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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156478
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】デザイン支援システム
(51)【国際特許分類】
   G06T 19/00 20110101AFI20241029BHJP
   G06F 3/16 20060101ALI20241029BHJP
   G06F 3/01 20060101ALI20241029BHJP
   G06F 3/04815 20220101ALI20241029BHJP
   G06F 3/04845 20220101ALI20241029BHJP
   G06F 3/0346 20130101ALI20241029BHJP
【FI】
G06T19/00 A
G06F3/16 650
G06F3/01 510
G06F3/04815
G06F3/04845
G06F3/0346 423
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070976
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】518325345
【氏名又は名称】デジタルデザインスタジオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130960
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 正之
(72)【発明者】
【氏名】椛島 三統
【テーマコード(参考)】
5B050
5B087
5E555
【Fターム(参考)】
5B050BA09
5B050CA07
5B050DA04
5B050DA05
5B050EA07
5B050EA19
5B050FA05
5B050FA10
5B087BC05
5E555AA17
5E555AA25
5E555AA27
5E555AA29
5E555AA46
5E555AA64
5E555AA79
5E555BA02
5E555BA38
5E555BB38
5E555BC08
5E555BE17
5E555CA10
5E555CA41
5E555CA42
5E555CA44
5E555CA45
5E555CA47
5E555CB21
5E555CB64
5E555CB65
5E555CB69
5E555CB70
5E555DA08
5E555DA23
5E555DB32
5E555DB53
5E555DB57
5E555DC13
5E555DC35
5E555EA23
5E555EA27
5E555FA00
(57)【要約】
【課題】 物品のデザイン業務を支援し効率化する。
【解決手段】 本開示のデザイン支援システム1は、物品データ記録部510と、ヘッドセット10と、環境光記録部520と、背景画像レンダリング部530と、操作入力部120と、画像調節部540と、物品画像レンダリング部550と、画像統合部580とを備えている。ヘッドセットは外界カメラ108を備える。事前撮影において外界カメラにより撮影したオペレーター2まわりの方向別の明度を示す明度分布データが環境光記録部に記録される。明度分布データから背景画像が生成され、構造データと属性データと明度分布データとから、明度分布データに対応する照明下での物品3の画像が生成される。背景画像42と物品画像44が合成され提示画像4のための画像信号が出力される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
仮想空間における少なくとも1つの物品の構造を決定するための構造データと該物品についての属性を選択または調節するための属性候補データとを格納する物品データ記録部と、
オペレーターが頭部に装着するための少なくとも1つのヘッドセットであって、実空間における該ヘッドセットの姿勢を検出しうる姿勢センサーと該オペレーターへの提示画像を表示しうる少なくとも1つのディスプレイと該オペレーターにとっての視野に対応した外界の少なくとも一部を撮影しうる少なくとも1つの外界カメラとを備えるヘッドセットと、
事前撮影において前記外界カメラにより撮影した前記オペレーターまわりの方向別の明度を示す明度分布データを前記姿勢センサーの出力と対応付けて記録する環境光記録部と、
前記環境光記録部から呼び出した前記明度分布データから、前記姿勢センサーの各時点の出力に対応した背景画像を生成する背景画像レンダリング部と、
前記物品についての前記属性の選択または調節のための操作入力を前記オペレーターから受け付ける少なくとも一つの操作入力部と、
前記操作入力部が受け付けた前記操作入力の指示内容に応じて前記属性候補データから選択または調節された前記属性のための属性データを生成する画像調節部と、
前記物品データ記録部から呼び出した前記構造データと前記画像調節部からの前記属性データと前記環境光記録部から呼び出した前記明度分布データとから、前記操作入力の前記指示内容と前記姿勢センサーの各時点の前記出力とに対応した、前記明度分布データに対応する照明下での物品画像を生成する物品画像レンダリング部と、
前記背景画像と前記物品画像とを合成して前記提示画像のための画像信号として出力する画像統合部と
を備えるデザイン支援システム。
【請求項2】
前記明度分布データは、事前撮影において前記ヘッドセットの向きを変更しながら前記外界カメラにより撮影して取得した方向別の明度を示すものである
請求項1に記載のデザイン支援システム。
【請求項3】
前記明度分布データのうち、前記ヘッドセットを装着している前記オペレーターにとっての前記視野の少なくとも一部に対応するデータを、前記外界カメラにより撮影して取得した各時点の明度データにより置き換える背景更新処理部をさらに備える
請求項1に記載のデザイン支援システム。
【請求項4】
前記物品画像レンダリング部は、前記明度分布データに対応する周囲の映り込み像を前記物品画像の表面反射に反映させるものである
請求項1に記載のデザイン支援システム。
【請求項5】
前記背景画像レンダリング部は、前記物品データ記録部から前記構造データを呼び出し、前記明度分布データに対応して前記物品が前記実空間に落すべき影の方向における前記背景画像の明度を減じるものである
請求項1に記載のデザイン支援システム。
【請求項6】
前記環境光記録部が、事前撮影において前記外界カメラにより撮影した色別の明度を示す色彩明度データを前記姿勢センサーの前記出力と対応付けて記録するものであり、
前記背景画像レンダリング部は、前記環境光記録部から呼び出した前記色彩明度データから、前記姿勢センサーの各時点の前記出力に対応した色彩背景画像を生成するものであり、
前記物品画像レンダリング部は、前記物品データ記録部から呼び出した前記構造データと前記画像調節部からの前記属性データと前記環境光記録部から呼び出した前記色彩明度データとから、前記操作入力の前記指示内容と前記姿勢センサーの各時点の前記出力とに対応した、前記色彩明度データに対応する照明下での物品画像を生成するものである
請求項1に記載のデザイン支援システム。
【請求項7】
前記実空間の各方向における物体までの距離を計測しうる奥行き測距部と、
該奥行き測距部が示す前記物体までの距離が前記仮想空間における前記物品までの距離よりも小さい方向について、前記外界カメラの出力に基づいて前景画像を生成する前景画像レンダリング部と
をさらに備えており、
前記画像統合部が、前記背景画像と前記物品画像とに前記前景画像を追加合成して前記提示画像のための画像信号を出力するものである
請求項1に記載の物品デザイン支援システム。
【請求項8】
前記物品データ記録部が、複数の物品それぞれについての前記構造データと前記属性候補データとを格納しており、
前記操作入力部が、前記複数の物品についての前記属性の選択または調節のための操作入力と各物品の表示要否または表示態様についての表示指示入力とを前記オペレーターから受け付けるものであり、
前記画像調節部が、前記操作入力部が受け付けた前記操作入力と前記表示指示入力との指示内容に応じて、前記複数の物品のうちの表示を要するものについて、前記属性候補データから選択または調節された前記属性のための属性データを生成するものであり
前記物品画像レンダリング部が、前記操作入力の前記指示内容と前記姿勢センサーの各時点の前記出力とに対応した、前記明度分布データに対応する照明下での物品画像を前記複数の物品について生成するものである
請求項1に記載の物品デザイン支援システム。
【請求項9】
前記ヘッドセットにおいて前記少なくとも1つのディスプレイが前記オペレーターの両眼のそれぞれに対応して対をなすディスプレイであり、
前記ヘッドセットにおいて前記少なくとも1つの外界カメラが前記オペレーターの両眼のそれぞれに対応して対をなす外界カメラであり、
前記物品画像レンダリング部、前記背景画像レンダリング部、および前記画像統合部が、前記ヘッドセット1つ当たり2系統備わっている
請求項1に記載のデザイン支援システム。
【請求項10】
前記ヘッドセットにおいて前記少なくとも1つのディスプレイが前記オペレーターの両眼のそれぞれに対応して対をなすディスプレイであり、
前記ヘッドセットにおいて前記少なくとも1つの外界カメラが前記オペレーターの両眼のそれぞれに対応して対をなす外界カメラであり、
前記物品画像レンダリング部、前記背景画像レンダリング部、前景画像レンダリング部、および前記画像統合部が、前記ヘッドセット1つ当たり2系統備わっている
請求項7に記載のデザイン支援システム。
【請求項11】
前記操作入力部それ自体の姿勢を検知するコントローラー姿勢センサーと、
前記コントローラー姿勢センサーの出力に応じて決定された前記仮想空間における仮想線と前記構造のなす表面との交点により注目位置を判定するポイント位置判定部と、
該ポイント位置判定部により決定した複数の注目位置のうちの2つに対応する実空間内の距離を算出する距離算出部と
をさらに備えており、
前記画像統合部は、前記コントローラー姿勢センサーの前記出力に応じて前記仮想空間にて更新される前記注目位置を示すポインター表示と、前記距離算出部による距離の数値とを前記提示画像に含めて前記画像信号を生成するものである
請求項1に記載のデザイン支援システム。
【請求項12】
前記操作入力部それ自体の姿勢を検知するコントローラー姿勢センサーと、
前記コントローラー姿勢センサーの出力に応じて決定された前記仮想空間における仮想面と前記構造のなす表面との交線を決定する交線決定部と
をさらに備えており、
前記画像統合部は、前記コントローラー姿勢センサーの前記出力に応じて前記仮想空間にて更新される前記仮想面を示す面表示と前記交線決定部による前記交線を輪郭または切断線とする切断面の表示とを前記提示画像に含めて前記画像信号を生成するものである
請求項1に記載のデザイン支援システム。
【請求項13】
前記仮想空間において前記物品を内包するように定められ、前記オペレーターが前記操作入力部による操作によってグリップしうる複数のグリップポイントを表面にもつバウンディングボックスを設定するバウンディングボックス設定部と、
該バウンディングボックスの内部の少なくとも一部の座標を、いずれかの前記グリップポイントに対する前記オペレーターのグリップ状態での操作に対応させて変位させる座標変位部と、
前記構造データが参照する座標を前記座標変位部による変位に応じて変位させることにより、前記仮想空間における前記バウンディングボックス内の前記少なくとも一部の座標を参照する前記構造を変形させる構造変形部と
をさらに備え、
前記物品画像レンダリング部は、前記物品データ記録部から呼び出した前記構造データを前記構造変形部により変位させられた座標に対応させて変形した後の前記構造をもつ前記物品画像を生成するものである
請求項1に記載のデザイン支援システム。
【請求項14】
前記物品データ記録部が、前記物品をなす複数の部品の構造を決定するための部品構造データを格納しており、
前記構造変形部が、該複数の部品のための前記部品構造データが参照する座標を前記座標変位部による変位に応じて変位させることにより、該複数の部品をグループ化して変形させるものである
請求項13に記載のデザイン支援システム。
【請求項15】
補助画像を生成する補助画像レンダリング部をさらに備えており
