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特開2024-156361マイコプラズマ・ジェニタリウム検出用プローブ及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156361
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】マイコプラズマ・ジェニタリウム検出用プローブ及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20241029BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20241029BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20241029BHJP
   C12Q 1/6813 20180101ALI20241029BHJP
   C12Q 1/6816 20180101ALI20241029BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20241029BHJP
   C12Q 1/689 20180101ALI20241029BHJP
【FI】
C12N15/09 Z ZNA
C12Q1/04
C12Q1/6844 Z
C12Q1/6813 Z
C12Q1/6816 Z
C12N15/11 Z
C12Q1/689 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】27
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070761
(22)【出願日】2023-04-24
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】道渕 真史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 広道
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】マイコプラズマ・ジェニタリウム検出用プローブを提供すること。
【解決手段】以下の特徴(A)及び(B)を有する、マイコプラズマ・ジェニタリウム(Mycoplasma genitalium)検出用プローブ:
(A)以下の(A-1)又は(A-2)の塩基配列を含む;
(A-1)配列番号1で示される塩基配列の72~100番目の領域の塩基配列若しくは前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する少なくとも15塩基の塩基配列であって、マイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子配列の247位、248位、及び249位に相当する位置の3つの塩基の領域を少なくとも含む塩基配列、又は
(A-2)(A-1)の塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列;及び
(B)5’末端又は3’末端のいずれか一方のみが標識されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の特徴(A)及び(B)を有する、マイコプラズマ・ジェニタリウム(Mycoplasma genitalium)検出用プローブ:
(A)以下の(A-1)又は(A-2)の塩基配列を含む;
(A-1)配列番号1で示される塩基配列の72~100番目の領域の塩基配列若しくは前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する少なくとも15塩基の塩基配列であって、マイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子配列の247位、248位、及び249位に相当する位置の3つの塩基の領域を少なくとも含む塩基配列、又は
(A-2)(A-1)の塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列;及び
(B)5’末端又は3’末端のいずれか一方のみが標識されている。
【請求項2】
前記(A)において、配列番号1で示される塩基配列におけるParC遺伝子配列の247位、248位、及び249位に相当する位置の3つの塩基が、それぞれ独立して、アデニン塩基、グアニン塩基、及びチミン塩基から選択される、請求項1に記載のプローブ。
【請求項3】
前記(A)において、配列番号1で示される塩基配列におけるParC遺伝子配列の247位、248位、及び249位に相当する位置の3つの塩基からなる配列がAGT又はATTである、請求項1に記載のプローブ。
【請求項4】
前記(A)の塩基配列が、配列番号7~17のいずれかで示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列を含む、請求項1に記載のプローブ。
【請求項5】
前記(A)の塩基配列の長さが15~30塩基である、請求項1に記載のプローブ。
【請求項6】
前記(B)の標識が蛍光色素標識である、請求項1に記載のプローブ。
【請求項7】
前記(B)の標識が、前記プローブの塩基配列に対して相補的な塩基配列と90%以上の同一性を示す塩基配列を含む核酸と結合した場合に消光する蛍光消光色素による標識である、請求項1に記載のプローブ。
【請求項8】
前記(B)の標識が、グアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素による標識である、請求項1に記載のプローブ。
【請求項9】
前記(B)の標識が、フルオレセイン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、並びにBODIPY及びその誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの蛍光消光色素による標識である、請求項1に記載のプローブ。
【請求項10】
前記(B)の標識が、4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸(BODIPY-FL)、カルボキシローダミン6G、TAMRA、ローダミン6G、テトラブロモスルホンフルオレセイン(TBSF)、及び2-オキソ-6,8-ジフルオロ-7-ジヒドロキシ-2H-1-ベンゾピラン-3-カルボン酸(Pacific Blue)からなる群より選択される少なくとも1つの蛍光消光色素による標識である、請求項1に記載のプローブ。
【請求項11】
前記(B)において、標識されている末端塩基がシトシンである、請求項1に記載のプローブ。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載のプローブを用いて、検体試料中に含まれ得るマイコプラズマ・ジェニタリウムを検出する方法。
【請求項13】
以下の工程(1)、(2)、及び(3):
(1)マイコプラズマ・ジェニタリウムを含み得る検体試料を提供する工程、
(2)工程(1)の検体試料を、マイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子配列の一部又は全部を鋳型とする核酸増幅反応に供する工程、及び
(3)工程(2)の核酸増幅反応で生成し得る1又は複数の核酸増幅産物を、1又は複数の前記プローブを用いて検出する工程、
を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
工程(2)がPCR反応により実施され、前記PCR反応に用いる核酸増幅酵素が、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼである請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ファミリーBに属するDNAポリメラーゼが、KOD由来のDNAポリメラーゼ又はその変異体である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
工程(2)の核酸増幅反応で使用するプライマーセットが、配列番号1の1~71番目の塩基配列若しくは前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する19~32塩基の塩基配列、又はそれらの塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列からなる第一のプライマーと、配列番号1の99~142番目の塩基配列若しくは前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する19~32塩基の塩基配列、又はそれらの塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列からなる第二のプライマーとの組合せからなるプライマーセットであって、第二のプライマーが第一のプライマーのDNA伸長生成物に対して相補的であるプライマーセットである、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記第一のプライマーが、配列番号18及び19のいずれかで示される塩基配列若しくはそれらに相補的な塩基配列、又はそれらの塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列からなり、かつ、前記第二のプライマーが、配列番号20~22のいずれかで示される塩基配列若しくはそれらに相補的な塩基配列、又はそれらの塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列からなる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
マイコプラズマ・ジェニタリウムの野生型及びキノロン系抗生物質に対する耐性変異型の両方を検出する、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
マイコプラズマ・ジェニタリウムを野生型及びキノロン系抗生物質に対する耐性変異型のいずれであるかを判別して検出する、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
マイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子配列の247位、248位、及び249位における少なくとも1つの変異の有無を判別して検出する、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
マイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子配列の248位における変異の有無を判別して検出する、請求項12に記載の方法。
