(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015638
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】電力合成器
(51)【国際特許分類】
H01P 5/12 20060101AFI20240130BHJP
H01P 5/107 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
H01P5/12 A
H01P5/107 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117838
(22)【出願日】2022-07-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 優
(57)【要約】
【課題】損失を小さく抑えること。
【解決手段】第1マイクロストリップ線路を有する第1基板と、第2マイクロストリップ線路を有する第2基板と、前記第1基板と前記第2基板との間に設けられた第3基板と、前記第1マイクロストリップ線路と前記第2マイクロストリップ線路に接続された導波路と、を備え、前記第1基板は、前記導波路内に突出し、前記第1マイクロストリップ線路が設けられた第1突起部を有し、前記第2基板は、平面視において前記第1突起部に重なって前記導波路内に突出し、前記第2マイクロストリップ線路が設けられた第2突起部を有し、前記第3基板は、平面視において前記第1突起部および前記第2突起部の前方に位置するように前記導波路内に突出し、前記第1突起部の先端と前記第2突起部の先端とに重なる位置から先端までの長さが(λ/4)±(λ/8)である凸部を有する、電力合成器。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1マイクロストリップ線路を有する第1基板と、
前記第1基板上に設けられ、第2マイクロストリップ線路を有する第2基板と、
前記第1基板と前記第2基板との間に設けられた第3基板と、
前記第1マイクロストリップ線路と前記第2マイクロストリップ線路に接続され、前記第1マイクロストリップ線路から入力される第1電力と前記第2マイクロストリップ線路から入力される第2電力とを合成して伝送する導波路と、を備え、
前記第1基板は、前記導波路内に突出し、前記第1マイクロストリップ線路が設けられた第1突起部を有し、
前記第2基板は、平面視において前記第1突起部に重なって前記導波路内に突出し、前記第2マイクロストリップ線路が設けられた第2突起部を有し、
前記第3基板は、平面視において前記第1突起部および前記第2突起部の前方に位置するように前記導波路内に突出し、前記第1突起部の先端と前記第2突起部の先端とに重なる位置から先端までの長さが前記第1マイクロストリップ線路および前記第2マイクロストリップ線路を伝搬する電磁波の波長をλとした場合に(λ/4)±(λ/8)である第1凸部を有する、電力合成器。
【請求項2】
前記第1凸部の幅は、前記第1突起部の幅および前記第2突起部の幅より大きく、かつ、λ/8以下である、請求項1に記載の電力合成器。
【請求項3】
前記第1基板に対して前記第3基板とは反対側に設けられた下部基板と、
前記第2基板に対して前記第3基板とは反対側に設けられた上部基板と、を備え、
前記導波路は、前記第1基板と前記第2基板と前記第3基板の各々に設けられた開口を前記下部基板と前記上部基板とが挟むことにより形成される、請求項1または2に記載の電力合成器。
【請求項4】
前記開口により形成された前記導波路の内部は空隙である、請求項3に記載の電力合成器。
【請求項5】
前記第1凸部は平面視にて矩形形状である、請求項1または2記載の電力合成器。
【請求項6】
前記第1突起部および前記第2突起部は平面視にて三角形状である、請求項5に記載の電力合成器。
【請求項7】
前記第2基板は、前記第2マイクロストリップ線路が前記第1マイクロストリップ線路に平面視において重なるように前記第1基板上に設けられる、請求項1または2に記載の電力合成器。
【請求項8】
前記導波路を伝送する電力が入力される第3マイクロストリップ線路が設けられ、かつ、前記導波路内に突出し、前記第3マイクロストリップ線路が設けられた第3突起部を有する第4基板と、
