(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156512
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】車高調整装置
(51)【国際特許分類】
B60G 17/015 20060101AFI20241029BHJP
B60G 17/052 20060101ALI20241029BHJP
B60C 23/10 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
B60G17/015 C
B60G17/052
B60C23/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071035
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(72)【発明者】
【氏名】小澤 正和
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA48
3D301AA53
3D301AB01
3D301AB02
3D301AB13
3D301AB16
3D301CA01
3D301DA14
3D301DB37
3D301DB38
3D301DB41
3D301EA04
3D301EA67
3D301EA68
3D301EB04
3D301EB09
3D301EB34
3D301EB37
3D301EB42
3D301EC01
(57)【要約】
【課題】車輪及びエアばねの圧力を迅速且つ効率的に調整する車高調整装置を得る。
【解決手段】車輪Hに対する第1接続部J1と、車体1を支持するべく車輪Hと車体1との間に設けられたエアばねAに対する第2接続部J2と、第1接続部J1と第2接続部J2との間に接続され空気を流通させる第1流路R1と、第1流路R1を連通・遮断するよう第1流路R1において車輪Hの側から順に直列に設けられた第1電磁弁V1および第2電磁弁V2と、第1電磁弁V1と第2電磁弁V2との間から分岐し、第1電磁弁V1と並列状態に第1流路R1に設けられた第2流路R2と、第2流路R2に設けられ、車輪Hの空気をエアばねAに供給可能なコンプレッサCと、を備えた車高調整装置S。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に対する第1接続部と、
車体を支持するべく前記車輪と前記車体との間に設けられたエアばねに対する第2接続部と、
前記第1接続部と前記第2接続部との間に接続され空気を流通させる第1流路と、
前記第1流路を連通・遮断するよう前記第1流路において前記車輪の側から順に直列に設けられた第1電磁弁および第2電磁弁と、
前記第1電磁弁と前記第2電磁弁との間から分岐し、前記第1電磁弁と並列状態に前記第1流路に設けられた第2流路と、
前記第2流路に設けられ、前記車輪の空気を前記エアばねに供給可能なコンプレッサと、を備えた車高調整装置。
【請求項2】
前記第2流路のうち前記コンプレッサの下流側に流通・遮断機能を有する第3電磁弁を介して高圧タンクが接続され、
前記第2流路のうち前記コンプレッサの上流側に流通・遮断機能を有する第4電磁弁を介して低圧タンクが接続され、
前記第1流路であって、前記第1電磁弁と前記車輪との間の位置、かつ、前記第4電磁弁と前記車輪との間の位置に、前記第1流路を流通・遮断する第5電磁弁が備えられている請求項1に記載の車高調整装置。
【請求項3】
前記第2流路のうち前記コンプレッサの下流側に、排気流路および当該排気流路の流通・遮断機能を有する排気弁が接続され、
前記第2流路のうち前記コンプレッサの上流側に、前記第2流路の流通・遮断機能を有する第6電磁弁が設けられ、
前記コンプレッサと前記第6電磁弁との間に、外気を導入する外気導入流路および当該外気導入流路の流通・遮断機能を有するチェック弁が接続されている請求項1に記載の車高調整装置。
【請求項4】
前記第2流路のうち前記コンプレッサの上流側に、第2流路の流通・遮断機能を有する第6電磁弁が設けられ、
