(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156399
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】電極及びその製造方法、並びに蓄電素子
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20241029BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241029BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20241029BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20241029BHJP
H01M 10/052 20100101ALN20241029BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M10/0562
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070825
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(72)【発明者】
【氏名】吉川 大輔
(72)【発明者】
【氏名】須山 元嗣
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM12
5H029CJ08
5H029CJ22
5H029DJ15
5H029HJ05
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA10
5H050DA13
5H050EA15
5H050FA16
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】径の細い繊維状の導電助剤を含む電極を提供する。
【解決手段】本発明の一側面に係る電極は、電極活物質、無機固体電解質、及び繊維径が1nm以上5nm以下である繊維状導電助剤を含有する活物質層を備える。電極の製造方法は、電極活物質、無機固体電解質、及び繊維径が1nm以上5nm以下である繊維状導電助剤を乾式混合し、乾式混合物を作製すること、前記乾式混合物に、バインダ、及び溶媒を加えて混合し、ペーストを作製すること、並びに前記ペーストを基材上に塗布して活物質層を形成すること、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質、
無機固体電解質、及び
繊維径が1nm以上5nm以下である繊維状導電助剤
を含有する活物質層
を備える電極。
【請求項2】
前記活物質層がペーストの塗布により形成された、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記無機固体電解質が硫化物固体電解質である、請求項1に記載の電極。
【請求項4】
電極活物質、無機固体電解質、及び繊維径が1nm以上5nm以下である繊維状導電助剤を乾式混合し、乾式混合物を作製すること、
前記乾式混合物に、バインダ、及び溶媒を加えて混合し、ペーストを作製すること、並びに
前記ペーストを基材上に塗布して活物質層を形成すること
を含む、電極の製造方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の電極を備える蓄電素子。
【請求項6】
全固体二次電池である、請求項5に記載の蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極及びその製造方法、並びに蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質を用いる蓄電素子の電極として、その活物質層に、活物質と共に固体電解質及び導電助剤を含むものが報告されている。
【0003】
特許文献1には、実施例1として、「まず、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2粒子(活物質粒子)を、LiNbO3(酸化物系固体電解質)により被覆した複合粒子・・・を準備した。
次に、複合粒子20g、10LiI-15LiBr-75(0.75Li2S-0.25P2S5)粒子(硫化物系固体電解質・・・)2.4gを乾式混練装置・・・に投入し、・・・混練処理を行い、複合活物質粒子・・・を製造した。
正極活物質として上記複合活物質粒子22.4gを、硫化物系固体電解質として10LiI-15LiBr-75(0.75Li2S-0.25P2S5)粒子・・・0.8gを、導電材として気相成長炭素繊維(VGCF)0.3gを、結着剤としてPVdF0.15gを、それぞれ準備した。これら正極活物質、硫化物系固体電解質、導電材、及び結着剤を、正極活物質:硫化物系固体電解質:導電材:結着剤=94.7質量%:3.4質量%:1.3質量%:0.6質量%となるように調整し、酪酸ブチルを13g加えて超音波ホモジナイザーで・・・湿式混合し、電極合材を調製した。」(段落[0019])との記載がある。また、引用文献1には、「以下、上記実施例1及び比較例1~2の各電極合材を正極合材としてそれぞれ用いて、全固体リチウム二次電池を製造した。
セパレータ層(固体電解質層)の原料として、硫化物系固体電解質である10LiI-15LiBr-75(0.75Li2S-0.25P2S5)粒子を準備した。
負極活物質として天然黒鉛を、硫化物系固体電解質として10LiI-15LiBr-75(0.75Li2S-0.25P2S5)粒子を、結着剤としてPVdFを、それぞれ準備した。これら負極活物質、硫化物系固体電解質、及び結着剤を、負極活物質:硫化物系固体電解質:結着剤=64.1質量%:34.7質量%:1.2質量%となるように混合し、負極合材を調製した。
まず、セパレータ層として10LiI-15LiBr-75(0.75Li2S-0.25P2S5)粒子の圧粉体を形成した。次に、当該圧粉体の一方の面に正極合材を、他方の面に負極合材を、それぞれ配置し、・・・平面プレスし、積層体を得た。・・・当該積層体を、積層方向に・・・拘束することにより、全固体リチウム二次電池を製造した。」(段落[0022])との記載がある。
【0004】
