(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156439
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】静止誘導機器、静止誘導機器の製造方法、及び静止誘導機器の製造方法に用いる治具
(51)【国際特許分類】
H01F 27/06 20060101AFI20241029BHJP
H01F 41/00 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
H01F27/06
H01F41/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070898
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】大森 茂生
【テーマコード(参考)】
5E059
【Fターム(参考)】
5E059BB14
5E059BB17
5E059KK12
5E059LL04
(57)【要約】
【課題】比較的簡単な構造で耐震性能を向上した静止誘導機器容器、静止誘導機器の製造方法及び静止誘導機器の製造方法に用いる治具を提供する。
【解決手段】静止誘導機器は、金属部材で構成される容器と、容器に収納される中身と、を備える。中身は、下面を厚み方向に貫通して形成された一又は複数の受け部を有し、容器は、金属部材で構成され中身が容器に収納された状態で受け部と位置合わせされ容器の底面から上方に延びて形成されて受け部に挿入されることで中身の容器に対する相対的な移動を規制する一又は複数の振れ止め部と、一又は複数の振れ止め部と容器とを接合する一又は複数の肉盛部とを有し、容器内部において、一又は複数の肉盛部を含めた一又は複数の振れ止め部の外寸は、振れ止め部自体の外寸と一致する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材で構成される容器と、
前記容器に収納される中身と、を備え、
前記中身は、下面を厚み方向に貫通して形成された一又は複数の受け部を有し、
前記容器は、金属部材で構成され前記中身が前記容器に収納された状態で前記受け部と位置合わせされ前記容器の底面から上方に延びて形成されて前記受け部に挿入されることで前記中身の前記容器に対する相対的な移動を規制する一又は複数の振れ止め部と、前記一又は複数の振れ止め部と前記容器とを接合する一又は複数の肉盛部とを有し、
前記容器内部において、前記一又は複数の肉盛部を含めた前記一又は複数の振れ止め部の外寸は、前記振れ止め部自体の外寸と一致する、
静止誘導機器。
【請求項2】
前記一又は複数の振れ止め部は、上部が開口した中空筒状に形成されており、
前記一又は複数の肉盛部は、前記一又は複数の振れ止め部の内周面に沿って形成されている、
請求項1に記載の静止誘導機器。
【請求項3】
前記一又は複数の振れ止め部の内寸は、前記一又は複数の振れ止め部の前記底面からの高さ寸法よりも大きく設定されている、
請求項2に記載の静止誘導機器。
【請求項4】
前記容器は、前記一又は複数の振れ止め部のうち少なくとも一の振れ止め部の平面視内側において前記底面を貫通して形成されて前記容器の内部と外部とを連通する底面開口を有する、
請求項2に記載の静止誘導機器。
【請求項5】
前記振れ止め部は、壁部に前記振れ止め部の内部と前記振れ止め部の外部であってかつ前記容器の内部とを連通する連通部を有する、
請求項4に記載の静止誘導機器。
【請求項6】
金属部材で構成される容器と、前記容器に収納される中身と、を備える静止誘導機器の製造方法であって、
前記容器の内底面に、前記内底面の幅寸法及び奥行き寸法よりも小さく、前記中身の前記内底面への投射面積の幅寸法及び奥行き寸法よりも大きく設定された板状に形成され、厚み方向に貫通して形成された一又は複数の貫通孔を有する治具を配置する工程と、
前記一又は複数の貫通孔の各々に、金属部材で構成され上部が開口した円筒形状の振れ止め部前駆体を挿入する工程と、
前記振れ止め部前駆体の内周面を溶接によって前記内底面に接合して振れ止め部を形成する工程と、を含む、
静止誘導機器の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の静止誘導機器の製造方法に用いる治具であって、
幅寸法及び奥行き寸法が前記内底面の寸法よりも小さく前記中身の前記内底面への投射面積の寸法よりも大きく設定された板状に形成され、
前記振れ止め部の配置箇所に位置合わせされて前記治具の厚み方向に貫通して形成された一又は複数の貫通孔を有し、
