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特開2024-156469デッキスラブ、及びデッキスラブの設計方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156469
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】デッキスラブ、及びデッキスラブの設計方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 5/40 20060101AFI20241029BHJP
   E04B 1/16 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
E04B5/40 C
E04B1/16 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070957
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】郡 泰明
(57)【要約】
【課題】開口の影響を容易に設計することができるデッキスラブ、及びデッキスラブの設計方法を提供する。
【解決手段】デッキスラブ100は、デッキプレート3、及びデッキプレート3上に打設されたコンクリート4を有する。また、デッキスラブ100は開口101を有する。これに対し、本実施形態に係るデッキスラブ100においては、デッキスラブ100の長さに応じた開口101による剛性の低下量を用いて設計される。これにより、デッキスラブ100の長さに応じた開口101による剛性の低下量を整理して定量的に設計することができる。これにより、時間・労力を有する都度の解析や実験を省略することができる。また実験・解析には試験設備・試験用治具・解析用ソフトフェア等を要し、使用者には専門的な技術・知識が求められるが、簡単に定量的な設計を行うことができる。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デッキプレート、及びデッキプレート上に打設されたコンクリートを有するデッキスラブであって、
開口を有し、
前記デッキスラブの長さに応じた前記開口による剛性の低下量を用いて設計された、デッキスラブ。
【請求項2】
前記デッキスラブの長さと厚さとの比率に応じた前記開口による剛性の低下量を用いて設計された、請求項1に記載のデッキスラブ。
【請求項3】
前記デッキスラブの長さと厚さとの比率が、せん断スパン比で設計された、請求項2に記載のデッキスラブ。
【請求項4】
前記せん断スパン比と、前記デッキスラブの剛性低下量との関係が、多項式関数で設計された、請求項3に記載のデッキスラブ。
【請求項5】
前記デッキスラブのたわみ増大係数αを1.0超、2.39以下とした、請求項1に記載のデッキスラブ。
【請求項6】
前記開口の開口幅が300mm以下である、請求項1に記載のデッキスラブ。
【請求項7】
前記せん断スパン比が3.33以上、15以下である、請求項3に記載のデッキスラブ。
【請求項8】
山上コンクリート厚さが50mm以上、100mm以下である、請求項1に記載のデッキスラブ。
【請求項9】
デッキプレート、及びデッキプレート上に打設されたコンクリートを有するデッキスラブの設計方法であって、
前記デッキスラブが開口を有し、
前記デッキスラブの長さに応じた前記開口による剛性の低下量を用いて設計した、デッキスラブの設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デッキスラブ、及びデッキスラブの設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のデッキスラブとして、特許文献1に記載されたものが知られている。このデッキスラブは、デッキプレートと、デッキプレート上に打設されたコンクリートと、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-41348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
