(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156497
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】粘着シートおよび粘着シート付き光学部材
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20241029BHJP
C09J 133/08 20060101ALI20241029BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J133/08
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071008
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100174159
【弁理士】
【氏名又は名称】梅原 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】小川 圭太
(72)【発明者】
【氏名】浦上 和也
(72)【発明者】
【氏名】足立 貴之
【テーマコード(参考)】
2H149
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
2H149CA02
2H149FA66
2H149FC02
2H149FC03
4J004AA10
4J004AB01
4J004BA02
4J004DB02
4J004FA08
4J040DF041
4J040LA06
4J040MA02
4J040MA05
4J040MA10
4J040MB03
4J040MB06
4J040MB09
4J040NA17
4J040NA19
(57)【要約】
【課題】被着体に対する汚染性の低い粘着シートを提供する。
【解決手段】粘着剤層を有する粘着シートが提供される。上記粘着剤層は、アクリル系ポリマーを含有し、上記アクリル系ポリマーは、炭素原子数6~17のアルキル基をエステル末端に有するアルキル(メタ)アクリレート(m1)を含むモノマー成分の重合物であり、ここで前記炭素原子数6~17のアルキル基は、直鎖アルキル基であるか、あるいは分岐の炭素原子数が1である分岐アルキル基である。また、上記粘着剤層の粘着面積1cm
2を光学部材に貼り合わせ、23℃、50%RHの環境下で、せん断方向に引張速度0.06mm/分の条件で引っ張った際のせん断力が17N/cm
2以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着剤層を有する粘着シートであって、
前記粘着剤層は、アクリル系ポリマーを含有し、
前記アクリル系ポリマーは、炭素原子数6~17のアルキル基をエステル末端に有するアルキル(メタ)アクリレート(m1)を含むモノマー成分の重合物であり、ここで前記炭素原子数6~17のアルキル基は、直鎖アルキル基であるか、あるいは分岐の炭素原子数が1である分岐アルキル基であり、
前記粘着剤層の粘着面積1cm2を光学部材に貼り合わせ、23℃、50%RHの環境下で、せん断方向に引張速度0.06mm/分の条件で引っ張った際のせん断力が17N/cm2以上である、粘着シート。
【請求項2】
前記アルキル(メタ)アクリレート(m1)は、n-ヘプチルアクリレートおよびn-オクチルアクリレートから選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記モノマー成分は、さらに(メタ)アクリル酸を含む、請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記アクリル系ポリマーは、前記モノマー成分の組成に基づいて計算されるガラス転移温度が-55℃以下である、請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項5】
前記粘着剤層はエポキシ系架橋剤を含む、請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項6】
前記粘着剤層のゲル分率は70%以上である、請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項7】
光学部材の表面保護に用いられる、請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項8】
光学部材の少なくとも一つの表面に、請求項1または2に記載の粘着シートが貼付されて構成された、粘着シート付き光学部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シートおよび粘着シート付き光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、粘着剤(感圧接着剤ともいう。以下同じ。)は室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する。このような性質を活かして、粘着剤は、粘着シートの形態で、部品の接合や表面保護等の目的で広く利用されている。上記粘着剤は、例えば、アクリル系ポリマーと、架橋剤とを含む粘着剤組成物から形成される。この種の従来技術を開示する先行技術文献として、特許文献1~3が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4682299号公報
【特許文献2】国際公開第2021/125278号
【特許文献3】国際公開第2021/125247号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
粘着剤層を有する粘着シートは、各種物品を加工したり運搬したりする際に、その表面の損傷(傷や汚れ、腐食等)を防止する表面保護フィルムとしても好ましく利用されている。例えば、表面保護フィルムは偏光板、ディスプレイ等の光学部材の表面を保護するためにも好ましく用いられている。ここで表面保護フィルムのように、保護対象物(例えば光学部材)の保護目的を達成した後に保護対象物から剥離(再剥離)する使用態様の粘着シートには、保護対象物から軽い力で剥がせるように、軽剥離性が求められる。
【0005】
また、表面保護フィルムのように剥離(再剥離)する使用態様で用いられる粘着シートには、保護対象物からの剥離(再剥離)の際に、ジッピングと呼ばれる振動性の剥離挙動を発生させずに、保護対象物から一定の荷重によって滑らかに剥離できることが望まれる。粘着シートにおけるジッピングは、特に粘着シートを高速で剥離除去する際に発生しやすい傾向にある。粘着シート剥離時のジッピングは、剥離音による作業環境の悪化(騒音の発生)や、被着体に筋状に残る剥離跡(糊残り)の発生の要因ともなり得る。
【0006】
また、表面保護フィルムのように剥離(再剥離)する使用態様で用いられる粘着シートには、保護対象物の保護の前後において保護対象物を変質させないことが求められる。このため、粘着シートを被着体から剥離除去した後に、被着体表面に粘着剤由来の汚染が発生しないことが望ましい。しかしながら、例えば高速剥離時のジッピングを抑制するために、凝集力が比較的低い粘着剤を用いると、被着体に対する粘着剤由来の汚染は発生しやすくなる傾向にある。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みて創出されたものであり、被着体に対する汚染性の低い粘着シートを提供することを主たる目的とする。特に、被着体に対する汚染性の低減、高速剥離におけるジッピングの抑制、および軽剥離性を両立し得る粘着シートを提供することを目的とする。他の目的は、光学部材の表面保護に用いられる粘着シート(表面保護フィルム)および光学部材と粘着シートとを含んで構成される粘着シート付き光学部材(表面保護フィルム付き光学部材)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この明細書によると、粘着剤層を有する粘着シートが提供される。上記粘着剤層は、アクリル系ポリマーを含有し、上記アクリル系ポリマーは、炭素原子数6~17のアルキル基をエステル末端に有するアルキル(メタ)アクリレート(m1)を含むモノマー成分の重合物であり、ここで上記炭素原子数6~17のアルキル基は、直鎖アルキル基であるか、あるいは分岐の炭素原子数が1である分岐アルキル基である。また、上記粘着シートは、上記粘着剤層の粘着面積1cm2を光学部材に貼り合わせ、23℃、50%RHの環境下で、せん断方向に引張速度0.06mm/分の条件で引っ張った際のせん断力が17N/cm2以上である。上記のようなアクリル系ポリマーを用い、かつ、せん断力が上記下限値以上である粘着シートによると、被着体に対する汚染性が低減しやすい。また、かかる構成の粘着シートによると、高速剥離におけるジッピングが抑制されやすい。
【0009】
いくつかの態様において、上記アルキル(メタ)アクリレート(m1)は、n-ヘプチルアクリレートおよびn-オクチルアクリレートから選択される少なくとも1種を含む。かかるアルキル(メタ)アクリレート(m1)を用いると、被着体に対する汚染性の低減と高速剥離におけるジッピング抑制が両立しやすい。
【0010】
いくつかの態様において、上記モノマー成分は、さらに(メタ)アクリル酸を含む。アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分として(メタ)アクリル酸を用いることにより、架橋剤(例えばエポキシ系架橋剤)を使用する態様において、架橋剤との架橋反応が好適に進行して硬化性が増し、軽剥離性を示す粘着剤が形成されやすい。また、(メタ)アクリル酸はガラス転移温度が比較的高いため、(メタ)アクリル酸を用いることは、粘着剤の凝集力向上と被着体に対する汚染性低減に対して有利である。
【0011】
いくつかの態様において、上記アクリル系ポリマーは、上記モノマー成分の組成に基づいて計算されるガラス転移温度が-55℃以下である。かかるアクリル系ポリマーを用いると、高速剥離におけるジッピングが抑制されやすい。
【0012】
いくつかの態様において、上記粘着剤層は架橋剤を含む。架橋剤を含むことにより、粘着剤の硬化性が増して、軽剥離性を示す粘着剤が形成されやすい。粘着剤の凝集力を高めて汚染性を低減させる観点から、いくつかの好ましい態様において、上記架橋剤としてはエポキシ系架橋剤が用いられる。
【0013】
いくつかの態様において、上記粘着剤層のゲル分率は70%以上である。ゲル分率が70%以上である粘着剤層は、例えば製造時において、外力による打痕等の変形や損傷が生じにくく、外観の変化が生じにくい。そのような粘着剤層を有する粘着シートは、平滑な表面を有しやすく、例えば透明粘着シートに形成して粘着シート越しの被着体検査をする場合に、高精度の検査が可能となり好ましい。また、ゲル分率が高い粘着剤層は、軽剥離性を示しやすい。
【0014】
ここに開示される粘着シートは、被着体に対する汚染性が低く、高速剥離におけるジッピングが抑制され、軽剥離性を示す傾向にある。このため、上記粘着シートは表面保護フィルムとして好適に用いることができる。表面保護フィルムは、保護対象物に貼り付けられた後、その保護目的を達成すると、通常、保護対象物から剥離除去(再剥離)される。ここに開示される粘着シートを表面保護用途に適用することにより、再剥離時の剥離作業性を向上させ、かつ保護の前後における保護対象物の変質を抑制することができる。いくつかの好ましい態様において、上記粘着シートは、光学部材の表面保護用途に用いられる。
【0015】
また、ここに開示される技術によると、光学部材の少なくとも一つの表面に、ここに開示されるいずれかの粘着シート(または表面保護フィルム)が貼付されて構成された粘着シート付き光学部材(または表面保護フィルム付き光学部材)が提供される。ここに開示される粘着シートは、光学部材を被着体とした場合において、被着体に対する汚染性が低く、高速剥離におけるジッピングが抑制され、軽剥離性を示す傾向にある。このため、上記粘着シートが光学部材の表面に貼付されて構成される粘着シート付き光学部材は、再剥離時の剥離作業性が向上し、かつ保護の前後における光学部材の変質が抑制されたものとなりやすい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施形態に係る粘着シートの構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】一実施形態に係る粘着シート付き光学部材の構成を模式的に示す断面図である。
【
図3】一実施形態に係る粘着シートのせん断力の測定方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、本明細書に記載された発明の実施についての教示と出願時の技術常識とに基づいて当業者に理解され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明することがあり、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、実際に提供される製品のサイズや縮尺を必ずしも正確に表したものではない。
【0018】
この明細書において「粘着剤」とは、前述のように、室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する材料をいう。ここでいう粘着剤は、「C. A. Dahlquist, “Adhesion: Fundamental and Practice”, McLaren & Sons (1966), p. 143」に定義されているとおり、一般的に、複素引張弾性率E*(1Hz)<107dyne/cm2を満たす性質を有する材料(典型的には、25℃において上記性質を有する材料)であり得る。
【0019】
この明細書において、バイオマス由来の炭素とは、バイオマス材料、すなわち再生可能な有機資源に由来する材料に由来する炭素(再生可能炭素)を意味する。上記バイオマス材料とは、典型的には、太陽光と水と二酸化炭素とが存在すれば持続的な再生産が可能な生物資源(典型的には、光合成を行う植物)に由来する材料のことをいう。したがって、採掘後の使用によって枯渇する化石資源に由来する材料(化石資源系材料)は、ここでいうバイオマス材料の概念から除かれる。粘着剤組成物および粘着剤のバイオマス炭素比、すなわち該粘着剤組成物および粘着剤に含まれる全炭素に占めるバイオマス由来炭素の割合は、ASTM D6866に準拠して測定される質量数14の炭素同位体含有量から見積もることができる。
【0020】
<粘着シート>
ここに開示される粘着シートは、粘着剤層を備える。上記粘着シートは、非剥離性の基材(支持基材)の片面または両面に上記粘着剤層を有する形態の基材付き粘着シートであってもよく、上記粘着剤層がはく離ライナーに保持された形態等の基材レスの粘着シート(すなわち、非剥離性の基材を有しない粘着シート)であってもよい。以下、支持基材のことを単に「基材」ということがある。ここでいう粘着シートの概念には、粘着テープ、粘着ラベル、粘着フィルム等と称されるものが包含され得る。粘着シートは、ロール形態であってもよく、枚葉状であってもよい。また、種々の形状に加工された形態の粘着シートであってもよい。