前記一又は複数の貫通孔の内寸は、前記一又は複数の振れ止め部の外寸よりも大きく設定されている、
治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の本実施形態は、静止誘導機器、静止誘導機器の製造方法、及び静止誘導機器の製造方法に用いる治具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば油入絶縁変圧器等の静止誘導機器は、容器に巻線と鉄心とを有する静止誘導機器本体を絶縁油等の絶縁媒体とともに収納して構成されている。
【0003】
このような静止誘導機器において、静止誘導機器本体は、容器内で静止誘導機器本体が動かないように、容器に固定する必要がある。
【0004】
例えば特許文献1は、調整式固定機構は、横方向にスライド可能な一対の挟持片を備えて、コア部を載置して固定する振れ止め用台座と、コア部の上部を、所定の長さのスペーサを介して内壁にネジ止め固定するよう、縦方向に複数のネジ孔を列設して成る上部振れ止め座により形成されている、電力用変圧器の鉄心・コイル巻線等の内部部品から成るコア部を固定する調整式固定機構を備えた電力用変圧器の汎用交換外箱を開示している。
【0005】
また特許文献2は、鉄心と鉄心に巻き回された巻線を有する組立体と、前記組立体を収容する容器を有する変圧器であって、前記変圧器中身の上方に取り付けた、前記容器との固定金具と、前記容器の内壁に設けた、前記固定金具との接続部である取付座と、を備え、前記固定金具の取付部または前記容器の取付座の一方に設けた固定溝と、前記固定金具の取付部または前記容器の取付座の他方に設けた凸部とが嵌まり合うことによって、前記変圧器中身が前記容器に固定される変圧器を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-196759号公報
【特許文献2】特開2020-188093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
南海トラフ巨大地震、首都直下地震等の大型震災の発生が想定される中、変圧器等の静止誘導機器の耐震性能の更なる向上が求められている。
【0008】
静止誘導機器の耐震性能を向上するためには、剛性や強度の高い部材を使用する等、原材料コストの増加や、部品点数の増加や構造の複雑化等により、製造コストや製造時の作業性の悪化も懸念される。
【0009】
そこで、比較的簡単な構造で耐震性能を向上した静止誘導機器容器、静止誘導機器の製造方法及び静止誘導機器の製造方法に用いる治具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本実施形態の静止誘導機器は、金属部材で構成される容器と、前記容器に収納される中身と、を備える。前記中身は、下面を厚み方向に貫通して形成された一又は複数の受け部を有し、前記容器は、金属部材で構成され前記中身が前記容器に収納された状態で前記受け部と位置合わせされ前記容器の底面から上方に延びて形成されて前記受け部に挿入されることで前記中身の前記容器に対する相対的な移動を規制する一又は複数の振れ止め部と、前記一又は複数の振れ止め部と前記容器とを接合する一又は複数の肉盛部とを有し、前記容器内部において、前記一又は複数の肉盛部を含めた前記一又は複数の振れ止め部の外寸は、前記振れ止め部自体の外寸と一致する。
【0011】
本実施形態の静止誘導機器の製造方法は、金属部材で構成される容器と、前記容器に収納される中身と、を備える静止誘導機器の製造方法であって、前記容器の内底面に、前記内底面の幅寸法及び奥行き寸法よりも小さく、前記中身の前記内底面への投射面積の幅寸法及び奥行き寸法よりも大きく設定された板状に形成され、厚み方向に貫通して形成された一又は複数の貫通孔を有する治具を配置する工程と、前記一又は複数の貫通孔の各々に、金属部材で構成され上部が開口した円筒形状の振れ止め部前駆体を挿入する工程と、前記振れ止め部前駆体の内周面を溶接によって前記内底面に接合して振れ止め部を形成する工程と、を含む。
【0012】
本実施形態の静止誘導機器の製造方法に用いる治具は、幅寸法及び奥行き寸法が前記内底面の寸法よりも小さく前記中身の前記内底面への投射面積の寸法よりも大きく設定された板状に形成され、前記振れ止め部の配置箇所に位置合わせされて前記治具の厚み方向に貫通して形成された一又は複数の貫通孔を有し、前記一又は複数の貫通孔の内寸は、前記一又は複数の振れ止め部の外寸よりも大きく設定されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態による静止誘導機器を変圧器に適用した例についての概略構成図
