(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156422
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用の正極材料、リチウムイオン二次電池用の正極、及びリチウムイオン二次電池用の正極材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20241029BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241029BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20241029BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 C
H01M4/136
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070867
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】江口 達哉
(72)【発明者】
【氏名】原田 正則
(72)【発明者】
【氏名】松代 大
(72)【発明者】
【氏名】君島 健之
(72)【発明者】
【氏名】福永 亮
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CB12
5H050EA08
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA05
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムを含む正極活物質層の目付量を大きくした場合における成膜性と電池特性の向上とを両立させる。
【解決手段】リチウムイオン二次電池用の正極材料は、一般式LiMn
xFe
yPO
4(x、yは、x+y=1、0<x<1、0<y<1を満足する数値である。)で表されるオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムにより構成されるコア11と、コア11の表面に形成された炭素被膜12とを有する造粒体10を含む。コア11は、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの一次粒子が凝集した構造を有する。一次粒子の粒子径は、100nm以下である。造粒体10における2nm以上300nm以下の細孔径の範囲における細孔容積は、0.2cm
3/g以下であり、炭素含有量は、1.8質量%以上3.0質量%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式LiMnxFeyPO4(x、yは、x+y=1、0<x<1、0<y<1を満足する数値である。)で表されるオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムにより構成されるコアと、前記コアの表面に形成された炭素被膜とを有する造粒体を含み、
前記コアは、前記オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの一次粒子が凝集した構造を有し、
前記一次粒子の粒子径は、100nm以下であり、
前記造粒体における2nm以上300nm以下の細孔径の範囲における細孔容積は、0.2cm3/g以下であり、
前記造粒体の炭素含有量は、1.8質量%以上3.0質量%以下であるリチウムイオン二次電池用の正極材料。
【請求項2】
第1表面を有する正極集電体と、
前記正極集電体の前記第1表面に形成された正極活物質層とを備え、
前記正極活物質層は、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用の正極材料を含有するリチウムイオン二次電池用の正極。
【請求項3】
前記正極活物質層の目付量は、30mg/cm2以上100mg/cm2以下である請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用の正極。
【請求項4】
一般式LiMnxFeyPO4(x、yは、x+y=1、0<x<1、0<y<1を満足する数値である。)で表されるオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粒子を、水系溶媒、炭素源、及びカルボン酸の存在下で粉砕することにより、前記オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粉砕物を含むスラリーを作製する工程と、
前記スラリーを噴霧乾燥することにより前記粉砕物の凝集体を得る工程と、
前記凝集体を焼成することにより前記凝集体に含まれる炭素源を炭化させる工程とを含むリチウムイオン二次電池用の正極材料の製造方法。
【請求項5】
前記カルボン酸は、クエン酸である請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用の正極材料の製造方法。
【請求項6】
前記スラリーにおける前記カルボン酸の含有量は、前記オリビン型リン酸マンガン鉄リチウム100質量部に対して2質量部以上10質量部以下である請求項4又は請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用の正極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用の正極材料、リチウムイオン二次電池用の正極、及びリチウムイオン二次電池用の正極材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)を正極活物質として用いた正極を備える蓄電装置が開示されている。オリビン型リン酸鉄リチウムに代表されるオリビン型構造正極活物質は、熱安定性に優れた正極活物質である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リチウムイオン二次電池の正極は、例えば、以下のようにして製造される。まず、正極活物質と、結着剤と、溶媒とを含むスラリー状の正極合材を正極集電体の表面に塗工する。次いで、塗工により形成された塗膜を乾燥させることにより、正極集電体の表面に正極活物質層を形成する。ここで、リチウムイオン二次電池の容量を大きくする方法として、上記の製造工程において、正極合材の塗膜を厚く塗工することにより正極活物質層の目付量を増加させることが考えられる。しかしながら、オリビン型構造正極活物質を正極活物質に用いた場合には、乾燥時の塗膜の収縮に起因して、得られる正極活物質層に割れが生じやすくなるという問題がある。