(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156444
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】呼気センサ、及び血糖値測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/12 20060101AFI20241029BHJP
G01N 33/497 20060101ALI20241029BHJP
G01N 33/66 20060101ALI20241029BHJP
G01N 33/64 20060101ALI20241029BHJP
C01B 32/156 20170101ALI20241029BHJP
【FI】
G01N27/12 B
G01N33/497 A
G01N33/66 D
G01N33/64
G01N27/12 C
C01B32/156
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070912
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】522422827
【氏名又は名称】合同会社エイン
(74)【代理人】
【識別番号】100120813
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】レイネル ボクノット クナナン
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 昇司
【テーマコード(参考)】
2G045
2G046
4G146
【Fターム(参考)】
2G045CB22
2G045DA28
2G045DA31
2G045FA34
2G046AA26
2G046BA01
2G046BA05
2G046BB02
2G046BE04
2G046BF01
2G046BF02
4G146AA08
4G146AB07
4G146AD32
4G146BA04
4G146CB19
4G146CB32
(57)【要約】
【課題】ユーザの呼気に含まれる成分から高精度で血糖値を測定すると共に、次回の測定が可能になるまでの回復時間の短縮化を図る。
【解決手段】血糖値測定装置に内蔵される呼気センサユニット10に含まれる呼気センサ11は、筒状のカーボンナノシート12の内部に、断熱部材13及び一対に電極15を含む。断熱部材13の内周面にはフラーレン層18を形成すると共に、断熱部材13の内部に加熱線部材14を配置する。ユーザの呼気中の成分は、呼気センサ11の内部に取り込まれて加熱線部材14により加熱されてカーボンナノシート12の内周面に付着し、それによりカーボンナノシート12の電気抵抗値が変化する。変化した電気抵抗値に基づき、最終的に血糖値が算出されてユーザへ提示される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼気に含まれる成分が付着することで、電気抵抗が変化する特性を有するカーボンナノ構造体を備える呼気センサにおいて、
前記カーボンナノ構造体は、筒状に形成してあり、
前記カーボンナノ構造体の内部に配置した加熱線部材と、
前記カーボンナノ構造体と電気的に接続された一対の電極と
を備え、
前記カーボンナノ構造体の一端側に形成された開口を、呼気の取入口にしてあることを特徴とする呼気センサ。
【請求項2】
前記カーボンナノ構造体の内部に配置した環状の断熱部材を備え、
前記加熱線部材は、前記断熱部材の内部に配置してある請求項1に記載の呼気センサ。
【請求項3】
前記環状の断熱部材の内周面には、フラーレン層が形成してある請求項2に記載の呼気センサ。
【請求項4】
前記一対の電極における負極は、フラーレンを含む請求項1に記載の呼気センサ。
【請求項5】
前記加熱線部材は、ナノシルバーで被覆した銅ナノワイヤーで形成してある請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の呼気センサ。
【請求項6】
前記加熱線部材は、巻回したコイル部、及び前記コイル部の周囲に形成した網状のメッシュ部を有する請求項2に記載の呼気センサ。
【請求項7】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の呼気センサと、
前記呼気センサに含まれる前記カーボンナノ構造体の電気抵抗の変化を検出する電気抵抗検出手段と、
前記電気抵抗検出手段の検出結果に基づき、血糖値を算出する血糖値算出手段と、
前記血糖値算出手段の算出結果を出力する出力手段と
を備えることを特徴とする血糖値測定装置。
【請求項8】
前記呼気センサに含まれる前記加熱線部材は、ナノシルバーで被覆した銅ナノワイヤーで形成してある請求項7に記載の血糖値測定装置。
【請求項9】
前記加熱線部材は、巻回したコイル部、及び前記コイル部の周囲に形成した網状のメッシュ部を有する請求項7に記載の血糖値測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼気中のアセトン等の成分の吸着に伴う電気抵抗の変化を高精度で検出可能にすると共に、検出した結果に基づき血糖値の算出も高精度で行う呼気センサ及び血糖値測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人体の血糖値を測定するには一般に、血糖値測定用の検査キットが使われる。この検査キットによる血糖値測定の仕方としては、検査キットに含まれる穿刺器具叉は穿刺針により、患者の血液を指先等から採取して検査キットに含まれる血糖測定器(測定用チップ)に取り込んで測定結果を確認することになるが、血液の採取等に対する患者の負担が大きいものになっている。
【0003】
また、人体の呼気に含まれる各種成分を検出し、その検出結果に基づき人体の症状等を分析することが行われており、このような呼気に含まれる成分(主にアセトン)の濃度を検出することで、血糖値を測定する試みも行われている。例えば、下記の特許文献1では、カーボンナノチューブに代表されるナノ構造体を利用して、呼気中のアセトン濃度を室温レベルで検出するセンシング素子等についての開示がある。
【0004】
具体的には、ナノ構造体に電圧を印加した状態で、呼気中のアセトンがナノ構造体に付着すると、ナノ構想体に流れる電流値が変化し、それに伴いナノ構造体の電気抵抗の値も変化するので、この電気抵抗の変化を検出することで、ナノ構造体に付着したアセトンの濃度、すなわち、呼気中のアセトン濃度を検出可能にしている。なお、呼気中のアセトン濃度は、糖尿病との関連性が高いことが知られており、呼気中のアセトン濃度が高まると、一般に糖尿病の症状が生じやすくなる(特許文献1の段落0038、0043~0045、0057等の記載参照)。
【0005】
