(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156345
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】クランクケース換気装置およびクランクケースの換気方法
(51)【国際特許分類】
F01M 13/00 20060101AFI20241029BHJP
F02B 33/00 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
F01M13/00 L
F01M13/00 M
F02B33/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070726
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新田 和弘
【テーマコード(参考)】
3G005
3G015
【Fターム(参考)】
3G005FA59
3G005GA02
3G005GB17
3G005GD09
3G005JA12
3G015BD12
3G015BE05
3G015BJ09
3G015EA06
3G015FA03
3G015FB06
3G015FC05
(57)【要約】
【課題】ブローバイガスに含まれる水蒸気が、クランクケース内で液化することを抑制する。
【解決手段】エンジン1の暖機時には、過給機30(コンプレッサ32)とインタークーラ26との間の吸気通路22から、第1新気通路71を介して、クランクケース18に高温の新気を導入する。暖機完了後には、インタークーラ26の下流の吸気通路22から、第2新気通路72を介して、クランクケース18に低温の新気を導入する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
過給機を備えた内燃機関のクランクケース換気装置であって、
前記過給機の下流の吸気通路には、インタークーラが設けられており、
前記過給機と前記インタークーラとの間の前記吸気通路から、クランクケースに新気を導入する第1新気通路と、
前記インタークーラの下流の前記吸気通路から、前記クランクケースに新気を導入する第2新気通路と、
ブローバイガスを前記吸気通路へ還流するブローバイガス通路と、
前記第1新気通路と前記第2新気通路を切り替える切替機構と、を備えるクランクケース換気装置。
【請求項2】
前記切替機構は、前記内燃機関の暖機時に、前記第1新気通路から前記クランクケースに新気を導入し、前記内燃機関の暖機完了後に、前記第2新気通路から前記クランクケースに新気を導入するよう、前記第1新気通路と前記第2新気通路を切り替える、請求項1に記載のクランクケース換気装置。
【請求項3】
前記第1新気通路および前記第2新気通路から、前記クランクケースに導入される新気量を制御する流量制御弁をさらに備える、請求項1または請求項2に記載のクランクケース換気装置。
【請求項4】
前記切替機構は、前記第1新気通路から導入される新気量を制御する第1流量制御弁と、前記第2新気通路から導入される新気量を制御する第2流量制御弁と、から構成される、請求項1または請求項2に記載のクランクケース換気装置。
【請求項5】
前記ブローバイガス通路は、前記過給機の上流の前記吸気通路に接続される、請求項1または請求項2に記載のクランクケース換気装置。
【請求項6】
過給機を備えた内燃機関のクランクケースの換気方法であって、
前記過給機の下流の吸気通路には、インタークーラが設けられており、
前記内燃機関の暖機時に、前記過給機と前記インタークーラとの間の前記吸気通路から、クランクケースに新気を導入することと、
前記内燃機関の暖機完了後に、前記インタークーラの下流の前記吸気通路から、前記クランクケースに新気を導入することと、を含む、クランクケースの換気方法。
【請求項7】