前記画像統合部は、前記背景画像および前記物品画像に、前記補助画像を合成して前記提示画像のための画像信号として出力するものである
請求項1に記載のデザイン支援システム。
【請求項16】
複数のオペレーターの各々に一つずつ装着される複数の前記ヘッドセットと、
前記複数のオペレーターの各々のための複数の前記環境光記録部と、
前記複数のオペレーターの各々のための複数の前記背景画像レンダリング部と、
前記複数のオペレーターの各々のための複数の前記物品画像レンダリング部と、
前記複数のオペレーターの各々のための複数の前記画像統合部と
を備えており、
各環境光記録部は、事前撮影において前記外界カメラにより撮影した各オペレーターまわりの方向別の明度を示す明度分布データを前記ヘッドセットの姿勢と対応付けて記録するものであり、
各背景画像レンダリング部は、各オペレーターの前記実空間における前記姿勢センサーの各時点の出力に対応した背景画像を生成するものであり、
各物品画像レンダリング部は、各オペレーターの前記姿勢センサーの各時点の前記出力に対応した、各オペレーターの前記明度分布データに対応する照明下での物品画像を生成するものであり、
各画像統合部は、前記背景画像と前記物品画像とを合成して各オペレーターについての前記提示画像のための画像信号を出力するものであり、
各オペレーターが装着している前記ヘッドセットの前記ディスプレイには、各オペレーターについての前記提示画像が表示される
請求項1~請求項15のいずれか1項に記載のデザイン支援システム。
【請求項17】
各環境光記録部は、事前撮影において前記ヘッドセットの向きを変更しながら各オペレーターの前記外界カメラにより撮影した各オペレーターまわりの方向別の明度を示す明度分布データを格納しているものである
請求項16に記載のデザイン支援システム。
【請求項18】
前記複数のオペレーターの各々のための複数の背景更新処理部を備えており、
各背景更新処理部は、各オペレーターにとっての前記視野の少なくとも一部に対応するデータを、前記外界カメラにより撮影して取得した各時点の明度データにより置き換えるものである
請求項16に記載のデザイン支援システム。
【請求項19】
実空間の各方向における物体までの距離を計測しうる前記複数のオペレーターの各々のための複数の奥行き測距部と、
前記複数のオペレーターの各々のための前景画像レンダリング部と
をさらに備えており、
前記前景画像レンダリング部が、該奥行き測距部が示す前記物体までの距離が前記仮想空間における前記物品までの距離よりも小さい方向について、前記外界カメラの出力に基づいて前景画像を生成するものであり、
前記画像統合部が、前記背景画像と前記物品画像とに前記前景画像を追加合成して各オペレーターの前記提示画像のための画像信号を出力するものである
請求項16に記載のデザイン支援システム。
【請求項20】
前記複数のオペレーターの各々のための複数の前記画像調節部をさらに備えており、
前記複数のオペレーターのうちの一のオペレーターのための前記画像調節部が、前記複数のオペレーターのうちの他のオペレーターのための前記操作入力部により受け付けた前記物品についての前記属性の選択または調節のための操作入力の指示内容に応じ、前記属性候補データから選択または調節された前記属性のための属性データを生成するものである
請求項16に記載のデザイン支援システム。
【請求項21】
前記複数のオペレーターのうちの一のオペレーターのための前記環境光記録部が、前記複数のオペレーターのうちの他のオペレーターのための前記明度分布データを記録しており、
前記一のオペレーターのための前記背景画像レンダリング部および前記物品画像レンダリング部が、前記一のオペレーターのための前記環境光記録部にある前記他のオペレーターのための前記明度分布データに基づいて、前記一のオペレーターのための前記背景画像および前記物品画像を生成するものである
請求項16に記載のデザイン支援システム。
【請求項22】
前記一のオペレーターのための背景更新処理部をさらに備えており、
該背景更新処理部は、前記一のオペレーターのための前記環境光記録部にある前記他のオペレーターのための前記明度分布データのうち、前記ヘッドセットを装着している前記一のオペレーターにとっての前記視野の少なくとも一部に対応するデータを、前記他のオペレーターの前記外界カメラにより撮影して取得した明度データにより置き換えるものである
請求項21に記載のデザイン支援システム。
【請求項23】
前記複数のオペレーターのうちの一のオペレーターである管理者が使用するコンピューター機器が、アカウント管理部とセッション管理部とを備えており、
前記アカウント管理部は、前記デザイン支援システムの機能とデータファイルとについて各ユーザーがアクセスしうるものを決定するパーミッションテーブルを含み、
前記セッション管理部は、セッションに参加しうるユーザーのリストをセッションテーブルとして保持しており、前記複数のオペレーターそれぞれが正当なユーザーであるかを該セッションテーブルを参照して判定し前記複数のオペレーターのうちの正当なユーザーについての前記セッションのための接続を確立するものである
請求項16に記載のデザイン支援システム。
【請求項24】
前記ユーザーが使用するコンピューター機器が、前記一のオペレーターが使用するコンピューター機器をサーバー装置とするときのクライアント端末となってネットワークを通じて通信可能であり、
前記ユーザーを識別するためのユーザーIDが前記ネットワークを通じて前記セッションの確立のために使用される
請求項23に記載のデザイン支援システム。
【請求項25】
演算装置と記録装置とグラフィック装置を備えるコンピューターと、
前記コンピューターに接続される少なくとも一つのヘッドセットであって、実空間における該ヘッドセットの姿勢を検出しうる姿勢センサーとオペレーターへの提示画像を表示しうる少なくとも1つのディスプレイと該オペレーターにとっての視野に対応した外界の少なくとも一部を撮影しうる少なくとも1つの外界カメラとを備える、オペレーターが頭部に装着するヘッドセットと、
前記コンピューターに接続され、操作入力を前記オペレーターから受け付ける少なくとも一つの操作入力部と
を備えるコンピューターシステムを動作させて請求項1に記載のデザイン支援システムを実現するコンピュータープログラムであって、
前記コンピューターの前記演算装置と前記記録装置と前記グラフィック装置を、前記物品データ記録部、前記環境光記録部、前記背景画像レンダリング部、前記画像調節部、前記物品画像レンダリング部、および前記画像統合部として機能させる
コンピュータープログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はデザイン支援システムに関する。さらに詳細には、本開示は物品のデザイン活動を支援するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
工業製品等の多様な物品の外観についての意匠デザインやそれを実現する内部構造は、物品の企画段階から設計、生産、販売の各段階に影響を与え、通常は多くの関係者の関与の下で決定される。例えば自動車産業では、車両の仕様が多様な条件に合わせて決定され、仕向地や想定顧客に応じて、外装(エクステリア)や内装(インテリア)のデザインが複雑なプロセスを経て慎重に決定される。そのプロセスでは、物品の企画や製造に関与する関係者はレビュー(デザインレビュー)を繰り返し、開発される製品のデザインを決定してゆく。想定されるユーザーなど第三者に開発中や発表前のデザインを提示して行う評価(デザインクリニック)が実施されることもある。デザインの評価を正確に行うために、スケッチやデザイン画のみならず、最終製品を再現性よく実現する試作品や模型も採用されてきた。車両のような大型物品であっても、試作された実物や実物大のクレイモデルといった大型のものを作製することにより、最終製品を可能な限り正確に再現することが行われてきた。
【0003】
近時、デザイン活動にも、コンピューター技術の進歩が取り入れられ、例えばコンピューター支援設計(CAD)システムで3次元プロトタイピングが利用されたり、意匠デザインにも仮想現実(VR)システムや複合現実(MR)システムが活用されたりしつつある。特許文献1(特開2017-59213号公報)にはオブジェクトのモデルの設計変更を管理する技術的課題を克服する方法と装置が開示されている。特許文献2(登録第7150354号)には、車両内装のデザイン業務を支援するためのシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017- 59213号公報
【特許文献2】登録第7150354号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
物品のデザインでは、例えば車両に代表されるように、多大な投資を伴う物品ほど多様な立場の関係者が数多く関与することが一般的である。また、物品のサイズが大きいほど、評価のために試作された実物や模型(「模型等」と呼ぶ)がデザインの評価の精度向上に役立つものの、その大きさゆえに模型等の作製自体に時間を要し作業負担が大きい。大型の模型等は置かれる環境が限定され、その輸送コストも高いことから、多様な立場の多数の評価者による評価は容易ではない。このように、デザインの評価において判断精度を高めたい物品ほど理想的なワークフローを実施しにくく、デザインの評価自体が多大なコストを要するという矛盾がある。また、デザイン自体が大きな影響を及ぼす物品では、外部への公表までの守秘が必要となることも多い。そのような物品では、さまざまな環境でデザイン評価を実行したり、地域的に分散している評価者がデザインを評価したりすることも負担が大きい。時間の観点も重要であり、物品のデザインを最終製品に反映するまでに多大な時間を要すると、デザイントレンドが変わることにより販売の時機を逸する、といった危険性が増大してしまう。多様な環境を想定して多岐にわたる要素を考慮する物品のデザイン活動では、評価や検証を少ない負担で効率良く行ったり、地理的な距離を克服したりするための手法が求められている。
【0006】
本開示は、上記問題の少なくともいくつかを解決することを課題とし、物品のデザイン業務を支援する効率的なシステムやコンピュータープログラムを提供することにより、物品のデザイン業務の効率を高め、当該物品の高度化に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、仮想現実(VR)システムよりもさらに高い現実感をもたらしうる複合現実(MR)技術の進展を享受することにより、物品のデザイン評価活動を効率化できることを着想した。MR技術では、自らの環境である実空間と物品が置かれた仮想空間とが融合されると、体験者は実空間と仮想空間とを区別しなくなり、その物品のデザインを高い現実感をもって目にすることができる。高度なMR技術で物品のデザインを再現すると、実物を見慣れた物品(例えば車両)のように現実感のために高い再現性が要請される物品であっても、あたかも模型等が眼前に置かれているような感覚をもたらすことができ、体験者はデザイン業務に没入することができる。しかも、複合現実の空間で再現されるデザイン段階の物品は、構造を変更したり、色や形状、質感といった属性を変更したり、といった変更が容易に行える。MR技術を活用して物品のデザインを高い現実感で体験者に知覚させることができれば、模型等の作製を伴わずに高い精度でのデザイン評価が実行でき、デザインの評価作業を効率化することができる。
【0008】
MR技術を活用しようとして本願発明者が着目したのは、高い現実感をもたらすための物品デザインの再現性に影響を与え、没入感を左右しかねない要因が何であるか、である。注目したのは、MR技術で周囲の光環境が物品の外観に十分に反映できない場合には、物品の外観を観察しても、十分な現実感は得られにくいことである。しかし、周囲の光環境は千差万別であり、明るさを測定する程度では不充分である。また、特別な測定装置によって周囲の光環境を測定することも容易ではない。そこで、周囲の光環境を物品の外観に反映するためには、外界カメラが備わっているHMDなどのヘッドセットを利用することが実用性の高い手法につながりうることを本願発明者は見いだした。本開示では、仮想空間を利用した物品のデザインに高い現実感を与えることにより、デザイン業務を支援しうるデザイン支援システムが提供される。
【0009】