【
図2】第1実施形態による静止誘導機器を変圧器に適用した例についての縦断面図
【
図3】第1実施形態による静止誘導機器を変圧器に適用した例についての容器本体の平面図
【
図4】第1実施形態による静止誘導機器を変圧器に適用した例についての変圧器中身の底面図
【
図5】第1実施形態の容器の振れ止め部周辺の縦断面図
【
図6】第1実施形態の容器に変圧器本体が収納された状態を示す振れ止め部周辺の縦断面図
【
図7】第1実施形態による静止誘導機器を変圧器に適用した例についての振れ止め部の製造過程を示す図(その1)
【
図8】第1実施形態による静止誘導機器を変圧器に適用した例についての振れ止め部の製造過程を示す図(その2)
【
図9】第1実施形態による静止誘導機器を変圧器に適用した例についての振れ止め部の製造過程を示す図(その3)
【
図10】比較例の容器に変圧器本体が収納された場合の振れ止め部周辺を示す縦断面図
【
図11】第2実施形態による静止誘導機器を変圧器に適用した例についての縦断面図
【
図12】第2実施形態による静止誘導機器を変圧器に適用した例についての容器の振れ止め部周辺を示す断面図
【
図13】その他の実施形態による静止誘導機器を変圧器に適用した例についての容器の振れ止め部周辺を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、複数の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各実施形態において同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0015】
(第1実施形態)
第1実施形態について
図1~
図10を参照して説明する。
図1に示す変圧器10は、実施形態の静止誘導機器の適用例の一例であり、例えば油入モールド変圧器である。なお、変圧器10は、モールド変圧器に限らず、また油入変圧器に限らない。以下の説明では、変圧器10を
図1の姿勢で床面設置した場合における重力方向に対する上下方向を、変圧器10の上下方向と、
図1の紙面に直交する方向を変圧器10の前後方向と、
図1の左右方向を変圧器10の左右方向とする。
【0016】
変圧器10は、
図1及び
図2に示すように、容器20と、変圧器中身30とを備える。変圧器10は更に、図示しない絶縁油等の絶縁媒体と、変圧器中身30を容器20に固定するボルトやナットなどの締結具、変圧器中身30から導出されるリード線、当該リード線を変圧器10外部に接続する接続端子等を備える。
【0017】
図1及び
図2に示すように、容器20は概ね矩形の箱状に形成されて、内部に変圧器中身30を収納する。容器20は、容器本体21と蓋部材22とを含んで構成される。
図3に示すように、容器本体21は上部が開口した概ね矩形の容器上に形成されている。容器本体21は、前後左右の壁面を構成する側面23と、容器20の底部を構成する底面24と、上部開口25とを有する。蓋部材22は、容器本体21に着脱可能に装着されて上部開口25を開閉する。容器本体21と蓋部材22とは、例えば鋼板などの金属部材で形成されている。
【0018】
変圧器中身30は、変圧器としての機能を有する変圧器10の本体である。変圧器中身30は、鉄心31と、巻線32と、上下のクランプ33、34とを含んで構成される。鉄心31は、例えばケイ素鋼板等の電磁鋼板の薄板を積層して矩形の筒状に構成されている。巻線32は、鉄心31の脚部の周囲に巻回されている。上下のクランプ33、34は、例えば鋼板等により構成されており、巻線32から上下方向に突出した鉄心31の上部と下部とに配置されて、鉄心31を上下から挟み込んでいる。本実施形態では、変圧器10は鉄心31が巻線32の外側に位置する、いわゆる外鉄式変圧器である。
【0019】
図2、
図3等に示すように、容器20は、一又は複数この場合2個の振れ止め部40を有する。振れ止め部40は、ボルトやナットなどの図示しない締結部材等で固定していてもなお変圧器中身30が大きく揺れる可能性がある場合に、容器20に収容された変圧器中身30を、容器20に対して相対的に所定以上の距離、水平移動することを抑制する機能を有する。すなわち、振れ止め部40は、変圧器中身30の相対移動を抑制することにより、地震等により変圧器10が揺れた場合に、変圧器中身30が相対移動した結果、容器本体21の側面23と接触して破損することを抑制する。
【0020】