特に、オリビン型構造正極活物質の中でもオリビン型リン酸マンガン鉄リチウム(LiMnFePO4)を用いた場合には、上記の問題が生じやすい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題点を解決するためのリチウムイオン二次電池用の正極材料は、一般式LiMnxFeyPO4(x、yは、x+y=1、0<x<1、0<y<1を満足する数値である。)で表されるオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムにより構成されるコアと、前記コアの表面に形成された炭素被膜とを有する造粒体を含み、前記コアは、前記オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの一次粒子が凝集した構造を有し、前記一次粒子の粒子径は、100nm以下であり、前記造粒体における2nm以上300nm以下の細孔径の範囲における細孔容積は、0.2cm3/g以下であり、前記造粒体の炭素含有量は、1.8質量%以上3.0質量%以下である。
【0006】
上記問題点を解決するためのリチウムイオン二次電池用の正極は、第1表面を有する正極集電体と、前記正極集電体の前記第1表面に形成された正極活物質層とを備え、前記正極活物質層は、上記リチウムイオン二次電池用の正極材料を含有する。
【0007】
上記リチウムイオン二次電池用の正極において、前記正極活物質層の目付量は、30mg/cm2以上100mg/cm2以下であることが好ましい。
上記問題点を解決するためのリチウムイオン二次電池用の正極材料の製造方法は、一般式LiMnxFeyPO4(x、yは、x+y=1、0<x<1、0<y<1を満足する数値である。)で表されるオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粒子を、水系溶媒、炭素源、及びカルボン酸の存在下で粉砕することにより、前記オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粉砕物を含むスラリーを作製する工程と、前記スラリーを噴霧乾燥することにより前記粉砕物の凝集体を得る工程と、前記凝集体を焼成することにより前記凝集体に含まれる炭素源を炭化させる工程とを含む。
【0008】
上記リチウムイオン二次電池用の正極材料の製造方法において、前記カルボン酸は、クエン酸であることが好ましい。
上記リチウムイオン二次電池用の正極材料の製造方法において、前記スラリーにおける前記カルボン酸の含有量は、前記オリビン型リン酸マンガン鉄リチウム100質量部に対して2質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムを含む正極活物質層の目付量を大きくした場合における成膜性と電池特性の向上とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】造粒体の断面における一次粒子の構造を示す模式図である。
【
図4】(a)は、実施例1を用いた正極活物質層の写真であり、(b)は、比較例1を用いた正極活物質層の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面にしたがって説明する。以下では、リチウムイオン二次電池用の正極材料及びリチウムイオン二次電池の正極をそれぞれ、正極材料及び正極と省略して記載する。
【0012】
<正極材料>
図1に示すように、本実施形態の正極材料は、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムにより構成されるコア11と、コア11の表面に形成された炭素被膜12とを有する造粒体10とを含む。正極材料は、造粒体10のみにより構成されるものであってもよいし、必要に応じて造粒体10以外の成分を含むものであってもよい。
【0013】
コア11を構成するオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムは、一般式LiMnxFeyPO4で表されるオリビン型構造を有するポリアニオン系化合物である。一般式LiMnxFeyPO4において、x、yは、x+y=1、0<x<1、0<y<1を満足する数値である。x及びyの範囲の具体例として、0.5≦x≦0.9、0.1≦y≦0.5の場合、及び0.6≦x≦0.8、0.2≦y≦0.4の場合が挙げられる。コア11を構成するオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムは、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0014】
図2は、
図1の矢印Aで示す範囲の構造を模式的に示している。
図2に示すように、コア11は、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの一次粒子11aが凝集した構造を有する。また、コア11は、複数の一次粒子11a間に形成される細孔11bを有する。
【0015】
一次粒子11aの粒子径は、100nm以下であり、好ましくは80nm以下である。また、一次粒子11aの粒子径は、例えば、20nm以上である。一次粒子11aの粒子径は、小角エックス線散乱法(Small Angle X-ray Scattering:SAXS)により求められる数値である。詳述すると、一次粒子11aの粒子径は、一次粒子11aを球状と仮定した一次粒子11aの粒子径分布を求めた後、その粒子径分布から得られる平均粒子径(D50)として定義される数値である。
【0016】
コア11において、2nm以上300nm以下の細孔径の範囲における細孔容積は、0.2cm3/g以下であり、好ましくは0.15cm3/g以下である。また、上記細孔容積は、例えば、0.05cm3/g以上であり、好ましくは0.1cm3/g以上である。上記細孔容積は、造粒体10に対して窒素吸脱着測定を実施し、BJH(Barrett Joyner Hallenda)法により求めることができる。なお、以下に記載する細孔容積は、2nm以上300nm以下の細孔径の範囲における細孔容積を意味する。
【0017】
造粒体10における炭素含有量は、1.8質量%以上であり、好ましくは1.9質量%以上であり、より好ましくは2.0質量%以上である。炭素含有量が1.8未満であると、炭素被膜12がコア11の表面全体を覆うことができなくなる。この場合、コア11の表面が露出する部分が生じることにより、後述する活物質層を形成する際の成膜性が悪くなる。また、上記炭素含有量は、3.0質量%以下であり、好ましくは2.7質量%以下である。上記炭素含有量は、炭素・硫黄分析装置(CS計)を用いて測定できる。