すなわち、本開示のある態様においては、仮想空間における少なくとも1つの物品の構造を決定するための構造データと該物品についての属性を選択または調節するための属性候補データとを格納する物品データ記録部と、オペレーターが頭部に装着するための少なくとも1つのヘッドセットであって、実空間における該ヘッドセットの姿勢を検出しうる姿勢センサーと該オペレーターへの提示画像を表示しうる少なくとも1つのディスプレイと該オペレーターにとっての視野に対応した外界の少なくとも一部を撮影しうる少なくとも1つの外界カメラとを備えるヘッドセットと、事前撮影において前記外界カメラにより撮影した前記オペレーターまわりの方向別の明度を示す明度分布データを前記姿勢センサーの出力と対応付けて記録する環境光記録部と、前記環境光記録部から呼び出した前記明度分布データから、前記姿勢センサーの各時点の出力に対応した背景画像を生成する背景画像レンダリング部と、前記物品についての前記属性の選択または調節のための操作入力を前記オペレーターから受け付ける少なくとも一つの操作入力部と、前記操作入力部が受け付けた前記操作入力の指示内容に応じて前記属性候補データから選択または調節された前記属性のための属性データを生成する画像調節部と、前記物品データ記録部から呼び出した前記構造データと前記画像調節部からの前記属性データと前記環境光記録部から呼び出した前記明度分布データとから、前記操作入力の前記指示内容と前記姿勢センサーの各時点の前記出力とに対応した、前記明度分布データに対応する照明下での物品画像を生成する物品画像レンダリング部と、前記背景画像と前記物品画像とを合成して前記提示画像のための画像信号として出力する画像統合部とを備えるデザイン支援システムが提供される。
【0010】
さらに本開示においては上述したデザイン支援システムのためのコンピュータープログラムも提供される。
【0011】
本出願において、特に断りのない記載は、コンピューターグラフィクスの分野において用いられる技術用語を利用することがある。本出願においてデザインの対象となる対象物を「物品」と呼ぶ。本出願においてこの物品は特段制限されず、実空間における動産、不動産、有体物、無体物、といった視覚を通じて最終ユーザーが形状を認識しうる任意の対象を含む。このため、本願の物品には、現実の形ある任意の物体を含み、また仮想空間のためのや複合空間(仮想空間と実空間を組合わせた空間)において実空間を模擬して再現されることのみを前提とした物品をも含みうる。なお、本出願では多くの説明が車両(自動車)を対象として述べられ、車両のための技術用語も登場するが、これらは例示のものである。本出願において、デザインとは、美的外観としての意匠のみならず、物品の構造設計など、形状を対象とするものも含まれている。このため、デザイン業務には、必ずしも審美的観点のみに着目した活動に限られず、構造設計、機構設計などを含む広範な創造活動を含む。デザイン業務とは、構造設計や外観デザインを含む上記活動において、デザインを評価したり変更したりすることにより、デザインを決定する活動が典型である。ただし、デザインを展示したり、体験させたりするためにも本開示のデザイン支援システムを使用することは可能であり、その意味で必ずしも物品に対し能動的な変化をもたらさない活動も本開示におけるデザイン業務となりうる。姿勢(pose)とは、向き(orientation)と位置(position)とを組合わせたものであり、姿勢を検出するセンサーは、向きと位置との少なくとも1つ以上の成分を検出するものを意図している。仮想空間は、コンピューター上にて定義される3次元空間であり、実空間と区別して説明されるが、この区別は説明のためのものである。オペレーターとは、本出願においてはデザイン支援システムを体験または利用する体験者または使用者を一般的に示している。物品のデザインを評価する文脈では、その評価者がオペレーターとなりうる。実空間はオペレーターの身体が現に存在する空間である。ヘッドセットとは、複合現実技術においてオペレーターの頭部に固定することによりオペレーターの少なくとも視覚に画像を提示しうる装置である。ヘッドマウントディスプレイ(HMD)やVRグラス、XRグラスなどと呼ばれるものは、このようなヘッドセットの典型例である。本出願のヘッドセットは外界カメラを備えている。この外界カメラは、オペレーターの両眼に対応して対をなすカメラが典型的なものであり、複数の対であってもよい。本開示において画像には静止画と動画を含む。また、映像には動画が含まれているが、部分または全部が静止画となっても映像と呼ぶことがある。
【発明の効果】
【0012】
本開示のいずれかの態様では物品のデザイン業務を効率化するデザイン支援システムまたはコンピュータープログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示の実施形態におけるデザイン支援システムを使用している様子を概説する説明図である。
図2】本開示の実施形態におけるデザイン支援システムの機能を示すブロック図である。
図3】本開示の実施形態のデザイン支援システムに採用されるヘッドセットの構成を例示する説明図である。
図4】本開示の実施形態のデザイン支援システムの利用方法の概略を例示するフローチャートである。
図5A-B】本開示の実施形態のデザイン支援システムにおいて外界カメラの動作を説明する説明図(図5A)と、その撮影例を示す表示(図5B)である。
図6A-B】本開示の実施形態のデザイン支援システムにおいて外界カメラの動作を説明する説明図(図6A)と、その撮影例を示す表示(図6B)である。
図7A-C】本開示の実施形態のデザイン支援システムのハードウェア構成を示す説明図(図7A)、左右両眼のための提示画像を生成する動作において、背景画像と物品画像と前景画像とを合成する様子を示す説明図(図7B、C)である。
図8】本開示の実施形態におけるデザイン支援システムの機能を示すブロック図である。
図9】本開示の実施形態のデザイン支援システムのハードウェア構成を示す説明図である。
図10A-C】本開示の実施形態のデザイン支援システムの実施例におけるディスプレイ表示のキャプチャー画像である。
図11A-B】本開示の実施形態のデザイン支援システムの実施例におけるディスプレイ表示のキャプチャー画像であり、車両を物品として表示した場合のボディー色の変更前(図11A)と変更後(図11B)である。
図12A-B】本開示の実施形態のデザイン支援システムの実施例におけるヘッドセットのディスプレイ表示のキャプチャー画像であり、球体を物品として表示した場合の鏡面反射(図12A)と拡散反射(図12B)の様子である。
図13A-C】本開示の実施形態のデザイン支援システムにおける変形機能の作用を示す説明図であり、変形前(図13A)、バウンディングボックス(図13B)、変形後(図13C)を示す。
図14A-B】本開示の実施形態のデザイン支援システムにおいてヘッドセットのディスプレイ表示のキャプチャー画像であり、距離を測定する測距機能を使用している様子(図14A)と、断面表示機能を使用している様子(図14B)である。
図15A-B】本開示の実施形態のデザイン支援システムにおいてヘッドセットのディスプレイ表示のキャプチャー画像であり、背景画像のために外界カメラからの実空間の画像を表示する例(図15A)と仮想空間の画像を表示する例(図15B)を示す。
図16】本開示の実施形態の複数のオペレーターがネットワーク経由で協働作業する状況での一例の構成を示す説明図である。
図17】本開示の実施形態において注視点の検出および記録のために採用するアイトラッキング検出部を備えるデザイン支援システムの説明図である。
図18】本開示の実施形態においてアイトラッキング検出部をもつヘッドセットを採用するデザイン支援システムのブロックダイヤグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図面を参照し、本開示に係る物品デザイン支援システムの実施形態を説明する。全図を通じ当該説明に際し特に言及がない限り、共通する部分または要素には共通する参照符号が付される。また、図中、各実施形態の要素のそれぞれは、必ずしも互いの縮尺比を保って示されてはいない。
【0015】
1.システム構成
本開示で提供されるデザイン支援システムについて説明する。
【0016】
1-1.構成(概要)
図1は、本開示の実施形態におけるデザイン支援システム1を使用している様子を概説する説明図である。図2は、本開示で提供されるデザイン支援システム1の機能を示すブロック図である。デザイン支援システム1を使用する現実の空間(実空間)においてオペレーター2は、ヘッドセット10を装着している。実空間9は、例えばオペレーター2が現に存在する部屋であり、その空間には照明92などがある。実空間9には窓からの光や何らかの光源が放つさまざまな光がほかにもありうる。オペレーター2には、ヘッドセット10のディスプレイ102を通じ、あたかも実空間9に物品3が存在しているかのように見える提示画像4が、適当な接眼光学系(図示しない)を経由して提供される。この提示画像4は、例えば、背景画像42と物品画像44とを含む。オペレーターはこのようなデザイン支援システム1を使用して、その物品3のデザインを評価する。本開示のデザイン支援システム1を採用すると、提示画像4中の物品3は、オペレーター2にとって高い現実感を伴っている。本開示のデザイン支援システム1では、ヘッドセット10に備わる外界カメラ108により撮影した明度分布データ522が、背景画像42のために取り込まれる。この背景画像42のための撮影データは、事前撮影と呼ぶ物品3のデザインの評価前の段階において、オペレーター2がヘッドセット10を頭部に装着して周囲を見回す動作等により外界カメラ108から取り込まれ、環境光記録部520に記録される。ヘッドセット10には、姿勢センサー(姿勢センサー移動子104)が備わっている。姿勢センサーによってその時々のヘッドセット10の姿勢が検知されながら、その姿勢に適する背景画像42と物品画像44が、コンピューター50により生成される。その背景画像42は、物品画像44と合成されて提示画像4となる。ここで、物品画像44は、ヘッドセット10の姿勢に応じて生成される際に、物品3の仮想空間での構造と属性とを反映するようにして生成される。その物品画像44中の物品3の外観には、外界カメラ108の撮影データにおける背景の明度分布が反映される。つまり、物品画像4は、物品3の外観について、外界カメラ108で取得した明度分布による照明の下でどのような見え方をするかを反映した現実感の高い表示を実現している。この見え方には、照明92による照度に応じた明度のような、周囲の光環境を反映した物品3表面の各部の明度の違いが反映されており、さらに、物品3の表面が例えば鏡面反射性を示す場合には、映り込みまで再現される。このため、オペレーター2が視覚を通じて知覚する物品3は、あたかも実空間9に存在している実物や模型であるかのような高い現実感を伴っている。
【0017】
デザイン支援システム1は、ハードウェアとしては、ヘッドセット10およびそれに関連する周辺機器とコンピューター50とにより実現することができる。ヘッドセット10は外界カメラ108を備えており、典型的なものでは光学的透過部を持たない。コンピューター50は、高いグラフィック性能を持つパーソナルコンピューター、ワークステーションとすることができるが、その近時の進化の結果、手に入りやすいものでも満足できる性能を実現しうる。コンピューター50は、記録装置(主記憶装置、補助記憶装置)、グラフィック装置、演算装置、入出力装置、ネットワーク装置、入力装置といった一般的な計算機リソースをもつものを採用することができる。適切な有線または無線の接続インターフェイスを通じて、ヘッドセット10、コントローラー(操作入力部)120が接続されている。重要なことは、デザイン支援システム1を実現するための最小限のハードウェア構成には実空間9のための明度分布データを取得する目的の追加のハードウェア(例えば天球カメラ)は含まれず、そのような追加のハードウェア構成を採用することは任意選択に留まることである。このため、デザイン支援システム1は、比較的手に入りやすく安価なハードウェア構成だけを必須としている。
【0018】
