(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156395
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】チェーンスプロケットおよびチェーン伝動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 55/30 20060101AFI20241029BHJP
F16H 7/06 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
F16H55/30 A
F16H7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070819
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 悠太
【テーマコード(参考)】
3J030
3J049
【Fターム(参考)】
3J030BA07
3J030BB06
3J030BB17
3J030BC02
3J030BD01
3J049AA08
3J049BB02
3J049BF01
3J049CA01
(57)【要約】
【課題】チェーンガイドにおけるチェーンプレートとの摺接による局所摩耗を抑制することが可能なチェーンスプロケットおよびチェーン伝動装置の提供にある。
【解決手段】回転軸に取り付けられるスプロケット本体41と、スプロケット本体41の外周に周方向に形成され、無端チェーンを懸装可能とする複数の歯43と、を備えるチェーンスプロケットであって、複数の歯43は、回転軸の軸心Pと直交する直交面に対して傾斜する歯列47を形成した。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に取り付けられるスプロケット本体と、
前記スプロケット本体の外周に周方向に形成され、無端チェーンを懸装可能とする複数の歯と、を備えるチェーンスプロケットであって、
前記複数の歯は、前記回転軸の軸心と直交する直交面に対して傾斜する歯列を形成することを特徴とするチェーンスプロケット。
【請求項2】
前記スプロケット本体は、前記回転軸が挿通される前記回転軸と同軸状の軸孔を有し、
前記複数の歯は、前記回転軸の軸方向において互い異なる位置に形成されている歯を含むことを特徴とする請求項1記載のチェーンスプロケット。
【請求項3】
前記スプロケット本体は、前記回転軸が挿通される軸孔を有し、
前記軸孔は、前記歯列が前記直交面に対して傾斜するように形成されていることを特徴とする請求項1記載のチェーンスプロケット。
【請求項4】
前記複数の歯において前記回転軸の軸方向において最も離間する歯の離間距離は、前記無端チェーンが備えるチェーンプレートの板厚の半分以上に相当することを特徴とする請求項1又は2記載のチェーンスプロケット。
【請求項5】
請求項1又は2記載のチェーンスプロケットを含む複数のチェーンスプロケットと、
前記複数のチェーンスプロケットに巻きかけられる無端チェーンと、
前記無端チェーンを案内する複数のチェーンガイドと、を有することを特徴とするチェーン伝動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チェーンスプロケットおよびチェーン伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
チェーンスプロケットおよびチェーン伝動装置の従来技術として、例えば、特許文献1に開示されたチェーン伝動システムが知られている。特許文献1に開示されたチェーン伝動システムは、チェーンが掛け回される複数のスプロケットと、チェーンを案内する1つ以上のガイドとを備えている。複数のガイドが、チェーン走行面を有した案内シューを一体又は別体に備えており、チェーン走行面の一部が、固体潤滑剤を保持した潤滑領域を有している。特許文献1に開示されたチェーン伝動システムは、チェーンと案内シューとの摺動抵抗を低下させるとともに、経時的な摺動抵抗の増加を抑制し、かつ、製造コストを低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されたチェーン伝動システムでは、チェーンを案内するガイドに対してチェーンプレートが同じ位置を通過する。このため、チェーンガイドの走行面にチェーンプレートとの摺接による溝ができやすいという問題がある。チェーンガイドのチェーン走行面にチェーンプレートとの摺接による溝が深くなると、チェーンのローラがチェーン走行面と接触して異音を発生するほか、チェーンガイドが破損するおそれがある。
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、チェーンガイドにおけるチェーンプレートとの摺接による局所摩耗を抑制することが可能なチェーンスプロケットおよびチェーン伝動装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、回転軸に取り付けられるスプロケット本体と、前記スプロケット本体の外周に周方向に形成され、無端チェーンを懸装可能とする複数の歯を備えるチェーンスプロケットであって、前記複数の歯は、前記回転軸の軸心と直交する直交面に対して傾斜する歯列を形成することを特徴とする。
