(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156375
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】磁気記録媒体、磁気テープカートリッジおよび磁気記録再生装置
(51)【国際特許分類】
G11B 5/70 20060101AFI20241029BHJP
G11B 5/725 20060101ALI20241029BHJP
G11B 5/738 20060101ALI20241029BHJP
G11B 5/735 20060101ALI20241029BHJP
G11B 5/78 20060101ALI20241029BHJP
G11B 5/84 20060101ALI20241029BHJP
G11B 23/037 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
G11B5/70
G11B5/725
G11B5/738
G11B5/735
G11B5/78
G11B5/84 C
G11B23/037
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070782
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】菊池 渉
(72)【発明者】
【氏名】小野塚 頌人
【テーマコード(参考)】
5D112
【Fターム(参考)】
5D112AA05
5D112AA22
5D112BB10
5D112JJ03
(57)【要約】
【課題】磁性層表面が適度な摩耗性を示すことができ、繰り返し走行後にも低摩擦係数を示すことができ、かつ繰り返し走行前後での磁性層の表面形状の変化が少ない磁気記録媒体を提供すること。
【解決手段】非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有し、上記非磁性支持体上の磁性層側の部分に窒素含有ポリマーを含み、上記窒素含有ポリマーは、フッ素含有基およびポリエステル鎖を含み、上記フッ素含有基は、上記窒素含有ポリマーの窒素原子と結合し、上記ポリエステル鎖は、上記窒素含有ポリマーの窒素原子と結合し、または、上記窒素含有ポリマーの窒素原子と塩架橋構造を形成し、かつヘキサン洗浄後に上記磁性層の表面において測定される水に対する接触角は90°以上である磁気記録媒体。この磁気記録媒体を含む磁気テープカートリッジおよび磁気記録再生装置。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有し、
前記非磁性支持体上の磁性層側の部分に窒素含有ポリマーを含み、
前記窒素含有ポリマーは、フッ素含有基およびポリエステル鎖を含み、
前記フッ素含有基は、前記窒素含有ポリマーの窒素原子と結合し、
前記ポリエステル鎖は、前記窒素含有ポリマーの窒素原子と結合し、または、前記窒素含有ポリマーの窒素原子と塩架橋構造を形成し、かつ
ヘキサン洗浄後に前記磁性層の表面において測定される水に対する接触角は90°以上である磁気記録媒体。
【請求項2】
前記窒素含有ポリマーは、ポリアルキレンイミン系ポリマーである、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記フッ素含有基は、フッ化アルキル基およびパーフルオロポリエーテル基からなる群から選ばれる基を含む、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記フッ化アルキル基は、炭素数1以上6以下のフッ化アルキル基である、請求項3に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記接触角は、90°以上110°以下である、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記非磁性支持体上の磁性層側の部分に、脂肪酸、脂肪酸エステルおよび脂肪酸アミドからなる群から選ばれる脂肪酸系化合物の1種以上を更に含む、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記非磁性支持体上の磁性層側の部分に、前記窒素含有ポリマー以外の窒素含有ポリマーを更に含む、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
前記非磁性支持体と前記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を更に有する、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
前記非磁性支持体の前記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を更に有する、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
磁気テープである、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項11】
前記窒素含有ポリマーは、ポリアルキレンイミン系ポリマーであり、
前記フッ素含有基は、フッ化アルキル基およびパーフルオロポリエーテル基からなる群から選ばれる基を含み、
前記フッ化アルキル基は、炭素数1以上6以下のフッ化アルキル基であり、
前記接触角は、90°以上110°以下であり、
前記非磁性支持体上の磁性層側の部分に、脂肪酸、脂肪酸エステルおよび脂肪酸アミドからなる群から選ばれる脂肪酸系化合物の1種以上と、前記窒素含有ポリマー以外の窒素含有ポリマーと、を更に含み、
前記非磁性支持体と前記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を更に有し、
前記非磁性支持体の前記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を更に有し、かつ
磁気テープである、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項12】
請求項10または11に記載の磁気テープを含む磁気テープカートリッジ。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載の磁気記録媒体を含む磁気記録再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体、磁気テープカートリッジおよび磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体は、一般に、非磁性支持体上に強磁性粉末および任意に1種以上の添加剤を含む磁性層を形成することによって作製される。例えば、特許文献1の実施例では、強磁性粉末とともにポリアルキレンイミン系ポリマーを含む磁性層形成用組成物を用いて磁性層を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気記録媒体へのデータの記録および記録されたデータの再生は、通常、磁気記録媒体を磁気記録再生装置内で走行させ、磁気記録媒体の磁性層表面と磁気ヘッドとを接触させ摺動させることにより行われる。磁性層表面との摺動により磁気ヘッドに異物が付着すると、磁性層表面と磁気ヘッドとの間隔が異物の存在により広がり、その結果、スペーシングロスと呼ばれる出力変動が発生し得る。そのため、磁性層表面が摩耗性を示し、磁気ヘッドに付着した異物を磁性層表面との摺動時に摩耗させて除去することができれば、スペーシングロスを低減できるため望ましい。他方、磁性層表面の摩耗性が高すぎると、磁気ヘッドそのものが摩耗されてしまうため、磁性層表面には、適度な摩耗性を示すことが望まれる。
【0005】
また、磁気記録媒体の走行を繰り返しても磁性層表面と磁気ヘッドとの摺動時の摩擦係数が低いことは、走行安定性の観点から望ましい。更に、繰り返し走行前後で磁性層の表面形状の変化が少ないことは、上記の磁性層表面の摩耗性維持の観点から望ましい。
【0006】
本発明の一態様は、磁性層表面が適度な摩耗性を示すことができ、繰り返し走行後にも低摩擦係数を示すことができ、かつ繰り返し走行前後での磁性層の表面形状の変化が少ない磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、以下の通りである。
[1]非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有し、
上記非磁性支持体上の磁性層側の部分に窒素含有ポリマー(以下、「フッ素系窒素含有ポリマー」とも呼ぶ。)を含み、
上記窒素含有ポリマーは、フッ素含有基およびポリエステル鎖を含み、
上記フッ素含有基は、上記窒素含有ポリマーの窒素原子と結合し、
上記ポリエステル鎖は、上記窒素含有ポリマーの窒素原子と結合し、または、上記窒素含有ポリマーの窒素原子と塩架橋構造を形成し、かつ
ヘキサン洗浄後に上記磁性層の表面において測定される水に対する接触角は90°以上である磁気記録媒体。
[2]上記窒素含有ポリマーは、ポリアルキレンイミン系ポリマーである、[1]に記載の磁気記録媒体。
[3]上記フッ素含有基は、フッ化アルキル基およびパーフルオロポリエーテル基からなる群から選ばれる基を含む、[1]または[2]に記載の磁気記録媒体。
[4]上記フッ化アルキル基は、炭素数1以上6以下のフッ化アルキル基である、[3]に記載の磁気記録媒体。
[5]上記接触角は、90°以上110°以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[6]上記非磁性支持体上の磁性層側の部分に、脂肪酸、脂肪酸エステルおよび脂肪酸アミドからなる群から選ばれる脂肪酸系化合物の1種以上を更に含む、[1]~[5]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[7]上記非磁性支持体上の磁性層側の部分に、上記窒素含有ポリマー以外の窒素含有ポリマーを更に含む、[1]~[6]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[8]上記非磁性支持体と上記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を更に有する、[1]~[7]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[9]上記非磁性支持体の上記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を更に有する、[1]~[8]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[10]磁気テープである、[1]~[9]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[11]上記窒素含有ポリマーは、ポリアルキレンイミン系ポリマーであり、
上記フッ素含有基は、フッ化アルキル基およびパーフルオロポリエーテル基からなる群から選ばれる基を含み、
上記フッ化アルキル基は、炭素数1以上6以下のフッ化アルキル基であり、
上記接触角は、90°以上110°以下であり、
上記非磁性支持体上の磁性層側の部分に、脂肪酸、脂肪酸エステルおよび脂肪酸アミドからなる群から選ばれる脂肪酸系化合物の1種以上と、上記窒素含有ポリマー以外の窒素含有ポリマーと、を更に含み、
上記非磁性支持体と上記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を更に有し、
上記非磁性支持体の上記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を更に有し、かつ
磁気テープである、[1]~[10]のいずれかに記載の磁気記録媒体。
[12][10]または[11]に記載の磁気テープを含む磁気テープカートリッジ。
[13][1]~[11]のいずれかに記載の磁気記録媒体を含む磁気記録再生装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、磁性層表面が適度な摩耗性を示すことができ、繰り返し走行後にも低摩擦係数を示すことができ、かつ繰り返し走行前後での磁性層の表面形状の変化が少ない磁気記録媒体を提供することができる。また、本発明の一態様によれば、上記磁気記録媒体を含む磁気テープカートリッジおよび磁気記録再生装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[磁気記録媒体]
本発明の一態様は、非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有する磁気記録媒体に関する。上記磁気記録媒体は、非磁性支持体上の磁性層側の部分に窒素含有ポリマーを含み、上記窒素含有ポリマーは、フッ素含有基およびポリエステル鎖を含み、上記フッ素含有基は、上記窒素含有ポリマーの窒素原子と結合し、上記ポリエステル鎖は、上記窒素含有ポリマーの窒素原子と結合し、または、上記窒素含有ポリマーの窒素原子と塩架橋構造を形成し、かつヘキサン洗浄後に上記磁性層の表面において測定される水に対する接触角(以下、「ヘキサン洗浄後接触角」とも記載する。)は90°以上である。
【0010】
本発明および本明細書において、「非磁性支持体上の磁性層側の部分」とは、非磁性支持体上に直接磁性層を有する磁気記録媒体については磁性層であり、非磁性支持体と磁性層との間に後述する非磁性層を有する磁気記録媒体については、磁性層および/または非磁性層である。「非磁性支持体上の磁性層側の部分」を、単に「磁性層側の部分」とも記載する。ある成分が磁気記録媒体の磁性層側の表面上に存在していることも、その成分が磁性層側の部分に含まれることに包含される。
【0011】
上記磁気記録媒体は、磁性層側の部分に上記フッ素系窒素含有ポリマーを含む。上記フッ素系窒素含有ポリマーは、フッ素含有基およびポリエステル鎖を含む。
上記フッ素系窒素含有ポリマーは、磁気記録媒体の潤滑剤として機能し得ると考えられる。潤滑剤は、境界潤滑剤と流体潤滑剤とに大別できる。本発明者は、上記フッ素系窒素含有ポリマーは、磁性層表面に存在して境界潤滑剤として機能することによって、磁性層表面に潤滑性を付与する役割を果たすことができると考えている。例えば、上記フッ素系窒素含有ポリマーは、磁性層に含まれる少なくとも一部が磁性層表面に存在することができると考えられる。更に、磁性層内部に含まれる上記フッ素系窒素含有ポリマーは、磁気ヘッドとの摺動時等に磁性層表面に移動することによって磁性層表面に存在することができると本発明者は推察している。また、後述する非磁性層に上記フッ素系窒素含有ポリマーが含まれてもよく、非磁性層に含まれる上記フッ素系窒素含有ポリマーは磁性層に移動し更に磁性層表面に移動して磁性層表面に存在することができると考えられる。
また、本発明者は、ヘキサン洗浄後接触角は、磁性層側の部分における上記フッ素系窒素含有ポリマーの存在量の指標になり得ると考えている。そして、磁性層側の部分に、ヘキサン洗浄後接触角が90°以上になる量で上記フッ素系窒素含有ポリマーを含むことが、磁性層表面の適度な摩耗性、繰り返し走行後の低摩擦係数および繰り返し走行前後での磁性層の表面形状変化の抑制を実現できるように上記磁気記録媒体の磁性層表面が潤滑性を発揮できることにつながると本発明者は推察している。上記フッ素系窒素含有ポリマーが有するフッ素含有基およびポリエステル鎖は、疎水性部であって、それら疎水性部を有することが、磁性層表面に優れた潤滑性を付与できることに寄与すると本発明者は考えている。
ただし、以上は推察であって、本発明を限定するものではない。また、本明細書に記載の他の推察にも、本発明は限定されない。
【0012】
以下、上記磁気記録媒体について、更に詳細に説明する。
【0013】
<ヘキサン洗浄後接触角>
本発明および本明細書において、ヘキサン洗浄後に磁性層の表面において測定される水に対する接触角(ヘキサン洗浄後接触角)は、以下の方法によって求められる。本発明および本明細書において、「磁性層(の)表面」は、磁気記録媒体の磁性層側表面と同義である。
【0014】
本明細書に記載の「室温」は、20~25℃の範囲の温度である。以下の処理は、特記しない限り、室温下で行う。
【0015】
(ヘキサン洗浄)
測定対象の磁気記録媒体から、接触角測定用サンプル片を切り出す。サンプル片のサイズは、磁気テープについては長さ30cmとする。磁気テープの幅は、通常1/2インチである。1インチ=0.0254メートルである。1/2インチ以外の幅の磁気テープについても、接触角測定用サンプル片としては、長さ30cmのサンプル片を切り出す。磁気ディスクについては、磁気テープの場合と同様のサイズのサンプル片を切り出せばよい。