デッキスラブには、開口が形成される場合がある。このような開口周辺には欠損した断面性能を補う耐力・剛性補強筋及び開口周辺に生じるひび割れ防止用のひび割れ防止筋が必要になる。しかしながら、耐力及び剛性補強やひび割れ防止のための設計を行い、複数種類の鉄筋を手配・施工・監理する必要があり、設計者・施工者にとって大きな手間となるという問題がある。
【0005】
すなわち、従来では、デッキスラブに開口を設ける場合には、「デッキプレート床構造設計・施工規準」に準拠し、φ110mm超の開口となる場合には鉄筋径D13以上の補強筋などを配し、耐力及び剛性を補強する必要があった。従って、追加配筋等の開口の補強を不要または低減するためには、同規準に準拠した設計法で確認する必要があった。
【0006】
そして、上述のような開口を有するデッキスラブの設計を行う場合、実験あるいは解析により確認した剛性の低下量を用いて設計することがある。但し、設計条件の項目は膨大(デッキの品種・板厚、コンクリートの強度・厚み、支持スパン、荷重条件等…)であるため、実際の使用条件に合わせて、都度、実験あるいは解析を行う必要があり、非効率で多大な労力が必要であった。また実験・解析には試験設備・試験用治具・解析用ソフトフェア等を要し、使用者には専門的な技術・知識が求められる。
【0007】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、開口の影響を容易に設計することができるデッキスラブ、及びデッキスラブの設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るデッキスラブは、デッキプレート、及びデッキプレート上に打設されたコンクリートを有するデッキスラブであって、開口を有し、デッキスラブの長さに応じた開口による剛性の低下量を用いて設計される。
【0009】
本発明に係るデッキスラブは、デッキプレート、及びデッキプレート上に打設されたコンクリートを有する。また、デッキスラブは開口を有する。これに対し、本発明に係るデッキスラブにおいては、デッキスラブの長さに応じた開口による剛性の低下量を用いて設計される。これにより、デッキスラブ100の長さに応じた開口101による剛性の低下量を整理して定量的に設計することができる。これにより、時間・労力を有する都度の解析や実験を省略することができる。また実験・解析には試験設備・試験用治具・解析用ソフトフェア等を要し、使用者には専門的な技術・知識が求められるが、簡単に定量的な設計を行うことができる。以上より、デッキスラブの開口の影響を容易に設計することができる。
【0010】
デッキスラブの長さと厚さとの比率に応じた開口による剛性の低下量を用いて設計されてよい。この場合、単にデッキスラブの長さだけに応じて設計する場合よりも、精度を高く、有利に設計することが可能となる。
【0011】
デッキスラブの長さと厚さとの比率が、せん断スパン比で設計されてよい。この場合、単にデッキスラブの長さだけに応じて設計する場合よりも、精度を高く、有利に設計することが可能となる。
【0012】
せん断スパン比と、デッキスラブの剛性低下量との関係が、多項式関数(一次関数、二次関数など)で設計されてよい。この場合、多項式関数(一次関数、二次関数など)を用いて簡単に定量的な設計が可能となる。
【0013】
デッキスラブのたわみ増大係数αを1.0超、2.39以下としてよい。この場合、たわみ増大係数αを適切な範囲に設定することができる。より好ましくは、たわみ増大係数αは1.0超、2.15以下としてよい。
【0014】
開口の開口幅が300mm以下であってよい。また、せん断スパン比が3.33以上、15以下であってよい。また、山上コンクリート厚さが50mm以上、100mm以下であってよい。これらの範囲とすることで、上述の設計を精度良く行うことができる。
【0015】
本発明に係るデッキスラブの設計方法は、デッキプレート、及びデッキプレート上に打設されたコンクリートを有するデッキスラブの設計方法であって、デッキスラブが開口を有し、デッキスラブの長さに応じた開口による剛性の低下量を用いて設計する。
【0016】
このデッキスラブの設計方法によれば、上述のデッキスラブと同趣旨の作用・効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、開口の影響を容易に設計することができるデッキスラブ、及びデッキスラブの設計方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係るデッキスラブの平面図である。