【0007】
本発明では、複数の歯が回転軸の軸方向と直交する直交面に対して傾斜する歯列を形成するので、無端チェーンが懸装されたチェーンスプロケットが回転すると、無端チェーンが回転軸の軸方向へ変位する。このため、チェーンが回転軸の軸方向へ変位し、チェーンガイドと無端チェーンとの摺接によるチェーンプレートの局所的な摩耗を抑制することができる。
【0008】
また、上記のチェーンスプロケットにおいて、前記スプロケット本体は、前記回転軸が挿通される前記回転軸と同軸状の軸孔を有し、前記複数の歯は、前記回転軸の軸方向において互い異なる位置に形成されている歯を含む構成としてもよい。
この場合、歯の位置を互いに異なる位置に形成することで、チェーンスプロケットの回転時にチェーンスプロケットに懸装される無端チェーンを回転軸の軸方向へ変位させることができる。
【0009】
また、上記のチェーンスプロケットにおいて、前記スプロケット本体は、前記回転軸が挿通される軸孔を有し、前記軸孔は、前記歯列が前記直交面に対して傾斜するように形成されている構成としてもよい。
この場合、チェーンスプロケットの軸孔は、歯列が回転軸の軸方向と直交する直交面に対して傾斜するように形成されている。したがって、スプロケット本体において歯の位置を互いに異なる位置に形成することなく、チェーンスプロケットの回転時にチェーンスプロケットに懸装されるチェーンを回転軸の軸方向へ変位させることができる。
【0010】
また、上記のチェーンスプロケットにおいて、前記複数の歯において前記回転軸の軸方向において最も離間する歯の離間距離は、前記無端チェーンが備えるチェーンプレートの板厚の半分以上に相当する構成としてもよい。
この場合、複数の歯において回転軸の軸方向において最も離間する歯の離間距離は、無端チェーンが備えるチェーンプレートの板厚の半分以上に相当する。このため、チェーンガイドと無端チェーンとの摺接によるチェーンプレートの局所的な摩耗をより確実に抑制することができる。
【0011】
また、本発明は、上記のチェーンスプロケットを含む複数のチェーンスプロケットと、前記複数のチェーンスプロケットに巻きかけられる無端チェーンと、前記無端チェーンを案内する複数のチェーンガイドを有することを特徴とするチェーン伝動装置である。
本発明のチェーン伝動装置では、無端チェーンが懸装されたチェーンスプロケットが回転すると、チェーンが回転軸の軸方向へ変位する。このため、チェーンプレートにおいても無端チェーンが回転軸の軸方向へ変位し、チェーンガイドとチェーンとの摺接によるチェーンプレートの局所的な摩耗を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、チェーンガイドにおけるチェーンプレートとの摺接による局所摩耗を抑制することが可能なチェーンスプロケットおよびチェーン伝動装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1の実施形態に係るチェーン伝動装置の概略構成を示す正面図である。
【
図2】チェーン伝動装置が有する無端チェーンの分解斜視図である。
【
図3】(a)は
図1におけるA-A線矢視図であり、(b)は
図1におけるB-B線矢視図である。
【
図4】(a)はチェーン伝動装置が有するクランクスプロケットの正面図であり、(b)は同クランクスプロケットの側面図である。
【
図5】(a)は進角する前のクランクスプロケットの側面図であり、(b)は180°進角したクランクスプロケットの側面図である。
【
図6】(a)はクランクスプロケットが進角する前の固定チェーンガイドの説明図であり、(b)はクランクスプロケットが90°進角したときの固定チェーンガイドの説明図であり、(c)はクランクスプロケットが180°進角したときの固定チェーンガイドの説明図である。
【
図7】(a)は第2の実施形態に係るチェーン伝動装置が有するクランクスプロケットの正面図であり、(b)は同クランクスプロケットの側面図である。
【
図8】(a)はクランクスプロケットが進角する前の固定チェーンガイドの説明図であり、(b)はクランクスプロケットが180°進角したときの固定チェーンガイドの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施形態)
以下、第1の実施形態に係るチェーンスプロケットおよびチェーン伝動装置について図面を参照して説明する。本実施形態のチェーン伝動装置は、内燃機関であるディーゼルエンジンにおけるクランクシャフトに設けたクランクスプロケットとバランスシャフトに設けたバランススプロケットに懸装された無端チェーンの張力を調整するチェーン張力調整装置に適用した例である。
【0015】
まず、チェーン伝動装置について説明する。車両などに搭載される内燃機関としてのディーゼルエンジンでは、