【請求項22】
工程(3)の検出する工程が、融解曲線分析により実施される、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
前記融解曲線分析において、キノロン系抗生物質に対する耐性変異型の検出温度が、野生型の検出温度より低い又は高い温度で検出される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記融解曲線分析において、キノロン系抗生物質に対する耐性変異型の検出温度と、野生型の検出温度との間の差が4℃以上である、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記融解曲線分析において、キノロン系抗生物質に対する耐性変異型の検出温度と、野生型の検出温度との間の差が8℃以上である、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
請求項1~11のいずれかに記載のプローブを含む、マイコプラズマ・ジェニタリウムを検出するための試薬キット。
【請求項27】
配列番号1で示される塩基配列の1~71番目の塩基配列若しくは前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する19~32塩基の塩基配列、又はそれらの塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列からなる第一のプライマーと、配列番号1で示される塩基配列の99~142番目の塩基配列若しくは前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する19~32塩基の塩基配列、又はそれらの塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列からなる第二のプライマーとの組合せからなるプライマーセットであって、第二のプライマーが第一のプライマーのDNA伸長生成物に対して相補的であるプライマーセットを更に含む、請求項26に記載の試薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイコプラズマ・ジェニタリウム検出用プローブ、該プローブを用いてマイコプラズマ・ジェニタリウムを検出する方法及び当該方法に用いるための試薬・キット等に関する。
【背景技術】
【0002】
性感染症は性的接触によって感染する病気であり、無症状や自覚しない軽症の場合も多く、感染がいつの間にか広がってしまうという問題がある。性感染症を引き起こす原因細菌としては、Chlamydia trachomatis、Neisseria gonorrhoeaeが代表例として挙げられる。更に、その他の原因細菌として、Mycoplasma genitalium、Mycoplasma hominis、Ureaplasma parvum、Ureaplasma urealyticum、Trichomonas vaginalis、Treponema pallidum等も知られている。
【0003】
これらの性感染症を引き起こす原因細菌のうち、マイコプラズマ・ジェニタリウム(Mycoplasma genitalium)は、膿性や漿液性の尿道分泌物を伴う尿道炎を引き起こすことが報告されており、これを簡便、迅速、高感度に検出することは臨床診断上重要である。マイコプラズマ・ジェニタリウム感染症に対しては、マクロライド系抗菌薬が最もよく治療に用いられている。しかしながら、マクロライド系抗菌薬に対して耐性を持つ株が報告されており、マクロライド系抗菌薬による治療が難しいケースも確認されている。さらに、マイコプラズマ・ジェニタリウム感染症の治療にキノロン系抗菌薬も用いられるが、キノロン系抗菌薬に対しても耐性を持つ株が報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Anna Vesty et al., Mycoplasma genitalium Antimicrobial Resistance in Community and Sexual Health Clinic Patients, Auckland, New Zealand., Journal of Emerging Infectious Diseases,February 2022 Volume 26 Number 2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マイコプラズマ・ジェニタリウムの野生型又は変異型を問わず可能な限り網羅的に検出できる方法の開発が求められている。また、野生型及び変異型の両方を検出できるだけでなく、マイコプラズマ・ジェニタリウムの抗生物質(キノロン系抗菌薬等)に対する耐性の有無についても簡便、迅速、且つ高感度に検出する方法の開発が望まれている。
本発明の主な目的は、マイコプラズマ・ジェニタリウムの検出に有用なプローブ及びそれを用いたマイコプラズマ・ジェニタリウムの検出方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の目的を達成するため鋭意研究した結果、特定の塩基配列を有する標識プローブを用いることで、マイコプラズマ・ジェニタリウムを簡便、迅速、且つ高感度に検出できることを見出した。本発明者らは、当該知見を基に更に鋭意研究を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明は、以下の態様を包含する。
[項1] 以下の特徴(A)及び(B)を有する、マイコプラズマ・ジェニタリウム(Mycoplasma genitalium)検出用プローブ:
(A)以下の(A-1)又は(A-2)の塩基配列を含む;
(A-1)配列番号1で示される塩基配列の72~100番目の領域の塩基配列若しくは前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する少なくとも15塩基の塩基配列であって、マイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子配列の247位、248位、及び249位に相当する位置の3つの塩基の領域を少なくとも含む塩基配列、又は
(A-2)(A-1)の塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列;及び
(B)5’末端又は3’末端のいずれか一方のみが標識されている。
[項2] 前記(A)において、配列番号1で示される塩基配列におけるParC遺伝子配列の247位、248位、及び249位に相当する位置の3つの塩基が、それぞれ独立して、アデニン塩基、グアニン塩基、及びチミン塩基から選択される、項1に記載のプローブ。
[項3] 前記(A)において、配列番号1で示される塩基配列におけるParC遺伝子配列の247位、248位、及び249位に相当する位置の3つの塩基からなる配列がAGT又はATTである、項1又は2に記載のプローブ。
[項4] 前記(A)の塩基配列が、配列番号7~17のいずれかで示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列を含む、項1~3のいずれかに記載のプローブ。
[項5] 前記(A)の塩基配列の長さが15~30塩基である、項1~4のいずれかに記載のプローブ。
[項6] 前記(B)の標識が蛍光色素標識である、項1~5のいずれかに記載のプローブ。
[項7] 前記(B)の標識が、前記プローブの塩基配列に対して相補的な塩基配列と90%以上の同一性を示す塩基配列を含む核酸と結合した場合に消光する蛍光消光色素による標識である、項1~6のいずれかに記載のプローブ。
[項8] 前記(B)の標識が、グアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素による標識である、項1~7のいずれかに記載のプローブ。
[項9] 前記(B)の標識が、フルオレセイン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、並びにBODIPY及びその誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの蛍光消光色素による標識である、項1~8のいずれかに記載のプローブ。
[項10] 前記(B)の標識が、4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸(BODIPY-FL)、カルボキシローダミン6G、TAMRA、ローダミン6G、テトラブロモスルホンフルオレセイン(TBSF)、及び2-オキソ-6,8-ジフルオロ-7-ジヒドロキシ-2H-1-ベンゾピラン-3-カルボン酸(Pacific Blue)からなる群より選択される少なくとも1つの蛍光消光色素による標識である、項1~9のいずれかに記載のプローブ。
[項11] 前記(B)において、標識されている末端塩基がシトシンである、項1~10のいずれかに記載のプローブ。
[項12] 項1~11のいずれかに記載のプローブを用いて、検体試料中に含まれ得るマイコプラズマ・ジェニタリウムを検出する方法。
[項13] 以下の工程(1)、(2)、及び(3):
(1)マイコプラズマ・ジェニタリウムを含み得る検体試料を提供する工程、
(2)工程(1)の検体試料を、マイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子配列の一部又は全部を鋳型とする核酸増幅反応に供する工程、及び
(3)工程(2)の核酸増幅反応で生成し得る1又は複数の核酸増幅産物を、1又は複数の前記プローブを用いて検出する工程、
を含む、項12に記載の方法。
[項14] 工程(2)がPCR反応により実施され、前記PCR反応に用いる核酸増幅酵素が、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼである項13に記載の方法。
[項15] ファミリーBに属するDNAポリメラーゼが、KOD由来のDNAポリメラーゼ又はその変異体である、項14に記載の方法。
[項16] 工程(2)の核酸増幅反応で使用するプライマーセットが、配列番号1の1~71番目の塩基配列若しくは前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する19~32塩基の塩基配列、又はそれらの塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列からなる第一のプライマーと、配列番号1の99~142番目の塩基配列若しくは前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する19~32塩基の塩基配列、又はそれらの塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列からなる第二のプライマーとの組合せからなるプライマーセットであって、第二のプライマーが第一のプライマーのDNA伸長生成物に対して相補的であるプライマーセットである、項13~15のいずれかに記載の方法。