デザイン支援システム1は、物品データ記録部510と、少なくとも1つのヘッドセット10と、環境光記録部520と、背景画像レンダリング部530と、少なくとも一つの操作入力部120と、画像調節部540と、物品画像レンダリング部550と、画像統合部580とを備えている。物品データ記録部510は、仮想空間における少なくとも1つの物品3の構造を決定するための構造データ512と物品3についての属性を選択または調節するための属性候補データ514とを格納する。ここで、属性とはデザイン業務において選択または調節を受ける対象となる性質である。このため、形状変更を伴うデザイン変更がデザイン業務の目的である場合には、形状を特定するための構造も属性の一つの典型例となりうる。ヘッドセット10については次節で詳述する。環境光記録部520は、事前撮影において外界カメラ108により撮影したオペレーター2まわりの方向別の明度を示す明度分布データ522を姿勢センサー104、106の出力と対応付けて記録する。背景画像レンダリング部530は、環境光記録部520から呼び出した明度分布データ522から、姿勢センサー104、106の各時点の出力すなわち最新の出力に対応した背景画像42を生成する。少なくとも一つの操作入力部120は、物品3についての属性の選択または調節のための操作入力をオペレーター2から受け付ける。画像調節部540は、操作入力部120が受け付けた操作入力の指示内容に応じて属性候補データから選択または調節された属性のための属性データ542を生成する。物品画像レンダリング部550は、物品データ記録部510から呼び出した構造データ512と画像調節部からの属性データ542と環境光記録部520から呼び出した明度分布データ522とから、操作入力の指示内容と姿勢センサー104、106の各時点の出力とに対応した、明度分布データ522に対応する照明下での物品画像44を生成する。画像統合部580は、背景画像42と物品画像44とを合成して提示画像4のための画像信号として出力する。
【0019】
デザイン支援システム1において、物品画像レンダリング部550は、明度分布データに対応する周囲の映り込み像を物品画像の表面反射に反映させるものであると好適である。また、デザイン支援システム1において背景画像レンダリング部530は、物品データ記録部から構造データを呼び出し、明度分布データに対応して物品が実空間に落すべき影の方向における背景画像の明度を減じるものであると好適である。
【0020】
明度分布データ522は、明度を色別に取得していることもできる。この場合、環境光記録部520が、事前撮影において外界カメラ108により撮影した色別の明度を示す色彩明度データ(図示しない)を姿勢センサー104、106の出力と対応付けて記録するものである。背景画像レンダリング部530が、環境光記録部520から呼び出した色彩明度データから、姿勢センサー104、106の各時点の出力に対応した色彩背景画像を生成し、物品画像レンダリング部550が、物品データ記録部510から呼び出した構造データ512と画像調節部540からの属性データ542と環境光記録部520から呼び出した色彩明度データとから、操作入力の指示内容と姿勢センサー104、106の各時点の出力とに対応した、色彩明度データに対応する照明下での物品画像を生成すると、物品画像には、実空間9における色彩が反映されたより高い現実感がもたらされる。
【0021】
少なくとも一つの操作入力部120は、コンピューター50に対する指示を入力しうる任意のデバイスとすることができる。ヘッドセット10を装着したオペレーター2が、ディスプレイ102のみを通じて実空間9の事前操作時の撮影データを視認する場合であっても、リアルタイムでの操作を行うことができる。このような状況まで対応できる操作入力部120としてデザイン支援システム1のために適するものは、手で握って方向を走査したり入力ボタンを制御しうる任意のコントローラーに加え、ハンドトラッキングカメラ108A(図3)に示されるようなオペレーターの手の動きをキャプチャーしうるセンサー(ハンドトラッキングセンサー)を採用することができる。オペレーター2に提示画像4を通じて操作入力部120の操作に応じて仮想空間内のレーザーポインターやメニュー表示などが提供されたり、バーチャルキーボードといった仮想空間での入力に適する表示が採用されたりすると、物品3の属性を決定するために、例えば色変更、モデルの変更、質感変更、形状変形などコンフィグレーターとして実行指示が容易となる。
【0022】
1-2.ヘッドセット
図3は、本開示の実施形態のデザイン支援システムに採用されるヘッドセット10の構成を例示する説明図である。ヘッドセット10の典型例は、例えばVarjo Technologies Oy社製Varjo XR-3である。
【0023】
ヘッドセット10は、オペレーター2が頭部に装着するためのものであり、実空間9におけるヘッドセット10の姿勢を検出しうる姿勢センサー移動子104、姿勢センサー固定子106とオペレーター2への提示画像4を表示しうる少なくとも1つのディスプレイ102とオペレーター2にとっての視野に対応した外界の少なくとも一部を撮影しうる少なくとも1つの外界カメラ108とを備える。典型的な構成において、オペレーター2が視覚を通じて知覚しうる視野には、提示画像4すなわちデザイン支援システム1を通じて生成された画像だけが視覚刺激として存在している。このため、ヘッドセット10には、例えば外界を直接視認させ光学的パススルー像を提供するHoloLens(登録商標)のような光学的透過部は存在しない。オペレーター2に提示される提示画像4において、背景画像42と物品画像44の両者がヘッドセット10のディスプレイ102を通じて提供される。
【0024】
ディスプレイ102、外界カメラ108は、両眼視差を反映したいわゆるステレオ視による奥行き知覚の観点でも現実感を高めるために、両眼に対応して対をなすようにされている。これに応じ、物品画像レンダリング部550、背景画像レンダリング部530、および画像統合部580が、ヘッドセット1つ当たり2系統備わっていることも好ましい。
【0025】
1-3.外界カメラによる明度分布データの取得
図3に示したように、外界カメラ108は、ヘッドセット10に固定された視野で撮影可能である。外界カメラ108は、ヒトの眼球による視野範囲(大根ね120°程度)に近い程度の広い画角を持つようなものが好ましい。図3では、両眼に合せて対をなす外界カメラ108が撮影しうる画角の範囲をコーンのマークで表現している。本開示のデザイン支援システム1では、外界カメラ108により明度分布データ522を取得する。外界カメラ108は、ヘッドセット10の向きが固定されていると天球(全天球や半天球)の撮影を外界カメラ108で行えないことがある。この場合には、明度データ522の取得のために、オペレーター2が108の方向を走査する。つまり、事前撮影においてヘッドセットの向きを変更しながら外界カメラにより撮影して取得した方向別の明度を取得することができる。この事前撮影は、例えばヘッドセット10を装着したオペレーター2が、顎を引いて起立位を保ち、水平面内の全方向を走査し、顎を上げてもう一度水平面内の全方向を走査する、といったように走査する。こうして明度分布データ522のために必要な方向の撮影が行える。この際、撮影データには、姿勢データが関連付けられて環境光記録部520に格納されると好ましい。この姿勢データからは外界カメラ108の撮影方向が確定でき、また、全天球など十分な範囲の方向にわたって明度分布データを構築するために、例えばイメージスティッチングに役立てることができる。また、この姿勢データは、明度分布データを実空間の方向と対応付けるためにも利用できる。
【0026】
明度分布データは、照明の再現や写り込みの再現に役立つように、周囲の物体の明度を十分な輝度範囲の再現性で格納されると有用である。このためには、例えばラチチュードが広いHDR(ハイダイナミックレンジ)イメージのための任意のフォーマットが好適なのものである。ただし、デザイン支援システム1では、明度分布データの測光学的、または色彩学的な正確性やトレーサビリティーは必ずしも必要ではない。オペレーター2が現実感を抱くために必要となる正確さの程度は、デザイン評価の具体的な用途や目的に応じて決定することができる。
【0027】
図4は、本開示の実施形態のデザイン支援システムの利用方法の概略を例示するフローチャートである。上述した事前撮影S02では、明度分布データ522が取得される。この明度分布データ522は環境光記録部520に姿勢と対応付けて格納される。その後、物品3の属性が設定され(S04)、デザインが表示されたり評価される(S06)。この表示または評価S06では、オペレーター2が物品3を、自らの環境において外界カメラ108を通じて撮影した明度分布データ522が2つの用途に使用される。すなわち、明度分布データは、背景画像42のために利用され、物品画像44における物品3の照明のために利用される。属性設定S04で物品3のデザインが評価された後、必要に応じて条件が変更され(S08)、次の条件が設定される(S10)。ここで変更される条件は、典型的にはデザインのための属性が変更される。
【0028】
上記動作では、オペレーター2が観察する背景画像42、物品画像44には、事前撮影S02の時点での明度分布データ522がそのまま採用される。デザイン支援システム1では、より現実感を高めるために、明度分布データ522のうち、ヘッドセット10を装着しているオペレーター2にとっての視野の少なくとも一部に対応するデータを、外界カメラ108により撮影して取得した各時点の明度データにより置き換えることも有用である。このような処理は、背景更新処理部532(図2)により行われる。図4のフローチャートにおいて、表示または評価S06はオペレーター2による物品3の評価であるため、一定程度の時間を掛けて実施される。この時間において、さまざまな方位から物品3を観察するといった検討が行われる。その途中において、内容がかきかわらない固定された明度分布データ522に代えて、外界カメラ108により撮影された内容が反映される明度分布データ522を採用すると、実空間9における照明の変化や、例えば対面側に別のオペレーターが存在して身動きしている様子が物品3の評価にも反映される。物品画像44において、物品3に対する照明条件やその表面の写り込みも更新されることから、外界カメラ108の撮影内容によって明度分布データ522の少なくとも一部を更新することは、物品3の現実感を高め、オペレーター2を評価作業に没入させることに役立つ。
【0029】
図5A~Bおよび図6A~Bは、本開示の実施形態のデザイン支援システムにおいて外界カメラの動作を説明する説明図(図5A図6A)と、その撮影例を示す表示(図5B図6B)である。事前撮影において明度分布データが取得されるのは例えば全天球であり、図5A図6Aのワイヤーグリッドで示す範囲である。図5Bは、事前撮影において取得された室内の様子をパノラマ展開図の様式で示している。このように、外界カメラ108を利用してオペレーター2が撮影することにより、図5Aに示す全天球の明度分布データが取得でき、図5Bのように細部まで取得される。図5Bに例示される明度分布データをライティングとして用いるイメージベーストライティング(IBL)を採用し、物品3の反射性を的確に反映する描画手法を採用することにより、仮想空間において物品3の外観を、実空間9の周囲光環境に可能な限り合致させて高い現実感で再現することができる。なお、本出願の図面のうちのいくつかは、特許出願様式の仕様に合わせてグレー表示しているもののデザイン支援システム1においては人の色覚に応じて色彩を含めて再現したり撮影することができる。また、本出願の図面のうちのいくつかでは、例えばHDRイメージなど広い明度範囲(ラチチュード、ダイナミックレンジ)をカバーすることができるデータがある場合にも、通常の明るさの範囲で示している。
【0030】
図6Aには、外界カメラ108で撮影される範囲がワイヤーグリッドの一部の領域に明示されている。外界カメラ108は、ヘッドセット10に固定さており、その視野がヒトの視野を一定程度カバーする画角をもつものの、全天球からみるとその画角は一部に留まる。図6A図6Bには、外界カメラ108で撮影可能な視野の輪郭(カメラ画角48)を実線で表示している。図5B図6Bとの比較で明らかなように、外界カメラ108で撮影可能な範囲は、全天球の一部に留まるが、そのカメラ画角48内における変化(図5B図6Bにおける人物の有無)は、オペレーター2にとって重大となりうる。ヘッドセット10を使用して物品3のデザインを評価している場面では、カメラ画角48内は観察している物品3越しに視野に入る位置であるからである。ヒトの視覚において網膜の中心窩付近に結像する可能性のある位置は、外界カメラ108でパススルー表示する意味が大きい。このように、外界カメラ108を用いて撮影したその時々の実空間9の状況を適切に反映することは極めて有用である。