前記第2流路のうち前記コンプレッサと前記第6電磁弁との間から分岐して前記第2電磁弁と前記エアばねとの間に合流する第3流路を備え、当該第3流路に流通・遮断機能を有する第7電磁弁が設けられている請求項1に記載の車高調整装置。
【請求項5】
前記第6電磁弁および前記第7電磁弁の間の位置、且つ、前記コンプレッサの上流側の位置に、外気を導入する外気導入流路および当該外気導入流路の流通・遮断機能を有するチェック弁が設けられ、
前記第1電磁弁および前記第2電磁弁の間の位置、且つ、前記コンプレッサの下流側の位置に、排気流路および当該排気流路の流通・遮断機能を有する排気弁が接続されている請求項4に記載の車高調整装置。
【請求項6】
前記車輪がリアの車輪であり、
前記エアばねがフロントのエアばねである請求項1に記載の車高調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアばねで支持される車両において、車輪の内圧とエアばねの内圧とを変更可能な車高調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような車高調整装置として、例えば特許文献1に示すものがある(〔0006〕,〔0011〕,〔0017〕乃至〔0020〕,〔0035〕乃至〔0043〕,
図1参照)。
【0003】
この車高調整装置は、車輪20に対応してエアばね30が設けられており、車輪20とエアばね30に対する注入空気量を増減させて車輪20の空気圧や車高を調整することができる。
【0004】
具体的には、車輪20には回転中でも空気の導入が可能な回転エアシール32が設けられており、回転エアシール32に連通するエア通路には、各車輪20に対応してタイヤ空気圧制御バルブ42が設けられている。タイヤ空気圧制御バルブ42は、ECU80からの信号に応じて開弁状態と閉弁状態とに切り替えることができる。また、車体12には、エア通路にエアを圧縮供給するコンプレッサ60と、コンプレッサ60からの圧縮エアを蓄える高圧タンク66が設けられている。
【0005】
ECU80は、車輪速センサ36からの信号により車速を知ることができ、車高センサ34の検出値により車高を知ることができる。また、空気圧センサ22からの信号により各車輪20のタイヤ空気圧を知ることができる。ECU80は、ドライバーによるスイッチ操作または所定のアルゴリズムにしたがって、車高の目標値およびタイヤ空気圧の目標値を設定し、車高制御バルブ40、タイヤ空気圧制御バルブ42、高圧タンクバルブ68および排気バルブ70を開閉制御して、車高およびタイヤ空気圧を調整することができる。
【0006】
本装置によれば、例えば高速走行時において、タイヤ圧を高くして安全余裕度を確保し、車高を低くして走行安定性を高めるよう協調制御することができる。車高の下げは、車高制御バルブ40およびタイヤ空気圧制御バルブ42を開き、エアばね30のエアをタイヤ空気室に流入させることで行う。これに伴いタイヤの空気圧が上昇する。ただし、タイヤ空気圧が設定値に達していない場合、コンプレッサ60が作動して不足分のエアがタイヤに供給される。特に、当該装置においては、タイヤを低圧タンクの代わりに用いることで、車高の下げ速度を高めることができるとのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の車高調整装置にあっては、タイヤの空気圧調整の機会が制限される。例えば、エアばねの空気を車輪に流入させることはできるものの、車輪の空気を排出する場合には排出空気を有効に利用することができない。そのため、車両が段差や突起を乗り越える際のショックを低減するにも限界があった。
【0009】
また、車高を上げる際には、通常気圧の外気をコンプレッサで所定の圧力まで高める必要がある。そのため、エアばねを所期の状態に設定するまでに時間を要する。さらに、常圧の外気をエアばねが要求する圧力に高めるには所定のエネルギー消費が必要となる。
【0010】
このように、従来の車高調整装置では種々の解決すべき課題を有しており、タイヤの圧力調整およびエアばねの圧力調整が迅速かつ効率的に行える車高調整装置が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(特徴構成)
本発明に係る車高調整装置の特徴構成は、
車輪に対する第1接続部と、