[項17] 前記第一のプライマーが、配列番号18及び19のいずれかで示される塩基配列若しくはそれらに相補的な塩基配列、又はそれらの塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列からなり、かつ、前記第二のプライマーが、配列番号20~22のいずれかで示される塩基配列若しくはそれらに相補的な塩基配列、又はそれらの塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列からなる、項16に記載の方法。
[項18] マイコプラズマ・ジェニタリウムの野生型及びキノロン系抗生物質に対する耐性変異型の両方を検出する、項12~17のいずれかに記載の方法。
[項19] マイコプラズマ・ジェニタリウムを野生型及びキノロン系抗生物質に対する耐性変異型のいずれであるかを判別して検出する、項12~18のいずれかに記載の方法。
[項20] マイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子配列の247位、248位、及び249位における少なくとも1つの変異の有無を判別して検出する、項12~19のいずれかに記載の方法。
[項21] マイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子配列の248位における変異の有無を判別して検出する、項12~20のいずれかに記載の方法。
[項22] 工程(3)の検出する工程が、融解曲線分析により実施される、項13~21のいずれかに記載の方法。
[項23] 前記融解曲線分析において、キノロン系抗生物質に対する耐性変異型の検出温度が、野生型の検出温度より低い又は高い温度で検出される、項22に記載の方法。
[項24] 前記融解曲線分析において、キノロン系抗生物質に対する耐性変異型の検出温度と、野生型の検出温度との間の差が4℃以上である、項22又は23に記載の方法。
[項25] 前記融解曲線分析において、キノロン系抗生物質に対する耐性変異型の検出温度と、野生型の検出温度との間の差が8℃以上である、項22~24のいずれかに記載の方法。
[項26] 項1~11のいずれかに記載のプローブを含む、マイコプラズマ・ジェニタリウムを検出するための試薬キット。
[項27] 配列番号1で示される塩基配列の1~71番目の塩基配列若しくは前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する19~32塩基の塩基配列、又はそれらの塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列からなる第一のプライマーと、配列番号1で示される塩基配列の99~142番目の塩基配列若しくは前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する19~32塩基の塩基配列、又はそれらの塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列からなる第二のプライマーとの組合せからなるプライマーセットであって、第二のプライマーが第一のプライマーのDNA伸長生成物に対して相補的であるプライマーセットを更に含む、項26に記載の試薬キット。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、マイコプラズマ・ジェニタリウムを簡便、迅速、且つ高感度に検出することができる。また、本発明では、1種類のプローブを用いることにより、野生型及びキノロン系抗生物質に対して耐性を示す変異型の両方のマイコプラズマ・ジェニタリウムを検出することも可能である。さらに、本発明では、マイコプラズマ・ジェニタリウムを、野生型及びキノロン系抗生物質に対して耐性を示す変異型のいずれであるかを判別して検出することも可能となり、更に特定の実施態様では、マイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子配列の247位、248位、及び249位の少なくとも1つの位置における変異の有無を判別して検出することも可能である。本発明のプローブ、それを用いた検出方法、試薬、又はキット等を使用することで、マイコプラズマ・ジェニタリウムの簡便、迅速、且つ高感度な検出が可能になり、臨床診断の分野に大きく貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は実施例1の結果の代表例(配列番号8で示されるプローブを用いて融解曲線解析を行った場合の検出結果)を示す。
図2図2は実施例2の結果の代表例(配列番号19と配列番号22で示されるプライマーの組合せで融解曲線解析を行った場合の検出結果)を示す。
図3図3は実施例3の結果の代表例(配列番号8で示されるプローブを用いて融解曲線解析を行った場合の検出結果)を示す。
図4図4は実施例4の結果の代表例(配列番号13で示されるプローブを用いて融解曲線解析を行った場合の検出結果)を示す。
図5図5はマイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子配列(配列番号1)の一部と、試験例で用いた各プローブ及びプライマーの塩基配列との対応関係を示す図である。四角で囲んだ部分が、マイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子配列の247位、248位、及び249位に相当する位置の3つの塩基の領域(図5の例では、AGT又はATT)である。黒丸は蛍光消光色素の結合位置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を示しつつ、本発明についてさらに詳説するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、本明細書中に記載された非特許文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用され、その全体が明細書に組み込まれる。また、本明細書中の「~」は「以上、以下」を意味し、例えば明細書中で「X~Y」と記載されていれば「X以上、Y以下」を示す。本明細書中の「及び/又は」は、いずれか一方又は両方を意味する。本明細書中の「含む」は、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を包含する。
【0011】
また、本明細書では、核酸プライマーを単にプライマーという場合があり、核酸プローブ及び標識プローブを単にプローブという場合があり、これらを総称してオリゴヌクレオチドともいう。
【0012】
一つの実施形態において、本発明は、特定の塩基配列を有する標識プローブを使用することで、マイコプラズマ・ジェニタリウムを検出する方法を提供する。この方法により、簡便、迅速、且つ高感度にマイコプラズマ・ジェニタリウムを検出することができる。また、マイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子配列におけるキノロン系抗生物質耐性に関連する変異個所を有する特定領域をターゲットとする標識プローブでありながら、1種類の標識プローブでマイコプラズマ・ジェニタリウムの野生型及びキノロン系抗生物質耐性変異型のどちらも検出できる。本明細書において、配列番号1は、野生型マイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子配列の一部である。本発明のプローブは、配列番号1に示される塩基配列の特定の領域をターゲットとし、特定の塩基配列を有する標識プローブ(本明細書では、これを「核酸プローブ」等ともいう)であることが好ましい。
【0013】
[マイコプラズマ・ジェニタリウムを検出する方法]
一つの実施形態において、検体試料中に含まれ得るマイコプラズマ・ジェニタリウムを検出する方法は、後述の核酸プローブを用いる方法であることが好ましい。当該方法は、検体試料中にマイコプラズマ・ジェニタリウムが存在するか又は存在しないか(特にキノロン系抗生物質耐性変異型が存在するか又は存在しないか)を判定する方法であってもよい。また、当該方法は、検体試料中に含まれるマイコプラズマ・ジェニタリウム(特にキノロン系抗生物質耐性変異型)を定量する方法であってもよい。特定の実施形態では、1種類の核酸プローブを用いることで、例えばPCR-融解曲線解析法(RT-PCR-融解曲線解析法を含む)等において、検体試料中に含まれ得るマイコプラズマ・ジェニタリウムを、野生型及び変異型(特にキノロン系抗生物質耐性変異型)のどちらであっても高感度に検出することができる。更に特定の実施形態では、例えば、融解曲線解析法等における検出温度の差に基づいて、検体試料中に含まれ得るマイコプラズマ・ジェニタリウムを、野生型及び変異型(特にキノロン系抗生物質耐性変異型)のいずれであるかを判別して検出、或いは、マイコプラズマ・ジェニタリウムの変異(特にキノロン系抗生物質耐性に関連する変異)の有無(例えば247位、248位、249位、及び場合により259位における少なくとも1つの変異の有無、特に248位の変異の有無)を検出することができる。
【0014】
抗生物質とは、感染による病気の原因となる細菌に対して静菌作用又は殺菌作用を示す物質であり、感染症の治療に用いられる。抗生物質には、マクロライド系、テトラサイクリン系、キノロン系等の種類があり、それぞれ作用機序が異なり標的とするターゲットも異なる。また、各抗生物質の標的となるターゲットに一塩基変異や欠失が生じた場合に、これらの抗生物質が作用できず効果が期待できないことがある。本明細書において抗生物質は、好ましくは、フルオロキノロン等のキノロン系抗生物質である。
【0015】
特定の実施形態では、検体試料中に含まれ得るマイコプラズマ・ジェニタリウムを検出する方法は、少なくとも以下の工程(1)、(2)、及び(3):
(1)マイコプラズマ・ジェニタリウムを含み得る検体試料を提供する工程、
(2)工程(1)の検体試料を、マイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子配列の一部又は全部を鋳型とする核酸増幅反応に供する工程、及び
(3)工程(2)の核酸増幅反応で生成し得る1又は複数の核酸増幅産物を、1又は複数の前記プローブを用いて検出する工程、
を含むことが好ましい。当該方法は、工程(2)をPCR反応により実施し、且つ、工程(3)を融解曲線分析により実施すること(PCR-融解曲線解析法)が好ましい。工程(2)及び(3)は同一の反応液中で行ってもよい。
【0016】
[工程(1)]