【0031】
1-4.測距、手、前景
デザイン支援システム1で物品3の現実感の高い再現が実現されると、オペレーター2は自らの身体(例えば手)が提示画像に含まれていないことに違和感を抱く傾向がある。例えば、VR技術やMR技術で一般的となっているコントローラーを手で操作する際に、そのコントローラーや手が見えなければ操作をしにくくなる。特に本開示のデザイン支援システム1で光学的透過部を持たないようなヘッドセット10が採用されると、外界についての視覚情報は追加されることが望ましい。そこで、デザイン支援システム1の好ましい構成では、奥行き測距部130と、前景画像レンダリング部570とをさらに備えている。奥行き測距部130は、実空間の各方向における物体までの距離を計測しうる。これは、LiDAR(Light Detection And Ranging)光学素子(図示しない)を外界カメラ108の位置に装備することや、ハンドトラッキングカメラにより実現することができる。奥行き測距部130が示す物体までの距離が仮想空間における物品までの距離よりも小さい方向について、外界カメラ108またはハンドトラッキングカメラ108Aの出力に基づいて前景画像レンダリング部570が前景画像46を生成する。この場合、画像統合部580が、背景画像42と物品画像44とに前景画像46を追加合成して提示画像のための画像信号を出力することにより、提示画像にコントローラーや手など、物品よりも前に位置する物体の撮影像を含めることができる。
【0032】
図7A~Cは、本開示の実施形態のデザイン支援システムのハードウェア構成を示す説明図(図7A)、左右両眼のための提示画像を生成する動作において、背景画像と物品画像と前景画像とを合成する様子を示す説明図(図7B、C)である。図7Aに示したとおり、オペレーター(図7Aに図示しない)のためにコンピューター50が1台採用され、そのコンピューター50では、図7Cに示すように、左右両眼のためのディスプレイ102を通じた提示画像4L、4Rが生成される。オペレーターは、両眼視差を正しく反映した提示画像4L、4Rによって奥行きも知覚することができる。図7Cの左右両眼それぞれのための提示画像4L、4Rは、図7Aのコンピューター50において左用および右用の独立したチャネルでトランシーバー52L、52Rを通じてヘッドセット10に伝送される。トランシーバー52L、52Rは、コンピューター50の適切な入出力インターフェイス(例えば、USB-C3.0/3.1、Display Port)とヘッドセット10との送受信を中継する。この際、ヘッドセット10に装備される外界カメラ108からの映像信号またはデータも左右別々にコンピューター50に送信される。ヘッドセット10の実空間9における姿勢(向き、位置)は、姿勢センサー104、106により検知される。姿勢センサー104、106は、ジャイロスコープや磁気センサー等の方向センサーと、赤外線やレーザーによりデカルト座標による位置を検知する位置センサーとを組合わせたものとすることができる。必要に応じ姿勢センサー104、106は、地上子(姿勢センサー地上子106)を配置して数値的な精度を確保している。背景画像42は、事前撮影において取得された明度分布データや、それを更新したものであり、外界カメラ108により撮影される。物品画像44は、明度分布データ522をイメージベーストライティングのための照明として使用して算出された物品3の画像を含んでいる。前景画像46は、物品3よりも手前に存在するべき物体の画像である。背景画像、物品画像、前景画像を合成する様子を示す説明図(図7B図7C)である。この合成は、例えばアルファブレンド、Zバッファリング等の既知の画像合成方法により実行することができる。物品画像において物品3以外の部分や、前景画像46において物品3より手前に存在するべき物体以外の部分は、透過して合成される。左右それぞれについてこのような合成を独立して行うことにより、物品3があたかも実空間に置かれた模型のように知覚されうる、現実感の高い提示画像を提供することができる。
【0033】
なお、図10Cには、オペレーター2の自らの腕と手が物品3に延びる様子が前景画像46として実際に示されている。現実に物品3に接触することこそ不可能ではあるが、自らの腕と手がディスプレイ102の提示画像4に含まれている場合には、オペレーター2は物品3に対して高い現実感を抱くこととなる。
【0034】
なお、図6A図6Bに示したように、ヒトの視野範囲の制限から、ディスプレイ102を通じて提示画像としてその時々オペレーター2に提示するべき範囲は、全天球の範囲のうちの一部である。このため、可能な限り現実感を高める目的からは、外界カメラ108からのリアルタイムの画像を背景画像42のために表示することも好ましい。その一方、物品画像44に含まれる物品3のライティング処理のための明度分布データについては、物品3の表面による反射のために実質的に全天球の範囲のものが現実感を高めることに大きな寄与をもつ。したがって、事前撮影S02(図4)において取得した明度分布データを利用したり、その更新も必要最小限にとどめることで、方向について広い範囲についてのデータが利用できることが肝要ともなりうる。
【0035】
1-5.複数オペレーター
本開示では、複数のオペレーターにより同時に使用するデザイン支援システムも提供される。図8は、デザイン支援システム1Mの構成を示す説明図である。デザイン支援システム1Mは、各オペレーターに対応させてヘッドセット10、ディスプレイ102、外界カメラ108、コンピューター50がセットとなって備わっており、必要な人数分だけそのセットが接続されている。各セットはスタンドアローンでも動作可能である。このため、環境光記録部520、背景画像レンダリング部530、物品画像レンダリング部550、画像統合部580は、各コンピューター50において実装されている(図2参照。図8には示さない)。このため、各オペレーターのための環境光記録部520は、各オペレーター2まわりの方向別の明度を示す明度分布データをヘッドセットの姿勢と対応付けて記録する。各背景画像レンダリング部530は、各オペレーターの実空間における姿勢センサーの各時点の出力に対応した背景画像42を生成する。各物品画像レンダリング部550は、各オペレーターの姿勢センサー104、106の各時点の出力に対応した、各オペレーターの明度分布データに対応する照明下での物品画像44を生成する。各画像統合部は、背景画像42と物品画像44とを合成して各オペレーターについての提示画像4のための画像信号を出力する。また、図4に示したように、事前撮影S02においてヘッドセット10の向きを変更しながら各オペレーター2の外界カメラ108により撮影した各オペレーターまわりの方向別の明度を示す明度分布データ522が各環境光記録部520に格納されると好ましい。このように、各オペレーターが装着しているヘッドセット10のディスプレイ102には、各オペレーターの実環境に応じた提示画像4が表示される。このように、本実施形態では、複数のオペレーターがそれぞれ異なる実空間に存在している場合であっても、各オペレーターは自らの環境を反映した物品3のデザイン評価を実行することができる。
【0036】
また、複数のオペレーターにより同時に使用するデザイン支援システムでは、一のオペレーターが他のオペレーターの明度分布データに基づいて背景画像および物品画像が生成されるように構成することも好ましい。具体的には、複数のオペレーターのうちの一のオペレーターのための環境光記録部が他のオペレーターのための明度分布データを記録している。その一のオペレーターのための背景画像レンダリング部および物品画像レンダリング部は、背景画像および物品画像を生成するために、その環境光記録部にある他のオペレーターのための明度分布データを利用する。このような構成により、一のオペレーターの背景画像や物品画像を生成するために、他のオペレーターが事前撮影で取得した明度分布データを利用できることとなる。つまり、他のオペレーターが観察している背景画像および物品画像が一のオペレーターにも観察されるため、両オペレーターが評価している物品に影響する周囲光環境とその物品の外観とを一致させることができる。この場合でも、各オペレーターは自ら観察する物品に対して高い現実感を感じることができる。なお、この構成において、一のオペレーターにとっては、明度分布データが自らの実環境のものではないため、実質的にはMRというよりもVR(仮想現実)に近い状況となる。デザイン評価の協働作業においてオペレーター同士が互いに評価対象の物品についての外観を共有できれば、互いの評価に対する理解が深まる点で有用である。
【0037】
なお、物品の外観を一致させるためにこのような構成を採用する場合には、更新の処理においてもオペレーターをまたがった処理がなされうる。具体的には、一のオペレーターのために背景更新処理部が備わっており、その背景更新処理部の動作を、一のオペレーターのための環境光記録部にある他のオペレーターのための明度分布データを対象とすると好ましい。つまり、その明度分布データのうち、ヘッドセットを装着している一のオペレーターにとっての視野の少なくとも一部に対応するデータを、他のオペレーターの外界カメラにより撮影して取得した明度データにより置き換える。複数のオペレーターが対応する方向を同時に向いているとは限らないため、必ずしも最新の明度データによって更新がなされるわけではない。しかし、他のオペレーターの外界カメラによって明度分布データが更新されたことが一のオペレーターによる物品のデザインの評価に反映されれば、デザイン評価の協働作業を円滑に実施することができる。
【0038】
他方、複数のオペレーターによる協働作業を支援する場合、デザイン支援システム1Mでは、例えば、上述した物品データ記録部510、環境光記録部520を各コンピューター50と通信可能なデータサーバー50Sに確保しておいて、背景画像レンダリング部530、背景更新処理部532、画像調節部540、物品画像レンダリング部550、前景画像レンダリング部570(いずれも図8に示さない)を各コンピューター50に分散する、といった実装を行うことができる。このように、各オペレーターの頭部が別々の姿勢をとっているときにも適切な提示画像を各オペレーターに示しつつ、共通したモデルを対象としてデザイン検討を行うことができる。さらに、操作入力部120による操作入力は各オペレーターが各自で行ってもよく、また、いずれかのオペレーターによる操作入力に従った提示画像を他のオペレーターに提示することもできる。特に複数のオペレーターによる協働作業を行う場合には、あるオペレーターが他のオペレーターに説明を行うために注目すべき部分を特定して示したり、強調したり、といった作業を行う場合がある。そのような目的のためには、仮想空間内でのライティングにおいて、ポインターやフラッシュライト(懐中電灯)に対応する局所照明を、指示するオペレーターが操作できるようにすることも好ましい。例えば、オペレーター2が持つ操作入力部120には、ポインターのように方向を検出する機能を備えることができる。このように、デザイン支援システム1、1Mでは任意の位置を指し示す機能や、局所照明の操作機能を実装することが好ましい。
【0039】
デザイン支援システム1Mは、複数のオペレーターの各々のための複数の背景更新処理部532を備えていると好ましい。背景更新処理部532それぞれは、各オペレーターにとっての視野の少なくとも一部に対応するデータを、外界カメラにより撮影して取得した各時点の明度データにより置き換える。このように、各オペレーターは、自らの実空間9に対応して更新される明度分布データに基づく背景画像42や物品画像44を観察することができ、高い現実感が複数のオペレーターに対して実現される。デザイン支援システム1Mにおいても、奥行き測距部130を採用することにより、前景画像46を背景画像42、物品画像44に重ねて表示することができる。
【0040】
