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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156456
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】超音波探傷装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/26 20060101AFI20241029BHJP
【FI】
G01N29/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070933
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】時田 祐樹
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA08
2G047BA01
2G047BA03
2G047BC07
2G047EA10
2G047GA03
2G047GA13
2G047GB18
2G047GB27
2G047GG46
(57)【要約】
【課題】アール部に対するさらに精緻な超音波探傷を行うことが可能な超音波探傷装置を提供する。
【解決手段】超音波探傷装置は、軸線に沿って延びるとともに軸線に直交する断面視で円弧状に凹むアール部を有する検査対象物を超音波探傷するための超音波探傷装置であって、アール部に径方向から当接する当接湾曲面、及び当接湾曲面の反対側を向くとともに当接湾曲面と同等の曲率半径を有する対向湾曲面を有する治具と、治具に取り付けられる複数の探傷子と、を備え、治具の対向湾曲面には、断面視で対向湾曲面の周方向に間隔をあけて配列された複数の挿入孔が形成され、探傷子は前記挿入孔にそれぞれ挿入されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線に沿って延びるとともに該軸線に直交する断面視で円弧状に凹むアール部を有する検査対象物を超音波探傷するための超音波探傷装置であって、
前記アール部に径方向から当接する当接湾曲面、及び該当接湾曲面の反対側を向くとともに該当接湾曲面と同等の曲率半径を有する対向湾曲面を有する治具と、
該治具に取り付けられる複数の探傷子と、
を備え、
前記治具の前記対向湾曲面には、断面視で該対向湾曲面の周方向に間隔をあけて配列された複数の挿入孔が形成され、前記探傷子は前記挿入孔にそれぞれ挿入されている超音波探傷装置。
【請求項2】
前記検査対象物は、前記アール部から見て基準領域を挟んで反対側に位置する他のアール部をさらに有し、
前記超音波探傷装置は、
前記他のアール部に配置され、該他のアール部に径方向から当接する当接湾曲面、及び該当接湾曲面の反対側を向くとともに該当接湾曲面と同等の曲率半径を有する対向湾曲面を有する受信用治具と、
該受信用治具に取り付けられて、前記送信用探傷子から発せられた超音波を受信する複数の受信用探傷子と、
をさらに備え、
前記受信用治具の前記対向湾曲面には、断面視で該対向湾曲面の周方向に間隔をあけて配列された複数の挿入孔が形成され、前記受信用探傷子は前記挿入孔にそれぞれ挿入されている請求項1に記載の超音波探傷装置。
【請求項3】
前記挿入孔、及び前記挿入孔の内周面には、前記探傷子、及び前記受信用探傷子の外周面に形成された雄ネジと螺合する雌ネジが形成されている請求項2に記載の超音波探傷装置。
【請求項4】
軸線に沿って延びるとともに該軸線に直交する断面視で円弧状に凹むアール部を有する検査対象物を超音波探傷するための超音波探傷装置であって、
前記アール部に対して周方向における2点で当接するとともに該アール部に沿って前記軸線方向に転動可能な転動部と、
径方向における2方向に延びることで、一方側の端部で該転動部を支持するとともに他方側の端部で互いに接続されている一対の保持部と、
該一対の保持部に挟持されて、前記アール部の円弧に沿う方向に回動可能なリング部と、
該リング部に支持されているシュー、及び該シューに一体に設けられた探傷子と、
を備える超音波探傷装置。
【請求項5】
前記シューの先端部は、前記アール部の曲率に対応した曲面状をなしている請求項4に記載の超音波探傷装置。
【請求項6】
