食品廃棄物を利用して焼結多孔質体10を作成し、作成した焼結多孔質体10を利用して農作物を生育するといった、食物サイクルを実現することも可能となる。
【0089】
なお、有機性材料を空隙形成材12として利用する場合には、焼成プログラムの作成時に、低温領域の加熱時間を、有機性材料の種類に応じて適切に設定すればよい。また、適切な粉砕手段を用いて有機性材料を粉砕し、粉砕物から所望の粒径を有する粉粒体を取得するとよい。
【符号の説明】
【0090】
10 焼結多孔質体
11 母材
12 空隙形成材
13 成形体
14 細孔
15 水
30 パン型造粒機
31 パン
32 スクレーパー
40 耐熱容器