【0021】
粘着シートは、本発明の効果を損なわない範囲で、基材と粘着剤層以外の任意の適切な他の層を有していてもよい。このような他の層としては、例えば、易接着層、易滑層、ブロッキング防止層、帯電防止層、反射防止層、オリゴマー防止層、粘着剤層の基材と反対側の表面に設けるはく離ライナーが挙げられる。
【0022】
上述のはく離ライナー(はく離フィルムともいう。)としては、樹脂フィルムや紙等のライナー基材の表面に剥離層を有するはく離ライナーや、ポリオレフィン系樹脂(例えばポリエチレン、ポリプロピレン)やフッ素系樹脂等の低接着性材料からなるはく離ライナー等を用いることができる。上記剥離層は、例えば、シリコーン系、長鎖アルキル系、フッ素系、硫化モリブデン等の剥離処理剤により上記ライナー基材を表面処理して形成されたものであり得る。ライナー基材としては、後述する粘着シートの基材と同様、バイオマス由来の材料を用いて形成されたものや、リサイクル材料(リサイクルフィルム等)が好ましく用いられ得る。
【0023】
一実施形態に係る粘着シートの構造を
図1に模式的に示す。この粘着シート130は、第一面132Aおよび第二面132Bを有するシート状の支持基材(例えば樹脂フィルム)132と、その第一面132A側に設けられた粘着剤層134とを備える基材付き片面粘着シートとして構成されている。粘着剤層134は、支持基材132の第一面132A側に固定的に設けられている。このような片面接着性の粘着シート130は、その粘着面を被着体(保護対象、例えば偏光板などの光学部材)の表面に貼り付けて使用される表面保護フィルムとして好適である。使用前の粘着シート130は、
図1に示すように、粘着剤層134の表面(粘着面)134Aが、少なくとも粘着剤層134に対向する側が剥離面となっているはく離ライナー136によって保護された形態のはく離ライナー付き粘着シート100の構成要素であり得る。あるいは、はく離ライナー136を省略し、第二面132Bが剥離面となっている支持基材132を用い、粘着シート130を巻回することにより粘着面134Aが支持基材132の第二面(背面)132Bに当接して保護された形態(ロール形態)であってもよい。
【0024】
<せん断力>
ここに開示される粘着シートは、上記粘着剤層の粘着面積1cm2を光学部材に貼り合わせ、23℃、50%RHの環境下で、せん断方向に引張速度0.06mm/分の条件で引っ張った際のせん断力が17N/cm2以上である。ここで、本明細書において単に「せん断力」というときは、特に言及のない限り、「粘着剤層の粘着面積1cm2を光学部材に貼り合わせ、23℃、50%RHの環境下で、せん断方向に引張速度0.06mm/分の条件で引っ張った際のせん断力」を示すものとする。せん断力は、具体的には後述の実施例に記載される方法で測定される。
【0025】
粘着剤(層)のせん断力が上記下限値以上である構成によると、粘着剤の被着体への汚染性が低減(改善)する傾向にある。その理由については、特に限定的に解釈されるべきではないが、以下のように考えることができる。すなわち、粘着剤の被着体への汚染成分は主に、粘着剤に含まれる低分子量成分に由来すると考えられる。このため、粘着剤に含まれる低分子量成分の割合を減らすことは、被着体への汚染性を低減するのに有効である。一方で、低分子量成分にはポリマー同士の絡み合いを緩和する作用があるため、粘着剤に低分子量成分が含まれることは、粘着剤の凝集力の低下の要因ともなる。このため凝集力の高い粘着剤は、粘着剤に含まれている低分子量成分が少ない傾向にあり、改善した汚染性(低汚染性)を示す傾向にある。そして、粘着剤の凝集力とせん断力とは正の相関があり、凝集力が高いほどせん断力は高くなる傾向にあり、またせん断力が高いほど凝集力も高い傾向にある。このようなせん断力、凝集力および汚染性の関係から、粘着剤(層)のせん断力が所定値以上であると、粘着剤の汚染性は低減(改善)する傾向にあると考えられる。
【0026】
また、粘着剤層のせん断力が高くて凝集力が高いと、粘着剤は軽剥離化する傾向にある。したがって、粘着剤の軽剥離性の観点からも、粘着剤層のせん断力は上記下限値以上であることが好ましい。
【0027】
いくつかの好ましい態様において、粘着剤のせん断力は、18N/cm2以上であり、より好ましくは19N/cm2以上(例えば20N/cm2以上)、さらに好ましくは22N/cm2以上、より一層好ましくは24N/cm2以上であり、25N/cm2以上であってもよく、25.5N/cm2以上でもよい。粘着剤のせん断力の上限は、特に限定されないが、粘着性能や剥離時のジッピング抑制等の観点から、通常、35N/cm2以下であることが適切であり、好ましくは30N/cm2以下、より好ましくは28N/cm2以下であり、27N/cm2以下でもよい。
【0028】
粘着剤層のせん断力を測定するのに用いられる被着体としての光学部材について、上記光学部材とは、光学的特性(例えば、偏光性、光屈折性、光散乱性、光反射性、光透過性、光吸収性、光回折性、旋光性、視認性等)を有する部材をいう。上記光学部材としては、光学的特性を有する部材であれば特に限定されないが、例えば、表示装置(画像表示装置)、入力装置等の機器(光学機器)を構成する部材またはこれらの機器に用いられる部材が挙げられ、例えば、偏光板、波長板、位相差板、光学補償フィルム、輝度向上フィルム、導光板、反射フィルム、反射防止フィルム、ハードコート(HC)フィルム、衝撃吸収フィルム、防汚フィルム、フォトクロミックフィルム、調光フィルム、透明導電フィルム(ITOフィルム)、意匠フィルム、装飾フィルム、表面保護板、プリズム、レンズ、カラーフィルター、透明基板や、さらにはこれらが積層されている部材(これらを総称して「機能性フィルム」と称する場合がある。)等が挙げられる。なお、上記の「板」および「フィルム」は、それぞれ板状、フィルム状、シート状等の形態を含むものとし、例えば、「偏光板」は、「偏光フィルム」、「偏光シート」等を含むものとする。
【0029】
上記表示装置としては、例えば、液晶表示装置、有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示装置、PDP(プラズマディスプレイパネル)、電子ペーパーなどが挙げられる。また、上記入力装置としては、タッチパネルなどが挙げられる。
【0030】
上記光学部材としては、特に限定されないが、例えば、ガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、金属薄膜等からなる部材(例えば、シート状やフィルム状、板状の部材)等が挙げられる。なお、この明細書における「光学部材」には、表示装置や入力装置の視認性を保ちながら加飾や保護の役割を担う部材(意匠フィルム、装飾フィルムや表面保護フィルム等)も含むものとする。
【0031】
ここに開示される粘着剤層のせん断力を測定するのに用いられる被着体としての光学部材としては、例えば、ガラス板、金属板、樹脂板等のような非吸水性の平滑面を有する光学部材が好適である。
【0032】
ここに開示される粘着剤層のせん断力を測定するのに用いられる被着体としての光学部材としては、特に偏光板が好ましい。上記偏光板は、一般に、偏光フィルムが二枚のトリアセチルセルロース(TAC)フィルムで挟まれた構成を有する。上記二枚のTACフィルムのうち少なくとも粘着シートが貼り付けられる側に配置されたTACフィルムは、その表面(被貼付面)がハードコート層で保護されていることが好ましい。上記ハードコート層は、ウレタンアクリレート系の材料から構成されていることが好ましい。また、上記ハードコート層の上にさらに反射防止層が設けられた構成の偏光板であることが好ましい。かかる構成の偏光板を用いてせん断力を測定する場合において、粘着剤層は偏光板の反射防止層で構成された表面に貼り合わされることが好ましい。
【0033】
<粘着剤層>
(アクリル系ポリマー)
ここに開示される粘着剤層は、アクリル系ポリマーを含有する。上記粘着剤層は、典型的にはアクリル系ポリマーをベースポリマーとする粘着剤層である。そのような粘着剤層は、アクリル系粘着剤層ともいう。なお、ベースポリマーとは、粘着剤層に含まれるゴム状ポリマー(室温付近の温度域においてゴム弾性を示すポリマー)の主成分をいう。また、この明細書において「主成分」とは、特記しない場合、50重量%を超えて含まれる成分を指す。また、粘着剤および粘着剤層に含まれ得る成分に関する下記の説明は、特に断りがないかぎり粘着剤(層)を形成するために用いられる粘着剤組成物にも適用可能である。
【0034】
この明細書において「アクリル系ポリマー」とは、(メタ)アクリル系モノマーを50重量%より多く含むモノマー成分に由来する重合物をいう。モノマー成分における(メタ)アクリル系モノマーの含有量は、好ましくは70重量%以上であり、80重量%以上でもよい。いくつかの態様において、モノマー成分における(メタ)アクリル系モノマーの含有量は、90重量%以上でもよく、95重量%以上でもよく、100重量%でもよい。一方、粘着特性のバランスを考慮して、いくつかの態様において、モノマー成分全体のうち(メタ)アクリル系モノマーの割合は、例えば99重量%未満であってよく、95重量%未満でもよく、93重量%未満でもよい。
【0035】
また、この明細書において「(メタ)アクリル系モノマー」とは、一分子中に少なくとも一つの(メタ)アクリロイル基を有するモノマーをいう。ここで「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよびメタクリロイルを包括的に指す意味である。同様に、「(メタ)アクリレート」とはアクリレートおよびメタクリレートを、「(メタ)アクリル」とはアクリルおよびメタクリルを、それぞれ包括的に指す意味である。したがって、ここでいう(メタ)アクリル系モノマーの概念には、アクリロイル基を有するモノマー(アクリル系モノマー)とメタクリロイル基を有するモノマー(メタクリル系モノマー)との両方が包含され得る。
【0036】
上記アクリル系ポリマーとしては、典型的には、1種または2種上の鎖状アルキル(メタ)アクリレートを主モノマーとして含み、該主モノマーと共重合性を有する1種または2種以上の副モノマーをさらに含み得るモノマー原料の重合物が用いられる。上記主モノマーは、上記モノマー成分全体の50重量%超を占める成分をいう。また、鎖状アルキル(メタ)アクリレートとは、鎖状アルキル基をエステル末端に有するアルキル(メタ)アクリレートをいう。上記鎖状アルキル基は、直鎖状および分岐状のアルキル基を包含する概念であり、脂環式と称される環状アルキル基は含まない。また、上記副モノマーは、主モノマーとして用いられる鎖状アルキル(メタ)アクリレート以外のモノマー成分をいい、後述するカルボキシ基含有モノマー等の官能基含有モノマーおよび他の共重合性モノマーを包含する。この明細書において、副モノマーは、モノマー成分中、アルキル(メタ)アクリレート(m1)およびその他の鎖状アルキル(メタ)アクリレート以外のモノマー成分をいう。
【0037】
ここに開示される技術において使用されるアクリル系ポリマーは、モノマー成分として、特定の化学構造を有するアルキル(メタ)アクリレート(m1)を含む。具体的には、アルキル(メタ)アクリレート(m1)は、炭素数6~17のアルキル基をエステル末端に有し、かつ該炭素数6~17のアルキル基は、直鎖アルキル基であるか、あるいは分岐(branchまたは分岐基ともいう。)の炭素数が1である分岐アルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートである。上記構造のアクリル系ポリマーを含む粘着剤によると、粘着剤の汚染性低減と、高速剥離時のジッピング抑制とが両立しやすい。その理由は、特に限定的に解釈されるものではないが、モノマー成分として上記アルキル(メタ)アクリレート(m1)を用いて合成されたアクリル系ポリマーを含む粘着剤は、適切な凝集力およびガラス転移温度を有するものとなりやすく、このことが汚染性低減と高速剥離時のジッピング抑制とに寄与していると考えられる。上記アルキル(メタ)アクリレート(m1)は、アクリル系ポリマーのモノマー成分中、主モノマー(鎖状アルキル(メタ)アクリレート)の少なくとも一部として含まれている。以下、炭素数Xの鎖状アルキル基をエステル末端に有する鎖状アルキル(メタ)アクリレートをCXアルキル(メタ)アクリレート(例えば、炭素数6~17の鎖状アルキル基をエステル末端に有する鎖状アルキル(メタ)アクリレートの場合、C6-17アルキル(メタ)アクリレート)ということがある。
【0038】
上記アルキル(メタ)アクリレート(m1)は、下記式(1)でも表すことができる。
CH2=C(R1)COOR2 (1)
ここで、上記式(1)中のR1は水素原子またはメチル基である。また、R2は炭素原子数6~17のアルキル基であり、直鎖アルキル基であるか、あるいは分岐の炭素数が1である分岐アルキル基である。アルキル(メタ)アクリレート(m1)が有するアルキル基の炭素数は、汚染性低減、ジッピング抑制、軽剥離性の観点から、好ましくは7以上であり、8以上であってもよく、9以上でもよく、10以上でもよく、12以上でもよい。アルキル基の炭素数が多いほど、アルキル基を長鎖とする作用や特性が効果的に発現しやすい。また、上記炭素数は、粘着剤形成性、粘着特性、エージング速度等の観点から、好ましくは14以下、より好ましくは12以下、さらに好ましくは10以下、特に好ましくは8以下(例えば7または8)である。
【0039】
アルキル(メタ)アクリレート(m1)として用いられるC6-17直鎖アルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-ヘプチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、n-ウンデシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、n-トリデシル(メタ)アクリレート、n-テトラデシル(メタ)アクリレート、n-ペンタデシル(メタ)アクリレート、n-ヘキサデシル(メタ)アクリレート、n-ヘプタデシル(メタ)アクリレートが挙げられる。アルキル(メタ)アクリレート(m1)としてのC6-17分岐アルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、2-オクチル(メタ)アクリレートやイソオクチルアクリレート等のメチルヘプチル(メタ)アクリレート、メチルオクチル(メタ)アクリレート、メチルノニル(メタ)アクリレート、メチルデシル(メタ)アクリレート、メチルドデシル(メタ)アクリレート、メチルトリデシル(メタ)アクリレート、メチルテトラデシル(メタ)アクリレート、メチルペンタ(メタ)アクリレート、メチルヘキサデシル(メタ)アクリレートが挙げられる。アルキル(メタ)アクリレート(m1)は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。特に限定するものではないが、いくつかの態様において、アルキル(メタ)アクリレート(m1)として、アルキルアクリレートが好ましく用いられる。