また、下記の特許文献2には、実施例1~9として各種センサや装置等が説明されており、それらの中で、実施例6では、酸化錫、酸化亜鉛などの表面修飾ペーストを含む半導体センサの表面に吸着させた大気中酸素とアセトンの酸化反応により生じる電気抵抗の変化から、アセトン濃度を検知することが説明されている。このようなアセトン濃度の測定の際、半導体センサはヒーター線により300~400℃に加熱される(特許文献2の段落0036、0037等の記載参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-107310号公報
【特許文献2】特開2001-349888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1では、カーボンナノチューブのようなナノ構造体を利用して、呼気中に含まれるアセトン等の濃度を検出するが、室温レベルで検出を行うため、検出対象となる呼気中の成分の活性化が充分に進まず、電気抵抗も穏やかに変化し、最終的に変化し尽くした検出値を把握しづらく、それに伴い正確な濃度の検出も困難になるという問題がある。
【0008】
一方、上述した特許文献2では、半導体センサをヒーター線により300~400℃に加熱することから、呼気中の成分への加熱も充分なものとなり、酸化等の反応も促進されるが、カーボンナノチューブのようなナノ構造体を用いていないため、呼気中に含まれる成分を確実に吸着させるのが難しく、それにより電気抵抗も変化を高精度で検出しにくいという問題がある。
【0009】
また、特許文献1、2の両方において、検出を行った後は、呼気中の不要となる気体成分や湿気成分等がセンサ内等に残存する関係上、次回の検出までに十分な時間を開ける必要があるため、検出可能な状態に回復するまでに要する時間が長くなり、使い勝手が良くないという問題もある。
【0010】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、ナノ構造体を利用して呼気中の成分の付着による電気抵抗の変化を検出する際、明確に電気抵抗値が変化して、検出値を高精度で把握しやすくした呼気センサ、及び血糖値測定装置を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、検出を行った後に次回の検出が可能となる状態へ回復するまでの時間を短縮して、使い勝手を向上させた呼気センサ、及び血糖値測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明は、呼気に含まれる成分が付着することで、電気抵抗が変化する特性を有するカーボンナノ構造体を備える呼気センサにおいて、前記カーボンナノ構造体は、筒状に形成してあり、前記カーボンナノ構造体の内部に配置した加熱線部材と、前記カーボンナノ構造体と電気的に接続された一対の電極とを備え、前記カーボンナノ構造体の一端側に形成された開口を、呼気の取入口にしてあることを特徴とする。
【0013】
本発明にあっては、筒状に形成したカーボンナノ構造体の内部に、加熱線部材を配置すると共に、筒状のカーボンナノ構造体の一端側の開口を、呼気の取入口にしてあるので、検出対象の成分を含む呼気は、筒状のカーボンナノ構造体の内部へスムーズに流入し、その内部に配置された加熱線部材により加熱されることになる。このように呼気を含む成分が加熱されると、成分が活性化されて酸化等の反応が促進され、加熱された成分が付着したカーボンナノ構造体も電気抵抗も顕著に変化しやすくなり、それにより高精度で電気抵抗の変化も検出可能となる。
【0014】
本発明は、前記カーボンナノ構造体の内部に配置した環状の断熱部材を備え、前記加熱線部材は、前記断熱部材の内部に配置してあることを特徴とする。
【0015】
本発明にあっては、カーボンナノ構造体の内部に環状の断熱部材を配置すると共に、その断熱部材の内部に加熱線部材を配置したので、加熱線部材とカーボンナノ構造体の間には断熱部材が介在し、加熱線部材の発する熱が断熱部材によって、カーボンナノ構造体へ伝わりにくくなる。それによりカーボンナノ構造体が高温になりすぎるのを防いで、呼気中の成分を加熱線部材で加熱しても、カーボンナノ構造体へは熱的な影響が生じるのが抑制され、抵抗変化の検出を安定して行えるようになる。
【0016】
本発明は、前記環状の断熱部材の内周面に、フラーレン層が形成してあることを特徴とする。
【0017】
本発明にあっては、断熱部材の内周面にフラーレン層を形成したので、電気抵抗の変化についての検出結果が安定するようになると共に、次回の検出が可能になるまでの時間が短縮される。まず、フラーレンは断熱特性を具備することから、断熱部材の内周面にフラーレン層を形成することで、断熱部材の断熱特性が増強されるようになる。それにより、断熱部材の内部に配置される加熱線部材の発する熱がカーボンナノ構造体へ更に伝わりにくくなり、カーボンナノ構造体への熱影響が一段と抑えられて、より安定的に電気抵抗の変化が検出できるようになる。
【0018】
また、カーボンナノ構造体の内部に取り入れられた呼気中の成分は、全てがすぐにカーボンナノ構造体に付着するわけでは無く、カーボンナノ構造体の内部に浮遊する残存成分(不要な気体成分)が生じる。このような残存成分が時間の経過に伴い段階的にカーボンナノ構造体の内部へ吸着されていくと、電気抵抗の値が随時変化して定まらず、電気抵抗の安定した検出に影響を及ぼす。また、呼気が吹き込まれることで、カーボンナノ構造体の内部には、湿気成分も増加し、このような湿気成分も電気抵抗の変化に影響を及ぼす。
【0019】
さらに、一旦、電気抵抗の変化の検出が終了しても、カーボンナノ構造体の内部に、そのような残存成分や湿気成分が浮遊したままになると、次回の検出に影響が生じないレベルに減少するまで、次回の検出を行うのを待つ必要がある。
【0020】
しかし、フラーレンは、周囲の気体に含まれる成分を効率良く吸着・吸収する特性を有することから、本発明では上述したように、断熱部材の内周面にフラーレン層を形成したので、このフラーレン層が、カーボンナノ構造体の内部に浮遊する残存成分(不要となった気体成分)や湿気成分を吸着することで、これらの成分を減少させ、それにより、電気抵抗の変化の検出結果が定まりやすくなり、安定した検出が可能になると共に、次回の検出が可能になるまでの時間短縮も図れるようになる。
【0021】
本発明は、前記一対の電極における負極が、フラーレンを含むことを特徴とする。
【0022】
本発明にあっては、電極の負極にフラーレンが含まれるようにしており、フラーレンは導通特性が優れると共に、上述したように気体中の成分を効率良く吸着する特性を有することから、呼気中の成分が吸着するカーボンナノ構造体の電気抵抗の変化の検出を行いやすくなる上、次回の検出までの時間短縮に貢献できるようになる。
【0023】
本発明は、前記加熱線部材が、ナノシルバーで被覆した銅ナノワイヤーで形成してあることを特徴とする。
【0024】