特許文献2には、「LPS 3gと、導電助剤としてアセチレンブラック 0.2gと、活物質として平均粒径5μmのNMC 10gとを、ボールミル・・・で・・・撹拌して、LPS及び導電助剤を含む被覆層を有する活物質1を得た(被覆回数1)。
・・・
この活物質1と、LSP 0.05gと、アセチレンブラック 0.4gとを、ボールミル・・・で・・・撹拌して、LPS及び導電助剤を含む被覆層を有する活物質2を得た(被覆回数2)。
この活物質2と、LPS 0.1gと、アセチレンブラック 0.4gとを、ボールミル・・・で・・・撹拌して、LPS及び導電助剤を含む被覆層を有する複合電極活物質No.7を得た(被覆回数3)。」(段落[0112])との記載がある。また、特許文献2には、「以下のようにして、
図1に示す層構成を有する全固体二次電池No1-7を作製した。
・・・
ジルコニア製・・・容器・・・に、・・・ジルコニアビーズを・・・投入し、上記で合成した複合電極活物質No.7 70g、LPS 0.9g、分散媒としてヘプタン 12.3gを投入した。遊星ボールミル・・・に容器をセットし、・・・混合を続け、正極用組成物1を調製した。
・・・
ジルコニア製・・・容器・・・に、・・・ジルコニアビーズを・・・投入し、上記で合成したLPS 28g、分散媒としてヘプタン12.3gを投入した。・・・遊星ボールミル・・・に容器をセットし、・・・混合した。その後、活物質としてCGB20・・・7.0gを容器に投入し、同様に、遊星ボールミル・・・に容器をセットし、・・・混合を続け負極用組成物1を調製した。
・・・
上記で調製した正極用組成物1を、アルミ箔(正極集電体)上に、アプリケータ・・・により・・・塗布し、・・・乾燥させた。その後、ヒートプレス機を用いて、加熱・・・しながら加圧し・・・、正極集電体上に正極活物質層を有する正極シートを作製した。
・・・
上記で調製した負極用組成物1を、ステンレス鋼(SUS)箔(負極集電体)上に、アプリケータ・・・により・・・塗布し、・・・乾燥させた。その後、ヒートプレス機を用いて、加熱・・・しながら加圧し・・・、負極集電体上に負極活物質層を有する負極シートを作製した。
・・・
作製した正極シートおよび負極シートを用いて、・・・全固体二次電池を作製した。」(段落[0115]から[0120])との記載がある。
【0005】
特許文献3には、「イオン伝導性ポリマーA3.0質量部を含むトルエン溶剤30.0質量部に、LiPS4粉末32.0質量部を加えて、遊星ボールミルにて・・・処理した。更にNMC111を60.0質量部追添加して、同遊星ボールミルにて・・・処理した後に、・・・真空乾燥して複合電極材料1を得た。
得られた複合電極材料1の95.0質量部に、HS-100を1.0質量部乳鉢で・・・混ぜ合わせた。これに、VGCF(登録商標)-H 4.0質量部を加え、乳鉢で・・・混ぜ合わせ正極材粉末1を得た。
・・・
内径10mmのポリエチレン製ダイとSUS製の下パンチとを固定し、LiPS4粉末150質量部を入れ、上パンチにて・・・圧力を加え、固体電解質層を得た。上パンチを外し、固体電解質層の上に正極材粉末1を15質量部入れ、上パンチにて・・・圧力を加えて、固体電解質層と正電極層との積層体を得た。すなわち、この積層体は、正極材粉末1からなる正電極層を含んでいる。上パンチを外し、ダイの中に在る積層体の上に直径10mm、厚さ100μmのSUS板を入れた。上パンチをはめた後、ダイを上下反転させた。下パンチ(上を向いている)を外し、ダイの中に在る積層体の上に直径10mm、厚さ47μmのリチウム箔、および直径10mm、厚さ20μmのアルミニウム箔2枚をこの順で載せた。アルミニウム箔の上に下パンチをはめた後、下パンチ(負極端子)と上パンチ(正極端子)とに・・・圧力を加え、その状態にてボルト固定して、負極端子、Al箔、Li箔、固体電解質層、正電極層、SUS板および正極端子からなる固体電池を得た。」(段落[0118]から[0121])との記載がある。そして、特許文献3には、使用したVGCF(登録商標)-Hが、平均繊維径150nmで、平均繊維径に対する平均繊維長さの比(アスペクト比)が35のものであったことが記載されている(段落[0117])。
【0006】
特許文献4には、「以下に示す手順により、活物質(TiO2)表面に、Li1+xAlxGe2-x(PO4)3(x=0.5)なる一般式で表される固体電解質および導電助剤としてカーボンナノファイバーであるVGCF(昭和電工社製、登録商標)のコーティングを行った。・・・
(1)アンモニア水(0.45mol/L)の溶液に、固体電解質の原料(CH3COOLi・2H2O,NH4H2PO4,Al(NO3)3・9H2O,GeO2)を所定の組成比で混合した。
(2)さらに前記混合液に、導電助剤として前記VGCFを混合した。
(3)さらに前記混合液に、活物質としてTiO2を混合した。
(4)前記のようにして得られたコーティング液を100℃で加熱し、溶媒成分を除去した。
(5)オーブン(260℃)で一晩乾燥した。
(6)焼成に先立って、窒素雰囲気中で450℃の温度で仮焼きを行い、固体電解質をガラス化させた。
(7)シート用バインダーの脱脂工程に相当する熱処理を行った。(大気雰囲気下 500℃ 5時間)
(8)次に、窒素雰囲気下、600℃、2時間焼成を行った。
(9)得られたコーティング活物質を加圧セルにて圧粉し、電子伝導率を評価した。
・・・
なお、前記活物質と、コーティングする固体電解質と前記VGCFとの比率は、89:7:4である。」(段落[0034]から[0044])との記載がある。
【0007】
特許文献5には、「複合材料48.5質量部と、固体電解質(Li3PS4、D50:8μm)48.5質量部と、VGCF(登録商標)-H(昭和電工株式会社製)3質量部とを混合した。この混合物を、遊星型ボールミルを用いて・・・ミリング処理することにより均一化した。均一化された混合物を、内径10mmφポリエチレン製ダイとSUS製のパンチを用いて一軸プレス成形機により400MPaでプレス成形して、厚さ65μmのシートとして負極合剤層132を準備した。
・・・
正極活物質LiCoO2(日本化学工業株式会社製、D50:10μm)55質量部と、固体電解質(Li3PS4、D50:8μm)40質量部と、VGCF(登録商標)-H(昭和電工株式会社製)5質量部とを混合した。この混合物を、遊星型ボールミルを用いて・・・ミリング処理することにより均一化した。均一化された混合物を、内径10mmφポリエチレン製ダイとSUS製のパンチを用いて一軸プレス成形機により・・・プレス成形して、厚さ65μmのシートとして正極合剤層112を準備した。