図9は、本開示の実施形態のデザイン支援システム1Mのハードウェア構成を示す説明図であり、複数のオペレーター2それぞれにコンピューター50を利用したヘッドセット10を採用する構成のものである。図8に示したとおり、典型的には一人のオペレーター2あたりコンピューター50が1台採用され、そのコンピューター50では、左右両眼のためのディスプレイ102を通じた提示画像が生成される。図9では、二人のオペレーター(Operator A, B)のために、それぞれが現にいる空間である実空間9A、9Bにおいて本開示の実施形態のデザイン支援システム1Mをなすヘッドセット10とコンピューター50とが1セットずつ採用されている。図9に示された機器はLAN(ローカルエリアネットワーク)またはWAN(ワイドエリアネットワーク)などの任意のネットワークにより接続されている。ただし、このようなコンピューター装置とオペレーターの対応関係は、採用する機器の処理性能や必要な品位との兼ね合いで変更可能である。複数のオペレーターによる物品のデザイン評価を支援することができれば、多様な観点に基づく評価が容易に実施でき、デザイン評価の効率を高めることができる。
【0041】
また、実用面の観点では、いずれかのオペレーター2に対して提示されている提示画像(左右両眼またはいずれか一方の眼に提示するもの)を、単にビデオイメージとして記録したり、外部の表示装置に提示することも役立つ。デザイン支援システム1Mのオペレーターは、物品3の評価作業に没入しているが、その様子が記録されていたりモニター装置で監視されていることは、客観的な記録となること、意図された評価が実施されているかどうかを確認できること、といった利点をもつ。この際、後述する注目点の記録を取ることも有益である。
【0042】
2.実施例
ここで、上述した特徴やその他の特徴を実装した本開示のデザイン支援システム1の実施例について説明する。本開示のデザイン支援システム1の実施例を下記ハードウェア構成により実現した。
・ヘッドセット、トランシーバー、姿勢センサー:Varjo XR-3またはVarjo XR-3 Focal Edition(Varjo Technologies Oy社、ヘルシンキ、フィンランド)
・PC:HP Inc.社製、Windwos11
・CPU: Core i7-13700K(Intel社製)
・メモリー:32GB
・グラフィックボード: GeForce RTX 4070(NVIDIA社製)
・ソフトウェア:Unreal Engine(Epic Games社製)、OpenXR(Khronos Group社製
(各社名および製品は各社の登録商標を含むことがある)
・物品:四輪自動車デザイン例
図10A~C、図11は、本開示の実施形態のデザイン支援システムの実施例におけるヘッドセットのディスプレイ表示のキャプチャー画像であり、図2に示したデザイン支援システム1を実際に構築した実施例システムにおいて、その左右両眼の画像を記録した映像のスナップショットをキャプチャーしたものである。これらの図は、ディスプレイ102によりオペレーター2に提示される画像であり、ヘッドセット10が光学的透過部を持たないことから、オペレーター2はこのような電子的に生成されたな画像のみを視覚を通じて見ることとなる。ここでは、物品3として自動車をデザインしている。また、実空間9は、図5Bに示したような部内である。背景画像42のための更新処理は外界カメラ108からの撮影信号をパススルーで使用した。明度分布データは、外界カメラ108を実際に装着したオペレーター2が事前撮影により全天球を撮影したものを環境光記録部520に記録したものであり、物品画像44における物品3は、その明度分布データを利用したイメージベーストライティングを利用して仮想空間内に実現した。物品3のための仮想空間と実空間との対応は、実空間の床面に置いたキャリブレーションマーカー(2次元コード)により座標を一致させた。画像統合部580のための処理は、アルファブレンドを採用して、物品画像44における物品3の光の透過部(自動車の窓など)で物品画像44の背景が適切に合成されるようにした。
【0043】
図10A~Cでは、室内を実空間9としてそこに相対的に大きな自動車を物品3として配置している。オペレーター2にとって物品3は手をのばせば触れられる程度に至近距離に配置されているかのように知覚される。これには、両眼視差を反映したステレオ視による立体感に加え、仮想空間でイメージベーストライティングにより生成されている自動車の外観が高い現実感で再現されているためでもある。例えば、図10Aでは、実空間9において天井に配置されている室内照明は、自動車のウインドウシールド表面にその曲率を反映しつつガラス表面の鏡面反射性の写り込みとして反映されている。また、自動車のボンネットフード表面をみると、表面反射と拡散反射とが組み合わさったメタリック塗装の質感が、表面反射による写り込みと光源の方向を反映した面の明度の変化とを含め高い現実感で表現されている。写り込んでいる光源は、左右両眼でステレオ視すると、ウインドウシールド表面やボンネット表面とは奥行き方向で異なる位置にあることも知覚できる。これらの結果、オペレーター2は、実空間9にあたかもて自動車やその模型が置かれているかのような感覚でデザインを評価することができる。図10B図10Cについても同様の物品3が示されている。オペレーター2は実空間9の広がりの範囲で視点を調整することができる。例えば、自ら歩いて移動したり、頭部の床面からの高さを変更するができる。また、頭部を傾斜させてのぞき込んだり、見上げたり、種々の方向を向くこともできる。これらの向きおよび位置(姿勢)を取ることもできる。オペレーター2は、物品3の外観の高い現実感に加えて、極めて自然な動作によって視点を調整しながら/3の/デザイン評価を実行することができる。ただし、現実感をさらに向上させる余地もある。図10B図10Cで表現されていない自動車が実空間に落すべき影は、この実施例システムでは、明度分布データに対応して物品3が実空間9に落すべき影の方向において、背景画像42の明度を減じる機能を追加して実装することでそのような影も再現される。図10B図10Cに示されている他の特徴については後述する。
【0044】
図11A図11Bは、図10A~Cに示したものと同じ四輪自動車モデルについて、互いにほぼ同じ姿勢(位置、向き)から観察した状況においてボディー色変更を変更した前後の様子を示している。様式上の制約からグレー表示となっているが、実施例システムでは、高い明度のシルバーメタリック塗装(図11A)が低い明度のレッドメタリック塗装(図11B)に変更される前後がディスプレイ102に表示される。図11A図11Bに示されるように、物品3は、高い現実感を伴うばかりではなく、仮想空間で容易に属性(ボディーカラー)を変更することができる。その前後では、図11A図11Bとの対比から、図面上表現されていない色相、飽和度の違いばかりではなく、明度の違いによる表面反射の相対的な強さの違いや印影の表現といった細部まで変化しており、極めて高い現実感を伴ってデザインを評価することが可能となる。なお、ここではメタリックペイントでの色変化を例示したが、メタリックペイント以外にも、マット、ソリッドカラー、キャンディーペイント、といった種々の塗装や、ペイントではない模様や塗り分けといったものも選択できれば、仮想空間にて再現可能な任意の表面の表示を再現することができる。これらの調整されたり選択される属性候補データは、物品データ記録部510に格納されるため、ソフトウェアやデータの変更のみで実装することができる。
【0045】
より単純な形状をもつ物品によりライティングの原理的な作用を確認した。図12A~Bは、本開示の実施形態のデザイン支援システム1の実施例におけるヘッドセットのディスプレイ表示のキャプチャー画像であり、球体を物品3Sとして表示した場合の鏡面反射(図12A)と拡散反射(図12B)の様子である。図4のステップS02における事前撮影の後に、物品3Sの反射特性だけを鏡面反射から拡散反射に変更しているため、実空間9は同一で明度分布データも同じである。図12Aの鏡面反射では、物品3Sの表面で反射する実空間9の明度が明瞭に観察される。この鏡面反射は、金属表面のような高い反射率と平滑性を兼ね備えるような面が設定されている事例である。これに対し、図12Bの拡散反射では、物品3S表面の各部は、明度分布データによる照明がその各部を照らす照度に応じた輝度をもつ面としてのみ表示される。これは表面に白またはグレーといった明るい拡散反射面が設定されている事例である。なお、図12A、Bにおいても、背景画像42は外界カメラ108のビデオパススルー映像であるが、物品3Sをレンダリングするための照明となる明度分布データは事前撮影のものである。
【0046】
以上の実施例を通じ、デザイン支援システム1は、実空間9と仮想空間とを融合することによりオペレーター2のデザイン評価を支援できるような高い現実感をもたらすこと、および仮想空間で再現される物品が示しうる表現が十分に多様であることが確認された。
【0047】
3.機能
本開示のデザイン支援システム1のより詳細な機能についてさらに追加して説明する。
3-1.変形、部品のグループ化
デザイン支援システム1では、物品3のデザインのために仮想空間を利用する利点が生かされる。その一つが、物品3に対する直感的な変形をオペレーター2が行いやすくする変形機能である。図13A~Cは、本開示の実施形態のデザイン支援システムにおける変形機能の作用を示す説明図である。この機能を使用する際には、バウンディングボックス設定部560(図2)によって、物品3を内包するバウンディングボリュームまたはバウンディングボックス7が設定される。バウンディングボックス7は、格子(ラティス)状に区切られており、オペレーター2が操作入力部120による操作によってグリップしうる複数のグリップポイント72を表面の格子点にもつ。図13Bに示すように、バウンディングボックス7は変形前の物品3を内包する例えば角柱とされる。グリップポイント72は、例えばその角柱をなす各辺を3等分する内分点と、各内分点を角柱表面で互いに繋ぐ複数の直線同士の交点とに設定される。バウンディングボックス7では、いずれかのグリップポイント72をオペレーター2が操作入力部120によりグリップ状態として変位するように、例えばドラッグするなどの操作をすると、それに対応してグリップポイント72が変位し、例えば、グリップポイント72のうちグリップされないものは変位しない。この際、複数のグリップポイント72の間の空間座標は、内分比率を維持したまま拡大されたり縮小されたりするようにできる。結果、バウンディングボックス7の内部の座標も変位する(図13C)。このような座標の変位は座標変位部562(図2)により計算される。この座標変位部562による変位に応じて構造データ512が参照する座標が変位される。こうして、仮想空間におけるバウンディングボックス7内の少なくとも一部の座標を参照する物品3の構造が変形される。この変形は、構造変形部564(図2)により実行される。物品画像レンダリング部550を、物品データ記録部510から呼び出した構造データを構造変形部564により変位した座標に対応させて表示することにより、図13Cの物品3Mのような変形した後の構造をもつ物品画像が生成される。
【0048】
このような機能により、オペレーター2は、あたかも粘土細工を直接触っているかのような感覚で仮想空間において物品3を変形することができる。その際に物品3が実空間9において示す外観が高い現実感で再現できることは、最終的な外観を知覚しながら形状が変更できることから、高度なデザイン業務について仮想空間の利点を生かした支援を実現することとなる。
【0049】
また、デザイン支援システム1では、上述した変形をより手軽に実現するための工夫もなされている。特に物品3が複数の部品を組立てた構造を持つものでは上記変形機能が役立つ。物品3が複数の部品(図示しない)を含むものでは、物品データ記録部510が、部品の構造を決定するための部品構造データ516(図2)を格納している。そして、構造変形部564が、複数の部品のための部品構造データ516が参照する座標を座標変位部562による変位に応じて変位することにより、複数の部品をグループ化して変形させる。物品3が複数の部品を組立てたり組合わせたりしたものである場合、一つの部品の変形だけではなく、それと組み合わされる他の部品も同時に変形することは、単に複数の部品についての変形作業が省略できるばかりではなく、部品相互の関係を適切に維持し変形できることとなる。結果、変形に応じて例えば組み立て可能性を再度検討する必要性、といった変形により必要となる付随作業が減少する。このようにしててデザイン支援システム1ではデザイン業務において構造が影響する物品形状の修正を支援することができる。
【0050】
3-2.物品の距離測定、物品の断面表示