車体を支持するべく前記車輪と前記車体との間に設けられたエアばねに対する第2接続部と、
前記第1接続部と前記第2接続部との間に接続され空気を流通させる第1流路と、
前記第1流路を連通・遮断するよう前記第1流路において前記車輪の側から順に直列に設けられた第1電磁弁および第2電磁弁と、
前記第1電磁弁と前記第2電磁弁との間から分岐し、前記第1電磁弁と並列状態に前記第1流路に設けられた第2流路と、
前記第2流路に設けられ、前記車輪の空気を前記エアばねに供給可能なコンプレッサと、が備えられえた点にある。
【0012】
(効果)
本構成の車高調整装置は、車両をエアばねで懸架し、車輪の空気をコンプレッサおよび電磁弁を用いてエアばねに供給できるように構成してある。例えば、本構成によれば、当該一つのシステムにより、車輪の空気を吸引して車輪のばね定数を低減化し、吸引した空気をエアばねに供給して車高を上昇させることができる。これら操作を同時に行うことで、例えば、車両が段差や突起を乗り越える際に、車体の底部接触を防止し、車体に加わる突き上げショックを低減することができる。
【0013】
一方、車高を下げ、車輪の空気圧を当初の状態に戻す際には、コンプレッサを用いず、第1電磁弁及び第2電磁弁を開き操作することで、高圧であるエアばねの空気を差圧によって車輪に流入させることができる。
【0014】
このように、常圧よりも高圧である車輪の空気をコンプレッサを用いてエアばねに供給することで、常圧の外気をエアばねに供給する場合に比べて空気の圧縮作業が軽減される。よって、少ない消費エネルギーで迅速な調整が可能な車高調整装置を得ることができる。
【0015】
(特徴構成)
本発明に係る車高調整装置にあっては、前記第2流路のうち前記コンプレッサの下流側に流通・遮断機能を有する第3電磁弁を介して高圧タンクが接続され、
前記第2流路のうち前記コンプレッサの上流側に流通・遮断機能を有する第4電磁弁を介して低圧タンクが接続され、
前記第1流路であって、前記第1電磁弁と前記車輪との間の位置、かつ、前記第4電磁弁と前記車輪との間の位置に、前記第1流路を流通・遮断する第5電磁弁が備えられていると好都合である。
【0016】
(効果)
本構成であれば、例えば車両が段差に乗上げる前に、第2電磁弁および第3電磁弁を流通状態とし、高圧タンクの貯留空気を差圧を利用してエアばねに供給し、車高を高めることができる。
【0017】
また、第4電磁弁および第5電磁弁を流通状態とし、車輪の空気を差圧を利用して低圧タンクに排出する。これにより、車輪のばね定数を低下させることができる。
【0018】
さらに、上記車高調整を元に戻すには、第1電磁弁および第2電磁弁、第5電磁弁を流通状態とし、エアばねの空気を差圧により車輪に供給する。さらに、コンプレッサを稼働させ、第3電磁弁および第4電磁弁を流通状態とすることで低圧タンクから高圧タンクに空気を供給することができる。
【0019】
この場合にも、供給元の空気は、車輪の空気であり、高圧タンクあるいは低圧タンクの空気であるため、外部空気をコンプレッサで加圧許給する場合に比べてエネルギー消費量を低減することができる。
【0020】
(特徴構成)
本発明に係る車高調整装置は、前記第2流路のうち前記コンプレッサの下流側に、排気流路および当該排気流路の流通・遮断機能を有する排気弁が接続され、
前記第2流路のうち前記コンプレッサの上流側に、前記第2流路の流通・遮断機能を有する第6電磁弁が設けられ、
前記コンプレッサと前記第6電磁弁との間に、外気を導入する外気導入流路および当該外気導入流路の流通・遮断機能を有するチェック弁が接続された構成にすることができる。
【0021】
(効果)
本構成の場合でも、通常は、排気弁を閉じ、第6電磁弁を流通状態とすることで、請求項1と同様の車高調整機能を奏することができる。
【0022】
尚、第2流路には外気導入路とチェック弁が設けられているが、車輪の内圧の方が外気の気圧よりも高いため、コンプレッサを稼働した直後は車輪の高圧空気がエアばねに供給される。通常、車輪の圧力が外気圧と同じである使用状態は存在しないので、通常状態ではチェック弁は閉じ機能を発揮する。
【0023】