・・・
内径10mmφポリエチレン製ダイの中に、上記で得られた負極合剤層132、固体電解質層12、正極合材層112の順に積層し、負極合剤層132側及び正極合材層112側の両側からSUS製のパンチで100MPa・・・の圧力で挟み、負極合剤層132、固体電解質層12、及び正極合材層112を接合して積層体Aを得た。
得られた積層体Aを一旦ダイから取り出し、上記ダイの中に、下から負極リード1 31a、銅箔(負極集電体131)、負極合剤層132を下側に向けた積層体A、アルミニウム箔(正極集電体111)、正極リード111aの順に重ねて、負極リード131a側及び正極リード111a側の両側からSUS製のパンチで1MPa・・・の圧力で挟み、負極リード131a、銅箔、積層体A、アルミニウム箔、及び正極リード111aを接合して全固体型リチウムイオン二次電池1を得た。」(段落[0110]から[0112])との記載がある。また、特許文献5には、昭和電工株式会社製の人造黒鉛であるSCMG、又はSiCを転動流動コーティング装置に投入し、常温、窒素雰囲気で、22.4質量%のオルトチタン酸テトライソプロピル、3.3質量%のエトキシリチウム、及び14.4質量%の石油系ピッチを、55.9質量%の無水エタノールに溶解した溶液をスプレーしながら混合を行い、得られた混合物を熱処理して、複合材料を得た旨の記載がある(段落[0131]、表1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-207418号公報
【特許文献2】WO2020/203545
【特許文献3】WO2021/015147
【特許文献4】特開2019-179669号公報
【特許文献5】特開2021-101421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記先行技術文献に開示された電極に含まれる導電助剤は、粒子状又は比較的径の太い繊維状であり、径の細い繊維状の導電助剤を含む電極は、これまで報告されていない。
【0010】
そこで、本発明は、径の細い繊維状の導電助剤を含む電極を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面に係る電極は、電極活物質、無機固体電解質、及び繊維径が1nm以上5nm以下である繊維状導電助剤を含有する活物質層を備える。
【0012】
本発明の他の一側面に係る電極の製造方法は、電極活物質、無機固体電解質、及び繊維径が1nm以上5nm以下である繊維状導電助剤を乾式混合し、乾式混合物を作製すること、前記乾式混合物に、バインダ、及び溶媒を加えて混合し、ペーストを作製すること、並びに前記ペーストを基材上に塗布して活物質層を形成すること、を備える。
【0013】
本発明のさらに他の一側面に係る蓄電素子は、上述した本発明の一側面に係る電極を備えるものであり、この蓄電素子は全固体二次電池を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一側面に係る電極は、径の細い繊維状の導電助剤を含む電極を提供できる。
【0015】
本発明の他の一側面に係る電極の製造方法は、径の細い繊維状の導電助剤の含有量の多い電極を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、積層型の全固体二次電池の一実施形態を示す概略図である。
【
図2】
図2は、蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置の一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[1]本発明の一実施形態に係る電極は、電極活物質、無機固体電解質、及び繊維径が1nm以上5nm以下である繊維状導電助剤を含有する活物質層を備える。
【0018】
上記[1]に記載の電極によれば、径の細い繊維状の導電助剤を含む電極を提供できる。
【0019】
[2]上記[1]に記載の電極において、前記活物質層は、ペーストの塗布により形成されたものであってもよい。
【0020】
上記[2]に記載の電極によれば、蓄電素子の小型化が可能となる。
【0021】
[3]上記[1]又は[2]に記載の電極は、前記無機固体電解質が硫化物固体電解質であってもよい。
【0022】
上記[3]に記載の電極によれば、特性に優れた蓄電素子が得られる。
【0023】
[4]本発明の他の実施形態に係る電極の製造方法は、電極活物質、無機固体電解質、及び繊維径が1nm以上5nm以下である繊維状導電助剤を乾式混合し、乾式混合物を作製すること、前記乾式混合物に、バインダ、及び溶媒を加えて混合し、ペーストを作製すること、並びに前記ペーストを基材上に塗布して活物質層を形成すること、を備える。
【0024】
上記[4]に記載の電極の製造方法によれば、径の細い繊維状の導電助剤の含有量の多い電極を製造できる。
【0025】
[5]本発明のさらに他の実施形態に係る蓄電素子は、上記[1]から[3]のいずれかに記載の電極を備える。
【0026】
[6]上記[5]に記載の蓄電素子は、全固体二次電池であってもよい。
【0027】
本発明の一実施形態に係る電極の構成、電極の製造方法、蓄電素子の構成、蓄電装置の構成、蓄電素子の製造方法並びにその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0028】
<電極の構成>
本発明の一実施形態に係る電極(以下、単に「電極」ともいう。)は、電極活物質、無機固体電解質、及び繊維径が1nm以上5nm以下である繊維状導電助剤を含有する活物質層を備える。
【0029】
(電極活物質)
電極活物質は、正極活物質又は負極活物質のいずれかである。電極活物質として正極活物質を含む場合、活物質層は正極活物質層となり、電極は正極となる。他方、電極活物質として負極活物質を含む場合、活物質層は負極活物質層となり、電極は負極となる。
【0030】
正極活物質としては、公知の正極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LixNi(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγCo(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixCo(1-x)]O2(0≦x<0.5)、