サンプル片全体を、10mLのフレッシュなヘキサンに1時間浸漬させる。浸漬中、撹拌等は行わずにサンプルおよびヘキサンを入れた容器を静置する。ヘキサンとしては、n(ノルマル)-ヘキサンを使用する。フレッシュとは、未使用を意味する。
1時間後、サンプル片をヘキサンから取り出し、室温下で24時間以上自然乾燥させる。
【0016】
(接触角の測定)
接触角は、雰囲気温度20℃および相対湿度25%の測定環境において、ヘキサン洗浄後のサンプル片の磁性層表面の測定箇所に水を滴下し、θ/2法によって求められる。測定条件の一例は、実施例の項において後述する。測定箇所は磁性層表面において無作為に選択した6箇所とし、6箇所においてそれぞれ接触角の測定を行う。こうして得られた6つの測定値の算術平均を、測定対象の磁気記録媒体のヘキサン洗浄後に磁性層の表面において測定される水に対する接触角とする。
【0017】
上記磁気記録媒体のヘキサン洗浄後接触角は、磁性層表面の適度な摩耗性、繰り返し走行後の低摩擦係数および繰り返し走行前後での磁性層の表面形状変化の抑制を実現する観点からは、90°以上であればよく、95°以上または100°以上であってもよい。上記磁気記録媒体のヘキサン洗浄後接触角は、磁性層の強度維持の観点からは、120°以下であることが好ましく、115°以下であることがより好ましく、110°以下であることが更に好ましい。角度の単位「°」は、度(degree)とも表記される。
【0018】
磁気記録媒体のヘキサン洗浄後接触角は、磁気記録媒体の製造のために使用するフッ素系窒素含有ポリマーの使用量によって制御することができる。また、磁気記録媒体のヘキサン洗浄後接触角は、後述するように磁気記録媒体の製造工程においてフッ素系窒素含有ポリマーを形成することができる窒素含有ポリマーおよびフッ素含有化合物の使用量によって制御することができる。
【0019】
<フッ素系窒素含有ポリマー>
本発明および本明細書において、「ポリマー」には、単独重合体および共重合体が包含される。「窒素含有ポリマー」とは、窒素含有繰り返し単位を有するポリマーをいうものとする。窒素含有ポリマーには、構造が異なる2種以上の窒素含有繰り返し単位が含まれ得る。
【0020】
上記フッ素系窒素含有ポリマーにおいて、フッ素含有基は、フッ素系窒素含有ポリマーの窒素原子と結合している。上記フッ素系窒素含有ポリマーにおいて、ポリエステル鎖は、フッ素系窒素含有ポリマーの窒素原子と結合するか、またはフッ素系窒素含有ポリマーの窒素原子と塩架橋構造を形成している。上記フッ素含有基と窒素原子との結合および上記ポリエステル鎖と窒素原子との結合は、共有結合であることができる。上記フッ素系窒素含有ポリマーは、フッ素含有基およびポリエステル鎖のそれぞれを複数含むことができる。複数のポリエステル鎖は、それらすべてがフッ素系窒素含有ポリマーの窒素原子と結合していてもよく、それらすべてがフッ素系窒素含有ポリマーの窒素原子と塩架橋構造を形成していてもよく、それらの一部がフッ素系窒素含有ポリマーの窒素原子と結合し、残りがフッ素系窒素含有ポリマーの窒素原子と塩架橋構造を形成していてもよい。
上記フッ素系窒素含有ポリマーは、窒素含有ポリマーとフッ素含有化合物との反応によって合成することができる。窒素含有ポリマーとフッ素含有化合物とを室温で混合することによって反応は容易に進行し得る。一形態では、窒素含有ポリマーとフッ素含有化合物との反応によって合成されたフッ素系窒素含有ポリマーを磁性層形成用組成物の成分として使用して磁性層を形成することによって、フッ素系窒素含有ポリマーを磁性層に含む磁気記録媒体を作製することができる。他の一形態では、窒素含有ポリマーおよびフッ素含有化合物を磁性層形成用組成物の成分として使用し、磁性層形成用組成物の調製工程においてこれら成分を混合することによって、上記調製工程中に窒素含有ポリマーとフッ素含有化合物とを反応させてフッ素系窒素含有ポリマーを形成することもできる。以上の点は、上記フッ素系窒素含有ポリマーを含む非磁性層を形成する場合についても同様である。以下において、フッ素含有化合物と反応することによってフッ素系窒素含有ポリマーを形成することができる窒素含有ポリマーを、「窒素含有原料ポリマー」と呼ぶ。
【0021】
上記フッ素系窒素含有ポリマーは、同一または異なる構造の複数のポリエステル鎖を含むことができる。上記フッ素系窒素含有ポリマーに含まれるポリエステル鎖については、後述のポリエステル鎖に関する記載を参照できる。
【0022】
上記フッ素系窒素含有ポリマーは、同一または異なる構造の複数のフッ素含有基を含むことができる。上記フッ素系窒素含有ポリマーのフッ素含有基は、フッ化アルキル基およびパーフルオロポリエーテル基からなる群から選ばれる基を含むことができる。フッ化アルキル基およびパーフルオロポリエーテル基については、後述のフッ素含有化合物に関する記載を参照できる。
【0023】
上記フッ素含有基は、「*-L-Rf」で表される1価の基であることができる。ここで、「Rf」は、フッ化アルキル基またはパーフルオロポリエーテル基を表し、詳細はフッ素含有化合物に関して後述する。*は、上記の1価の基がフッ素系窒素含有ポリマーの窒素原子と結合する結合位置を表す。Lは、2価の連結基を表す。Lで表される2価の連結基としては、「-(C=O)-」(カルボニル基)、「-(C=O)-NH-」(アミド結合)等を挙げることができる。例えば、上記の1価の基は、「*-(C=O)-Rf」、「*-(C=O)-NH-Rf」等で表される1価の基であることができる。
【0024】
一形態では、上記フッ素系窒素含有ポリマーは、ポリアルキレンイミン系ポリマーであることができる。「ポリアルキレンイミン系ポリマー」とは、ポリアルキレンイミン鎖を1つ以上含むポリマーである。ポリアルキレンイミン鎖とは、同一または異なるアルキレンイミン鎖を2つ以上含む重合構造である。ポリアルキレンイミン鎖については、更に後述する。一形態では、ポリアルキレンイミン鎖は、磁性層に含まれる強磁性粉末への吸着部位として機能することができると考えられる。
【0025】
以下に、上記フッ素系窒素含有ポリマーがポリアルキレンイミン系ポリマーである場合に窒素含有原料ポリマーとして使用可能なポリアルキレンイミン系ポリマーについて説明する。以下のポリアルキレンイミン系ポリマーに関する記載は、特記しない限り、上記フッ素系窒素含有ポリマーがポリアルキレンイミン系ポリマーである場合についても当てはまるものとする。
【0026】
(窒素含有原料ポリマー)
ポリアルキレンイミン鎖
上記フッ素系窒素含有ポリマーがポリアルキレンイミン系ポリマーである場合、かかるフッ素系窒素含有ポリマーを得るために使用可能な窒素含有原料ポリマーとしては、ポリエステル鎖を有するポリアルキレンイミン系ポリマーを挙げることができる。
【0027】
窒素含有原料ポリマーがポリアルキレンイミン系ポリマーである場合、ポリアルキレンイミン系ポリマーに含まれるアルキレンイミン鎖としては、下記の式Aで表されるアルキレンイミン鎖および式Bで表されるアルキレンイミン鎖を挙げることができる。下記式で表されるアルキレンイミン鎖の中で、式Aで表されるアルキレンイミン鎖は、後述するポリエステル鎖との結合位置を含む。また、式Bで表されるアルキレンイミン鎖は、ポリエステル鎖と塩架橋構造(詳細は後述する。)を形成して結合する。また、ポリアルキレンイミン鎖は、直鎖構造のみからなるものであっても、分岐した三級アミン構造を有するものであってもよい。分岐構造を含むものとしては、下記式A中の*1において隣接するアルキレンイミン鎖と結合するもの、および下記式B中の*2において隣接するアルキレンイミン鎖と結合するものを挙げることができる。
【0028】
【0029】
式A中、R1およびR2は、それぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表し、a1は2以上の整数を表し、*1は隣接する他のポリマー鎖(例えば隣接するアルキレンイミン鎖、後述するポリエステル鎖)、または水素原子もしくは置換基との結合位置を表す。
【0030】
【0031】
式B中、R3およびR4は、それぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表し、a2は2以上の整数を表す。式Bで表されるアルキレンイミン鎖は、アニオン性基を有する他のポリマー鎖と、式B中のN+と他のポリマー鎖に含まれるアニオン性基が塩架橋構造を形成することができる。
【0032】
式Aおよび式B中の*、ならびに式B中の*2は、それぞれ独立に、隣接するアルキレンイミン鎖、または水素原子もしくは置換基と結合する位置を表す。
【0033】
以下、上記式Aおよび式Bについて、更に詳細に説明する。本発明および本明細書において、特記しない限り、記載されている基は置換基を有してもよく無置換であってもよい。ある基が置換基を有する場合、置換基としては、アルキル基(例えば炭素数1~6のアルキル基)、ヒドロキシ基、アルコキシ基(例えば炭素数1~6のアルコキシ基)、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子)、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、アシル基、カルボキシル基等を挙げることができる。また、置換基を有する基について「炭素数」とは、置換基を含まない部分の炭素数を意味するものとする。
【0034】
式A中のR1およびR2、ならびに式B中のR3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子またはアルキル基を表す。アルキル基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基を挙げることができ、好ましくは炭素数1~3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基またはエチル基であり、更に好ましくはメチル基である。式A中のR1およびR2の組み合わせとしては、一方が水素原子であって他方がアルキル基である形態、両方が水素原子である形態、両方がアルキル基(同一または異なるアルキル基)である形態があり、好ましくは両方が水素原子である形態である。以上の点は、式B中のR3およびR4についても、同様である。
【0035】
アルキレンイミンとして環を構成する炭素数が最小の構造はエチレンイミンであり、エチレンイミンの開環により得られたアルキレンイミン鎖(エチレンイミン鎖)の主鎖の炭素数は2である。したがって、式A中のa1および式B中のa2の下限は2である。即ち、式A中のa1および式B中のa2は、それぞれ独立に、2以上の整数である。式A中のa1および式B中のa2は、それぞれ独立に、例えば10以下であることができ、6以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、2または3であることが更に好ましく、2であることが更に一層好ましい。
【0036】
式Aで表されるアルキレンイミン鎖および式Bで表されるアルキレンイミン鎖とポリエステル鎖との結合および塩架橋構造の形成の詳細については、後述する。
【0037】
上記の各アルキレンイミン鎖は、各式中の*で表される位置において、隣接するアルキレンイミン鎖、または水素原子もしくは置換基と結合する。置換基としては、例えばアルキル基(例えば炭素数1~6のアルキル基)等の1価の置換基を例示することができるが、これらに限定されるものではない。また、置換基として、他のポリマー鎖(例えば後述のポリエステル鎖)が結合してもよい。
【0038】
ポリアルキレンイミン系ポリマーに含まれるポリアルキレンイミン鎖は、数平均分子量が300以上であることが好ましく、500以上であることがより好ましい。また、ポリアルキレンイミン鎖の数平均分子量は、3,000以下であることが好ましく、2,000以下であることがより好ましい。ポリアルキレンイミン系ポリマーに含まれるポリアルキレンイミン鎖の数平均分子量とは、特開2015-28830号公報の段落0027に記載のように求められる値である。同段落に記載されているように、ポリアルキレンイミン系ポリマーを合成するために用いたポリアルキレンイミンの数平均分子量を、ポリアルキレンイミン系ポリマーに含まれるポリアルキレンイミン鎖の数平均分子量として採用することができる。
【0039】
一形態では、ポリアルキレンイミン系ポリマーにおいてポリアルキレンイミン鎖の占める割合(以下、「ポリアルキレンイミン鎖比率」とも記載する。)は、5.0質量%未満であることが好ましく、4.9質量%以下であることがより好ましく、4.8質量%以下であることが更に好ましく、4.5質量%以下であることが一層好ましく、4.0質量%以下であることがより一層好ましく、3.0質量%以下であることが更に一層好ましい。また、一形態では、ポリアルキレンイミン鎖比率は、0.2質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることが更に好ましい。
以上記載したポリアルキレンイミン鎖の占める割合は、例えば、合成時に用いるポリアルキレンイミンとポリエステルとの混合比によって制御することができる。
【0040】
ポリアルキレンイミン系ポリマーにおいてポリアルキレンイミン鎖の占める割合は、核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)、より詳しくは、1H-NMRおよび13C-NMR、ならびに公知の手法を用いる元素分析によって得られる分析結果から、算出することができる。こうして算出される値は、ポリアルキレンイミン系ポリマーの合成原料の配合比から求められる理論値と同様であるため、配合比から求められる理論値を、ポリアルキレンイミン系ポリマーにおけるポリアルキレンイミン鎖の占める割合(ポリアルキレンイミン鎖比率)として採用することができる。
【0041】
ポリアルキレンイミン系ポリマーを窒素含有原料ポリマーとして用いて合成されたフッ素系窒素含有ポリマーについて、このポリマーに含有されるポリアルキレンイミン鎖の数平均分子量およびポリアルキレンイミン鎖の占める割合は、窒素含有原料ポリマーにおけるポリアルキレンイミン鎖の数平均分子量およびポリアルキレンイミン鎖の占める割合と同じということができる。
【0042】
ポリエステル鎖
窒素含有原料ポリマーとして使用され得るポリアルキレンイミン系ポリマーは、以上説明したポリアルキレンイミン鎖とともに、ポリエステル鎖を含むことができる。本発明および本明細書において、「ポリエステル鎖」とは、エステル結合を複数有するポリマー鎖をいうものとする。ポリエステル鎖は、一形態では、式Aで表されるアルキレンイミン鎖と、式A中の*1において、式Aに含まれる窒素原子Nとカルボニル基-(C=O)-により結合し、-N-(C=O)-を形成することができる。また、他の一形態では、式Bで表されるアルキレンイミン鎖とポリエステル鎖とが、式B中の窒素カチオンN+とポリエステル鎖が有するアニオン性基により塩架橋構造を形成することができる。塩架橋構造としては、ポリエステル鎖に含まれる酸素アニオンO-と式B中のN+とにより形成されるものを挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0043】
式Aで表されるアルキレンイミン鎖と、式Aに含まれる窒素原子Nとカルボニル基-(C=O)-により結合するポリエステル鎖としては、下記式1で表されるポリエステル鎖を挙げることができる。下記式1で表されるポリエステル鎖は、*1で表される結合位置において、アルキレンイミン鎖に含まれる窒素原子とポリエステル鎖に含まれるカルボニル基-(C=O)-とが-N-(C=O)-を形成することにより、式Aで表されるアルキレンイミン鎖と結合することができる。
【0044】
【0045】
また、式Bで表されるアルキレンイミン鎖と、式B中のN+とポリエステル鎖に含まれるアニオン性基が塩架橋構造を形成することにより結合するポリエステル鎖としては、下記式2で表されるポリエステル鎖を挙げることができる。下記式2で表されるポリエステル鎖は、酸素アニオンO-により、式B中のN+と塩架橋構造を形成することができる。
【0046】
【0047】
式1中のL1および式2中のL2は、それぞれ独立に2価の連結基を表す。2価の連結基としては、好ましくは炭素数3~30のアルキレン基を挙げることができる。アルキレン基の炭素数は、アルキレン基が置換基を有する場合には、先に記載したように、置換基を除く部分(主鎖部分)の炭素数をいうものとする。
【0048】
式1中のb11および式2中のb21は、それぞれ独立に2以上の整数を表し、例えば200以下の整数である。
【0049】
式1中のb12および式2中のb22は、それぞれ独立に0または1を表す。
【0050】
式1中のX1および式2中のX2は、それぞれ独立に、水素原子または1価の置換基を表す。1価の置換基としては、アルキル基、ハロアルキル基(例えばフルオロアルキル基等)、アルコキシ基、ポリアルキレンオキシアルキル基およびアリール基からなる群から選ばれる1価の置換基を挙げることができる。
【0051】