一方、積極的に外気を導入してエアばねに供給した場合、あるいは、エアばねの空気を積極的に排出したい場合には、第6電磁弁を遮断状態とし、コンプレッサを稼働させることでエアばねに空気が供給され、または、排気弁を流通状態とすることでエアばねの空気を差圧を利用して外気に排出することができる。
【0024】
本構成であれば、車輪およびエアばねの圧力調整が迅速に行え、さらに、エアばねや車輪に空気を追加供給することも容易となる。
【0025】
(特徴構成)
本発明に係る車高調整装置は、前記第2流路のうち前記コンプレッサの上流側に、第2流路の流通・遮断機能を有する第6電磁弁が設けられ、
前記第2流路のうち前記コンプレッサと前記第6電磁弁との間から分岐して前記第2電磁弁と前記エアばねとの間に合流する第3流路が備えられ、当該第3流路に流通・遮断機能を有する第7電磁弁が設けられた構成にすることができる。
【0026】
(効果)
本構成であれば、車輪とエアばねとの間の空気の流通をより迅速に行うことができる。例えば、段差や突起を乗り越える際に、第2電磁弁および第6電磁弁を流通状態とし、コンプレッサを稼働させる。これにより、車輪の空気が速やかにエアばねに供給されて、車輪の低ばね定数化および車高アップが行われる。
【0027】
一方、段差などを乗り越えた後には、第1電磁弁および第7電磁弁を流通状態とし、コンプレッサを稼働状態とする。これにより、エアばねの空気が速やかに車輪に供給されて車輪およびエアばねを元の圧力状態に速やかに復帰させることができる。
【0028】
(特徴構成)
本発明に係る車高調整装置は、前記第6電磁弁および前記第7電磁弁の間の位置、且つ、前記コンプレッサの上流側の位置に、外気を導入する外気導入流路および当該外気導入流路の流通・遮断機能を有するチェック弁が設けられ、
前記第1電磁弁および前記第2電磁弁の間の位置、且つ、前記コンプレッサの下流側の位置に、排気流路および当該排気流路の流通・遮断機能を有する排気弁が接続された構成にすることができる。
【0029】
(効果)
本構成であれば、車輪とエアばねとの間の空気の流通をより迅速に行うことができるうえに、車輪およびエアばねと外気との間で空気の吸入・排出が可能となる。よって、より利便性を備えた車高調整装置を得ることができる。
【0030】
(特徴構成)
本発明に係る車高調整装置においては、前記車輪をリアの車輪とし、前記エアばねをフロントのエアばねとすることができる。
【0031】
(効果)
例えば、車両に乗客を乗せている場合等には、段差を乗り上げる際に後席にショックが加わるのを低減させたい場合がある。そのために本構成では、リアの車輪とフロントのエアばねとを第1流路で接続し、コンプレッサを用いてリア車輪の空気をフロントのエアばねに速やかに供給できるように構成してある。
【0032】
これにより、段差乗り上げ前にリア車輪の空気をフロントのエアばねに移動させておき、リア車輪のばね定数を下げて乗り上げのショックを吸収し易いようにしておく。段差を乗り越えた後は、コンプレッサを停止し、第1電磁弁および第2電磁弁を流通状態にして差圧によってフロントのエアばねの空気をリア車輪に戻す。
【0033】
本構成であれば、後席搭乗者に対応して乗り心地を高めた車高調整装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】第1実施形態に係る車高調整装置の構成を示す説明図
【
図2】第1実施形態に係る車高調整装置の構成を示す説明図
【
図3】第2実施形態に係る車高調整装置の構成を示す説明図
【
図4】第2実施形態に係る車高調整装置の左車輪の構成を示す説明図
【
図5】第2実施形態に係る車高調整装置の右車輪の構成を示す説明図
【
図6】第3実施形態に係る車高調整装置の構成を示す説明図
【
図7】第4実施形態に係る車高調整装置の構成を示す説明図
【
図8】第5実施形態に係る車高調整装置の構成を示す説明図
【
図9】第6実施形態に係る車高調整装置の構成を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0035】
〔第1実施形態〕
(概要)
本発明に係る車高調整装置S(以下、単に「装置S」と称する)の第1実施形態を
図1および