工程(1)の検体試料は、マイコプラズマ・ジェニタリウムを含む可能性のあるものであれば特に限定されない。検体試料の例としては、例えば、動植物組織、体液、排泄物、細胞等の生体試料;施設の壁面、床面、設備や備品、便器等を拭き取ったもの又はそれらを洗浄した洗浄液等の環境試料等が挙げられる。検体試料の好適な例としては、例えば、被験体(マイコプラズマ・ジェニタリウムへの感染が疑われる被験体等)から採取した血液、血液培養液、子宮頸管擦過物、尿道擦過物、男性尿道擦過物尿、尿、膿、髄液、胸水、咽頭拭い液、鼻腔拭い液、喀痰、唾液、口腔内擦過物、組織切片、皮膚、吐瀉物、糞便、分離培養コロニー、カテーテル洗浄液等が挙げられるが、これらに限定されない。マイコプラズマ・ジェニタリウムが性感染症の主要な原因菌という観点から、特定の実施形態において、検体試料として、例えば、組織切片、皮膚、吐瀉物、尿、分離培養コロニー、子宮頸管擦過物、尿道擦過物、男性尿道擦過物尿、尿、咽頭ぬぐい液を用いるのが好ましく、尿を用いるのが更に好ましい。生体試料を測定対象の検体試料とする場合、生体試料の種類等に応じて、特に制限はされないが、希釈又は懸濁、遠心、酵素処理、ろ過、加熱処理、酸処理、アルカリ処理、有機溶媒処理、破砕処理、磨砕処理等の前処理若しくは核酸抽出を行ってもよい。
【0017】
検体試料の採取方法、調製方法等は、特に制限されず、検体試料の種類、目的に応じて公知の方法を用いることができる。特定の好ましい実施形態では、検体試料は、DNAを単離又は精製した試料でなくてもよく、例えば、生体から採取した試料をタンパク質分解酵素(例えば、プロテイナーゼK)処理及び/又は熱処理(例えば、60~100℃で1秒~10分間)によるタンパク分解変性処理をし、試料中に存在しているDNase(DNA分解酵素)を予め分解除去した試料をそのまま用いてもよい。
【0018】
核酸抽出の方法は、特に制限されないが、検体試料の種類、目的に応じて公知の方法を用いることができる。核酸抽出には、例えば、各メーカーから販売されているキット等を使用してもよい。また、自動抽出精製装置を用いて核酸抽出を行ってもよい。
【0019】
特定の好ましい実施形態において、検体試料は、従来の核酸増幅反応において通常は必須と考えられていた核酸精製工程を省略したものであってもよい。核酸精製を行う場合、専用試薬が必要であることに加えて、作業が煩雑で手間と時間がかかるという問題がある。核酸精製工程を省略した検体試料を用いる場合、検体試料の採取から遺伝子検査結果を得るまでの時間を短縮することができ、例えば、検体試料の採取から遺伝子検査結果が得られるまでの時間を1日以内、好ましくは半日以内、より好ましくは6時間以内、更に好ましくは3時間以内、なかでも好ましくは2時間以内(例えば、1時間以内)とすることが可能となる。このように、核酸精製工程を経ていない検体試料を用いて本発明の方法を行う場合、核酸精製の手間を省くことができ、簡便且つ短時間でマイコプラズマ・ジェニタリウムを検出することができる。
【0020】
[工程(2)]
一つの実施形態において、工程(2)の核酸増幅反応は、核酸増幅法(1又は複数のプライマーセットを用いて核酸増幅反応を行うこと)により実施することが好ましい。核酸増幅法は数コピーの標的核酸を可視化可能なレベル、すなわち数億コピー以上に増幅する技術であり、生命科学研究分野のみならず、臨床診断、食品衛生検査、環境検査等の分野においても広く用いられている。そのような核酸増幅法としては、PCR法、LAMP法、LCR法、TMA法、SDA法、RT-PCR法、RT-LAMP法、NASBA法、TRC法等が挙げられる。これらの技術は既に当該技術分野において確立されており、目的に合わせて方法を選択することができる。核酸増幅法はPCR法(RT-PCR法を含む)が好ましいが、これに限定されない。
【0021】
(PCR反応)
PCR反応は、主にDNAポリメラーゼによって触媒される反応である。PCR反応は、通常、(i)熱処理によるDNA変性(2本鎖DNAから1本鎖DNAへの乖離)、(ii)鋳型1本鎖DNAへのプライマーのアニーリング、(iii)DNAポリメラーゼを用いた前記プライマーの伸長、という3ステップを1サイクルとし、このサイクルを繰り返すことを含む。DNAポリメラーゼとしては、例えば、Taq、Tth、Bst、KOD、Pfu、Pwo、Tbr、Tfi、Tfl、Tma、Tne、Vent、DEEPVENT、これらの変異体が挙げられる。本発明では、簡便、迅速、高感度、且つ検体試料による増幅阻害耐性を有するという観点から、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼを用いることが好ましい。また、工程(3)を融解曲線解析法により実施する場合には、蛍光消光プローブを用いる観点からも、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有しないファミリーBに属するDNAポリメラーゼを用いることが好ましい。
【0022】
PCR反応の条件は、反応が進行する限り特に限定されない。例えば、最初の工程(i)を80~100℃で0秒~300秒程度(例えば0.5~300秒程度)行ってもよく、2回目以降(繰り返し)の工程(i)を80~100℃で0.5~300秒程度行ってもよく、工程(ii)を35~80℃で1~300秒程度行ってもよく、工程(iii)を35~85℃で1~300秒程度行ってもよい。工程(i)から(iii)までのサイクルは30~70回繰り返すことが好ましい。ここで繰り返し行うサイクルの温度及び時間は、1~3サイクル毎に変化させてもよい。
【0023】
(DNAポリメラーゼ)
工程(2)の核酸増幅反応、特にPCR反応に使用し得るDNAポリメラーゼは、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼが好ましいが、これに限定されない。前記ファミリーBに属するDNAポリメラーゼは、特に制限されないが、好ましくは古細菌(Archea)由来のDNAポリメラーゼであり、より好ましくは、パイロコッカス(Pyrococcus)属及びサーモコッカス(Thermococcus)属の細菌に由来するDNAポリメラーゼが挙げられる。また、好適なDNAポリメラーゼには、ファミリーBに属する古細菌由来のDNAポリメラーゼ活性を失っていないその変異体も含まれる。変異体としては、例えば、野生型のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加した変異体或いは野生型のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上のアミノ酸配列同一性を示す変異体等が挙げられる。具体的には、DNAポリメラーゼの変異体には、ポリメラーゼ活性の増強、エキソヌクレアーゼ活性の欠損、基質特異性の調整等を目的とした変異体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
パイロコッカス属由来のDNAポリメラーゼとしては、Pyrococcus furiosus、Pyrococcus sp.GB-D、Pyrococcus woesei、Pyrococcus abyssi、Pyrococcus horikoshiiから単離されたDNAポリメラーゼ、及びこれらに由来するDNAポリメラーゼ活性を失っていないその変異体を含むが、これらに限定されない。
【0025】
サーモコッカス属に由来するDNAポリメラーゼとしては、Thermococcus kodakaraensis、Thermococcus gorgonarius、Thermococcus litoralis、Thermococcus sp.JDF-3、Thermococcus sp.9degrees North-7(Thermococcus sp.9°N-7)、Thermococcus siculiから単離されたDNAポリメラーゼ、及びこれらに由来するDNAポリメラーゼ活性を失っていないその変異体を含むが、これらに限定されない。好ましくは、Thermococcus kodakaraensis由来のDNAポリメラーゼ及びその変異体(例えば、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を欠失させたKOD由来DNAポリメラーゼ等)が、伸長性や熱安定性に優れているという観点から、本発明においてとりわけ好適に用いることができる。
【0026】
これらのDNAポリメラーゼを用いたPCR酵素は市販されており、Pfu(Staragene社)、KOD(Toyobo社)、Pfx(Life Technologies社)、Vent(New England Biolabs社)、Deep Vent(New England Biolabs社)、Tgo(Roche社)、Pwo(Roche社)等が挙げられ、そのいずれもが本発明に用いられ得る。
【0027】
(KOD由来のDNAポリメラーゼ)
本明細書において、KOD由来のDNAポリメラーゼ(KOD DNAポリメラーゼともいう)とは、Thermococcus kodakaraensis由来のDNAポリメラーゼ及びその変異体(例えば、天然由来のアミノ酸配列において1~3個のアミノ酸を置換、欠失、挿入及び/又は付加することにより3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を欠失させたKOD由来DNAポリメラーゼ等)をいう。一つの好ましい実施形態において、工程(2)の核酸増幅反応は、このようなKOD由来のDNAポリメラーゼを使用する。KOD DNAポリメラーゼは、ファミリーAに属するDNAポリメラーゼであるTaq DNAポリメラーゼに比べて、正確性、増幅効率、伸長性、検体試料由来の阻害物質による増幅阻害耐性に優れている。本発明では、このようなKOD DNAポリメラーゼを使用することが、後述の実施例に示すように、簡便でありながら、迅速、高感度でマイコプラズマ・ジェニタリウムを検出する点でより好ましい。
【0028】
(プライマーセット)
工程(2)の核酸増幅反応に使用し得るプライマーセットは、後述のプローブが複合体を形成できるマイコプラズマ・ジェニタリウム由来の核酸断片を増幅し得るものであれば、特に限定されない。より高感度な判定結果が得られ易いという観点から、プライマーセットは、マイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子配列の一部又は全部(例えば、配列番号1で示される塩基配列、又は配列番号1で示される塩基配列においてマイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子配列の247位、248位、及び249位に相当する位置の3つの塩基の領域を少なくとも含む塩基配列)を増幅し得るプライマーセットであることが好ましい。更に特定の実施形態では、ParC遺伝子配列の247位、248位、及び249位に相当する位置の少なくとも1つの位置に変異(例えば、A247C、G248T、及び/又はT249Aの変異)を有する塩基配列の当該変異を含む領域を増幅し得るプライマーセットであることが好ましい。更に別の実施形態では、ParC遺伝子配列の247位、248位、249位、及び259位に相当する位置の少なくとも1つの位置に変異(例えば、A247C、G248T、T249A、G259A、及び/又はG259Tの変異)を有する塩基配列の当該変異を含む領域を増幅し得るプライマーセットであってもよい。