図2図1のII-II線に沿った断面図である。
図3図2のIII-III線に沿った断面図である。
図4図2のIV-IV線に沿った断面図である。
図5】開口寸法が一定の場合において、開口の影響と、デッキスラブの厚さ・長さとの関係を示すイメージ図である。
図6】比較例に係るデッキスラブ及び実施例に係るデッキスラブに関する、設計の工程と作業時間との関係を示すイメージ図である。
図7】解析の解析モデルを示す図である。
図8】解析結果として、長期許容荷重時のミーゼス応力コンタを示す図である。
図9】設計方法における第1の手法を説明するためのグラフである。
図10】設計方法における第2の手法を説明するためのグラフである。
図11】近似式に対するバラつきについて説明するための表である。
図12】第1の手法、及び第2の手法による設計式を用いたわみ増大係数を算出した表である。
図13】変形例に係るデッキスラブを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係るデッキスラブ100の平面図である。図2は、図1のII-II線に沿った断面図である。図3は、図2のIII-III線に沿った断面図である。図4は、図2のIV-IV線に沿った断面図である。図1に示すように、デッキスラブ100は、建物の構造床として提供される。デッキスラブ100は、水平方向に広がるように建物に設けられる。なお、各図には、「スパン方向D1」及び「幅方向D2」が設定されている。スパン方向D1は、後述のデッキプレート3が延びる方向であり、幅方向D2は、デッキプレート3の山部3aが並ぶ方向である。
【0021】
図2に示すように、デッキスラブ100は、デッキプレート3と、コンクリート4と、を備える。デッキスラブ100は、一対の梁材2によって支持される。
【0022】
図3に示すように、デッキプレート3は、幅方向D2に山部3aと谷部3bとを交互に有している。山部3aは、谷部3bの底面から上方へ向かって突出するように設けられる。複数の山部3aは、互いに幅方向D2に離間した状態で、スパン方向D1に互いに平行をなすように延びている。山部3aは、谷部3bの両側壁を構成する。
【0023】
コンクリート4は、デッキプレート3上に打設される。コンクリート4は、デッキプレート3の谷部3bの内部に充填された状態で、山部3aの上面よりも高い位置まで充填される。これにより、コンクリート4は、デッキプレート3の上方にて、スパン方向D1及び幅方向D2に広がる上面を有する。当該上面がデッキスラブ100の上面100aとなる。
【0024】
コンクリート4の内部には、ひび割れ拡大防止筋7が配置されている。ひび割れ拡大防止筋7は、スパン方向D1、及び幅方向D2に平行に広がる網部材である。ひび割れ拡大防止筋7は、山部3aと上面100aとの間に配置される。
【0025】
図2及び図4に示すように、デッキスラブ100には、厚さ方向に貫通する開口101が形成されている。開口101は、デッキスラブ100の上面100aからデッキプレート3の下面3cに至るまで上下方向に延びている。開口101においては、デッキプレート3、コンクリート4、及びひび割れ拡大防止筋7の全ての部材に対し、厚み方向に貫通する貫通孔が形成される。
【0026】
本実施形態では、開口101は、上下方向から見て長方形状(正方形状を含む)の形状を有している。開口101の大きさの下限は特に限定されないが、110mm(ここでは一辺あたりの寸法)より大きい寸法を有して良く、150mm以上の寸法を有してよい。また、開口101は大きさの上限は特に限定されないが、300mm以下であってよく、600mm以下であってよい。開口101の形状は特に限定されないが、本実施形態では、開口101は、四角柱状に形成された四つの内面101aを有する。各内面101aでは、コンクリート4の切断面、デッキプレート3の切断面が露出するような構成となっている。
【0027】
ここで、本実施形態に係るデッキスラブ100は、追加配筋などのような断面欠損による耐力不足を補うための部材を不要とするために、そもそもの長期許容荷重に対する実耐力の安全率を引き上げることで、追加配筋を不要としている。具体的に、デッキスラブ100は、長期許容荷重に対し、2.0より大きい実耐力の安全率を有する。耐力安全率は、「実耐力/長期許容荷重」で求められる。なお、長期許容荷重とは、前述の「デッキプレート床構造設計・施工規準」に基づいて、許容応力度設計により算出した長期の許容荷重である。