【0040】
いくつかの態様において、C6-17直鎖アルキル(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。なかでも、アルキル(メタ)アクリレート(m1)として、n-ヘプチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレートがより好ましく、n-ヘプチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
【0041】
C6-17分岐アルキル(メタ)アクリレートとしては、分岐アルキル基の末端の1つ手前の炭素でメチル基が枝分かれしているイソアルキル基を有するイソアルキル(メタ)アクリレート、2-オクチル(メタ)アクリレートのように分岐アルキル基の末端の2つ以上手前の炭素でメチル基が枝分かれしている非イソ分岐アルキル基を有する分岐アルキル(メタ)アクリレートのいずれも使用可能であるが、いくつかの態様において、アクリル系ポリマーの側鎖末端が相対的に長い直鎖アルキル基となる非イソ分岐アルキル基を有する分岐アルキル(メタ)アクリレートが好ましい。例えば分岐アルキル基の分岐基(メチル基)がエステル末端側から1つ目または2つ目の炭素に結合しているC6-17分岐アルキル(メタ)アクリレートが好ましく用いられ得る。
【0042】
モノマー成分全体におけるアルキル(メタ)アクリレート(m1)の割合は、その使用目的や要求特性等に応じて設定される。いくつかの態様において、モノマー成分全体に占めるアルキル(メタ)アクリレート(m1)の割合は、例えば10重量%以上であってもよく、30重量%以上が適当であり、いくつかの好ましい態様において、50重量%以上(例えば50重量%超)であり、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上であり、85重量%以上でもよく、特に好ましくは90重量%以上であり、92重量%以上でもよく、95重量%以上でもよい。アルキル(メタ)アクリレート(m1)の使用量を増大することにより、アルキル(メタ)アクリレート(m1)に基づく特性を効果的に発現させることができる。一方、架橋点となる官能基含有モノマー等を共重合する観点から、モノマー成分全体に占めるアルキル(メタ)アクリレート(m1)の割合は、例えば99重量%未満であってよく、98重量%未満でもよく、97重量%未満でもよい。他のいくつかの態様において、モノマー成分全体に占めるアルキル(メタ)アクリレート(m1)の割合の上限は、他のモノマーの使用効果を得る観点から、95重量%以下であってもよく、75重量%以下でもよく、60重量%以下でもよく、50重量%以下(例えば50重量%未満)でもよい。
【0043】
上記アクリル系ポリマーのモノマー成分に含まれる鎖状アルキル(メタ)アクリレート全体に占めるアルキル(メタ)アクリレート(m1)の割合は、いくつかの態様において、例えば10重量%以上であってもよく、30重量%以上が適当であり、いくつかの好ましい態様において、50重量%以上(例えば50重量%超)であり、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上であり、95重量%以上でもよく、99重量%以上でもよい。アルキル(メタ)アクリレート(m1)の使用量を増大することにより、アルキル(メタ)アクリレート(m1)に基づく特性を効果的に発現させることができる。いくつかの態様において、鎖状アルキル(メタ)アクリレートとして、アルキル(メタ)アクリレート(m1)のみを含むモノマー組成のアクリル系ポリマーが用いられる。したがって、上記鎖状アルキル(メタ)アクリレート全体に占めるアルキル(メタ)アクリレート(m1)の割合の上限は100重量%である。他のいくつかの態様において、上記鎖状アルキル(メタ)アクリレート全体に占めるアルキル(メタ)アクリレート(m1)の割合は、アルキル(メタ)アクリレート(m1)以外の鎖状アルキル(メタ)アクリレートの使用効果を得る観点から、95重量%以下であってもよく、75重量%以下でもよく、60重量%以下でもよく、50重量%以下(例えば50重量%未満)でもよい。
【0044】
いくつかの好ましい態様において、アルキル(メタ)アクリレート(m1)として、C7-12直鎖アルキル(メタ)アクリレートが用いられる。なかでも、C7-8直鎖アルキル(メタ)アクリレートの使用がより好ましい。モノマー成分全体に占めるC7-12直鎖アルキル(メタ)アクリレート(より好適には、C7-8直鎖アルキル(メタ)アクリレート)の割合は、例えば10重量%以上であってもよく、30重量%以上が適当であり、いくつかの好ましい態様において、50重量%以上(例えば50重量%超)であり、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上であり、85重量%以上でもよく、特に好ましくは90重量%以上であり、92重量%以上でもよく、95重量%以上でもよい。また、モノマー成分全体に占めるC7-12直鎖アルキル(メタ)アクリレート(より好適には、C7-8直鎖アルキル(メタ)アクリレート)の割合は、例えば99重量%未満であってよく、98重量%未満でもよく、97重量%未満でもよい。他のいくつかの態様において、モノマー成分全体に占めるC7-12直鎖アルキル(メタ)アクリレート(より好適には、C7-8直鎖アルキル(メタ)アクリレート)の割合の上限は、他のモノマーの使用効果を得る観点から、95重量%以下であってもよく、75重量%以下でもよく、60重量%以下でもよく、50重量%以下(例えば50重量%未満)でもよい。
【0045】
いくつかの好ましい態様において、アルキル(メタ)アクリレート(m1)として、n-ヘプチル(メタ)アクリレートが用いられる。n-ヘプチル(メタ)アクリレートを使用することにより、ここに開示される技術による効果は特に好ましく発揮され得る。なかでも、粘着特性の観点から、n-ヘプチルアクリレートが特に好ましい。
【0046】
モノマー成分全体におけるn-ヘプチル(メタ)アクリレートの割合は、その使用目的や要求特性等に応じて設定される。いくつかの態様において、モノマー成分全体に占めるn-ヘプチル(メタ)アクリレートの割合は、例えば10重量%以上であってもよく、30重量%以上が適当であり、いくつかの好ましい態様において、50重量%以上(例えば50重量%超)であり、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上であり、85重量%以上でもよく、特に好ましくは90重量%以上であり、92重量%以上でもよく、95重量%以上でもよい。n-ヘプチル(メタ)アクリレートの使用量を増大することにより、その使用効果を効果的に発現させることができる。一方、架橋点となる官能基含有モノマー等を共重合する観点から、モノマー成分全体に占めるn-ヘプチル(メタ)アクリレートの割合は、例えば99重量%未満であってよく、98重量%未満でもよく、97重量%未満でもよい。他のいくつかの態様において、上記モノマー成分全体に占めるn-ヘプチル(メタ)アクリレートの割合は、n-ヘプチル(メタ)アクリレート以外の各種モノマーの使用効果を得る観点から、95重量%以下であってもよく、75重量%以下でもよく、60重量%以下でもよく、50重量%以下(例えば50重量%未満)でもよい。
【0047】
上記アクリル系ポリマーのモノマー成分に含まれる鎖状アルキル(メタ)アクリレート全体に占めるn-ヘプチル(メタ)アクリレートの割合は、いくつかの態様において、例えば10重量%以上であってもよく、30重量%以上が適当であり、いくつかの好ましい態様において、50重量%以上(例えば50重量%超)であり、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上であり、95重量%以上でもよく、99重量%以上でもよい。n-ヘプチル(メタ)アクリレートの使用量を増大することにより、その使用効果を効果的に発現させることができる。ここに開示される技術は、上記鎖状アルキル(メタ)アクリレートとして、n-ヘプチル(メタ)アクリレートのみを含むモノマー組成のアクリル系ポリマーを用いる態様で好ましく実施され得る。したがって、上記鎖状アルキル(メタ)アクリレート全体に占めるn-ヘプチル(メタ)アクリレートの割合の上限は100重量%である。他のいくつかの態様において、上記鎖状アルキル(メタ)アクリレート全体に占めるn-ヘプチル(メタ)アクリレートの割合は、他の鎖状アルキル(メタ)アクリレートの使用効果を得る観点から、95重量%以下であってもよく、75重量%以下でもよく、60重量%以下でもよく、50重量%以下(例えば50重量%未満)でもよい。
【0048】
いくつかの態様において、アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分は、発明の効果を著しく損なわない範囲で、アルキル(メタ)アクリレート(m1)に該当しない鎖状アルキル(メタ)アクリレートを含んでもよい。アルキル(メタ)アクリレート(m1)以外の鎖状アルキル(メタ)アクリレートとしては、C1-5アルキル(メタ)アクリレート、アルキル基の炭素数が18以上であるC18+アルキル(メタ)アクリレート、アルキル基中の分岐基の炭素数が2以上であるC6-17分岐アルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。C1-5アルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、s-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレートが挙げられる。C18+アルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレートが挙げられる。上記C6-17分岐アルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0049】
モノマー成分に占めるアルキル(メタ)アクリレート(m1)以外の鎖状アルキル(メタ)アクリレートの割合は、特に限定するものではないが、例えば凡そ50重量%以下(例えば50重量%未満)であってもよく、30重量%以下でもよく、10重量%以下でもよく、1重量%以下でもよい。ここに開示される技術は、モノマー成分がアルキル(メタ)アクリレート(m1)以外の鎖状アルキル(メタ)アクリレートを実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。上記モノマー成分がアルキル(メタ)アクリレート(m1)以外の鎖状アルキル(メタ)アクリレートを含む態様においては、モノマー成分に占めるアルキル(メタ)アクリレート(m1)以外の鎖状アルキル(メタ)アクリレートの割合は、例えば1重量%以上であってもよく、10重量%以上でもよく、30重量%以上でもよい。
【0050】
なお、本明細書において、モノマー成分がモノマーA(例えば上記アルキル(メタ)アクリレート(m1)以外の鎖状アルキル(メタ)アクリレート)を実質的に含まないとは、少なくとも意図的には当該モノマーAを用いないことをいい、当該モノマーAが例えば0.1重量%以下程度、非意図的に含まれることは許容され得る。
【0051】
いくつかの態様において、上記モノマー成分は、上記鎖状アルキル(メタ)アクリレートとして、バイオマス由来のアルキル基をエステル末端に有するアルキル(メタ)アクリレート(以下「バイオマス鎖状アルキル(メタ)アクリレート」ともいう。)を含み得る。近年、地球温暖化等の環境問題が重視されるようになり、石油等の化石資源系材料の使用量を低減することが望まれている。このような状況下、粘着剤の分野においても化石資源系材料の使用量を低減することが求められている。バイオマス鎖状アルキル(メタ)アクリレートを用いることにより、化石資源系材料への依存抑制に配慮されたアクリル系粘着剤組成物を好適に実現することができる。
【0052】
バイオマス鎖状アルキル(メタ)アクリレートは、特に限定されず、例えば、バイオマス由来のアルカノールと、バイオマス由来または非バイオマス由来の(メタ)アクリル酸とのエステルである。バイオマス由来のアルカノールの例には、バイオマスエタノール、パーム油やパーム核油、ヤシ油、ヒマシ油等の植物原料に由来するアルカノール、等が含まれる。バイオマス由来のアルカノールの炭素原子数が3以上である場合、該アルカノールは、直鎖状であってもよく、分岐を有していてもよい。いくつかの態様において、アクリル系ポリマーの合成に用いられるバイオマス鎖状アルキル(メタ)アクリレートとして、バイオマス由来のアルカノールと、非バイオマス由来の(メタ)アクリル酸とのエステルが用いられる。かかるバイオマス鎖状アルキル(メタ)アクリレートでは、アルカノールの炭素原子数が多いほど、該バイオマス鎖状アルキル(メタ)アクリレートに含まれる総炭素数に占めるバイオマス由来炭素の個数割合、すなわち該鎖状アルキル(メタ)アクリレートのバイオマス炭素比が高くなる。したがって、上記のバイオマス鎖状アルキル(メタ)アクリレートでは、バイオマス由来となる鎖状アルキル基の炭素数が多いことが、化石資源系材料への依存度低減の点で望ましい。その一方で、鎖状アルキル(メタ)アクリレートを構成する鎖状アルキル基の炭素数が多すぎると、接着力等の粘着特性が得られにくくなる傾向があり、また合成や取扱い性、コストなど生産性の点でも不利になり得る。バイオマス鎖状アルキル(メタ)アクリレートとして、バイオマス由来のアルカノールと、非バイオマス由来の(メタ)アクリル酸とのエステルを用いる態様では、粘着特性と、化石資源系材料への依存度低減(より具体的には上記鎖状アルキル(メタ)アクリレートのバイオマス炭素比)とをバランスよく両立する材料を用いることが望ましい。
【0053】
ここに開示される技術においては、上述のアルキル(メタ)アクリレート(m1)、アルキル(メタ)アクリレート(m1)以外の鎖状アルキル(メタ)アクリレートのいずれにも、バイオマス鎖状アルキル(メタ)アクリレートを用いることができる。アクリル系ポリマーの合成に用いられる鎖状アルキル(メタ)アクリレートとして、2種以上の化合物を用いる態様においては、少なくともその一部(例えば1種または2種、あるいは全部、すなわち全種)をバイオマス鎖状アルキル(メタ)アクリレートとすることができる。いくつかの好ましい態様において、アルキル(メタ)アクリレート(m1)として、バイオマス鎖状アルキル(メタ)アクリレートを用いることにより、化石資源系材料への依存度を低減しつつ、ここに開示される技術による効果が好ましく実現される。
【0054】