【0029】
例えば、プライマーセットは、配列番号1の1~71番目の塩基配列若しくは前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する塩基数19~32の塩基配列からなる第一のプライマーと、配列番号1の99~142番目の塩基配列若しくは前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する塩基数19~32の塩基配列からなる第二のプライマーとの組合せからなるプライマーセットであって、第二のプライマーが第一のプライマーのDNA伸長生成物に対して相補的であるプライマーセットであることが好ましい。
【0030】
更に好ましくは、プライマーセットは、配列番号18及び19のいずれかで示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列からなるプライマーと、配列番号20~22のいずれかで示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列からなるプライマーとで構成され、一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に相補的であるプライマーセットである。
【0031】
また、前記プライマーセットは、前記各プライマーの塩基配列において1~3個の塩基(好ましくは1又は2個の塩基、さらに好ましくは1個の塩基)が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列からなるプライマーを含むものであってもよい。
【0032】
[工程(3)]
工程(3)の実施態様は特に限定されず、当該分野で公知の任意の方法で実施することができる。検出対象のマイコプラズマ・ジェニタリウムは他の感染性微生物と同様に変異し得る。ここで、プライマー又はプローブの塩基配列とターゲットのマイコプラズマ・ジェニタリウム変異株の塩基配列とにミスマッチが生じると、標的遺伝子又はそれに由来する核酸増幅産物(標的核酸)に対するプライマー又はプローブの結合力は低下することになり得る。とりわけ、リアルタイムPCR法において標的核酸とプローブとの間のミスマッチが多い場合は、標的核酸に十分にプローブが結合できなくなるため、見かけ上増幅曲線の立ち上がりが遅れる、或いは全く立ち上がりがなくなる場合があり、このような状況は偽陰性を誘発し得る。融解曲線解析法の場合はPCRを終えてから工程(3)を行うため、仮にプライマー又はプローブにミスマッチがあったとしても、最終的に核酸増幅産物が得られていれば検出は可能であるため、リアルタイムPCR法よりもミスマッチの影響を抑えることできる。従って、工程(3)では、核酸増幅産物を融解曲線解析法で検出することが特に好ましい。また、核酸増幅産物を融解曲線解析法で検出することで、より短時間(例えば、核酸増幅反応開始から融解曲線解析完了まで45分以下、好ましくは40分以下、より好ましくは35分以下)で検出することも可能となり得る。
【0033】
一つの実施形態において、工程(3)は、以下の工程(3-1)及び(3-2):
(3-1)工程(2)の核酸増幅反応で生成し得る核酸増幅産物と核酸プローブとをハイブリダイズさせ複合体を形成する工程;及び
(3-2)工程(3-1)の複合体を検出する工程
を含むことが好ましい。マイコプラズマ・ジェニタリウムの検出において、高感度な判定結果を得るために、工程(2)の核酸増幅反応で生成し得る核酸増幅産物と特異的に反応して複合体を形成し得る後述の核酸プローブを用いることが好ましい。
工程(3-1)のハイブリダイズは、核酸増幅産物と核酸プローブが十分にハイブリダイズする温度条件下で実施されることが好ましい。このような温度条件としては、例えば、核酸プローブのTm値より少なくとも4℃低い温度、より好ましくは少なくとも6℃低い温度を挙げることができるが、これらに限定はされない。
【0034】
(核酸プローブ)
本発明の核酸プローブは、少なくとも以下の(A)及び(B)の特徴を有する、マイコプラズマ・ジェニタリウム検出用プローブであり得る:
(A)以下の(A-1)又は(A-2)の塩基配列を含む;
(A-1)配列番号1で示される塩基配列の72~100番目の領域の塩基配列若しくは前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する少なくとも15塩基の塩基配列であって、マイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子配列の247位、248位、及び249位に相当する位置の3つの塩基の領域を少なくとも含む塩基配列、又は
(A-2)(A-1)の塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列;及び
(B)5’末端又は3’末端のいずれか一方のみが標識されている。
このような特徴を有する核酸プローブを用いることで、例えば、融解曲線解析においても高感度にマイコプラズマ・ジェニタリウムを検出することができる。
【0035】
本発明の核酸プローブは、(A)の塩基配列を有するものであれば特に限定されないが、後述するグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素で標識した核酸プローブとする場合には、当該色素で標識される少なくとも一つの末端塩基がシトシンであることが好ましい。
【0036】
一つの実施形態において、本発明の核酸プローブは、配列番号1で示される塩基配列と85%以上の同一性を示す塩基配列をゲノム中に含むマイコプラズマ・ジェニタリウム(マイコプラズマ・ジェニタリウムの変異株を含む)を検出でき、好ましくは、配列番号1で示される塩基配列と90%以上、より好ましくは93%以上、更に好ましくは95%以上、更により好ましくは98%以上の同一性を示す塩基配列をゲノム中に含むマイコプラズマ・ジェニタリウムを検出できる核酸プローブであり得る。
【0037】
一つの実施形態において、前記(A)において、配列番号1で示される塩基配列におけるParC遺伝子配列の247位、248位、及び249位に相当する位置の3つの塩基は、それぞれ独立して、アデニン塩基、グアニン塩基、及びチミン塩基から選択される塩基であることが好ましく、なかでも、当該3つの塩基からなる配列が、アデニン-グアニン-チミン(AGT)又はアデニン-チミン-チミン(ATT)であることが好ましい。なお、(A)の塩基配列が配列番号1で示される塩基配列と相補的な塩基配列に基づく場合は、この3つの塩基の領域も相補配列となり、アデニン-シトシン-チミン(ACT)又はアデニン-アデニン-チミン(AAT)であることが好ましい。ParC遺伝子配列の247位、248位、及び249位に相当する位置の3つの塩基がこのような配列であることによって、マイコプラズマ・ジェニタリウムの野生型とキノロン系抗生物質耐性変異株とをより特異性高く分離でき、更には、キノロン系抗生物質に対する耐性に特に関与している可能性が高いことが示唆されているParC遺伝子配列の248位の変異を有する変異株であるかを判別することが可能となる。
【0038】
特定の実施形態では、前記(A)の塩基配列は、配列番号1で示される塩基配列におけるParC遺伝子配列の259位に相当する位置の1つの塩基の領域を含むように設計されていてもよい。(A)の塩基配列が259位に相当する位置の1つの塩基の領域を含むように設計する場合、その塩基の種類は特に限定されないが、配列番号1で示される塩基配列におけるParC遺伝子配列の259位に相当する位置の塩基がグアニン塩基となるように設計されることが好ましい。なお、(A)の塩基配列が配列番号1で示される塩基配列と相補的な塩基配列に基づく場合は、この259位に相当する位置の塩基も相補塩基として、シトシン塩基であることが好ましい。
【0039】
特定の実施形態では、本発明の核酸プローブは、(A-1)で示される塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列(A-2)を含むプローブであり得る。置換、欠失、挿入若しくは付加し得る塩基の数は、好ましくは1又は2個であり得る。このように塩基の置換、欠失、挿入若しくは付加を有する場合、該プローブはミスマッチ塩基を含むといい、本発明においてはこのようなミスマッチ塩基を含むプローブも好適に使用できる。このようなミスマッチ塩基は、前述したParC遺伝子配列の247位、248位、及び249位に相当する位置の少なくとも1つの位置(又は、247位、248位、249位、及び259位に相当する位置の少なくとも1つの位置)に存在してもよいし、これら以外の位置に相当する領域に存在してもよい。特定の実施形態では、標的核酸へのプローブの結合及びキノロン系抗生物質耐性変異株の検出に対する影響を抑えるために、このようなミスマッチ塩基は、ParC遺伝子配列の247位、248位、及び249位に相当する位置以外の領域(又は、247位、248位、249位、及び259位に相当する位置以外の領域)に存在することが好ましい。
【0040】
本明細書において、ミスマッチ塩基(又は単に「ミスマッチ」ともいう)を含むとは、標的核酸の塩基配列(標的核酸が核酸増幅反応後に二本鎖となる場合は、二本鎖が解離したいずれか一本鎖の核酸の塩基配列)と相補的ではない塩基を含むことをいう。例えば、標的核酸の塩基配列にシトシン塩基が存在する場合において、プローブにおける当該シトシン塩基に対応する位置の塩基がグアニン塩基以外(例えば、アデニン塩基、シトシン塩基、チミン塩基、及びユニバーサル塩基)となっていることをいう。例えば、変異し易い標的核酸の領域を検出する場合には、変異し易い塩基に対応するプローブの位置にミスマッチ塩基(例えば、ユニバーサル塩基)を選択することができる。
【0041】