前記第4基板の上下の少なくとも一方に、平面視において前記第3突起部の前方に位置するように前記導波路内に突出し、前記第3突起部の先端に重なる位置から先端までの長さが(λ/4)±(λ/8)である第2凸部を有する第5基板と、を備える、請求項1または2に記載の電力合成器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力合成器に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダーシステムおよび携帯電話等の通信システムでは、高出力化のために、複数のトランジスタの出力電力を電力合成器で合成することが行われている。また、高周波帯の電磁波の伝送路として導波管が知られている。導波管を模した基板集積導波路(SIW:Substrate Integrated Waveguide)も知られている。基板集積導波路は、例えば基板の上下面に金属膜が設けられ、基板を貫通する複数のビア配線で上下面に設けられた金属膜を接続した構成をしている。基板集積導波路において、上面の金属膜に外側に向かって伸びるスタブを形成し、スタブと基板と下面の金属膜とで形成される線路の長さをλ/4(λは伝搬する電磁波の波長)とすることが知られている(例えば特許文献1)。これにより、電磁波の漏洩を抑制できる効果が得られることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電力合成器では損失を小さく抑えることが望まれている。例えば、電力合成器としてウィルキンソン型電力合成器が知られているが、ウィルキンソン型電力合成器はトーナメント状の配置構成となるために合成損失が大きくなってしまう。
【0005】
1つの側面では、損失を小さく抑えることが可能な電力合成器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの態様では、第1マイクロストリップ線路を有する第1基板と、前記第1基板上に設けられ、第2マイクロストリップ線路を有する第2基板と、前記第1基板と前記第2基板との間に設けられた第3基板と、前記第1マイクロストリップ線路と前記第2マイクロストリップ線路に接続され、前記第1マイクロストリップ線路から入力される第1電力と前記第2マイクロストリップ線路から入力される第2電力とを合成して伝送する導波路と、を備え、前記第1基板は、前記導波路内に突出し、前記第1マイクロストリップ線路が設けられた第1突起部を有し、前記第2基板は、平面視において前記第1突起部に重なって前記導波路内に突出し、前記第2マイクロストリップ線路が設けられた第2突起部を有し、前記第3基板は、平面視において前記第1突起部および前記第2突起部の前方に位置するように前記導波路内に突出し、前記第1突起部の先端と前記第2突起部の先端とに重なる位置から先端までの長さが前記第1マイクロストリップ線路および前記第2マイクロストリップ線路を伝搬する電磁波の波長をλとした場合に(λ/4)±(λ/8)である第1凸部を有する、電力合成器である。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面として、損失を小さく抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施例1に係る電力合成器の斜視図である。
【
図3】
図3は、実施例1に係る電力合成器の分解斜視図である。
【
図4】
図4(a)および
図4(b)は、線路基板の斜視図である。
【
図5】
図5(a)および
図5(b)は、他の線路基板の斜視図である。
【
図6】
図6(a)および
図6(b)は、中間基板の斜視図である。
【
図7】
図7(a)および
図7(b)は、実施例1に係る電力合成器の分解平面図である。
【
図8】
図8は、実施例1に係る電力合成器の動作を説明するための断面図である。
【
図9】
図9は、実施例1に係る電力合成器の効果を説明するための断面図である。
【
図10】
図10(a)および
図10(b)は、実施例1の変形例1に係る電力合成器の断面図である。
【
図11】
図11は、実施例1の変形例2に係る電力合成器の分解斜視図である。
【
図12】
図12は、実施例2に係る電力合成器の斜視図である。
【
図14】
図14は、実施例2に係る電力合成器の分解斜視図である。
【
図16】
図16は、実施例2に係る電力合成器の動作を説明するための断面図である。
【