本発明にあっては、銅ナノワイヤー製の加熱線部材をナノシルバーで被覆(コーティング)するので、呼気中成分の効率的な加熱性を確保した上で、次回の検出可能になるまでの時間短縮に貢献できるようになる。すなわち、加熱線部材は、銅ナノワイヤーを用いることで、呼気中の成分を効率的に加熱することが可能となるが、その加熱を行うことで、銅ナノワイヤー自身の表面が酸化しやすい状況となる。銅ナノワイヤーの表面が酸化してしまうと、次回の検出に対して影響を生じ、検出可能な状況に戻すのに時間を要することになるが、抗菌・抗ウィルス作用があるナノシルバーで銅ナノワイヤーを被覆することで、銅ナノワイヤー製の加熱線部材の安定化を図れ、次回の検出が可能になるまでの時間短縮にも役立つ。なお、ナノシルバーによる被覆は、加熱線部材の全周表面に対して行われる他に、一部の表面が露出するように部分的に行われてもよい。
【0025】
本発明は、前記加熱線部材が、巻回したコイル部、及び前記コイル部の周囲に形成した網状のメッシュ部を有することを特徴とする。
【0026】
本発明にあっては、加熱線部材として、巻回したコイル部の周囲に網状のメッシュ部を形成したので、カーボンナノ構造体の内部へ取り入れられた呼気は、コイル部に触れるように流入することに加えて、メッシュ部も通過するように流れることになり、加熱線部材との接触程度が増加し、それにより、効率的に呼気中の成分が加熱され、カーボンナノ構造体の電気抵抗の変化も顕著に表れて検出精度も向上することになる。
【0027】
本発明は、血糖値測定装置が、上記の呼気センサと、前記呼気センサに含まれる前記カーボンナノ構造体の電気抵抗の変化を検出する電気抵抗検出手段と、前記電気抵抗検出手段の検出結果に基づき、血糖値を算出する血糖値算出手段と、前記血糖値算出手段の算出結果を出力する出力手段とを備えることを特徴とする。
【0028】
本発明にあっては、上述した呼気センサを用いて、カーボンナノ構造体の電気抵抗の変化の検出結果に基づき、血糖値を算出するので、高精度で血糖値を算出可能になると共に、一度、血糖値の算出を行った後、次に算出を行えるようになるまでの時間を、従来のものに比べて短縮できるようになり、使い勝手が大幅に向上する。
【発明の効果】
【0029】
本発明では、カーボンナノ構造体へ付着させる呼気中の成分を加熱するので、カーボンナノ構造体の電気抵抗の変化を従来に比べて顕著にでき、それに伴い検出精度も向上できる。
【0030】
また、本発明では、加熱線部材の発する熱を、断熱部材の介在により、カーボンナノ構造体へ伝わりにくくしたので、電気抵抗の変化の検出に対して、高温による影響が生じるのを防ぎ、安定した抵抗変化の検出を行える。
【0031】
さらに、本発明では、断熱部材の内周面のフラーレン層の形成により、安定した電気抵抗の検出結果を高精度で得られると共に、次回の検出が可能になるまでの時間を従来のものに比べて短縮できる。
【0032】
さらにまた、本発明では、負極にフラーレンを用いるので、電気抵抗の変化の検出を良好に行えると共に、次回の検出が可能になるまでの時間短縮に貢献できる。
【0033】
本発明では、銅ナノワイヤー製の加熱線部材をナノシルバーで被覆するので、呼気中成分を効率良く加熱できると共に、次回の検出が可能になるまでの時間を短縮できる。
【0034】
また、本発明では、巻回したコイル部の周囲に網状のメッシュ部を加熱線部材が有するので、カーボンナノ構造体の内部へ取り入れられた呼気が加熱線部材と接触する程度を増加でき、効率的に呼気中の成分を加熱して、電気抵抗の検出精度の向上に貢献できる。
【0035】
本発明では、上述したような呼気センサを用いて、カーボンナノ構造体の電気抵抗の変化の検出結果に基づき血糖値を算出するので、血糖値を高精度で算出できると共に、次回の血糖値算出を行えるまでの時間を、従来のものに比べて短縮でき、使い安さの向上を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の実施形態に係る血糖値測定装置の外観を示す概略斜視図である。
【
図2】血糖値測定装置に係る制御系の主要な電気回路ブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る呼気センサユニットの全体的な外観を示す斜視図である。
【
図4】呼気センサユニットの分解状態を示す概略斜視図である。
【
図5】(a)は筒状のカーボンナノシートを縦方向に半分に切断して呼気センサの内部を示すようにした断面斜視図であり、(b)は更に環状の断熱部材を同様に縦方向に切断して内部の加熱線部材を示すようにした要部断面斜視図である。
【
図6】加熱線部材を、断熱部材の内部へ配置する状況を示す概略斜視図である。
【
図7】加熱線部材を内部に配置した断熱部材の周囲に、カーボンナノシートを巻き付けて筒状に形成する状況を示す概略斜視図である。
【
図8】一対の電極を、筒状のカーボンナノシートの内部へ配置する状況を示す概略斜視図である。
【
図9】(a)は呼気センサの正面図であり、(b)は呼気センサの平面図、(c)は(a)の正面図の呼気センサをA-A線で切断面にした断面図である。
【
図10】呼気センサをセンサホルダで保持した状態を示し、(a)は概略斜視図、(b)は平面図である。
【
図11】正極及び負極に関する電気的な接続状況を示す電気回路図である。
【
図12】呼気センサに呼気が取り入れられる状況を示す概略図である。
【
図13】本発明に係る血糖値測定装置と従来の装置による血糖値の測定結果を対比した図表中の一部である。
【
図14】本発明に係る血糖値測定装置と従来の装置による血糖値の測定結果を対比した図表中の残り部分である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0037】
図1は、本発明に係る実施形態の例である血糖値測定装置1の外観を示す。本実施形態の血糖値測定装置1は、携帯可能な小型のものであり、ボックス状の筐体2の天面2aからパイプ状の吹込部3を突出させると共に、測定結果を表示するディスプレイ5を天面2aに表出しており、筐体2の周囲の一側面2bには電源スイッチ4を配置している。
【0038】
この血糖値測定装置1は、パイプ状の吹込部3の開口した先端側3aを、被験者が咥えて息(呼気)を吹き込むことにより、その被験者の血糖値を測定するようになっている。吹込部3の内部には、本発明で中心的な役割を担う呼気センサユニット10を配置しており、この呼気センサユニット10を用いることで、上述した特許文献1叉は特許文献2に開示されるものに比べて、高精度で血糖値を測定可能にすると共に、測定が終了して次回の測定が可能になるまでの時間を短縮したことが特徴になっている。以下、詳しく説明していく。
【0039】