前記クランクケースに導入される新気量が、前記クランクケースに流入するブローバイガスの量に応じて制御されること、をさらに含む、請求項6に記載のクランクケースの換気方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、クランクケース換気装置およびクランクケースの換気方法に関し、特に、過給機を備えた内燃機関のクランクケースの換気装置および換気方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関では、ブローバイガス(燃焼ガスを含む未燃混合気)が、ピストンとシリンダとの隙間を抜けて、燃焼室からクランクケースへ流入する。クランクケース換気装置(ブローバイガス還流装置とも称される)は、クランクケースへ流入したブローバイガスを吸気通路に還流する(戻す)。特開2016-223314号公報(特許文献1)では、過給機付きの内燃機関において、非過給時には、スロットルバルブ下流の吸気負圧を利用してブローバイガスを吸引し、過給時には、過給圧(正圧)を利用して新気を供給することにより、クランクケースの換気性能を十分に得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃焼ガスには水蒸気が含まれており、ブローバイガスにも水蒸気が含まれる。ブローバイガスに含まれる水蒸気は、クランクケース内で温度が低下すると、水になる(液化(凝縮)する)。クランクケース内に水が多量に存在すると、エンジンオイルのエマルジョン化を促進し、また、ブローバイガスに含まれるNOx(窒素酸化物)と水が結合し硝酸となって、オイル劣化を招く懸念がある。
【0005】
本開示の目的は、ブローバイガスに含まれる水蒸気が、クランクケース内で液化することを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のクランクケース換気装置は、過給機を備えた内燃機関のクランクケース換気装置である。内燃機関の過給機の下流の吸気通路には、インタークーラが設けられている。クランクケース換気装置は、過給機とインタークーラとの間の吸気通路から、クランクケースに新気を導入する第1新気通路と、インタークーラの下流の吸気通路から、クランクケースに新気を導入する第2新気通路と、ブローバイガスを吸気通路へ還流するブローバイガス通路と、第1新気通路と第2新気通路を切り替える切替機構と、を備える。
【0007】
この構成によれば、新気が、第1新気通路および第2新気通路からクランクケースに導入され、クランクケース内のブローバイガスは、ブローバイガス通路から吸気通路に還流され、クランクケースの換気が行われる。切替機構は、第1新気通路と第2新気通路を切り替える。第1新気通路は、過給機とインタークーラとの間の吸気通路から新気を導入するので、その新気の温度は、比較的高温である。第2新気通路は、インタークーラの下流の吸気通路から新気を導入するので、その新気の温度は、第1新気通路から導入される新気と比較して、低温である。
【0008】
切替機構によって、第1新気通路に切り替えることにより、クランクケース内の温度が低い場合であっても、比較的高温の新気によってブローバイガスの温度低下が抑制され、ブローバイバスに含まれる水蒸気が水になること(液化することを)を抑制でき、クランクケース内に存在する水を低減できる。また、切替機構によって、第2新気通路に切り替えることにより、比較的低温の新気がクランクケースに流入するので、エンジンオイル等の無用な温度上昇を回避することができる。
【0009】
好ましくは、切替機構は、内燃機関の暖機時に、第1新気通路からクランクケースに新気を導入し、内燃機関の暖機完了後に、第2新気通路からクランクケースに新気を導入するよう、第1新気通路と第2新気通路を切り替えるようにしてもよい。
【0010】
この構成によれば、内燃機関の暖機時に、第1新気通路から、比較的高温の新気をクランクケースに導入するので、クランクケースが昇温されて暖機が促進され、ブローバイガスに含まれる水蒸気が液化することを抑制でき、クランクケース内で生成される水を低減できる。内燃機関の暖機完了後には、第2新気通路から、インタークーラで冷却された比較的低温の新気をクランクケースに導入するので、エンジンオイルの温度が、過度に高温になることを、抑制できる。
【0011】
好ましくは、クランクケース換気装置は、第1新気通路および第2新気通路から、クランクケースに導入される新気量を制御する流量制御弁をさらに備えるようにしてもよい。
【0012】
この構成によれば、流量制御弁によって、クランクケースに導入する新気量を制御することによって、ブローバイガスの還流量(戻り量)を制御できる。
【0013】
好ましくは、切替機構は、第1新気通路から導入される新気量を制御する第1流量制御弁と、第2新気通路から導入される新気量を制御する第2流量制御弁と、から構成されるようにしてもよい。
【0014】
この構成によれば、第1流量制御弁と第2流量制御弁によって、第1新気通路と第2新気通路を切り替えるとともに、クランクケースに導入される新気量を制御することができる。
【0015】