振れ止め部40は、底面24の容器20に関する内側の面である内底面241に配置されている。振れ止め部40は、内底面241から上方に突出して形成されている。複数この場合2つの振れ止め部40は、概ね容器本体21の前後方向の中心線上であって、容器本体21の左の側面23寄りと、右の側面23寄りとにそれぞれ配置されている。
【0021】
図4に示すように、変圧器中身30は、振れ止め部40と位置合わせされた一又は複数この場合2個の受け部35を有する。受け部35は、振れ止め部40を内部に受け入れて又は振れ止め部40の挿入を許して、振れ止め部40に対する変圧器中身30の水平方向への所定以上の距離の相対的な移動を規制する。本実施形態では、受け部35は、下クランプ34の下面341に形成されている。
【0022】
受け部35は、変圧器中身30この場合下クランプ34の下面341を下クランプ34の下面341を厚み方向に貫通して又は上方に向けて窪ませて形成されている。本実施形態では、受け部35は、下クランプ34の下面341を厚み方向に貫通して底面視円形の貫通孔に形成されている。
【0023】
図5、
図6等に示すように、振れ止め部40は、上部が開口した中空の筒状に形成されている。本実施形態では、振れ止め部40は、円筒状に形成されている。
図6に示すように、振れ止め部40の外寸つまり外径Rは、受け部35の内寸xよりも若干小さく設定されている。振れ止め部40は、例えば軟鋼などの金属部材で構成されている。
【0024】
図5に示すように、振れ止め部40は、例えばアーク溶接又はTIG溶接などの方法により、内底面241に接合されている。すなわち、振れ止め部40と内底面241との溶接部位は、容器20の内部において振れ止め部40の外周面側に突出していない。溶接部位を含めた振れ止め部40の外寸は、振れ止め部40自体の外寸に一致する。
【0025】
本実施形態では、振れ止め部40は、肉盛部41を有している。肉盛部41は、振れ止め部40と内底面241との溶接によって形成され、振れ止め部40と内底面241との間に設けられて振れ止め部40と内底面241とを接合する。肉盛部41は、振れ止め部40の壁部の下部に形成されている。振れ止め部40は筒状の内周面の下端部において溶接により容器本体21に接合されている。肉盛部41は、振れ止め部40の内周面に沿って溶接トーチ100により溶接することで形成される。この場合、肉盛部41は、振れ止め部40と底面24との間に溶接により形成されたいわゆるビードである。
図5に示すように、肉盛部41は断面が三角形の形状であり、本実施形態では、平面視円環状に形成されている。
【0026】
この場合、溶接は直交する面同士を接合するいわゆる隅肉溶接となる。隅肉溶接においては、溶接トーチ100を溶接する各面から約45°となるように寝かせることが好ましいとされている。この場合、振れ止め部40の下端部つまり内底面241から上端部401までの長さ寸法である高さ寸法Hが振れ止め部40の内寸以上に設定されていると、振れ止め部40の壁部が溶接トーチ100に当たってしまい、溶接作業の障害となる虞がある。
【0027】
図5に示すように、振れ止め部40の内底面241からの高さ寸法Hは、振れ止め部40の内寸この場合内径rよりも小さく設定されている。これにより、溶接トーチ100を溶接する各面から約45°となるように寝かせて使用しても、振れ止め部40の壁部が溶接トーチ100の障壁となり難い。
【0028】
図5に示すように、肉盛部41は、水平方向の脚長Lhと上下方向の脚長Lvとを有する。肉盛部41の水平方向の脚長Lhは、肉盛部41の、振れ止め部40の内周面に対して垂直方向の長さ寸法つまりこの場合円筒形の径方向の長さ寸法である。肉盛部41の上下方向の脚長Lvは、肉盛部41の上下方向の長さ寸法つまりこの場合円筒形の軸方向の長さ寸法である。水平方向の脚長Lhは、振れ止め部40の内寸この場合内径rの1/2倍よりも小さく設定されている。上下方向の脚長Lvは、振れ止め部40の高さ寸法Hよりも小さく設定されている。
【0029】
図6に示すように、変圧器中身30が容器20の所定の位置に収納された状態での触れ止め部40と変圧器中身30との隙間の水平方向の距離をクリアランスCとする。クリアランスCは、受け部35の内寸xから振れ止め部40の外径Rを差し引いて2で除して求められる。本実施形態では、クリアランスCは、脚長Lh未満に設定されている。クリアランスCは、変圧器中身30を、振れ止め部40と受け部35とを位置合わせして容器本体21に収容するのに必要十分な長さに設定されている。例えば、本実施形態では、クリアランスCは6mmに設定されている。そのため、変圧器10が所定以上の程度に揺れた際に変圧器中身30が水平方向に相対移動し難く、変圧器中身30と容器20の側面23とが衝突することが一層抑制される。