アルキル基は置換基を有していてもよく、無置換であってもよい。置換基を有するアルキル基としては、ヒドロキシ基が置換したアルキル基(ヒドロキシアルキル基)、ハロゲン原子が1つ以上置換したアルキル基が好ましい。また、炭素原子と結合する全水素原子がハロゲン原子に置換したアルキル基(ハロアルキル基)も好ましい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等を挙げることができる。アルキル基としては、より好ましくは炭素数1~30、更に好ましくは炭素数1~10のアルキル基である。アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状および環状のいずれであってもよい。ハロアルキル基についても、同様である。
【0052】
置換または無置換のアルキル基、ハロアルキル基の具体例については、特開2015-28830号公報の段落0052を参照できる。アルコキシ基の具体例については、特開2015-28830号公報の段落0053を参照できる。
【0053】
ポリアルキレンオキシアルキル基とは、R10(OR11)n(O)m-で表される1価の置換基である。R10はアルキル基を表し、R11はアルキレン基を表し、nは2以上の整数を表し、mは0または1を表す。
R10で表されるアルキル基については、X1、X2で表されるアルキル基について記載した通りである。R11で表されるアルキレン基の詳細については、X1、X2で表されるアルキル基に関する上記の記載を、これらアルキレン基から水素原子を1つ取り去ったアルキレン基に読み替えて(例えば、メチル基はメチレン基に読み替えて)適用することができる。nは2以上の整数であり、例えば10以下、好ましくは5以下の整数である。
【0054】
アリール基は置換基を有していても縮環していてもよく、より好ましくは炭素数6~ 24のアリール基であり、例えばフェニル基、4-メチルフェニル基、4-フェニル安息香酸、3-シアノフェニル基、2-クロロフェニル基、2-ナフチル基等を挙げることができる。
【0055】
以上記載した式1で表されるポリエステル鎖および式2で表されるポリエステル鎖は、それぞれ、公知のポリエステル合成法により得られたポリエステル由来の構造であることができる。ポリエステル合成法としては、例えば、ラクトンの開環重合を挙げることができる。ラクトンとしては、例えば、特開2015-28830号公報の段落0056に記載の各種ラクトンを例示できる。ラクトンとしては、ε-カプロラクトン、ラクチドまたはδ-バレロラクトンが、反応性および/または入手性の観点から好ましい。ただし、これらに限定されるものではなく、開環重合によりポリエステルを得ることができるものであれば、いずれのラクトンであってもよい。
【0056】
ラクトンの開環重合のための求核試薬については、特開2015-28830号公報の段落0057を参照できる。
【0057】
ただし、上記ポリエステル鎖は、ラクトンの開環重合により得られたポリエステル由来の構造に限定されるものではなく、公知のポリエステル合成法、例えば、多価カルボン酸と多価アルコールとの重縮合、ヒドロキシカルボン酸の重縮合等により得られたポリエステル由来の構造であることもできる。
【0058】
一形態では、ポリエステル鎖の数平均分子量は、200以上であることが好ましく、400以上であることがより好ましく、500以上であることが更に好ましい。また、一形態では、ポリエステル鎖の数平均分子量は、100,000以下であることが好ましく、50,000以下であることがより好ましい。ポリエステル鎖の数平均分子量は、特開2015-28830号公報の段落0059に記載のように求められる値である。
【0059】
ポリアルキレンイミン系ポリマーの重量平均分子量
窒素含有原料ポリマーとして使用され得るポリアルキレンイミン系ポリマーの平均分子量は、重量平均分子量として、例えば1,000以上であることができ、また例えば80,000以下であることができる。また、窒素含有原料ポリマーとして使用され得るポリアルキレンイミン系ポリマーの重量平均分子量は、1,500以上であることが好ましく、2,000以上であることがより好ましく、3,000以上であることが更に好ましい。また、一形態では、窒素含有原料ポリマーとして使用され得るポリアルキレンイミン系ポリマーの重量平均分子量は、60,000以下であることが好ましく、40,000以下であることがより好ましく、35,000以下であることが更に好ましく、34,000以下であることが一層好ましく、30,000以下であることがより一層好ましく、20,000以下であることが更に一層好ましく、10,000以下であることが更により一層好ましい。
フッ素系窒素含有ポリマーがポリアルキレンイミン系ポリマーである場合の重量平均分子量についても、上記の記載を適用できる。
【0060】
本発明および本明細書において、ポリアルキレンイミン系ポリマーの重量平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC:Gel Permeation Chromatography)により標準ポリスチレン換算で求められる値をいう。測定条件については、特開2015-28830号公報の実施例の項を参照できる。
【0061】
合成方法
上記ポリアルキレンイミン系ポリマーの合成方法は、特に限定されるものではない。合成方法の一形態については、特開2015-28830号公報の段落0061~0069および同公報の実施例の項を参照できる。
【0062】
(フッ素含有化合物)
フッ素系窒素含有ポリマーを形成することができるフッ素含有化合物としては、フッ化アルキル基およびパーフルオロポリエーテル基からなる群から選ばれる基を1分子中に1つ以上有する化合物を挙げることができる。
【0063】
フッ化アルキル基は、アルキル基を構成する水素原子の一部または全部がフッ素原子により置換された構造を有し、全部がフッ素原子により置換された構造を有すること、即ちパーフルオロアルキル基であることが好ましい。フッ化アルキル基は、直鎖構造であってもよく、分岐を有する構造であってもよく、環状のフッ化アルキル基でもよく、直鎖構造であることが好ましい。フッ化アルキル基は、置換基を有していてもよく、無置換であってもよく、無置換であることが好ましい。フッ化アルキル基は、例えばCnH2n+1-で表されるアルキル基を構成する水素原子の一部または全部がフッ素原子により置換された構造を有することができる。フッ化アルキル基の炭素数は、例えば1以上、2以上または3以上であることができる。また、フッ化アルキル基の炭素数は、例えば20以下、15以下、10以下、7以下、6以下、5以下または4以下であることができる。
【0064】
パーフルオロポリエーテル基は、パーフルオロアルキル基が1つ以上のエーテル結合を有している場合を指し、1価の基でも2価以上の基でもよい。パーフルオロポリエーテル基としては、例えば、CF3-(CF2O)p-(CF2CF2O)q-、CF3-[CF(CF3)CF2O]p-[CF2(CF3)]-、CF3-(CF2CF2CF2O)p-、CF3-(CF2CF2O)p-、CF3-(CF2)p-O-[CF(CF3)CF2OCF(CF3)]q-等の1価の基が挙げられる。pおよびqの総計は1~83であることが好ましく、1~43であることがより好ましく、5~23であることが更に好ましい。
【0065】
一形態では、フッ素含有化合物としては、「RfCOOX」で表されるフッ化アルキル基含有カルボン酸エステルまたはパーフルオロポリエーテル基含有カルボン酸エステルを挙げることができる。ここで「Rf」はフッ化アルキル基またはパーフルオロポリエーテル基を表し、詳細は先に記載した通りである。「X」はアルキル基を表す。アルキル基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基を挙げることができ、好ましくは炭素数1~3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基またはエチル基であり、更に好ましくはメチル基である。「RfCOOX」で表されるカルボン酸エステルの具体例としては、例えば以下のフッ素含有化合物を例示できる。
【0066】
C11F23COOCH3
C9F19COOCH3
C6F13COOCH3
C5F11COOCH3
C4F9COOCH3
C3F7COOCH3
(CF3)2CFCOOCH3
【0067】
【0068】
他の一形態では、フッ素含有化合物としては、「RfNCO」で表されるフッ化アルキル基含有イソシアネートまたはパーフルオロポリエーテル基含有イソシアネートを挙げることができる。ここで「Rf」はフッ化アルキル基またはパーフルオロポリエーテル基を表し、詳細は先に記載した通りである。「RfNCO」で表されるイソシアネートの具体例としては、C4F9NCO(ノナフルオロブチルイソシアネート)を挙げることができる。
【0069】
上記フッ素含有化合物は、市販品として入手してもよく、公知の方法で合成してもよい。
【0070】
例えば、磁性層または磁性層形成用組成物は、上記フッ素系窒素含有ポリマーを、強磁性粉末100質量部あたり、0.1質量部以上含むことができ、0.5質量部以上含むことが好ましい。また、磁性層または磁性層形成用組成物における上記フッ素系窒素含有ポリマーの含有量は、強磁性粉末100質量部あたり、例えば20.0質量部以下、15.0質量部以下または10.0質量部以下であることができる。磁性層または磁性層形成用組成物に含まれるフッ素系窒素含有ポリマーは、1種のみでもよく2種以上でもよい。2種以上含まれる場合、上記の含有量は、それら2種以上のフッ素系窒素含有ポリマーの合計含有量である。
また、磁性層形成用組成物の成分として窒素含有原料ポリマーおよびフッ素含有化合物を使用する場合、磁性層形成用組成物における窒素含有原料ポリマーおよびフッ素含有化合物の含有量については、以下の通りである。
磁性層形成用組成物における窒素含有原料ポリマーの含有量は、強磁性粉末100質量部あたり、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましい。磁性層形成用組成物における窒素含有原料ポリマーの含有量は、強磁性粉末100質量部あたり、例えば20.0質量部以下、15.0質量部以下もしくは10.0質量部以下であることができる。
磁性層形成用組成物におけるフッ素含有化合物の含有量は、強磁性粉末100質量部あたり、1.0質量部以上であることが好ましく、3.0質量部以上であることがより好ましく、5.0質量部以上であることが更に好ましい。磁性層形成用組成物におけるフッ素含有化合物の含有量は、強磁性粉末100質量部あたり、例えば20.0質量部以下、15.0質量部以下もしくは10.0質量部以下であることができる。
非磁性層および非磁性層形成用組成物については、上記の強磁性粉末を非磁性粉末に置き換えて、先の記載を適用することができる。
窒素含有原料ポリマーとフッ素含有化合物との混合比について、フッ素含有原料ポリマーとフッ素含有化合物との合計量(質量基準)を100質量%として、フッ素含有化合物の比率は、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上または30質量%以上であることができ、また、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下もしくは50質量%以下であることができる。
【0071】
上記磁気記録媒体は、非磁性支持体上の磁性層側の部分に、上記フッ素系窒素含有ポリマーとともに、上記フッ素系窒素含有ポリマー以外の窒素含有ポリマー(以下、「他の窒素含有ポリマー」とも記載する。)を含むこともでき、含まなくてもよい。一形態では、他の窒素含有ポリマーとしては、窒素含有原料ポリマーの一例として先に記載したポリアルキレンイミン系ポリマーを挙げることができる。先に記載したポリアルキレンイミン系ポリマーは、強磁性粉末の分散性向上のための分散剤として機能することができる。上記フッ素系窒素含有ポリマーも、強磁性粉末の分散性向上のための分散剤として機能することができる。
他の窒素含有ポリマーが含まれる場合、他の窒素含有ポリマーの含有量は、磁性層または磁性層形成用組成物において、強磁性粉末100質量部あたり、例えば0.1質量部以上20.0質量部以下であることができ、または1.0質量部以上15.0質量部以下であることができる。非磁性層および非磁性層形成用組成物については、上記の強磁性粉末を非磁性粉末に置き換えて、上記の記載を適用することができる。
【0072】
以下に、上記磁気記録媒体の磁性層等について、更に詳細に説明する。
<磁性層>
(強磁性粉末)
磁性層は、強磁性粉末を含む。磁性層に含まれる強磁性粉末としては、各種磁気記録媒体の磁性層において用いられる強磁性粉末として公知の強磁性粉末を1種または2種以上組み合わせて使用することができる。強磁性粉末として平均粒子サイズの小さいものを使用することは記録密度向上の観点から好ましい。この点から、強磁性粉末の平均粒子サイズは50nm以下であることが好ましく、45nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることが更に好ましく、35nm以下であることが一層好ましく、30nm以下であることがより一層好ましく、25nm以下であることが更に一層好ましく、20nm以下であることがなお一層好ましい。一方、磁化の安定性の観点からは、強磁性粉末の平均粒子サイズは5nm以上であることが好ましく、8nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることが更に好ましく、15nm以上であることが一層好ましく、20nm以上であることがより一層好ましい。
【0073】
六方晶フェライト粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、六方晶フェライト粉末を挙げることができる。六方晶フェライト粉末の詳細については、例えば、特開2011-225417号公報の段落0012~0030、特開2011-216149号公報の段落0134~0136、特開2012-204726号公報の段落0013~0030および特開2015-127985号公報の段落0029~0084を参照できる。
【0074】
本発明および本明細書において、「六方晶フェライト粉末」とは、X線回折分析によって、主相として六方晶フェライトの結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。主相とは、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが帰属する構造をいう。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが六方晶フェライトの結晶構造に帰属される場合、六方晶フェライトの結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。X線回折分析によって単一の構造のみが検出された場合には、この検出された構造を主相とする。六方晶フェライトの結晶構造は、構成原子として、少なくとも鉄原子、2価金属原子および酸素原子を含む。2価金属原子とは、イオンとして2価のカチオンになり得る金属原子であり、ストロンチウム原子、バリウム原子、カルシウム原子等のアルカリ土類金属原子、鉛原子等を挙げることができる。本発明および本明細書において、六方晶ストロンチウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な2価金属原子がストロンチウム原子であるものをいい、六方晶バリウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な2価金属原子がバリウム原子であるものをいう。主な2価金属原子とは、この粉末に含まれる2価金属原子の中で、原子%基準で最も多くを占める2価金属原子をいうものとする。ただし、上記の2価金属原子には、希土類原子は包含されないものとする。本発明および本明細書における「希土類原子」は、スカンジウム原子(Sc)、イットリウム原子(Y)、およびランタノイド原子からなる群から選ばれる。ランタノイド原子は、ランタン原子(La)、セリウム原子(Ce)、プラセオジム原子(Pr)、ネオジム原子(Nd)、プロメチウム原子(Pm)、サマリウム原子(Sm)、ユウロピウム原子(Eu)、ガドリニウム原子(Gd)、テルビウム原子(Tb)、ジスプロシウム原子(Dy)、ホルミウム原子(Ho)、エルビウム原子(Er)、ツリウム原子(Tm)、イッテルビウム原子(Yb)、およびルテチウム原子(Lu)からなる群から選ばれる。
【0075】
以下に、六方晶フェライト粉末の一形態である六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、更に詳細に説明する。