好ましくは、ブローバイガス通路は、過給機の上流の吸気通路に接続されるようにしてもよい。
【0016】
この構成によれば、過給機の上流の吸気通路の圧力は、比較的安定しているので、ブローバイガスの還流量が急変することを、抑制することができる。
【0017】
本開示のクランクケースの換気方法は、過給機を備えた内燃機関のクランクケースの換気方法である。内燃機関の過給機の下流の吸気通路には、インタークーラが設けられており、クランクケースの換気方法は、内燃機関の暖機時に、過給機とインタークーラとの間の吸気通路から、クランクケースに新気を導入することと、内燃機関の暖機完了後に、インタークーラの下流の吸気通路から、クランクケースに新気を導入することと、を含む。
【0018】
この方法によれば、内燃機関の暖機時に、第1新気通路から、比較的高温の新気をクランクケースに導入するので、クランクケースが昇温されて暖機が促進され、フローバイガスに含まれる水蒸気が液化することを抑制でき、クランクケース内で生成される水を低減できる。内燃機関の暖機完了後には、第2新気通路から、インタークーラで冷却された比較的低温の新気をクランクケースに導入するので、エンジンオイルの温度が、過度に高温になることを、抑制できる。
【0019】
好ましくは、クランクケースの換気方法は、クランクケースに導入される新気量が、クランクケースに流入するブローバイガスの量に応じて制御されること、をさらに含んでもよい。
【0020】
この方法によれば、クランクケースに流入するブローバイガスの量に応じて、クランクケースに導入される新気量を制御するので、クランクケースの換気が良好に行える。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、ブローバイガスに含まれる水蒸気が、クランクケース内で液化することを抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施の形態によるクランクケース換気装置の概略構成を示す図である。
【
図2】(A)、(B)および(C)は、切替機構の一例を説明する図である。
【
図3】制御装置で実行されるブローバイガス還流制御の処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ、本開示の実施の形態について説明する。以下の説明では、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない場合がある。
【0024】
図1は、本実施の形態に係るクランクケース換気装置100の概略構成を示す図である。
図1において、エンジン1は、火花点火内燃機関であり、本開示の「内燃機関」に相当する。エンジン1は、車両の駆動源であってよい。たとえば、エンジン1は、フォークリフト等、産業車両の油圧ポンプの駆動源および走行用駆動源として、用いられてもよい。エンジン1は、エンジン本体10と、エアクリーナ20と、吸気通路22と、インタークーラ26と、過給機30と、排気通路52と、制御装置200とを備える。
【0025】
エンジン本体10は、シリンダヘッド11と、シリンダブロック12と、ピストン13、クランクケース18、ヘッドカバー19とを含む。ピストン13は、シリンダブロック12に形成されたシリンダに往復動可能に設けられる。ピストン13の頂部とシリンダヘッド11とシリンダとで囲まれた空間によって燃焼室14が形成され、シリンダヘッド11に、燃焼室14に望むよう点火栓(点火プラグ)15が設けられる。本実施の形態において、エンジン1は4気筒であり、
図1には、1つの気筒が図示されている。なお、気筒数は、4気筒に限られず、3気筒や6気筒等であってもよい。
【0026】
ピストン13の往復動は、コンロッド16およびクランクシャフト17によって回転運動に変換される。シリンダブロック12の下部には、クランクシャフト17を収容するクランクケース18が形成されている。クランクケース18には、オイルパンが締結されており、エンジンオイル(潤滑油)が、貯留されている。また、シリンダヘッド11の上方は、ヘッドカバー19によって覆われている。
【0027】
エンジン1の外部の空気(大気)が、エアクリーナ20を介して吸気通路(吸気管)22に吸入される。エアクリーナ20の下流の吸気通路22には、過給機(ターボチャージャー)30のコンプレッサ32が設けられている。コンプレッサ32は、空気(吸入空気)を過給する。過給された空気は、インタークーラ26によって冷却される。インタークーラ26は、水冷であってよく空冷であってもよい。