【0030】
図7~
図9も参照して、本実施形態による変圧器10の製造工程とりわけ振れ止め部40の製造方法について説明する。本実施形態では、容器本体21に、治具200を使用して振れ止め部40を形成する。治具200は、底面24の内寸よりも幅方向つまり左右方向及び奥行き方向つまり前後方向共に若干小さい寸法の略矩形の板状に形成されている。治具200の少なくとも1又は複数この場合4隅の角部201は、面取りがされている。これにより、治具200の寸法を底面24の寸法に極力近づけても、容器本体21と治具200との間に作業者の手指等を入れる隙間を確保することができる。
【0031】
治具200は、振れ止め部40の個数と同じ数この場合2個の貫通孔202を有する。貫通孔202は、振れ止め部40の配置場所に位置合わせされている。貫通孔202は、振れ止め部40の形状と相似関係にある形状、この場合円形に形成されている。貫通孔202の内寸この場合内径は、振れ止め部40の外寸この場合外径Rに挿入代の2倍を足した大きさに設定されている。挿入代は、製造公差の範囲内で貫通孔202に振れ止め部40を挿入することができる大きさであればよく、例えば0.01mm~1mmの範囲内に設定することができる。
【0032】
図7に示すように、作業者は、容器本体21の底面24の所定の位置に治具200を配置する。続いて、
図8に示すように、作業者は、貫通孔202を通して振れ止め部40となる円筒形の金属部材つまり振れ止め部40の前駆体40xを内底面241上に配置する。更に、
図9に示すように、当該前駆体40xを治具200によって仮固定した状態で、作業者は、振れ止め部40の内周面を溶接して、肉盛部41を含む振れ止め部40を形成する。
【0033】
振れ止め部40の形成後、作業者は治具200を容器本体21から取り外す。その後、作業者は変圧器中身30を振れ止め部40と位置合わせして容器本体21に収納する。図示しない配線、絶縁油などを容器本体21の所定の位置に格納して、作業者は、蓋部材22で上部開口25を閉塞する。このようにして、変圧器10を製造することができる。
【0034】
ここで、溶接の作業性等から、振れ止め部50の外周側から振れ止め部50と底面24とを溶接する、つまり肉盛部51を振れ止め部50の内周面ではなく外周面に沿って形成することも考えられる。特に、例えば振れ止め部50を中実の円柱状とした場合、振れ止め部50の内周側から溶接することができず、外周側から溶接する必要がある。
【0035】
この場合、
図10に示すように、例えば振れ止め部50と変圧器中身30とのクリアランスを水平方向つまり円柱形状の径方向に確保した場合について検討する。振れ止め部50と変圧器中身30とのクリアランスの寸法C1は、少なくとも肉盛部51の脚長Lh1よりも大きい必要がある。C1が大きい場合、変圧器10が所定以上の程度に揺れた際に変圧器中身30と容器20の側面23とが衝突する可能性が高まる。
【0036】
これに対して、本実施形態による静止誘導機器の一例の変圧器10は、金属部材で構成される容器20と、容器20に収納される中身としての変圧器中身30と、を備える。変圧器中身30は、下面341を厚み方向に貫通して形成された一又は複数の受け部35を有する。容器20は、一又は複数の振れ止め部40と、一又は複数の肉盛部41とを有する。一又は複数の振れ止め部40は、金属部材で構成され変圧器中身30が容器20に収納された状態で受け部35と位置合わせされ容器20の内底面241から上方に延びて形成されて受け部35に挿入されることで変圧器中身30の容器20に対する相対的な移動を規制する。一又は複数の肉盛部41は、一又は複数の振れ止め部40と容器20とを接合する。
【0037】
すなわち、一又は複数の肉盛部41は、振れ止め部40の外周面以外の部分に設けられている。換言すると、一又は複数の肉盛部41は、直接変圧器中身30に対して露出していない。そのため、肉盛部41は、受け部35に振れ止め部40が挿入される際に障壁となることがない。よって、肉盛部41を避けるために受け部35と振れ止め部40との間の水平方向のクリアランス又は内底面241と変圧器中身30との間上下方向のクリアランスを必要以上に大きく設定する必要がない。したがって、変圧器10が大きく揺れた場合にも変圧器中身30が底面24から外れて大きく揺れることが抑制され、変圧器中身30が容器20に衝突して破損することを抑制できる。よって、比較的簡単な構造で変圧器10の耐震性能を向上した静止誘導機器が提供される。