【0076】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800~1500nm3の範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化された六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気記録媒体の作製のために好適である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800nm3以上であり、例えば850nm3以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、1400nm3以下であることがより好ましく、1300nm3以下であることが更に好ましく、1200nm3以下であることが一層好ましく、1100nm3以下であることがより一層好ましい。
【0077】
「活性化体積」とは、磁化反転の単位であって、粒子の磁気的な大きさを示す指標である。本発明および本明細書に記載の活性化体積および後述の異方性定数Kuは、振動試料型磁力計を用いて保磁力Hc測定部の磁場スイープ速度3分と30分とで測定し(測定温度:23℃±1℃)、以下のHcと活性化体積Vとの関係式から求められる値である。なお異方性定数Kuの単位に関して、1erg/cc=1.0×10-1J/m3である。
Hc=2Ku/Ms{1-[(kT/KuV)ln(At/0.693)]1/2}
[上記式中、Ku:異方性定数(単位:J/m3)、Ms:飽和磁化(単位:kA/m)、k:ボルツマン定数、T:絶対温度(単位:K)、V:活性化体積(単位:cm3)、A:スピン歳差周波数(単位:s-1)、t:磁界反転時間(単位:s)]
【0078】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、好ましくは1.8×105J/m3以上のKuを有することができ、より好ましくは2.0×105J/m3以上のKuを有することができる。また、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のKuは、例えば2.5×105J/m3以下であることができる。ただし、Kuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
【0079】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含んでいてもよく、含まなくてもよい。六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、鉄原子100原子%に対して、0.5~5.0原子%の含有率(バルク含有率)で希土類原子を含むことが好ましい。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一形態では、希土類原子表層部偏在性を有することができる。本発明および本明細書における「希土類原子表層部偏在性」とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により部分溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子表層部含有率」または希土類原子に関して単に「表層部含有率」と記載する。)が、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により全溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子バルク含有率」または希土類原子に関して単に「バルク含有率」と記載する。)と、
希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0
の比率を満たすことを意味する。後述の六方晶ストロンチウムフェライト粉末の希土類原子含有率とは、希土類原子バルク含有率と同義である。これに対し、酸を用いる部分溶解は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部を溶解するため、部分溶解により得られる溶解液中の希土類原子含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部における希土類原子含有率である。希土類原子表層部含有率が、「希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0」の比率を満たすことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。本発明および本明細書における表層部とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面から内部に向かう一部領域を意味する。
【0080】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、希土類原子含有率(バルク含有率)は、鉄原子100原子%に対して0.5~5.0原子%の範囲であることが好ましい。上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることは、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することに寄与すると考えられる。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末が上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることにより、異方性定数Kuを高めることができるためと推察される。異方性定数Kuは、この値が高いほど、いわゆる熱揺らぎと呼ばれる現象の発生を抑制すること(換言すれば熱的安定性を向上させること)ができる。熱揺らぎの発生が抑制されることにより、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の粒子表層部に希土類原子が偏在することが、表層部の結晶格子内の鉄(Fe)のサイトのスピンを安定化することに寄与し、これにより異方性定数Kuが高まるのではないかと推察される。
また、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末を磁性層の強磁性粉末として用いることは、磁気ヘッドとの摺動によって磁性層表面が削れることを抑制することにも寄与すると推察される。即ち、磁気記録媒体の走行耐久性の向上にも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末が寄与し得ると推察される。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面に希土類原子が偏在することが、粒子表面と磁性層に含まれる有機物質(例えば、結合剤および/または添加剤)との相互作用の向上に寄与し、その結果、磁性層の強度が向上するためではないかと推察される。
繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点および/または走行耐久性の更なる向上の観点からは、希土類原子含有率(バルク含有率)は、0.5~4.5原子%の範囲であることがより好ましく、1.0~4.5原子%の範囲であることが更に好ましく、1.5~4.5原子%の範囲であることが一層好ましい。
【0081】
上記バルク含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる含有率である。なお本発明および本明細書において、特記しない限り、原子について含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められるバルク含有率をいうものとする。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子として1種の希土類原子のみ含んでもよく、2種以上の希土類原子を含んでもよい。2種以上の希土類原子を含む場合の上記バルク含有率とは、2種以上の希土類原子の合計について求められる。この点は、本発明および本明細書における他の成分についても同様である。即ち、特記しない限り、ある成分は、1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。2種以上用いられる場合の含有量または含有率とは、2種以上の合計についていうものとする。
【0082】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、含まれる希土類原子は、希土類原子のいずれか1種以上であればよい。繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点から好ましい希土類原子としては、ネオジム原子、サマリウム原子、イットリウム原子およびジスプロシウム原子を挙げることができ、ネオジム原子、サマリウム原子およびイットリウム原子がより好ましく、ネオジム原子が更に好ましい。
【0083】
希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、偏在の程度は限定されるものではない。例えば、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は1.0超であり、1.5以上であることができる。「表層部含有率/バルク含有率」が1.0より大きいことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。また、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は、例えば、10.0以下、9.0以下、8.0以下、7.0以下、6.0以下、5.0以下、または4.0以下であることができる。ただし、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、上記の「表層部含有率/バルク含有率」は、例示した上限または下限に限定されるものではない。
【0084】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の部分溶解および全溶解について、以下に説明する。粉末として存在している六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、部分溶解および全溶解する試料粉末は、同一ロットの粉末から採取する。一方、磁気記録媒体の磁性層に含まれている六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、磁性層から取り出した六方晶ストロンチウムフェライト粉末の一部を部分溶解に付し、他の一部を全溶解に付す。磁性層からの六方晶ストロンチウムフェライト粉末の取り出しは、例えば、特開2015-91747号公報の段落0032に記載の方法によって行うことができる。
上記部分溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認できる程度に溶解することをいう。例えば、部分溶解により、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子について、粒子全体を100質量%として10~20質量%の領域を溶解することができる。一方、上記全溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認されない状態まで溶解することをいう。
上記部分溶解および表層部含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。ただし、下記の試料粉末量等の溶解条件は例示であって、部分溶解および全溶解が可能な溶解条件を任意に採用できる。
試料粉末12mgおよび1mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度70℃のホットプレート上で1時間保持する。得られた溶解液を0.1μmのメンブレンフィルタでろ過する。こうして得られたろ液の元素分析を誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)分析装置によって行う。こうして、鉄原子100原子%に対する希土類原子の表層部含有率を求めることができる。元素分析により複数種の希土類原子が検出された場合には、全希土類原子の合計含有率を、表層部含有率とする。この点は、バルク含有率の測定においても、同様である。
一方、上記全溶解およびバルク含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。
試料粉末12mgおよび4mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度80℃のホットプレート上で3時間保持する。その後は上記の部分溶解および表層部含有率の測定と同様に行い、鉄原子100原子%に対するバルク含有率を求めることができる。
【0085】
磁気記録媒体に記録されたデータを再生する際の再生出力を高める観点から、磁気記録媒体に含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、希土類原子を含むものの希土類原子表層部偏在性を持たない六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含まない六方晶ストロンチウムフェライト粉末と比べてσsが大きく低下する傾向が見られた。これに対し、そのようなσsの大きな低下を抑制するうえでも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末は好ましいと考えられる。一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のσsは、45A・m2/kg以上であることができ、47A・m2/kg以上であることもできる。一方、σsは、ノイズ低減の観点からは、80A・m2/kg以下であることが好ましく、60A・m2/kg以下であることがより好ましい。σsは、振動試料型磁力計等の磁気特性を測定可能な公知の測定装置を用いて測定することができる。本発明および本明細書において、特記しない限り、質量磁化σsは、磁場強度1194kA/m(15kOe)で測定される値とする。
【0086】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の構成原子の含有率(バルク含有率)に関して、ストロンチウム原子含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば2.0~15.0原子%の範囲であることができる。一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、この粉末に含まれる2価金属原子がストロンチウム原子のみであることができる。また他の一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、ストロンチウム原子に加えて1種以上の他の2価金属原子を含むこともできる。例えば、バリウム原子および/またはカルシウム原子を含むことができる。ストロンチウム原子以外の他の2価金属原子が含まれる場合、六方晶ストロンチウムフェライト粉末におけるバリウム原子含有率およびカルシウム原子含有率は、それぞれ、例えば、鉄原子100原子%に対して、0.05~5.0原子%の範囲であることができる。
【0087】