図2に示す。この装置Sは、車体1を支持するエアばねAと車輪Hとが流路Rで接続され、エアばねAの空気と車輪Hの空気を互いにやり取りすることを可能に構成したものである。本装置Sは、車体1に備えられた四つの車輪Hのうち、少なくとも一つの車輪Hに対して構成可能である。
【0036】
具体的に当該装置Sは、車輪Hに接続される第1接続部J1と、エアばねAに接続される第2接続部J2と、これら第1接続部J1と第2接続部J2との間に接続され空気を流通させる第1流路R1とを備えている。第1流路R1には、車輪Hの側から順に第1電磁弁V1および第2電磁弁V2が直列に設けられており、第1流路R1を連通・遮断することができる。さらに、第1流路R1のうち第1電磁弁V1と第2電磁弁V2との間からは、第1電磁弁V1と並列状態となるように第2流路R2が設けられており、第2流路R2には、車輪Hの空気をエアばねAに供給可能なコンプレッサCが備えられている。
【0037】
図1に示すように、第1流路R1のうち、車輪Hの近傍には車輪Hの内圧を測定する圧力センサSpが設けられている。また、エアばねAには、自身の高さ方向の寸法を測定する高さセンサShが設けられている。尚、高さセンサShの代わりに、地面から車体1までの高さを測る別のセンサを設けるものであっても良い。
【0038】
さらに、本装置SにはECUが備えられており、圧力センサSpおよび高さセンサShの検出値に基づいて第1電磁弁V1および第2電磁弁V2、コンプレッサCを適切に動作させる。尚、ECUおよび圧力センサSp、高さセンサShについては以降の図においても各電磁弁VやコンプレッサCを動作させるが、図の簡略化のために図示を省略する。
【0039】
本構成の装置Sであれば、例えば車体1が段差を乗り上げようとしている場合に、以下のように車輪Hの空気をエアばねAに供給することで乗り上げ時のショックを緩和することができる。
【0040】
車体1が段差の手前に到達したとき、
図1に示すように第1電磁弁V1を遮断状態とし、第2電磁弁V2を流通状態としてコンプレッサCをオン状態とする。通常走行時には、車輪Hの空気圧は約0.2~0.25MPaであり、エアばねAの空気圧は約0.6~1.0MPaである。よって、車輪HからエアばねAの内部に空気を供給するには、車輪Hの低圧空気をコンプレッサCによって強制的に高めたのちエアばねAに供給する。
【0041】
この場合、初期圧力が高い車輪Hの空気をエアばねAに圧縮供給するから、常圧の大気を圧縮してエアばねAに供給することに比べて、車輪HからエアばねAへの高圧空気の供給が迅速なものとなる。また、空気の圧縮に伴うエネルギー消費量が少なくなる。車輪Hの空気圧が低下することでばね定数が小さくなり、段差乗り上げ時のショックが緩和される。また、エアばねAに高圧空気が供給されることで車高が上昇し、路面干渉が回避されるようになる。
【0042】
図2に示すように、段差の乗り越えが完了すると、第1電磁弁V1および第2電磁弁V2を流通状態とし、コンプレッサCをオフ状態とする。これにより、エアばねA内の高圧空気が差圧で車輪Hに流入し、車体1の車高および車輪Hの空気圧が元の状態に復帰する。このように本構成であれば、当該一つのシステムにより、車輪Hのばね定数と車高の両者を適宜調節することができる。
【0043】
尚、車体1が高速走行する場合にも
図2と同じ設定をすると良い。つまり、車高を下げることで、走行抵抗が減少し燃費が向上する。また、車輪Hの空気圧が確実に確保されることで高速走行時の燃費が向上する。
【0044】
〔第2実施形態〕
本発明の第2実施形態に係る車高調整装置Sを
図3~
図5に示す。ここでは、第2流路R2のうちコンプレッサCの下流側に高圧タンクTHが接続されている。高圧タンクTHは空気を流通・遮断する第3電磁弁V3を介して第2流路R2に接続される。高圧タンクTHの圧力はエアばねAの内圧よりも高い値に設定される。
【0045】
また、第2流路R2のうちコンプレッサCの上流側には低圧タンクTLが接続されている。低圧タンクTLは、空気を流通・遮断する第4電磁弁V4を介して第2流路R2に接続される。低圧タンクTLの圧力は車輪Hの内圧よりも低く設定される。
【0046】