【0028】
インタークーラ26の下流の吸気通路22には、スロットル弁25が配置される。吸気通路22は、吸気マニホルドを介して、エンジン本体10(シリンダヘッド11)に形成された吸気ポート21から、吸入空気が燃焼室14に流入する。吸気通路22(空気マニホルド)には、吸気ポート21に燃料を噴射する燃料噴射弁40が設けられている。なお、エンジン1は、筒内直噴エンジンであってもよく、この場合、燃料噴射弁40は、燃焼室14に望むよう、シリンダヘッド11に設けられる。
【0029】
燃焼室で燃焼した燃焼ガス(排気)は、排気ポート51を通って、排気マニホルドに集められ、排気マニホルドに集められた排気(燃焼ガス)は排気通路(排気管)52を通って、過給機30のタービン36に流入する。タービン36の下流の排気通路52には、排気浄化装置が設けられている。排気浄化装置は、たとえば、三元触媒であってよく、三元触媒の下流の排気通路52には、消音器(排気マフラー)が配置され、排気は消音器で消音され、大気に放出される。
【0030】
過給機30は、コンプレッサ32とタービン36とを含む。コンプレッサ32のハウジング内にはコンプレッサホイール34が収納され、タービン36のハウジング内にはタービンホイール38が収納される。コンプレッサホイール34とタービンホイール38とは、連結シャフトによって連結される。コンプレッサホイール34は、タービンホイール38に供給される排気の排気エネルギによって回転駆動される、吸気(空気)を圧縮し過給を行う。
【0031】
燃焼室14で空気と燃料の混合気が燃焼すると、ブローバイガス(燃焼ガスを含む未燃混合気)が、ピストン13とシリンダとの隙間を抜けて、燃焼室14からクランクケース18の内部へ流入する。クランクケース18へ流入したブローバイガスを吸気通路22へ還流する(戻す)ことにより、クランクケース18の内部の換気を行う。シリンダヘッド11とヘッドカバー19との間の空間とクランクケース18の内部は、シリンダヘッド11およびシリンダブロック12に形成した連通路60によって、連通している。シリンダヘッド11とヘッドカバー19との間の空間は、オイルセパレータ62を介して、ブローバイガス通路61によって、エアクリーナ20とコンプレッサ32との間の吸気通路22に接続されている。
【0032】
過給機30のコンプレッサ32とインタークーラ26との間の吸気通路22には、第1新気通路71の一端が接続され、第1新気通路71の他端は切替機構70に接続されている。インタークーラ26とスロットル弁25との間の吸気通路22には、第2新気通路72の一端が接続され、第2新気通路72の他端は切替機構70に接続されている。新気通路73は、切替機構70とクランクケース18とを連通しており、新気通路73には、流量制御弁75が設けられている。
【0033】
切替機構70は、クランクケース18へ導入する新気を、コンプレッサ32とインタークーラ26との間の吸気通路22から取り入れるか、あるいは、インタークーラ26の下流の吸気通路22から取り入れるかを、切り替える。
図2は、切替機構70の一例を説明する図である。
図2(A)は、切替機構70として、2位置切替弁(3方向弁)70aを用いたものであり、2位置切替弁70aによって、第1新気通路71と第2新気通路72のいずれか一方が、新気通路73と連通するよう、選択的に切り替えを行う。
【0034】
図2(B)は、切替機構70として、エアミックスダンパを用いたものであり、ドア70bの開閉により、第1新気通路71と第2新気通路72を切り替える。
図2(B)に実線で示したように、ドア70bによって第1新気通路71を閉じることにより、第2新気通路72と新気通路73が連通する。ま破線で示したように、ドア70bによって第2新気通路72を閉じることにより、第1新気通路71と新気通路73が連通する。なお、一点鎖線で示すように、ドア70bを中間位置にすることにより、第1新気通路71および第2新気通路72と新気通路73を連通することも可能であり、ドア70bの角度を調整することによって、第1新気通路71から新気通路73に流入する新気量と、第2新気通路72から新気通路73に流入する新気量との割合を調整することも可能である。
【0035】