図1に示すように、回転軸としてのクランクシャフト10とバランスシャフト11が備えられている。クランクシャフト10には、チェーンスプロケットとしてのクランクスプロケット12が備えられ、バランスシャフト11にはバランススプロケット13が備えられている。クランクスプロケット12とバランススプロケット13とには無端状のチェーンである無端チェーン14が掛装されている。ディーゼルエンジンが運転されるとクランクシャフト10が回転するため、無端チェーン14を介して回転力がバランススプロケット13に伝達され、バランスシャフト11が回転する。
【0016】
図2に示すように、無端チェーン14は、外プレート15と、内プレート16と、ピン17と、ブッシュ18と、ローラ19と、を備える公知のローラチェーンである。外プレート15および内プレート16は、チェーンプレートに相当する。2枚の外プレート15に2本のピン17が圧入により結合されている。2枚の内プレート16に2個のブッシュ18が圧入して結合されている。ブッシュ18には、ローラ19がブッシュ18の周囲を自由に回転できるように遊嵌されている。
【0017】
無端チェーン14の傍らには固定チェーンガイド20が設置されている。固定チェーンガイド20は、チェーン伝動装置の駆動時に無端チェーン14を案内する樹脂製の部材であり、クランクスプロケット12からバランススプロケット13へ向かう無端チェーン14をガイドする。固定チェーンガイド20は、エンジン本体(図示せず)に固定される固定式のチェーンガイドである。
図3(a)に示すように、固定チェーンガイド20は、ガイド本体部21と、ガイド本体部21に形成され、無端チェーン14を案内するガイド面22と、ガイド面22の幅方向の端部から無端チェーン14側へ立ち上がるガイド壁部23とを有している。ガイド面22は無端チェーン14の外プレート15および内プレート16と摺接する面である。ガイド壁部23は、無端チェーン14の固定チェーンガイド20からの逸脱を防止する。
【0018】
本実施形態のチェーン伝達装置では、固定チェーンガイド20のほか、可動式の可動チェーンガイド30が備えられている。可動チェーンガイド30は、チェーン伝動装置の駆動時に無端チェーン14を案内する部材であり、バランススプロケット13からクランクスプロケット12へ向かう無端チェーン14をガイドする。可動チェーンガイド30は、
図3(b)に示すように、ガイド本体部31と、ガイド本体部31に形成され、無端チェーン14を案内するガイド面32と、ガイド面32の幅方向の端部から無端チェーン14側へ立ち上がるガイド壁部33とを有している。ガイド面32は無端チェーン14の外プレート15および内プレート16と摺接する面である。ガイド壁部33は、無端チェーン14の可動チェーンガイド30からの逸脱を防止する。
【0019】
可動チェーンガイド30は、軸部材34により軸支されている。したがって、可動チェーンガイド30は、軸部材34を中心に回動可能である。可動チェーンガイド30の背面には、テンショナ35が備えられている。テンショナ35は、可動チェーンガイド30を常に無端チェーン14に押し付けるように可動チェーンガイド30に付勢力を付与する。テンショナ35によって可動チェーンガイド30が無端チェーン14を押し付けることで、無端チェーン14にはチェーン伝動装置の駆動時に適切な張力が発生する。
【0020】
ここで、クランクスプロケット12について説明する。本実施形態のクランクスプロケット12は、
図4(a)に示すように、円板状のスプロケット本体41と、ボス42と、複数の歯43、とを有している。クランクスプロケット12は、熱間鍛造あるいは冷間鍛造(圧造)により形成されている。スプロケット本体41、ボス42および複数の歯43は一体形成されている。スプロケット本体41からボス42へ貫通する軸孔44が備えられている。軸孔44にはクランクシャフト10が挿通されている。軸孔44を形成する内壁にはキー溝45が形成されている。クランクスプロケット12がクランクシャフト10に対して回転しないようにキー46がキー溝45に挿入されている(
図1を参照)。軸孔44の軸心Qは、クランクシャフト10の軸心Pと略平行であり、同軸状である。
【0021】
スプロケット本体41の外周には周方向にわたって複数の歯43が等間隔で配設されている。複数の歯43は周方向に歯列47を形成する。
図4(b)に示すように、複数の歯43は、周方向へ向かうにつれて歯43の幅方向の中心が軸心P方向の一側から他側へ位置ずれするように配設されている。このため、歯43の幅方向の中心の位置がスプロケット本体41に対して徐変するように歯列47が形成される。
【0022】
図4(b)に示すように、歯43の先端における軸心P方向の中心を結ぶ線を仮想線Xとすると、仮想線Xはクランクシャフト10の軸心Pと直交する直交面に対して傾斜する線である。このように、複数の歯43は、クランクシャフト10の軸心Pと直交する直交面に対して傾斜する歯列47を形成する。軸心Pと直交面に対する歯列47の傾斜角度は、クランクスプロケット12と無端チェーン14との噛み合いが可能な範囲であればよく、好ましくはクランクスプロケット12と無端チェーン14との噛み合い時に異音が生じない範囲とすればよい。