Li[LixNiγMn(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)、Li[LixNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LixMn2O4、LixNiγMn(2-γ)O4等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4,Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
正極活物質は、通常、粒子(粉体)である。正極活物質の平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。正極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層の電子伝導性が向上する。なお、正極活物質と他の材料との複合体を用いる場合、該複合体の平均粒径を正極活物質の平均粒径とする。「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0032】
正極活物質は、その表面にイオン伝導性を有する他の物質が存在するものであってもよい。イオン伝導性を有する他の物質としては、LiNbO3、Li2TiO3、Li2Ti2O5、Li4Ti5O12、Li2ZrO3、LiTaO3等が例示される。正極活物質表面のイオン伝導性を有する他の物質の存在形態は限定されず、例えば、膜状に被覆していてもよく、粒子が付着していてもよい。
【0033】
粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0034】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、20質量%以上90質量%以下が好ましく、30質量%以上85質量%以下がより好ましく、40質量%以上80質量%以下がさらに好ましい。正極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質層の高エネルギー密度化と低抵抗化とを両立できる。
【0035】
負極活物質としては、公知の負極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。負極活物質としては、例えば、金属Li;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;Li4Ti5O12、LiTiO2、TiNb2O7等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。これらの材料の中でも、黒鉛及び非黒鉛質炭素が好ましい。負極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、X線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましい。
【0037】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電状態においてX線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチまたは石油ピッチ由来の材料、石油コークスまたは石油コークス由来の材料、植物由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
【0038】
ここで、「放電状態」とは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されるように放電された状態を意味する。例えば、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた単極電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態である。
【0039】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。
【0040】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。
【0041】
金属Liは、実質的にリチウム元素のみからなる純金属Liとして存在してもよいし、他の金属元素を含むLi合金として存在してもよい。Li合金としては、Li-Ag合金、Li-Zn合金、Li-Ca合金、Li-Al合金、Li-Mg合金、Li-In合金等が挙げられる。Li合金は、リチウム元素以外の複数の金属元素を含んでいてもよい。
【0042】
負極活物質は、通常、粒子(粉体)である。負極活物質の平均粒径は、例えば、1nm以上100μm以下とすることができる。負極活物質が炭素材料、チタン含有酸化物又はポリリン酸化合物である場合、その平均粒径は、1μm以上100μm以下であってもよい。負極活物質が、Si、Sn、Si酸化物、又は、Sn酸化物等である場合、その平均粒径は、1nm以上1μm以下であってもよい。負極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、負極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、活物質層の電子伝導性が向上する。粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法及び分級方法は、例えば、上記正極活物質で例示した方法から選択できる。
【0043】
負極活物質層に粒子状の負極活物質を使用する場合の負極活物質の含有量は、20質量%以上80質量%以下が好ましく、30質量%以上70質量%以下がより好ましい。負極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0044】
(無機固体電解質)
無機固体電解質としては、公知の無機固体電解質の中から適宜選択できる。無機固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質、酸化物固体電解質等を用いることができる。これらのうち、塑性変形により電極活物質と良好な接触状態を形成しやすい点で、硫化物固体電解質が好ましい。