【0038】
一又は複数の振れ止め部40は、上部が開口した中空筒状に形成されている。一又は複数の肉盛部41は、一又は複数の振れ止め部40の内周面に沿って形成されている。
【0039】
これにより、振れ止め部40を中空筒状に形成することで、肉盛部41を振れ止め部40の内周面に沿って隙間なく配置することができる。したがって、振れ止め部40と底面24との間の接着を確実にすることができ、振れ止めの機能を増強することができる。したがって、一層、止誘導機器の耐震性が確保される。
【0040】
一又は複数の振れ止め部40の内寸この場合内径rは、一又は複数の振れ止め部40の内底面241からの高さ寸法Hよりも大きく設定されている。
【0041】
これにより、肉盛部41を溶接により形成する際に、溶接トーチ100を理想的な角度で保持して使用することができる。そのため、肉盛部41を適切に形成することができ、振れ止め部40と容器20との接合を強固にすることができる。したがって、一層静止誘導機器の耐震性が確保される。
【0042】
本実施形態の金属部材で構成される容器20と、容器20に収納される変圧器中身30と、を備える静止誘導機器である変圧器10の製造方法は、容器20の内底面241に、内底面241の幅寸法及び奥行き寸法よりも小さく、変圧器中身30の内底面214への投射面積の幅寸法及び奥行き寸法よりも大きく設定された板状に形成され、厚み方向に貫通して形成された一又は複数の貫通孔202を有する治具200を配置する工程と、一又は複数の貫通孔202の各々に、金属部材で構成され上部が開口した円筒形状の振れ止め部前駆体40xを挿入する工程と、振れ止め部前駆体40xの内周面を溶接によって内底面241に接合して振れ止め部40を形成する工程と、を含む。
【0043】
これにより、作業者は、貫通孔202内部の所定の位置に振れ止め部40を配置して溶接により固定することが容易となる。また、作業性が向上するため、振れ止め部40の配置及び溶接の精度を向上することができる。その結果製造公差を小さくすることができるため、振れ止め部40と受け部35との間のクリアランスCを小さく設定することができる。したがって、耐震性が向上した静止誘導機器の製造方法が提供される。
【0044】
本実施形態の変圧器10の製造方法に用いる治具200は、幅寸法及び奥行き寸法が、容器20の内底面241の寸法よりも小さく、変圧器中身30の内底面241への投射面積の寸法よりも大きく設定された板状に形成されている。治具200は、振れ止め部40の配置箇所に位置合わせされて治具200の厚み方向に貫通して形成された一又は複数の貫通孔202を有する。
【0045】
上述のように、治具を用いることで、作業者は、貫通孔202内部の所定の位置に振れ止め部40を配置して溶接により固定することが容易となる。また、作業性が向上するため、振れ止め部40の配置及び溶接の精度を向上することができる。したがって、耐震性が向上した静止誘導機器の製造方法に用いる治具が提供される。
【0046】
(第2実施形態)
図11~
図13を参照して、第2実施形態について説明する。本実施形態の静止誘導機器の一例である変圧器10は、上記実施形態による変圧器10の複数の振れ止め部40のうち少なくとも一つに替えて、振れ止め部50を備える。振れ止め部50は、絶縁油等の液状の絶縁媒体を容器20外部に排出する機能を有する。なお本実施形態では、容器20は、容器20の左の側面23寄りの縁部に振れ止め部50を有し、右の側面23寄りの縁部に振れ止め部40を有しているが、これに限らない。
【0047】
図11、
図12に示すように、底面24は、底面開口243を有する。底面開口243は、底面24を厚み方向この場合上下方向に貫通して形成された孔部である。底面開口243は、振れ止め部40の径方向内側つまり平面視における振れ止め部50の内側に配置されている。
【0048】
振れ止め部50は、底面開口243を介して容器20の内部と外部とを連通する。そのため、振れ止め部50を介して、容器20内に貯留された絶縁油等の絶縁媒体を排出することができる。これにより、別途容器20に排油のための機構を設ける必要がない。
【0049】