【0018】
造粒体10におけるオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの含有量は、例えば、95質量%以上であり、好ましくは96質量%以上である。また、上記含有量は、99質量%以下であり、好ましくは98質量%以下である。
【0019】
なお、造粒体10は、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウム及び炭素以外のその他成分を含有していてもよい。この場合、その他成分の含有量は、例えば、2質量%以下である。
【0020】
造粒体10の平均粒子径(D50)は、例えば、3.0μm以上であり、好ましくは5.0μm以上である。また、造粒体10の平均粒子径(D50)は、例えば、30μm以下であり、好ましくは20μm以下である。造粒体10の平均粒子径は、例えば、レーザ回折式粒度分析装置を用いて測定できる。
【0021】
<正極材料の製造方法>
次に、正極材料の製造方法の一例について説明する。
正極材料の製造方法の一例は、混合工程と、粉砕工程と、乾燥工程と、焼成工程とを含む。正極材料は、混合工程、粉砕工程、乾燥工程、及び焼成工程を順に経ることにより製造される。
【0022】
[混合工程]
混合工程は、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粒子と、水系溶媒と、炭素源と、カルボン酸とを混合することにより第1スラリーを作製する工程である。
【0023】
オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粒子は、一般式LiMnxFeyPO4で表されるオリビン型構造を有するポリアニオン系化合物の粒子である。一般式LiMnxFeyPO4において、x、yは、x+y=1、0<x<1、0<y<1を満足する数値である。x及びyの範囲の具体例として、0.5≦x≦0.9、0.1≦y≦0.5の場合、及び0.6≦x≦0.8、0.2≦y≦0.4の場合が挙げられる。オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粒子を構成するオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムは、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0024】
上記粒子の平均粒子径(D50)は、例えば、3.0μm以上であり、好ましくは5.0μm以上である。また、上記粒子の平均粒子径(D50)は、例えば、30μm以下であり、好ましくは20μm以下である。
【0025】
オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粒子は、例えば、以下のようにして製造できる。まず、水酸化リチウム等のLi源、マンガン化合物等のMn源、鉄化合物等のFe源、及びオルトリン酸等のPO4源と水を混合した第1前駆体スラリーを作製する。次いで、ビーズミル等の粉砕機を用いて第1前駆体スラリーに含まれるLi源、Mn源、及びFe源を粉砕する。これにより、Li源、Mn源、及びFe源の粉砕物を含む第2前駆体スラリーが得られる。次いで、第2前駆体スラリーを噴霧乾燥法等により乾燥させることにより粒子状の前駆体乾燥体を得る。得られた前駆体乾燥物を、例えば500℃程度の温度にて焼成することにより上記粒子が得られる。
【0026】
水系溶媒は、水、又は水と非水溶媒の混合溶媒である。水は特に限定されるものではないが、例えば、イオン交換樹脂で処理された水であるイオン交換水、及び逆浸透膜浄水システムにより処理された水である超純水等が好ましい。混合溶媒を構成する非水溶媒としては、例えば、低級アルコール、アセトン、テトラヒドロフラン、エチレングリコール、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド等の水と混ざり合う溶媒が挙げられる。非水溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。混合溶媒に占める水の体積割合は、例えば、50体積%以上99.9体積%以下であることが好ましく、60体積%以上99体積%以下であることがより好ましい。
【0027】
炭素源としては、例えば、有機化合物を用いることができる。有機化合物としては、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、マルトース、スクロース、ラクトース、グリコーゲン、ペクチン、アルギン酸、グルコマンナン、キチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、アガロース、ポリエーテル、多価アルコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース、デンプン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニルが挙げられる。多価アルコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン、グリセリンが挙げられる。炭素源は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
カルボン酸としては、例えば、クエン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、リンゴ酸、フマル酸、酒石酸、アスコルビン酸、グルコン酸、ポリアクリル酸が挙げられる。カルボン酸は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのカルボン酸の中でもクエン酸を用いることが好ましい。この点の詳細については後述する。
【0029】
次に、第1スラリーにおけるオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粒子、水系溶媒、炭素源、及びカルボン酸の配合量について説明する。
水系溶媒の配合量は、例えば、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粒子100質量部に対して、40質量部以上であり、好ましくは50質量部以上である。また、水系溶媒の配合量は、例えば、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粒子100質量部に対して、80質量部以下であり、好ましくは70質量部以下である。