【0028】
次に、デッキスラブ100の好適な条件について説明する。デッキプレート3の高さは、50mm以上、120mm以下に設定される。デッキプレート3の板厚は、1.0mm以上、1.6mm以下に設定される。コンクリートの山上厚は50mm以上、100mm以下で設定される。引張側断面係数の値は、50cm/m以上、550cm/m以下に設定される。圧縮側断面係数の値は、1350cm/m以上、11000cm/m以下に設定される。断面二次モーメントの値は、5000cm/m以上、120000cm/m以下に設定される。
【0029】
次に、本実施形態に係るデッキスラブ100の設計方法について説明する。例えば、デッキスラブ100を上から見た開口の見附寸法を、一律(例えば□300mm)とする場合、当該デッキスラブ100の厚さと長さ(支持スパン)に応じて、開口101の影響度合いが異なる。本発明者らは、デッキスラブ100の厚さについては、デッキスラブ100が薄いほど、デッキスラブ100の長さについては、デッキスラブ100が長いほど、開口101を考慮していない剛性値に対し、実剛性の低下量が大きいことを、実験及び解析で確認した。図5は、開口寸法が一定の場合において、開口101の影響と、デッキスラブ100の厚さ・長さとの関係を示すイメージ図である。なお、デッキスラブ100の長さは、当該デッキスラブ100のスパン方向D1における支持部材(鉄骨梁など)の芯々間の寸法であり、図2において「L1」で示される。本明細書では、このような長さをデッキスラブ100の「支持スパン」と称する場合がある。
【0030】
図5に示すようなデッキスラブ100の傾向を設計式化することで、開口101の影響を計算で求めることができる。この場合、比較例に係る都度の実験や解析を行って設計されたデッキスラブに比べ、労力を要する都度の実験や解析を省略することが可能となる。図6は、比較例に係るデッキスラブ及び実施例に係るデッキスラブに関する、設計の工程と作業時間との関係を示すイメージ図である。設計の工程のうち、「1:室の用途に基づく設計荷重の確認」、「2:デッキスラブの断面設計」「3:開口の寸法・位置の設計」「5:構造計算」については、比較例と実施例は同じである。しかし、「4:開口の影響評価」については、比較例では実験による確認、または解析による確認を行う必要があるため作業時間PS1が長くなっていた。例えば、実験による確認では、試験計画、資材手配、試験体製作、性能確認試験、評価等が必要であるため、半年程度の作業時間を要する。また、解析による確認では、解析モデルの作成、妥当性検証、解析実行、評価等が必要であるため、3か月程度の作業時間を要していた。また、比較例では、専門的な設備、技術、知識も必要となっていた。これに対し、実施例では、設計式による確認を行えばよく、例えば、多項式関数(一次関数、二次関数など)を解くのみで作業が完了するため、作業時間PS2は、1時間程度に抑えることができる。このように、実施例では、作業時間、及びコストを大幅に削減することができる。
【0031】
図7は、上記知見を得るために行った解析の解析モデルを示す図である。解析モデルは、開口101を有するデッキスラブ100の曲げ試験時の試験体及び載荷治具などをモデル化したもので、解析負荷軽減のため、対称性を考慮して1/4モデルとしている。また、図8は、解析結果として、長期許容荷重時のミーゼス応力コンタを示す図である。なお、図8におけるミーゼス応力コンタの単位は、「N/mm」である。また、図8(b)に示す色分けの説明欄は、図8(a)においても共通のものが使用される。使用ソフトウェアとして「Abaqus」を用いた。また、使用要素として、コンクリート部-ソリッド要素、デッキプレート-ソリッド要素を用いた。図7(a)に示すように、デッキスラブ100の端部に剛体の支持プレート201を配置し、デッキスラブ100の中央に剛体の載荷板200を設置した。
【0032】
デッキスラブ100は、当該デッキスラブ100の長さに応じた開口101による剛性の低下量を用いて設計されたものである。なお、デッキスラブ100の長さとは、デッキスラブ100におけるスパン方向D1の大きさである。このような開口101による剛性の低下量の設計方法について、図9及び図10を参照して説明する。図9は、設計方法における第1の手法を説明するためのグラフである。図10は、設計方法における第2の手法を説明するためのグラフである。