デザイン支援システム1では、よりきめ細かく物品のデザイン評価を支援する工夫も好ましい。すなわち、デザイン支援システム1では、物品3の表面において物理的な距離を測定する機能や、物品の各部の断面を確認する機能を実現することにより、デザイン評価を支援することも好ましい。図14A~Bは、本開示の実施形態のデザイン支援システムにおいてヘッドセットのディスプレイ表示のキャプチャー画像であり、距離を測定する測距機能を使用している様子(図14A)と断面表示機能を使用している様子(図14B)とを示す。デザイン支援システム1では、コントローラー姿勢センサー124(図2)と、ポイント位置判定部572と距離算出部574とをさらに備えている。コントローラー姿勢センサー124は操作入力部120それ自体の姿勢を検知する。ポイント位置判定部572は、コントローラー姿勢センサー124の出力に応じて決定された仮想空間における仮想線と構造のなす表面との交点により注目位置を判定する。ポイント位置判定部572により決定した複数の注目位置があるとき、注目位置のうちの2つに対応する実空間内の距離、例えば図14Aに示したポインター表示P1、P2の間の距離が距離算出部574によって算出される。画像統合部580は、オペレーター2にどの注目位置の間の距離が測定されているのかを示すために、画像信号を生成する際に、コントローラー姿勢センサー124の出力に応じて仮想空間にて更新される注目位置を示すポインター表示と距離算出部574による距離の数値とを提示画像に含める。図14Aには、そのポインター表示P1、P2と距離の数値が示されている。
【0051】
物品の断面表示のためには、デザイン支援システム1は上記コントローラー姿勢センサー124と、交線決定部576(図2)とを備えていると好ましい。交線決定部576は、コントローラー姿勢センサー124の出力に応じて決定された仮想空間における仮想面と構造のなす表面との交線を決定する。画像統合部580は、オペレーター2にどの仮想面において切断した断面であるかを示すために、画像信号を生成する際に、コントローラー姿勢センサー124の出力に応じて仮想空間にて更新される仮想面を示す面表示と交線決定部576による交線を輪郭または切断線とする切断面の表示とを提示画像に含める。図14には、その面表示であるグリッドを持つ平面と、上記輪郭とが示されている。
【0052】
3-4.実空間以外の背景
デザイン支援システム1のようなデザイン評価では、高い現実感でデザイン評価を実行できる利点があるものの、実空間9ではなくむしろ仮想的な空間を利用したいとのニーズもある。本開示のデザイン支援システム1では、このようなニーズに対応するために、物品画像44を与える明度分布データを、仮想空間について構築されている方向別の明度分布データや、あらかじめ撮影されている周囲環境画像、またはいずれかの施設や位置で撮影されてネットワークを通じて伝送される周囲環境画像といった、オペレーター2が居る実空間以外のもので代替表示することもできると好ましい。この場合には、明度分布データがそのような代替のもので書き換えられる。これにより、オペレーター2は、例えばVR(仮想空間)や、基準に用いる周囲環境画像において物品3の外観デザインの評価を行うことができ、評価のばらつきを抑制したり、自らの評価尺度を再確認したりすることができる。図15A~Bは、本開示の実施形態のデザイン支援システムにおけるヘッドセットのディスプレイ表示のキャプチャー画像であり、背景画像のために外界カメラからの実空間9の画像を表示する例と背景用仮想空間900の画像を表示する例を示す。背景用仮想空間900においても、照明が配置されており、物品3である自動車のガラス面および塗装面にはその写り込みが再現されている。
【0053】
3-5.ネットワーク
本開示のデザイン支援システム1は、コンピューターネットワークを利用する構成とすることも好ましい。図8に関連して説明したように、複数のオペレーターによるデザイン評価はそれ自体が好ましいものといえる。さらに、コンピューターネットワークの利点を生かし、互いが相手から地理的に離れているような複数のオペレーター2が、ネットワーク経由で協働作業することを支援することも好ましい。図16は、本開示の実施形態の複数のオペレーターがネットワーク経由で協働作業する状況での一例の構成を示す説明図である。
【0054】
本開示では、ネットワーク経由のためのデザイン支援システム1Nが提供される。デザイン支援システム1Nは、デザイン支援システム1M(図8)に示したシステムをさらに改良したものである。複数のオペレーターの各々のための複数の画像調節部をさらに備えており、複数のオペレーターのうちの一のオペレーターのための画像調節部が、複数のオペレーターのうちの他のオペレーターのための操作入力部により受け付けた物品についての属性の選択または調節のための操作入力の指示内容に応じ、属性候補データから選択または調節された属性のための属性データを生成するものである。典型的な構成において、複数のオペレーターのうちの一のオペレーターである管理者が使用するコンピューター機器が、アカウント管理部とセッション管理部とを備えており、アカウント管理部は、デザイン支援システムの機能とデータファイルとについて各ユーザーがアクセスしうるものを決定するパーミッションテーブルを含み、セッション管理部は、セッションに参加しうるユーザーのリストをセッションテーブルとして保持しており、複数のオペレーターそれぞれが正当なユーザーであるかをセッションテーブルを参照して判定し複数のオペレーターのうちの正当なユーザーについてのセッションのための接続を確立するものである。また、この典型的な構成において、ユーザーが使用するコンピューター機器が、一のオペレーターが使用するコンピューター機器をサーバー装置とするときのクライアント端末となってネットワークを通じて通信可能であり、ユーザーを識別するためのユーザーIDがネットワークを通じてセッションの確立のために使用されると好ましい。
【0055】
デザイン支援システム1Nは、パーソナルコンピュータ(PC)などのコンピューター機器のプログラムとして実装して機能させるために、各オペレーターは、自らのPCに実現するための実行プログラムを作動させる。したがって、各PC50A~50Cは、ネットワーク68を通じてデザイン支援システム1Nの一部となる。具体的には、オペレーターAは、自ら操作するPC50Aにおいて演算装置における実行プログラムであってよいサーバー実行部60を作動させる。同様に、オペレーターB、Cは、自ら操作するPC50B、50Cにおいて演算装置における実行プログラムであってよいクライアント実行部66を作動させる。各オペレーターのPC50A~50Cは、例えばインターネット等の公開回線や、専用回線を通じて、互いに適切なプロトコル(例えばTCP-IP)により相互に通信可能である。
【0056】
クライアント実行部66は、オペレーターA~Cが使用するPC50A~50Cを、デザインレビューネットワークコミュニティーによる特定のデザインレビューセッション(以下「セッション」と呼ぶ)におけるクライアント端末として動作させる。これに対し、サーバー実行部60は、オペレーターAが使用するPC50Aをセッションにおけるサーバー装置として動作させる。サーバー装置としての機能は、アカウント管理部602とセッション管理部604を実装することにより実現される。サーバー実行部60は、典型的にはサーバー実行プログラムの機能として実装され、アカウント管理部602、セッション管理部604はその機能として実装される。オペレーターAが管理者としてデザイン支援システム1Nの機能を設定するためにサーバー実行部60を実行させる。
【0057】
アカウント管理部602は、デザイン支援システム1Nの必要な資源にアクセスしうるユーザーのアカウントを管理する機能を実装している。アカウント管理部602は、例えば、デザイン支援システム1Nの当該資源は、典型的にはデザイン支援システム1Nに用いられる機能とデータファイルとであり、アカウントを管理する機能は、これら資源についての使用権限やアクセス権の設定(パーミッション)を含みうる。パーミッションテーブル(図示しない)はユーザーのアカウントごとに各資源のパーミッションのレベルを記録したものであり、アカウント管理部602はそのパーミッションテーブルを参照して、例えばログインするオペレーターがデザイン支援システム1Nにアカウントをもつユーザーであるかを判定する。具体的には、クライアント端末として機能する自らのPC50B、Cを操作するオペレーターB、Cは自らのアカウントでパスワード認証等の手段によりログインし、さらに、あらかじめ設定された機能やファイルのパーミッションにより許容された範囲の資源にアクセスすることができる。ファイルは、例えばデータサーバー50Sに格納されている。アカウント管理部602は、パーミッションテーブルを参照して、このようなログイン管理や、機能およびデータファイルについてのパーミッション管理を実行する。例えば、オペレーターA~Cには、固有のユーザーIDが与えられ、ユーザーIDごとに、機能およびデータファイルについてのパーミッションがパーミッションテーブルにて管理される。
【0058】
セッション管理部604は、セッションにユーザーが参加するかどうかを制御する。セッションごとにどのユーザーが参加するかを記録しているリストであるセッションテーブル(図示しない)を参照することにより、セッション管理部604は、クライアント実行部66からの接続リクエストや、その後の通信において、正当な接続であるかを判定してセッションへの参加を制御する。こうしてオペレーターA~Cはセッションにおける正当なユーザーであるときには、あらかじめメンバーが決定されたデザインレビューネットワークコミュニティーによるセッションに参加できる。
【0059】
アカウント管理部602、セッション管理部604が実行するユーザーの識別は、典型的には、アカウントに対応するユーザーIDにより行なわれ、セキュリティーのためにパスワードなど当業者に利用されるセキュリティー手段も併せて採用される。
【0060】
コンピューター50A~50C、データサーバー50Sには、オペレーターA~Cがデザイン支援システム1Nの機能やファイルについての設定を管理する機能を実装することができる。この機能やファイルについての設定には、例えば、協働作業において他者から自己を区別するための色やアバターが含まれている。色やアバターは、必要に応じてユーザーIDと対応付けて適切な状況で表示に利用される。これにより、オペレーターA~CはVRヘッドセット10を装着して、例えばユーザーIDにより他者の仮想空間における活動を視認可能となる。
【0061】
上述したコンピューターネットワークを利用するデザイン支援システム1Nでは、互いに遠隔地にいるオペレーター2が、共通の物品3について、各オペレーター2の観点での評価を同時に実行することができる。物品3が自動車など量産規模が大きく世界各地を仕向地にすることによって投資を回収できるような製品である場合には、多様な観点から慎重にデザインを決定するプロセスは欠かせない。このような用途においてデザイン支援システム1Nを採用することにより、デザイン評価の効率を高めることができる。なお、図16では、参加者がオペレーター2であり、全員がヘッドセット10を装着してデザイン評価に参加している。このようなオペレーター2は、デザインレビューや、デザインクリニックの活動を、地理的距離を意識することなく行うことができる。また、図9に示したように、全員がヘッドセット10を装着するオペレーターであることは必ずしも要さず、いずれかのオペレーター2に対して提示されている提示画像(左右両眼またはいずれか一方の眼に提示するもの)を、単にビデオイメージとして記録したり、外部の表示装置に提示したりして、例えばその立会する見学者(Observer C, D)に対してオペレーターの一人(Operator A)の視点での提示画像を示しながらデザイン業務の進行状況を見学させることも、コンピューターネットワークを利用する態様においても役立ちうる。
【0062】
3-7.注視点