バイオマス鎖状アルキル(メタ)アクリレートが有するアルキル基の炭素数は、粘着剤形成性、粘着特性、エージング速度の観点から、好ましくは14以下、より好ましくは12以下、さらに好ましくは10以下、特に好ましくは8以下(例えば7または8)である。また、上記炭素数は、好ましくは7以上である。例えば、バイオマス鎖状アルキル(メタ)アクリレートとして、バイオマス由来のアルカノールと非バイオマス由来の(メタ)アクリル酸とのエステルを用いる態様において、アルキル基の炭素数を多くすることにより、合成されるアクリル系ポリマーのバイオマス炭素比を高めることができる。
【0055】
いくつかの好ましい態様において、アルキル(メタ)アクリレート(m1)として、バイオマス由来のn-ヘプチル基を有するn-ヘプチル(メタ)アクリレート(以下「バイオマスヘプチル(メタ)アクリレート」ともいう。)が用いられる。バイオマスヘプチル(メタ)アクリレートを使用することにより、化石資源系材料への依存度を低減しつつ、ここに開示される技術による効果が特に好ましく発揮され得る。なかでも、粘着特性の観点から、バイオマスヘプチルアクリレートが特に好ましい。
【0056】
上記アクリル系ポリマーのモノマー成分に用いられる鎖状アルキル(メタ)アクリレート全体に占めるバイオマス鎖状アルキル(メタ)アクリレート(例えば、バイオマスn-ヘプチル(メタ)アクリレート)の割合は、いくつかの態様において、例えば1重量%以上であってもよく、10重量%以上が適当であり、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上(例えば50重量%超)であり、70重量%以上でもよく、80重量%以上でもよく、90重量%以上でもよく、95重量%以上でもよく、99重量%以上でもよい。バイオマス鎖状アルキル(メタ)アクリレートの使用割合を高めることにより、アクリル系ポリマーのバイオマス炭素比を向上させつつ、その使用効果を効果的に発現させることができる。ここに開示される技術は、鎖状アルキル(メタ)アクリレートとして、バイオマス鎖状アルキル(メタ)アクリレートのみを含むモノマー組成のアクリル系ポリマーを用いる態様で好ましく実施され得る。したがって、上記鎖状アルキル(メタ)アクリレート全体に占めるバイオマス鎖状アルキル(メタ)アクリレートの割合の上限は100重量%である。他のいくつかの態様において、鎖状アルキル(メタ)アクリレート全体に占めるバイオマス鎖状アルキル(メタ)アクリレートの割合は、95重量%以下であってもよく、70重量%以下でもよく、50重量%以下(例えば50重量%未満)でもよく、30重量%以下でもよく、10重量%以下でもよく、1重量%以下でもよい。
【0057】
いくつかの態様において、アクリル系ポリマーを形成するモノマー成分は、上述の鎖状アルキル(メタ)アクリレートに加えて、上記鎖状アルキル(メタ)アクリレートと共重合可能な他のモノマー(共重合性モノマー)を含んでいる。共重合性モノマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記共重合性モノマーは、アクリル系ポリマーに架橋点を導入したり、アクリル系ポリマーの凝集力を高めたりするために役立ち得る。共重合性モノマーは、バイオマス由来であってもよく、非バイオマス由来であってもよい。
【0058】
いくつかの好ましい態様において、共重合性モノマーとしてカルボキシ基含有モノマーが用いられる。アクリル系ポリマーに架橋点を導入するための共重合性モノマー成分としてカルボキシ基含有モノマーを、架橋剤(例えばエポキシ系架橋剤)と組み合わせて用いることにより、凝集力が向上し、再剥離可能な良好な接着力に調節しやすく、また被着体への汚染性が低減するため、例えば再剥離される表面保護用途に適した粘着剤を形成しやすい。
【0059】
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルマレイン酸、カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルテトラヒドロフタル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸が挙げられる。また、カルボキシ基含有モノマーは、カルボキシ基の金属塩(例えばアルカリ金属塩)を有するモノマーであってもよい。なかでも、アクリル酸およびメタクリル酸が好ましく、アクリル酸がより好ましい。上記カルボキシ基含有モノマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0060】
アクリル系ポリマーを形成するモノマー成分における上記カルボキシ基含有モノマー(好適には(メタ)アクリル酸)の含有量は、例えば、モノマー成分全体の0.01重量%以上であってもよく、0.1重量%以上であってもよく、0.5重量%超が適当であり、いくつかの好ましい態様では、1重量%以上(例えば1重量%超)であってもよく、2重量%以上でもよく、3重量%以上でもよい。また、モノマー成分全体に占める上記カルボキシ基含有モノマー(好適には(メタ)アクリル酸)の含有量は、例えば15重量%未満であり、10重量%以下とすることが適当であり、いくつかの好ましい態様では、8重量%以下であってもよく、6重量%以下でもよく、5重量%以下でもよい。上記カルボキシ基含有モノマー(好適には(メタ)アクリル酸)を上記の範囲で適当量使用することにより、凝集力が向上し、再剥離可能な良好な接着力に調節しやすく、例えば再剥離される表面保護用途に適した粘着剤を形成しやすい。
【0061】
アクリル系ポリマーを形成するモノマー成分は、上述のアルキル(メタ)アクリレート
(m1)と共重合可能な他の共重合性モノマーを含んでいてもよい。他の共重合性モノマーは、上記鎖状アルキル(メタ)アクリレート(m1)、上記アルキル(メタ)アクリレート(m1)以外の鎖状アルキル(メタ)アクリレート、および上記カルボキシ基含有モノマーとは異なるモノマーとして定義される。他の共重合性モノマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
他の共重合性モノマーの非限定的な具体例としては、以下のものが挙げられる。
水酸基含有モノマー:例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;ビニルアルコール、アリルアルコール等の、不飽和アルコール類。
スルホン酸基またはリン酸基を含有するモノマー:例えば、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸ナトリウム、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸、2-ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート等。
エポキシ基含有モノマー:例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルや(メタ)アクリル酸-2-エチルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有アクリレート、アリルグリシジルエーテル、(メタ)アクリル酸グリシジルエーテル等。
シアノ基含有モノマー:例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等。
イソシアネート基含有モノマー:例えば、2-イソシアナートエチル(メタ)アクリレート等。
アミド基含有モノマー:例えば、(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(n-ブチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(t-ブチル)(メタ)アクリルアミド等の、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド等の、N-アルキル(メタ)アクリルアミド;N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルカルボン酸アミド類;水酸基とアミド基とを有するモノマー、例えば、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド等のN-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;アルコキシ基とアミド基とを有するモノマー、例えば、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等の、N-アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド;その他、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-(メタ)アクリロイルモルホリン等。
窒素原子含有環を有するモノマー:例えば、N-ビニル-2-ピロリドン、N-メチルビニルピロリドン、N-ビニルピリジン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルピリミジン、N-ビニルピペラジン、N-ビニルピラジン、N-ビニルピロール、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルオキサゾール、N-(メタ)アクリロイル-2-ピロリドン、N-(メタ)アクリロイルピペリジン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン、N-ビニルモルホリン、N-ビニル-3-モルホリノン、N-ビニル-2-カプロラクタム、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオン、N-ビニルピラゾール、N-ビニルイソオキサゾール、N-ビニルチアゾール、N-ビニルイソチアゾール、N-ビニルピリダジン等(例えば、N-ビニル-2-カプロラクタム等のラクタム類)。
スクシンイミド骨格を有するモノマー:例えば、N-(メタ)アクリロイルオキシメチレンスクシンイミド、N-(メタ)アクリロイル-6-オキシヘキサメチレンスクシンイミド、N-(メタ)アクリロイル-8-オキシヘキサメチレンスクシンイミド等。
マレイミド類:例えば、N-シクロヘキシルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-ラウリルマレイミド、N-フェニルマレイミド等。
イタコンイミド類:例えば、N-メチルイタコンイミド、N-エチルイタコンイミド、N-ブチルイタコンイミド、N-オクチルイタコンイミド、N-2-エチルへキシルイタコンイミド、N-シクロへキシルイタコンイミド、N-ラウリルイタコンイミド等。
(メタ)アクリル酸アミノアルキル類:例えば、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N-ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t-ブチルアミノエチル。
アルコキシ基含有モノマー:例えば、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシプロピル等の、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル類;(メタ)アクリル酸メトキシエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリプロピレングリコール等の、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキレングリコール類。
ビニルエステル類:例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等。
ビニルエーテル類:例えば、例えば、メチルビニルエーテルやエチルビニルエーテル等のビニルアルキルエーテル。
芳香族ビニル化合物:例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等。
オレフィン類:例えば、エチレン、ブタジエン、イソプレン、イソブチレン等。
脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレート:例えば、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等。
芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリレート:例えば、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等。
その他、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等の複素環含有(メタ)アクリレート、塩化ビニルやフッ素原子含有(メタ)アクリレート等のハロゲン原子含有(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート等のケイ素原子含有(メタ)アクリレート、テルペン化合物誘導体アルコールから得られる(メタ)アクリレート等。
【0063】
アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分は、上記他の共重合性モノマーを含んでもよく、含まなくてもよい。また、上記他の共重合性モノマーの量は、目的および用途に応じて適宜選択すればよく特に限定されない。上記モノマー成分における他の共重合性モノマーの含有量は、例えば50重量%未満(例えば30重量%未満)とすることが適切であり、10重量%未満とすることが好ましく、5重量%未満がより好ましく、3重量%未満(例えば1重量%未満)としてもよい。ここに開示される技術は、モノマー成分が他の共重合性モノマーを実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。
【0064】
上記アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分のバイオマス炭素比(アクリル系ポリマーのバイオマス炭素比)は、例えば1%以上であってもよく、10%以上が適当であり、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上(例えば50%超)であり、60%以上でもよく、65%以上でもよく、70%以上でもよく、80%以上でもよく、90%~100%でもよい。このように設計することにより、化石資源系材料への依存抑制に配慮したアクリル系粘着剤が得られる。
【0065】