前記リング部を前記保持部に対して段階的に回動させるラチェット機構をさらに備える請求項4又は5に記載の超音波探傷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超音波探傷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、繊維強化樹脂等の複合材料や、金属部材の溶接部を非破壊で検査するための装置として超音波探傷装置が広く用いられている。この種の具体例として下記特許文献1に記載されたものが知られている。下記特許文献1に係る技術では、水中に没している溶接部の湾曲したアール部に対して非接触の状態でプローブの角度・姿勢をコントロールしながら超音波探傷することが可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-167749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、検査対象物の寸法体格によっては上記のように水中に配置することが難しい。この場合、探傷子を検査対象物に当接させて検査を行う必要がある。すると、上記特許文献1に係る装置では、探傷子の角度や姿勢を精緻に調節することに困難を生じてしまう。
【0005】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、アール部に対するさらに精緻な超音波探傷を行うことが可能な超音波探傷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示に係る超音波探傷装置は、軸線に沿って延びるとともに該軸線に直交する断面視で円弧状に凹むアール部を有する検査対象物を超音波探傷するための超音波探傷装置であって、前記アール部に径方向から当接する当接湾曲面、及び該当接湾曲面の反対側を向くとともに該当接湾曲面と同等の曲率半径を有する対向湾曲面を有する送信用治具と、該送信用治具に取り付けられる複数の送信用探傷子と、を備え、前記送信用治具の前記対向湾曲面には、断面視で該対向湾曲面の周方向に間隔をあけて配列された複数の挿入孔が形成され、前記送信用探傷子は前記挿入孔にそれぞれ挿入されている。
【0007】
本開示に係る超音波探傷装置は、軸線に沿って延びるとともに該軸線に直交する断面視で円弧状に凹むアール部を有する検査対象物を超音波探傷するための超音波探傷装置であって、前記アール部に対して周方向における2点で当接するとともに該アール部に沿って前記軸線方向に転動可能な転動部と、径方向における2方向に延びることで、一方側の端部で該転動部を支持するとともに他方側の端部で互いに接続されている一対の保持部と、該一対の保持部に挟持されて、前記アール部の円弧に沿う方向に回動可能なリング部と、該リング部に支持されているシュー、及び該シューに一体に設けられた探傷子と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、アール部に対するさらに精緻な超音波探傷を行うことが可能な超音波探傷装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の第一実施形態に係る超音波探傷装置の構成を示す断面図である。
図2】本開示の第一実施形態に係る超音波探傷装置の変形例を示す断面図である。
図3】本開示の第二実施形態に係る超音波探傷装置の構成を示す断面図である。
図4】本開示の第三実施形態に係る超音波探傷装置の構成を示す側面図である。
図5】本開示の第三実施形態に係る超音波探傷装置の構成を示す正面図である。
図6】本開示の第三実施形態に係る超音波探傷装置の変形例を示す要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第一実施形態>
(超音波探傷装置1の構成)