硫化物固体電解質としては、Li6PS5Cl、Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2S5、Li10Ge-P2S12、Li2S-P2S5-LiCl、Li2S-P2S5-LiBr、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-P2S5-Li3N、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B2S3-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-B2S3、Li2S-P2S5-ZmS2n(ただし、m、nは正の数、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである。)、Li2S-GeS2、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-LixMOy(ただし、x、yは正の数、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかである。)等が挙げられる。
ハロゲン化物固体電解質としては、一般式LixMyX6で表される化合物が好ましく、Li3YCl6、Li3YBr6、Li3YI6、Li3InCl6、Li3InBr6、Li3InF6、Li2ZrCl6、Li3ErCl6、Li3ErBr6、Li3DyCl6、Li3DyBr6、Li3GdCl6、Li3GdBr6、Li3HoCl6、Li3HoBr6、Li3LaCl6、Li3LaBr6、Li3NdCl6、Li3NdBr6、Li3ScCl6、Li3ScBr6、Li3ScF6、Li3SmCl6、Li3SmBr6、Li3TbCl6、Li3TbBr6、Li3TmCl6、Li3TmBr6、Li3AlF6、Li3TiF6、Li3GaF6、Li3GeF6等が挙げられる。
酸化物固体電解質としては、Li7La3Zr2O12、Li0.5La0.5TiO3、LiTi2(PO4)3、Li3BO3-Li2CO3、Li3BO3-Li2SO4等が挙げられる。
【0045】
(繊維状導電助剤)
繊維状導電助剤は、繊維径が1nm以上5nm以下である。繊維径が1nm以上5nm以下の繊維状導電助剤は、径が細いことに起因して、凝集や変形が生じやすく、活物質層の他の成分との均一混合が困難であることが予想された。しかし、上記予想に反して、後述する実施例に示すように、繊維径が1nm以上5nm以下の繊維状導電助剤を含む活物質層が形成でき、これを含む電極及び該電極を備え、充放電が可能な蓄電素子が得られることが確認された。繊維径が1nm以上5nm以下の繊維状導電助剤としては、例えば、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)等を用いることができる。
【0046】
ここで、繊維状導電助剤の繊維径は、以下の手順で決定する。測定対象の繊維状導電助剤をエタノールに分散させた分散液を作製する。観察用試料台に上記分散液を滴下し、分散媒であるエタノールを乾燥させ、透過型電子顕微鏡(TEM)観察にて繊維径を測定する。繊維径の測定にあたっては、60本の繊維状導電助剤を無作為に抽出し、それぞれの繊維状導電助剤の直径を画像解析により測定する。測定された60本の繊維状導電助剤の直径の平均値を繊維径とする。
【0047】
上記繊維状導電助剤を、蓄電素子を解体して採取する場合は、以下の手順を採用する。蓄電素子を解体して電極を取り出し、上記繊維状導電助剤を含有する活物質層を採取する。上記活物質層を塩酸等の電極活物質及び無機固体電解質を可溶な酸で処理することにより、上記活物質層が含有する電極活物質及び無機固体電解質を溶解させ、濾過により除去する。濾別された残渣をさらに水またはエタノールで処理することにより、上記残渣中に残存する無機固体電解質を溶解させ、さらに濾過により除去する。この操作により、無機固体電解質が硫化物固体電解質を含む場合であっても、無機固体電解質を十分除去できる。次いで、濾別された残渣を酪酸ブチル等の非極性溶媒で処理することにより、上記残渣が含有するバインダ等の樹脂成分を溶解させ、さらに濾過により除去する。このようにして、繊維状導電助剤を採取することができる。なお、電極活物質及び酸化物固体電解質の除去が不十分である場合、マイクロ波分解処理を、繊維状導電助剤の繊維径に影響がない範囲でおこなってもよい。
【0048】
活物質層中の繊維状導電助剤の含有量の下限は、0.2質量%以上が好ましく、0.25質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上がさらに好ましく、0.4質量%以上がよりさらに好ましい。活物質層中の繊維状導電助剤の含有量の上限は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。繊維状導電助剤の含有量を上記の範囲とすることで、蓄電素子のエネルギー密度を高めることができる。
【0049】
(活物質層の他の成分)
活物質層は、必要に応じて、バインダ(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0050】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0051】
活物質層におけるバインダの含有量は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.5質量%以上9質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、電極活物質を安定して保持することができる。
【0052】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0053】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、アルミナ、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。
【0054】