六方晶フェライトの結晶構造としては、マグネトプランバイト型(「M型」とも呼ばれる。)、W型、Y型およびZ型が知られている。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、いずれの結晶構造を取るものであってもよい。結晶構造は、X線回折分析によって確認することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によって、単一の結晶構造または2種以上の結晶構造が検出されるものであることができる。例えば一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によってM型の結晶構造のみが検出されるものであることができる。例えば、M型の六方晶フェライトは、AFe12O19の組成式で表される。ここでAは2価金属原子を表し、六方晶ストロンチウムフェライト粉末がM型である場合、Aはストロンチウム原子(Sr)のみであるか、またはAとして複数の2価金属原子が含まれる場合には、上記の通り原子%基準で最も多くをストロンチウム原子(Sr)が占める。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の2価金属原子含有率は、通常、六方晶フェライトの結晶構造の種類により定まるものであり、特に限定されるものではない。鉄原子含有率および酸素原子含有率についても、同様である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、少なくとも、鉄原子、ストロンチウム原子および酸素原子を含み、更に希土類原子を含むこともできる。更に、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、これら原子以外の原子を含んでもよく、含まなくてもよい。一例として、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、アルミニウム原子(Al)を含むものであってもよい。アルミニウム原子の含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば0.5~10.0原子%であることができる。繰り返し再生における再生出力低下をより一層抑制する観点からは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子を含み、これら原子以外の原子の含有率が、鉄原子100原子%に対して、10.0原子%以下であることが好ましく、0~5.0原子%の範囲であることがより好ましく、0原子%であってもよい。即ち、一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子以外の原子を含まなくてもよい。上記の原子%で表示される含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる各原子の含有率(単位:質量%)を、各原子の原子量を用いて原子%表示の値に換算して求められる。また、本発明および本明細書において、ある原子について「含まない」とは、全溶解してICP分析装置により測定される含有率が0質量%であることをいう。ICP分析装置の検出限界は、通常、質量基準で0.01ppm(parts per million)以下である。上記の「含まない」とは、ICP分析装置の検出限界未満の量で含まれることを包含する意味で用いるものとする。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一形態では、ビスマス原子(Bi)を含まないものであることができる。
【0088】
金属粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、強磁性金属粉末を挙げることもできる。強磁性金属粉末の詳細については、例えば特開2011-216149号公報の段落0137~0141および特開2005-251351号公報の段落0009~0023を参照できる。
【0089】
ε-酸化鉄粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、ε-酸化鉄粉末を挙げることもできる。本発明および本明細書において、「ε-酸化鉄粉末」とは、X線回折分析によって、主相としてε-酸化鉄の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークがε-酸化鉄の結晶構造に帰属される場合、ε-酸化鉄の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。ε-酸化鉄粉末の製造方法としては、ゲーサイトから作製する方法、逆ミセル法等が知られている。上記製造方法は、いずれも公知である。また、Feの一部がGa、Co、Ti、Al、Rh等の置換原子によって置換されたε-酸化鉄粉末を製造する方法については、例えば、J. Jpn. Soc. Powder Metallurgy Vol. 61 Supplement, No. S1, pp. S280-S284、J. Mater. Chem. C, 2013, 1, pp.5200-5206等を参照できる。ただし、上記磁気記録媒体の磁性層において強磁性粉末として使用可能なε-酸化鉄粉末の製造方法は、ここで挙げた方法に限定されない。
【0090】
ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300~1500nm3の範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化されたε-酸化鉄粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気記録媒体の作製のために好適である。ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300nm3以上であり、例えば500nm3以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、1400nm3以下であることがより好ましく、1300nm3以下であることが更に好ましく、1200nm3以下であることが一層好ましく、1100nm3以下であることがより一層好ましい。
【0091】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。ε-酸化鉄粉末は、好ましくは3.0×104J/m3以上のKuを有することができ、より好ましくは8.0×104J/m3以上のKuを有することができる。また、ε-酸化鉄粉末のKuは、例えば3.0×105J/m3以下であることができる。ただし、Kuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し、好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
【0092】
磁気記録媒体に記録されたデータを再生する際の再生出力を高める観点から、磁気記録媒体に含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、一形態では、ε-酸化鉄粉末のσsは、8A・m2/kg以上であることができ、12A・m2/kg以上であることもできる。一方、ε-酸化鉄粉末のσsは、ノイズ低減の観点からは、40A・m2/kg以下であることが好ましく、35A・m2/kg以下であることがより好ましい。
【0093】
本発明および本明細書において、特記しない限り、強磁性粉末等の各種粉末の平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡を用いて、以下の方法により測定される値とする。
粉末を、透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントするか、ディスプレイに表示する等して、粉末を構成する粒子の写真を得る。得られた粒子の写真から目的の粒子を選びデジタイザーで粒子の輪郭をトレースし粒子(一次粒子)のサイズを測定する。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。
以上の測定を、無作為に抽出した500個の粒子について行う。こうして得られた500個の粒子の粒子サイズの算術平均を、粉末の平均粒子サイズとする。上記透過型電子顕微鏡としては、例えば日立製透過型電子顕微鏡H-9000型を用いることができる。また、粒子サイズの測定は、公知の画像解析ソフト、例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて行うことができる。後述の実施例に示す平均粒子サイズは、特記しない限り、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H-9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて測定された値である。本発明および本明細書において、粉末とは、複数の粒子の集合を意味する。例えば、強磁性粉末とは、複数の強磁性粒子の集合を意味する。また、複数の粒子の集合とは、集合を構成する粒子が直接接触している形態に限定されず、後述する結合剤、添加剤等が、粒子同士の間に介在している形態も包含される。粒子との語が、粉末を表すために用いられることもある。
【0094】
粒子サイズ測定のために磁気記録媒体から試料粉末を採取する方法としては、例えば特開2011-048878号公報の段落0015に記載の方法を採用することができる。
【0095】
本発明および本明細書において、特記しない限り、粉末を構成する粒子のサイズ(粒子サイズ)は、上記の粒子写真において観察される粒子の形状が、
(1)針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粒子を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、
(2)板状または柱状(ただし、厚みまたは高さが板面または底面の最大長径より小さい)の場合は、その板面または底面の最大長径で表され、
(3)球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粒子を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
【0096】
また、粉末の平均針状比は、上記測定において粒子の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粒子の(長軸長/短軸長)の値を求め、上記500個の粒子について得た値の算術平均を指す。ここで、特記しない限り、短軸長とは、上記粒子サイズの定義で(1)の場合は、粒子を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚みまたは高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、特記しない限り、粒子の形状が特定の場合、例えば、上記粒子サイズの定義(1)の場合、平均粒子サイズは平均長軸長であり、同定義(2)の場合、平均粒子サイズは平均板径である。同定義(3)の場合、平均粒子サイズは、平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)である。
【0097】
磁性層における強磁性粉末の含有率(充填率)は、磁性層の全質量に対して、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。磁性層は、強磁性粉末を含み、結合剤を含むことができ、任意に1種以上の更なる添加剤を含むこともできる。磁性層において強磁性粉末の充填率が高いことは、記録密度向上の観点から好ましい。
【0098】
(結合剤、硬化剤)
上記磁気記録媒体は塗布型磁気記録媒体であることができ、磁性層に結合剤を含むことができる。結合剤は、1種以上の樹脂である。結合剤としては、塗布型磁気記録媒体の結合剤として通常使用される各種樹脂を用いることができる。例えば、結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂等から選ばれる樹脂を単独で用いるか、または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、および塩化ビニル樹脂である。これらの樹脂は、ホモポリマーでもよく、コポリマー(共重合体)でもよい。これらの樹脂は、後述する非磁性層および/またはバックコート層においても結合剤として使用することができる。以上の結合剤については、特開2010-24113号公報の段落0028~0031も参照できる。磁性層の結合剤の含有量は、強磁性粉末100.0質量部に対して、例えば1.0~30.0質量部であることができる。結合剤として使用される樹脂の平均分子量は、重量平均分子量として、例えば10,000以上200,000以下であることができる。本発明および本明細書における重量平均分子量とは、特記しない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、下記測定条件により測定された値を標準ポリスチレン換算して求められる値である。結合剤は、強磁性粉末100.0質量部に対して、例えば1.0~30.0質量部の量で使用することができる。
GPC装置:HLC-8120(東ソー社製)
カラム:TSK gel Multipore HXL-M(東ソー社製、7.8mmID(Inner Diameter)×30.0cm)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
【0099】
また、結合剤として使用可能な樹脂とともに硬化剤を使用することもできる。硬化剤は、一形態では加熱により硬化反応(架橋反応)が進行する化合物である熱硬化性化合物であることができ、他の一形態では光照射により硬化反応(架橋反応)が進行する光硬化性化合物であることができる。硬化剤は、磁性層形成工程の中で硬化反応が進行することにより、少なくとも一部は、結合剤等の他の成分と反応(架橋)した状態で磁性層に含まれ得る。この点は、他の層を形成するために用いられる組成物が硬化剤を含む場合に、この組成物を用いて形成される層についても同様である。好ましい硬化剤は、熱硬化性化合物であり、ポリイソシアネートが好適である。ポリイソシアネートの詳細については、特開2011-216149号公報の段落0124~0125を参照できる。磁性層形成用組成物の硬化剤の含有量は、結合剤100.0質量部に対して例えば0~80.0質量部であることができ、磁性層の強度向上の観点からは50.0~80.0質量部であることができる。
【0100】
(添加剤)
磁性層には、必要に応じて1種以上の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、一例として、上記の硬化剤が挙げられる。また、磁性層に含まれる添加剤としては、非磁性粉末、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤等を挙げることができる。分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061および0071を参照できる。分散剤を非磁性層形成用組成物に添加してもよい。非磁性層形成用組成物に添加し得る分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061を参照できる。また、磁性層に含まれ得る非磁性粉末としては、研磨剤として機能することができる非磁性粉末、磁性層表面に適度に突出する突起を形成する突起形成剤として機能することができる非磁性粉末等が挙げられる。研磨剤としては、磁性層の研磨剤として通常使用される物質であるアルミナ(Al2O3)、炭化ケイ素、ボロンカーバイド(B4C)、TiC、酸化クロム(Cr2O3)、酸化セリウム、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化鉄、ダイヤモンド等の粉末を挙げることができ、中でもα-アルミナ等のアルミナ、炭化ケイ素、およびダイヤモンドの粉末が好ましい。磁性層の研磨剤含有量は、強磁性粉末100.0質量部に対して1.0~20.0質量部であることが好ましく、3.0~15.0質量部であることがより好ましく、4.0~10.0質量部であることが更に好ましい。研磨剤の平均粒子サイズは、例えば30~300nmの範囲であり、好ましくは50~200nmの範囲である。突起形成剤としては、カーボンブラック、コロイド粒子等を挙げることができる。磁性層の突起形成剤含有量は、強磁性粉末100.0質量部に対して0.1~10.0質量部であることが好ましく、0.1~5.0質量部であることがより好ましく、0.5~5.0質量部であることが更に好ましい。コロイド粒子の平均粒子サイズは、例えば90~200nmの範囲であることが好ましく、100~150nmの範囲であることがより好ましい。カーボンブラックの平均粒子サイズは、5~200nmの範囲であることが好ましく、10~150nmの範囲であることがより好ましい。
【0101】
上記磁気記録媒体は、脂肪酸、脂肪酸エステルおよび脂肪酸アミドからなる群から選ばれる脂肪酸系化合物の1種以上を非磁性支持体上の磁性層側の部分に含むことができる。上記脂肪酸系化合物は、潤滑剤として機能し得る。上記磁性層側の部分には、脂肪酸、脂肪酸エステルおよび脂肪酸アミドから選ばれる脂肪酸系化合物が1種のみ含まれてもよく、2種または3種が含まれていてもよい。また、脂肪酸として1種のみまたは2種以上の脂肪酸が含まれてもよい。この点は、脂肪酸エステルおよび脂肪酸アミドについても同様である。
脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘン酸、エルカ酸、エライジン酸等を挙げることができ、ステアリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸等が好ましく、ステアリン酸がより好ましい。脂肪酸は、金属塩等の塩の形態で磁性層に含まれていてもよい。