本開示のデザイン支援システム1においては、注視点を検出したり、それを記録することが好ましい。オペレーター2の両眼の視線は、実空間での眼球の位置(視点)を出発点にして、注視点を終着点とする直線として定義される。この注視点は、眼球の最も解像度が高い位置に結像する位置であることから、オペレーター2が各瞬間で着目している位置を示す。図17は、注視点の検出および記録のために採用するアイトラッキング検出部110を備えるヘッドセット10Aの説明図であり、図18は、ヘッドセット10Aを採用するデザイン支援システム1Aのブロックダイヤグラムである。ヘッドセット10A、デザイン支援システム1Aについては、同じ符号で示した要素はヘッドセット10、デザイン支援システム1のための説明と同様である。ヘッドセット10Aでは、オペレーター2の少なくともいずれかの眼球の視線を特定するためのアイトラッキング検出部110を備えている。アイトラッキング検出部110は、例えば赤外線カメラと赤外線光源の組み合わせによって実現され、オペレーター2の眼球による視線つまり注視している注視点と眼球とを結ぶ直線を、角膜反射法や明瞳孔法、暗瞳孔法といった手法により特定する。このようなアイトラッキング検出部110は、さらにまぶたの瞬きや開閉も検出することができる。アイトラッキング検出部110からの出力であるアイトラッキング信号112は、適当なインターフェイスを経由してコンピューター50に受信され、注視点判定部582に入力される。注視点判定部582は、アイトラッキング信号112を利用して仮想空間におけるオペレーター2の視線を決定する。注視点判定部582では、その視線を利用して、構造データ512や、明度分布データ522によって、物品3の3次元オブジェクト表面に対する注視点や、物品画像44中の注視点、背景画像42中の注視点を決定する。この注視点は、例えば、いわゆるコリジョン判定のアルゴリズムなどによって決定することができる。注視点判定部582での処理のために採用可能な他の注視点決定方法の一つが、左右視線方向が収束する交点を決定する視線交差法である。なお、この注視点は、背景画像42を更新するためにも利用できる。注視点位置記録部584には注視点位置のデータ586が記録される。注視点位置のデータ586は、注視点集計部588による処理に利用される。
【0063】
4.変形例:
上述したデザイン支援システム1、1N、1M、1Aには、種々の変更を施すことも有用である。
4-1.補助画像
上述したデザイン支援システム1、1N、1M、1Aが補助画像を生成する補助画像レンダリング部534(図2)をさらに備えていることは有用である。その際、画像統合部580は、背景画像42および物品画像44に、補助画像を合成して提示画像のための画像信号として出力する。補助画像は、種々の情報提示画像や、3Dオブジェクトであり得る。例えば、オペレーター2の操作入力部120により操作を行う際にメニュー表示(図T0B図11A、B、図15A、Bにて図示)のようなものを表示することができれば、オペレーター2は属性候補の選択や調整を容易に行うことができる。また、デザイン評価作業において、物品3の表面に付箋として残せるマーカーもこの補助画像の一つでありうる。さらに、デザインを評価するための観点や注目点を知らせるといったオペレーター2のデザイン評価をガイドするための案内情報も補助画像として有用である。また、上述した距離算出部574や交線決定部576とともに用いられる、測長のためのメジャー表示や目盛となるグリッドを持つ平面(図14B)も補助画像となりうる。加えて、デザインされる物品3が、自動車に代表されるようなユーザー(運転者、搭乗者)の身体との関係を調査するものでは、ペルソナ(マネキン)の3Dオブジェクトといった補助画像も有用である。これらと異なる観点では、オペレーター2がデザイン評価を行う場合に、臨場感を演出するための演出用画像やオブジェクトにより、例えば雨や雪の状況を再現したり、枯れ葉が舞い落ちる様子を示したりする場合に、これらの画像やオブジェクトの表示も補助画像となり得る。このように、デザイン評価の活動において補助画像は大きく役立てることができる。
【0064】
その補助画像は、操作入力部120による操作により生成されたり、プロンプト表示されたりするものであってもよく、またあらかじめ決めた条件に合致したときに表示されるようにすることもできる。例えば、物品のうち、意図的な解説を加えたい特徴部に対してアイトラッキングにより注視点が合致した場合に、その合致を成立条件として、解説画像や文字を自動で表示することも有用である。さらに、姿勢センサー移動子104、姿勢センサー固定子106により、オペレーター2が頭部22を傾げる動作を検出した場合に、それをきっかけに補助画像を表示するような構成も有用である。
【0065】
物品3が自動車である場合に特有となりうるデザイン評価の観点の一つが、ビューティーアングルである。ビューティーアングルとは、デザイン意図に合致した視点(観察位置)を物品3との相対角度で特定したものである。つまり、すでにデザイナーが一旦物品3のデザインを終えているときには、当該デザイナーは、しばしば、物品3との相対角度として評価のための視点を想定しており、その角度をビューティーアングルとして指定することがありうる。このような場合には、補助画像として視点位置をオペレーター2が特定しやすくするためのガイドとなる情報を提示することも有用である。
【0066】
さらに、オペレーター2の移動を、例えばスプライン曲線などにより軌跡表示したり、それを記録したりするすることも有用である。オペレーター2がデザイン評価のためにどのような視点で実際に物品3を観察したかは、そのオペレーター2によるデザイン評価が信頼に足るものであるかの指標となったり、あるいは評価結果を事後的に検証する際の手掛かりとなったりするため、評価結果に事後的な解釈を与える際の参考情報となる。
【0067】
さらに、オペレーター2に対して仮想空間内にコンピューターグラフィクスにより人物(ペルソナ)のオブジェクトを生成し、何らかのキャラクターとしてデザイン業務をガイドすることも有用である。例えばリップシンクなどの技術を利用すれば、デザイン業務を実行しているオペレーター2に対して、デザイン支援システム1の外部などからデザイン業務を補助するために話しかける人物を提示することにより、円滑なデザイン業務を実施することができる。また、デザイン支援システム1M、1Nのように複数のオペレーター2が物品3を評価している場合には、音声などによってオペレーター2同士が互いにインタラクションすることを補助することも有用である。その場合にも、ペルソナを互いに見せることにより、実空間では一人のオペレーター2だけがその場に存在していても、物品3の評価に参加しているもう一人のオペレーター2をごく自然な態様で認識させることができる。デザイン評価において、複数の評価者が評価する協働作業を自然な感覚で進められれば、オペレーター2のデザイン評価の作業は大きく支援される。なお、複数のオペレーター2が参加する場合において、他のオペレーター2を認識させるためには、より簡便なシンボル表示も十分となりうる。例えば、ヘッドセット(HMDなど)だけをコンピューターグラフィックスで生成しても、その姿勢(向き、位置)が現に他のオペレーター2が装着しているヘッドセット10のものと同期していれば、それが見えるオペレーターにとっては他のオペレーターを容易に認識することができる。
【0068】
4-2.対話補助
デザイン支援システム1、1M、1N、1Aにおいて、複数のオペレーター2が参加したり、オペレーター2とは別の参加者がオペレーター2と口頭連絡や文字を通じた対話を実施するため、または人工知能技術を組み込んでコンピューターのと対話することもオペレーター2のデザイン業務への没入と適合性が良い補助機能である。このような対話補助機能は、その対話を補助するためのボイスチャット機能、翻訳機能が典型である。ボイスチャット機能は、相手の音声を発するためのスピーカーやイヤホンと自分の発話を拾うためのマイクロフォンをヘッドセット10に装備しておき、コンピューター50やコンピューターネットワークを通じた音声通信を任意のプロトコルで実施することで実装可能である。また、翻訳機能は、同様のヘッドセット10を採用し、さらに音声認識エンジンと深層学習などの任意の手法での翻訳エンジン、さらに発声エンジンとを組みあわせることにより実装可能である。
【0069】
4-3.身体状態計測
オペレーター2の非言語的な心理変化を検出したり記録したりする目的で有効なのが、身体/脳波、脈拍、皮膚電位、心電図等をデザイン評価をしているオペレーター2から取得することである。この目的のため、デザイン支援システム1、1M、1N、1Aにおいては、図2に示すように、生体状態センサー140を追加することができる。生体状態センサー140からの信号(生体バイタル信号)は、直接的にはオペレーター2の身体状態を反映しており、信号処理部142を通じてコンピューター50に伝達される。コンピューター50は、生体状態センサー140からの信号に対応する生体情報データ592を、例えば適切なタイムスタンプと対応付けるなどした経時的データの形態で被験者情報記録部590に格納する。この生体情報データ592は、脳波、心電図、筋電位などを含むことができる。これらの信号を、例えば注視点位置記録部584に記録した注視点位置のデータ586と関連付けて解析することにより、オペレーター2が物品3のどの部分に対してどのような心理状態であったのかを事後的に調査することにより、デザイン評価における非言語的な情報を収集したり、評価の信頼性を判断したりすることも有用である。
【0070】
4-4.プログラム
上述したデザイン支援システム1、1M、1N、1Aのハードウェア構成は、ヘッドセット10やそれに関連するセンサー類、コントローラー(操作入力部120、姿勢センサー104、106)(以下、ヘッドセット関連装置と呼ぶ)を除くと、コンピューター50すなわち一定程度のグラフィック性能を備える一般的な構成のパーソナルコンピューターやワークステーションである。このため、ヘッドセット関連装置とそれに見合ったコンピューター装置を準備し、必要に応じてネットワーク機器の設定を行えば、あとはデザイン支援システム1、1M、1N、1Aを構成するためのコンピュータープログラムを利用するようにして構築することができる。このため、上述したデザイン支援システム1は、このような目的のコンピュータープログラムを動作さることによっても実現可能である。
【0071】
以上、本開示の実施形態を具体的に説明した。上述の実施形態、変形例および実施例は、本出願において開示される発明を説明するために記載されたものであり、本出願の発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に基づき定められるべきものである。実施形態の他の組み合わせを含む本開示の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0072】
1、1M、1N デザイン支援システム
10、10A ヘッドセット
102 ディスプレイ
104 姿勢センサー移動子
106 姿勢センサー固定子
108 外界カメラ
108A ハンドトラッキングカメラ
110 アイトラッキング検出部
112 アイトラッキング信号
120 コントローラー(操作入力部)
124 コントローラー姿勢センサー
130 奥行き測距部
140 生体状態センサー(生体状態検知装置)
142 信号処理部
2 オペレーター
3、3M、3S 物品
4、4L、4R 提示画像
42 背景画像
44 物品画像
46 前景画像
48 カメラ画角
50 コンピューター
50A~C パーソナルコンピューター
52L、52R トランシーバー
510 物品データ記録部
512 構造データ
514 属性候補データ
516 部品構造データ
520 環境光記録部
522 明度分布データ
530 背景画像レンダリング部
532 背景更新処理部
534 補助画像レンダリング部
540 画像調節部
542 属性データ
550 物品画像レンダリング部
560 バウンディングボックス設定部
562 座標変位部
564 構造変形部
570 前景画像レンダリング部
572 ポイント位置判定部
574 距離算出部
576 交線決定部
580 画像統合部
582 注視点判定部
584 注視点位置記録部
586 注視点位置のデータ
588 注視点集計部
590 被験者情報記録部
592 生体情報データ
60 サーバー実行部
66 クライアント実行部
602 アカウント管理部
604 セッション管理部
68 ネットワーク
7 バウンディングボックス
72 グリップポイント
9、9A、9B 実空間
92 照明
900 背景用仮想空間
図1
図2
図3
図4
図5A-B】
図6A-B】
図7A-C】
図8
図9
図10A-C】
図11A-B】
図12A-B】
図13A-C】
図14A-B】
図15A-B】
図16
図17
図18