図17】
図17(a)は、実施例2の変形例に係る電力合成器の断面図、
図17(b)は、実施例2の変形例に係る電力合成器の動作を説明するための断面図である。
【
図18】
図18は、実施例3に係る電力合成器の分解斜視図である。
【
図19】
図19(a)は、実施例3に係る電力合成器の断面図、
図19(b)は、実施例3に係る電力合成器の動作を説明するための断面図である。
【
図20】
図20は、実施例3の変形例に係る電力合成器の分解斜視図である。
【
図21】
図21(a)は、実施例3の変形例に係る電力合成器の断面図、
図21(b)は、実施例3の変形例に係る電力合成器の動作を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
【実施例0010】
図1は、実施例1に係る電力合成器100の斜視図である。
図2(a)は、
図1のA-A間の断面図、
図2(b)は、
図1のB-B間の断面図である。
図3は、実施例1に係る電力合成器100の分解斜視図である。電力合成器100は、例えば2つのトランジスタの出力電力を合成して伝送するものであり、レーダーシステムおよび携帯電話等の通信システム等、様々な用途に用いられる。
【0011】
図1から
図3のように、電力合成器100は、マイクロストリップ線路13aを有する線路基板10aと、マイクロストリップ線路13bを有する線路基板10bと、中間基板30と、導波路70と、を備える。ここで、マイクロストリップ線路13a、13bの幅方向をX軸方向、延伸方向をY軸方向、線路基板10a、10bおよび中間基板30の積層方向をZ軸方向とする。なお、電力合成器の上下方向を言及する場合、Z軸の正(+)の方向を上方向とし、負(-)の方向を下方向とする。
【0012】
線路基板10aは、線路基板10b上に設けられている。線路基板10aは、誘電体基板11aと、誘電体基板11aの上面に設けられたマイクロストリップ線路13aと、誘電体基板11aの下面に設けられた金属膜15aと、を備える。一方、線路基板10bは、誘電体基板11bと、誘電体基板11bの下面に設けられたマイクロストリップ線路13bと、誘電体基板11bの上面に設けられた金属膜15bと、を備える。金属膜15a、15bは、誘電体基板11a、11bのマイクロストリップ線路13a、13bとは反対側の面に設けられる接地導体膜である。
【0013】
中間基板30は、線路基板10aと線路基板10bの間に設けられている。中間基板30は、誘電体基板31と、誘電体基板31の上面に設けられた金属膜34と、誘電体基板31の下面に設けられた金属膜35と、を備える。金属膜34は、線路基板10aの金属膜15aに接している。金属膜35は、線路基板10bの金属膜15bに接している。
【0014】
ここで、線路基板10a、10bおよび中間基板30について詳しく説明する。
図4(a)および
図4(b)は、線路基板10aの斜視図である。
図4(a)は、線路基板10aを+Z側から見た斜視図であり、
図4(b)は、-Z側から見た斜視図である。
図4(a)および
図4(b)のように、線路基板10aを構成する誘電体基板11aに開口19aが形成されている。誘電体基板11aは、開口19aにおける側面のうちマイクロストリップ線路13aが設けられた側の側面に開口19aに突き出た突起部18aを有する。突起部18aは、例えば平面視にて三角形状をしている。
【0015】
図4(a)のように、誘電体基板11aの上面に設けられたマイクロストリップ線路13aは、辺20aから開口19aにかけて延在している。マイクロストリップ線路13aは、突起部18aにも設けられている。マイクロストリップ線路13aは、例えば辺20aと、開口19aから所定距離だけ離れた位置と、の間では幅が一定である。そこから開口19aに向かって幅がテーパ状に広がり、開口19a近傍では更に幅が広がっている。
【0016】
線路基板10aの上面には、辺20aに交差する辺20b、20cと開口19aとの間に金属膜14aが設けられている。誘電体基板11aは、開口19aにおける側面のうちマイクロストリップ線路13aが設けられた側の側面に突起部18aを挟んで2つの切り欠き17aを有する。切り欠き17aによって、マイクロストリップ線路13aと金属膜14aとは分離している。
【0017】
図4(b)のように、誘電体基板11aの下面に金属膜15aが設けられている。金属膜15aは、突起部18aにも設けられている。