上記アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分の組成は、該モノマー成分の組成に基づいてFoxの式により求められるガラス転移温度Tgが-75℃以上10℃以下となるように設定され得る。いくつかの態様において、上記Tgは、接着力等の観点から、0℃以下であることが適当であり、-10℃以下であることが好ましく、-20℃以下または-30℃以下であってもよい。高速剥離時のジッピング抑制の観点からは、上記Tgは-55℃以下であることが好ましく、より好ましくは-60℃以下であり、さらに好ましくは-62℃以下(例えば-64℃以下)である。
【0066】
ここで、上記Foxの式とは、以下に示すように、共重合体のTgと、該共重合体を構成するモノマーのそれぞれを単独重合したホモポリマーのガラス転移温度Tgiとの関係式である。
1/Tg=Σ(Wi/Tgi)
なお、上記Foxの式において、Tgは共重合体のガラス転移温度(単位:K)、Wiは該共重合体におけるモノマーiの重量分率(重量基準の共重合割合)、Tgiはモノマーiのホモポリマーのガラス転移温度(単位:K)を表す。Tgの算出に使用するホモポリマーのガラス転移温度としては、公知資料、具体的には「Polymer Handbook」(第3版、John Wiley & Sons, Inc., 1989)に記載の数値を用いるものとする。本文献に複数種類の値が記載されている場合は、最も高い値を採用する。
【0067】
特に限定するものではないが、アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、通常、凡そ10×104以上であることが適当である。かかるMwのアクリル系ポリマーによると、良好な凝集性を示す粘着剤が得られやすい。いくつかの態様において、アクリル系ポリマーのMwは、再剥離可能な接着力、凝集力等の観点から、例えば30×104以上であることが適当であり、好ましくは50×104以上であり、70×104以上であってもよく、100×104超でもよく、110×104以上でもよく、120×104以上でもよく、130×104以上でもよい。アクリル系ポリマーのMwを所定値以上とすることにより、粘着剤の凝集力が向上し、被着体表面への汚染の発生を防止しやすい。また、被着体に対する密着性の観点から、アクリル系ポリマーのMwは、通常、凡そ500×104以下であることが適当であり、300×104以下であってもよく、100×104以下(例えば100×104未満)でもよい。Mwを所定値以下とすることにより、粘着剤が適度な流動性を有し、被着体に対する濡れ性(密着性)が得られやすい傾向がある。良好な濡れ性を有することにより、粘着シートが使用中に被着体から剥がれず、その保護機能を好ましく全うすることができる。溶液重合法により得られたアクリル系ポリマーにおいては、そのMwが上述した好ましい範囲にあることが特に有意義である。
【0068】
アクリル系ポリマーのMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定し、標準ポリスチレン換算の値として求めることができる。具体的には、GPC測定装置として商品名「HLC-8220GPC」(東ソー社製)を用いて、下記の条件で測定して求めることができる。後述の実施例においても同様である。
[GPCの測定条件]
サンプル濃度:0.1重量%(テトラヒドロフラン溶液)
サンプル注入量:10μL
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流量(流速):1.0mL/分
カラム温度(測定温度):40℃
カラム:
サンプルカラム:商品名「TSKguardcolumn SuperHZ-H」1本+商品名「TSKgel SuperHZM-H」2本」(東ソー社製)
リファレンスカラム:商品名「TSKgel SuperH-RC」1本(東ソー社製)
検出器:示差屈折計(RI)
標準試料:ポリスチレン
【0069】
被着体に対する汚染性低減の観点からは、アクリル系ポリマーに含まれる低分子量成分(例えば分子量が10×104以下の成分)の含有量は少ないことが好ましい。いくつかの好ましい態様において、粘着剤層に含まれるアクリル系ポリマーの分子量10×104以下の重量分率は、13%以下であり、より好ましくは12%以下であり、さらに好ましくは11%以下であり、より一層好ましくは9%以下であり、特に好ましくは8%以下である。汚染性をさらに低減させる観点からは、粘着剤層に含まれるアクリル系ポリマーの分子量10×104以下の重量分率は、7%以下でもよく、6%以下でもよく、5%以下でもよい。粘着剤層に含まれるアクリル系ポリマーの分子量10×104以下の重量分率の下限値は特に限定されないが、重合率を高めて歩留まりを改善する観点から、通常は3%以上が適切であり、好ましくは4%以上であり、5%以上であってもよい。
【0070】
なお、アクリル系ポリマーの分子量10×104以下の重量分率は、上述するアクリル系ポリマーのGPCの測定条件で測定されたGPC測定結果より、分子量10×104以下を分画して算出することにより求められる。後述の実施例においても同様である。
【0071】
アクリル系ポリマーを得る方法は特に限定されず、溶液重合法、エマルション重合法、バルク重合法、懸濁重合法、光重合法等の、アクリル系ポリマーの合成手法として知られている各種の重合方法を適宜採用することができる。例えば、溶液重合法を好ましく採用し得る。溶液重合法を採用する態様は、透明性や粘着性能等の観点から有利なものとなり得る。溶液重合を行う際のモノマー供給方法としては、全モノマー原料を一度に供給する一括仕込み方式、連続供給(滴下)方式、分割供給(滴下)方式等を適宜採用することができる。溶液重合を行う際の重合温度は、使用するモノマーおよび溶媒の種類、重合開始剤の種類等に応じて適宜選択することができ、例えば20℃~170℃程度(典型的には40℃~140℃程度)とすることができる。いくつかの態様において、重合温度は45℃~75℃程度である。
【0072】
溶液重合に用いる溶媒(重合溶媒)は、従来公知の有機溶媒(トルエン、酢酸エチル等)から適宜選択することができる。重合に用いる開始剤は、重合方法の種類に応じて、従来公知の重合開始剤(例えば2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等のアゾ系重合開始剤や、過酸化物系開始剤等)から適宜選択することができる。重合開始剤の使用量は、特に限定されず、通常は、例えば、モノマー成分100重量部に対して凡そ0.005~1重量部程度(典型的には凡そ0.01~1重量部程度)の範囲から選択することができる。
【0073】
重合開始剤の使用量を低減すると、ラジカル発生量が少なくなることから、ポリマーの成長反応が助長されて反応生成物が高分子量化する傾向にある。ポリマーを高分子量化することにより、相対的に低分子量成分の生成が抑制されて、粘着剤の汚染性が低減することが期待される。かかる観点より、いくつかの態様において、重合開始剤の使用量はモノマー成分100重量部に対して0.3重量部以下(例えば0.2重量部以下)とすることが好ましく、より好ましくは0.15重量部以下、さらに好ましくは0.1重量部以下、より一層好ましくは0.08重量部以下、特に好ましくは0.06重量部以下である。重合開始剤の使用量の下限は、特に限定されないが、モノマー成分100重量部に対して0.005重量部以上であることが適切であり、0.01重量部以上でもよい。
【0074】
また、溶液重合における反応時間については、特に限定されない。溶液重合では相対的に高分子量の成分は重合反応の前期に生成し、相対的に低分子量の成分は重合反応の後期に生成する傾向にある。このため、低分子量成分の生成を抑制して粘着剤の汚染性を低減する観点からは、重合反応時間を短くすることが有利である。かかる観点から、いくつかの態様において、反応時間を7時間未満とすることが好ましい。反応時間を短くすることにより、重合後期に生成しやすい低分子量成分の生成を抑制することができる。いくつかの好ましい態様において、溶液重合における反応時間は6時間以下であり、より好ましくは5.5時間以下(例えば5時間以下)である。なお、ここでの反応時間には、重合反応の後工程であって重合温度よりも高い温度(例えば重合温度よりも5~15℃程度高い温度)で重合生成物を熟成させる工程における熟成時間は含まないものとする。重合率の過度な低下により歩留まりが過度に低下することを防ぐ観点から、通常、反応時間は1時間以上とすることが適切であり、好ましくは1.5時間以上であり、より好ましくは2時間以上(例えば2.5時間以上)である。
【0075】
溶液重合における反応溶液中のモノマー成分の固形分濃度(以下「重合濃度」ともいう。)は、特に限定されない。重合濃度を高くすることにより、モノマー同士の遭遇確率が上がり、反応生成物は高分子量化する傾向にある。低分子量成分の生成を抑制して粘着剤の汚染性を低減する観点から、いくつかの好ましい態様において、重合濃度は20重量%以上であり、25重量%以上であってもよく、30重量%以上でもよく、33重量%以上でもよい。重合濃度は、通常、45重量%以下程度とすることが適切であり、40重量%以下でもよい。
【0076】
(架橋剤)
ここに開示される粘着剤組成物は架橋剤を含む。架橋剤は、粘着剤の凝集力を高めるために役立ち得る。架橋剤は、粘着剤の分野において公知の各種架橋剤から選択することができる。かかる架橋剤の例としては、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、メラミン系架橋剤、過酸化物系架橋剤、尿素系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、アミン系架橋剤等が挙げられる。架橋剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。架橋剤は、バイオマス由来であってもよく、非バイオマス由来であってもよい。化石資源系材料への依存抑制に配慮したアクリル系粘着剤作製の観点から、バイオマス由来の架橋剤が好ましく使用される。ここに開示される技術は、粘着剤組成物に含まれるアクリル系ポリマーおよび架橋剤がともにバイオマス由来である態様で好ましく実施され得る。
【0077】
架橋剤の使用量は特に限定されない。架橋剤の使用量は、アクリル系ポリマー100重量部に対して、例えば0.1~20重量部の範囲から選択し得る。凝集力の向上と被着体への密着性とをバランスよく両立する観点から、アクリル系ポリマー100重量部に対する架橋剤の使用量は、通常、15重量部以下とすることが好ましく、10重量部以下でもよく、8重量部以下でもよく、7重量部以下でもよく、また、0.5重量部以上とすることが適当であり、1重量部以上でもよい。架橋剤の使用量を適当な範囲とすることにより、粘着剤の凝集力を高め、被着体への糊残り発生を防止することができ、また、被着体に対する密着性を得ることができる。
【0078】
いくつかの態様において、架橋剤は、少なくともエポキシ系架橋剤を含むことが好ましい。エポキシ系架橋剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。エポキシ系架橋剤は、バイオマス由来であってもよく、非バイオマス由来であってもよい。化石資源系材料への依存抑制に配慮したアクリル系粘着剤作製の観点から、バイオマス由来のエポキシ系架橋剤が好ましく使用される。また、エポキシ系架橋剤は、他の架橋剤、例えばイソシアネート系架橋剤と組み合わせて用いてもよい。
【0079】
エポキシ系架橋剤としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物を特に制限なく用いることができる。1分子中に3~5個のエポキシ基を有するエポキシ系架橋剤が好ましい。エポキシ系架橋剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。エポキシ系架橋剤の具体例として、例えばN,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。エポキシ系架橋剤の市販品としては、三菱ガス化学社製の商品名「TETRAD-C」および商品名「TETRAD-X」、DIC社製の商品名「エピクロンCR-5L」、ナガセケムテックス社製の商品名「デナコールEX-512」、日産化学工業社製の商品名「TEPIC-G」等が挙げられる。
【0080】
エポキシ系架橋剤の使用量は、アクリル系ポリマー100重量部に対して、例えば凡そ0.1重量部以上であってよく、0.5重量部以上でもよく、1.0重量部以上でもよく、1.5重量部超でもよい。より高い使用効果を得る観点から、アクリル系ポリマー100重量部に対するエポキシ系架橋剤の使用量は、例えば2.0重量部超であってよく、2.5重量部以上でもよく、3.0重量部以上でもよく、3.5重量部以上でもよい。また、アクリル系ポリマー100重量部に対するエポキシ系架橋剤の使用量は、通常、20重量部以下とすることが適当であり、10重量部以下でもよく、8重量部以下でもよく、6重量部以下でもよく、5重量部以下(例えば5重量部未満)でもよい。エポキシ系架橋剤の使用量を適当な範囲とすることにより、粘着剤の凝集力を高め、再剥離可能な良好な接着力に調節しやすく、被着体への汚染の発生を防止することができ、また、被着体に対する密着性を得ることができる。また、エポキシ系架橋剤の使用量を制限することにより、透明な粘着剤を形成しやすい。
【0081】
いくつかの態様において、汚染性低減の観点から、エポキシ系架橋剤の使用量は、アクリル系ポリマー100重量部に対して、4重量部超であってもよく、4.5重量部以上でもよく、5重量部超でもよく、5.5重量部以上でもよい。
【0082】
カルボキシ基含有モノマー(例えば(メタ)アクリル酸)とエポキシ系架橋剤を用いる場合において、カルボキシ基含有モノマーの使用量(2種以上のカルボキシ基含有モノマーを用いる場合はその合計量)WAに対するエポキシ系架橋剤の使用量WBの比(WB/WA)(重量基準)は、特に限定されないが、粘着剤の凝集力を高める観点から、0.7以上であることが好ましく、より好ましくは0.8以上であり、さらに好ましくは0.9以上(例えば1.0以上)であり、特に好ましくは1.1以上である。また、上記比(WB/WA)は、通常3.0以下であり、2.0以下でもよく、1.8以下でもよく、1.6以下でもよく、1.4以下でもよく、1.3以下でもよい。
【0083】