【0033】
[第1の手法]
図9に示すグラフにおいては、横軸が支持スパン(図2に示す「L1」)であり、縦軸がたわみ増大係数αである。たわみ増大係数αは、開口101による剛性の低下量を示す係数である。たわみ増大係数αとは、開口101による欠損を考慮していないデッキスラブの剛性理論値に対する、デッキスラブ100の実剛性値の割合である。当該座標に対して、前述の解析結果によって得られた値をプロットした。座標中における、三角形のプロット値は、デッキスラブ100としての厚さの最小仕様である「山上コンクリート厚さ:50mm(総厚100mm)」における解析結果である。座標中における、円形のプロット点は、デッキスラブ100としての最大仕様である「山上コンクリート厚さ:100mm(総厚150mm)」における解析結果である。
【0034】
上述のプロット値に対して近似線GA1を設定した。近似線GA1は、線形近似によって設定された近似線である。図9においては、三角形のプロット値と、円形のプロット値との間で、結果が二分していることが確認できる。また、支持スパンが大きくなるに従って、両者の乖離が増大していることがわかる。
【0035】
ここで、回帰式でたわみ増大係数αを設計するには、設計式から算出される係数が、FEM解析で確認できた実状の値を下回らないようにする必要がある。FEM解析の値を下回らないようにすることで、設計式から算出される係数が、危険側の値とならないようにするためである。従って、近似線GA1から係数が大きい側に最も離間しているプロット値を通り、且つ、近似線GA1と平行なグラフGB1を設定した。このようなグラフGB1によって得られた設計式(ここでは、y=0.0004x+0.59)が、第1の手法による設計式となる。このように、支持スパンと、デッキスラブ100の剛性低下量との関係が、一次関数で設計される。本手法では、多項式関数により近似し、多項式関数として設計式を得る例として、一次関数により近似し、一次関数として設計式を得ている例としているが、二次関数により近似し、二次関数として設計式を得てもよい。さらに三次関数でもよいし、それより高次の関数としてもよい。
【0036】
[第2の手法]
図10に示すグラフにおいては、横軸がせん断スパン比であり、縦軸がたわみ増大係数αである。せん段スパン比は、デッキスラブ100の厚さと長さの双方の値から決まる値であり、「せん断スパン/スラブ総厚」で示される。なお、せん断スパンとは、支点と載荷点の間のせん断力が生じるスパンのことであるが、「デッキプレート床構造設計・施工規準」に基づく通常の設計では支持スパン全長に渡って等分布の荷重が生ずる力学モデルで許容応力度設計が行われるため、集中荷重モデルと等分布荷重モデルで概ね曲げモーメント分布が同等となる、せん断スパン=支持スパンの1/4~1/3と定義することが一般的である。なお、図10においては、せん断スパン=支持スパンの1/3としている。当該座標に対して、第1の手法と同様に、三角形のプロット値及び円形のプロット値をプロットする。また、これらのプロット値に対して近似線GA2を設定する。図10に示すように、第2の手法によるプロット値は、第1の手法によるプロット値よりも、近似式GA2に対する乖離が小さいことが確認できる。近似線GA2から係数が大きい側に最も離間しているプロット値を通り、且つ、近似線GA2と平行なグラフGB2を設定した。このようなグラフGB2によって得られた設計式(ここでは、y=0.1252x+0.708)が、第2の手法による設計式となる。
【0037】
第2の手法によれば、デッキスラブ100の長さと厚さとの比率に応じた開口101による剛性の低下量を用いて設計される。より具体的には、デッキスラブ100の長さと厚さとの比率が、せん断スパン比で設計される。また、せん断スパン比と、デッキスラブ100の剛性低下量との関係が、一次関数で設計される。本手法では、多項式関数により近似し、多項式関数として設計式を得る例として、一次関数により近似し、一次関数として設計式を得ている例としているが、二次関数により近似し、二次関数として設計式を得てもよい。さらに三次関数でもよいし、それより高次の関数としてもよい。
【0038】