【0023】
複数の歯43においてクランクシャフト10の軸方向において互いに最も離間する歯43の離間距離Dは、少なくとも、無端チェーン14が備えるチェーンプレート(外プレート15又は内プレート16)の板厚の半分以上に相当する。なお、
図4(b)では、説明の便宜上、離間距離Dを誇張して示す。離間距離Dは、無端チェーン14の噛み合いが可能な範囲で設定されるが、クランクスプロケット12の直径や歯43の数といった諸条件に応じて適宜設定される。
【0024】
次に、本実施形態のクランクスプロケット12およびチェーン伝達装置の作用について説明する。クランクシャフト10の回転によりクランクスプロケット12は回転し、懸装された無端チェーン14をバランススプロケット13へ向けて送り出す。無端チェーン14がバランススプロケット13と噛み合い、クランクスプロケット12へ向けて送り出されることによりバランススプロケット13は回転される。バランススプロケット13の回転によりバランスシャフト11が回転する。
【0025】
ところで、歯43の幅方向の中心の位置がスプロケット本体41に対して徐変するように歯列47が形成されているので、クランクスプロケット12が回転することにより、無端チェーン14はクランクシャフト10の軸心P方向へ移動する。例えば、
図5(a)に示す状態のクランクスプロケット12が180°進角するように一方へ向けて回転すると、軸心P方向において最も一側(右)に位置する歯43は、
図5(b)に示すように、軸心P方向において最も一側(左)に位置する。なお、
図5(a)、
図5(b)では、説明の便宜上、軸心P方向への無端チェーン14の移動を誇張して示す。無端チェーン14は、歯43の軸心P方向への移動に伴い、軸心P方向へ移動する。
【0026】
固定チェーンガイド20における無端チェーン14は、
図6(a)~
図6(c)に示すように、固定チェーンガイド20の幅方向に往復移動する。往復移動の方向は、軸心P(軸心Q)方向と平行な方向である。
図6(a)の無端チェーン14は、
図5(a)に示すように歯43が軸心P方向において最も一側(右)に位置する状態に対応する。
図6(b)の無端チェーン14は、
図5(a)に示す軸心P方向において最も一側(右)に位置する状態の歯43が90°進角した状態に対応する。
図6(c)の無端チェーン14は、
図5(a)に示す軸心P方向において最も一側(右)に位置する状態の歯43が180°進角した状態に対応する。
【0027】
本実施形態のクランクスプロケット12およびチェーン伝動装置は以下の効果を奏する。
(1)複数の歯43がクランクシャフト10の軸心Pと直交する直交面に対して傾斜する歯列47を形成するので、無端チェーン14が懸装されたクランクスプロケット12が回転すると、無端チェーン14がクランクシャフト10の軸心P方向へ変位する。このため、無端チェーン14がクランクシャフト10の軸心P方向へ変位し、固定チェーンガイド20と無端チェーン14との摺接によるチェーンプレート(外プレート15、内プレート16)の局所的な摩耗を抑制することができる。
【0028】
(2)スプロケット本体41は、クランクシャフト10が挿通されるクランクシャフト10と同軸状の軸孔44を有し、複数の歯43は、クランクシャフト10の軸心P方向において互い異なる位置に形成されている歯43を含む。このため、歯43の位置を互いに異なる位置に形成することで、クランクスプロケット12の回転時にクランクスプロケット12に懸装される無端チェーン14をクランクシャフト10の軸心P方向へ変位させることができる。
【0029】
(3)複数の歯43においてクランクシャフト10の軸心P方向において互いに最も離間する歯43の離間距離Dは、無端チェーン14が備えるチェーンプレートの板厚の半分以上に相当する。このため、固定チェーンガイド20と無端チェーン14との摺接によるチェーンプレートの局所的な摩耗をより確実に抑制することができる。
【0030】
(4)チェーン伝動装置は、クランクスプロケット12とバランススプロケット13と、クランクスプロケット12とバランススプロケット13に巻き掛けられる無端チェーン14と、無端チェーン14を案内する固定チェーンガイド20と、を有する。チェーン伝動装置では、無端チェーン14が懸装されたクランクスプロケット12が回転すると、無端チェーン14がクランクシャフト10の軸心P方向へ変位する。このため、無端チェーン14がクランクシャフト10の軸心P方向へ変位し、固定チェーンガイド20と無端チェーン14との摺接によるチェーンプレート(外プレート15、内プレート16)の局所的な摩耗を抑制することができる。
【0031】
(5)チェーン伝動装置が駆動しても、無端チェーン14が固定チェーンガイド20のガイド面22に対して傾斜することがなく、固定チェーンガイド20が無端チェーン14のチェーンプレートから受ける荷重はほぼ同じとなる。したがって、固定チェーンガイド20におけるチェーンプレートによる偏摩耗を防止できる。