振れ止め部50は内底面241から上方に向けて延びており、上端部501は内底面241よりも上方に位置する。また、振れ止め部50は、底面24の外側の面である外底面242から下方に向けて延びており、振れ止め部50の下端502は外底面242よりも下方に位置する。なお、ここで下方に向けて延びているとは、必ずしも鉛直方向に延びていることに限られず、鉛直方向の成分を含んでいればよく、また、振れ止め部50は、容器20の外部において途中から折れ曲がっていても良い。さらに、振れ止め部50は、図示しない封止部材によって、容器20の外部において液密に封止することができる。これにより、通常使用時は、封止部材によって振れ止め部50を封止して内部に絶縁油等の絶縁媒体を貯留し、清掃時やメンテナンス時などにおいては封止部材を取り外して、容器本体21と容器20の外部とを連通させて絶縁媒体を排出することができる。
【0050】
振れ止め部50は、肉盛部51を有する。肉盛部51は、振れ止め部50と容器本体21この場合外底面242とを溶接により接合する。肉盛部51は、外底面242において、振れ止め部50の外周面に沿って形成されている。そのため、本実施形態の振れ止め部50も、上記実施形態と同様、容器20内部において、肉盛部51を含めた振れ止め部50の外径R1は、振れ止め部50自体の外径R1と一致する。
【0051】
したがって、上記第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0052】
更に、振れ止め部50は、連通部52を有する。連通部52は、容器20の内側において振れ止め部50の壁部に形成された切欠き又は開口であって、容器20内において振れ止め部50の内部と外部とを連通する。これにより、絶縁油等の絶縁媒体の液面の高さ位置が振れ止め部50の上端部501の高さ位置と同一又は上端部501の高さ位置よりも低い場合にも、連通部52を介して絶縁媒体は振れ止め部50内部に進入し、振れ止め部50を介して機外に排出され得る。なお、絶縁媒体の液面が上端部501よりも上方に位置する場合、絶縁媒体は、上端部501の開口及び連通部52を介して振れ止め部50の内部に進入し、その後容器20外に排出される。
【0053】
図12に示すように、本実施形態では連通部52は、振れ止め部50の壁部に形成された切欠き形状である。連通部52は、壁部の一部を上端部501から下方に向けて窪ませるように切り欠いて形成されている。
【0054】
連通部52の最下端は、振れ止め部50の下端つまり容器本体21の内底面241と同一面上又はその近傍に位置することが望ましい。これにより、絶縁媒体の液面が低くなって内底面241に近づいていても、絶縁媒体を機外に排出することができる。
【0055】
連通部52は、円筒状に形成された振れ止め部50の壁部の周方向に関していずれの位置に形成されていても良い。また、連通部52は、振れ止め部50の強度が確保できるのであれば、一の振れ止め部50に複数個設けても良い。本実施形態では、振れ止め部50は、一の連通部52を、振れ止め部50の後部に有している。
【0056】
なお、
図13に示すように、本実施形態の振れ止め部50の変形例は、連通部52aを有する。連通部52aは、振れ止め部50の壁部の一部この場合下部を貫通して形成した開口であっても良い。
図13に示す例では、連通部52aは円形に形成されているが、他の実施形態では、連通部52は楕円形、長円形、多角形、又は丸角多角形等に形成されていても良い。
【0057】
本実施形態の変圧器10によれば、容器20は、一又は複数の振れ止め部40、50のうち少なくとも一の振れ止め部50の平面視内側において底面24を貫通して形成されて容器20の内部と外部とを連通する底面開口243を有する。
【0058】
これにより、振れ止め部50と底面開口243とを介して、絶縁油等の液状の絶縁媒体を容器20の外部に排出することができる。そのため、絶縁媒体を排出するための別途の構造を設ける必要がない。したがって、変圧器10の構成を簡潔にし、製造コストや原料コストを抑制することができる。
【0059】
振れ止め部50は、壁部に振れ止め部50の内部と振れ止め部50の外部であってかつ容器20の内部とを連通する連通部52を有する。
【0060】
これによれば、振れ止め部50の上端部501よりも下方に貯留されている液状の絶縁媒体も、連通部52を介して振れ止め部50に進入するので、その結果容器20の外部に排出することができる。
【0061】
以上、本発明の複数の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
10…変圧器(静止誘導機器)、20…容器、24…底面、241…内底面、242…外底面、243…底面開口、30…変圧器中身(中身)、34…下クランプ、341…受け部、40…振れ止め部、401…上端部、41…肉盛部、50…振れ止め部、501…上端部、51…肉盛部、52…連通部、200…治具、202…貫通孔