図2は、血糖値測定装置1における制御系の主要な電気回路ブロック図を示す。この電気回路ブロック図で示すように、血糖値測定装置1の電気的な回路に関連するパーツユニットとして、上述した呼気センサユニット10及びディスプレイ5に加えて、プロセッサユニット6及びトランスデューサー7を含む。呼気センサユニット10とトランスデューサー7は第1接続線d1で接続されており(第1接続線d1は複数の導通線で構成される)、トランスデューサー7とプロセッサユニット6は第2接続線d2で接続されており、プロセッサユニット6とディスプレイ5は第3接続線d3で接続される。
【0040】
これらのディスプレイ5、プロセッサユニット6、トランスデューサー7、及び呼気センサユニット10と云った各パーツユニットは血糖値測定装置1の筐体2等の内部に配置されている(ディスプレイ5については、そのディスプレイ画面が筐体2の天面2aから表出する)。また、
図2では示していないが、血糖値測定装置1は、筐体2の内部に給電用のバッテリ8も配置しており、図示しない給電回路を通じて、バッテリ8の電力を上述した各パーツユニットに供給し、それにより、呼気センサユニット10に所定の電圧を印加するようにしている。なお、このような給電回路には、
図1に示す電源スイッチ4が含まれており、電源スイッチ4のオン・オフ操作により、バッテリ8による給電と非給電状態を切替可能にしている。
【0041】
電源スイッチ4のオン操作により呼気センサユニット10に所定の電圧が印加されると、第1接続線d1を通じて呼気センサユニット10からアナログ電流がトランスデューサー7へ出力される。トランスデューサー7は、第1接続伝d1を通じて入力されるアナログ電流に対して、プロセッサユニット5が処理を行えるように、増幅してデジタル変換した変換信号を生成し、第2接続線d2を通じてプロセッサユニット6へ出力する処理を行う。
【0042】
プロセッサユニット6は、トランスデューサー7からの入力信号(入力される変換信号)に基づき、呼気センサユニット10に係る電気抵抗値の検出処理を行うと共に、検出した電気抵抗値に基づき血糖値の算出処理を行うものであり、制御部6a、メモリ6b、RAM6c等をプリント基板上に配置したユニットになっている。
【0043】
制御部6aは、メモリ6bに記憶されるプログラムPのプログラミングの内容(ブログラムに応じたアルゴリズムの内容)に基づき各種処理を行う手段として機能するプロセッサである。本実施形態では、制御部6aは主に、電気抵抗検出手段としてトランスデューサー7からの入力信号に基づく電気抵抗値の検出処理を行い、血糖値算出手段として電気抵抗の検出処理で得られた値に基づき血糖値を算出する処理を行い、出力手段として算出した血糖値をディスプレイ5で表示出力する処理等を行うことになる。
【0044】
呼気センサユニット10は、後述するように、被験者の呼気が吹きかけられるようになっており、その被験者の呼気中の成分(例えば、揮発性有機化合物等の成分、具体的にはアセトン、ケトン、エタノール等の成分)が付着すると、呼気センサユニット10に係る電気抵抗値が変化することになり、このような電気抵抗値の変化を制御部6aは、トランスデューサー7からの入力信号に基づき検出する。
【0045】
具体的に制御部6aは、電源スイッチ4がオンされて給電が開始されて、被験者の呼気が吹きかけられていない状況の電気抵抗値を検出すると共に、呼気が吹きかけられて変化した状態の電気抵抗値の検出を行う。なお、電気抵抗値の変化の程度は、呼気センサユニット10に付着した呼気中の成分の量に応じて定まり、付着する成分量が多いほど、変化の程度も大きくなる。
【0046】
また、変化した電気抵抗の検出処理で得られた値に基づき血糖値を算出する処理において、制御部6aは先ず、検出した電気抵抗値の値より、呼気中の成分濃度の検出処理を行い、その検出した成分濃度を所定の変換式に基づき血糖値へ変換する処理を行って、最終的に、呼気を吹き込んだ被験者の血糖値を算出するようにしている。なお、この算出で用いる所定の変換式は予め、メモリ6bに記憶されるか、又はプログラムPの中に含まれるものとなる。
【0047】
本実施形態では、血糖値に関連する呼気中の成分として、主にアセトンを含む成分濃度をppm(parts per million)単位で検出するようにしており、通常、非糖尿病患者が被験者である場合、検出される成分濃度は、0.3~0.9ppm程度の数値となる。一方、糖尿病患者が被験者である場合、検出される成分濃度は一般に、0.9ppmを超えるような値になる。なお、本実施形態では最大10ppm程度までの数値を算出できるようにしている(また、制御部6aは、数ppb(parts per billion)単位で詳細に濃度を算出できるようにしてもよい)。
【0048】
制御部6aは、上述したようにアセトン等を含む成分濃度を検出すると、その検出した成分濃度の数値を、上述した所定の変換式に代入して血糖値(グルコメーターカウント)を算出する。そして、制御部6aは、算出した血糖値をディスプレイ5で表示するために、その血糖値を含む測定結果情報を生成し、ディスプレイ5に第3接続線d3を通じて出力する処理を行う。また、制御部6aは、算出した血糖値、検出した成分濃度、電気抵抗値等をRAM6cに一時的に記憶させる処理も行う。
【0049】
なお、本実施形態の制御部6aは、電源スイッチ4がオンされた直後は、加熱線部材14が所定の温度まで発熱するのに必要な時間をカウントする処理を行っており、本実施形態ではメモリ6bに予め記憶される基準時間に達するかを判断し、基準時間に達したことを判断すると、カウントアップしたとして、上述した電気抵抗値の検出処理を開始する。また、制御部6aは時間のカウント中、カウント状態を示す情報をディスプレイ5へ出力することになる。
【0050】
ディスプレイ5は、液晶又は有機EL等の表示パネルであり、制御部6aから出力されてくる情報を、第3接続線d3を通じて受け付けると、その受け付けた情報をディスプレイ画面上に表示する。それにより、このようなディスプレイ5の表示により、被験者であるユーザは自身の血糖値を容易に知ることが可能となる。次に、本発明の中心となる呼気センサユニット10について詳しく説明していく。
【0051】
図3は本実施形態に係る呼気センサユニット10の全体的な外観を示し、
図4は、その分解図を示す。本実施形態の呼気センサユニット10は主に、センサホルダ30、呼気センサ11、及びセンサカバー20で構成される。なお、
図3、4等に示すX軸は水平面上での一方向を示し、Y軸は同一の水平面上でX軸に直交する方向を示し、Z軸はX軸及びY軸に直交する方向を示し、それにより、具体的にX軸は呼気センサユニット10の巾方向を表し、Y軸は呼気センサユニット10の奥行きの方向を表し、Z軸は呼気センサユニット10の高さ方向を表す(X、Y、Z軸の向きは、他の図でも同様)。
【0052】
センサホルダ30は、呼気センサ11を保持するための部材であり、ドーナツ状のホルダ本体31、及びそのホルダ本体31を高さ方向(Z軸方向)に貫通する計6本の第1~第6導通ピン32a、32b、33a、33b、34a、34bを有する。
【0053】