【0018】
図4(a)および
図4(b)のように、誘電体基板11aの開口19aにおける側面に、金属膜14aと金属膜15aとを接続する金属膜16aが設けられている。誘電体基板11aの開口19aにおける側面のうち2つの切り欠き17aの間の側面には金属膜16aは設けられてなく、突起部18aの側面には金属膜16aは設けられていない。したがって、金属膜16aはマイクロストリップ線路13aには接していない。
【0019】
図5(a)および
図5(b)は、線路基板10bの斜視図である。
図5(a)は、線路基板10bを+Z側から見た斜視図であり、
図5(b)は、-Z側から見た斜視図である。線路基板10bは、線路基板10aを表裏反転した態様となっている。
図5(a)および
図5(b)のように、線路基板10bを構成する誘電体基板11bに開口19bが形成されている。誘電体基板11bは、開口19bにおける側面のうちマイクロストリップ線路13bが設けられた側の側面に開口19bに突き出た突起部18bを有する。突起部18bは、例えば平面視にて三角形状をしている。
【0020】
図5(a)のように、誘電体基板11bの上面に金属膜15bが設けられている。金属膜15bは、突起部18bにも設けられている。
【0021】
図5(b)のように、誘電体基板11bの下面に設けられたマイクロストリップ線路13bは、辺21aから開口19bにかけて延在している。マイクロストリップ線路13bは、突起部18bにも設けられている。マイクロストリップ線路13bは、例えば辺21aと、開口19bから所定距離だけ離れた位置と、の間では幅が一定である。そこから開口19bに向かって幅がテーパ状に広がり、開口19b近傍では更に幅が広がっている。また、誘電体基板11bの下面には、辺21aに交差する辺21b、21cと開口19bとの間に金属膜14bが設けられている。誘電体基板11bは、開口19bにおける側面のうちマイクロストリップ線路13bが設けられた側の側面に突起部18bを挟んで2つの切り欠き17bを有する。切り欠き17bによって、マイクロストリップ線路13bと金属膜14bとは分離している。
【0022】
図5(a)および
図5(b)のように、誘電体基板11bの開口19bにおける側面に、金属膜14bと金属膜15bとを接続する金属膜16bが設けられている。誘電体基板11bの開口19bにおける側面のうち2つの切り欠き17bの間の側面には金属膜16bは設けられてなく、突起部18bの側面には金属膜16bは設けられていない。したがって、金属膜16bはマイクロストリップ線路13bには接していない。
【0023】
図6(a)および
図6(b)は、中間基板30の斜視図である。
図6(a)は、中間基板30を+Z側から見た斜視図であり、
図6(b)は、-Z側から見た斜視図である。
図6(a)および
図6(b)のように、中間基板30を構成する誘電体基板31に開口39が形成されている。また、誘電体基板31は、開口39における側面に開口39に突き出た凸部38を有する。凸部38は、底部41が線路基板10a、10bの突起部18a、18bの先端に重なって位置し、底部41から先端42にかけて(λ/4)±(λ/8)の長さで伸びている。λはマイクロストリップ線路13a、13bを伝搬する電磁波の波長である。凸部38は、例えば平面視にて矩形形状をしている。
【0024】
図6(a)のように、誘電体基板31の上面に金属膜34が設けられている。金属膜34は凸部38にも設けられている。
図6(b)のように、誘電体基板31の下面に金属膜35が設けられている。金属膜35は凸部38にも設けられている。
【0025】
図6(a)および
図6(b)のように、誘電体基板31の開口39における側面に、金属膜34と金属膜35とを接続する金属膜36が設けられている。金属膜36は、誘電体基板31の凸部38が設けられた側面にも設けられていて、凸部38の側面にも設けられている。
【0026】
図1から
図3のように、線路基板10bと中間基板30と線路基板10aとが+Z方向にこの順に積層されている。線路基板10aの開口19aと中間基板30の開口39と線路基板10bの開口19bとを挟むように、線路基板10a上に上部基板50が設けられ、線路基板10b下に下部基板60が設けられている。これにより、開口19aと開口39と開口19bとからなる中空71が形成されている。
【0027】