図2(C)に示した例では、第1新気通路71に設けたバタフライ弁70cと、第2新気通路72に設けたバタフライ弁70dとによって、切替機構70を構成している。バタフライ弁70cを全閉に維持し、バタフライ弁70dを開くことにより、第2新気通路72と新気通路73が連通する。この場合、バタフライ弁70dの開度を調整することにより、新気通路73を流れる新気量を調整できる。バタフライ弁70dを全閉に維持し、バタフライ弁70cを開くことにより、第1新気通路71と新気通路73が連通する。この場合、バタフライ弁70cの開度を調整することにより、新気通路73を流れる新気量を調整できる。
【0036】
流量制御弁75は、クランクケース18に導入される新気量(クランクケース18に流入する新気量)を調整する。流量制御弁75は、たとえば、バタフライ弁であってよい。
【0037】
本実施の形態のクランクケース換気装置100では、エアクリーナ20とコンプレッサ32との間の吸気通路22は、エアクリーナ20の圧損により、比較的安定した負圧になる。この負圧によって、クランクケース18内のブローバイガスは、連通路60、オイルセパレータ62、ブローバイガス通路61を介して、エアクリーナ20とコンプレッサ32との間の吸気通路22に還流される。ブローバイガスに含まれるオイル成分は、オイルセパレータ62で分離され、オイルパンに戻る。ブローバイガスの還流とともに、新気通路73から導入された新気が、クランクケース18に流入することにより、クランクケース18の換気が行われる。連通路60およびブローバイガス通路61が、本開示の「ブローバイガス通路」の一例に相当する。
【0038】
制御装置200は、エンジン1の動作を制御する。制御装置200は、各種処理を行なうCPU(Central Processing Unit)201と、プログラムおよびデータを記憶するROM(Read Only Memory)およびCPUの処理結果等を記憶するRAM(Random Access Memory)等を含むメモリ202と、外部との情報のやり取りを行なうための入・出力ポート(図示せず)とを含む。入力ポートには、各種のセンサ類が接続され、出力ポートには、制御対象となる機器(たとえば、スロットル弁25、燃料噴射弁40、切替機構70、流量制御弁75、等)が接続される。
【0039】
制御装置200は、各種センサおよび機器からの信号、ならびにメモリ202に格納されたマップおよびプログラムに基づいて、所定の演算処理を実行する。そして、制御装置200は、演算処理の結果に基づいて、スロットル弁25、燃料噴射弁40、切替機構70、流量制御弁75、等を制御する。たとえば、吸入空気量Gaと回転速度NEから燃料噴射量Qfを算出し、燃料噴射弁40から噴射される燃料量を制御する。
【0040】
本実施の形態において、各種のセンサ類は、吸入空気量センサ210、エンジン回転速度センサ220、アクセル開度センサ230、冷却水温センサ240等である。
【0041】
吸入空気量センサ210は、吸入空気量Gaを検出する。吸入空気量センサ210は、エアクリーナ20とブローバイガス通路61との間の吸気通路22に設けたエアフローメータであってよい。エンジン回転速度センサ220は、エンジン1の回転速度NEを検出する。アクセル開度センサ230は、アクセルペダルの踏込量であるアクセル開度APを検出する。冷却水温センサ240は、エンジン1の冷却水温THWを検出する。
【0042】
燃焼ガスには水蒸気が含まれており、ブローバイガスにも水蒸気が含まれる。ブローバイガスに含まれる水蒸気は、クランクケース18内で温度が低下する際に、(液体の)水になる。クランクケース18内に水が多量に存在すると、エンジンオイルのエマルジョン化を促進し、また、ブローバイガスに含まれるNOx(窒素酸化物)と水が結合し硝酸となって、オイル劣化を招く懸念がある。たとえば、エンジン1の冷間始動時には、クランクケース18内の雰囲気温度が低く、ブローバイガスに含まれる水蒸気が液化(凝縮)しやすい。また、水素を燃料として用いた場合、燃料ガスに含まれる水蒸気が多量であるため、水蒸気が液化すると、クランクケース18内に多量の水が存在してしまう。
【0043】
本実施の形態では、エンジン1の暖機時に、過給機30のコンプレッサ32で圧縮(断熱圧縮)され温度が上昇した新気を、クランクケース18に導入することにより、クランクケース18内のブローバイガスの温度低下を抑制し、水蒸気が水になる(液化)することを抑制する。
【0044】