ホルダ本体31は、ニッケルメッキ銅製の部材であり、上面31aを段差状に形成すると共に、下面31bをフラット形状に形成し、中央に高さ方向(Z軸方向)に貫通する空洞部31cを有する。なお、本実施形態のホルダ本体31、外周輪郭での厚み部分(Z軸方向の高さ)を約12mmに設定しおり、また、ホルダ本体31の空洞部31cは、その内径寸法を、呼気センサ11の外径寸法に応じた値に設定し、呼気センサ11を空洞部31cに嵌め込んで保持できるようにしている。
【0054】
第1~第6導通ピン32a、32b、33a、33b、34a、34bは、ホルダ本体31の段差状に高くなった上面31aから下面31bへ貫通しており、これら計6本の各導通ピン32a~34bは、導通性を有するニッケルメッキ製のピン部材であり、ホルダ本体31に対し平面視において周方向に間隔をあけて配置される(
図10(b)参照)。第1、2導通ピン32a、32bは、呼気センサ11に含まれる加熱線部材14との接続用であり、第3、4導通ピン33a、33bは、呼気センサ11に含まれる正極16との接続用であり、第5、6導通ピン34a、34bは、呼気センサ11に含まれる負極17との接続用である。
【0055】
センサカバー20は、ホルダ本体31に保持される呼気センサ11を覆って保護するためのカバーであり、環状の鍔部22から突出するカバー部21を有する。カバー部21は、ステンレス製のメッシュからなる網状部材であり、呼気が通過するのに充分な網目寸法が採用されている。また、環状の鍔部22は、上述したセンサホルダ30の上面31aの段差に嵌合するように形成されている。
【0056】
呼気センサ11は、呼気センサユニット10の主要パーツであり、呼気中の成分濃度を検出するために使用されるものであり、直接的には呼気中の成分の付着による電気抵抗の変化の検出に利用される。呼気センサ11は、全体的な外観を筒状(円筒形状)にしており、周囲外方へ計6本のリード線T1~T4、H1、H2を延出している。
【0057】
呼気センサ11の筒状(円筒形状)の外観を構成する部分は、カーボンナノ構造体によるものであり、本実施形態では、カーボンナノ構造体として、優れた導電性を有するカーボンナノシート12を用いる。カーボンナノシート12は、シート状の表面にナノサイズの多数の窪みを有し、これら窪みにより、呼気中の成分が付着しやすくなっている。また、カーボンナノシート12(カーボンナノ構造体)は、呼気に含まれる成分が付着すると、電気的な性質が変化する特性を有し、具体的には、電気抵抗が変化し、このような電気抵抗の変化の度合いは、付着する成分が多くなるほど大きくなる。
【0058】
図5(a)にも示すように、呼気センサ11は、カーボンナノシート12の内部に、リング状の断熱部材13及び一対の電極15を配置している。具体的に、リング状の断熱部材13は、呼気センサ11の高さ方向(Z軸方向)の上端寄りの箇所(カーボンナノシート12の上端12aの側となる箇所)に配置され、一方、呼気センサ11の高さ方向(Z軸方向)の下端寄りの箇所(カーボンナノシート12の下端12bの側となる箇所)に、一対の電極15が配置される。
【0059】
図5、6に示すように、断熱部材13は、所定の高さを有する輪状(管状)の部材であり、本実施形態ではセラミック製のものを用いている(例えば、複数のセラミック層を積層した管状のもの)。また、断熱部材13は、その内周面13bに、フラーレン層18が形成されている。なお、本実施形態の断熱部材13は、サイズ感として、外径となる径方向の寸法を約16mm、高さ寸法を約8mm程度に設定している。
【0060】
フラーレン層18は、粉末状のフラーレンを溶剤等に混ぜて所定の粘度にしたもの(例えば、ペースト状にしたもの)を、断熱部材13の内周面13bに適用(塗布)することで形成される。使用されるフラーレンとしては、C60、C70というタイプのものを基本的に使用するが、C76、C78、C82、C84、C90、C96と云ったタイプのものを用いることも可能である。
【0061】
また、
図5(b)、
図6、
図9(b)、
図10(b)等に示すように、断熱部材13の内部には、加熱線部材14を配置している。加熱線部材14は、被験者から吹き込まれた呼気中の成分を加熱するためのものであり、線材(ヒートワイヤー)により構成される。具体的に、本実施形態の加熱線部材14は、より多くの熱を発するようにするため、線材を巻回したコイル部14aを中心に有すると共に、線材を網目状に織り込んだメッシュ部14bを、コイル部14aの周囲に一体的に形成している。
【0062】
なお、コイル部14aは、呼気成分(気体成分)の通過を妨げない程度のピッチ(間隔)で巻回されると共に、メッシュ部14bのメッシュサイズも呼気成分(気体成分)の通過を妨げない寸法に設定されている。なお、コイル部14aの外周輪郭は円形状になっており、径方向の寸法は、上述した断熱部材13の内径寸法に応じた値に設定することで、加熱線部材14を、断熱部材13の内部に嵌め込んで配置できるようにしている。
【0063】
さらに、本実施形態の加熱線部材14は、線材(ヒートワイヤー)として、銅ナノワイヤーを用いると共に、その銅ナノワイヤーの表面をナノシルバーで電気メッキにより被覆している。銅ナノワイヤーは、Cu(OH)2を還元剤(ヒドラジンN2H4)で還元する工程を経て生成されており、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)とエチレンジアミンを含む水溶液中で、Cu(OH)2を還元剤(ヒドラジンN2H4)で還元するプロセスを行うことで銅ナノワイヤーを得るようにしている。
【0064】
より具体的には、18リットルの水酸化ナトリウム(NaOH)、0.36molのCu(OH)2、135mlのEDA、及び18ml(35重量%)のヒドラジンを、20リットルの反応器に入れて、80℃で30分間加熱して、Cu2+を金属銅に100%の割合で還元して調整することにより、銅ナノワイヤーを得ている。このようにして得られた銅ナノワイヤーの表面を、ナノシルバーで電気メッキにより被覆するが、本実施形態では、銅ナノワイヤーの表面全体をナノシルバーで被覆するのではなく、被覆していない箇所を部分的に残すようにして、加熱の際、被覆していない箇所で酸化反応が生じるようにしている。
【0065】
上記のような加熱線部材14は、コイル部14aの長手方向に沿って外周縁の箇所(コイル部14aを通るような直径の両端に応じた箇所)から、加熱用のリード線H1、H2を延出している。これらリード線H1、H2は、加熱線部材14を構成する線材と電気的に接続しており、バッテリ8からの電流をリード線H1、H2を通じて加熱線部材14へ流すと、加熱線部材14は発熱し、約200℃にまで達することになる(なお、電気抵抗の変化を精度良く検出するには、最低でも約140℃まで発熱することが好ましい)。
【0066】
また、
図5(a)、
図8、