一つの好ましい実施形態において、本発明の核酸プローブは、配列番号1で示される塩基配列の72~100番目の領域の塩基配列若しくは前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する少なくとも15塩基の塩基配列であって、マイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子配列の247位、248位、及び249位に相当する位置(配列番号1で示される塩基配列の82位、83位、及び84位に相当する位置)の対応する3つの塩基を少なくとも含む塩基配列、又はその塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列を含むプローブである。別の好ましい実施形態において、本発明の核酸プローブは、配列番号1に示される塩基配列の72~100番目の領域の塩基配列若しくは前記塩基配列と相補的な塩基配列において連続する少なくとも15塩基の塩基配列であって、マイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子配列の247位、248位、249位、及び259位に相当する位置(配列番号1で示される塩基配列の82位、83位、84位、及び94位に相当する位置)の対応する4つの塩基を少なくとも含む塩基配列、又はその塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列を含むプローブである。これらのプローブにおいて、配列番号1で示される塩基配列又は前記塩基配列と相補的な塩基配列中の置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基の数は、0個、1個、又は2個が好ましく、0個又は1個であることがより好ましい。このようなプローブと核酸増幅産物とを反応させることで、より良好にマイコプラズマ・ジェニタリウムを検出することができる。なお、本明細書において、マイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子配列の247位、248位、249位、及び259位とは、大腸菌の基準株における番号付けに基づく当該分野で公知のE.coli numberingにより定められる位置をいう。
【0042】
本発明の核酸プローブの長さ(又は(A)の塩基配列の長さ)としては、15塩基以上であれば特に限定されず、例えば16塩基以上、好ましくは17塩基以上、より好ましくは18塩基以上、さらに好ましくは19塩基以上である。当該プローブの長さは、通常、30塩基以下、好ましくは28塩基以下、より好ましくは26塩基以下、さらに好ましくは24塩基以下である。当該プローブの長さは、例えば15~30塩基、より好ましくは15~24塩基、更に好ましくは19~24塩基であり得る。このような長さのプローブを用いることで、より高感度にマイコプラズマ・ジェニタリウムを検出することができる。
【0043】
特定の好ましい実施形態において、本発明の核酸プローブの具体例としては、配列番号7~17のいずれかで示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列、或いはそれらの塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列を含むプローブが挙げられ、好ましくは配列番号7、8、及び13~17のいずれかで示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列、或いはそれらの塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列を含むプローブ、更に好ましくは配列番号8及び13のいずれかで示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列、或いはそれらの塩基配列において1~3個の塩基が置換、欠失、挿入若しくは付加した塩基配列を含むプローブを挙げることができる。このような特定の塩基配列を有するプローブを用いることにより、より一層高感度にマイコプラズマ・ジェニタリウムを検出することができる。
【0044】
更に特定の好ましい実施形態において、本発明の核酸プローブは、融解曲線分析において、野生型の検出温度と変異型(特にキノロン系抗生物質に対する耐性変異型)の検出温度との間の差が4℃以上、好ましくは6℃以上、より好ましくは7℃以上、更に好ましくは8℃以上となるように設計されたものであることが好ましい。前記検出温度の差は、例えば20℃以下、好ましくは15℃以下である。
【0045】
上記の核酸プローブは、5’末端又は3’末端のいずれか一方のみが標識されていることを特徴とする。一つの実施形態において、本発明の核酸プローブは、該核酸プローブの塩基配列に対して相補的な塩基配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、更に好ましくは95%以上、更により好ましくは98%以上の同一性を示す塩基配列を含む核酸と結合した場合に消光又は蛍光を生じるように標識されていることが好ましく、消光を生じるように標識されていることがより好ましい。標識物質としては特に制限はないが、蛍光色素であることがより好ましい。
【0046】
蛍光色素としては特に標的の核酸増幅産物とハイブリダイズして複合体を形成することにより蛍光を生じる蛍光物質又は消光を生じる蛍光物質のいずれであってもよいが、好ましくは標的の核酸増幅産物とハイブリダイズした際に消光を生じる蛍光物質であり、特に好ましくは、標的の核酸増幅産物とハイブリダイズにおいてグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素(例えば、グアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素)である。具体的には、フルオロセイン及びその誘導体(例えば、フルオロセインイソチオシアネート(FITC))、ローダミン及びその誘導体(例えば、5-カルボキシローダミン6G(GR6G)、テトラメチルローダミン(TAMRA)、カルボキシローダミン、x-ローダミン、スルホローダミン101酸クロリド)、並びにBODIPY及びその誘導体(例えば、BODIPY-FL、BODIPY-FL/C3、BODIPY-FL/C6、BODIPY-5-FAM、BODIPY-TMR、BODIPY-TR、BODIPY-R6G、BODIPY-564、BODIPY-581、BODIPY-591、BODIPY-630、BODIPY-650、BODIPY-665)からなる群より選択される少なくとも1つの蛍光消光色素が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
より具体的には、グアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素として、例えば、4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸(BODIPY-FL)、カルボキシローダミン6G(CR6G)、TAMRA、ローダミン6G、テトラブロモスルホンフルオレセイン(TBSF)、及び2-オキソ-6,8-ジフルオロ-7-ジヒドロキシ-2H-1-ベンゾピラン-3-カルボン酸(Pacific Blue)からなる群より選択される少なくとも1つの蛍光消光色素を挙げることができ、本発明にはこれらの蛍光消光色素が好適に使用され得る。
【0048】
特定の好ましい実施形態では、蛍光消光色素で標識されている末端塩基がシトシンであるプローブがより好ましい。このようなプローブは、標的の核酸増幅産物にハイブリダイズした際に、核酸増幅産物中のグアニン塩基と塩基対を形成して相互作用することで消光できるため、非常に簡便に反応液の蛍光強度の変化を測定することができる。
【0049】
なお、該プローブがハイブリダイズした際に、該プローブのシトシン塩基と核酸増幅産物中のグアニン塩基が塩基対を形成しなくとも、それらの塩基同士の距離が近ければ蛍光は消光できる。例えば、詳細は特許第5354216号公報に記載があり、本発明も該技術を参照できる。即ち、該プローブがハイブリダイズした際に、該プローブのシトシン塩基に対して、核酸増幅産物中のグアニン塩基が例えば1~3塩基の範囲内に存在すれば消光できる(シトシン塩基と塩基対を形成する塩基を1とする)。
【0050】
従って、蛍光消光色素で標識されている少なくとも一つの末端塩基がシトシンでない核酸プローブであっても、反応液の蛍光強度の変化を測定できる。例えば、詳細は特許第5354216号公報に記載があり、本発明も該技術を参照できる。例えば、該プローブがハイブリダイズした際に、蛍光消光色素が標識されている末端塩基に対して、核酸増幅産物中のグアニン塩基が例えば1~3塩基の範囲内に存在すれば消光できる(末端塩基と塩基対を形成する塩基を1とする)。
【0051】
特定の好ましい実施形態において、本発明の核酸プローブを工程(3)で用いる。このように本発明の核酸プローブを用いることでマイコプラズマ・ジェニタリウムの野生型及び/又は変異型(特にキノロン系抗生物質耐性変異型)を検出できる。本発明の方法は、本発明のプローブを1種類使用してもよいし、2種類以上組み合わせて使用してもよい。特定の好ましい実施形態では、本発明の方法は、1種類の標識プローブを使用するだけで、マイコプラズマ・ジェニタリウムの野生型及び変異型(特にキノロン系抗生物質耐性変異型)の両方を検出することができる。更に好ましい実施形態では、検出されたマイコプラズマ・ジェニタリウムが抗生物質(特にキノロン系抗生物質)に感受性の野生型及び抗生物質(特にキノロン系抗生物質)に耐性を示す変異型のいずれであるかを判別して検出することができる。
【0052】
一つの実施形態において、工程(3)は、以下の工程(3-a)、(3-b)、及び(3-c)の少なくとも一つを含む態様であり得る:
(3-a)工程(2)と同時に、核酸増幅反応の反応液中の核酸増幅産物に本発明の核酸プローブをハイブリダイズさせ、該反応液の蛍光強度を測定することで、工程(2)の反応(核酸増幅反応)の進行をリアルタイムでモニターする工程。
(3-b)工程(2)の終了後に、核酸増幅反応の反応液中の核酸増幅産物に本発明の核酸プローブをハイブリダイズさせ、該反応液の蛍光強度を測定することで、工程(2)の反応(核酸増幅反応)の進行をエンドポイントでモニターする工程。
(3-c)工程(2)の終了後に、核酸増幅反応の反応液中の核酸増幅産物に本発明の核酸プローブをハイブリダイズさせ、該反応液の蛍光強度の温度依存性を測定する工程。
工程(3-a)、(3-b)、又は(3-c)により、簡便、迅速、且つ高感度に、核酸増幅産物と核酸プローブとで形成される複合体の生成を検出することができる。工程(3-a)、(3-b)、及び(3-c)は組み合わせて実施してもよく、例えば、工程(3-a)及び(3-b)の両方、又は、工程(3-a)及び(3-c)の両方を行うこともできる。一つの実施形態では、より迅速に核酸増幅産物の検出を行う観点から、工程(3-b)又は(3-c)が好ましい。特に工程(3-c)、すなわち融解曲線解析法が好ましい。
【0053】
(工程(3-a))
工程(3-a)は、核酸増幅反応の進行をリアルタイムでモニターする方法(所謂、リアルタイムPCR法)であり、既知濃度のコントロール物質と比較することにより、定量解析が可能である。
【0054】
(工程(3-b))
工程(3-b)は、核酸増幅反応の進行をエンドポイントでモニターすることで、検体試料中に含まれる標的核酸を迅速に検出することができる。さらに、エンドポイントでの蛍光強度等を比較することでおおよその標的核酸量も推定可能である。