【0030】
カルボン酸の配合量は、例えば、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粒子100質量部に対して、2質量部以上であり、好ましくは3質量部以上である。また、カルボン酸の配合量は、例えば、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粒子100質量部に対して、15質量部以下であり、好ましくは12質量部以下である。なお、特定の配合量以下の範囲においては、カルボン酸の配合量が増加するにしたがって、造粒体10のコア11の上記細孔容積が小さくなる。また、カルボン酸の配合量が増加するにしたがって、造粒体10のコア11の細孔径系分布が小径側へシフトする。そのため、カルボン酸の配合量を調整することにより、造粒体10のコア11の上記細孔容積を制御できる。
【0031】
混合工程において、炭素源は、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粒子に対して、炭素源中の炭素及びカルボン酸中の炭素の合計質量である総炭素量が特定量となるように配合される。したがって、炭素源の配合量は、例えば、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粒子100質量部に対して、上記総炭素量が1.8質量部以上となる量であり、好ましくは1.9質量部以上となる量である。炭素源の配合量は、例えば、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粒子100質量部に対して、上記総炭素量が5.0質量部以下となる量であり、好ましくは3.0質量部以下となる量である。炭素源の配合量に基づいて上記総炭素量を調整することにより、造粒体10の炭素含有量を制御できる。
【0032】
なお、第1スラリーは、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粒子、水系溶媒、炭素源、及びカルボン酸以外のその他成分を含有してもよい。その他成分としては、例えば、分散剤が挙げられる。
【0033】
[粉砕工程]
粉砕工程は、第1スラリーに含まれるオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粒子を粉砕することにより、上記粒子の粉砕物を含む第2スラリーを作製する工程である。粉砕工程は、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粒子を、水系溶媒、炭素源、及びカルボン酸の存在下で粉砕することにより、第2スラリーを作製する工程に相当する。
【0034】
上記粒子の粉砕物の平均粒子径(D50)は、例えば、20nm以上であり、好ましくは30nm以上である。また、上記粒子の粉砕物の平均粒子径(D50)は、例えば、100nm以下であり、好ましくは90nm以下である。上記粒子の粉砕物の平均粒子径(D50)を小さくすることにより、造粒体10の一次粒子11aの粒子径を小さくできる。
【0035】
粉砕工程に用いる粉砕方法は、第1スラリー中においてオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粒子を粉砕できる方法であれば特に限定されない。上記粉砕方法としては、例えば、ビーズミル、ハンマーミル、攪拌ミル、ジェットミル、ボールミル等の粉砕機を用いた方法が挙げられる。また、粉砕時の温度は、例えば、10℃以上50℃以下である。
【0036】
ここで、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粒子の粉砕時に、粒子に含まれる金属(Li、Mn、及びFe)の一部がスラリー中に溶出する。溶出した溶出金属は、後に行われる焼成工程において、粉砕物の粒子間、即ち、造粒体10のコア11を構成する一次粒子11a間に当該金属をネック部分とするネッキングを生じさせる。上記ネッキングが多く生じている造粒体10を含む正極材料を、リチウムイオン二次電池の正極に用いた場合、リチウムイオン二次電池の電池性能が低下してしまう。
【0037】
本実施形態においては、第1スラリーにカルボン酸が含まれていることにより、上記ネッキングの発生が抑制されている。つまり、スラリー中において、溶出金属がカルボン酸に捕捉されることにより、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粒子の粉砕物の表面、特に、粉砕により形成された新生面に対して、溶出金属が接触することが抑制される。その結果、粉砕物の粒子間に溶出金属をネック部分とするネッキングの発生が抑制される。
【0038】
したがって、ネッキングの発生を抑制する観点においては、第1スラリーに用いるカルボン酸は、溶出金属であるLi、Mn、及びFeを捕捉する能力が高いものであることが好ましい。各種カルボン酸のLi、Mn、及びFeに対する結合エネルギーを下記表1に示す。下記表1に示す結合エネルギーの値は、カルボン酸と溶出金属の各々との錯体の形成前後のエネルギーの差として求められる値であり、当該値が小さいほど、該当の溶出金属を捕捉する能力が高いことを意味する。なお、下記表1に示す結合エネルギーの値は、CAE(Computer Aided Engineering)を用いて計算したものである。表1に示すように、クエン酸は、Li、Mn、及びFeのいずれの溶出金属に対しても結合エネルギーが最も低くなっている。したがって、ネッキングの発生を抑制する観点においては、カルボン酸としてクエン酸を用いることが好ましい。
【0039】
【表1】
[乾燥工程]
乾燥工程は、第2スラリーを噴霧乾燥することにより上記粉砕物の凝集体を得る工程である。噴霧乾燥における噴霧方法としては、例えば、ディスク式、加圧ノズル、加圧二流体ノズル、加圧四流体ノズル等を用いた噴霧方法が挙げられる。噴霧乾燥における噴霧温度は、例えば、180℃以上300℃以下である。
【0040】
[焼成工程]
焼成工程は、乾燥工程にて得られた凝集体を焼成することにより、凝集体に含まれる炭素源を炭化させる工程である。焼成工程における焼成条件は特に限定されるものでなく、炭素源を炭化できる条件であればよい。焼成工程における焼成温度は、例えば、500℃以上750℃以下である。焼成工程における焼成時間は、例えば、1時間以上12時間以下である。焼成工程における雰囲気は、例えば、非酸化性雰囲気下である。非酸化性雰囲気としては、例えば、窒素(N2)、アルゴン(Ar)等の不活性雰囲気、及び水素(H2)等の還元性ガスを含む還元性雰囲気が挙げられる。
【0041】
<正極>