図9(c)等に示すように、カーボンナノシート12の下端12bの側(他端側)となる箇所に配置される一対の電極15は、小片状(小プレート状)の部材である正極16及び負極17を有する。本実施形態では所定の導電性を確保するために、正極16及び負極17には、金ナノ粒子を含んだものを用いている。また、正極16の外面16aには正極用のリード線T1、T2を接続し、負極17の外面17aには負極用のリード線T3、T4を接続している。これらリード線T1~T4には、所定の導通性を確保するため、白金線を用いている。
【0067】
図11に示す電気回路図は、これら正極16及び負極17に関する電気的な接続状況を表している。電源スイッチ4とバッテリ8は直列的に接続されており、また、電源スイッチ4と正極16とが接続されると共に、バッテリ8の陰極側と負極17が接続される。正極16と負極17の間にはカーボンナノシート12が介在しており、電源スイッチ4をオンにすると、正極16及び負極17の間に所定の電圧が印加された状態となり、カーボンナノシート12を通じて正極16から負極17へ電流が流れる。
【0068】
このように流れる電流は、上述したようにトランスデューサー7へ出力されることになる。なお、
図11の電気回路図では示していないが、バッテリ8は、上述した加熱線部材14にも電気的に接続されており、電源スイッチ4のオン/オフ操作により、バッテリ8から加熱線部材14への給電を切替可能にしている。次に、上述した呼気センサ11について、製造工程の手順を説明する。
【0069】
先ず、
図6で示すように、予め作成しておいた加熱線部材14を、断熱部材13の下端13cから内部へ入れ込んで配置する。なお、加熱線部材14を配置する高さとしては、断熱部材13の高さ方向(Z軸方向)において真ん中あたりとなる箇所が、安定した配置を確保できて好適となる。なお、断熱部材13の内部に配置された加熱線部材14から延出するリード線H1、H2は、断熱部材13の下端13cから外方へ引き出す。
【0070】
次に、
図7で示すように、断熱部材13を包み込むように、長方形のシート状のカーボンナノシート12を、断熱部材13の外周面13aに沿って密着するように周回させて筒状(円筒形状)に形成する。このような筒状の状態を維持するため、カーボンナノシート12の一方の縦辺部12c(Z軸方向に沿った辺部)と、他方の縦辺部12dを重ねて、導電性接着剤で貼り合わせる。なお、断熱部材13と、カーボンナノシート12がズレ無いようにするため、断熱部材13の周囲に接着剤を塗布し、カーボンナノシート12と接着するのが好ましく、この場合、接着剤には耐熱性のものを用いることになる。また、加熱線部材14から延出するリード線H1、H2については、カーボンナノシート12を貫通させて外方へ取り出す。
【0071】
それから、
図8で示すように、筒状に形成されたカーボンナノシート12の下端12bの側より、一対の電極15を、カーボンナノシート12の内部へ入れ込んで,電気的にカーボンナノシート12と接続された状態で配置する。このように内部へ配置する電極15の正極16及び負極17は、カーボンナノシート12の内周面12e(
図7、
図9(c)参照)に接する状態で固定するようにしている。
【0072】
具体的には、
図9(c)で示すように、正極16の外面16aの側における左右の縦辺部16b、16c(
図8参照、Z軸方向に平行な辺部)に導電性接着剤を塗布し、それら左右の縦辺部16b、16cを、カーボンナノシート12の内周面12eに押し当てて接着し、正極16をカーボンナノシート12の内周面12eに固定する。また、負極17は、正極16と対向する位置で、その外面17aの側における左右の縦辺部17b、17c(導電性接着剤を塗布済み)を、カーボンナノシート12の内周面12eに押し当てて接着し、負極17をカーボンナノシート12の内周面12eに固定する。
【0073】
上述したように正極16及び負極17をカーボンナノシート12に固定することで、正極16及び負極17は、カーボンナノシート12と電気的に導通(接続)した状態で固定される。なお、正極16の外面16aから延出するリード線T1、T2、及び負極17の外面17aから延出するリード線T3、T4は、上述した加熱線部材14のリード線H1、H2と同様に、カーボンナノシート12を貫通させて外方へ取り出す。以上のような製造工程を経て呼気センサ11は完成する。
【0074】
完成した呼気センサ11は、その下側から、上述したセンサホルダ30の空洞部31cに嵌め込んで固定する(
図4参照)。この際、しっかりと固定を確保するためには、予め、空洞部31cの内周面に接着剤を塗布しておき、接着剤により、呼気センサ11をセンサホルダ30の空洞部31cへ固着させることが好ましい。また、固定する際の、呼気センサ11の周方向の向きとしては、呼気センサ11(カーボンナノシート12)の周囲から延出するリード線H1、H2が、センサホルダ30の第1、2導通ピン32a、32bと対向するような配置の向きにする。
【0075】
呼気センサ11の固定が完了すると次に、リード線H1、H2、T1~T4を、半田等によって第1~第6導通ピン32a、32b、33a、33b、34a、34bの各上端あたりと接続する(
図9(a)(b)参照)。最後に、呼気センサ11及びセンサホルダ30(ホルダ本体31)の上面31aを覆うようにセンサカバー20を取り付けることで、呼気センサユニット10を完成する(
図3、4参照)。
【0076】
完成した呼気センサユニット10は、電気的な接続を行った上で、
図1に示す血糖値測定装置1の内部に配置する。電気的な接続としては、血糖値測定装置1の内部に配置されるバッテリ8との給電系の回路に第1、第2導通ピン32a、32bの下端側を接続することになり、それにより、加熱線部材14へ電流を流せるようにして、加熱線部材14での加熱を行えるようにする。また、
図2に示す回路ブロックにおいて、トランスデューサー7との接続用となる第1接続線d1を構成する複数の導通線を、第3導通ピン33a及び第5導通ピン34aの下端側とそれぞれ接続すると共に、第4導通ピン33b及び第6導通ピン34bの下端側を
図11の電気回路図で示すように、バッテリ8の正極側及び陰極側にそれぞれ接続して、電気的な回路接続を行う。
【0077】
電気的な接続の完了した呼気センサユニット10は、センサカバー20の部分が、血糖値測定装置1の筐体2の天面2aから突出するパイプ状の吹込部3の内部に収まるように配置される。このように呼気センサユニット10が配置された状態では、吹込部3の突出方向に、呼気センサユニット10のZ軸方向が一致する向きになっている。
【0078】
上記のように呼気センサユニット10を配置することで、吹込部3の開口した先端3aより吹き込まれた呼気は、呼気センサ11のカーボンナノシート12の上端12aの側(一端側)に形成される開口から取り入れられるようになる。そのため、呼気センサ11におけるカーボンナノシート12の上端12aに形成される開口は、呼気の取入口11aとして機能する(