【0032】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係るチェーンスプロケットおよびチェーンスプロケットを用いたチェーン伝動装置について説明する。本実施形態では、チェーンスプロケットの構成が第1の実施形態と相違する。本実施形態では、第1の実施形態と同じ構成については第1の実施形態の説明を援用し、共通の符号を用いる。
【0033】
図7(a)、
図7(b)に示すように、チェーンスプロケットとしてのクランクスプロケット50は、円板状のスプロケット本体51と、ボス52と、複数の歯53、とを有している。スプロケット本体51およびボス52は一体形成されている。スプロケット本体41の外周には周方向にわたって複数の歯53が等間隔で配設されており、複数の歯53は周方向に歯列57を形成する。
【0034】
スプロケット本体51からボス52へ貫通する軸孔54が備えられている。軸孔54にはクランクシャフト10が挿通されている。軸孔54を形成する内壁にはキー溝55が形成されている。軸孔54の軸心Qは、クランクシャフト10の軸心Pと略平行であり、同軸状である。
図7(b)に示すように、歯53の先端における軸方向の中心を結ぶ線を仮想線Xとする。軸孔54は、仮想線Xがクランクシャフト10の軸心Pと直交する直交面に対して傾斜するように形成されている。
【0035】
本実施形態のクランクスプロケット50およびチェーン伝動装置では、歯列57がクランクシャフト10の軸心Pと直交する直交面に対して傾斜するように、軸孔54が形成されている。したがって、スプロケット本体51において歯53の位置を互いに異なる位置に形成することなく、クランクスプロケット50の回転時にクランクスプロケット50に懸装される無端チェーン14をクランクシャフト10の軸方向へ変位せることができる。また、仮想線Xがクランクシャフト10の軸心Pと直交する直交面に対して傾斜するように軸孔54を形成するので、第1の実施形態と比較してクランクスプロケット50の製作が容易である。
【0036】
なお、本実施形態では、無端チェーン14が固定チェーンガイド20に対して傾斜してガイド面22の幅方向に変位する。固定チェーンガイド20が無端チェーン14のチェーンプレートから受ける荷重が異なることになる。そこで、例えば、
図8に示すような固定チェーンガイド60を用いてもよい。固定チェーンガイド60は、ガイド本体部61、ガイド面62、ガイド壁部63を有している。ガイド面62は幅方向に湾曲する面に形成されている。クランクスプロケット50を用いても無端チェーン14が固定チェーンガイド60のガイド面62に対して傾斜して摺接することがなく、固定チェーンガイド60が無端チェーン14のチェーンプレートから受ける荷重はほぼ同じとなる。
【0037】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、例えば、次のように変更してもよい。
【0038】
○ 上記の実施形態では、内燃機関におけるチェーンスプロケットとしてのクランクスプロケットを例示し、クランクシャフトからバランスシャフトに回転力を伝達するチェーン伝動装置を説明したが、これに限らない。チェーンスプロケットは、例えば、バランススプロケットであってもよく、特に制限されない。また、チェーン伝動装置は、例えば、内燃機関においてカムシャフトへ回転力を伝達するチェーン伝動装置であってもよく、少なくともチェーンガイドを有するチェーン伝動装置であればよい。
○ 上記の実施形態では、チェーンガイドとしての固定チェーンガイドにおいてチェーンを幅方向へ変位させるとしたが、これに限定されない。例えば、可動チェーンガイドにおいてチェーンを幅方向へ変位させるようにチェーンスプロケットを用いたり、チェーン伝動装置を用いたりしてもよい。
○ 上記の第1の実施形態では、歯の幅方向の中心がチェーンスプロケットのスプロケット本体に対して徐変するように歯列が形成されたが、これに限らない。例えば、歯列を複数に区分し、区分単位における複数の歯が回転軸の直交面に対して傾斜する歯列の一部を形成し、特定の区分では回転軸の直交面に対して傾斜しない歯列であってもよい。
○ 上記の実施形態では、内燃機関が備えるチェーン伝動装置およびチェーン伝動装置にて用いられるチェーンスプロケットを例示して説明したが、これに限らない。
【符号の説明】
【0039】
10 クランクシャフト(回転軸)
11 バランスシャフト
12、50 クランクスプロケット(チェーンスプロケット)
13 バランススプロケット
14 無端チェーン
15 外プレート
16 内プレート
19 ローラ
20、60 固定チェーンガイド(チェーンガイド)
22、62 ガイド面
30 可動チェーンガイド
34 軸部材
35 テンショナ
41、51 スプロケット本体
43、53 歯
44、54 軸孔
47、57 歯列
D 離間距離
P 軸心(クランクシャフト)
Q 軸心(軸孔)
X 仮想線