以下、本開示の第一実施形態に係る超音波探傷装置1について、図1を参照して説明する。この超音波探傷装置1は、図1に示す検査対象物90の表面、及び内部の欠陥を超音波の反射波によって検知・特定するための装置である。検査対象物90は、繊維強化樹脂である。つまり、検査対象物90は、シート状の繊維材料で形成されたプリプレグに樹脂を含侵させることで形成されている。検査対象物90は、軸線O方向から見て、互いに交差する方向に延びる一対の桁部91と、これら桁部91同士の間に設けられたアール部92とを有する。アール部92は、軸線Oを中心とする円弧状をなしている。円弧の曲率半径は図1の例では周方向の全域にわたって一定である。桁部91、及びアール部92の内部では、概略として図1中の破線で示すような繊維積層面93が形成されている。つまり、桁部91の内部では当該桁部91自体の延びる方向に沿って繊維積層面93が形成されている。アール部92の表面近傍では、当該アール部92自体の延びる円弧方向に沿って繊維積層面93が形成されている。
【0011】
超音波探傷装置1は、上記のアール部92の表面、及び内部の欠陥を検知・特定するために用いられる。図1に示すように、超音波探傷装置1は、治具10と、複数の探傷子20と、を備えている。治具10は、当接湾曲面11と、対向湾曲面12と、を有する。当接湾曲面11は、軸線O方向から見てアール部92の表面形状に対応した曲面状に湾曲している。つまり、当接湾曲面11は、軸線Oを中心とする円弧状をなしている。当接湾曲面11とアール部92の曲率半径は互いに同等であるか、当接湾曲面11の曲率半径がわずかに小さい状態であることが望ましい。当接湾曲面11は、アール部92の表面に面接触した状態となっている。
【0012】
当接湾曲面11から見てアール部92とは反対側を向く面は、対向湾曲面12とされている。対向湾曲面12は、当接湾曲面11と同等の曲率半径を有する。また、これら当接湾曲面11と対向湾曲面12の円弧の中心位置Pは互いに一致していることが望ましい。この対向湾曲面12状には、軸線Oに対する周方向に等間隔をあけて配列された複数の挿入孔13が形成されている。挿入孔13は、超音波の送信・受信を行う探傷子20を挿入するための開口である。挿入孔13の内周面には、棒状の探傷子20の外周面に形成された雄ネジに螺合する雌ネジが形成されている。この雌ネジに探傷子20をねじ込むことによって、当該探傷子20が挿入孔13に没入した状態で固定される。それぞれの挿入孔13は、対向湾曲面12の円弧の径方向に延びている。言い換えると、挿入孔13は、軸線Oに対する径方向に延びている。挿入孔13同士の角度間隔は例えば22.5°であり、90°の範囲内で5つの挿入孔13が形成されている。
【0013】
治具10は、例えばポリイミドやアクリルのように、比較的に硬度の高い樹脂材料によって一体に形成されている。したがって、アール部92に当接させた際には、治具10はほとんど変形しない。
【0014】
挿入孔13に挿入された状態で、探傷子20は、アール部92に対してその表面に直交する方向から超音波を照射する。この時、各探傷子20から発振される超音波は、いずれも対向湾曲面12の中心位置Pを通る。言い換えれば、超音波の焦点位置は、この中心位置Pに一致している状態となる。中心位置Pを通った超音波は、当接湾曲面11に向かって進行し、アール部92の内部に到達する。当該部分に欠陥が生じている場合には、当該欠陥によって超音波が屈折や散乱して、探傷子20側に戻らなくなる。他方で、欠陥がない場合には超音波の反射波が探傷子20に戻る。この反射波を画像化することによって、欠陥の有無やその位置を検知・特定することが可能とされている。以上の工程を繰り返しつつ、アール部92の延びる方向である軸線O方向に治具10を連続的に移動させることで、当該アール部92の全域を超音波探傷する。
【0015】
(作用効果)
ここで、従来は、水中に没している状態で、溶接部等の湾曲したアール部92に対して非接触の状態でプローブの角度・姿勢をコントロールしながら超音波探傷することが提唱されていた。しかしながら、検査対象物90の寸法体格によっては上記のように水没させて検査することが難しい。この場合、探傷子20を検査対象物90に当接させて検査を行う必要がある。このため、探傷子20の角度や姿勢を精緻に調節することが肝要となる。そこで、本実施形態では上述の各構成を採用している。
【0016】
上記構成によれば、治具10の当接湾曲面11がアール部92に当接した状態で、周方向位置の異なる複数の探傷子20が当該アール部92の内部に超音波を送信し、反射波を受信する。これにより、アール部92における周方向の広い範囲を超音波探傷することができる。また、当接湾曲面11がアール部92の形状に沿っているため、治具10をアール部92の延びる軸線O方向に移動させることのみによって、当該アール部92から治具10を逸脱させることなく、連続的かつ安定的に超音波探傷を行うことが可能となる。したがって、検査対象物90の歩留まりが向上し、製品の製造コストやメンテナンスコストを削減することが可能となる。