線路基板10aと線路基板10bは、マイクロストリップ線路13aとマイクロストリップ線路13bとがZ軸方向において重なるように積層されている。マイクロストリップ線路13aとマイクロストリップ線路13bが重なるとは、平面視にて各々の面積の50%以上が重なる場合であり、80%以上が重なる場合が好ましく、90%以上重なる場合がより好ましく、95%以上重なる場合が更に好ましい。
【0028】
上部基板50は、誘電体基板51と、誘電体基板51の上面に設けられた金属膜52と、誘電体基板51の下面に設けられた金属膜54と、を備える。金属膜54は、線路基板10aのマイクロストリップ線路13aおよび金属膜14aに接している。なお、金属膜52は設けられていない場合でもよい。
【0029】
下部基板60は、誘電体基板61と、誘電体基板61の上面に設けられた金属膜62と、誘電体基板61の下面に設けられた金属膜64と、を備える。金属膜62は、線路基板10bのマイクロストリップ線路13bおよび金属膜14bに接している。なお、金属膜64は設けられていない場合でもよい。
【0030】
中空71の天井面は、上部基板50の下面で形成され、金属膜54が設けられている。中空71の底面は、下部基板60の上面で形成され、金属膜62が設けられている。中空71の側面は、線路基板10aの開口19aにおける側面と中間基板30の開口39における側面と線路基板10bの開口19bにおける側面とで形成されている。それぞれの側面には金属膜16a、金属膜36、金属膜16bが設けられていることから、中空71の側面には金属膜16aと金属膜36と金属膜16bとにより形成される金属膜72が設けられている。このため、中空71は、電磁波が伝搬する中空の導波路70として機能する。
【0031】
図7(a)および
図7(b)は、実施例1に係る電力合成器100の分解平面図である。
図7(a)は、電力合成器100を+Z側から見たときの分解平面図、
図7(b)は、-Z側から見たときの分解平面図である。
図7(a)および
図7(b)のように、線路基板10aの突起部18aと線路基板10bの突起部18bとは、平面視において同じ形状および大きさであり、Z軸方向において重なっている。ここで、突起部18aと突起部18bが重なるとは、平面視において各々の面積の90%以上が重なる場合であり、95%以上が重なる場合が好ましく、100%重なる場合がより好ましい。突起部18aの先端22aと突起部18bの先端22bとはZ軸方向において少なくとも一部、好ましくは全体が重なっている。マイクロストリップ線路13aを伝搬した電磁波は突起部18aの先端22aから導波路70に放射され、マイクロストリップ線路13bを伝搬した電磁波は突起部18bの先端22bから導波路70に放射される(
図2(a)も参照)。突起部18a、18bは、マイクロストリップ線路13a、13bと導波路70との間で電磁波の伝搬モードを滑らかに変換する機能を有する。また、マイクロストリップ線路13a、13bの幅が開口19a、19bの近傍で広くなることによっても、マイクロストリップ線路13a、13bと導波路70との間の電磁波の変換が低損失で行われる。突起部18a、18bの長さL1は例えば0.3λ以上0.4λ以下であり、幅W1は例えば0.15λ以上0.25λ以下である。
【0032】
中間基板30の凸部38は、線路基板10a、10bの突起部18a、18bの先端22a、22bと重なる位置を起点として開口39に突き出ている。すなわち、凸部38は、底部41が突起部18a、18bの先端22a、22bとZ軸方向において重なり、平面視において突起部18a、18bの前方に位置している。凸部38の底部41から先端42までの長さL2は、(λ/4)±(λ/8)である。凸部38の幅W2は、突起部18a、18bの幅W1より大きく、かつ、λ/8以下である。凸部38は、例えば突起部18a、18bの先端22a、22bを通ってY軸方向に伸びる線に対して線対称の形状をしている。
【0033】
誘電体基板11a、11b、31、51、61は、例えば樹脂材料(フッ素系樹脂材料等)で形成されている。マイクロストリップ線路13a、13b、金属膜14a、14b、金属膜15a、15b、金属膜16a、16b、金属膜34、金属膜35、金属膜36、金属膜52、金属膜54、金属膜62、および金属膜64は、例えば銅等の金属で形成されている。なお、中間基板30、上部基板50、および下部基板60は金属基板である場合でもよい。