さらに、第1流路R1であって、第1電磁弁V1と車輪Hとの間の位置、かつ、第4電磁弁V4と車輪Hとの間の位置に、第1流路R1を流通・遮断する第5電磁弁V5が設けられている。つまり第5電磁弁V5は、第1流路R1のうち車輪Hに近い側の第2流路R2との分岐部と車輪Hとの間に設けられている。このように高圧タンクTHおよび低圧タンクTLを設けることで、車輪HおよびエアばねAに対する空気の供給・排出をさらに迅速化することができる。
【0047】
図3は、車体1が段差に乗り上げる際の状態を示している。乗り上げ前に第2電磁弁V2および第3電磁弁V3を所定時間のあいだ流通状態にする。これにより、エアばねAと高圧タンクTHの差圧を利用してエアばねAに空気を供給し車高を上げておく。また、第4電磁弁V4および第5電磁弁V5を所定時間のあいだ流通状態とし、差圧を利用して車輪Hの空気を低圧タンクTLに排出して車輪Hのばね定数を下げておく。車体1が段差に乗り上げる際には、第1電磁弁V1乃至第5電磁弁V5の全ての弁を遮断状態とする。これにより、車体1が段差に乗り上げる際の路面干渉が回避され、且つショックが緩和される。
【0048】
段差を通過したのちは、第1電磁弁V1、第2電磁弁V2、第5電磁弁V5を流通状態とし、差圧を利用してエアばねAの高圧空気を車輪Hに戻しておく。さらに、第3電磁弁V3、第4電磁弁V4を流通状態とし、コンプレッサCを稼働させて、低圧タンクTLの空気を高圧タンクTHに戻しておく。
【0049】
また、
図4および
図5は車体1が旋回走行する際の状態を示している。
図4は、車体1が左旋回走行する際の左車輪HLの状態を示し、
図5は右車輪HRの状態を示している。外側となる右車輪HRでは、
図5に示すように、第2電磁弁V2および第3電磁弁V3を流通状態にして高圧タンクTHからエアばねARに空気を供給し車高を上げる。
【0050】
一方の内側となる左車輪HLでは、
図4に示すように、第1電磁弁V1および第2電磁弁V2、第4電磁弁V4を流通状態にして、エアばねALから低圧タンクTLに空気を排出して車高を下げる。旋回が持続する間は全ての電磁弁Vを遮断状態とし、コンプレッサCもオフ状態とする。こうすることで左旋回走行時の車体1のロールが低減される。尚、旋回状態から直進状態に復帰する際には、上記左右の車輪Hの操作を入れ換えて実施し、左右の車高高さを等しくする。また、第3電磁弁V3および第4電磁弁V4を流通状態とし、コンプレッサCを稼働させて低圧タンクTLの空気を高圧タンクTHに戻しておく。
【0051】
さらに、車体1が加減速する際には、図示は省略するが以下のように行う。例えば加速時には、まず左右の後輪について第2電磁弁V2および第3電磁弁V3を流通状態にして車高を上げる。さらに左右の前輪について、第1電磁弁V1および第2電磁弁V2、第4電磁弁V4を流通状態にして、エアばねAから低圧タンクTLに空気を排出して車高を下げる。この状態となれば全ての電磁弁Vを遮断状態とし、コンプレッサCをオフ状態とする。
【0052】
加速が終了し、車速が一定となる際には、上記前輪と後輪の操作を入れ換えて実施し、前後の車高を等しくする。また、第3電磁弁V3および第4電磁弁V4を流通状態とし、コンプレッサCを稼働させて低圧タンクTLの空気を高圧タンクTHに戻しておく。
【0053】
本構成であれば、車体1が段差に乗上げる前に、高圧タンクTHの貯留空気を差圧を利用してエアばねAに供給し、車高を高めることで路面干渉が回避される。また、差圧を利用して車輪Hの空気を低圧タンクTLに排出することで、車輪Hのばね定数を下げることができ、段差乗り上げ時のショックを緩和することができる。尚、供給元の空気は車輪Hの空気であり、高圧タンクTHあるいは低圧タンクTLの空気であるため、外部空気をコンプレッサCで加圧許給する場合に比べてエネルギー消費量が少なくなる。さらに、車体1の旋回時あるいは加減速時においても、車体1の姿勢変化を最小限にとどめ、上質な乗り心地を得ることができる。
【0054】
〔第3実施形態〕
本発明の第3実施形態に係る車高調整装置Sを
図6に示す。この構成は
図1の構成を基本とし、第2流路R2のうちコンプレッサCの下流側に、排気流路Roおよび当該排気流路Roの流通・遮断機能を有する排気弁Voが接続されている。また、第2流路R2のうちコンプレッサCの上流側に、第2流路R2の流通・遮断機能を有する第6電磁弁V6が設けられている。さらに、コンプレッサCと第6電磁弁V6との間には、第2流路R2に外気を導入する外気導入流路Riおよび当該外気導入流路Riの流通を許容するチェック弁Vcが接続されている。