図4、12等参照)。
【0079】
次に、血糖値測定装置1の使用状況について説明する。被験者(ユーザ)は最初に、電源スイッチ4をオンにする操作を行う。この電源スイッチ4のオンに伴い、バッテリからの給電回路を通じての給電(電圧印加)が開始され、
図2に示す回路ブロックに含まれるプロセッサユニット6等が起動し、また、加熱線部材14による加熱が開始されると共に、呼気センサ11の電極15(正極16と負極17の間)に1.8~2.2Vの所定電圧が印加されて、正極16と負極17の間で、カーボンナノシート12を通じて安定した電流が流れるようになる。
【0080】
プロセッサユニット6の制御部6aは起動すると、加熱線部材14が検出処理に対して十分な温度(例えば、約200℃)になるまでの計時処理を行うと共に、計時中の状況(時間のカウント状況)を示す計時情報をディスプレイ5へ出力する処理を行う。それにより、ディスプレイ5のディスプレイ画面には時間をカウントする状況が表示されるので、被験者(ユーザ)は計時時間がカウントアップするまで待つことになる。
【0081】
制御部6aは、計時した時間が、メモリ6bに記憶される基準時間に達するかを判断している。なお、基準時間としては約60秒~180秒程度の範囲中に含まれる時間を適用でき、本実施形態では70秒を基準時間として使用する。
【0082】
制御部6aの計時処理により、計時時間が基準時間に達すると、カウントアップとなり、上述した電気抵抗値の検出処理、成分濃度の検出処理、及び血糖値の算出処理と云った一連の処理を行い、算出した血糖値を示す数値情報をディスプレイ5へ出力する処理を行う。電源オンからカウントアップを経て、ディスプレイ5のディスプレイ画面に表示される数値は、呼気を吹き込む前では通常の空気中に含まれる成分に基づく値となり、一般的に約60~70程度の数値が示される(血糖値の数値単位はmg/dl。以下同様であり、単位表記は省略する)。本実施形態の血糖値測定装置1では、ディスプレイ画面に表示される数値が70以下になる場合を、使用可能(検出可能)になった状況にしている。
【0083】
そのため、被験者(ユーザ)は、ディスプレイ画面の表示が、カウントする状況から数値情報に切り替わると、その表示される数値が70以下であるかを確認し、表示される数値が70以下であれば、吹込部3を咥えて息を吹き込む。なお、ディスプレイ画面に表示される数値が70を超過する場合、被験者(ユーザ)は、表示数値が70以下になるのを待ってから、息い吹き込むことになる。
【0084】
図12は、吹込部3から吹き込まれた息(呼気F)が、呼気センサユニット10に組み込まれた呼気センサ11へ取り入れられる状況を示している。この
図12で示すように、呼気Fは、開口した取入口11aからセンサ内部に流入し、カーボンナノシート12の内部に配置した加熱線部材14を通過する。この加熱線部材14を通過する際、呼気Fに含まれる成分が加熱され、酸化等の各種反応が促進され、成分中の電子が活性化し、活性化した成分がカーボンナノシート12に付着することで、電圧が印加される正極16と負極17の間のカーボンナノシート12の電気抵抗が顕著に変化しやすい状態となる。
【0085】
具体的には、まず加熱線部材14を構成する銅ナノワイヤーは部分的に表面が被覆されていない箇所があるので、この被覆されていない箇所では、加熱により銅成分の酸化反応が生じ、酸化銅(CuO)が発生する。呼気中の成分は、加熱線部材14を通過する際、この酸化銅(CuO)と反応することになり、例えば、呼気中の成分に含まれるアセトン(CH3COCH3)の場合、酸化銅とアセトンの相互に反応が生じる。
【0086】
アセトン(CH3COCH3)については、ケテン(CH2CO)とメタン(CH4)といった成分に分解(熱分解)され、このような反応により生じた成分が呼気センサ11のカーボンナノシート12の内周面12eの付着することで、呼気センサ11(カービンナノシート12)の電気抵抗が変化する。
【0087】
上述したように、呼気センサ11の内部に取り入れられた呼気の成分は、加熱線部材14により加熱されて、電気抵抗の変化が迅速に進みやすくなるが、加熱線部材14から発する熱がカーボンナノシート12へ伝わりすぎると、呼気成分の付着による電気抵抗の変化に影響が生じ、呼気成分の付着に基づく電気抵抗の検出に関する精度を悪化させることが懸念される。
【0088】
しかし、本実施形態で用いられる呼気センサ11では、加熱線部材14が断熱部材13の内部に配置されると共に、その断熱部材13の断熱性能は、内周面13aのフラーレン層18で補強されているため、加熱線部材14の発する熱がカーボンナノシート12に伝わって、カーボンナノシート12の電気抵抗値に影響を及ぼすことを極力抑えられる。
【0089】
また、呼気センサ11(カーボンナノシート12)の内部に取り入れられた成分の中で、電気抵抗の検出に不要な成分は、断熱部材13の内周面13aのフラーレン層18で吸着・吸収等されるので、カーボンナノシート12の電気抵抗の変化は、主に呼気中の中で電気抵抗の変化に関係する成分がカーボンナノシート12に吸着したことに依存したものになる。以上のことから、本発明の血糖値測定装置1では、呼気中の成分による電気抵抗の変化を顕著にして、呼気中の成分に基づく電気抵抗の変化を高精度に検出可能にしている。
【0090】
そして、血糖値測定装置1(制御部6a)では、上述した電気抵抗の変化に関する算出結果に基づき、呼気センサ11に取り入れられた呼気に含まれる成分の濃度が検出され、さらに、その検出された濃度に基づき、最終的に血糖値が算出されており、変化した電気抵抗の値に応じて、最終的に算出される血糖値も変化する。このように変化する血糖値は血糖値測定装置1のディスプレイ画面に表示されるので、被験者(ユーザ)は、息(呼気)を血糖値測定装置1へ吹き込むだけで、ディスプレイ画面に表示される数値を見て、自身の血糖値を把握できる。
【0091】
なお、糖尿病の被験者又は糖尿病の傾向のある被験者の場合は、息(呼気)を吹き込む前にディスプレイ画面に表示される数値から、息(呼気)を吹き込んだ後にディスプレイ画面に表示される数値(血糖値)が大きく変化することになる。
【0092】
上述した処理を経て、算出された血糖値のピーク値になると、その値が保持されて、血糖値測定装置1のディスプレイ画面に表示され続けることになり、この状態で、血糖値の測定は完了となる。
【0093】
測定完了後は、被験者(ユーザ)が電源スイッチ4をオフすることで、算出された血糖値の結果がリセットされる。また、次回の検出を行う際には、被験者(ユーザ)が電源スイッチ4をオンすることになるが、このときも、上述した場合と同様に、制御部6aが基準時間(例えば、70秒)に達するまで計時処理を行い、計時処理が終了すると、その時点において算出された数値(血糖値に応じた数値)がディスプレイ画面に表示される。
【0094】