次に、本実施形態の正極材料を含む正極100について説明する。
図3に示すように、正極100は、第1表面101aを有する正極集電体101と、正極集電体101の第1表面101aに形成された正極活物質層102とを備える。
【0042】
[正極集電体]
正極集電体101は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、正極活物質層102に電流を流し続けるための化学的に不活性な電気伝導体である。正極集電体101は、例えば、箔状である。箔状の正極集電体101の厚さは、例えば、1μm以上であり、好ましくは10μm以上である。箔状の正極集電体101の厚さは、例えば、100μm以下であり、好ましくは60μm以下である。
【0043】
正極集電体101を構成する材料としては、例えば、金属材料、導電性樹脂材料、導電性無機材料が挙げられる。上記金属材料としては、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼が挙げられる。上記導電性樹脂材料としては、例えば、導電性高分子材料又は非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーが添加された樹脂等が挙げられる。正極集電体101は、上記の金属材料又は導電性樹脂材料を含む1以上の層を含む複数層を備えてもよい。
【0044】
正極集電体101の一例は、アルミニウム集電体である。アルミニウム集電体は、アルミニウム単体からなるものであってもよいし、アルミニウム合金からなるものであってもよい。アルミニウム合金としては、例えば、Al-Mn合金、Al-Mg合金、Al-Mg-Si合金が挙げられる。
【0045】
正極集電体101の第1表面101aは、カーボンコート層などの公知の保護層により被覆されてもよい。正極集電体101の第1表面101aは、メッキ処理等の公知の方法により処理されてもよい。
【0046】
[正極活物質層]
正極活物質層102は、正極集電体101の第1表面101aに設けられている。正極活物質層102の目付量は、例えば、20mg/cm2以上であり、好ましくは30mg/cm2以上である。正極活物質層102の目付量は、例えば、150mg/cm2以下であり、好ましくは100mg/cm2以下である。正極活物質層102の厚さは、例えば、80μm以上であり、好ましくは100μm以上である。正極活物質層102の厚さは、例えば、1000μm以下であり、好ましくは800μm以下である。
【0047】
正極活物質層102は、リチウムイオン等の電荷担体を吸蔵及び放出し得る正極活物質を含む。正極活物質層102は、正極活物質として上記の造粒体10を含む。正極活物質層102は、造粒体10以外のその他の正極活物質を含んでいてもよい。その他の正極活物質としては、例えば、層状岩塩構造を有するリチウム複合金属酸化物、スピネル構造の金属酸化物、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウム以外のポリアニオン系化合物が挙げられる。その他の正極活物質は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、その他の正極活物質を含む場合、正極活物質全体に占める造粒体10の質量割合が50%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
【0048】
正極活物質層102における正極活物質の含有量は、特に限定されるものではない。正極活物質層102における正極活物質の含有量は、例えば、95質量%以上であり、好ましくは96質量%以上である。正極活物質層102における正極活物質の含有量は、例えば、99.5質量%以下であり、好ましくは99質量%以下である。
【0049】
正極活物質層102は、必要に応じて電気伝導性を高めるための導電助剤、結着剤、電解質(ポリマーマトリクス、イオン伝導性ポリマー、液体電解質等)、イオン伝導性を高めるための電解質支持塩(リチウム塩)等をさらに含有してもよい。
【0050】
導電助剤は、正極100の導電性を高めるために添加される。導電助剤としては、例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0051】
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド及びポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸等のアクリル系樹脂、スチレン-ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウム等のアルギン酸塩、水溶性セルロースエステル架橋体、及びデンプン-アクリル酸グラフト重合体等を例示することができる。これらの結着剤は、単独で又は複数で用いられ得る。溶媒又は分散媒には、例えば、水、N-メチル-2-ピロリドン等が用いられる。
【0052】
<正極の製造方法>
次に、正極100の製造方法の一例について説明する。
正極100の製造方法の一例は、正極合材を調製する混合工程と、正極合材を用いて正極活物質層を形成する活物質層形成工程とを含む。正極100は、混合工程及び活物質層形成工程を順に経ることにより製造される。
【0053】
[調製工程]
調製工程は、固化することにより正極活物質層102となる正極合材を調製する工程である。正極合材は、正極活物質と、水系結着剤と、水系溶媒とを含むスラリーである。
【0054】
正極合材に配合される正極活物質は、正極100の説明欄において記載した正極活物質と同様である。
正極合材における正極活物質の含有量は、例えば、正極合材に含有される固形分の合計質量、即ち、水系溶媒を除いた正極合材の質量(以下、固形分質量と記載する。)を100質量部としたとき、70質量部以上99質量部以下であり、好ましくは90質量部以上98質量部以下である。
【0055】
水系結着剤は、水系溶媒に溶解可能又は分散可能な結着剤であり、水系溶媒に分散又は溶解させた状態で正極活物質と混合して用いられる結着剤である。水系結着剤は、特に限定されず、リチウムイオン二次電池の正極活物質層に含まれる水系結着剤として従来公知の材料を用いることができる。
【0056】
水系結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸等のアクリル系樹脂、スチレン-ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウム等のアルギン酸塩、水溶性セルロースエステル架橋体、デンプン-アクリル酸グラフト重合体が挙げられる。正極活物質層102に含まれる水系結着剤は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0057】