脂肪酸エステルとしては、例示した上記各種脂肪酸のエステル等を挙げることができる。具体例としては、例えば、ミリスチン酸ブチル、パルミチン酸ブチル、ステアリン酸ブチル(ブチルステアレート)、ネオペンチルグリコールジオレエート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタントリステアレート、オレイン酸オレイル、ステアリン酸イソセチル、ステアリン酸イソトリデシル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸イソオクチル、ステアリン酸アミル、ステアリン酸ブトキシエチル等を挙げることができる。
脂肪酸アミドとしては、例示した上記各種脂肪酸のアミドを挙げることができる。具体例としては、例えば、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド等を挙げることができる。
脂肪酸と脂肪酸の誘導体(アミド、エステル等)については、脂肪酸誘導体の脂肪酸由来部位は、併用される脂肪酸と同様または類似の構造を有することが好ましい。例えば、一例として、脂肪酸としてステアリン酸を用いる場合にステアリン酸アミドおよび/またはステアリン酸エステルを併用することは好ましい。
脂肪酸、脂肪酸エステルおよび脂肪酸アミドからなる群から選ばれる脂肪酸系化合物の1種以上を磁性層側の部分に含む磁気記録媒体は、一形態では、上記脂肪酸系化合物の1種以上を含む磁性層形成用組成物を用いて磁性層を形成することによって製造することができる。また、一形態では、上記脂肪酸系化合物の1種以上を含む非磁性層形成用組成物を用いて非磁性層を形成することによって、上記脂肪酸系化合物の1種以上を磁性層側の部分に含む磁気記録媒体を製造することができる。また、一形態では、上記脂肪酸系化合物の1種以上を含む非磁性層形成用組成物を用いて非磁性層を形成し、かつ上記脂肪酸系化合物の1種以上を含む磁性層形成用組成物を用いて磁性層を形成することによって、上記脂肪酸系化合物の1種以上を磁性層側の部分に含む磁気記録媒体を製造することができる。非磁性層は、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド等の潤滑剤として機能し得る成分を保持し磁性層に供給する役割を果たすことができる。非磁性層に含まれる脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド等の潤滑剤は、磁性層に移行し磁性層に存在し得る。
磁性層または磁性層形成用組成物における脂肪酸の含有量は、強磁性粉末100.0質量部あたり、0.5~3.0質量部であることが好ましい。
磁性層または磁性層形成用組成物における脂肪酸エステルの含有量は、強磁性粉末100.0質量部あたり、例えば0~10.0質量部であり、好ましくは0.5~7.0質量部である。
磁性層または磁性層形成用組成物における脂肪酸アミドの含有量は、強磁性粉末100.0質量部あたり、例えば0~1.0質量部であり、好ましくは0.1~1.0質量部である。
非磁性層または非磁性層形成用組成物における脂肪酸、脂肪酸エステルおよび脂肪酸アミドの含有量については、上記の強磁性粉末を非磁性粉末に置き換えて、先の記載を適用することができる。
磁性層または磁性層形成用組成物における上記フッ素系窒素含有ポリマーと上記脂肪酸系化合物との混合比について、上記フッ素含有原料ポリマーと上記脂肪酸系化合物との合計量(質量基準)を100質量%として、上記脂肪酸系化合物の比率は10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上または30質量%以上であることができ、また、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下もしくは50質量%以下であることができる。以上の点は、非磁性層または非磁性層形成用組成物における上記フッ素系窒素含有ポリマーと上記脂肪酸系化合物との混合比にも当てはまる。
【0102】
以上説明した磁性層は、非磁性支持体表面上に直接、または非磁性層を介して間接的に、設けることができる。
【0103】
<非磁性層>
次に非磁性層について説明する。上記磁気記録媒体は、非磁性支持体表面上に直接磁性層を有していてもよく、非磁性支持体表面上に非磁性粉末を含む非磁性層を介して磁性層を有していてもよい。非磁性層に使用される非磁性粉末は、無機粉末でも有機粉末でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機粉末としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粉末が挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2011-216149号公報の段落0146~0150を参照できる。非磁性層に使用可能なカーボンブラックについては、特開2010-24113号公報の段落0040~0041も参照できる。非磁性層における非磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。
【0104】
非磁性層は、非磁性粉末および結合剤を含む層であることができ、1種以上の添加剤を更に含むことができる。非磁性層の結合剤、添加剤等のその他詳細は、非磁性層に関する公知技術が適用できる。また、例えば、結合剤の種類および含有量、添加剤の種類および含有量等に関しては、磁性層に関する公知技術も適用できる。
【0105】
本発明および本明細書において、非磁性層には、非磁性粉末とともに、例えば不純物として、または意図的に、少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層も包含されるものとする。ここで実質的に非磁性な層とは、この層の残留磁束密度が10mT以下であるか、保磁力が100Oe以下であるか、または、残留磁束密度が10mT以下であり、かつ保磁力が100Oe以下である層をいうものとする。1[kOe]=106/4π[A/m]である。非磁性層は、残留磁束密度および保磁力を持たないことが好ましい。
【0106】
<非磁性支持体>
次に、非磁性支持体(以下、単に「支持体」とも記載する。)について説明する。非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、およびポリアミドが好ましい。これらの支持体には、あらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、加熱処理等を行ってもよい。
【0107】
<バックコート層>
上記磁気記録媒体は、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有することもできる。バックコート層には、カーボンブラックおよび無機粉末のいずれか一方または両方が含有されていることが好ましい。バックコート層は、非磁性粉末および結合剤を含む層であることができ、1種以上の添加剤を更に含むことができる。バックコート層の結合剤および任意に含まれ得る各種添加剤については、バックコート層に関する公知技術を適用することができ、磁性層および/または非磁性層の処方に関する公知技術を適用することもできる。例えば、特開2006-331625号公報の段落0018~0020および米国特許第7,029,774号明細書の第4欄65行目~第5欄38行目の記載を、バックコート層について参照できる。
【0108】
<各種厚み>
非磁性支持体の厚みは、例えば3.0~80.0μmであり、好ましくは3.0~20.0μm、より好ましくは3.0~10.0μm、更に好ましくは3.0~6.0μmである。
【0109】
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量、ヘッドギャップ長、記録信号の帯域等に応じて最適化することができる。磁性層の厚みは、高密度記録化の観点から、好ましくは10nm~150nmであり、より好ましくは20nm~120nmであり、更に好ましくは30nm~100nmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する二層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。二層以上に分離する場合の磁性層の厚みとは、これらの層の合計厚みとする。
【0110】
非磁性層の厚みは、例えば0.1~3.0μmであり、0.1~2.0μmであることが好ましく、0.1~1.5μmであることが更に好ましい。
【0111】
バックコート層の厚みは、0.9μm以下であることが好ましく、0.1~0.7μmの範囲であることが更に好ましい。
【0112】
磁気記録媒体の各層および非磁性支持体の厚みは、公知の膜厚測定法により求めることができる。一例として、例えば、磁気記録媒体の厚み方向の断面を、イオンビーム、ミクロトーム等の公知の手法により露出させた後、露出した断面において走査型電子顕微鏡によって断面観察を行う。断面観察において任意の1箇所において求められた厚み、または無作為に抽出した2箇所以上の複数箇所、例えば2箇所、において求められた厚みの算術平均として、各種厚みを求めることができる。または、各層の厚みは、製造条件から算出される設計厚みとして求めてもよい。
【0113】
<磁気記録媒体の製造方法>
磁性層、ならびに任意に設けられる非磁性層およびバックコート層を形成するための組成物を調製する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程を含むことができる。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。各層形成用組成物の調製に用いられる成分は、どの工程の最初または途中で添加してもよい。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもよい。先に記載したように、磁性層形成用組成物の成分として、窒素含有原料ポリマーの1種以上とフッ素含有化合物の1種以上とを使用し、磁性層形成用組成物の調製工程においてこれらを混合することによって、フッ素系窒素含有ポリマーを形成することができる。また、一形態では、磁性層形成用組成物の調製前に、窒素含有原料ポリマーの1種以上とフッ素含有化合物の1種以上とを混合してフッ素系窒素含有ポリマーを形成した後に、このポリマーを磁性層形成用組成物の成分として使用して磁性層形成用組成物を調製することができる。この点は、非磁性層形成用組成物の調製工程についても当てはまる。各層形成用組成物を調製するためには、公知技術を用いることができる。混練工程では、オープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダ等の強い混練力をもつニーダを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については、特開平1-106338号公報および特開平1-79274号公報に記載されている。また、各層形成用組成物を分散させるためには、分散メディアとして、ガラスビーズおよびその他の分散ビーズからなる群から選ばれる1種以上の分散ビーズを用いることができる。このような分散ビーズとしては、高比重の分散ビーズであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、およびスチールビーズが好適である。これら分散ビーズの粒径(ビーズ径)および充填率は最適化して用いることができる。分散機は公知のものを使用することができる。各層形成用組成物を、塗布工程に付す前に公知の方法によってろ過してもよい。ろ過は、例えばフィルタろ過によって行うことができる。ろ過に用いるフィルタとしては、例えば孔径0.01~3μmのフィルタ(例えばガラス繊維製フィルタ、ポリプロピレン製フィルタ等)を用いることができる。
【0114】
磁性層は、磁性層形成用組成物を、非磁性支持体表面上に直接塗布するか、または非磁性層形成用組成物と逐次もしくは同時に重層塗布する工程を経て形成することができる。バックコート層は、非磁性支持体の磁性層が設けられた(または追って設けられる)表面とは反対側の表面上にバックコート層形成用組成物を塗布する工程を経て形成することができる。
【0115】
塗布工程後には、乾燥処理、磁性層の配向処理、表面平滑化処理(カレンダ処理)等の各種処理を行うことができる。塗布工程および各種処理については、公知技術を適用することができ、例えば特開2010-24113号公報の段落0051~0057を参照できる。例えば、配向処理としては、垂直配向処理を行うことができる。垂直配向処理は、異極対向磁石を用いる方法等の公知の方法によって行うことができる。配向ゾーンでは、乾燥風の温度、風量および/または配向ゾーンにおける磁気記録媒体の搬送速度によって塗布層の乾燥速度を制御することができる。また、配向ゾーンに搬送する前に塗布層を予備乾燥させてもよい。
【0116】
上記のように製造された磁気記録媒体には、磁気記録再生装置における磁気ヘッドのトラッキング制御、磁気記録媒体の走行速度の制御等を可能とするために、公知の方法によってサーボパターンを形成することができる。「サーボパターンの形成」は、「サーボ信号の記録」ということもできる。上記磁気記録媒体は、テープ状の磁気記録媒体(磁気テープ)であってもよく、ディスク状の磁気記録媒体(磁気ディスク)であってもよい。以下では、磁気テープを例にサーボパターンの形成について説明する。
【0117】
サーボパターンは、通常、磁気テープの長手方向に沿って形成される。サーボ信号を利用する制御(サーボ制御)の方式としては、タイミングベースサーボ(TBS)、アンプリチュードサーボ、周波数サーボ等が挙げられる。
【0118】
ECMA(European Computer Manufacturers Association)―319に示される通り、LTO(Linear Tape-Open)規格に準拠した磁気テープ(一般に「LTOテープ」と呼ばれる。)では、タイミングベースサーボ方式が採用されている。このタイミングベースサーボ方式において、サーボパターンは、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(「サーボストライプ」とも呼ばれる。)が、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置されることによって構成されている。上記のように、サーボパターンが互いに非平行な一対の磁気ストライプにより構成される理由は、サーボパターン上を通過するサーボ信号読み取り素子に、その通過位置を教えるためである。具体的には、上記の一対の磁気ストライプは、その間隔が磁気テープの幅方向に沿って連続的に変化するように形成されており、サーボ信号読み取り素子がその間隔を読み取ることによって、サーボパターンとサーボ信号読み取り素子との相対位置を知ることができる。この相対位置の情報が、データトラックのトラッキングを可能にする。そのために、サーボパターン上には、通常、磁気テープの幅方向に沿って、複数のサーボトラックが設定されている。
【0119】
サーボバンドは、磁気テープの長手方向に連続するサーボ信号により構成される。このサーボバンドは、通常、磁気テープに複数本設けられる。例えば、LTOテープにおいて、その数は5本である。隣接する2本のサーボバンドに挟まれた領域は、データバンドと呼ばれる。データバンドは、複数のデータトラックで構成されており、各データトラックは、各サーボトラックに対応している。
【0120】
また、一形態では、特開2004-318983号公報に示されているように、各サーボバンドには、サーボバンドの番号を示す情報(「サーボバンドID(identification)」または「UDIM(Unique DataBand Identification Method)情報」とも呼ばれる。)が埋め込まれている。このサーボバンドIDは、サーボバンド中に複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のものを、その位置が磁気テープの長手方向に相対的に変位するように、ずらすことによって記録されている。具体的には、複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のもののずらし方を、サーボバンド毎に変えている。これにより、記録されたサーボバンドIDはサーボバンド毎にユニークなものとなるため、一つのサーボバンドをサーボ信号読み取り素子で読み取るだけで、そのサーボバンドを一意に(uniquely)特定することができる。
【0121】
なお、サーボバンドを一意に特定する方法には、ECMA―319に示されているようなスタッガード方式を用いたものもある。このスタッガード方式では、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置された、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(サーボストライプ)の群を、サーボバンド毎に磁気テープの長手方向にずらすように記録する。隣接するサーボバンド間における、このずらし方の組み合わせは、磁気テープ全体においてユニークなものとされているため、2つのサーボ信号読み取り素子によりサーボパターンを読み取る際に、サーボバンドを一意に特定することも可能となっている。