活物質層が正極活物質層である場合、正極活物質、繊維状導電助剤、バインダ、増粘剤、フィラー、固体電解質以外の成分として、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を含有してもよい。
【0055】
活物質層が負極活物質層である場合、負極活物質、繊維状導電助剤、バインダ、増粘剤、フィラー、固体電解質以外の成分として、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を含有してもよい。
【0056】
(基材)
活物質層は、導電性を有する基材上に直接、又は中間層を介して形成されていてもよい。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が107Ω・cmを閾値として判定する。
【0057】
電極が正極である場合、基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極の基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極の基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H-4160(2006年)に規定されるA1085、A3003、A1N30等が例示できる。
【0058】
電極が正極である場合、基材の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極の基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極の基材の強度を高めつつ、蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0059】
電極が負極である場合、基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極の基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極の基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0060】
電極が負極である場合、基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極の基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極の基材の強度を高めつつ、蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0061】
中間層は、基材と活物質層との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電助剤を含むことで基材と活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、バインダ及び導電剤を含む。
【0062】
活物質層は、ペーストの塗布により形成されたものであってもよい。活物質層をペーストの塗布により形成することで、活物質層の厚さを薄く形成できる。また、電極の生産性も向上する。これまで、繊維径が1nm以上5nm以下の繊維状導電助剤を含む活物質層をペーストの塗布により形成することは、他の方法を採用する場合よりも困難であると考えられていた。これは、無機固体電解質を含む活物質層をペーストの塗布により形成する場合、無機固体電解質との反応を抑制するために、ペースト中の溶媒として非極性溶媒が使用されることによる。繊維径が1nm以上5nm以下の繊維状導電助剤は、非極性溶媒に対する分散性が低いことから、均一なペーストが得られず、活物質層をペーストの塗布により形成できないと予想された。しかし、上記予想に反して、後述する実施例に示すように、ペーストの塗布によって活物質層が形成でき、これを含む電極及び該電極を備え、充放電が可能な蓄電素子が得られることが確認された。
【0063】
活物質層がペーストの塗布により形成されたものであることは、活物質層がバインダを含むか否かにより判断する。活物質層をプレスにより形成する場合はバインダが不要である一方、活物質層をペーストの塗布により形成する場合はバインダが必要であることから、活物質層がバインダを含むことにより、活物質層がペーストの塗布により形成されたものであることを強く推認できる。活物質層中のバインダを特定するには、以下の手順を採用する。蓄電素子を解体して取り出した電極から活物質層を採取し、酪酸ブチル等の非極性溶媒に分散して攪拌する等の方法で処理することにより、バインダを溶解させる。濾液を熱分解ガスクロマトグラフ/質量分析(Py-GC/MS)することにより、バインダの含有の有無と種類を確認できる。
【0064】
<電極の製造方法>
本発明の一実施形態に係る電極の製造方法(以下、単に「電極の製造方法」ともいう。)は、電極活物質、無機固体電解質、及び繊維径が1nm以上5nm以下である繊維状導電助剤を乾式混合し、乾式混合物を作製すること、前記乾式混合物に、バインダ、及び溶媒を加えて混合し、ペーストを作製すること、並びに前記ペーストを基材上に塗布して活物質層を形成することを含む。
【0065】
この電極の製造方法によれば、径の細い繊維状の導電助剤の含有量の多い電極を製造できる。また、他の方法に比べて強度に優れる活物質層を形成できる。さらに、この電極の製造方法により得られる電極を採用することで、初回放電容量の大きい蓄電素子が得られる。
【0066】
(乾式混合物の作製)
乾式混合物は、電極活物質、無機固体電解質、及び繊維径が1nm以上5nm以下である繊維状導電助剤を乾式混合することで作製される。乾式混合によって、電極活物質の表面に、無機固体電解質、及び繊維状導電助剤が付着した乾式混合物が得られる。乾式混合には、各種乾式複合化装置が適用可能である。乾式複合化装置としては、例えば、ホソカワミクロン株式会社製、ノビルタ(登録商標)NOB-MINIや、奈良機械工業株式会社製、ハイブリダイゼーションシステム(登録商標)NHS等が挙げられる。
【0067】
(ペーストの作製)