【0017】
また、上記構成によれば、挿入孔13に対して、探傷子20、及び受信用探傷子40をネジ結合によって強固かつ安定的に固定することができる。これにより、検査作業中に探傷子20や受信用探傷子40が位置ずれを起こしたり脱離したりする可能性が低減され、超音波探傷をより円滑に進めることが可能となる。
【0018】
以上、本開示の第一実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。
【0019】
例えば、上記第一実施形態では、治具10がポリイミドやアクリル等の硬質の樹脂によって一体に形成されている例について説明した。しかしながら、図2に変形例として示すように、当接湾曲面11のさらに外周側に、当該当接湾曲面11に沿わせるようにして、ゲル状のシート部材14を取り付けることも可能である。この場合、シート部材14がアール部92の曲面形状に追従して弾性変形するため、わずかにアール部92の形状に変化が生じている場合であっても、当該形状の変化によって妨げられることなく、円滑かつ安定的に超音波探傷を進めることが可能となる。また、アール部92の曲率半径が異なっても対応できることから、超音波探傷装置1の汎用性を高めることもできる。
【0020】
<第二実施形態>
次に、本開示の第二実施形態について、図3を参照して説明する。なお、上記の第一実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。図3に示すように、本実施形態では、検査対象物90の形状が上記第一実施形態とは異なっている。即ち、この検査対象物90は、アール部92の内部の基準領域15を挟んで反対側に形成された他の一対の桁部91をさらに有している。つまり、この検査対象物90は、軸線O方向から見て十字状をなしている。したがって、アール部92の反対側にも他のアール部92が同様に形成されている。
【0021】
超音波探傷装置1は、これら一対のアール部92によって囲まれた内部の欠陥を検知・特定するために好適に用いられる。具体的には、超音波探傷装置1は、上述の治具10、及び探傷子20に加えて、他のアール部92側に設けられた受信用治具30、及び受信用探傷子40をさらに備えている。受信用治具30、及び受信用探傷子40の構成・形状等は、配置される位置が異なることを除いて、治具10、及び探傷子20とそれぞれ同様である。これら治具10、及び受信用治具30をそれぞれのアール部92に当接させた状態で、軸線O方向に移動させつつ超音波探傷が行われる。
【0022】
(作用効果)
ここで、検査対象物90の形状や構造によっては、内部で超音波が屈折・散乱する等して、探傷子20に反射波が返ってこない状態になることがある。特に、上述した基準領域15に複雑な層構造が設けられている場合にはこの傾向が顕著である。上記構成によれば、探傷子20から発せられた超音波は、検査対象物90の基準領域15を挟んで反対側に配置された複数の受信用探傷子40のうちのいずれかによって受信される。このため、上記のように反射波が送信側の探傷子20に返ってこない状態でも安定的に超音波探傷を行うことが可能となる。したがって、検査対象物90の歩留まりが向上し、製品の製造コストやメンテナンスコストを削減することが可能となる。また、検査対象物90の形状を選ばずに超音波探傷を行えることから、超音波探傷装置1の汎用性を向上させることもできる。
【0023】
以上、本開示の第二実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。
【0024】
<第三実施形態>
続いて、本開示の第三実施形態について、図4図5を参照して説明する。なお、上記の各実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。図4、及び図5に示すように、本実施形態に係る超音波探傷装置100は、保持部101と、リング部102と、シュー103と、探傷子20と、を備えている。
【0025】