【0122】
また、各サーボバンドには、ECMA―319に示されている通り、通常、磁気テープの長手方向の位置を示す情報(「LPOS(Longitudinal Position)情報」とも呼ばれる。)も埋め込まれている。このLPOS情報も、UDIM情報と同様に、一対のサーボストライプの位置を、磁気テープの長手方向にずらすことによって記録されている。ただし、UDIM情報とは異なり、このLPOS情報では、各サーボバンドに同じ信号が記録されている。
【0123】
上記のUDIM情報およびLPOS情報とは異なる他の情報を、サーボバンドに埋め込むことも可能である。この場合、埋め込まれる情報は、UDIM情報のようにサーボバンド毎に異なるものであってもよいし、LPOS情報のようにすべてのサーボバンドに共通のものであってもよい。
また、サーボバンドに情報を埋め込む方法としては、上記以外の方法を採用することも可能である。例えば、一対のサーボストライプの群の中から、所定の対を間引くことによって、所定のコードを記録するようにしてもよい。
【0124】
サーボパターン形成用ヘッドは、サーボライトヘッドと呼ばれる。サーボライトヘッドは、上記一対の磁気ストライプに対応した一対のギャップを、サーボバンドの数だけ有する。通常、各一対のギャップには、それぞれコアとコイルが接続されており、コイルに電流パルスを供給することによって、コアに発生した磁界が、一対のギャップに漏れ磁界を生じさせることができる。サーボパターンの形成の際には、サーボライトヘッド上に磁気テープを走行させながら電流パルスを入力することによって、一対のギャップに対応した磁気パターンを磁気テープに転写させて、サーボパターンを形成することができる。各ギャップの幅は、形成されるサーボパターンの密度に応じて適宜設定することができる。各ギャップの幅は、例えば、1μm以下、1~10μm、10μm以上等に設定可能である。
【0125】
磁気テープにサーボパターンを形成する前には、磁気テープに対して、通常、消磁(イレース)処理が施される。このイレース処理は、直流磁石または交流磁石を用いて、磁気テープに一様な磁界を加えることによって行うことができる。イレース処理には、DC(Direct Current)イレースとAC(Alternating Current)イレースとがある。ACイレースは、磁気テープに印加する磁界の方向を反転させながら、その磁界の強度を徐々に下げることによって行われる。一方、DCイレースは、磁気テープに一方向の磁界を加えることによって行われる。DCイレースには、更に2つの方法がある。第一の方法は、磁気テープの長手方向に沿って一方向の磁界を加える、水平DCイレースである。第二の方法は、磁気テープの厚み方向に沿って一方向の磁界を加える、垂直DCイレースである。イレース処理は、磁気テープ全体に対して行ってもよいし、磁気テープのサーボバンド毎に行ってもよい。
【0126】
形成されるサーボパターンの磁界の向きは、イレースの向きに応じて決まる。例えば、磁気テープに水平DCイレースが施されている場合、サーボパターンの形成は、磁界の向きがイレースの向きと反対になるように行われる。これにより、サーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号の出力を、大きくすることができる。なお、特開2012-53940号公報に示されている通り、垂直DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、単極パルス形状となる。一方、水平DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、双極パルス形状となる。
【0127】
[磁気テープカートリッジ]
本発明の一態様は、テープ状の上記磁気記録媒体(即ち磁気テープ)を含む磁気テープカートリッジに関する。
【0128】
上記磁気テープカートリッジに含まれる磁気テープの詳細は、先に記載した通りである。
【0129】
磁気テープカートリッジでは、一般に、カートリッジ本体内部に磁気テープがリールに巻き取られた状態で収容されている。リールは、カートリッジ本体内部に回転可能に備えられている。磁気テープカートリッジとしては、カートリッジ本体内部にリールを1つ具備する単リール型の磁気テープカートリッジおよびカートリッジ本体内部にリールを2つ具備する双リール型の磁気テープカートリッジが広く用いられている。単リール型の磁気テープカートリッジは、磁気テープへのデータの記録および/または再生のために磁気記録再生装置に装着されると、磁気テープカートリッジから磁気テープが引き出されて磁気記録再生装置側のリールに巻き取られる。磁気テープカートリッジから巻き取りリールまでの磁気テープ搬送経路には、磁気ヘッドが配置されている。磁気テープカートリッジ側のリール(供給リール)と磁気記録再生装置側のリール(巻き取りリール)との間で、磁気テープの送り出しと巻き取りが行われる。この間、磁気ヘッドと磁気テープの磁性層側の表面とが接触し摺動することにより、データの記録および/または再生が行われる。これに対し、双リール型の磁気テープカートリッジは、供給リールと巻き取りリールの両リールが、磁気テープカートリッジ内部に具備されている。上記磁気テープカートリッジは、単リール型および双リール型のいずれの磁気テープカートリッジであってもよい。上記磁気テープカートリッジは、本発明の一態様にかかる磁気テープを含むものであればよく、その他については公知技術を適用することができる。
【0130】
[磁気記録再生装置]
本発明の一態様は、上記磁気記録媒体を含む磁気記録再生装置に関する。
【0131】
本発明および本明細書において、「磁気記録再生装置」とは、磁気記録媒体へのデータの記録および磁気記録媒体に記録されたデータの再生の少なくとも一方を行うことができる装置を意味するものとする。かかる装置は、一般にドライブと呼ばれる。上記磁気記録再生装置は、例えば、摺動型の磁気記録再生装置であることができる。摺動型の磁気記録再生装置とは、磁気記録媒体へのデータの記録および/または記録されたデータの再生を行う際に磁性層側の表面と磁気ヘッドとが接触し摺動する装置をいう。例えば、上記磁気記録再生装置は、上記磁気テープカートリッジを着脱可能に含むことができる。
【0132】
上記磁気記録再生装置は磁気ヘッドを含むことができる。磁気ヘッドは、磁気記録媒体へのデータの記録を行うことができる記録ヘッドであることができ、磁気記録媒体に記録されたデータの再生を行うことができる再生ヘッドであることもできる。また、上記磁気記録再生装置は、一形態では、別々の磁気ヘッドとして、記録ヘッドと再生ヘッドの両方を含むことができる。他の一形態では、上記磁気記録再生装置に含まれる磁気ヘッドは、データの記録のための素子(記録素子)とデータの再生のための素子(再生素子)の両方を1つの磁気ヘッドに備えた構成を有することもできる。以下において、データの記録のための素子および再生のための素子を、「データ用素子」と総称する。再生ヘッドとしては、磁気記録媒体に記録されたデータを感度よく読み取ることができる磁気抵抗効果型(MR:Magnetoresistive)素子を再生素子として含む磁気ヘッド(MRヘッド)が好ましい。MRヘッドとしては、AMR(Anisotropic Magnetoresistive)ヘッド、GMR(Giant Magnetoresistive)ヘッド、TMR(Tunnel Magnetoresistive)ヘッド等の公知の各種MRヘッドを用いることができる。また、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドには、サーボ信号読み取り素子が含まれていてもよい。または、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドとは別のヘッドとして、サーボ信号読み取り素子を備えた磁気ヘッド(サーボヘッド)が上記磁気記録再生装置に含まれていてもよい。例えば、データの記録および/または記録されたデータの再生を行う磁気ヘッド(以下、「記録再生ヘッド」とも呼ぶ。)は、サーボ信号読み取り素子を2つ含むことができ、2つのサーボ信号読み取り素子のそれぞれが、隣接する2つのサーボバンドを同時に読み取ることができる。2つのサーボ信号読み取り素子の間に、1つまたは複数のデータ用素子を配置することができる。
【0133】
上記磁気記録再生装置において、磁気記録媒体へのデータの記録および/または磁気記録媒体に記録されたデータの再生は、例えば、磁気記録媒体の磁性層側の表面と磁気ヘッドとを接触させて摺動させることにより行うことができる。上記磁気記録再生装置は、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体を含むものであればよく、その他については公知技術を適用することができる。
【0134】
例えば、データの記録および/または記録されたデータの再生の際には、まず、サーボ信号を用いたトラッキングが行われる。すなわち、サーボ信号読み取り素子を所定のサーボトラックに追従させることによって、データ用素子が、目的とするデータトラック上を通過するように制御される。データトラックの移動は、サーボ信号読み取り素子が読み取るサーボトラックを、テープ幅方向に変更することにより行われる。
また、記録再生ヘッドは、他のデータバンドに対する記録および/または再生を行うことも可能である。その際には、先に記載したUDIM情報を利用してサーボ信号読み取り素子を所定のサーボバンドに移動させ、そのサーボバンドに対するトラッキングを開始すればよい。
【実施例0135】
以下に、本発明の一形態を実施例に基づき説明する。ただし、本発明は実施例に示す形態に限定されるものではない。以下に記載の「部」、「%」の表示は、特記しない限り、「質量部」、「質量%」を示す。「eq」は、当量(equivalent)であり、SI単位に換算不可の単位である。
また、以下の各種工程および操作は、特記しない限り、温度20~25℃および相対湿度40~60%の環境において行った。
【0136】
[強磁性粉末]
実施例および比較例において、強磁性粉末としては、以下の六方晶ストロンチウムフェライトを使用した。
【0137】
SrCO3を1707g、H3BO3を687g、Fe2O3を1120g、Al(OH)3を45g、BaCO3を24g、CaCO3を13g、およびNd2O3を235g秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで溶融温度1390℃で溶融し、融液を撹拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ローラーで圧延急冷して非晶質体を作製した。
作製した非晶質体280gを電気炉に仕込み、昇温速度3.5℃/分にて635℃(結晶化温度)まで昇温し、同温度で5時間保持して六方晶ストロンチウムフェライト粒子を析出(結晶化)させた。
次いで六方晶ストロンチウムフェライト粒子を含む上記で得られた結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、この粉砕物を入れたガラス瓶に粒径1mmのジルコニアビーズ1000gと濃度1%の酢酸水溶液を800mL加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った。その後、得られた分散液をビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温100℃で3時間静置させてガラス成分の溶解処理を行った後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、炉内温度110℃の加熱炉内で6時間乾燥させて六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の平均粒子サイズは18nm、活性化体積は902nm3、異方性定数Kuは2.2×105J/m3、質量磁化σsは49A・m2/kgであった。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって部分溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子の表層部含有率を求めた。
別途、上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって全溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子のバルク含有率を求めた。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の鉄原子100原子%に対するネオジム原子の含有率(バルク含有率)は、2.9原子%であった。また、ネオジム原子の表層部含有率は8.0原子%であった。表層部含有率とバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は2.8であり、ネオジム原子が粒子の表層に偏在していることが確認された。
【0138】
上記で得られた粉末が六方晶フェライトの結晶構造を示すことは、CuKα線を電圧45kVかつ強度40mAの条件で走査し、下記条件でX線回折パターンを測定すること(X線回折分析)により確認した。上記で得られた粉末は、マグネトプランバイト型(M型)の六方晶フェライトの結晶構造を示した。また、X線回折分析により検出された結晶相は、マグネトプランバイト型の単一相であった。
PANalytical X’Pert Pro回折計、PIXcel検出器
入射ビームおよび回折ビームのSollerスリット:0.017ラジアン
分散スリットの固定角:1/4度
マスク:10mm
散乱防止スリット:1/4度
測定モード:連続
1段階あたりの測定時間:3秒
測定速度:毎秒0.017度
測定ステップ:0.05度
【0139】
[ポリアルキレンイミン系ポリマーの合成例]
<ポリエステル(i-1)の合成>
500mL3口フラスコに、カルボン酸としてn-オクタン酸(和光純薬社製)16.8g、ラクトンとしてε-カプロラクトン(ダイセル工業化学社製プラクセルM)100g、触媒としてモノブチルすずオキシド(和光純薬社製)(C4H9Sn(O)OH)2.2gを混合し、混合物の温度160℃で1時間加熱した。ε-カプロラクトン100gを5時間かけて滴下し更に2時間撹拌した。その後、室温まで冷却し、ポリエステル(i-1)を得た。得られたポリエステルの数平均分子量は5,800であった。原料仕込み比より算出したラクトンの繰り返し単位の単位数は15である。ラクトン繰り返し単位の単位数は、式1中のb11または式2中のb21に相当する。
【0140】
<ポリアルキレンイミン系ポリマーAの合成>
ポリエチレンイミン(日本触媒社製SP-006、数平均分子量600)2.4gおよびポリエステル(i-1)100gを混合し、混合液の温度110℃で3時間加熱して、ポリアルキレンイミン系ポリマーを得た。 得られたポリアルキレンイミン系ポリマーの重量平均分子量は7,000であった。得られたポリアルキレンイミン系ポリマーについて、1H-NMRおよび13C-NMRの両NMR分析結果ならびに燃焼法を用いる元素分析の分析結果から、ポリアルキレンイミン系ポリマーに占めるポリアルキレンイミン鎖の割合(ポリアルキレンイミン鎖比率)は2.3質量%と算出された。算出されたポリアルキレンイミン鎖比率は、ポリアルキレンイミンおよびポリエステルの仕込み量から算出された値と同様の値であった。1H-NMRおよび13C-NMRの両NMR分析結果から、以下の繰り返し単位を有する構造のポリマーが得られたことを確認した。
【0141】
【0142】
上記の数平均分子量および重量平均分子量は、GPC法により測定し標準ポリスチレン換算で求めた値である。
【0143】
ポリエステル、ポリアルキレンイミン(ポリエチレンイミン)、およびポリアルキレンイミン系ポリマーの平均分子量の測定条件は、それぞれ以下の通りとした。
【0144】
(ポリエステルの数平均分子量の測定条件)
測定器:HLC-8220GPC(東ソー社製)
カラム:TSKgel Super HZ 2000/TSKgel Super HZ 4000/TSKgel Super HZ-H(東ソー社製)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:0.35mL/min
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折(RI:Refractive Index)検出器
【0145】
(ポリアルキレンイミンの数平均分子量、ポリアルキレンイミン系ポリマーの重量平均分子量の測定条件)