図3は、制御装置200で実行されるブローバイガス還流制御の処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、エンジン1の作動中、所定期間毎に繰り返し処理される。ステップ(以下、ステップを「S」と略す)10では、冷却水温センサ240で検出した冷却水温THWが閾値A以上か否かを判定する。閾値Aは、エンジン1の暖機が完了したか否かを判定する閾値であり、たとえば、80℃であってよい。エンジン1が暖機完了前(暖機時)であるときは、否定判定されS11へ進む。エンジン1の暖機が完了している場合は、肯定判定されS12へ進む。
【0045】
S11では、切替機構70によって、第1新気通路71と新気通路73を連通し、過給機30のコンプレッサ32とインタークーラ26との間の吸気通路22からクランクケース18へ新気を導入する。S12では、切替機構70によって、第2新気通路72と新気通路73を連通し、インタークーラ26下流の吸気通路22からクランクケース18へ新気を導入する。
【0046】
続くS13では、流量制御弁75の開度を調整し、クランクケース18に導入される新気量を制御する。たとえば、エンジン1の暖機時(THW≦A)には、吸入空気量Gaと燃料噴射量Qfとに基づいて算出した基本新気量Abに、冷却水温THWが低いほど大きな値に設定された暖機増量値Dbを加算して新気量Fb(=Ab+Db)を求め、新気量Fbの新気がクランクケース18に導入されるよう、流量制御弁75を制御する。また、エンジン1の暖機完了後(THW>A)には、新気量Fbを基本新気量Abとして(Fb=Ab)、新気量Fbの新気がクランクケース18に導入されるよう、流量制御弁75を制御する。基本新気量Abは、クランクケース18に流入するブローバイガスの量が多いほど大きな値であってよい。また、ブローバイガスに含まれる所定成分の濃度、たとえば、水素の濃度に着目し、ブローバイガスの還流によって、クランクケース18内の水素濃度が所定値以下になるよう、基本新気量Abが設定されてもよい。S13が処理されると、今回のルーチンを終了する。
【0047】
本実施の形態によれば、過給機30のコンプレッサ32とインタークーラ26との間の吸気通路22から、クランクケース18に新気を導入する第1新気通路71と、インタークーラ26の下流の吸気通路22から、クランクケース18に新気を導入する第2新気通路72と、ブローバイガスを吸気通路22へ還流するブローバイガス通路(連通路60、ブローバイガス通路61)と、第1新気通路71と第2新気通路72を切り替える切替機構70と、を備える。新気が、第1新気通路71および第2新気通路72からクランクケース18に導入され、クランクケース18内のブローバイガスは、連通路60、ブローバイガス通路61から吸気通路22に還流され、クランクケース18の換気が行われる。
【0048】
コンプレッサ32で圧縮された空気は高温であり、コンプレッサ32とインタークーラ26との間の吸気通路22の空気の温度は、比較的高温である。クランクケース18内の温度が低い場合であっても、第1新気通路71から新気を導入することにより、比較的高温の新気によってブローバイガスの温度低下が抑制され、ブローバイガスに含まれる水蒸気が水になること(液化することを)を抑制でき、クランクケース内に存在する水を低減できる。
【0049】
インタークーラ26下流の空気は、インタークーラ26によって冷却されるので、コンプレッサ32とインタークーラ26との間の吸気通路22の空気に比べて低温である。第2新気通路72からクランクケース18に新気を導入することにより、エンジンオイル等の無用な温度上昇を抑制することができる。
【0050】
本実施の形態によれば、エンジン1の暖機時に、第1新気通路71から、高温の新気をクランクケース18に導入するので、クランクケース18が昇温されて暖機が促進され、ブローバイガスに含まれる水蒸気が、クランクケース18内で液化することを抑制でき、クランクケース18内で生成される水を低減できる。エンジン1の暖機完了後は、第2新気通路72から、インタークーラ26で冷却された比較的低温の新気をクランクケース18に導入するので、エンジンオイル等の温度が過度に高温になることを、抑制できる。
【0051】
本実施の形態によれば、流量制御弁75によって、クランクケース18に導入される新気量を制御している。クランクケース18に導入する新気量を制御することによって、ブローバイガスの還流量(戻り量)を制御できる。本実施の形態では、吸入空気量Gaと燃料噴射量Qfとに基づいて基本新気量Abを算出し、クランクケース18に導入される新気量Fbを制御している。基本新気量Abは、クランクケース18に流入するブローバイガスの量が多いほど大きな値に設定され、あるいは、ブローバイガスに含まれる所定成分の濃度(たとえば、水素の濃度)が、ブローバイガスの還流によって、所定値以下になるよう設定される。これにより、適切な量のブローバイガスの還流を実現することができる。