保持部101は、検査対象物90のアール部92に対して径方向から当接する転動部104と、この転動部104を回動可能に支持する保持部本体105と、を有する。転動部104は、軸線Oに対する径方向に延びる転動軸106回りに転動可能な車輪である。保持部本体105は、アール部92の周方向における2点に向かって軸線O位置から径方向に延びている。つまり、保持部本体105は、軸線O方向から見てL字状をなしている。言い換えると、保持部本体105は、それぞれ径方向に延びる一対の脚部107を有する。これら脚部107同士は、軸線O方向から見て互いに直交している。転動部104はこれら脚部107の先端部に取り付けられている。
【0026】
保持部本体105の交差する位置には、軸線O方向に延びるリング回動軸回りに回動可能なリング部102が取り付けられている。リング部102は、軸線Oに対する径方向に延びる軸を中心とする円環状をなしている。詳しくは図示しないが、リング部102の回動角度は、ラチェット機構によって段階的に変化するように構成されている。つまり、いったんリング部102の角度・姿勢を設定すると、当該角度・姿勢を維持することができる。ラチェット機構の規制力に抗うようにリング部102にさらに力を与えれば、当該リング部102の角度・姿勢を変えることも可能である。
【0027】
リング部102の内周側の開口には、シュー103が収容される。シュー103は、例えばポリイミドやアクリルで一体に形成された棒状をなしている。シュー103の先端部(つまり、アール部92側の端部)は、アール部92の曲率半径に対応して曲面状に湾曲している。シュー103の先端部は、アール部92の表面に面接触する。なお、アール部92の表面とシュー103との間に水や油脂を介在させることも可能である。
【0028】
シュー103の基端部(アール部92側とは反対側の端部)には、探傷子20が取り付けられている。探傷子20は、シュー103の延びる方向に、つまり、軸線Oに対する径方向に超音波を照射することが可能である。超音波はシュー103内部を通過した後、アール部92の表面、及び内部に到達する。超音波探傷を行うに当たっては、図5中の矢印で示すように、リング部102の角度を一定に保ったまま、まず軸線O方向一方側から他方側に向かって走査し、次いでリング部102の角度を変えて軸線O方向他方側から一方側に向かって走査する。この動作を繰り返すことによって、アール部92の軸線O方向の全域、及び周方向の全域を超音波探傷することが可能とされている。
【0029】
(作用効果)
上記構成によれば、シュー103、及び探傷子20が、リング部102を介して一対の保持部101に回動可能に支持されている。このため、シュー103、及び探傷子20をアール部92の円弧に合わせて回動させながら、当該アール部92の広い範囲にわたって超音波探傷を行うことができる。また、保持部101の先端には転動部104が取り付けられているため、軸線O方向に保持部101を移動させることで、保持部101を逸脱させることなくアール部92のより広い範囲を超音波探傷することができる。特に、保持部101は周方向の2点でアール部92に対して当接するため、周方向における位置ずれを最小限に抑えることが可能となる。これにより、予め定められた検査対象範囲を漏れなく、かつ精緻に超音波探傷することができる。
【0030】
上記構成によれば、シュー103の先端部がアール部92の曲率に対応した曲面状をなしているため、シュー103を回動させても、先端部をアール部92に対して常態的に面接触させ続けることができる。これにより、超音波を広い範囲にかけて安定的に照射することができる。したがって、超音波探傷の精度や確度をさらに向上させることが可能となる。
【0031】
上記構成によれば、ラチェット機構が設けられていることから、いったんリング部102を回動させて保持部101に対する相対位置を決めた後、当該位置を維持したまま軸線O方向への走査を続けることができる。この工程を複数の角度ごとに繰り返すことによって、アール部92の全域を、重複することなく、かつ漏れなく超音波探傷することが可能となる。これにより、超音波探傷検査の精度や確度をより一層向上させることができる。したがって、検査対象物90の歩留まりが向上し、製品の製造コストやメンテナンスコストを削減することが可能となる。