例えば、蛍光消光色素で標識された核酸プローブを含む反応液の蛍光強度を測定することで、核酸増幅反応の進行をエンドポイントでモニターする。核酸増幅反応終了後に、反応液の蛍光強度を測定し、反応後の反応液の蛍光強度を反応前の反応液の蛍光強度と比較することで、標的核酸の増幅の有無を確認することができる。或いは、反応後の反応液の蛍光強度をコントロール反応液の蛍光強度と比較することでも検体試料中の標的核酸の有無を確認することができる。コントロール反応液とは、測定したい検体試料の代わりに陰性と判明している試料或いは陽性と判明している試料を加えた反応液である。
核酸増幅反応の進行は、一般的にリアルタイムでモニターする必要があるが、より迅速、簡便に検出する目的では、エンドポイントで測定することが好ましい。
【0055】
(工程(3-c))
工程(3-c)において、蛍光強度の温度依存性を測定するとは、具体的には、反応液の温度を低温から高温に変化させながら、各温度における蛍光強度を測定することであり得る。得られた蛍光強度について温度で一次微分することにより、使用する核酸プローブに固有の融解温度(Tm値)を求めることができる。また、蛍光強度は目的に合わせて蛍光消光率等に変換してもよい。
Tm値を用いた標的核酸の検出、分析等を融解曲線分析という。一般的に、Tm値は、オリゴヌクレオチドがその相補鎖と二本鎖を形成している割合と二本鎖を形成せず一本鎖である割合が等しいときの温度をいう。Tm値は、塩基配列に固有の値であるため、融解曲線分析は標的核酸の塩基配列多型を分析する手法として使用できる。ここでいう塩基配列多型とは、一塩基多型、塩基置換、塩基欠損、塩基挿入等を含む。
【0056】
一例として、融解曲線分析はSNP解析等にも応用されている。プローブに対して標的核酸の塩基配列に変異がある場合、プローブがハイブリダイズした際に塩基がミスマッチしているため、一般的にTm値は低くなる。したがって、Tm値の大きさを比較することで一塩基多型の解析(SNP解析)も行うことができる。
【0057】
本発明では、工程(3-c)において融解曲線解析を行い、温度変化に対してプローブが標的配列からの解離に伴い生じる蛍光又は消光シグナルの強度をリアルタイムでモニタリングすることが好ましい。温度の上昇に伴う発光又は消光シグナル強度の変化を温度変化の値で微分した一次微分値をプロットすると、得られる融解曲線(温度-一次微分値曲線)において、融解温度をピークとして表示することができるようになる。本明細書では、例えば所定のプローブを用いて融解曲線解析に行った場合にピークとして表示される融解温度のことを、当該プローブの検出温度という。
【0058】
標的核酸に変異が生じると、PCRを実施することでミスマッチの部分をもつ2本鎖遺伝子を形成する。このようにミスマッチ部分をもつ2本鎖遺伝子は、2本鎖構造の変性(解離)が容易に起き、融解曲線解析の際にミスマッチの無い野生型の遺伝子より検出温度が低くなり得る。従って、標的核酸にプローブ配列とミスマッチになる変異が生じると、検出温度の変化(低温化)が検出され得る。
【0059】
従って、前記マイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子配列の247位、248位、及び249位(及び必要に応じて259位)に相当する位置の対応する3つ(及び必要に応じて4つ)の塩基を全て野生型と同じ塩基としたプローブを用いる場合、検体試料中に含まれるマイコプラズマ・ジェニタリウムが変異株(特にキノロン系抗生物質耐性を持つ変異株)であるときには、プローブと標的配列との間で一塩基以上の解離が生じるため2本鎖構造の変性(解離)が容易に起き、野生型を検出する場合と比較すると融解曲線解析における検出温度を低くすることができる。他方、前記マイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子配列の247位、248位、及び249位(及び必要に応じて259位)に相当する位置の対応する3つ(及び必要に応じて4つ)の塩基を全て変異型と同じ塩基としたプローブを用いる場合、検体試料中に含まれるマイコプラズマ・ジェニタリウムが野生型であるときには、プローブと標的配列との間で一塩基以上の解離が生じるため2本鎖構造の変性(解離)が容易に起き、変異型を検出する場合と比較すると融解曲線解析における検出温度を低くすることができる。前記検出温度の差は、例えば4℃以上、好ましくは6℃以上、より好ましくは7℃以上、更に好ましくは8℃以上である。また、前記検出温度の差は、例えば20℃以下、好ましくは15℃以下である。
【0060】
[マイコプラズマ・ジェニタリウムを検出するための試薬]
別の実施形態として、本発明は、マイコプラズマ・ジェニタリウムを検出するための試薬を提供する。試薬には、前述で説明した本発明の核酸プローブに加えて、核酸増幅反応、及び検出に必要な成分を少なくとも含むことが好ましい。当該必要な成分は、それぞれ公知のものを用いることができる。例えば、本発明の試薬は、PCR等の核酸増幅用プライマーセット、DNAポリメラーゼ、デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTPs)、及びマグネシウム塩等の無機塩類を少なくとも含むことが好ましい。核酸増幅用プライマーセット及び検出用核酸プローブは、マイコプラズマ・ジェニタリウムの複数領域を増幅させるために複数セットを含むことができる。各成分の濃度は適宜調整できるが、例えば、核酸プローブの濃度は0.01~1μMが好ましく、0.02~0.5μMがより好ましい。核酸プローブセットとして使用する場合は、該プローブセットに含まれる各核酸プローブがそれぞれ上記濃度の範囲内であることが好ましい。プライマーセット中の各プライマーの濃度は0.01~10μMが好ましい。DNAポリメラーゼの濃度は0.01~1U/μLが好ましく、0.02~0.5U/μLがより好ましい。デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTPs)の濃度は0.02~1mMが好ましく、0.1~0.5mMがより好ましい。マグネシウム塩等の無機塩類の濃度は0.1~10mMが好ましく、1~5mMがより好ましい。
【0061】
さらに、非特異増幅の抑制や反応促進を目的として、本発明の試薬は、当該技術分野で知られる添加物等を含んでいてもよい。非特異増幅の抑制を目的とする添加物としては、例えば、公知の抗DNAポリメラーゼ抗体、リン酸等が挙げられる。反応促進を目的とする添加物としては、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、プロテアーゼインヒビター、シングルストランド結合タンパク質(SSB)、T4遺伝子32タンパク質、tRNA、硫黄又は酢酸含有化合物類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ホルムアミド、アセトアミド、ベタイン、エクトイン、トレハロース、デキストラン、ポリビニルピロリドン(PVP)、ゼラチン、塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、酢酸テトラメチルアンモニウム(TMAA)、ポリエチレングリコール、カルニチン、トリトン(Triton)、ツイーン(Tween20)、ノニデット(登録商標)P40等が挙げられる。また、偽陰性の判定を容易にするために、本発明の試薬は、当該分野で公知のインターナルコントロールを含むことも好ましい。本発明では、これらの添加物を1種類単独で又は2種類以上組み合わせて使用してもよい。
【0062】
[マイコプラズマ・ジェニタリウムを検出するための試薬キット]
別の実施形態として、本発明は、マイコプラズマ・ジェニタリウムを検出するための試薬キットが提供される。本発明のキットは、前述で説明した本発明の核酸プローブ又は本発明の試薬を含み、マイコプラズマ・ジェニタリウムを検出(鑑別を含む)できるように構成されていれば特に限定されない。例えば、本発明のキットは、被検出対象の存在を検出又は定量することができる試薬、及び/又は、使用方法等を説明する使用説明書等を任意に含むことができる。例えば、本発明のキットは、前記核酸プローブ、核酸増幅反応に必要な成分、及び核酸増幅産物の検出に必要な成分を同じ容器に封入したもの又は別々の容器に封入したものを、例えば一つの包装体に梱包し、当該キットの使用方法に関する情報を含む態様で提供することができる。また、本発明のキットは、陽性コントロール液及び/又は陰性コントロール液を含めることもできる。
【実施例0063】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0064】
〔実施例1:マイコプラズマ・ジェニタリウム野生型の低コピー検出評価〕
(1-1)方法
マイコプラズマ・ジェニタリウム(Mycoplasma genitalium)の野生型が低コピーしか存在しない場合でも特異的に検出できるプローブを評価するために、鋳型としてマイコプラズマ・ジェニタリウム野生型遺伝子の塩基配列からなるゲノムDNAを1反応あたり25コピー加え、各種プローブで非特異増幅の有無及び野生型のマイコプラズマ・ジェニタリウム標的核酸の検出を評価した。使用したプローブは、配列番号7~17に示される塩基配列からなる核酸を常法に従って合成したものを使用した(いずれか一方の末端のみをCR6Gで標識、図5参照)。また、核酸増幅反応には、配列番号19で示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号22で示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるプライマーとで構成されるプライマーセットを使用した。
【0065】
(1-2)反応液
ジーンキューブ(登録商標)テストベーシック(東洋紡社製)を使用して以下に示される成分を含む反応液を調製した。
3.0μM 配列番号19で示される塩基配列からなるプライマー
0.5μM 配列番号22で示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるプライマー
0.5μM 配列番号7~17のいずれかで示される塩基配列からなるプローブ
(1-3)反応
GENECUBE(登録商標)を用いて、前記反応液を以下の温度サイクルで反応させ、各サイクルにおける蛍光強度を測定した。
94℃ 30秒、
97℃ 1秒-58℃ 5秒-68℃ 5秒(サイクル数60回)
(1-4)結果
図1は、代表例として配列番号8で示されるプローブを用い、核酸増幅及び融解曲線解析によってマイコプラズマ・ジェニタリウムの野生型の検出を行った際に得られた検出グラフである。本実施例で用いたプローブによる測定結果を表1にまとめた。表1中、「+」は検出可を意味する。蛍光変化率(本実施例では消光率を表す)は、(増幅前蛍光強度-増幅後蛍光強度)/(増幅前蛍光強度)の式より求めた。本実施例では、25コピーという非常に低コピーの鋳型DNAを使用して試験を実施している。下記表1の結果に示されるように、本発明のプローブを用いることで、このように低コピーしか存在しない場合であっても、マイコプラズマ・ジェニタリウムの野生型の検出が可能であることが明らかになった。