この場合、前回の測定完了後から十分な時間を経過せずに、電源スイッチ4をオンにすると、呼気センサ11の内部に残存する浮遊成分等の影響により、ディスプレイ画面に表示される数値が70以下にならず、検出及び測定が可能な状態になるまで息の吹き込むのを待つ必要が生じる。
【0095】
本発明に係る血糖値測定装置1は、前回の測定の完了後、次回の測定が可能な状態に回復するまでの時間が早いことも特徴になっている。すなわち、測定の完了後に、呼気センサ11(カーボンナノシート12)の内部に浮遊する残存成分や湿気成分等により、カーボンナノシート12の変化した電気抵抗値が元に戻るのが遅くなり、それに伴い、血糖値が70以下になるにも時間を要することになる。
【0096】
しかし、本発明の血糖値測定装置1は上述したように、断熱部材13の内周面13bにフラーレン層18を形成しており、このフラーレン層18を構成するフラーレンは、気体中の成分を効率良く吸着・吸収する特性を有するため、呼気センサ11の内部に浮遊する残存成分や湿気成分がフラーレン層18に吸着・吸収されていくので、測定完了後に血糖値が70以下へスムーズに収まるようになる。それにより本発明の血糖値測定装置1(呼気センサ11)は次回の検出及び測定が可能となる状態まで、短い時間で回復できる。なお、カーボンナノシート12に付着した成分については、自然と気化して除去されることになる。
【0097】
本出願人による実験では、フラーレン層18を設けない場合では、測定の完了後から次回の測定が可能な状態に回復に至るのに最低でも約10分程度(約600秒程度)が必要であったが、フラーレン層18を設けた場合、次回の検出及び測定が可能な状態に回復に至るのに約1~5分程度にまで短縮できたことを確認している。
【0098】
図13、14は、計48人の被験者(被験者No.1~48)に対して、本発明に係る血糖値測定装置1を用いて算出した血糖値と、従来の検査キットによる採血式の装置で血糖値を求めた場合の結果を対比した実験結果を示す表である。この実験では、被験者ごとに、本発明に係る血糖値測定装置1と、従来の装置を、ほぼ同時期に使用して、それぞれの装置で血糖値を求めている(具体的には、先に血糖値測定装置1で血糖値を求め、その後、すぐに従来の装置で血糖値を求めている)。
【0099】
これら
図13、14で示す計48人の比較結果の差の平均は「6.17(小数点以下第3位を四捨五入)」となっており、最も差が大きいのは、被験者No.32の「14」であり(従来の装置の結果が「306」であり、本発明の装置による結果が「292」)、最も差が小さいのは、被験者No.28の「0」である(従来の装置及び本発明の装置による結果は共に「100」)。このような
図13、14に示す表より、本発明に係る血糖値測定装置1は十分な測定精度を確保した有用な想定であることが分かる。
【0100】
なお、血糖値は一般に、その値が高いほど、測定結果の誤差が大きくなる傾向があることが知られており、
図13、14に示す比較結果の表においても、両者の差が大きいのは、測定された血糖値が大きめの被験者であることが読み取れる(例えば、被験者No.19、27、32、47は血糖値が200を超えているので、両者の差も大きめになっていることが読み取れる。また、一般に血糖値が200を超えると糖尿病型であると判定される)。
【0101】
以上に説明したように、本発明に係る呼気センサ11を備えた血糖値測定装置1は、血糖値の測定を高精度で行えると共に、血糖値の測定が完了してから次回の測定が可能になるまで回復するのに要する時間も短いことから、血糖値の測定に対して有用で且つ使い勝手の良いものになっている。なお、本発明に係る呼気センサ11を備えた血糖値測定装置1は上述した形態に限定されるものではなく、種々の変形例が想定される。
【0102】
例えば、上述した説明では、呼気センサ11の周囲にはカーボンナノシート12を用いたが、呼気に含まれる成分が付着して電気抵抗が変化する特性を有するカーボンナノ構造体であれば、他のものを用いてもよい(例えば、カーボンナノチューブを用いて、呼気センサ11の周囲を筒状体で構成してもよい)。また、呼気センサ11の周囲を構成する筒状体は、円筒形状に限定されるものではなく、多角形(四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)による筒形状も適用可能である。
【0103】
また、一対の電極15における負極17には、金ナノ粒子を含んだものを用いるように説明したが(金ナノ粒子を用いた負極は製造しやすい)、その他のものとして、導電性を向上させる観点では、優れた導電性能を有するフラーレン(C60、C70等)を含むものを用いることも可能である。フラーレンを含む形態としては、グラファイト酸化物及びフラーレンを混ぜ合わせて負極を形成することが可能である。このようなフラーレンを含む負極17を用いることで、電気抵抗の変化を精度良く検出しやすくなる。
【0104】
一方、検出可能な状態に回復するまでの時間短縮が、それほど必要で無いときなどは、断熱部材13の内周面13bに形成していたフラーレン層18を省略することも可能である。さらには、呼気センサ11の外径寸法の設定具体等により、それほど加熱線部材14による発熱の影響が受けないような場合は、断熱部材13を省略することも可能である。
【0105】
また、加熱線部材14についても、
図5(b)、
図6等に示すような構成(コイル部14aの周囲にメッシュ部14bを形成した構成)に限定されるものではなく、例えば、メッシュ部14bを省略してコイル部14aのみを設ける構成(複数のコイル部14aを平行的に配置する構成等)や、逆に、コイル部14aを省略して、メッシュ部14bのみにする構成等も想定できる。
【0106】
さらに、加熱線部材14は、線部材の被覆に用いるのは、ナノシルバーに限定されるものではなく、他のナノ被覆材や、全く別の系統の被覆材を使用してもよく、被覆される線部材も銅ナノワイヤーに限定されず、通電により発熱する素材であれば利用可能となる。さらにまた、利用する素材によっては、ナノシルバー等の被覆材による被覆を省略してもよい。
【0107】
また、血糖値測定装置1に用いられるプログラムPによる各種処理内容について、上述した説明内容は一例であり、他の処理内容を規定することや追加することは勿論可能である。例えば、
図13、14に示す実験結果の比較表によれば、測定された血糖値の値が200を超えると、従来の装置による測定結果との差が大きくなる傾向(誤差が大きくなる傾向)が生じるという見方もできるので、測定された血糖値が200を超えるときは、測定された血糖値を是正するようなアルゴリズム(誤差分散等を行うアルゴリズム)に基づいたプログラミング内容を、プログラムPに追加すること等が考えられる。
本発明は、息を吹き込むだけで血糖値を高精度で測定可能にすると共に、一旦、測定を行ってから次回の測定が可能になるまでの回復時間も短くしたので、糖尿病や糖尿病の傾向のあるユーザが日常的に血糖値を測定するのに利用可能である。