【0034】
実施例1に係る電力合成器100の動作について説明する。
図8は、実施例1に係る電力合成器100の動作を説明するための断面図である。
図8において、矢印はマイクロストリップ線路13a、13bを伝搬する電磁波による電界を示している。
図8のように、マイクロストリップ線路13a、13bには、トランジスタ95a、95bから逆位相の高周波信号が入力される。例えば、マイクロストリップ線路13aには初期位相が0°の高周波信号が入力され、マイクロストリップ線路13bには初期位相が180°の高周波信号が入力される。
【0035】
マイクロストリップ線路13a、13bを電磁波が伝搬するときに電界が発生する。マイクロストリップ線路13aは誘電体基板11aの上面に設けられ、マイクロストリップ線路13bは誘電体基板11bの下面に設けられている。このため、マイクロストリップ線路13a、13bに逆位相の高周波信号が入力されると、マイクロストリップ線路13a、13bを伝搬する電磁波の電界の向きがほぼ揃うようになる。マイクロストリップ線路13aを伝搬する電磁波は、突起部18aにより伝搬モードが変換され、突起部18aの先端22aから導波路70に放射される。マイクロストリップ線路13bを伝搬する電磁波は、突起部18bにより伝搬モードが変換され、突起部18bの先端22bから導波路70に放射される。したがって、マイクロストリップ線路13a、13bから導波路70に入力される高周波電力は、導波路70において電界の向きがほぼ揃った状態で合成される。このため、損失を抑えながら電力を合成することができる。
【0036】
図9は、実施例1に係る電力合成器100の効果を説明するための断面図である。
図9のように、マイクロストリップ線路13aを伝搬する電磁波は突起部18aの先端22aから導波路70に放射されるが、そのときに電磁波の一部は突起部18aの先端22aにおいて反射する。マイクロストリップ線路13bを伝搬する電磁波においても同様である。
図9では、突起部18a、18bの先端22a、22bで反射する電磁波を矢印73で表している。
【0037】
中間基板30には凸部38が設けられている。このため、突起部18aの先端22aから導波路70に放射される電磁波は、凸部38がある領域と凸部38より先の凸部38がない領域との間の不連続性により、凸部38の先端42が位置するB点においても反射する。突起部18bの先端22bから導波路70に放射される電磁波においても同様である。
図9では、B点にて反射する電磁波を矢印74で表している。
【0038】
凸部38の底部41から先端42までの長さは、上述したように(λ/4)±(λ/8)である。すなわち、
図9において、突起部18a、18bの先端22a、22bが位置するA点と、凸部38の先端42が位置するB点と、の間の距離は(λ/4)±(λ/8)である。このため、突起部18a、18bの先端22a、22bが位置するA点で反射する電磁波は、凸部38の先端42が位置するB点で反射してA点に戻ってくる電磁波で打ち消されて低減される。このため、通過損失を小さく抑えることができる。
【0039】
[実施例1の変形例]
図10(a)および
図10(b)は、実施例1の変形例1に係る電力合成器110の断面図である。
図10(a)および
図10(b)のように、電力合成器110では、導波路70内に誘電体75が充填されている。誘電体75は、例えばフッ素系樹脂等の樹脂膜である。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。このように、導波路70内に誘電体75が充填されていてもよい。
【0040】
図11は、実施例1の変形例2に係る電力合成器120の分解斜視図である。
図11のように、電力合成器120では、開口19a、開口39、および開口19bの側面に金属膜が設けられてなく、代わりに、誘電体基板11a、誘電体基板31、および誘電体基板11bに複数のビア配線5、6、7が設けられている。線路基板10aは、複数のビア配線5によって金属膜14aと金属膜15aが電気的に接続されている。中間基板30は、複数のビア配線6によって金属膜34と金属膜35が電気的に接続されている。線路基板10bは、複数のビア配線7によって金属膜15bと金属膜14bが電気的に接続されている。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。このように、誘電体基板11a、誘電体基板31、および誘電体基板11bに複数のビア配線5、6、7が設けられる場合でもよい。