【0066】
【表1】
【0067】
〔実施例2:プライマーとの組合せによる評価〕
(2-1)方法
マイコプラズマ・ジェニタリウム(Mycoplasma genitalium)の野生型を特異的に検出できるプローブを評価するために、鋳型としてマイコプラズマ・ジェニタリウム野生型遺伝子の塩基配列からなるゲノムDNAを1反応あたり25コピー加え、配列番号18及び19のいずれかのプライマーと配列番号20~22のいずれかのプライマーセット計6種の組合せで非特異増幅の有無及び野生型のマイコプラズマ・ジェニタリウムの標的核酸の検出を評価した。使用したプライマーは、配列番号18~22に示される塩基配列からなる核酸を常法に従って合成したものを使用した。また、配列番号8で示される塩基配列からなるプローブを使用した。
【0068】
(2-2)反応液
ジーンキューブ(登録商標)テストベーシック(東洋紡社製)を使用して以下に示される成分を含む反応液を調製した。
3.0μM 配列番号18及び19のいずれかで示される塩基配列からなるプライマー
0.5μM 配列番号20~22のいずれかで示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるプライマー
0.5μM 配列番号8で示される塩基配列からなるプローブ
(2-3)反応
GENECUBE(登録商標)を用いて、前記反応液を以下の温度サイクルで反応させ、各サイクルにおける蛍光強度を測定した。
94℃ 30秒、
97℃ 1秒-58℃ 5秒-68℃ 5秒(サイクル数60回)
(2-4)結果
図2は、代表例として配列番号18と配列番号22で示されるプライマーセットを用い、核酸増幅及び融解曲線解析によってマイコプラズマ・ジェニタリウムの野生型の検出を行った際に得られた検出グラフである。本実施例で用いたプローブによる測定結果を表2にまとめた。表2中、「+」は検出可を意味する。蛍光変化率(本実施例では消光率を表す)は、(増幅前蛍光強度-増幅後蛍光強度)/(増幅前蛍光強度)の式より求めた。
表2の結果に示されるように、いずれのプライマーセットの組合せでも実施例1と同様に25コピーという非常に低コピーのマイコプラズマ・ジェニタリウムの野生型の検出が可能であることが明らかになった。
【0069】
【表2】
【0070】
〔実施例3:マイコプラズマ・ジェニタリウムの抗生物質耐性変異型の検出評価〕
(3-1)方法
マイコプラズマ・ジェニタリウムの変異型を野生型と検出温度で識別して検出できるプローブを評価するために、鋳型としてマイコプラズマ・ジェニタリウムの野生型遺伝子の塩基配列からなるゲノムDNA及びマイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子の変異型(247位、248位、249位、又は259位に相当する位置に一塩基変異が存在する)の塩基配列からなる合成遺伝子配列を1反応あたり100コピー加え、計3種のプローブでマイコプラズマ・ジェニタリウムの野生型及び変異型の検出温度を評価した。使用したプローブは、配列番号7~9に示される塩基配列からなる核酸を常法に従って合成したものを使用した(いずれか一方の末端のみをBODIPY-FLで標識、図5参照)。また、核酸増幅反応には、配列番号19で示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号22で示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるプライマーとで構成されるプライマーセットを使用した。
【0071】
(3-2)反応液
ジーンキューブ(登録商標)テストベーシック(東洋紡社製)を使用して以下に示される成分を含む反応液を調製した。
3.0μM 配列番号19で示される塩基配列からなるプライマー
0.5μM 配列番号22で示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるプライマー
0.5μM 配列番号7~9のいずれかで示される塩基配列からなるプローブ
(3-3)反応
GENECUBE(登録商標)を用いて、前記反応液を以下の温度サイクルで反応させ、各サイクルにおける蛍光強度を測定した。
94℃ 30秒、
97℃ 1秒-58℃ 5秒-68℃ 5秒(サイクル数60回)
(3-4)結果
図3は、代表例として配列番号8で示されるプローブを用い、核酸増幅及び融解曲線解析によってマイコプラズマ・ジェニタリウムの変異型(代表して野生型及び247位変異型)の検出を行った際に得られた検出グラフである。本実施例で用いたプローブによる測定結果を表3にまとめた。表3中、「+」は検出可を意味する。蛍光変化率(本実施例では消光率を表す)は、(増幅前蛍光強度-増幅後蛍光強度)/(増幅前蛍光強度)の式より求めた。
表3の結果に示されるように、本発明のプローブを用いることにより、マイコプラズマ・ジェニタリウムの変異型の検出可能であることが示された。また、野生型と変異型の各検出時の蛍光変化率及び検出温度の差から、特に、配列番号7及び8のいずれかで示される塩基配列からなるプローブを用いる場合に、247位、248位、249位、及び259位のどの位置に変異があるタイプであっても、マイコプラズマ・ジェニタリウムの野生型と変異型を約4℃以上の検出温度差で明確に識別可能であることが確認された。
【0072】
【表3】
【0073】
〔実施例4:マイコプラズマ・ジェニタリウムのParC248位の変異の有無検出評価〕
(4-1)方法
マイコプラズマ・ジェニタリウムのParC248位の変異の有無を検出温度で識別して検出できるプローブを評価するために、鋳型としてマイコプラズマ・ジェニタリウムの野生型遺伝子の塩基配列からなるゲノムDNA及びマイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子の248位の位置に一塩基変異を含む塩基配列または含まない塩基配列からなる合成遺伝子配列を1反応あたり100コピー加え、計10種のプローブでマイコプラズマ・ジェニタリウムの野生型及び抗生物質耐性変異型の検出温度を評価した。使用したプローブは、配列番号7~17に示される塩基配列からなる核酸を常法に従って合成したものを使用した(いずれか一方の末端のみをBODIPY-FLで標識、図5参照)。また、核酸増幅反応には、配列番号19で示される塩基配列からなるプライマーと、配列番号22で示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるプライマーとで構成されるプライマーセットを使用した。
【0074】
(4-2)反応液
ジーンキューブ(登録商標)テストベーシック(東洋紡社製)を使用して以下に示される成分を含む反応液を調製した。
3.0μM 配列番号19で示される塩基配列からなるプライマー
0.5μM 配列番号22で示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるプライマー
0.5μM 配列番号7~17のいずれかで示される塩基配列からなるプローブ
(4-3)反応
GENECUBE(登録商標)を用いて、前記反応液を以下の温度サイクルで反応させ、各サイクルにおける蛍光強度を測定した。
94℃ 30秒、
97℃ 1秒-58℃ 5秒-68℃ 5秒(サイクル数60回)
(4-4)結果
図4は、代表例として配列番号13で示されるプローブを用い、核酸増幅及び融解曲線解析によってマイコプラズマ・ジェニタリウムのParC248位の変異の有無の検出を行った際に得られた検出グラフである。本実施例で用いたプローブによる測定結果を表4にまとめた。表4中、「+」は検出可を意味する。蛍光変化率(本実施例では消光率を表す)は、(増幅前蛍光強度-増幅後蛍光強度)/(増幅前蛍光強度)の式より求めた。
表4の結果に示されるように、本発明のプローブを用いることにより、マイコプラズマ・ジェニタリウムのParC248位の変異の有無の検出が可能であることが示された。なかでも、野生型と変異型の各検出時の蛍光変化率及び検出温度の差から、特に、配列番号7、8、及び13~17のいずれかで示される塩基配列からなるプローブを用いる場合に、マイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子配列の248位の変異の有無の検出をより明確に識別可能であることが確認された。ParC遺伝子配列の248位変異は近年キノロン系抗生物質耐性に特に強く関与していることが示唆されている。従って、これらの特定塩基配列を有するプローブを用いることによって、マイコプラズマ・ジェニタリウムの野生型とキノロン系抗生物質が効きにくい変異型をより明確に判別できることの意義は非常に大きい。
【0075】
【表4】
【0076】
マイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子配列(配列番号1)の一部と、本実施例で使用した各プローブの配列との対応関係を図5に示す。四角で囲んだ部分が、抗生物質耐性に関連し得るマイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子の247位、248位、及び249位に相当する位置の対応する3つの塩基であり、黒丸が蛍光消光色素の結合位置を示す。表4および表5の結果と併せて考慮すると、本発明の特定塩基配列を有するプローブを用いることで、マイコプラズマ・ジェニタリウムの野生型と変異型(マイコプラズマ・ジェニタリウムのParC遺伝子配列の247位、248位、及び249位(及び必要に応じて259位)の少なくとも1つの位置に変異を有する変異株とを例えば4℃以上の検出温度差で識別でき、なかでも、配列番号7、8、及び13~17のいずれかで示される塩基配列を有するプローブ等を用いることで、より一層大きな検出温度差で明確に識別可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の核酸プローブを使用することで、例えば融解曲線解析法において、簡便、迅速、且つ高感度に試料中に含まれ得るマイコプラズマ・ジェニタリウムを検出できる。本発明により、高い信頼性でマイコプラズマ・ジェニタリウムを検出することを可能とし、臨床診断等において大きく貢献することができる。また本発明により、検体試料中に含まれるマイコプラズマ・ジェニタリウムがキノロン系抗生物質耐性であるか否かについても判別できるため、臨床診断において患者毎に適切な抗菌薬を用いた治療を実現でき、性感染症拡大防止に大きく貢献することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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