ペーストは、乾式混合で得られた乾式混合物に、バインダ、及び溶媒を加えて混合することで作製される。無機固体電解質が硫化物固体電解質を含有する場合、使用する溶媒としては、ヘプタン、デカン等の脂肪族炭化水素、トルエン、テトラリン、クメン、メシチレン、アニソール等の芳香族炭化水素、ジブチルエーテル、ジイソブチルケトン、酪酸ブチル等が好ましい。使用するバインダとしては、上記溶媒に可溶であれば特に制限はなく、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やスチレンブタジエンゴム(SBR)等を使用できる。ペースト作製時のペースト中の溶媒の使用量は、10質量%以上60質量%以下が好ましく、20質量%以上40質量%以下がより好ましい。溶媒の含有量を上記の範囲とすることで、得られるペーストの粘度が適度なものとなり、均一な組成及び厚さを有する活物質層が得られる。混合には、例えば、ディゾルバー、ホモミキサー、ニーダー、ロールミル、サンドミル、アトライター、ボールミル、バイブレーターミル、高速インペラーミル、超音波ホモジナイザー、振とう機等の一般的な混合機が使用できる。
【0068】
ペーストを作製する際に、乾式混合物に対して、バインダ、及び溶媒以外に繊維状導電助剤をさらに添加してもよい。この場合に使用する繊維状導電助剤は、乾式混合物の作製に使用した、繊維径が1nm以上5nm以下である繊維状導電助剤であってもよく、これとは材質、又は径若しくは長さが異なる繊維状導電助剤であってもよい。ペースト作製時に使用する繊維状導電助剤としては、例えば、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、気相成長炭素繊維が挙げられる。
【0069】
(活物質層の形成)
活物質層は、作製されたペーストを基材上に塗布し、乾燥させて形成する。活物質層の形成には、例えば、ドクターブレード法、ダイコート法、グラビアコート法、スプレー塗工法、静電塗工法、バー塗工法が使用できる。
【0070】
<蓄電素子の構成>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子(以下、単に「蓄電素子」ともいう。)は、正極、負極及び固体電解質を有する電極体と、これを収容する容器と、を備える。電極体は、通常、複数の正極及び複数の負極がセパレータを介して積層された積層型である。また、電極体は、基材の一方の面に正極活物質層を、他方の面に負極活物質層をそれぞれ形成した、所謂「バイポーラ型」であってもよい。
【0071】
図1に蓄電素子の一例として、全固体二次電池10を示す。全固体二次電池10は、正極1と負極2とが固体電解質層3を介して配置された二次電池である。正極1は、正極基材4及び正極活物質層5を有する。負極2は、負極基材7及び負極活物質層6を有する。
図1に示す全固体二次電池10においては、負極基材7上に、負極活物質層6、固体電解質層3、正極活物質層5及び正極基材4がこの順で積層されている。固体電解質層3は、固体電解質を含む。固体電解質としては、電極に使用可能な上記無機固体電解質を用いることができる。
【0072】
<蓄電装置の構成>
本実施形態の蓄電素子は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の蓄電素子を集合して構成した蓄電ユニット(バッテリーモジュール)として搭載することができる。この場合、蓄電ユニットに含まれる少なくとも一つの蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
図2に、電気的に接続された二以上の全固体二次電池10が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二以上の全固体二次電池10を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上の全固体二次電池10の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0073】
<蓄電素子の製造方法>
本実施形態の蓄電素子の製造方法は、公知の方法から適宜選択できる。当該製造方法は、例えば、上記電極の製造方法にて正極及び負極を製造することと、固体電解質層を形成することと、上記正極及び負極を、固体電解質層を介して積層することにより電極体を形成することとを備える。また、電極体は、正極基材、正極活物質層の成分の混合粉末、固体電解質層の成分の混合粉末、負極活物質層の成分の混合粉末、及び負極基材をこの順に重ね合わせて、同時に圧縮成形することによっても製造できる。
【0074】
<その他の実施形態>
なお、本発明の蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0075】
上記実施形態では、蓄電素子が、固体電解質層を備え、充放電可能な全固体二次電池(例えばリチウムイオン全固体二次電池)として用いられる場合について説明したが、蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。本発明は、種々の二次電池、電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ等のキャパシタにも適用できる。
【実施例0076】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0077】
[実施例1]
(電極の作製)
正極活物質として、組成式LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2(NCM523)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面に、LiNbO3を被覆した粒子で構成される粉末(平均粒径10μm)を準備した。固体電解質として、組成式Li6PS5Clで表される硫化物固体電解質を準備した。繊維径が1nm以上5nm以下である繊維状導電助剤として、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)(楠本化成株式会社製、TUBALL)を準備した。上記固体電解質、上記繊維状導電助剤、及びバインダであるSBRを溶解させた酪酸ブチルを添加して混練することにより、ペーストを作製した。ペーストにおける繊維状導電助剤の添加量は、正極活物質に対して0.2質量%とした。ペーストにおける各成分の割合は、固形分換算の質量比で、(正極活物質):(固体電解質):(繊維状導電助剤):(バインダ)=76:22.8:0.2:1であった。得られたペーストを、正極基材であるAl箔(平均厚さ20μm)上に、マルチアプリケータ(コーテック株式会社製、MA100)を用いて、固形分の目付が15mg・cm-2以上25mg・cm-2以下となるように塗工した。これを酪酸ブチルが揮発する温度に設定したアルゴン雰囲気の乾燥器内で乾燥させることで、正極基材上に正極活物質層を形成した。これを直径10mmの円形に打ち抜いて、実施例1に係る正極とした。