第1の手法及び第2の手法を用いる場合の各パラメータは特に限定されないが、例えば、開口101の開口幅は300mm以下であってよい。なお、下限値は特に限定されないが、開口101の開口幅110mm以上であってよい。山上コンクリート厚さは50mm以上、100mm以下であってよい。第1の手法では、支持スパンは1500mm以上、4500mm以下であってよい。また、第2の手法では、せん断スパン比は3.33以上、15以下であってよい。
【0039】
第1の手法及び第2の手法を用いる場合の各パラメータは特に限定されないが、例えば、たわみ増大係数αは1.0超、2.39以下であってよい。この場合、たわみ増大係数αを適切な範囲に設定することができる。より好ましくは、たわみ増大係数αは1.0超、2.15以下としてよい。
【0040】
次に、図11の表を参照して、近似式に対するバラつき(精度)について説明する。図11に示す「ケース名」は、図9及び図10でプロットされたプロット値である。図11の表には、第1の手法による設計値と、第2の手法による設計値が記載されている。これらの設計値を標準偏差で整理すると、第1の手法では0.153となり、第2の手法では0.0789となる。このように、支持スパンで整理する第1の手法よりも、せん断スパン比で整理する第2の手法の方が、標準偏差が半分程度となっていることが確認でき、評価精度が高く、有利な設計が行える。
【0041】
第1の手法、及び第2の手法による設計式を用い、図12に示すような条件のケース1~9を例として、たわみ増大係数を算出した。また、第1の手法によるたわみ増大係数と、第2の手法によるたわみ増大係数とを比較した。合成スラブ工業会の通則的認定を始め、耐火構造床として設計するには、通常山上コンクリート厚さが80mm以上必要である。よって、山上コンクリート厚さは80mm~100mmで試設計を行った。支持スパンは解析仕様と同じく、1500mm、3000mm、4500mmとしている。いずれのケースにおいても、第1の手法よりも第2の手法の方が値が小さくなっており、安全性を確保しつつ、有利に設計することが可能であることが分かる。
【0042】
なお、「比較例」は、図6で示した比較例のように、逐次、解析モデルの作成、妥当性検証、解析実行、評価を行うことで得られたたわみ増大係数αである。第1の手法及び第2の手法によって得られたたわみ増大係数αは、比較例のように長時間をかけて得られたたわみ増大係数αから大きく離れた値ではなく、短い時間でも十分な結果を得られることが確認できる。
【0043】
以上より、実験及び解析から算出したプロットデータを支持スパン及びせん断スパン比を軸として整理し、近似式を求めることで、開口101による剛性の低下量を定量的に設計することができる。これにより、時間・労力を有する都度の解析や実験を省略することができる。また実験・解析には試験設備・試験用治具・解析用ソフトフェア等を要し、使用者には専門的な技術・知識が求められるが、本実施形態では簡易な多項式関数(一次関数、二次関数など)の計算で設計することができる。
【0044】
また、せん断スパン比を軸とした方(第1の手法)が、支持スパンを軸とする(第2の手法)よりも精度が高く、実際一般的に使用される山上コンクリート厚さ80mm以上では、第2の手法がより有利に設計できることが分かる。
【0045】
次に、本実施形態に係るデッキスラブ100、及びデッキスラブの設計方法に係る作用・効果について説明する。
【0046】
本実施形態に係るデッキスラブ100は、デッキプレート3、及びデッキプレート3上に打設されたコンクリート4を有する。また、デッキスラブ100は開口101を有する。これに対し、本実施形態に係るデッキスラブ100においては、デッキスラブ100の長さに応じた開口101による剛性の低下量を用いて設計される。これにより、デッキスラブ100の長さに応じた開口101による剛性の低下量を整理して定量的に設計することができる。これにより、時間・労力を有する都度の解析や実験を省略することができる。また実験・解析には試験設備・試験用治具・解析用ソフトフェア等を要し、使用者には専門的な技術・知識が求められるが、簡単に定量的な設計を行うことができる。以上より、デッキスラブ100の開口の影響を容易に設計することができる。
【0047】
デッキスラブ100の長さと厚さとの比率に応じた開口101による剛性の低下量を用いて設計されてよい。この場合、単にデッキスラブ100の長さだけに応じて設計する場合よりも、精度を高く、有利に設計することが可能となる。
【0048】