正極合材における水系結着剤の含有量は、例えば、固形分質量を100質量部としたとき、1質量部以上30質量部以下であり、好ましくは1質量部以上5質量部以下である。
正極合材に含有される水系溶媒としては、正極材料の製造方法において使用した水系溶媒と同じものを用いることができる。正極合材における水系溶媒の含有量は特に限定されるものではないが、例えば、正極合材の固形分比率が30~60質量%となる含有量である。
【0058】
正極合材は、必要に応じて、電気伝導性を高めるための導電助剤、電解質(ポリマーマトリクス、イオン伝導性ポリマー、電解液等)、イオン伝導性を高めるための電解質支持塩(リチウム塩)等の任意成分を含有してもよい。
【0059】
[活物質層形成工程]
活物質層形成工程は、上記の正極合材を用いて、正極集電体101の第1表面101aに正極活物質層102を形成する工程である。
【0060】
活物質層形成工程において、スラリー状の正極合材を用いて正極集電体101の第1表面101aに正極活物質層102を形成する方法は特に限定されるものではなく、正極集電体101及び正極活物質層102を備える正極100の形成に適用される公知の方法を用いることができる。
【0061】
例えば、正極集電体101の第1表面101aに対して、正極合材を所定厚みとなるように塗工する。次いで、塗工により形成された塗膜を乾燥及び固化させる処理を行うことにより正極活物質層102を形成する。正極合材の塗工方法としては、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来公知の方法を適用できる。
【0062】
<効果>
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)リチウムイオン二次電池用の正極材料は、一般式LiMnxFeyPO4(x、yは、x+y=1、0<x<1、0<y<1を満足する数値である。)で表されるオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムにより構成されるコア11と、コア11の表面に形成された炭素被膜12とを有する造粒体10を含む。コア11は、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの一次粒子11aが凝集した構造を有する。一次粒子11aの粒子径は、100nm以下である。造粒体10における2nm以上300nm以下の細孔径の範囲における細孔容積は、0.2cm3/g以下であり、炭素含有量は、1.8質量%以上3.0質量%以下である。
【0063】
上記構成の正極材料は、正極100の正極活物質層102に含まれる正極活物質として用いられる。正極100の正極活物質層102は、正極活物質を含むスラリー状の正極合材を正極集電体101の第1表面101aに塗工し、塗工により形成された塗膜を乾燥させることにより製造される。上記正極合材に含まれる正極活物質として、上記構成の正極材料を用いることにより、正極活物質層102の目付量を大きくするために塗膜を厚く形成した場合においても、乾燥時の塗膜の収縮に起因して正極活物質層102に生じる割れを抑制できる。つまり、上記構成の正極材料を用いることにより、目付量が大きい、例えば、目付量が30mg/cm2以上である正極活物質層102を製造する場合における正極活物質層102の成膜性が向上する。加えて、正極活物質層102の目付量を大きくすることに基づく電池性能の向上効果、例えば、リチウムイオン二次電池の容量の増加効果を得ることができる。したがって、上記構成の正極材料によれば、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムを含む正極活物質層の目付量を大きくした場合における成膜性と電池特性の向上とを両立させることができる。
【0064】
(2)リチウムイオン二次電池用の正極材料の製造方法は、一般式LiMnxFeyPO4(x、yは、x+y=1、0<x<1、0<y<1を満足する数値である。)で表されるオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粒子を、水系溶媒、炭素源、及びカルボン酸の存在下で粉砕することにより、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粉砕物を含むスラリー(第2スラリーに相当)を作製する工程(粉砕工程に相当)と、スラリー(第2スラリーに相当)を噴霧乾燥することにより粉砕物の凝集体を得る工程(乾燥工程に相当)と、凝集体を焼成することにより凝集体に含まれる炭素源を炭化させる工程(焼成工程に相当)とを含む。
【0065】
上記構成によれば、水系溶媒中かつカルボン酸の存在下にて、上記粒子の粉砕が行われるため、粉砕時に溶出した溶出金属がカルボン酸に捕捉される。溶出金属がカルボン酸に捕捉されることにより、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粒子の粉砕物の表面、特に、粉砕により形成された新生面に対して、溶出金属が接触することが抑制される。その結果、粉砕物の粒子間に溶出金属をネック部分とするネッキングの発生が抑制される。そして、ネッキングの発生が抑制される結果、ネッキングに起因するリチウムイオン二次電池の電池性能が低下を抑制できる。また、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粒子を粉砕した後に、カルボン酸を添加した場合と比較して、造粒体10における2nm以上300nm以下の細孔径の範囲における細孔容積を小さくすることができる。
【0066】
(3)カルボン酸は、クエン酸である。クエン酸は、粉砕時に溶出する溶出金属であるLi、Mn、及びFeを捕捉する能力が高い。そのため、上記(2)の効果がより顕著に得られる。
【0067】
(4)スラリーにおけるカルボン酸の含有量は、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウム100質量部に対して10質量部以下である。この場合には、造粒体10における2nm以上300nm以下の細孔径の範囲における細孔容積が小さい造粒体10を製造することができる。
【0068】
<変更例>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0069】