【0032】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施の形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0033】
例えば、図6に変形例として示すように、シュー103の先端部に弾性変形可能なゲル状のシート部材14を設けることも可能である。これにより、超音波の進行を妨げることなく、シート部材14をアール部92の曲面形状に追従させることができる。したがって、アール部92の全域で漏れなく超音波探傷を行うことが可能となる。
【0034】
なお、上記の各実施形態では、検査対象物90として繊維強化樹脂を例に説明した。しかしながら、検査対象物90は繊維強化樹脂に限定されず、金属やその他の樹脂であってもよい。
【0035】
また、アール部92の形状も上記よっては限定されず、当該アール部92が90°以上の角度範囲にわたって形成されていてもよい。この構成であっても上述したものと同様の作用効果を得ることができる。
【0036】
また、第三実施形態では、保持部101が一対の脚部107を有することでL字状をなしている例について説明した。しかしながら、保持部101が3つ以上の脚部107を有する構成を採ることも可能である。この構成によれば、アール部92上でさらに安定的にシュー103を保持することができる。
【0037】
さらに、第三実施形態では、ラチェット機構が設けられている例について説明した。しかしながら、設計と仕様によっては、このラチェット機構を備えない構成を採ることも可能である。この場合、シュー103を段階的にではなく、連続的に無段階で回動させることができるため、超音波探傷の解像度をさらに上げることが可能となる。
【0038】
また、各実施形態で説明した超音波探傷装置1、超音波探傷装置100に、軸線O方向に自走する自走機構を設けることも可能である。この構成によれば、自律的かつ安定的に超音波探傷を進めることが可能となる。
【0039】
さらには、第一実施形態で示した複数の探傷子20の角度間隔は一例であって、設計や仕様に応じて適宜変更可能である。
【0040】
<付記>
各実施形態に記載の超音波探傷装置1は、例えば以下のように把握される。
【0041】
(1)第1の態様に係る超音波探傷装置1は、軸線Oに沿って延びるとともに該軸線Oに直交する断面視で円弧状に凹むアール部92を有する検査対象物90を超音波探傷するための超音波探傷装置1であって、前記アール部92に径方向から当接する当接湾曲面11、及び該当接湾曲面11の反対側を向くとともに該当接湾曲面11と同等の曲率半径を有する対向湾曲面12を有する治具10と、該治具10に取り付けられる複数の探傷子20と、を備え、前記治具10の前記対向湾曲面12には、断面視で該対向湾曲面12の周方向に間隔をあけて配列された複数の挿入孔13が形成され、前記探傷子20は前記挿入孔13にそれぞれ挿入されている。
【0042】
上記構成によれば、治具10の当接湾曲面11がアール部92に当接した状態で、周方向位置の異なる複数の探傷子20が当該アール部92の内部に超音波を送信し、反射波を受信する。これにより、アール部92における周方向の広い範囲を超音波探傷することができる。また、当接湾曲面11がアール部92の形状に沿っているため、治具10をアール部92の延びる軸線O方向に移動させることのみによって、当該アール部92から治具10を逸脱させることなく、連続的かつ安定的に超音波探傷を行うことが可能となる。
【0043】
(2)第2の態様に係る超音波探傷装置1は、(1)の超音波探傷装置1であって、前記検査対象物90は、前記アール部92から見て基準領域15を挟んで反対側に位置する他のアール部92をさらに有し、前記超音波探傷装置1は、前記他のアール部92に配置され、該他のアール部92に径方向から当接する当接湾曲面11、及び該当接湾曲面11の反対側を向くとともに該当接湾曲面11と同等の曲率半径を有する対向湾曲面12を有する受信用治具30と、該受信用治具30に取り付けられて、前記探傷子20から発せられた超音波を受信する複数の受信用探傷子40と、をさらに備え、前記受信用治具30の前記対向湾曲面12には、断面視で該対向湾曲面12の周方向に間隔をあけて配列された複数の挿入孔が形成され、前記受信用探傷子40は前記挿入孔にそれぞれ挿入されている。
【0044】