デッキスラブ100の長さと厚さとの比率が、せん断スパン比で設計されてよい。この場合、単にデッキスラブ100の長さだけに応じて設計する場合よりも、精度を高く、有利に設計することが可能となる。
【0049】
せん断スパン比と、デッキスラブ100の剛性低下量との関係が、多項式関数(一次関数、二次関数など)で設計されてよい。この場合、多項式関数(一次関数、二次関数など)を用いて簡単に定量的な設計が可能となる。
【0050】
開口101の開口幅が300mm以下であってよい。また、せん断スパン比が3.33以上、15以下であってよい。また、山上コンクリート厚さが50mm以上、100mm以下であってよい。これらの範囲とすることで、上述の設計を精度良く行うことができる。
【0051】
本実施形態に係るデッキスラブ100の設計方法は、デッキプレート3、及びデッキプレート3上に打設されたコンクリート4を有するデッキスラブ100の設計方法であって、デッキスラブ100が開口101を有し、デッキスラブ100の長さに応じた開口101による剛性の低下量を用いて設計する。
【0052】
このデッキスラブ100の設計方法によれば、上述のデッキスラブ100と同趣旨の作用・効果を得ることができる。
【0053】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0054】
例えば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、デッキプレートの形状は適宜変更されてよい。また、コンクリート内部に配置される鉄筋も適宜変更してよい。
【0055】
また、開口の形状は特に限定されない。例えば、上下方向から見て円形の開口が採用されてよい。その他、開口は、他の多角形状であってよい。
【0056】
従来のデッキスラブとして、デッキ合成スラブ、デッキ複合スラブ等が知られている。デッキ合成スラブは、特許文献1に記載されたものが知られている。このデッキ合成スラブは、デッキプレートと、デッキプレート上に打設されたコンクリートと、を備え、スラブに発生する圧縮力にはコンクリートが、引張力にはデッキプレートが抵抗する構造となっている。デッキ複合スラブは、デッキプレートと、デッキプレート上に打設されたコンクリートと、引張鉄筋と、を備え、スラブに発生する圧縮力にはコンクリートが、引張力には引張鉄筋が抵抗する構造となっている。
【0057】
デッキプレートの種類も上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、図13に示すようなデッキプレート3を採用してもよい。図13に示すデッキプレート3は、略平面上の底壁部を有しており、当該底壁部から所定の間隔にて、上方へ突出する山部3aが形成される。
【0058】
[形態1]
デッキプレート、及びデッキプレート上に打設されたコンクリートを有するデッキスラブであって、
開口を有し、
前記デッキスラブの長さに応じた前記開口による剛性の低下量を用いて設計された、デッキスラブ。
[形態2]
前記デッキスラブの長さと厚さとの比率に応じた前記開口による剛性の低下量を用いて設計された、形態1に記載のデッキスラブ。
[形態3]
前記デッキスラブの長さと厚さとの比率が、せん断スパン比で設計された、形態2に記載のデッキスラブ。
[形態4]
前記せん断スパン比と、前記デッキスラブの剛性低下量との関係が、多項式関数(一次関数、二次関数など)で設計された、形態3に記載のデッキスラブ。
[形態5]
前記デッキスラブのたわみ増大係数αを1.0超、2.39以下とした、形態1~3の何れか一項に記載のデッキスラブ。
[形態6]
前記開口の開口幅が300mm以下である、形態1~5の何れか一項に記載のデッキスラブ。
[形態7]
前記せん断スパン比が3.33以上、15以下である、形態3に記載のデッキスラブ。
[形態8]
山上コンクリート厚さが50mm以上、100mm以下である、形態1~7の何れか一項に記載のデッキスラブ。
[形態9]
デッキプレート、及びデッキプレート上に打設されたコンクリートを有するデッキスラブの設計方法であって、
前記デッキスラブが開口を有し、
前記デッキスラブの長さに応じた前記開口による剛性の低下量を用いて設計した、デッキスラブの設計方法。
【符号の説明】
【0059】
3…デッキプレート、4…コンクリート、100…デッキスラブ、101…開口。
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