○正極材料の製造方法において、カルボン酸を加えるタイミングを変更してもよい。例えば、混合工程において、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粒子、水系溶媒、及び炭素源を含む第1スラリーを作製する。その後、粉砕工程において、カルボン酸又はカルボン酸の溶液を加えながら、第1スラリーに含まれるオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粒子を粉砕する処理を行う。この場合にも、水系溶媒中かつカルボン酸の存在下にて、上記粒子の粉砕が行われるため、カルボン酸が溶出金属を捕捉することに基づくネッキングの発生を抑制する効果が得られる。
【実施例0070】
以下に、上記実施形態をさらに具体化した実施例について説明する。
<オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの作製>
純水(12000ml)、Li源としてのLiOH(245g)、Mn源としてのMnCO3(840g)、Fe源としてのFe2C2O4(401g)、及びPO4源としてのH3PO4(1125g)を混合することにより第1前駆体スラリーを得た。得られた第1前駆体スラリーに直径0.3mmのビーズ(媒体粒子)を加えた後、ビーズミルを用いて、第1前駆体スラリーに含まれるLi源、Mn源、及びFe源を粉砕した。これにより、Li源、Mn源、及びFe源の粉砕物を含む第2前駆体スラリーを得た。ビーズミルを用いた粉砕処理は、Li源、Mn源、及びFe源の平均粒子径(D50)が50nm以上1000nm以下の範囲内になるように行った。次いで、スプレードライヤー(乾燥出口温度:200℃)を用いて、第2前駆体スラリーを乾燥及び造粒することにより前駆体乾燥物を得た。得られた前駆体乾燥物を、N2雰囲気下にて、500℃で6時間、加熱することにより、一般式LiMn0.75Fe0.25PO4で表されるオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムを得た。
【0071】
<造粒体の作製>
[実施例1]
純水(405ml)中、作製したオリビン型リン酸マンガン鉄リチウム(45g)、炭素源としてのフルクトース、及びカルボン酸としてのクエン酸(2g)を混合することにより第1スラリーを得た。フルクトースの配合量は、フルクトース中の炭素及びクエン酸中の炭素の合計質量である総炭素量が、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウム100質量部に対して2.5質量部となる量とした。
【0072】
得られた第1スラリーに直径0.1mmのビーズ(媒体粒子)を加えた後、ビーズミルを用いて、第1スラリーに含まれるオリビン型リン酸マンガン鉄リチウムを粉砕した。これにより、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの粉砕物を含む第2スラリーを得た。ビーズミルを用いた粉砕処理は、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの平均粒子径(D50)が60nm以上100nm以下の範囲内になるように行った。
【0073】
次いで、スプレードライヤー(乾燥出口温度:200℃)を用いて、第2スラリーを乾燥及び造粒することにより上記粉砕物の凝集体を得た。得られた凝集体を、N2雰囲気下にて、650℃で6時間、加熱することにより、凝集体に含まれるフルクトース及びクエン酸を炭化させた。これにより、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムにより構成されるコアと、コアの表面に形成された炭素被膜とを有する実施例1の造粒体を得た。
【0074】
[実施例2~10及び比較例1~4]
実施例2~10及び比較例1~4は、クエン酸の配合量を変更した例である。第1スラリーにおけるクエン酸及びフルクトースの各配合量を変更した点を除いて、実施例1と同様の方法により実施例2~10及び比較例1~4の造粒体を得た。各例におけるクエン酸の配合量は、下記の表2に示すとおりである。各例におけるフルクトースの配合量は、クエン酸の配合量に合わせて、上記総炭素量がオリビン型リン酸マンガン鉄リチウム100質量部に対して2.5質量部となる量にそれぞれ調整した。
【0075】
[比較例5~7]
比較例5~7は、主に、ビーズミルを用いた粉砕処理を粗く行った例である。
クエン酸の配合量を0とした点、及びビーズミルを用いた粉砕処理を、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの平均粒子径(D50)が60nm以上150nm以下の範囲内になるように行った点を除いて、実施例1と同様の方法により比較例5の造粒体を得た。
【0076】
ビーズミルを用いた粉砕処理を、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの平均粒子径(D50)が100nm以上120nm以下の範囲内になるように行った点を除いて、実施例5と同様の方法により比較例6の造粒体を得た。
【0077】
ビーズミルを用いた粉砕処理を、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウムの平均粒子径(D50)が140nm以上160nm以下の範囲内になるように行った点を除いて、実施例5と同様の方法により比較例7の造粒体を得た。
【0078】
[比較例8~9]
比較例8~9は、炭素源であるフルクトースの配合量を増加させた例である。
上記総炭素量が、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウム100質量部に対して3.2質量部となる量に調整した点を除いて、実施例5と同様の方法により比較例8の造粒体を得た。
【0079】
上記総炭素量が、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウム100質量部に対して5.1質量部となる量に調整した点を除いて、実施例5と同様の方法により比較例9の造粒体を得た。
【0080】
[比較例10]
比較例10は、クエン酸の配合タイミングを変更した例である。第1スラリー中にクエン酸(2g)を混合せずに、ビーズミルを用いた粉砕処理後の第2スラリーにクエン酸(2g)を混合した点除いて、実施例1と同様の方法により比較例10の造粒体を得た。
【0081】
<造粒体の分析>
各実施例及び各比較例の造粒体について、一次粒子の粒子径、2nm以上300nm以下の細孔径の範囲における細孔容積、及び炭素含有量を測定した。その結果を表2に示す。
【0082】