ここで、検査対象物90の形状や構造によっては、内部で超音波が屈折・散乱する等して、探傷子20に反射波が返ってこない状態になることがある。上記構成によれば、探傷子20から発せられた超音波は、検査対象物90の基準領域15を挟んで反対側に配置された複数の受信用探傷子40のうちのいずれかによって受信される。このため、上記のように反射波が探傷子20に返ってこない状態でも安定的に超音波探傷を行うことが可能となる。
【0045】
(3)第2の態様に係る超音波探傷装置1は、(2)の超音波探傷装置1であって、前記挿入孔13の内周面には、前記探傷子20、及び前記受信用探傷子40の外周面に形成された雄ネジと螺合する雌ネジが形成されている。
【0046】
上記構成によれば、挿入孔13に対して、探傷子20、及び受信用探傷子40をネジ結合によって強固かつ安定的に固定することができる。これにより、検査作業中に探傷子20や受信用探傷子40が位置ずれを起こしたり脱離したりする可能性が低減され、超音波探傷をより円滑に進めることが可能となる。
【0047】
(4)第4の態様に係る超音波探傷装置1は、軸線Oに沿って延びるとともに該軸線Oに直交する断面視で円弧状に凹むアール部92を有する検査対象物90を超音波探傷するための超音波探傷装置1であって、前記アール部92に対して周方向における2点で当接するとともに該アール部92に沿って前記軸線O方向に転動可能な転動部104と、径方向における2方向に延びることで、一方側の端部で該転動部104を支持するとともに他方側の端部で互いに接続されている一対の保持部101と、該一対の保持部101に挟持されて、前記アール部92の円弧に沿う方向に回動可能なリング部102と、該リング部102に支持されているシュー103、及び該シュー103に一体に設けられた探傷子20と、を備える。
【0048】
上記構成によれば、シュー103、及び探傷子20が、リング部102を介して一対の保持部101に回動可能に支持されている。このため、シュー103、及び探傷子20をアール部92の円弧に合わせて回動させながら、当該アール部92の広い範囲にわたって超音波探傷を行うことができる。また、保持部101の先端には転動部104が取り付けられているため、軸線O方向に保持部101を移動させることで、保持部101を逸脱させることなくアール部92のより広い範囲を超音波探傷することができる。特に、保持部101は周方向の2点でアール部92に対して当接するため、周方向における位置ずれを最小限に抑えることが可能となる。
【0049】
(5)第5の態様に係る超音波探傷装置1は、(4)の超音波探傷装置1であって、前記シュー103の先端部は、前記アール部92の曲率に対応した曲面状をなしている。
【0050】
上記構成によれば、シュー103の先端部がアール部92の曲率に対応した曲面状をなしているため、シュー103を回動させても、先端部をアール部92に対して常態的に面接触させ続けることができる。これにより、超音波を広い範囲にかけて安定的に照射することができる。したがって、超音波探傷の精度や確度をさらに向上させることが可能となる。
【0051】
(6)第6の態様に係る超音波探傷装置1は、(4)又は(5)の超音波探傷装置1であって、前記リング部102を前記保持部101に対して段階的に回動させるラチェット機構をさらに備える。
【0052】
上記構成によれば、ラチェット機構が設けられていることから、いったんリング部102を回動させて保持部101に対する相対位置を決めた後、当該位置を維持したまま軸線O方向への走査を続けることができる。この工程を角度ごとに繰り返すことによって、アール部92の全域を、重複することなく、かつ漏れなく超音波探傷することが可能となる。これにより、超音波探傷検査の精度や確度をより一層向上させることができる。
【符号の説明】
【0053】
1…超音波探傷装置 10…治具 11…当接湾曲面 12…対向湾曲面 13…挿入孔 14…シート部材 15…基準領域 20…探傷子 30…受信用治具 40…受信用探傷子 90…検査対象物 91…桁部 92…アール部 93…繊維積層面 100…超音波探傷装置 101…保持部 102…リング部 103…シュー 104…転動部 105…保持部本体 106…転動軸 107…脚部 O…軸線 P…中心位置 X…リング部回動軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6