イソシアネート系架橋剤としては、1分子当たり2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート系架橋剤が好ましく用いられる。ポリイソシアネート系架橋剤1分子当たりのイソシアネート基の数は、好ましくは2~10個であり、例えば2~4個であり、典型的には2または3個である。上記ポリイソシアネート系架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート等の脂環族イソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート;が例示される。より具体的には、例えば、ブチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の低級脂肪族ポリイソシアネート類;シクロペンチレンジイソシアネート、シクロへキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族ポリイソシアネート類;2,4-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート類;トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物(東ソー製、商品名「コロネートL」)、トリメチロールプロパン/ヘキサメチレンジイソシアネート3量体付加物(東ソー製、商品名「コロネートHL」)、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(東ソー製、商品名「コロネートHX」)、ペンタメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(三井化学社製、商品名「スタビオD-370N」)等のイソシアネート付加物;ポリエーテルポリイソシアネート、ポリエステルポリイソシアネート等のポリイソシアネート;これらポリイソシアネートとポリオールとの付加物;および、これらポリイソシアネートを、イソシアヌレート結合、ビューレット結合、アロファネート結合等により多官能化したポリイソシアネート;等が挙げられる。例えば、粘着剤に透明性が求められる用途では、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート類や、かかる脂肪族ジイソシアネートのイソシアヌレート体等の使用が好ましい。
【0084】
ここに開示される粘着剤組成物は、触媒を含んでもよい。触媒を使用することにより、粘着剤組成物の硬化反応(典型的には、上述の架橋剤の架橋反応)を効率よく進行させることができ、粘着シート作製後の早い段階から安定した接着を実現しやすい。触媒は架橋触媒ともいう。触媒としては、スズ(Sn)含有化合物(スズ系触媒)、ジルコニウム(Zr)含有化合物(ジルコニウム系触媒)、チタン(Ti)含有化合物(チタン系触媒)、鉄(Fe)含有化合物(鉄系触媒)、アルミニウム(Al)含有化合物(アルミニウム系触媒)、亜鉛(Zn)含有化合物(亜鉛系触媒)、ビスマス(Bi)含有化合物(ビスマス系触媒)等が挙げられる。これらは、典型的には、活性中心に金属を有する有機化合物であり、有機金属触媒ともいう。触媒は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。ここに開示される技術は、触媒を含まない態様であっても、好適に実施され得る。
【0085】
上記粘着剤組成物には、従来公知の各種添加剤を必要に応じて配合することができる。かかる添加剤の例としては、表面潤滑剤、レベリング剤、粘着付与樹脂、可塑剤、軟化剤、充填剤、着色剤(顔料、染料等)、帯電防止剤、酸化防止剤、防腐剤、光安定剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、シランカップリング剤等が挙げられる。これら任意成分としての添加剤の含有量は、使用目的に応じて適切に設定され得る。上記任意添加剤の使用量は、アクリル系ポリマー100重量部に対して、例えば10重量部未満であり、凡そ3重量部以下(例えば凡そ1重量部以下)とすることが適当である。
【0086】
(粘着剤層の形成方法)
粘着剤層の形成に用いられる粘着剤組成物の形態は特に限定されず、水系粘着剤組成物、溶剤型粘着剤組成物等が好ましい。ここで、水系粘着剤組成物とは、水を主成分とする溶媒(水系溶媒)中に粘着剤(粘着剤層形成成分)を含む形態の粘着剤組成物のことをいい、粘着剤が水に分散した形態の水分散型粘着剤組成物や、粘着剤が水に溶解した形態の水溶性粘着剤組成物を包含する概念である。また、溶剤型粘着剤組成物とは、有機溶媒中に粘着剤を含む形態の粘着剤組成物のことをいう。溶剤型粘着剤組成物に含まれる有機溶媒としては、上述の溶液重合で用いられ得る有機溶媒(トルエンや酢酸エチル等)の1種または2種以上を特に制限なく用いることができる。ここに開示される技術は、粘着特性等の観点から、溶剤型粘着剤組成物から形成された粘着剤層を備える態様で好ましく実施され得る。溶剤型粘着剤組成物から形成された溶剤型粘着剤層を備える態様において、ここに開示される技術による効果は好ましく実現される。
【0087】
粘着剤組成物からの粘着剤(層)の形成は、従来公知の方法によって行うことができる。例えば、基材レスの両面粘着シートの場合は、剥離性を有する表面(剥離面)に粘着剤組成物を付与した後、該粘着剤組成物を硬化させることにより該表面上に粘着剤層(粘着剤からなる層)を形成することで粘着シートが形成され得る。また、基材付きの粘着シートの場合は、該基材に粘着剤組成物を直接付与(典型的には塗布)して硬化させることにより粘着剤層を形成する方法(直接法)を好ましく採用することができる。また、剥離性を有する表面(剥離面)に粘着剤組成物を付与して硬化させることにより該表面上に粘着剤層を形成し、その粘着剤層を基材に転写する方法(転写法)を採用してもよい。上記剥離面としては、はく離シートの表面や、剥離処理された基材背面等を利用し得る。また、上記粘着剤組成物の硬化は、該粘着剤組成物に乾燥、架橋、重合、冷却等の硬化処理を施すことにより行うことができる。2種以上の硬化処理を同時にまたは段階的に行ってもよい。
【0088】
粘着剤組成物の塗布は、例えば、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、ダイコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等の、公知ないし慣用のコーターを用いて行うことができる。あるいは、含浸やカーテンコート法等により粘着剤組成物を塗布してもよい。
架橋反応の促進、製造効率向上等の観点から、粘着剤組成物の乾燥は加熱下で行うことが好ましい。乾燥温度は、例えば40~150℃程度とすることができ、通常は60~130℃程度とすることが好ましい。粘着剤組成物を乾燥させた後、さらに、粘着剤層内における成分移行の調整、架橋反応の進行、基材や粘着剤層内に存在し得る歪の緩和等を目的としてエージングを行ってもよい。
【0089】
(厚さ)
特に限定するものではないが、粘着剤層の厚さは、例えば凡そ1μm以上が適当であり、凡そ2μm以上(例えば凡そ3μm以上)が好ましく、4μm以上でもよい。また、上記厚さは、例えば凡そ100μm以下とすることができ、凡そ50μm以下(例えば凡そ30μm以下)が適当であり、好ましくは凡そ25μm以下であり、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは15μm以下であり、10μm以下でもよく、8μm以下でもよい。上記厚さを有する粘着剤層は、表面保護フィルム用途の粘着剤層として好適である。
【0090】
(ゲル分率)
特に限定するものではないが、粘着剤層のゲル分率は70%以上であることが好ましい。ゲル分率が70%以上である粘着剤は、例えば製造時において、外力による打痕等の変形や損傷が生じにくく、外観の変化が生じにくい。そのような粘着剤は、平滑な表面を有する粘着シートとなりやすく、例えば透明粘着シートに形成して粘着シート越しの被着体検査をする場合に、高精度の検査が可能となり好ましい。また、ゲル分率を高く設定することにより、再剥離性に優れた粘着剤を形成しやすい。そのような観点から、上記ゲル分率は、より好ましくは80%超であり、85%超(例えば90%以上)であってもよく、92%以上でもよく、94%以上(例えば95%以上)でもよい。上記ゲル分率は100%であってもよいが、被着体に対する密着性の観点から、例えば99%未満であってもよく、95%未満(例えば94%以下)でもよい。
【0091】
粘着剤層のゲル分率は、下記の方法で測定される。粘着剤層からW1g分を取り出し、多孔質PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)シートに包んでサンプルとする。サンプルをガラス瓶に入れ、酢酸エチル溶液に浸して7日間静置した後、サンプルを取り出して130℃で2時間乾燥させる。乾燥後のサンプルを秤量して、そこから多孔質PTFEシートの重量を引き、粘着剤の乾燥後の重さW2gを求める。W1およびW2を次式に代入し、ゲル分率[%]を算出する。
ゲル分率[%]=(W2/W1)×100
多孔質PTFEシートとしては、日東電工社製の商品名「TEMISH」またはその相当品を使用することができる。後述する実施例においても同様である。
【0092】
(バイオマス炭素比)
いくつかの態様において、粘着剤層はバイオマス由来材料を含み、そのバイオマス炭素比が所定値以上であり得る。粘着剤層のバイオマス炭素比は、例えば1%以上であり、10%以上であってもよく、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上である。粘着剤のバイオマス炭素比が高いことは、石油等に代表される化石資源系材料の使用量が少ないことを意味する。かかる観点において、粘着剤のバイオマス炭素比は高いほど好ましい。例えば、粘着剤層のバイオマス炭素比は、55%以上であってよく、60%以上であってもよく、70%以上でもよく、75%以上でもよく、80%以上でもよく、80%超でもよい。バイオマス炭素比の上限は、定義上100%であり、99%以下であってもよく、材料の入手容易性の観点から、95%以下でもよく、90%以下でもよい。良好な粘着性能を発揮しやすくする観点から、いくつかの態様において、粘着剤層のバイオマス炭素比は、例えば90%以下であってよく、85%以下でもよく、80%以下でもよい。
【0093】
(基材)
ここに開示される粘着シートの支持体として用いられる支持基材の材料としては、特に限定されず、例えば樹脂フィルムを好ましく採用することができる。上記樹脂フィルムは、各種の樹脂材料をフィルム形状に成形したものであり得る。上記樹脂材料としては、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮蔽性、等方性等のうち、1または2以上の特性に優れた樹脂フィルムを構成し得るものが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル類;ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース類;ポリカーボネート類;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー類;等を主成分(すなわち、50重量%よりも多く含まれる成分)とする樹脂材料から構成された樹脂フィルムを、上記基材として好ましく用いることができる。上記樹脂フィルムを構成する樹脂材料の他の例としては、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体等のスチレン系ポリマー類;ポリオレフィン類、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ないしノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン-プロピレン共重合体等;ポリ塩化ビニル類;ナイロン6、ナイロン6,6、芳香族ポリアミド等のポリアミド類;等を主成分とするものが挙げられる。あるいは、ポリイミド類、ポリスルホン類、ポリエーテルスルホン類、ポリエーテルエーテルケトン類、ポリフェニレンスルフィド類、フッ素系樹脂、ポリビニルアルコール類、ポリ酢酸ビニル類、ポリ塩化ビニリデン類、ポリビニルブチラール類、ポリアリレート類、ポリオキシメチレン類、エポキシ樹脂類、等を主成分とする樹脂材料から構成された樹脂フィルムを基材に用いてもよい。上記樹脂フィルムを構成する樹脂材料は、これらの2種以上のブレンド物であり得る。
【0094】
なお、本明細書において「樹脂フィルム」とは、非多孔質の構造であって、典型的には実質的に気泡を含まない(ボイドレスの)樹脂フィルムを意味する。したがって、上記樹脂フィルムは、発泡体フィルムや不織布、織布とは区別される概念である。
【0095】
基材の他の例としては、ポリウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム、ポリクロロプレンフォーム等の発泡体からなる発泡体シートや、各種の繊維状物質(麻、綿等の天然繊維、ポリエステル、ビニロン等の合成繊維、アセテート等の半合成繊維等であり得る。)の単独または混紡等による織布および不織布;和紙、上質紙、クラフト紙、クレープ紙等の紙類、アルミニウム箔、銅箔等の金属箔、ガラス等が挙げられる。これらを複合した構成の基材であってもよい。このような複合構造の基材の例として、例えば、金属箔と上記プラスチックフィルムとが積層した構造の基材、ガラスクロス等の無機繊維で強化されたプラスチックシート等が挙げられる。
【0096】
基材は、バイオマス由来の材料から形成されたものであってもよく、非バイオマス由来の材料から形成されたものであってもよい。化石資源系材料への依存抑制に配慮した粘着シート作製の観点から、バイオマス由来の基材材料(典型的には樹脂フィルム)が好ましく使用される。
【0097】
また、基材は、リサイクル可能な材料やリサイクルされた材料(リサイクル材料ともいう。)を用いて形成されたものであってもよい。かかるリサイクル材料としては、樹脂フィルムが好ましく用いられる。樹脂フィルム(例えばPETフィルム等のポリエステルフィルム)はリサイクルが可能であるので、植物由来の材料を用いているか否かにかかわらず、使用後の樹脂フィルムを再利用することで、持続的な再生産が可能であり、環境負荷を低減することができる。このような、リサイクル可能な樹脂フィルムや、リサイクルされた樹脂フィルムは、リサイクルフィルムともいう。上記リサイクル材料(例えばリサイクルフィルム)は、バイオマス由来の材料から形成されたものであってもよく、非バイオマス由来の材料から形成されたものであってもよい。
【0098】
いくつかの好ましい態様では、上記基材として、ポリエステルを主成分(50重量%よりも多く含まれる成分)とする樹脂(ポリエステル樹脂)がフィルム状に成形された樹脂フィルム(ポリエステル樹脂フィルム)を用いる。例えば、上記ポリエステルが主としてPETである樹脂フィルム(PETフィルム)、主としてPENである樹脂フィルム(PENフィルム)等を好ましく採用し得る。
【0099】
基材は単層構造であってもよく、多層構造を有するものであってもよい。したがって、基材として用いられ得る樹脂フィルムも、単層構造であってもよく、2層以上の多層構造(例えば3層構造)であってもよい。単層構造の樹脂フィルムを基材として好ましく使用し得る。
【0100】
上記基材(典型的には樹脂フィルム)には、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止成分、可塑剤、着色剤(顔料、染料等)等の各種添加剤が配合されていてもよい。