【0055】
本構成であれば、通常の段差乗り超えや車高調整等に加え、エアばねAや車輪Hにおいて空気漏れが想定される場合に外部空気を吸入することができる。
【0056】
具体的には、車輪Hに外気を供給する場合には、
図6に示すように、第2電磁弁V2を流通状態とし、コンプレッサCを稼働させる。これにより、チェック弁Vcを介して車輪Hに空気が補充される。一方、車輪Hの内部空気量が過剰な場合には、第2電磁弁V2および排気弁Voを流通状態とする。これにより、車輪Hの空気が外気に排出される。
【0057】
また、図示は省略するが、エアばねAの空気量を増やす場合には、第1電磁弁V1を流通状態とし、コンプレッサCを稼働させる。逆に、エアばねAの空気を排出する場合には、第1電磁弁V1および排気弁Voを流通状態とする。尚、外気を吸入する場合には、
図6に示すように第2流路R2のうちコンプレッサCの下流にドライヤDを設置しておき、空気を乾燥させるのが好ましい。
【0058】
尚、通常の段差乗り越え時などに於いては、第1電磁弁V1および第6電磁弁V6を流通状態とし、コンプレッサCを稼働させる。この場合、チェック弁Vcの外側の外気圧力よりもチェック弁Vcの内側の車輪Hの空気圧が高いため、チェック弁Vcを介して外気は流入しない。よって、第1実施形態と同様に、車輪Hの高圧空気がエアばねAに供給される。このように本構成であれば、車輪HおよびエアばねAの圧力調整が迅速に行え、さらに、エアばねAや車輪Hに空気を追加供給することが容易となる。
【0059】
〔第4実施形態〕
本発明の第4実施形態に係る車高調整装置Sを
図7に示す。この構成では、第2流路R2のうちコンプレッサCの上流側設けられる、第2流路R2の流通・遮断機能を有する第6電磁弁V6に加え、第2流路R2のうちコンプレッサCと第6電磁弁V6との間から分岐して第1流路R1のうち第2電磁弁V2とエアばねAとの間に合流する第3流路R3を備える。さらに、第3流路R3に流通・遮断機能を有する第7電磁弁V7を設ける。本構成では、車輪HとエアばねAとの間の空気のやり取りに際して常にコンプレッサCを稼働させる。これにより、双方向の空気の移動をより迅速化することができる。
【0060】
例えば、車体1が段差を乗り越えようとする場合、第2電磁弁V2および第6電磁弁V6を流通状態とし、コンプレッサCを稼働させる。これにより、車輪Hの空気が速やかにエアばねAに移動し、車高が上昇する。空気の移動が終了したのち双方の電磁弁Vを遮断状態とする。
【0061】
段差を乗り越えた後は、第1電磁弁V1および第7電磁弁V7を流通状態とし、コンプレッサCを稼働させる。これにより、エアばねAの空気が速やかに車輪Hに戻る。空気の移動が終了したら双方の電磁弁Vを遮断状態とする。
【0062】
本構成であれば元々高圧である車輪Hの空気およびエアばねAの空気を移動させるから、コンプレッサCの可動等に求められる必要エネルギーが少なくて済む。しかも、車輪Hの低ばね定数化および車高調整が速やかに行われるから、車体1の乗り心地がさらに向上した車高調整装置Sを合理的に得ることができる。
【0063】
〔第5実施形態〕
本発明の第5実施形態に係る車高調整装置Sを
図8に示す。この構成では、第4実施形態の構成と基本とし、第6電磁弁V6および第7電磁弁V7の間の位置、且つ、コンプレッサCの上流側の位置に、外気を導入する外気導入流路Riおよび当該外気導入流路Riの流通・遮断機能を有するチェック弁Vcを設ける。さらに、第1電磁弁V1および第2電磁弁V2の間の位置、且つ、コンプレッサCの下流側の位置から排気流路Roが分岐し、当該排気流路Roには、流通・遮断機能を有する排気弁Voが接続される。
【0064】