測定器:HLC-8320GPC(東ソー社製)
カラム:TSKgel Super AWM-H(東ソー社製)3本
溶離液:N-メチル-2-ピロリドン(添加剤として10mM臭化リチウム添加)
流速:0.35mL/min
カラム温度:40℃
検出器:RI
【0146】
[フッ素系窒素含有ポリマーの合成例]
<ポリマー1の合成>
100mL3口フラスコに、上記で合成したポリアルキレンイミン系ポリマー6gとメチルエチルケトン(MEK)20gを添加し液温40℃で溶解した。室温に冷却した後、トリフルオロデカヘプタン酸メチル7.94gを添加し、室温で1時間撹拌した。反応液をヘキサン200mLに滴下し再沈殿させることで5.4gのポリマー1を得た。1H-NMRおよび19F-NMRと、内部標準として2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンを用いて、以下の繰り返し単位を有する構造のポリマーが得られたことを確認した。
【0147】
【0148】
<ポリマー2の合成方法>
ポリマー1の合成におけるトリフルオロデカヘプタン酸メチルをノナフルオロペンタン酸メチル5.85gに代え、同様の操作によりポリマー2を5.2g得た。H-NMRおよび19F-NMRと、内部標準として2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンを用いて、以下の繰り返し単位を有する構造のポリマーが得られたことを確認した。
【0149】
【0150】
<ポリマー3の合成方法>
ポリマー1の合成におけるトリフルオロデカヘプタン酸メチルをノナフルオロブチルイソシアネート5.48gに代え、同様の操作によりポリマー3を4.8g得た。H-NMRおよび19F-NMRと、内部標準として2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンを用いて、以下の繰り返し単位を有する構造のポリマーが得られたことを確認した。
【0151】
【0152】
[実施例1]
<磁性層形成用組成物の調製>
下記の成分をオープンニーダで混練したのち、サンドミルを用いて分散させた。
強磁性粉末:100.0部
ポリアルキレンイミン系ポリマーA:表1参照
ポリウレタン樹脂:(東洋紡社製バイロン(登録商標)UR4800、官能基:SO3Na、官能基濃度:70eq/ton):4.0部
塩化ビニル樹脂(カネカ社製MR104):10.0部
メチルエチルケトン:150.0部
シクロヘキサノン:150.0部
α-Al2O3(平均粒子サイズ0.1μm):6.0部
カーボンブラック(平均粒子サイズ:20nm):0.7部
【0153】
上記で得られた分散液に下記の成分を加えて撹拌した後、超音波処理し、1μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過し、磁性層形成用組成物を調製した。
フッ素系窒素含有ポリマー(種類および添加量について、表1参照)
ステアリン酸:1.5部
ブチルステアレート:0.5部
ステアリン酸アミド:0.3部
メチルエチルケトン:110.0部
シクロヘキサノン:110.0部
ポリイソシアネート化合物(東ソー社製コロネート3041):3.0部
【0154】
<非磁性層形成用組成物の調製>
下記の成分をオープンニーダで混練した後、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液を1μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過し、非磁性層形成用組成物を調製した。
カーボンブラック:100.0部
DBP(Dibutyl phthalate)吸油量:100mL/100g
pH:8
BET(Brunauer-Emmett-Teller)比表面積:250m2/g
揮発分:1.5%
ポリウレタン樹脂(東洋紡社製バイロンUR4800、官能基:SO3Na、官能基濃度:70eq/ton):20.0部
塩化ビニル樹脂(官能基:OSO3K、官能基濃度:70eq/ton):30.0部
トリオクチルアミン:4.0部
シクロヘキサノン:140.0部
メチルエチルケトン:170.0部
ステアリン酸アミド:0.3部
トルエン:3.0部
ポリイソシアネート化合物(東ソー社製コロネート3041):5.0部
【0155】
<バックコート層形成用組成物の調製>
下記の成分をロールミルで予備混練した後、サンドミルで分散した。得られた分散液に、ポリエステル樹脂(東洋紡社製バイロン500)4.0部、ポリイソシアネート化合物(東ソー社製コロネート3041)14.0部およびα-Al2O3(住友化学社製)5.0部を添加し、撹拌した後にろ過してバックコート層形成用組成物を調製した。
カーボンブラック(平均粒子サイズ40nm):85.0部
カーボンブラック(平均粒子サイズ100nm):3.0部
ニトロセルロース:28.0部
ポリウレタン樹脂:58.0部
銅フタロシアニン系分散剤:2.5部
ニッポラン2301(東ソー社製):0.5部
メチルイソブチルケトン:0.3部
メチルエチルケトン:860.0部
トルエン:240.0部
【0156】
<磁気記録媒体の作製>
厚み5.0μmの二軸延伸ポリエチレンナフタレート支持体の両表面にコロナ放電処理を施した。
上記ポリエチレンナフタレート支持体の一方の表面上に、上記の非磁性層形成用組成物を非磁性層の乾燥後の厚みが1.0μmになるように塗布し、更にその直後にその上に磁性層の乾燥後の厚みが100nmになるように磁性層形成用組成物を同時重層塗布した。両層が湿潤状態にあるうちに0.5T(テスラ)の磁力をもつコバルト磁石と0.4Tの磁力をもつソレノイドにより垂直配向処理を施した後に乾燥処理を施した。その後、上記ポリエチレンナフタレート支持体のもう一方の表面上に上記のバックコート層形成用組成物を、バックコート層の乾燥後の厚みが0.5μmとなるように塗布した後、金属ロールから構成される7段のカレンダでカレンダロールの表面温度100℃にて速度80m/minでカレンダ処理を行った。その後、1/2インチ(1インチは0.0254メートル)幅にスリットして磁気テープを作製した。
【0157】
[実施例2~4、比較例1]
表1に示すように各種項目を変更した点以外、実施例1について記載した方法によって磁気テープを作製した。
【0158】
[実施例5~11]
以下に記載の方法によって磁性層形成用組成物を調製した点以外、実施例1について記載した方法によって磁気テープを作製した。
【0159】
<磁性層形成用組成物の調製>
下記の成分をオープンニーダで混練したのち、サンドミルを用いて分散させた。
強磁性粉末:100.0部
ポリアルキレンイミン系ポリマーA:表1参照
フッ素系窒素含有ポリマー(種類および添加量について、表1参照)
ポリウレタン樹脂:(東洋紡社製バイロン(登録商標)UR4800、官能基:SO3Na、官能基濃度:70eq/ton):4.0部
塩化ビニル樹脂(カネカ社製MR104):10.0部
メチルエチルケトン:150.0部
シクロヘキサノン:150.0部
α-Al2O3(平均粒子サイズ0.1μm):6.0部
カーボンブラック(平均粒子サイズ:20nm):0.7部
【0160】
上記で得られた分散液に下記の成分を加えて撹拌した後、超音波処理し、1μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過し、磁性層形成用組成物を調製した。
ステアリン酸:1.5部
ブチルステアレート:0.5部
ステアリン酸アミド:0.3部
メチルエチルケトン:110.0部
シクロヘキサノン:110.0部
ポリイソシアネート化合物(東ソー社製コロネート3041):3.0部
【0161】
[実施例12、13、比較例2]
以下に記載の方法によって磁性層形成用組成物を調製した点以外、実施例1について記載した方法によって磁気テープを作製した。
【0162】
<磁性層形成用組成物の調製>
下記の成分をオープンニーダで混練したのち、サンドミルを用いて分散させた。
強磁性粉末:100.0部
ポリアルキレンイミン系ポリマーA:表1参照
ポリウレタン樹脂:(東洋紡社製バイロン(登録商標)UR4800、官能基:SO3Na、官能基濃度:70eq/ton):4.0部
塩化ビニル樹脂(カネカ社製MR104):10.0部
メチルエチルケトン:150.0部
シクロヘキサノン:150.0部
α-Al2O3(平均粒子サイズ0.1μm):6.0部
カーボンブラック(平均粒子サイズ:20nm):0.7部
【0163】
上記で得られた分散液に下記の成分を加えて撹拌した後、超音波処理し、1μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過し、磁性層形成用組成物を調製した。
フッ素含有化合物(種類および添加量について、表1参照)
ステアリン酸:1.5部
ブチルステアレート:0.5部
ステアリン酸アミド:0.3部
メチルエチルケトン:110.0部
シクロヘキサノン:110.0部
ポリイソシアネート化合物(東ソー社製コロネート3041):3.0部
【0164】
実施例12の磁気テープ、実施例13の磁気テープおよび比較例2の磁気テープのそれぞれについて、磁気テープから長さ30cmのサンプル片を切り出した。切り出したサンプル片をシャーレに載せてサンプル片全体を10mLのテトラヒドロフラン(THF)に1時間浸漬して抽出処理を行った。抽出処理後のTHFを50mL1口ナスフラスコに移し、エバポレータで留去後、減圧乾燥した。1H-NMRおよび19F-NMRと、内部標準として2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンを用いることで、フッ素含有化合物のフッ素含有基とポリアルキレンイミン系ポリマーAのフッ素原子とが結合したポリマーが存在することを確認した。
【0165】
[評価方法]
<ヘキサン洗浄後接触角>
実施例および比較例の各磁気テープについて、先に記載した方法によってヘキサン洗浄後接触角を求めた。
詳しくは、ヘキサン洗浄後接触角を以下のように求めた。
実施例および比較例の各磁気テープから、長さ30cmのサンプル片を切り出した。切り出したサンプル片をシャーレに載せてサンプル片全体を10mLのフレッシュなヘキサンに浸漬させた。1時間後、サンプル片をヘキサンから取り出し、室温下で24時間以上自然乾燥させた。
以上のヘキサン洗浄後、接触角測定機(協和界面科学(株)製接触角測定装置DropMaster700)により、以下の方法によって、サンプル片の磁性層表面において水に対する接触角の測定を行った。接触角の測定は、雰囲気温度20℃および相対湿度25%の測定環境において行った。
上記サンプル片を、バックコート層表面がスライドガラス表面と接触するようにスライドガラス上に設置した。サンプル片表面(磁性層表面)に測定用液体(水)2.0μLを滴下し、滴下した液体が安定した液滴を形成したことを目視で確認した後、上記接触角測定機に付随の接触角解析ソフトウェアFAMASにより液滴像を解析し、サンプル片と液滴の接触角を測定した。接触角の算出はθ/2法によって行った。測定箇所は磁性層表面において無作為に選択した6箇所とし、6箇所においてそれぞれ接触角の測定を行った。こうして得られた6つの測定値の算術平均を、測定対象の磁気テープのヘキサン洗浄後接触角とした。
手法:液滴法(θ/2法)
着滴認識:自動
着滴認識ライン(針先からの距離):50dot
アルゴリズム:自動
イメージモード:フレーム
スレッシホールドレベル:自動
【0166】
<摩擦性>
雰囲気温度13℃相対湿度80%に制御した環境下、IBM社製LTO(登録商標)G7(Linear Tape-Open Generation 7)ドライブから取り外した磁気ヘッドをテープ走行系に取り付け、0.6Nのテンションをかけながらテープ長20mの磁気テープを、送り出しロールからの送り出しおよび巻き取りロールへの巻き取りを行いつつ4.0m/秒で10000サイクル走行させた。
1サイクル目の走行および10000サイクル目の走行において、それぞれ走行中に磁気ヘッドにかかる摩擦力をひずみゲージを用いて測定し、測定された摩擦力から摩擦係数μ値を求めた。測定されたμ値から下記評価基準により繰り返し走行後の摩擦係数を評価した。評価結果AまたはBが好ましく、Aが最も好ましい。
(評価基準)
A:μ値が0.08未満
B:μ値が0.08以上0.12以下
C:μ値が0.12超
【0167】
<摩耗性>
雰囲気温度23℃相対湿度50%に制御した環境下、未走行の磁気テープの磁性層表面を、AlFeSil角柱(ECMA(European Computer Manufacturers Association)-288/Annex H/H2に規定されている角柱)の長手方向と直交するように、AlFeSil角柱の一稜辺(エッジ)にラップ角12度で接触させ、その状態で長さ580m磁気テープを1.0Nの張力下において3m/秒の速さで50往復させた。AlFeSil角柱とは、センダスト系の合金であるAlFeSil製の角柱である。
上記角柱のエッジを光学顕微鏡を用いて上方から観察し、特開2007-026564号公報の段落0015に同公報
図1に基づき説明されている摩耗幅(AlFeSil摩耗幅)を求めた。求められた摩耗幅から下記評価基準により磁性層表面の摩耗性を評価した。摩耗幅の単位は、μmである。評価結果AまたはBが好ましく、Aが最も好ましい。
A:摩耗幅が15以上25未満
B:摩耗幅が25以上40以下
C:摩耗幅が15未満または40超
【0168】
<5nm突起減少率(繰り返し走行前後の磁性層の表面形状変化の評価)>
実施例および比較例の各磁気テープについて、未走行の磁気テープと上記環境での繰り返し走行後の磁気テープについて、それぞれ以下の方法により磁性層表面の高さ5nm以上の突起数を求めた。
高さ5nm以上の突起数は、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)を用いる測定により求められる。詳しくは、AFMによって得られた磁性層表面の平面画像において、測定領域中の凸成分と凹成分の体積が等しくなる面を基準面として定め、この基準面から5nm以上の高さの突起数を求める。なお、測定領域に存在する高さ5nm以上の突起の中には、一部分が測定領域内にあってその他の部分が測定領域外にある突起もあり得る。突起数を求める際には、そのような突起も含めて突起数を計測する。
AFMを用いる測定の測定領域は、磁性層表面の5μm角(5μm×5μm)の領域とする。測定は、磁性層表面の3箇所の異なる測定領域において行う(n=3)。かかる測定により得られた3つの値の算術平均として、高さ5nm以上の突起数を求める。AFMの測定条件としては、下記の測定条件を採用する。
AFM(Veeco社製Nanoscope4)をタッピングモードで用いて磁気テープの磁性層の表面の5μm角(5μm×5μm)の領域を測定する。探針としてはBRUKER社製RTESP-300を使用し、分解能は512pixel×512pixelとし、スキャン速度は1画面(512pixel×512pixel)を341秒で測定する速度とする。
以下の式により算出される突起減少率から下記評価基準により繰り返し走行前後の磁性層の表面形状変化を評価した。突起減少率の値が小さいほど、繰り返し走行前後の磁性層の表面形状変化が抑制されていると判断できる。
突起減少率(%)=[(未走行の磁気テープについて求められた突起数)-(上記繰り返し走行後の磁気テープについて求められた突起数)/(未走行の磁気テープについて求められた突起数)]×100
(評価基準)
A:突起減少率が40%以下
B:突起減少率が40%超70%未満
C:突起減少率が70%以上
【0169】
<分散性>
実施例および比較例のそれぞれについて、上記で調製した磁性層形成用組成物を一部採取し、この組成物の調製に使用した有機溶媒により質量基準で1/50に希釈した試料溶液を調製した。調製した試料溶液について、光散乱型粒度分布計(HORIBA製LB500)を用いて測定した算術平均粒子径を分散粒子径とした。以下の評価基準によって分散性を評価した。分散粒子径の値が小さいほど、磁性層形成用組成物における強磁性粉末の分散性に優れると判断できる。
(評価基準)
A:分散粒子径が25nm以下
B:分散粒子径が25nm超40nm未満
C:分散粒子径が40nm以上
【0170】
以上の評価結果を表1に示す。
【0171】
【0172】
表1に示す結果から、実施例1~13の磁気テープは、磁性層表面が適度な摩耗性を有し、繰り返し走行後にも摩擦係数が低く、かつ繰り返し走行前後での磁性層の表面形状の変化が少ないことが確認できる。
また、表1に示す分散性の評価結果について、例えば実施例1と実施例5~11とを対比すると、ポリアルキレンイミン系ポリマーAの添加量が実施例1と比べて少ない実施例5~11においても、実施例1と同様に分散性の評価結果はAであった。この結果から、フッ素系窒素含有ポリマー1~3が、ポリアルキレンイミン系ポリマーAと同様に、分散性向上に寄与したことを確認できる。