【0101】
基材の粘着剤層側表面には、例えば、クロム酸処理、オゾン曝露、火炎曝露、高圧電撃曝露、イオン化放射線処理等の表面処理が施されていてもよい。このような表面処理は、例えば、基材と粘着剤層との密着性を高めるための処理であり得る。いくつかの態様では、基材の粘着剤層側表面には、プライマー処理が施されていてもよい。シリコーン系粘着剤との密着力の観点から、シリコーンプライマー処理が好ましい。いくつかの態様では、基材の背面はハードコート処理が施されたものであり得る。これにより、基材背面の耐スクラッチ性が向上し、粘着シートを保護シートとして用いる場合に、より優れた保護性能を発揮し得る。また、他のいくつかの態様では、基材は、静電気の発生を抑制する観点から、帯電防止処理が施されたものであり得る。基材はまた、防汚、指紋付着防止、防眩、反射防止等の各種処理が施されたものであり得る。
【0102】
基材の厚さは、粘着シートの用途、目的、使用形態等を考慮して適宜選択することができる。強度や取扱性等の作業性から、厚さ凡そ10μm以上の基材が適当であり、その厚さは、好ましくは凡そ20μm以上、より好ましくは凡そ30μm以上(例えば35μm以上)である。また、基材の厚さは、コスト等の観点から、凡そ200μm以下が適当であり、好ましくは凡そ150μm以下、より好ましくは凡そ100μm以下、さらに好ましくは凡そ75μm以下(例えば50μm以下)である。上記の厚さを有する基材は、例えば保護フィルムの基材として好適である。
【0103】
(粘着シート特性)
粘着シートの粘着力は、使用目的や適用箇所に応じて適切に設定され得るので、特定の範囲に限定されない。いくつかの態様において、粘着シートは、23℃、50%RHの環境下、剥離角度180°、引張速度0.3m/分の条件で測定される光学部材(例えば偏光板)に対する粘着力が2.0N/25mm以下であることが好ましい。この特性を満足する粘着シートは、被着体である保護対象物から剥離する際の剥離力(粘着力)が低く抑制されているので、剥離がしやすい。剥離作業性の観点から、上記粘着力は、より好ましくは1.0N/25mm以下であり、さらに好ましくは0.5N/25mm以下、特に好ましくは0.1N/25mm以下(例えば0.1N/25mm未満)である。被着体との密着性や被着体保護等の観点から、上記粘着力は、0.01N/25mm以上が適当であり、0.03N/25mm以上であってもよく、0.05N/25mm以上でもよい。上記粘着力は、具体的には、後述の実施例に記載の方法で測定される。
【0104】
ここに開示される粘着シートは、被着体への汚染性が低減している。粘着シートの汚染性は、粘着シートを被着体に貼付し、所定時間静置したのちに、貼付された粘着シートを被着体から剥離除去する試験において、剥離除去後の被着体表面における付着物の有無や被着体の改質の有無を、各種手法を用いて分析することにより評価することができる。被着体表面を分析する方法としては、例えば、光学的手法を用いることができる。
【0105】
具体的には、被着体への汚染性は、粘着シートを光学部材(例えば偏光板)の表面に貼り合わせ、23℃、50%RHの環境下で24時間静置したのち、貼付していた粘着シートを光学部材から剥離除去する試験において、貼付前の光学部材の反射色度b*initialと、剥離後の光学部材の反射色度b*afterを、それぞれ分光光度計を用いて測定し、反射色度b*initialと反射色度b*afterの差の絶対値である反射色度変化|Δb*|を算出することにより評価することができる。反射色度変化|Δb*|が小さいほど粘着剤の被着体への汚染性は低く、反射色度変化|Δb*|が大きいほど粘着剤の被着体への汚染性が高いことを表す。より具体的には、上記反射色度変化|Δb*|は、後述の実施例に記載の方法で測定される。いくつかの態様において、上記反射色度変化|Δb*|は3.5以下であることが好ましく、より好ましくは3.0以下であり、さらに好ましくは2.0以下であり、特に好ましくは1.0以下である。上記反射色度変化|Δb*|は、原理上0以上である。
【0106】
また、ここに開示される粘着シートは、高速剥離時のジッピングが抑制される。粘着シートのジッピング評価は、例えば、粘着シートを光学部材(例えば偏光板)の表面に貼り合わせ、23℃、50%RHの環境下で、剥離角度180°、引張速度30m/分で引張り試験を行った際の剥離音の有無を試験者が確認することによって行うことができる。具体的には、後述の実施例に記載の方法で評価される。
【0107】
いくつかの態様において、粘着シートは、全光線透過率が凡そ50%以上の透明性を有することが好ましい。上記全光線透過率が80%以上(例えば85%以上)である透明粘着シートがより好ましい。上記全光線透過率の上限は、透明性が求められる用途において、99%以下(例えば95%以下)程度であってもよい。このような透明性を有する粘着シートは、例えば粘着シート越しの被着体検査をする場合に、高精度の検査が可能となり好ましい。かかる粘着シートは光学用表面保護フィルムとして好適である。上記全光線透過率の値としては、JIS K 7361-1に準拠して測定された値を採用することができる。
【0108】
<粘着シートの用途>
ここに開示される粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有する粘着シートは、種々の用途に利用され得る。ここに開示される粘着剤は、汚染性が低く、ジッピングが抑制され、かつ軽剥離性であり、再剥離時の剥離作業性に優れるので、例えば、保護対象物に貼り付けられた後、その保護目的を達成すると、通常、保護対象物から剥離除去(再剥離)される表面保護フィルムとして好適である。上記表面保護フィルムの保護対象は特に限定されず、種々の製品、部品等に対して、表面保護フィルムとして用いられ得る。例えば、表面保護フィルムは、光学部品(例えば、偏光板、波長板等の液晶ディスプレイパネル構成要素として用いられる光学部品)の加工時や搬送時に該光学部品の表面を保護する表面保護フィルムとして特に好適である。より具体的には、表面保護フィルムは、液晶ディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネル(PDP)、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ等の構成要素として用いられる光学部材の製造時、搬送時等に該光学部材を保護する用途に好適である。特に、液晶ディスプレイパネル用の偏光板(偏光フィルム、例えば反射型偏光フィルム)、波長板、位相差板、光学補償フィルム、輝度向上フィルム、光拡散シート、反射シート等の光学部品に適用される表面保護フィルムとして有用である。
【0109】
また、ここに開示される粘着剤組成物は、いくつかの態様において、バイオマス炭素比の高いアクリル系ポリマーを含み得ることから、従来の一般的なアクリル系粘着剤(すなわち、バイオマス炭素比の低いアクリル系粘着剤)が使用されている各種の用途において該アクリル系粘着剤の代替として用いられることで、化石資源系材料の依存抑制に貢献することができる。ここに開示される粘着シートは、典型的には、化石資源系材料への依存度が低減された粘着シート(表面保護フィルム)として好ましく利用され得る。
【0110】
<粘着シート付き光学部材>
ここに開示される技術によると、粘着シート付き光学部材が提供される。ここに開示される粘着シート付き光学部材は、粘着シートおよび光学部材を備える。上記粘着シートとしては、ここに開示されるいずれかの粘着シートを用いることができる。上記粘着シート付き光学部材は、光学部材の少なくとも一方の面に上記粘着シートが積層して構成される積層体である。
【0111】
上記粘着シート付き光学部材における光学部材としては、上述した粘着剤層のせん断力を測定するのに用いられる被着体としての光学部材として説明したものと同じものを用いることができる。光学部材に関して重複する説明は省略する。粘着シート付き光学部材の構成要素としての光学部材の好ましい一例としては、偏光板が挙げられる。上記偏光板は、一般に、偏光フィルムが二枚のトリアセチルセルロース(TAC)フィルムで挟まれた構成を有する。上記二枚のTACフィルムのうち少なくとも粘着シートが貼り付けられる側に配置されたTACフィルムは、その表面(被貼付面)がハードコート層で保護されていることが好ましい。上記ハードコート層は、ウレタンアクリレート系の材料から構成されていることが好ましい。また、上記ハードコート層の上にさらに反射防止層が設けられた構成の偏光板であることが好ましい。ここに開示される粘着シート付き光学部材は、典型的には、偏光板の表面を構成する反射防止層に粘着シートが貼付された構成を有する。偏光板の表面以外の本体部の構成については、偏光板として機能するための通常の構成であってよく、本発明との関連性が薄いため説明は省略する。
【0112】
一実施形態に係る粘着シート付き光学部材の構造を
図2に模式的に示す。
図2に示される態様において、光学部材は偏光板210である。この粘着シート付き光学部材200は、第一面210Aおよび第二面210Bを有するシート状の偏光板210と、その第一面210A側に配置された粘着シート220とを備える。ここで偏光板210は偏光子を含む偏光板本体部214と、偏光板本体部214の少なくとも一方の面に配置された反射防止層212とを備えており、偏光板210の第一面210Aを構成する表面は反射防止層212で構成されている。また粘着シート220は、第一面226Aおよび第二面226Bを有するシート状の支持基材(例えば樹脂フィルム)226と、その第一面226A側に設けられた粘着剤層224とを備える基材付き片面粘着シートとして構成されている。粘着剤層224は、支持基材226の第一面226A側に固定的に、すなわち当該支持基材226から粘着剤層224を分離する意図なく、設けられている。そして片面接着性の粘着シート220は、その粘着剤層224を介して偏光板210の第一面210Aに積層されている。
【0113】
この明細書により開示される事項には以下のものが含まれる。
〔1〕 粘着剤層を有する粘着シートであって、
前記粘着剤層は、アクリル系ポリマーを含有し、
前記アクリル系ポリマーは、炭素原子数6~17のアルキル基をエステル末端に有するアルキル(メタ)アクリレート(m1)を含むモノマー成分の重合物であり、ここで前記炭素原子数6~17のアルキル基は、直鎖アルキル基であるか、あるいは分岐の炭素原子数が1である分岐アルキル基であり、
前記粘着剤層の粘着面積1cm2を光学部材に貼り合わせ、23℃、50%RHの環境下で、せん断方向に引張速度0.06mm/分の条件で引っ張った際のせん断力が17N/cm2以上である、粘着シート。
〔2〕 前記アルキル(メタ)アクリレート(m1)は、n-ヘプチルアクリレートおよびn-オクチルアクリレートから選択される少なくとも1種を含む、上記〔1〕に記載の粘着シート。
〔3〕 前記モノマー成分は、さらに(メタ)アクリル酸を含む、上記〔1〕または〔2〕に記載の粘着シート。
〔4〕 前記アクリル系ポリマーは、前記モノマー成分の組成に基づいて計算されるガラス転移温度が-55℃以下である、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の粘着シート。
〔5〕 前記粘着剤層はエポキシ系架橋剤を含む、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の粘着シート。
〔6〕 前記粘着剤層のゲル分率は70%以上である、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の粘着シート。
〔7〕 光学部材の表面保護に用いられる、上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の粘着シート(または、光学用表面保護フィルム)。
〔8〕 光学部材の少なくとも一つの表面に、上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の粘着シートが貼付されて構成された、粘着シート付き光学部材(または、表面保護フィルム付き光学部材)。
【実施例0114】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明における「%」および「部」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0115】
<アクリル系ポリマーの調製>
(調製例A1)
還流器、撹拌機、窒素ガス導入管および温度計を備えたフラスコに、モノマー成分としてのn-ヘプチルアクリレート(HpA)95部およびアクリル酸(AA)5部と、酢酸エチル(重合溶媒)を固形分濃度(重合濃度)35%になるように仕込み、さらに重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2部を投入し、緩やかに攪拌しながら窒素ガス導入し、フラスコ内の液温を63℃付近に保って7時間重合反応を行い、アクリル系ポリマー(A1)の溶液を得た。得られたアクリル系ポリマー(A1)の重量平均分子量(Mw)は92万であった。アクリル系ポリマー(A1)のFox式より導かれるTgは-65.2℃であった。なお、上記HpAは、バイオマス由来のヘプチルアルコールを用いて合成された、バイオマス由来のヘプチル基をエステル末端に有する化合物である。
【0116】
(調製例A2)
還流器、撹拌機、窒素ガス導入管および温度計を備えたフラスコに、モノマー成分としてのn-ヘプチルアクリレート(HpA)95部およびアクリル酸(AA)5部と、酢酸エチル(重合溶媒)を固形分濃度30%になるように仕込み、さらに重合開始剤としてAIBN0.05部を投入し、緩やかに攪拌しながら窒素ガス導入し、フラスコ内の液温を63℃付近に保って3時間重合反応を行い、アクリル系ポリマー(A2)の溶液を得た。得られたアクリル系ポリマー(A2)のMwは81万であった。アクリル系ポリマー(A2)のFox式より導かれるTgは-65.2℃であった。なお、上記HpAは、バイオマス由来のヘプチルアルコールを用いて合成された、バイオマス由来のヘプチル基をエステル末端に有する化合物である。
【0117】
(調製例A3)
還流器、撹拌機、窒素ガス導入管および温度計を備えたフラスコに、モノマー成分としてのn-ヘプチルアクリレート(HpA)95部およびアクリル酸(AA)5部と、酢酸エチル(重合溶媒)を固形分濃度30%になるように仕込み、さらに重合開始剤としてAIBN0.05部を投入し、緩やかに攪拌しながら窒素ガス導入し、フラスコ内の液温を63℃付近に保って5時間重合反応を行い、アクリル系ポリマー(A3)の溶液を得た。得られたアクリル系ポリマー(A3)のMwは92万であった。アクリル系ポリマー(A3)のFox式より導かれるTgは-65.2℃であった。なお、上記HpAは、バイオマス由来のヘプチルアルコールを用いて合成された、バイオマス由来のヘプチル基をエステル末端に有する化合物である。