【0041】
以上のように、実施例1およびその変形例によれば、線路基板10b(第1基板)上に線路基板10a(第2基板)が設けられ、線路基板10aと線路基板10bの間に中間基板30(第3基板)が設けられている。線路基板10bは、導波路70内に突出し、マイクロストリップ線路13b(第1マイクロストリップ線路)が設けられた突起部18b(第1突起部)を有する。線路基板10aは、平面視において突起部18bに重なって導波路70内に突出し、マイクロストリップ線路13a(第2マイクロストリップ線路)が設けられた突起部18a(第2突起部)を有する。中間基板30は、平面視において突起部18a、18bの前方に位置するように導波路70内に突出し、突起部18a、18bの先端22a、22bに重なる位置から先端42までの長さL2(
図7(a)参照)が(λ/4)±(λ/8)の凸部38(第1凸部)を有する。λはマイクロストリップ線路13a、13bを伝搬する電磁波の波長である。これにより、
図9に示したように、突起部18a、18bの先端22a、22bで反射する電磁波は、凸部38の先端42が位置する箇所で反射して戻ってくる電磁波で打ち消されて低減される。よって、通過損失を小さく抑えることができる。
【0042】
突起部18a、18bの先端22a、22bで反射する電磁波を低減させる点から、凸部38の長さL2は(λ/4)±(λ/16)の場合が好ましく、(λ/4)±(λ/32)の場合がより好ましく、λ/4の場合が更に好ましい。
【0043】
また、実施例1およびその変形例では、凸部38の幅W2(
図7(a)参照)は、突起部18a、18bの幅W1(
図7(a)参照)より大きく、かつ、λ/8以下である。これにより、突起部18a、18bの先端22a、22bで反射する電磁波を、凸部38の先端42が位置する箇所で反射して戻ってくる電磁波で効果的に打ち消して低減することができる。突起部18a、18bの先端22a、22bで反射する電磁波を低減させる点から、凸部38の幅W2は、突起部18a、18bの幅W1の1.2倍以上が好ましく、1.5倍以上がより好ましい。凸部38の幅W2は、λ/10以下が好ましく、λ/14以下がより好ましい。
【0044】
また、実施例1およびその変形例では、線路基板10aの開口19aと中間基板30の開口39と線路基板10bの開口19bとが、上部基板50と下部基板60とで挟まれることで導波路70が形成される。これにより、電力合成器100の幅方向(X軸方向)の大きさは、導波路70の幅程度とすることができ、電力合成器100を小型化することができる。また、電磁波が伝搬する導波路70の長さを短くできるため、通過損失を小さく抑えることができる。
【0045】
また、実施例1では、
図2(a)および
図2(b)のように、線路基板10aの開口19aと中間基板30の開口39と線路基板10bの開口19bとにより形成された導波路70の内部は空隙となっている。これにより、導波路70の内部に誘電体が充填されている場合に比べて、通過損失を低減することができる。
【0046】
また、実施例1の変形例1では、
図10(a)および
図10(b)のように、線路基板10aの開口19aと中間基板30の開口39と線路基板10bの開口19bとにより形成された導波路70の内部に誘電体75が充填されている。これにより、導波路70内に予期しない異物が入り込むことを抑制できる。
【0047】
また、実施例1およびその変形例では、中間基板30に設けられた凸部38は平面視にて矩形形状をしている。これにより、凸部38の先端42が位置するB点(
図9参照)で電磁波が反射され易くなる。よって、突起部18a、18bの先端22a、22bで反射する電磁波が、凸部38の先端42が位置する箇所で反射して戻ってくる電磁波で打ち消され易くなる。なお、凸部38は、平面視において例えば台形形状等の他の形状をしている場合でもよい。
【0048】
また、実施例1およびその変形例では、線路基板10a、10bに設けられた突起部18a、18bは平面視にて三角形状である。これにより、マイクロストリップ線路13a、13bと導波路70との間で電磁波の伝搬モードが滑らかに変換されるようになり、通過損失を小さく抑えることができる。三角形状とは、三角の頂点が平面である場合や曲面である場合も許容する。なお、突起部18a、18bは平面視にて例えば矩形形状等の他の形状をしている場合でもよい。