本構成であれば、車輪HあるいはエアばねAに対して外気を供給することができる。例えば、エアばねAに空気を供給して車高を高める際には、まず第2電磁弁V2および第6電磁弁V6を流通状態とし、コンプレッサCを稼働させることで、車輪Hの空気がエアばねAに供給される。しかし、車輪Hの内包空気が少ない場合には、第6電磁弁V6を遮断状態として外気をエアばねAに供給する。一方、車輪Hに空気を供給したい場合には、第1電磁弁V1および第7電磁弁V7を操作することで、仮にエアばねAの内包空気が少ない場合には、外気を車輪Hに供給することができる。
【0065】
エアばねAの空気を排出する場合に、車輪Hにではなく外気に排出したい場合がある。その際には、第7電磁弁V7および排気弁Voを流通状態とし、コンプレッサCを稼働させることで、エアばねAの空気を迅速に排出することができる。これにより、例えば高速走行に移行する際に素早く空気抵抗を下げることができ、燃費を向上させることができる。
【0066】
本構成であれば、車輪HとエアばねAとの間の空気の流通をより迅速に行うことができるうえに、車輪HおよびエアばねAと外気との間で空気の吸入・排出が可能となる。よって、利便性をさらに高めた車高調整装置Sを得ることができる。
【0067】
〔第6実施形態〕
本発明の第6実施形態に係る車高調整装置Sを
図9に示す。この構成では、第1実施形態に係る装置Sを基本とし、前方のエアばねAと後方の車輪Hとにおいて、或は、前方の車輪Hと後方のエアばねAとにおいて空気のやり取りを行う。
図9の例は、
図1の実施形態を基本とし、例えば前部の左右の車輪HL,HRに接続するよう二つの第1接続部J1を分岐接続し、前部の左右のエアばねAL,ARに接続するよう二つの第2接続部J2を分岐接続したものである。この場合、左右の車輪HL,HRどうし、および左右のエアばねAL,ARどうしは基本的に常に同じ圧力となる。
【0068】
本構成であれば、車体1が、段差に乗り上げる際に、前方の路面干渉を回避すると共に、後席のクッション性を高めることができる。具体的には、車体1が段差を乗り上げる前に第2電磁弁V2を流通状態とし、コンプレッサCを稼働させて後部の左右の車輪Hの空気を前部の左右のエアばねAに供給する。これにより、前部の車高が上昇して路面との距離が広がり、後部の車輪Hのばね定数が低下して乗り上げショックが軽減される。尚、車両がショーファーカーなど後席が客席として利用される場合には、前部の高さ上昇による姿勢変化を後席乗員が感じることは少ない。
【0069】
段差を乗り上げた後は、第1電磁弁V1および第2電磁弁V2を流通状態とし、差圧によって前部のエアばねAの空気を後部の車輪Hに流通させる。所定の空気が車輪Hに戻った状態で双方の電磁弁Vを遮断状態とする。
【0070】
本構成であれば、所定の圧力を有する空気をコンプレッサCによって移動させるため、少ないエネルギー消費量でありながら空気の移動が迅速なものとなり、後席乗員に対する乗り心地を高めた車高調整装置Sを合理的に得ることができる。
【0071】
〔その他の実施形態〕
夫々の電磁弁VおよびコンプレッサCは、ECUの指令に基づいて動作するものの他、車体1の運転者が手動操作で動作させるものであっても良い。
【0072】
車高調整や車輪Hの空気圧調整は、ECU等に接続されたナビ情報などに基づいて、車高調整が必要な位置を予め特定しておき、車体1が当該位置を通過する際に、自動的に車高調整装置Sを動作させるように構成することができる。
【0073】
また、車載カメラにより、前方の路面状況を逐次検出し、所定形状の段差や突起を検出した際に車高調整装置Sを動作させるものとしてもよい。
【0074】
段差乗り上げ等に際し、当該位置を通過する前および通過した後に動作内容や結果を音声案内するものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の車高調整装置Sは、エアばねAで支持される車体1において、車輪Hの内圧とエアばねAの内圧とを変更可能な装置Sとして広く用いることができる。
【符号の説明】
【0076】
1 車体
A エアばね
C コンプレッサ
H 車輪
J1 第1接続部
J2 第2接続部
R1 第1流路
R2 第2流路
R3 第3流路
Ri 外気導入流路
Ro 排気流路
S 車高調整装置
TH 高圧タンク
TL 低圧タンク
V1 第1電磁弁
V2 第2電磁弁
V3 第3電磁弁
V4 第4電磁弁
V5 第5電磁弁
V6 第6電磁弁
V7 第7電磁弁
Vc チェック弁
Vo 排気弁