【0078】
(蓄電素子の作製)
固体電解質として、組成式Li6PS5Clで表される硫化物固体電解質の粉末を準備した。内径10mmのセラミックス製粉体成型器に、上記硫化物固体電解質を80mg挿入し、室温で100MPaの圧力で数秒間、一軸プレスにより加圧成型し、固体電解質層を形成した。圧力解放後、固体電解質層の一方の面に、実施例1に係る正極を重ねて、160℃で360MPaの圧力で5分間、加圧成型した。圧力解放後、正極の接合面とは反対側の面に、負極としてインジウム箔(平均厚さ300μm、直径8mm、ニラコ製)及びリチウム箔(平均厚さ300μm、直径6mm、本城金属製)、並びに負極基材としてSUS316箔(ニラコ製)を重ねて、室温で50MPaの圧力で数秒間、一軸プレスにより接合した。これをセラミックス製粉体成型器から取り出すことで、実施例1に係る蓄電素子としての全固体二次電池を得た。
【0079】
[比較例1]
電極の作製において、ペーストにおける繊維状導電助剤の添加量を、正極活物質に対して0.4質量%とし、ペーストにおける各成分の割合を、固形分換算の質量比で(正極活物質):(固体電解質):(繊維状導電助剤):(バインダ)=76:22.6:0.4:1とした以外は、実施例1と同様の方法で、電極の作製を試みた。しかし、均一なペーストが得られず、基材上に活物質層を形成することはできなかった。
【0080】
[実施例2]
(電極の作製)
正極活物質として、組成式LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2(NCM523)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面に、LiNbO3を被覆した粒子で構成される粉末(平均粒径10μm)を準備した。固体電解質として、組成式Li6PS5Clで表される硫化物固体電解質を準備した。繊維径が1nm以上5nm以下である繊維状導電助剤として、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)(楠本化成株式会社製、TUBALL)を準備した。アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、上記正極活物質と上記固体電解質と上記SWCNTとを、(正極活物質):(固体電解質):(SWCNT)=95:4.2:0.8の質量比で、乾式複合化装置(ホソカワミクロン株式会社製、ノビルタ(登録商標)NOB-MINI)を用いて乾式混合し、上記正極活物質粒子の表面に、上記固体電解質及び上記繊維状導電助剤が付着した乾式混合物を得た。この乾式混合物に、上記固体電解質、上記繊維状導電助剤、及びバインダであるSBRを溶解させた酪酸ブチルを添加して混練することにより、ペーストを作製した。ペーストにおける繊維状導電助剤の添加量は、正極活物質に対して0.2質量%とした。ペーストにおける各成分の割合は、固形分換算の質量比で、(正極活物質):(固体電解質):(繊維状導電助剤):(バインダ)=76:22:1:1であった。得られたペーストを、実施例1と同様の方法で正極基材に塗布し、乾燥、打抜きを行って、実施例2に係る正極とした。
【0081】
(蓄電素子の作製)
実施例2に係る正極を用いた以外は実施例1と同様の方法で、実施例2に係る全固体二次電池を得た。
【0082】
[実施例3]
ペーストの作製時に乾式混合物に添加する繊維状導電助剤を、繊維径10nmから20nmの多層カーボンナノチューブ(MWCNT)(東京化成工業株式会社製、C2150)とした以外は実施例2と同様の方法で、実施例3に係る正極及び全固体二次電池を得た。
【0083】
[実施例4]
ペーストの作製時に乾式混合物に添加する繊維状導電助剤を、繊維径150nmの気相成長炭素繊維(昭和電工株式会社製、VGCF(登録商標))とした以外は実施例2と同様の方法で、実施例4に係る正極及び全固体二次電池を得た。
【0084】
[実施例5]
ペーストの作製時に乾式混合物に添加する繊維状導電助剤を、繊維径100nmのカーボンナノファイバー(CNF)(シグマアルドリッチ、719781)とした以外は実施例2と同様の方法で、実施例5に係る正極及び全固体二次電池を得た。
【0085】
<評価>
(活物質層の強度)
各実施例に係る正極における活物質層の強度を、以下の手順で評価した。上記実施例1から5に係るそれぞれの正極を、トリミングカッターを用いて2cm×2cmのサイズに切り出し、試験片とした。直径4cmφのガラス瓶に上記試験片を巻き付け、活物質層の剥離の有無を観察することにより評価した。
【0086】
上記評価の結果、実施例1に係る正極では、基材からの活物質層の剥離が確認されたのに対し、実施例2から4に係る各正極では、基材からの活物質層の剥離は確認されなかった。
【0087】
(初回放電容量)
各実施例に係る全固体二次電池について、50℃の下、以下の要領で初回の充放電を行い、初回放電容量を測定した。
充電電流0.1C、充電終止電圧3.75Vとして定電流定電圧充電を行った。充電の終了条件は、充電電流が0.025Cとなるまでとした。その後、10分間の休止期間を設けた。その後、放電電流0.1C、放電終止電圧2.25Vとして定電流放電を行った際の放電容量を、初回放電容量とした。
得られた初回放電容量の値を、正極作製時に使用した繊維状導電助剤の種類及び正極活物質に対する質量百分率と共に、表1に示す。
【0088】
【0089】
表1に示されるように、電極活物質、無機固体電解質、及び繊維径が1nm以上5nm以下である繊維状導電助剤を含有する活物質層が形成でき、これを含む電極及び該電極を備え、充放電が可能な蓄電素子が得られることが確認された。特に、電極活物質、無機固体電解質、及び繊維径が1nm以上5nm以下である繊維状導電助剤を乾式混合し、乾式混合物を作製すること、前記乾式混合物に、バインダ、及び溶媒を加えて混合し、ペーストを作製すること、並びに前記ペーストを基材上に塗布して活物質層を形成すること、を経て作製された電極によれば、初回放電容量の大きな蓄電素子が得られることが確認された。