【0049】
また、実施例1およびその変形例では、線路基板10aは、マイクロストリップ線路13aが線路基板10bのマイクロストリップ線路13bに平面視において重なるように線路基板10b上に設けられている。これにより、マイクロストリップ線路13aを伝送する高周波電力とマイクロストリップ線路13bを伝送する高周波電力とが、導波路70においてZ軸方向で重なって合成されるため、損失の低下を抑えて電力を合成できる。
【0050】
また、実施例1およびその変形例によれば、マイクロストリップ線路13aは線路基板10aの中間基板30とは反対側の面に設けられ、マイクロストリップ線路13bは線路基板10bの中間基板30とは反対側の面に設けられる。これにより、マイクロストリップ線路13aとマイクロストリップ線路13bに逆位相の高周波信号が入力される場合に、導波路70において電界の向きがほぼ揃った状態でそれぞれの高周波電力が合成される。
線路基板10cと線路基板10dの間の中間基板30に設けられた金属膜34は線路基板10cの金属膜15cに接し、金属膜35は線路基板10dの金属膜15dに接している。線路基板10c、10dの間の中間基板30に設けられた凸部38は、底部41が線路基板10c、10dの突起部18c、18dの先端22c、22dに重なって位置し、底部41から先端42にかけて(λ/4)±(λ/8)の長さで伸びている。λはマイクロストリップ線路13a~13dを伝搬する電磁波の波長である。
中空71aの天井面は、上部基板50の下面で形成され、金属膜54が設けられている。中空71aの底面は、下部基板60の上面で形成され、金属膜62が設けられている。中空71aの側面は、線路基板10a~10dの開口19a~19dにおける側面と中間基板30の開口39における側面と中間基板80の開口89における側面とで形成されている。それぞれの側面には金属膜16a~16d、金属膜36、金属膜86が設けられていることから、中空71aの側面は金属膜16a~16dと金属膜36と金属膜86とにより形成される金属膜72aが設けられている。このため、中空71aは、電磁波が伝搬する中空の導波路70aとして機能する。
線路基板10a~10dは、それぞれのマイクロストリップ線路13a~13dがZ軸方向において重なるように積層されている。また、線路基板10a~10dに設けられた突起部18a~18dは、平面視において同じ形状および大きさであり、Z軸方向において重なっている。突起部18a~18dの先端22a~22dはZ軸方向において重なっている。マイクロストリップ線路13a~13dを伝搬した電磁波は突起部18a~18dの先端22a~222dから導波路70aに放射される。
マイクロストリップ線路13aは誘電体基板11aの上面に設けられ、マイクロストリップ線路13cは誘電体基板11cの上面に設けられている。一方、マイクロストリップ線路13bは誘電体基板11bの下面に設けられ、マイクロストリップ線路13dは誘電体基板11dの下面に設けられている。このため、マイクロストリップ線路13a、13cに同位相の高周波信号が入力され、マイクロストリップ線路13b、13dにマイクロストリップ線路13a、13cと逆位相の高周波信号が入力されると、マイクロストリップ線路13a~13dを伝搬する電磁波の電界の向きがほぼ揃うようになる。
マイクロストリップ線路13a~13dを伝搬する電磁波は、突起部18a~18dにより伝搬モードが変換され、突起部18a~18dの先端22a~22dから導波路70aに放射される。マイクロストリップ線路13a~13dから導波路70aに入力される高周波電力は、導波路70aにおいて電界の向きがほぼ揃った状態で合成される。このため、損失を抑えながら電力を合成することができる。
実施例1およびその変形例では、2つのマイクロストリップ線路13a、13bから入力される高周波電力が合成される場合を例に示したが、この場合に限られない。実施例2およびその変形例のように、4つのマイクロストリップ線路13a~13dまたは4つのマイクロストリップ線路13e~13hから入力される高周波電力が合成される場合でもよい。また、図示は省略するが、2つまたは4つ以外の複数のマイクロストリップ線路から入力される高周波電力が合成される場合でもよい。