一次粒子の粒子径は、以下のようにして求めた。SAXS法を用いて、一次粒子を球状と仮定した一次粒子の粒子径分布を求めた。求めた粒子径分布から得られる平均粒子径(D50)を算出し、この値を一次粒子の粒子径とした。
【0083】
細孔容積は、以下のようにして求めた。比表面積/細孔分布測定装置を用いて、正極活物質の細孔を測定した。BJH法による解析から、細孔直径2nm以上300nm以下の領域にて造粒体の積算細孔分布を求めた。横軸に細孔直径、縦軸に積算細孔容積をプロットし、細孔直径2nmと300nmの積算細孔容積の差から2nm以上300nm以下の細孔径の範囲における細孔容積を算出した。
【0084】
炭素含有量は、炭素・硫黄分析装置を用いて測定した。
<正極の作製>
厚さ15μmアルミニウム箔の片側の表面に正極合材を塗工した。塗工された正極合材を乾燥させることにより、正極集電体の片側の表面に正極活物質層が形成された正極を作製した。正極合材としては、各実施例及び各比較例の造粒体(正極活物質)、カーボンナノチューブ(導電助剤)、カルボキシメチルセルロース(結着剤)、及びスチレン-ブタジエンゴム(結着剤)を、固形分質量比98.25:0.05:0.4:1.3の割合で含有し、水を溶媒とするスラリーを用いた。作製した各正極における正極活物質層の目付け量を測定した。その結果、その測定値はいずれも約65~75mg/cm2であった。
【0085】
<成膜性の評価>
作製した各正極における正極活物質層の表面の状態を目視により評価した。その結果を表2に示す。当該評価の評価基準は、以下のとおりである。参考として、
図4(a)に、成膜性の評価が「○」であった実施例1を用いた正極活物質層の写真を示すとともに、
図4(b)に、成膜性の評価が「×」であった比較例1を用いた正極活物質層の写真を示す。
【0086】
「○」:正極活物質層の表面に割れがない。
「×」:正極活物質層の表面に割れがある。
<電気化学試験>
作製した正極のうち、成膜性の評価の評価「○」であった正極を用いて正極ハーフセルを作製した。作製した正極を25mm角に裁断してなる正極電極(評価極)と、厚さ200μmの金属リチウム箔を27mm角に裁断してなる負極電極との間にセパレータを挟装して電極体電池とした。外装材であるラミネート内に、電極体電池を収容するとともに非水電解質を注入して外装材を密閉することにより、電気化学試験用のハーフセルを得た。セパレータとしては、ヘキストセラニーズ社製ガラスフィルターを用いた。非水電解質としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比1:1で混合した混合溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウムを1Mの濃度となるように溶解させた非水電解質を用いた。
【0087】
作製した正極ハーフセルに対して、25℃、0.05Cの一定電流にて、4.3Vまで充電を行い、3.0Vまで放電を行った。このときの放電容量を測定した。その結果を表2に示す。
【0088】
【表2】
表2に示すように、実施例1~10の造粒体は、以下に記載する3条件を全て満たしている。
【0089】
条件1:一次粒子の粒子径が100nm以下である。
条件2:細孔容積が0.2cm3/g以下である。
条件3:炭素含有量が3.0質量%以下である。
【0090】
実施例1~10の造粒体を正極活物質として用いて形成した正極活物質層は、その表面には割れが確認されなかった。実施例1~10の造粒体を正極活物質として用いた場合の放電容量は、147~149.1mAh/gであった。
【0091】
これに対して、比較例1~4の造粒体は、条件1及び条件3は満たしているものの、細孔容積が大きいため、細孔容積に関する条件2を満たしていない。比較例1~4の造粒体を正極活物質として用いて形成した正極活物質層は、その表面に割れが確認された。この結果から、目付量の大きい正極活物質層を形成する場合における良好な成膜性を確保するためには、細孔容積を0.2cm3/g以下にすることが有効であることが分かる。
【0092】
一方、比較例5~7の造粒体は、条件2及び条件3は満たしているものの、一次粒子の粒子径が大きいため、条件1を満たしていない。比較例5~7の造粒体を正極活物質として用いて形成した正極活物質層は、その表面には割れが確認されなかった。しかしながら、比較例5~7の造粒体を正極活物質として用いた場合の放電容量は、132~141mAh/gであり、実施例1~10の造粒体を正極活物質として用いた場合の放電容量と比較して、顕著に低い値であった。
【0093】
比較例8~9の造粒体は、条件1及び条件2は満たしているものの、炭素含有量が多いため、条件3を満たしていない。比較例8~9の造粒体を正極活物質として用いて形成した正極活物質層は、その表面には割れが確認されなかった。しかしながら、比較例8~9の造粒体を正極活物質として用いた場合の放電容量は、133.5~139.9mAh/gであり、実施例1~10の造粒体を正極活物質として用いた場合の放電容量と比較して、顕著に低い値であった。
【0094】
比較例5~9の造粒体を用いた場合の上記結果は、目付量の大きい正極活物質層を良好に成膜するのみでは、リチウムイオン二次電池の容量の増加効果を得ることができないことを示している。そして、リチウムイオン二次電池の容量の増加効果を得るためには、細孔容積を0.2cm3/g以下にすることに加えて、一次粒子の粒子径を100nm以下とすること、及び炭素含有量を3.0質量%以下とすることが必要であることが分かる。
【0095】
次に、クエン酸の配合量と、得られる造粒体の細孔容積との関係について考察する。実施例1~10及び比較例1~3の結果を参照すると、オリビン型リン酸マンガン鉄リチウム100質量部に対して10質量部以下の範囲においては、クエン酸の配合量が増加するにしたがって、得られる造粒体の細孔容積が小さくなっている。一方、クエン酸の配合量が15質量部である比較例4の造粒体の細孔容積は、クエン酸の配合量が10質量部である実施例8~10の造粒体の細孔容積の2倍以上に増加している。この結果から、クエン酸等のカルボン酸の配合量を増加させることにより、造粒体の細孔容積を小さくすることができるが、カルボン酸の配合量を特定量以上に増加させた場合には、造粒体の細孔容積が反対に大きくなってしまうことが分かる。
【0096】
次に、クエン酸の配合タイミングについて考察する。比較例10は、第1スラリー中にクエン酸を混合せずに、粉砕処理後の第2スラリーにクエン酸を混合した例である。比較例10の造粒体の細孔容積は、クエン酸の配合タイミングのみが異なる実施例1の造粒体の細孔容積と比較して、1.5倍に大きくなっている。この結果から、細孔容積を小さくするためには、クエン酸等のカルボン酸の存在下で粉砕処理を行うことが必要であることが分かる。