【0118】
(調製例A4)
還流器、撹拌機、窒素ガス導入管および温度計を備えたフラスコに、モノマー成分としてのn-ヘプチルアクリレート(HpA)95部およびアクリル酸(AA)5部と、酢酸エチル(重合溶媒)を固形分濃度30%になるように仕込み、さらに重合開始剤としてAIBN0.05部を投入し、緩やかに攪拌しながら窒素ガス導入し、フラスコ内の液温を63℃付近に保って7時間重合反応を行い、アクリル系ポリマー(A4)の溶液を得た。得られたアクリル系ポリマー(A4)のMwは84万であった。アクリル系ポリマー(A3)のFox式より導かれるTgは-65.2℃であった。なお、上記HpAは、バイオマス由来のヘプチルアルコールを用いて合成された、バイオマス由来のヘプチル基をエステル末端に有する化合物である。
【0119】
(調製例A5)
還流器、撹拌機、窒素ガス導入管および温度計を備えたフラスコに、モノマー成分としてのn-ブチルアクリレート(BA)95部およびアクリル酸(AA)5部と、酢酸エチル(重合溶媒)を固形分濃度30%になるように仕込み、さらに重合開始剤としてAIBN0.2部を投入し、緩やかに攪拌しながら窒素ガス導入し、フラスコ内の液温を63℃付近に保って7時間重合反応を行い、アクリル系ポリマー(A5)の溶液を得た。得られたアクリル系ポリマー(A5)の重量平均分子量(Mw)は63万であった。アクリル系ポリマー(A5)のFox式より導かれるTgは-49.3℃であった。
【0120】
(調製例A6)
還流器、撹拌機、窒素ガス導入管および温度計を備えたフラスコに、モノマー成分としての2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)95部およびアクリル酸(AA)5部と、酢酸エチル(重合溶媒)を固形分濃度40%になるように仕込み、さらに重合開始剤としてAIBN0.2部を投入し、緩やかに攪拌しながら窒素ガス導入し、フラスコ内の液温を60℃付近に保って4時間重合反応を行い、その後70℃で4時間熟成し、アクリル系ポリマー(A6)の溶液を得た。得られたアクリル系ポリマー(A6)のMwは63万であった。アクリル系ポリマー(A6)のFox式より導かれるTgは-66.2℃であった。
【0121】
(調製例A7)
還流器、撹拌機、窒素ガス導入管および温度計を備えたフラスコに、モノマー成分としてのn-ヘプチルアクリレート(HpA)95部およびアクリル酸(AA)5部と、酢酸エチル(重合溶媒)を固形分濃度30%になるように仕込み、さらに重合開始剤としてAIBN0.2部を投入し、緩やかに攪拌しながら窒素ガス導入し、フラスコ内の液温を63℃付近に保って7時間重合反応を行い、アクリル系ポリマー(A7)の溶液を得た。得られたアクリル系ポリマー(A7)のMwは66万であった。アクリル系ポリマー(A7)のFox式より導かれるTgは-65.2℃であった。なお、上記HpAは、バイオマス由来のヘプチルアルコールを用いて合成された、バイオマス由来のヘプチル基をエステル末端に有する化合物である。
【0122】
上記調製例A1~A7で得られたアクリル系ポリマー(A1)~(A7)について、それぞれ、分子量10万以下の重量分率[%]をGPC測定により算出し、得られた結果を表1の該当欄に記載した。
【0123】
<実施例1>
(粘着剤組成物の調製)
調製例A1で得たアクリル系ポリマー(A1)の溶液を、酢酸エチルで固形分濃度22%になるまで希釈し、この溶液に、当該溶液の固形分100部に対しエポキシ系架橋剤(B1)(三菱ガス化学株式会社製、商品名「テトラッドC」)6部(固形分)を加えて撹伴を行い、本例に係るアクリル系粘着剤組成物を得た。
【0124】
(粘着シートの作製)
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ38μm)上に、上記配合直後のアクリル粘着剤組成物を塗布し、130℃で1分間乾燥することより溶剤を除去して粘着剤層(厚さ5μm)を形成した。その後、粘着剤層表面をはく離フィルムで覆い、50℃の温度環境下で3日間エージングさせて、本例に係る粘着シートを得た。
【0125】
<実施例2>
使用するアクリル系ポリマーを、調製例A2で得たアクリル系ポリマー(A2)に変更した以外は実施例1と同様の方法で粘着剤組成物を調製し、この粘着剤組成物を用いて、実施例1と同様の方法で本例に係る粘着シートを得た。
【0126】
<実施例3>
使用するアクリル系ポリマーを、調製例A3で得たアクリル系ポリマー(A3)に変更した以外は実施例1と同様の方法で粘着剤組成物を調製し、この粘着剤組成物を用いて、実施例1と同様の方法で本例に係る粘着シートを得た。
【0127】
<実施例4>
使用するアクリル系ポリマーを、調製例A4で得たアクリル系ポリマー(A4)に変更した以外は実施例1と同様の方法で粘着剤組成物を調製し、この粘着剤組成物を用いて、実施例1と同様の方法で本例に係る粘着シートを得た。
【0128】
<比較例1>
使用するアクリル系ポリマーを、調製例A5で得たアクリル系ポリマー(A5)に変更した以外は実施例1と同様の方法で粘着剤組成物を調製し、この粘着剤組成物を用いて、実施例1と同様の方法で本例に係る粘着シートを得た。
【0129】
<比較例2>
使用するアクリル系ポリマーを、調製例A6で得たアクリル系ポリマー(A6)に変更した以外は実施例1と同様の方法で粘着剤組成物を調製し、この粘着剤組成物を用いて、実施例1と同様の方法で本例に係る粘着シートを得た。
【0130】
<比較例3>
使用するアクリル系ポリマーを、調製例A7で得たアクリル系ポリマー(A7)に変更した以外は実施例1と同様の方法で粘着剤組成物を調製し、この粘着剤組成物を用いて、実施例1と同様の方法で本例に係る粘着シートを得た。
【0131】
<評価>
(粘着剤層のゲル分率)
各例の粘着シートの粘着剤層のゲル分率を上述する方法で測定し、得られたゲル分率は表1の該当欄に記載した。
【0132】
(せん断力測定)
図3に示すように、各例の粘着シートを幅10mm、長さ50mmのサイズにカットし、はく離フィルムを剥離して、せん断力測定用サンプル(粘着シート)340とした。また、反射防止フィルム350を後述する方法で用意した。反射防止フィルム350は縦70mm、横100mmのサイズにカットして用いた。せん断力測定用サンプル340の一方の端部における10mm×10mmの箇所Aを、反射防止フィルム350の反射防止層側表面における上端中央部に、せん断力測定用サンプル340が反射防止フィルム350から突出するような向きに貼付した。次に、せん断力測定用サンプル340の他方の端部であって10mm×10mmの箇所Bをチャック342で挟み、反射防止フィルム340の下端部中央部をチャック344で挟んだ。23℃、50%RHの環境下において、初期チャック間距離60mm、引張速度が0.06mm/分の条件で、万能引張圧縮試験機(島津製作所社製、製品名「AUTOGRAPH AG-X plus」)を用いて、せん断力測定用サンプル340の長さ方向(すなわち、せん断方向)に引っ張った。このとき、引張距離が2.0mmとなるまでに測定された最大応力をせん断力(単位:N/cm
2)として求めた。得られたせん断力は、表1の該当欄に記載した。
【0133】
(粘着力測定)
各例の粘着シートを幅25mm、長さ100mmのサイズにカットし、はく離フィルムを剥離して粘着面を露出した粘着シートを、幅70mm、長さ100mmのサイズにカットした反射防止フィルムの反射防止層側表面に、圧力0.25MPa、送り速度0.3m/分でロール圧着し、粘着力測定用サンプルとした。粘着力測定用サンプルを、23℃、50%RHの環境下に30分間静置した後、同環境下で、高速剥離試験機(協和界面科学株式会社製、製品名「VPA-H200」)を用いて、剥離角度180°、引張速度300mm/分で引張り試験を行い、粘着力(単位:N/25mm)を測定した。得られた粘着力は、表1の該当欄に記載した。
【0134】
(反射色度変化|Δb*|)
反射防止フィルムの背面(すなわち、反射防止層側とは反対の面)に、黒色アクリル板(三菱ケミカル株式会社製、厚み2.0mm)を、厚み約20μmの透明なアクリル系粘着剤を介して貼り合わせた。この黒色アクリル板付き反射防止フィルムの反射防止層側の表面の反射色度b*initialを、分光光度計((株)日立製作所製、製品名「U-4100」)を用いて測定した。次に、各例の粘着シートからはく離フィルムを剥離して粘着面を露出した後、該粘着シートの粘着面を上記黒色アクリル板付き反射防止フィルムの反射防止層側表面に貼り合わせ、23℃、50%RHの環境下で24時間静置した。その後、反射防止フィルムに貼付された粘着シートを剥離除去し、反射防止フィルムにおける上記粘着シートが貼付されていた箇所の表面の反射色度b*afterを、上記分光光度計を用いて測定した。上記反射防止フィルム表面の、上記粘着シートの貼付前の反射色度b*initialと、剥離後の反射色度b*afterとの差の絶対値を算出し、これを反射色度変化|Δb*|とした。得られた反射色度変化|Δb*|は、表1の該当欄に記載した。
【0135】
(高速剥離時のジッピング評価)
各例の粘着シートを幅25mm、長さ100mmのサイズにカットし、はく離フィルムを剥離して粘着面を露出した粘着シートを、幅70mm、長さ100mmのサイズにカットした反射防止フィルムの反射防止層側表面に、圧力0.25MPa、送り速度0.3m/分でロール圧着し、ジッピング評価用サンプルとした。ジッピング評価用サンプルを23℃、50%RHの環境下に30分間静置した後、同環境下で、高速剥離試験機(協和界面科学株式会社製、製品名「VPA-H200」)を用いて、剥離角度180°、引張速度30m/分で引張り試験を行った際の剥離音を試験者の耳で確認した。剥離音が確認されなかった場合はジッピング評価をG(良好)、剥離音が確認された場合はジッピング評価をP(不良)とした。高速剥離時のジッピング評価の結果は、表1の該当欄に記載した。
【0136】
(被着体としての反射防止フィルム)
本願実施例および比較例に係る粘着シートのせん断力、粘着力、反射色度変化|Δb*|および高速剥離時のジッピング評価に使用する被着体としての反射防止フィルムは、以下の(1)~(4)の手順で作製した。この反射防止フィルムは、偏光板の表面を構成する表面処理層と同様の構成であるため、反射防止フィルムを被着体として測定するせん断力、粘着力、反射色度変化|Δb*|および高速剥離時のジッピング評価の結果は、偏光板、特に表面に反射防止層などの表面処理層を有する偏光板を被着体として測定するせん断力、粘着力、反射色度変化|Δb*|および高速剥離時のジッピング評価の結果と同じとみなすことができる。
【0137】
(1)ハードコート層形成用塗工液の調製
ウレタンアクリレートを主成分とする紫外線硬化型樹脂モノマーまたはオリゴマーが酢酸ブチルに溶解した樹脂溶液(DIC(株)製、商品名「ユニディック17-806」、固形分濃度80%)に、上記樹脂溶液の固形分100部当たり、光重合開始剤(チバ・ジャパン(株)製、製品名「IRGACURE906」)を5部、レベリング剤(DIC(株)製、製品名「GRANDIC PC4100」)を0.01部添加した。その後、上記樹脂溶液の固形分濃度が75%となるように、上記樹脂溶液に酢酸ブチルを加えた。さらに、上記樹脂溶液の固形分濃度が50%となるように、上記樹脂溶液にシクロペンタノン(以下、「CPN」と記す)を加えた。このようにしてハードコート層を形成するためのハードコート層形成用塗工液を調製した。
【0138】
(2)反射防止層形成用塗工液の調製
ペンタエリストールトリアクリレートを主成分とする多官能アクリレート(大阪有機化学工業株式会社製、商品名「ビスコート#300」、固形分100%)100部、中空ナノシリカ粒子(日揮触媒化成工業株式会社製、商品名「スルーリア5320」、固形分20%、重量平均粒子径75nm)100部、フッ素元素含有添加剤(信越化学工業株式会社製、商品名「KY-1203」、固形分20%)12部、および光重合開始剤(BASF社製、商品名「OMNIRAD907」、固形分100%)3部を混合した。その混合物に、希釈溶媒としてTBA(ターシャリーブチルアルコール)、MIBK(メチルイソブチルケトン)およびPMA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)を重量比60:25:15で混合した混合溶媒を添加して全体の固形分が4%となるようにし、攪拌して反射防止層形成用塗工液を調製した。
【0139】
(3)ハードコート層の形成
上記ハードコート層形成用塗工液を、透明なTAC(トリアセチルセルロース)フィルム(富士フィルム(株)製、製品名「TD80UL」、厚み80μm、屈折率1.49)上に、ダイコーターを用いて、硬化後の塗膜(ハードコート層)の厚みが7.5μmとなるように塗工した。上記塗膜を、80℃で2分間乾燥した。その後、上記塗膜に、高圧水銀ランプを用いて積算光量300mJ/cm2の紫外線を照射することにより、樹脂モノマーを重合させた。このようにしてトリアセチルセルロースフィルム上にハードコート層を形成した。
【0140】
(4)反射防止層の形成
上記ハードコート層上に、上記反射防止層形成用塗工液をワイヤーバーで塗工した。上記塗工した塗工液を80℃で1分間加熱し、乾燥させて塗膜(反射防止層)を形成した。乾燥後の上記塗膜に、高圧水銀ランプで積算光量300mJ/cm2の紫外線を照射して硬化処理した。これにより、上記塗膜を硬化させ、厚み0.1μmの反射防止層を形成した。このようにして、TACフィルム/ハードコート層/反射防止層の構成を有する反射防止フィルムを作製した。
【0141】
各例の概要と評価結果を表1に示す。
【0142】
【0143】
表1に示されるように、粘着剤に含まれるアクリル系ポリマーのモノマー成分としてHpA(炭素数7の直鎖アルキル基)を用い、かつ、せん断力が17N/cm2以上である実施例1~4の粘着シートは、粘着剤に含まれるアクリル系ポリマーのモノマー成分として2EHAを用いた比較例2の粘着シートに比べて、反射色度変化|Δb*|が小さく、汚染性が低減されていることがわかる。さらに実施例1~4の粘着シートは、比較例2の粘着シートよりも軽剥離性を示すことも確かめられた。
【0144】
また、粘着剤に含まれるアクリル系ポリマーのモノマー成分としてBAを用いた比較例1は、高速剥離時のジッピング評価でP(不良)であった。ジッピングの発生は、被着体への糊残りの発生の一因にもなり得る。
【0145】
さらに、粘着剤に含まれるアクリル系ポリマーのモノマー成分としてHpA(炭素数7の直鎖アルキル基)を用い、かつ、せん断力が17N/cm2以上である実施例1~4の粘着シートは、粘着剤に含まれるアクリル系ポリマーのモノマー成分としてHpAを用いるが、せん断力が17N/cm2未満である比較例3の粘着シートに比べて、反射色度変化|Δb*|が小さく、被着体への汚染性がより低減していることが確かめられた。
【0146】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。