【0052】
本実施の形態では、エンジン1の暖機時に第1新気通路71から導入される新気量は、暖機増量値Dbによって増量され、暖機完了後に第2新気通路72から導入される新気量より多い。これにより、暖機時には、多量の高温の新気によって暖機が促進され、暖機完了後には、適切な新気量によってブローバイガスの還流が行われるとともにエンジンオイル等の温度が過度に高温になることを抑制できる。
【0053】
なお、切替機構70が、
図2(C)に示した例にように、第1新気通路71に設けたバタフライ弁70cと、第2新気通路72に設けたバタフライ弁70dとから構成される場合、流量制御弁75を省略してもよい。この場合、バタフライ弁70c、バタフライ弁70dの開度を調整することにより、クランクケース18に導入される新気量を調整する。バタフライ弁70cが本開示の「第1流量制御弁」に相当し、バタフライ弁70dが本開示の「第2流量制御弁」に相当する。
【0054】
本開示における実施態様を例示すると、次のような態様を例示できる。
1)過給機(30)を備えた内燃機関(1)のクランクケース換気装置(100)であって、過給機(30)の下流の吸気通路(22)には、インタークーラ(26)が設けられており、過給機(30)とインタークーラ(26)との間の吸気通路(22)から、クランクケース(18)に新気を導入する第1新気通路(71)と、インタークーラ(26)の下流の吸気通路(22)から、クランクケース(18)に新気を導入する第2新気通路(72)と、ブローバイガスを吸気通路(22)へ還流するブローバイガス通路(60、61)と、内燃機関の暖機時に第1新気通路(71)からクランクケース(18)に新気を導入し、内燃機関の暖機完了後に第2新気通路(71)からクランクケース(18)に新気を導入するよう、第1新気通路(71)と第2新気通路(72)を切り替える切替機構(70)と、クランクケース(18)に流入するブローバイガスの量、あるいは、ブローバイガスに含まれる所定成分の濃度に基づいて、クランクケース(18)に導入される新気量を制御する流量制御弁(75、70c、70d)と、を備えるクランクケース換気装置。
【0055】
2)上記1において、暖機時にクランクケース(18)に導入される新気量は、暖機完了後にクランクケース(18)に導入される新気量より多い、クランクケース換気装置。
【0056】
上記実施の形態では、エンジン1は、火花点火式内燃機関であったが、自己着火式内燃機関(ディーゼルエンジン)であってもよい。また、上記実施の形態では、ブローバイガス通路61は、エアクリーナ20とコンプレッサ32との間の吸気通路22に接続されている。しかし、ブローバイガス通路61は、エアクリーナ20とコンプレッサ32との間の吸気通路22に加えて、あるいは、代えて、スロットル弁25の下流の吸気通路22に接続され、ブローバイガスがスロットル弁25下流の吸気通路22に還流されるようにしてもよい。
【0057】
上記実施の形態では、過給機30として、ターボチャージャーを用いていた。しかし、過給機は、電動モータを駆動源とする電動ターボ、エンジン1の出力軸によって駆動されるスーパーチャージャー、等であってもよい。
【0058】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0059】
1 エンジン、10 エンジン本体、11 シリンダヘッド、12 シリンダブロック、13 ピストン、14 燃焼室、15 点火栓、16 コンロッド、17 クランクシャフト、18 クランクケース、19 ヘッドカバー、20 エアクリーナ、21 吸気ポート、22 吸気通路、25 スロットル弁、26 インタークーラ、30 過給機、32 コンプレッサ、34 コンプレッサホイール、36 タービン、38 タービンホイール、40 燃料噴射弁、51 排気ポート、52 排気通路、60 連通路、61 ブローバイガス通路、62 オイルセパレータ、70 切替機構、70a 2位置切替弁、70b ドア、70c,70d バタフライ弁、71 第1新気通路、72 第2新気通路、73 新気通路、75 流量制御弁、100 クランクケース換気装置、200 制御装置、201 CPU、202 メモリ、210 吸入空気量センサ、220 エンジン回転速度センサ、230 アクセル開度センサ、240 冷却水温センサ。